説明

沸騰冷却装置

【課題】基板に搭載された発熱体を、簡単な構成で効率的に冷却できる沸騰冷却装置を提供する。
【解決手段】沸騰冷却装置1の筐体と密着させた基板43に搭載した素子(チップ)45a〜45cそれぞれに対応する箇所に攪拌室4〜6を設ける。例えば攪拌室4と往水路2a,2bとを連通する噴出孔21a,21bと、攪拌室4と還水路3a,3bとを連通する排水孔22a,22bとを、冷却水の噴出方向、排出方向と交差する方向に互いにずれた位置に配置し、噴出孔から攪拌室内にサブクール度の大きい冷却水を流入するとともに攪拌室において冷却水の旋回流を発生させる。そして、沸騰で生じた蒸気泡を急激に冷却して気泡微細化沸騰を生じさせ、攪拌室を上昇した冷却水を排水孔から排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は沸騰冷却装置に関し、特に複数の半導体チップが搭載されたマルチチップモジュール(MCM)等を冷却するための沸騰冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における半導体技術の進展により、マイクロプロセッサ等のLSIが高集積化、高性能化、及び高速化され、マイクロプロセッサやパワー半導体素子等を搭載した基板において、これらの半導体素子から発せられる熱を、いかに効率的に外部へ放熱して、半導体素子の安定な動作を維持するかが大きな問題となっている。
【0003】
発熱対象から熱を奪い、冷却するため、従来より種々の装置が提案されており、例えば、冷媒となる液体の気体への相変化を利用して、発熱体を冷却する沸騰冷却装置が知られている。その一例として、特許文献1には、発熱体に接続され、冷媒が通流する主流路と、この主流路と隔壁を介して形成され、冷媒が通流する副流路とを備え、これら主流路と副流路との間に冷媒を通流させる連通流路を設けて副流路側から主流路へ冷媒を補給し、温度上昇した冷媒の温度を下げる装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献2は、冷却対象の表面あるいはその表面に密接する伝熱部材の表面を冷却面とし、その冷却面側から順に、冷却液用の主流路と副流路とを形成し、さらに、副流路側から隔壁を貫通する複数のノズルを主流路の流路方向に配列して、個々のノズルの先端部を冷却面に近接あるいは当接させることで、ノズルを介して副流路の冷却水を冷却面近傍に供給し、冷却面近傍で発生した気泡を効率的に微細化あるいは崩壊して沸騰冷却を実現する装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−79337号公報
【特許文献2】特許第4464914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の冷却装置では、主流路内において、発熱部からの発熱により、上流側から下流側へ向かうに従って冷却液の温度(水温)が上昇する傾向にあることから、主流路内の水温は、核沸騰が発生するための加熱度が必要である。しかし、加熱度が高すぎると(水温が高すぎると)冷却対象が冷却液により加熱されることになる。また、ノズルからの冷却液の供給が不足すると蒸気の気泡が十分に微細化されず、冷却能力も不足する。さらには、気泡が冷却系外の、例えばラジエターにまで達すると、ラジエター流路の目詰まりを起こし、冷却装置の動作が不安定になる、という問題がある。
【0007】
この場合、ノズルからの冷却液の量が適正であれば、水温の上昇を相殺できるが、通常、冷却対象の発熱状態は時々刻々変化し、冷却対象によっても発熱量が異なるため、ノズルから供給される冷却液の流量の調整を頻繁に行う必要がある。そして、流量調整を頻繁に行うには、冷却装置に制御装置の付加等が必要となり、冷却装置の複雑化、大型化、コスト高という問題が生じる。また、冷却面上で核沸騰により発生した気泡は、下流側においてノズルからの冷却液により冷却されると、気泡微細化沸騰へ移行する。ここで、ノズルから供給される冷却液の量が少ないと、気泡を含む冷却液が十分に冷却されず、気泡微細化沸騰が起こらない。
【0008】
