説明

油中水乳化型豆腐用凝固剤

【課題】にがり本来の風味となめらかで緻密な組織を持つ豆腐を製造し得る豆腐用凝固製剤を提供する。
【解決手段】油脂、乳化剤及び粗製海水塩化マグネシウムを含有し、1)塩化マグネシウムの濃度が5〜20質量%、2)塩化マグネシウム/ナトリウムの質量比が3/1〜25/1、3)塩化マグネシウム/カリウムの質量比が2/1〜18/1である油中水乳化型豆腐用凝固剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆腐用凝固製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化マグネシウムの水溶液を油脂および乳化剤で乳化した凝固剤を用いると、塩化マグネシウムによる豆腐の凝固反応が遅効化し、なめらかで緻密な組織を有する絹様の豆腐が得られることが知られている(特許文献1〜4)。
ところが、塩化マグネシウム濃度が低い乳化凝固製剤を用いると豆腐が油臭くなったり、乳化剤の異味がしたりするとともに、塩化マグネシウム独自の甘味のある風味が感じられなくなる。その解決手段として、特定の割合で塩化ナトリウムを含むことで、風味の改良ができることが知られている(特許文献5)が、その効果は十分でない。
【特許文献1】特開平5−304923号公報
【特許文献2】特開平10−57002号公報
【特許文献3】特開平10−179072号公報
【特許文献4】特開2000−217533号公報
【特許文献5】特開2006−6183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、にがり本来の風味となめらかで緻密な組織を持つ豆腐を製造し得る豆腐用凝固製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、油脂、乳化剤、粗製海水塩化マグネシウムを含有し、塩化マグネシウム濃度、塩化マグネシウム/ナトリウム比率及び塩化マグネシウム/カリウム比率が一定の範囲に制御された油中水乳化型豆腐用凝固剤を用いた場合、にがり本来の風味となめらかで緻密な組織を持つ豆腐を製造し得ることを見出した。
即ち本発明は、
油脂、乳化剤及び粗製海水塩化マグネシウムを含有し、
1)塩化マグネシウムの濃度が5〜20質量%、
2)塩化マグネシウム/ナトリウムの質量比が3/1〜25/1、
3)塩化マグネシウム/カリウムの質量比が2/1〜18/1
である油中水乳化型豆腐用凝固剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明の豆腐用凝固製剤とは、特定少量のナトリウム及びカリウムを含有する粗製海水塩化マグネシウムを油脂、乳化剤で油中水型に乳化した油中水乳化型豆腐用凝固剤である。
また、本発明の豆腐用凝固製剤は、他の凝固剤、例えば、にがり(塩化マグネシウム)、GDL(グルコノデルタラクトン)、すまし粉(硫酸カルシウム)、塩化カルシウムなどを併用できる。
本発明において、乳化凝固製剤中の塩化マグネシウムの濃度はMgCl2で5〜20質量%(以下、単に%と言う)であるが、好ましくは8〜20%、より好ましくは、10〜18%である。この量が5%以上であると、乳化剤の異味が減少し、塩化マグネシウム独自の甘味のある風味が感じられる。一方、20%以下であると、製剤の保存安定性や、製剤化が安定にできる。
本発明で使用する粗製海水塩化マグネシウムは、塩化マグネシウムとして12.0%〜30.0%、ナトリウムとして4.0%以下を含有するものをいう。具体的には、室戸の潮にがり(赤穂化成(株)製)やマリンパワーII((株)シュアナチュラル製)等が挙げられる。
【0006】
また、本発明においては、乳化凝固製剤中の塩化マグネシウム/ナトリウムの重量比は3/1〜25/1であるが、好ましくは、3.5/1〜20/1、より好ましくは、4/1〜15/1、特に好ましくは5/1〜12/1であることが必要である。塩化マグネシウム/ナトリウムの重量比が3/1以上であると塩味が良好であり、25/1以下であると風味の改善ができる。
【0007】
更に本発明においては乳化凝固製剤中の塩化マグネシウム/カリウムの重量比は2/1〜18/1であるが、好ましくは5/1〜16/1、より好ましくは8/1〜15/1、特に好ましくは10/1〜14/1であることが必要である。塩化マグネシウム/カリウムの重量比が2/1以上であると苦味が少なく、18/1以下であると風味の改善ができる。
