説明

水素吸蔵放出触媒およびそれを用いた水素吸蔵複合材料

【課題】 水素吸蔵材料の水素吸蔵、放出速度を速め、水素吸蔵、放出温度の低温化を実現することのできる水素吸蔵放出触媒を提供する。また、より低温で多量の水素を吸蔵、放出することのできる水素吸蔵複合材料を提供する。
【解決手段】 水素吸蔵放出触媒を、無機酸化物および炭素材料の少なくとも一方からなる担体と、該担体に担持された金属粒子とから構成する。また、この水素吸蔵放出触媒を水素吸蔵材料に高分散状態で複合化させて、水素吸蔵複合材料とする。水素吸蔵放出触媒は、水素吸蔵材料の水素吸蔵放出特性を向上させる。よって、該水素吸蔵放出触媒を複合化した水素吸蔵複合材料は、より低温下で、多量の水素を吸蔵、放出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵材料の水素吸蔵放出特性を向上させる水素吸蔵放出触媒、およびそれを用いた水素吸蔵複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出による地球の温暖化等の環境問題や、石油資源の枯渇等のエネルギー問題から、クリーンな代替エネルギーとして水素エネルギーが注目されている。水素エネルギーの実用化にむけて、水素を安全に貯蔵、輸送する技術の開発が重要となる。水素の貯蔵方法にはいくつかの候補があるが、なかでも水素を可逆的に吸蔵、放出することのできる水素吸蔵材料を用いる方法が有望である。水素吸蔵材料として、活性炭、フラーレン、ナノチューブ等の炭素材料や、種々の金属水素化物が知られている。
【0003】
例えば、マグネシウム(Mg)は、水素と反応してMgH2なる水素化物を生成する。マグネシウムは、軽量で、水素吸蔵量が大きいことから、水素吸蔵材料の一つとして注目されている。しかし、水素の吸蔵、放出に300℃程度の高温を必要とし、水素の吸蔵、放出速度も極めて遅いため、実用に適さない。このため、マグネシウムの水素吸蔵放出特性を向上すべく、金属等の触媒を用いる試みがなされている。例えば、非特許文献1には、MgH2にニッケル(Ni)等の遷移金属を添加して、機械的粉砕処理を行う試みが開示されている。また、特許文献1には、Mg粒子の表面および内部にNi等の触媒金属粒子を持つ水素吸蔵合金粒子が開示されている。
【非特許文献1】G.Liang、他4名、”Catalytic effect of transition metals on hydrogen sorption in nanocrystalline ball milled MgH2-Tm(Tm=Ti,V,Mn,Fe and Ni)”、「Journal of Alloys and Compounds」、1999年、vol.292、p.247−252
【特許文献1】特開2003−166024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記非特許文献1には、機械的粉砕処理して得られたMgH2−Tm(Tm:Ti、V、Mn、Fe、Ni)の235〜300℃における水素放出特性が示されている。また、同文献によれば、29℃で水素を吸蔵させた場合、Niを添加したMgH2−Niは、MgH2と同様、ほとんど水素を吸蔵しない。一方、特許文献1においても、310℃における水素吸蔵放出特性が示されているにすぎず、水素吸蔵、放出温度の低温化は実現していない。このように、マグネシウム系材料の水素吸蔵放出特性は、実用にはいまだ充分とはいえない。
