説明

水素ガス分離装置

本発明に係る水素ガス分離装置は,中空室を有する基体と,原料ガスが導入されるガス導入室と水素ガスが導出されるガス導出室とに中空室を仕切るガス透過層とを備えている。ガス透過層は,プロトン伝導性及び電子伝導性を有するプロトン−電子混合伝導性セラミックスを基材として形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は,プロトンと電子とを導電種として併せもつプロトン−電子混合伝導性セラミックスをガス透過層として用いた水素ガス分離装置に関する。
【背景技術】
従来,ある種のペロブスカイト構造を有するセラミックスは,かなりのプロトン伝導性を示すことは知られている。また従来,特許文献1(Solid State Ionics 100(1997)45−52)には,化学式BaCe0.950.053−αをもつセラミックスについての水素透過性に関する報告がなされている。
また従来,パラジウム−銀系に代表されるパラジウム合金を用いて水素を透過させる技術の開発が進められている。そして特許文献2(特開平10−297902号公報)には,パラジウムまたはパラジウム合金基のプロトン伝導膜を用いる水素の製造方法が報告されている。パラジウム系は極めて高価であり,コスト上の制約が多い。
本発明は,パラジウムまたはパラジウム合金基のプロトン伝導膜を用いることなく,水素を含有する原料ガスから,水素濃度が高い水素ガスを製造することができる水素ガス分離装置を提供することを課題とする。
【発明の開示】
本発明に係る水素ガス分離装置は,中空室を有する基体と,
基体の中空室に配置され,原料ガスが導入されるガス導入室と水素ガスが導出されるガス導出室とに中空室を仕切るガス透過層とを具備しており,
ガス透過層は,プロトン伝導性及び電子伝導性を有するプロトン−電子混合伝導性セラミックスを基材として形成されていることを特徴とするものである。
本発明に係るプロトン−電子混合伝導性セラミックスは,高温領域においてプロトンと電子とを導電種として併せもち,プロトン伝導性及び電子伝導性が発現される。プロトン伝導性及び電子伝導性が発現される高温領域としては,一般的には400〜1700℃程度,殊に700〜1200℃が例示される。
本発明に係る水素ガス分離装置によれば,前述したように,ガス透過層は,プロトン伝導性及び電子伝導性を有するプロトン−電子混合伝導性セラミックスを基材として形成されている。このため,ガス導入室に原料ガスが導入されると,原料ガスに含まれている水素ガスがガス透過層に至ると,水素ガスからプロトン(H)及び電子が生成する。プロトン(H)及び電子はガス透過層を透過し,ガス導出室においてカソード反応を生じて再び結合する。このようにして水素及び他のガス成分を有する原料ガスからガス透過層によって水素を分離させることができるため,純水素ガス等のような水素濃度の高いガスが製造される。
【図面の簡単な説明】
図1は実施例で用いた試験装置の概念図である。図2はプロトン伝導性及び電子伝導性を有する概念図である。図3は水素濃淡電池の起電力の結果を示すグラフである。図4は起電力と水素透過速度との関係を示すグラフである。図5は試料のX線回折を示すグラフである。
図6は適用形態1に係る水素ガス分離装置を模式的に示す断面図である。図7は適用形態2に係る水素ガス分離装置を模式的に示す断面図である。図8は適用形態3に係る水素ガス分離装置を模式的に示す断面図である。図9は適用形態4に係る水素ガス分離装置を模式的に示す断面図である。図10は適用形態5に係る水素ガス分離装置を模式的に示す断面図である。
図11は水素ガス分離装置におけるガス透過層の保持形態を模式的に示す断面図である。図12は他の水素ガス分離装置におけるガス透過層の保持形態を模式的に示す断面図である。図13は別の他の水素ガス分離装置におけるガス透過層の保持形態を模式的に示す断面図である。図14は更に別の他の水素ガス分離装置におけるガス透過層の保持形態を模式的に示す断面図である。
図15は水素ガス分離装置におけるガス透過層の保持形態を模式的に示す断面図である。図16は他の水素ガス分離装置におけるガス透過層の保持形態を模式的に示す断面図である。図17は別の他の水素ガス分離装置におけるガス透過層の保持形態を模式的に示す断面図である。図18は更に別の他の水素ガス分離装置におけるガス透過層の保持形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
・プロトン−電子混合伝導性セラミックス(以下,混合伝導性セラミックスともいう)は,プロトンと電子とを導電種として併せもつものである。混合伝導性セラミックスとしては,原料ガスが透過可能な通気性をもつ担体に保持されている形態を例示できる。この場合,当該混合伝導性セラミックスにおける水素透過性を高めるために,当該混合伝導性セラミックスの厚みを薄くすることがある。この場合,混合伝導性セラミックスの強度が低下する。そこで,通気性をもつ担体に当該混合伝導性セラミックスを被覆状態に保持すれば,当該混合伝導性セラミックスの厚みが薄くても,当該混合伝導性セラミックスの保持性,耐久性を高めることができる。担体は,その気孔率が大きいと,原料ガスを当該混合伝導性セラミックスに到達させることができる。
・当該混合伝導性セラミックスは,原料ガスが透過可能な通気性をもつ担体に挟持されている形態を例示できる。これにより当該混合伝導性セラミックスの保持性,耐久性を一層高めることができる。
・当該混合伝導性セラミックスを加熱する加熱装置が設けられている形態を例示できる。加熱装置の加熱原理は特に限定されず,電気式,燃焼式等を問わない。当該混合伝導性セラミックスは,ガス導入室及びガス導出室のうちの少なくとも一方側に触媒層を有する形態を例示できる。触媒層としては,白金,パラジウム,ロジウム,銀,金のうちの少なくとも1種を含むことができる。触媒層が設けられているため,下記のアノード反応及びカソード反応を促進させることができ,水素透過性の向上を期待できる。H→2H+2e(アノード側),2H+2e→H(カソード側)
・本発明によれば,プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,ガス導入室に対面する側に第1電極層を有すると共にガス導出室に対面する側に第2電極層を有しており,第1電極層と第2電極層との間に電圧を印加させ得るように設定されている形態を例示できる。第1電極層と第2電極層との間に電圧を印加させれば,電子がカソードに供給されるため,2H+2e→H(カソード側)の反応速度を早めることができる。
・当該混合伝導性セラミックスは,ペロブスカイト型構造を有する金属酸化セラミックスであって,これを構成する金属のモル比の総和を2としたとき,クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru)のうちの少なくとも1種を,モル比で,0.01以上,0.8以下の範囲で含み,プロトン伝導性及び電子伝導性を有する形態を例示できる。
ここで,クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru)のうちの少なくとも1種(以下,遷移金属ドーパント元素ともいう)は,モル比で,0.01以上,0.8以下の範囲で含まれている。
遷移金属ドーパント元素のモル比が過少であると,目的とするプロトン伝導性の他に電子伝導性が得られにくい。遷移金属ドーパント元素のモル比が過剰であると,他の元素が相対的に減少し,目的とするプロトン伝導性及び電子伝導性が得られにくいし,更に焼結性が低下したり,使用条件によっては化学的安定性,機械的強度が低下する傾向がある。
