説明

水量測定システム

【課題】 本発明は、下水管内に簡便な方法で設置することができ、長期間の使用に耐える水量測定システムを提供することを目的としている。
【解決手段】 下水管を流れる水量の測定システムであって、下水管1の内面に配置された無線タグ4と、下水管1内の水面2の上方に位置する無線タグ4との間で無線通信を行うリーダ装置5と、を備え、無線タグ4は、リーダ装置5が放出する電波の伝搬方向に対して立体角を有するアンテナを備える。さらに、下水管1の内面に付設され、無線タグ4を覆う保護層を備えることを特徴とする。これにより、センサとして機能する無線タグ4とリーダ装置5の間に配線が無く、簡便に設置できる測定システムとなる。また、無線タグ4が保護層によって覆われるため、長期間の使用に耐えるシステムとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水管に流れる水量の測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下水管内を流れる下水の水位または流量の計測には、水面から上に設置して計測を行う電波式または超音波式の水位計や、水面下に設置することが可能な超音波式流量計、圧力センサ式水位計、静電容量式水位計などが使用されている。
【0003】
電波式水位計や超音波式水位計は、満管となり水没する可能性がある下水管内には設置することができないという制約があり、水中に設置が可能な超音波式流量計、圧力センサ式または静電容量式の水位計は、センサへの電源供給およびデータ通信のためのケーブルが必要であり、設置工事が大掛かりとなる。また、取り外してメンテナンスすることが容易でない等の難点があった。
【0004】
一方、非接触の情報通信が可能な無線タグ(RFID)システムが広く普及しており、特許文献1には、液体の水位等の測定を、ケーブルを要しないRFIDタグを使用して簡便に行う測定システムが記載されている。
【特許文献1】特開2005−331347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のRFIDを使用した測定システムは、主として静水の水位を図るものであり、また、下水管のような恒久的な施設に設置する上では、長期的な使用に耐える測定システムではないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題を鑑みて、下水管内に簡便な方法で設置することができ、長期間の使用に耐える水量測定システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る水量測定システムは、下水管を流れる水量の測定システムであって、下水管の内面に配置された無線タグと、下水管内の水面の上方に位置する無線タグとの間で無線通信を行うリーダ装置と、を備え、無線タグは、リーダ装置が放出する電波の伝搬方向に対して立体角を有するアンテナを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、下水管を流れる水のセンサとして機能する無線タグと、リーダ装置との間で無線通信が行われるので、ケーブルの配線を必要とせず、簡便に設置を行うことができる水量測定システムが構成される。また、リーダ装置が放出する電波に対して、無線タグのアンテナの立体角が零とならないように配置される。これにより、全ての無線タグとリーダ装置との間の無線通信が可能となり、正確な水量の測定が可能となる。
【0009】
本発明に使用される無線タグは、リーダ装置との間で交信できるアンテナ付きのICチップである。例えば、市販の樹脂パッケージに封入したRFIDタグ、または、樹脂シートの間にラミネートされたRFIDタグを使用することができる。下水管の内周面に配置された無線タグの内、水面下に位置するものはリーダ装置との交信ができず、水面の上方に位置する無線タグのみがリーダ装置と交信して識別情報を発信する。これにより、無線タグは、水の有無を検知するセンサとして機能する。また、水量とは、下水管を流れる水の水位、または、水位から算出される単位時間あたりの流量である。
【0010】
また、本発明に係る水量測定システムは、下水管の内面に付設され、無線タグを覆う保護層を備えることを特徴とする。これにより、無線タグは保護層で覆われるため、下水管を流れる腐食性の下水に曝されることがなく、機能劣化を生じるおそれが無い。また、流失するおそれもない。したがって、長期間に渡る使用に耐える水量測定システムとすることができる。
