説明

沸点200℃以上の高沸点成分の分離回収方法およびポリアリーレンスルフィドの製造方法

【課題】ポリアリーレンスルフィドの製造において、重合後の回収溶媒からN−メチル−2ピロリドンを蒸留により分離回収する際に、蒸留塔を腐食させずにN−メチル−2ピロリドンを分離回収する方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも沸点200℃以上の高沸点成分と沸点200℃未満の低沸点成分を含む混合液であり、かつ不純物として硫黄成分を混合液に対して1重量ppm〜1重量%(硫黄重量ベース)の範囲で含有し、かつpH7未満である混合液から蒸留により高沸点成分を分離回収するに当たり、混合液を蒸留塔にフィードする際に、混合液のpHを7〜12に調整することを特徴とする沸点200℃以上の高沸点成分の分離回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合液から蒸留により溶媒を分離回収する際に、蒸留塔を腐食させることなく、溶媒を分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油からの石油精製、有機化学反応後の溶媒精製等において、蒸留分離は一般的に広く利用される手法である。しかし、硫黄や塩素を含む化合物を不純物として含有する精製原料を用いた場合、蒸留塔での加熱等によって不純物の分解・反応等が起こり、亜硫酸ガスや塩化水素ガス等が生成することがあり、これらのガスが系内の水に溶解すると硫酸や塩酸等の強酸が生成する。このように硫黄や塩素系不純物に由来して生成する強酸によって蒸留塔内部の還流液が酸性となり、接液部を中心に腐食が進行する問題があるが、石油精製等の蒸留分離では、水は低沸点成分であることが多く、すなわち水分がほとんど存在しない蒸留塔の下部では強酸は生成せずに腐食の問題は少なく、還流液の水分率が上昇する塔頂部で腐食が問題となることが多い。特に蒸留塔の塔頂から留出した凝縮液による腐食、つまり、凝縮器、凝縮液タンク、蒸留塔への還流液供給配管等の蒸留塔留出後の付帯設備での腐食が問題となることが多い。このため、蒸留塔留出後の付帯設備の種々の防食対策が提案されており、例えば、特許文献1、2には、蒸留塔と凝縮器を接続する蒸気配管にアンモニアやアミン系の中和剤を添加して強酸を中和する防食方法が提案されている。また、特許文献3では、ジメチルスルホキシド(以下、DMSO)廃液からDMSOを回収する方法として、蒸留塔の腐食に伴う金属分の溶出によって回収DMSOの純度が低下するのを防止するために、接液部に耐食性部材を使用して150℃以下で減圧蒸留する方法が提案されている。蒸留塔の塔頂側に近い設備になるほど耐食性の良好な材料の使用が必要となるとの記載があり、塔頂に向かうほど還流液の水分率が上昇して腐食環境が悪化することへの対応を意図したものと推察される。また、DMSO廃液が酸性または中性である場合にpHを8〜12の弱アルカリ性に調整して蒸留する方法を提案しているが、特許文献1、2と同様に、還流液が酸性とならないように酸を中和する防食方法である。このように、蒸留塔および付帯設備への供給液を中和して酸性とならないようにする接液部の防食方法については提案されているが、蒸留塔内部で発生する腐食性ガスに注目してガス接触部位を防食する方法について検討された公知事例はない。
【特許文献1】特公平7−94665号公報
【特許文献2】特開2004−130245号公報
【特許文献3】特開平9−278743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略記する)の製造において、重合後の重合溶液からPASを分離回収した後に残る回収溶媒は、重合溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する)、未反応原料であるp−ジクロロベンゼン、水等の多成分混合液であり、重合溶媒であるNMPをリサイクル使用するために、蒸留分離を利用してNMPを精製回収することが広く行われているが、NMPの沸点は202℃であり、常圧蒸留では200℃を超える高温の運転条件が必要となる。回収溶媒には、原料として使用する硫化ナトリウム、または水硫化ナトリウム等に由来する硫黄成分、および重合副生物として生成する塩化ナトリウムなどを不純物として含有する。また、重合後の重合溶液からPASを分離回収する方法によっては、回収溶媒にオリゴマー等の微粒固形成分が含有されることがあり、後工程でのライン詰まり等のトラブルを防止するため、蒸留に先立ち固形成分を分離除去する工程が必要となるが、ランニングコスト等の面から遠心分離装置を利用することが工業的には有用である。