一方、上述した従来の冷却装置は、ノズルから供給される冷却液の量が多く、流速が速いと流れが乱され、気泡がノズルから離れた方向へ流されてノズル直下へ到達せず、気泡微細化沸騰が効率的に行われない、という問題がある。この場合も、ノズルからの冷却液の頻繁な流量調整が必要となり、上記の場合と同様、そのための制御装置の付加等による冷却装置の複雑化、大型化、コスト高という問題が生じる。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するために提案されたものであり、半導体チップが搭載されたマルチチップモジュール(MCM)を、簡単な構成で効率的に冷却できる沸騰冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、請求項1記載の発明に係る沸騰冷却装置は、発熱体を冷却するための冷媒を供給する第1の冷媒流路と、前記発熱体を冷却した後の冷媒を排出する第2の冷媒流路と、前記発熱体から熱が伝導される底部、該底部と対向する上部、及び前記底部から上方に立ち上げられ前記上部へ至る壁部で囲まれた中空室を備え、前記第1の冷媒流路と前記中空室とを連通して前記冷媒を前記中空室へ流入させる一対の第1の孔部が前記壁部の前記底部側であって前記中空室への冷媒の流入方向と交差する方向に互いにずれた位置に穿設されるとともに、前記第2の冷媒流路と前記中空室とを連通して前記冷媒を前記中空室より流出させる一対の第2の孔部が前記壁部の前記上部側であって前記中空室からの冷媒の流出方向と交差する方向に互いにずれた位置に穿設された中空構造部と、を含む。このような中空構造部を設けることで、中空室内で冷却水の渦巻き旋回を発生させ、それによって新たな冷却水を供給し、気泡を急冷することで気泡微細化沸騰を生じさせて、高温状態にある発熱体から大量の熱を取り去ることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において前記中空室の底部内側に螺旋状の溝を形成したことを特徴とする。これにより、冷媒の攪拌室としての中空構造部において冷却水の旋回流の発生を助長できる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2記載の発明において前記中空室の底部内側の全面又は一部に撥水性の処理を施したことを特徴とする。このような撥水処理により、中空構造部内での冷却水の渦旋回が助長されるだけでなく、低い加熱度でも冷却水を沸騰できる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項2記載の発明において前記螺旋状の溝の底面に撥水性の処理を施したことを特徴としている。これにより、中空構造部内での冷却水の渦旋回を補助し、効率的な冷却を行うことができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明において、前記第1の冷媒流路より前記一対の第1の孔部を介して前記中空室に導入された冷媒が前記中空室内で旋回流となって、前記一対の第2の孔部を介して前記第2の冷媒流路へ導出されることを特徴としている。したがって、旋回流による攪拌によって常に新しい冷却水が供給されるため、発生した気泡を急冷、搬出して気泡微細化沸騰を継続できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る沸騰冷却装置は、旋回流となっている冷却水中の蒸気泡を急激に冷却して気泡微細化沸騰を生じさせ、高温状態にある発熱体から大量の熱を取り去ることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る沸騰冷却装置の外観を示す側面図である。
【図2】実施形態に係る沸騰冷却装置の平面図である。
【図3】実施形態に係る沸騰冷却装置の側面図である。
【図4】実施形態に係る沸騰冷却装置のA−A矢視断面図である。
【図5】実施形態に係る沸騰冷却装置のB−B矢視断面図である。
【図6】実施形態に係る沸騰冷却装置のC−C矢視断面図である。
【図7】実施形態に係る沸騰冷却装置の往水路と攪拌室の詳細構造を示す平面図である。
【図8】実施形態に係る沸騰冷却装置の還水路と攪拌室の詳細構造を示す平面図である。
【図9】実施形態に係る沸騰冷却装置の攪拌室底面に形成した溝の形状を示す図である。
