説明

水素化ポリマーの製造方法

【課題】 芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体中の芳香環を水素化する工程を含む長期間また繰り返し安定的かつ速やかに透明度の高い水素化ポリマーを製造する方法を提供する。
【解決手段】 A/B(Aは(メタ)アクリレートモノマー由来の構成単位のモル数、および、Bは芳香族ビニルモノマー由来の構成単位のモル数)が0.25〜4.0である芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体を溶媒中、パラジウムが酸化ジルコニウム上に担持された触媒の存在下で水素化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートとの共重合体を、酸化ジルコニウムを主成分とする担体と該担体に担持されたパラジウムからなる触媒の存在下で、芳香環を水素化する工程を含む水素化ポリマーの製造方法に関する。該方法で得られた水素化ポリマーは、高透明性、低複屈折、高耐熱性、高表面硬度、低吸水、低比重、高転写性、優れた離型性を示す。特に、光学材料に要求される特性に優れているので、光学レンズ、光導光板、光拡散板、光ディスク基板材料、前面パネル等の広範な用途に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂をはじめとする非晶性プラスチックは様々な用途で用いられており、特にその光学的特徴を生かして、光学レンズ、光ディスク基盤等の光学材料としての需要が多い。この種の光学材料においては高い透明性のみならず、高耐熱性、低吸水性、高機械物性等のバランスに優れた高度な性能が要求されている。
【0003】
従来用いられてきた材料はこれらの要件を全て備えているわけではなく、解決すべき問題点をそれぞれ有している。例えば、ポリスチレンは力学的に脆い、複屈折が大きい、透明性が劣るという欠点がある。ポリカーボネートは耐熱性に優れるが、これも複屈折が大きく、透明性もポリスチレンとほぼ同等である。ポリメタクリル酸メチルは、透明性は高いが吸水率が極めて高いため寸法安定性に乏しく耐熱性が低いことが問題である。ポリスチレンの芳香環を水素化して得られたポリビニルシクロヘキサンは透明性に優れるが、機械強度が弱い、耐熱安定性に乏しい、他材料との接着性にも乏しいという問題がある(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。密着性を改良させる方法として、ポリスチレンの芳香環水添物、共役ジエン−スチレン共重合体の二重結合及び芳香環を水素化したポリマー、飽和炭化水素樹脂を混合する例があるが(特許文献4)操作が煩雑である。また、スチレンのようなビニル芳香族化合物と無水マレイン酸のような不飽和2塩基酸を共重合したのち、芳香環の30%以上を水素化すると、ポリスチレンに比べ透明性及び複屈折が改良されることが開示されているが(特許文献5)、アクリル系の樹脂に比べ、光学特性が劣ることは否めない。
【0004】
また、メタクリル酸メチル(以下、MMAと称する)とスチレンとの共重合体(以下、MS樹脂と称する)は高透明性を有し、かつ、寸法安定性、剛性、比重等のバランスに優れた樹脂であるが、複屈折が大きいという問題がある。該MS樹脂の芳香環を水素化した樹脂(以下、MSHと称する)、特に、MMAの共重合率が50%以上のMSHは、MS樹脂と比べ、複屈折が大幅に改善され、透明性、耐熱性、機械物性のバランスに優れている。
【0005】
芳香族ポリマーの芳香環の水素化は既に知られているが(特許文献6)、透明性を高くするには芳香環の水素化率を上げる必要があり、芳香環の水素化率がほぼ100%でないと高透明性の樹脂が得られないとされてきた。これは、芳香環の水素化率が低い場合、ブロック体を形成し全光線透過率が低下するためである。
【0006】
反応基質との分離を容易にするためには固体触媒を用いることが好ましく、Pd、Pt、Rh、Ru、Re、Niなどの金属を活性炭、アルミナ、シリカ、珪藻土などの担体に担持してなる固体触媒が主に用いられる。芳香族ポリマーのみならず共役ジエン重合体などのポリマーの水素化に関する例は多く知られているが、高分子量であることから反応しにくく、高い水素化率や高い反応速度を得ることが難しい。また、触媒を繰り返し使用すると活性低下が起こりやすいことも知られている。触媒活性が低下すると、水素化率が低下し、樹脂の透明性が損なわれる。触媒活性を改善するため、担体の種類、細孔構造および粒径が検討されている。例えば、粒径が100μm未満のシリカ担体上にパラジウムを担持した触媒を用いて芳香環の水素化率が70%程度の水添ポリスチレンを得ている例や(特許文献2)、孔径が600Åを超える大きな細孔を有するシリカ担体にPtとRhを担持した触媒を用いて水添ポリスチレンを得た例がある(特許文献7)。同様に孔体積の95%以上が孔径450Åの細孔である多孔質担体にVIII族金属を担持し、その金属表面積が担体表面積の75%以内である触媒を用い、芳香環の水素化率を低めにし、エチレン系不飽和結合を高い水素化率で水素化している例もある(特許文献8)。
【0007】
