説明

水素化触媒の再生方法

【課題】 気相での水素化に使用された水素化触媒を再生する方法であって、再生により新しい水素化触媒の元来の活性を大幅に復元する方法を提供する。
【解決手段】 気相における水素化に使用した水素化触媒を再生させる方法であって、処理条件下において酸化作用を有さない気体状態で存在する物質又は物質混合物により50℃〜300℃にてストリッピングを行うことを特徴とする水素化触媒の再生方法が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化触媒の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化触媒は多くの化学反応に使用されている。水素化触媒は、一般に周期表第VIII族元素、例えば鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金及びイリジウムを活性成分として含む。銅、銀、金、亜鉛、鉛、ビスマス又はアンチモン等の助触媒を付加的に使用してもよい。
【0003】
水素化触媒は、担体上に活性成分を含む形態で使用されることが多い。担体材料としては、金属、酸化アルミニウム、二酸化珪素等の金属酸化物、炭素繊維又はポリマーが頻繁に用いられる。
【0004】
炭化水素反応器中の反応体から、二次反応の結果としてグリーンオイルとして公知のオリゴマー又はポリマーが形成される。これらにより水素化触媒上で炭素を含む析出が生ずる。この結果、細孔が閉塞されて活性中心への接触が困難となり、触媒活性が低下し、触媒の再生が必要となる。古典的な再生方法では、炭素含有析出は酸化・燃焼させる。具体的には、約400℃〜約500℃の高温で触媒の存在下に空気中を通過させる方法が一般に用いられる。局所的な過熱を回避するために、水蒸気を添加することも多い。通常、この典型的な再生方法を用いて再生された触媒は、新しい触媒よりも活性が低いという不具合がある。
【0005】
WO94/00232号公報より、オレフィン流からアセチレン性の不純物を除去するために既に使用した触媒を、酸化処理は行わず、315℃〜400℃で、15.2cm/秒以上の線速度の水素流によるストリッピング行うことにより実質的に完全に再生する方法が公知である。
【0006】
WO02/00341号公報には、酸素含有ガスを使用する燃焼は行わずに、水素含有気体流を200℃〜1000℃にて触媒に対して通過させる工程を含む水素化触媒の再生方法が記載されている。
【0007】
GB-B907348号公報には、石油スピリットの選択的な水素化に用いられた後の、不活性触媒に施与されたニッケル触媒を再生させる方法が記載されている。同方法において、触媒は水素含有気体により150℃で1〜24時間にわたり現場(in-situ)又は現場付近(ex-situ)で処理される。
【0008】
【特許文献1】WO94/00232号公報
【特許文献2】WO02/00341号公報
【特許文献3】GB-B907348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、気相での水素化に使用された水素化触媒を再生する方法であって、再生により新しい水素化触媒の元来の活性を大幅に復元する方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者等は、気相における水素化に使用した水素化触媒を再生させる方法であって、処理条件下において酸化作用を有さない気体状態で存在する物質又は物質混合物により50℃〜300℃にてストリッピングを行うことを特徴とする水素化触媒の再生方法を見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のストリッピング方法では、50℃〜300℃の処理温度にて気体状態の物質又は物質混合物を、使用後の水素化触媒に対して通過させる。この方法では、グリーンオイル中の比較的揮発性の大きな成分は気体状となり、被覆を生じて使用中の水素化触媒の活性を低下させるグリーンオイル中の比較的揮発性の小さな成分は溶融し、流出する。
【0012】
本発明の方法では、処理中に酸化作用を有さないストリッピングガスを選択して用いることが必要である。
【0013】
本発明の方法によると、精製工程後に水素化触媒の表面が広く炭素に被覆されていたとしても、新しい触媒の本来の活性を実質的に完全に回復させることできる。
【0014】
本発明の方法は、C2及び/又はC3留分の選択的な水素化に用いられた後の水素化触媒を再生する場合に特に有効である。この場合の水素化は、フロントエンド水素添加とテイルエンド水素添加のいずれであってもよい。この方法に特に適する方法と触媒についてはDE−A19959064号公報に記載されており、同公報の記載は本明細書に完全に組み込まれているものとする。
【0015】
原則として、ストリッピングガスとしては水素化触媒に対する酸化作用を有さない全ての物質又は物質混合物が使用可能である。物質又は物質混合物は、水素、窒素、アルゴン、又は炭化水素、好ましくは飽和炭化水素、特に好ましくはメタンから選択されると好ましい。
