説明

水素生成方法、これに用いる高分子材料及び水素生成システム

【課題】高分子材料を非常に環境負荷の低い方法で処理する水素生成方法、これに用いる高分子材料及び水素生成システムを提供すること。
【解決手段】光触媒の活性下で、高分子材料を分解し且つ水を還元して水素を生成する方法である。高分子材料が生分解性プラスティックである。水に高分子材料を分解可能な微生物を含有する。
光触媒を含有し、表面に光吸収材料を配設して成り、上記水素生成方法で用いる高分子材料である。表面側に紫外光のみに反応する光触媒を配設し、その内側に可視光に反応する光触媒を配設して成る。
光触媒、高分子材料及び水を接触させる手段、光を照射する手段、水素と炭酸ガスを分離する手段、水素を回収する手段並びに炭酸ガスを回収する手段を備える水素生成システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素生成方法、これに用いる高分子材料及び水素生成システムに係り、更に詳細には、自動車や家電製品などに使用されている高分子材料を廃棄、処分する際に、より環境負荷の低い方法で処理できる水素生成方法、これに用いる高分子材料及び水素生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の廃棄、処分に関しては、日本車は右ハンドルであるため、海外への輸出が困難であり、年間廃車台数500万台のうち400万台は国内で処分しなければならない。
リサイクルの流れとしては、まず、燃料、ENG油、AT油、PS油、ブレーキ液、フロンガス、ウオッシャー液を抜く。次に、再生可能部品、触媒やアルミなどの有価材料、タイヤ、バッテリー、燃料タンクが取り外される。その後、シュレッダーで粉砕し、鉄、アルミ等を分別するが、その他は樹脂、ゴム、ガラス繊維などであり、これ以上分別することは非常に難しい。これは、シュレッダーダストのリサイクル率がなかなか向上しない原因にもなっている。
そこで、シュレッダーダストは焼却され、その排熱が利用されている。また、焼却後のシュレッダーダストは埋め立てられている。
【0003】
近年では、シュレッダーダストの処分場が逼迫していることから、埋め立てに依存しない処理法方が求められている。
例えば、シュレッダーダストの処理において、樹脂の熱分解に起因する塩素障害や焼却灰の後処理等の問題に対して、非酸化性雰囲気下で所定温度で還流することにより金属塩化物を生成させ、還流ガスと分離する方法が提案されている(例えば特許文献1参照。)。また、還流処理後に生じる鉄粉及び炭素粉を、磁性物の篩分け、重量分別することにより再利用可能な状態で回収する方法が提案されている(例えば特許文献2参照。)。
更に、焼却した際に発生するダイオキシンなど有害物質の浄化も行われている。例えば、焼却により有害物質を生成する材料に予め光触媒を添加しておき、焼却により大気中に放出された際に光触媒作用により有害物質を分解する方法が提案されている(例えば特許文献3,4参照。)。更にまた、プラスティックと光触媒を加熱、電磁波処理により分解する方法が提案されている(例えば特許文献5参照。)。
【特許文献1】特開平8−290148号公報
【特許文献2】特開2003−320360号公報
【特許文献3】特開2000−084361号公報
【特許文献4】特開2001−149775号公報
【特許文献5】特開2004−182837号公報
【0004】
ここで、光触媒は、その強い酸化力を利用して、アルデヒド分解・NOx除去などの空気浄化、有機物分解・環境ホルモン物質分解などの水浄化、油汚れ分解・超親水性効果によるセルフクリーニング、大腸菌・MRSA殺菌・ウィルス分解などの抗菌、殺菌へ応用されている。
また、光触媒は水を分解することにより水素を生成することも可能である。水素は将来有望なエネルギー源であり、燃料電池などでは排気が水のみとなりクリーンであることから期待されている。
一方、水素の製造方法に関しては、その殆どが天然ガスを高い反応温度で水蒸気を用いて改質するものであり、化石燃料の使用、二酸化炭素の排出を考慮すると必ずしもクリーンとは言えない。
【0005】
このようなことから、光触媒による水素製造は再び注目されてきている。
しかしながら、光触媒による水素生成は、生成量があまり高くないため、現在のところ実用化には至っていない。これは水素生成反応は困難な反応であり、逆反応が進行するためである。また、水の還元反応による水素生成は速やかに進行するものの、水の酸化による酸素生成がなかなか進行しないためである。
