説明

油中水型皮膚外用剤

【課題】 乳化安定性に優れ、特に極性油あるいはシリコーン油を配合した場合の乳化安定性が改善された油中水型皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で示されるポリグリセリン誘導体を含有することを特徴とする油中水型皮膚外用剤。
【化1】


(式中、m+2はポリグリセリンの平均重合度を表しており1≦m≦4、Rは炭素数1〜4の炭化水素基又は水素原子、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦m×n≦200である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型皮膚外用剤、特に極性油やシリコーン油を配合した油中水型の皮膚外用剤における乳化安定性の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、流動パラフィンやスクワラン等の非極性の油分を配合した油中水型のクリームあるいは乳液等を調製する場合には、乳化剤としてHLBの低い非イオン性界面活性剤が用いられていたが、例えば、トリグリセライド類、エステル油等の極性油を配合すると、系が不安定化してしまうという問題があった。
【0003】
一方で、近年、紫外線から肌を保護する意識が高まっており、紫外線吸収剤を配合した日焼け止め化粧料が多数開発されているが、紫外線吸収剤を溶解するための油分としてトリグリセライド類、エステル油等の極性油を配合する必要があること、また、使用感触を向上させる目的でシクロメチコンやジメチルポリシロキサンなどのシリコーン油を配合する必要があることから、非極性油だけでなく、極性油やシリコーン油といった幅広い油分を安定に配合した油中水型の皮膚外用剤が求められていた。
【0004】
これらの問題点を解決するために、親油基として自己縮合度2〜20のポリヒドロキシステアリン酸を持つポリオールポリヒドロキシステアレート(例えば、特許文献1参照)、親油基としてヒドロキシカルボン酸のオリゴマー、親水基としてポリオキシアルキレンを有するA−B−A型のブロックコポリマー(例えば、特許文献2参照)等が報告されているが、これらは低温での安定性が悪いこと、シリコーン油の乳化には適さない等の問題があった。
【0005】
以上のように、従来の油中水型界面活性剤では、極性油やシリコーン油を用いた乳化には不向きであり、目的とする油中水型皮膚外用剤の範囲が限定されていた。このため、使用感触においても限られたものとなり、ベタツキや伸びが悪いというような問題点や、さらには非極性油分に溶解しにくい紫外線吸収剤の配合が困難である問題点があった。
【0006】
【特許文献1】特表平10−501252号公報
【特許文献2】特開平11−12125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述のような従来技術の課題に鑑みて行なわれたものであり、その目的は、乳化安定性に優れ、特に極性油あるいはシリコーン油を配合した場合の乳化安定性が改善された油中水型皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、特定構造のポリグリセリン誘導体を油中水型皮膚外用剤の乳化剤として配合することにより、従来の一般的な親油性の界面活性剤を用いた場合と比較して乳化安定性に優れ、特に極性油あるいはシリコーン油を配合したの場合の乳化安定性が著しく改善された油中水型皮膚外用剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかる油中水型皮膚外用剤は、下記一般式(1)で示されるポリグリセリン誘導体を含有することを特徴とするものである。
【化1】

(式中、m+2はポリグリセリンの平均重合度を表しており1≦m≦4、Rは炭素数1〜4の炭化水素基又は水素原子、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦m×n≦200である。)
【0010】
また、前記油中水型皮膚外用剤において、さらに極性油分を含有することが好適である。また、前記油中水型皮膚外用剤において、極性油分が、IOBが0.05〜0.80である極性油分の中から選択される1種又は2種以上であることが好適である。また、前記油中水型皮膚外用剤において、極性油分がパラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2−エチルヘキシル、ジピバリン酸トリプロピレングリコール、オクタン酸セチル、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタンエリスリット、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、安息香酸(炭素数12〜15)アルキル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、ジ(カプリル・カプリン酸)プロピレングリコール、コハク酸ジ2−エチルヘキシルから選択される1種又は2種以上であることが好適である。
【0011】
また、前記油中水型皮膚外用剤において、さらにシリコーン油を含有することが好適である。また、前記油中水型皮膚外用剤において、さらに常温で固体の紫外線吸収剤を含有することが好適である。また、前記油中水型皮膚外用剤において、常温で固体の紫外線吸収剤が、2,4−ビス−[{4−(2−エチルヘキシルオキシ)−2−ヒドロキシ}−フェニル]−6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリアニリノ−(p−カルボ−2'−エチルヘキシル−1'−オキシ)−1,3,5−トリアジン、及び/又は1−[4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−3−(4−メトキシフェニル)−1,3−プロパンジオンであることが好適である。また、前記油中水型皮膚外用剤において、さらに紫外線散乱剤を含有することが好適である。また、前記油中水型皮膚外用剤において、日焼け止めに用いることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる油中水型皮膚外用剤によれば、特定構造のポリグリセリン誘導体を乳化剤として含有していることにより、従来の一般的な親油性の界面活性剤を用いた場合と比較して乳化安定性に優れ、特に極性油あるいはシリコーン油を配合した油中水型皮膚外用剤の乳化安定性が著しく改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について具体例を挙げることにより、さらに詳細に説明を行なうが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
