説明

水素化触媒、特に二硫化炭素用水素化触媒

本発明は、水素化触媒、特に二硫化炭素(CS)を水素化してメチルメルカプタン(CHSH)にするのに有用な水素化触媒、およびこの調製法に関する。本発明は、二硫化炭素変換率が100%、およびメチルメルカプタン選択性が100%である、二硫化炭素の触媒水素化によるメチルメルカプタンの連続製造法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化触媒、特に、硫黄含有化合物の、とりわけC=S型の不飽和結合を保有するものの水素化に用いられる水素化触媒に、特に二硫化炭素(CS)を水素化してメチルメルカプタン(CHSH)にするのに用いられる水素化触媒に関する。本発明は、このような水素化反応における前記触媒の使用、前記触媒の製造方法、および二硫化炭素の触媒水素化によるメチルメルカプタンの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
CSを水素化してメチルメルカプタンにする反応は、以下のように図式的に表すことができる:
CS+3H→CHSH+H
この反応の副生成物は、CHSHの水素化分解によるメタン、およびCHSH2分子の縮合による硫化ジメチルである。
【0003】
この水素化反応は、何十年も前から公知であるものの、現在見ることができる特許広報数件から判断する限りでは、徹底した研究対象とはなってこなかったようである。
【0004】
例えば、特許US3,488,739(The Sun Oil Company、1970)は、酸化ニッケルと酸化モリブデンの混合物をアルミナに担持させた水素化触媒(Aero−HDS−3A)を用いて、CSおよび水素からメチルメルカプタンおよび硫化ジメチルを製造する方法を記載する。
【0005】
204℃では、CS変換率は約100%であり、モル選択性はCHSHが33%、MDSが67%であり、メタンは痕跡量である。
【0006】
177℃では、CS変換率は76mol%まで落ち、CHSH/DMS選択性はモル比で50/50である。
【0007】
この特許は、CHSHまたはDMSのどちらか一方の形成を促進する目的で、これらの化合物を再利用する可能性についても記載している。しかしながら、このような再利用は、少なくはない量のメタンの形成をもたらす。
【0008】
特許US3,880,933(Phillips、1975)は、硫化水素(HS)の存在下、CSを触媒水素化してメチルメルカプタンにする方法を記載する。使用する触媒は、酸化コバルトおよび酸化モリブデンの混合物をアルミナに担持させたものである(Aero−HDS−2)。
【0009】
記載される反応温度は230℃から260℃であり、反応圧は11.9から12.6barであり、H/CSモル比は2.75から3.5である(3がCHSH生成の化学量論的比である。)。
【0010】
開始時に理にかなった量のHSを存在させる(HS/CSモル比=3)ことで得られる最適な結果では、CSの変換度が69%、CSのモル選択性が65%、およびDMSのモル選択性が35%である。これらの値は特許に示されたモル組成物から計算したものである。
【0011】
1985年および1969年には、Mobil OiIの3件の特許(US4,543,434、US4,822,938、US4,864,074)が、硫黄含有中間体化合物を用いてメタンをより分子量の大きい炭化水素に変換する方法を記載している。
【0012】
これらの特許では、メタンは、硫黄による酸化(Folkins方法と同様)によりCS/HSに変換され、その後、水素の作用下、CSがより分子量の大きい炭化水素に変換される。例は示されておらず、これらの特許の記載において、CSは最初にまずCHSHに変換され、このCHSHが炭化水素に向かう最終中間体であると記載されている。CSと水素の反応との間にDMSが同時生成され得ることも記載されている。
【0013】
国際特許出願WO2004/043883(Georgia Pacific)は、この一部で、水素の存在下、二硫化炭素を触媒で変換してメチルメルカプタンにする方法を記載する。触媒として、CeO、ZrO、TiO、Nb、Al、SiO、Ta、SnO、またはこれらの混合物の基質に担持されたV、Re、またはMnOが可能である。
【0014】
CSの高い変換率、およびCHSHの高い選択性が記載されるものの、同時に副生成物(CH、C、など)、ならびにDMSの形成も記載される。また、この出願は、どのような具体例も示さず、変換率または選択性についての正確な値も示されていない。
【0015】
先行技術をこのように一覧すると、一方では、CSを触媒水素化してメチルメルカプタンにする反応に関する文献が少ないこと、および他方では、高い変換率および高いメチルメルカプタン選択性でこの反応を行なうための情報が欠けていることがわかる。
