説明

油圧圧下制御装置、油圧圧下制御装置の調整方法及び制御プログラム

【課題】
装置の稼働率を大きく損なうことなく、好適な制御応答が得られるような調整を行うことが可能な油圧圧下制御装置を提供すること
【解決手段】
油圧シリンダー11におけるピストンの位置の実測値を取得し、指令値及び実測値に基づいて油圧を制御する油圧圧下制御装置2と、油圧圧下制御装置2の制御ゲインを調整する制御ゲイン調整装置と、圧延機の動作状態を判断する圧延機状態判別部5とを含み、制御ゲイン調整装置4は、制御ゲインの調整を実行する際、圧延機が予め定められた所定の状態である場合、記憶されている周波数で位置指令値が振動する調整用信号を油圧圧下制御装置2にに対して出力し、調整用信号及び調整用信号に対する実測値に基づいて制御ゲインを調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧圧下制御装置、油圧圧下制御装置の調整方法及び制御プログラムに関し、特に、圧延機の上下作業ロール間隔を制御する油圧圧下制御装置の自動調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延機においては、被圧延材の製品品質に直結する板厚制御や操業の安定性に不可欠な張力制御等の自動制御が行われている。一般的な圧延機及び油圧圧下制御装置の全体構成を図18に示す。図18に示すように、圧延機の自動制御の操作端としては、圧延機の作業ロール速度や上下作業ロール間隔が用いられている。作業ロール速度は専用のロール速度制御装置により制御される。また、上下作業ロール間隔は専用の油圧圧下制御装置により制御される。
【0003】
作業ロール間隔を制御する油圧圧下制御装置2は、油圧を調整することで油圧シリンダー11の位置を調整しロールギャップを制御する。そのため、油圧圧下制御装置2は、位置制御ループにおいて、油圧シリンダーの位置を検出する位置検出器13によって検出された位置実績値が、圧延機制御装置3から出力される位置指令値と一致するように、油圧シリンダー11にかかる油圧を調整するための油圧調整装置12を制御する。油圧圧下制御装置2における制御応答は、図18の油圧圧下制御装置2において“G”で示す制御ゲインによって決定される。油圧圧下制御装置2の位置制御応答は、油圧シリンダー11の油柱長さや、油圧の発生に用いる油の温度等の外部条件により変化する。
【0004】
油圧圧下制御装置2が十分な位置制御応答を発揮できないと、圧延機で圧延する被圧延材の品質にとって重要な板厚精度が悪化する。また、油圧シリンダーに振動が発生することにより、被圧延材表面の品質が悪化することも起こり得る。
【0005】
そのため、圧延機の試運転調整時には油圧圧下制御装置の調整を位置制御ループのステップ応答や周波数応答をとったりして十分に実施する(例えば、特許文献1参照)。この周波数応答による調整作業は、FFT(Fast Fourier Transform)アナライザといった検出器を油圧圧下制御装置に接続する必要等が有るため容易に測定できない。そのため、従来は試運転調整時に調整した後、異常が発生した場合は、制御ゲインGを下げることのみで対応していた。そのため、せっかく試運転調整時に調整した油圧圧下制御装置の応答が維持できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−282609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の調整方法では、油圧圧下制御装置2の周波数応答を測定して適当な応答となるように制御ゲインを決定していた。周波数応答は、周波数を低周波から高周波まで掃引した信号を油圧圧下制御装置に位置指令として入力し、実績と比較することにより測定する。そのため、1回の測定に時間を要するという問題がある。
【0008】
上述したステップ状の波形を入力信号として用いる測定方法の場合、簡易的に測定が可能であるが、周波数応答により調整した結果を正常な状態とし、それとの比較により良否判断しているため必ずしも正確な調整とならない場合が多い。
【0009】
このため、上記周波数応答による調整は、圧延機を定期的に修理するための保全日に行い、それ以外は、上記ステップ状の波形を入力信号として用いる調整を行うような運用も行われているが、周波数応答による調整を頻繁に実行すれば装置の稼働率が低下し、周波数応答による調整の頻度を下げれば装置の精度が低下するというトレードオフの問題は依然として残ったままである。
【0010】
例えば、圧延機の作業ロールを交換する場合、ロールの径の変更により発生する油圧シリンダーの油高値の変化に対応するため、より詳細な測定及び調整が求められる。また、周囲温度の変化等による操作油の粘度変化等により発生する油圧圧下制御装置の応答変化にも対応する必要がある。このように、上述したステップ状の波形を入力信号として用いる調整よりも詳細な調整が望まれる場合があるが、それらの全てについて周波数応答による調整を行うことは、装置の稼働率の著しい低下を招く。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、装置の稼働率を大きく損なうことなく、好適な制御応答が得られるような調整を行うことが可能な油圧圧下制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、圧延機の作業ロール間の間隔を調整する油圧シリンダーのピストンの位置を制御する油圧圧下制御装置であって、前記油圧シリンダーにおけるピストンの位置の実測値を取得する実測値取得部と、前記油圧シリンダーへの油流入量を制御する油圧制御部が、前記油圧シリンダーへの油流入量を制御する際の制御ゲインを前記ピストンの位置の指令値及び前記ピストンの位置の実測値に基づいて調整する制御ゲイン調整部と、前記圧延機の動作状態を判断した判断結果を取得する動作状態判断結果取得部とを含み、前記制御ゲイン調整部は、前記制御ゲインを調整するための調整方法として複数の調整方法を実行可能であり、前記制御ゲインの調整を実行する際、前記動作状態判断結果取得部によって取得された判断結果に基づいて調整方法を切り替えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の他の態様は、圧延機の作業ロール間の間隔を調整する油圧シリンダーのピストンの位置を前記油圧シリンダーへの油流入量を調整することにより制御する油圧圧下制御