ポリグリセリン誘導体
本発明にかかる油中水型皮膚外用剤において用いられるポリグリセリン誘導体は、下記一般式(1)で示されるものである。
【化2】

(式中、m+2はポリグリセリンの平均重合度を表しており1≦m≦4、Rは炭素数1〜4の炭化水素基又は水素原子、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦m×n≦200である。)
【0014】
上記式(1)に示されるポリグリセリン誘導体において、m+2はポリグリセリンの平均重合度を表しており、1≦m≦4、すなわち、3≦m+2≦6である。ポリグリセリンとしては、例えば、トリグリセリン(m=1)、テトラグリセリン(m=2)、ペンタグリセリン(m=3)、ヘキサグリセリン(m=4)が挙げられ、特に好ましくはトリグリセリンである。mが0(m+2=2)あるいはmが5以上(m+2≧7)である場合には、界面活性能が不十分である。
【0015】
本発明に用いられるポリグリセリン誘導体の製造に際して、原料として用いるポリグリセリンの製造方法は特に限定されるものではなく、直鎖状であっても分岐状であっても良い。上記式(1)においては、便宜上、直鎖状のポリグリセリン誘導体のみを示しているが、本発明においては、例えば、分岐状のポリグリセリン誘導体、あるいはこれらの混合物であっても構わない。なお、通常、市販のポリグリセリンは、脱水縮合して得られる為、グリセリンの1位又は3位と1位又は3位が反応する場合、1位又は3位と2位が反応する場合、2位と2位が反応する場合があり、直鎖状及び分岐状の混合物となる。このような混合物を原料として用いた場合には、ポリグリセリン誘導体も直鎖状及び分岐状の混合物として得られる。
【0016】
また、原料として用いるポリグリセリンは、より好ましくはトリグリセリンの平均重合度分布を狭くしたものであり、トリグリセリンの含有量が75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上のトリグリセリンを原料として使用することにより界面活性能力がさらに向上する。なお、蒸留等を行なうことによって、トリグリセリンの平均重合度分布を狭くすることができる。トリグリセリンの含有量は、例えば、以下の方法により測定することができる。
【0017】
TMS化:サンプル0.1gをスクリュー管に秤取り、ピリジン0.5mLを加えて溶解させる。次にヘキサメチルジシラザン0.4mLを加えて混ぜ、さらにクロロトリメチルシラン0.2mLを加えてよく混ぜる。30分間放置後、遠心分離しピリジン塩酸塩を沈降させ、上澄みを濾過したものをガスクロマトグラフィー分析する。
検出器:FID
カラム:HP-5 Crosslinked 5% PH ME Siloxane 0.25μm×30m
カラム温度:80℃→320℃(15℃/min) 320℃,25min
注入口温度:320℃
検出器温度:320℃
キャリアガス:ヘリウム
流速:23cm/sec
注入量:0.2μL
スプリット比:スプリットレス
【0018】
は炭素数1〜4の炭化水素基または水素原子であり、好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基である。炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等の飽和炭化水素基、ビニル基、アリル基等の不飽和炭化水素基、及びこれらの混合物等が挙げられるが、より好ましくは飽和炭化水素基である。
【0019】
AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、例えば、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシt−ブチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、及びこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは全オキシアルキレン基中に占める炭素数4のオキシブチレン基の割合が50質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。炭素数2以下のオキシアルキレン基では塩濃度による影響を受けやすく、炭素数5以上のオキシアルキレン基では純度の高い誘導体を得ることが難しい。また、異なるオキシアルキレン基の重合形態はブロック状でもランダム状でもよい。
【0020】
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、オキシアルキレン基と結合し得る水酸基の数を表すmとの組み合わせで1≦m×n≦200、好ましくは4≦m×n≦100、さらに好ましくは8≦m×n≦70である。m×nが0では界面活性を示さず、200を超えると純度の高い誘導体を得ることが難しい。また、オキシアルキレン基の平均付加モル数であるnは、単独で、1≦n≦200の値をとり得るが、好ましくは4≦n≦80、さらに好ましくは8≦n≦50である。
【0021】
本発明に用いられるポリグリセリン誘導体としては、具体的には、例えば、ポリオキシブチレン(25モル)メチルトリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(28モル)メチルトリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(42モル)メチルトリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(56モル)メチルトリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(28モル)トリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(42モル)トリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(50モル)トリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(56モル)トリグリセリルエーテル等が挙げられる。
【0022】
なお、本発明の式(1)で示されるポリグリセリン誘導体は、通常、以下の1)〜2)の手順により製造することができる。
