説明

汚染物分解装置

【課題】20%程度の酸素分子が共存している窒素酸化物を微量に含む汚染物を加熱することなく、汚染物質を効率的に無害化する汚染物分解装置を提供することである。
【解決手段】汚染物分解装置は、水素イオン伝導性の高分子電解質膜3と、上記高分子電解質膜3の一方の面に接する面に酸化反応を促進する酸化触媒7が形成されている電子導電性基材6からなる陽極電極4と、上記高分子電解質膜3の他方の面に接する面に還元反応を促進する還元触媒9が形成されている汚染物質を吸着濃縮する電子導電性基材8からなる陰極電極5と、上記陽極電極4と上記陰極電極5との間に直流電圧を印加する直流電源21と、上記陰極電極5の上記高分子電解質膜3に面している面の反対の面の近傍に汚染物質を含有する汚染物が流される流路19と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気中または水中に存在する窒素酸化物、オキシダント、過酸化物、アンモニアなどの汚染物質を分解して無害化する汚染物分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素酸化物分解素子は、水素イオンを選択的に伝導するプロトン伝導性の固体高分子膜と、この固体高分子膜の両面に配設された陽極および陰極と、白金族触媒を担持し陰極に隣接して配設された多孔体の金属酸化物とを具備し、陰極において生成される水素分子による化学的還元反応により60〜80℃という比較的低温において、窒素酸化物を窒素分子(N)と水分子(HO)に還元分解する。この金属酸化物は、窒素酸化物を吸蔵し濃縮する機能を有し、金属酸化物の空孔中に白金族触媒の金属分子が収まっている(例えば、特許文献1参照)。
また、窒素酸化物分解装置は、酸化バリウム、セリア、酸化ストロンチウム・ジルコニア、酸化カルシウム・ジルコニアなどの酸化物粉末の焼結体からなるプロトン伝導性の固体電解質体の両面に陽極および陰極が形成され、水および窒素酸化物を含有する被処理ガスが接触される。そして、陽極面で水の電解酸化により水素イオンを発生させる。次に、水素イオンを陰極面に伝導させ、水素分子として析出させると共に、この水素分子により被処理ガス中の窒素酸化物の還元を行う(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−141750公報
【特許文献2】特許第2997033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、還元剤として水素分子(H)を用いて、空気中の低濃度の窒素酸化物などの汚染物質を化学的還元反応によって分解する場合、還元剤である水素分子のほとんどが20%程度で共存する酸素分子によって消費されるため、窒素酸化物の分解の反応効率が低いという問題がある。
また、分解温度が60℃以下では、水素分子と窒素酸化物との触媒反応が進行しないため、汚染物質の還元除去が困難であるという問題がある。
【0005】
この発明の目的は、20%程度の酸素分子が共存している窒素酸化物を微量に含む汚染物を加熱することなく、汚染物質を効率的に無害化する汚染物分解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わる汚染物分解装置は、水素イオン伝導性の高分子電解質膜と、上記高分子電解質膜の一方の面に接する面に酸化反応を促進する酸化触媒が形成されている電子導電性基材からなる陽極電極と、上記高分子電解質膜の他方の面に接する面に還元反応を促進する還元触媒が形成されている汚染物質を吸着濃縮する電子導電性基材からなる陰極電極と、上記陽極電極と上記陰極電極との間に直流電圧を印加する直流電源と、上記陰極電極の上記高分子電解質膜に面している面の反対の面の近傍に汚染物質を含有する汚染物が流される流路と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係わる汚染物分解装置の効果は、陰極電極に汚染物質の分解反応に充分な水素イオンが高分子電解質膜を伝達して陽極電極から供給されるとともに、陰極電極において汚染物に含有される汚染物質が吸着・濃縮され、還元触媒により供給された水素イオンによる濃縮された汚染物質の分解が促進されるので、酸素が共存していても加熱することなく、微量に存在する汚染物質を効率的に還元し、無害化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係わる汚染物分解装置の構成断面図である。
この発明に係わる汚染物分解装置1の電解セル2は、図1に示すように、プロトン伝導性を有する高分子電解質膜3、高分子電解質膜3の一方の面に接するように配設される第1の電極としての陽極電極4、高分子電解質膜3の他方の面に接するように配設される第2の電極としての陰極電極5から構成されている。
【0009】
高分子電解質膜3は、市販されており、気体を透過せず、電気絶縁性であり、水分および水素イオンのみを伝導するパーフルオロスルホン酸膜であり、例えば、デュポン社製のナフィオン117(登録商標)である。
なお、高分子電解質膜3として、ポリベンゾイミダゾール系イオン交換膜、ポリベンズオキサゾール系イオン交換膜、ポリアリーレンエーテル系イオン交換膜なども用いることができ、このとき高分子電解質膜3中に含まれる水の分子数の約2〜6倍程度のリン酸分子を添加するとプロトン伝導性が高まり、電解効率が改善される。
【0010】