【0016】
既存のデータは、例えば、工業的に許容される条件下で、65%を超えるCHSH選択性は達成されたことがないことを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第3,488,739号明細書
【特許文献2】米国特許第3,880,933号明細書
【特許文献3】米国特許第4,543,434号明細書
【特許文献4】米国特許第4,822,938号明細書
【特許文献5】米国特許第4,864,074号明細書
【特許文献5】国際公開第2004/043883号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、本発明の目的は、少なくとも1つの二重結合、特にC=S型の二重結合を保有する硫黄含有化合物の触媒水素化反応、特に二硫化炭素を水素化してメチルメルカプタンにする反応、ただしこの反応は工業的に応用することがたやすくしかも経済的で、特に変動費が低いものを提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、このような反応であって副生成物をほとんどまたはまったく生成しないもの、すわなち、高い変換率および水素化生成物、特にメチルメルカプタンの高い選択性をもたらすもの、言い換えるなら収率、変換率、選択性、および生産出力に関して向上した性能を示す方法を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、二酸化炭素(CO)の排出が少ない、CSからCHSHへの変換方法を提供することである。
【0021】
さらなる目的は、以下の記載中で明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
今回、本発明者らは、以下の本発明の方法のおかげで、特に特定の型の触媒のおかげで、上記目的の全てまたは一部が達成され得ることを見い出した。この特定の型の触媒は、本発明の第一の目的を形成する。
【0023】
つまり、本発明は、最初にまず、少なくとも1種のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物をドープした少なくとも1種の金属を含む水素化触媒に関する。
【0024】
本発明の触媒に存在する金属は、元素の周期表(IUPAC)の第6族および/または第8族の任意の金属であり得、好ましくは、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、およびこれらの2種以上の組合せ、好ましくはこれらの金属の2種の組合せ、特にCo/Mo、Ni/Mo、Ni/W、およびW/Moからなる群より選択され、ニッケルとモリブデンの組合せが特別好ましい。
【0025】
本発明の触媒に存在する金属(単数または複数)は、一般に、酸化物の形で提供され、市販されているか、当業者に公知の手順から容易に調製することができるものである。
【0026】
特別に好適な触媒は、Axensから商品名HR448で販売されている触媒である。この触媒は、ニッケル酸化物(NiO)とモリブデン酸化物(MoO)とを組み合わせて高純度アルミナに担持させたものである。この触媒は、Ni/Mo型および/またはCo/Mo型の他の触媒と組み合わせて用いることができる。また、この触媒は、以下で示すとおり、本発明の任意の触媒と同様に、前硫化することができる。
【0027】
本発明の触媒に存在する金属(単数または複数)は、硫化金属の形で直接提供することもできる。こうした硫化金属は、対応する酸化物から、当業者に既知の任意の方法により、例えば、上記の特許US3,488,739でvan Venrooyに記載されるとおりに、得ることもできる。
【0028】
本発明の触媒は、有利には、本分野で一般的に用いられる任意の型の支持体に、例えば、アルミナ、シリカ、二酸化チタン(TiO)、ゼオライト、チャコール、ジルコニア、マグネシア(MgO)、粘土、ハイドロタルサイトなど、およびこれら2種以上の混合物から選択される支持体に、担持されている。
【0029】
本発明の触媒は、使用前、少なくとも1種のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の酸化物および/または水酸化物でドープされていることを特徴とする。このドープ剤の量は、触媒の全重量に対して、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の酸化物および/または水酸化物の、一般に1から30重量%、好ましくは5から20重量%、有利には8から14重量%である。
【0030】