1)平均重合度3から6のポリグリセリンを酸触媒の存在下でケタール化剤もしくはアセタール化剤を反応させポリグリセリンジケタール化合物もしくはジアセタール化合物を得る。
2)続いてアルカリ触媒の存在下で炭素数3から4のアルキレンオキシドの付加反応を行なう。さらに必要であればアルカリ触媒存在下でアルキル(アルケニル)ハライドなどを反応させ、オキシアルキレン基末端をアルキル(アルケニル)エーテル化する。
3)その後酸触媒の存在下で脱ケタール化もしくは脱アセタール化を行なう。
【0023】
ポリグリセリンをケタール化またはアセタール化するための化合物を下記式(2)に示す。
【化3】

【0024】
上記RおよびRはそれぞれ炭素数1〜4の炭化水素基もしくは水素原子を表し、R4およびR5はそれぞれ炭素数1〜4の炭化水素基である。ただし、RおよびRが同時に水素原子である場合は除かれる。炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられるが、より好ましくはメチル基である。
【0025】
式(2)の化合物としては、2,2−ジメトキシプロパン、1,1−ジメトキシ−3−ブタノン、1,1−ジメトキシエタン等が挙げられるが、2,2−ジメトキシプロパンがより好ましい。なお、通常のケトン類もしくはアルデヒド類から直接ケタール化合物やアセタール化合物を合成することもできるが、ケタール基等の置換反応率の点から、式(2)の化合物を使用した方がより好ましい。ケタール化もしくはアセタール化の触媒としては、酸触媒、例えば硫酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。通常、式(2)の化合物の仕込み量はポリグリセリンに対して250〜500モル%、酸触媒の仕込み量はポリグリセリンに対して0.0005〜0.015モル%が、反応温度は30〜70℃で行なうのが一般的である。
【0026】
ポリグリセリンと上記式(2)の化合物との反応により生成するポリグリセリンジケタール化物を下記式(3)に示す。
【化4】

【0027】
式(3)のポリグリセリンジケタール化物又はジアセタール化物を、次工程のアルキレンオキシド付加反応で使用する場合、特に触媒除去処理などしなくても差し支えないが、必要であれば、アルカリによる中和処理や酸吸着処理、濾過等を行なうことができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の中和剤や、協和化学工業(株)製のキョーワード300、キョーワード1000、富田製薬(株)製のトミックスAD−500等の吸着剤、その他ゼオライト等が使用できる。
【0028】
なお、式(3)のポリグリセリンジケタール化物またはジアセタール化物は、末端グリセリル基の1位と2位での反応物として記載されているが、本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0029】
式(3)の化合物について、アルカリ触媒の存在下で当該アルキレンオキシド付加を行なう場合、通常、オートクレーブなどの加圧反応釜において40〜180℃の温度で反応を行なう。このときの触媒としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、アルコラート等を使用することができる。より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ナトリウムメトキシド等である。触媒の使用量は特に限定されないが、付加反応終了後の質量に対して0.01〜5.0質量%が一般的である。
【0030】
アルキレンオキシド付加反応後、必要であればアルカリ触媒存在下でアルキル(アルケニル)ハライド等を反応させ、オキシアルキレン基末端をアルキル(アルケニル)エーテル化することもできる。アルキル(アルケニル)ハライドの例としては、塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル、塩化ビニル、塩化アリル、臭化メチル、臭化エチル、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル等が挙げられる。また、このときの触媒としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、アルコラート等を使用することができる。より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ナトリウムメトキシド等である。アルキル(アルケニル)ハライドの仕込み量は、反応する水酸基数に対して100〜400モル%、アルカリ触媒量は該反応する水酸基数に対して100〜500モル%、反応温度は60〜160℃で行なうのが一般的である。
【0031】
式(3)の化合物のオキシアルキレン化物について、次工程の脱ケタール化又は脱アセタール化反応を行なう場合、酸による中和処理やアルカリ吸着処理、濾過等を行なう必要がある。例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、炭酸などの鉱酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸による中和剤や、協和化学工業(株)製のキョーワード600、キョーワード700、富田製薬(株)製のトミックスAD−300などの吸着剤、その他ゼオライト等を使用することができる。
【0032】
式(3)の化合物のオキシアルキレン化物における脱ケタール化又は脱アセタール化反応は、酸触媒の存在下で行なう。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、パラトルエンスルホン酸、その他固体酸、陽イオン交換樹脂、酸性白土等が挙げられる。酸触媒の使用量は、式(3)の化合物のオキシアルキレン化物に対して0.01〜6.0質量%、反応温度は60〜150℃で行なうのが一般的である。
【0033】
脱ケタールまたは脱アセタール反応終了後は、アルカリによる中和処理や酸吸着処理、濾過等を行なうことができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の中和剤や、協和化学工業(株)製のキョーワード300、キョーワード1000、富田製薬(株)製のトミックスAD−500等の吸着剤、その他ゼオライト等が使用できる。
【0034】