【0011】
本発明に係る水量測定システムにおいて、保護層は、下水管の内面に設置される管渠更生材であることを特徴とする。すなわち、本発明に係る水量測定システムは、下水管の最初の敷設時に設置するだけでなく、既設の下水管においても設置が可能である。例えば、老朽化した下水管の更生工事においても設置することが可能である。
【0012】
さらに、本発明に係る水量測定システムは、リーダ装置が読み取った無線タグの識別情報に基づいて、下水管を流れる水の水位または流量を算出するデータ処理装置と、データ処理装置が算出した水位または流量を出力する出力装置と、を備えることを特徴とする。後述するように、下水管を流れる水の流量は、無線タグの識別情報に基づいて検出した水位から算出することができる。これにより、下水管内の水位または流量をリアルタイムに送信し、上位システムにおけるデータ処理の負荷を軽減することができる。
【0013】
データ処理装置は、例えば、マイクロコンピュータを使用することができ、出力装置は、例えば、マイクロ波通信の送受信装置、または光ファイバー通信の光回線終端装置(OUN)等、上位システムにデータを転送できる装置が好適である。
【0014】
また、本発明に係る水量測定システムにおいては、出力装置は、算出された水位または流量が所定量を超えた時に警報信号を出力することを特徴とする。これにより、上位システムにおいて、下水道の増水に対する安全対策を講ずることが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る水量測定システムにおいて、無線タグは、下水管の水流方向と交差する横断面に沿って配置されていることを特徴とする。これにより、予め無線タグを付着した樹脂プレートや樹脂シートを下水管内に付設する設置方法を用いることが可能となり、無線タグの配置が容易となる。また、無線タグの配置に一定の規則性が生じるので、配置位置のずれの有無を容易に判定することができる。
【0016】
また、本発明に係る水量測定システムにおいて、無線タグは、下水管の内面の中心部の水位を検知する位置に、相対的に数多く配置されていることを特徴とする。これにより、下水管の中心部分において、水位の検出精度を高くすることができる。
【0017】
また、本発明に係る水量測定システムにおいて、無線タグは、下水管を流れる基準水量の倍数に対応する水位を検知する位置に配置されていることを特徴とする。例えば、定常状態の時間最大水量を1Qとし、その倍数の2Q、3Q等の流量に対応する水位を検出できる位置に配置すれば、所定の管理システムに適合したデータを直接出力することができる。
【0018】
また、本発明に係る水量測定システムにおいて、無線タグは、所定の周期性を有する識別情報を付与され、該周期性に基づいて水位または流量を算出するデータ処理装置を備えることを特徴とする。後述するように、本発明によれば、無線タグに付与された周期性に基づいて、水に接していない下水管の内周面の長さを検出し、流量および水位を求める。したがって、流量および水位の算出において、個々の無線タグを識別して配置位置を取り込む必要がない。これにより、無線タグの配置の自由度を大きくすることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、下水管内に簡便な方法で設置することができ、長期間の使用に耐える水量測定システムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施態様に係る水量測定システムを備えた下水管の断面を示す模式図である。下水管1の内面に無線タグ4が配置されている。無線タグ4は、内面の上下方向に4a〜4eの5個が配置されている。また、各無線タグ4との間で無線通信を行うリーダ装置5と、リーダ装置5が読み取った情報を出力する出力装置7を備えている。さらに、リーダ装置5が読み取った無線タグ4の識別情報に基づき、下水管1の内部を流れる水の水位および流量を算出するデータ処理装置6を備えており、各装置の間は、ケーブル15により接続されている。
【0022】
水量測定システムの設置場所としては、設置後のメンテナンスが容易となるように、作業者の出入が可能なマンホール3の近辺とすることが好ましい。また、リーダ装置5の設置位置としては、無線タグ4との間で無線通信が可能であって、増水時において水没しない位置とする必要がある。したがって、図1中に示すように、マンホール3の壁面3aと下水管1が接続する位置が好適である。
【0023】