【図10】図9の溝の断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る沸騰冷却装置(以下、冷却装置、あるいは単に装置ともいう)の外観を示す側面図である。図1に示すように沸騰冷却装置1は、全体形状がほぼ直方体であり、その筐体は熱伝導性の良好な、例えばアルミニウム、又は銅等で構成され、筐体の外部下面には、冷却対象である発熱体40が密着している。また、装置の長手方向の一方端面(上流側)には、冷媒としての冷却液(冷却水ともいう)の供給管35が接続され、他方の端面(下流側)には、冷却液の排水管37が接続されている。さらに、排水管37の下流側には、発熱体40から熱を奪って暖められた冷却液の温度を所定温度に下げるため、放熱器(ラジエター)50が配されている。なお、図1には示されていないが、放熱器50の下流側(出口)からは、供給管35へ至る管が配されており、放熱器50で放熱された冷却液が再度、沸騰冷却装置1へ供給される。
【0018】
発熱体40は、例えば高発熱パワー素子を有する電子装置であり、絶縁基板43に複数(ここでは3個)の素子(チップ)45a〜45cが搭載されたマルチチップモジュール(MCM)装置である。より具体的には、基板43上に、動作時の発熱量が大きく、電力制御等に用いられる電子素子(例えば、半導体チップ)であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワーMOS、パワートランジスタ、ダイオード等が搭載されている。そして、素子45a〜45cが搭載された基板43は、沸騰冷却装置1の筐体下面側にグリース等を介して密着されている。絶縁基板43は、例えば、セラミック板上にアルミ回路を形成したDBA(Direct Brazing Aluminum)の基板であり、その上にIGBT等が半田により接合されている。
【0019】
図2は、本実施形態に係る沸騰冷却装置の平面図(供給管、排水管等の図示は省略する。)、図3は、その側面図である。図4は、図2の沸騰冷却装置のA−A矢視断面図、図5はB−B矢視断面図、そして、図6はC−C矢視断面図である。本実施形態に係る沸騰冷却装置1は、図2に示すように筐体の左側と右側それぞれの側面に沿って、長手方向に冷却水の流路が配置されている。これらの流路は往水路2a,2bと、還水路3a,3bとからなる。沸騰冷却装置1の上流側端部には、図1に示す供給管35より往水路2a,2bに冷却水を供給するための流入口10a,10bが設けられている。図2及び図3の矢印X1,X2は、沸騰冷却装置1に供給される冷却水の流入方向を示している。また、沸騰冷却装置1の下流側端部には、図1に示す排水管37より、発熱体を冷却した後の冷却水(図2及び図3の矢印Y1,Y2は、冷却水の流出方向を示す。)を装置外へ排出するための排出口12a,12bが設けられている。
【0020】
沸騰冷却装置1に配された流路は、図3〜図6に示すように、断面が矩形の往水路2a,2bと還水路3a,3bとが、沸騰冷却装置1の筐体の左側と右側それぞれにおいて積層される分岐管構造になっている。すなわち、図3に示すように、往水路2a,2bの上部に、それらと同方向に還水路3a,3bが配された構造になっている。還水路3a,3bは、最上流の攪拌室4(冷却水の流れ方向に対して最初の冷却対象となるMCM45aに対応する)から始まり、下流に進むにつれて、つまり、次段の攪拌室5、その次の攪拌室6を経由するにつれて、その垂直方向の高さが増す構造になっている。一方、往水路2a,2bは、冷却装置1の上流側端部から始まり、下流に進むにつれて、その垂直方向の高さが減少する構造になっている。このような構造は、例えば、上流から下流に至るまで往水路と還水路の垂直高を一定とした階層構造に比べて、装置の筐体そのものの省スペース化が可能となる。
【0021】
