説明

油圧制御装置

【課題】 製造時の工数を低減可能な油圧制御装置を提供する。
【解決手段】 油圧制御装置の温度特性を算出するとき、油圧制御装置の製造時に作動油の温度が80℃の条件下におけるリニアソレノイド弁の出力油圧値Pを指令電流値Iごとに測定する(S101)。得られた出力油圧値Pと規範出力油圧値との差を補正値ΔPとして算出する(S102)。補正値ΔPの最大値と最小値との差から特性傾きαを算出し、特性傾きαと温度特性補正傾きβとの関係からリニアソレノイド弁の温度特性補正傾きβを算出する(S103)。最後に算出した温度特性補正傾きβを用いて作動油の温度が80℃を除く温度条件下におけるI−P特性を規範I−Pマップから算出し、当該リニアソレノイド弁のI−Pマップを作成する(S104)。これにより、油圧制御装置の製造時の工数を低減しながら、油圧制御装置が出力する油圧の温度特性を算出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の自動変速機に用いられる油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動変速機は、クラッチなど複数の摩擦要素を選択的に係合または開放して変速を行う。自動変速機に用いられる油圧制御装置は、油圧制御装置が備える電磁油圧制御弁によって摩擦要素に供給される作動油の圧力を制御する。このとき、摩擦要素に供給される作動油の圧力が不適切であると、変速ショックや変速遅れが発生する。油圧制御装置の電磁油圧制御弁は、電磁弁に指令される指令値と当該指令値によって当該電磁油圧制御弁が出力する作動油の圧力との関係が作動油の温度によって変化する温度特性を有する。特許文献1には、電磁弁の温度特性に影響を及ぼす部品寸法を予め記憶し、当該部品寸法に基づいて温度特性を算出する油圧制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−257395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の油圧制御装置を製造するとき、電磁油圧制御弁の温度特性に影響を及ぼす部品寸法を全て測定するため、油圧制御装置の製造に必要な工数が多くなる。また、狙いの温度特性を発揮するため、電磁油圧制御弁の温度特性に影響を及ぼす部品寸法の管理幅が小さくなる。これらの理由により、油圧制御装置の製造コストが増加する。
【0005】
本発明の目的は、製造時の工数を低減可能な油圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明によると、油圧制御装置は、複数の摩擦要素の係合または開放により車両の自動変速を行なう自動変速機に用いられる。油圧制御装置は、電磁油圧制御手段、温度検出手段、基本情報、補正値算出手段、マップ作成手段、記憶手段、指令値補正手段、および指令手段を備える。電磁油圧制御手段は、複数の摩擦要素のうち少なくとも一つの摩擦要素に供給される作動油の圧力を制御する。摩擦要素は、電磁油圧制御手段が供給する作動油の圧力によって駆動し、車両の自動変速を行う。温度検出手段は、当該油圧制御装置の使用時の油温を検出し、検出した油温に応じた信号を出力する。
基本情報は、電磁油圧制御手段に指令される指令値と電磁油圧制御手段が実際に出力する実出力油圧値との関係を示す情報であって、当該油圧制御装置の製造時の油温が予め決められた温度であるときの情報である。補正値算出手段は、基本情報に基づいて電磁油圧制御手段の温度特性補正値を算出する。マップ作成手段は、算出される温度特性補正値に基づいて電磁油圧制御手段に指令される指令値と電磁油圧制御手段が出力すると予想される予想出力油圧値との関係を示すマップを作成する。作成されるマップは記憶手段に記憶される。指令値補正手段は、マップおよび温度検出手段が出力する信号に基づいて電磁油圧制御手段に指令される指令値を補正する。指令手段は、指令値補正手段が補正した補正指令値を電磁油圧制御手段に出力する。
【0007】
油圧制御装置は、車両の自動変速を行う自動変速機の摩擦要素に対して所定の圧力を有する作動油を供給する。このとき、電磁油圧制御手段が供給する作動油の圧力は指令手段が指令する指令値によって決定される。しかしながら、電磁油圧制御手段が供給する作動油の圧力は、電磁油圧制御手段を構成する部品の寸法ばらつきや作動油の粘度における温度依存性によって、所定の指令値に対しても変化する場合がある。
【0008】
請求項1に記載の油圧制御装置の補正値算出手段では、指令値に電磁油圧制御手段の温度特性を考慮した補正指令値を電磁油圧制御手段に指令する。補正指令値は、次の方法により算出される。
当該油圧制御装置を製造するとき、当該油圧制御装置の基本情報を取得する。基本情報とは、電磁油圧制御手段に指令される指令値と電磁油圧制御手段が実際に出力する実出力油圧値との関係を示す情報であって、当該油圧制御装置の製造時の油温が予め決められた温度であるときの情報である。基本情報を基に補正値算出手段は電磁油圧制御手段の温度特性補正値を算出する。マップ作成手段は、算出された温度特性補正値に基づいて指令値と電磁油圧制御手段が出力すると予想される予想出力油圧値との関係を示すマップを作成する。このとき、マップ作成手段は実際に当該油圧制御装置を製造するとき取得した指令値と実出力油圧値との関係を示すマップも作成する。作成されたこれらのマップは、マップ記憶手段に記憶される。指令値補正手段は、油圧制御装置の使用時に温度検出手段が出力する油温とマップ記憶手段に記憶されているマップに基づいて指令値を補正する。これにより、当該油圧制御装置を製造するとき、油温が予め決められた温度条件下における指令値と実出力油圧値との関係を示す基本情報を取得するだけで、予め決められた温度とは異なる作動油の温度条件下における指令値と予想出力油圧値との関係を示すマップを作成することができる。すなわち、電磁油圧制御手段の温度特性を考慮した油圧を出力するように制御することができる。これにより、電磁油圧制御手段を構成する部品の寸法を測定し、記憶することで電磁油圧制御手段の温度特性を算出する従来の方法によらず、電磁油圧制御手段の温度特性を算出することができる。また、電磁油圧制御手段の温度特性を算出するため、作動油の温度が予め決められた温度条件下における指令値と当該指令値に対する実出力油圧値との関係のみを測定するので、油圧制御装置が出力する油圧の温度依存性を把握するための工数を低減することができる、したがって、油圧制御装置の製造コストを低減することができる。
【0009】
従来、検出装置の能力的な制限から油圧制御装置が出力する油圧の温度依存性を把握することが不可能な温度領域があった。しかしながら、請求項1に記載の油圧制御装置では、作動油の温度が予め決められた温度条件下における指令値と当該指令値に対する実出力油圧値との関係を示す基本情報に基づいて温度特性補正値を算出する。これにより、これまで測定不可能であった温度領域の温度特性を算出することができる。したがって、広範囲の温度領域に渡って変速ショックを低減することができる。
