説明

油圧ホースの製造方法

【課題】帯状部材に掛けるテンションを一定値に、高い精度で維持できる油圧ホースの製造方法を提供する。
【解決手段】ドラム42に巻回された帯状部材28の、ドラム42の半径方向における位置を検出する検出手段50を設ける。制御装置52は、マンドレル30に巻回される帯状部材28にかかるテンションが一定となるように、検出手段50の検出結果に基づいてドラム42に与える制動力を調節する。この結果、帯状部材28のドラム42上での直径の変化に拘わらず、マンドレル30に巻回される帯状部材28にかかるテンションが一定値に、高い精度で維持される。したがって、帯状部材28に形成された巻き癖の内径が一定に保持された状態で、スパイラル補強層の形成がなされ、したがって、均一な性状の油圧ホース10を得る上で有利となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ホースの製造方法に関し、より詳細には、スチールコードが螺旋状に巻回されたスパイラル補強層を備える油圧ホースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最内層を構成するチューブ(チューブゴム層)と、最外層を構成するカバー(カバーゴム層)との間に、複数のスパイラル補強層が積層されて構成された高圧油圧ホースが提供されている。
この種の高圧油圧ホースのスパイラル補強層は、螺旋状に巻回されたスチールコードと、このスチールコードを被覆するコートゴムとで構成されている。
そして、スパイラル補強層は、従来、マンドレルを回転させつつ、スパイラルマシンにより複数のスチールコードおよびコートゴムを同時に繰り出し、マンドレル上に螺旋状に巻回させることで製造されている( 特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−44214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながらこのスパイラルマシンは、構造が複雑で高価なため、安価な装置により油圧ホースを製造できる製造方法の出現が望まれていた。
そこで、本発明者らはコートゴムと、このコートゴムに保持された複数のコードとで構成された帯状部材を設け、この帯状部材をマンドレルに巻き付けていくことで油圧ホースを製造する製造方法を提案している。
しかしながらこの場合、均一な性状の油圧ホースを得るには、マンドレルに巻き付ける際に、帯状部材に掛けるテンションを一定値に維持しておくことが望ましい。
本発明の目的は、帯状部材に掛けるテンションを一定値に、高い精度で維持できる油圧ホースの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するため、本発明の油圧ホースの製造方法は、厚さよりも大きい一定の寸法の幅を有して延在する帯状のコートゴムと、前記コートゴムの延在方向に沿って互いに平行して延在するように前記幅方向に並べられ前記コートゴムに保持された複数のコードとで構成された帯状部材を設け、前記帯状部材をドラムに巻回し、前記ドラムに巻回された帯状部材を、回転するマンドレルに螺旋状に巻き付けて油圧ホースを製造するに際して、前記ドラムに制動力を与えるブレーキ機構と、前記ドラムに巻回された帯状部材の、前記ドラムの半径方向における位置を検出する検出手段と、前記制動力を調節する制御装置とを設け、前記制御装置により前記検出手段の検出結果に基づいて前記制動力を調節し、前記マンドレルに巻回される前記帯状部材にかかるテンションを一定とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、帯状部材に掛けるテンションを一定値に、高い精度で維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1(A)は製造する油圧ホースの断面図、(B)は分解説明図を示す。
実施の形態により製造する油圧ホース10は、最内層を構成するチューブ12(チューブゴム層)と、チューブ12の外周面に巻装された第1乃至第4スパイラル補強層14,16,18,20と、第4スパイラル補強層20の外周面に設けられたカバー22(カバーゴム層)とを含んで構成され、高圧用の油圧ホース10すなわち高圧油圧ホースとして構成されている。
チューブ12は、例えば、耐油性や弾性を有し、このようなチューブ12の材質や、厚さなどは、製造すべき油圧ホース10の仕様に基づいて適宜設定される。
第1乃至第4スパイラル補強層14,16,18,20は、それらの順番にチューブ12の外周面に積層されている。