以上説明したように、本発明に用いられるポリグリセリン誘導体の製造においては、予めポリグリセリンの末端部の水酸基をジケタール化又はジアセタール化によって保護し、この状態で水酸基のオキシアルキレン化反応を行ない、さらにその後、脱ケタール化又は脱アセタール化反応により保護基を外すという一連の工程が行われる。そして、これにより、式(1)に示すようなポリグリセリンの非末端部の水酸基のみが選択的にオキシアルキレン化されたポリグリセリン誘導体が得られる。
【0035】
以上のようにして得られる特定構造のポリグリセリン誘導体を乳化剤として用いることにより、乳化安定性に優れた油中水型の皮膚外用剤とすることができる。本発明にかかる油中水型皮膚外用剤においては、前記ポリグリセリン誘導体の配合量は、特に制限されるものではなく、使用目的に応じて適宜配合量を調整して用いることができるが、組成物の総量に対して0.5〜30質量%、さらには1〜10質量%であることが好適である。ポリグリセリン誘導体の配合量が0.5質量%より少ない場合には乳化安定性に劣る場合があり、一方で30質量%より多く配合すると乳化安定性に劣るほか、べたつきが生じるなど使用感触が悪くなるため好ましくない。
【0036】
極性油分
本発明にかかる油中水型皮膚外用剤においては、前記特定構造のポリグリセリン誘導体を配合することにより、油分として極性油分を配合した場合の乳化安定性に極めて優れているものである。このため、本発明にかかる油中水型皮膚外用剤においては、さらに極性油分を含有している場合に特に有用性が高い。本発明に用いられる極性油性成分としては、特に限定されるものではないが、IOB値が0.05〜0.80であることが好ましい。
【0037】
なお、IOB値とは、Inorganic/Organic Balance(無機性/有機性比)の略であって、無機性値の有機性値に対する比率を表す値であり、有機化合物の極性の度合いを示す指標となるものである。IOB値は、具体的には、
IOB値=無機性値/有機性値
として表される。ここで、「無機性値」、「有機性値」のそれぞれについては、例えば、分子中の炭素原子1個について「有機性値」が20、同水酸基1個について「無機性値」が100といったように、各種原子又は官能基に応じた「無機性値」、「有機性値」が設定されており、有機化合物中の全ての原子及び官能基の「無機性値」、「有機性値」を積算することによって、当該有機化合物のIOB値を算出することができる(例えば、藤田著、「化学の領域」第11巻、第10号、第719頁〜第725頁、1957年参照)。
【0038】
本発明に用いられる極性油としては、例えば、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、酢酸ラノリン、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、12−ヒドロキシステアリル酸コレステリル、ジ2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、モノイソステアリン酸N−アルキルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ2−ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、セチル2−エチルヘキサノエート、2−エチルヘキシルパルミテート、安息香酸(炭素数12〜15)アルキル、セテアリルイソノナノエート、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン、(ジカプリル酸/カプリン酸)ブチレングリコール、トリミリスチン酸グリセリン、トリ2−ヘプチルウンデカン酸グリセライド、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、オレイン酸オレイル、セトステアリルアルコール、アセトグリセライド、パルミチン酸2−ヘプチルウンデシル、アジピン酸ジイソブチル、N−ラウロイル−L−グルタミン酸−2−オクチルドデシルエステル、アジピン酸ジ2−ヘプチルウンデシル、エチルラウレート、セバチン酸ジ2−エチルヘキシル、ミリスチン酸2−ヘキシルデシル、パルミチン酸2−ヘキシルデシル、アジピン酸2−ヘキシルデシル、セバチン酸ジイソプロピル、コハク酸ジ2−エチルヘキシル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、クエン酸トリエチル、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、ジピバリン酸トリプロピレングリコール、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0039】
また、これらの極性油分のうち、特にパラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2−エチルヘキシル、ジピバリン酸トリプロピレングリコール、オクタン酸セチル、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタンエリスリット、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、安息香酸(炭素数12〜15)アルキル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、ジ(カプリル・カプリン酸)プロピレングリコール、コハク酸ジ2−エチルヘキシルから選択される1種又は2種以上であることが好適である。
【0040】
本発明にかかる油中水型皮膚外用剤においては、前記極性油性成分の1種又は2種以上を選択して配合してもよい。前記極性油性成分の配合量は、組成物中0.1〜90.0質量%、さらには1.0〜70.0質量%であることが好適である。極性油性成分の配合量が少なすぎるとべたつく場合があり、多すぎると乳化安定性に劣る場合がある。
【0041】
シリコーン油
また、本発明にかかる油中水型皮膚外用剤においては、前記特定構造のポリグリセリン誘導体を配合することにより、油分としてシリコーン油を配合した場合の乳化安定性に極めて優れているものである。このため、本発明にかかる油中水型皮膚外用剤においては、さらにシリコーン油を含有している場合に特に有用性が高い。
シリコーン油としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等の鎖状ポリシロキサン、デカメチルポリシロキサン、ドデカメチルポリシロキサン、テトラメチルテトラハイドロジェンポリシロキサンなどの環状ポリシロキサン等が挙げられる。
【0042】