この点においては、水の酸化反応の代わりに、硫化水素やアルコールなどの有機物(犠牲試薬)を酸化させることで大幅に水素生成量が向上することが知られている(例えば非特許文献1参照。)。
一方、光触媒は油等の汚れの分解・除去に利用され、既に実用化されている。これは光触媒がもつ酸化力を利用したもので、この酸化力は固体のプラスティックをも分解することができるほど強い(例えば非特許文献2参照。)。
【非特許文献1】工藤昭彦著,「水分解光触媒技術の動向」,P167,シーエムシー出版,2003年
【非特許文献2】日高久夫著,「環境触媒ハンドブック」,P889,エヌ・ティー・エス,2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高分子材料を非常に環境負荷の低い方法で処理する水素生成方法、これに用いる高分子材料及び水素生成システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、高分子材料を光触媒によって分解処理する際に水を共存させることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
光触媒によって分解した高分子材料が、水からの水素生成反応における犠牲剤として作用するため、水素生成量が向上する。
また、溶液から生成する気相には、水素と高分子材料の分解により生成した二酸化炭素のみが含まれるので、二酸化炭素の分離(固定化)が容易となる。即ち、焼却処理ではなく、環境負荷の低い分解処理によるので、化石燃料に依存しない水素生成プロセスが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の水素生成方法について詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を示す。
【0010】
本発明の水素生成方法は、光触媒の活性下で、高分子材料を分解するとともに、水を還元して水素を得るものである。
このように、高分子材料の分解と水素の生成を同時期に行うことにより、従来環境負荷が高かった焼却による大気汚染等を抑制し、また水素生成の原料であった化石燃料の使用量を低減(枯渇を抑制)する。換言すれば、光触媒を用いた水分解による水素生成反応の犠牲試薬として廃プラステック等の高分子材料を利用することにより、高分子材料の分解処理と同時に水素が取り出される。
【0011】
ここで、高分子材料から水素エネルギーを取り出すには、高分子材料に加え、光触媒、光エネルギー、水分が共存していればよい。高分子材料には、炭素、水素、酸素以外に塩素など腐食性の成分が混入していても、光触媒反応による分解には影響がないため特に問題はない。光エネルギーは、光触媒中での電子を導電帯から価電子帯へ励起できればよく、必ずしも太陽光である必要はない。水分は水溶液である必要はなく、スラリーでも可能である。
【0012】
また、上記高分子材料としては、例えば、ポリプロピレンなどを適宜使用できるが、代表的には、生分解性プラスティックを使用することが好適である。
このときは、生分解性プラスティックを分解するための温度、湿度、微生物の分布などの使用条件が大幅に緩和され得るとともに、光エネルギーさえ供給されれば、光触媒の強い酸化力を利用することにより、確実に分解できる。
【0013】
一般に、生分解性プラスティックは、使用後に土壌中の微生物に分解させることで、生態系の循環サイクルに還元できる、即ち水と炭酸ガスに変換できる有望な材料である。しかしながら、実際には生分解性プラスティックは容易に分解しない。例えば、2段階で分解するポリ乳酸は、25℃で加水分解が始まるまでには6ヶ月、生分解が始まるまでには11.4ヶ月を要する。但し、コンポスト容器内のような高温(60〜70℃)且つ高湿(50〜60%)の環境下では、1.8〜8.5日で加水分解が始まり、3.5〜16日で生分解が始まるまでに短縮される(石橋正ほか著,「生分解性プラスティックの本」,P30,日刊工業新聞社,2004年)。
従って、生分解性プラスティックであっても、生分解が始まるには高温、高湿の環境下でコンポスト化することが理想とされている。また、微生物の密度分布を把握する必要があるなど、生分解性プラスティックを分解するためには種々の条件が必要となる。