上記のドープ処理は、当業者に既知の任意の方法に従って、例えば、少なくとも1種のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物および/または酸化物、特に水酸化カリウムおよび/または酸化カリウムでの乾式含浸により行なうことができる。
【0031】
本発明の好適な実施形態に従って、ドープ処理は、水酸化カリウム(KOH)および/または酸化カリウム(KO)の溶液での乾式含浸により行なわれる。
【0032】
本発明の触媒(アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物および/または酸化物でドープした金属)は、水素化反応、特に硫黄含有化合物の水素化反応、より詳細には少なくとも1つのC=S基を保有する硫黄含有化合物の水素化反応で特に効果的であることを示した。本発明の触媒は、より詳細にはCSを触媒水素化してメチルメルカプタンにする反応で効果的であり、この反応においてCSの高い変換率および高いCHSH選択性、特には100%程度での選択性が観測された。
【0033】
本発明の触媒は、特にこれが金属酸化物(単数または複数)からなるものである場合には、有利には、使用前、特にCSを触媒水素化してCHSHにする反応で使用される前に前処理(前硫化)される。前処理は、例えば、van Venrooyによる教示(US3,488,739)に従って、金属酸化物(単数または複数)を対応する硫化物に変換することからなる。
【0034】
あくまでも例として、本発明の触媒は、水素/硫化水素(H/HS)混合物を、例えば、モル比(または体積比)20/80の割合で用いて前処理(前硫化)することができる。前処理は、200℃から400℃の温度、好ましくは約300℃の温度で、金属酸化物から対応する硫化物への変換を80%超、好ましくは90%超、より好ましくは完全な変換をもたらすのに十分な時間、即ち完全な変換では約4時間、行なわれる。
【0035】
こうして触媒は触媒水素化反応に直接用いられる状態になる。上記のとおりドープして前処理した触媒は、従って、本発明の目的を構成する。本発明の別の目的は、上記のとおり定義される触媒の水素化反応触媒としての使用、特に硫黄含有化合物の水素化触媒としての、より詳細にはCSを触媒水素化してメチルメルカプタンにするための触媒としての使用である。
【0036】
第三の目的に従って、本発明は、少なくとも1つの不飽和結合、好ましくは少なくとも1つのC=S官能基を保有する有機化合物、好ましくは二硫化炭素の触媒水素化方法に関し、この方法は、水素化触媒が、上記で定義されるような触媒、即ち、少なくとも1種のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の酸化物および/または水酸化物でドープした、元素の周期表の第6族および/または第8族のものである少なくとも1種の金属を含む触媒であることを特徴とする。
【0037】
より詳細には、本発明による方法は、少なくとも以下の工程を含む:
a)必要に応じて上記のとおり金属酸化物を金属硫化物に変換する前処理を施した少なくとも1種の上記で定義されるとおりの触媒の存在下、少なくとも1つの不飽和結合、好ましくは少なくとも1つのC=S官能基を保有する有機化合物、好ましくは二硫化炭素である有機化合物を水素と接触させる工程と、
b)水素圧下、100℃から400℃、好ましくは200℃から300℃の温度で反応を行なう工程と、および
c)生じたHSを分離するとともに、水素化生成物、即ち出発物質が二硫化炭素の場合はメチルメルカプタンを回収する工程。
【0038】
本発明の好適な実施形態に従って、二硫化炭素を触媒水素化してメチルメルカプタンにする反応の場合、H/CSモル比は、非常に広い範囲で変更可能であるものの、一般に1:1から50:1である。
【0039】
本発明者らが行なった様々な試験の結果、導入したCS量に対して水素量が多くなるほど、触媒の所定量に対して生産出力が低下することがわかった。従って、H/CS比を1:1から30:1、好ましくは1:1から10:1、より好ましくは2:1から9:1にして操作することが好ましい。比が約3:1、6:1、および9:1に等しいと、非常に良好な結果が得られ、最良の結果は3:1から6:1のH/CS比で得られた。
【0040】
触媒量も非常に広い範囲で変更可能である。この理由は、触媒量が所望の生産出力に直接関係するからである。一般に、生産出力は、触媒の単位体積(または触媒の単位重量)あたり単位時間あたりに生成されるメチルメルカプタン量で表される。
【0041】
一般則として、触媒量は、水素化しようとする化合物の性質および量に依存する。従って、メチルメルカプタンにする水素化反応について水素化しようとする化合物、特に二硫化炭素には、0.5から6kg/時間/リットルという量の触媒で十分であり、実際には最適でさえある。