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、水素吸蔵材料の水素吸蔵、放出速度を速め、水素吸蔵、放出温度の低温化を実現することのできる水素吸蔵放出触媒を提供することを課題とする。また、この水素吸蔵放出触媒を用いることで、より低温で多量の水素を吸蔵、放出することのできる水素吸蔵複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水素吸蔵放出触媒は、無機酸化物および炭素材料の少なくとも一方からなる担体と、該担体に担持された金属粒子とからなり、水素吸蔵材料の水素吸蔵放出特性を向上させることを特徴とする。
【0007】
本発明の水素吸蔵放出触媒は、金属粒子が担体に担持された構造を有する。このような担持構造では、金属粒子は担体ほぼに均一に分散している。よって、担持構造を採用することで、本発明の水素吸蔵放出触媒を水素吸蔵材料と複合化した場合に、水素吸蔵材料に微細な金属粒子をほぼ均一に分散させることができる。本発明の水素吸蔵放出触媒では、主として金属粒子が水素吸蔵、放出速度を速める触媒としての役割を果たす。一方、担体となる無機酸化物、炭素材料も水素吸蔵、放出速度を速める触媒能を持つ。このため、本発明の水素吸蔵放出触媒は、水素吸蔵材料の水素吸蔵、放出速度を速める触媒能が高い。よって、本発明の水素吸蔵放出触媒によれば、水素吸蔵材料の水素吸蔵、放出速度が速くなり、水素吸蔵、放出温度の低温化を実現することができる。
【0008】
また、本発明の水素吸蔵複合材料は、水素吸蔵材料に上記本発明の水素吸蔵放出触媒が高分散状態で複合化してなることを特徴とする。上述したように、本発明の水素吸蔵放出触媒は、水素吸蔵材料の水素吸蔵、放出速度を速める触媒能が高い。また、水素吸蔵材料に本発明の水素吸蔵放出触媒を複合化した場合、微細な金属粒子が水素吸蔵材料にほぼ均一な状態、つまり高分散状態で複合化する。これにより、水素吸蔵材料の表面に吸着した水素分子は解離され易く、解離した水素原子は内部に拡散し易くなる。したがって、本発明の水素吸蔵複合材料は、より低温で多量の水素を吸蔵、放出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水素吸蔵放出触媒は、無機酸化物および炭素材料の少なくとも一方からなる担体と、該担体に担持された金属粒子とからなる。本発明の水素吸蔵放出触媒によれば、水素吸蔵材料の水素吸蔵、放出速度を速め、水素吸蔵、放出温度の低温化を実現することができる。また、本発明の水素吸蔵複合材料は、水素吸蔵材料に本発明の水素吸蔵放出触媒が高分散状態で複合化してなる。本発明の水素吸蔵放出触媒により水素吸蔵、放出速度が速くなり、本発明の水素吸蔵複合材料は、より低温下で、多量の水素を吸蔵、放出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の水素吸蔵放出触媒および水素吸蔵複合材料について詳細に説明する。なお、本発明の水素吸蔵放出触媒および水素吸蔵複合材料は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0011】
〈水素吸蔵放出触媒〉
本発明の水素吸蔵放出触媒は、無機酸化物および炭素材料の少なくとも一方からなる担体と、該担体に担持された金属粒子とからなる。担体は、無機酸化物だけで構成してもよく、炭素材料だけで構成してもよい。また、無機酸化物および炭素材料の両方で構成してもよい。無機酸化物を用いると、金属粒子の分散性が向上する。炭素材料を用いると、金属粒子の凝集が抑制されることに加え、本発明の水素吸蔵放出触媒の製造において、還元処理を比較的低温で行うことができる。よって、担体を無機酸化物および炭素材料の両方で構成すると、担持する金属粒子量を多くすることができ好適である。
【0012】
無機酸化物としては、アルミナ、シリカゲル、シリカ・アルミナ、ゼオライト、チタニア、ジルコニア等を用いればよい。なかでも、アルミナは、金属粒子が分散し易く好適である。炭素材料としては、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー、フラーレン、カーボンブラック等を用いればよい。できるだけ、比表面積が大きいものが望ましい。これら無機酸化物および炭素材料のうち一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0013】