本発明にかかる油中水型皮膚外用剤においては、前記シリコーン油の1種又は2種以上を選択して配合してもよい。前記シリコーン油の配合量は、組成物中0.1〜90質量%、さらには1.0〜70.0質量%であることが好適である。シリコーン油の配合量が少なすぎるとべたつく場合があり、多すぎると乳化安定性に劣る場合がある。
【0043】
固型紫外線吸収剤
また、本発明にかかる油中水型皮膚外用剤において、前記必須成分とともに、常温で固体の紫外線吸収剤を好適に配合することができる。本発明に用いられる常温で固体の紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ビス−[{4−(2−エチルヘキシルオキシ)−2−ヒドロキシ}−フェニル]−6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン{商品名:チノソーブS(チバ社)}、2,4,6−トリアニリノ−(p−カルボ−2'−エチルヘキシル−1'−オキシ)−1,3,5−トリアジン{(商品名:ユビナールT150(BASF社)}、1−[4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−3−(4−メトキシフェニル)−1,3−プロパンジオン{商品名:パルソール1789(ロシュ社)}等が挙げられる。
【0044】
本発明にかかる油中水型皮膚外用剤においては、前記常温で固体の紫外線吸収剤の1種又は2種以上を選択して配合してもよい。前記常温で固体の紫外線吸収剤の配合量は、組成物中0.05〜30質量%、さらには0.1〜20.0質量%であることが好適である。常温で固体の紫外線吸収剤の配合量が少なすぎると、十分な紫外線防御効果が見られない場合があり、多すぎると紫外線吸収剤が経時で析出してしまう場合がある。
【0045】
紫外線散乱剤
また、本発明にかかる油中水型皮膚外用剤において、前記必須成分とともに、紫外線散乱剤を好適に配合することができる。本発明に用いられる紫外線散乱剤としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛等の無機粉末、あるいはこの無機粉末の表面をアルミニウムステアレート、ジンクパルミテート等の脂肪酸石けん、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等の脂肪酸、パルミチン酸デキストリン等の脂肪酸エステル等により被覆した表面被覆無機粉末が挙げられる。
【0046】
本発明にかかる油中水型皮膚外用剤においては、前記紫外線散乱剤の1種又は2種以上を選択して配合してもよい。前記紫外線散乱剤の配合量は、組成物中0.05〜30.0質量%、さらには0.1〜20.0質量%であることが好適である。紫外線散乱剤の配合量が少なすぎると、十分な紫外線防御効果が見られない場合があり、多すぎると乳化物が得られない場合がある。
【0047】
また、本発明にかかる油中水型皮膚外用剤においては、さらに紫外線の遮蔽効果を有する粉末成分を好適に配合することができる。このような粉末成分としては、例えば、タルク、カオリン、雲母、絹雲母(セリサイト)、白雲母、金雲母、合成雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、バーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、マグネシウム、シリカ、ゼオライト、硫酸バリウム、焼成硫酸カルシウム(焼セッコウ)、リン酸カルシウム、弗素アパタイト、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー、金属石鹸(ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム)、窒化ホウ素、酸化チタン、酸化亜鉛等を素材とする無機粉末;ポリアミド樹脂(ナイロン)、ポリエチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、スチレンとアクリル酸の共重合体樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリ四弗化エチレン、セルロース等を素材とする有機粉末;ベンガラ、チタン酸鉄等を素材とする無機赤色系粉末;γ−酸化鉄等を素材とする無機褐色系粉末;黄酸化鉄、黄土等を素材とする無機黄色系粉末;黒酸化鉄、カーボンブラック、低次酸化チタン等を素材とする無機黒色系粉末;マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等を素材とする無機紫色系粉末;酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト等を素材とする無機緑色系粉末;群青、紺青等を素材とする無機青色系粉末;酸化チタンコーテッドマイカ、酸化チタンコーテッドオキシ塩化ビスマス、酸化チタンコーテッドタルク、着色酸化チタンコーテッドマイカ、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔等を素材とするパール粉末;アルミニウムパウダー、カッパーパウダー等の金属粉末等を挙げることができる。なお、これらの粉末の粒子径は、必要に応じて適宜選択することができる。また、必要に応じて、例えば、シリコーンや脂肪酸等による疎水化処理等を行ない、疎水化処理粉末等として用いることができる。
【0048】
なお、本発明にかかる油中水型皮膚外用剤に配合する油相成分は、上記極性油及びシリコーン油に限定されるものではなく、一般的な化粧料において用いられる他の油分を配合することができる。他の油分としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン、イソパラフィン、オゾケライト、プリスタン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等の液状、半固体状(グリース状)又は固体炭化水素類等の非極性油の配合も可能である。なお、本発明の油中水型皮膚外用剤における油分の総含有量は、特に限定されるべきものではないが、組成物の総量に対して20〜95質量%程度であり、好ましくは、30〜80質量%である。油分の総含有量が20質量%程度より少ないと、外用剤として用いた場合の使用性を良好にすることが困難であり、一方で95%質量%を超えると、経時での乳化安定性が劣ることが多くなる。
【0049】