即ち,電子伝導性は遷移金属の量に依存すると思われるため,ドーパント量が少ないと,電子伝導性が発現しない。なお,使用温度,コスト,用途等によっても,遷移金属ドーパント元素の量を適宜調整することが好ましい。
上記した実情を考慮し,遷移金属ドーパント元素としては,下限側において,モル比で,0.01以上,0.015以上,0.02以上を例示でき,更に0.025以上,0.03以上を例示できる。また,遷移金属ドーパント元素としては,上記した下限と組み合わせ得る上限側において,モル比で,0.7以下,0.6以下,0.5以下を例示でき,更に,0.47以下,0.45以下,0.43以下を例示でき,更に0.4以下,0.35以下,0.3以下を例示できる。
遷移金属ドーパント元素が価格の高いルテニウムであるときには,コストが要請される工業的な利用性を考慮すると,モル比で,0.5以下を例示できる。また,遷移金属ドーパント元素がルテニウムよりも価格的に有利なコバルト,鉄,ニッケル等であるときには,モル比で,0.6以下,0.75以下,0.8以下を例示できる。
上記したペロブスカイト型構造は一般式ABOで表される。Aサイトの元素のモル比とBサイトの元素のモル比との総和を2としたとき,クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru)のうちの少なくとも1種を,モル比で,0.01以上,0.8以下の範囲で含む形態を採用できる。上記した遷移金属ドーパント元素は,主としてBサイトへのドーパントとして機能することができる。これによりプロトン伝導性に加えて電子伝導性を付与させることができる。
当該混合伝導性セラミックスによれば,高温領域においてプロトン伝導性及び電子伝導性の双方が得られることは,後述するように,当該セラミックスが水素透過性を有することを意味する。
ペロブスカイト型構造によれば,酸素がかなり欠損しても,ペロブスカイト型構造は安定的に保たれる。即ち,一般式ABOにおいて酸素がかなり欠損等のように変化しても,ペロブスカイト型構造は安定的に保たれる。酸素欠損はαで示され,構成元素であるAサイトの元素,Bサイト(後述するB’の元素,B”の元素を含む),使用温度,雰囲気の酸素分圧などに応じて変化する値である。従って,酸素欠損量αとしてはモル比で,一般的には−0.7以上で+0.7以下の範囲,あるいは,−0.5以上で+0.5以下の範囲を例示できる。故に酸素(O)の量としては,モル比で,2.3以上で且つ3.7以下の範囲,あるいは,2.5以上で且つ3.5以下の範囲を例示することができる。但しこれに限定されるものではない。故に,当該混合伝導性セラミックスは,一般式ABO3−αで表されるペロブスカイト型構造を有する金属酸化セラミックスとすることができる。
ここで,当該混合伝導性セラミックスによれば,一般式ABOにおいて,Aサイトのモル比とBサイトのモル比との総和を2としたとき,クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru)のうちの少なくとも1種(遷移金属ドーパント元素)を,モル比で,0.01以上,0.8以下の範囲で含むことができる。クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru)のうちの少なくとも1種(遷移金属ドーパント元素)としては,モル比で,0.01以上,0.015以上,0.02以上を例示でき,更に0.025以上,0.03以上を例示できる。
また,クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru)のうちの少なくとも1種(遷移金属ドーパント元素)については,モル比で,0.7以下,0.6以下,0.5以下を例示でき,更に,0.47以下,0.45以下,0.43以下を例示でき,更に0.4以下,0.35以下,0.3以下を例示できる。
Aサイトのモル比とBサイトのモル比との総和を基準としたのは,Aサイトのモル比とBサイトのモル比との比率を多少変化させても,総和が2であれば,プロトン伝導性及び電子伝導性の双方が得られることを考慮したものである。(Aサイトのモル比/Bサイトのモル比)の値としては,0.8〜1.2の範囲内とすることができる。あるいは,0.9〜1.1の範囲内,0.95〜1.05の範囲内とすることができる。
・当該混合伝導性セラミックスによれば,金属酸化物を構成する金属のモル比の総和を2としたとき,つまり,Aサイトのモル比とBサイトのモル比との総和を2としたとき,モル比で,ジルコニウム(Zr)を0.005以上,または,0.01以上の割合で含む形態を採用できる。ジルコニウムはBサイトの元素として機能することができ,ジルコニウムの量はBサイトのモル比を越えるものではない。ジルコニウムはセラミックスの機械的強度の向上,化学的安定性の向上を期待できる。しかしジルコニウムが過剰であると,水素透過速度が減少する傾向がある。このため,ジルコニウムが含まれる場合には,ジルコニウムのモル比としては0.01以上で0.99以下の割合とすることができる。
ここで,当該混合伝導性セラミックスに要請される機械的強度,化学的安定性,用途,使用温度等によっても異なるものの,ジルコニウムの下限側のモル比としては,0.012以上,0.015以上,0.02以上,更には0.025以上,0.03以上,0.04以上を必要に応じて例示できる。また上記した下限と組み合わせ得るジルコニウムの上限側のモル比としては,0.99以下,0.97以下,0.95以下,0.90以下,更には0.85以下,0.80以下,0.70以下を必要に応じて例示できる。
・一般的には,高温型のプロトン伝導性セラミックスは,化学式A1+a1−a−bB’3−αの組成で表すことができる。これに対して当該混合伝導性セラミックスは,化学式A1+a1−a−b−cB’B”3−αの組成で表すことができる。Bサイトの元素としては,上記化学式におけるBの元素を含む他に,B’の元素,B”の元素を含む。
ここで次のように設定できる。
Aは,アルカリ土類金属であるカルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba)のうちの少なくとも1種とすることができる。aは,0.8≦(1+a)/(1−a)≦1.2の条件を満足する。
Bは,セリウム(Ce),ジルコニウム(Zr),チタン(Ti)のうち少なくとも1種とすることができる。ここで,B,B’,B”のモル比の総和を1としたときには,Bサイトとなるジルコニウム(Zr)を0.005以上,0.01以上を含有することができる。
B’は,アルミニウム(Al),スカンジウム(Sc),ガリウム(Ga),イットリウム(Y),インジウム(In),及び,ランタノイド系列に属する原子番号が59〜71の元素のうちの少なくとも1種とすることができる。ランタノイド系列の元素としては,原子番号59のプラセオジム(Pr),原子番号60のネオジム(Nd),原子番号64のガドリニウム(Gd),原子番号70のイッテリビウム(Yb),原子番号62のサマリウム(Sm),原子番号63のユウロムビウム(Eu),原子番号65のテルビウム(Tb)のうちの少なくとも1種を例示できる。
B’の元素は,主として,当該セラミックスにプロトンを存在させるためのものである。B’の元素は,主として,結晶格子中に酸素空孔(酸素があるべきでありながら,酸素が存在しないサイト)を作る役割を果たす。bの範囲は0以上で0.5以下とすることができる。なお,B’元素のモル比であるbの下限としては,0.01,0.05,更には,0.1,0.2を必要に応じて例示できる。bの上限としては,0.48,0.45,更には,0.4,0.3,0.2を必要に応じて例示できる。
