説明

沸騰冷却装置及び沸騰冷却装置を用いた車両用冷却システム

【課題】沸騰冷却装置において、加熱壁部から沸騰気泡を除去して新しい冷媒を適切に供給できる流路構造とすることである。
【解決手段】沸騰冷却装置10は、筐体12の管路部30に、インバータ8の熱によって冷媒が沸騰する蒸発器部32と、管路部30の断面中央部において蒸発器部32に隣接して設けられる中央流通部34と、管路部30の左右側壁部22,24のそれぞれに沿って蒸発器部32に隣接して設けられ、蒸発器部32を流通した冷媒が流出して、流出口16に向かって流通できる側壁側流通部36を備える。蒸発器部32には、底壁部20から中央流通部34の側に向かって突出し、管路部30の断面中央部を上流側とし、両側の側壁側流通部36を下流側として、上流側から下流側に向かって斜行する複数のフィン40が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰冷却装置及び沸騰冷却装置を用いた車両用冷却システムに係り、特に、発熱体を沸騰熱伝達により冷却する沸騰冷却装置及び沸騰冷却装置を用いた車両用冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷却装置としては、空冷、水冷の熱交換器を用いるものが知られている。この他に、冷媒の蒸発潜熱を用いる沸騰冷却は、除熱密度が高いことで注目される。
【0003】
例えば、特許文献1には、発熱体を冷却する沸騰冷却装置として、鉛直方向に下段チャネル、中段チャネル、下段チャネルの複数の冷却チャネルを有し、各冷却チャネルが鉛直方向に冷媒を流す冷却フィンと、冷却フィンの発熱体が当接する側と反対側に形成された蒸気排出流路を有する構成が述べられている。ここでは、各冷却チャネル間に、発生した気泡が次の冷却チャネルに進行することを妨げながら蒸気排出流路へと導く流路仕切板兼排出ガイド板が設けられることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、発熱体に取り付けた状態で冷媒を流して用いる冷却器として、その内部には、発熱体を取り付ける面の内部に伸びる主流路と、主流路から隔てられ主流路に沿って伸びる副流路と、主流路の流動方向の一部において主流路と副流路とを連通する連通路とが形成される構成が開示されている。ここでは、主流路に冷媒の流動を整える整流板が形成され、冷媒が副流路から連通路を経て主流路に流入する領域で整流板が不連続となっている。これによって、冷媒の流れが主流路で乱れ、主流路で発生する沸騰蒸気の気泡がつぶれて大きく成長しないようにできると述べられている。また、主流路に冷媒の流れる方向に傾斜と平坦部と仕切壁を設け、仕切壁に冷媒がぶつかることで冷媒の流れを乱すことも述べられている。
【0005】
特許文献3には、沸騰冷却装置として、冷却槽の内部を3つの冷媒室に区画する隔壁と、各冷媒室の沸騰領域を上下方向に等間隔を開けて傾斜する複数の冷媒流制御板が設けられる構造が開示されている。また、各冷媒室には、それぞれ沸騰領域の一方の側方に沸騰上記が流出する流出通路が設けられ、他方の側方には凝縮液が流入する流入通路が設けられている。実施例としては、流出通路と流入通路の幅を沸騰領域の幅よりも広くすること、冷媒流制御板をインナフィンで構成すること、沸騰領域にインナフィンを挿入することが述べられている。
【0006】
特許文献4には、液冷装置として、冷媒が通流するとともにパワー素子に熱的に接続された主流路と、主流路よりもパワー素子から離間した位置に設けられ冷媒が通流する副流路と、主流路と副流路との間に冷媒を通流させる連通流路を備える構成が述べられている。これによって、副流路から主流路に過冷却状態の冷媒を注入して、主流路の蒸気泡を凝縮崩壊させることができ、伝熱面が液相の冷媒で濡れているようにできると述べられている。
【0007】