図2は、下水管1の流水方向の横断面を示す模式図である。無線タグ4a〜4eは、下水管1の内周面に沿って配置されている。図中の例では、無線タグ4d、4eは、水中に没しており、リーダ装置5との間で無線通信を行うことはできない。一方、無線タグ4a、4b、4cは、水面2より上方に位置しているので、リーダ装置5との間で通信を行うことができる。
【0024】
したがって、図1に示すリーダ装置5は、無線タグ4a、4b、4cからの通信信号を受けて、それぞれの識別情報を読み取り、データ処理装置6へ出力することができる。データ処理装置6は、無線タグ4a、4b、4cの識別情報を認識し、一方、無線タグ4d、4eの識別情報が入力されていないことから、水面2が無線タグ4cと4dの間にあることを認識する。さらに、無線タグ4cと4dの間の水面2の位置を下水管1の水位として、出力装置7を介して上位システムに送信する。
【0025】
また、リーダ装置5が、所定の時間間隔で無線タグ4の識別情報を読み取り、データ処理装置6が、受け取った識別情報に基づいて平均水位を算出し、出力装置7から上位システムへ送信する構成としても良い。
【0026】
さらに、リーダ装置5が読み取った無線タグ4の識別情報から認識される水面2の位置に基づいて、下水管1の潤辺Sおよび通水断面積A(図2参照)を算出し、次に示すマニング式を用いて水の平均流速Vを算出することができる。
【数1】


ここで、潤辺Sは、流れ方向の横断面において水に接している管壁の長さである。また、Rは水理学的平均水深、Iは水面勾配である。nはマニングの粗度係数であり、下水管の内周面の材質に固有の係数である。例えば、コンクリート面では0.014、樹脂コートされた面においては0.009が用いられている。
【0027】
図1に示すデータ処理装置6において、上記のマニング式に従って平均流速Vを求め、単位時間あたりの流量を算出し、出力装置7を介して上位システムに送信する構成とすることができる。これにより、複数の流量測定システムから送信される流量データを取得し、下水管網の流出解析をリアルタイムに実施して下流域の流量予測を行う下水道管理システムを構築することができる。
【0028】
また、上記の実施態様において、データ処理装置6を省き、リーダ装置5が読み取った無線タグ4a、4b、4cの識別情報を、出力装置7を介して直接上位システムに送信し、上位システムにおいてデータ処理を実行する構成も可能である。一方、種々の形状、サイズを有する下水管で構成される大規模な下水道システムにおいては、データ処理装置6を備えて上位システムのデータ処理の負担を軽減することができる上記の水量測定システムが好適である。
【0029】
図3は、本実施形態に係る水量測定システムの機能ブロックを示している。上記の通り、本システムは、無線タグ4、およびリーダ装置5、データ処理装置6、出力装置7で構成されている。
【0030】
無線タグ4は、制御回路22とメモリ23を備えたICと、アンテナ21とで構成されている。リーダ装置5から送信される電波の電磁界によりアンテナ21に起電力が発生し、制御回路22とメモリ23を駆動する。この際、リーダ装置5から送信される電波の伝搬方向に対して、アンテナ21の受信面が所定の立体角を持つように配置されていなければ、起電力が生じないので、無線タグ4は動作しない。したがって、無線タグ4は、アンテナ21の受信面の立体角が、リーダ装置5から送信される電波の伝搬方向に対し、少なくとも零とならないように配置される必要がある。
【0031】
メモリ23には、無線タグ4を他の無線タグから識別する識別情報が記憶されており、アンテナ21で生じた起電力で駆動された制御回路22は、メモリ23から識別情報を読み出し、識別情報を乗せて変調した電波をアンテナ21から発信する。
【0032】
リーダ装置5は、アンテナ24と制御回路25で構成されている。制御回路25は、アンテナ24から無線タグ4を駆動するための電波を発信させ、一方で、無線タグ4から発信された電波をアンテナ24で受信させ、受信された信号から識別情報を抽出する。さらに抽出した識別情報をデータ処理が可能な符号に変換してデータ処理装置6に送る。
【0033】
