説明

油分解微生物及び生分解不織布を用いた油吸着材

【課題】生分解性を有する不織布からなる外装体に植物性材料を主体とする吸油性粒子を収容することで、油吸着材そのものの取り扱いを容易にし、油分解微生物を併用することで使用後のコンポスト処理や埋め立て処理をした場合に、前記外装体と共に吸着油を分解することが可能な油吸着材を提供しようとするものである。
【解決手段】 生分解性を有する不織布からなる外装体に、植物性材料を主体とする吸油性粒子が収容されてなる油吸着材であって、前記外装体が、ポリ乳酸繊維からなる不織布であることを特徴とする油吸着材であって、前記吸油性粒子に、油分解性能及び/又は不織布分解性能を有する微生物が混合されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性材料及び生分解性材料を用いた油吸着材に関するもので、より詳細には、道路上に拡散し、又は水面上に浮遊し、或いは水中に乳化乃至懸濁状態で存在する油類を吸着して除去する、工業用・家庭用の油吸着材に関する。また、本発明は、食品廃材である豆皮等の植物性繊維を油吸着材に利用し、且つ、生分解性を有する外装体に前記油吸着材を収容することにより取り扱いを容易にし、使用後も分解を容易にした油吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
海面、河川或いは湖水等に流出した油類は、自然環境の油汚染をきたし、徹底した除去が重要な課題である。また、水産加工工場、畜産加工工場、金属圧延工場、金属加工工場等からも、含油排水を発生し、水面に浮遊し或いは懸濁状態ないしは乳化状態で存在する油類の除去が必要となる。
【0003】
従来、このような油類の除去に対する油吸着材としては、溶融スラグを利用したもの(特許文献1参照)、ポリ(p−オキシベンゾイル)、ポリ(2−オキシ−6−ナフトイル)、及びポリ(オキシメチレン)のうちの少なくとも1種からなるもの(特許文献2参照)、活性白土等の無機多孔質体粒子表面に植物性油脂等の油が被覆乃至沈着されてなるもの(特許文献3参照)、等があった。
【特許文献1】特開2002−023423号公報
【特許文献2】特開平06−304474号公報
【特許文献3】特開平08−116784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来公知の油吸収材は、油の吸収速度が遅く、油の吸着量も未だ少なく、微量の油膜を吸油できず、水面浮上保持時間が短い等の問題があった。
【0005】
一方、食品加工工場等からは食品廃材であるピーナツ殻・コーヒー豆皮等の処理が重要な課題となっていた。これらは植物性であることから、環境に影響を与えることが少なく、さらなる有益な用途を見出すことが期待されている。
【0006】
上記の問題を解決するため、本発明者らは先に、特開2004−167481号公報において、(A)吸油性粒子、及び少なくともその表面の一部分を被覆する(B)コーティング膜から構成され、該(A)吸油性粒子は植物性繊維からなる原料を粉砕して粉末化したものであることを特徴とする植物性材料を用いた油吸着材を開示した。前記発明中、(A)吸油性粒子を構成する植物性繊維としては、特に、ピーナツ殻、コーヒー豆皮、おがくず、かんなくず、おから、水苔、泥炭苔、木材チップ、米ぬか、木炭、竹炭、赤玉土、ピートソーブ、ヤシガラ、稲もみがら、麦もみがら、木粉、のうち少なくとも1種又は2種以上であることを特徴とし、前記(B)コーティング膜は、水溶性パラフィンワックスにより構成されることを特徴とする。
【0007】
上記本発明者らの油吸着材は、これらを布、不織布、紙等により構成される外装体に収容し、外装体ごと油を吸着させることもできる。このように袋ごと油を吸着させることとすれば、使用に際して水面や道路面に撒く作業、油吸着後に回収する作業の際等の取り扱いも容易であるし、使用後に袋ごと廃棄することもでき便利である。また、廃棄する際に地中に埋め立て処理すれば、前記植物性油吸着材が、外装体、吸油性粒子、吸着油の全てが分解し土に帰るため、焼却処分する場合と比べ熱エネルギーも発生させることなく好適である。