また、往水路2a及び還水路3aと、往水路2b及び還水路3bとの間には、それらによって両側から挟まれる状態で3つの攪拌室4〜6が、上流から下流に向けて列状に設けられている。攪拌室4〜6は、発熱体40の基板43に搭載されたMCM45a〜45cそれぞれの真上に位置し、各攪拌室の中心と各MCMの中心とが一致するように配置されている。また、これらの攪拌室4〜6は、底部、上部、及び底部の外周縁から上方へ延びて上部の外周縁に至る壁部で構成された、直方体状あるいは立方体状の空洞構造(中空構造)をなしている。各攪拌室の流路側の対向する両側面下方には、攪拌室と往水路2a,2bとを連通する一対の噴出孔(攪拌室4の場合は、噴出孔21a,21b)が穿設され、各攪拌室の流路側の対向する両側面上方には、攪拌室と還水路3a,3bとを連通する一対の排出孔(攪拌室4の場合は、排出孔22a,22b)が穿設されている。
【0022】
図7は、往水路と攪拌室の詳細構造を示す平面図である。図7において矢印で示すように、例えば、往水路2a,2bに供給された冷却水は、その一部が噴出孔21a,21bを通して攪拌室4へ流入する。ここで、噴出孔21a,21bは、攪拌室4の往水路側の対向する両側面の下方であって、攪拌室4を平面視したとき、その対角の位置、つまり、攪拌室4の中心を外して、冷却水の噴出方向(攪拌室への流入方向)と交差する方向に互いにずれた位置に、対向して配置されている。このような噴出孔により、冷却水はその流速を増しながら攪拌室4へ流入し、図5及び図7に示すように、その噴出方向が互いにずれているため攪拌室4内で渦を巻き、旋回流となる。そして、冷却水は、後述するように発熱体からの熱を吸熱することによって、その温度が上がるため、攪拌室4を旋回しながら上昇する。他の攪拌室5,6についても同様である。
【0023】
図8は、還水路と攪拌室の詳細構造を示す平面図である。上述したように攪拌室4内で渦を巻きながら上昇した冷却水は、図8において矢印で示すように攪拌室4より、その攪拌室4の還水路側の対向する両側面の上方に設けた排出孔22a,22bを通って、その流速を増しながら還水路3a,3bへと排出される。排出孔22a,22bは、攪拌室4を平面視したとき、その対角の位置に(つまり、攪拌室4の中心を外して、冷却水の排出方向と交差する方向に互いにずれた位置に)、対向して配置されている。噴出孔21a,21bと排出孔22a,22bは、それぞれ攪拌室4の対角に位置するが、ここでは、図7及び図8に示すように噴出孔と排出孔とで対角の位置が異なっている(つまり、攪拌室の中心から上流側と下流側へ互いにずれる方向が噴出孔と排出孔とで逆になっている)。こうすることで、攪拌室4で渦を巻いて上昇する冷却水は、攪拌室4から排出孔22a,22bを通って容易に排出される。他の攪拌室5,6についても同様である。なお、噴出孔と排出孔の配置は、平面視した攪拌室の対角の位置が互いに逆になっていればよいため、図7及び図8に示す位置とは逆の対角位置に噴出孔と排出孔をそれぞれ配置してもよい。
【0024】
図9は、攪拌室4〜6の底面に溝を形成したときの、その溝81の形状を示している。また、図10は溝81の断面であって、図5において点線で囲んだ部分Dを拡大して模式的に示している。溝81は、例えば、幅が3mm以上、深さが3mm以下であって螺旋状に形成されており、その一例として、対数螺旋、放物線螺旋等が考えられる。このように溝を螺旋形状とするのは、攪拌室での冷却水の旋回流の発生を助長(補助)するためであり、溝を上記の幅とするのは、冷却時において攪拌室の底面に発生し、そこから離脱する気泡85の直径よりも大きく、冷却水が回りこまない程度の溝とする必要からである。また、溝を上記の深さとするのは、冷却水が沸騰するための加熱度を確保するためである。
【0025】
なお、攪拌室4〜6の内部底面の全部又は一部に、図10に示すように撥水性の処理、例えば、テフロン(登録商標)、ポリイミド等の有機材料の層(撥水コート)83を蒸着等より形成することで、螺旋形状と相俟って冷却水の渦旋回が助長されるだけでなく、蒸気泡の生成が促進される。
【0026】
次に、本実施形態に係る沸騰冷却装置の動作について説明する。本実施形態に係る沸騰冷却装置1において、往水路2a,2bの流入口10a,10bより往水路2a,2bへサブクール度の大きい冷却水(例えば、サブクール度が50度)を供給する。ここでサブクール度とは、冷却水の温度と飽和温度との差であり、サブクール度の大きい冷却水とは、その飽和温度との温度差が大きい、低温の冷却水である。サブクール度が大きいほど、高い冷却効果が得られる。往水路2a,2bに供給された冷却水は、噴出孔21a,21bを通して攪拌室4に流入する。同様に、噴出孔23a,23bを通して攪拌室5に冷却水が流入し、噴出孔25a,25bを通して攪拌室6に冷却水が流入する。
