水素ガス検知センサー装置及び水素ガス検知方法
【課題】本発明は、新たな知見に基づき、低濃度の水素ガス検知が行える水素ガス検知センサー装置及び水素ガス検知方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ガスセンサー素子9と、ガスセンサー素子9に接続されたインピーダンス測定装置18と、を有する水素ガス検知センサー装置であって、インピーダンス測定装置18が、ガスセンサー素子9に1KHz未満の交流周波数の交流を印加可能であるとともに、ガスセンサー素子9の静電容量測定が可能であることを特徴とする水素ガス検知センサー装置1により、上記課題を解決することができる。
【解決手段】ガスセンサー素子9と、ガスセンサー素子9に接続されたインピーダンス測定装置18と、を有する水素ガス検知センサー装置であって、インピーダンス測定装置18が、ガスセンサー素子9に1KHz未満の交流周波数の交流を印加可能であるとともに、ガスセンサー素子9の静電容量測定が可能であることを特徴とする水素ガス検知センサー装置1により、上記課題を解決することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサー素子に交流電流を与えてインピーダンス測定する水素ガス検知センサー装置及び水素ガス検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術は半導体型ガスセンサー素子において、低周波のインピーダンス測定を実施することによって、高感度なガス検知を可能にするものである。従来報告では、半導体型ガスセンサー素子において、(1)ガス存在時におけるDC(直流)の電流−電圧特性変化をみる、(2)ガス存在時における高周波(1kHz以上)容量−電圧(C−V)特性変化をみる、という手法が用いられてきた。
そしていずれも、ガス検知時の電圧((1)の場合は、一定電流時における、ガス導入前後の電圧変化、(2)の場合は、ガス導入前後における閾値電圧の変化)の変化により、ガスの有無や濃度を検知していたものである。
しかしながら、検出対象のガスの濃度が低い場合、十分な感度でのガス検知が難しいことが課題であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Appl. Surf. Sci. 254 (2008) 3653
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような実情に鑑み、新たな知見に基づき、低濃度の水素ガス検知が行える水素ガス検知センサー装置及び水素ガス検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の水素ガス検知センサー装置は、ガスセンサー素子と、前記ガスセンサー素子に接続されたインピーダンス測定装置と、を有するガスセンサー装置であって、前記インピーダンス測定装置が、前記ガスセンサー素子に1MHz未満の交流周波数の交流を印加可能であるとともに、前記ガスセンサー素子の静電容量測定が可能であることを特徴とする。
【0006】
本発明の水素ガス検知センサー装置は、前記交流周波数が1Hzであることを特徴とする。
本発明の水素ガス検知センサー装置は、前記ガスセンサー素子がショットキーダイオード型ガスセンサー素子であることを特徴とする。
本発明の水素ガス検知センサー装置は、前記ガスセンサー素子がMIS型ガスセンサー素子であることを特徴とする。
【0007】
本発明の水素ガス検知方法は、ガスセンサー素子と、前記ガスセンサー素子に接続されたインピーダンス測定装置と、を有する水素ガス検知センサー装置を用いてガス量を測定するガス濃度測定方法であって、真空容器の内部にガスセンサー素子を配置し、前記真空容器の内部を減圧してから、水素ガスを含み2種以上のガスからなる混合ガスを流通させる工程と、前記真空容器の外部に配置したインピーダンス測定装置により、前記ガスセンサー素子に1MHz未満の交流周波数の交流を印加して、前記ガスセンサー素子の静電容量測定を行い、水素ガスを検出する工程と、を有することを特徴とする。
本発明の水素ガス検知方法は、前記混合ガスを150℃以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
発明者は一連の実験で、測定周波数を1KHz未満に低下させると、水素ガス雰囲気中でデバイスのキャパシタンス(静電容量)の絶対値およびそれらの値の変化が著しく増加することを見出した。
そして、この静電容量の変化を利用することにより、従来は不可能とされるような低濃度の水素ガス検知が可能となると確信し、上記構成の水素ガス検知センサー装置を提供したものである。
実施例に示すように、閾値電圧変化が同じでも、周波数の低下に連れ静電容量の変化が拡大されることを確認したので、これにより低周波数での測定により、低濃度のガス測定が可能であることを実証した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の水素ガス検知センサー装置の一例を示す概略図である。
【図2】ガスセンサー素子の一例を示す図であって、図2(a)は平面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A’線における断面図である。
【図3】本発明の水素ガス検知方法の一例を示す概略図である。
【図4】ガスセンサー素子の別の一例を示す図であって、図4(a)は平面図であり、図4(b)は図4(a)のC−C’線における断面図である。
【図5】本実験で用いたデバイス構造図である。
【図6】電圧−電流特性の測定結果を示すグラフである。
【図7】水素ガス検知実験で用いた測定装置と素子の回路図である。
【図8】容量−電圧特性の測定結果を示すグラフである。
【図9】窒素希釈の100ppm水素ガスを用い、図5に示す構造のデバイスのインピーダンス測定結果を示すグラフであり、AC周波数を1kHzとした時の結果である。
【図10】窒素希釈の100ppm水素ガスを用い、図5に示す構造のデバイスのインピーダンス測定結果を示すグラフであり、AC周波数を1Hzとした時の結果である。
【図11】測定温度を150℃とし、図5に示す構造のデバイスのインピーダンス測定結果を示すグラフであり、AC周波数を1kHzとした時の結果である。
【図12】測定温度を150℃とし、図5に示す構造のデバイスのインピーダンス測定結果を示すグラフであり、AC周波数を1Hzとした時の結果である。
【図13】本実施例で用いたMIS構造のデバイスの縦断面図である。
【図14】図13で示したデバイスのインピーダンス測定結果を示すグラフであり、AC周波数を10kHzとした時の結果である。
【図15】図13で示したデバイスのインピーダンス測定結果を示すグラフであり、AC周波数を1Hzとした時の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