しかしながら、前記外装体がナイロン繊維、エステル繊維のような合成繊維であった場合や、パルプを主体としているが濡れても破れないように、ポリオレフィン系等であって分解性を有しないバインダー繊維や接着剤で接着している場合、それらの合成繊維やバインダー繊維、接着剤は分解せず地中に留まるため、環境汚染の原因となるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる現状を鑑みてなされたもので、生分解性を有する繊維からなる外装体に植物性材料を主体とする吸油性粒子を収容することで、油吸着材そのものの取り扱いを容易にし、使用後のコンポスト処理や埋め立て処理をした場合に、前記外装体と共に分解することが可能な油吸着材を提供しようとするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油吸着材によれば、食品廃材等の植物性材料を有効に活用し、油類を迅速に且つ有効に吸着し、しかも処理前後において取り扱い性、作業性の良好な油吸着材を提供することができる。処理後は埋め立て処理或いはコンポスト処理により、外装体・吸着油・内容物(油吸着組成物)の全てが分解可能であり、燃焼エネルギー等が不要であるため、環境への負荷を軽減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の油吸着材を詳細に説明する。
【0011】
本発明に用いる、吸油性粒子を収容するための生分解性を有する外装体としては、生分解性を有する繊維からなる不織布からなることが好ましく、特に分解性の観点から短繊維を主体とする不織布であることが好ましい。或いは、複数の種類の短繊維の複合体であっても良い。繊維材料としては、木材パルプ、麻パルプ、ケナフ繊維、綿、レーヨン等のセルロース系天然繊維、再生繊維が挙げられる。また、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル繊維あるいはそれらの共重合体や、ポリ−3−ヒドロキシブチレートあるいはポリ−3−ヒドロキシブチレートとポリ−3−ヒドロキシバリレートとの共重合体が挙げられる。さらには、エビ・カニ等の甲殻類を加工する際に排出される殻を原料としたキチン・キトサンと、上記材料との複合化材等も挙げることができる。
【0012】
このうち、脂肪族ポリエステル繊維としてはポリ乳酸、ポリグリコール酸、等のポリ(α−ヒドロキシ酸、またはこれらの共重合体、ポリカプロラクトンあるいはポリカプロラクトンとポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンなどとの混合体や、それらのモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0013】
ここで、ポリ乳酸の場合、D−乳酸とL−乳酸の光学異性体が存在するため、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリDL−乳酸(ラセミ体)、さらに、これらの共重合体、ブレンド体を挙げることができる。共重合体の場合、モノマー比率を変化させることにより、融点、強度等の物性を好適にコントロールすることが可能となる。
【0014】
これらの繊維を前記外装体に好ましく使用することができ、特に2種のポリ乳酸が、芯鞘型、海島型等に複合された繊維を用いることができる。繊維断面形状は制限されるものではなく、丸形、中空丸形、X型、Y型、等の形状が使用できる。特に製造を容易にする観点から丸形を使用することが好適であるが、同心円形、偏心形のいずれも使用することが可能である。
【0015】
繊維として芯鞘型複合繊維を使用する際には、芯部を構成するポリ乳酸の融点は、鞘部を構成するポリ乳酸の融点よりも高温であることが、不織布を構成する際の熱溶着加工のし易さ、接着力の高さ等の観点から、より好ましい。すなわち、熱溶着加工時に、鞘部が溶融して繊維同士の接着性を高める一方で、芯部は溶融せず、不織布の強度を保つことが可能であるからである。一般的に芯部と鞘部の融点はそれぞれ、170℃、130℃程度とすることが好ましく、両融点の温度差が概ね40℃以上であることが、上記目的を達成するために好ましい。
【0016】
ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量は5〜30万が好ましく、10〜30万が更に好ましい。重量平均分子量が5万未満の場合には、繊維としての強度が低くなり好ましくない。一方で重量平均分子量が30万を越える場合、樹脂の粘度が高いためノズルから押し出したポリマーの曳糸性が乏しく、高速延伸できず、未延伸状態になるため充分な繊維強度が得られない。