【0042】
反応の発熱を希釈する目的で、触媒に対して不活性である化合物を使用することも可能である。このような不活性化合物は触媒水素化反応を専門とする当業者に周知であり、例えば、カーボランダム(炭化ケイ素)を用いることができる。
【0043】
上記のとおり、水素化反応は水素圧下で行なわれる。反応に必要な圧は、ここでもまた、非常に広い範囲で変更可能である。水素圧は、一般に大気圧から100bar(約10MPa)、好ましくは大気圧から50bar(約5MPa)、より好ましくは大気圧から30bar(3MPa)である。完璧に好適な態様に従って、水素圧は3bar(0.3MPa)から15bar(1.5MPa)である。
【0044】
水素圧は、とりわけ、反応体と触媒の接触時間に重要な効果を有する。高圧ひいては長い接触時間は、基質(この場合はCS)の変換に有利に働き得る。しかしながら、長すぎる接触時間は、副反応も促進し得る。これが、最適な性能のための妥協点を見出さなければならない理由である。
【0045】
二硫化炭素を触媒水素化してメチルメルカプタンにする反応は、硫化水素(これ自身反応中に形成されたものである。)の存在下で行なうことができる。硫化水素の量は、生産出力、収率、変換率、および反応の選択性に影響を及ぼさないものとしてCS1モルあたりHSが10モルの範囲まで可能である。
【0046】
反応温度は、上記したとおり、一般に100℃から400℃、好ましくは200℃から300℃である。高すぎる温度だと、選択性に悪影響を及ぼし、本発明の文脈において望ましくない副生成物(メタンおよび硫化ジメチルなど)が形成されることが観測されている。一方で、低すぎる温度だと、水素化しようとする生成物、代表的には二硫化炭素の変換率が落ちる。
【0047】
本発明による触媒は、特に上記の水素化反応において、当該分野で既知の任意の方法に従って、例えば、固定床、流動床、循環床、または沸騰(ebullating)床で用いることができる。本発明を例示する実施例において、触媒は固定床で用いられている。
【0048】
同様に、全ての型の水素化反応器を本発明による水素化反応に選ぶことができるものの、反応熱を可能な限り効率的に除去できるようにするため、熱交換を良好に行なえる反応器が好ましい。
【0049】
反応時間は、水素化しようとする生成物の性質および量、水素量、ならびに使用する触媒の性質および量によって様々である。反応時間は、一般に非常に短く、例えば、1秒程度である。このことが、本発明の方法を、反応を連続して行なうのに完全に適したものにしている。
【0050】
反応は、有利には、溶媒を用いず、水も用いず行なわれる。また、必要であるか所望であれば、反応は不活性ガス(窒素、アルゴンなど)の存在下で行なうことができる。
【0051】
反応が完了して得られる水素化化合物(二硫化炭素の水素化の場合はメチルメルカプタン)は、当業者に既知の任意の従来手段により、例えば、冷却し、必要に応じて圧を増加させることによる凝集により、粗反応生成物から分離することができる。
【0052】
本発明の方法は、有利には連続して行なわれ、特に二硫化炭素の水素化を、高い生産出力、高い二硫化炭素変換率、および高いメチルメルカプタン選択性で行なうことを可能にする。即ち、先行技術で記載される方法では通常形成される望ましくない副生成物の形成を観測することなく、メチルメルカプタンの形成を排除または実質的に排除して行なうことを可能にする。
【0053】
上記に記載される特徴は、本方法を、二硫化炭素の触媒水素化による高純度のCHSHの工業的製造に、特に検出限界より低い、特には1000ppm未満の無視できる量の不純物を含む99.9%超の純度のCHSHの製造に特に適したものにしている。
【発明を実施するための形態】
【0054】
ここで、本発明を以下の実施例により例示するが、実施例は制限をかけるような意味をまったく示さず、従って、請求されるとおりの本発明の範囲を制限することができるとは理解され得ないはずである。
【0055】
各実施例において、反応生成物および未反応物質は、気化させて、無極性キャピラリーカラムおよび検出器としての熱伝導度セルを用いたインラインガスクロマトグラフィーで分析する。分析は、各生成物について純粋な試料で較正してから行なう。
【0056】
変換率、選択性、および生産出力は、以下のようにして計算する(各計算において、生成物iのモル数は、生成物iのモル流速に単位時間を掛けたものに等しい)。
【0057】
・CS変換率(%C):
0CS2をCSの開始モル数、nresidualCS2を未反応CSのモル数とすると、CS変換率(%C)は、以下の式に従って計算することができる:
【0058】
【数1】