装置の制御ゲインを、前記油圧シリンダーにおけるピストンの位置の実測値を取得し、前記ピストンの位置の指令値及び前記ピストンの位置の実測値に基づいて調整する油圧圧下制御装置の調整方法であって、前記圧延機の動作状態に応じて油圧シリンダーへの油流入量を調整する際の制御ゲインの調整方法を切り替えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の更に他の態様は、圧延機の作業ロール間の間隔を調整する油圧シリンダーのピストンの位置を前記油圧シリンダーへの油流入量を調整することにより制御する油圧圧下制御装置の制御ゲインを、前記油圧シリンダーにおけるピストンの位置の実測値を取得し、前記ピストンの位置の指令値及び前記ピストンの位置の実測値に基づいて調整する油圧圧下制御装置の制御プログラムであって、前記圧延機の動作状態を判断するステップと、前記圧延機の動作状態に応じて油圧シリンダーへの油流入量を調整する際の制御ゲインの調整方法を切り替えて制御ゲインの調整を実行するステップとを情報処理装置に実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明を用いることにより、装置の稼働率を大きく損なうことなく、好適な制御応答が得られるような調整を行うことが可能な油圧圧下制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る油圧圧下制御装置の自動調整全体を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る圧延機の制御全体を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る圧延機の操業動作例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るロール組替処理動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る制御ゲイン調整装置の機能構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施形態に係る油圧圧下制御装置の周波数応答測定による調整方法を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る周波数応答測定による油圧圧下制御装置の調整動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態に係る簡易入力波形による応答測定方法における入力波形を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係る簡易入力波形による油圧圧下制御装置の調整動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施形態に係る簡易入力波形での応答調整実施タイミングを示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態に係る圧延操業中の油圧圧下制御装置の調整方法を示す図である。
【図12】本発明の実施形態に係る入力波形と実績波形を用いた応答調整動作を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施形態に係る制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図14】本発明の他の実施形態に係る複数の測定周波数点が必要となる場合を示す図である。
【図15】本発明の他の実施形態に係る油圧シリンダーを模式的に示す図である。
【図16】本発明の他の実施形態に係る開放側補正ゲインと圧下側補正ゲインとの関係を示す図である。
【図17】本発明の他の実施形態に係る簡易入力波形による応答測定方法における入力波形を示す図である。
【図18】従来技術に係る油圧圧下制御装置の自動調整全体を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
本実施例では、図1に示すような1台の圧延機スタンド1と左リール101および右リール102より構成されるシングルスタンド圧延機を例に、油圧圧下制御装置2の調整方法について説明する。
【0018】
シングルスタンド圧延機は、1台の圧延機スタンドと、圧延機スタンドの左右に、コイル状に巻き取った被圧延材を払い出し、若しくは巻き取るための左リール101及び右リール102を含む。圧延方向を右行きとすると、被圧延材は左リール101より巻き出されて、圧延機スタンド1にて圧延された後、右リール102にて巻き取られる。
【0019】
シングルスタンド圧延機の場合、リバース圧延が一般的に行われており、右リール102にて巻き取られた被圧延材は、左行きの圧延方向では右リール102より巻きだされて、圧延機スタンド1にて再度圧延加工されて左リール101に巻き取られる。この工程を被圧延材毎に予め決められた製品仕様を満足するまで実施することで製品となる被圧延材を生産する。
【0020】
圧延機スタンド1は複数のロールより構成されるが、被圧延材103を上下から挟み込む上下の作業ロール104から被圧延材にかけられる圧延圧力と、左右リールを駆動する電動機により被圧延材にかけられる張力により、被圧延材がつぶされ、延ばされることで圧延加工は実施される。
【0021】
圧延機の制御方法の概要を図2に示す。圧延機で生産される被圧延材製品にとって最も重要となるのが長手方向(圧延方向)の板厚精度である。図2に示すように、圧延機スタンド1の左右には入側板厚計111及び出側板厚計112が設けられている。入側板厚計111及び出側板厚計112の出力は、圧延機制御装置3内のFF AGC(Feed Forward Automatic gauge Control)116およびFB AGC(Feed Back Automatic Gauge Control)117に夫々入力される。FF AGC116及びFB AGC117は、入力された被圧延材の板厚に基づき、圧延機制御装置3内の圧延機制御部118が出力する位置指令値を修正する。このような制御により作業ロール間隔(ロールギャップ)が制御され、長手方向の板厚精度が保たれる。
【0022】