【0017】
本発明における不織布を構成する繊維の単糸繊度は、特に限定されるものではないが、0.5〜20デシテックスの範囲が好ましい。0.5デシテックス未満のものになると、不織布が緻密になりすぎて油吸着材の外装体として使用したときに吸着すべき油が不織布を通過し難くなり、吸着性が劣ることがあるためである。一方、繊度が20デシテックスを越えた場合、不織布を通して吸油性粒子の微粉末が漏出する場合があるためである。
【0018】
本発明において用いる生分解性を有する外装体は、油吸着時、及びその後の廃棄処理時において、使用に耐え得るものとする必要がある。すなわち、油吸着時において水面上に浮遊する期間、並びにその後の廃棄処理時に回収した油吸着材から廃油を分離させるために圧搾する期間内は、前記外装体は、浸水、加圧等の過酷な状況に耐えうる強度を備えている必要がある。
一方で、廃油分離後、埋め立て処分或いはコンポスト処分された後には、より速く分解して二酸化炭素及び水に戻る方が、自然環境への負荷が軽減される。
【0019】
本発明に用いる不織布の製造方法は特に限定されるものではないが、上記目的を達成する外装体を得るための製造方法について以下に説明する。
本発明に用いる外装体は、上述のように水濡れした場合或いは搾油時にも充分な強度が保たれるようにするために、繊維材料の長さは1〜15mmであることが好ましい。1mm未満であると、製造時の発塵が激しく、且つ不織布強度にも乏しい。15mmを越えると、製造時に繊維が長いため絡み合って取り扱いが不便である。
【0020】
これらの繊維を適切な長さに切断し、例えばスパンボンド法等にて不織布とする。不織布の製造方法としては一般的な方法を採用することができるが、分解性を有しない接着剤等を使用して不織布を製造する方法は、処理時に分解性を有しない物質のみが残留し、環境汚染の原因ともなるため適当でない。
得られた不織布は、適当な大きさにカットして各辺をヒートシールし、袋体を形成し、これを外装体としてその中に植物性吸油性粒子を主体とする油吸着材を封入する。
【0021】
次に、本発明に用いる油吸着材について説明する。
本発明の油吸着材は、植物性材料からなる吸油性粒子の表面の少なくとも一部に、親油性を有するコーティング膜が被覆されてなることを特徴とする。
前記植物性材料からなる吸油性粒子としては、食品廃材等がコスト面或いは環境保全の観点からは好ましく、例えばピーナツ殻、コーヒー豆皮、おがくず、かんなくず、おから、水苔、泥炭苔、木材チップ、米ぬか、ピートソーブ、ヤシガラ、稲もみ殻、麦もみ殻、木粉、等が挙げられる。また、家庭や飲食店で排出される生ゴミ等を乾燥・粉砕し原料とすることも可能である。
これらの植物性材料を、50℃〜150℃程度の条件下乾燥機で乾燥させた後に、粉砕器で50〜1000μm程度の粒径となるように粉砕し、原料とする。
【0022】
次に、上記植物性の吸油性粒子に親油性を付与するため、並びに油吸着材を水面上に散布した際に水中に沈下し吸油性が低下することを防止するため、前記吸油性粒子の表面の少なくとも一部にコーティング膜を形成する。
コーティング膜材料としては、吸油性粒子に親油性を付加すると共に、前記吸油性粒子の内部に浸透せず表面に留まる性質を有するものであることが好ましく、具体的には、大豆油、パーム油等の植物性油脂の他、動物性油脂、鉱物油等を用いることができる。また、炭素価20〜30の脂肪族飽和炭化水素、或いはそれらの混合物、例えば、パラフィンワックス、脂肪酸、アルコールワックス、エステル系ワックス、アミド系ワックス、天然ワックス等のエマルジョンワックス類が好ましく用いられ、特にパラフィンワックス乳化物が、該吸油性粒子の表面に均一に薄くコーティング膜を形成させるために好適である。
【0023】
上記コーティング膜の形成量としては、前記吸油性粒子100重量部当たり、コーティング膜0.02〜0.04重量部の割合で存在させることが好ましい。コーティング膜の量が上記範囲に満たない場合、油水系において油吸着させる場合に油吸着材が水面に留まらず水中に沈下する可能性があり、且つ吸着すべき油との親和性にも乏しくなるため好ましくない。一方で上記範囲を超える場合には粒子それ自体が油類を過度に保持していることになるため、油吸着容量が滴下する可能性がある。
【0024】