データ処理装置6は、CPU27と、メモリ29と、インターフェース回路28を備えるマイクロコンピュータである。データ処理装置6は、インターフェース回路28を介して、リーダ装置5から無線タグ4の識別情報を受け取り、下水管1の内周面に配置された無線タグ4の中でリーダ装置5と交信できる状態にあるもの、すなわち、水面2の上方に位置している無線タグ4を認識する。一方、メモリ29には、無線タグ4の配置が記憶されており、認識された水面2の上方にある無線タグ4の配置に基づいて下水管内の水位を決定する。さらにデータ処理装置6は、決定された水位に基づいて、前述のマニング式を用いて、下水管1を流れる水の流量を算出する。下水管1の内径R0および水面勾配I、マニングの粗度係数n等のパラメータは、メモリ29に記憶されている。
【0034】
また、データ処理装置6は、リーダ装置5および出力装置7を制御するコントローラとしも機能する。これらの装置を制御するプログラムは、メモリ29に記憶されている。例えば、データ処理装置6は、上記の決定された水位および流量のデータを出力装置7へ送り、通信コントローラ30を制御して上位システムへ送信する。出力装置7は、通信コントローラ30とマイクロ波の送受信部31で構成されており、送受信部31は、通信コントローラ30に制御され、携帯電話の基地局を介して上位システムとの間でデータ通信を行う。
【0035】
上記のシステム構成において、出力装置7を光ファイバー通信の光回線終端装置(OUN)として、光ファイバー通信網を介して上位システムと接続される構成とすることも可能である。また、前述したように、データ処理装置6を有しないシステムであって、出力装置7の通信コントローラ30がリーダ装置5を制御し、リーダ装置5が読み取った識別情報を出力装置7から上位システムへ送信する構成を採ることもできる。
【0036】
また、突発的な増水等による水害を防ぐために、予め警戒水位、または警戒流量を設定しておき、データ処理装置6で算出された水位または流量が、警戒水位または警戒流量を超えた場合に、出力装置7から警報信号を上位システムに出力する構成とすることができる。これにより、洪水等に対する安全対策を備えた上位システムを構築することが可能となる。
【実施例1】
【0037】
図4は、本発明に係る流量測定システムにおける無線タグの第1の配置方法を示す模式図である。無線タグ4a〜4eは、下水管1の内周面に配置され、それぞれの配置位置は、幅Wの等間隔で設定された水位に対応している。これにより、Wを単位として、下水管1を流れる水の水位を検出することができる。例えば、リーダ装置5が、無線タグ4a〜4eの全てと交信し、識別情報を取得できた場合には、データ処理装置6は、水位は1Wの位置にあると判断し、4a〜4dと交信して識別情報を取得した場合は、水位は2Wと判断する。
【0038】
また、無線タグ4a〜4eは、下水管1と、下水管1の内面に付設される樹脂製の保護層12の間に配置されている。これにより、無線タグ4a〜4eが下水管1の内部を流れる水に曝されることが無いため、腐食性の下水による機能劣化や流失を防ぐことができる。無線タグ4および保護層12は、下水管の設置時において設けられることは言うまでもないが、老朽化した下水管の更生工事において、下水管の内面に無線タグを配置し、保護層12として管渠更生材で覆うことにより水量測定システムを設置することも可能である。また、保護層12には、無線タグ4とリーダ装置5との交信を妨げない材料を使用する。例えば、金属製の目の細かいメッシュ状の補強材を含むものは、電波を吸収するので使用することはできない。
【0039】
図5は、無線タグ4の配置を模式的に示した斜視図である。図5(a)は、下水管1を流れる水の水流方向に直交する仮想断面を示しており、無線タグ4は円状の断面に沿って配置されている。これに対し、図5(b)は、水流方向に対し所定の傾きを持った仮想断面を示しており、無線タグ4は、楕円状の断面に沿って配置されている。この場合には、図5(a)に比べて配置される周面の長さが長くなるので、無線タグ4の配置間隔を同じ幅に設定しても、より多くの無線タグ4を配置することができる。すなわち、図5(a)に示す円形の断面に沿って配置する場合に比べ、より狭い幅Wで水位を検知することが可能となり、検知精度を高めることができる。
【0040】
また、上記のように、下水管の水流方向と交差する横断面に沿って無線タグ4を配置すると、予め無線タグを付着した樹脂プレートや樹脂シートを下水管の内周面に付設する方法を用いて無線タグの設置をすることが可能となる。これにより、設置工事が容易となり、また、無線タグの配置に一定の規則性が生じ、配置位置のずれの有無を容易に判定することができる。
【実施例2】
【0041】