【0007】
図2(A)、(B)、(C)は帯状部材の説明図である。
油圧ホース10を製造するに際して、まず、予め、第1乃至第4スパイラル補強層14,16,18,20を形成するための帯状部材28を用意する。
すなわち、第1スパイラル補強層14を形成するための第1帯状部材28A、第2スパイラル補強層16を形成するための第2帯状部材28B、第3スパイラル補強層18を形成するための第3帯状部材28C、第4スパイラル補強層20を形成するための第4帯状部材28Dをそれぞれ製造する。
各帯状部材28は、厚さよりも大きい一定の寸法の幅を有して延在する帯状の未加硫のコートゴム24と、コートゴム24に保持された複数のスチールコード26で構成されている。
複数のスチールコード26は、その長さ方向をコートゴム24の延在方向に沿わせコートゴム24の幅方向に並べられて配設されている。
そして、各スパイラル補強層14,16,18,20は、それら帯状部材28が螺旋状に巻回されることで構成されている。
コートゴム24の材質やスチールコード26の線径、スチールコード26の間隔(配置密度)、スチールコード26の巻回角度などは、製造すべき油圧ホース10の仕様に基づいて適宜設定される。
【0008】
帯状部材28は、図2(A)に示すように、帯状のコートゴム24の内部に、スチールコード26の全体が埋設されている構造のものであってもよい。すなわち、複数のスチールコード26は、コートゴム24の幅方向に並べられて配設され、複数のスチールコード26はそれらの全体がコートゴム24の内部に埋設されている。
あるいは、帯状部材28は、図2(B)に示すように、帯状のコートゴム24の表面に、各スチールコード26の一部がそれらの長手方向の全長にわたり露出された構造のものであってもよい。すなわち、複数のスチールコード26は、前記コートゴム24の幅方向に並べられて配設され、複数のスチールコード26はそれらの一部が前記コートゴム24の表面に露出するようにコートゴム24に埋設されている。
【0009】
あるいは、帯状部材28は、図2(C)に示すように、帯状のコートゴム24の表面に、各スチールコード26の径方向の半部が露出された構造のものであってもよい。すなわち、複数のスチールコード26は、前記コートゴム24の幅方向に並べられて配設され、複数のスチールコード26はそれらの断面の半部がそれらスチールコード26の全長にわたって前記コートゴム24の表面に露出するようにそれらの断面の残りの半部が埋設されている。
無論、スパイラル補強層の数も製造すべき油圧ホース10の仕様に基づいて、3層以下、あるいは、5層以上に適宜設定される。
なお、帯状部材28には、その取り扱いが簡単になされるように、イオウ系の粉がまぶせられる。一方、スチールコード26は、その表面にブラスメッキなどが施されている。
したがって、図2(B)、(C)に示すように、スチールコード26の表面がコートゴム24から露出していると、メッキ層とイオウとが化学反応を起こし、スチールコード26が相手方のコートゴム24や、チューブ12、カバー22により強固に接合される上で有利となる。
【0010】
図3は、油圧ホース10の製造に用いる装置の平面図を示す。
マンドレル30の一端が回転装置32のチャック34で支持され、マンドレル30の他端が芯押し台36で支持されている。
マンドレル30の長手方向に沿って延在するレール38が設けられ、このレール38上に走行可能に走行台40が設けられ、走行台40にドラム42が回転可能に支持されている。
帯状部材28はこのドラム42に巻装され、帯状部材28はドラム42から複数のガイドローラや繰り出し部44を経てマンドレル30上に繰り出され、ドラム42に制動力が掛けられることで帯状部材28に張力が付与される。
繰り出し部44は、例えば、帯状部材28を挟持する回転可能な一対のガイドローラで構成されている。
【0011】
上述のように帯状部材28を用意したならば、マンドレル30に、最内層用のチューブ12を被せる。
そして、帯状部材28がマンドレル30のチューブ12上に螺旋状に巻き付けられる。
この場合、図4(A)に示すように、帯状部材28の幅方向の端部を重ね合わせつつ帯状部材28の一回の巻き付けによりスパイラル補強層を形成するようにしてもよい。
あるいは、帯状部材28にかける張力や、マンドレル30を支持する強度などの観点から、図4(B)、(C)、(D)に示すように、帯状部材28を、まず、軸方向に間隔をあけて螺旋状に1回巻き付ける。2回目に、既に巻き付けられた帯状部材28に、幅方向の端部を重ね合わせつつ帯状部材28を螺旋状に巻き付ける。3回目に、2回目に巻き付けられた帯状部材28に、幅方向の端部を重ね合わせつつ帯状部材28を螺旋状に巻き付ける。このように帯状部材28を複数回巻き付けることによりスパイラル補強層を形成するようにしてもよい。