担体に担持される金属粒子は、水素に対して活性が高いことが望ましく、例えば、周期表の4〜10族元素から選ばれる一種類以上の元素を含むことが望ましい。本明細書では、元素をIUPAC(1989)の周期表に基づいて特定する。すなわち、4族元素はTi、Zr、Hf、5族元素はV、Nb、Ta、6族元素はCr、Mo、W、7族元素はMn、Tc、Re、8族元素はFe、Ru、Os、9族元素はCo、Rh、Ir、10族元素はNi、Pd、Ptである。これらの元素のなかでも、Ni、V、Tiは、水素吸蔵、放出速度を速める触媒能が高い。よって、金属粒子を、Ni、V、Tiから選ばれる一種類以上の元素で構成すると好適である。なお、金属粒子は、一種類でもよく、二種類以上であってもよい。
【0014】
触媒活性を高くするという観点から、金属粒子の粒子径はできるだけ小さいことが望ましい。例えば、金属粒子の平均粒子径を100nm以下とするとよい。50nm以下とするとより好適である。金属粒子の平均粒子径は、例えば、以下に示す粉末X線回折法により求めることができる。
【0015】
まず、グラファイトモノクロメータで単色化したCuΚα線を線源とし、反射式ディフラクトメータ法により、本発明の水素吸蔵放出触媒の広角X線回折強度曲線を測定する。次に、得られた回折強度曲線から、結晶面(klm)の回折ピークの半価幅βklm(ラジアン)を求める。そして、Scherrerの式[Dklm=Kλ/βklmcosθklm]により、金属粒子の(klm)結晶面に垂直な方向の結晶子径の平均値Dklm(Å)を算出する。ここで、定数Kは0.90、λはX線の波長(Å)、θklmは回折角(゜)である。本明細書では、算出されたDklm(Å)の値を、金属粒子の平均粒子径として採用する。例えば、金属粒子がNi粒子の場合には、(011)結晶面に垂直な方向の結晶子径の平均値D011(Å)が平均粒子径となる。
【0016】
本発明の水素吸蔵放出触媒における金属粒子の含有量は、同触媒の全体重量を100wt%とした場合の5wt%以上とすることが望ましい。5wt%未満では、充分な触媒効果が得られない。10wt%以上とするとより好適である。一方、金属粒子の粗大化を抑制するという理由から、95wt%以下とすることが望ましい。90wt%以下、さらには50wt%以下とするとより好適である。
【0017】
本発明の水素吸蔵放出触媒の製造方法は、特に限定されるものではない。公知の沈殿法、含浸法、イオン交換法等を用いて製造することができる。例えば、金属粒子として用いる金属の硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩や、酢酸塩、シュウ酸塩、ギ酸塩等の有機酸塩の水溶液を用い、担体としての無機酸化物、炭素材料に金属を担持させればよい。そして、所定の温度で焼成した後、必要に応じて還元処理して製造することができる。
【0018】
焼成は、窒素雰囲気あるいは空気中で、350〜800℃程度の温度で行えばよい。また、焼成時間は1〜10時間程度とするとよい。焼成温度により、金属粒子の粒子径が変化する。例えば、焼成温度が高いと金属粒子の粒子径は大きくなる。反対に、焼成温度が低いと、金属粒子の粒子径は小さくなる。よって、所望の粒子径となるよう、焼成温度を制御することが望ましい。ナノメートルサイズの金属粒子を得るためには、500℃以下で焼成することが望ましい。
【0019】
Pt、Pd、Rh等の貴金属以外の金属を金属粒子として用いた場合には、金属粒子が焼成により酸化される。よって、この場合には、焼成後の水素吸蔵放出触媒を、水素雰囲気にて所定の温度に加熱保持して還元処理することが望ましい。還元処理は、300〜500℃程度の温度で、1〜2時間程度行えばよい。