コーティング膜の厚みとしては、10〜30μmとすることが、上記と同様の理由により好ましい。その厚みは均一でなくても差し支えない。またコーティング膜は吸油性粒子の表面全体を被覆する必要はなく、その一部を被覆するものであっても差し支えない。
【0025】
前記植物性の吸油性粒子の表面に前記コーティング膜を形成させる方法は、特に限定されるものではない。
例えば、前記吸油性粒子の粉末と、コーティング膜の材料とを同じ容器内に投入し、前述した量及び割合となるように混合して、コーティング膜材料を粒子粉末の表面に沈着させる。コーティング膜の形成を促進させるために、80℃以上の高温下でコーティング膜材料の粘度を下げて混合を行うこともできる。混合終了後、粒子材料の水分を飛ばすために高温にて乾燥させる。高温での乾燥は、70℃〜100℃程度の温度範囲内、特に75〜80℃付近で行うことが好ましい。乾燥後は、粒子同士が寄り集まって粒径が大きくなっている可能性があるので、粉砕機等で再び粉砕してより微細な粉末状にしてから使用する。
【0026】
また、その他前記吸油性粒子にコーティング膜を被覆・沈着させる方法としては、以下の方法も挙げることができる。すなわち、乾燥させた微小粉末の吸油性粒子を、直径1m、長さ5m程度の円筒状装置の上部から、30秒〜5分間程度の時間をかけて降下させ、同時に前記円筒状装置の下方から弱風を送風して粒子材料を浮遊させておき、容器壁の一面もしくは多面から高温溶解させた液状のコーティング膜材料となるワックス類等を霧状に噴射し、吸油性粒子の表面にコーティング膜を形成する。
この場合、吸油性粒子、及びコーティング膜となる高温液状のワックス類粒子の双方に電荷をかけることにより粒子のコーティング性を高めることができる。
【0027】
またさらに、吸油性粒子にコーティング膜を被覆させる方法としては、以下の方法も挙げることができる。すなわち、吸油性粒子を公知の回転式造粒機に入れ、微細な吸油性粒子を所定の大きさの径になるまで造粒する。造粒機を回転させることにより、吸油性粒子はその粒径を大きくして、直径約10mm程度まで成長し、適度な硬さになったところで造粒工程を終える。その後天日で予備乾燥し、その後乾燥機で乾燥させる。粒径の調整は、造粒後、公知の粉砕機を用いて、所定の粒度分布が得られるように調整する。この粒度分布の調整は油吸着材の使用目的により適宜行う。さらに粒径の調整後の造粒吸油性粒子に希釈したエマルジョンワックスを注入又は噴射しコーティング膜を形成する。
【0028】
本発明の油吸着材は、前記コーティング膜を形成した吸油性粒子に、さらに油分分解能を有する微生物を混合させる。
油分分解能を有する微生物として、バチルス(Bacillus)属菌、シュードモナス(Pseudomonas)属菌、リゾビウム(Rhizobium)属菌、酵母、等が挙げられる。
具体的には、バチルス属細菌のうち、サブティリス(subtils)種、ブレビス(brevis)種、リシェニフォルミス(licheniformis)種、チューリンゲンシス(thuringiensis)種、セレウス(cereus)種等、シュードモナス属細菌のうち、エレギノーサ(aeruginosa)種、フルオレセンス(fluorescens)種、プチダ(putida)種、シリンガ(syringae)種、マレイ(mallei)種、ディミニュータ(diminuta)種等が挙げられる。これらは、一種のみで使用しても良いし、複数種を混合して使用することもできる。
本発明における油吸着材においては、前記微生物の活性化のために、窒素、リン、カリウム、マグネシウム等の栄養源を添加することにより、より長期間分解能を発揮させることができる。
上記微生物の添加量は、組成物全体に対して、100万個/g以上であることが油分解の観点からは好ましく、特に1億個/g以上であることが好ましい。
【0029】
なお、本発明に用いる微生物は、吸着した油脂のみならず、本発明に外装体として用いる生分解性を有する不織布に対しても、分解性を有することが更に好ましい。
不織布自体の分解速度が遅いものであっても、微生物が油だけでなく不織布に対する分解性を有していれば、不織布からなる外装体の分解速度を早めることが可能となる。従ってこの場合には、該不織布の分解速度に関わらず、水濡れに対する強度等により不織布の種類を選択することができ、選択の幅が広がる。そのため、特に水面上に浮遊する油を吸着処理する場合には、吸着油の重みや増量により外装体が破裂する等の心配がない。