陽極電極4は、基材6と水の酸化反応を促進する酸化触媒7から構成されている。基材6として、チタン金属繊維の焼結体(繊維径20μm、長さ50〜100mmの単繊維を織り込んで焼結体としたもの)からなる密度200g/cmの布(半径50mm、厚み300μm)や、チタン製の網目構造を持つエキスパンドメタルが用いられる。
基材6の高分子電解質膜3に接する面に白金、酸化イリジウムを0.25〜2mg/cmの密度でめっきすることにより酸化触媒7を形成する。水の酸化反応は、基材6上に形成された酸化触媒7と高分子電解質膜3の界面でのみ進行するので、基材6としてエキスパンドメタルを用いる場合には、網目の密度が電解性能に影響する。具体的には、1インチあたり10個以上の穴が開いたエキスパンドメタルを用いることが好ましい。
【0011】
陰極電極5は、基材8と汚染物質の還元反応を促進する還元触媒9から構成されている。基材8として、半径50mm、厚さ200μmのカーボンペーパー(繊維径約5〜50μm、空隙率50〜80%)が用いられる。カーボンペーパーの高分子電解質膜3に接する面に、白金担持カーボン触媒を高分子電解質(パーフルオロスルホン酸)を分散した液と共に塗布して還元触媒9を形成した。
なお、還元触媒9として、このほかに白金粒子、パラジウム粒子、金粒子を高分子電解質分散液に溶解して担持しても良い。また、カーボンペーパー以外にも、基材8として、カーボンナノファイバー(太さ10〜100nm)、黒鉛または層間にアルカリ金属を挿入した黒鉛、単層または多層のカーボンナノチューブ(太さ10nm以下)、繊維状活性炭または粒子状活性炭を用いても良い。
【0012】
この発明の実施の形態1に係わる電解装置10は、電解セル2、円板の中央部に集電端子11、12が配設され、高分子電解質膜3の外周縁部を円板の外周縁部に連結させられた円筒の先端部が対向するようにして挟み込むフランジ13、14、フランジ13、14の円板と高分子電解質膜3との間にフランジ13、14の円筒の内側面に隣接するように配設されるOリング15から構成されている。電解セル2を両側からフランジ13、14により締め付けると、集電端子11、12が陽極電極4と陰極電極5とに接触し、そこから集電することができる。また、Oリング15は、高分子電解質膜3とフランジ13、14の円筒の先端部からの漏れを防ぐことができる。
【0013】
フランジ13、14は、アクリル樹脂などの絶縁材料からなり、集電端子11、12により電解セル2を、面圧0.2×10−4〜1×10−4Paで締め付けている。
陽極側のフランジ13には、水分を取り込むための断面積20cm以下の貫通孔16が設けられている。
また、陰極側のフランジ14には、内径3mm程度の貫通孔17、18が2つ設けられており、貫通孔17は窒素酸化物などの汚染物質を含有する汚染物の入口であり、貫通孔18は汚染物質が還元処理された汚染物の出口である。そして、陰極電極5とフランジ14の円板とは、所定の間隔dの隙間ができるように離間して配置されており、その隙間が貫通孔17から入力された汚染物が図1の点線矢印に沿って流され、その流される間に基材8に汚染物質が吸着・濃縮される流路19となる。フランジ14と陰極電極5の間隔dは0.05mm〜50mmの範囲に設定できる。
【0014】
陰極電極5は、Oリング15とフランジ14及び高分子電解質膜3により気密に取り囲まれており、陰極電極5側で処理されたすべての物質が出口から排出される。
なお、フランジ13、14の材質は機械的強度を高めるためにカーボン、ステンレス鋼(SUS316、SUS304など)を用いても良い。また、フランジ13、14自体を集電端子11、12の一体の部材として通電しても良い。
また、腐食を抑制するために、フランジ13、14の表面に数μm程度の厚みの白金めっきを行っても良い。
【0015】
集電端子11、12は、円状の平板(半径1cm、厚み2mm)に細い棒(外径2mm、長さ15mm)を円板の中央から円板に垂直に溶接したもので、材料はチタンからできている。電解セル2との接触面での腐食を防止するために、2〜3μm程度の厚みで白金めっきすることが好ましい。
【0016】
実施の形態1に係わる汚染物分解装置1は、電解装置10と、電解装置10の陽極側に水を供給する水分供給促進手段20、電解セル2の陽極電極4と陰極電極5とに電圧を印加する直流電源21から構成されている。直流電源21は、電解装置10の集電端子11と集電端子12の間に連続的もしくは断続的に1.5〜10Vの直流電圧を印加する。
【0017】
高分子電解質膜3のプロトン伝導速度は、膜中の水分の量に比例して大きくなる。また、陽極電極4においては水が消費されるので、水分供給促進手段20を用いて陽極側に充分な水分を供給する必要がある。水分の供給手段として、窒素などの不活性ガスを温水に通気して水分を電極に吹き付ける方法、超音波(〜2MHz)振動を用いて水を直径数μm程度の水滴に微細化し不活性ガスで霧状の水滴を同伴する方法、大気中に存在する水分を電子冷却器によって強制冷却して結露した水を滴下する方法、液体状の水を直接供給する方法などがある。そして、水分供給量及び供給方法は、汚染物質の処理量に対応して決める。
【0018】
陽極側に供給する水は、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどの金属イオンに起因する陽イオンが含まれていると高分子電解質膜3の内部の水素イオンが陽イオンに置換されるためプロトン伝導速度が著しく低下するので、液体状の水を直接供給する場合も微細化した水を供給する場合にも、イオン交換水または超純水を用いる方が好ましい。水道水ならば、カルキ、トリハロメタンなどをフィルターで除去した水であって、電気伝導度が5μS/cm以下であれば使用することができる。
