説明

水膨潤性塗料組成物及び止水材

【課題】水膨潤性組成物の強度、長期耐久性を向上させ、永久構造物への適用を可能とする。
【解決手段】クロロプレンゴム10部とエチレン酢酸ビニル樹脂90部を混合したエラストマー100部に、400部のトルエンを加え50〜60℃に加熱してエラストマー溶液500部を得た。これにエーテル化度0.8以上の電離性吸収ポリマーであるサンローズF300HC(粘度2500〜3500mPa・s、エーテル化度0.8〜1.0)を250部配合し、多価金属化合物として硫酸アルミニュウム10部を配合し、更に粘土鉱物としてベントナイト10部を添加したものと、ポルトランドセメントを添加したものをディゾルバーにて分散し本発明の水膨潤性塗料組成物を得た。得られた水膨潤性塗料組成物は、止水を要する箇所に塗布または膜状に成型したものを貼り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水膨潤性塗料組成物及びそれを成型加工した止水材に関する。更に詳しくは、鋼矢板、鋼管矢板、コンクリート矢板、軽量鋼矢板の継手部、鋼製またはコンクリート製セグメントの接合部の漏水を防止するためのものである。
【背景技術】
【0002】
土木・建築工事においては、鋼矢板、鋼管矢板等を利用して土留、締切、根切工事等がおこなわれている。鋼矢板・鋼管矢板等の継手の止水が不完全で漏水があると、排水作業をしなければならず、工事遅延の大きな原因となる。その対策として、鋼管矢板を二重に打設する二重締切工法があるが、工費が嵩むため、継手部にモルタルを充填したり、特許文献1(特公平6−96688号公報)に開示される水膨潤性塗料を鋼矢板の継手に予め塗布して乾燥させ、これを水中(海中を含む)、または、地中に打ち込み、水膨潤性塗料が水と接触して膨張するのを利用して継手の空隙を充填し、止水することが広くおこなわれている。
【特許文献1】特公平6−96688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在、鋼矢板等の継手に水膨潤性塗料を施して継手を止水することは一般的になってきている。
従来の水膨潤性塗料の水膨潤性組成物は、その膨張倍率が低く、鋼管矢板等の空隙の大きな継手には使用できなかった。
また、塗膜強度が低く、水への溶解や波力等の繰り返し力による塗膜の脱落など、耐久性が十分でなく、仮設構造物等の短期間止水への使用が主流であり、廃棄物処理場等の永久構造物の止水に対しては使用できなかった。
【0004】
従来、水膨潤性組成物は、塗料の形態で提供され、鋼矢板の継手に塗布していた。塗布は、施工が簡便かつ容易であるため多用されているが、水膨潤性組成物を有効に機能させるためには、鋼矢板では、塗膜厚さ1mm以上を要し、間隙の大きな鋼管矢板では、数ミリから十数ミリの塗膜を必要とする場合もある。
塗装の場合、数十ミクロンの塗膜が一般的であり、長期耐久性を必要とする海上の長大橋であってもその塗膜厚は数百ミクロンである。塗膜厚さが数ミリとなると乾燥時間に一昼夜以上必要とし、冬季や寒冷地では数日〜10日の乾燥時間を要する。
【0005】
また、鋼矢板等への塗布作業は、一般に戸外でおこなわれるため、乾燥途上の降雨、湧き水などへの雨水養生も必要である。更に、塗面が下向きの場合や水平に設置されていない場合は、クレーンなどで塗布面を上向きに変更したり、水平に保持するレベル出しが必要であるが、被塗物の鋼矢板や鋼管矢板は数百キロから数トンの重量であり、塗布作業に大きな労力を必要としていた。
本発明は、以上の課題を解決するものであり、塗膜強度を増大して永久構造物にも使用可能とし、更には、厚い塗膜を短時間で形成できるようにすると共に、レベル出しなどの塗布前作業を極力少なくするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
粘度500〜16000mPa・s、かつエーテル化度が0.5以上である電離性吸水ポリマー、多価金属化合物、熱可塑性エラストマーの有機溶剤溶液、及び体質顔料とからなる水膨潤性塗料組成物である。
また、粘度500〜16000mPa・s、かつエーテル化度が0.5以上である電離性吸水ポリマー、多価金属化合物、熱可塑性エラストマーの有機溶剤溶液、及び体質顔料とからなる水膨潤性塗料組成物を膜状または帯状に成型加工して止水材としたものである。
粘度500〜16000mPa・s、かつエーテル化度が0.5以上である電離性吸水ポリマー、多価金属化合物、熱可塑性エラストマーの有機溶剤溶液、及び体質顔料とからなる水膨潤性塗料組成物を膜状(シート状)または帯状に成型加工した止水材を矢板継手に張り付けて止水膜を形成する矢板の止水方法である。
【0007】
電離性吸収ポリマーと多価金属化合物をエラストマー中に分散することにより電離性吸水ポリマーをイオン架橋して水への溶出を防止し、エラストマーの水膨潤体が得られることは知られている。本発明は、塗膜の強度及び膨張倍率を向上させるため、電離性吸水ポリマーの検討、繊維状物、体質顔料の配合を行った。また製品のグレードを識別できる様、微量の着色顔料の添加を行った。