窒素は、特に、その入手しやすさ、価格及び熱容量の理由で極めて好適である。窒素と水素との混合物も同様に有用である。
【0016】
ストリッピングは、70℃〜150℃、特に100℃〜150℃で行われると好ましい。
【0017】
ストリッピング時間は30分から数日間、特に好ましくは1時間から2日とされる。高温では、処理時間を短くするとよい。
【0018】
この他の処理の変形例では、水素化触媒をストリッピング処理することに加え、好ましくは非極性有機溶媒又は溶媒混合物によるすすぎ洗いを行う。水素化触媒上の炭素含有析出を少なくとも部分的に溶解する溶媒又は溶媒混合物がこの目的に適している。シクロヘキサン又はベンゼン/トルエン/キシレン留分が特に有用である。
【0019】
すすぎは20℃〜50℃、特に環境温度で行うことが好ましい。すすぎ処理温度の上限は、使用する溶媒又は溶媒混合物の沸点に応じて決定される。すなわち、沸点以下の温度で処理するとよい。すすぎの処理時間は、通常、50分から数日間で十分である。
【0020】
水素化触媒の水素化は、現場、上澄み液(溶媒)及び/又はポンプ循環されている溶媒中で行われる。しかしながら、水素化触媒を反応器から除去すること、例えば現場付近でのすすぎ、好ましくは上澄み液中及び/又は循環する溶媒中でのすすぎが可能であり、更に気体の導入及び/又は超音波の利用を付加的に行うと好ましい。
【0021】
水素化を行うにあたり、まず、水素化触媒をすすぎ、次いでストリッピング処理を行うことが特に好ましい。
【0022】
初めての再生以外の触媒の再生を行う場合には、上述のようにストリッピング、又はすすぎとストリッピングとにより触媒を2回以上処理し、ストリッピング、又はすすぎとストリッピングに、酸化処理を併用してもよい。炭素含有析出の被覆が長期にわたり進行していた場合にはこのような操作が必要となる。
【0023】
本発明の方法は、薄膜触媒の形態の水素化触媒を再生する場合に特に有用である。薄膜触媒の活性材料の膜厚は約0.01μm〜100μmの範囲である。薄膜の水素化触媒については、例えばEP−A0412415号公報、EP−A0564830号公報、又はEP−A0965384号公報に記載され、含浸(EP−A0412415号公報)、減圧蒸着(EP−A0564830号公報)、又はスパッタリング(EP−A0965384号公報)により得られる。
【0024】
薄膜水素化触媒は、1種類以上の水素化活性金属、特にパラジウム、特に好ましくは銀でドーピングしたパラジウムを含む活性成分を非多孔質、好ましくは金属担体、好ましくは織物状メッシュ又は編物状メッシュの形態の担体上に施与して形成されていると好ましい。
【0025】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
一体式(モノリシック)薄膜水素化触媒(以下、TFCの略称を用いる)の実験を行った。同触媒は編物状のステンレス鋼の担体上に活性成分としてのパラジウムと助触媒としての銀を含み、以下の方法により製造されたものである。
【0027】
材料No.1.4301からなりワイヤー径0.12mmの編物状金属メッシュの、20cm幅の帯状片を、マッフル炉で加熱した。上記予備加熱後の編物状メッシュを室温に冷却した後、巻き取った。
【0028】
次いで上記材料を、硝酸パラジウム、硝酸銀及び蒸留水を含む含浸溶液で処理した。
【0029】
このように含浸された編物状金属メッシュを乾燥させ、空気中でか焼した。
【0030】
得られたTFCを、以下の反応式で進行するヒドロ−デヒドロ−リナロール(HDHL)からヒドロ−リナロール(H−LIN)に選択的に水素化するための方法に使用した。
【0031】
【化1】

【0032】
研究室のガラス装置中の充填材を含む気泡塔内において、連続的かつ恒温的な逆流モードで反応を行った。触媒は上述の編物状金属メッシュから得られた2個の一体式形態部分から構成される。一体式形態部分は、それぞれ高さ200mm、長さ300mmであり、最終的に直径22mmに巻き取られたものである。担体の使用量は、純度99%のHDHL0.5kgであった。
【0033】
以下の処理パラメータを設定した。
【0034】
圧力 1.1バール
温度 80℃
反応液循環 200m3/m2/時間
気体循環 200m3/m2/時間
【0035】
[実施例1〜7及び比較例C1〜C3]
再生温度と時間の触媒活性に対する影響
上記TFCを、上記処理条件下で実験した。水素で還元することによりTFCを水素化活性形態に変換し、次いで不活性化のシュミレーションを行い、グリーンオイルに浸漬した。比較のため、蒸気/空気での慣用の酸化処理により再生したTFCと、窒素を用い本発明の方法により再生処理したTFCとを得た。再生温度と時間を変化させ、再生後の触媒活性を測定した。新しい触媒の変換率を100%とし、これに対するHDHLの上記の選択的水素化における相対的な変換率を得ることにより触媒活性の測定を行った。
【0036】