【0020】
〈水素吸蔵複合材料〉
本発明の水素吸蔵複合材料は、水素吸蔵材料に、上記本発明の水素吸蔵放出触媒が高分散状態で複合化してなる。水素吸蔵材料には、水素吸蔵、放出速度が遅いイオン結合性水素化物を用いるとよい。例えば、比較的軽量な水素吸蔵材料として、MgH2、Mg(NH22、CaNH、Ca2NH、LiH、NaH、KH、CaH2、NaBH4、NaAlH4、LiBH4、LiAlH4、KBH4、KAlH4、Mg(BH42、CaNH、Ca2NH、Ca(BH42、Ba(BH42、Sr(BH42、Fe(BH42、Mg(AlH42、Mn(AlH42、In(AlH43、Ga(AlH43、Fe(AlH42、CuAlH4、Ce(AlH43、Ca(AlH42、Be(AlH42、AgAlH4、AgBH4、Na3AlH6、Sn(AlH44、Ti(AlH44、Ti(AlH43、Zr(AlH44、Al(BH43、Ba(BH42、Be(BH42、Ca(BH42、Co(BH42、Cs(BH42、CuBH4、Fe(BH42、Hf(BH42、Sn(BH42、TiBH4、Th(BH44、Ti(BH43、Zn(BH42、Zr(BH44、Li2NH、LiNH2、Ca(NH22、Li2Mg(NH22等が挙げられる。これらの一種類を単独で、あるいは二種類以上を混合して用いればよい。なかでも、低コストで、理論水素吸蔵量が7.6wt%と大きいMgH2が好適である。
【0021】
なお、ここでは水素吸蔵材料として金属水素化物を挙げたが、本発明の水素吸蔵複合材料を構成する水素吸蔵材料は、上記金属水素化物が水素を放出した状態をも含む概念である。例えば、水素吸蔵材料がMgH2である場合、MgH2から水素が放出されるとMgH2→Mgとなる。この時、本発明の水素吸蔵複合材料は、水素を放出した後の材料(Mg)に、本発明の水素吸蔵放出触媒が複合化された状態となる。つまり、本発明の水素吸蔵複合材料を構成する水素吸蔵材料には、水素を吸蔵した状態の金属水素化物と、それから水素が放出された状態の材料と、の両方が含まれる。
【0022】
本発明の水素吸蔵複合材料における本発明の水素吸蔵放出触媒の含有量は、水素吸蔵複合材料の全体重量を100wt%とした場合の0.1wt%以上とすることが望ましい。0.1wt%未満の場合には、水素吸蔵、放出速度を速くするという触媒効果が充分に得られない。2wt%以上とするとより好適である。一方、水素吸蔵量を考慮すると、50wt%以下とすることが望ましい。20wt%以下とするとより好適である。
【0023】
水素吸蔵材料と本発明の水素吸蔵放出触媒とが複合化した態様として、例えば、本発明の水素吸蔵放出触媒の粒子が水素吸蔵材料の粒子表面に付着した態様や、微粉化された水素吸蔵材料と本発明の水素吸蔵放出触媒とが混合された態様が挙げられる。前者の態様は、例えば、金属水素化物と本発明の水素吸蔵放出触媒とを混合した混合物を、機械的粉砕処理して製造することができる。また、後者の態様は、例えば、機械的粉砕処理された金属水素化物の粉末に、本発明の水素吸蔵放出触媒の粉末を混合して製造することができる。いずれの製造方法においても、金属水素化物は機械的粉砕処理され微細化される。このため、水素の拡散距離は短くなり、水素の吸蔵、放出速度の向上に効果的である。また、微細化された金属水素化物の表面に、ナノメートルサイズの本発明の水素吸蔵放出触媒を分散させることで、同触媒の触媒効果を充分に発揮させることができる。なお、上記製造方法では、原料として金属水素化物を用いる。例えば、MgH2は、Mgよりも硬質である。よって、原料としてMgH2等の金属水素化物を用いると、機械的粉砕処理を行い易いという利点がある。
【0024】