B”は,遷移金属であるクロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru)のうちの少なくとも1種とすることができる。B”の元素は,主として,プロトン伝導性に加えて電子伝導性を付与するのに有効であり,これによりセラミックスの水素透過性を発現させることができる。B”の元素のモル比であるcの範囲は,0.01以上で0.8以下とすることができる。なお,cの下限としては適宜選択でき,0.015,0.02,0.05を必要に応じて例示できる。cの上限としては適宜選択でき,0.7,0.6,0.5を必要に応じて例示でき,更に,0.48,0.45,0.4,0.3,0.2を必要に応じて例示できる。B”の元素が価格の高いルテニウムであるときには,0.5以下とすることができる。
・当該混合伝導性セラミックスの代表的なものとして,バリウム(Ba)−セリウム(Ce)−イットリウム(Y)−ルテニウム(Ru)−酸素(O)系の金属酸化物を挙げることができる。この金属酸化物として,例えば,BaCeO系にイットリウム,ルテニウムをドープしたセラミックス(BaCe0.9−X0.1Ru3−α系,X=0.05〜0.8,または,X=0.05〜0.5)を挙げることができる。
また,ストロンチウム(Sr)−ジルコニウム(Zr)−イットリウム(Y)−ルテニウム(Ru)−酸素(O)系の金属酸化物を挙げることができる。この金属酸化物として,例えば,SrZrO系にイットリウム,ルテニウムをドープしたセラミックス(SrZr0.9−X0.1Ru3−α系,X=0.05〜0.8,または,X=0.05〜0.5)を挙げることができる。
また,ストロンチウム(Sr)−セリウム(Ce)−ルテニウム(Ru)−酸素(O)系の金属酸化物を挙げることができる。この金属酸化物として,例えば,SrCeO系にルテニウムをドープしたセラミックス(SrCe0.9−XRu3−α系,X=0.05〜0.8,または,X=0.05〜0.5)を挙げることができる。
・当該混合伝導性セラミックスによれば,その表面及び裏面のうちの少なくとも一方に,触媒層を積層させる形態を例示できる。触媒層により,下記の反応の活性を促進させることができ,水素透過性の向上を期待できる。H→2H+2e(アノード側),2H+2e→H(カソード側)
従って触媒層としては,アノード側,カソード側のいずれか一方,または双方に設けることができる。触媒層としては白金,パラジウム,ロジウム,銀,金のうちの少なくとも1種を含むことができる。
・本発明に係る混合伝導性セラミックスによれば,その表面及び裏面のうちの少なくとも一方には,電圧を印加させるため電極層を積層させる形態を例示できる。電圧を印加させれば,電極層における反応活性の促進を期待できる。電極層としては触媒層と兼用することができ,白金,パラジウム,ロジウム,銀,金のうちの少なくとも1種を含むことができる。
・本発明に係る混合伝導性セラミックスによれば,その厚みは特に限定されるものではなく,薄膜,厚膜,厚層等のように適宜選択できる。本発明に係る混合伝導性セラミックスの厚みとしては,組成,当該セラミックスを単独で用いるか,当該セラミックスを薄膜状とし,通気性をもつ担体に薄膜状として保持させるかによっても相違する。厚みについては,一般的には下限として0.1μm,0.5μm,1μmを例示でき,上限として10mm,20mm,40mm等を例示できる。例えば1〜500μm,5〜200μm,10〜100μmを例示できる。但しこれらに限定されるものではない。
・本発明に係る混合伝導性セラミックスの製造方法としては,その厚み等に応じて適当な方法を採用できる。厚膜のときには,例えば,原料粉末を加圧した圧粉体を焼結して形成する方法を採用できる。薄膜のときには,原料粉末を分散媒に分散させた溶液を基板に膜状に塗布し,焼成する方法を採用できる。あるいは,真空蒸着,イオンプレーティング,スパッタリング等の物理的気相蒸着(PVD)方法を採用できる。あるいは,原料気体を加熱した基板上に導いて反応させて被膜を形成する化学的気相蒸着(CVD)方法を採用できる。場合によっては,プラズマによる熱源を用い原料粉末を瞬時に溶融して基板に吹き付けて被膜を形成するプラズマ溶射方法を採用できる。
【実施例】
以下,本発明に係るプロトン−電子混合伝導性セラミックスについての実施例を具体的に説明する。
(第1実施例)
本実施例は,バリウム−セリウム−イットリウム−ルテニウム−酸素系の金属酸化物を対象とする。つまり,化学式BaCe0.9−X0.1Ru3−αで表されるプロトン−電子混合伝導性セラミックスを対象とする。
このセラミックスによれば,化学式A1+a1−a−b−cB’B”3−αとすれば,A元素はバリウム(Ba)であり,a=0である。B元素はセリウム(Ce)である。B’元素はイットリウム(Y)であり,B’元素のモル比bは0.1である。またB”元素はルテニウム(Ru)であり,B”元素のモル比cはX(X=c)である。ルテニウムは価数変化が容易な遷移金属である。
B’及びB”はBサイトの元素を一部置換したものである。酸素欠損量αのモル比としては,一般的には−0.5以上で+0.5以下の範囲となるが,これに限定されるものではない。
本実施例によれば,Aサイトのモル比とBサイトのモル比との総和を2としたとき,B”元素であるルテニウムのモル比であるX(X=c)としては,X=0.075,X=0.100としている。
X=0.075のときには,BaCe0.8250.1Ru0.0753−αの化学式で表されるプロトン−電子混合伝導性セラミックスである。この場合,セラミックスを構成する金属のモル数の総和を2としたとき,つまり,Aサイトの元素のモル比とBサイトの元素(B’,B”を含む)のモル比との総和を2としたとき,B”元素であるルテニウムのモル比であるX(X=c)は0.075である。
X=0.100のときには,BaCe0.80.1Ru0.13−αの化学式で表されるプロトン−電子混合伝導性セラミックスである。この場合,セラミックスを構成する金属のモル数の総和を2としたとき,B”元素であるルテニウムのモル比であるX(X=c)としては0.100である。
本実施例によれば,出発原料粉末として,炭酸バリウム(BaCO,純度99.99%),酸化セリウム(CeO,純度99.9%),酸化イットリウム(Y,純度99.9%),酸化ルテニウム(RuO,純度99.9%)の各粉末を用いた。これらの出発原料粉末を所定の割合で秤量した。秤量した出発原料をメノウ製の乳鉢でエタノールを用いて湿式混合し,混合粉末を形成した。その後,混合粉末からエタノールを蒸発させた。その混合粉末を成形型(金型)で加圧成形して成形体を形成した。成形体を大気中で1400℃で10時間,か焼した。その後,か焼した成形体をメノウ製の乳鉢で粉砕した。更にエタノールを分散剤として用い,ジルコニア製の遊星式ボールミル(165rpm)で1〜2時間粉砕し,粉末を形成した。その後,ドラフト内で赤外線ランプによりエタノールを蒸発させ,125℃の真空乾燥機中で粉末を1日以上乾燥させた。このようにした得られた粉末を別の成形型(金型)で成形し,円盤形状の圧粉体を得た。更に圧粉体をラバープレス法により静水圧で加圧(加圧力:300MPa)し,加圧体を形成した。その加圧体を大気雰囲気において1650℃,10時間加熱保持することにより焼結した。これにより試料を形成した。
X線回折装置を用いて,試料の相の同定を行った。更に電子顕微鏡(SEM,倍率:400倍,1000倍)にて表面観察を行った。試料が開気孔を有しないことは,電子顕微鏡(SEM)でも確認された。開気孔は機械的なガス透過を発生させる。この試料は開気孔を有しないため,機械的なガス透過はないことになる。
更に,プロトン伝導性を評価するために,図1に示す装置を用い,水素濃淡電池の起電力を測定した。この場合,直径約13mm,厚み0.5mmの円盤ペレット状の試料10を用いた。試料10の両端面に白金ペーストを塗布して900℃で1時間焼き付け,これにより多孔質の白金層12(多孔質の触媒層)を試料10の両端面に形成した。
