説明

水素吸蔵合金粉末とその製造方法、水素吸蔵合金電極およびそれを用いたニッケル水素蓄電池。

【課題】放電容量が劣らず、且つ、充放電サイクル性能、急速充電したときの充電受け入れ性能に優れた水素吸蔵合金電極およびニッケル水素蓄電池を提供する。
【解決手段】水素吸蔵合金電極の活物質として、CaCu5型の結晶構造を有し、MmMgNiCoMnAlからなる水素吸蔵合金粉末1であって、少なくとも水素吸蔵合金粉末の内部にMgNiCoMnAl合金相からなる微細な偏析相が分散して存在している水素吸蔵合金粉末を適用する。また、好ましくは、前記水素吸蔵合金粉末の表面に、NiとCoの合金からなる表面層3を備えた水素吸蔵合金粉末を適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金粉末とその製造方法、それを用いた水素吸蔵合金電極およびニッケル水素蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素蓄電池は、耐過充電、耐過放電特性に優れ、一般ユーザーにとって使い易い電池であるところから、携帯電話、小型電動工具および小型パーソナルコンピュータ等の携帯用小型電子機器類用の電源として広く利用されており、これらの小型電子機器類の普及とともに需要が飛躍的に増大している。また、ハイブリッド型電気自動車(HEV)の駆動用電源としても実用化されている。そして、アルカリ蓄電池に対してはさらなる急速充電における充電受け入れ性能および充放電サイクル性能のさらなる向上が求められている。
【0003】
前記ニッケル水素蓄電池の負極は、活物質となる水素吸蔵合金粉末を主成分とするペーストを、鉄、ニッケルや銅等、耐アルカリ性で良導電性金属の多孔性基板に担持させたものである。
【0004】
前記水素吸蔵合金粉末としてはLa-Ni系の他にMg系、Ti系、Zr系の合金があるが、合金の活性が高いこと、耐久性が良いところからLa-Ni系の合金とりわけMmNiCoMnAlからなる水素吸蔵合金粉末が重用されている。
【0005】
しかし、前記水素吸蔵合金粉末を、表面改質処理を施さないで水素吸蔵合金電極の活物質として用いた場合、充電過程における水素吸蔵反応や正極で発生する酸素吸収反応に対する活性が乏しく、充電受け入れ性能に劣る欠点があった。また、放電性能も満足できるものではなかった。
【0006】
前記水素吸蔵合金粉末の活性の乏しさを補うために、水素吸蔵合金電極にラネーニッケルやラネーコバルトなど、水素吸蔵反応や酸素吸収反応に対して触媒として働く物質を添加することが提案されている。(例えば特許文献1参照)
【0007】
しかし、ラネーニッケルやラネーコバルトは高価であり、かつ、活性が高く空気雰囲気に放置すると酸化劣化を起こして変質するという欠点があった。
【0008】
また、水素吸蔵合金粉末を熱アルカリ水溶液中に浸漬し、水素吸蔵合金粉末の表面にNiに富む多孔性の層(Niリッチ層)を生成させることにより活性を高める方法も提案されている。該Niリッチ層は、主として水素吸蔵反応の触媒として作用するものと考えられる。(例えば特許文献2参照)
【0009】
しかし、水素吸蔵合金粉末を熱アルカリ水溶液中に浸漬する方法には処理後の合金粉末表面にMm(ミッシュメタル)が残存し、該Mmが折角生成させたNiリッチ層の触媒作用を阻害する虞があった。
【0010】
さらに、水素吸蔵合金粉末中に存在するMnやAlは特に水素吸蔵合金粉末の結晶粒界や表面に偏析し易く、偏析したMnやAlは水素吸蔵合金粉末に微細化などの劣化を引き起こす虞があった。水素吸蔵合金粉末の表面のMm、MnおよびAlを除去する方法として水素吸蔵合金粉末を塩酸等の酸の水溶液に浸漬する方法が提案されている。(例えば特許文献3参照)
【0011】
しかし、水素吸蔵合金粉末を塩酸等の酸の水溶液に浸漬する方法には、前記結晶粒界に偏析したMnやAlを除去することが難しい他に、該浸漬によって合金粉末表面に生成させたNi、Coリッチ層の母材からの剥離を引き起こしたり、合金が過剰に腐蝕し易いなどの欠点があった。