これに対して、本発明の水素生成方法で使用する生分解性プラスティックは、光触媒により分解されるので、光エネルギーが供給されればよく、上記のような種々の条件に制約されないので有効である。
【0014】
また、本発明の水素生成方法において、上記高分子材料と上記光触媒は接していればよく、例えば、高分子材料に粉末の光触媒を塗布する、光触媒が固定化してある支持体上に高分子材料を載せる又は挟み込む、高分子材料を粉砕して粉末状の光触媒と混ぜ合わせる、などの方法で接触させることができる。代表的には、上記高分子材料に上記光触媒を含有することが好適である。
このときは、光触媒と高分子材料との接触効率が向上するので、分解反応の効率が向上し得る。即ち、光触媒と高分子材料はいずれも固体である(固相反応が進行する)ため、反応効率があまり高くない。そこで、高分子材料を作製する際に予め光触媒へ混ぜ込むことで、高分子材料と光触媒との接触効率が向上し、反応効率が高められる。
但し、光触媒と高分子材料が接触すると触媒反応が進行し易いため、分解処理する直前に光触媒と高分子材料を混ぜ込んでもよいことは言うまでもない。
【0015】
更に、上記光触媒としては、例えば、チタン系酸化物、亜鉛系酸化物、ニオブ系酸化物、タンタル系酸化物又はガリウム系酸化物、及びこれらを任意に組合わせたものを含む光触媒を好適に使用できる。
かかる光触媒であれば、固体の有機物を分解し且つ共存する水を還元することで水素を生成できる。
なお、上記光触媒は、価電子帯の上端と伝導帯の下端がH+/H2の酸化還元電位とO2/有機物の酸化還元電位を挟む構造を有するものであれば、特に限定されずに使用できる。かかる構造を有さない光触媒では、水素生成及び有機物の分解が行われない。
【0016】
また、光触媒の状態に関して、上記特許文献3には、チタンの前駆体を有機物に混入し、焼却時に発生する反応熱で酸化チタンとして光触媒機能を発生させる方法が挙げられているが、本発明で使用する光触媒は高温にさらされることがないため、酸化チタンに限らず、光触媒機能を有する状態で添加することが望ましい。
更に、光触媒はできる限り粒径の小さい微粒子で添加することが望ましく、このときは光触媒が高分散で添加され反応効率が向上し得る(微粒子効果)。即ち、微粒子は光エネルギーにより電子とホールが生成した後、粒子表面への移動距離が短くなるため、次式
量子収率(%)=(反応した分子数)/(吸収された光子数)×100
で表される量子収率が向上する結果、反応効率が向上することが知られている。
【0017】
上記水には、高分子材料を分解可能な微生物を含有することが好適である。
このときは、光触媒との反応により処理されなかった高分子材料の一部が水溶液中に残存しても、微生物により処理されるので、全ての高分子材料を処理できる。
例えば、生分解性プラスティックと光触媒との反応は固相反応であるため、生分解性プラスティック全部を分解できないことがある。このようなときに微生物と反応させることにより残部を処理できる。
上記微生物としては、例えば、細菌類などを使用できる。
【0018】
次に、本発明の高分子材料について詳細に説明する。
上述の水素生成方法に使用する高分子材料は、光触媒により分解処理する際に、触媒添加部分が表面に露出されればよい(光を受ければよい)ことになる。このような構成としては、例えば、光が当たる表面には触媒を添加しない、粉砕後に分解させる場合はいずれの表面にも光触媒を添加しない(内部のみ添加する)、光を吸収する塗装を行う、ことなどが挙げられる。
そこで、本発明の高分子材料は、光触媒を含有し、表面の全部又は一部に光を吸収する材料を配設して成ることを特徴とする。
これより、上述の水素生成方法に採用するまでの耐久性が向上する。即ち、使用中に光が照射されても光触媒が表面に露出していないため反応せず、光触媒作用により分解することはない。
上記光吸収材料としては、例えば、カーボンブラックなどを使用できる。
【0019】
また、光触媒を含有する高分子材料は、該光触媒が光に当たると使用中であっても光触媒作用により分解され易い。このため、波長の異なる光に反応する光触媒を表面と内部で別々に添加することができる。具体的には、表面側に紫外光のみに反応する光触媒を配設し、その内側に可視光に反応する光触媒を配設することが好適である。