更に,その白金層12を白金集電体で覆った後,図1に示すように,ガラス製のリング状のシール14を介して第1セラミックス管(アルミナ)16の軸端16aと第2セラミックス管18(アルミナ)の軸端18aとの間に試料10を挟んだ。これにより試料10を隔壁とする第1室16dと第2室18dとを形成した。第1セラミックス管16は第1ガス導入口16b,第1ガス導出口16c,第1室16dをもつ。第1ガス導入口16bには第1ガス供給管(アルミナ)20が配置されている。第2セラミックス管18は第2ガス導入口18b,第2ガス導出口18c,第2室18dをもつ。第2ガス導入口18bには第2ガス供給管(アルミナ)22が配置されている。試料10の周辺には加熱装置28が設けられている。
そして,試料10がその厚み方向に機械的ガス透過性を有しないことを確認する漏れテスト(温度:800℃)を行った。漏れテストでは,第2室18dにアルゴンをキャリアガスとして導入すると共に,第1室16dにヘリウム(圧力:1atm,1atm≒1013hPa)を導入し,アルゴン側の第2室18dに繋がる第2ガス導出口18cから吐出された出口ガスをガスクロマトグラフィーによりチェックし,当該出口ガスにヘリウムが漏れていないことを確認した。これにより試料10は機械的ガス透過性を有しないことが再確認された。
プロトン伝導性を調べるべく水素濃淡電池で起電力を測定する試験を行った。この場合,第1室16d及び第2室18dのそれぞれに水素分圧が異なるガスを導入して行った。第1室16d側のアノード及び第2室18d側のカソードでは次の反応が生じるため,水素分圧に見合った起電力が生じる。理論起電力は,下記の式1に示すネルンストの式に基づいて求められる。アノードは酸化反応を行う部位と定義される。カソードは還元反応を行う部位と定義される。
アノード H→2H+2e
カソード 2H+2e→H
理論起電力E=(RT/2F)×ln[(PH2(アノード)/(PH2(カソード)]……(1)
周知のように,Rは気体定数を示す。Tは温度(K)を示す。Fはファラデー定数を示す。PH2(アノード)はアノード側(第1室16d)の水素分圧を示す。PH2(カソード)はカソード側(第2室18d)の水素分圧を示す。
起電力を測定する際には,ペレット状の試料10(厚み0.5mm,直径13mm)を用いると共に,試料10の表裏の白金層12にリード線24,26を電気的に接続した。更に,水素濃淡電池の基準ガスとして1atm(1atm=1013hPa)の水素ガスをアノード側の第1室16d側に導入した。ガス混合器を用いてアルゴンガスと水素とを所定の比率で混合した混合ガスをカソード側の第2室18dに導入した。そして,カソード側の第2室18dの混合ガスの水素分圧をガスクロマトグラフィーで測定した。発生した起電力については,レコーダで起電力が安定したことを確認した後に,エレクトロメータで起電力を測定した。
ここで図2は,電解質がプロトン伝導性を有する他に電子伝導性を有する概念を示す。図2に示すように,試料である電解質がプロトン伝導性を有する他に電子伝導性を有すると,試料である電解質の端面に水素が供給されると,電解質の端面において,H→2H+2eの反応がアノード側で起こる。プロトン(H)及び電子(e)は電解質を透過する。電解質の反対側の端面において,2H+2e→Hの反応がカソード側で起こり,結果として水素は透過する。ここで,試料である電解質がプロトン伝導性を有する他に電子伝導性を有すると,発生する起電力は上記したネルンストの式に基づく理論起電力の値よりも小さくなる。
図3は水素濃淡電池の起電力の測定結果(試料温度:800℃)を示す。図3の横軸はカソード側の水素分圧の対数を示す。図3の縦軸は起電力を示す。図3において,特性線S1は,アノード側とカソード側とにおける水素分圧差に基づいてネルンストの式で算出された理論起電力を示す。
化学式BaCe0.9−X0.1Ru3−αで表されるプロトン−電子混合伝導性セラミックスにおいて,図3の●印はX=0.075の測定結果を示し,図3の■印はX=0.100の測定結果を示す。X=0.100のときには,プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,化学式BaCe0.80.1Ru0.13−αで表される。X=0.075のときには,プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,化学式BaCe0.8250.1Ru0.0753−αで表される。
ここで,電解質がプロトンのみを導電種とするときには,水素濃淡電池の起電力は,ネルンストの式に基づく理論起電力に従うものである。しかし電解質がプロトン及び電子(あるいは電子ホール)の双方を導電種とするときには,水素濃淡電池の起電力は,ネルンストの式に基づく理論起電力を下回るはずである。
図3に示すように,X=0.075の測定結果,X=0.100の測定結果は共に直線性が認められた。更にX=0.075の測定結果,X=0.100の測定結果は,共に,ネルンストの式に基づく理論起電力の値(特性線S1)を下回っている。従って,本実施例に係る試料がプロトン伝導性及び電子伝導性の双方を有するものである。
更に,上記した試料について水素透過試験を行った。この場合,白金層12に電圧を印加させてない。そして水素供給側(アノード側)である第1室16dに所定分圧の水素ガス(圧力:1atm,0.22atm,0.05atm,0.01atm)をそれぞれ第1ガス供給管20から導入した。水素供給側(アノード側)に供給した水素ガスは,バブラーを通して水蒸気を含有させたものである。水蒸気を含有させるのは,試料を過度の還元性雰囲気にさらすのを防止するためである。また,水素透過側(カソード側)である第2室18dに,水蒸気を含有させたアルゴンをキャリアガスとして第2ガス供給管22から導入した。そして第2室18dの第2ガス導出口18cからキャリアガスと共に吐出された水素の量を測定した。ここで,25℃換算で,単位時間・単位面積当たりの水素透過速度を式(2)に基づいて求めた。
V=Vg・(c/100)・{(273.15+25)/(273.15+T)}・(1/S)
(ml・min−1・cm−2)…(2)
ここでVgは出口ガス(キャリアガス+発生した水素量)の流量(ml・min−1),Tは室温(℃),cは水素濃度(%),Sは試料の水素透過面積,つまり表面側の白金層12の投影面積でかつ試料の片面側に水素ガスが接触する面積(cm)を示す。
水素供給側に導入する水素ガスの水素濃度としては1%(0.01atm),5%(0.05atm),22%(0.22atm),100%(1atm)とした。ここで,試料がプロトン伝導性を有する他に電子伝導性を有すると,試料の白金層12に外部から電圧を印加しなくても,自己短絡電流が流れるため,試料において水素の電気化学的な透過が生じる。
図4は測定結果を示す。図4の横軸はネルンストの式に基づく起電力相当を示す。図4の縦軸は単位時間・単位面積当たりの水素透過速度を示す。●印はX=0.075の測定結果を示す。■印はX=0.100の測定結果を示す。各印の周囲に,水素供給側に導入した水素ガスの水素濃度を示す。
図4に示すように,100%水素ガスをアノード側に供給したとき,水素透過速度は,0.02ml・min−1・cm−2以上であった。