【0012】
近年、充放電を繰り返しても微細化し難い水素吸蔵合金として、MmMgNiCoMnAl系の水素吸蔵合金が提案されている。(例えば特許文献4参照)
【0013】
しかし、該合金をもってしても水素吸蔵合金の微細化を抑制することはできず、かつ、水素吸蔵反応および酸素吸収反応の活性が低いという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11-1111304号公報{頁3、段落(0009)}
【特許文献2】特開平7-29568号公報{頁2、段落(0006)}
【特許文献3】特開平6-88150号公報{頁2、段落(0010)〜(0011)}
【特許文献4】特開2002-80925号公報{頁2、段落(0004)〜(0005)}
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、前記従来技術の欠点に鑑みなされたものであって、従来のものに比べて急速充電を行ったときの充電受け入れ性能と充放電サイクル性能に優れた水素吸蔵合金電極およびそれを適用したニッケル水素蓄電池を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
MmMgNiCoMnAl合金系には、Mg、Mn、Al単独の偏析が生じ易く、該Mg、Mn、Alが単独に偏析すると合金の微細化が進む欠点があることが分かったが、鋭意検討した結果、MmMgNiCoMnAl合金中に微細なMgNiCoMnAlからなる合金相を分散した状態で生成させることによって、水素吸蔵合金粉末の微細化が抑制されることを見出して本発明に至った。また、表面にMgNiCoMnAl合金からなる層を生成させた水素粉末合金を熱アルカリ水溶液中に浸漬することによって、Mmを含まないNiとCoの合金が生成し、該合金層が水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵反応や酸素吸収反応に対して極めて優れた触媒作用を有することを見出して本発明に至った。
【0017】
前記の課題を解決するために、本発明は、以下の構成を採用するものである。
(1)本発明に係る水素吸蔵合金粉末は、CaCu型の結晶構造を有し、MmMgNiCoMnAl合金(Mmはミッシュメタルを表す)からなる母相の内部にMgNiCoMnAlからなる合金相が分散して存在していることを特徴とする水素吸蔵合金粉末である。
(2)本発明に係る水素吸蔵合金粉末は、前記のようにCaCuの結晶構造を有し、MmMgNiCoMnAl合金からなる母相の内部にMgNiCoMnAlからなる合金相が分散して存在する水素吸蔵合金粉末であって、表面にNiとCoの合金からなる層を備えたことを特徴とする水素吸蔵合金粉末である。
(3)本発明に係る水素吸蔵合金粉末の製造方法は、CaCu型の結晶構造を有し、MmMgNiCoMnAl合金からなる母相の内部にMgNiCoMnAlからなる合金相が分散して存在する水素吸蔵合金粉末の製造方法であって、前記MmMgNiCoMnAl合金相を母相とし、該母相から5〜100℃/sec.の冷却速度で冷却して偏析させることによって、前記MgNiCoMnAlからなる合金相を生成させることを特徴とする水素吸蔵合金粉末の製造方法である。
(4)本発明に係る水素吸蔵合金粉末の製造方法は、CaCu5型の結晶構造を有し、MmMgNiCoMnAl合金からなる母相の内部にMgNiCoMnAlからなる合金相が分散して存在し、表面にNiとCoの合金からなる層を備えた水素吸蔵合金粉末の製造方法であって、MmMgNiCoMnAl合金からなる母相から偏析させることによって生成させたMgNiCoMnAl合金からなる層を表面に有する水素吸蔵合金粉末を、水酸化カリウムと水酸化リチウムとを含む熱アルカリ水溶液中に浸漬処理することによって、前記NiとCoの合金からなる層を生成させることを特徴とする水素吸蔵合金粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水素の吸蔵および放出を繰り返し行っても、微細化による劣化が生じにくい水素吸蔵合金粉末とすることができる。(請求項1)