一方、不活性ガスによって水分を同伴する方法や大気中に存在する水分を結露させる場合には、陽イオンが不揮発性であるという特性のため高分子電解質膜3への陽イオンの汚染は発生しない。
【0019】
水分供給促進手段20は、単に陽極電極4とフランジ13の間に水分を導入するものではなく、陽極電極4を通過する単位時間、単位面積あたりの水の移動速度を増大する働きがある。例えば、導入する流体の線流速を増大したり、流体に物理的なエネルギーを与えたりして、移動速度を増大する。
【0020】
次に、この発明の実施の形態1に係わる汚染物分解装置1の具体的な操作方法について説明する。
陽極側から気相の水分を含むガスまたは液相の水を供給すると、陽極電極4を通過して高分子電解質膜3に水分が接触する。そして、高分子電解質膜3は、水分を吸収し、その水分が膜内を拡散し、高分子電解質膜3の重量3gに対して最大約11gの水を保持する。この状態で集電端子11、12の間に陽極電極4側を正として電圧2.2Vを印加すると、約2Aの電流が流れ、陽極電極4の表面から酸素分子が流量約7cc/分で発生する。
【0021】
一方、窒素酸化物、オキシダント、過酸化物、アンモニアなどの汚染物質を含むガスを流量0.2〜3L/分で陰極電極5とフランジ14に囲まれた流路に導入すると(図1中の点線矢印参照)、陰極電極5の基材8上で吸着されて濃縮が促進される。そして、高分子電解質膜3を伝導して還元触媒9と高分子電解質膜3との界面に達した水素イオン、および水素イオンに起因する還元性物質と濃縮された汚染物質が反応し、還元反応によって分解されて無害化される。
また、反応に関与しなかった水素イオン、または水素イオンに起因する還元性物質は陰極電極5の基材8に吸蔵される。基材8において汚染物質および水素イオンまたは水素イオンに起因する還元性物質の両方が吸蔵されるので、陰極電極5の表面で進行する還元反応は酸素が20%程度共存する空気中においても、常温付近で進行する。したがって、外部からヒーターなどで陽極電極4、陰極電極5または高分子電解質膜3を加熱する必要は無い。
一方、供給された水素イオンの一部は共存する酸素によって消費されるが、水分供給促進手段20によって陽極側に充分な水分が供給されるので、陰極電極5の表面への水素イオン供給量が増大し、汚染物質が効率的に除去される。
【0022】
陽極電極4と陰極電極5との間に印加した電圧の一部は接触抵抗や高分子電解質膜3のジュール熱として失われ、膜や電極温度を上昇させる。温度上昇が著しい場合には、膜が変質したり、変形して電極と電解質膜の剥がれが発生したりするので望ましくない。そこで、電圧を断続的にON、OFFすることにより発熱を抑制することができる。具体的には、1〜30分間隔で、OFFの時間を1とするとONの時間を0.2〜5倍程度で操作することが望ましい。電圧0Vの時間帯では高分子電解質膜3中にプロトンが伝導しないが、基材8に吸蔵された還元性物質によって汚染物質の分解は継続的に進行する。
また、パルス状の電圧印加によってプロトンのみエネルギーを与えれば熱による損失を抑制することができる。このような場合には、1マイクロ秒〜10ミリ秒程度のパルス状の電圧を連続的に印加してON・OFFを行うことが好ましい。
【0023】
実施の形態2.
図2は、この発明の実施の形態2に係わる汚染物分解装置の構成断面図である。
この発明の実施の形態2に係わる汚染物分解装置1Bは、実施の形態1に係わる汚染物分解装置1に陽極電極4および陰極電極5とフランジ13、14の円板の間に電極押さえ24、25を挟み込んでいることと、陽極電極4に対する水分供給促進手段20として水分を含んだガスを電極に吹き付ける送風ファン26を用いていることが異なっており、それ以外は実施の形態1と同様であるので、同様な部分に同じ記号を付記して説明は省略する。
【0024】
電極押さえ24、25は、開口率25〜90%、厚み50μm〜5mmの網目状の材料である。材質としてカーボン、ステンレス、チタンなどの導電性材料を用いることができ、腐食を抑制するために表面に数μmの厚みの白金めっきを施すことが好ましい。そして、電極押さえ24、25は、高分子電解質膜3、陽極電極4、陰極電極5の平坦性を保持し、陽極電極4および陰極電極5と高分子電解質膜3の間の剥がれを抑制する。
また、陽極電極4に供給される水分は電極押さえ24を通過して高分子電解質膜3へ導入されるので、電極押さえ24の開口率が25%以上であることが好ましい。また、上述のように陽極電極4と陰極電極5の平坦性を保持するためには機械的な強度が必要なため、開口率が90%以下であることが好ましい。
さらに、電極押さえ24、25は、集電端子11、12の陽極電極4および陰極電極5との電気的接触を改善し、陽極電極4と陰極電極5との間に均一な電界分布を形成することができる。
また、電極押さえ25が、汚染物が流される流路を兼ね、電極押さえ25を汚染物が流される間に汚染物質が基材8に吸着・濃縮される。
【0025】
送風ファン26は、陽極電極4に供給する水分を含んだガスを加速するので、陽極電極4の表面における水の吸収速度を改善することができる。なお、送風ファン26は陽極電極4に対して45〜90度の角度でガスが当たるように制御することが好ましい。風速としては、風速1m/s以下ではほとんど効果が見られず、風速50m/s以上ではガスの流動状態が乱流状態になるのでこれ以上増加しても改善効果が見られないので、風速1〜50m/sで制御することが好ましい。
【0026】
実施の形態3.