遠心分離装置により固形成分を微粒成分まで充分に分離除去するためには、ポリ塩化アルミニウム等の酸性凝集剤を添加後に高分子凝集剤を添加する手法が有効であることが知られている。しかし、酸性凝集剤を使用して遠心分離処理を行った後のPAS回収溶媒を蒸留分離する際に、主に蒸留塔内部のガス接触部位において全面腐食と応力腐食割れが同時に発生し、腐食が著しく進行する問題がある。定期肉厚測定等によって部材の寿命予測が比較的容易な全面腐食に対して、応力腐食割れは予測が困難であり突然の外部漏洩等の安全・防災面でのリスクが大きいため、特に応力腐食割れを防止して蒸留分離する方法を提供することは工業的に大きな課題と言える。従って、本発明の目的は、遠心分離処理後のPAS回収溶媒などの、少なくとも高沸点成分と低沸点成分、及び硫黄成分を含むような混合液から高沸点成分を蒸留分離する際に、蒸留塔を腐食させずに蒸留分離する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、遠心分離処理後のPAS回収溶媒などの、少なくとも高沸点成分と低沸点成分、及び硫黄成分を含むような混合液から高沸点成分を蒸留分離する際に、蒸留塔の腐食が著しく進行する原因を検討したところ、蒸留塔フィードのpHが7未満の条件で160℃以上に加熱されると、硫黄成分が分解して腐食性ガスが発生することを見出した。つまり、通常のPAS回収溶媒はpH9〜10程度のアルカリ性であるが、遠心分離装置で処理したPAS回収溶媒は酸性凝集剤の添加によってpH6程度の酸性となっている場合があり、腐食性ガスが発生するという問題点があった。腐食性ガスの発生を抑制することで蒸留塔の腐食を防止できることを見出した。すなわち、本発明は、
1.少なくとも沸点200℃以上の高沸点成分と沸点200℃未満の低沸点成分を含む混合液であり、かつ不純物として硫黄成分を混合液に対して1重量ppm〜1重量%(硫黄重量ベース)の範囲で含有し、かつpH7未満である混合液から蒸留により高沸点成分を分離回収するに当たり、混合液を蒸留塔にフィードする際に、混合液のpHを7〜12に調整することを特徴とする沸点200℃以上の高沸点成分の分離回収方法。
2.前記混合液を蒸留塔にフィードする際に、混合液のpHを9〜12に調整することを特徴とする上記1に記載の方法。
3.前記混合液が、ポリアリーレンスルフィドの重合溶液からポリアリーレンスルフィドを分離した回収溶媒であることを特徴とする上記1または2に記載の方法。
4.沸点200℃以上の高沸点成分が、N−メチル−2−ピロリドンであることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の方法。
5.上記4に記載の方法で分離回収したN−メチル−2−ピロリドンをポリアリーレンスルフィドの重合溶媒として使用するポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、蒸留塔のフィードのpHを調整するという簡便な方法によって、蒸留塔内での腐食性ガスの発生を抑制することができ、蒸留塔の腐食を防止できる。応力腐食割れ等による外部漏洩等の安全・防災面でのリスク低減を図れるとともに、ハステロイ等の耐腐食性の高級材料の使用を回避でき、蒸留塔の建設コスト削減にも寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
[混合液]
本発明は、混合液から高沸点成分を蒸留により分離する際に有効であり、混合液は、少なくとも高沸点成分と低沸点成分、及び硫黄成分を含有し、かつpH7未満であればいかなるものでも良く、石油精製プロセスで得られる混合液、有機化学反応プロセスの反応液などに応用できる。硫黄成分は、硫黄を含有する有機化合物、無機化合物いずれでもよいが、本発明の方法は、硫黄を含有する有機化合物を含む混合液の処理に特に有用である。例えば、硫黄成分は、原油中の硫黄不純物、化学反応後の副生物などであり、硫黄重量ベースで1重量ppmから1重量%の範囲の含有量である場合に適用すると良い。硫黄成分の含有量が1重量ppm未満では本発明の実施有無に関わらず腐食性ガスの発生は軽微であり、1重量%を超える場合には蒸留前に別の手法によって硫黄成分を分離することが好ましい。上記混合液としては、例えば、PASの製造において、重合後の重合溶液からPASを分離回収した後に残るNMP、p−ジクロロベンゼン、水等の混合液からNMPを回収し、再利用する際のNMP回収プロセスに応用することが可能である。