特許文献5には、冷却器として、部材群を重ね合わせることで内部に主流路と副流路と連通路を形成する構成が述べられている。ここで、主流路は、冷媒の流動方向に沿った長さが発熱体の長さよりも長く、流動方向に直交する幅が発熱体の幅よりも広い。また、副流路は流路の幅を画定する隔壁によって主流路から隔てられた状態で主流路の幅方向の側方に伸びており、連通路は主流路の長さ方向の一部において幅方向に隔壁を貫いて主流路と副流路とを連通している構成となっている。主流路に流れる冷媒が発熱体によって加熱されて沸騰し気泡が発生すると、気泡による断熱作用によって発熱体の温度が急上昇するバーンアウト現象が生じ得る。上記構成によれば、連通路を通じて主流路に冷温の冷媒が供給されるので、主流路内で発生した気泡が液化されて消滅し、バーンアウト現象が抑制されると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−212402号公報
【特許文献2】特開2007−266117号公報
【特許文献3】特開平9−23081号公報
【特許文献4】特開2007−49170号公報
【特許文献5】特開2007−266463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
沸騰冷却は、冷媒の蒸発による潜熱冷却を利用し、高熱流束での除熱が可能である。加熱壁部で冷媒が沸騰すると蒸気の気泡として流れるが、気泡の大きさが一定以上になると加熱壁部の表面を覆ってしまい、却って除熱効率が低下する。したがって、蒸気を速やかに排出し、新しい冷媒を適切に供給することが必要となる。
【0010】
また、沸騰冷却には、除熱後の蒸気を凝縮して冷媒を循環させる必要があるが、特許文献1,3に開示されているように蒸発器と凝縮器とを別個に準備する構成は、部品点数、コストの面で課題が残る。特に、沸騰冷却装置を車両用冷却システムに適用する場合には、部品点数の増大を抑制し、コストの増大を抑制することが好ましい。
【0011】
本発明の目的は、加熱壁部から沸騰気泡を除去して新しい冷媒を適切に供給する流路構造を有する沸騰冷却装置及び沸騰冷却装置を用いた車両用冷却システムを提供することである。他の目的は、車両搭載に適した沸騰冷却装置及び沸騰冷却装置を用いた車両用冷却システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る沸騰冷却装置は、発熱体を沸騰熱伝達により冷却する沸騰冷却装置であって、冷媒が流入する流入口と、沸騰熱伝達後の冷媒が流出する流出口と、周壁で囲まれ冷媒が流れる管路部とを有する筐体と、管路部に設けられ、流入口から流入した冷媒が流出口に向かって流通し、発熱体の熱によって冷媒が沸騰する蒸発器部と、管路部の断面中央部において蒸発器部に隣接して設けられ、冷媒が流入口から直接流出口に向かって流通できる中央流通部と、管路部の左右側壁部のそれぞれに沿って蒸発器部に隣接して設けられ、蒸発器部を流通した冷媒が流出して、流出口に向かって流通できる側壁側流通部と、を備え、蒸発器部は、発熱体に接する底壁部から中央流通部の側に向かって突出し、管路部の断面中央部を上流側とし、両側の側壁側流通部を下流側として、上流側から下流側に向かって斜行して配置される複数のフィンを有し、複数のフィンの間の隙間を冷媒が流通することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る沸騰冷却装置において、側壁側流通部は、管路部の中央部から外側に向かって曲率を有して張り出す張り出し側壁を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る沸騰冷却装置において、連通穴を有する仕切板が蒸発器部と中央流通部との間に設けられることが好ましい。また、本発明に係る沸騰冷却装置において、凝縮用フィンを有する仕切板が蒸発器部と中央流通部との間に設けられることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る車両用冷却システムは、エンジンを冷却する冷媒を用いてインバータを冷却する車両用冷却システムであって、エンジンの発熱によって昇温した冷媒がラジエータに向かって流れる冷媒排出流路と、ラジエータによって熱交換されて降温した冷媒がエンジンに向かって流れる冷媒供給流路と、冷媒排出流路に直列または並列に配置され、冷媒排出流路を流れる冷媒を用いて沸騰熱伝達によりインバータを冷却する沸騰冷却装置と、を備え、沸騰冷却装置は、冷媒が流入する流入口と、沸騰熱伝達後の冷媒が流出する流出口と、周壁で囲まれ冷媒が流れる管路部とを有する筐体と、管路部に設けられ、流入口から流入した冷媒が流出口に向かって流通し、発熱体の熱によって冷媒が沸騰する蒸発器