図3は、この発明の実施の形態3に係わる汚染物分解装置の構成断面図である。
この発明の実施の形態3に係わる汚染物分解装置1Cは、実施の形態2に係わる汚染物分解装置1Bの陰極側のフランジ14Cに発生した水抜き穴28を設け、処理ガス中に含まれる水分を取り除く除湿器29を追加し、集電端子11を接地したことが異なっており、それ以外は実施の形態2と同様であるので、同様な部分に同じ記号を付記して説明は省略する。
【0027】
窒素酸化物、オキシダント、過酸化物、アンモニアなどの汚染物質を含むガスを陰極側に流すと汚染物質が還元反応によって分解されるが、反応副生成物として水が発生する。また、高分子電解質膜3は水を含んでおり、陰極電極5の近傍では水分が高分子電解質膜3から陰極側へ移動している。この水を回収して陽極側から供給すれば、再び電解セル2における還元反応に再利用することができる。
水抜き穴28は、内径1〜10mmの穴であり、陰極側の下方に溜まった水分を装置外部に取り出すことができる。
【0028】
除湿器29は、処理ガスを冷却して処理ガス中の水分を回収し、装置外部に取り出す。ガスの冷却方法として、ペルチェ素子を用いた電子冷却、コンデンサーを用いた強制冷却などがある。回収された水分は、陽極電極4に供給される。
【0029】
電解セル2を用いた処理は印加電圧が10V以下と比較的低いが、発生する水などを介した漏電により投入エネルギーが無効消費される可能性がある。そこで、陽極電極4または陰極電極5を、集電端子11、12を介して接地することが好ましい。特に、陽極側が大気に開放されている場合には陽極電極4を接地することが好ましい。
【0030】
実施の形態4.
図4は、この発明の実施の形態4に係わる汚染物分解装置の構成断面図である。
上述の実施の形態1乃至3に係わる汚染物分解装置1、1B、1Cは、主にガス中に含まれる汚染物質を処理する装置であるが、実施の形態4に係わる汚染物分解装置1Dは、水中の汚染物質を処理する装置である。
実施の形態4に係わる汚染物分解装置1Dは、図4に示すように、処理槽30の内部に電解装置10が設置され、フランジ13、14によって処理槽30が二つの部分に仕切られていること以外、実施の形態3の汚染物分解装置1Cと同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
電解装置10の陽極側には水を導入し、陰極側には臭素酸イオン、硝酸イオン、オキシダント、過酸化物、アンモニアなどの汚染物質が含まれる水を導入する。高分子電解質膜3には陽極電極4から充分な水が供給される。また、高分子電解質膜3は水中に浸漬すると高分子電解質膜3の重量3gに対して最大で約11gの水を保有して膨張するが、電極押さえ24、25によって陽極電極4および陰極電極5と高分子電解質膜3の平坦性は保持されるので安定した処理特性が得られる。
以下、この発明に係わる汚染物分解装置による汚染物質の分解について具体的な実施例を例示して説明を行う。
【実施例】
【0031】
実施例1.
実施例1としてのこの発明に係わる汚染物質の分解は、図1に示す実施の形態1に係わる汚染物分解装置1を用いて、その処理条件として以下のように設定して行った。
処理条件としては、印加電圧が2.2〜2.5V、処理温度が25℃、処理ガス流量が0.3L/分、処理ガス中の二酸化窒素(NO)の濃度が2ppm、処理ガス中の一酸化窒素(NO)の濃度が0ppm、処理ガス中の酸素分子(O)の濃度が20%、処理ガス中のアルゴン濃度が約80%、陽極電極4および陰極電極5の面積が19cm、フランジ14と陰極電極5の間隔dが3mmである。
【0032】
電解装置10を構成する材料としては、基材6はチタン製エキスパンドメタル(1インチ平方あたりのメッシュ数80、線径0.1mm)、酸化触媒7は酸化イリジウム(担持密度0.6mg/cm、無電解めっきで形成)、基材8はカーボン繊維(繊維径10μm、空隙率70%)、還元触媒9は白金(担持密度0.5mg/cm、無電解めっきで形成)、高分子電解質膜3はナフィオン117(デュポン社製)である。また、常温の純水を100cc/minの速度で陽極電極4に供給した。
なお、処理前後のガス組成変化は、Thermal Conductive Detector(TCD)付きガスクロマトグラフ、化学発光式NOx計、四重極質量分析計(Q−mass)付ガスクロマトグラフによって評価した。
【0033】
次に、汚染物質の分解処理を行った結果について詳細に述べる。図5は、実施例1での出口ガス成分の時間変化を示す。図5で細実線がNOの濃度、太実線が窒素分子(N)の濃度、太点線がNOとNOの濃度の合計を示す。
電源OFF(印加電圧0V)の状態で、NOを含むガスを導入し始める(経過時間0分)。NOは基材8に吸着され、出口のガスに含まれるNO濃度は徐々に増加する。ガス供給開始から約50分で基材8の吸着サイトが飽和し、NO濃度は入口と同等の2ppmに到達する。経過時間0分〜50分の間には、化学的な変化が進行しないため、出口のガス成分としてNOやNは検出されなかった。すなわち、NO濃度+NO濃度=NO濃度となる。
【0034】
次に、直流電源21をONし、電流値0.4A一定の状態で10分間通電した(操作(A)、経過時間50〜60分)。すると、出力ガスのNOは約0.6ppmまで減少し、Nが0.1ppm(N原子換算で0.2ppm)発生した。NO+NOの合計は約1.8ppmであったことから、減少したNOの大部分がNOに還元されたことがわかった。更に、減少したNO量のうち約1/7がNまで還元された。一旦、直流電源21をOFF(経過時間60分〜70分)したところNO濃度が2ppmまで戻り、NやNOは観測されなかったことから還元反応はほぼ停止したと考えられる。再度、電流値0.4A一定で通電(操作(B)、経過時間80〜90分)したところ、操作(A)の場合と同様にNOの大部分がNOへ、一部がNへ還元された。その後、直流電源21を10分間OFFした。
