説明

水配管用内面被覆鋼管の製造方法

【課題】幅広い温度領域の接水環境において耐剥離性が高い水配管用内面被覆鋼管を提供する。
【解決手段】鋼管の内側にリン酸塩化成処理を施してなる化成処理皮膜層を有し、該化成処理皮膜層の上層には、平均厚さが10〜40μmであるプライマー層を有し、該プライマー層の上層には、変性ポリエチレン系樹脂層を有している水配管用内面被覆鋼管の製造方法である。プライマー層を形成する前の鋼管の内側表面における塩化物イオン濃度を塩化ナトリウム付着量に換算して3mg/m以下とする。好ましくは、プライマー層を形成するに際し、塗布するプライマー液中の水分含有量を0.5質量%以下とする。好ましくは、変性ポリエチレン系樹脂層を形成するに際し、被覆するポリエチレン粉体中の水分含有量を0.05質量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層と鋼管との間の密着力が高く、防食性能に優れた水配管用内面被覆鋼管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、排水等に使われる配管には、鋼管内面に防食性を付与するため、塩化ビニル樹脂を鋼管内面に貼り付けた内面硬質塩ビ被覆鋼管が使用されている。しかし、塩化ビニル樹脂は低温での耐衝撃性が低いため、水配管用などとして内面硬質塩ビ被覆鋼管を寒冷地で使用する際や施工時に内面硬質塩ビ被覆鋼管を屋外に放置する際に、内面被覆層がダメージを受ける場合がある。さらに、近年では、塩化ビニル樹脂を廃却する際の有害物の発生、塩化ビニル樹脂を処理ルートに乗せるための鋼管と塩化ビニル樹脂の分離処理などの負荷が大きく、環境負荷が大きい材料としての認識ももたれてきている。
【0003】
上記以外の被覆鋼管として、ポリエチレン樹脂粉体等を化成処理、プライマー処理等の表面処理が施された鋼管の内面に加熱した状態で粉体塗装することで内面被覆層を形成した内面ポリエチレン被覆鋼管も使用されている(例えば、日本水道協会規格 JWWA K132)。しかし、この内面ポリエチレン被覆鋼管は、環境によっては管端部での接水により端部から被覆が剥離することがある。
【0004】
また、架橋ポリエチレン管に形状復元性を付与し、鋼管内で加熱復元することにより拡径して内面被覆する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、架橋剤からの溶出成分があるため水道水の衛生性を確保できないなどの問題がある。
【0005】
また、ポリエチレン管に形状復元性を付与して鋼管の内面を被覆する方法も開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2に記載の方法では、一旦ポリエチレンなどからなる樹脂管を作製し、それに形状復元性などを付加する必要があるため、コスト的に高いものとなる。さらに、工業的な速度では均一な内面被覆が困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−9912号公報
【特許文献2】特開2002−257265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、排水等の水配管用に使用される配管は、鋼管と内面被覆層の界面が露出する管端を防食するために、通常、管端防食継手などが使用され配管されている。しかし、施工時の不良や長期の使用により管端が接水環境にさらされることもあり、内面被覆層には低温から高温まで幅広い温度領域における接水環境での耐剥離性が求められる。そして、内面被覆層の耐剥離性が低いと、管端が接水環境にさらされた時、内面被覆層の剥離が起こり剥離した部分の鋼管が錆びてしまい、その結果、赤水などの原因となる。
本発明は、かかる事情に鑑み、上記問題点を有利に解決し、塩化ビニル樹脂を使用しない内面被覆鋼管であって、幅広い温度領域の接水環境においても耐剥離性が高い水配管用内面被覆鋼管を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、水配管用内面被覆鋼管の製造工程において混入する腐食因子に着目し、それらの影響を精査した。その結果、塩化物イオンおよび水分の混入が、製造後の内面被覆の耐剥離性に大きな影響を及ぼすことを知見し、これらの混入量を制御することで耐剥離性が格段に向上した水配管用内面被覆鋼管を安定して製造できることを見出した。
【0009】
本発明による、水配管用内面被覆鋼管の製造方法の要旨は以下の通りである。