非特許文献1に示されているとおり、半導体型水素ガスセンサー素子の動作原理としては、以下の機構が一般的に予想されている。
PtまたはPdなど水素吸蔵性を持つ電極表面に吸着した水素分子は、電極表面で水素原子に乖離する。それらの水素原子はPtまたはPd電極内を拡散して、半導体と金属の界面に達する。界面に達した水素原子は電気二重層を形成するために、ショットキー障壁高さが見かけ上減少する結果、電圧―電流特性が変化する。
上記のメカニズムが正しい場合、以下の事例が成立する。
・半導体素子としては、今回用いた窒化物半導体以外の材料からなる全ての素子に対して本検出法(低周波C−V測定)は適用可能である。ガスセンサー素子の動作原理は同一であるので、材料によらず同様の効果が期待できる。
・同じく、デバイス構造としては、今回用いたショットキー構造以外にMIS構造においても、金属/絶縁膜界面において水素原子が電気二重層を形成して、動作原理が同じであるために同様の効果が期待できる。
・本実施例では、周波数の下限を1Hzとしたが、これ以下の周波数に対しても同様の効果が期待できる。
・本実施例では、AC測定として容量−電圧(C−V)測定を用いたが、容量以外の他の物理量(誘電率など)を用いても同様の効果が期待できる。
・本実施例では検出ガスとして1%の水素を用いたが、さらに濃度が低くても本検出法(低周波C−V測定)は適用可能と思われる。
・本実施例では検出ガスとして水素を用いたが、他のガスに対する検知も可能であることから、水素以外のガスに対しても同様の効果が実現可能と思われる。
・従来は低濃度ガスの検知をするために、センサー素子を加熱して感度を増加させていたが、高感度検出法である本発明を用いることで、センサー素子を加熱することなく低濃度のガス検知が可能となる。
【0011】
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置及び水素ガス検知方法を説明する。
図1は、本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置の一例を示す概念図である。
図1に示すように、本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置1は、ガスセンサー素子9と、第1の測定手段2と、第2の測定手段3と、演算手段4と、を有して概略構成されている。
ガスセンサー素子9は、配線5、6を介して、第2の測定手段3に接続されており、第1の測定手段2は別の配線を介して演算手段4に接続されている。演算装置4を操作することにより、第1の測定手段2及び第2の測定手段3を制御することができる構成とされている。
【0012】
第1の測定手段2は、ガスセンサー素子9に交流(Alternating Current:AC)を流し、その容量を測定可能な計測器本体である。特に、前記AC周波数を1MHz以下10μHz以上とすることが可能な装置である。具体的には、1kHz、100Hz、10Hz、1Hzの周波数を振幅100mVで発生させて、バイアス電圧を+1Vから−4Vまで変化させた時のガスセンサー素子(本実験ではショットキーダイオード)の静電容量を測定可能な装置である。例えば、Solartron 1255B(製品名)を挙げることができる。しかし、これに限られるものではない。
【0013】
第2の測定手段3は、上記計測器本体の機能を補助するための装置であって、例えば、第1の測定手段2の微小信号の増幅装置(アンプ)である。例えば、Solartron 1296(製品名)を挙げることができる。しかし、これに限られるものではない。
第1の測定手段2と第2の測定手段3を組み合わせることで高感度計測が可能なインピーダンス測定装置となる。
【0014】
図2は、ガスセンサー素子9を示す図であって、図2(a)は平面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A’線における断面図である。
図2(a)に示すように、ガスセンサー素子9は、略矩形状の基板に素子部(ショットキーダイオード型ガスセンサー素子)10が格子状に配列されてなる。素子部10は、円形状の第1の電極部15と、第1の電極部15と同心円状となるように設けられたリング状の第2の電極部14とを有している。
【0015】
また、図2(b)に示すように、素子部10は、基板11と、基板11上に積層された第1の半導体層12と、第1の半導体層12上に積層された第2の半導体層13と、第2の半導体層13上に積層された第1の電極部15及び第2の電極部14とを有している。
よって、配線5、6をそれぞれ第1の電極部15と第2の電極部14に接続した状態で、第1の測定手段2によりガスセンサー素子9のインピーダンス測定を行うことができる構成とされている。配線5、6としては、同軸ケーブル等を用いる。
【0016】
基板11としては、絶縁性能を有し、少なくとも一面が平坦な面である基板であればよく、例えば、c面サファイア基板等を用いることができる。例えば、基板厚さは0.5mmの物を用いる。
第1の半導体層12としては、半導体性能を有する層であればよく、例えば、アンドープGaN等を挙げることができる。例えば、層厚は3μmとする。MOCVD法等によって成膜する。
第2の半導体層13としては、第1の半導体層12とヘテロ接合形成可能な半導体性能を有する層であればよく、例えば、アンドープAl0.24GaN等を挙げることができる。例えば、層圧は20nmとする。MOCVD法等によって成膜する。
【0017】
第1の電極部15としては、水素を吸蔵可能であるショットキー接合形成可能な導電性材料であればよく、例えば、Pt等を挙げることができる。例えば、膜厚は25nmとする。また、直径は300μmとする。フォトリソグラフィーとEB蒸着により形成する。
第2の電極部14としては、オーミック接合可能な導電性材料であればよく、例えば、Ti/Al/Pt/Auを基板側からこの順序で積層した4層の金属層からなる電極等を挙げることができる。例えば、膜厚は、Ti(20nm)/Al(100nm)/Pt(40nm)/Au(100nm)とし、合計260nmとする。また、第1の電極部15と間隔20μm離してリング形成し、リングの幅は100μmとする。
【0018】
まず、第2の電極部14を、EB蒸着とフォトリソグラフィーにより形成した後、窒素雰囲気中で850℃、30秒の電極シンター処理を行い、オーミック電極とする。
次に、第1の電極部15を、第1の電極部15を、EB蒸着とフォトリソグラフィーにより、ショットキー電極として形成する。
以上の構成により、ガスセンサー素子9は、ショットキーダイオード型ガスセンサー素子となる。
【0019】
図3は、本発明の実施形態である水素ガス検知方法の一例を示す概念図である。
本発明の実施形態であるガスセンサー1のセンサー素子9が、真空容器9の内部に配置されている。真空装置9は、図示略のポンプにより内部を減圧にでき、図示略のガス供給部から配管23を介してガスを矢印21のように導入できるとともに、配管24を介してガスを排出できる構成とされている。