【0035】
次に、直流電源21をONし、電流値1.0A一定の状態で10分間通電した(操作(C)、経過時間90〜100分)。すると、出口ガスのNOは約0.2ppmまで減少し、Nが0.55ppm(N原子換算で1.1ppm)発生した。NO+NOの合計は約0.9ppmであったことから、減少したNOの半分程度がNOに還元されたことがわかった。更に、減少したNO量のうち約6割がNまで還元された。電流値に伴って高分子電解質膜3から供給されるHもしくはHに起因する還元物質が増加し、より多くのNOを還元分解したと考えられる。
【0036】
次に、直流電源21をOFFしたところ(経過時間100〜110分)、NOが徐々に増加し、Nは徐々に減少した。NO濃度は10分間の間に2ppmまで戻らず、通電を停止しても還元反応が継続して進行した。操作(C)において生成したHに起因する還元物質のうちでNOとの反応で消費されず過剰になったものが基材8に吸着して、通電が停止された後もNOと反応し続けたものと考えられる。
【0037】
再度、電流値1.0A一定で通電(操作(D)、経過時間110〜120分)したところ、操作(C)の場合と同様にNOの約4割がNOへ、残りの6割がNへ還元された。その後、直流電源21をOFFしてガスを通気したまま80分間放置した(経過時間120〜200分)。ここでは、NO濃度が増加、N濃度は減少し、それぞれ2ppm、0ppmに漸近した。経過時間120〜160分までは、高分子電解質膜3からのH供給は停止しているが、基材8に吸着した還元物質とNOの反応が進行したと考えられる。160分以降では吸着した還元物質がほとんど消費されたため、出口のガス組成が、入口のガス組成(NOで2ppm)に徐々に近づいていった。
【0038】
次に、フランジ14と陰極電極5の間隔dについて詳しく検討した結果を図6に示す。 フランジ14と陰極電極5の間隔dは、陰極電極5の高分子電解質膜3に面している面の反対の面から法線方向に測られる流路の間隔である。
間隔dが0.1〜7mmの範囲で高いNO分解率が得られた。通常の表面反応を利用したガス処理装置では、間隔dを狭くするほど分解率は高くなるのが一般的である。一方、この発明に係わる汚染物分解装置1では、NOを還元分解する反応場が0.2〜5mm程度気相側に広がっており、その範囲において特に高い処理効率が得られた。間隔dが7mm以上では気相中のNOが充分に反応場に届かないため、分解効率が低下したと考えられる。一方、間隔dが0.1mm以下では反応場が間隔dを超えられないので、NO還元反応が抑制されたと考えられる。更に高い処理効率(例えば、NO分解率80%以上)を達成するには、間隔dを0.2〜5mmの範囲に制御することが好ましい。
【0039】
この実施例1では水分供給促進手段20としてポンプを用いて液体の水を陽極電極4に導入した結果、流体の流れを乱すことなく高い水分移動速度を達成できた。液体の水は1cc当たり3.3×1021個もの分子を含んでおり、今回のガス処理には充分な密度を持っていたといえる。
【0040】
この実施例1では、基材8として、カーボン繊維を用いたが、カーボン繊維の代わりにカーボンナノファイバー(太さ10〜100nm)、黒鉛または層間にアルカリ金属を挿入した黒鉛、単層もしくは多層のカーボンナノチューブ(太さ10nm以下)、繊維状活性炭もしくは粒子状活性炭を用いて同様にガス処理を行ったところ、酸素共存下においてもNOに対して90%以上の分解率が得られた。
また、基材8の比表面積が大きいほど分解率が高まり、例えば太さ10nmのカーボンナノファイバーやナノチューブを用いた場合にはNOの分解率がほぼ100%となった。これは、汚染物質、および還元物質の吸着サイトが増加するとともに両者の反応が進行する部位が増加したためと考えられる。
【0041】
高分子電解質膜3として、ポリベンゾイミダゾール系イオン交換膜、ポリベンズオキサゾール系イオン交換膜、ポリアリーレンエーテル系イオン交換膜を用いたところ、酸素共存下においてもNOの分解率は最大で50%が比較的小さいために、直流電圧(2.2V程度)に対する電流値が減少したためと考えられる。一方、ポリベンゾイミダゾール系イオン交換膜に対して、膜中に含まれる水の分子数の約2〜6倍程度のリン酸分子を添加するとプロトン伝導性が高まり、電解効率が改善され、90%以上のNOの分解率が得られた。
【0042】
実施例1では、NOの還元反応によって生成したNを検出するために、希釈ガスとしてアルゴンを用いたが、アルゴンの代わりに窒素を用いても酸素共存下において同様のNO分解率が得られる。
電解装置10で処理する汚染物質としては、NOの他に、NO、PAN(パーオキシアセチルナイトレート)、アセトアルデヒド、酢酸、トルエン、キシレン、ホルムアルデヒド、オゾン、過酸化水素なども同様に処理可能である。これらすべての成分に対して、電極面積や印加電圧を調節することで、酸素20%の共存下において最大95%の分解率が得られた。
【0043】
陰極電極5の上では、高分子電解質膜3から供給される水素イオンに電子を与えて、水素分子を生成する反応が進行すると共に、Hに起因する還元性物質が発生する。基材8では、還元性物質が吸着・濃縮される。一方、処理ガスに含まれる微量の汚染物質は、基材8に選択に吸着し、濃縮される。次に、基材8の近傍に存在する還元触媒9において、汚染物質がHに起因する還元物質によって分解される。Hに起因する還元物質の具体例としては、H自身や、H原子などが挙げられる。