圧延操業は、圧延機制御部118が、左リール制御装置114、右リール制御装置115およびミル速度制御装置113に対して、夫々左リール101、右リール102および圧延機スタンド1のロール速度を制御するための信号を出力することにより実施される。圧延機制御部118は、圧延機のオペレータが操作盤110を操作して入力した各種指令に従って圧延機1を動作させる。
【0023】
図3に圧延機の操業動作例を示す。図3に示すように、本実施形態においては、圧延機制御装置3に設けられた操業モード選択SW150にて、圧延機の操業モードを選択する。本実施形態においては、操業モードとして、通常の「圧延」操業、圧延操業を停止する「操業停止」および「ロール組替」がある。「ロール組替」は、圧延操業により作業ロールや中間ロール、バックアップロール等が磨耗するため、定期的またはロール表面状態の悪化が著しい場合に各ロールを交換するモードである。
【0024】
「ロール組替」が選択されると、圧延機制御部118は、圧延機を停止して圧下を開放する。その状態でオペレータは、ロール交換(必要に応じて、作業ロール、中間ロール、バックアップロールを交換する)を実施する。その後、「零調処理開始」SWをオペレータが押す事で、圧延機制御部118が零調処理を実施する。各ロールは圧延により表面が磨耗すると、表面を研磨して再度使用するため、ロール径がまちまちとなる。そのため、ロール組替前後で、ロール径の組合せが異なる事になる。
【0025】
油圧シリンダー11の位置は、位置検出器13で測定可能であるが、同じシリンダー位置でもロールギャップの大きさはロール径の組合せにより異なるため、ロール交換を実施する毎にロールギャップをある基準値にあわせる必要が有る。通常は、圧下を閉して、圧延荷重が例えば5000kNとなるシリンダー位置をロールギャップ=0と定義し、零調処理を実施する。
【0026】
図4を参照して、本実施形態に係る零調処理について説明する。零調処理においては(S401)、上下作業ロールが接触するまで圧下を締込む処理(S402、S403)、その後、ロールを空転(被圧延材が上下作業ロール間に無い状態で圧延機を低速で運転する)させ(S404)、圧延荷重が5000kNとなるまで再度圧下を締込む処理(S405、S406)、圧延荷重が5000kNとなった状態で、ロールギャップを0とする処理(ロールギャップ零調)(S407)が実行される。その後、ロールを開放してロール空転を停止させる(S408)ことにより、零調処理が終了する。
【0027】
圧延操業を実施する「圧延」モード選択時、オペレータは、「徐動」、「加速」、「保持」、「停止」のSWを用いて、圧延機の圧延速度を操作して圧延操業を実施する。これらのSWは、操業モード選択SW150と同様に、圧延機制御装置3に設けられている。図3に示すように、「徐動」が選択されることにより、圧延機は徐動速度まで加速してその速度で運転する。次に、「加速」が選択されることにより、圧延速度は加速される。そして、「保持」が選択されることにより、その時点での圧延速度で運転が継続される。この状態において、圧延が実行される。その後、「徐動」が選択されることにより、圧延速度は徐動速度へ減速され、「停止」が選択されることにより圧延速度が0となって圧延機が停止可能な状態となる。
【0028】
以上述べたように、圧延機制御装置3は、圧延機のオペレータからの指令を受けて、圧延機を動作させているため、現状圧延機がどのような状態にあるか(圧延中なのか、ロール組替中なのか等)を認識することが可能である。従って、本実施形態に係る圧延機の制御系統においては、圧延機の状態に応じて、油圧圧下制御装置の調整方法を変更することが可能となる。この、圧延機の状態に応じた油圧圧下制御装置2の調整方法の変更が、本実施形態に係る要旨の1つである。
【0029】
油圧圧下制御装置の調整は、図5に示すような制御ゲイン調整装置4を用いて実施する。測定方法設定装置404は、圧延機の状態に応じて調整方法選択装置6から、どのような方法で測定するかの指示を受け、測定方法を選択する。そして、測定方法設定装置404は、決定した測定方法を信号発生装置401に通知する。これにより、信号発生装置401が、測定方法に応じた入力波形を発生させる。
【0030】
また、測定方法設定装置404は、信号解析装置402に対して、入力信号と出力信号をどのような方法で解析するかを通知する。制御ゲイン変更装置403は、信号解析装置402での解析結果を基に、制御ゲインの調整を行って油圧圧下制御装置に通知する。
【0031】
上述した調整方法選択装置6が選択する油圧圧下制御装置の調整方法として、本実施形態においては、周波数応答測定によるもの、簡易入力波形によるもの、圧延制御装置の出力波形によるものの3種類の方法がある。このうち、簡易入力波形によるものが、本実施形態に係る特徴的な構成である。以下、周波数応答測定によるものを「調整方法1」、簡易入力波形によるものを「調整方法2」、圧延制御装置出力波形によるものを「調整方法3」として説明する。
【0032】
先ず、調整方法1について、図6を参照して説明する。図6上段の図は、調整方法1の調整を実行する際に、信号発生装置401が出力する波形である。また、図6下段の図は、上段の入力波形に対する応答波形、即ち、位置検出器13による検出信号の波形のボード線図である。調整方法1においては、圧延機の機械装置ごとに設定される目標周波数における目標位相余裕より位相余裕が良くなるように制御ゲインを調整する。
【0033】
たとえば、制御ゲインAの場合の周波数応答のボード線図が、図6下段における点線で示される場合、“目標周波数”において“目標位相余裕”を満たしていない。この場合、油圧圧下制御装置2が制御ゲインを大きくして制御ゲインBとすることで、実線のようなボード線図が得られたとすると、“目標周波数”において“目標位相余裕”を満たしているので、油圧圧下制御装置2は、制御ゲインBを選択する。
【0034】
尚、上記“目標周波数”とは、圧延機の運用において、油圧圧下制御装置2が油圧調整装置12を制御する際の制御信号の変化頻度として考えられ得る最大の変化頻度に対応する周波数である。また、上記“目標位相余裕”とは、上述した制御信号の最大の変化頻度に対する実測値に求められる追従性を示す値であり、例えば、−90°の位相遅れである。尚、“目標周波数”を最大の変化頻度に対応する周波数とする理由は、フィードバック制御において、一般的には、周波数が大きくなるほど追従性が悪くなるためである。
【0035】