本発明の水素吸蔵放出触媒の粒子は、機械的粉砕処理等により金属水素化物と混合されることにより、粉砕、微細化され小さくなる。よって、本発明の水素吸蔵放出触媒と水素吸蔵材料とが複合化した状態では、同触媒中の金属粒子の平均粒子径は、同触媒が単独で存在する場合と比較して小さくなる。これより、本発明の水素吸蔵複合材料では、本発明の水素吸蔵放出触媒中の金属粒子の平均粒子径が50nm以下であることが望ましい。15nm以下であるとより好適である。
【0025】
機械的粉砕処理は、金属水素化物等の原料を処理装置に収容し、所定の雰囲気にて行えばよい。機械的粉砕処理は、例えば、不活性ガス雰囲気、水素雰囲気、真空雰囲気等、酸素および水分が存在しない雰囲気で行うことが望ましい。また、機械的粉砕処理は、室温、大気圧下で行えばよい。
【0026】
機械的粉砕処理の種類は、特に限定されるものではなく、既に公知となっている噴射圧力や衝突力を利用した処理を用いればよい。例えば、メカニカルグライディング処理、メカニカルミリング処理、メカニカルアロイング処理等が挙げられる。特に、メカニカルグライディング処理が好適である。なお、機械的粉砕処理は、乾式で行ううことが望ましい。具体的には、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ジェットミル、ハンマーミル等を使用すればよい。原料を収容する容器や、粉砕用ボール等の材質は、特に限定されるものではない。例えば、クロム鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロムモリブデン鋼等の構造用合金鋼製の容器、粉砕用ボール等を使用すればよい。
【0027】
機械的粉砕処理の諸条件は、使用する装置に応じて、また、処理する原料の量等を考慮して、適宜決定すればよい。例えば、粉砕エネルギーとしては、重力加速度の5倍(5G)以上が望ましい。また、処理の時間は、得られる水素吸蔵複合材料や金属水素化物の粒子径等を考慮して、適宜決定すればよい。例えば、5〜50時間程度処理すればよい。
【実施例】
【0028】
上記実施形態に基づいて、本発明の水素吸蔵放出触媒を2種類製造し、それを用いて本発明の実施例となる水素吸蔵複合材料を8種類製造した。また、触媒等を変更し、比較例となる水素吸蔵複合材料を12種類製造した。製造した各水素吸蔵複合材料に対して水素を放出、吸蔵させ、それらの水素吸蔵放出特性を調べた。以下、水素吸蔵複合材料の製造、および製造した水素吸蔵複合材料の水素吸蔵放出特性について説明する。
【0029】
(1)水素吸蔵複合材料の製造
(a)#1〜#4の水素吸蔵複合材料(実施例)
まず、水素吸蔵放出触媒を製造した。硝酸ニッケルと硝酸アルミニウムとを水に溶解させた水溶液に、活性炭(3000m2/g)を添加して攪拌した。この水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を滴下して、水酸化ニッケルと水酸化アルミニウムとを活性炭表面に析出させた。この水溶液を乾燥機に入れ、一晩乾燥させた後、空気中450℃で3時間焼成した。焼成後、水素雰囲気、500℃で3時間還元処理を行い、ニッケル粒子がアルミナおよび炭素に担持された水素吸蔵放出触媒(下記表1、3では「Ni/Al23/C」と示す。)を得た。本水素吸蔵放出触媒のNi含有量は46wt%、Al23含有量は8wt%、C含有量は46wt%である。本水素吸蔵放出触媒を実施例1の触媒とした。
【0030】
次に、上記実施例1の触媒を用いて、本発明の水素吸蔵複合材料を製造した。金属水素化物には、純度90wt%のMgH2(Aldrich社製)を使用した。MgH2に実施例1の触媒を種々の割合で配合して混合物を調製した。調製した各混合物の5gを、それぞれ40個のクロム鋼製のボール(外径9.5mm)と共にクロム鋼製の容器(容積300ml)に入れ、遊星ボールミルP−5(FRITSCH社製)によりメカニカルグライディング処理(以下「MG処理」と称す。)した。MG処理は、真空雰囲気、室温、0.1MPa下で、粉砕エネルギーを6Gとして24時間行った。得られた水素吸蔵複合材料を、実施例1の触媒の配合割合により、#1〜#4と番号付けした。#1〜#4の水素吸蔵複合材料の構成等については、下記表1にまとめて示す。