部と、管路部の断面中央部において蒸発器部に隣接して設けられ、冷媒が流入口から直接流出口に向かって流通できる中央流通部と、管路部の左右側壁部のそれぞれに沿って蒸発器部に隣接して設けられ、蒸発器部を流通した冷媒が流出して、流出口に向かって流通できる側壁側流通部と、を備え、蒸発器部は、発熱体に接する底壁部から中央流通部の側に向かって突出し、管路部の断面中央部を上流側とし、両側の側壁側流通部を下流側として、上流側から下流側に向かって斜行して配置される複数のフィンを有し、複数のフィンの間の隙間を冷媒が流通することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記構成により、沸騰冷却装置は、筐体の管路部に、発熱体の熱によって冷媒が沸騰する蒸発器部と、管路部の断面中央部において蒸発器部に隣接して設けられ、冷媒が流入口から直接流出口に向かって流通する中央流通部と、さらに、管路部の左右側壁部のそれぞれに沿って蒸発器部に隣接して設けられ、蒸発器部を流通した冷媒が流出して、流出口に向かって流通できる側壁側流通部を備える。そして、蒸発器部には、発熱体に接する底壁部から中央流通部の側に向かって突出し、管路部の断面中央部を上流側とし、両側の側壁側流通部を下流側として、上流側から下流側に向かって斜行する複数のフィンが配置される。
【0017】
これにより、冷媒は、管路部の断面中央部から複数のフィンの間を通るときに沸騰し、その気泡は、フィンの間を斜行して、側壁側流通部に排除される。したがって、加熱壁部であるフィンから沸騰気泡を除去して、新しい冷媒を適切に供給することができる。
【0018】
また、側壁側流通部では低温の液相冷媒が流れているので、排除されてきた蒸気を十分に冷却して凝縮させることができる。これによって、冷媒の蒸発に適した流路構造とでき、また蒸発機能と凝縮機能を併せ持つことができる。
【0019】
また、沸騰冷却装置において、側壁側流通部は、管路部の中央部から外側に向かって曲率を有して張り出す張り出し側壁を有するので、フィンの間を斜行してきた気泡は、曲率に沿ってスムーズに側壁側流通部に排除される。
【0020】
また、沸騰冷却装置において、蒸発器部と中央流通部との間に、連通穴を有する仕切板が設けられる。中央流通部側の冷媒流速と蒸発器部側の冷媒流速の差によって中央流通部側が負圧側になるので、連通穴を通して、蒸発器部の気泡を効果的に中央流通部側に排除できる。また、沸騰冷却装置において、蒸発器部と中央流通部との間に、凝縮用フィンを有する仕切板が設けられる。中央流通部には低温の液相冷媒が流れているので、凝縮用フィンを介して蒸発器部からの気泡を効果的に凝縮することができる。
【0021】
また、上記構成により、車両用冷却システムは、エンジンの発熱によって昇温した冷媒がラジエータに向かって流れる冷媒排出流路を流れる冷媒を用いて沸騰熱伝達によりインバータを冷却する。冷媒の昇温の設定を適切に行うことで、冷媒をインバータの発熱で蒸発させることが容易となり、沸騰熱伝達でインバータの除熱を効果的に行える。
【0022】
また、車両用冷却システムに配置される沸騰冷却装置は、筐体の管路部に、発熱体の熱によって冷媒が沸騰する蒸発器部と、管路部の断面中央部において蒸発器部に隣接して設けられ、冷媒が流入口から直接流出口に向かって流通する中央流通部と、さらに、管路部の左右側壁部のそれぞれに沿って蒸発器部に隣接して設けられ、蒸発器部を流通した冷媒が流出して、流出口に向かって流通できる側壁側流通部を備える。そして、蒸発器部には、発熱体に接する底壁部から中央流通部の側に向かって突出し、管路部の断面中央部を上流側とし、両側の側壁側流通部を下流側として、上流側から下流側に向かって斜行する複数のフィンが配置される。
【0023】
これにより、冷媒は、管路部の断面中央部から複数のフィンの間を通るときに沸騰し、その気泡は、フィンの間を斜行して、側壁側流通部に排除される。したがって、加熱壁部であるフィンから沸騰気泡を除去して、新しい冷媒を適切に供給することができる。
【0024】