【0007】
[PAS]
ポリフェニレンスルフィド(PPS)に代表されるPASは、耐熱性、耐薬品性等に優れるエンジニアリングプラスチックであり、電気・電子部品、自動車部品等の成形品の他、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。PASとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましい。
【0008】
【化1】

【0009】
(R1,R2は水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(L)〜式(N)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)− の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0010】
【化2】

【0011】
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。更に、各種PASはその分子量に特に制限はないが、通常、溶融粘度が5〜5,000Pa・s(300℃、剪断速度200/秒)の範囲が好ましい範囲として例示できる。これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0012】
【化3】

【0013】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(PPS)の他、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンが挙げられる。
【0014】
[PASの重合方法]
PASの重合方法としては、NMP等の非プロトン性極性有機溶媒中で、p−ジクロロベンゼンに代表される少なくとも1種のポリハロゲン化芳香族化合物と硫化ナトリウムに代表される少なくとも1種のスルフィド化剤とを従来公知の重合条件下で反応させて得られる。
【0015】
[PASの重合条件]
重合時のNMPの使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選択される。NMP中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPASを重合するが、重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100〜230℃の温度範囲で、NMPとスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。この重合には、バッチ方式、連続方式など通常の各重合方式を採用することができる。また、重合の際における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましく、特に、経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素が好ましい。反応圧力については、使用した原料及び溶媒の種類や量、あるいは反応温度等に依存し一概に規定できないので、特に制限はない。
【0016】
[PASの回収方法]
重合終了後に、重合体、重合溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する目的で冷却する。顆粒状のPASを得る意味で、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法が好ましい。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良く、最終的には220℃以下まで冷却する。重合工程終了後に、重合工程で得られたPASスラリーからPASを固液分離により回収し、NMPを主成分とする水溶液を分離する。
【0017】
[PASの回収溶媒]
NMPを主成分とする水溶液の分離は、一般的に使用される固液分離法でよく、具体的には、ろ過、振動篩い、遠心分離、沈降分離、等が挙げられる。ここで、後工程でのライン詰まり等のトラブル防止のため、オリゴマー等の微粒固形成分を持ち込まない清澄な水溶液に分離することが重要である。遠心分離装置を利用する場合、微粒固形成分まで充分に分離除去するには、ポリ塩化アルミニウム等の酸性凝集剤を添加後に高分子凝集剤を添加する手法が有効である。通常のPAS回収溶媒はpH9〜10程度のアルカリ性であるが、遠心分離装置で処理した場合、酸性凝集剤の添加によってpH6程度の酸性となる。かくして得られるPAS回収溶媒は、重合溶媒であるNMP、未反応原料であるp−ジクロロベンゼン、水、及び重合副生物として硫黄成分、塩化ナトリウムを含有しており、本発明の方法で蒸留分離によりNMPを回収し、重合溶媒として使用することが可能である。