孔径100〜1000Åの孔容積が総孔容積の70〜25%であるシリカやアルミナにVIII族金属を担持した触媒を用いると、分子量の低下なくポリスチレンの芳香環が完全に水素化されること(特許文献9)、VIII亜族の金属を孔径100〜1000Åである孔の容積が総孔容積の15%未満であるシリカまたはアルミナ担体に担持させて得た、低分子量化合物用の市販の通常の水素化触媒を、エーテル基含有炭化水素の存在下で使用すると、分子量の低下を伴わずにポリスチレンの芳香環を完全に水素化することができること(特許文献10)が開示されている。酸化チタンや酸化ジルコニウムなどのIVa族元素の酸化物に金属を担持した触媒はNBRなどの共役ジエン系ポリマーの水素化反応に再使用しても高い活性を示すことが開示されている(特許文献11)。しかし、共役ジエン系ポリマーの水素化反応に関して記載されているのみで、芳香環の水素化への言及はない。孔径100〜100000nmである孔の容積が総孔容積の50〜100%である担体上にアルカリ金属やアルカリ土類金属を添加した後、白金族金属をその90%以上が表層部(担体径の1/10以内)に存在するように担持した触媒を用いると、芳香族―共役ジエン共重合体の不飽和結合(芳香環も含む)を効率よく水素化でき、金属成分の溶出も抑制できることが記載されている(特許文献12)。
【0008】
また、活性アルミナによって重合反応液から触媒毒を除去した後に水素化することにより触媒活性が改善されること(特許文献13)、また、固定層での反応線速度を改善して生産性を上げること(特許文献14)が報告されている。
【0009】
高分子反応であるため芳香環の水素化反応には溶媒の寄与も大きい。これまで一般的に炭化水素、アルコール、エーテル、エステルなど多くの反応溶媒が用いられている(特許文献15)。炭化水素やアルコールは樹脂に対する溶解性が低い。エーテル類、例えば、1,4−ジオキサンは発火点が低く、高温の脱揮押出操作を施す際にはトルエンなど他の溶媒に置換しなくはならない、また、テトラヒドロフランは開環反応が起こりやすく不安定という問題がある。エステルは安全でかつ比較的安定であり、速やかに反応が進行するものの、水素化率によっては反応溶液ならびに固形樹脂が白濁化し、透明度が低下するという問題がある。そこでエステルにアルコールを添加することにより安全、安定的かつ速やかに透明度の高い水素化された芳香族系ポリマーを得る方法が開示されている。しかし、2種類の溶媒を併用することになりその分離操作が煩雑になる。また、エーテル溶媒にアルコールや水を添加することにより低水素化率でも高透明性を達成する方法が開示されているが(特許文献16)、適用できる芳香族系ポリマーが限定されているため、適用できない場合が多い。
【0010】
上記のように高い光学特性を有する芳香環水素化芳香族系ポリマーを得るには困難な問題が多くある。特に、芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートとの共重合体の芳香環を水素化したポリマーは、高透明性、低複屈折、高耐熱性、高表面硬度、低吸水、低比重などの優れた特性を有しているが、そのような水素化ポリマーを長期間または繰り返し安定的に、かつ、速やかに得るために有用な方法は今のところ得られていない。
【特許文献1】特開2003−138078号公報
【特許文献2】特許第3094555号公報
【特許文献3】特開2004−149549号公報
【特許文献4】特許第2725402号公報
【特許文献5】特公平7−94496号公報
【特許文献6】独国特許出願公開第1131885号明細書
【特許文献7】特表平11−504959号公報
【特許文献8】特許第3200057号公報
【特許文献9】特表2002−521509号公報
【特許文献10】特表2002−521508号公報
【特許文献11】特開平1−213306号公報
【特許文献12】特開2000−95815号公報
【特許文献13】特表2003−529646号公報
【特許文献14】特開2002−249515号公報
【特許文献15】特表2001−527095号公報
【特許文献16】特許第2890748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、長期間または繰り返し安定的に、かつ、速やかに芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体から透明度の高い芳香環水素化ポリマーを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(Bモル)に対する(メタ)アクリレートモノマー由来の構成単位(Aモル)のモル比(A/B)が特定範囲である芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体を、酸化ジルコニウムにパラジウムを担持した触媒の存在下で水素化すると、透明度の高い芳香環水素化ポリマーが安定的かつ速やかに得られることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち本発明は、A/B(Aは(メタ)アクリレートモノマー由来の構成単位のモル数およびBは芳香族ビニルモノマー由来の構成単位のモル数)が0.25〜4.0である芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体中の芳香環を、溶媒中、パラジウムが酸化ジルコニウム上に担持された触媒の存在下で水素化する工程を含む水素化ポリマーの製造方法に関する。
本発明はさらに、該製造方法によって得られる水素化ポリマーに関する。