真空容器9としては、例えば、ステンレス製チャンバーを用いる。
前記ポンプとしては、例えば、バリアン社ドライスクロールポンプSH110等を用いることができる。
【0020】
まず、真空容器20の内部を減圧する。
次に、所定の濃度で窒素希釈した水素ガスを配管23から真空容器20の内部に流入させる。なお、配管24のバルブを操作して、真空容器20の内部の圧力を一定に保つとともに、真空容器20の内部の水素ガス濃度が一定とされるようにする。
なお、水素ガス以外に、水素原子を成分に含む水やハイドロカーボンも検出できる。水素原子を成分に含むガスであれば、水素原子が、第1の電極部15と第1の半導体層12との間に拡散して、ガスセンサー素子9のインピーダンス特性を変化させるためである。
【0021】
次に、ガスセンサー素子9に所定の大きさの交流(Alternating Current:AC)を流し、所定のAC周波数で印加する。
前記AC周波数は、1kHz以下1Hz以上とする。例えば、1kHz、100Hz、10Hz、1Hzの周波数を振幅100mVで発生させて、バイアス電圧を+1Vから−4Vまで変化させる。
このとき、同時に、ガスセンサー素子9の容量を測定する。ガスセンサー素子9の容量から、ガスセンサー素子9に備えられた第1の電極部15に吸着する検出ガス量を検出する。
【0022】
図4は、ガスセンサー素子9の別の一例を示す図であって、図4(a)は平面図であり、図4(b)は図4(a)のC−C’線における断面図である。
図4(a)に示すように、ガスセンサー素子9は、略矩形状の基板に素子部(MIS型ガスセンサー素子)17が格子状に配列されてなる。素子部17は、円形状の第1の電極部15と、第1の電極部15と同心円状となるように設けられた絶縁層16と、第1の電極部15及び絶縁層と同心円状となるように設けられたリング状の第2の電極部14とを有している。ガスセンサー素子9は、MIS型ガスセンサーである。
【0023】
また、図4(b)に示すように、素子部17は、基板11と、基板11上に積層された第1の半導体層12と、第1の半導体層12上に積層された絶縁層16及び第2の電極部14と、絶縁層16上に積層された第1の電極部15とを有している。
よって、配線5、6をそれぞれ第1の電極部15と第2の電極部14に接続した状態で、第2の測定手段3によりガスセンサー素子9のインピーダンス測定を行うことができる構成とされている。
【0024】
本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置1は、ガスセンサー素子9と、ガスセンサー素子9に接続されたインピーダンス測定装置18と、を有する水素ガス検知センサー装置であって、インピーダンス測定装置18が、ガスセンサー素子9に1MHz未満の交流周波数の交流を印加可能であるとともに、ガスセンサー素子9の静電容量測定が可能である構成なので、前記容量変化により、ガスセンサー素子9に備えられた電極部15に吸着するガス量を検出でき、検出対象のガスの濃度が低い場合でも、十分な感度でのガス検知が可能なガスセンサー装置を提供することができる。
【0025】
本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置1は、前記交流周波数が1Hzである構成なので、検出対象のガスの濃度が低い場合でも、前記容量変化を大きくでき、ガスセンサー素子9に備えられた電極部15に吸着するガス量を検出して、十分な感度でのガス検知が可能なガスセンサー装置を提供することができる。
【0026】
本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置1は、ガスセンサー素子9がショットキーダイオード型ガスセンサー素子10である構成なので、前記容量変化を確実に検出でき、検出対象のガスの濃度が低い場合でも、十分な感度でのガス検知が可能なガスセンサー装置を提供することができる。
【0027】
本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置1は、ガスセンサー素子9がMIS型ガスセンサー素子17である構成なので、前記容量変化を確実に検出でき、検出対象のガスの濃度が低い場合でも、十分な感度でのガス検知が可能なガスセンサー装置を提供することができる。
【0028】
本発明の実施形態である水素ガス検知方法は、ガスセンサー素子9と、ガスセンサー素子9に接続されたインピーダンス測定装置18と、を有する水素ガス検知センサー装置1を用いてガス量を測定する水素ガス検知方法であって、真空容器20の内部にガスセンサー素子9を配置し、真空容器20の内部を減圧してから、水素ガスを含み2種以上のガスからなる混合ガスを流通させる工程と、真空容器20の外部に配置したインピーダンス測定装置18により、ガスセンサー素子9に1KHz未満の交流周波数の交流を印加して、ガスセンサー素子9の静電容量測定を行い、水素ガスを検出する工程と、を有する構成なので、前記容量変化により、ガスセンサー素子9に備えられた電極部15に吸着するガス量を検出でき、検出対象のガスの濃度が低い場合でも、十分な感度でのガス検知が可能なガスセンサー装置を提供することができる。
【0029】
本発明の実施形態である水素ガス検知方法は、前記混合ガスを150℃以上とする構成なので、前記容量変化を大きくして、ガスセンサー素子9に備えられた電極部15に吸着するガス量をより高感度で検出でき、検出対象のガスの濃度が低い場合でも、十分な感度でのガス検知ができる。
本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置及び水素ガス検知方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
図5に示す構造のデバイス(ショットキーダイオード型ガスセンサー素子)は、厚さ0.50mmのc面サファイア基板上にMOCVD法によって製膜された3.0μmのアンドープGaNと20nmのアンドープAl0.24GaNがヘテロ接合されたものを半導体材料として用いる。この半導体材料上に、フォトリソグラフィーとEB蒸着装置を用いてTi(20nm)/Al(100nm)/Pt(40nm)/Au(100nm)からなるオーミック電極を形成した後に、窒素雰囲気中で850℃、30秒の電極シンター処理を行った。その後、フォトリソグラフィーとEB蒸着装置を用いてPt(25nm)からなるショットキー電極を形成した。ショットキー電極とオーミック電極はリング状に配置されており、ショットキー電極の直径は300μm、ショットキー電極とオーミック電極との距離は20μmである。