【0008】
なお、本発明において、水相中に調味料を添加しても良い。調味料としては、L−アスパラギン酸ナトリウム、DL−アラニン、L−アルギニンL−グルタミン酸塩、グリシン、L−グルタミン酸、L−グルタミン酸カリウム、L−グルタミン酸カルシウム、L−グルタミン酸ナトリウム、L−グルタミン酸マグネシウム、5´−イノシン酸ナトリウム、5´−ウリジル酸ナトリウム、5´−グアニル酸ナトリウム、5´−シチジル酸ナトリウム、5´−リボヌクレオチドカルシウム、5´−リボヌクレオチドナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、DL−酒石酸水素カリウム、L−酒石酸水素カリウム、DL−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、タウリン、L−テアニン、塩化カリウム、ホエイソルト、D−マンニトール等が挙げられる。
【0009】
油脂は、常温(25℃)において流動性を有する多価アルコール脂肪酸エステルであり、トリグリセリド、ジグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等がある。トリグリセリドとしては、例えば、ナタネ油、大豆油、魚油、サフラワー油、コーン油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、牛脂、あるいは、炭素数8〜10の中鎖脂肪酸からなるトリグリセリド、これらを分別した油、これらのエステル交換油、硬化油、あるいは、これらを任意に混合したトリグリセリドが挙げられ、コーン油、ナタネ油、大豆油が特に好ましい。ジグリセリドとしては、構成脂肪酸の炭素数が6〜24のものが好ましく、特に構成脂肪酸としてオレイン酸を含むジグリセリドが好ましい。ソルビタン脂肪酸エステルとしては構成脂肪酸の炭素数が6〜24のものが好ましく、炭素数6〜12の飽和脂肪酸または炭素数14〜24の不飽和脂肪酸が特に好ましい。例えばソルビタントリカプリン酸エステル、ソルビタントリラウリン酸エステル、ソルビタンモノオレイン酸エステル、ソルビタントリオレイン酸エステルが挙げられる。プロピレングリコール脂肪酸エステルとしては構成脂肪酸の炭素数が6〜24のものが好ましく、炭素数6〜12の飽和脂肪酸または炭素数14〜24の不飽和脂肪酸が特に好ましい。例えば、プロピレングリコールジカプリン酸エステル、プロピレングリコールジラウリン酸エステルが挙げられる。
【0010】
本発明に用いる乳化剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステルが例示され、具体的には、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは、グリセリン単位が2〜15、好ましくは5〜10のポリグリセリンとリシノール酸の縮合度が2〜10、好ましくは3〜6の縮合リシノレートとのエステルであり、市販品には、阪本薬品(株)製のSYグリスターCR−310、CR−500、更に太陽化学(株)製のサンソフト818R、サンソフト818SK等がある。ポリグリセリン脂肪酸エステルは脂肪酸の炭素数が20以上であるものが好ましい。具体的な例としては、エルカ酸エステルは、グリセリン単位が2〜15、好ましくは6〜12のポリグリセリンとエルカ酸とのエステルであり、HLB6以下が好ましい。市販品には、阪本薬品(株)製のSYグリスターNE−750、OE−750がある。また、他の乳化剤、例えばレシチン、モノグリセライド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルを併用できる。
【0011】
本発明において、油中水乳化型凝固剤の油相/水相比(重量比)は、分散性を満たすため、60/40〜25/75が好ましく、より好ましくは50/50〜25/75、更に好ましくは、40/60〜25/75である。
ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量は、保存性や豆腐の風味の点で乳化凝固剤中に0.2〜8.0%、好ましくは0.3〜5.0%、より好ましくは、0.5%〜3.0%である。
【0012】