また、処理ガスを陰極電極5上の限定された空間に導入する流路を設けたことにより、汚染物質の分解率が飛躍的に増加するだけでなく、通電を停止した後でも還元反応が継続した。
【0044】
このような汚染物分解装置は、水素イオン伝導性の高分子電解質膜3と、電子導電性基材6および酸化反応を促進する酸化触媒7よりなる陽極電極4と、汚染物質を吸着濃縮する基材8および還元反応を促進する還元触媒9よりなる陰極電極5と、陽極電極4と陰極電極5の間に直流電圧を印加する直流電源21と、陽極電極4表面に水を供給する水分供給促進手段20とを備えているので、酸素共存下において加熱することなしに、微量に存在する汚染物質を効率的に還元し、無害化できるという効果がある。
【0045】
実施例2.
実施例2としてのこの発明に係わる汚染物質の分解は、実施の形態1に係わる汚染物分解装置1と、陰極電極5の還元触媒9としてパラジウムとを用い、その処理条件として実施例1と同一に設定して行った。
基材8はカーボン繊維(繊維径10μm、空隙率70%)、還元触媒9はパラジウム(担持密度0.6mg/cm、無電解めっきで形成)を用いた。
【0046】
次に、汚染物質の処理を行った結果について詳細に述べる。図7は、実施例2における出口ガス成分の時間変化を示す。
電源OFF(印加電圧0V)の状態で、NOを含むガスを導入し始める(経過時間0分)。NOは基材8に吸着され、出口のガスに含まれるNO濃度は徐々に増加する。一方でパラジウムの触媒作用によってNOの一部はNやNOに分解された。ガス供給開始から約50分で基材8の吸着サイトが飽和し、NO濃度は1.5ppmに到達した。
次に、直流電源21をONし、電流値0.4A一定の状態で10分間通電した(操作(A)、経過時間50〜60分)。すると、出口ガスのNOは約0.45ppmまで減少し、Nが0.3ppm(N原子換算で0.6ppm)発生した。NO+NOの合計は約1.4ppmであったことから、減少したNOの約2/3だけNOに還元されたことがわかった。また、残りの1/3はNまで還元された。一旦、直流電源21をOFF(経過時間60〜70分)したところNO濃度が1.6ppmまで増加するが、NやNOが観測された。再度、電流値0.4A一定で通電(操作(B)、経過時間70〜80分)したところ、操作(A)の場合と同様にNOの大部分がNOへ、一部がNへ還元された。その後、直流電源21を10分間OFFした(経過時間80〜90分)。
【0047】
次に、直流電源21をONし、電流値1.0A一定の状態で10分間通電した(操作(C)、経過時間90〜100分)。すると、出口ガスのNOは約0.25ppmまで減少し、Nが0.55ppm(N原子換算で1.1ppm)発生した。NO+NOの合計は約0.8ppmであったことから、減少したNOの半分程度がNOに還元されたことがわかった。更に、減少したNO量のうち約6割がNまで還元された。電流値に伴って高分子電解質膜3から供給されるHもしくはHに起因する還元物質が増加し、より多くのNOを還元分解したと考えられる。
【0048】
次に、直流電源21をOFFしたところ(経過時間100〜110分)、NOが徐々に増加し、Nは徐々に減少した。NO濃度は10分間の間に2ppmまで戻らず、通電を停止しても還元反応が継続して進行した。再度、電流値1.0A一定で通電(操作(D)、経過時間110〜120分)したところ、操作(C)の場合と同様にNOの約4割がNOへ、残りの6割がNへ還元された。その後、直流電源21をOFFしてガスを通気したまま80分間放置した(経過時間120〜200分)。ここでは、NO濃度が増加、N濃度は減少し、それぞれ1.7ppm、0.2ppmに漸近した。経過時間120〜160分までは、高分子電解質膜3からのHの供給は停止しているが、基材8に吸着した還元物質とNOの反応が進行したと考えられる。また、吸着した還元物質がなくなった後でもパラジウムによるNOの分解が進行したと推測される。
【0049】
このように高分子電解質膜3から供給されるHからHを発生するのではなく、より活性な還元物質を生成することが望ましいので、陰極電極5の還元触媒9はパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、金、鉄、コバルト、銀、ニッケル、銅、カドミウム、スズ、鉛、亜鉛、水銀などの金属や、これらを成分として含む混合金属のような、水素発生の過電圧が比較的大きいものを用いることが有効である。
【0050】
この実施例2では、実施例1と同様に、陰極電極5にHまたはHに起因する還元性物質が吸着・濃縮される一方で、基材8の上では処理ガスに含まれる微量の汚染物質が吸着・濃縮され、基材8の近傍に存在する還元触媒9が、還元物質による汚染物質の分解を促進する。
さらに、還元触媒9として、パラジウムのようなNOを直接分解するような金属を用いているので、汚染物質を分解する能力が改善される。
【0051】
このような汚染物分解装置1は、水素イオン伝導性の高分子電解質膜3と、電子導電性基材6および酸化反応を促進する酸化触媒7よりなる陽極電極4と、汚染物質を吸着濃縮する基材8および還元反応を促進する還元触媒9よりなる陰極電極5と、陽極電極4と陰極電極5との間に直流電圧を印加する直流電源21と、陽極電極4表面に水を供給する水分供給促進手段20と、を備えているので、酸素共存下において加熱することなしに、微量に存在する汚染物質を効率的に還元し、無害化できる。
【0052】
実施例3.