【0030】
微生物は、単一の種類のものを用いる必要はなく、異なる性質を有する複数の種類の微生物を混合して用いることもできる。従って、油分解性を有する微生物と、それとは異なる不織布に対して分解性を有する微生物とを、合わせて使用しても良い。
【0031】
その他の添加物として、油ゲル化剤、木炭粉、竹炭粉、赤玉土、粘土鉱物やその化学処理物、洗浄剤、等を使用することができる。
油ゲル化剤は、吸油性粒子が油吸着後、自動的にゲル化し、使用済みの吸着材の回収を容易にするため、添加することが好ましい。油ゲル化剤としてはいわゆる吸油性ポリマーを使用することができ、具体的には、スチレン−ブタジエンブロック共重合物、ポリノルボルネン系エラストマー、非結晶性ポリプロピレン、アクリレートコポリマー、多孔性ビニル系ポリマー、を主成分としたものを用いることができる。必要に応じて上記の数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
木炭粉や竹炭粉は、吸油性粒子の油吸着量を向上させ、また汚染水面の清浄化を図るためにも好ましい。さらに、吸油性粒子の重さを増加させ、風が吹いた場合にも飛ばされないようにするのに有効である。木炭粉や竹炭粉は、備長炭、木炭、竹炭等を粉砕器等で粉砕し粉末とする。使用する木炭粉や竹炭粉としては粒度30〜50μmのものが好ましい。添加する量は、吸油性粒子に対し30重量%以下であることが好ましい。
【0033】
赤玉土は、吸油性粒子に混ぜてその表面にコーティング膜を形成させることにより、例えば乾燥した道路上に散布しても風により舞い上がりにくくし、油吸着性を高めることができる。赤玉土と合体させてコーティングするには、あらかじめ吸油性粒子及び赤玉土を共に同程度の粒子に粉砕しておき、その後併せて下記方法によりコーティング膜を形成させる。
【0034】
その他、粘土鉱物やその化学処理物、例えば酸性白土やその酸処理物乃至アルカリ処理物等、多孔質の無機材料を添加しても良い。これらを吸油性粒子に添加すると、油が孔中に吸着され、結果的に処理に必要な吸油性粒子の量をかなり低減させることができる。用いる無機粉末は比表面積が200m2 /g以下で且つ粒度100μm以下のものがよい。また、前記無機粉末は、無機多孔質体100重量部当たり20〜60重量部の量で用いるのがよく、一般に両者を均一に混合した後、80〜100℃で乾燥した後、粉砕して使用するのがよい。
【0035】
洗浄剤は、油吸着剤の吸着性能を向上させるため、添加することが望ましい。洗浄剤としては、ヤシ油脂肪酸及び非イオン系界面活性剤を主原料としたウォーターエマルジョンタイプの油脂二次汚染防止洗浄剤を使用することが好ましい。この洗浄剤を吸油性粒子に100倍に薄めた洗浄剤をスプレーし乾燥する。この洗浄剤を添加することにより、水面などの表面に浮遊した油膜の吸着性が向上し、油を乳化分散させ、ナノメートル単位の油粒子として水に溶け込んだ状態にする(ミセル化)。ミセル化した油分は時間が経過しても再び結合することはない。市販されている好適な洗浄剤としては、「GULクリーン10(YANAGI LABORATORY社製)」、「BY・FAR・Z−M((株)オンワード技研製)」等を挙げることができる。
上記の各種添加物は各々、吸着材の使用場所・使用方法等により適宜選択・添加することが可能であり、用途にあった配合とすることができる。
【0036】
本発明の油吸収材は、油吸収材100g重当たり360〜400mLの吸油量があることが好ましい。
さらに、本発明の油吸着材は、水面上に散布した場合に水中に沈下せず、少なくとも24時間以上水面に浮遊する性質を持つことが必要とされる。長時間水面上に浮遊する性質を持たせることにより、油吸着後は、油吸着材を外装体ごと水面上からすくい取るだけで良く、処理が格段に容易となる。
【0037】
本発明に用いる油吸着材は、吸油性粒子が含有する水分が油水系の油の吸着性に大きな影響をもたらす。すなわち、含有する水分量が多いと、処理すべき油分との親和性が低下する傾向がある。従って、吸油性粒子中の水分含有量は、一般に1.0重量%以下、特に0.5重量%以下であるのが好ましい。
【0038】
本発明の油吸着材は、分析値でSiO:50〜70重量%、好ましくは55〜65重量%から構成されることを特徴とする。
【0039】
次に、本発明の油吸着材を使用した油処理方法について説明する。