また、側壁側流通部では低温の液相冷媒が流れているので、排除されてきた蒸気を十分に冷却して凝縮させることができる。これによって、冷媒の蒸発に適した流路構造とでき、また蒸発機能と凝縮機能を併せ持つことができる。したがって、沸騰冷却を行うシステムの中に別個に凝縮器を設けなくて済むので、装置部品点数の増大を抑制でき、車両搭載に適したものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る実施の形態における沸騰冷却装置の構成を説明する図である。
【図2】図1において、連通穴を有する仕切板を設ける構成例を説明する図である。
【図3】図1において、凝縮用フィンを有する仕切板を設ける構成例を説明する図である。
【図4】図1において、管路部の天井壁部にも蒸発器部を設ける構成例を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態における車両用冷却システムの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、沸騰冷却装置を車両搭載用として説明するが、勿論、車両搭載以外の目的に用いることができる。また、以下では、沸騰冷却装置の筐体の外形を直方体として説明するが、これは説明のための例示である。直方体以外の外形、例えば、冷媒の流路断面形状が長円形、楕円形、円形、多角形等であっても構わない。また、管路部の大きさに対する図示した流入口の相対的な大きさ、流入口の相対的な大きさ、フィンの相対的な高さ等は、説明のための例示であって、沸騰冷却装置の仕様等で適宜変更が可能である。
【0027】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0028】
図1は、車両に搭載される沸騰冷却装置10の構成を示す三面図である。以下の図面では、必要に応じてXYZ方向を示した。図1に示されるように、YZ平面が冷媒の流路断面に平行な面であり、X方向が冷媒の流れる方向である。なお、図1には、沸騰冷却装置10の構成要素ではないが、除熱対象の発熱体として、車両に搭載されるインバータ8が図示されている。沸騰冷却装置10は、冷媒を流して、発熱するインバータ8の熱によって冷媒を沸騰させ、その蒸発による潜熱冷却によって、インバータ8を除熱する機能を有する熱交換器である。冷媒としては、車両に搭載されるエンジンの冷却に用いられるLLC(Long Life Coolant)等を用いることができる。沸騰冷却装置10は、筐体12と、筐体12の内部に設けられるフィン40とを含んで構成される。
【0029】
筐体12は、沸騰冷却装置10の外形を形作る箱体である。筐体12は、冷媒が流入する流入口14と、沸騰熱伝達後の冷媒が流出する流出口16と、周壁で囲まれ冷媒が流れる管路部30とを有する。
【0030】
管路部30は、筐体12を形作る周壁で囲まれた内部空間である。管路部30の中には、上記のようにフィン40が配置されるが、沸騰冷却の観点からは、3つの流路系に分けることができる。1つは、蒸発器部32で、あとの2つは、中央流通部34と側壁側流通部36である。
【0031】
蒸発器部32は、フィン40が配置される部分で、流入口14から流入した冷媒が流出口16に向かって流通し、発熱体であるインバータ8の熱によって冷媒が沸騰する流路系である。
【0032】
フィン40は、発熱体であるインバータ8に接する底壁部20からZ方向に沿って上方側に突出する放熱用の薄板壁である。後述するように、フィン40の頂部の上方側は中央流通部34であるので、フィン40は、底壁部20から中央流通部34に向かって突出していることになる。
【0033】
フィン40は、管路部30の断面中央部を上流側とし、両側の側壁側流通部36を下流側として、上流側から下流側に向かって斜行して配置される。図1では、流入口14と流出口16が同軸で配置され、その同軸を中心軸として、中心軸の両側、つまりY方向の両側に、複数のフィン40がそれぞれ整列配置される様子が示されている。フィン40の斜行は、中心軸側から側壁側流通部36に向かって、冷媒が流れやすいように、中心軸の側をX方向のマイナス側、側壁側流通部36の側をX方向のプラス側に設定される。
【0034】
フィン40は、このようにX方向からもY方向からも斜めとなるように、互いに平行に一定の隙間間隔を保って、複数枚整列配置される。図1の例では、16枚のフィン40が中心軸の両側にそれぞれ配置されている。冷媒は、隣接するフィン40の間の隙間を通って、中心軸側から両側の側壁側流通部36に向かって斜行して流れる。フィン40は、発熱体であるインバータ8の熱を伝えて高温となっているので、冷媒はこのフィン40に接触することで蒸発する。この意味で、フィン40の隙間を通る流路系が蒸発器部32である。