【0031】
(b)#5、#6の水素吸蔵複合材料(実施例)
上記(a)と同様に実施例1の触媒を用いて、本発明の水素吸蔵複合材料を製造した。金属水素化物には、純度90wt%のMgH2(Aldrich社製)を使用した。5gのMgH2を、40個のクロム鋼製のボール(外径9.5mm)と共にクロム鋼製の容器(容積300ml)に入れ、遊星ボールミルP−5(FRITSCH社製)によりMG処理した。MG処理の条件は、上記(a)と同様とした。MG処理したMgH2に、実施例1の触媒を所定の割合で配合し、乳鉢を用いて混合した。得られた水素吸蔵複合材料を、実施例1の触媒の配合割合により、#5、#6と番号付けした。#5、#6の水素吸蔵複合材料の構成等については、下記表1にまとめて示す。
【0032】
(c)#7、#8の水素吸蔵複合材料(実施例)
まず、水素吸蔵放出触媒を製造した。硝酸ニッケルと硝酸アルミニウムとを水に溶解させた。この水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を滴下して、水酸化ニッケルと水酸化アルミニウムとを析出させた。この水溶液を乾燥機に入れ、一晩乾燥させた後、空気中450℃で3時間焼成した。焼成後、水素雰囲気、500℃で3時間還元処理を行い、ニッケル粒子がアルミナに担持された水素吸蔵放出触媒(下記表1、3では「Ni/Al23」と示す。)を得た。本水素吸蔵放出触媒のNi含有量は85wt%、Al23含有量は15wt%である。本水素吸蔵放出触媒を実施例2の触媒とした。
【0033】
次に、上記実施例2の触媒を用いて、本発明の水素吸蔵複合材料を製造した。金属水素化物には、MgOを10wt%含む純度90wt%のMgH2を使用した。MgH2に実施例2の触媒を所定の割合で配合して混合物を調製した。調製した各混合物の5gを、上記(a)と同様にしてMG処理した。得られた水素吸蔵複合材料を、実施例2の触媒の配合割合により、#7、#8と番号付けした。#7、#8の水素吸蔵複合材料の構成等については、下記表1にまとめて示す。
【0034】
(d)#51〜#54の水素吸蔵複合材料(比較例)
金属水素化物として上記同様のMgH2を使用し、触媒としてNiを使用して比較例の水素吸蔵複合材料を製造した。MgH2にNi粉末(添川理化学株式会社製、平均粒子径0.8μm)を所定の割合で配合して混合物を調製した。調製した各混合物の5gを、上記(a)と同様にしてMG処理した。得られた水素吸蔵複合材料を、Niの配合割合により、#51〜#54と番号付けした。#51〜#54の水素吸蔵複合材料の構成等については、下記表2にまとめて示す。
【0035】
(e)#55、#56の水素吸蔵複合材料(比較例)
金属水素化物としてMgH2を使用し、触媒としてNiを使用して比較例の水素吸蔵複合材料を製造した。上記(b)と同様に、5gのMgH2をMG処理した。MG処理したMgH2に、Ni粉末(添川理化学株式会社製、平均粒子径0.8μm)を所定の割合で配合し、乳鉢を用いて混合した。得られた水素吸蔵複合材料を、Niの配合割合により、#55、#56と番号付けした。#55、#56の水素吸蔵複合材料の構成等については、下記表2にまとめて示す。
【0036】
(f)#57〜#62の水素吸蔵複合材料(比較例)