具体的には,図4に示すように,X=0.100のときには,100%水素ガス(=1atm)をアノード側に供給したとき水素透過速度は約0.11ml・min−1・cm−2であった。これは電流密度でいうと,約15mA/cmに相当する。また,5%水素ガス(水素分圧=0.05atm)をアノード側に供給したとき,水素透過速度は約0.05ml・min−1・cm−2であり,また,1%水素ガス(水素分圧=0.01atm)をアノード側に供給したとき,水素透過速度は約0.03ml・min−1・cm−2であった。
また,X=0.075のときには,100%水素ガス(1atm)をアノード側に供給したとき水素透過速度は約0.06ml・min−1・cm−2であり,また,5%水素ガス(水素分圧0.05atm)をアノード側に供給したとき,水素透過速度は0.03〜0.04ml・min−1・cm−2であり,また,1%水素ガス(水素分圧0.01atm)をアノード側に供給したとき,水素透過速度は約0.025ml・min−1・cm−2であった。
試料の厚みが0.5mmと相当厚いこと,単位面積当たり換算であることを考慮すると,水素透過速度としてはかなり大きいといえる。従ってセラミックスの薄肉化,水素透過面積の増加を図れば,かなりの水素透過量を期待することができる。
図4に示す各特性線は直線性を有しており,測定プロット点が直線上に載っていることがわかる。プロット点が直線上に載ることは,試料の開気孔からのガス透過(ガス漏れ)現象ではなく,電気化学的な透過,即ち,プロトン−電子混合伝導性に基づく水素透過の現象であることを意味する。
もし,試料にこれの厚み方向に連通する開気孔が形成されており,上記した水素透過性が開気孔による機械的な水素透過によるものであると仮定すると,水素透過速度は基本的にはアノード側に供給した水素分圧に比例するはずである(水素透過量が小さいとき)。この場合,アノード側に供給した水素ガスの水素濃度が1%(水素分圧=0.01atm)のときにおける水素透過速度は,水素濃度100%の水素ガスを用いたときの1/100となるはずであり,大きく低下することになるはずである。
しかしながら本実施例によれば,図4に示す測定結果のように,アノード側に供給したガスの水素濃度が1%のときにおける水素透過速度は,水素濃度100%のときにおける水素ガスを用いたときの水素透過速度に対して,1/3程度であった。従って本実施例に係る水素透過速度は,試料の開気孔に基づく機械的ガス透過ではなく,電気化学的な水素透過によるものである。なお試料の厚み方向に連通する開気孔が試料に形成されていないことは,前述したように,電子顕微鏡(SEM)観察により確認されている。
また上記したセラミックスについて電気伝導度σを交流二端子法により測定した。測定温度は800℃とし,17.0℃の飽和水蒸気により加湿した水素ガス中において測定した。BaCe0.8250.1Ru0.0753−αについては,電気伝導度σ=1.7×10−3S・cm−1であった。SrZr0.8250.1Ru0.0753−αについては,電気伝導度σ=2.2×10−3S・cm−1であった。
上記したように第1実施例によれば,プロトン伝導性及び電子伝導性の双方を有し,水素を透過できるプロトン−電子混合伝導性セラミックスを提供することができた。
更に本発明に係るプロトン−電子混合伝導性セラミックスの安定性を調べた。この場合,X=0.100に係る試料,つまり化学式BaCe0.80.1Ru0.13−αで表されるセラミックスを代表例とした。そしてこのセラミックスで形成した試料を水素雰囲気において高温(800℃)において3時間さらした。この場合,水素雰囲気(還元性雰囲気)にさらす前後における試料のX線回折パターンを測定した。図5は測定結果を示す。図5に示すように,上記した水素雰囲気に試料をさらしたとしても,回折パターンの変化は認められず,本実施例に係る試料は高温の水素雰囲気においても安定であること示す。参考として,図5にBaCeOについてのX線回折パターンを示す。
(第2実施例)
第2実施例として,ストロンチウム−ジルコニウム−イットリウム−酸素系の金属酸化物で形成した試料を作製した。つまり,SrZr0.9−X0.1Ru3−αの試料を作製した。この場合,X=0.075,X=0.100,X=0.125とした。このセラミックスによれば,化学式A1+a1−a−b−cB’B”3−αとすれば,a=0であり,B元素はジルコニウム(Zr)である。B’元素はイットリウム(Y)であり,B’元素のモル比bは0.1である。またB”元素はルテニウム(Ru)であり,B”元素のモル比cはX(X=0.075,X=0.100,X=0.125,X=c)である。
X=0.075のときには,本実施例に係るプロトン−電子混合伝導性セラミックスは,化学式SrZr0.8250.1Ru0.0753−αで表される。この場合,セラミックスを構成する金属のモル数の総和を2としたとき,ルテニウムのモル比は0.075である。
第2実施例によれば,X=0.100のときには,プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,化学式SrZr0.80.1Ru0.13−αで表される。この場合,セラミックスを構成する金属のモル数の総和を2としたとき,ルテニウムのモル比は0.100である。
X=0.125のときには,プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,化学式SrZr0.7750.1Ru0.1253−αで表される。この場合,セラミックスを構成する金属のモル数の総和を2としたとき,ルテニウムのモル比は0.125である。
第2実施例によれば,出発原料粉末として,炭酸ストロンチウム(SrCO,純度99.99%),酸化ジルコニウム(ZrO,純度99.9%),酸化イットリウム(Y,純度99.9%),酸化ルテニウム(RuO,純度99.9%)の各粉末を用いた。そして基本的には前記した実施例と同様な手順により円盤形状の圧粉体を形成した(か焼温度:1350℃,か焼温度:時間10時間)。更に圧粉体をラバープレス法により静水圧で加圧(加圧力:300MPa)し,加圧体を形成した。その加圧体を大気雰囲気において1700℃,10時間加熱保持することにより焼結した。これにより試料を形成した。試料の厚みは0.5mm,直径は13mmとした。
X線回折装置を用いて,試料の相の同定を行った。更に電子顕微鏡(SEM,倍率400倍,1000倍)にて表面観察を行った。機械的ガス漏れの要因となる開気孔を試料が有しないことは,電子顕微鏡(SEM)でも確認された。
そして試料を800℃に加熱した状態で,前述同様に水素透過性を測定した。この場合,白金層12に電圧を印加させてない。測定結果を図4に示す。図4において,◇印は,X=0.075の測定結果を示す。△印は,X=0.100の測定結果を示す。▽印は,X=0.125の測定結果を示す。
図4に示すようにアノード側に供給した水素ガスの濃度が22%のときには,水素透過速度としては約0.035〜0.040ml・min−1・cm−2であった。アノード側に供給した水素ガスの濃度が5%のときには,水素透過速度としては約0.01〜0.02ml・min−1・cm−2程度であった。
このように第2実施例においても,プロトン伝導性及び電子伝導性の双方を有し,水素を透過できるプロトン−電子混合伝導性セラミックスを提供することができた。
(第3実施例)
第3実施例としては,ストロンチウム−セリウム−ルテニウム−酸素系の金属酸化物で形成した試料を作製した。つまり,SrCe1−XRu3−αの試料を作成した。この場合には,X=0.05,X=0.100,X=0.15とした。
X=0.05のときには,本実施例に係るプロトン−電子混合伝導性セラミックスは,化学式SrCe0.95Ru0.053−αで表される。この場合,セラミックスを構成する金属のモル数の総和を2としたとき,ルテニウムのモル比は0.05である。