本発明によれば、水素吸蔵反応や酸素吸収反応に対する活性が高い水素吸蔵合金粉末とすることができる。(請求項2)
本発明によれば、水素の吸蔵および放出を繰り返し行っても、微細化による劣化が生じにくい水素吸蔵合金粉末を容易に得ることができる。(請求項3)
本発明によれば、水素吸蔵反応や酸素吸収反応に対する活性が高い水素吸蔵合金粉末を容易に得ることができる。(請求項4)
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る水素吸蔵合金粉末の構成を模式的に示すための水素吸蔵合金粉末の切断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明に係る水素吸蔵合金粉末の構成を模式的に示す、水素吸蔵合金粉末の断面図である。該水素吸蔵合金粉末は複数の結晶粒子の集合体からなる多結晶体であり、結晶粒子と結晶粒子の境目には結晶の粒界(図示せず)が存在する。図1の1は、水素吸蔵合金粉末の主成分であるCaCu5型の結晶構造を有し、MmMgNiCoMnAl合金からなる母相である。2は前記粒界に位置し、水素吸蔵合金の内部に分散して存在するMgNiCoMnAlからなる微細な合金相である。水素吸蔵合金粉末の平均粒径が数十μm(20〜80μm)であるのに対して、MgNiCoMnAlからなる合金相2は、直径が数μm(1〜5μm)の小さな塊状である。
【0021】
前記、MgNiCoMnAlからなる微細な合金相2は、MmMgNiCoMnAl合金からなる水素吸蔵合金を溶融状態から冷却固化する過程において、後記の特定の冷却速度で冷却したときに前記母相から偏析させることによって生成した相である。即ち、母相を構成する元素のうち、融点の低いMg、Mn、Alが冷却の過程で結晶粒界に移行し、Mmを含まないMgNiCoMnAl 合金相が生成したものと考えられる。
【0022】
MgNiCoMnAl合金を外部添加するのとは異なり、前記のように母相から MgNiCoMnAlからなる合金相を生成させると、母相の組成に変化が生じ、Mg、Mn、Al単独の偏析が抑制されるものと考えられる。また、偏析によって生成させたMgNiCoMnAl合金相2(以下偏析相と記述する)は、前記のように微細な塊状であって、かつ水素吸蔵合金粉末の内部に分散しているので、水素吸蔵合金粉末内における水素の拡散を妨げない点でも好ましい形態であると考えられる。
【0023】
前記図1の2に示したMgNiCoMnAlからなる微細な合金相(以下偏析相という)が水素吸蔵合金に占める比率は、0.5〜1.5wt%が好ましく、0.8〜1.2wt%がさらに好ましい。該偏析相の比率が0.5wt%を下回るとMmMgNiCoMnAl合金相に含まれるMg、Mn、Alが単独で偏析する虞があり、1.5wt%を超えると水素吸蔵合金の容量(mAh/g)が低くなる虞がある。
【0024】
本発明に係るMmMgNiCoMnAl合金からなる水素吸蔵合金粉末において、前記偏析相はMmMgNiCoMnAl合金を溶融させた状態から適度の冷却速度で冷却固化することによって生成させることができる。前記偏析相を生成させるためには、MmuMgvNiwCoxMnyAlzのu、v、w、x、y、zが、それぞれu:0.94〜0.98、v:0.02〜0.06、w:3.5〜4.0、x:0.2〜1.0、y:0.1〜0.6、z:0.1〜0.4であることが好ましい。uが0.94未満では合金の容量(mAh/g)が低くなる虞があり、0.98を超えるとMgNiCoMnAl系の合金形成が困難となる虞がある。vが0.02未満ではMgNiCoMnAl系の合金形成が困難となる虞があり、0.06を超えると合金の容量(mAh/g)が低くなる虞がある。wが3.5未満では合金の容量(mAh/g)が低くなる虞があり、4.4を超えると合金の耐久性が低くなる虞がある。xが0.2未満では合金の耐久性が低くなり、1.0を超えると合金の容量(mAh/g)が低くなる虞がある。yが0.1未満では合金の容量(mAh/g)が低くなる虞があり、0.6を超えると合金の耐久性が低くなる虞がある。zが0.1未満では合金の耐久性が低くなる虞があり、0.4を超えると合金の容量(mAh/g)が低くなる虞がある。