本発明はさらに、該水素化ポリマーを含む光学組成物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によると、芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートとの共重合体の芳香環を、長期間安定的に水素化することができ、これにより得られる水素化された芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートとの共重合体ポリマーは、高透明性、低複屈折、高耐熱性、高表面硬度、低吸水、低比重、高転写性、優れた離型性を示す。特に光学材料として優れた特性を有しており、光学レンズ、光導光板、光拡散板、光ディスク基板材料、前面パネル等の広範な用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で用いる芳香族ビニル化合物とは、具体的にはスチレン、α―メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、アルコキシスチレン、クロロスチレンなどの芳香族ビニル化合物が挙げられるが、スチレンが好ましい。
【0016】
本発明で用いる(メタ)アクリレートとは、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸アルキル;(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシメチル)、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)などの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;(メタ)アクリル酸(2−メトキシエチル)、(メタ)アクリル酸(2−エトキシエチル)などの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニルなどの芳香環を有する(メタ)アクリル酸エステル;および2−(メタ)アクロイルオキシエチルホスホリルコリンなどのリン脂質類似官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができるが、物性面のバランスから、メタクリル酸アルキルを単独で用いるか、またはメタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルを併用することが好ましい。併用する場合、メタクリル酸アルキル80〜100モル%およびアクリル酸アルキル0〜20モル%を用いることが好ましい。メタクリル酸アルキルとしてはメタクリル酸メチルが特に好ましく、アクリル酸アルキルとしてはアクリル酸メチルまたはアクリル酸エチルが特に好ましい。
なお、本明細書においては、「アクリル酸」と「メタクリル酸」を総称して(メタ)アクリル酸といい、「アクリレート」と「メタクリレート」を総称して(メタ)アクリレートという。
【0017】
上記の芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートの重合は公知の方法で行うことができるが、工業的にはラジカル重合による方法が簡便でよい。ラジカル重合は塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法など公知の方法を適宜選択することができる。例えば塊状重合法や溶液重合法では、モノマー、連鎖移動剤、重合開始剤を含むモノマー組成物を完全混合槽に連続的にフィードしながら100〜180℃で連続重合する。溶液重合法ではトルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、メタノールやイソプロパノールなどのアルコール系溶媒などをモノマー組成物と共にフィードする。重合後の反応液は重合槽から抜き出して、脱揮押出機や減圧脱揮槽に導入し、揮発分を除去して共重合体を得ることができる。
【0018】
本発明で使用する芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体の構成単位組成は、仕込んだモノマーの組成とは必ずしも一致せず、重合反応によって実際に共重合体に取り込まれる各モノマーの量は重合率、モノマーの反応性などによって変化する。共重合体の構成単位組成は、重合率が100%であれば仕込みモノマー組成と一致するが、実際には50〜80%の重合率で製造する場合が多く、反応性の高いモノマーほど共重合体に取り込まれ易いため、モノマーの仕込み組成と共重合体の構成単位の組成にズレが生じるので、仕込みモノマーの組成を適宜調整する必要がある。
【0019】
芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体において、芳香族ビニル化合物モノマー由来の構成単位(Bモル)に対する(メタ)アクリレートモノマー由来の構成単位(Aモル)のモル比(A/B)は0.25〜4.0であり、好ましくは0.4〜4.0である。0.25未満であると機械強度が劣り、実用性に耐えない場合がある。4.0を超えると水素化される芳香環が少ないため、水素化によるガラス転移温度の上昇などの性能向上効果が不足する場合がある。
【0020】
芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000が好ましく、50,000〜700,000がより好ましく、100,000〜500,000がさらに好ましい。10,000未満または1,000,000を超える共重合体も本発明の方法によって水素化することができるが、10,000未満では機械強度などの面で実用性に耐えない場合があり、1,000,000を超えると粘度などの面から取扱いが困難である場合がある。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、THFを溶媒として用い、標準ポリスチレンで検量して求めた。
