説明

水酸化チタン又は二酸化チタン

【課題】棒状中空状(長径方向に通孔を有する棒状)というこれまでにない特殊な形状を有する水酸化チタン又は二酸化チタンを提供する。
【解決手段】長径方向に通孔を有する棒状である水酸化チタン又は二酸化チタン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化チタン又は二酸化チタンに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンは、古くから白色顔料として汎用的に使用されており、化粧料、塗料、プラスチック組成物等の着色剤として使用の他、触媒担体、トナーの外添剤として使用されてきた。近年では、二酸化チタン等が有する光触媒性能を利用した用途も広がりを見せつつある。このような用途としては、各種工業塗料等を挙げることができる。
【0003】
これらのチタン系化合物の機能を向上させたりこれまでにない新たな機能を付与したりするために、粒子形状や粒子サイズを種々に変化させる試みが行われている。例えば、粒子径が10〜100nmという超微粒子酸化チタンが有する紫外線吸収能を利用したサンスクリーン剤等が知られている。また、リング状の形状を有するアナタース型酸化チタンも公知である(特許文献1参照)。このようなリング状のアナタース型酸化チタンは触媒、光触媒、光電変換材料等の各種担体としての使用が期待されている。
【0004】
このように、特殊な形状を有するチタン系化合物は、その形状に基づいて特殊な機能を発現することが期待されるものであり、これまでにない新たな粒子形状を有する水酸化チタンや酸化チタンが望まれている。
【特許文献1】特開2004−238212公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、棒状中空状(長径方向に通孔を有する棒状)というこれまでにない特殊な形状を有する水酸化チタン又は二酸化チタンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、長径方向に通孔を有する棒状であることを特徴とする水酸化チタン又は二酸化チタンである。
上記水酸化チタン又は二酸化チタンは、長径(a):5≦a≦100μm、短径(b):1≦b≦10μm、中空径(c):0.5≦c≦8μm、アスペクト比(a)/(b):2≦(a)/(b)≦50、中空比(b)/(c):1.5≦(b)/(c)≦10を満たすものであることが好ましい。
上記水酸化チタン又は二酸化チタンは、比表面積が0.2〜400m/gであることが好ましい。
【0007】
本発明は、上記水酸化チタン又は二酸化チタンを含有することを特徴とする化粧料でもある。
本発明は、上記水酸化チタン又は二酸化チタンを含有することを特徴とする光触媒でもある。
本発明は、上記水酸化チタン又は二酸化チタンを含有することを特徴とする塗料でもある。
本発明は、上記水酸化チタン又は二酸化チタンを含有することを特徴とするインキでもある。
本発明は、上記水酸化チタン又は二酸化チタンを含有することを特徴とする樹脂組成物でもある。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の長径方向に通孔を有する棒状である水酸化チタン又は二酸化チタンとは、円柱又は角柱状等の棒状形状を有し、その長軸方向に両端が開口した通孔を有するという形状を有する水酸化チタン又は二酸化チタンである。ただし、本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは、このような形状を有するものと、両端が閉じられており、かつ、長軸方向に空洞を持つものとからなる混合物であってもよい。このような形状を有する水酸化チタン又は二酸化チタンの例を図1及び図2の電子顕微鏡写真に示した。図1及び図2に示されている水酸化チタン又は二酸化チタンは、長径方向に通孔を有する棒状のものと、両端が閉じられており、かつ、長軸方向に空洞を持つものとからなる混合物であることが写真から判断することができる。
【0009】
本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは、上述したような特殊な形状を有するものであることから、特殊な性質を有することが期待され、この性質に基づく種々の用途が期待される。
【0010】
本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは、これらを厳密に区別する必要はないものである。すなわち、二酸化チタンの一般的な製造方法である沈殿法は、水酸化チタンを製造した後、焼成によって二酸化チタンを製造するものである。本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは、焼成前のほぼ純粋な水酸化チタン、高度に焼成して得られた純度の高い二酸化チタン、焼成の程度が低く、水酸化チタンと二酸化チタンが混在した状態のもののすべてを包含するものである。
【0011】
本発明の二酸化チタンは、アナタース型であってもルチル型であってもよい。また、水酸化チタン及び二酸化チタン以外の不純物の含有量は1質量%未満であることが好ましい。
【0012】
本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは、長径(a):5≦a≦100μm、短径(b):1≦b≦10μm、中空径(c):0.5≦c≦8μm、アスペクト比(a)/(b):2≦(a)/(b)≦50、中空比(b)/(c):1.5≦(b)/(c)≦10の条件を満たす大きさであることが好ましい。
【0013】