金属水素化物として上記同様のMgH2を使用し、触媒として種々の金属酸化物、Ti(日本高純度化学株式会社製)、スーパー活性炭(関西熱化学株式会社製)を使用して比較例の水素吸蔵複合材料を製造した。MgH2に各触媒を重量比で95:5の割合で配合して混合物を調製した。調製した各混合物の5gを、上記(a)と同様にしてMG処理した。得られた水素吸蔵複合材料を、触媒の種類により、#57〜#62と番号付けした。#57〜#62の水素吸蔵複合材料の構成等については、下記表2にまとめて示す。
【0037】
(2)水素吸蔵放出特性
(a)第一の試験として水素放出試験を行った。すなわち、製造した実施例および比較例の各水素吸蔵複合材料を、それぞれ200℃、0.1MPaのアルゴンガス雰囲気にて6時間保持し、各水素吸蔵複合材料から水素を放出させた。そして、各水素吸蔵複合材料の水素放出量を熱脱離法により求めた。表1、2に、各水素吸蔵複合材料の構成、金属水素化物(MgH2)と触媒との配合割合(重量比)、製造方法、金属粒子(Ni)の平均粒子径、および水素放出量を示す。表1は実施例の各水素吸蔵複合材料について、表2は比較例の各水素吸蔵複合材料について示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表1に示すように、実施例の水素吸蔵複合材料では、金属粒子(Ni)の平均粒子径は10nm以下であった。また、水素放出量は、4.1〜6.0wt%と大きくなった。つまり、本発明の水素吸蔵放出触媒を用いた本発明の水素吸蔵複合材料は、200℃程度の比較的低温であっても、多量の水素を放出できる。
【0041】
例えば、#1〜#4の水素吸蔵複合材料を比較すると、触媒の配合割合が2→5、10wt%と大きくなると、水素放出量も増加した。但し、触媒の配合割合が20wt%の#4では、同割合が5、10wt%の#2、#3よりも、水素放出量は僅かに減少した。また、触媒の配合割合が同じで種類が異なる#2と#7、および#4と#8の水素吸蔵複合材料をそれぞれ比較すると、炭素材料を含む#2、#4の水素吸蔵複合材料の方が、水素放出量は大きくなった。また、製造方法のみが異なる#2と#5、および#3と#6の水素吸蔵複合材料をそれぞれ比較すると、MgH2と触媒とを共にMG処理して製造した#2、#3の水素吸蔵複合材料の方が、水素放出量は大きくなった。
【0042】
一方、表2に示すように、比較例の水素吸蔵複合材料の水素放出量は、最大でも2.8wt%であった。特に、乳鉢混合により製造した#55、#56の水素吸蔵複合材料や、Ni以外の触媒を用いた#57〜#62の水素吸蔵複合材料は、ほとんど水素を放出しなかった。
【0043】
(b)第二の試験として水素吸蔵試験を行った。はじめに、製造した実施例および比較例の各水素吸蔵複合材料を所定の容器に収容し、容器内を250℃下、0.2Pa以下になるまで真空引きして、各水素吸蔵複合材料から水素を放出させた。また、これとは別に温度を変更し、同水素吸蔵複合材料を、450℃下、0.2Pa以下になるまで真空引きして、各水素吸蔵複合材料から水素を放出させた。次に、各条件で水素を放出した各水素吸蔵複合材料について、室温(23℃)、水素圧力9MPa下で水素を吸蔵させた。そして、水素吸蔵開始から6時間後の水素吸蔵量を、PCT特性測定装置(鈴木商館製)を用いて求めた。表3、4に、各水素吸蔵複合材料の水素吸蔵量を水素の放出温度別に示す。表3は実施例の各水素吸蔵複合材料について、表4は比較例の各水素吸蔵複合材料について示す。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
表3に示すように、実施例の水素吸蔵複合材料は、水素放出温度により差はあるが、室温においても水素を吸蔵した。特に、250℃で水素を放出させた場合に、水素吸蔵量が大きくなった。これは、水素の放出を低温で行ったことで、Mgの結晶が成長し難く、Mgの結晶の粗大化が抑制されたためと考えられる。また、水素の放出の際と同様に、触媒の配合割合や触媒の種類により、水素吸蔵量が変化した。
【0047】