実施例3としてのこの発明に係わる汚染物質の分解は、図2に示す実施の形態2に係わる汚染物分解装置1Bを用いて、その処理条件として実施例1と同一に設定して行った。
実施の形態2に係わる汚染物分解装置1Bの特有な構成は以下の通りで、そのほかの構成は実施の形態1に係わる汚染物分解装置1と同一である。
水分供給促進手段20として、送風ファン26を、電極押さえ24、25として、表面に1μm厚みの白金めっきの処理が施された開口率50%、厚み1mmのチタン製のエキスパンドメタルを用いている。
また、フランジ13、14による電解セル2を押さえ込み圧力が〜1×10−4Pa、送風ファン26の送風面積が50cm、風速が1〜20m/秒、電解装置10に吹き付ける風の角度が陽極電極4に対して90度、32℃において吹き付ける風の相対湿度が80%である。
【0053】
次に、汚染物質の分解処理を行った結果について詳細に述べる。図8は、実施例3におけるNOの分解率と風速の関係を示す。
風速が1m/sから10m/sに増加するとNOの分解率(=100−出口に含まれるNO濃度(ppm)÷2(ppm)×100で算出)が50%から90%と約1.8倍に増大した。これは、電解装置10の電解過程において、陽極電極4における水分供給速度が律速になっていることを示している。実際に、陽極電極4の表面での水分の物質移動係数は約5倍となった結果、電流値も約5倍となり、NOの分解率に大きな影響を与えた。
【0054】
次に、電極押さえ24、25の効果を見るために、電極押さえ24、25がない場合とある場合について長時間にわたって分解処理を行い、NOの分解率の変化を観測した。図9に、時間の経過に伴うNOの分解率の推移を示す。電極押さえ24、25を用いない場合には、初期の50時間経過した時点でNOの分解率が急激に減少する。この原因として、陽極電極4および陰極電極5がそれぞれ高分子電解質膜3との間の密着性が劣化し、Hの伝導が困難になることが挙げられる。つまり、電極押さえ24、25は、陽極電極4および陰極電極5と高分子電解質膜3の間のはがれを防止し、電気的抵抗の増加を抑制する。
【0055】
この実施例3では、実施例1と同様に、陰極電極5の上にHまたはHに起因する還元性物質が吸着・濃縮される一方で、基材8の上で処理ガスに含まれる微量の汚染物質が吸着・濃縮され、基材8の近傍に存在する還元触媒9が、還元物質が汚染物質を分解することを促進する。
また、水分供給促進手段としての送風ファン26により湿潤したガスが陽極電極4に吹き付けられることにより陽極電極4の表面からの水の吸収速度が増大して、十分な量のHが陰極電極5に伝導するので、さらに高い分解性能が得られる。
また、電極押さえ24、25を用いることにより、長時間にわたり安定した性能を発揮する。
【0056】
このような汚染物分解装置1Bは、水素イオン伝導性の高分子電解質膜3と、電子導電性基材6および酸化反応を促進する酸化触媒7よりなる陽極電極4と、汚染物質を吸着濃縮する基材8および還元反応を促進する還元触媒9よりなる陰極電極5と、陽極電極4と陰極電極5との間に直流電圧を印加する直流電源21と、陽極電極4表面に水を供給する水分供給促進手段としての送風ファンを備えているので、酸素共存下において加熱することなしに、微量に存在する汚染物質を効率的に還元し、無害化できるという効果がある。
【0057】
また、陽極電極4および陰極電極5を機械的に押さえる電極押さえ24、25を備えるので、長時間に亘り安定して、酸素共存下においても加熱する事なしに、微量に存在する汚染物質を効率的に還元し、無害化できるという効果がある。
【0058】
実施例4.