本凝固剤の使用にあたっては、常法によって調製された豆乳に高速剪断分散機、あるいはスタティックミクサーなどの分散機を用いて凝固剤の分散を行う。特にタービンステータ型の高速分散機を用いるのが望ましい。また凝固剤の使用量は、豆乳中に塩化マグネシウムとして0.1%以上になるよう調整することが望ましい。また凝固剤分散時の豆乳の温度は、60〜90℃とすることが望ましい。豆乳の大豆の種類としては、IOM、ビントン、ビンソン、エンレイ、フクユタカ、タチナガハなどいずれの大豆を使用しても良い。また、豆乳濃度は、通常使用されるBrix10〜15を用いればよい。
【実施例】
【0013】
実施例1〜2、比較例1〜2
表1に示すような配合組成で全量500gの乳化凝固製剤の配合を水相、油相それぞれについて行った後、それぞれ60℃に加温し、油相をホモミキサーで8000rpmで回転しながら水相を徐々に(1分間)添加した後、10000rpm、1分間乳化を行い、油中水乳化型凝固剤を得た。
比較例3
(株)シュアナチュラル製:マリンパワーIIを水で希釈し、表1に示す組成の凝固剤を得た。
MgCl2、ナトリウム、カリウムの含有量は、原子吸光光度計(Z−6100形日立偏光ゼーマン原子吸光光度計)により測定した。
【0014】
次に下記の如く豆腐を製造した。
[豆腐の製造]
(実施例1〜2、比較例1〜2の場合)
大豆ビントンを用い、常法によって得られるBrix12の豆乳を用いた。80℃に調整し、定量ポンプにより750g/分で送液されている該豆乳に、該乳化凝固剤を豆乳中の塩化マグネシウム6水塩濃度が0.3%になるように定量ポンプを用いてライン中で混合し、さらにマイルダー(荏原製作所製)を用いて機械的分散を行った。分散処理液を型枠(8cm×7cm×3cm(高さ))に150g充填した。20分間熟成した後、一晩5℃で保存した。豆腐の物性、豆腐の風味を下記基準で評価を行い、結果を表2に示す。
(比較例3の場合)
大豆ビントンを用い、常法によって得られるBrix12の豆乳を用いた。20℃に調整した該豆乳を、型枠(8cm×7cm×3cm(高さ))に150g充填した後、該凝固剤を塩化マグネシウム6水塩濃度が0.3%になるように添加し、5秒間攪拌棒で攪拌混合した後、90℃の湯浴中で1時間型枠毎加熱した後、一晩5℃で保存した。豆腐の物性、豆腐の風味を下記基準で評価を行い、結果を表2に示す。
[豆腐の物性]
豆腐を半径1cm、高さ1.5cmの円柱に切り出し、小型卓上試験機Ez-Test(島津製作所製)を用い圧縮破断試験を行った。破断点の強度(N)を豆腐の硬さ、破断点の圧縮距離/1.5(試料の高さ)×100:破断歪率(%)を豆腐の弾力性の指標とした。破断強度5N以上、破断歪率50%以上の豆腐は、十分な硬さ及び優れた弾力性を有する。
[豆腐の風味]
豆腐を専門パネラー10名にて豆腐の風味・甘味について5点評価法で行い、その合計点で表した(評価は甘さ及び全体評価について行った)。評価の基準は、以下のとおりである。
5点:好ましい
4点:やや好ましい
3点:どちらともいえない
2点:やや好ましくない
1点:好ましくない
実施例の豆腐は、十分な硬さと弾力を有し、均一でなめらかな組織であり、風味に優れることがわかる。比較例1〜2は、塩化マグネシウム独自の甘味のある風味の点で劣る。比較例3は、均一な組織にならず、物性、風味とも実施例に劣る。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂、乳化剤及び粗製海水塩化マグネシウムを含有し、
1)塩化マグネシウムの濃度が5〜20質量%、
2)塩化マグネシウム/ナトリウムの質量比が3/1〜25/1、
3)塩化マグネシウム/カリウムの質量比が2/1〜18/1
である油中水乳化型豆腐用凝固剤。
【請求項2】
油中水乳化型凝固剤の油相/水相比(質量比)が60/40〜25/75である請求項1記載の油中水乳化型豆腐用凝固剤。
【請求項3】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む乳化剤を使用し、該豆腐用凝固剤中におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.2〜8.0質量%である請求項1又は2記載の油中水乳化型豆腐用凝固剤。

【公開番号】特開2010−94066(P2010−94066A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267082(P2008−267082)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】