【0012】
本実施の形態では、マンドレル30の両端寄りの箇所にそれぞれマンドレル30の半径方向外方に突出する掛止部材を設け、マンドレル30を正転させて帯状部材28をマンドレル30の長手方向の一端に向かって螺旋状に巻き付ける。
そして、帯状部材28がマンドレル30の長手方向の他端寄りの箇所に位置したならば、帯状部材28に掛止し、今度は、マンドレル30を逆転しつつ帯状部材28をマンドレル30の長手方向の他端に向かって螺旋状に巻き付ける。
このように帯状部材28がマンドレル30の端部に到達したならば、帯状部材28を掛止部材に掛止し、マンドレル30の回転を逆向きにして、帯状部材28を連続してマンドレル30に巻回してスパイラル補強層を形成する。
【0013】
図5は、帯状部材にかかるテンションの制御を行う構成の説明図である。
ドラム42とマンドレル30との間には、ドラム42から繰り出された帯状部材28が巻き付けられるピン60が設けられ、また、ガイドローラ62が設けられている。
帯状部材28はピン60に巻き付けられることで、マンドレル30に巻き付く向きの巻き癖が形成される。
このようにして巻き癖が付けられた帯状部材28がマンドレル30に巻き付けられることで帯状部材28のマンドレル30への巻き付けが安定してなされることになる。
この際、帯状部材28のうち巻き癖が付けられた部分の内径をマンドレル30の外径とほぼ同一とすることが、帯状部材28のマンドレル30への巻き付けを安定して行う上で重要であり、したがって、スパイラル補強層の形成を安定して行う上で重要である。
【0014】
スパイラル補強層の形成時、帯状部材28がドラム42から繰り出されていくため、帯状部材28のドラム42上での直径は次第に小径となる。
仮に、ドラム42に作用する制動力が一定であると、帯状部材28のドラム42上での直径が小径になるに従って、マンドレル30に巻回される帯状部材28にかかるテンションは増加し、帯状部材28に形成された巻き癖の内径が次第に小さくなってしまう不都合が生じる。
そこで、本実施の形態では、以下に示すように、帯状部材28のドラム42上での直径の変化に拘わらず、マンドレル30に巻回される帯状部材28にかかるテンションを一定に制御することで、マンドレル30の外径とほぼ同一となるように帯状部材28に巻き癖を付けるようにし、帯状部材28のマンドレル30への巻き付けを安定して行い、スパイラル補強層の形成を安定して行うようにしている。
【0015】
すなわち、本実施の形態では、検出手段50と、制御装置52と、電空変換器54と、コントロールバルブ56と、エアーブレーキ(ブレーキ機構)58とが設けられている。
検出手段50は、ドラム42に巻回された帯状部材28の、ドラム42の半径方向における位置を検出するものである。
本実施の形態では、検出手段50として、超音波を発信し、対象物で反射された超音波を受信して超音波が発信されてから受信されるまでの時間を測定し、その測定結果に基づいて対象物の位置を検出する超音波センサを用いている。
なお、検出手段50としては、光センサなど従来公知のさまざまな位置検出センサが採用可能である。
【0016】
制御装置52は、検出手段50から供給されるドラム42の半径方向における位置を示す検出信号に基づいて、電空変換器54、コントロールバルブ56を介してエアーブレーキ58を制御するものである。
制御装置52としては、市販品であるシーケンサー(プログラマブルロジックコントローラー)が採用可能であり、制御装置52の構成は任意である。
【0017】
電空変換器54は、制御装置52から供給される電気信号である制御信号を空気圧信号に変換し、この空気圧信号をコントロールバルブ56に供給するものである。
【0018】
コントロールバルブ56は、図示しないエアー供給源から供給されるエアーをエアーブレーキ58に供給するものであり、電空変換器54から供給される空気圧信号に基づいてバルブの開度を制御する。
【0019】
エアーブレーキ58は、コントロールバルブ56から供給されるエアーに基づいて、ドラム42の内周面にブレーキシューを圧接したり、あるいは、ドラム42の回転軸をブレーキシューにより挟持することで、ドラム42が回転する際に抵抗力を与え、ドラム42に制動力を与えるものである。