上記の配合によって塗膜強度、膨張倍率の向上したエラストマーの水膨潤体を得ることができた。
【0008】
本発明に使用される電離性吸水ポリマーは、カルボキシメチルセルロースまたはアクリル酸ビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸などのナトリウム塩である。これらは、吸水してゲル状となるがカルボキシメチルセルロースがアクリル酸ビニルアルコール共重合体やポリアクリル酸より海水に対する吸水量が大きい。
従来、電離性吸水ポリマーの性状を粒状物でのみしか考察しなかったが、本発明では、膨張倍率の向上のため、粘度(mPa・s)及びエーテル化度(M/C6)を考察した。
【0009】
粘度は、電離性吸水ポリマーを水に溶解させた場合の指標であり、基本的に重合度に起因する。また、エーテル化度とは、CMCの原料となるセルロースの無水グルコース単位中の水酸基がどれだけカルボキシメチル基で置換されているかである。セルロースの無水グルコースは水酸基が3個あり、これにモノクロル酢酸を反応させ、セルロースの水酸基をカルボキシメチル基で置換することにより製造される。この時、水酸基がカルボキシメチル基で1個置換された場合には、エーテル化度が1となる。すべて置換されればエーテル化度は3になる。
【0010】
一般的に、粘度が低いほど、溶解性能が向上するので多価金属で架橋した際の膨潤倍率も向上する様に思えるが低すぎると、架橋後の加水分解も早くなる。粘度が高すぎると架橋後の加水分解も抑制されるが通常の混合方法ができなくなる。また、エーテル化度は、高いほど多価金属で架橋した際の架橋性能は向上するが、セルロースの水酸基をカルボキシメチル基で置換する操作の中でコスト高になり産業利用ができなくなる。よって、粘度は、1000〜16000mPa・sの範囲であることが好ましく有効な膨張倍率を得るには、500以上が必要である。
粘度が16000mPa・sを超えると、通常の混合方法では、混合が不可能になる。
【0011】
エーテル化度は、0.5〜1.6の範囲が好ましく、実用上有効な膨張倍率を得るには、0.55以上が必要であり、より好ましくは0.8以上のエーテル化度が必要である。エーテル化度が0.4より小さいと粘結性が十分でない。
エーテル化度 が1.6より大きくても、特性上問題はないが、先に述べたようコスト高となる。
【0012】
発明者等は、電離性吸水ポリマーであるエーテル化度の異なるCMCを用いて水膨潤性塗料組成物を作成し、淡水、人工海水中での膨潤率を評価した結果エーテル化度が塩水中での膨潤に大きく影響することを見出した。
すなわちエーテル化度の大きいCMC材料を用いることで水膨潤性塗料組成物が塩水中での膨潤率が向上する。
このようにエーテル化度の高い(0.8以上)CMCを使用することにより塩水条件化での膨潤特性を現行品に比べ約2倍前後向上でき、長期に安定した止水性を保持することができた。
【0013】
多価金属化合物は、2価以上の水溶性の金属塩であって、電離性吸水ポリマーのカルボキシル基のナトリウム塩と置換して架橋し、水膨潤体を難水溶性にするものである。従来、金属としてカルシウム、亜鉛、鉄、アルミニウム、スズ、クロムが用いられていたが、スズ、クロムは、重金属で毒性が強いため使用しないのが好ましい。代わりに、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄、硫酸亜鉛、硫酸カルシウムなどを使用する。
【0014】
熱可塑性エラストマーは、有機溶剤に溶解して液状になることが必要である。これは、エラストマー溶液に本発明の他の成分を均一に分散させ、また、鋼矢板・鋼管矢板等への継手への塗布作業を容易にするためである。従来の仮設工事主体では、耐水圧200kPa程度で十分であったが、永久構造物用途への適用では、初期値として少なくとも400kPaは、必要である。更にゴム弾性を有し、配合している水膨潤成分を保持することのできることが要求される。
【0015】
この性質を有するものとしては、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレンポリブタジエンブロックコポリマー、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、ポリオレフィン・エラストマー等が挙げられる。
従来品の仮設用途向きには、クロロプレンゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体が好ましく、両者の併用が好適である。現実の施工においては、クロロプレンゴムの比率を増大させ、本設用途に使用される場合には、エチレン酢酸ビニル共重合体の比率を増大させた配合とする。
【0016】