X=0.1のときには,本実施例に係るプロトン−電子混合伝導性セラミックスは,化学式SrCe0.9Ru0.13−αで表される。この場合,セラミックスを構成する金属のモル数の総和を2としたとき,ルテニウムのモル比は0.10である。
X=0.15のときには,本実施例に係るプロトン−電子混合伝導性セラミックスは,化学式SrCe0.85Ru0.153−αで表される。この場合,セラミックスを構成する金属のモル数の総和を2としたとき,ルテニウムのモル比は0.15である。
第3実施例によれば,出発原料粉末として,炭酸ストロンチウム(SrCO,純度99.99%),酸化セリウム(CeO,純度99.9%),酸化ルテニウム(RuO,純度99.9%)の各粉末を用いた。そして基本的には前記した実施例と同様な手順により円盤形状の圧粉体を形成した(か焼温度:1200℃,か焼温度:時間10時間)。更に圧粉体をラバープレス法により静水圧で加圧(加圧力:200MPa)し,加圧体を形成した。その加圧体を大気雰囲気において1550〜1600℃,10時間加熱保持することにより焼結した。これにより試料を形成した。試料の厚みは0.5mm,直径は13mmとした。
X線回折装置を用いて,試料の相の同定を行った。更に電子顕微鏡(SEM)にて表面観察を行った。機械的ガス漏れの要因となる開気孔を試料が有しないことは,電子顕微鏡(SEM)でも確認された。そして試料を800℃に加熱した状態で,前述同様に水素透過性(800℃)を測定したところ,水素透過が確認された。この場合においても,白金層12に電圧を印加させてない。
(第1適用形態)
図6は第1適用形態に係る水素ガス分離装置100を示す。図6に示すように,水素ガス分離装置100は,中空室110を有する基体111と,基体111の中空室110の内部に配置されたガス透過層200とを有する。基体111は,中空室110に水素を含有する原料ガスを導入するガス導入口112と,原料ガスの排ガスを排出する排出口113と有する。ガス透過層200はほぼ円筒形状をなしており,基体111の中空室110を,原料ガスがガス導入口112から導入されるガス導入室220と,水素ガスが導出されるガス導出室240とを仕切る。ガス透過層200の平均厚みは0.05〜10mm,殊に0.3〜3mmとすることができる。円筒形状をなすガス透過層200は,その内部のガス導出室240と,水素ガスを導出させるガス導出口260とをもつ。ガス透過層200のうちガス導入室220に対面する部分では,前記したアノード反応が生じる。ガス透過層200のうちガス導出室240に対面する部分では,前記したカソード反応が生じる。
図6に示すように,ガス透過層200のガス導出室240はガス導出口260に連通する。ガス導出口260は吸引要素としての吸引ポンプ350に繋がる。基体111の中空室110には,ガス透過層200を加熱するためのリング形状をなす電気式の第1加熱装置301が設けられている。第1加熱装置301はガス透過層200のうちガス導入室220に対面する部分に臨む。これによりガス透過層200のうちガス導入室220に対面する部分は高温領域に効果的に加熱される。即ち,第1加熱装置301は,ガス透過層200を効果的に加熱させることができ,ガス透過層200のうちアノード側を効果的に加熱させることができる。
上記したガス透過層200は,プロトン伝導性及び電子伝導性を有するプロトン−電子混合伝導性セラミックスで形成されている。このガス透過層200は,ペロブスカイト型構造を有する金属酸化物であって,前述したように,これを構成する金属のモル比の総和を2としたとき,クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru)のうちの少なくとも1種を,モル比で,0.01以上,0.8以下の範囲で含み,プロトン伝導性及び電子伝導性を有するセラミックスで形成されている。
より具体的には,上記したガス透過層200を形成するプロトン−電子混合伝導性セラミックスは,化学式A1+a1−a−b−cB’B”3−αの組成を有する。ここで,
A:カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba)のうちの少なくとも1種
aは,0.8≦(1+a)/(1−a)≦1.2の条件を満足する。
B:セリウム(Ce),ジルコニウム(Zr),チタン(Ti)のうち少なくとも1種
B’:アルミニウム(Al),スカンジウム(Sc),ガリウム(Ga),イットリウム(Y),インジウム(In),及び,ランタノイド系列に属する原子番号が59〜71の金属元素のうちの少なくとも1種
bの範囲は0以上で0.5以下
B”:クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru)のうちの少なくとも1種
cの範囲は0.01以上で0.8以下
更に具体的には,上記したガス透過層200を形成するプロトン−電子混合伝導性セラミックスは,前記した第1実施例から第3実施例のうちのいずれかのセラミックスで形成することができる。
上記したガス透過層200の製造にあたり,原料粉末を加圧した圧粉体を焼結して形成する方法を採用できる。またガス透過層200が薄膜のときには,原料粉末を分散媒に分散させた溶液を基板に膜状に塗布し,焼成する方法を採用できる。あるいは,ガス透過層200が薄膜のときには,真空蒸着,イオンプレーティング,スパッタリング等の物理的気相蒸着(PVD)方法を採用できる。あるいは,原料気体を加熱した基板上に導いて反応させて被膜を形成する化学的気相蒸着(CVD)方法を採用できる。場合によっては,プラズマによる熱源を用い原料粉末を瞬時に溶融して基板に吹き付けて被膜を形成するプラズマ溶射方法を採用できる。
上記した水素ガス分離装置100を使用する際には,第1加熱装置301でガス透過層200を500〜1000℃程度に加熱する。そして,原料ガス(例えば1〜10atm)を基体111のガス導入口112から中空室110のガス導入室220に導入する。原料ガスは,水素の他に他のガス成分(二酸化炭素ガス,一酸化炭素ガス,窒素ガス,水蒸気などの少なくとも1種)を含有する。原料ガスとしては,天然ガスとすることができ,あるいは,炭化水素系のガスを水蒸気等で改質した改質ガス等とすることができる。天然ガスはメタン(CH)を主成分とする。改質ガスは水素の他に二酸化炭素,一酸化炭素等を含むことが多い。
基体111のガス導入口112から導入された原料ガスがガス透過層200の表面に到達すると,原料ガスに含まれている水素ガスが上記したアノード反応によりプロトン(H)及び電子(e)に分離し,プロトン及び電子はガス透過層200をその厚み方向に透過する。他のガス成分がガス透過層200を透過することは,妨げられる。これにより中空室110に導入された原料ガスから水素ガスが分離される。ガス透過層200を透過した水素ガスは,吸引ポンプ350の作動により,ガス透過層200の内部であるガス導出室240,ガス導出口260から導出される。このようにして他のガス成分と共に水素を含有する原料ガスから,純度の高い水素ガスが製造される。原料ガスから水素ガスが分離された後の排ガスは,排出口113から排出される。
(第2適用形態)
図7は第2適用形態に係る水素ガス分離装置100Bを示す。第2適用形態は第1適用形態と基本的には同様の構成を有しており,同様の作用効果を奏する。以下,第1適用形態と異なる部分を中心として説明する。ガス透過層200Bは第1適用形態と同様に,上記した混合伝導性セラミックスで形成されている。図7に示すように,ガス透過層200Bのうちガス導入室220に対面する領域(アノード側)には第1触媒層401が被覆されている。ガス透過層200Bのうちガス導出室240に対面する領域(カソード側)には第2触媒層402が被覆されている。第1触媒層401及び第2触媒層402は白金を主成分として薄膜状に形成されている。第1触媒層401はアノードにおける反応(H→2H+2e)を促進させる。第2触媒層402はカソードにおける反応(2H+2e→H)を促進させる。これにより中空室110に導入された原料ガスから水素ガスが一層効率よく分離される。