【0027】
基板43に搭載された素子(チップ)45a〜45cが動作状態となり発熱すると、発熱体40と密着して配された攪拌室4〜6の内部底面において冷却水の沸騰が起こる。例えば、攪拌室4に流入した冷却水は、その攪拌室4の底面部に対応する位置に密着して配された素子45aより発生する熱を吸収して、徐々に水温が上昇する。ここでは、攪拌室4にサブクール度の大きい冷却水が供給されるため、その冷却水の温度が飽和沸騰温度に達しなくても、冷却水は局所的に高温となり沸騰する(サブクール沸騰と呼ばれる)。そして、この沸騰に伴い冷却水中に気泡(蒸気泡)が発生する。
【0028】
攪拌室4の内部底面に配された溝81は基板43に近いため、溝81では加熱度が維持されて沸騰が容易かつ連続的に起こる。このとき、攪拌室4の底面の全部又は一部に、上述した撥水コート83が形成されていれば、低い加熱度でも冷却水は沸騰するので、基板43に搭載された素子(チップ)の冷却に対して、より有利になる。一方、溝81の上方の攪拌室4には冷却水が供給され、特に攪拌室4の下部表面は、上述した旋回流の発生により常時、新たな冷却水が供給されているため、大きなサブクール度を確保することができる。なお、図10は、溝81の底部に撥水コート83を形成した例を示している。
【0029】
溝81を離脱した気泡85は、冷却水の旋回流により直ちに攪拌室4に移送され、急激に冷却される。そのため、成長途上にある気泡は凝縮し、さらに微細な気泡に崩壊する。これは、熱流束(単位面積あたりの発熱面から単位時間あたり冷却水に移る熱量)が限界熱流束点を超えてさらに増加する現象であり、気泡微細化沸騰と呼ばれる。気泡微細化沸騰は、通常の核沸騰よりも大きな熱量を除去できるので、限界熱流束(除熱限界)も大幅に向上する。また、気泡の崩壊に伴って発生する衝撃波により、攪拌室4における冷却水の渦巻き旋回がさらに加速される。気泡は、このような旋回流の遠心力によって、攪拌室の底面において最も高温となる素子の中央付近から素子の周辺部へ搬出されるため、そこで、より急激な冷却が起こる。
【0030】
このような気泡微細化沸騰によって発熱体40から熱を奪い、水温が上がった冷却水は、旋回流により攪拌室4内を上昇し、攪拌室4の側面上方に設けた排出孔22a,22bを通って還水路3a,3bへ排出される。そして、排出された冷却水はさらに、排出口12a,12bを介して沸騰冷却装置1の外部(ラジエター50)へと輸送される。
【0031】
以上説明したように、本実施形態に係る沸騰冷却装置は、その筐体と密着する発熱体に対応する箇所毎に攪拌室を設け、その攪拌室へ冷却水を導入するため攪拌室と往水路とを連通する噴出孔と、攪拌室から冷却水を排出するため攪拌室と還水路とを連通する排出孔とを、平面視した攪拌室の対角の位置に、対向して配することで、攪拌室において、流入したサブクール度の大きい冷却水の旋回流を発生させるとともに、攪拌室を上昇した冷却水を排出孔から排出する。このような構成とすることによって、発生した蒸気泡を急激に冷却して気泡微細化沸騰を生じさせ、その気泡微細化沸騰を持続させることで、通常の核沸騰よりも大きな熱量を発熱体(半導体チップ)より除去することができる。その結果、動作中のマルチチップモジュール(MCM)上の高温状態にある発熱体から大量の熱を取り去り、大きな冷却効果をあげることが可能となる。したがって、マルチチップモジュール(MCM)上の半導体チップに対して、発熱に起因する誤動作やチップの破壊を有効に阻止することができる。
【0032】
また、気泡微細化沸騰により、発生した気泡が直ちに消失するので、従来の冷却装置のように蒸気泡と冷却水とを分離するための装置が不要となる。その結果、沸騰冷却装置の冷却系を小型化、軽量化、低コスト化することができる。
【0033】
さらには、サブクール沸騰により限界熱流束を大幅に増大できるので、冷却対象であるマルチチップモジュール(MCM)上の半導体チップを大電力で制御でき、かつ安全に駆動できる。これは、単位面積あたりでは、より大きな発熱密度に対応できることを意味しており、同じ電力に対して半導体チップのサイズを小さくすることができ、半導体チップそのものの低コスト化にも寄与する、という効果がある。