【0010】
また、従来、狙いの温度特性を実現するために電磁油圧制御手段を構成する部品の寸法管理幅が設定されていた。これにより、部品の加工コストが増加する結果となっていた。しかしながら、請求項1に記載の油圧制御装置では、電磁油圧制御手段を構成する部品の寸法を測定することなく、電磁油圧制御手段の温度特性を算出することができる。算出される温度特性には、電磁油圧制御手段を構成する部品の寸法など油圧制御装置ごとの装置特性が含まれているため、油圧制御装置が出力する油圧の温度依存性の点では、部品の寸法管理幅を設定する必要がなくなる。これにより、部品の寸法管理幅を大きくすることができ、油圧制御装置の製造コストを低減することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によると、補正値算出手段は、油圧制御装置の油温が予め決められた温度であるときの実出力油圧値から規範油圧値を引いた値を複数の指令値ごとに算出する。補正値算出手段は、算出された値の最大値と最小値との差に基づいて、温度特性補正値を算出する。
補正値算出手段では、温度特性補正値を算出するとき、油温が予め決められた温度であるときの実出力油圧値から規範油圧値を引いた値を算出する。油圧制御装置は、複数の指令値に対する実出力油圧値を基本情報として備える。補正値算出手段では、複数の実出力油圧値から規範油圧値を引いた値を算出する。なお、規範油圧値は、標準的な油圧制御装置が出力する油圧値である。補正値算出手段では、複数の実出力油圧値から規範油圧値を引いた値のうち、最大値と最小値とを差を算出する。当該差から電磁油圧制御手段の温度特性補正値を算出する。これにより、電磁油圧制御手段の温度特性補正値は、油温が予め決められた温度条件下における指令値と実出力油圧値との関係のみから算出される。したがって、電磁油圧制御手段を構成する部品の諸元によるオフセット要素を含んだ温度特性補正値を算出することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によると、電磁油圧制御手段はスプール式リニアソレノイド弁である。また、請求項4に記載の発明によると、電磁油圧制御手段はブリード式リニアソレノイド弁である。
請求項1または2に記載の油圧制御装置は、スプール式リニアソレノイド弁にも適用することができるし、またブリード式リニアソレノイド弁にも適用することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明によると、油圧制御装置が備える基本情報、補正値算出手段、マップ作成手段、記憶手段、指令値補正手段、指令手段、および電磁油圧制御手段は自動変速機に内蔵されている。これにより、請求項5に記載の油圧制御装置は、自動変速機内部の温度にあわせて補正することができ、より正確に作動油の圧力を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態による油圧制御装置を用いる車両用の自動変速機を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態による油圧制御装置を用いる車両用の自動変速機の一部を示す模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態による油圧制御装置におけるスプール式のリニアソレノイド弁の断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態による油圧制御装置のスプール式のリニアソレノイド弁における調圧部の拡大断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態による油圧制御装置の説明図であって、(a)指令電流値と出力油圧値との関係を説明する説明図、(b)作動油の温度と出力油圧値との関係を説明する説明図、である。
【図6】本発明の第1実施形態による油圧制御装置における指令電流値と出力油圧値との関係を示すマップの作成処理を説明するフローチャートである。
【図7】本発明の第1実施形態による油圧制御装置における説明図であって、(a)リニアソレノイド弁の出力油圧値を測定する検査装置の模式図、(b)(a)の検査装置で測定される指令電流値と出力油圧値との関係を説明する説明図、である。
【図8】本発明の第1実施形態による油圧制御装置の説明図であって、(a)1つのリニアソレノイド弁の指令電流値と補正値との関係を説明する説明図、(b)(a)のリニアソレノイド弁とは異なるリニアソレノイド弁の指令電流値と補正値との関係を説明する説明図、(c)(a)、(b)のリニアソレノイド弁の特性傾きを算出する式を説明する説明図、である。
【図9】本発明の第1実施形態による油圧制御装置の説明図であって、(a)作動油が高圧のときの特性傾きと温度特性補正傾きとの関係を説明する説明図、(b)作動油が低圧のときの特性傾きと温度特性補正傾きとの関係を説明する説明図、である。
【図10】本発明の第1実施形態による油圧制御装置における温度特性補正処理を説明する説明図である。
【図11】本発明の第1実施形態による油圧制御装置を用いる車両用の自動変速機における変速処理を説明するフローチャートである。
【図12】本発明の第2実施形態による油圧制御装置を用いる自動変速機を示す模式図である。
【図13】本発明の第3実施形態による油圧制御装置を用いる自動変速機を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による油圧制御装置を図1〜図11に基づいて説明する。
本発明の第1実施形態の油圧制御装置が適用される車両用の自動変速機を図1に示す。車両用の自動変速機100は、「複数の摩擦要素」としての3つのクラッチ131、12、132、および2つのブレーキ133、134を備える多段式の自動変速機である。クラッチ131、12、132、およびブレーキ133、134には、流路141、51、145、147、149を介して作動油を供給するリニアソレノイド弁135、20、136、137、138が接続される。シフトレバー110と接続するマニュアルバルブ120は、流路140、50、144、146、148を介してリニアソレノイド弁135、20、136、137、138に接続する。マニュアルバルブ120には、オイルポンプ54が接続される。オイルポンプ54は、オイルパン55に貯留されるオイルを吸引、加圧して、マニュアルバルブ120に向けて吐出する。
【0016】