次に、調整方法1の調整を自動的に実施する場合の処理について、図7を参照して説明する。図7の例においては、位相遅れ−90度における入力信号周波数を設定周波数となるように調整する場合を考える。図7に示すように、調整開始すると、まず、制御ゲイン調整装置4は、適当な制御ゲイン=Xと制御ゲイン=Yを用いて、周波数応答の測定を実施する(S701、S702)。
【0036】
S701及びS702の処理を実行した後、制御ゲイン調整装置4は、測定結果をチェックし(S703)、制御ゲインX及び制御ゲインYにおける−90°位相遅れの周波数XR及びYRを取得する。そして、制御ゲイン調整装置4は、ゲイン設定X、Yおよび目標周波数xrefより、制御ゲインを以下の式(1)に従って、直線近似によりxに変更する(S704)。そして、制御ゲイン調整装置4は、再度掃引波形を用いて周波数応答を測定する(S705)。
x=(Y−X)・(xref−XR)/(YR−XR)+X (1)
【0037】
S705の処理を実行した後、制御ゲイン調整装置4は、その結果をチェックし(S76)、設定周波数にならない場合は(S707/NO)、今回の制御ゲインxと−90度位相遅れの周波数xRを夫々Y、YRに置き換えて、再度制御ゲインを変更して測定を実施する(S704、S705)。他方、S706のチェックの結果、設定周波数になっている場合は(S707/YES)、処理を終了する。
【0038】
このように、本実施形態に係る調整方法1の調整において、制御ゲイン調整装置4が、制御ゲイン変更と周波数応答測定を繰り返す事により、−90度位相遅れの周波数を目標周波数とすることができた制御ゲインxを制御ゲイン設定値とする。目標周波数には許容範囲を設け、ある範囲内に−90度位相遅れ周波数が入った場合は結果チェックOKとすることが好ましい。
【0039】
周波数応答測定による調整を行う場合、図6上段に示すような掃引波形を入力する必要があるため、1回の測定に時間がかかるという問題が有る。掃引波形としては、例えば1Hzから50Hzまでの周波数成分を入れる必要が有り、1回の掃引について大体30秒程度の測定時間を要する。そのため、測定に時間がかかり圧延操業の合間にロール組替を実施している場合、早急に圧延操業を再開するために長時間の測定が不可能である場合は、調整方法1に係る調整方法は用いることができない。
【0040】
次に、調整方法2について図8を参照して説明する。この測定方法2が、本実施形態の特徴的な処理である。短時間で周波数応答を確認し、制御ゲインを設定するためには、目標周波数における迅速な測定を行う必要が有る。そのため、調整方法2においては、信号発生装置401が、単一の周波数成分からなる波形を出力し、その応答信号に基づいて調整を実行する。
【0041】
図8上段の図は、調整方法2の調整を実行する際に信号発生装置401が出力する波形の例として、25Hzの周波数成分を示す図である。また、図8下段の図は、調整方法2の原理を説明するために、実際よりも低い10Hzの周波数で、信号発生装置401の出力波形及びそれに対する位置検出器13の実測値による出力波形を示した図である。
【0042】
図8に示すように、調整方法2において信号発生装置401は、目標周波数のみからなる波形を、振幅0から設定最大振幅まで増大させ、定められた最大振幅値まで達した後、振幅0まで減衰させてから測定終了させる。この様な波形とするのは、設定最大振幅で目標周波数成分を入れると圧延機機械やロールに損傷を与える事が考えられためである。即ち、図8下段に示すような波形を用いることにより、圧延機機械やロールに損傷を与えることを回避することができる。
【0043】
図8の下段に示すように、単一周波数成分であれば、入力波形と出力波形を比較する事により、振幅の大きさおよび位相遅れを容易に測定することができる。位相遅れの値については、サンプリング可能な最小分解能で入力波形と出力波形をずらして相関係数をとり、相関係数が最小となる時に、入力波形と出力波形とをずらしている値を用いる。その場合、周波数応答測定、即ち、調整方法1の実行結果による測定結果から目標周波数における位相ズレが予測できるため、予測ズレの前後で入力波形と出力波形をずらすことで探索範囲を狭める事が可能である。
【0044】
図8上部に示すような波形を、測定用入力波形として用いる場合、約1秒間で1回の測定が可能となる。また、周波数応答測定時は、FFT演算が必要なため多大な計算時間を要したが、簡易波形での測定の場合相関係数を取るだけであるので演算量を少なくでき、制御ゲイン調整装置4の計算能力でも迅速に処理可能となる利点がある。
【0045】
次に、調整方法2の調整を自動的に実施する場合の処理について、図9を参照して説明する。図9に示すように、調整開始すると、まず、制御ゲイン調整装置4は、適当な制御ゲイン=Xと制御ゲイン=Yを用いて、周波数応答の測定を実施する(S901、S902)。
【0046】
S901及びS902の処理を実行した後、制御ゲイン調整装置4は、測定結果をチェックし(S903)、制御ゲインX及び制御ゲインYにおける位相遅れ値XD及びYDを取得する。そして、制御ゲイン調整装置4は、ゲイン設定X、Y及び上記位相遅れ値XD、YDに基づき、位相遅れ値が−90°となるゲイン設定値xを、以下の式(2)を用いて直線近似により求める(S904)。尚、式(2)における“xref”は、目標の位相遅れ値、即ち、−90°である。
x=(Y−X)・(xref−XD)/(YD−XD)+X (2)
【0047】
そして、制御ゲイン調整装置4は、S904において求めた制御ゲイン設定値xを用いて、再度簡易波形で応答測定を行う(S905)。S705の処理を実行した後、制御ゲイン調整装置4は、その結果をチェックして(S906)、制御ゲインxにおける位相遅れ値xDを求め、位相遅れ値xDが−90°の位相遅れを満たしていなければ(S907/NO)、今回の制御ゲインx及び位相遅れ値xDを夫々Y、YRに置き換えて、再度制御ゲインを変更して測定を実施する(S904.S905)。他方、S906のチェックの結果、位相遅れ値xDが−90°の位相遅れを満たしていれば(S907/YES)、処理を終了する。
【0048】
圧延機が操業停止している状態では、上記で述べた周波数応答測定および簡易入力波形による応答調整が可能であるが、圧延機が操業状態の場合、図6や図8に示すような測定用入力波形を油圧圧下制御装置に対して与える事は、板厚精度の悪化や操業の外乱を招くため不可である。
【0049】