【0025】
また、水素吸蔵合金を溶融状態から冷却して固化させる時の冷却速度は、5〜100℃/sec.の範囲とするが、10〜50℃/sec.が好ましい。冷却速度が5℃/sec.未満では合金の耐久性が低くなる虞があり、100℃/sec.を超えると、MgNiCoMnAl系の合金相(偏析相)の形成が困難となる虞があるので好ましくない。
【0026】
本発明に係る水素吸蔵合金粉末の好ましい実施形態によれば、図1に示すように合金粉末の表面にNiおよびCoの合金からなる層3(以下表面層と記述する)が形成されている。該表面層3は、以下のような機構で生成すると考えられる。前記結晶粒界にMgNiCoMnAl合金相を生成した合金のインゴットを粉砕し粉末を得る過程で、インゴットは合金の結晶粒界に沿って粉砕され、得られた粉末の表面にはMgNiCoMnAl合金相からなる層が形成される。該合金粉末を熱アルカリ水溶液に浸漬処理すると、Mg、Mn、Alがアルカリ水溶液中に溶出し、合金粉末の表面にMmを含まないNiとCoからなる合金の層が形成する。
【0027】
前記浸漬処理するための処理液は、濃度が数モル/l(5〜10モル/l)のKOHとLiOHとを含む混合水溶液を用いる。該アルカリ水溶液は、塩酸等の酸の水溶液がNi、Coも溶出する傾向が強いのと異なり、Mg、Mn、Alを選択的に溶出する性質を持つ。従って、アルカリ処理液に浸漬すると水素吸蔵合金粉末表面のMg、Mn、Alが選択的に溶出する。アルカリ処理液には表面層の触媒作用を阻害するMmを溶出し難い欠点があるが、本発明に係る水素吸蔵合金粉末は、前記のように表面にMmを含まないMgNiCoMnAl合金相からなる層が形成されているので、アルカリ水溶液浸漬処理をすることによって、表面にNiとCoの合金からなる表面層が生成する。前記のように、アルカリ処理液はNiおよびCoを溶出し難く、Mg、Mn、Alを選択的に溶出するので、前記表面層は、Mg、Mn、Alが溶出した後が微細な孔をなした活性度の高い多孔質の層と考えられ、そのために、水素吸蔵合金粉末が水素を吸蔵する反応および酸素を吸収する反応を促進する触媒として作用するものと考えられる。
【0028】
前記表面層3の水素吸蔵合金粉末に占める比率が大きくなると、水素吸蔵合金粉末の質量飽和磁化が大きくなり、前記層3の生成量と質量飽和磁化との間に相関性がある。本発明においては、水素吸蔵合金粉末の質量飽和磁化が0.5〜3.1A・m2/g(約3A・m2/kg)であることが好ましい。質量飽和磁化が0.5A・m2/g未満では、表面層の形成が不足し、水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵反応や酸素吸収反応に対する活性が低く、高率充電を行ったときの充電受け入れ性能が劣ったり、充電時に電池の内圧が高くなる虞がある。また、質量飽和磁化が約4A・m2/gを超えると、表面層の形成が過剰となり、合金の容量(mAh/g)が低くなる虞がある。
【0029】
本発明に係るMmMgNiCoMnAl合金相を主成分とする水素吸蔵合金粉末の比表面積は、0.2〜2m2/gであることが好ましく、0.2〜1m2/gであることがさらに好ましい。比表面積が0.2m2/gを下回ると、水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵反応や酸素吸収反応の速度が低くなるする虞があり、2m2/gを超えると電解液に対する耐食性が低くなる虞がある。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
(水素吸蔵合金粉末の作製)
