説明

沈降によってカプセル化物を製造する方法

本発明は、カプセル化物を製造する方法において、(i)溶媒と該溶媒に溶解したマトリックス形成性溶質とを含有する連続相、及び、(ii)分散相、を含有するポンプ圧送可能なエマルション;並びに、超臨界ガス、臨界未満ガス又は液化ガスを含有する抽出剤であって、前記溶媒は実質的に、前記マトリックス形成性溶質に対するよりも該抽出剤に対していっそう可溶性である、上記抽出剤;を使用し、しかも、a.前記のポンプ圧送可能なエマルションを、混合条件の下、前記抽出剤と混合する工程、b.粒子状カプセル化物であって、その中で、前記分散相が、前記マトリックス形成性溶質の固体マトリックスの中に閉じ込められている、該カプセル化物を形成する工程、及び、c.前記カプセル化物を回収し、該カプセル化物を前記抽出剤から分離する工程、の連続的諸工程を含む、上記方法に関する。本方法は、非常に反応し易い活性成分(例えば、成分の活性度が、酸素、光、水分、熱及び/又は摩擦にさらされることによって悪影響を受ける該成分)を含有する粒子を製造するのにとりわけ適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔発明の技術分野〕
本発明は、沈降(precipitation)によって粒子を製造する方法において、(i)溶媒と、沈降させるべきマトリックス形成性溶質(matrix−forming solute)とを含有するポンプ圧送可能な(pumpable)流体;並びに、(ii)超臨界ガス、臨界未満ガス又は液化ガスの形態の抽出剤であって、該溶媒は実質的に、該マトリックス形成性溶質に対するよりも該抽出剤に対していっそう可溶性である、上記抽出剤;を使用し、しかも、
・ 前記のポンプ圧送可能な流体を前記抽出剤と混合する工程、
・ 前記マトリックス形成性溶質を含有する粒子を形成する工程、及び、
・ それら粒子を回収し、該粒子を該抽出剤から分離する工程、
を含む、上記方法に関する。
【背景技術】
【0002】
〔発明の背景〕
上述のような沈降方法は、当該技術分野で知られており、典型的には、ナノ粒子及びマイクロ粒子(即ち、典型的には100nm〜80μmの範囲の平均直径を有する粒子)を作り出すために使用される。
従来技術において、キャリヤ材料中に分散した活性成分を含有する粒子を製造するために、前述の沈降方法を使用することが提案されてきた。DE−A−3744329号明細書には、活性成分(例えば、薬学的に活性な物質)と、該活性成分を含有する液体であるキャリヤ材料であって流体ガス(例えば、超臨界二酸化炭素)と接触させられる該キャリヤ材料とを含有する組成物を製造する方法において、該液体は該流体ガスによって抽出され、且つ、該活性成分と該キャリヤ材料とを含有する組成物は、小粒子の形態で回収される、上記製造方法が記述されている。この方法は、溶媒残留物を含有しない製剤、又は、毒物学的に無害な量で溶媒残留物を含有する製剤を製造することができるという利点を提供する。
【0003】
WO2004/004862号パンフレットには、粒子を製造する方法において、連続相及び不連続相を有するエマルションを超臨界流体に接触させる工程であって、該不連続相は、溶媒中に溶質が溶解した該溶媒を含有しており、該溶質は一般的に該連続相に不溶性であり、しかも、該不連続相中の該溶媒は該超臨界流体に可溶性である、上記工程;及び、該エマルションの該不連続相から該超臨界流体の中に該溶媒を抽出して該溶質を沈降させ、そうさせることによって、該連続相中に懸濁した、溶質の粒子を形成する工程とを含む、上記方法が記述されている。前記溶質は好ましくは、水に不溶性であるか又は僅かに可溶性である物質である。前記不連続相は典型的には、有機溶媒又は油である。前記連続相は好ましくは、水である。WO2004/004862号パンフレットに記述の方法によって、高純度であり、狭い粒度分布を有する、溶質の粒子を製造することができる。これらの粒子は、それらが懸濁している前記連続相から、限外濾過法又は高速遠心分離法によって単離することができる。
【0004】
上述の方法は、非常に反応し易い活性成分(例えば、成分の活性が、酸素、光、水分、熱及び/又は摩擦によって悪影響を受ける該成分)を含有する粒子を製造するためにはあまり適していない。更に、上記の方法によって製造される粒子は、用途によっては、それらの中に含有されている活性成分を瞬時に放出し始めるであろう。しかし、そのような放出は、一定の遅延時間(delay)を持って引き起こされることがしばしば望ましい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔発明の概要〕