【0034】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されず、種々変更して実施可能である。上述した実施形態では、図2、図7及び図8に示すように、沸騰冷却装置1の筐体の左右に配した一対の往水路2a,2bと一対の還水路3a,3bが、噴出孔2a,2b等と、排出孔22a,22b等とを通じて各攪拌室4〜6に連通する構成としたが、水路構成はこれに限定されない。例えば、攪拌室毎に別々に往水路と還水路を設け、噴出孔と排出孔を介して、それらの往水路と還水路が個別に攪拌室と連通する構成としてもよい。また、上述した例では、発熱体40のMCM45a〜45cそれぞれに対応させて3個の攪拌室4,5,6を設けたが、複数のMCMに対して1個の攪拌室を配した構成としてもよい。
【0035】
さらに、上述した実施形態では、攪拌室4,5,6を直方体状あるいは立方体状の空洞構造としたが、これに限定されず、例えば、横断面の形状が円または楕円となるような円柱状の空洞構造としてもよい。この場合においても、攪拌室に通じる噴出孔と排出孔は、冷却水の噴出方向及び排出方向に直交する方向に、攪拌室の中心から上流側と下流側へ互いにずれた位置に配置されていれば、攪拌室内での冷却水の旋回が、より促進される。
【0036】
また、冷却の対象としては、マルチチップモジュール(MCM)等に限定されず、例えば、発熱密度の高い電子機器、ハイブリッドカー、電気自動車、燃料電池自動車の電力変換インバータ等に装着される発熱部材を対象としてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 沸騰冷却装置
2a,2b 往水路
3a,3b 還水路
4,5,6 攪拌室
10a,10b 流入口
12a,12b 排出口
21a,21b,23a,23b,25a,25b 噴出孔
22a,22b,24a,24b,26a,26b 排出孔
35 供給管
37 排水管
40 発熱体(マルチチップモジュール(MCM))
43 絶縁基板
45a〜45c 素子(チップ)
50 放熱器(ラジエター)
81 溝
83 撥水コート
85 気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体を冷却するための冷媒を供給する第1の冷媒流路と、
前記発熱体を冷却した後の冷媒を排出する第2の冷媒流路と、
前記発熱体から熱が伝導される底部、該底部と対向する上部、及び前記底部から上方に立ち上げられ前記上部へ至る壁部で囲まれた中空室を備え、前記第1の冷媒流路と前記中空室とを連通して前記冷媒を前記中空室へ流入させる一対の第1の孔部が前記壁部の前記底部側であって前記中空室への冷媒の流入方向と交差する方向に互いにずれた位置に穿設されるとともに、前記第2の冷媒流路と前記中空室とを連通して前記冷媒を前記中空室より流出させる一対の第2の孔部が前記壁部の前記上部側であって前記中空室からの冷媒の流出方向と交差する方向に互いにずれた位置に穿設された中空構造部と、
を含む沸騰冷却装置。
【請求項2】
前記中空室の底部内側に螺旋状の溝を形成したことを特徴とする請求項1記載の沸騰冷却装置。
【請求項3】
前記中空室の底部内側の全面又は一部に撥水性の処理を施したことを特徴とする請求項2記載の沸騰冷却装置。
【請求項4】
前記螺旋状の溝の底面に撥水性の処理を施したことを特徴とする請求項2記載の沸騰冷却装置。
【請求項5】
前記第1の冷媒流路より前記一対の第1の孔部を介して前記中空室に導入された冷媒が前記中空室内で旋回流となって、前記一対の第2の孔部を介して前記第2の冷媒流路へ導出されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の沸騰冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−8850(P2013−8850A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140717(P2011−140717)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】