・CHSHのモル選択性(%SCH3SH):
CH3SHを反応中に生成したCHSHのモル数とすると、CHSHのモル選択性(%SCH3SH)は、以下の式に従って計算することができる:
【0059】
【数2】

・CHのモル選択性(%SCH4):
メタン(%SCH4)のモル選択性も、以下の式から計算することができる:
【0060】
【数3】

・硫化ジメチルのモル選択性(%SDMS):
同様に、DMSのモル選択性(%SDMS)は、以下の式を用いて計算することができる:
【0061】
【数4】

・CHSH生産出力(%PCH3SH):
次いで、メチルメルカプタン生産出力は、以下の式から計算することができる(式中、MCH3SHおよびMCS2はそれぞれ、CHSHおよびCSのモル質量を表す。):
【0062】
【数5】

式中、CSの重量流速は、トン/日/m触媒で表される。
(実施例)
【実施例1】
【0063】
触媒の調製
4種の触媒、即ちドープしていない触媒(Cata1、比較例)および異なる量の酸化カリウムでドープした3種の触媒(Cata2:5.8重量%;Cata3:11.6重量%、およびCata4:17.4重量%)で試験を行なう。
【0064】
Cata1は、Axensから販売されている触媒HR448である(ニッケル酸化物3.3%および三酸化モリブデン16.5%をアルミナ支持体に担持させたもの)。その他の3種の触媒(本発明によるもの)は、以下の手順に従って調製する。
【0065】
各触媒Cata2、Cata3、およびCata4について、触媒HR448(Axens)100ml(79g)を、あらかじめ150℃で一晩乾燥させてから、ロータリーエバポレーターに入れる。
【0066】
これとは別に、水酸化カリウム(KOH)5.80gを脱ミネラル水38.6mlに溶解して水酸化カリウム溶液を調製する。この体積は、79gのHR448の細孔体積に相当する(使用する触媒のバッチの代表試料で脱ミネラル水を用いてあらかじめ求める。)。濃度が高いため(17.4%KO)、水酸化カリウムは熱水に溶解させる。
【0067】
この溶液をロータリーエバポレーターに少しずつ連続して入れる(少し減圧にすることで圧力差により溶液を吸引させる。)。均一な含浸を促進する目的で、溶液を導入する間中、触媒の入った容器を穏やかに回転させる。
【0068】
溶媒の導入が終わるまで水からのいかなる蒸発も防ぐ目的で、含浸操作は、周辺温度を維持して行なわれる。
【0069】
導入が終わったら、100℃で加熱しながら水を減圧除去する。この「in situ」での乾燥後、含浸した触媒Cata2を500℃で2時間焼成し、その後冷却することで使える状態になる。
【0070】
同様な手順に従って、KOH12.35gを用いてCata3を調製しKO11.6%を含むドープした触媒を得る。KOH19.82gを用いて同様にCata4を調製し、KO17.4%を含むドープした触媒を得る。
【0071】
これらの触媒(金属酸化物を含む。)に以下の前処理を施す:触媒30mlを反応管に導入する。次いで、触媒を、HS(8標準リッター/時)とH(2標準リッター/時)の混合物と400℃で4時間接触させる。反応管中の圧は、水素化反応の圧と同一の値、3bar(0.3MPa)から15bars(1.5MPa)で、例えば、3bar(0.3MPa)に設定する。
【0072】
硫化触媒を回収し、以下に示す水素化反応に直接用いる。
【0073】
CSを水素化してCHSHにする反応
【実施例2】
【0074】
ドープ処理の効果の検討
実施例1で調製した触媒(Cata2、Cata3、およびCata4)を、硫黄で前処理してから、直接用いる。Cata1(ドープしていない触媒、これも硫黄での前処理を施してある。)を比較例として用いる。触媒の使用量は、概して30mlであるが、試験によっては触媒を6mlまたは10ml用いて行なった。また、触媒6mlを用いて行なった試験の中には、前記触媒を不活性化合物(カーボランダム)で30mlに希釈したものがあった。
【0075】
CSにとって必要なモル比に相当させる目的で、H流速およびHS流速を調整する;例えば、HS/CSモル比が2でありH/CSモル比が6の場合、CS流は11.3g/h(149mmol/h、即ち3.3標準リッター/h)である。
【0076】
各種試験を3から9のH/CSモル比で行なう。選択したH/CS比の関数として用いられるCS流速を、例示の例として以下の表1に示す。
【0077】
【表1】