【0021】
本発明の方法によって得られる水素化ポリマーは、可視光領域の光線を良好に透過するため、外観は透明である。JIS K7105に規定する方法で測定した、3.2mm厚の成形品の全光線透過率が90%以上であることが好ましい。成形品表面の反射による損失が避けられないため、この全光線透過率の上限は屈折率に依存する。光学材料として使用される場合にはさらに高度な透明性が要求されることがあるので、全光線透過率は91%以上であることがより好ましく、92%以上であることがさらに好ましい。このような透明性を得るためには、出発共重合体中の芳香環が均質に水素化されていることが好ましい。
【0022】
一般に芳香族ビニル共重合体の芳香環の水素化においては、全ての芳香環を完全に水素化することは困難であり、普通、未水素化の芳香環が残存する。この未水素化の芳香環が、しばしば白濁の原因となる。該原因の一つは水素化された芳香環を含む部位と未水素化の芳香環を含む部位がそれぞれブロックを形成することである。特に芳香環の水素化率が低い場合にブロックを形成しやすくなる。本発明の方法においてブロック形成を抑制するためには、芳香環の水素化率は70%(モル%)以上が好ましく、85%(モル%)以上がより好ましい。一般に、芳香族ビニル共重合体の分子量は分布しており、低分子量芳香族ビニル共重合体の芳香環が優先的に水素化され、高分子量芳香族ビニル共重合体の芳香環が水素化されずに残ることも白濁の原因となる。すなわち、高分子量芳香族ビニル共重合体の芳香環の水素化速度が低分子量芳香族ビニル共重合体のそれよりも大幅に低いと、低分子量芳香族ビニル共重合体の芳香環が優先的に水素化され、得られるポリマーは白濁しやすくなる。しかし、高分子量芳香族ビニル共重合体の芳香環の水素化率を向上させて未水素化芳香環を減少させ、得られるポリマー全体の相溶性を上げるとドメインがなくなり、高い透明性を示すことが知られている。分子量に起因する芳香環の水素化速度の相違による白濁の防止には、一般に溶剤や触媒が大きく影響する。
【0023】
本発明における水素化反応に用いる触媒としては、水素化速度が高くなり、原料共重合体の分子量を低下させることがなく、また、水素化条件下で溶媒自身の反応を誘発しない触媒を選定する。具体的には、担持することにより高い金属表面積を得ることができるので、パラジウム(Pd)を担体に担持した固体触媒が好適である。
【0024】
一般に、触媒担体としては、活性炭、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、シリカ−アルミナ(SiO−Al)、珪藻土、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどが用いられる。しかしながら、活性炭やアルミナなどの担体を使用した場合、芳香環の水素化が均質に進行しにくく、しばしば透明性が不十分になる。この問題は酸化ジルコニウム担体を用いることにより解決されることが明らかになった。すなわち、酸化ジルコニウム担体にパラジウムを担持した触媒の存在下で水素化すると、芳香環の水素化速度が高く、また、水素化が均質に進行し、高透明性を有する水素化ポリマーが得られることが見出された。また、芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体の分子量の違いによる芳香環の水素化速度の差が少なく、予期された以上に水素化が均質に進行することが分かった。
【0025】
反応の途中で水素化が均質に進行しなかったとしても、最終的に水素化率がほぼ100%に到達した場合にはドメインがなくなるため高透明性の水素化ポリマーが得られる。しかし、触媒を長期間および繰り返し使用する場合、ほぼ100%の水素化率を達成することは不可能である。酸化ジルコニウムにパラジウムを担持した触媒の存在下で水素化すると水素化が均質に進行するので、水素化率が例えば90モル%未満であっても全光線透過率が90%以上である高透明性水素化ポリマーを確実に得ることができ、工業生産上極めて有利である。
【0026】
水素化進行の均質さは、生成物中の未水素化芳香環を含むポリマーの分子量分布を測定することにより評価することができる。すなわち、未水素化芳香環を含むポリマーの重量平均分子量(Mw2)と、水素化する前の共重合体の重量平均分子量(Mw1)をゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定し、比較することにより評価することができる。仮に、低分子量芳香族ビニル共重合体の芳香環が優先的に水素化された場合、未水素化芳香環を含むポリマーの分子量分布は水素化前の分子量分布より高分子量側に大きくシフトする。すなわち、未水素化芳香環を含むポリマーの重量平均分子量が大きくなり、Mw2/Mw1が著しく大きくなる。一方、低分子量芳香族ビニル共重合体と高分子量芳香族ビニル共重合体がほぼ均等に芳香環水素化されると、未水素化芳香環を含むポリマーの分子量分布は水素化前の分子量分布とほぼ同一か高分子量側へのシフトの程度が少なく、Mw2/Mw1は小さくなる。酸化ジルコニウムにパラジウムを担持した触媒を用いた場合、Mw2/Mw1は1.5以下であり、水素化が均質に進行していることを示す。Mw2/Mw1が2以上の場合は、低分子量芳香族ビニル共重合体の芳香環が優先的に水素化されたことを示し、樹脂が白濁する可能性がある。
【0027】
また、該酸化ジルコニウムにパラジウムを担持した触媒は再利用した場合にも活性の低下が非常に少なく、使用初期と同様に水素化が均質に進行するので、長期間または繰り返し安定的に高透明性を有するポリマーを得ることが可能となる。