図6(a)は、無線タグ4a〜4eを所定の位置に配置した樹脂プレート13を、下水管1と、保護層12との間に配置する第2の配置方法を示す模式図である。図6(b)は、樹脂プレート上に配置された無線タグ4a〜4eを示す模式図である。無線タグ4a〜4eの配置位置は、検出目的に適合する下水管1の水位に合わせて設定する。例えば、下水管を流れる水の水量変化を監視する場合に、下水管の中心部の水位を検知する位置に、相対的に数多く配置することが考えられる。また、増水を監視して警報を発することを目的とする場合には、警戒水位を設定して、その水位を検出する位置に重点的に配置することが考えられる。
【0042】
樹脂プレート13は、合成樹脂を成形した2枚の板の間に無線タグ4を挟んで貼り合わせたもの、または、樹脂板の表面に無線タグ4a〜4eを貼り付けたものを使用することができる。また、樹脂シートの間に無線タグ4a〜4eをラミネートしたものであっても良い。個々の無線タグ4a〜4eを配置する方法に比べて、樹脂プレート13を用いることにより、設置工事が簡便となることは明らかである。
【0043】
図7(a)は、下水管1の水位を0から100%まで10%単位で等間隔に検出する場合に、樹脂プレート13上に配置される無線タグの配置位置を示した模式図である。水位0%に対応するNo.1の無線タグの位置を基準として、N番目の無線タグの配置位置までの長さXは、次式で表わされる。
【数2】

ここで、Rは、下水管1の内径である。上式により算出されるXに従って、No.2からNo.11までの無線タグを配置した場合、図7(a)に示すように、樹脂プレート13の中心部において相対的に数多く配置され、周辺部において数が少なくなる。
【0044】
一方、図7(b)は、図7(a)に示す樹脂プレート13を、円形の下水管1に設置した場合において、無線タグの番号と、各無線タグが対応する水位との関係を示すグラフである。図に示すように、下水管1に設置した場合は、各無線タグが10%毎の等間隔の水位を示す配置となる。
【0045】
これに対し、図8は、樹脂プレート上に等間隔に配置した場合の、各無線タグと水位との関係を示している。図8(a)は、無線タグNo.1〜No.11の樹脂プレート13上の配置を示したものである。水位0%に対応するNo.1の無線タグと、100%に対応するNo.11の無線タグの配置位置は、図7(a)に示した同番号の無線タグの配置位置と同じである。
【0046】
図8(b)は、図8(a)に示す樹脂プレート13を、円形の下水管1に設置した場合の無線タグの番号と、各無線タグが対応する水位との関係を示すグラフである。この場合には、各無線タグに対応する水位は等間隔にはならず、下水管の中心部対応するNo.4〜No.8のタグにおいて水位の間隔が広く、上下部分のタグにおいて狭くなっている。これにより、中心部の水位の検出精度が荒くなり、上下部分において精度が高くなる。一方、図に示すような円形の下水管では、流量の変化に対応する水位の変動は、上下部分に比べて中心部において小さくなる。したがって、中心部において検出精度が高いことが望ましく、全範囲で均等に検出精度が得られる図7の配置の方がより好ましいことは明らかである。
【0047】
さらに、図7(a)に示す樹脂プレート13において、無線タグ4を中心部に追加して配置することにより、中心部の水位を10%以下の幅で検出するように精度を高めることが可能である。
【実施例3】
【0048】
図9は、本発明の流量測定システムに係る無線タグの第3の配置方法を示す模式図である。本実施例においては、下水管を流れる基準水量の倍数に対応する水位を検知する位置に、各無線タグ8a〜8fが配置されている。また、本実施例においては、無線タグ8a〜8fが設置された内周面に対向する面に無線タグ9a〜9fを配置し、水位の検出精度の向上を図っている。同じ水位を検出する無線タグを複数とすることで、認識情報の誤検出を補正することが可能となる。また、下水管1内の水面2は上下左右に変動する動水面であるから、内周面の両側に無線タグ8a〜8fおよび9a〜9fを配置し、検出データの時間平均を取ることにより検出精度を向上することが可能となる。
【0049】
また、図中に示すように1Qを基準水量とし、2Q、3Q‥と、その倍数の流量に対応する水位を検出できる位置に無線タグ8a〜8fおよび9a〜9fを配置すれば、所定の管理システムに適合したデータを直接出力することができる。例えば、晴天時の計画流入下水量1Qshを基準水量として、雨天時に増水した水量を2Qsh、3Qsh‥として基準水量の倍数で扱う合流式下水道システム等に適用することができる。
【実施例4】
【0050】