本発明者らは、
・ (i)溶媒と該溶媒に溶解したマトリックス形成性溶質とを含有する連続相、及び、(ii)分散相、を含有するポンプ圧送可能なエマルション;並びに、
・ 超臨界ガス、臨界未満ガス又は液化ガスを含有する抽出剤;を使用し、
前記溶媒は実質的に、前記マトリックス形成性溶質に対するよりも該抽出剤に対していっそう可溶性であり;しかも、
a.前記のポンプ圧送可能なエマルションを、混合条件の下、前記抽出剤と混合する工程;
b.粒子状カプセル化物であって、その中で、前記分散相が、前記マトリックス形成性溶質の固体マトリックスの中に閉じ込められている、該カプセル化物を形成する工程;及び、
c.前記カプセル化物を回収し、該カプセル化物を前記抽出剤から分離する工程、
の連続的諸工程を含む方法によって、上記の欠点を持っていないカプセル化物を製造することが実現可能であることを見出だした。
【0006】
意外にも、本発明の方法によって、沈降した溶質のマトリックスの中に埋め込まれたポンプ圧送可能なエマルションの分散相を含有する粒子が生成されることが分かった。本方法において、エマルションの連続相は、抽出剤によって選択的に抽出される。このようにして、連続相中に含有される溶質は分散相の周囲に沈降し、該分散相を周囲環境から保護する沈降した溶質のマトリックスの中に、該分散相が効果的に閉じ込められているカプセル化物が生成される。本発明の方法で得られるカプセル化物は、減圧によって、抽出剤から分離することができる。驚くべきことに、たとえ抽出剤が分散相に対する高い親和性を持っているとしても、溶質マトリックス中の該分散相の効果的なカプセル化は達成することができることが分かった。
【0007】
〔発明の詳細な記述〕
従って、本発明の1つの態様は、カプセル化物を製造する方法において、
・ (i)溶媒と該溶媒に溶解したマトリックス形成性溶質とを含有する連続相、及び、(ii)分散相、を含有するポンプ圧送可能なエマルション;並びに、
・ 超臨界ガス、臨界未満ガス又は液化ガスを含有する抽出剤であって、前記溶媒は実質的に、前記マトリックス形成性溶質に対するよりも、該抽出剤に対していっそう可溶性である、上記抽出剤;
を使用し、しかも、
a.前記のポンプ圧送可能なエマルションを、混合条件の下、前記抽出剤と混合する工程、
b.粒子状カプセル化物であって、その中で、前記分散相が、前記マトリックス形成性溶質の固体マトリックスの中に閉じ込められている、該カプセル化物を形成する工程、及び、
c.前記カプセル化物を回収し、該カプセル化物を前記抽出剤から分離する工程、
の連続的諸工程を含む、上記方法に関する。
【0008】
本出願書類で用いられる用語「臨界未満ガス(subcritical gas)」とは、超臨界状態でも液化状態でもないが、少なくとも10バール、好ましくは少なくとも20バールに加圧された圧縮ガスをいう。
本方法によって得られたカプセル化物は、分散相を取り囲む固体マトリックスと相違する組成物であって、好ましくは、該マトリックスに本質的に不溶性である該組成物を該分散相が有することを特徴とする。
【0009】
本発明のとりわけ好都合な態様において、ポンプ圧送可能なエマルションの分散相は、1種以上の活性成分を(好ましくは1種以上の活性成分を少なくとも1重量%、更に好ましくは少なくとも10重量%)含有する。ポンプ圧送可能なエマルションの分散相は、1種以上の活性成分から成る場合があるか、或いは、該分散相は、キャリヤ材料に溶解したそのような活性成分、及び/又は、キャリヤ材料に分散したそのような活性成分を含有する場合がある。
ポンプ圧送可能なエマルションの分散相の中に好都合に組み入れることのできる活性成分の例には、製薬物質、ステロール(sterols)、トコフェロール(tocopherols)、トコトリエノール(tocotrienols)、カロテノイド(carotenoids)、単純フェノール(simple phenols)、エッセンシャルオイル(essential oils;精油)、ビタミン類、香味物質及びそれらの混合物が包含される。本方法によって好都合にカプセル化することのできる製薬物質の例には、局所麻酔薬(例えば、プロカイン(procaine))、抗マラリア剤(例えば、クロロキン(chloroquine))、アドレナリン受容体遮断薬(例えば、プロパノロール(propanolol))、抗腫瘍薬(例えば、ドキソルビシン(doxorubicin))、抗ヒスタミン剤、抗鬱薬(例えば、デシプラミン(desipramine))、抗コリン作用(例えば、アトロピン(atropine))、不整脈治療剤(例えば、キニジン(quinidine))、鎮痛剤(例えば、コデイン(codeine)、モルヒネ(morphine))及びプロスタグランジン(prostaglandins)が包含される。