本発明の油吸着材は比重が水より小さいため、例えば、水面上に浮遊し或いは水中に乳化乃至懸濁状態で存在する油類を吸着して除去する目的に広く使用できる。また、事故等で道路上に流出した油類、化学物質等を吸着・除去する目的にも用いることができる。さらに、家庭用の天ぷら油の処理、掃除・化粧用途等、広く工業用・家庭用に用いることができる。
【0040】
吸着させる油水系の油としては、例えば、サフラワー油、大豆油、菜種油、パーム油、パーム核油、綿実油、ヤシ油、米糠油、ゴマ油、ヒマシ油、亜麻仁油、オリーブ油、桐油、椿油、落花生油、カポック油、カカオ油、木蝋、ヒマワリ油、コーン油などの植物性油脂及びイワシ油、ニシン油、イカ油、サンマ油などの魚油、肝油、鯨油、牛脂、牛酪脂、馬油、豚脂、羊脂などの動物性油脂の単独またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
一方、鉱物油としては、各種潤滑油、例えばスピンドル油、冷凍機油、ダイナモ油、タービン油、マシン油、船用内燃機関潤滑油、ガソリンエンジン潤滑油、ディーゼルエンジン潤滑油、シリンダー油、マリンエンジン油、ギヤー油、切削油、絶縁油、自動変速機油、圧縮機油、油圧作動油、圧延油等が挙げられる。
【0042】
その他に、原油、重油、軽油、揮発油、各種廃油等を挙げることができ、海面、河川或いは湖水等に流出した油類、水産加工場、畜産加工場、金属圧延工場、金属の加工工場等から排出される含油排水等がその対象となる。本発明では、上記の油水系の油、鉱物油などあらゆる油を油類という。
【0043】
油水系の油吸着処理は、本発明の油吸着材と油水系とを均一に接触させればよい。例えば、油類が浮上している水面に本発明の油吸着材を散布し、或いは水面を覆うように浮遊させる。本発明の油吸着材は、油吸着後も水面に一定期間浮遊し沈降しない特質を持つため、油吸着後には浮遊した吸着材をすくい取る方法により、全く油膜がなく清澄な水面が得られる。
すくい取った浮遊物は、例えばメッシュ等で簡単な水切りをした後、ロールプレス等にかけて水切りした後は、外装体はさらさらとした手触りで油のべたつきは感じられない。なお、吸着油は不可逆的に吸着されるため、ロールプレス等で圧をかけることによる油吸着材からの再漏出の心配はない。
【0044】
本発明の油吸着材は、油分解性を有する微生物を混合しているため、吸着した油が分解消滅され、複数回に渡って油吸着材を使用することができる。当該微生物の活性が低下し、油分解速度が落ちてきた場合には、油吸着材の中身に新たに栄養剤を添加する、微生物を追加する、等の措置により、更に再利用することができる。
また、本発明の油吸着材を廃棄する際には燃焼させる必要はなく、土中に埋設或いはコンポスト処理することにより、当該微生物により、植物性の吸油性粒子、吸着油、生分解性を有する外装体、の全てが分解されるので、環境への負担となる心配が無い。
【0045】
その他、工場用として機械工場、バス会社、タクシー会社等においては、落下した床面の油や機械等に付着した油処理、手足の油落とし、家庭用としては換気扇、フライパン、バーベキュー鉄板等の油処理、道路用としては工事での油、事故での油処理、また道路の一般舗装や透水性舗装の下部に散布しておき、地中への油の浸透を防止することもできる。更には、水面用として河川、池、沼等の油処理、また排水溝、排水管の処理に用いることもできる。
本発明の油吸着材は、平均的には、散布した量の5倍〜15倍の油吸収能力を有するものであり、短時間では、7〜13倍の油を吸収することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
予め、本発明に用いる外装体として縦・横各々20cmに裁断したユニチカ株式会社製生分解性不織布「テラマックG0503/WTO」(目付量g/m)二枚を重ね合わせ、3辺をヒートシールし袋体を準備した。
次いで、ピーナツ殻300gを、50℃のオーブンで30分間乾燥させた。その後取り出し、粒度150〜850μmの大きさになるように粉砕機を用いて粉砕し、吸油性粒子とした。
次に、前記吸油性粒子表面にコーティング膜を形成するため、吸油性粒子をパラフィンワックス乳化物「EMUSTAR−1070(日本精蝋株式会社製)」に浸漬後、75℃のオーブンで10分間乾燥させた。