マニュアルバルブ120では、車両の運転者がシフトレバー110で走行レンジを選択することによりスプール121が移動する。これにより、マニュアルバルブ120は、オイルポンプ54が吐出する作動油の供給先を切り替える。リニアソレノイド弁135、20、136、137、138には、トランスミッションコントロールユニット(以下、「TCU」という)60が電気的に接続する。TCU60は、クラッチ131、12、132、およびブレーキ133、134に供給する油圧の大きさをリニアソレノイド弁135、20、136、137、138に指令する。クラッチ131、12、132、およびブレーキ133、134では、供給された作動油によって係合または開放を行う。自動変速機100では、クラッチ131、12、132、およびブレーキ133、134における係合または開放の組み合わせによって車両の自動変速を行う。
【0017】
次に自動変速機100に用いられる油圧制御装置10を説明する。
図2には、図1のクラッチ12、クラッチ12に供給される油圧を制御する油圧制御装置10、および油圧制御装置10に作動油を供給するオイルポンプ54の接続関係を示す。なお、図2に示したクラッチ12と油圧制御装置10およびオイルポンプ54との接続関係は、クラッチ12だけでなく、自動変速機100のクラッチ131、132、ブレーキ133、134においても同様である。
【0018】
クラッチ12は、クラッチピストン15、クラッチ板14、16等を備える。クラッチ12では、ピストン室13に流入する作動油の圧力の大きさによって、クラッチピストン15がクラッチ12の軸方向に移動する。ピストン室13に流入する作動油の圧力の大きさが所定値以上であるとき、クラッチピストン15は図2の左方向に移動する。クラッチピストン15が図2の左方向に移動すると、クラッチピストン15はクラッチ板14に当接し、クラッチ板14を図2の左方向に押圧する。これにより、クラッチ板14はクラッチ板16に係合する。また、ピストン室13へ流入する作動油の圧力が所定の値未満のとき、クラッチ板14はクラッチ板16から開放される。
【0019】
油圧制御装置10は、リニアソレノイド弁20、TCU60および油温センサ66を備える。油圧制御装置10は、オイルポンプ54が吐出する作動油の圧力を調整する。圧力を調整された作動油は、前述のピストン室13に流入する。
【0020】
リニアソレノイド弁20は、スプール式のリニアソレノイド弁であり、電磁駆動部40および調圧部21から構成される。リニアソレノイド弁20は、クラッチ12のピストン室13に流入する作動油の圧力を制御する。リニアソレノイド弁20は、特許請求の範囲に記載の「電磁油圧制御手段」、「スプール式リニアソレノイド弁」に相当する。
【0021】
図3に示すように、電磁駆動部40は、ステータ41、プランジャ44、コイル45等から構成される。
【0022】
ステータ41は鉄等の磁性材料で筒状に形成されており、収容部42および吸引部43を有している。収容部42は、プランジャ44を径方向内側に収容している。吸引部43は、電磁駆動部40の調圧部21側に設けられており、プランジャ44を吸引する電磁吸引力をプランジャ44との間に発生する。プランジャ44は、鉄等の磁性材料で柱状に形成され、収容部42内を軸方向に往復移動可能に収容される。
【0023】
コイル45は、収容部42の径方向外側に設置される。TCU60からの指令電流は、ターミナル46を経由してコイル45に供給される。コイル45に指令電流が供給されると、指令電流に応じた磁束が発生する。磁束は、ステータ41およびプランジャ44を通過し、吸引部43とプランジャ44との間に電磁吸引力が発生する。そして、プランジャ44は、シャフト47とともに調圧部21側に移動する。
【0024】
調圧部21は、いわゆるスプール弁であり、スリーブ22、スプール30、コイルスプリング34等から構成される。
スリーブ22は、ステータ41と同軸上に筒状に形成されている。スリーブ22は、径方向の外側と内側とを連通する複数の流体ポートを有している。複数の流体ポートとしてのフィードバックポート26、入力ポート23、出力ポート24および排出ポート25は、電磁駆動部40側からこの順に配置されている。スリーブ22の電磁駆動部40と反対側の端部には、調整ねじ35が設けられる。
【0025】
入力ポート23は、流路50が接続され、所定のライン圧に調整された作動油がマニュアルバルブ120を介してオイルポンプ54から供給される。排出ポート25は、入力ポート23に供給される作動油の圧力を調整する際に発生する余剰油を流路52を介してオイルパン55に排出する。
【0026】
出力ポート24は、流路51が接続され、所定の圧力に調整された作動油をピストン室13に出力する。フィードバックポート26は、流路51から分岐した流路53が接続され、出力ポート24から出力された作動油の一部がスリーブ22の内側に戻される。
【0027】
スリーブ22には、電磁駆動部40とフィードバックポート26との間に第1支持部27が形成され、入力ポート23と排出ポート25との間に第2支持部28が形成される。また、排出ポート25と調整ねじ35の端部との間に第3支持部29が形成される。
【0028】
スプール30は、スリーブ22の径方向内側にスリーブ22の軸方向に往復移動可能に収容される。以下、スプール30が電磁駆動部40側(図3の右側)に移動することを「後退」といい、スプール30が電磁駆動部40と反対側(図3の左側)に移動することを「前進」という。
【0029】
スプール30は、電磁駆動部40のシャフト47に当接する側からフィードバックランド31、入力ランド32、排出ランド33をこの順に設けている。フィードバックランド31は、スリーブ22の第1支持部27に摺動可能に支持される。入力ランド32は、第1支持部27および第2支持部28に摺動可能に支持される。排出ランド33は、第2支持部28および第3支持部29に摺動可能に支持される。
【0030】
コイルスプリング34は、一端が調整ねじ35に当接し、他端がスプール30の電磁駆動部40と反対側の端面に当接して設けられる。コイルスプリング34は、スプール30、シャフト47およびプランジャ44を電磁駆動部40側すなわち後退側に付勢している。これにより、電磁駆動部40への通電または非通電によって、スプール30とプランジャ44とは一体に往復移動する。なお、スプール30の移動方向を示す「後退」および「前進」をプランジャ44の移動方向にも同様に適用する。
【0031】
調整ねじ35は、スリーブ22へのねじ込み深さを調整することでコイルスプリング34の付勢力を調整する。
【0032】
図2に示すTCU60は、マイクロコンピュータおよび駆動回路等から構成され、後述する変速制御処理を実行する。TCU60には、変速制御処理を実行する上で必要な各種運転情報を取得するためのスロットル開度センサ61、エンジン回転数センサ62、タービン回転数センサ63、レンジセンサ64、車速センサ65、油温センサ66等が接続される。油温センサ66は、流路50を流れる作動油の温度を検出する。TCU60は、特許請求の範囲に記載の「補正値算出手段」、「マップ作成手段」、「指令値補正手段」、「指令手段」に相当する。油温センサ66は、特許請求の範囲に記載の「温度検出手段」に相当する。
【0033】