これは、エチレン酢酸ビニル共重合体単独使用の場合、塗膜強度は、最大になり強く強靭になるが膨潤倍率も低下する。そのため被塗物との接着性が強く施工した鋼矢板等の引き抜き性が低下する。しかし水への溶解性が低くそのため長期の耐久性を有する。これに、クロロプレンゴムをブレンドしていくと塗膜の変形追従性が改良され、膨潤倍率も改良され上昇してくる。更にクロロプレンゴム単独では、膨潤倍率は、最大になるものの塗膜強度が低下してくる。そのため施工した鋼矢板等との接着性が低下しその代わり引き抜き性が向上する。
【0017】
よって、本設用途にあたっては、エチレン酢酸ビニル共重合体が富んだ配合を仮設用途にあたっては、施工後の引き抜き撤去を勘案して、やや柔らかく柔軟性にとんだ塗膜を得るためにクロロプレンゴムの富んだ配合で水膨張性塗料組成物を作成すれば良い。熱可塑性エラストマーの混合比率は、特許文献1(特公平6−96688号)では1:1であったが、本設用途の場合、エチレン酢酸ビニル共重合体が1に対してクロロプレンゴムが0.2以下、更に好ましくは0.2から0.05である。仮設用途の場合、エチレン酢酸ビニル共重合体が1に対してクロロプレンゴムが0.2以上、更に好ましくは0.3から0.7である。
なお、エチレン酢酸ビニル共重合体はVA(酢酸ビニル含量)は、33%以上が好ましい。33%より少ないエチレン酢酸ビニル共重合体を使用すると、膨潤体強度は、増大するが、塗布・乾燥後の膜収縮が大きく、鋼矢板等に塗布した場合、収縮のため剥れてしまう恐れがある。
【0018】
エラストマーを溶解するための有機溶剤としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素も使用できるが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類も使用できる。
【0019】
体質顔料は、乾燥塗膜の塗膜性能を向上させるためのものであり、塗膜の硬度を向上させ、鋼材同士のすれによる削れを減少させるものであり、また、水膨潤後、乾燥による体積収縮を抑える効果も期待できる。具体的には、炭酸石灰粉、沈降性炭酸カルシウム、石膏、シリカ粉、珪藻土、タルク、アルミナホワイト、塩基性炭酸マグネシュウム、トノコ、ポルトランドセメント、若しくはアルミナセメントなどのセメント類、ベントナイトなどの粘土鉱物類である。特に、セメント類と粘土鉱物が有効であり、乾燥塗膜表面の硬度アップには、粘土鉱物類が好ましく、一度膨潤した塗膜を乾燥した際の体積収縮を抑える効果には、セメント類が好ましい。
【0020】
本発明の水膨潤性組成物には、必要に応じて着色顔料、防かび剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
着色顔料は、塗料組成物の認識、被塗布面の識別等に必要に応じて利用される、チタン白、カーボンブラック、弁柄、黄色酸化鉄、シアニンブリー、シアニングリーンなどである。
防かび剤には、水膨潤性塗料組成物を塗布した建築部材の埋設後の防かび耐久性を向上させるもので、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、N−ジメチル−N’−(フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、10,10’−オキシビスフェノキシアルシン、ドデシルグアニジン塩酸塩、2,3,5,6−テトラクロルイソフタロニトリル、2−(チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール、3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメート、1−(3−クロルアリル)−3,5,7−トリアザ−アゾニアアダマンタンクロリド及びp−クロル−m−クレゾールなどである。
多くの有機物は光、特に紫外線により劣化し、変質する。これを防止する目的で開発されたものが紫外線吸収剤である。本発明の水膨潤性塗料組成物または水膨潤性止水材も有機物でできているため長期に屋外曝露される環境下で貯蔵される場合などには、紫外線吸収剤の添加も効果的である。紫外線吸収剤には、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤がある。
【発明の効果】
【0021】
本発明の組成によって、塗膜強度が増大し永久構造物にも使用可能とし、水膨潤性塗料組成物をシート状、帯状、紐状、塊状に成型加工することによって塗膜の厚いものが容易に得られるようになり、工事現場での止水膜の形成に要する時間を大幅に軽減できることになった。また、止水材が流動をしないため塗面を水平にするレベル出し、及び、被塗物の天地返しが基本的に必要としない。継手部の形状によっては、塗布作業をすることなく、水膨潤性組成物からなる止水材を継手部に挿入、または、貼り付けによって装着することができ、長時間の乾燥(養生)が不要となり、工事の効率の向上が図れた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施例と比較例に基づいてより詳細に説明する。実施例、比較例中の部は重量部を、また%は重量%を表す。