上記長径(a)を5μm以上とすることで、容易に棒状形状をなすことができる点で好ましい。更に、上記長径(a)を100μm以下とすることで安定的に棒状を維持することができる点で好ましい。上記短径(b)を1μm以上とすることで、棒状形状を維持するのに充分な強度を得ることができる点で好ましく、10μm以下とすることで棒状形状を容易に得ることができる点で好ましい。中空径(c)を0.5μm以上とすることで、連続した中空部分を得ることができる点で好ましく、8μm以下とすることで、棒状形状を維持するに充分な強度を得ることができる点で好ましい。なお、上記中空径(c)とは、棒状の水酸化チタン又は二酸化チタンの長径方向の通孔の径を意味する。
【0014】
更に、アスペクト比(a)/(b)を2以上とすることで棒状形状をなすことができ、50以下とすることで棒状形状を維持するのに充分な強度を容易に得ることができる点で好ましい。中空比(b)/(c)を1.5以上とすることで、棒状形状を維持するに充分な強度を得ることが容易であり、10以下とすることで連続した中空部分を容易に得ることができる点で好ましい。また、このようなナノオーダーではないサブミクロンオーダーの大きさの粒子であると、二次凝集を生じることなく一次粒子の状態で取り出すことができるため、特異な形状に基づく性質を容易に得ることができる点でも好ましいものである。
【0015】
上記大きさのものを使用することによって、化粧料、触媒、塗料、インキ、樹脂組成物への添加剤として使用した場合のすべり感、着色力、光触媒活性、吸着能等が良好であり、取扱い性も良好である点で好ましい。上記(a)〜(c)は、電子顕微鏡写真によって測定することができる。電子顕微鏡によって測定した水酸化チタン又は二酸化チタンの形状を測定することによって、単一の粒子に対する上記(a)〜(c)をすべて測定することができる。本明細書において、上記(a)〜(c)は、電子顕微鏡測定における視野中の任意の100個の粒子について、それぞれの(a)〜(c)を測定し、これらの平均値を指すものである。上記(a)/(b)、(b)/(c)は、このようにして測定した(a)〜(c)から算出することにより求めた値である。
【0016】
本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは、比表面積が0.2〜400m/gであることが好ましい。比表面積が0.2m/g以上であることによって、高い表面積に由来する高い吸着能、光触媒活性能等が期待される。比表面積が400m/g以下であることによって、適切な粒子強度と通気性を持つという利点を有するものである。上記比表面積は、BET法によって測定した値である。
【0017】
本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは、特に化粧品分野において使用する場合には、滑り性が良好であることが好ましい。滑り性が良好であると、皮膚に塗布する際になめらかに広がり、広がり、のび及び使用感に優れた化粧品とすることができるためである。本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは、化粧品用途に使用する場合は、MIU値0.6以下、MMD値0.04以下であることが好ましい。上記範囲内であることによって、使用感のよい化粧品を得ることができる点で好ましい。
【0018】
本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは、その製造方法を特に限定されるものではなく、公知の水酸化チタン又は二酸化チタンの製造方法において、製造条件を適宜設定して好適な製造条件を選択することによって得ることができる。また、製造条件を調整することによって、(a)〜(c)、(a)/(b)、(b)/(c)の値、比表面積、MIU値、MMD値等を調整することができる。更に、製造条件を調整することによって、ルチル型二酸化チタンとすることも、アナタース型二酸化チタンとすることもできる。
【0019】
焼成時には、比較的低温で結晶性を高めるための各種フラックス、ルチル化を促進するための助剤、焼結を防止するための焼結防止剤等の添加剤の存在下に行うものであってもよい。本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは比較的容易に表面積、結晶形状を変化させることができるため、用途に応じて必要とされる形状を比較的容易に得ることができる点でも好ましいものである。
【0020】
本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは、化粧料、塗料、インキ、樹脂組成物等に配合することができる。本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンを化粧料に配合すると、皮膚への伸展性、すなわち、すべり性がよく、使用感が非常に良好となる。また、塗料、インキのフィラーとして用いた場合、棒状形状であることにより膜強度が大きくなるとともに、表面のすべり性の改善も期待でき、更に、吸着能の高さによる環境汚染物質の吸着も期待できる。そして更に、光触媒や触媒の担体に使用した場合、内部が空洞であることから化合物の吸着能に優れることとなり、高い触媒活性を発揮することが期待されるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは、特殊な形状を有するものであり、このような形状に由来する優れたすべり性、吸着能を有するものである。このような機能を有することから、化粧料、光触媒、塗料、インキ、樹脂組成物等に使用したときに、好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0023】
(実施例)