滞留時間を常に一定に維持する目的で、CS流速をH/CSモル比で変更する。H流速は、モル比がわかれば容易に推定することができる。つまり、H/CSモル比が6の実施例(上記を参照)では、CS流速は11.3g/h、即ち3.3標準リッター/hであり、水素H流速はこのCS流速の6倍、即ち20標準リッター毎時である。同様に、HS流速は、モル比がわかれば容易に推定することができる。つまり、上記例の水素と同様にして、HS/CSモル比2は、HS流速が体積でCSのガス流速の2倍である、即ち、この場合、6.6標準リッター毎時(3.3の2倍)であることを意味する。
【0078】
これとは別に、反応管を水素化反応に望ましい温度、即ち200℃から300℃、例えば、250℃に冷却しておく。CSは、流速および温度が全て安定化して初めて導入する。
【0079】
反応器の出口で、反応生成物および未反応材料を全て気化させて、インラインガスクロマトグラフィーで分析する。
【0080】
ドープした触媒(Cata2、Cata3、およびCata4)で行なった各種試験については、メタンの形成も硫化ジメチルの形成も観測されていない。反応器を出るガスは未反応CSも含んでいない。従って、CS変換率は100%でありCHSH選択性も100%であると結論付けることができる。
【0081】
各種試験の操作データおよび分析データを以下の表2にまとめる:
【0082】
【表2】

上記の結果は、水素化触媒のドープ処理がメチルメルカプタン選択性に及ぼす効果について示す。ドープ処理がなくてもCSの完全な変換は可能であるが、水素化反応はまったく選択性がない:メチルメルカプタン、メタン、および硫化ジメチルが実質的に同量で形成される。
【0083】
一方、触媒のドープ処理は、KOドープ剤11.6%およびこれ以上を用いてメチルメルカプタン選択性を上限100%まで顕著に増加させることができる。ドープ処理の度合いを上げると二硫化炭素の変換率が低下することもわかる。
【実施例3】
【0084】
温度の効果の検討
上記の実施例2に記載される手順に従って、異なる温度で(200℃、250℃、および300℃)、二硫化炭素をメチルメルカプタンにする触媒水素化の試験を行なう。
【0085】
これら3種の試験の操作データおよび分析データを以下の表3にまとめる:
【0086】
【表3】

これらの試験の結果は、温度が、水素化反応に、特にメチルメルカプタン選択性に関しては、ほとんど影響を及ぼさないことを示す。反応温度が300℃でも、ほとんどメタンは形成されず、DMSの痕跡も検出できなかった。
【実施例4】
【0087】
/CS比の効果の検討
上記の実施例2と同様に、二硫化炭素をメチルメルカプタンにする触媒水素化の各種試験を行い、ここでは導入する水素量を変える。H/CSモル比は、それぞれ、3、6、および9に設定した。
【0088】
これら3種の試験の操作データおよび分析データを以下の表4にまとめる:
【0089】
【表4】