【実施例1】
【0023】
実施例エラストマー組成は、表1に示すように、クロロプレンゴムであるショープレンW(商品名)10部とエチレン酢酸ビニル樹脂であるエバテートR5011(酢酸ビニル含有量41%)90部の配合とした。また、比較例エラストマー配合は、クロロプレンゴムを50部とエチレン酢酸ビニル樹脂を50部の配合とした。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例水膨潤性塗料組成物の製造
表1に示す実施例のエラストマー100部に、400部のトルエンを加え50〜60℃に加熱してエラストマー溶液500部を得た。これにエーテル化度0.8以上の電離性吸収ポリマーであるサンローズF300HC(粘度2500〜3500mPa・s、エーテル化度0.8〜1.0)を250部配合し、多価金属化合物として硫酸アルミニュウム10部を配合し、粘土鉱物としてベントナイト10部を添加しディゾルバーにて分散し本発明の実施例水膨潤性塗料組成物(a)(以後、実施例塗料組成物(a)と称す)を得た。更に、同様な操作で粘土鉱物組成部分をセメントに変え、セメントしてポルトランドセメント100部を配合した実施例水膨潤性塗料組成物(b)(以後、実施例塗料組成物(b)と称す)を得た。
【0026】
比較例塗料組成物の製造
表1に示す比較例エラストマー100部に、400部のトルエンを加え50〜60℃に加熱してエラストマー溶液500部を得た。これにエーテル化度0.5以上の電離性吸収ポリマーであるサンローズF150LC(粘度1200〜1800mPa・s、エーテル化度0.55〜0.65)を250部配合し、多価金属化合物として硫酸アルミニュウム10部を添加しディゾルバーにて分散し比較例水膨潤性塗料組成物(以後、比較例塗料組成物と称す)を得た。これを表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
得られた表2の実施例塗料組成物(a)、実施例塗料組成物(b)、比較例塗料組成物の「水膨潤性組成物」(以後これら全体を言う場合に「水膨潤性塗料組成物類」と称す)に対して以下の試験を行った。
【0029】
試験1
まず、口径180mm、耐圧5Kg/cm2の閉止フランジの片面に、「水膨潤性塗料組成物類」を厚さ2mm(乾燥膜厚1mm)に塗布し乾燥させた。そして、内径20mm以内、外径120mm以上を切り取り幅50mm、厚さ1mmのリング状の塗膜をフランジ面に残した。次に中央に穴を開け、ノズルをセットした同型のフランジに同様な処理をして内径20mm以内、外径120mm以上を切り取り幅50mm、厚さ1mmのリング状の塗膜をフランジ面に残した。次にフランジ面間隔をナットとワッシャーを利用して10mmに固定した「水膨潤性塗料組成物類」の供試体を作成した。
【0030】
これらを水道水と人工海水(3.8%食塩水)に24時間浸漬した。その後、コンプレッサーと圧力ゲージを組み込んだ加圧ユニットに「水膨潤性塗料組成物類」の供試体を接続して加圧試験を行った。試験は、100kPaから5分おきに100kPa上昇させ、最大500kPaまで加圧した。その結果実施例塗料組成物(a)、(b)は淡水、人工海水共にエアーの漏洩は観測されなかった。それに対し比較例塗料組成物は、400kPaにおいてエアーの漏洩が観測された。
また、長期耐水圧性を確認するため同供試体の浸漬を続け、1日後、1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後、1年後の同様に圧力試験をしたところ、表3の淡水での耐圧性能及び表4の人工海水での耐圧性能に示すように実施例塗料組成物(a)、(b)は、エアーの漏洩は見られなかった。それに対し比較例塗料組成物は、時間経過と共に耐水圧が低下し1年後においての耐水圧は、淡水で100kPa、人工海水で200kPaまでしか維持できなかった。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
試験2
更に、溶出減量を確認するために、この「水膨潤性塗料組成物類」を離型紙上に厚さ2mm(乾燥膜厚1mm)で塗布して乾燥させて膜体とし、5×5cmに裁断して離型紙から離し、その塗膜試料を淡水及び人工海水に浸漬した。そして、時間経過後の重量変化から次式を用いて膨張倍率を測定した。
(浸漬後の試料の重量)/(浸漬前の試料の重量)=膨張倍率
その結果、淡水下では浸漬後の膨張倍率は、2日後が最大値を示した。
続けて2週間後、1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後、1年後も同様に測定した。塗膜の浸漬水温を温度による膨張倍率のばらつきを避けるため、20℃とした。
そして1年後の膨潤倍率を最大膨潤倍率である。2日後の数値で除して1年後の減少率を計算した。その結果を表5に示す。同様に人工海水下における結果は表6に示す。
実施例塗料組成物(a)(b)とも比較例と比較すると大幅な改善が見られた。
【0034】
【表5】