また、水相成分としても、特に限定されるものではなく、水のほか、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール及びベンジルアルコールなどの一価アルコール、エチレングリコール、ブロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール及びジプロピレングリコールなどのグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン及びそれ以上のポリグリセリンなどのグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、PEG(14)PPG(7)ジメチルエーテル、PEG(36)PPG(41)ジメチルエーテル等のジエルキルエーテル類、グルコース、マルトース、マルチトール、ショ糖、及びソルビトール等の分子内に2個以上の水酸基を有する多価アルコールとの混合物の一種以上を配合することができる。
【0050】
また、本発明にかかる油中水型皮膚外用剤においては、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常、外用剤において用いられる各種の成分、例えば、粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、色素、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、防腐剤、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、水等を必要に応じて適宜配合し、目的とする剤型に応じて常法により製造することができる。
【0051】
本発明にかかる油中水型皮膚外用剤の使用用途は、特に限定されるものではないが、例えば、ローション、乳液、クリーム、ファンデーション、口紅、クレンジングフォーム、シャンプー、ヘアリンス、リップクリーム、ヘアスプレー、ムース、日焼け止めまたは日焼け用クリーム、アイライナー、マスカラ、毛髪または爪の手入れ、クリーム、ボディーメーキャップ製剤等、種々の製品に応用することが可能である。また、これらのうち、特に日焼け止めとして好適に用いることができる。
【実施例1】
【0052】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず最初に、本発明に用いたポリグリセリン誘導体の製造方法について説明する。
【0053】
合成例1 ポリオキシブチレン(25モル)メチルトリグリセリルエーテル
【化5】

【0054】
1)ケタール化反応
四つ口フラスコにトリグリセリン(SOLVAY製「Triglycerin>80%」:純度83%)240g、2,2−ジメトキシプロパン364g、パラトルエンスルホン酸1.5mgを仕込み、反応系内を窒素ガスで置換後50℃で3時間反応させた。反応後窒素気流下で未反応揮発分を加熱留去し、酢酸を加えてpH7に合わせ、トリグリセリンジケタール化物を得た。なお、トリグリセリンの純度は、前述のガスクロマトグラフィー分析条件により測定した。また、原料のトリグリセリンと生成物のIR分析を比較した場合、生成物には3500cm−1付近の水酸基のピークが小さくなっており、代わりに2960cm−1、2870cm−1、1460cm−1、1380cm−1付近のピークが出現していることから、目的物質が得られていることを確認した。
【0055】
2)オキシブチレン化反応
トリグリセリンジケタール化物320gと水酸化カリウム12gをオートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ中の空気を乾燥窒素で置換した後、攪拌しながら140℃で触媒を完全に溶解した。次に滴下装置によりブチレンオキシド1800gを滴下させ、2時間攪拌した。次に、水酸化カリウム168.3gを仕込み、系内を乾燥窒素で置換した後、塩化メチル151.5gを温度80〜130℃で圧入し5時間反応させた。その後オートクレーブより反応組成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するため減圧、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、オキシブチレン化トリグリセリンジケタール化物を得た。
【0056】
3)脱ケタール化反応
四つ口フラスコにオキシブチレン化トリグリセリンジケタール化物2134g、36%塩酸50g、水100gを仕込み、密封状態で80℃、2時間脱ケタール反応を行った。次いで水酸化カリウム水溶液でpH6〜7に合わせ、含有する水分を除去するため減圧、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、ポリオキシブチレン(25モル)メチルトリグリセリルエーテルを得た。
【0057】
なお、以上により得られた生成物についてGPC分析を行ったところ、メインピークの分子量は1939であった。分析条件は下記の通りである。
分析機器 :SHODEX GPC SYSTEM−11(昭和電工社製)
標準物質 :ポリエチレングリコール
サンプルサイズ :10%×100×0.001mL
溶離液 :THF
流速 :1.0mL/min
カラム :SHODEX KF804L(昭和電工社製)
カラムサイズ :I.D.8mm×30cm×3
カラム温度 :40℃
検出器 :RI×8
また、オキシブチレン化トリグリセリンジケタール化物と生成物のIR分析を比較した場合、生成物では3500cm−1付近の水酸基のピークが大きくなっていることから、目的物質が得られていることを確認した。
【0058】
合成例2 ポリオキシブチレン(25モル)メチルトリグリセリルエーテル
上記合成例1の手順のうち、1)ケタール化反応を下記の通りに変更して合成を行ない、ポリオキシブチレン(25モル)メチルトリグリセリルエーテルを得た。その他条件等は合成例1に準じた。
【0059】
1)ケタール化反応
四つ口フラスコにトリグリセリン(SOLVAY製「Triglycerin>80%」:純度83%)240g、アセトン290g、パラトルエンスルホン酸4mgを仕込み、反応系内を窒素ガスで置換後70℃で8時間反応させた。反応後窒素気流下で未反応揮発分を加熱留去し、酢酸を加えてpH7に合わせ、トリグリセリンジケタール化物を得た。
【0060】
合成例3 ポリオキシブチレン(50モル)トリグリセリルエーテル
【化6】

【0061】
上記合成例1の手順のうち、2)オキシブチレン反応を下記の通りに変更して合成を行ない、ポリオキシブチレン(50モル)トリグリセリルエーテルを得た。その他条件等は合成例1に準じた。
【0062】
2)オキシブチレン化反応