実験結果を表1に示す
【0037】
【表1】

【0038】
この結果より、再生の温度を上昇させ及び時間を増加させることにより、再生後の触媒活性に悪影響が与えられることがわかる。
【0039】
[比較例C4及びC5及び実施例7及び8]
3留分の選択的水素化用の製造反応器中で用いたTFCの活性に対する再生方法の影響
上記方法により得られ、DE−A10005663号公報に記載されたパケットの形態に成形したTFCを、C3留分中のプロピン及び/又はプロパジエンをプロピレンに選択的に水素化する製造反応器中で使用した。DE−A19959064号公報ではこれを「プロセスB」と称している。1年経過後、触媒を反応器から取り出し、再生を行わず(比較例C4)、蒸気/空気混合物の使用下に400℃で古典的な酸化再生を行い(比較例C5)、窒素流下、100℃で24時間ストリッピングを行う本発明の方法による再生を行い(実施例8)、又は反応器中で窒素により簡単にストリッピングを行い、次いで以下の処理条件下、すなわち
溶媒混合物容量/触媒容量: 1.5:1
時間 6時間
温度 25℃
でベンゼン/トルエン/キシレン溶媒混合物をすすぎ洗いすることにより(実施例9)、それぞれ再生を行った。
【0040】
全ての比較例(C4、C5)及び実施例(7、8)において、TFCの以下の特性を測定した。すなわち、
透過型電子顕微鏡を用いた一次粒径(単位:nm)、
X線光電子分光によるTFC表面における炭素含有率(単位:atom%)、
新しいTFCの変換率100%に対する、HDHLからH−LINへの選択的水素化における相対的変換率(C(rel.))、
を測定した。
【0041】
この結果を表2に記載する。
【0042】
【表2】

【0043】
実験結果により、本発明の再生方法では一次粒径に変化が生じないことがわかる。触媒表面での炭素含有率の低下が見られる。しかしながら、古典的な酸化再生方法と比較して本願発明での炭素含有率の低下の程度は小さい。すなわち本発明の方法における触媒表面での炭素含有率の低下は触媒活性を決定する決定的な要因ではない。従って、所望の変換率が達成されていると言える。また、本発明の再生方法は、新しい触媒を用いて得られた変換率をやや下回るのみであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相における水素化に使用した水素化触媒を再生させる方法であって、処理条件下において酸化作用を有さない気体状態で存在する物質又は物質混合物により50℃〜300℃にてストリッピングを行うことを特徴とする水素化触媒の再生方法。
【請求項2】
気相における水素化は、C2留分中のアセチレンの選択的水素化、又はC3留分中のプロピン及び/又はプロパジエンの選択的水素化であることを特徴とする請求項1に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項3】
ストリッピングに使用される物質又は物質の混合物が、水素、窒素、アルゴン、炭化水素、好ましくは飽和炭化水素、特に好ましくはメタンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項4】
窒素、又は窒素と水素との混合物をストリッピングに使用することを特徴とする請求項3に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項5】
ストリッピングを70℃〜250℃、好ましくは100℃〜150℃で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項6】
水素化触媒を、ストリッピング処理し、更に、好ましくは非極性有機溶媒又は溶媒混合物ですすぐことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項7】
すすぎを環境温度にて行うことを特徴とする請求項6に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項8】
すすぎを15分から複数日にて行うことを特徴とする請求項6又は7に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項9】
現場にて、好ましくは上澄み液中、及び/又はポンプ循環する溶媒中で行われる請求項6〜8のいずれか1項に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項10】
現場付近にて、好ましくは上澄み液中、及び/又はポンプ循環する溶媒中で、好ましくは気体の散布及び/又は超音波処理を用いて行われることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項11】
水素化触媒を、すすいだ後にストリッピングすることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項12】