【0035】
【表6】

【0036】
試験3
制限された間隙での膨潤膜の強度を測定するために「水膨潤性塗料組成物類」を20cm×20cmのアクリル板上に厚さ2mm(乾燥膜厚1mm)、縦横15×15cmに塗布して乾燥させ膜体を形成した。
この塗膜を形成したアクリル板を2枚一組として10mm間隙を設け、ボルト・ナットで固定したものを淡水及び人工海水に浸漬した。
浸漬後1日後、2日後、2週間後、1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後、1年後にアクリル板から膜体を剥離し、水で膨張した塗膜を島津小型万能試験機で進入弾性試験を行い、塗膜強度を測定した。その結果を表7及び表8に示す。これによると、塗膜強度そのものは、浸水経過時間に比例して徐々に低下している。これは、狭い間隙に充填されている水膨潤性組成物に水が徐々に浸透していき、全体になじむまでは低下していくと考えることができる。
【0037】
【表7】

【0038】
【表8】

【0039】
試験4
乾燥塗膜の表面硬度を測定するため以下の試験を行った。
70mm×150mm×0.8mmt厚の鋼製テストパネル上に「水膨潤性塗料組成物類」を2mm(乾燥膜厚1mm)になるよう塗布し乾燥させた。これを日塗検検査済、鉛筆引かき値試験用鉛筆を用いてJIS K5400−8.4.2の引かき値手かき法硬度を測定した。その結果、表9に示すように、体質顔料を配合することにより顔料効果で塗膜の硬度が大幅に改善された。この改善により鋼矢板等の打設時の摩擦による剥離が抑制される。
【0040】
【表9】

【0041】
試験5
水膨潤塗膜の乾燥後の状態変化を見るため以下の試験をした。
「水膨潤性塗料組成物類」を20cm×20cmのアクリル板上に厚さ2mm(乾燥膜厚1mm)、縦横15×15cmに塗布し乾燥させた。
この塗膜を形成したアクリル板を2枚一組として10mm間隙を設け、ボルト・ナットで固定したものを淡水及び人工海水に浸漬した。
これを48時間浸漬し、最大膨潤状態とさせた後、取り出し室内で1ヵ月間自然乾燥を行い。アクリル間隙間の状態を目視で観察した。その結果は、表10及び表11に示す通り、実施例塗料組成物(b)は、乾燥後も膨潤した空隙を埋めていた。しかし、実施例塗料組成物(a)と比較例の乾燥後の状態は、ほぼ膨潤前の膜の厚さに戻った。
このことは、実施例塗料組成物(a)は、止水材が乾燥したら塗膜厚が元に戻る方が望ましい工法に対して使用でき、実施例塗料組成物(b)は、乾燥しても塗膜厚が元に戻らない方が望ましい工法に対して使用できることとなり、本発明の止水材の産業上の利用範囲を広げることができた。
【0042】
【表10】