(第3適用形態)
図8は第3適用形態に係る水素ガス分離装置100Cを示す。第2適用形態は第1適用形態と基本的には同様の構成を有しており,同様の作用効果を奏する。ガス透過層200Cは第1適用形態と同様に上記した混合伝導性セラミックス(例えば第1実施例〜第3実施例に係るセラミックス)で形成されている。ガス透過層200Cの平均厚みは一般的には5〜3000μm,殊に10〜2000μmとすることができる。ガス透過層200Cは,厚み方向に通気性を有する円筒形状の多孔質の担体501の外壁面に被覆されて保持されている。
ガス透過層200Cによる水素透過速度を高めるためには,ガス透過層200Cの厚みは薄いことが好ましい。しかしガス透過層200Cの厚みが薄いときには,ガス透過層200Cの耐久性が低下するおそれがある。そこで,多孔質の担体501の外壁面にガス透過層200Cを積層させてガス透過層200Cを保持すれば,薄い膜状のガス透過層200Cに対する保護性を高めることができ,ガス透過層200Cに対する耐久性を高めることができる。担体501の平均厚みはガス透過層200Cの厚み,材質等よっても相違するが,0.2〜20mm,殊に0.5〜5mmとすることができる。但しこれに限定されるものではない。
更に,担体501は多孔質であり,担体501の厚み方向に通気性を有するため,原料ガスをガス透過層200Cに容易に到達させることができる。担体501の気孔率(体積比)は適宜選択できるが,10〜90%程度とすることができる。更に本適用形態によれば,図8に示すように,ガス透過層200Cの内部側つまりガス導出室240にも第2加熱装置302Cが配置されている。第2加熱装置302Cは,主として,ガス透過層200のうちカソード側を加熱させることができる。リング形状をなす第1加熱装置301は,ガス透過層200Cを加熱させることができ,主として,ガス透過層200Cのうちアノード側を効果的に加熱させることができる。これによりガス透過層200Cに対する加熱性を高めることができる。
(第4適用形態)
図9は第4適用形態に係る水素ガス分離装置100Dを示す。第4適用形態は第3適用形態と基本的には同様の構成を有しており,同様の作用効果を奏する。ガス透過層200Dは第1適用形態と同様に,上記した混合伝導性セラミックス(例えば第1実施例〜第3実施例)で形成されている。ガス透過層200Dは薄い膜状であり,厚み方向に通気性を有する円筒形状をなす多孔質の担体501Dの外壁面に被覆されて保持されている。ガス透過層200Dの平均厚みは一般的には5〜3000μm,殊に10〜2000μmとすることができる。ガス透過層200Dの内部側つまりガス導出室240には,キャリアガス(アルゴンガス等の不活性ガス)を吹き込む吹込管600が配置されている。吹込管600の入口601から供給されたキャリアガスは,吹込管600の出口602からガス導出室240内に吐出される。そして,ガス透過層200Dを透過したガス導出室240内の水素ガスは,出口602から吐出されたキャリアガスによりガス導出口260に導かれる。なお,必要に応じて,ガス導出口260につながる通路にキャリアガスを吸引させる吸引ポンプ350を設けることができる。
(第5適用形態)
図10は第5適用形態に係る水素ガス分離装置100Eを示す。第5適用形態は第1適用形態と基本的には同様の構成を有しており,同様の作用効果を奏する。図10に示すように,水素ガス分離装置100Eは,中空室110を有すると共に中空室110に水素を含有する原料ガスを導入するガス導入口112を有する基体111Eと,基体111Eの中空室110の内部に配置された円筒形状の担体501Eと,担体501Eの外周面に積層されたガス透過層200Eとを有する。担体501Eは多孔質であり,これの厚み方向に通気性を有する。担体501E及びガス透過層200Eは,原料ガスが導入されるガス導入室220と,原料ガスが導出されるガス導出室240とに中空室110を仕切る。ガス導出室240はガス導出口260に連通する。ガス導出口260は吸引要素としての吸引ポンプ350に繋がる。基体111Eの中空室110には,ガス透過層200Eを加熱するためのリング形状をなす電気式の第1加熱装置301Eが設けられている。第1加熱装置301Eはガス透過層200Eのうちガス導入室220に対面する部分(アノード側)に対面する。これによりガス透過層200は高温領域に効果的に加熱される。ガス透過層200Eは,第1適用形態と同様に,プロトン伝導性及び電子伝導性を有するプロトン−電子混合伝導性セラミックス(例えば第1実施例〜第3実施例に係るセラミックス)で形成されている。
(他の適用形態)
図11〜図14は,ガス透過層の各適用形態の概念を示す。図11に示す適用形態では,厚み方向に通気性を有する多孔質の担体501のうち,ガス導入室220に対面する表面において薄い膜状のガス透過層200Hが積層されている。図12に示す適用形態では,更に,ガス透過層200Hのうちガス導入室220に対面する側,つまり,アノード側には,白金を主要成分とする第1触媒層401Hが積層されている。
更に図13に示す適用形態では,厚み方向に通気性を有する多孔質の担体501のうち,ガス導入室220に対面する表面において,薄い膜状のガス透過層200Hが積層されている。ガス透過層200Hのうちアノード側には白金を主要成分とする第1触媒層401Hが積層されていると共に,ガス透過層200Hのうちカソード側には白金を主要成分とする第2触媒層402Hが積層されている。
図14に示す適用形態では,厚み方向に通気性を有する多孔質の担体501の表面にガス透過層200Hがガス導入室220に対面するように積層されている。更にガス透過層200Hのうちアノード側には第1電極層405Hが積層されていると共に,ガス透過層200Hのうちカソード側には第2電極層406Hが積層されている。第1電極層405H及び第2電極層406Hは白金を主要成分として形成されているため,触媒層も兼用することができる。そして,第1電極層405Hから白金製の第1リード線407が導出されていると共に,第2電極層406Hから白金製の第2リード線408が導出されている。アノード側の第1電極層405Hは電源409のプラス極であり,カソード側の第2電極層406Hは電源409のマイナス極に繋がれる。そして,原料ガスから水素ガスを分離させるときに,第1電極層405Hと第2電極層406Hとの間に,直流用の電源409から直流電圧を印加させる。すると,電子がカソード側に供給されるため,プロトン伝導性よりも電子伝導性が低いときであっても,カソード反応を活性化させることを期待でき,ひいてはガス透過層200Hによる水素透過性能を高めることを期待できる。
なお,図11〜図14に示す形態は,前記した第1適用形態〜第5適用形態に適用することができる。