硫酸チタニルを原料とした通常の二酸化チタンの製造方法における製造条件を調整することによって、長径方向に通孔を有する棒状である二酸化チタンを得た。得られた二酸化チタンの電子顕微鏡写真を図1及び図2に示した。なお、図1及び図2は同一の二酸化チタンを測定したものであるが、倍率が相違している。
【0024】
得られた二酸化チタンの電子顕微鏡写真に基づいて画像中の任意の100個の粒子について長径(a)、短径(b)、中空径(c)を測定し、これに基づいてアスペクト比(a)/(b)及び中空比(b)/(c)を算出した。これらの値を表1に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
更に、上記実施例によって得られた二酸化チタン及びこの二酸化チタンを得る工程において、焼成前に得られた水酸化チタンのそれぞれについて、比表面積(BET法)とXRD測定を行った。結果を図3及び図4に示した。焼成後の二酸化チタンは比表面積220m/gで、2Θ=25度付近にアナタース型の二酸化チタン由来のピークが観測されたが、焼成前の水酸化チタンは比表面積350m/gで、二酸化チタン由来のピークがみられなかった。
【0027】
上記実施例によって得られた長径方向に通孔を有する棒状である二酸化チタンの滑り性及び吸着性能を以下に示す方法によって測定した。結果を表2及び図5に示した。なお、表2においては、同様の方法によって測定した各種の顔料の摩擦特性値を比較データとして示した。更に、図5においては超微粒子アナタース型酸化チタン(SSP−25 堺化学工業社製)を使用して同じ試験を行った場合の結果を示した。
【0028】
(滑り性の測定方法)
スライドガラスに両面テープを貼付し、粘着面に試料を載せる。化粧用スポンジで試料を均一に伸ばし、摩擦子をセットして測定を行った。なお、測定はカトーテック株式会社製KES−SE摩擦テスターを使用して行い、SENS:H,摩擦子移動速度1.0mm/sec、摩擦静荷重25gの条件で、摩擦子としてシリコンセンサーを使用して行った。
【0029】
【表2】

【0030】
表2の結果から、実施例によって得られた本発明の二酸化チタンは滑り性良好であることが明らかとなった。
【0031】
(吸着性能の測定方法)
上記実施例によって得られた長径方向に通孔を有する棒状である二酸化チタン5gとイソプロピルアルコール10gとを遊星ミルで10分間混合した。上記工程によって得られたペーストを15cm角のガラス板にバーコーターによって塗布した。6時間放置して溶剤を揮発させた後、中心波長350nmの紫外線ランプ(東芝ライテック社製、10W)を5W/cmの強度で4時間照射し、有機物を完全に分解した。上記酸化チタン被膜を形成したガラス板を60cm×60cm×15cmの容器に入れ、容器内の気体中の濃度が500ppmとなる割合でアセトアルデヒドを封入した。室温で上記容器を保持し、一定時間ごとに容器内のガスをサンプリングして、ガスクロマトグラフィーによってアセトアルデヒド濃度を測定した。
【0032】
図5に示された結果から、本発明の二酸化チタンは、比表面積が大きく吸着能に優れると言われている超微粒子チタンよりも良好な吸着性能を有することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の水酸化チタン又は二酸化チタンは、化粧料、塗料、インキ、樹脂組成物への添加剤;光触媒;触媒の担体等において使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例によって製造された本発明の二酸化チタンの電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】実施例によって製造された本発明の二酸化チタンの電子顕微鏡写真を示す図である。
【図3】実施例によって製造された本発明の二酸化チタンのXRD測定結果を示す図である。
【図4】実施例によって製造された本発明の水酸化チタンのXRD測定結果を示す図である。
【図5】実施例の二酸化チタン及び微粒子酸化チタンの吸着性能試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長径方向に通孔を有する棒状であることを特徴とする水酸化チタン又は二酸化チタン。
【請求項2】
長径(a):5≦a≦100μm
短径(b):1≦b≦10μm
中空径(c):0.5≦c≦8μm
アスペクト比(a)/(b):2≦(a)/(b)≦50
中空比(b)/(c):1.5≦(b)/(c)≦10
を満たす請求項1記載の水酸化チタン又は二酸化チタン。
【請求項3】
比表面積が0.2〜400m/gである請求項1又は2記載の水酸化チタン又は二酸化チタン。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の水酸化チタン又は二酸化チタンを含有することを特徴とする化粧料。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載の水酸化チタン又は二酸化チタンを含有することを特徴とする光触媒。
【請求項6】
請求項1、2又は3記載の水酸化チタン又は二酸化チタンを含有することを特徴とする塗料。
【請求項7】
請求項1、2又は3記載の水酸化チタン又は二酸化チタンを含有することを特徴とするインキ。
【請求項8】
請求項1、2又は3記載の水酸化チタン又は二酸化チタンを含有することを特徴とする樹脂組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−290636(P2006−290636A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109255(P2005−109255)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】