図10は、調整方法2による調整を実行するタイミングの一例を示すフローチャートであり、図4において説明したロール交換及びロールギャップの調整処理において実行する場合を示している。図10に示すように、S1001〜S1007までは、図4のS401〜S407と同様に処理が実行される。ロールギャップ零調処理を実行した後、上述した調整方法2による調整が実行される(S1008)。その後、図4のS408と同様にロールを開放してロール空転を停止させる(S1009)ことにより、零調処理が完了する。ロール組替の後、ロールギャップ零調の完了後は、圧延機に荷重がかかった状態であり、圧下位置の基準値を決める条件が整った状態であるため、ロール組替の実施毎に一定の条件下での測定が可能となる。このため、このタイミングで調整方法2による調整を行うことにより、装置の効率的な運用が可能となる。
【0050】
尚、調整方法2の調整を実行するためには、少なくとも、図8に示すような波形を生成するための周波数、即ち、目標周波数の情報が必要である。この情報は、オペレータによって信号発生装置401内に設けられている記憶媒体に予め記憶されており、信号発生装置401は、その情報に基づいて図8に示すような波形を生成して出力する。
【0051】
次に、調整方法3について、図11を参照して説明する。調整方法3は圧延操業中の測定方法となる。圧延機が操業中である場合は、板厚制御等の圧延機制御装置3からの出力波形が、油圧圧下制御装置の入力波形となることから、入力波形と出力波形の関係から制御ゲインの大小を判定して油圧圧下制御装置のゲイン調整を実施する。即ち、調整方法3においては、制御ゲイン調整装置4が、圧延機の操業状態において、圧延機制御装置3が出力する位置指令と、位置検出器13が検知した位置実績値との比較に基づいて制御ゲインを調整する。
【0052】
圧延操業中は、圧延機制御装置3から圧下位置指令値15が出力され、油圧圧下制御装置への入力波形となる。図10の指令は圧延機制御装置3が出力する位置指令値であり、実績は位置検出器13による実際の圧下位置実績値である。
【0053】
図11の上図は、制御ゲイン過小の状態である。この場合、指令に対して実績が追従せず、指令と実績に偏差が残っている。図11の下図は、制御ゲイン過大の状態である。この場合は、油圧調整装置12の操作量が大きすぎるため油圧の変化量が大きく圧下位置実績がオーバーシュートして、それをまた制御しに行くため、指令よりも実績が高周波数成分をもつハンチング状態となる。
【0054】
図12は、調整方法3における処理を示す図であり、指令と実績の関係を監視する事により制御ゲインの過大、過小を判定する処理を示す。図12に示すように、まず、制御ゲイン調整装置4は、入力波形と出力波形のパターンマッチングを行い(S1201)、マッチングが良好であれば(S1202/YES)、制御ゲインは良好であるとして調整は行わず継続的に監視を行う。パターンマッチングの方法としては、入力波形と出力波形の相関係数をとり、相関係数が予め設定した閾値より小さければマッチング良好と判断し、閾値を超えた場合は調整必要と判断する事が考えられる。
【0055】
他方、S1202の処理により、マッチングが良好ではなく、調整が必要と判断された場合は(S1202/NO)、入力波形と出力波形のFFT測定を行い(S1203)、入力波形より出力波形が高周波成分である場合は(S1204/YES)、ハンチング状態と判断して制御ゲインを下げる処理を実施する(S1205)。
【0056】
逆に入力波形よりも出力波形が低周波成分である場合は(S1204/NO)、ゲイン過小と判断して制御ゲインを上げる処理を実施する(S1206)。これを圧延操業中実施する事で、油圧圧下制御装置の制御ゲインを常に最適の状態とすることが可能となる。
【0057】
本実施例の動作を、図1を用いて説明する。圧延機状態判別装置5は、圧延機制御装置3からの、圧延状態、ロール組替状態、操業停止状態の情報を基に、圧延機の状態を判別する。調整方法選択装置6は、上記圧延機状態判別装置5による判別結果に基づき、圧延状態であれば調整方法3、ロール組替状態であれば調整方法2、操業停止状態であれば調整方法1を選択する。調整方法選択装置6は、圧延機状態判別装置5による判別結果と、それに応じて選択すべき調整方法との対応を示すテーブル(以降、調整方法選択テーブルとする)を内部の記憶媒体に記憶しており、圧延機状態判別装置5による判別結果に対応する調整方法を上記テーブルに基づいて選択する。
【0058】
制御ゲイン調整装置4は、調整方法選択装置6によって選択された調整方法に応じた応答調整を実施する。図5に示すように、調整方法選択装置6からの調整方法1〜3の選択情報に基づき、調整法設定装置404が信号発生装置401に入力信号を発生させると共に、信号解析装置402に対して、入力信号と出力信号を取込むタイミング及び信号の解析方法を設定する。
【0059】
信号解析装置402では、測定方法1〜3のそれぞれに応じて、FFTやパターンマッチング等の信号処理を実施して制御ゲインの適否を判定し、制御ゲインをどのように変化するかを制御ゲイン変更装置403に出力する。制御ゲイン変更装置403は、信号解析装置402から入力される信号に基づき、油圧圧下制御装置の制御ゲイン14を変更する。このような処理により、圧延機状態に応じて、最適な調整方法を選択して油圧圧下制御装置の調整を実施する事ができ、常に最適な状態で油圧圧下制御装置を使用することが可能となる。
【0060】
ここで、油圧圧下制御装置2、圧延機制御装置3、制御ゲイン調整装置4、圧延機状態判別装置5及び調整方法選択装置6(以降、総じて制御装置とする)を構成するハードウェアについて、図13を参照して説明する。図13は、本実施形態に係る制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。図13に示すように、本実施形態に係る制御装置は、一般的なサーバやPC(Personal Computer)等の情報処理端末と同様の構成を有する。
【0061】
即ち、本実施形態に係る制御装置は、CPU(Central Processing Unit)201、RAM(Random Access Memory)202、ROM(Read Only Memory)203、HDD(Hard Disk Drive)204及びI/F205がバス208を介して接続されている。また、I/F205にはLCD(Liquid Crystal Display)206及び操作部207が接続されている。
【0062】