水素化触媒を、請求項1〜5のいずれかに記載のストリッピング、又は請求項6〜11のいずれかに記載のすすぎとストリッピングにより2回以上再生させ、次いで酸化処理又は請求項1〜5のいずれかに記載のストリッピング又は請求項6〜11のいずれかに記載のすすぎとストリッピングと、酸化処理との組み合わせを行うことを特徴とする水素化触媒の反復再生方法。
【請求項13】
水素化触媒が薄膜触媒であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
水素化触媒が、好ましくは織物状メッシュ又は編物状メッシュの形態の非多孔質の好ましくは金属担体上に施された、1種類以上の水素化活性金属、好ましくはパラジウム、特に好ましくは銀ドープされたパラジウムを含む活性組成物から形成されていることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性組成物を非多孔質の金属担体上に施与することにより形成され、C2留分中のアセチレンの気相における選択的水素化、又はC3留分中のプロピン及び/又はプロパジエンの気相における選択的水素化に使用した水素化触媒を再生させる方法であって、処理条件下において酸化作用を有さない気体状態で存在する物質又は物質混合物により50℃〜300℃にてストリッピングを行うことを特徴とする水素化触媒の再生方法。
【請求項2】
金属担体が織物状メッシュ又は編物状メッシュの形態であることを特徴とする請求項1に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項3】
ストリッピングに使用される物質又は物質の混合物が、水素、窒素、アルゴン、炭化水素、好ましくは飽和炭化水素、特に好ましくはメタンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項4】
窒素、又は窒素と水素との混合物をストリッピングに使用することを特徴とする請求項3に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項5】
ストリッピングを70℃〜250℃、好ましくは100℃〜150℃で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項6】
水素化触媒を、ストリッピング処理し、更に、好ましくは非極性有機溶媒又は溶媒混合物ですすぐことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項7】
すすぎを環境温度にて行うことを特徴とする請求項6に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項8】
すすぎを15分から複数日にて行うことを特徴とする請求項6又は7に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項9】
現場にて、好ましくは上澄み液中、及び/又はポンプ循環する溶媒中で行われる請求項6〜8のいずれか1項に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項10】
現場付近にて、好ましくは上澄み液中、及び/又はポンプ循環する溶媒中で、好ましくは気体の散布及び/又は超音波処理を用いて行われることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項11】
水素化触媒を、すすいだ後にストリッピングすることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の水素化触媒の再生方法。
【請求項12】
水素化触媒を、請求項1〜5のいずれかに記載のストリッピング、又は請求項6〜11のいずれかに記載のすすぎとストリッピングにより2回以上再生させ、次いで酸化処理又は請求項1〜5のいずれかに記載のストリッピング又は請求項6〜11のいずれかに記載のすすぎとストリッピングと、酸化処理との組み合わせを行うことを特徴とする水素化触媒の反復再生方法。
【請求項13】
水素化触媒が薄膜触媒であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
水素化触媒が、1種類以上の水素化活性金属、好ましくはパラジウム、特に好ましくは銀ドープされたパラジウムを含む活性組成物から形成されていることを特徴とする請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2006−503690(P2006−503690A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−545855(P2004−545855)
【出願日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011410
【国際公開番号】WO2004/037409
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【Fターム(参考)】