【0035】
このように、蒸発器部32をフィン構造とすることで、沸騰気泡が扁平化し、より蒸発を促進させることができる。これによって除熱量の増大と、扁平化による熱伝達の向上に伴う冷却面温度の低減を同時に可能とできる。
【0036】
中央流通部34は、蒸発器部32の上方、つまり、フィン40の頂部の上方の管路部30の部分である。中央流通部34は、フィン40がないので、冷媒が流入口14から直接流出口16に向かって流通する流路系である。
【0037】
側壁側流通部36は、管路部30の左右側壁部22,24のそれぞれに沿って蒸発器部32に隣接して設けられる流路系である。側壁側流通部36も中央流通部34と同様に、フィン40が設けられないので、冷媒が流入口14から直接流出口16に向かって流通することができる。
【0038】
側壁側流通部36の左右側壁部22,24は、管路部30の中央部から外側に向かって曲率を有して張り出す。これによって、図1に示されるように、フィン40の間を斜行してきた冷媒は、その曲率に沿ってスムーズに流れることができる。この曲率を有する壁部に代えて、管路部30の中央部から外側に向かって張り出す傾斜壁部としてもよい。また、場合によっては、曲率も傾斜も設けずに、Z方向にまっすぐな左右側壁部としてもよい。
【0039】
このように、流入口14と流出口16の間には、蒸発器部32と中央流通部34と左右両側の側壁側流通部36の3種類、4つの流路系が並列的に配置される。蒸発器部32にはフィン40が配置され、冷媒は隣接するフィン40の間の隙間を流れるのに比べ、中央流通部34、側壁側流通部36にはフィン40が配置されていない。
【0040】
模式的には、相対的に流路抵抗の大きい蒸発器部32と、相対的に流路抵抗の小さい中央流通部34、側壁側流通部36とが、流入口14と流出口16の間に並列的に配置される。したがって、流路抵抗を適切に設定することで、蒸発器部32における冷媒の流速を、中央流通部34および側壁側流通部36における冷媒の流速よりも低速にして沸騰を生じやすくすることができる。これによって、蒸発器部32における冷媒の流量を、沸騰冷却に適したものにすることができる。
【0041】
また、蒸発器部32において、フィン40の表面で蒸発した気相冷媒は、蒸発器部32のフィン40に案内されて管路部30の断面中央部から、左右の側壁側流通部36に流れる。側壁側流通部36には、液相の冷媒が相対的に速い流速で流れている。これによって、蒸発器部32において沸騰蒸発によって生じた気泡を含む冷媒は、側壁側流通部36の相対的に低温である液相冷媒によって凝縮され、液相に戻る。このように、側壁側流通部36と蒸発器部32との境界部分は、凝縮器としての機能を有する。
【0042】
上記の作用は、蒸発器部32の冷媒流速と、中央流通部34、側壁側流通部36の冷媒流速とを新たに導入される流路抵抗などにより適切に設定することで発揮される。このような流速設定は、発熱体であるインバータ8の発熱特性、筐体12の底壁部20とフィン40の伝熱特性、フィン40の形状、隙間間隔等を考慮して適切なものとできる。なお、蒸発器部32を流れる冷媒は高温の気液二相流体で、中央流通部34、側壁側流通部36を流れる冷媒はこれに比較して低温の液相流体であるので、流体特性が異なることも考慮する必要がある。
【0043】
また、上記流速設定は、管路部30、フィン40の配置等を同じとして、流入口14と流出口16の配置関係によっても行うことができる。図1では、流入口14と流出口16を管路部30の中心軸に同軸として配置されている。流入口14と流出口16のZ方向に沿った高さ位置を変更することで、蒸発器部32の冷媒流速と、中央流通部34、側壁側流通部36の冷媒流速とを適切に調整することができる。例えば、蒸発器部32の流速をより速くしたい場合は、流入口14と流出口16のZ方向に沿った高さ位置を、蒸発器部32側に近づけて設定する。蒸発器部32の流速をより遅くしたい場合は、流入口14と流出口16のZ方向に沿った高さ位置を、蒸発器部32側から遠ざけて設定する。また、流入口14と流出口16の高さ位置を相対的に異ならせてもよい。
【0044】