[1]鋼管の内側にリン酸塩化成処理を施してなる化成処理皮膜層を有し、該化成処理皮膜層の上層には、平均厚さが10〜40μmであるプライマー層を有し、該プライマー層の上層には、変性ポリエチレン系樹脂層を有した水配管用内面被覆鋼管を製造する方法であって、前記プライマー層を形成する前の鋼管の内側表面における塩化物イオン濃度を塩化ナトリウム付着量に換算して3mg/m以下とすることを特徴とする水配管用内面被覆鋼管の製造方法。
[2]前記[1]において、前記プライマー層を形成するに際し、塗布するプライマー液中の水分含有量を0.5質量%以下とすることを特徴とする水配管用内面被覆鋼管の製造方法。
[3]前記[1]または[2]において、前記変性ポリエチレン系樹脂層を形成するに際し、被覆するポリエチレン粉体中の水分含有量を0.05質量%以下とすることを特徴とする水配管用内面被覆鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐剥離性が高い水配管用内面被覆鋼管が得られる。本発明の水配管用内面被覆鋼管は、従来の内面ポリエチレン被覆鋼管に比べ、内面被覆層と鋼管との密着力が高く、施工不良や長期使用などにより管端部が接水環境にさらされた時にもより高い耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の水配管用内面被覆鋼管の一部を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の水配管用内面被覆鋼管の一部を図1に模式的に示す。図1に示す通り、本発明の水配管用内面被覆鋼管は、鋼管1の内側にリン酸塩化成処理を施してなる化成処理皮膜層2を、前記化成処理皮膜層2の上層に平均厚さが10〜40μmであるプライマー層3を、
前記プライマー層の上層に変性ポリエチレン系樹脂層4を有した水配管用内面被覆鋼管である。
上記のような構成かつ順序の被覆層としたのは、以下の理由による。最上層である変性ポリエチレン樹脂は無極性であるため、直接、鋼管表面と接着しない。そこで、本発明では、鋼管と変性ポリエチレン樹脂層との間に、化成処理皮膜層とプライマー層を設けることにより密着性を確保している。
1)鋼管
前記被覆層を有する鋼管としては、特に限定はしないが、外径が10〜170mm程度、長さは通常4〜6m程度、肉厚は1.0〜6.0mm程度のものを用いるのが好ましい。本発明で用いられる鋼管は、鋼管外面にブラスト処理、酸洗処理、化成処理、メッキ処理、プライマー処理もしくは樹脂被覆を行っても良い。また、鋼管内面は、通常、ブラスト処理、酸洗処理等を行い、その後の化成処理などが行なわれやすいようにすることもできる。
【0013】
2)まず、リン酸塩化成処理を施してなる化成処理皮膜層の形成について説明する。
本発明の化成処理皮膜層は、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛カルシウムなどのリン酸塩系の化成処理を単独、もしくは併用して鋼管に施すことにより得られる。化成処理は、化成処理液を鋼管内面に吹き付けたり、流し込んだり、もしくは化成処理液の浴に鋼管を浸すなどの方法で行うことができ、適宜、促進剤などを併用しても良い。また、60℃以上に加温した状態で行うこともできる。
【0014】
上記リン酸塩系の化成処理、および化成処理の前処理として行われる酸洗処理は水系の処理であり、これらの処理は鋼管内側表面への塩化物イオン付着の原因となりうる製造工程である。鋼管内側表面に塩化物イオンが付着すると、鋼管とプライマー層の間に塩化物イオンが濃縮し、水分を吸収しさびが成長する。その結果、内面被覆層の剥離が起こり剥離した部分の鋼管が錆びてしまい、その結果、赤水などの原因となる。
【0015】
よって、本発明ではプライマー層を形成する前の鋼管の内側表面における塩化物イオン濃度は塩化ナトリウム付着量に換算して3mg/m以下とする。好ましくは1mg/m以下である。化成処理後、プライマー層を形成する前に、鋼管内側表面における塩化物イオン濃度が塩化ナトリウム付着量に換算して3mg/mを超えた場合、内面被覆層下でのさびの成長が促進され、耐剥離性が劣化することになる。
【0016】
例えば、最終洗浄液として用いる水溶液中の塩化物イオン濃度を30ppm以下に下げることで、プライマー層を形成する前の鋼管の内側表面における塩化物イオン濃度を塩化ナトリウム付着量に換算して3mg/m以下とすることができる。
【0017】
また、鋼管の内側表面における塩化物イオン濃度は付着塩分拭取法によって測定することができる。これはマスキングによって面積規定した範囲を蒸留水に浸したガーゼで拭取り、これに付着した塩分を一定量の蒸留水に溶出させてその濃度を測定するものである。
【0018】