【0028】
パラジウム金属の担持量は、酸化ジルコニウム担体に対して0.01〜50重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜20重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。高価な貴金属であるパラジウムの使用量はなるべく少ないことが経済上好ましいが、酸化ジルコニウム担体に用いた場合、高分散にパラジウムを担持することが可能であり、パラジウムの単位重量当たりの水素化速度を非常に大きくすることができるので、パラジウムの担持量を0.1〜0.5重量%程度にした場合でも十分な水素化速度が得られる。パラジウムの分散度は、一酸化炭素のパルス吸着法など既知の方法で測定することができ、高ければ高いほど好ましい。
【0029】
パラジウムの前駆体としては塩化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウムなどの公知の塩または錯体を用いることができる。触媒の調製には、塩化パラジウムの塩酸水溶液または塩化ナトリウム水溶液、硝酸パラジウムの水溶液または塩酸水溶液、酢酸パラジウムの塩酸水溶液または有機溶剤溶液を用いることもできるが、特に、酢酸パラジウムのアセトン、アセトニトリル、1,4−ジオキサンなどの有機溶剤溶液を酸化ジルコニウム担体に含浸させ、溶媒を乾燥除去し、焼成(好ましくは200〜800℃)することにより、パラジウムが高度に分散した触媒を得ることができる。
【0030】
酸化ジルコニウム担体は一般的な方法で得ることができる。例えば、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、硫酸ジルコニルなどを加水分解する方法、または、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、硫酸ジルコニルなどをアンモニアまたは炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリで中和して水酸化ジルコニウムまたは非晶質の酸化ジルコニウム水和物を沈殿させ、該沈殿を焼成することにより酸化ジルコニウムを得ることができる。また、オキシ塩化ジルコニウムまたはジルコニウムアルコキシドの熱分解や四塩化ジルコニウムの気相酸素分解によっても得ることができる。酸化ジルコニウム水和物や水酸化ジルコニウムの焼成温度を適宜選択することによって、含水量、比表面積、細孔径および細孔容積を変化させることができる。比表面積が大きい酸化ジルコニウムを得ることができるので、300〜800℃で焼成することが好ましい。担持パラジウムの分散度や水素化能の向上という観点から、酸化ジルコニウム担体の孔径は20〜3,000Åが好ましく、比表面積は10m/g以上であることが好ましい。
【0031】
必要に応じて、酸化ジルコニウムを他の担体上に担持し、その後、パラジウムを酸化ジルコニウムに担持してもよい。また、酸化ジルコニウムにパラジウムを担持した触媒を粘土化合物などのバインダー成分と混合、成形してもよい。この場合、触媒成分全体に占める酸化ジルコニウムの含有量が10重量%以上であることが好ましい。
【0032】
芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体の水素化は適当な溶媒中で行う。水素化反応前後の共重合体の溶解性及び水素の溶解性が良好であり、水素化される部位を持たない溶媒が好ましく、かつ、水素化が速やかに進行する溶媒を選択することが好ましい。また、反応後に溶媒を脱揮除去するので、溶媒の発火点が高いことが好ましい。これらの要件を全て満たす溶媒としてカルボン酸エステルが好適である。
【0033】
該カルボン酸エステルとしては下記一般式(1):
COOR (1)
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数3〜6のシクロアルキル基、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数3〜6のシクロアルキル基である)
で示される脂肪族カルボン酸エステルが好適である。R及びRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基が例として挙げられる。エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸‐n‐ブチル、酢酸ペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸‐n‐プロピル、プロピオン酸‐n‐ブチル、n‐酪酸メチル、イソ酪酸メチル、n‐酪酸‐n‐ブチル、n‐吉草酸メチル、n‐ヘキサン酸メチルなどが挙げられるが、特に、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、イソ酪酸メチル、n―酪酸メチルが好適に用いられる。
【0034】
水素化反応時の溶液中における芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体の濃度は、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは3〜30重量%、さらに好ましくは5〜20重量%である。上記範囲内であると、反応速度の低下や溶液粘性の上昇による取扱いの不便さを避けることができ、また、生産性、経済性の面から好ましい。
【0035】