【0043】
【表11】

【0044】
試験6
実際の鋼矢板の継手部を用いて実環境下での評価をした。「水膨潤性塗料組成物類」を長さ20cmの鋼矢板の継手部に2mmの膜厚(乾燥膜厚1mm)で塗布し乾燥させた。2枚一組で継手部を嵌合させ、圧力水槽ユニットを作成して淡水及び人工海水に浸漬し、1日後、1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後、1年後に圧力ゲージを組み込んだ加圧ユニットと接続し加圧試験を行ったところ、表12及び表13に示すように実施例塗料組成物(a)、(b)は、耐圧の低下は見られなかった。それに対し比較例塗料組成物は初期より耐圧の低下が起こり1年後の比較では実施例塗料組成物(a)、(b)の淡水では20%に人工海水では40%まで低下した。
【0045】
【表12】

【0046】
【表13】

【実施例2】
【0047】
水膨潤性塗料組成物類を離型紙上に厚さ2mmの(乾燥膜厚1mm)で塗布し、乾燥させて塗膜体を作成した。
「実施例塗料組成物(a)」から製膜した塗膜体を「実施例水膨潤性シート(a)」、「実施例塗料組成物(b)」から製膜した塗膜体を「実施例水膨潤性シート(b)」、「比較例塗料組成物」から製膜した塗膜体を「比較例水膨潤シート」とした。(以後、前記の水膨潤性シートすべてを一括していう場合「水膨潤性シート類」という。)
【0048】
これら「水膨潤性シート類」を内径20mmΦ、外径120mmΦのリング状に加工し、実施例1と同様に閉止フランジ上に、固定して淡水及び人工海水で耐圧性について試験した。
固定方法は、二種の方法にて試験した。
(1) 静置法:上下段のフランジ部間に2枚の「水膨潤性シート類」を挟んだだけのもの
(2) 粘着法:「水膨潤性シート類」の片面に粘着加工を施したものを上下のフランジに貼り付けたもの
粘着加工は、成型した「水膨潤性シート類」の表面に、流動性接着剤を噴霧した後、離型紙を貼り付け、粘着加工後の「水膨潤性シート類」のハンドリングを容易にしたものである。
【0049】
試験結果を表14〜17に示す。静置法、粘着法とも、塗装施工した実施例1の「水膨潤性塗料組成物類」と同様な耐水圧の傾向を示した。
この結果により塗装施工ができないか、また、できても難しい箇所への止水材の施工を確立することができた。
【0050】
【表14】

【0051】
【表15】

【0052】
【表16】

【0053】
【表17】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の水膨潤性塗料組成物は、従来のものに比べ、塗膜強度、長期耐久性が向上しており、厳しい条件下における施工が可能になった。
水膨潤性塗料を止水材とした成型加工品を鋼矢板に接着することによって、止水性は従来の塗装方法によるもの変わることがなく、施工性が向上し、コストを削減することができた。また、間隙の大きいH−H継手を有する鋼管矢板でも、シート状に成型加工した水膨潤性止水材を継手に貼り付けることによって、通常の矢板と同等の止水性能が得られ、止水作業が容易となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度500〜16000mPa・sである電離性吸水ポリマー、多価金属化合物、酢酸ビニル含量が33%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体若しくは、酢酸ビニル含量が33%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体とクロロプレンゴムの混合体である熱可塑性エラストマーの有機溶剤溶液、及び体質顔料とからなる水膨潤性塗料組成物。
【請求項2】
請求項1において、電離性吸水ポリマーが、カルボキシメチルセルロースであり、エーテル化度が0.5以上である水膨潤性塗料組成物。
【請求項3】
粘度500〜16000mPa・sである電離性吸水ポリマー、多価金属化合物、熱可塑性エラストマーの有機溶剤溶液、及び体質顔料とからなる水膨潤性塗料組成物をシート状または帯状に成型した水膨潤性止水材。
【請求項4】
請求項3において、電離性吸水ポリマーが、カルボキシメチルセルロースであり、エーテル化度が0.5以上である水膨潤性止水材。
【請求項5】
粘度500〜16000mPa・sである電離性吸水ポリマー、多価金属化合物、熱可塑性エラストマーの有機溶剤溶液、及び体質顔料とからなる水膨潤性塗料組成物をシート状または帯状に成型加工した水膨潤性止水材に粘着加工を施し継手に貼り付ける止水方法。

【公開番号】特開2006−241210(P2006−241210A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55376(P2005−55376)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(391035577)日本化学塗料株式会社 (5)
【Fターム(参考)】