【0018】
[混合液のpH調整]
本発明では、このように少なくとも高沸点成分と低沸点成分、及び硫黄成分を含有し、かつpH7未満の混合液を蒸留塔にフィードする際にpHを7〜12に調整することが重要である。pHが7未満では腐食性ガスの発生を充分に抑制することができず、pHが12よりも高いとアルカリによる接液部の腐食が進行する。腐食性ガス発生の抑制効果として、pHを7以上に調整することで硫化水素の発生を抑えることができ、pHを9以上に調整することで硫化カルボニルの発生も抑えることができるため、pHを9〜12に調整することが更に好ましい。pHの調整方法としては、アルカリ性物質を添加することが好ましく、アルカリ性物質としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物または炭酸塩等が挙げられるが、特に水酸化ナトリウムが好ましく、水酸化ナトリウムを水溶液として使用するのが更に好ましい。pHの変動を抑え目標値に安定化させるために、混合液pHをpH計で計測してアルカリ性物質の添加量を調整することが好ましく、オンラインpH計の計測値にフィードバック制御を掛けてアルカリ性物質の添加量を自動コントロールすることが更に好ましい。また、蒸留塔フィードのpHを7〜12に調整できれば、アルカリ性物質は直接フィードに添加しても、蒸留塔よりも前のいずれの工程で添加しても良い。
【0019】
[蒸留塔仕様と運転条件]
本発明に用いられる蒸留塔は、棚段塔、充填塔のいずれでも良いが、腐食性ガスの滞留部が生じ易い棚段塔でその効果が顕著となる。また、回分蒸留、連続蒸留のいずれでも良く、本発明の効果は、蒸留塔の理論段数、フィード位置、運転圧力等によって限定されるものではないが、腐食性ガスは160℃以上で発生することが多いため、160℃を超える温度条件が広範囲となる蒸留塔仕様、運転条件であるほど、その効果は顕著となる。
【0020】
[腐食の形態]
PAS回収溶媒中の塩化ナトリウムのように不純物として塩化物を含有する混合液の場合には、腐食性ガスによる全面腐食とともに塩化物応力腐食割れが誘発されることがあるが、本発明の実施によって応力腐食割れの抑制も可能である。定期肉厚測定等によって部材の寿命予測が比較的容易な全面腐食に対して、応力腐食割れは予測が困難であり突然の外部漏洩等の安全・防災面でのリスクが大きいため、本発明は、塩化物応力腐食割れが誘発される恐れのある塩化物を含有する混合液に特に有効である。
【0021】
[PAS製造への応用]
本発明により分離回収した沸点200℃以上の高沸点成分は、様々な用途に使用できるが、PAS製造の回収溶媒において、沸点200℃以上の高沸点成分がNMPである場合には、PASの重合溶媒として再利用することが好ましい。本発明の方法は、NMPを重合溶媒に使用するPASの重合溶液からPASを分離回収した後に残る回収溶媒中のNMPを蒸留により分離回収し、PASの重合溶媒として再利用するPASの製造方法に有効に応用することができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0023】
[試料中硫黄成分の定量分析方法]
・ 燃焼式硫黄分析装置((株)三菱化学アナリテック TS−100)を使用し、以下の酸化分解紫外蛍光法により試料中の全硫黄含有量を定量分析した。試料を石英ボートに採取し、横型反応炉(800〜1000℃)中に挿入してアルゴン/酸素気流中で燃焼。
・ 生成した亜硫酸ガスに紫外線を照射し、発生する紫外蛍光線の強度をAREA値に変換。
・ S−ジブチルジスルフィド標準試料で事前に作成した検量線から定量値を算出。
【0024】
[蒸留塔母材の肉厚測定方法]
金属構造物の保守検査における測定部の厚さを手動又は半自動で測定する方法について規定した標準規格であるJIS Z2355(超音波パルス反射法による厚さ測定方法)に従い測定した。
【0025】
[蒸留塔母材の減肉速度の算出方法]
蒸留塔の運転開始前の肉厚測定結果である元厚から、約1年間の運転実施後の肉厚測定結果を差し引いた減厚値を、1年当たりの減厚値に換算したものを減肉速度[mm/年]とした。