本発明の水素化は、懸濁床または固定床、バッチ式または連続流通式など公知の反応様式で行うことができる。
懸濁床で反応を行なう場合、担体粒径は0.1〜1,000μmが好ましく、より好ましくは1〜500μm、さらに好ましくは5〜200μmである。粒径が上記範囲内であると、水素化反応後の触媒分離が容易であり、充分な反応速度が得られる。
水素化をバッチ式で行う場合、触媒の使用量は原料共重合体100重量部に対してパラジウムとして0.0005〜10重量部であるのが好ましい。連続流通式で行う場合、単位触媒量あたりの原料共重合体供給量、すなわち空間速度が0.001〜1h−1になるように原料共重合体の溶液を供給する。
【0036】
水素化は、60〜250℃、3〜30MPaの水素圧で、3〜15時間行うのが好ましい。反応温度が上記範囲内であると、充分な反応速度が得られ、原料共重合体および水素化共重合体の分解を避けることができる。また、水素圧が上記範囲内であると、充分な反応速度が得られる。
【0037】
水素化反応後は、濾過または遠心分離などの公知の方法で触媒を分離し、回収する。着色、機械物性への影響などを考慮すると、得られた水素化ポリマー中の残留金属濃度は出来るだけ少ないことが好ましい。残留金属濃度は、10ppm以下が好ましく、より好ましくは1ppm以下である。ろ過、遠心分離などの煩雑な操作を省略するためには固定床での水素化が有利である。
触媒を分離した後、水素化ポリマー溶液から溶媒を除去し、水素化ポリマーを精製する。水素化ポリマーの分離には、
(1)水素化ポリマー溶液から溶媒を連続的に除去して濃縮液とし、該濃縮液を溶融状態で押し出し、次いでペレット化する方法、
(2)水素化ポリマー溶液から溶媒を蒸発させて塊状物を得、該塊状物をペレット化する方法、
(3)水素化ポリマー溶液を貧溶媒に加える、または、水素化ポリマー溶液に貧溶媒を加えて水素化ポリマーを沈殿させ、該沈殿をペレット化する方法、
(4)熱水と接触させて塊状物を生成させ、該塊状物をペレット化する方法
などの公知の方法を用いることができる。
【0038】
本発明の方法によって得られる水素化ポリマーは公知の方法によって光学組成物にすることができる。該水素化ポリマーを含む光学組成物は熱可塑性を有しているため、押し出し成形、射出成形、シート成形体の二次加工成形など種々の熱成形によって精密かつ経済的に光拡散性光学物品を製造することが可能である。光拡散性光学物品の具体的な用途としては、導光板、導光体、ディスプレイ前面パネル、プラスチックレンズ基板、光学フィルター、光学フィルム、照明カバー、照明看板などを挙げることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【0040】
樹脂の評価方法は次の通りである。
(1)芳香環の水素化率
水素化反応前後のUVスペクトル測定における260nmの吸収の減少率で評価した。
(2)重量平均分子量
水素化前の重量平均分子量(Mw1)と水素化後の重量平均分子量(Mw3)をRI検出器を使用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。溶媒としてTHFを用い、標準ポリスチレンで検量した。
(3)水素化の均質性
反応生成物中の未水素化芳香環を有するポリマーの重量平均分子量Mw2をUV検出器(260nm)を用いたGPCにより測定した。Mw2/Mw1により水素化の均質性を評価した。この比が1.5以下であると水素化の均質性が良好である。
(4)パラジウム金属の分散度
COパルス吸着法により測定した。CO/Pd=1として算出した。
(5)全光線透過率
水素化ポリマー粉を減圧下、4時間、80℃にて乾燥した後、鏡面加工した金型の中に入れ、東邦プレス製作所の油圧成形機を用いて、210℃、10MPaで圧縮加熱成形し、試験片(3.2mm×30mm×30mmの平板)を作製した。この試験片の全光線透過率を、日本電色工業製色度・濁度測定器COH−300Aを用いて、JIS K7105に準拠し、透過法で測定した。
【0041】
実施例1
(1)触媒調製
酢酸パラジウム0.0527g(0.000235mol)をアセトン30gに溶解した。得られた溶液に乾燥した酸化ジルコニウム担体(第一稀元素社製NNC100)4.975gを加え、40℃で攪拌しながら溶液を含浸させた。60℃で減圧しながらアセトンを留去したのち、120℃で4hr乾燥し、400℃で3時間焼成処理することにより、0.5wt%Pd/ZrO触媒を調製した。パラジウム金属分散度は85%であった。
(2)水素化反応
重量平均分子量(Mw1)170,000のMMA−スチレン共重合体(新日鐵化学社製、MS600(MMA/スチレンモル比=6/4))5gをイソ酪酸メチル(IBM)45gに溶解し、0.25gの0.5%Pd/ZrOと共に200mlオートクレーブに仕込んだ。水素圧9MPa、温度200℃で12時間水素化反応を行なった。濾過により触媒を除去した後、反応液を過剰のメタノール中に滴下し、沈殿したポリマーを回収した。このポリマーの最終的な水素化率は99.1%であった。加熱成形品の全光線透過率は92%であった。反応の途中に反応液を抜き出し水素化率と未水素化芳香環を含む共重合体の重量平均分子量(Mw2)を測定した。水素化の経時変化を表1に示した。いずれの反応液も透明であり、水素化が均質に進行していた。
また、ろ過しながら反応液を抜き出したところ、パラジウムの溶出は見られなかった(0.01ppm以下)。
その後、原料液を入れ替え、回収した触媒を使用して再度水素化を同様に12h行った。水素化率は99.1%であり、加熱成形品の全光線透過率は92%であった。また、途中抜き出した反応液も透明であった。