3)次いで、前記化成処理皮膜層の上層に積層される平均厚さ:10〜40μmのプライマー層の形成について説明する。
プライマー層は、化成処理層の上に、エポキシ樹脂と硬化剤とを溶剤希釈してなるプライマー液を塗装して形成される。
プライマー液に使用するエポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂とすることが好ましい。エポキシ樹脂に、酸化チタン、シリカ、タルク、白雲母、酸化クロム、リン酸亜鉛等の無機顔料を添加しても良い。また、エポキシ樹脂との接着性を良くするために、無機顔料にシランカップリング処理等の化学処理を施しても良い。
また、エポキシ樹脂を硬化させるために使用する硬化剤としては、ジシアンジアミドもしくはその誘導体、もしくは酸無水物系化合物とその誘導体とすることが好ましい。エポキシ樹脂と硬化剤の配合割合に関しては、適宜、目的に合わせ設定される。硬化物のガラス転移温度を考慮し、硬化物のガラス転移温度が低下しない範囲で配合比を設定するのが好ましい。
また、プライマー液は、エポキシ樹脂と硬化剤を、溶剤で20〜35質量%に希釈して作製したものを使用することが好ましい。そして、プライマー液を、鋼管内面に流し込む、スプレー塗布する等の方法で鋼管内面に塗装することが好ましい。塗装前に鋼管を加熱しておくか、あるいは塗装後、鋼管を熱風、高周波誘導加熱等の方法で加熱することが好ましく、これにより、塗装した熱硬化性樹脂組成物を硬化させ、プライマー層を形成することができる。なお、エポキシ樹脂と硬化剤とを溶剤希釈するのに用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤等、通常、使用される溶剤がいずれも好適である。
【0019】
また、以上からなるプライマー層の平均厚さは10〜40μmとする。10μm未満では、十分な密着性が得られない場合があり、一方、40μm超えでは塗布時に垂れが生じて膜厚が不均一になりやすく、均一な塗布のためには製造能率が悪くなり、また密着性も飽和するためである。
【0020】
上記プライマー層を形成する工程において、プライマー液中に水分が含まれる場合、鋼管内面の塗装下のさび発生に影響をおよぼす。プライマー液中の水分含有量が0.5質量%を超えると、さびの成長が顕著に促進されるため、水分含有量は0.5質量%以下が好ましい。
【0021】
プライマー液中の水分含有量の管理は、プライマー液タンクの設置場所の湿度を管理し、平衡させることで行なう。
【0022】
また、プライマー液中の水分含有量は、JIS K 0068「化学製品の水分測定方法」に規定されるカールフィッシャー滴定法によって測定することができる。
4)次いで、最上層の変性ポリエチレン系樹脂層の形成について説明する。
変性ポリエチレン樹脂は、直鎖状低密度ポリエチレン、もしくは高圧法低密度ポリエチレン、もしくは高密度ポリエチレンを無水マレイン酸などの酸無水物によりグラフト変性したものを用いることができる。変性量は通常6質量%以下が好ましく、定法により変性することができ、通常、メルトインデックスが2以上8以下のものが好ましい。
また、変性ポリエチレン樹脂には本発明の性能を損なわない範囲で、上記樹脂組成物を主成分として他の樹脂を混ぜ合わせても良く、必要に応じて酸化防止剤や顔料などを加えることができる。
変性ポリエチレン系樹脂層は、鋼管を210℃以上に加熱した状態で変性ポリエチレン粉末を塗装し、さらに必要により140℃以上で保熱することにより、形成することができる。
この変性ポリエチレン層の厚みは、0.3mm〜1.0mmが好ましく、より好ましくは0.5mm〜0.9mmである。0.3mmより薄いと施工時の疵付きなどで変性ポリエチレン層に穴があきやすくなり、透水性の高いエポキシ樹脂層がむき出しになるため防食性が損なわれる場合がある。1.0mmより厚いと、粉体塗装での効率が低くなる。
また、変性ポリエチレン系樹脂層として、上記変性ポリエチレン樹脂層の上にさらに既知の直鎖状低密度ポリエチレン、もしくは高圧法低密度ポリエチレン、もしくは高密度ポリエチレンなどのポリエチレンの粉末を同様に塗装して、変性ポリエチレン層とポリエチレン層の合計厚みが0.5mm〜1.0mmになるような層を形成しても良い。この際、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−アクリル酸エステル共重合樹脂などのエチレンと不飽和結合を有するモノマーとの共重合樹脂は、その軟化温度が低くなりすぎるため、使用することはできない。
【0023】