図2は、蒸発器部32と中央流通部34との間に仕切板50を設けた沸騰冷却装置60の例を示す図である。仕切板50を設けることで、蒸発器部32の流速と、中央流通部34、側壁側流通部36の流速とを異ならせることが比較的容易となる。
【0045】
仕切板50は、蒸発器部32のフィン40の頂部よりも上方の高さ位置で、XY平面に平行に配置される。仕切板50は単なる平板でもよいが、蒸発器部32から中央流通部34へ気泡を導きやすくするために、連通穴52を設けることができる。連通穴52は、蒸発器部32と中央流通部34を連通する開口部である。中央流通部34側の冷媒流速と蒸発器部32側の冷媒流速の差によって中央流通部34側が負圧側になるので、連通穴52を通して、蒸発器部32の気泡を効果的に中央流通部34側に導き出して排除することができる。
【0046】
図3は、凝縮用のフィンを有する仕切板54を設けた沸騰冷却装置62の例を示す図である。中央流通部34には低温の液相冷媒が流れているので、凝縮用フィンを介して蒸発器部32からの気泡を効果的に凝縮することができる。
【0047】
図4は、発熱体としてのインバータ8,9が、筐体12の底面側だけでなく天井面側にも配置されたときの沸騰冷却装置60の例を示す図である。ここでは、蒸発器部32が管路部30の底壁部20と共に、天井壁部21にも配置される。具体的には、底壁部20に配置されると同様な配置で、複数の斜行するフィン40が天井壁部21にも配置される。この場合にも、天井壁部21に配置される蒸発器部32の左右には、側壁側流通部36が設けられる。実際には、底壁部20に配置される蒸発器部32のための側壁側流通部36と、天井壁部21に配置される蒸発器部32のための側壁側流通部36は、一体化して設けられる。また、中央流通部34についても底壁部20側と天井壁部21側は、一体化して設けられる。
【0048】
図5は、沸騰冷却装置10を車両用冷却システム80に組み込んだ構成を説明する図である。車両用冷却システム80は、エンジン82の発熱によって昇温した冷媒を用いてエンジン82を暖機する暖気用流路96と、エンジン82の発熱によって昇温した冷媒がラジエータ84に向かって流れる冷媒排出流路98とを含み、冷媒の温度に応じ、サーモスタット94によって、これらの流路を流れてきた冷媒を切り換えてウォータポンプ86を介してエンジン82に戻す冷媒供給流路100を含んで構成される。なお、暖気用流路96には、ヒータ88、排気熱回収器90、EGRクーラ92が配置される。
【0049】
沸騰冷却装置10は、この冷媒排出流路98に直列に配置される。図5の例では、ラジエータ84の下流側に沸騰冷却装置10が配置される。この場合には、沸騰冷却装置10に、ラジエータ84を通過した低温の冷媒が供給される。これによって、通常は、低温の冷媒によってインバータ8を冷却するが、インバータ8からの発熱量が大きくてそれでは不十分なときに、冷媒の沸騰による除熱へと自動的に移行する。
【0050】
図5の構成に代えて、沸騰冷却装置10をラジエータ84の上流側に設けることもできる。その場合には、沸騰冷却装置10の流入口14にはエンジン82の発熱によって昇温した冷媒が供給される。供給される冷媒の温度の設定を適当にすることで、蒸発器部32における蒸発を適切なものとできる。そして、図1で説明したように、側壁側流通部36を流れる冷媒によって、蒸発器部32で蒸発した気相冷媒を凝縮して液相に戻すことができる。液相に戻った冷媒は、元々の液相冷媒と共にラジエータ84に流れ、そこで熱交換されて降温する。昇温した冷媒を用いることにより、蒸発器部32で蒸発した気相冷媒を側壁側流通部36で完全に凝縮できない場合でも、下流に配置されたラジエータ84ですべて凝縮される。このように、エンジン82の発熱によって昇温した冷媒を用いて、沸騰冷却装置10において、蒸発機能と凝縮機能を発揮させ、インバータ8を除熱することができる。
【0051】
なお、図5では、沸騰冷却装置10を冷媒排出流路98に直列に配置したが、これを並列に配置することもできる。この場合には、エンジン82の発熱によって昇温した冷媒の一部を沸騰冷却装置10に分流する。残りの冷媒は直接ラジエータ84に向かって流れる。この構成によっても、エンジン82の発熱によって昇温した冷媒を用いて、沸騰冷却装置10において、蒸発機能と凝縮機能を発揮させ、インバータ8を除熱することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る沸騰冷却装置及び沸騰冷却装置を用いた車両用冷却システムは、車両に搭載される発熱体の除熱に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