Mm0.95Mg0.05Ni3.7Co0.75Mn0.4Al0.3(Mm:La50wt%、Ce25wt%、Pr5wt%、Nd20wt%からなる合金)からなる合金塊を高周波誘導炉内においてアルゴン雰囲気下で溶融させた。生成した溶湯を鋳型に注入することによって徐冷し、水素吸蔵合金の1kgのインゴットを得た。該冷却固化の過程で溶湯の注入速度を制御することによって、溶湯が冷えて固化に至るまでの冷却速度を20℃/sec.になるように制御した。得られたインゴットを、雰囲気炉を用いてアルゴン雰囲気下において、1050℃に加熱し、該温度に6時間保持した後、前記インゴットを雰囲気炉に隣接する内部をアルゴン雰囲気に保った予備室に引き出し、インゴットの温度が約100℃になるまで冷却した。前記の手順で得られたインゴットを、ミルを用いて粉砕し、平均粒径(D50)が50μmの水素吸蔵合金粉末を得た。
【0031】
(水素吸蔵合金粉末の熱アルカリ水溶液中への浸漬処理)
前記水素吸蔵合金粉末100gを、6.8M/lのKOHと0.8M/lのLiOHを溶解した温度100℃の水溶液中に2時間浸漬し、撹拌した。該溶液を濾別し、得られた水素吸蔵合金粉末を、洗浄水のpHが9になるまで繰り返し水洗した。
【0032】
(偏析相の生成量および組成の定量分析)
熱アルカリ水溶液中への浸漬処理を施さない水素吸蔵合金粉末および浸漬処理を施した後の水素吸蔵合金粉末を別々にエポキシ樹脂に混ぜて硬化させ、硬化物を切断研磨して、切断面に合金粉末の断面を露出させた。該切断面をX線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて元素分析を行った。走査範囲を0.5×0.5mm、ステップ幅を0.001mmとした。
【0033】
分析の結果、KOHとLiOHとを含む熱アルカリ水溶液中への浸漬処理を施さない水素吸蔵合金粉末においてはMmMgNiCoMnAlからなる合金相(母相)と、粉末の表面にMgNiCoMnAlからなる合金相(表面層)および粉末の内部に直径約3μmのMgNiCoMnAlからなる合金相(偏析相)が分散して存在するのを認めた。他方、KOHとLiOHとを含む熱アルカリ水溶液中への浸漬処理を施した後の水素吸蔵合金粉末においては、粉末の表面にNiとCoからなる合金相(表面層)が存在し、粉末の内部には熱アルカリ水溶液中への浸漬処理を施さないものと同じMgNiCoMnAlからなる合金相(偏析相)が分散して存在するのを認めた。組成分析により、前記偏析相および表面層の構成元素の定量をおこなった。また、前記元素分析において、粉末の内部に存在する領域であって、Mmが検出されず、MnとAlの濃度が、MmMgNiCoMnAl合金相中のMnとAlの濃度の3倍以上の領域をMgNiCoMnAl合金相(偏析相)領域とし、該領域の面積のサンプルの切断面に占める比率(%)からサンプルに含まれる偏析相の比率を算定した。
【0034】
(質量飽和磁化、比表面積の測定および結晶構造解析)
前記水素吸蔵合金粉末0.3gを精秤し、サンプルホルダーに充填して(株)理研電子製、試料振動磁力計(モデルBHV−30)を用いて5kエルステッドの磁場をかけて測定した。さらに、窒素吸着法により比表面積(BET表面積)を測定した。また、前記水素吸蔵合金粉末の結晶構造を粉末X線回折(XRD)によって分析した。その結果、得られた水素吸蔵合金粉末はCaCu5形の結晶構造を持つことが確認された。
【0035】
(水素吸蔵合金電極の作製)
前記水素吸蔵合金粉末100重量部に結着剤としてスチレンブタジエンラバー(SBR)1重量部、増粘剤として濃度1wt%のメチルセルロース(MC)水溶液13重量部を加えて混練し、ペースト状とした。該負極ペーストを厚さ0.05mm、開口率40%のニッケルメッキを施した穿孔鋼板の両面に塗布乾燥した後ロール掛けして、厚さ0.4mmの帯状の原板を得た。該原板を所定の寸法に裁断して負極板とした。該負極板の活物質(水素吸蔵合金)の充填量は9.3gであった。
【0036】
(ニッケル水素蓄電池の作製)