一方、表4に示すように、比較例の水素吸蔵複合材料の水素吸蔵量は、水素放出温度が250℃の場合でも最大で3.7wt%であった。ここで、金属酸化物やスーパー活性炭のみを触媒とした#57〜#61の水素吸蔵複合材料は、250℃では水素をほとんど放出できなかったため、室温では水素を吸蔵することができなかった。
【0048】
以上まとめると、本発明の水素吸蔵複合材料は、本発明の水素吸蔵放出触媒により水素吸蔵放出速度が大きくなるため、200℃程度の比較的低温で水素を放出でき、かつ室温で水素を吸蔵することができる。
【0049】
また、本水素吸蔵試験では、触媒としてNiのみを用いた水素吸蔵複合材料(#51〜#54)の水素吸蔵量が、3.0〜3.7wt%と比較的大きくなっている。これは、本水素吸蔵試験では、9MPaの高圧下で水素を吸蔵させたためである。これまでは、水素の吸蔵を、1MPa程度の水素加圧下で行うことが一般的であった。このような低圧下では、触媒としてNiのみを用いた水素吸蔵複合材料の水素吸蔵量は、0.4wt%程度にすぎない。つまり、本水素吸蔵試験の結果から、より高圧にすることで、水素吸蔵量を増加できることがわかる。最近では、35MPa以上の高圧下で水素を吸蔵させることも可能となった。したがって、水素吸蔵時の水素圧力を35〜70MPaとさらに高圧にすることにより、本発明の水素吸蔵複合材料は、室温下でより短時間に多量の水素を吸蔵できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
例えば、水素自動車では、水素エンジンからの廃熱を利用することができる。本発明の水素吸蔵複合材料は、200℃程度の温度下4時間保持することで5wt%程度の水素を放出する。したがって、本発明の水素吸蔵複合材料を水素貯蔵源として用いれば、200℃程度の廃熱を利用して、水素エンジンに水素を充分に供給することができる。このように、本発明の水素吸蔵複合材料は、水素エンジン、燃料電池等の水素供給源として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物および炭素材料の少なくとも一方からなる担体と、該担体に担持された金属粒子とからなり、水素吸蔵材料の水素吸蔵放出特性を向上させる水素吸蔵放出触媒。
【請求項2】
前記金属粒子の平均粒子径は100nm以下である請求項1に記載の水素吸蔵放出触媒。
【請求項3】
前記金属粒子は4〜10族元素から選ばれる一種類以上の元素を含む請求項1に記載の水素吸蔵放出触媒。
【請求項4】
前記金属粒子の含有量は、当該水素吸蔵放出触媒の全体重量を100wt%とした場合の5wt%以上95wt%以下である請求項1に記載の水素吸蔵放出触媒。
【請求項5】
水素吸蔵材料に請求項1に記載の水素吸蔵放出触媒が高分散状態で複合化してなる水素吸蔵複合材料。
【請求項6】
前記水素吸蔵放出触媒の含有量は、当該水素吸蔵複合材料の全体重量を100wt%とした場合の0.1wt%以上50wt%以下である請求項5に記載の水素吸蔵複合材料。
【請求項7】
前記水素吸蔵放出触媒中の金属粒子の平均粒子径は50nm以下である請求項5に記載の水素吸蔵複合材料。
【請求項8】
金属水素化物と、請求項1に記載の水素吸蔵放出触媒と、を混合した混合物を機械的粉砕処理して製造された請求項5に記載の水素吸蔵複合材料。
【請求項9】
機械的粉砕処理された金属水素化物に、請求項1に記載の水素吸蔵放出触媒を混合して製造された請求項5に記載の水素吸蔵複合材料。

【公開番号】特開2006−51473(P2006−51473A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236657(P2004−236657)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】