感度検査は以下の条件で行った。ステンレス製チャンバー内に素子を入れ、室温において、窒素希釈の1%水素ガスをバリアン社ドライスクロールポンプSH110で排気しながら10.0kPaの圧力、100ml/minの流量で30分流して、素子の電流―電圧特性測定をKeithley 2612 system source meterで測定した。図6はその結果を示すグラフである。図7に示す回路で、前記ガスセンサー素子とインピーダンス測定装置(Solartron 1255Bおよび1296)とを接続してインピーダンス測定を行った。具体的には、前記インピーダンス測定装置は同軸ケーブルで上述のショットキーダイオード型ガスセンサー素子に電気的につながれている。
前記インピーダンス測定装置は、周知なコンピュータ制御プログラム(PC制御)により、ガスセンサー素子に与えるAC周波数を制御する。具体的には、1kHz、100Hz、10Hz、1Hzの周波数を振幅100mVで発生させて、バイアス電圧を+1Vから−4Vまで変化させた時のガスセンサー素子(本実験ではショットキーダイオード)の静電容量をインピーダンス測定装置によって計測した。
その結果を表1から3と図8に示す。
以下の表は、図8に示すグラフの内、(b)100Hzでの測定データ(表1)、(c)10Hzでの測定データ(表2)、(d)1Hzでの測定データ(表3)を示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【実施例2】
【0034】
次に、窒素希釈の100ppm水素ガスを用いた他は実施例1と同様にして、図1に示す構造のデバイスのインピーダンス測定を行った。
図9はAC周波数を1kHzとした時の結果であり、図10はAC周波数を1Hzとした時の結果である。
窒素希釈の1%水素ガスを用いた場合の図8(a)のAC周波数を1kHzとした時の結果と図9の結果を比較すると、水素中において窒素希釈の100ppm水素ガスを用いた場合は容量(Capacitance)の立ち上がり電圧が約−2.9Vであり、窒素希釈の1%水素ガスを用いた場合は容量(Capacitance)の立ち上がり電圧が約−3.0Vであり、水素ガス濃度が小さいものの電圧差が−0.1V程度劣化していた。つまり、1%水素に比べて100ppm水素での測定では、電圧シフトが小さくなった。
【0035】
窒素希釈の1%水素ガスを用いた場合の図8(d)のAC周波数を1Hzとした時の結果と図10の結果を比較すると、窒素希釈の100ppm水素ガスを用いた場合は容量(Capacitance)が約2.5nF(−1Vからー3Vの平均値)であり、窒素希釈の1%水素ガスを用いた場合は容量(Capacitance)が約2.5nF(−1Vからー3Vの平均値)であり、水素ガス濃度の違いにより容量(強度)は変わらなかった。
そのため、1Hzのような低周波測定は高感度であることが分かった。
【実施例3】
【0036】
次に、高温(150℃)でインピーダンス測定を行った他は実施例1と同様にして、図1に示す構造のデバイスのインピーダンス測定を行った。
図11はAC周波数を1kHzとした時の結果であり、図12はAC周波数を1Hzとした時の結果である。
室温で測定した場合の図8(a)のAC周波数を1kHzとした時の結果と図11の結果を比較すると、高温(150℃)でインピーダンス測定を行った場合と、室温で測定した場合の約−1Vにおける容量(Capacitance)は、どちらも約0.28nFであった。
【0037】
室温で測定した場合の図8(d)のAC周波数を1Hzとした時の結果と図12の結果を比較すると、室温で測定した場合は容量(Capacitance)が約2.5nF(−1Vからー3Vの平均値)であり、高温(150℃)でインピーダンス測定を行った場合は容量(Capacitance)が約20nF(−1Vからー3Vの平均値)であり、高温(150℃)でインピーダンス測定を行うことにより容量(強度)が約10倍に向上した。
そのため、高温(150℃)のインピーダンス測定は、室温に比べて高感度であることが分かった。
【実施例4】
【0038】
次に、図13に示すMIS構造のデバイス(MIS型ガスセンサー素子)を用いた他は実施例1と同様にして、インピーダンス測定を行った。
図13に示すように、本実施例のデバイスは、サファイア基板と、前記サファイア基板上に積層されたGaNからなる半導体層と、前記半導体層上に積層されたSiO2からなる絶縁層と、前記絶縁層上に積層されPtからなる電極と、前記絶縁層の近傍に前記半導体層上にTi/Al/Pt/Auがこの順序で積層された電極とからなり、MIS構造を有するデバイスである。
【0039】
図14はAC周波数を10kHzとした時の結果であり、図15はAC周波数を1Hzとした時の結果である。
図1に示す構造のデバイスを用いた場合の図8(d)のAC周波数を1Hzとした時の結果と図15の結果を比較すると、電圧−容量特性は大きく異なるものとなった。
図15と図14を比較することにより、AC周波数を10kHzとした時に比べて、AC周波数を1Hzとした時の方が1Vにおける容量(強度)が大きくなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の水素ガス検知センサー装置及び水素ガス検知方法は、低濃度のガスの検出が可能であり、低濃度のガスの検出する必要のある産業、低濃度のガスの検出するセンサーデバイス産業等に利用可能性がある。
【符号の説明】
【0041】
1…水素ガス検知センサー装置、2…第1の測定手段、3…第2の測定手段、4…演算手段、5、6…配線、9…センサー素子、10…素子部(ショットキーダイオード型ガスセンサー素子)、11…基板、12…第1の半導体層、13…第2の半導体層、14…第2の電極部、15…第1の電極部(電極部)、16…絶縁体層、17…素子部(MIS型ガスセンサー素子)、18…インピーダンス測定装置、20…真空容器、21…ガスの流れ方向。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサー素子に交流電流を与えてインピーダンス測定する水素ガス検知センサー装置及び水素ガス検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術は半導体型ガスセンサー素子において、低周波のインピーダンス測定を実施することによって、高感度なガス検知を可能にするものである。従来報告では、半導体型ガスセンサー素子において、(1)ガス存在時におけるDC(直流)の電流−電圧特性変化をみる、(2)ガス存在時における高周波(1kHz以上)容量−電圧(C−V)特性変化をみる、という手法が用いられてきた。
そしていずれも、ガス検知時の電圧((1)の場合は、一定電流時における、ガス導入前後の電圧変化、(2)の場合は、ガス導入前後における閾値電圧の変化)の変化により、ガスの有無や濃度を検知していたものである。
しかしながら、検出対象のガスの濃度が低い場合、十分な感度でのガス検知が難しいことが課題であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Appl. Surf. Sci. 254 (2008) 3653