TCU60内に設けられるマイクロコンピュータは、メモリ601に記憶された情報に基づいて目標とする油圧値を算出し、さらに、目標とする油圧を出力するために必要な電流値を指令電流値Iとして算出する。TCU60内に設けられる駆動回路は、算出された指令電流値Iに基づき電磁駆動部40を駆動するための電流を発生する。メモリ601は、特許請求の範囲に記載の「記憶手段」に相当する。
【0034】
オイルポンプ54は、オイルパン55に蓄えられている作動油を吸引および加圧し、所定のライン圧に調整する。オイルポンプ54はライン圧に調整された作動油をマニュアルバルブ120を介して調圧部21に供給する。オイルポンプ54から供給される作動油は、調圧部21にて目標とする油圧に調整され、流路51を経由してピストン室13に供給される。調圧部21において油圧を調整する際に発生する余剰油は、流路52を経由してオイルパン55に戻される。
【0035】
次に、リニアソレノイド弁20による油圧制御におけるスプール30とスリーブ22との位置関係、およびスプール30の内径とスリーブ22の外径との大きさの関係について図4に基づいて説明する。
【0036】
リニアソレノイド弁20では、スプール30の往復移動によって、入力ランド32と第2支持部28とが軸方向に重なる支持長さAが変化する。支持長さAの変化に応じて、出力ポート24から出力される作動油の圧力値(以下、「出力油圧値」という)Pが変化する。
【0037】
図4(a)に示すスプール30の後退時では、支持長さAは短くなる。このとき、入力ポート23から入力ランド32の外壁と第2支持部28の内壁との隙間(以下、「破線A部」という)を通って、入力ランド32、排出ランド33、およびスリーブ22により形成される空間Cへ流入する作動油の量は増加する。したがって、出力油圧値Pは大きくなる。
【0038】
一方、図4(b)に示すスプール30の前進時では、支持長さAは長くなる。このとき、入力ポート23から破線A部を通って空間Cへ流入する作動油の量は減少する。したがって、出力油圧値Pは小さくなる。このように、スリーブ22に対するスプール30の相対位置によって出力油圧値Pが変化する。
【0039】
また、第2支持部28の内径d1に対する入力ランド32の外径d2の相対的な大きさの関係によっても出力油圧値Pが変化する。
図4に示すように、入力ランド32は、第2支持部28の内側を摺動する。このとき、第2支持部28の内径d1と入力ランド32の外径d2との差が大きい場合、破線A部に示すクリアランスΔCは大きくなり、空間Cに流入する作動油の量は増加する。一方、第2支持部28の内径d1と入力ランド32の外径d2との差が小さい場合、クリアランスΔCは小さくなり、空間Cに流入する作動油の量は減少する。すなわち、第2支持部28の内径d1に対する入力ランド32の外径d2の相対的な大きさの変化によって空間Cに滞留する作動油の量が変化するため、出力油圧値Pが変化する。
【0040】
このように、入力ランド32と第2支持部28とが軸方向に重なる支持長さAの大きさ、または第2支持部28の内径d1と入力ランド32の外径d2との大きさの関係から生じるクリアランスΔCの大きさによって、リニアソレノイド弁20の出力油圧値Pは変化する。
【0041】
図5(a)に、特定の作動油の温度、例えば、80℃のとき、TCU60が出力する指令電流値Iとリニアソレノイド弁が出力する出力油圧値Pとの関係(以下、「I−P特性」という)を示す。指令電流値Iを横軸に取り、出力油圧値Pを縦軸に取ると、I−P特性は負の勾配を持つ曲線となる。すなわち、指令電流値Iを大きくしていくと、出力油圧値Pは小さくなる。
【0042】
このとき、リニアソレノイド弁における支持長さA、またはクリアランスΔCの大きさによって、I−P特性は変化する。図5(a)に標準的なリニアソレノイド弁の指令電流値Iと出力油圧値Pとの関係(以下、「規範I−P特性」という)を実線で示す。また、図5(a)には、標準的なリニアソレノイド弁に対して、支持長さA、またはクリアランスΔCの大きさが変化したときのI−P特性を示す。標準的なリニアソレノイド弁に対して支持長さAが小さい場合、またはクリアランスΔCが小さい場合、指令電流値Iが小さい領域では出力油圧値Pは規範I−P特性で示される出力油圧値Pより大きく、指令電流値Iが大きい領域では出力油圧値Pは規範I−P特性で示される出力油圧値Pより小さくなる。(図5(a)中の破線)一方、標準的なリニアソレノイド弁に対して支持長さAが大きい場合、またはクリアランスΔCが大きい場合、指令電流値Iが小さい領域では出力油圧値Pは規範I−P特性で示される出力油圧値Pより小さく、指令電流値Iが大きい領域では出力油圧値Pは規範I−P特性で示される出力油圧値Pより大きくなる。(図5(a)中の一点鎖線)
【0043】
さらに、図4の破線A部を通る作動油の粘度は作動油の温度によって変化する。すなわち、作動油の温度によってI−P特性が変化する。特に、支持長さAが大きい場合、またはクリアランスΔCが小さい場合には、図4の破線A部を流れる作動油の流れは閉塞流となるので、作動油の粘度の変化はI−P特性に大きな影響を及ぼす。
【0044】
図5(b)には、特定の指令電流値Iにおける作動油の温度Tと出力油圧値Pとの関係を示す。図5(b)には、リニアソレノイド弁が出力する油圧が比較的高圧の場合および比較的低圧の場合の2つの場合を示す。
出力油圧値Pが高圧のとき、支持長さAが小さい場合、またはクリアランスΔCが小さい場合、温度が低い領域では出力油圧値Pは規範I−P特性で示される出力油圧値Pより小さく、温度が高い領域では出力油圧値Pは規範I−P特性で示される出力油圧値Pより大きくなる。一方、支持長さAが大きい場合、またはクリアランスΔCが大きい場合、温度が低い領域では出力油圧値Pは規範I−P特性で示される出力油圧値Pより大きく、温度が高い領域では出力油圧値Pは規範I−P特性で示される出力油圧値Pより小さくなる。
【0045】
また、出力油圧値Pが低圧のとき、支持長さAが小さい場合、またはクリアランスΔCが小さい場合、温度が低い領域では出力油圧値Pは規範I−P特性で示される出力油圧値Pより大きく、温度が高い領域では出力油圧値Pは規範I−P特性で示される出力油圧値Pより小さくなる。一方、支持長さAが大きい場合、またはクリアランスΔCが大きい場合、温度が低い領域では出力油圧値Pは規範I−P特性で示される出力油圧値Pより小さく、温度が高い領域では出力油圧値Pは規範I−P特性で示される出力油圧値Pより大きくなる。
【0046】
第1実施形態の油圧制御装置10では、上述した支持長さAの大きさまたはクリアランスΔCの大きさと作動油の温度との関係によるI−P特性の変化について、油圧制御装置10のI−P特性を推測可能な温度特性補正値を算出する。以下にその方法を示す。
【0047】
図6に、油圧制御装置10の製造段階における油圧制御装置10が使用可能な温度領域におけるI−P特性を示すI−Pマップの作成処理を説明するフローチャートを示す。