CPU201は演算手段であり、制御装置全体の動作を制御する。RAM202は、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、CPU201が情報を処理する際の作業領域として用いられる。ROM203は、読み出し専用の不揮発性記憶媒体であり、ファームウェア等のプログラムが格納されている。
【0063】
HDD204は、情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶媒体であり、OS(Operating System)や各種の制御プログラム、アプリケーション・プログラム等が格納されている。I/F205は、バス208と各種のハードウェアやネットワーク等を接続し制御する。LCD206は、ユーザが制御装置の状態を確認するための視覚的ユーザインタフェースである。操作部207は、キーボードやマウス等、ユーザが制御装置に情報を入力するためのユーザインタフェースである。
【0064】
このようなハードウェア構成において、ROM203やHDD204若しくは図示しない光学ディスク等の記録媒体に格納されたプログラムがRAM203に読み出され、CPU201の制御に従って動作することにより、ソフトウェア制御部が構成される。このようにして構成されたソフトウェア制御部と、ハードウェアとの組み合わせによって、本実施形態に係る制御装置の機能が実現される。
【0065】
尚、図1に示す各制御装置は、夫々が図13に示す構成を有する単体の装置として構成されても良いし、図13に示す構成一組の情報処理装置において、図1に示す各制御装置の複数の機能を実現することも可能である。
【0066】
また、図1においては、油圧調整装置12を制御する装置を、狭義の油圧圧下制御装置2として説明したが、油圧圧下制御装置2が油圧調整装置12を制御するためには、上述したように、圧延機制御装置3、制御ゲイン調整装置4、圧延機状態判別装置5及び調整方法選択装置6が連動して機能している。即ち、これらの装置全体として、広義の油圧圧下制御装置が構成される。この場合、制御ゲイン調整装置4が、実測値取得部、制御ゲイン調整部及び動作状態判断結果取得部として機能する。また、油圧圧下制御装置2が、油圧制御部として機能する。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係る油圧圧下制御装置2の制御ゲインを調整する制御ゲイン調整装置4によれば、圧延機制御装置3が把握している圧延機の状態に応じて調整方法選択装置6が制御ゲインの調整方法を選択し、その選択結果に従って制御ゲイン調整装置4が制御ゲインの調整を実行する。特に、ロールを組替えの場合のように、予め定められた所定の状態において、制御ゲイン調整装置4は、目標周波数のみからなる調整用波形を出力してその応答信号を解析する。これにより、目標周波数における応答特性を調整方法1の調整を実行するよりも迅速に解析して制御ゲインを設定することが可能となる。
【0068】
尚、図1において、油圧圧下制御装置2、圧延機制御装置3、制御ゲイン調整装置4、圧延機状態判別装置5及び調整方法選択装置6を、別々のブロックの装置として説明しているが、上述したように、これらの装置が連動して圧延機を制御する。即ち、これらの装置が連動して圧延機の制御システムが構成される。
【0069】
また、上記実施形態においては、調整方法2の調整を実行する際の条件として、ロール組替え状態であることを例として説明した。この他にも、調整方法2の調整を実行すべき条件が考えられ得る。例えば、ロールシフト位置変更、被圧延材の変更、圧延条件の変更、圧延機スタンド1のパスライン調整等である。
【0070】
ロールシフト位置変更とは、ロールの回転軸方向にロールをずらす場合等である。この場合、作業ロール104にかかる荷重が変わるため、制御ゲインに対する制御応答も変わることになる。また、ロールを配置変更する際は、圧延動作は停止しているため、ロールの配置変更を行った場合は、調整方法2の調整を行う場合として適している。
【0071】
被圧延材の変更とは、作業ロール104によって圧延される材料を変更する場合である。この場合も、材料が変更されることにより、作業ロール104にかかる荷重が変わることが考えられる。また、被圧延材を変更する際は、圧延動作は停止しているため、被圧延材を変更した場合も、調整方法2の調整を行う場合として適している。
【0072】
圧延条件の変更とは、被圧延材を圧延する厚さ等、主として作業ロール104に加わる荷重が変化するような条件の変更を行う場合である。この場合も、被圧延材の板厚精度や表面品質を保つために圧延動作を停止するため、圧延条件を変更した場合も、調整方法2の調整を行う場合として適している。
【0073】
圧延機スタンド1のパスライン調整とは、作業ロール104が被圧延材を圧延する位置を、左リール101及び右リール102の位置に合わせるために、圧延機スタンド1が作業ロール1を支持する位置を調整する場合である。この場合も、作業ロール104にかかる荷重が変わることが考えられる。また、圧延機スタンド1の調整は、圧延動作を停止して行うため、圧延機スタンド1を調整した場合も調整方法2の調整を行う場合として適している。
【0074】
このように、調整方法2による調整は、圧延機の操業を完全に停止するわけではないが、圧延動作を一度停止した上で、圧延動作の実行条件を変更し、再度圧延を再開する場合に特に適している。即ち、調整方法選択装置6は、圧延機状態判別装置5によって判断された圧延機の状態が、圧延動作の実行条件を変更するために、圧延動作が一時的に停止された状態である場合に、調整方法2による調整方法を選択することが好ましい。
【0075】
また、このように調整方法2の調整を実行する場合の条件を拡張する場合、調整方法選択装置6が記憶している調整方法選択テーブルに、ロールシフト位置変更、被圧延材の変更、圧延条件の変更、圧延機スタンド1のパスライン調整等の状態と調整方法2の対応関係を記憶させ、圧延機状態判別装置5が、ロールシフト位置変更、被圧延材の変更、圧延条件の変更、圧延機スタンド1のパスライン調整等の状態を判別することにより可能性である。
【0076】
また、上記実施形態においては、図9に示すように、測定波形を入力して制御ゲインを調整する方法について述べたが、測定波形を入力して結果をチェックし、応答測定結果が許容範囲であれば調整を実施せずに処理を終了し、許容範囲を超えた場合は調整を実施するようにすることも可能である。このような処理により、不要な処理を省略し、調整動作をより迅速に終了することができる。
【0077】
実施の形態2.