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような実情に鑑み、新たな知見に基づき、低濃度の水素ガス検知が行える水素ガス検知センサー装置及び水素ガス検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の水素ガス検知センサー装置は、ガスセンサー素子と、前記ガスセンサー素子に接続されたインピーダンス測定装置と、を有するガスセンサー装置であって、前記インピーダンス測定装置が、前記ガスセンサー素子に1MHz未満の交流周波数の交流を印加可能であるとともに、前記ガスセンサー素子の静電容量測定が可能であることを特徴とする。
【0006】
本発明の水素ガス検知センサー装置は、前記交流周波数が1Hzであることを特徴とする。
本発明の水素ガス検知センサー装置は、前記ガスセンサー素子がショットキーダイオード型ガスセンサー素子であることを特徴とする。
本発明の水素ガス検知センサー装置は、前記ガスセンサー素子がMIS型ガスセンサー素子であることを特徴とする。
【0007】
本発明の水素ガス検知方法は、ガスセンサー素子と、前記ガスセンサー素子に接続されたインピーダンス測定装置と、を有する水素ガス検知センサー装置を用いてガス量を測定するガス濃度測定方法であって、真空容器の内部にガスセンサー素子を配置し、前記真空容器の内部を減圧してから、水素ガスを含み2種以上のガスからなる混合ガスを流通させる工程と、前記真空容器の外部に配置したインピーダンス測定装置により、前記ガスセンサー素子に1MHz未満の交流周波数の交流を印加して、前記ガスセンサー素子の静電容量測定を行い、水素ガスを検出する工程と、を有することを特徴とする。
本発明の水素ガス検知方法は、前記混合ガスを150℃以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
発明者は一連の実験で、測定周波数を1KHz未満に低下させると、水素ガス雰囲気中でデバイスのキャパシタンス(静電容量)の絶対値およびそれらの値の変化が著しく増加することを見出した。
そして、この静電容量の変化を利用することにより、従来は不可能とされるような低濃度の水素ガス検知が可能となると確信し、上記構成の水素ガス検知センサー装置を提供したものである。
実施例に示すように、閾値電圧変化が同じでも、周波数の低下に連れ静電容量の変化が拡大されることを確認したので、これにより低周波数での測定により、低濃度のガス測定が可能であることを実証した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の水素ガス検知センサー装置の一例を示す概略図である。
【図2】ガスセンサー素子の一例を示す図であって、図2(a)は平面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A’線における断面図である。
【図3】本発明の水素ガス検知方法の一例を示す概略図である。
【図4】ガスセンサー素子の別の一例を示す図であって、図4(a)は平面図であり、図4(b)は図4(a)のC−C’線における断面図である。
【図5】本実験で用いたデバイス構造図である。
【図6】電圧−電流特性の測定結果を示すグラフである。
【図7】水素ガス検知実験で用いた測定装置と素子の回路図である。
【図8】容量−電圧特性の測定結果を示すグラフである。
【図9】窒素希釈の100ppm水素ガスを用い、図5に示す構造のデバイスのインピーダンス測定結果を示すグラフであり、AC周波数を1kHzとした時の結果である。
【図10】窒素希釈の100ppm水素ガスを用い、図5に示す構造のデバイスのインピーダンス測定結果を示すグラフであり、AC周波数を1Hzとした時の結果である。
【図11】測定温度を150℃とし、図5に示す構造のデバイスのインピーダンス測定結果を示すグラフであり、AC周波数を1kHzとした時の結果である。
【図12】測定温度を150℃とし、図5に示す構造のデバイスのインピーダンス測定結果を示すグラフであり、AC周波数を1Hzとした時の結果である。
【図13】本実施例で用いたMIS構造のデバイスの縦断面図である。
【図14】図13で示したデバイスのインピーダンス測定結果を示すグラフであり、AC周波数を10kHzとした時の結果である。
【図15】図13で示したデバイスのインピーダンス測定結果を示すグラフであり、AC周波数を1Hzとした時の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
非特許文献1に示されているとおり、半導体型水素ガスセンサー素子の動作原理としては、以下の機構が一般的に予想されている。
PtまたはPdなど水素吸蔵性を持つ電極表面に吸着した水素分子は、電極表面で水素原子に乖離する。それらの水素原子はPtまたはPd電極内を拡散して、半導体と金属の界面に達する。界面に達した水素原子は電気二重層を形成するために、ショットキー障壁高さが見かけ上減少する結果、電圧―電流特性が変化する。
上記のメカニズムが正しい場合、以下の事例が成立する。
・半導体素子としては、今回用いた窒化物半導体以外の材料からなる全ての素子に対して本検出法(低周波C−V測定)は適用可能である。ガスセンサー素子の動作原理は同一であるので、材料によらず同様の効果が期待できる。
・同じく、デバイス構造としては、今回用いたショットキー構造以外にMIS構造においても、金属/絶縁膜界面において水素原子が電気二重層を形成して、動作原理が同じであるために同様の効果が期待できる。
・本実施例では、周波数の下限を1Hzとしたが、これ以下の周波数に対しても同様の効果が期待できる。
・本実施例では、AC測定として容量−電圧(C−V)測定を用いたが、容量以外の他の物理量(誘電率など)を用いても同様の効果が期待できる。
・本実施例では検出ガスとして1%の水素を用いたが、さらに濃度が低くても本検出法(低周波C−V測定)は適用可能と思われる。
・本実施例では検出ガスとして水素を用いたが、他のガスに対する検知も可能であることから、水素以外のガスに対しても同様の効果が実現可能と思われる。
・従来は低濃度ガスの検知をするために、センサー素子を加熱して感度を増加させていたが、高感度検出法である本発明を用いることで、センサー素子を加熱することなく低濃度のガス検知が可能となる。
【0011】
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置及び水素ガス検知方法を説明する。
図1は、本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置の一例を示す概念図である。
図1に示すように、本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置1は、ガスセンサー素子9と、第1の測定手段2と、第2の測定手段3と、演算手段4と、を有して概略構成されている。
ガスセンサー素子9は、配線5、6を介して、第2の測定手段3に接続されており、第1の測定手段2は別の配線を介して演算手段4に接続されている。演算装置4を操作することにより、第1の測定手段2及び第2の測定手段3を制御することができる構成とされている。