【0010】
本発明の方法で使用される分散相は好ましくは、親油性物質を少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも50重量%含有する。本出願書類で用いられる用語「親油性物質(lipophilic material)」とは、水に本質的に不溶性であるあらゆる物質をいう。20℃の水における親油性物質の溶解度は典型的には、0.5重量%を超えず、好ましくは、該溶解度は0.05重量%を超えない。分散相は、親油性物質の他に、親油性物質中に分散相として存在する極性物質、とりわけ液状極性物質、を含有することができる。例えば、分散相は、油中水型エマルションであって、その分散水相(dispersed aqueous phase)が水溶性の活性成分を含有している該エマルションであるのが適切である場合がある。親油性物質中に分散相として含有される場合のある液状極性物質の例には、水、C〜Cアルカノール、DMSO及びそれらの混合物が包含される。とりわけ好ましい態様によると、親油性物質中に分散している液状極性物質は、活性成分、とりわけ薬学的に活性な成分、を含有する。そのようなエマルションをカプセル化することによって、活性成分がカプセル化物から非常に遅い速度で放出されるという利点が提供される。このことは、薬学的用途において、特に、胃内で支配的である酸性条件から保護されるべき水溶性の薬学的に活性な成分を含有する経口投薬において、とりわけ好都合である。
【0011】
好都合な態様において、ポンプ圧送可能なエマルションの分散相は、親油性キャリヤ材料と該キャリヤ材料に分散又は溶解している1種以上の活性成分とを含有する。分散相が親油性キャリヤ材料と組み合わされて1種以上の活性成分を含有する場合、その1種以上の活性成分は、該分散相に溶解することが好ましい。適切に使用することのできる親油性キャリヤ材料の例には、脂質、ワックス(例えば、蜜ろう又はシュロろう(palm wax))、エッセンシャルオイル(例えば、ラベンダー油、ペパーミント油又はユーカリ油)並びに合成油(例えば、トリエチルグリコール及びジエチルグリコール)が包含される。好ましい親油性キャリヤ材料は、脂質である。本出願書類で用いられる用語「脂質(lipids)」とは、水に不溶性の、生物系に見出だされる広い種類の有機生成物だけでなく、それらの合成誘導体をもいう。主な種類の脂質には、脂肪酸及び(セチル化脂肪酸を含む)それらの誘導体、ステロイド類及びそれらの誘導体、テルペン類及びそれらの誘導体、並びに、長鎖アルコールが包含される。分散相に使用される脂質は、脂肪酸グリセロールエステル(例えば、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、ホスファチド(phosphatide))であるのが最も好ましい。
【0012】
分散相は、液体、半固体又は固体であってもよい。分散相は、周囲条件下で液体であること、或いは、分散相を100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは65℃以下の温度に加熱することによって、該分散相を溶融することができることが好ましい。
ポンプ圧送可能なエマルションの分散相は、活性成分を含有する抽出物であって、超臨界ガス、臨界未満ガス又は液化ガスを用いた抽出によって得られる該抽出物を少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも50重量%含有することが好都合である。抽出が行われる間、加圧ガスと共に使用される穏やかな条件(例えば、50℃未満)に起因して、高温で、且つ/又は、酸素若しくは水分の存在下で劣化する物質を効果的に濃縮することが可能となる。本発明は、これらの反応し易い抽出物の中に含有されている活性成分を損なうことなく、該抽出物をカプセル化するために都合よく使用することのできる方法を提供する。対照的に、噴霧乾燥(spray drying)のようなカプセル化技術では、反応し易い活性成分の著しい劣化が引き起こされる。
【0013】