図15〜図18は,他のガス透過層の各適用形態を示す。図15〜図18に示す適用形態は,図11〜図14に示す適用形態と基本的には同様の構成であり,基本的には同様の作用効果を奏する。図15〜図18に示す適用形態では,ガス透過層200Kは,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスで形成されており,その厚み方向において第1担体501と第2担体502とで挟まれている。第1担体501及び第2担体502は多孔質であり,気孔率(体積比)が10〜90%程度に設定されており,厚み方向に通気性を有する。このようにガス透過層200Kは,厚み方向に通気性をもつ第1担体501及び第2担体502で挟まれているため,ガス透過層200Kの厚みが薄いときであっても,ガス透過層200Kの保持性を確保でき,ガス透過層200Kの保護性,耐久性を向上させることができる。第1担体501の強度が確保される限り,第1担体501は,気孔率が大きい方が原料ガスをガス透過層200Kに到達させることができる。第2担体502の強度が確保される限り,第2担体502は,気孔率が大きい方が水素ガスをガス透過層200Kから離脱させることができる。第1担体501の平均厚みはガス透過層200Cの厚み,材質等によっても相違するが,0.2〜20mm,殊殊に0.5〜5mmとすることができる。また第2担体502の平均厚みはガス透過層200Cの厚み,材質等によっても相違するが,0.01〜5mm,殊に0.01〜1mmとすることができる。但しこれに限定されるものではない。第1担体501の平均厚みをt1とし,第2担体502の平均厚みをt2とすると,t1=t2,t1≒t2,t1>t2,t1<t2のいずれでも良い。なお,図15〜図18に示す形態は,第1適用形態〜第5適用形態に適用することができる。
(その他)
図6に示す第1適用形態によれば,基体111が原料ガス導入用のガス導入口112を有すると共に,ガス透過層200が水素ガス導出用のガス導出口260を有するが,これに限らず,基体111が水素ガス導出用のガス導出口を有すると共に,ガス透過層200が原料ガス導入用のガス導入口を有することにしても良い。その他,本発明は上記した実施例,適用形態のみに限定されるものではなく,要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
以上のように本発明に係る水素ガス分離装置は,プロトンと電子との混合伝導性を有するプロトン−電子混合伝導性セラミックスで形成されたガス透過層を有するため,水素を含む原料ガスから,水素濃度が高いガスを製造することができ,燃料電池発電システム,水素燃焼式エンジン等に利用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空室を有する基体と,
前記基体の前記中空室に配置され,原料ガスが導入されるガス導入室と原料ガスから分離された水素ガスが導出されるガス導出室とに前記中空室を仕切るガス透過層とを具備しており,
前記ガス透過層は,プロトン伝導性及び電子伝導性を有するプロトン−電子混合伝導性セラミックスを基材として形成されていることを特徴とする水素ガス分離装置。
【請求項2】
請求項1において,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,原料ガスが透過可能な通気性をもつ担体に保持されていることを特徴とする水素ガス分離装置。
【請求項3】
請求項1において,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,原料ガスが透過可能な通気性をもつ担体に挟持されていることを特徴とする水素ガス分離装置。
【請求項4】
請求項1において,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスを加熱する加熱装置が設けられていることを特徴とする水素ガス分離装置。
【請求項5】
請求項1において,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,ガス導入室及びガス導出室のうちの少なくとも一方側に触媒層を有することを特徴とする水素ガス分離装置。
【請求項6】
請求項1において,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,前記ガス導入室に対面する側に第1電極層を有すると共に前記ガス導出室に対面する側に第2電極層を有しており,前記第1電極層と前記第2電極層との間に電圧を印加させ得るように設定されていることを特徴とする水素ガス分離装置。
【請求項7】
請求項1において,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,ペロブスカイト型構造を有する金属酸化セラミックスであって,
これを構成する金属のモル比の総和を2としたとき,クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru)のうちの少なくとも一種を0.01以上,0.5以下の範囲で含み,プロトン伝導性及び電子伝導性を有することを特徴とする水素ガス分離装置。
【請求項8】
請求項7において,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,ペロブスカイト型構造を有する金属酸化物であって,これを構成する金属のモル比の総和を2としたとき,クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru)のうちの少なくとも1種を,モル比で,0.01以上,0.8以下の範囲で含むことを特徴とする水素ガス分離装置。
【請求項9】
請求項8において,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,一般式ABOで表され,上記した総和は,Aサイトの元素のモル比とBサイトの元素のモル比との総和であることを特徴とするプロトン伝導性及び電子伝導性を有することを特徴とする水素ガス分離装置。
【請求項10】
請求項7において,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,更に,モル比で,ジルコニウム(Zr)を0.005以上の割合で含むことを特徴とする水素ガス分離装置。
【請求項11】
請求項7において,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,モル比で,ジルコニウム(Zr)を0.005以上で0.99以下の割合で含むことを特徴とする水素ガス分離装置。
【請求項12】
請求項7において,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,化学式A1+a1−a−b−cB’B”3−αの組成を有することを特徴とする水素ガス分離装置。ここで,
A:カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba)のうちの少なくとも1種
aは,0.8≦(1+a)/(1−a)≦1.2の条件を満足する。
B:セリウム(Ce),ジルコニウム(Zr),チタン(Ti)のうち少なくとも1種
B’:アルミニウム(Al),スカンジウム(Sc),ガリウム(Ga),イットリウム(Y),インジウム(In),及び,ランタノイド系列に属する原子番号が59〜71の金属元素のうちの少なくとも1種
bの範囲は0以上で0.5以下
B”:クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru)のうちの少なくとも1種
cの範囲は0.01以上で0.8以下
【請求項13】
請求項1において,前記プロトン−電子混合伝導性セラミックスは,電圧を印加しない状態で,プロトン伝導性及び電子伝導性を有することを特徴とする水素ガス分離装置。

【国際公開番号】WO2004/074175
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−568499(P2004−568499)
【国際出願番号】PCT/JP2003/002007
【国際出願日】平成15年2月24日(2003.2.24)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】