【0012】
第1の測定手段2は、ガスセンサー素子9に交流(Alternating Current:AC)を流し、その容量を測定可能な計測器本体である。特に、前記AC周波数を1MHz以下10μHz以上とすることが可能な装置である。具体的には、1kHz、100Hz、10Hz、1Hzの周波数を振幅100mVで発生させて、バイアス電圧を+1Vから−4Vまで変化させた時のガスセンサー素子(本実験ではショットキーダイオード)の静電容量を測定可能な装置である。例えば、Solartron 1255B(製品名)を挙げることができる。しかし、これに限られるものではない。
【0013】
第2の測定手段3は、上記計測器本体の機能を補助するための装置であって、例えば、第1の測定手段2の微小信号の増幅装置(アンプ)である。例えば、Solartron 1296(製品名)を挙げることができる。しかし、これに限られるものではない。
第1の測定手段2と第2の測定手段3を組み合わせることで高感度計測が可能なインピーダンス測定装置となる。
【0014】
図2は、ガスセンサー素子9を示す図であって、図2(a)は平面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A’線における断面図である。
図2(a)に示すように、ガスセンサー素子9は、略矩形状の基板に素子部(ショットキーダイオード型ガスセンサー素子)10が格子状に配列されてなる。素子部10は、円形状の第1の電極部15と、第1の電極部15と同心円状となるように設けられたリング状の第2の電極部14とを有している。
【0015】
また、図2(b)に示すように、素子部10は、基板11と、基板11上に積層された第1の半導体層12と、第1の半導体層12上に積層された第2の半導体層13と、第2の半導体層13上に積層された第1の電極部15及び第2の電極部14とを有している。
よって、配線5、6をそれぞれ第1の電極部15と第2の電極部14に接続した状態で、第1の測定手段2によりガスセンサー素子9のインピーダンス測定を行うことができる構成とされている。配線5、6としては、同軸ケーブル等を用いる。
【0016】
基板11としては、絶縁性能を有し、少なくとも一面が平坦な面である基板であればよく、例えば、c面サファイア基板等を用いることができる。例えば、基板厚さは0.5mmの物を用いる。
第1の半導体層12としては、半導体性能を有する層であればよく、例えば、アンドープGaN等を挙げることができる。例えば、層厚は3μmとする。MOCVD法等によって成膜する。
第2の半導体層13としては、第1の半導体層12とヘテロ接合形成可能な半導体性能を有する層であればよく、例えば、アンドープAl0.24GaN等を挙げることができる。例えば、層圧は20nmとする。MOCVD法等によって成膜する。
【0017】
第1の電極部15としては、水素を吸蔵可能であるショットキー接合形成可能な導電性材料であればよく、例えば、Pt等を挙げることができる。例えば、膜厚は25nmとする。また、直径は300μmとする。フォトリソグラフィーとEB蒸着により形成する。
第2の電極部14としては、オーミック接合可能な導電性材料であればよく、例えば、Ti/Al/Pt/Auを基板側からこの順序で積層した4層の金属層からなる電極等を挙げることができる。例えば、膜厚は、Ti(20nm)/Al(100nm)/Pt(40nm)/Au(100nm)とし、合計260nmとする。また、第1の電極部15と間隔20μm離してリング形成し、リングの幅は100μmとする。
【0018】
まず、第2の電極部14を、EB蒸着とフォトリソグラフィーにより形成した後、窒素雰囲気中で850℃、30秒の電極シンター処理を行い、オーミック電極とする。
次に、第1の電極部15を、第1の電極部15を、EB蒸着とフォトリソグラフィーにより、ショットキー電極として形成する。
以上の構成により、ガスセンサー素子9は、ショットキーダイオード型ガスセンサー素子となる。
【0019】
図3は、本発明の実施形態である水素ガス検知方法の一例を示す概念図である。
本発明の実施形態であるガスセンサー1のセンサー素子9が、真空容器9の内部に配置されている。真空装置9は、図示略のポンプにより内部を減圧にでき、図示略のガス供給部から配管23を介してガスを矢印21のように導入できるとともに、配管24を介してガスを排出できる構成とされている。
真空容器9としては、例えば、ステンレス製チャンバーを用いる。
前記ポンプとしては、例えば、バリアン社ドライスクロールポンプSH110等を用いることができる。
【0020】
まず、真空容器20の内部を減圧する。
次に、所定の濃度で窒素希釈した水素ガスを配管23から真空容器20の内部に流入させる。なお、配管24のバルブを操作して、真空容器20の内部の圧力を一定に保つとともに、真空容器20の内部の水素ガス濃度が一定とされるようにする。
なお、水素ガス以外に、水素原子を成分に含む水やハイドロカーボンも検出できる。水素原子を成分に含むガスであれば、水素原子が、第1の電極部15と第1の半導体層12との間に拡散して、ガスセンサー素子9のインピーダンス特性を変化させるためである。
【0021】
次に、ガスセンサー素子9に所定の大きさの交流(Alternating Current:AC)を流し、所定のAC周波数で印加する。
前記AC周波数は、1kHz以下1Hz以上とする。例えば、1kHz、100Hz、10Hz、1Hzの周波数を振幅100mVで発生させて、バイアス電圧を+1Vから−4Vまで変化させる。
このとき、同時に、ガスセンサー素子9の容量を測定する。ガスセンサー素子9の容量から、ガスセンサー素子9に備えられた第1の電極部15に吸着する検出ガス量を検出する。
【0022】
図4は、ガスセンサー素子9の別の一例を示す図であって、図4(a)は平面図であり、図4(b)は図4(a)のC−C’線における断面図である。
図4(a)に示すように、ガスセンサー素子9は、略矩形状の基板に素子部(MIS型ガスセンサー素子)17が格子状に配列されてなる。素子部17は、円形状の第1の電極部15と、第1の電極部15と同心円状となるように設けられた絶縁層16と、第1の電極部15及び絶縁層と同心円状となるように設けられたリング状の第2の電極部14とを有している。ガスセンサー素子9は、MIS型ガスセンサーである。
【0023】
また、図4(b)に示すように、素子部17は、基板11と、基板11上に積層された第1の半導体層12と、第1の半導体層12上に積層された絶縁層16及び第2の電極部14と、絶縁層16上に積層された第1の電極部15とを有している。
よって、配線5、6をそれぞれ第1の電極部15と第2の電極部14に接続した状態で、第2の測定手段3によりガスセンサー素子9のインピーダンス測定を行うことができる構成とされている。
【0024】