マトリックス形成性溶質は、炭水化物類及びそれらの誘導体[例えば、修飾デキストラン(modified dextrans)、デンプン誘導体、セルロース誘導体、水溶性ゴム、カラギーナン(carrageenan)、テングサ(agar)、ペクチン(pectin)、シクロデキストリン(cyclodextrins)及びポリオール(例えば、マンニトール)];タンパク質[例えば、カゼイン(casein)];ペプチド;アミノ酸;ポリマー(例えば、ポリビニルアルコール);界面活性剤;並びに、それらの組合せ;から成る群から選ばれることが適切である。水溶性ゴムの適切な例には、アラビアゴム、グアールガム、カラヤゴム及びキサンタンガムが包含される。マトリックス形成性溶質は、マルトデキストリン(maltodextrins)、タンパク質(例えば、乳タンパク質)及びそれらの組合せから成る群から選ばれることが最も好ましい。
本方法のとりわけ好ましい態様によると、溶媒は水を含有し、抽出剤は二酸化炭素を含有し、且つ、使用される溶質は、酸性条件の下、とりわけ6.0未満のpHで沈降する。二酸化炭素と水との反応によってpHは低下するので、酸沈降性溶質(acid precipitating solute)を使用すれば、該溶質の沈降は更に促進される。酸沈降性溶質の例には、タンパク質、有機酸、ポリマー及び塩が包含される。酸沈降性溶質は、pH3.0〜pH6.0の範囲で等電点を有するタンパク質であること、より好ましくはpH3.2〜pH5.5の範囲で等電点を有するタンパク質であることが好ましい。
【0014】
本方法で使用される抽出剤は単一物質から成っていてもよく、或いは、該抽出剤は、複数種の物質の混合物から成っていてもよい。従って、抽出剤は、超臨界状態、臨界未満状態又は液化状態の、複数種のガスの混合物を含有していてもよい。抽出剤は典型的には、超臨界ガス、臨界未満ガス又は液化ガスを少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%含有する。抽出剤は、共溶媒を10重量%以下の濃度で、好ましくは5重量%以下の濃度で、適切に含有していてよい。適切な共溶媒の例には、C〜Cアルカノール、アセトン、DMSO及びそれらの組合せが包含される。
本方法で使用される超臨界ガス、臨界未満ガス又は液化ガスは、二酸化炭素、亜酸化窒素、エタン、エチレン、プロパン、シクロプロパン、プロピレン、ブタン、アルゴン、窒素及びそれらの混合物から成る群から選ばれることが好ましい。
【0015】
本方法で使用される溶媒は、超臨界状態、臨界未満状態若しくは液化状態の、液体又は気体であることが適切である。使用される溶媒は、液体であることが好ましい。ポンプ圧送可能なエマルションの中に含有される溶媒は、水、C〜Cアルコール、DMSO及びそれらの混合物から成る群から選ばれる極性液体を少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%含有することが好都合である。極性液体は、水であることが最も好ましい。
ポンプ圧送可能なエマルションの連続相は、マトリックス形成性溶質の他に追加の溶解成分(例えば、安定剤、塩、低級アルコール若しくは他の水溶性有機溶媒、抗生物質、抗真菌薬、抗生剤、又は、酸化防止剤)を含有していてもよい。連続相は、分散相中に存在する活性成分と協働作用(combined action)を有する1種以上の活性成分を適切に含有していてもよい。連続相の少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%は、溶媒及びマトリックス形成性溶質から成ることが好ましい。
【0016】
このポンプ圧送可能なエマルションは、1種以上の乳化剤を含有することが適切である。これらの乳化剤は、ポンプ圧送可能なエマルションの調製を容易にするために、且つ/又は、該エマルションを安定化させるために使用することができる。本方法において、溶媒が抽出剤に溶解し、且つ、溶質が該抽出剤に実質的に不溶性であるという条件で、該溶媒と該抽出剤とのあらゆる組合せを使用することは適切であろう。本出願書類で用いられる用語「可溶性の(soluble)」は、本方法で使用される抽出条件の下、抽出剤に対する溶媒の溶解度が0.1%(w/w)を超えること、好ましくは0.5%(w/w)を超えることを意味する。
抽出剤に対する溶質の溶解度は通常、5%(w/w)を超えない。本方法で使用される抽出条件の下、抽出剤に対する溶質の溶解度は、同一抽出剤に対する溶媒の溶解度に比べて、少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも1000倍小さいことが好ましい。