トリグリセリンジケタール化物320gと水酸化カリウム20gをオートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ中の空気を乾燥窒素で置換した後、攪拌しながら140℃で触媒を完全に溶解した。次に滴下装置によりブチレンオキシド3600gを滴下させ、2時間攪拌した。その後オートクレーブより反応組成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するため減圧、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行ない、オキシブチレン化トリグリセリンジケタール化物を得た。
【0063】
3)脱ケタール化反応
四つ口フラスコにオキシブチレン化トリグリセリンジケタール化物を3920g、36%塩酸70g、水200gを仕込み、密封状態で80℃、3時間脱ケタール反応を行った。次いで水酸化カリウム水溶液でpH6〜7に合わせ、含有する水分を除去するため減圧、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、ポリオキシブチレン(50モル)トリグリセリルエーテルを得た。
【0064】
ポリグリセリン誘導体の配合
本発明者らは、まず最初に、上記合成例に準じてポリグリセリン誘導体を調製し、当該ポリグリセリン誘導体を乳化剤として配合した油中水型皮膚外用剤(日焼け止めクリーム)と、従来の界面活性剤を配合した油中水型皮膚外用剤との比較を行った。各実施例及び比較例の油中水型皮膚外用剤の配合組成と評価結果とを下記表1に併せて示す。なお、配合量は全て質量%である。評価基準は以下の通りである。
【0065】
「乳化安定性」
各実施例及び比較例の油中水型皮膚外用剤について、製造直後、及びガラス瓶に充填し50℃で2週間放置後、下記の3段階の基準に基づいて、目視観察により乳化安定性の評価を行なった。
【0066】
<評価基準>
○:乳化状態が良好であった。
△:油相もしくは水相のわずかな分離が見られる。
×:油相もしくは水相がかなり分離している。
【0067】
【表1】

【0068】
<製造方法> 原料(1)〜(8)を、70℃で溶解分散させた後、溶解分散物をディスパーで攪拌しながら、70℃に加熱溶解した(9)〜(13)を添加し、その後、30℃まで冷却して、各実施例及び比較例の油中水型皮膚外用剤を得た。
【0069】
上記表1より明らかなように、従来、油中水型乳化剤として汎用されているジイソステアリン酸ジグリセリルを用いて極性油を乳化した場合、乳化直後に油相と水相の分離が認められた(比較例1−1)。また、比較的極性油の乳化に適していると言われているポリオキシエチレン(30モル)ジポリヒドロキシステアレートを用いた場合であっても、シリコーン油を乳化した場合には、同様に乳化直後に油相と水相の分離が認められた(比較例1−2)。
【0070】
これに対して、本発明のポリグリセリン誘導体(ポリオキシブチレン(50モル)トリグリセリルエーテル)を油中水型の乳化剤として用いた場合には、極性油,シリコーン油のいずれであっても、安定に乳化することができることが明らかとなった(実施例1−1,1−2)。また、極性油中に常温で固体の紫外線吸収剤を溶解し、さらに紫外線散乱剤を配合して調製した油中水型乳化製剤も非常に安定であることがわかった(実施例1−3)。
【0071】
つづいて、本発明者らは、ポリグリセリン誘導体の適性についてさらに検討するため、上記合成例に準じて各種のポリグリセリン誘導体を調製し、各種ポリグリセリン誘導体を配合した油中水型皮膚外用剤について、上記試験と同様にして評価を行なった。各実施例及び比較例の油中水型皮膚外用剤の配合組成と評価結果とを下記表2に併せて示す。
【0072】
【表2】

【0073】
上記表2より明らかなように、ポリオキシブチレン基の末端がメチル基あるいはブチル基であるポリグリセリン誘導体を用いた油中水型皮膚外用剤は、極性油及びシリコーン油が配合されているにもかかわらず、乳化安定性に非常に優れているものであった(実施例1−4,1−5)。さらに、ポリオキシブチレンの付加モル数が10モルあるいは150モルであるポリグリセリン誘導体を用いた場合にも、同様の優れた乳化安定性を示した(実施例1−6,1−7)。
【0074】
これに対して、未修飾のトリグリセリン、及びメチル基を修飾したトリグリセリンを用いた場合、乳化直後に油相と水相の分離が認められた(比較例1−3,1−4)。また、ポリオキシブチレン基の末端がヘキシル基であるポリグリセリン誘導体、及びポリオキシブチレンの付加モル数が250モルであるポリグリセリン誘導体を用いた場合、経時での乳化安定性に劣っていることが確認された(比較例1−5,1−6)。さらに、ケタール化反応による末端水酸基の保護を行わずにポリオキシブチレン基を付加したポリグリセリン誘導体を用いた場合においても、優れた乳化安定性を得ることはできなかった(比較例1−7)。
【0075】
ポリグリセリン誘導体の配合量
つづいて、本発明者らは、ポリグリセリン誘導体の好適な配合量について検討するため、ポリグリセリン誘導体の配合量を各種変化させた油中水型皮膚外用剤について、上記試験と同様にして評価を行なった。各実施例及び比較例の油中水型皮膚外用剤の配合組成と評価結果とを下記表3に併せて示す。なお、使用性についての評価基準は以下の通りである。
【0076】
「使用性」
各実施例及び比較例の油中水型皮膚外用剤について、男女5名計10名のパネルに実際に使用して使用感について評価してもらい、下記の3段階の基準に基づいて、評価を行なった。
<評価基準>
○:7名以上の人が良好と評価した。
△:2名以上7名未満の人が良好と評価した。
×:2名未満の人が良好と評価した。
【0077】
【表3】

【0078】
上記表3より明らかなように、本発明のポリグリセリン誘導体を配合した油中水型皮膚外用剤において、その配合量が0.5〜30.0質量%であった場合、極性油及びシリコーン油を配合した場合の乳化安定性に非常に優れていることが認められた(実施例1−9〜1−13)。また、ポリグリセリン誘導体を30.0質量%以上配合した場合には、使用性に劣る傾向にあることから、10質量%以下とすることが特に好ましい。
【0079】
紫外線遮蔽効果
また、上記試験において優れた乳化安定性が認められた実施例1−3の油中水型皮膚外用剤(日焼け止めクリーム)を用いて、紫外線遮蔽効果の評価を行なった。試験内容は以下の通りである。
【0080】
・紫外線遮蔽試験
高精度in vitro SPF測定システム(特開平7−167781号公報参照)により、SPF値及びPFA値の測定を行なった。