本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置1は、ガスセンサー素子9と、ガスセンサー素子9に接続されたインピーダンス測定装置18と、を有する水素ガス検知センサー装置であって、インピーダンス測定装置18が、ガスセンサー素子9に1MHz未満の交流周波数の交流を印加可能であるとともに、ガスセンサー素子9の静電容量測定が可能である構成なので、前記容量変化により、ガスセンサー素子9に備えられた電極部15に吸着するガス量を検出でき、検出対象のガスの濃度が低い場合でも、十分な感度でのガス検知が可能なガスセンサー装置を提供することができる。
【0025】
本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置1は、前記交流周波数が1Hzである構成なので、検出対象のガスの濃度が低い場合でも、前記容量変化を大きくでき、ガスセンサー素子9に備えられた電極部15に吸着するガス量を検出して、十分な感度でのガス検知が可能なガスセンサー装置を提供することができる。
【0026】
本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置1は、ガスセンサー素子9がショットキーダイオード型ガスセンサー素子10である構成なので、前記容量変化を確実に検出でき、検出対象のガスの濃度が低い場合でも、十分な感度でのガス検知が可能なガスセンサー装置を提供することができる。
【0027】
本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置1は、ガスセンサー素子9がMIS型ガスセンサー素子17である構成なので、前記容量変化を確実に検出でき、検出対象のガスの濃度が低い場合でも、十分な感度でのガス検知が可能なガスセンサー装置を提供することができる。
【0028】
本発明の実施形態である水素ガス検知方法は、ガスセンサー素子9と、ガスセンサー素子9に接続されたインピーダンス測定装置18と、を有する水素ガス検知センサー装置1を用いてガス量を測定する水素ガス検知方法であって、真空容器20の内部にガスセンサー素子9を配置し、真空容器20の内部を減圧してから、水素ガスを含み2種以上のガスからなる混合ガスを流通させる工程と、真空容器20の外部に配置したインピーダンス測定装置18により、ガスセンサー素子9に1KHz未満の交流周波数の交流を印加して、ガスセンサー素子9の静電容量測定を行い、水素ガスを検出する工程と、を有する構成なので、前記容量変化により、ガスセンサー素子9に備えられた電極部15に吸着するガス量を検出でき、検出対象のガスの濃度が低い場合でも、十分な感度でのガス検知が可能なガスセンサー装置を提供することができる。
【0029】
本発明の実施形態である水素ガス検知方法は、前記混合ガスを150℃以上とする構成なので、前記容量変化を大きくして、ガスセンサー素子9に備えられた電極部15に吸着するガス量をより高感度で検出でき、検出対象のガスの濃度が低い場合でも、十分な感度でのガス検知ができる。
本発明の実施形態である水素ガス検知センサー装置及び水素ガス検知方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
図5に示す構造のデバイス(ショットキーダイオード型ガスセンサー素子)は、厚さ0.50mmのc面サファイア基板上にMOCVD法によって製膜された3.0μmのアンドープGaNと20nmのアンドープAl0.24GaNがヘテロ接合されたものを半導体材料として用いる。この半導体材料上に、フォトリソグラフィーとEB蒸着装置を用いてTi(20nm)/Al(100nm)/Pt(40nm)/Au(100nm)からなるオーミック電極を形成した後に、窒素雰囲気中で850℃、30秒の電極シンター処理を行った。その後、フォトリソグラフィーとEB蒸着装置を用いてPt(25nm)からなるショットキー電極を形成した。ショットキー電極とオーミック電極はリング状に配置されており、ショットキー電極の直径は300μm、ショットキー電極とオーミック電極との距離は20μmである。
感度検査は以下の条件で行った。ステンレス製チャンバー内に素子を入れ、室温において、窒素希釈の1%水素ガスをバリアン社ドライスクロールポンプSH110で排気しながら10.0kPaの圧力、100ml/minの流量で30分流して、素子の電流―電圧特性測定をKeithley 2612 system source meterで測定した。図6はその結果を示すグラフである。図7に示す回路で、前記ガスセンサー素子とインピーダンス測定装置(Solartron 1255Bおよび1296)とを接続してインピーダンス測定を行った。具体的には、前記インピーダンス測定装置は同軸ケーブルで上述のショットキーダイオード型ガスセンサー素子に電気的につながれている。
前記インピーダンス測定装置は、周知なコンピュータ制御プログラム(PC制御)により、ガスセンサー素子に与えるAC周波数を制御する。具体的には、1kHz、100Hz、10Hz、1Hzの周波数を振幅100mVで発生させて、バイアス電圧を+1Vから−4Vまで変化させた時のガスセンサー素子(本実験ではショットキーダイオード)の静電容量をインピーダンス測定装置によって計測した。
その結果を表1から3と図8に示す。
以下の表は、図8に示すグラフの内、(b)100Hzでの測定データ(表1)、(c)10Hzでの測定データ(表2)、(d)1Hzでの測定データ(表3)を示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【実施例2】
【0034】
次に、窒素希釈の100ppm水素ガスを用いた他は実施例1と同様にして、図1に示す構造のデバイスのインピーダンス測定を行った。
図9はAC周波数を1kHzとした時の結果であり、図10はAC周波数を1Hzとした時の結果である。
窒素希釈の1%水素ガスを用いた場合の図8(a)のAC周波数を1kHzとした時の結果と図9の結果を比較すると、水素中において窒素希釈の100ppm水素ガスを用いた場合は容量(Capacitance)の立ち上がり電圧が約−2.9Vであり、窒素希釈の1%水素ガスを用いた場合は容量(Capacitance)の立ち上がり電圧が約−3.0Vであり、水素ガス濃度が小さいものの電圧差が−0.1V程度劣化していた。つまり、1%水素に比べて100ppm水素での測定では、電圧シフトが小さくなった。
【0035】
窒素希釈の1%水素ガスを用いた場合の図8(d)のAC周波数を1Hzとした時の結果と図10の結果を比較すると、窒素希釈の100ppm水素ガスを用いた場合は容量(Capacitance)が約2.5nF(−1Vからー3Vの平均値)であり、窒素希釈の1%水素ガスを用いた場合は容量(Capacitance)が約2.5nF(−1Vからー3Vの平均値)であり、水素ガス濃度の違いにより容量(強度)は変わらなかった。
そのため、1Hzのような低周波測定は高感度であることが分かった。
【実施例3】
【0036】
次に、高温(150℃)でインピーダンス測定を行った他は実施例1と同様にして、図1に示す構造のデバイスのインピーダンス測定を行った。