変性ポリエチレン系樹脂層を形成する工程において、上記ポリエチレン粉体中に水分が含まれる場合、鋼管内面塗装後のさび発生に影響をおよぼす。ポリエチレン粉体中の水分含有量が0.05%を超えると、さびの成長が顕著に促進されるため、水分含有量は0.05%以下が好ましい。
【0024】
ポリエチレン粉体中の水分含有量の管理は、ポリエチレン粉体タンクの設置場所の湿度を管理し、平衡させることで行なう。
【0025】
また、ポリエチレン粉体中の水分含有量は、JIS K 0068「化学製品の水分測定方法」に規定されるカールフィッシャー滴定法によって測定することができる。
【実施例1】
【0026】
次に、本発明の実施例について説明する。
変性ポリエチレン樹脂内面被覆鋼管(水配管用内面被覆鋼管)を製造し、得られた水配管用内面被覆鋼管より試験片を採取して、防食性能を調査した。試験片1〜8が本発明例、試験片9〜12が比較例に該当する。詳細を以下に示す。
【0027】
酸洗処理を施した鋼管(内径27.6mmφ、外径34mmφ×4m)を80℃のリン酸亜鉛カルシウム系処理液に浸漬し、化成処理を行った。次いで、鋼管の内側にプライマー液を、平均厚さ25μmとなるように塗布し、130℃に加熱硬化させて、プライマー層を形成した。プライマー液は、主剤としてビスフェノール型エポキシ樹脂を、硬化剤としてジシアンジアミドを用い、20質量%となるようにシンナーで希釈したものを用いた。次いで、鋼管を230℃に加熱した。加熱後、鋼管内面に、密度0.923、メルトインデックス4.9の直鎖状低密度ポリエチレンを無水マレイン酸で変性した粉状の変性ポリエチレン樹脂を粉体塗装し、厚さ0.6〜0.8mmの変性ポリエチレン系樹脂層を形成した。塗装後、150℃以上の炉内で保熱した後、自然冷却して内面被覆鋼管を得た。
鋼管内側表面に付着する塩分量は、化成処理後の洗浄水中の塩化ナトリウム量を変えることにより、変化させた。実際の付着量は、鋼管内側表面の拭き取り分析により確認した。
プライマー液およびポリエチレン粉体の水分含有量は、それぞれを恒湿槽内で平衡させることで調製し、製造に使用したものを分析することで確認した。
防食性能評価は、耐温水性について行った。
製造後、1ヶ月経過した内面被覆鋼管を50cm長さに切断し、60℃の3質量%食塩水に浸漬した。28日後、鋼管端部の被覆層の剥離状況を観察し、端部からの剥離がなかったものを「◎」、5mm未満のものを「○」、5mm以上のものを「×」とした。
【0028】
以上により得られた評価結果を実験条件と併せて表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
本発明例では耐温水性が優れているのがわかる。一方、比較例では耐温水性が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の水配管用内面被覆鋼管は、防食性能にすぐれているため、例えば、水配管用などとして寒冷地で使用する際や施工時に屋外に放置する際などに用いる内面被覆鋼管として最適である。
【符号の説明】
【0032】
1 鋼管
2 化成処理被覆層
3 プライマー層
4 変性ポリエチレン系樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の内側にリン酸塩化成処理を施してなる化成処理皮膜層を有し、該化成処理皮膜層の上層には、平均厚さが10〜40μmであるプライマー層を有し、該プライマー層の上層には、変性ポリエチレン系樹脂層を有した水配管用内面被覆鋼管を製造する方法であって、前記プライマー層を形成する前の鋼管の内側表面における塩化物イオン濃度を塩化ナトリウム付着量に換算して3mg/m以下とすることを特徴とする水配管用内面被覆鋼管の製造方法。
【請求項2】
前記プライマー層を形成するに際し、塗布するプライマー液中の水分含有量を0.5質量%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の水配管用内面被覆鋼管の製造方法。
【請求項3】
前記変性ポリエチレン系樹脂層を形成するに際し、被覆するポリエチレン粉体中の水分含有量を0.05質量%以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の水配管用内面被覆鋼管の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−202711(P2011−202711A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69331(P2010−69331)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】