実施例4としてのこの発明の汚染物質の分解は、図4に示す実施の形態4に係わる汚染物分解装置1Dを用い、処理条件として以下のように設定することによって行った。
処理槽30は、陰極側の処理水体積が10L、陽極側の処理水体積が10L、陽極側の処理水に含まれるアンモニアイオン(NH)の初期組成が14mgN/L、陰極側の処理水に含まれる3酸化ブロムイオン(BrO)の初期組成が800μg/L、陰極側の処理水に含まれる3酸化窒素イオン(NO)の初期組成が14mgN/Lである。
印加電圧が2.2〜2.5V、処理温度が25℃、陽極電極4と陰極電極5の面積が200cm、フランジ14Bと陰極電極5の間隔dが3mmである。
電解装置10を構成する材料として、基材6がチタン製エキスパンドメタル(1インチ平方あたりのメッシュ数80、線径0.1mm)、酸化触媒7が酸化イリジウム(担持密度0.6mg/cm、無電解めっきで形成)、基材8がカーボン繊維(繊維径10μm、空隙率70%)、還元触媒9が白金(担持密度0.5mg/cm、無電解めっきで形成)、高分子電解質膜3がナフィオン117(デュポン社製)である。
なお、処理前後の水組成変化は、液体イオンクロマトグラフ、アンモニア電極によって評価した。
【0059】
次に、実施例4において汚染水を実施の形態4に係わる汚染物分解装置1Dにより分解処理した結果を説明する。図10は、汚染水の汚染物質を分解処理するときの処理時間の経過に伴って変化する汚染物質の濃度を示す。
直流電源21をONして、印加電圧を2.2V程度に調整したところ、約20Aの電流が流れる。処理開始から汚染物質のイオンの濃度を測定したところ、BrOについては2分以上、NHやNOについては4分以上経過すると初期濃度の1/10以下になる。
また、電極表面でのイオン成分とHや電子に起因する反応以外に、陽極側では酸素が発生し、陰極側では水素が発生した。流れた電流を1とすると、その半分は酸素発生及び水素発生に寄与し、残り半分程度はNHやNOの分解反応に、そして1/1000程度がBrOの還元反応に働いていることがわかった。反応生成物として、それぞれN、N、Brが発生することがわかった。
【0060】
なお、この実施例4では、バッチ式処理装置の一例を示したが、汚染物分解装置1Dに処理水の入口及び出口を設けて連続式の処理装置としてもよい。また、電極部を処理槽内に複数に並設すると、処理水の体積に対する電極面積を大きくなるので更に高速処理が可能になる。
【0061】
本実施例では、実施例1と同様に、陰極電極5の上では、HまたはHに起因する還元性物質が吸着・濃縮される一方で、基材8の上では処理水に含まれる微量の汚染物質が吸着・濃縮される。次に、基材8の近傍に存在する還元触媒9において、汚染物質がHに起因する還元物質によって分解される。Hに起因する還元物質の具体例としては、H自身や、H、H原子などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる汚染物分解装置の断面構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係わる汚染物分解装置の断面構成図である。
【図3】この発明の実施の形態3に係わる汚染物分解装置の断面構成図である。
【図4】この発明の実施の形態4に係わる汚染物分解装置の断面構成図である。
【図5】この実施例1における汚染物分解装置の出口でのガス成分の濃度の時間変化を示す図である。
【図6】実施例1における汚染物分解装置のフランジと陰極電極との間隙とNOの分解率との関係を示す図である。
【図7】この実施例2における汚染物分解装置の出口でのガス成分の濃度の時間変化を示す図である。
【図8】この実施例3における汚染物分解装置の陽極電極に流される風の風速とNOの分解率との関係を示す図である。
【図9】電極押さえがない場合とある場合での時間の経過に伴うNOの分解率の推移を示す図である。
【図10】汚染水の汚染物質を分解処理するときに処理時間の経過に伴って変化する汚染物質の濃度を示す。
【符号の説明】
【0063】
1、1B、1C、1D 汚染物分解装置、2 電解セル、3 高分子電解質膜、4 陽極電極、5 陰極電極、6、8 基材、7 酸化触媒、9 還元触媒、10 電解装置、11、12 集電端子、13、14、14C フランジ、15 Oリング、16、17、18 貫通孔、19 流路、20 水分供給促進手段、21 直流電源、26 送風ファン、28 水抜き穴、29 除湿器、30 処理槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素イオン伝導性の高分子電解質膜と、上記高分子電解質膜の一方の面に接する面に酸化触媒が形成されている陽極電極と、上記高分子電解質膜の他方の面に接する面に還元触媒が形成されている汚染物質を吸着濃縮する陰極電極と、上記陽極電極と上記陰極電極との間に直流電圧を印加する直流電源と、上記陰極電極の上記高分子電解質膜に面している面の反対の面の近傍に汚染物質を含有する汚染物が流される流路と、を備えることを特徴とする汚染物分解装置。
【請求項2】
上記陰極電極の上記高分子電解質膜に面している面の反対の面から法線方向に測られる上記流路の間隔は、0.1mm以上、7mm以下であることを特徴とする請求項1に記載する汚染物分解装置。
【請求項3】
上記陽極電極に対して水の供給を促進する水分供給促進手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載する汚染物分解装置。
【請求項4】
上記陽極電極と上記陰極電極とを機械的に上記高分子電解質膜に押さえる電極押さえを備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載する汚染物分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−130557(P2007−130557A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325149(P2005−325149)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】