8,9 インバータ、10,60,62 沸騰冷却装置、12 筐体、14 流入口、16 流出口、20 底壁部、21 天井壁部、22,24 左右側壁部、30 管路部、32 蒸発器部、34 中央流通部、36 側壁側流通部、40 フィン、50,54 仕切板、52 連通穴、80 車両用冷却システム、82 エンジン、84 ラジエータ、86 ウォータポンプ、94 サーモスタット、96 暖気用流路、98 冷媒排出流路、100 冷媒供給流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体を沸騰熱伝達により冷却する沸騰冷却装置であって、
冷媒が流入する流入口と、沸騰熱伝達後の冷媒が流出する流出口と、周壁で囲まれ冷媒が流れる管路部とを有する筐体と、
管路部に設けられ、流入口から流入した冷媒が流出口に向かって流通し、発熱体の熱によって冷媒が沸騰する蒸発器部と、
管路部の断面中央部において蒸発器部に隣接して設けられ、冷媒が流入口から直接流出口に向かって流通できる中央流通部と、
管路部の左右側壁部のそれぞれに沿って蒸発器部に隣接して設けられ、蒸発器部を流通した冷媒が流出して、流出口に向かって流通できる側壁側流通部と、
を備え、
蒸発器部は、発熱体に接する底壁部から中央流通部の側に向かって突出し、管路部の断面中央部を上流側とし、両側の側壁側流通部を下流側として、上流側から下流側に向かって斜行して配置される複数のフィンを有し、複数のフィンの間の隙間を冷媒が流通することを特徴とする沸騰冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の沸騰冷却装置において、
側壁側流通部は、管路部の中央部から外側に向かって曲率を有して張り出す張り出し側壁を有することを特徴とすることを特徴とする沸騰冷却装置。
【請求項3】
請求項2に記載の沸騰冷却装置において、
連通穴を有する仕切板が蒸発器部と中央流通部との間に設けられることを特徴とする沸騰冷却装置。
【請求項4】
請求項3に記載の沸騰冷却装置において、
凝縮用フィンを有する仕切板が蒸発器部と中央流通部との間に設けられることを特徴とする沸騰冷却装置。
【請求項5】
エンジンを冷却する冷媒を用いてインバータを冷却する車両用冷却システムであって、
エンジンの発熱によって昇温した冷媒がラジエータに向かって流れる冷媒排出流路と、
ラジエータによって熱交換されて降温した冷媒がエンジンに向かって流れる冷媒供給流路と、
冷媒排出流路に直列または並列に配置され、冷媒排出流路を流れる冷媒を用いて沸騰熱伝達によりインバータを冷却する沸騰冷却装置と、
を備え、
沸騰冷却装置は、
冷媒が流入する流入口と、沸騰熱伝達後の冷媒が流出する流出口と、周壁で囲まれ冷媒が流れる管路部とを有する筐体と、
管路部に設けられ、流入口から流入した冷媒が流出口に向かって流通し、発熱体の熱によって冷媒が沸騰する蒸発器部と、
管路部の断面中央部において蒸発器部に隣接して設けられ、冷媒が流入口から直接流出口に向かって流通できる中央流通部と、
管路部の左右側壁部のそれぞれに沿って蒸発器部に隣接して設けられ、蒸発器部を流通した冷媒が流出して、流出口に向かって流通できる側壁側流通部と、
を備え、
蒸発器部は、発熱体に接する底壁部から中央流通部の側に向かって突出し、管路部の断面中央部を上流側とし、両側の側壁側流通部を下流側として、上流側から下流側に向かって斜行して配置される複数のフィンを有し、複数のフィンの間の隙間を冷媒が流通することを特徴とする車両用冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−16590(P2013−16590A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147509(P2011−147509)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】