亜鉛を3wt%、コバルトを3wt%固溶状態で含有し、表面に水酸化コバルトの被覆層を形成した平均粒径10μmの水酸化ニッケル粉末80重量部に、増粘材であるカルボキシルメチルセルロース(CMC)の濃度が1wt%の水溶液20重量部を添加混練してペースト状とした。該正極ペーストを、厚さ1.4mm、面密度450g/m2の発泡ニッケル基板に充填し、乾燥後ロール掛けして厚さ0.8mmの原板とした。該原板を所定の寸法に裁断し、集電用タブを取り付けて正極板とした。該正極板の活物質充填量から算定される正極板の容量は1600mAhであった。該正極板と前記負極板を、親水処理を施したポリプロピレン繊維からなる厚さ100μmの不織布(セパレータ)を間に挟んで積層し、該積層体を捲回して捲回式極板群とした。該捲回式極板群を金属製電槽に挿入した後、正極板のタブの一端に正極端子兼キャップを接合し、電解液として6.8M/lのKOHと0.8M/lのLiOHを溶解させたアルカリ水溶液を注入した後、前記キャップにより電槽の開口端を気密に封口してAAサイズの円筒形ニッケル水素蓄電池とした。
【0037】
(初期化成)
前記ニッケル水素蓄電池を周囲温度20℃において0.02ItAで10時間充電し、引き続き0.25ItAで5時間充電した。続いて0.2ItAで放電し電圧が1.0Vになった時点で放電を打ち切った。次いで0.2ItAで6時間充電した後、放電打ち切り電圧を1.0Vとして0.2ItAで放電した。該充放電を1サイクルとして、該充放電サイクルを9回繰り返し実施した。
【0038】
(充放電サイクル試験)
前記初期化成済みの電池を10個用意し、周囲温度20℃において充放電サイクル試験に供した。1ItAで1.05時間(63分間)充電した後、0.5時間休止し、引き続いて放電打ち切り電圧を1.0Vとして1ItAで放電した。該充放電サイクル試験の1サイクル目の放電容量に対して放電容量が80%に低下したサイクル数をもってその電池のサイクル寿命とした。
【0039】
(急速充電試験)
前記初期化成済みの電池を10個用意し、該10個の電池のうち5個について、周囲温度20℃において急速充電を行ったときの充電受け入れ性能を評価した。用意した電池を、4ItAで13.5分間充電し、引き続き、放電打ち切り電圧を1.0Vとして1ItAで放電した。放電持続時間より算定された放電容量の前記充電(4ItAで13.5分間充電)における充電電気量に対する比率を充電受け入れ(%)とした。前記10個の電池のうち、残りの5個の電池に電池の内部圧力を測定するための圧力センサーを取り付け、前記と同じ上面で急速充電を行ったときの電池の内部圧力をモニターし、最高到達圧力を測定した。
【0040】
(負極の単極試験)
前記負極の原板を裁断して、30mm×30mmの大きさの極板を採取した。該負極板1枚の両側にセパレータを介して35mm×35mmのニッケル電極板(正極板)2枚を配置し(正極板の容量を負極板の容量の約3倍になるように設定した)、前記円筒形ニッケル水素蓄電池と同一組成の電解液を注入し、開放形セルを作製した。また、該セルに参照電極としてHg/HgO電極を挿入した。該セルを、周囲温度20℃において、0.1ItAにて16時間充電し、0.2ItAにて負極の参照電極に対する電位が−0.6Vになるまで放電した。該充放電サイクルを10サイクル繰り返し行い、安定した放電容量が得られることを確認した。前記セルを5個用意し、5個のセルの、前記10サイクル目の放電容量の平均値を供試負極板の単極試験での放電容量とした。
【0041】
(実施例2)
前記実施例1において溶融した水素吸蔵合金を冷却し固化するまでの冷却速度を50℃/sec.とした。それ以外は、実施例1と同じとした。該例を実施例2とする。
(実施例3)
前記実施例1において溶融した水素吸蔵合金を冷却し固化するまでの冷却速度を10℃/sec.とした。それ以外は、実施例1と同じとした。該例を実施例3とする。
【0042】
(比較例1)
前記実施例1において溶融した水素吸蔵合金を、高速で回転する金属製ロールの表面に滴下し、急冷固化(双ロール法、冷却速度は約1000℃/sec.)した。それ以外は、実施例1と同じとした。該例を比較例1とする。
【0043】
(比較例2)