図10は、本発明の流量測定システムに係る無線タグの第4の配置方法を示す模式図である。本実施例においては、図10(a)に示す複数の無線タグ4をラミネートした樹脂テープ17を用いる。無線タグ4は、一定の間隔Lを持って配置されており、また、無線タグには周期Tとなるように識別符号a〜eが、それぞれ付与されており、メモリ23(図3参照)に記憶されている。また、樹脂テープ17は、ロール18に巻き取られた長尺のテープであり、下水管1の内周面の長さに合わせて切り取られて使用される。
【0051】
図10(b)は、樹脂テープ17を内周面に付設した下水管1の断面を示す模式図である。樹脂テープ17は、下水管1と保護層12との間に配置されて、また、樹脂テープ17の端部は、常時、水面下となる下水管1の下部分に配置されている。本実施例においては、無線タグ4の位置と下水管1内の水位との関係は任意であり、樹脂テープ17の配置位置を所定の水位に合わせる必要がないので、設置工事が容易となる。本実施例において、下水管1の水位、および流量は以下に説明する方法で算出される。
【0052】
まず、リーダ装置5と無線タグ4との間の交信により、各無線タグのメモリ23に記憶された識別情報が読みだされてデータ処理装置6に送られる(図3参照)。データ処理装置6は、リーダ装置5から受け取った識別情報から識別符号a〜eを認識し、周期Tに基づいて流量および水位を算出する。さらに、データ処理装置6は、算出した流量および水位を出力装置7へ送り、上位システムへ出力させる。
【0053】
図10(b)中に示すように、4周期分の無線タグ4と、図中の左面に位置する周期から外れたタグ(識別符号e)と、右面に位置する周期から外れた2つタグ(識別符号a、b)が、水面2の上方に位置するとした場合、リーダ装置5が読み取る識別情報から認識される各識別符号の数は、図10(c)に示す表中の数となる。
【0054】
データ処理装置6は、リーダ装置5が読み取った識別符号ごとの数に基づいて、4周期分の無線タグ4と周期から外れた3個の無線タグ4が、水面2の上方に位置することを認識する。さらに、データ処理装置6は、下水管の断面形状に基づき、無線タグ4の周期数nと周期から外れた個数nを用いて、潤辺Sおよび通水断面積Aを算出し、前述のマニング式を用いて流量を算出する。また、水位Dも算出する。
【0055】
下水管1が円形である場合には、潤辺Sおよび通水断面積A、水位Dは、次式を用いて算出することができる。
【数3】

ここで、Rは、下水管1の内径である。また、Tは周期、Lは無線タグ4の配置間隔である。
【実施例5】
【0056】
リーダ装置5と無線タグ4との間の無線通信は、リーダ装置5から発信された電波を受信した無線タグ4が起電力を得て識別情報を発信し、無線タグ4からの電波を受けたリーダ装置5が識別情報を読み取ることによって実施される。したがって、前述したように、リーダ装置5のアンテナ24と無線タグ4のアンテナ21は、相互に立体角が零とならないように配置される必要がある。図11ないし13は、アンテナ相互の立体角が零とならない無線タグ4の配置方法を示した模式図である。
【0057】
図11に示す第5の配置方法においては、無線タグ4は、流水方向に対して傾いた仮想断面A-Aに沿って配置されている。無線タグ4の配置は楕円状となり(図5(b)参照)、一方、リーダ装置5は、楕円の中心の上方に位置するように配置される。これにより、無線タグ4がリーダ装置5を取り巻くような配置となっており、それぞれのアンテナ21、および24の相互の立体角が零とならないようにすることが可能となる。
【0058】
図12に示す第6の配置方法では、検出すべき水位に対応する各無線タグ4の高さ位置のみが設定されており、横方向の設置位置は、リーダ装置5のアンテナ24との立体角の大きさに基づいて決める。すなわち、立体角が相対的に小さくなる水位に配置される無線タグ4は、リーダ装置5に近接した位置に配置し、リーダ装置5の電波により誘起される起電力が大きくなるようにする。
【0059】
図13は、前述した樹脂プレート13に無線タグ4を付着する場合の実施例を示したものである(図6参照)。個々の無線タグ4において、リーダ装置5のアンテナ24との間の立体角が零、または駆動に必要な起電力が得られない大きさである場合に、設置面にテーパー状の隆起部13aを設けて立体角を大きくする。本実施例に使用する樹脂プレート13は、プレート部と隆起部13aを一体成形して製作する。この際、隆起部13aのテーパー角は、流水方向に対する樹脂プレート13の傾きと無線タグの配置位置に基づいて算出する。
【0060】