【0017】
分散相が、溶媒に対するのと同等に抽出剤に対して可溶性であるか、又は、溶媒に対するよりも抽出剤に対していっそう可溶性であるとしても、本方法を使用すれば優れた結果を得ることができるということを、本発明者らは意外にも見出だした。本発明者らは理論に拘束されることを望む訳ではないが、溶媒に対する分散相の溶解度は、本方法の有効性と逆相関があるものと思われる。従って、溶媒に対する分散相の溶解度は0.1重量%を超えないことが好ましく、該溶解度は0.01重量%を超えないことがより好ましい。分散相がエマルションを含有する場合、該エマルションの連続相は、上述の溶解度の基準を満たすことが望ましい。
【0018】
本方法で使用されるポンプ圧送可能なエマルションは、分散相を5〜60重量%の間で、好ましくは30〜50重量%の間で含有することが適切である。該エマルションに含有される溶質の量は典型的には、溶媒の20〜90重量%の間、好ましくは30〜50重量%の間である。マトリックス形成性溶質及び分散相は、1:15〜10:1の重量比、好ましくは1:12〜2:1の重量比でポンプ圧送可能なエマルションに含有されることが好ましい。
本方法によって得られるカプセル化物のペイロード(payload)は典型的には、少なくとも5%、好ましくは少なくとも30%、最も好ましくは少なくとも50%である。ペイロードは通常、90%を超えない。ここに、ペイロードは、カプセル化物に含有される分散相の重量%に等しい。
【0019】
本方法は典型的には、3〜300μm、好ましくは10〜100μmの範囲の体積加重平均直径(volume weighted average droplet size)を有するカプセル化物を生成する。ポンプ圧送可能なエマルションの分散相が溶質マトリックス内に確実に効果的に閉じ込められるためには、0.1〜30μmの体積加重平均液滴直径を有する分散相を使用することが望ましい。
本発明の方法は、様々な技術分野、例えば、医薬品、食品、農業、コーティング、粘着剤及び触媒に関連する技術分野で適切に使用することができる。本方法はとりわけ、薬学的に活性な物質、栄養補給食品、香味料、酵素、着色剤、農薬及び除草剤をカプセル化するのに使用することができる。
【0020】
本発明による方法は、回分式法、半連続法又は連続法で実施することが適切であることがある。本方法の回分式バージョンにおいて、ポンプ圧送可能なエマルションは、抽出剤で充填された室の中に噴霧することができるか、或いは、該エマルションは、激しく撹拌しながらそのような室の中に供給することができる。本方法の好ましい連続的変形法において、ポンプ圧送可能なエマルション及び抽出剤は、そのポンプ圧送可能なエマルションの流れと該抽出剤の流れとを、両方の流れが完全に混合される混合領域の中に供給することによって連続的に混合する。
本方法のポンプ圧送可能なエマルションは、1mmを超える内径を有するノズルを用い、抽出剤を含有する混合領域の中に該エマルションを噴霧することによって、該抽出剤と混合することが好都合である。比較的大きい直径を有するノズルを使用すれば、該エマルションが、混合領域の中に導入される時に破壊されないという利点が提供される。
【0021】
本方法において、前記エマルション及び前記抽出剤は典型的には、1:1000〜1:10の範囲の重量比、好ましくは1:200〜1:50の範囲の重量比で混合される。
本方法において、分散相が沈降カプセル化物から抽出されるのを防ぐために、抽出剤と該カプセル化物との間の接触時間は、できるだけ短く保持することが好ましい。カプセル化物と抽出剤との間の平均接触時間は典型的には、3時間を超えない。より好ましくは、該接触時間は60分を超えない。更に好ましくは、該接触時間は30分を超えない。最も好ましくは、該接触時間は10分を超えない。とりわけ好ましい態様によると、カプセル化物は、抽出剤から分離されると同時に、沈降反応は維持される。このことは、例えば、サイクロンを用いるか、又は、抽出剤と混和しない媒体の中にそれら粒子を回収することによって、達成することができる。
【0022】
本方法の好ましい態様では、抽出剤が分離された後、抽出された溶媒は、抽出剤から除去され、該抽出剤は、本方法の工程aに再循環される。従って、本方法で使用される抽出剤の総量は、方法の有効性にもカプセル化物の品質にも悪影響を及ぼすことなく、最小限に抑えられる。とりわけ好ましい態様において、抽出された溶媒は、選択性の高い方法で効果的に除去される。該溶媒を除去すること、及び、例えば分散相の溶解成分を除去しないことによって、カプセル化物からの分散相の望ましくない抽出を回避することができる。溶媒は、分散相の諸成分の除去効率に比べて、少なくとも10倍、好ましくは100倍高い効率で除去されることが好都合である。