上記の結果は、H/CS比が3であると、二硫化炭素を全て変換するには水素量が不十分であることを示す。一方、3、6、および9の比全てについて、メチルメルカプタン選択性は100%であり、これは本発明による触媒のドープ処理のおかげである。
【実施例5】
【0090】
反応圧の効果の検討
上記の実施例2と同様に、二硫化炭素をメチルメルカプタンにする触媒水素化の各種試験を行なうが、ここでは反応媒体にかける圧を温度の関数として変える。試験した圧は0.3MPaおよび1.5MPaであり、試験した反応温度は200℃および250℃である。
【0091】
これらの試験の操作データおよび分析データを以下の表5にまとめる:
【0092】
【表5】

上記の結果は、高温高圧下ではCSの完全な変換が維持されるもののメタンの形成を伴うことを示す。全ての試験は、それぞれの場合においてDMSの生成がないことをはっきりと示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物でドープした少なくとも1種の金属を含む水素化触媒。
【請求項2】
金属は、元素の周期表の第6族および第8族の金属から選択され、好ましくは、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、およびこれらの2種以上の組合せ、好ましくはこれらの金属の2種の組合せ、特にCo/Mo、Ni/Mo、Ni/W、およびW/Moからなる群より選択され、ニッケルとモリブデンの組合せが特別好ましい、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
金属が酸化物または硫化物の形で存在する、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
アルミナ、シリカ、二酸化チタン、ゼオライト、チャコール、ジルコニア、マグネシア(MgO)、粘土、ハイドロタルサイトなど、およびこれら2種以上の混合物から選択される支持体に担持されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項5】
アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の酸化物および/または水酸化物の量は、触媒の全重量に対して、1から30重量%、好ましくは5から20重量%、および有利には8から14重量%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項6】
ドープ剤は水酸化カリウムまたは酸化カリウムである、請求項1から5のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項7】
水素化反応、特に硫黄含有化合物の水素化のための反応、より詳細にはCSを触媒水素化してメチルメルカプタンにするための触媒としての、請求項1から6のいずれか一項に記載の触媒の使用。
【請求項8】
触媒は、ニッケルおよびモリブデンを含み、アルミナに担持されており、および水酸化カリウムまたは酸化カリウムでドープされている、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
少なくとも1つの不飽和結合、好ましくは少なくとも1つのC=S官能基を保有する有機化合物、好ましくは二硫化炭素を触媒水素化する方法であって、水素化触媒は、請求項1から6のいずれか一項に記載の触媒であることを特徴とする、方法。
【請求項10】
少なくとも以下の工程:
a)必要に応じて金属酸化物を金属硫化物に変換する前処理を施した、少なくとも1種の請求項1から6のいずれか一項に記載の触媒の存在下、少なくとも1つの不飽和結合、好ましくは少なくとも1つのC=S官能基を保有する有機化合物、好ましくは二硫化炭素である有機化合物を水素と接触させる工程と、
b)水素圧下、100℃から400℃、好ましくは200℃から300℃の温度で反応を行なう工程と、および
c)生じたHSを分離するとともに、水素化生成物、即ち出発物質が二硫化炭素の場合はメチルメルカプタンを回収する工程、
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
二硫化炭素を触媒水素化してメチルメルカプタンにする方法である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
/CS比は、1:1から30:1、好ましくは1:1から10:1、より好ましくは2:1から9:1、および有利には3:1から6:1である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
連続して行なわれることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
溶媒を用いず、水も用いず行なわれ、必要に応じて不活性ガス、例えば窒素、アルゴンなどの存在下で行なわれることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
二硫化炭素の変換率は100%であり、メチルメルカプタン選択性は100%であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。

【公表番号】特表2012−506309(P2012−506309A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532693(P2011−532693)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052035
【国際公開番号】WO2010/046607
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】