図11はAC周波数を1kHzとした時の結果であり、図12はAC周波数を1Hzとした時の結果である。
室温で測定した場合の図8(a)のAC周波数を1kHzとした時の結果と図11の結果を比較すると、高温(150℃)でインピーダンス測定を行った場合と、室温で測定した場合の約−1Vにおける容量(Capacitance)は、どちらも約0.28nFであった。
【0037】
室温で測定した場合の図8(d)のAC周波数を1Hzとした時の結果と図12の結果を比較すると、室温で測定した場合は容量(Capacitance)が約2.5nF(−1Vからー3Vの平均値)であり、高温(150℃)でインピーダンス測定を行った場合は容量(Capacitance)が約20nF(−1Vからー3Vの平均値)であり、高温(150℃)でインピーダンス測定を行うことにより容量(強度)が約10倍に向上した。
そのため、高温(150℃)のインピーダンス測定は、室温に比べて高感度であることが分かった。
【実施例4】
【0038】
次に、図13に示すMIS構造のデバイス(MIS型ガスセンサー素子)を用いた他は実施例1と同様にして、インピーダンス測定を行った。
図13に示すように、本実施例のデバイスは、サファイア基板と、前記サファイア基板上に積層されたGaNからなる半導体層と、前記半導体層上に積層されたSiO2からなる絶縁層と、前記絶縁層上に積層されPtからなる電極と、前記絶縁層の近傍に前記半導体層上にTi/Al/Pt/Auがこの順序で積層された電極とからなり、MIS構造を有するデバイスである。
【0039】
図14はAC周波数を10kHzとした時の結果であり、図15はAC周波数を1Hzとした時の結果である。
図1に示す構造のデバイスを用いた場合の図8(d)のAC周波数を1Hzとした時の結果と図15の結果を比較すると、電圧−容量特性は大きく異なるものとなった。
図15と図14を比較することにより、AC周波数を10kHzとした時に比べて、AC周波数を1Hzとした時の方が1Vにおける容量(強度)が大きくなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の水素ガス検知センサー装置及び水素ガス検知方法は、低濃度のガスの検出が可能であり、低濃度のガスの検出する必要のある産業、低濃度のガスの検出するセンサーデバイス産業等に利用可能性がある。
【符号の説明】
【0041】
1…水素ガス検知センサー装置、2…第1の測定手段、3…第2の測定手段、4…演算手段、5、6…配線、9…センサー素子、10…素子部(ショットキーダイオード型ガスセンサー素子)、11…基板、12…第1の半導体層、13…第2の半導体層、14…第2の電極部、15…第1の電極部(電極部)、16…絶縁体層、17…素子部(MIS型ガスセンサー素子)、18…インピーダンス測定装置、20…真空容器、21…ガスの流れ方向。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセンサー素子と、前記ガスセンサー素子に接続されたインピーダンス測定装置と、を有する水素ガス検知センサー装置であって、
前記インピーダンス測定装置が、前記ガスセンサー素子に1KHz未満の交流周波数の交流を印加可能であるとともに、前記ガスセンサー素子の静電容量測定が可能であることを特徴とする水素ガス検知センサー装置。
【請求項2】
前記交流周波数が1Hzであることを特徴とする請求項1に記載の水素ガス検知センサー装置。
【請求項3】
前記ガスセンサー素子がショットキーダイオード型ガスセンサー素子であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素ガス検知センサー装置。
【請求項4】
前記ガスセンサー素子がMIS型ガスセンサー素子であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素ガス検知センサー装置。
【請求項5】
ガスセンサー素子と、前記ガスセンサー素子に接続されたインピーダンス測定装置と、を有する水素ガス検知センサー装置を用いてガス量を測定する水素ガス検知方法であって、
真空容器の内部にガスセンサー素子を配置し、前記真空容器の内部を減圧してから、水素ガスを含み2種以上のガスからなる混合ガスを流通させる工程と、
前記真空容器の外部に配置したインピーダンス測定装置により、前記ガスセンサー素子に1KHz未満の交流周波数の交流を印加して、前記ガスセンサー素子の静電容量測定を行い、前記水素ガスを検出する工程と、を有することを特徴とする水素ガス検知方法。
【請求項6】
前記混合ガスを150℃以上とすることを特徴とする請求項5に記載の水素ガス検知方法。
【請求項1】
ガスセンサー素子と、前記ガスセンサー素子に接続されたインピーダンス測定装置と、を有する水素ガス検知センサー装置であって、
前記インピーダンス測定装置が、前記ガスセンサー素子に1KHz未満の交流周波数の交流を印加可能であるとともに、前記ガスセンサー素子の静電容量測定が可能であることを特徴とする水素ガス検知センサー装置。
【請求項2】
前記交流周波数が1Hzであることを特徴とする請求項1に記載の水素ガス検知センサー装置。
【請求項3】
前記ガスセンサー素子がショットキーダイオード型ガスセンサー素子であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素ガス検知センサー装置。
【請求項4】
前記ガスセンサー素子がMIS型ガスセンサー素子であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素ガス検知センサー装置。
【請求項5】
ガスセンサー素子と、前記ガスセンサー素子に接続されたインピーダンス測定装置と、を有する水素ガス検知センサー装置を用いてガス量を測定する水素ガス検知方法であって、
真空容器の内部にガスセンサー素子を配置し、前記真空容器の内部を減圧してから、水素ガスを含み2種以上のガスからなる混合ガスを流通させる工程と、
前記真空容器の外部に配置したインピーダンス測定装置により、前記ガスセンサー素子に1KHz未満の交流周波数の交流を印加して、前記ガスセンサー素子の静電容量測定を行い、前記水素ガスを検出する工程と、を有することを特徴とする水素ガス検知方法。
【請求項6】
前記混合ガスを150℃以上とすることを特徴とする請求項5に記載の水素ガス検知方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−33615(P2011−33615A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137847(P2010−137847)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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