【0023】
溶媒を吸着するが抽出剤を吸着しない吸着剤、又は、溶媒を吸収するが抽出剤を吸収しない吸収剤を使用することによって、溶媒を抽出剤から効率よく除去することができる。代わりに、溶媒を含有する抽出剤の圧力又は温度を低下させて、該溶媒を濃縮することによって、該溶媒を除去する。選択膜(selective membranes)を使用することによって溶媒を除去することも実行可能である。濃縮された溶媒から抽出剤を分離した後、該抽出剤は、工程aに再循環する前に再加圧する。とりわけ好ましい態様において、溶媒は水を含有しており、その抽出された水は、抽出剤を該抽出剤に不溶性である水吸着剤又は水吸収剤と接触させることによって、該抽出剤から除去する。
【0024】
本方法のポンプ圧送可能なエマルションは、分散相を構成することになる1種以上の活性成分及び/若しくは親油性キャリヤ物質と溶媒とを組合せ、同時に又は次いで、均質化を行うことによって適切に形成される。前記の1種以上の活性成分及び親油性キャリヤ物質は、それらが液体状態又は液化状態である時、該溶媒と混合する。
本方法において、抽出剤は、それがポンプ圧送可能なエマルションと混合される時、少なくとも10バール、更に好ましくは少なくとも20バールの圧力を有することが好ましい。とりわけ好ましい態様によると、抽出剤は、少なくとも0.3×Pの圧力と少なくともT−60℃の温度(そこで、Pは該ガスの臨界圧を表し、Tは該ガスの臨界温度を表す)を有する超臨界ガス又は液化ガスである。
本発明は、次の実施例によって更に例示される。
【0025】
〔実施例〕
実施例1
カゼイン酸ナトリウム及びマルトデキストリンを一緒に、それぞれ3重量%及び20重量%の濃度で水に溶解した。この溶液の中にヒマワリ油を、ウルトラタラックス(Ultraturrax)(登録商標)撹拌機を使用して、安定したエマルションが形成されるまで分散させた。結果として得られた水中油型エマルションは、油を25重量%含有した。
該エマルションは、周囲温度でシリンジポンプ(ISCO 260D)の中に移した。プランジャポンプ(ウィリアムズ(Williams))を使用して、高圧力容器を二酸化炭素で加圧し、加熱用油を使用し、ジャケット(jacket)を用いて該容器を75℃まで加熱した。該エマルションが内管(1.5mm)を通り、二酸化炭素が外管(2.5mm)を通る二重同心円管から成る二流体ノズルに、二酸化炭素及び該エマルションを通して該容器の中に噴霧した。二酸化炭素は、噴霧前に75℃まで加熱した。
【0026】
前記容器内で形成した粉末は、該容器の底部にあるフィルターで回収した。湿った二酸化炭素は、該容器の底部を通して該容器から排出し、高圧渦巻ポンプを使用して、ゼオライト3Aの顆粒で充填された圧力容器に循環させた。
前記容器内の圧力は、出口管の弁によって、152バールに制御した。該弁の前には熱交換器が配置されており、その中で前記ガスを120℃に加熱した。
エマルション及び二酸化炭素の使用流量は、それぞれ0.5ml/分及び382g/分であった。結果として、白色の自由流動性粉末が得られた。その収率は、該エマルション中に存在する水分を除いた前記噴霧エマルションの質量に基づき、98%であった。
【0027】
実施例2
イヌリン(inuline)11.15gを、30mlの水(80℃)に溶解させた。清澄な溶液が形成された時、該溶液を60℃に冷却し、粉末ホエー(whey powder)1.62g及びツイン 20(Tween−20)を添加した。結果として得られた混合物は、60℃で溶融カンナビス抽出物(cannabis extract)5.98gと混合し、超音波プローブ(175ワット)を使用して10分間の間、音波処理を行った。
結果として得られたエマルションは、COと一緒に二流体ノズルに通して、シリンジポンプ(Isco−260D)を使用しながら、加圧された高圧力容器(6リットル)の中に噴霧した。該容器は、ジャケットによって40℃に加熱し、30バールに加圧した。圧力は、該容器の底部に取り付けられたニードル弁を使用して制御した。該容器には、該容器内の底部に配置されたステンレス鋼焼結フィルタープレート(stainless steel sintered filter plate)が装備された。エマルション及び二酸化炭素の使用流量は、それぞれ0.9ml/分及び480g/分であった。噴霧を停止した後、更に3kgの二酸化炭素で該容器を洗い流した。二酸化炭素は再循環しなかった。