最初のステップ(以下、「ステップ」を省略し、単に記号Sで示す)101において、作動油の温度が「予め決められた温度」としての80℃の条件下におけるリニアソレノイド弁20のI−P特性を測定する。具体的には、油圧制御装置10の製造時、作動油の温度を80℃にして、指令電流値Iに対するリニアソレノイド弁が実際に出力する実出力油圧値を指令電流値Iごとに測定する。ここで、第1実施形態の油圧制御装置10では、作動油の温度80℃を「学習温度」とする。S101の測定には図7(a)に示す検出装置80を用いる。検出装置80は、作動油の温度を油圧制御装置10が実際に使用される温度である80℃に維持する。検出装置80は油圧測定装置70を備える。油圧測定装置70のバルブボディ18には、リニアソレノイド弁135、20、136、137、138が装着される。バルブボディ18には作動油の流路が形成されている。リニアソレノイド弁135、20、136、137、138は、それぞれTCU60と導線69により電気的に接続されており、TCU60から電流が供給される。また、TCU60は、測定された実出力油圧値のデータをメモリ601に記憶する。学習温度におけるリニアソレノイド弁20のI−P特性は、特許請求の範囲に記載の「基本情報」に相当する。
【0048】
次にS102において、作動油の温度が80℃の条件下におけるリニアソレノイド弁のI−P特性を補正する。具体的には、S101において得られた実出力油圧値と基準となる規範出力油圧値との差を補正値として算出する。図7(b)にS101で測定された複数のリニアソレノイド弁のうち、1つのリニアソレノイド弁の学習温度におけるI−P特性を実線で示す。図7(b)には、作動油の温度が80℃の条件下における規範I−P特性が一点鎖線で示す。リニアソレノイド弁の学習温度におけるI−P特性を示すグラフは、S101において実際に測定された実出力油圧値(図7(b)中の黒丸)の間を直線近似することにより求められる。次に規範I−P特性において格子点Liを複数設定する。格子点Liは、図7(b)に示すように指令電流において所定の間隔ΔIごとの指令電流値Ii(i=2以上の整数)に対する規範I−P特性のグラフ上の点である。S102では、指令電流値Iiに対する当該リニアソレノイド弁のI−P特性の出力油圧値Piから格子点Liの規範出力油圧値を引いた値を補正値ΔPiとして算出する。(図7(b)参照)このとき、出力油圧値Piが規範出力油圧値より大きい場合、ΔPiは正となる。一方、出力油圧値Piが規範出力油圧値より小さい場合、補正値ΔPiは負となる。算出される補正値ΔPiはメモリ601に記憶される。このようにして、作動油の温度が80℃の条件下におけるリニアソレノイド弁の温度特性を補正する。
【0049】
次にS103において、リニアソレノイド弁の特性傾きから「温度特性補正値」としての温度特性補正傾きを算出する。
図8(a)、(b)にS101において実出力油圧値を測定した2つのリニアソレノイド弁の出力油圧値Pと規範出力油圧値との関係を示す。図8(a)、(b)は、2つのリニアソレノイド弁それぞれにおいて、横軸に指令電流値Iを取り、縦軸に指令電流値Iにおける前述の補正値ΔPを示している。すなわち、図8(a)、(b)は、2つのリニアソレノイド弁それぞれにおいて測定または算出された出力油圧値と規範出力油圧値との差を指令電流値ごとに示している。また、図8(a)、(b)中の黒丸はS101において測定された実出力油圧値の測定点である。
【0050】
図8(a)のリニアソレノイド弁において、補正値ΔPの最大値ΔPA1は指令電流値IA1で計測されている。一方、補正値ΔPの最小値ΔPA2は指令電流値IA2で計測されている。このとき、最小値ΔPA2が測定される指令電流値IA2は、最大値ΔPA1が測定される指令電流値IA1より大きい。
また、同様に図8(b)のリニアソレノイド弁において、補正値ΔPの最大値ΔPB1は指令電流値IB1で計測されている。一方、補正値ΔPの最小値ΔPB2は指令電流値IB2で計測されている。このとき、最小値ΔPB2が測定される指令電流値IB2は、最大ΔPB1が測定される指令電流値IB1より小さい。
【0051】
図8(a)、(b)のリニアソレノイド弁において算出された最大値ΔPA1、ΔPB1、および最小値ΔPA2、ΔPB2から、それぞれのリニアソレノイド弁が有する特性を表す特性傾きαの関係式を図8(c)に示す。具体的には、図8(a)のリニアソレノイド弁では、最大値ΔPA1から最小値ΔPA2を引いた値をそれぞれの補正値ΔPが測定された指令電流値の差(IA1−IA2)で割ることにより、特性傾きαAを算出する。なお、図8(a)のリニアソレノイド弁では、特性傾きαAは負となる。同様に、図8(b)のリニアソレノイド弁では、最大値ΔPB1から最小値ΔPB2を引いた値をそれぞれの補正値が測定された指令電流値の差(IB1−IB2)で割ることにより、特性傾きαBを算出する。なお、図8(b)のリニアソレノイド弁では、特性傾きαBは正となる。
【0052】
次に特性傾きαと温度特性補正傾きβとの関係からリニアソレノイド弁の温度特性補正傾きβを算出する。このとき、温度特性補正傾きβは、作動油の圧力が高圧のときおよび低圧のとき、それぞれにおいて算出される。図9(a)には、作動油の圧力が高圧のときの特性傾きαと温度特性補正傾きβ1との関係を示す。図9(a)では、特性傾きαを横軸として、温度特性補正傾きβを縦軸とする。作動油の圧力が高圧のときの特性傾きαと温度特性補正傾きβとの関係は、特性傾きαが大きくなるにつれて、温度特性補正傾きβも大きくなる。図9(a)に示す関係において、図8(c)に示す関係式から算出されたリニアソレノイド弁の特性傾きαA、αBを用いてリニアソレノイド弁の温度特性補正傾きβ1A、β1Bが算出される。このとき、温度特性補正傾きβ1Aは、温度特性補正傾きβ1Bより小さい値となる。
【0053】
また、図9(b)には、作動油の圧力が低圧のときの特性傾きαと温度特性補正傾きβとの関係を示す。作動油の圧力が低圧のときの特性傾きαと温度特性補正傾きβとの関係は、特性傾きαが大きくなるにつれて、温度特性補正傾きβは小さくなる。図9(b)に示す関係において、図8(c)に示す関係式から算出されたリニアソレノイド弁の特性傾きαA、αBを用いてリニアソレノイド弁の温度特性補正傾きβ2A、β2Bが算出される。このとき、温度特性補正傾きβ2Aは、温度特性補正傾きβ2Bより大きい値となる。
【0054】
S103では、このようにリニアソレノイド弁の出力油圧値Pと規範出力油圧値との差から特性傾きαを算出し、特性傾きαと温度特性補正傾きβの相関関係から当該リニアソレノイド弁の温度特性傾きβを算出する。
【0055】
次に、S104において、S103で算出した温度特性補正傾きβを用いてI−Pマップを作成する。図10に図5(b)にも示した特定の指令電流値Iにおける作動油の温度Tと出力油圧値Pとの関係を示す。ここでは、一例として図8(a)のリニアソレノイド弁のI−Pマップの作成方法を説明する。図10には、作動油の圧力が高圧のときおよび低圧のときの規範I−P特性が実線で示されている。