具体的には、光源としてソーラーシュミレーター(Solar Ultraviolet Simulator Model 600:Solar Light Co.)を使用し、塗布体として用いたトランスポアテープTM(3M Co.)に、試験品を2.0mg/cm2の塗布量で均一に塗布し、紫外線を照射した。そして、その透過紫外線スペクトルの演算処理を行ない、SPF値とPFA値を算出した。結果を下記表4に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
上記表4より明らかなように、本発明にかかる油中水型皮膚外用剤(日焼け止め)は、従来、安定に配合することが困難であった固体紫外線吸収剤及び紫外線散乱剤を多量に安定に配合することが可能となり、このため、優れた紫外線遮蔽効果が得られることがわかる。
【実施例2】
【0083】
以下、本発明にかかる油中水型皮膚外用剤のその他の実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、下記いずれの実施例においても、上記乳化安定性試験の結果、「○」の評価が得られた。
【0084】
実施例2−1 サンスクリーンクリーム (質量%)
(A)
ポリオキシブチレン(25モル)メチルトリグリセリルエーテル 3.0
安息香酸アルキル(C12〜15) 10.0
トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリエル 10.0
2−オクチルドデカノール 5.0
オクチルメトキシケイ皮酸 5.0
4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタン 1.0
香料 適 量
(B)
ブチレングリコール 5.0
精製水 残 量
<製造方法> (A)成分を70℃に加温し、溶解した後に、(B)相を70℃に加温して、ディスパー攪拌下で、(A)相へ添加し、十分混合する。その後、30℃まで冷却して、経時的安定性が良好であり、のびの良い油中水型のサンスクリーンクリームを得た。
【0085】
実施例2−2 保湿クリーム (質量%)
(A)
ポリオキシブチレン(25モル)メチルトリグリセリルエーテル 2.0
デカメチルシクロペンタシロキサン 15.0
テトラオクタン酸ペンタエリスリチル 5.0
トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリル 5.0
ワセリン 1.0
香料 適 量
(B)
グリセリン 5.0
ジプロピレングリコール 5.0
ポリエチレングリコール6000 1.0
L−グルタミン酸ナトリウム 1.0
精製水 残 量
<製造方法> (A)成分を70℃に加温し溶解した後に、(B)相を70℃に加温して、ホモミキサー処理下で(A)相へ添加し、十分混合する。その後、30℃まで冷却して、経時的安定性が良好であり、さっぱりとした使用感を有する油中水型の保湿クリームを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるポリグリセリン誘導体を含有することを特徴とする油中水型皮膚外用剤。
【化1】

(式中、m+2はポリグリセリンの平均重合度を表しており1≦m≦4、Rは炭素数1〜4の炭化水素基又は水素原子、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦m×n≦200である。)
【請求項2】
請求項1に記載の油中水型皮膚外用剤において、さらに極性油分を含有することを特徴とする油中水型皮膚外用剤。
【請求項3】
請求項2に記載の油中水型皮膚外用剤において、前記極性油分が、IOBが0.05〜0.80である極性油分の中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする油中水型皮膚外用剤。
【請求項4】
請求項3に記載の油中水型皮膚外用剤において、前記極性油分が、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2−エチルヘキシル、ジピバリン酸トリプロピレングリコール、オクタン酸セチル、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタンエリスリット、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、安息香酸(炭素数12〜15)アルキル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、ジ(カプリル・カプリン酸)プロピレングリコール、コハク酸ジ2−エチルヘキシルから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする油中水型皮膚外用剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の油中水型皮膚外用剤において、さらにシリコーン油を含有することを特徴とする油中水型皮膚外用剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の油中水型皮膚外用剤において、さらに常温で固体の紫外線吸収剤を含有することを特徴とする油中水型皮膚外用剤。
【請求項7】
請求項6に記載の油中水型皮膚外用剤において、前記常温で固体の紫外線吸収剤が、2,4−ビス−[{4−(2−エチルヘキシルオキシ)−2−ヒドロキシ}−フェニル]−6−(4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリアニリノ−(p−カルボ−2'−エチルヘキシル−1'−オキシ)−1,3,5−トリアジン、及び/又は1−[4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−3−(4−メトキシフェニル)−1,3−プロパンジオンであることを特徴とする油中水型皮膚外用剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の油中水型皮膚外用剤において、さらに紫外線散乱剤を含有することを特徴とする油中水型皮膚外用剤。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の油中水型皮膚外用剤において、日焼け止めに用いることを特徴とする日焼け止め用皮膚外用剤。

【公開番号】特開2007−31336(P2007−31336A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216492(P2005−216492)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】