【0026】
[硫黄系腐食性ガスの定量測定方法]
以下のヘッドスペース法ガスクロマトグラフ(GC)分析で硫黄系腐食性ガスの発生量を定量測定した。
・ 試料液約1gをヘッドスペース容器に入れ密封後、185℃で30分間加熱。
・ 気相部をガスタイトシリンジで1mL採取し、GC−FPDに導入して定量分析。
・ 事前に標準ガスで作成した検量線から成分定量値を算出。
【0027】
GC−FPDの分析条件を以下に示す。
Apparatus:GC−14A
Column:PoraPLOT Q 25m×0.53mmID 20μm
Column Temp.:50℃(1min)→220℃(40min)10℃/min
Carrier Gas:He 11mL/min
Injection Volume:1mL
Injection Temp.:220℃
Detector Temp.:220℃
[実施例1]
NMP21重量%、p−ジクロロベンゼン5重量%、n−ヘキサノール74重量%を主成分とし、不純物として、硫黄成分を硫黄重量換算で50重量ppm、塩化ナトリウムを300重量ppm含有する混合液1のpHは6.0であった。混合液1に水酸化ナトリウム水溶液を添加しpHを10.0に調整した混合液2を得た。SUS316Lを材質に用いた理論段数約24段の蒸留塔(棚段塔)を使用し、下部から理論段数が約14段の位置に混合液2をフィードして、塔頂圧力を0.18MPa、塔底温度を234℃に制御した。その際の塔頂温度は177℃であり、塔底から純度98.5重量%以上のNMPを回収できた。平均7,500kg/hrのフィードで上記運転を約1年間継続後に蒸留塔内部の腐食状況を点検した結果、全般に腐食は軽微であり、母材の減肉速度は0.1mm/年以下、応力腐食割れの発生は観察されなかった。次に、混合液2を185℃で気液平衡状態にした際に発生する硫黄系腐食性ガスを定量分析した結果を表1に示す。
【0028】
[実施例2]
混合液1に水酸化ナトリウム水溶液を添加しpHを7.0に調整して得た混合液3を185℃で気液平衡状態にした際に発生する硫黄系腐食性ガスを定量分析した結果を表1に示す。
【0029】
[比較例1]
pH調整前の混合液1を実施例1と同条件にて蒸留塔にフィードし、約1年間運転継続後に蒸留塔内部の腐食状況を点検した結果、全般に腐食が見られ、フィード位置より下の数段でもっとも腐食が進行していた。特に棚段下面等のガス滞留部位で腐食が著しく進行しており、母材の最大減肉速度は1.1mm/年、外部漏洩に到る可能性のある応力腐食割れが多数観察された。次に、混合液1を185℃で気液平衡状態にした際に発生する硫黄系腐食性ガスを定量分析した結果を表1に示す。pHを調整することによって硫黄系腐食性ガスの発生量を、混合液1と比較して、混合液3では8.7重量%以下、混合液2では3.7重量%以下に抑制する効果が得られている。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも沸点200℃以上の高沸点成分と沸点200℃未満の低沸点成分を含む混合液であり、かつ不純物として硫黄成分を混合液に対して1重量ppm〜1重量%(硫黄重量ベース)の範囲で含有し、かつpH7未満である混合液から蒸留により高沸点成分を分離回収するに当たり、混合液を蒸留塔にフィードする際に、混合液のpHを7〜12に調整することを特徴とする沸点200℃以上の高沸点成分の分離回収方法。
【請求項2】
前記混合液を蒸留塔にフィードする際に、混合液のpHを9〜12に調整することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合液が、ポリアリーレンスルフィドの重合溶液からポリアリーレンスルフィドを分離した回収溶媒であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
沸点200℃以上の高沸点成分が、N−メチル−2−ピロリドンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法で分離回収したN−メチル−2−ピロリドンをポリアリーレンスルフィドの重合溶媒として使用するポリアリーレンスルフィドの製造方法。

【公開番号】特開2010−83780(P2010−83780A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252925(P2008−252925)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】