本実施形態では、S101において作動油の温度が「学習温度」である80℃のときの出力油圧値Pを測定している。次に作動油の温度が80℃とは異なる温度TのI−P特性を算出するとき、温度Tから学習温度を引いた値、すなわち(T−80)にS103で算出した温度特性補正傾きβを乗じた値に規範I−Pマップから得られる温度Tの規範出力油圧値を加える。
【0056】
例えば、図8(a)のリニアソレノイド弁における作動油の圧力が高圧のときの予想出力油圧値PH(T)は、温度Tから80を引いた値に温度特性補正傾きβ1Aを乗じて得られる値β1A×(T−80)に温度Tの規範I−Pマップから得られる規範出力油圧値PH0(T)を加える。したがって、図8(a)のリニアソレノイド弁の温度Tにおける予想出力油圧値PH(T)は、β1A×(T−80)+PH0(T)の式から算出される。また、作動油の圧力が低圧のときの予想出力油圧値PL(T)は、温度Tから80を引いた値に温度特性補正傾きβ2Aを乗じて得られる値β2A×(T−80)に温度Tの規範I−P特性から得られる規範出力油圧値PL0(T)を加える。したがって、図8(a)のリニアソレノイド弁の温度Tにおける予想出力油圧値PL(T)は、β2A×(T−80)+PL0(T)の式から算出される。(図10参照)
【0057】
油圧制御装置10では、このように各温度における特定の指令電流値Iに対する出力油圧値Pを算出する。また、特定の指令電流値Iとは異なる指令電流値Iの出力油圧値Pは、前述した方法によって同様に規範I−P特性に基づいて出力油圧値Pを算出する。また、図8(b)のリニアソレノイド弁についても同様にI−P特性を算出する。このようにして、S104では、規範I−P特性と温度特性補正係数βとに基づいて、異なるリニアソレノイド弁における異なる温度ごとのI−Pマップを作成する。作成されたI−Pマップは、TCU60のメモリ601に記憶される。
【0058】
(作用)
ここで、自動変速機100における変速制御処理について油圧制御装置10の作動に基づいて説明する。
最初にS201において、車両の変速が必要か否かを判定する。TCU60では、スロットル開度センサ61が出力するスロットル開度、エンジン回転センサ62が出力するエンジン回転数、タービン回転センサ53が出力するタービン回転数、レンジセンサ54が出力するレンジ信号、および車速センサ65が出力する車速に基づいて自動変速機100の変速が必要か否かを判定する。変速が必要であると判定される場合、S202に移行する。変速が必要ないと判定される場合、スタートに戻る。
【0059】
次にS202において、変速を開始する指令を出力する。ここで、TCU60は、自動変速機の次の変速段もあわせて出力する。
次にS203において、TCU60はS202の指令に対して油圧制御弁10が出力する作動油の圧力を目標油圧として算出する。
【0060】
一方、S204ではS201からS203までの処理と平行して、オイルポンプ54が吐出する作動油の温度を検出する。作動油の温度は、流路50に接続する油温センサ66により検出される。油温センサ66は、検出した作動油の温度に応じた信号をTCU60に出力する。
【0061】
次にS205では、S203で設定される目標油圧、およびS204で算出される作動油の温度に基づいて目標指令電流値を算出する。TCU60では、図6のS104において作成した作動油の温度別のI−Pマップに基づいて目標指令電流値を算出する。
【0062】
次にS206において、TCU60は指令電流を生成する。指令電流値Iは、S205で算出された目標指令電流値である。
【0063】
次にS207において、TCU60はリニアソレノイド弁20に目標指令電流値の指令電流を出力する。指令電流が入力されるリニアソレノイド弁20では、電磁駆動部40のプランジャ44が移動する。これにより、スプール30が調圧部21の軸方向に沿って移動し、オイルポンプ54が供給する作動油の圧力を調整する。圧力を調整された作動油は、流路51を介してクラッチ12のピストン室13に流入する。ピストン室13に作動油が流入することにより、クラッチピストン15が移動し、クラッチ板14、16が係合または開放する。これにより、自動変速100で変速が行われる。
【0064】
次にS208において、自動変速機100の変速段を検出する。レンジセンサ64により、自動変速機100の変速段を検出する。
次にS209において、自動変速機100の変速が終了したか否かを判定する。S202において設定した変速段となっている場合、自動変速処理は終了する。S202において設定した変速段となっていない場合、S203に戻り、TCU60は再度目標油圧を算出する。
【0065】
(効果)
(A)第1実施形態の油圧制御装置10では、作動油の温度が80℃の条件下における指令電流値Iに対する出力油圧値Pを実際に測定することにより、出力油圧値Pと規範出力油圧値との差からリニアソレノイド弁20の温度特性を算出する。本願出願人は、油圧制御装置が備えるリニアソレノイド弁の静特性と温度特性との間に、図8および図9に示す関係があることを見出した。すなわち、リニアソレノイド弁の出力油圧値Pと規範出力油圧値との差から算出される特性傾きαとリニアソレノイド弁の温度特性補正傾きβとは一定の関係を示すというものである。そこで、図8に示すように作動油の温度が80℃の条件下において測定された出力油圧値Pと規範出力油圧値との差から特性傾きαを算出し、図9に示す関係から温度特性補正傾きβを算出する。油圧制御装置10では、温度特性補正傾きβによって、油圧制御装置10が使用される温度領域の指令電流値Iと出力油圧値Pとの関係を算出する。従来、油圧制御装置の温度特性を補正する場合、油圧制御装置が使用される全温度領域に渡って実際に測定した油圧を書き込んでマップを作成するか、もしくは油圧制御装置を構成する部品の諸元を予め測定し、温度特性に影響を及ぼすパラメータとして記憶させることで温度特性を推定していた。しかしながら、第1実施形態の油圧制御装置10では、特定の温度において実際に測定した指令電流値Iと出力油圧値Pとの関係から特定の温度とは異なる温度のI−P特性を算出することができる。これにより、従来に比べて温度特性を測定する作業が簡素化されるため、少ない工数で油圧制御装置10を製造することができる。したがって、製造コストを低減することができる。
【0066】
(B)第1実施形態の油圧制御装置10では、作動油の温度が80℃の条件下における指令電流値Iに対する出力油圧値Pを実際に測定することにより、これまで実際に測定が不可能であった温度領域の温度特性を算出することができる。したがって、幅広い温度領域において適切な出力油圧を発生することができ、車両の変速時に発生する変速ショックを低減することができる。
【0067】