【0028】
乾燥粉末が得られた。該材料は、空気中の酸素及び水によってカンナビス成分(cannabis components)が化学分解されることに対する優れた保護を示した。該乾燥粉末を、周囲条件の下、5週間の間保管した後、純THCの52%が分解されたことが分かった(高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析)。対照的に、これらの同一保管条件の下、前記カプセル化物中に存在するTHCの僅か2%が分解された。
【0029】
実施例3
ダリア塊茎(dahlia tubers)(Fluka,MW5000)由来のイヌリン1.2gを、超音波プローブを用いた音波処理によって、ビーカーに入れた24mlの温水(80℃)に溶解させた。次いで、カンナビス抽出物300mgを、2−ブタノール(3ml)と完全に混合し、結果として得られた溶液を3号のガラスフィルターにかけた。両方の溶液は、60℃に加熱し、次いで、高剪断混合器で15分間の間、1:8(v/v)の比(カンナビス溶液:イヌリン溶液)で一緒に混合した。
次いで、実施例2における手順と同一の手順に従った。しかし、今回、二酸化炭素は80℃で使用し、180〜200バールに加圧した。エマルション及び二酸化炭素の使用流量は、それぞれ1ml/分及び330g/分であった。
乾燥粉末が、収率95%で得られた。
【0030】
実施例4
ヒマワリ油300g当りβ−カロテン0.050gの割合で、β−カロテンをヒマワリ油に溶解させた。その油は、ウルトラタラックス(Ultraturrax)(登録商標)撹拌機を5分間使用して、マルトデキストリン(23重量%)及びカゼイン酸ナトリウム(2重量%)の水溶液に分散させた。油30重量%を含有する黄色のエマルションが形成された。
次いで、実施例2における手順と同一の手順に従った。しかし、今回、二酸化炭素は75℃に予熱し、次いで、150バールの圧力で使用した。エマルション及び二酸化炭素の使用流量は、それぞれ1.1ml/分及び550g/分であった。乳白色の粉末が形成された。
【0031】
熱分析(thermal analysis)によって、残留水の含有量は5%であることが分かった。前記粉末を水に(重量基準で1:4で)再分散させた結果、乳白色のエマルションが得られた。このことは、β−カロテンを含有する前記油相が直ちには放出されていないことを示す。1:2.5(w/w)のヘキサン/アセトン混合物を用いて抽出したとき、2種類の透明相、即ち、黄色の上部相及び無色の底部相、が形成された。このことによって、β−カロテンは該粉末の中にカプセル化されていたことが確認された。この上部相を(更なる希釈を行なうことなく)可視分光分析(VIS spectrometry)(460nm)した結果、水による抽出の間、β−カロテンの有意な損失は生じなかったことが示された。
【0032】
実施例5
マトリックス形成性溶質としてのマルトデキストリンとOSA修飾デンプン(Capsul(登録商標))とを使用して、複数種のペパーミント油エマルションを作った。ペパーミント油は主として、メントール、メントン、酢酸メチル及びメントフランから成る。それらエマルションの組成を表1に記載する。
【0033】
【表1】

【0034】
次いで、実施例2における手順と同一の手順に従った。しかし、今回、様々な圧力と温度とを使用した。実験Bにおいて、エマルションは、より小さい管(0.4mm)から噴霧した。二酸化炭素の使用流量は、550g/分であった。容器の温度は40℃に保持した。表2に、使用した他の処理条件及び収率を記載する。この表において、予想される油含有量は、5%の粉末の中の水分含有量に基づく。
【0035】
【表2】

【0036】
4つの事例の全てにおいて、粉末が形成された。ガスクロマトグラフ法を使用し、該粉末の最も主要な4つの成分に基づいて、該粉末の油含有量を測定した。試料の製法は、該粉末を19:5(w/w)の水/アセトン混合物に再分散させることを含んだ。12時間後、結果として生じた溶液を分析した。
再懸濁の後、1000rpmでの遠心分離を5分間行った後、安定したままであるエマルション、即ち、分離も沈降も示さないエマルションが形成された。
【0037】
実施例6