【0042】
【表1】

【0043】
比較例1
(1)触媒
10wt%Pd/C(NEケムキャット製 PEタイプ)を使用した。このもののパラジウム金属分散度は14%であった。
(2)水素化反応
触媒として10wt%Pd/C(NEケムキャット製 PEタイプ)を0.2g使用した以外は実施例1と同様に水素化反応を行なった。最終的な水素化率は99.1%であり、加熱成形品の全光線透過率は92%であった。しかし、表2に示したように、3時間後および6時間間後に抜き出した反応液は白濁しており、これらの反応液から分離したポリマーの加熱成形品の全光線透過率は90%未満であった。
原料液を入れ替え、実施例1と同様にして再度水素化反応を行ったが、水素化率が85%に低下した。
【0044】
【表2】

【0045】
比較例2
(1)触媒調製
酢酸パラジウム0.1055g(0.00047mol)をアセトン30gに溶解した。この溶液にαアルミナ4.975gを加え、40℃で攪拌しながら溶液を含浸させた。60℃で減圧しながらアセトンを留去したのち、120℃で4hr乾燥し、400℃で3時間焼成処理することにより、1wt%Pd/Al触媒を調製した。パラジウム金属分散度は20%であった。
(2)水素化反応
触媒として1wt%Pd/Alを0.5g使用し、水素化時間を15時間に変更した以外は実施例1と同様にして水素化反応を行なった。最終的な核水素化率は98.8%であり、加熱成形品の全光線透過率は92%であった。しかし、表3に示したように、4時間後および8時間間後に抜き出した反応液は白濁しており、これらの反応液から分離したポリマーの加熱成形品の全光線透過率は90%未満であった。
原料液を入れ替え、水素化時間を15hに変更した以外は実施例1と同様にして再度水素化反応を行ったが、水素化率は92%に低下した。
【0046】
【表3】

【0047】
実施例2
触媒の使用量を0.1gに変更した以外は実施例1と同様にして水素化反応を行ない、ポリマーを回収した。このポリマーの水素化率は96.5%であり、加熱成形品の全光線透過率は92%であった。また、4,6,9時間後に抜き出した反応液はすべて透明であった。
【0048】
実施例3
反応温度を175℃にした以外は実施例1と同様にして水素化反応を行ない、ポリマーを回収した。このポリマーの水素化率は99.0%であり、加熱成形品の全光線透過率は92%であった。また、6時間後および9時間後に抜き出した反応液はすべて透明であった。
【0049】
実施例4
反応圧力7MPaにした以外は実施例1と同様にして水素化反応を行ない、ポリマーを回収した。このポリマーの水素化率は96.2%であり、加熱成形品の全光線透過率は92%であった。また、6時間後および9時間後に抜き出した反応液はすべて透明であった。
【0050】
実施例5
(1)触媒調製
酢酸パラジウム0.0105g(0.000047mol)をアセトン10gに溶解した。この溶液に乾燥した酸化ジルコニウム担体(第一稀元素社製NNC100)4.975gを加え、40℃で攪拌しながら溶液を含浸させた。60℃で減圧しながらアセトンを留去したのち、120℃で4h乾燥し、400℃で3時間焼成処理することにより、0.1wt%Pd/ZrO触媒を調製した。パラジウム金属分散度は90%に達した。
(2)水素化反応
前記触媒を0.5g使用した以外は実施例1と同様にして水素化反応を行ない、ポリマーを回収した。このポリマーの水素化率は96.6%であり、加熱成形品の全光線透過率は92%であった。また、4時間後、6時間後および9時間後に抜き出した反応液はすべて透明であった。
【0051】
実施例6
(1)触媒調製
塩化パラジウム0.0835g(0.00047mol)及び塩化ナトリウム0.055g(0.00094mol)を水10gに溶解した。この溶液に酸化ジルコニウム担体(第一稀元素社製NNC100)9.95gを加え、攪拌しながら3%ホルマリン水溶液10g(0.0099mol)および1.3%NaOH水溶液10g(0.0033mol)をさらに加え、パラジウムを酸化ジルコニウムに沈着させた。次いで、ろ過し、ろ液が0.1N AgNO水溶液で白濁しなくなるまで水洗を繰り返した後、120℃にて乾燥し、0.5wt%Pd/ZrO触媒を得た。パラジウム金属分散度は25%であった。
(2)水素化反応
前記触媒をを0.5g使用した以外は実施例1と同様にして水素化反応を行ない、ポリマーを回収した。このポリマーの水素化率は98.5%であり、加熱成形品の全光線透過率は92%であった。また、4時間後、6時間後および9時間後に抜き出した反応液はすべて透明であった。
【0052】
実施例7
(1)触媒調製
塩化パラジウム0.0835g(0.00047mol)及び0.1N HCl 9.4cc(0.00094mol)を水10gに溶解した。この溶液に酸化ジルコニウム担体(第一稀元素社製NNC100)9.95gを加え、攪拌しながら3%ホルマリン水溶液10g(0.0099mol)および1.3%NaOH水溶液10g(0.0033mol)をさらに加え、パラジウムを酸化ジルコニウムに沈着させた。次いで、ろ過し、ろ液が0.1N AgNO水溶液で白濁しなくなるまで水洗を繰り返した後、120℃にて乾燥し、0.5wt%Pd/ZrO触媒を得た。パラジウム金属分散度は30%であった。
(2)水素化反応
前記触媒を0.25g用いた以外は実施例1と同様にして水素化反応を行ない、ポリマーを回収した。このポリマーの水素化率は97.9%であり、加熱成形品の全光線透過率は92%であった。また、4時間後、6時間後および9時間後に抜き出した反応液はすべて透明であった。
【0053】
実施例8