(C)従来、油圧制御装置を構成する部品の諸元は出力油圧の温度特性に影響を及ぼすパラメータとして管理されていた。このため、狭い公差内の加工や部品の諸元検査などにより製造コストが増加していた。しかしながら、第1実施形態の油圧制御装置10では、油圧制御装置10として組み立てた状態で指令電流値Iに対する出力油圧値Pを実際に測定することにより、リニアソレノイド弁20の温度特性を算出することができる。これにより、油圧制御装置10を構成する部品の諸元管理を緩和することができ、製造コストを低減することができる。
【0068】
(D)第1実施形態の油圧制御装置10では、作動油の温度が80℃の条件下における指令電流値Iに対する出力油圧値Pを実際に測定することにより、温度特性補正値を算出する。算出される温度特性補正値は、油圧制御弁10が組み立てられた状態の温度特性を示すため、油圧制御装置10を構成するスリーブ22の内径と入力ポート23の外径の大小関係やコイルスプリング34の弾性係数など部品の諸元が含まれている。したがって、リニアソレノイド弁20を構成する部品の諸元によるオフセット要素を含んだ温度特性補正値を算出することができる。
【0069】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図12に基づいて説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対して、クラッチの構造が異なる。なお、第1実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0070】
図12に示すように、自動変速機200は無段自動変速機と呼ばれるものであって、摩擦で力を伝え連続的に変速比を変化させるものである。エンジン500は、トルクコンバータ210、前後進切替機構220を介して自動変速機200に接続されている。
【0071】
自動変速機200は、前後進切替機構220の出力軸に連結されている主軸230、および主軸230に平行配置されている副軸240を備えている。主軸230には、プライマリプーリ231が設けられる。プライマリプーリ231は、可動円錐盤232および固定円錐盤233、および可動円錐盤232に対して固定円錐盤233の反対側に油圧シリンダ234を備える。副軸240には、セカンダリプーリ241が設けられる。セカンダリプーリ241は、可動円錐盤242および固定円錐盤243、および可動円錐盤242に対して固定円錐盤243の反対側に油圧シリンダ244を備える。また、プライマリプーリ231およびセカンダリプーリ241には駆動ベルト250が巻き付けられている。
【0072】
プライマリプーリ231では、油圧シリンダ234に導入される作動油の油圧により、可動円錐盤232と固定円錐板233との間隔が調整される。また、セカンダリプーリ241では、油圧シリンダ244に導入される作動油の油圧により、可動円錐盤242と固定円錐板243との間隔が調整される。これにより、プライマリプーリ231およびセカンダリプーリ241に対する駆動ベルト250の巻き付け径が変更され、変速比が変化する。このとき、変速比は油圧シリンダ234、244に導入される作動油の圧力に応じて無段階で変化させることができる。油圧シリンダ234、244には、それぞれ異なる油圧制御装置が接続されている。なお、図12には、セカンダリプーリ241側の油圧制御装置10のみ示す。
【0073】
第2実施形態の自動変速機200における自動変速処理のフローは、第1実施形態と同様である。したがって、第2実施形態においても、第1実施形態の効果(A)〜(D)を奏する。
【0074】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を図13に基づいて説明する。第3実施形態は、第1実施形態に対して、作動油の圧力を制御するリニアソレノイド弁の形状が異なる。なお、第1実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0075】
図13に示すように、自動変速機300は、ピストン室13に流入する作動油の圧力を制御する油圧制御部320および油圧制御部320に流入する作動油の圧力の一部を所定の圧力に調整するモジュレータ弁321を備える。
【0076】
油圧制御部320は、ブリード式リニアソレノイド弁330およびコントロール弁350から構成されている。ブリード式リニアソレノイド弁330は、モジュレータ弁321で調整された油圧をコントロール弁350の駆動源となる信号圧に調整してコントロール弁350に向けて出力する。
【0077】
次にブリード式リニアソレノイド弁330およびコントロール弁350の構造について説明する。ブリード式リニアソレノイド弁330は、電磁駆動部331およびポペット弁部340から構成されている。
【0078】
電磁駆動部331は、ステータ332、プランジャ335、コイル336などから構成されている。ステータ332は鉄などの磁性材により筒状に形成されており、収容部333および吸引部334を有している。
【0079】
収容部333は、プランジャ335を径方向内側に収容する。吸引部334は、電磁駆動部331のポペット弁部340側に設けられる。吸引部334は、プランジャ335を吸引する磁気吸引力をプランジャ335との間に発生する。プランジャ335は、収容部333内に同心的に配置され、鉄などの磁性材により柱状に形成される。プランジャ335は、ステータ332の軸方向に往復移動可能となっている。プランジャ335の吸引部334とは反対側には、プランジャ335をポペット弁部340側に付勢するコイルスプリング337が設けられている。
【0080】
コイル336は、収容部333の径方向外側に設置されている。コイル336には、TCU60からの指令電流が供給される。コイル336に指令電流が供給されると、ステータ332およびプランジャ335を通過する指令電流の電流値に応じた磁束が発生する。発生する磁束により、吸引部334とプランジャ335との間に磁気吸引力が働く。これにより、プランジャ335はポペット弁部340側に吸引される。
【0081】
ポペット弁部340の弁ボディ341には、入力ポート342、出力ポート343、および排出ポート344が形成されている。入力ポート342、出力ポート343および排出ポート344は、連通路345により互いに連通する。入力ポート342は、モジュレータ弁321において所定の油圧に調整された作動油を導入する。出力ポート343は、入力ポート342より入力された油圧を信号圧に調整しコントロール弁350に向けて出力する。排出ポート344は、油圧を信号圧に調整する際に発生する余剰油をオイルパン55に向けて排出する。また、入力ポート342の近傍には、オリフィス346が形成されている。
【0082】
弁ボディ341は、弁体349を往復移動可能に収容する収容部348を有する。弁体349は、排出ポート344の周囲に形成される弁座347に離座または着座することができる。弁体349は、プランジャ335と接続しており、プランジャ335の移動によって弁座347に着座する構造となっている。