実験5Dと同様のエマルションであって、ペパーミント油の代わりにヘキサンを含有するエマルションを、30バール、45℃で乾燥させた。他の処理条件は、実験5Aの処理条件と同一であった。重量分析によって、該エマルション中のヘキサンの85%を超える量が粉末中に保持されたことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプセル化物を製造する方法において、
・ (i)溶媒と該溶媒に溶解したマトリックス形成性溶質とを含有する連続相、及び、(ii)分散相、を含有するポンプ圧送可能なエマルション;並びに、
・ 超臨界ガス、臨界未満ガス又は液化ガスを含有する抽出剤であって、前記溶媒は実質的に、前記マトリックス形成性溶質に対するよりも該抽出剤に対していっそう可溶性である、上記抽出剤;
を使用し、しかも、
a.前記のポンプ圧送可能なエマルションを、混合条件の下、前記抽出剤と混合する工程、
b.粒子状カプセル化物であって、その中で、前記分散相が、前記マトリックス形成性溶質の固体マトリックスの中に閉じ込められている、該カプセル化物を形成する工程、及び、
c.前記カプセル化物を回収し、該カプセル化物を前記抽出剤から分離する工程、
の連続的諸工程を含む、上記方法。
【請求項2】
前記のポンプ圧送可能なエマルションと前記抽出剤とは、前記のポンプ圧送可能なエマルションの流れと前記抽出剤の流れとを、両方の流れが完全に混合される混合領域の中に送り込むことによって混合する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記のポンプ圧送可能なエマルションは、前記マトリックス形成性溶質と前記分散相とを、1:15〜10:1、好ましくは1:12〜2:1の重量比で含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記分散相は、0.1〜30μmの体積加重平均液滴直径を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記エマルションと前記抽出剤とは、1:1000〜1:10の範囲内の重量比で混合する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記抽出剤は、二酸化炭素、亜酸化窒素、エタン、エチレン、プロパン、シクロプロパン、プロピレン、ブタン、アルゴン、窒素及びそれらの混合物から成る群から選ばれる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記抽出剤は、少なくとも0.3×Pの圧力と、少なくともT−60℃の温度と(式中、Pは前記ガスの臨界圧を表し、Tは前記ガスの臨界温度を表す)を有する超臨界ガス又は液化ガスである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒は、水、C〜Cアルコール、DMSO及びそれらの混合物から成る群から選ばれる極性液体を少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記マトリックス形成性溶質は、炭水化物類およびそれらの誘導体、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、ポリマー、界面活性剤、並びに、それらの組み合わせから成る群から選ばれる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記の分離されたカプセル化物は、10〜100μmの体積加重平均直径を有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記溶媒は水を含有し、前記抽出剤は二酸化炭素を含有し、かつ、使用された前記溶質は、6.0未満のpHで沈降する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−505820(P2009−505820A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527863(P2008−527863)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【国際出願番号】PCT/NL2006/050208
【国際公開番号】WO2007/024133
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(506419010)フェイエコン ディベロップメント アンド インプリメンテーション ベスローテン フェンノートシャップ (2)
【Fターム(参考)】