前記実施例1において、水素吸蔵合金粉末を作製するするための水素吸蔵合金塊として、Mm1.0Ni3.7Co0.75Mn0.4Al0.3(Mm:La50wt%、Ce25wt%、Pr5wt%、Nd20wt%からなる合金)で示される組成の合金を用いた。それ以外は実施例1と同じとした。該例を比較例2とする。
【0044】
(実施例4)
前記実施例1において、水素吸蔵合金粉末の熱アルカリ水溶液中への浸漬時間を0.5時間とした。それ以外は実施例1と同じとした。該例を実施例4とする。
(実施例5)
前記実施例1において、水素吸蔵合金粉末の熱アルカリ水溶液中への浸漬時間を10時間とした。それ以外は実施例1と同じとした。該例を実施例5とする。
(参考例1)
前記実施例1において、水素吸蔵合金粉末の熱アルカリ水溶液中への浸漬時間を15時間とした。それ以外は実施例1と同じとした。該例を参考例1とする。
(参考例2)
前記実施例1において、水素吸蔵合金粉末の熱アルカリ水溶液中への浸漬を行わなかった。それ以外は実施例1と同じとした。該例を参考例2とする。
【0045】
表1に、実施例1〜実施例5,参考例1、参考例2、比較例1、比較例2に係る水素吸蔵合金粉末の分析結果を示す。
【0046】
【表1】

表1に示したとおり、実施例1〜実施例5、参考例1、参考例2に係る水素吸蔵合金粉末においては、CaCu5形の結晶構造を持つMmMgNiCoMnAlからなる合金相(母相)の内部に MgNiCoMnAlからなり、直径が3μmの塊状の合金相(偏析相)が偏析し、水素吸蔵合金粉末の内部に分散して存在するのを認めた。これに対して、比較例1に係る水素吸蔵合金粉末においては、前記MgNiCoMnAlからなる、合金相の偏析は認められず、水素吸蔵合金粉末の内部にMg、MnおよびAlが単独に偏析しているのが認められた。また、Mgを含まない水素吸蔵合金粉末を適用した比較例2においては水素吸蔵合金粉末の内部にMnおよびAlが単独に偏析しているのが認められた。さらに、実施例1〜実施例5、参考例1に係る水素吸蔵合金粉末においては、その表面にMmを含まず、NiとCoからなる合金相の層の生成が認められたのに対して、水素吸蔵合金粉末の熱アルカリ水溶液中への浸漬処理を施していない参考例2では、水素吸蔵合金粉末の表面に前記偏析相と同じMgNiCoMnAl合金からなる層が観察された。また、比較例1および比較例2に係る水素吸蔵合金粉末においては、表面の層にNiとCo以外にMmの存在が認められた。
【0047】
表2に、実施例1〜実施例5、参考例1、参考例2,比較例1、比較例2に係る円筒形ニッケル水素蓄電池および負極板単極試験結果を示す。なお、負極板単極試験結果は、実施例1の放電容量を100%とした相対的な数値で示した。
【0048】
【表2】

表2に示したとおり、実施例および参考例に係るニッケル水素蓄電池は、比較例電池に比べて充放電サイクル性能に優れる。このように優れたサイクル性能は、実施例電池においては、充放電を繰り返し行っても水素吸蔵合金粉末の微細化が抑制されて水素吸蔵合金粉末の容量低下が低減したことによるものであり、このことは実施例および参考例の場合、水素吸蔵合金粉末内部にMg、Mn、Alが単独に析出した偏析相の生成が抑制されたためと考えられる。
【0049】
また、実施例1〜実施例5および参考例1に係るニッケル水素蓄電池は、急速充電時の内圧上昇が抑制され、かつ、充電受け入れ性能が良い。これは、ニッケル水素吸蔵合金粉末の表面に形成された、NiとCoの合金相からなる多孔性表面層が、水素吸蔵合金の水素吸蔵反応および酸素吸収反応に対して良好な触媒作用を有するためと考えられる。これに対して、参考例2においては、水素吸蔵合金粉末の表面に実施例のようなNiとCoの合金相からなる表面層が形成されていないために、電池の内圧上昇が大きく、セパレータに含まれる電解液が押し出されて、セパレータが液涸れ現象をおこしたことが一因となって、容量低下が速くなったものと考えられる。比較例1、比較例2においては、前記セパレータの液涸れに加えて、水素吸蔵合金粉末の微細化が起きたために、さらにサイクル性能が低くなったものと考えられる。