実施例1においては、図6の下段に示すように、周波数応答が単調減少である場合を前提として説明した。このため、調整方法2においては、目標周波数のみを入力波形とすれば充分であった。しかしながら、図6の下段に示すボード線図が、図14に示すように単調減少でない場合がある。図14の例の場合、測定周波数Cにおいて周波数特性が悪化している。このような場合、制御ゲインEにより目標周波数における目標位相余裕を達成できても、測定周波数Dでは目標位相余裕を達成できていない。
【0078】
この場合は、測定方法2で測定する単一周波数成分として、目標周波数と測定周波数Cを採用し、両方が目標位相余裕を達成するように制御ゲインの調整を行う。即ち、測定周波数Cと目標周波数夫々において、図9の処理を実行する。目標周波数及び測定周波数Cの2つの入力波形について調整方法2の調整行う場合、信号発生装置401内に設けられている記憶媒体に、2つの周波数の情報を記憶しておくことにより可能である。これにより、図14に示すように、周波数応答が単調減少でない場合であっても、調整方法1のような時間のかかる調整を行うことなく、好適に制御ゲインの調整を行うことが可能である。詳細な装置の構成及び調整方法の処理については、実施の形態1と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0079】
尚、図14では、測定周波数2点であるが、周波数応答測定結果に応じて3点以上の複数点の測定が必要である場合も有る。例えば、図14のボード線図において、測定周波数Cと目標周波数との間の極大値は大きく立ち上がっていないが、この極大値の立ち上りと全体の周波数応答特性によっては、極大値が位相余裕の上限を超えてしまう場合もあり得る。このような場合を回避するため、図14に示す測定周波数C、即ちグラフが極小値となる周波数に加えて、グラフが極大値となる周波数をも、測定対象とすることが好ましい。
【0080】
単一周波数における測定が必要な測定周波数の決定においては、調整方法1による周波数応答の測定結果から測定周波数を人間が判断して入力しても良いし、また周波数応答の測定結果の変曲点から自動で設定しても良い。いずれの場合においても、決定された測定周波数は、上述したように、制御ゲイン調整装置4の信号発生装置401に記憶される。
【0081】
実施の形態3.
図15に油圧シリンダー11の詳細を示す。図15に示すように、油圧シリンダー11においては、背圧側と圧下側が押し合った状態でつりあっており、圧下する場合は、油圧圧下制御装置2が、圧下側の油圧を背圧側より大きくするよう油圧調整装置12を操作し、開放する場合は、圧下側の油圧を背圧側の油圧より小さくするように油圧調整装置12を操作する。そのため、背圧側にかかる圧力(圧延機の圧延荷重+固定圧力)によって、圧下または開放するのに必要な圧下側の圧力が変化し、制御応答が変化する。
【0082】
圧下側と開放側で制御応答が異なると、AGC等の制御に悪影響を与えるため、制御応答を同じくするよう制御補正ゲインを設定する。例えば、圧延荷重が大きく、圧下側が動作しずらい場合は、圧下側の制御補正ゲインを大きくし、開放側の制御補正ゲインを小さくする。つまり、図16のような圧下側補正ゲイン、開放側補正ゲインを設定する。
【0083】
この補正ゲインも、外気温や油圧シリンダー位置によって変化するため、圧下側と開放側の応答を確認し、差が大きい場合は、制御補正ゲインを変更する必要が有る。圧下側と開放側の応答を測定する必要が有るため、ステップ入力を用いて確認することになる。ここで、調整方法2における単一周波数の測定波形を、図17に示す波形に変更して測定を実施する事で、1回の測定で制御補正ゲインの調整も可能となる。即ち、図17に示すように、最初にステップ状に立ち上がるように圧下指令を出し、その後単一周波数波形を出力して、最後にステップ状に立ち下がるように開放指令を出力する。図17の例では、開放側の応答が遅い場合であり、開放側の出力波形の追従性が悪くなっている。
【0084】
制御補正ゲインの調整においては、圧下側と開放側につき波形の立ち上がり時間を測定して差が大きい場合に、差が小さくなるように圧下側または開放側の制御補正ゲインを修正する。それにより、制御応答も変化するが、次の測定で、制御応答も確認できるので無駄な測定が不要となる。
【符号の説明】
【0085】
1 圧延機スタンド、
2 油圧圧下制御装置、
3 圧延機制御装置、
4 制御ゲイン調整装置、
5 圧延機状態判別装置、
6 調整方法選択装置、
11 油圧シリンダー、
12 油圧調整装置、
13 位置検出器、
14 油圧発生装置、
101 左リール、
102 右リール、
103 被圧延材、
104 作業ロール、
110 操作盤、
111 入側板厚計、
112 出側板厚計、
113 ミル速度制御装置、
114 左リール制御装置、
115 右リール制御装置、
116 FF AGC、
117 FB AGC、
118 圧延機制御部、
150 操業モード選択SW、
201 CPU、
202 RAM、
203 ROM、
204 HDD、
205 I/F、
206 LCD、
207 操作部、
208 バス、
401 信号発生装置、
402 信号解析装置、
403 制御ゲイン変更装置、
404 測定方法設定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機の作業ロール間の間隔を調整する油圧シリンダーのピストンの位置を制御する油圧圧下制御装置であって、
前記油圧シリンダーにおけるピストンの位置の実測値を取得する実測値取得部と、