前記粒子を室温にて放置冷却後、油分解微生物として米国バイオジェネシス社製「バクテリアGT1000−HC」を100g混合した。さらに前記微生物の活性化のため、「ハイポネックス(登録商標)ハイグレード」を2000倍に希釈し、50mlを添加し良く混合した。油ゲル化剤として、「エコポリイP−1000A(株式会社共栄社製)」を50g添加し混合した。混合物を準備しておいた前記袋体中に入れ、残りの辺をヒートシールして本発明の油吸着材とした。
この油吸着材に機械油500gを吸着させると、24時間以内に全量を吸収し、油の再漏出は認められなかった。また、素手で不織布表面をさわったところ油は付着しなかった。これを土壌中に埋設し25℃程度の温度を保って、2ヶ月後に掘り出したところ、不織布は目視で約50%程度分解されていた。また、内容物である吸油性粒子には油のべたつきは感じられず、周辺の土壌と同様の感触であった。
【0048】
(実施例2)
実施例1と同様の内容物を、実施例1に用いた不織布の袋体に封入し本発明の油吸着材とした。水槽に10Lの水及び500gのパーム油を投入し、前記油吸着材を表面に浮遊させたところ、油吸着材は24時間後も水中に沈下せず、且つパーム油全量を吸収した。油吸着物をすくい取ったところ、油の浮遊は認められず清澄な水面が得られた。
油吸着後に、約10分間メッシュで簡単な水切りをし、ロールプレスにより水切りを行った。水切り後の油吸着材を手で触ったところ、不織布表面に油の感触は認められなかった。
その後土壌中に埋設し25℃程度の温度を保って、2ヶ月後に掘り出したところ、不織布は分解され、多少繊維跡が残るものの原型はとどめていなかった。また、内容物である吸油性粒子には油のべたつきは感じられず、周辺の土壌と同様の感触であった。
【0049】
(比較例1)
実施例1と同様の内容物を、ナイロン不織布からなる袋体(縦横各20cm)に封入し、実施例1と同様の条件下で機械油500gと接触させた。その結果、24時間以内に約半量を吸収したが、48時間後には未だ1/4程度の量の油が未吸収であった。素手で不織布表面をさわったところ手に油が付着した。これを土壌中に埋設し25℃程度の温度を保って、2ヶ月後に掘り出したところ、不織布は分解されておらず、埋設前と同様の状態であった。また、袋体を解体し内容物の状態を手で触って確かめたところ、油のべたべたした感触が残っている状態であった。
【0050】
(比較例2)
実施例1における内容物において、油分解微生物として米国バイオジェネシス社製「バクテリアGT1000−HC」を混合しない以外には実施例1と同様の内容物を作成し、実施例1と同様の袋体中に封入して実施例1と同様の条件下で機械油500gと接触させた。その結果、24時間以内に全量を吸収し、油の再漏出は認められなかった。また、素手で不織布表面をさわったところ油は付着しなかった。これを土壌中に埋設し25℃程度の温度を保って、2ヶ月後に掘り出したところ、不織布はわずかに分解されていたが、実施例1と比較して分解の程度が低かった。また、内容物である吸油性粒子を手で触ってみたところ、やや油のべたべたした感触が感じられた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の油吸着材によれば、食品廃材等の植物性材料を有効に活用し、油類を迅速に且つ有効に吸着し、しかも処理前後において取り扱い性、作業性の良好な油吸着材を提供することができる。処理後は埋め立て処理或いはコンポスト処理により、外装体・吸着油・内容物(油吸着組成物)の全てが分解可能であり、燃焼エネルギー等が不要であるため、環境への負荷を軽減させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性を有する不織布からなる外装体に、植物性材料を主体とする吸油性粒子が収容されてなる油吸着材であって、前記外装体が、ポリ乳酸繊維からなる不織布であることを特徴とする油吸着材。
【請求項2】
前記吸油性粒子に、油分解性能及び/又は不織布分解性能を有する微生物が混合されてなることを特徴とする、請求項1に記載の油吸着材。

【公開番号】特開2007−39954(P2007−39954A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224755(P2005−224755)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(505237916)有限会社アセンティー (1)
【Fターム(参考)】