【0050】
表2に示したように、負極単極試験における参考例1の放電容量が実施例や参考例2および比較例に比べて少し低い。参考例1は、水素吸蔵合金粉末を15時間という長時間に亘って熱アルカリ水溶液中に浸漬処理したために、水素吸蔵合金粉末表面の浸食が進んだものとなった。このことは、前記表1に示したように、参考例1の水素吸蔵合金粉末の比表面積が3.7m2/gと大きく、質量飽和磁化が4A・m2/kgを超えており、水素吸蔵合金粉末の比表面積と質量飽和磁化が実施例、参考例2、比較例の水素吸蔵合金粉末に比べて大きくなると同時に、水素吸蔵合金自体の放電容量(mAh/g)の低下をもたらしたものと考えられる。参考例1の場合、水素吸蔵合金粉末の放電容量が低かったために、円筒形ニッケル水素蓄電池を作製したときに充電リザーブ量が小さくなり、実施例に比べてサイクル性能が少し低くなったものと考えられる。これに対して、水素吸蔵合金粉末の比表面積が2m2/g、質量飽和磁化が、3.1A・m2/kgである実施例5の場合は、水素吸蔵合金粉末の容量およびサイクル寿命が実施例1〜実施例3に比べて僅かに低いが参考例1を上回っている。また、水素吸蔵合金粉末の比表面積が0.03m2/g、質量飽和磁化が、0.2A・m2/kgである参考例2においては実施例に比べてサイクル性能、急速充電受け入れ性能が少し劣り、電池内圧も高いのに対して、水素吸蔵合金粉末の比表面積が0.2m2/g、質量飽和磁化が、0.5A・m2/kgである実施例4においては、サイクル性能、急速充電受け入れ性能、電池内圧上昇が抑制されている点において良好な性能を示した。このことから、水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵合金粉末の比表面積は、0.2〜2m2/gが好ましく、質量飽和磁化は、0.5〜3.1A・m2/kg(約3A・m2/kg)が好ましいことが分かる。
【0051】
以上実施例によって、本発明の詳細な説明を行ったが、本発明は、上記実施例と記載したものに限定されるものではない。本発明は、例えば、正極活物質を予め酸化剤を用いて酸化する方法や充電することによって部分的に酸化して、負極に生成する放電リザーブ量を低減させたり、正極にイッテルビウム(Yb)、イットリウム(Y)などの希土類元素を添加して充電効率を高めたり、あるいは、負極にイッテルビウム(Yb)、イットリウム(Y)などの希土類元素を添加して、水素吸蔵合金粉末の腐蝕を抑制したアルカリ蓄電池に対しても適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 水素吸蔵合金粉末
2 偏析層
3 表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaCu5型の結晶構造を有し、MmMgNiCoMnAl合金(Mmはミッシュメタルを表す)からなる母相の内部にMgNiCoMnAlからなる合金相が分散して存在し、該合金相は1〜5μmの塊状であることを特徴とする水素吸蔵合金粉末。
【請求項2】
表面にNiとCoの合金からなる層を備えたことを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金粉末。

【図1】
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【公開番号】特開2011−102433(P2011−102433A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256567(P2010−256567)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【分割の表示】特願2003−326755(P2003−326755)の分割
【原出願日】平成15年9月18日(2003.9.18)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】