【0083】
出力ポート343から出力される信号圧は、オリフィス346における流路面積、および弁体349のリフト時に弁体349と弁座347との間に形成される流路面積の大小関係を調整することにより調整される。具体的には、コイル336に供給される指令電流の大きさを変化させてプランジャ335への磁気吸引力、コイルスプリング337の付勢力、および弁体349にかかる受圧力の釣り合いにより調整される。
【0084】
コントロール弁350は、スリーブ351、スプール370およびコイルスプリング374から構成されている。スリーブ351は、筒状に形成されている。スリーブ351はスプール370を内部に収容する。スリーブ351には、径方向の外側と内側とを連通する入力ポート352、出力ポート353、信号圧入力ポート354、排出ポート355、およびフィードバックポート356が形成されている。
【0085】
入力ポート352には、流路50が接続され、オイルポンプ54が供給する作動油がマニュアルバルブ120を介して入力される。出力ポート353は、流路51と接続する。出力ポート353は、コントロール弁350で圧力を調整された作動油をピストン室13に向けて出力する。
【0086】
排出ポート355は、流路52と接続し、入力ポート352から入力された作動油の圧力に調整する際に発生する余剰油をオイルパン55に向けて排出する。
【0087】
信号圧入力ポート354は、流路56と接続している。信号圧入力ポート354には、ブリード式リニアソレノイド弁330が出力する所定の信号圧に調整された作動油が入力される。
【0088】
フィードバックポート356は、流路51から分岐した流路53と接続している。フィードバックポート356には、出力ポート353から出力された作動油の一部が入力される。フィードバックポート356に入力される作動油の圧力は、出力ポート353における作動油の圧力とほぼ同じである。
【0089】
第3実施形態では、コントロール弁350に入力される信号圧をブリード式リニアソレノイド弁330が生成する。このとき、弁座347と弁体349との隙間の大きさ、および作動油の温度による作動油の粘性の変化の大きさによって、指令電流値Iと出力油圧値Pとの関係が変化する温度特性を有する。
【0090】
第3実施形態の自動変速機300における自動変速処理のフローは、第1実施形態と同様である。すなわち、ブリード式リニアソレノイド弁の特定の温度における指令電流値Iと出力油圧値Pとの関係に基づいて特定の温度と異なる温度におけるI−P特性を算出する。算出したI−P特性に基づいて、TCU60が特定の温度とは異なる温度におけるブリード式リニアソレノイド弁330に指令する指令値を補正する。これにより、第3実施形態の油圧制御装置11は、第1実施形態の効果(A)〜(D)を奏する。
【0091】
(他の実施形態)
(ア)上述の第1実施形態では、自動変速機のクラッチの数は3つ、ブレーキの数は2つとした。しかしながら、クラッチおよびブレーキの数はこれに限定されない。クラッチの数は4つ以上でもよいし、ブレーキの数は3つ以上であってもよい。この場合、油圧制御装置は、クラッチおよびブレーキの数の合計と同じ数のリニアソレノイド弁を備える。
【0092】
(イ)上述の実施形態では、リニアソレノイド弁の温度特性を測定する温度である学習温度を80℃とした。しかしながら、学習温度はこれに限定されない。80℃以上であってもよいし、80℃未満であってもよい。
【0093】
(ウ)上述の実施形態では、TCUの設置位置を自動変速機の内部とした。しかしながら、TCUの設置位置はこれに限定されない。自動変速機の外部にあっても良い。
【0094】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0095】
10、11 ・・・油圧制御装置、
12 ・・・クラッチ(摩擦要素)、
20 ・・・リニアソレノイド弁(電磁油圧制御手段)、
60 ・・・TCU(補正値算出手段、マップ作成手段、指令値補正手段、指令手段)、
601 ・・・メモリ(記憶手段)、
66 ・・・油温センサ(温度検出手段)、
100、200、300・・・自動変速機、
131、132 ・・・クラッチ(摩擦要素)、
133、134 ・・・ブレーキ(摩擦要素)、
330 ・・・ブリード式リニアソレノイド弁(電磁油圧制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の摩擦要素の係合または開放により車両の自動変速を行なう自動変速機に用いられる油圧制御装置であって、
前記複数の摩擦要素のうち少なくとも一つの摩擦要素に供給される作動油の圧力を制御する電磁油圧制御手段と、
当該油圧制御装置の使用時の油温を検出し、前記使用時の油温に応じた信号を出力する温度検出手段と、
前記電磁油圧制御手段に指令される指令値と前記電磁油圧制御手段が実際に出力する実出力油圧値との関係を示す情報であって、当該油圧制御装置の製造時の油温が予め決められた温度であるときの基本情報と、
前記基本情報に基づいて前記電磁油圧制御手段の温度特性補正値を算出する補正値算出手段と、
前記温度特性補正値に基づいて前記電磁油圧制御手段に指令される指令値と前記電磁油圧制御手段が出力すると予想される予想出力油圧値との関係を示すマップを作成するマップ作成手段と、
前記マップを記憶する記憶手段と、
前記マップおよび前記温度検出手段が出力する信号に基づいて前記電磁油圧制御手段に指令される指令値を補正する指令値補正手段と、
前記指令値補正手段が補正した補正指令値を前記電磁油圧制御手段に指令する指令手段と、
を備えることを特徴とする油圧制御装置。
【請求項2】
前記補正値算出手段は、当該油圧制御装置の製造時の油温が予め決められた温度であるときの前記実出力油圧値から規範油圧値を引いた値を複数の指令値ごとに算出し、前記算出された値の最大値と最小値との差に基づいて前記温度特性補正値を算出することを特徴とする請求項1に記載の油圧制御装置。
【請求項3】
前記電磁油圧制御手段はスプール式リニアソレノイド弁であることを特徴とする請求項1または2に記載の油圧制御装置。
【請求項4】
前記電磁油圧制御手段はブリード式リニアソレノイド弁であることを特徴とする請求項1または2に記載の油圧制御装置。
【請求項5】
前記基本情報、前記補正値算出手段、前記マップ作成手段、前記記憶手段、前記指令値補正手段、前記指令手段、および前記電磁油圧制御手段が前記自動変速機に内蔵されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−24406(P2013−24406A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163133(P2011−163133)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】