これより、使用中には、光が照射されても分解を大幅に抑制でき、分解時には、内部まで容易に分解できる。詳説すると、紫外光は太陽光の約3%に過ぎないため、紫外光のみに反応する光触媒を高分子材料表面に添加すれば、使用中の分解を抑制できる。また、分解時には、紫外光を照射することで表面を分解して内部を露出させる。内部には可視光にも反応する光触媒が添加されているため分解が促進される。
紫外光のみに反応する光触媒としては、例えば、ジルコニア等が挙げられ、可視光に反応する光触媒としては、例えば、オキシナイトライドなどが挙げられる。
【0020】
次に、本発明の水素生成システムについて詳細に説明する。
本発明の水素生成システムは、光触媒、高分子材料及び水を接触させる手段、光を照射する手段、水素と炭酸ガスを分離する手段、水素を回収する手段並びに炭酸ガスを回収する手段を備え、上述の水素生成方法を行うシステムである。
これより、分離した水素は燃料電池等へ利用することができ、炭酸ガスは大気中に放出することなく回収して固定化することができるので、温暖化ガスが削減される。即ち、従来のように高分子材料を燃焼により処理する場合は、排出するガスには、炭酸ガスに加えて種々の炭化水素種が含まれるため、炭酸ガスのみを固定化することは困難であったが、本システムで発生するガスは、高分子材料を酸化・分解することにより生じる炭酸ガスと、水の還元により生じる水素のみであるため、燃焼による処理と比較して分離回収が容易となる。
炭酸ガスの固定化方法としては、アルカリによる炭酸塩として吸収したり、アルカリ酸化物やアルカリ土類系の酸化物に吸収することが挙げられる。また、回収した炭酸ガスは、例えば、農作物の収量増加、成長促進など農業への転用が可能である。
【0021】
また、本システムは、更に水中に沈殿した金属又はガラスを回収・分別する手段を備えることが好適である。光触媒や高分子材料に付着し又は混ざっている金属類やガラス類は、光触媒により分解されずに水溶液中に沈殿するので、これを回収・分別することでリサイクル率を更に向上できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒の活性下で、高分子材料を分解し且つ水を還元して水素を生成することを特徴とする水素生成方法。
【請求項2】
上記高分子材料が生分解性プラスティックであることを特徴とする請求項1に記載の水素生成方法。
【請求項3】
上記高分子材料に上記光触媒を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素生成方法。
【請求項4】
上記光触媒が、チタン系酸化物、亜鉛系酸化物、ニオブ系酸化物、タンタル系酸化物及びガリウム系酸化物から成る群より選ばれた少なくとも1種のものを含んで成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の水素生成方法。
【請求項5】
上記水に高分子材料を分解可能な微生物を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の水素生成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の水素生成方法で用いる高分子材料であって、
光触媒を含有し、表面の全部又は一部に光を吸収する材料を配設して成ることを特徴する高分子材料。
【請求項7】
表面側に紫外光のみに反応する光触媒を配設し、その内側に可視光に反応する光触媒を配設したことを特徴する請求項6に記載の高分子材料。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の水素生成方法を行う水素生成システムであって、
光触媒、高分子材料及び水を接触させる手段、光を照射する手段、水素と炭酸ガスを分離する手段、水素を回収する手段並びに炭酸ガスを回収する手段を備えることを特徴とする水素生成システム。
【請求項9】
水中に沈殿した金属又はガラスを回収・分別する手段を備えることを特徴とする請求項8に記載の水素生成システム。

【公開番号】特開2006−193357(P2006−193357A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5053(P2005−5053)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】