なお、ドラム42に制動力を与える構成には、従来公知のさまざまな構成が採用可能であり、エアーブレーキ58に代えて、油圧ブレーキとするなど任意である。
【0020】
本実施の形態では、制御装置52は、マンドレル30に巻回される帯状部材28にかかるテンションが一定となるように、検出手段50の検出結果に基づいてドラム42に与える制動力を調節する。
この結果、帯状部材28のドラム42上での直径の変化に拘わらず、マンドレル30に巻回される帯状部材28にかかるテンションが一定値に、高い精度で維持される。
したがって、帯状部材28に形成された巻き癖の内径が一定に保持された状態で、スパイラル補強層の形成がなされ、したがって、均一な性状の油圧ホース10を得る上で有利となる。
【0021】
最後に、第4スパイラル補強層20をカバー22で覆う。
カバー22には、耐候性や弾性を有する材料が用いられ、カバー22の材質や厚さなどは、製造すべき油圧ホース10の仕様に基づいて適宜設定される。
そして、加硫したのち、従来公知の様々な方法によりマンドレル30が引き抜かれ、第1乃至第4スパイラル補強層を有する油圧ホース10が得られる。
【0022】
本実施の形態の油圧ホース10の製造方法によれば、ドラム42に巻回された帯状部材28の、ドラム42の半径方向における位置を検出する検出手段50を設け、検出手段50の検出結果に基づいてドラム42に与える制動力を調節し、マンドレル30に巻回される帯状部材28にかかるテンションを一定値に維持するようにしたので、高い精度でスパイラル補強層が形成され、均一な性状の油圧ホース10を得る上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(A)は製造する油圧ホースの断面図、(B)は分解説明図である。
【図2】(A)、(B)、(C)は帯状部材の説明図である。
【図3】油圧ホースの製造に用いる装置の平面図である。
【図4】(A)、(B)、(C)、(D)はマンドレルに帯状部材を巻き付ける説明図である。
【図5】帯状部材にかかるテンションの制御を行う構成の説明図である。
【符号の説明】
【0024】
10……油圧ホース、24……コートゴム、26……スチールコード、28……帯状部材、30……マンドレル、42……ドラム、50……検出手段、52……制御装置、58……エアーブレーキ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さよりも大きい一定の寸法の幅を有して延在する帯状のコートゴムと、前記コートゴムの延在方向に沿って互いに平行して延在するように前記幅方向に並べられ前記コートゴムに保持された複数のコードとで構成された帯状部材を設け、
前記帯状部材をドラムに巻回し、
前記ドラムに巻回された帯状部材を、回転するマンドレルに螺旋状に巻き付けて油圧ホースを製造するに際して、
前記ドラムに制動力を与えるブレーキ機構と、
前記ドラムに巻回された帯状部材の、前記ドラムの半径方向における位置を検出する検出手段と、
前記制動力を調節する制御装置とを設け、
前記制御装置により前記検出手段の検出結果に基づいて前記制動力を調節し、前記マンドレルに巻回される前記帯状部材にかかるテンションを一定とする、
ことを特徴とする油圧ホースの製造方法。
【請求項2】
前記油圧ホースは、チューブゴム層と、スパイラル補強層とを含んで構成され、
前記マンドレルに前記チューブゴム層を構成するチューブが被せられ、
前記チューブが被せられたマンドレル上に前記帯状部材が巻き付けられることにより前記スパイラル補強層が形成される、
ことを特徴とする請求項1記載の油圧ホースの製造方法。
【請求項3】
前記コードは、スチールコードである、
ことを特徴とする請求項1または2記載の油圧ホースの製造方法。
【請求項4】
前記帯状部材は、前記ドラムからピンに巻回されたのち前記マンドレルに巻き付けられ、
前記帯状部材にかかるテンションにより、前記ピン上で前記マンドレルと同じ外径になるように前記帯状部材に巻き癖が付けられる、
ことを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の油圧ホースの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−58387(P2010−58387A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226821(P2008−226821)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】