(1)触媒調製
塩化パラジウム0.0417g(0.000235mol)及び0.1N HCl 4.7cc(0.00047mol)を水10gに溶解した。この溶液に酸化ジルコニウム担体(第一稀元素社製NNC100)4.975gを加え、40℃で溶液を含浸させた。70℃で減圧しながら水分を留去したのち、120℃で4hr乾燥し、400℃で3時間焼成処理した。その後、10%水素−90%窒素の混合ガスを50cc/minの速度で流通させながら240℃で還元処理を施し、0.5wt%Pd/ZrO触媒を調製した。パラジウム金属分散度は45%であった。
(2)水素化反応
前記触媒を0.25g用いた以外は実施例1と同様にして水素化反応を行ない、ポリマーを回収した。このポリマーの水素化率は99.3%であり、加熱成形品の全光線透過率は92%であった。また、4時間後、6時間後および9時間後に抜き出した反応液はすべて透明であった。
【0054】
実施例9
(1)触媒調製
酢酸パラジウム0.527g(0.00235mol)をアセトン300gに溶解した。この溶液に乾燥した酸化ジルコニウム担体(第一稀元素社製NNC100)49.75gを加え、40℃で攪拌しながら溶液を含浸させた。60℃で減圧しながらアセトンを留去したのち、120℃で4hr乾燥し、400℃で3時間焼成処理することにより、0.5wt%Pd/ZrO触媒を調製した。これにバインダーとしてベントナイト2.7gおよび水45gを加え、混練、押出成形後、400℃で焼成した。その後、0.5mm〜1mm径に破砕し、固定床反応用触媒を調製した。
(2)水素化反応
前記固定床反応用触媒10gを1.5mmφのSUS316製管型反応器に充填した後、水素を9MPa、50cc/minで流通させながら、200℃まで昇温した。次に、重量平均分子量170,000のMMA−スチレン共重合体(新日鐵化学社製、MS600(MMA/スチレンモル比=6/4))の5wt%イソ酪酸メチル溶液を10g/hで反応器に供給しながら固定床流通反応を行った。24h後の水素化率は98.8%であり、加熱成形品の全光線透過率は92%であった。水素化反応を1000h継続した後の水素化率は95.0%であり、加熱成形品の全光線透過率は92%であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の製造方法によると、芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体の芳香環を、長期間また繰り返し安定的かつ均質に水素化することができる。得られた水素化ポリマーは、高透明性、低複屈折、高耐熱性、高表面硬度、低吸水、低比重、高転写性、優れた離型性を示す。特に光学材料として優れた特性を有しており、光学レンズ、光導光板、光拡散板、光ディスク基板材料、前面パネル等の広範な用途に用いることができるので、本発明の工業的意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A/B(Aは(メタ)アクリレートモノマー由来の構成単位のモル数、および、Bは芳香族ビニルモノマー由来の構成単位のモル数)が0.25〜4.0である芳香族ビニル化合物−(メタ)アクリレート共重合体中の芳香環を、溶媒中、パラジウムが酸化ジルコニウム上に担持された触媒の存在下で水素化する工程を含む水素化ポリマーの製造方法。
【請求項2】
水素化ポリマーのJIS K7105に規定する方法で測定した全光線透過率が90%以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
該共重合体の重量平均分子量が10,000〜1,000,000である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
該芳香環の水素化率が70%以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
該(メタ)アクリレートモノマーがメタクリル酸アルキル80〜100モル%およびアクリル酸アルキル0〜20モル%からなり、該芳香族ビニルモノマーがスチレンである請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
得られた水素化ポリマー中の未水素化芳香環を含むポリマーの重量平均分子量が、水素化前の共重合体の重量平均分子量の1.5倍以下である請求項1に記載の水素化ポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記触媒のパラジウムの担持量が酸化ジルコニウムに対して0.01〜50重量%である請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒がカルボン酸エステルである請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
パラジウムの前駆体が酢酸パラジウム、塩化パラジウム、または硝酸パラジウムである請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の製造方法によって得られる水素化ポリマー。
【請求項11】
請求項10記載の水素化ポリマーを含む光学材料組成物。

【公開番号】特開2007−254733(P2007−254733A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43747(P2007−43747)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】