リーダ装置5との間の立体角を零としない無線タグ4の配置方法は、上記の実施例に限られるものではなく、リーダ装置のアンテナ24および無線タグ21のアンテナ21の構造に依存する指向性を考慮し、水量測定システムを設置する環境に基づいて決められるものである。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明に係る水量測定システムは上述した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る水量測定システムを備えた下水管の断面を示す模式図である。
【図2】本発明に係る水量測定システムを備えた下水管の流水方向の横断面を示す模式図である。
【図3】本発明に係る水量測定システムの機能ブロックである。
【図4】本発明に係る無線タグの第1の配置方法を示す模式図である。
【図5】本発明に係る無線タグの第1の配置方法を示す模式図である。
【図6】本発明に係る無線タグの第2の配置方法を示す模式図である。
【図7】本発明に係る無線タグの第2の配置方法を示す模式図である。
【図8】本発明に係る無線タグの第2の配置方法を示す模式図である。
【図9】本発明に係る無線タグの第3の配置方法を示す模式図である。
【図10】本発明に係る無線タグの第4の配置方法を示す模式図である。
【図11】本発明に係る無線タグの第5の配置方法を示す模式図である。
【図12】本発明に係る無線タグの第6の配置方法を示す模式図である。
【図13】本発明に係る無線タグの第7の配置方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0063】
1 下水管
2 水面
4 無線タグ
5 リーダ装置
6 データ処理装置
7 出力装置
8、9 無線タグ
12 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水管を流れる水量の測定システムであって、
前記下水管の内面に配置された無線タグと、
前記下水管内の水面の上方に位置する前記無線タグとの間で無線通信を行うリーダ装置と、を備え、
前記無線タグは、前記リーダ装置が放出する電波の伝搬方向に対して立体角を有するアンテナを備えることを特徴とする水量測定システム。
【請求項2】
前記下水管の内面に付設され、前記無線タグを覆う保護層を備えることを特徴とする請求項1に記載の水量測定システム。
【請求項3】
前記保護層は、
前記下水管の内面に設置される管渠更生材であることを特徴とする請求項2に記載の水量測定システム。
【請求項4】
前記リーダ装置が読み取った前記無線タグの識別情報に基づいて、前記下水管を流れる水の水位または流量を算出するデータ処理装置と、
前記データ処理装置が算出した水位または流量を出力する出力装置と、
を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の水量測定システム。
【請求項5】
前記出力装置は、
前記算出された水位または流量が所定量を超えた時に警報信号を出力することを特徴とする請求項4に記載の水量測定システム。
【請求項6】
前記無線タグは、
前記下水管の水流方向と交差する横断面に沿って配置されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の水量測定システム。
【請求項7】
前記無線タグは、
前記下水管の内面の中心部に、相対的に数多く配置されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の水量測定システム。
【請求項8】
前記無線タグは、
前記下水管を流れる基準水量の倍数に対応する水位を検知する位置に配置されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の水量測定システム。
【請求項9】
前記無線タグは、所定の周期性を有する識別情報を付与され、
該周期性に基づいて水位または流量を算出するデータ処理装置を備えることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の水量測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−133885(P2010−133885A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311756(P2008−311756)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】