前記油圧シリンダーへの油流入量を制御する油圧制御部が前記油圧シリンダーへの油流入量を制御する際の制御ゲインを前記ピストンの位置の指令値及び前記ピストンの位置の実測値に基づいて調整する制御ゲイン調整部と、
前記圧延機の動作状態を判断した判断結果を取得する動作状態判断結果取得部とを含み、
前記制御ゲイン調整部は、
前記制御ゲインを調整するための調整方法として複数の調整方法を実行可能であり、
前記制御ゲインの調整を実行する際、前記動作状態判断結果取得部によって取得された判断結果が、前記圧延機が予め定められた所定の状態であることを示している場合、記憶されている周波数で前記位置指令値が振動する調整用信号を前記油圧制御部に対して出力し、前記調整用信号及び前記調整用信号に対する前記実測値に基づいて前記制御ゲインを調整することを特徴とする油圧圧下制御装置。
【請求項2】
前記予め定められた所定の状態は、前記圧延機による圧延動作の実行条件を変更するために前記圧延機による圧延動作が一時的に停止された状態であることを特徴とする請求項1に記載の油圧圧下制御装置。
【請求項3】
前記予め定められた所定の状態は、前記作業ロールの交換のために前記圧延機による圧延動作が一時的に停止された状態であることを特徴とする請求項2に記載の油圧圧下制御装置。
【請求項4】
前記制御ゲイン調整部は、前記調整用信号として、前記記憶されている周波数で振幅ゼロから徐々に増大し、所定の振幅に達した後に徐々に減衰して振幅ゼロとなる信号を出力することを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の油圧圧下制御装置。
【請求項5】
前記制御ゲイン調整部は、前記調整用信号として、立ち上がりの後、前記記憶されている周波数で振幅ゼロから徐々に増大し、所定御振幅に達した後に徐々に減衰して振幅ゼロとなり、その後前記立ち上がりを打ち消すように立ち下がる信号を出力することを特徴とする請求項4に記載の油圧圧下制御装置。
【請求項6】
前記制御ゲイン調整部は、異なる複数の周波数を記憶しており、周波数の異なる複数の調整用信号を用いて、前記制御ゲインの調整を複数回行うことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の油圧圧下制御装置。
【請求項7】
前記制御ゲイン調整部は、前記ピストンの位置の指令値に対する前記実測値の応答性を確保すべき最大の周波数を、前記異なる複数の周波数の一つとして記憶していることを特徴とする請求項6に記載の油圧圧下制御装置。
【請求項8】
前記制御ゲイン調整部は、前記ピストンの位置の指令値として所定の周波数範囲を掃引した信号に対する前記実測値の位相余裕において、前記位相余裕が前記所定の周波数範囲において極小となる周波数を、前記異なる複数の周波数の一つとして記憶していることを特徴とする請求項6または7に記載の油圧圧下制御装置。
【請求項9】
前記制御ゲイン調整部は、前記ピストンの位置の指令値として所定の周波数範囲を掃引した信号に対する前記実測値の位相余裕において、前記位相余裕が前記所定の周波数範囲において極大となる周波数を、前記異なる複数の周波数の一つとして記憶していることを特徴とする請求項6または7に記載の油圧圧下制御装置。
【請求項10】
前記制御ゲイン調整部は、異なる複数の制御ゲインにおいて前記調整用信号を前記油圧制御部に対して出力し、前記異なる複数の制御ゲイン夫々における前記調整用信号及び前記調整用信号に対する前記実測値に基づき、前記調整用信号に対する前記実測値の位相遅れが所定の範囲内となるように前記制御ゲインを調整することを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の油圧圧下制御装置。
【請求項11】
前記制御ゲイン調整部は、前記調整用信号に対する前記実測値の位相遅れが所定の範囲内となるように前記制御ゲインを調整した後、調整後のゲインにおいて前記調整用信号を前記油圧制御部に対して出力し、前記調整用信号に対する前記実測値の位相遅れが所定の範囲内であるか否か確認することを特徴とする請求項10に記載の油圧圧下制御装置。
【請求項12】
圧延機の作業ロール間の間隔を調整する油圧シリンダーの油圧を前記油圧シリンダーへの油流入量を調整することにより制御する油圧圧下制御装置の制御ゲインを、前記油圧シリンダーにおけるピストンの位置の実測値を取得し、前記ピストンの位置の指令値及び前記ピストンの位置の実測値に基づいて調整する油圧圧下制御装置の調整方法であって、
前記圧延機の動作状態を判断し、
前記圧延機が予め定められた所定の状態であると判断した場合、記憶されている周波数で前記位置指令値が振動する調整用信号を前記油圧シリンダーへの油流入量を調整する油圧制御部に対して出力し、
前記調整用信号及び前記調整用信号に対する前記実測値に基づいて前記油圧シリンダーへの油流入量を調整する際の制御ゲインを調整することを特徴とする油圧圧下制御装置の調整方法。
【請求項13】
圧延機の作業ロール間の間隔を調整する油圧シリンダーのピストンの位置を前記油圧シリンダーへの油流入量を調整することにより制御する油圧圧下制御装置の制御ゲインを、前記油圧シリンダーにおけるピストンの位置の実測値を取得し、前記ピストンの位置の指令値及び前記ピストンの位置の実測値に基づいて調整する油圧圧下制御装置の制御プログラムであって、
前記圧延機の動作状態を判断するステップと、
前記圧延機が予め定められた所定の状態であると判断した場合、記憶されている周波数で前記位置指令値が振動する調整用信号を前記油圧シリンダーへの油流入量を調整する油圧制御部に対して出力するステップと、
前記調整用信号及び前記調整用信号に対する前記実測値に基づいて前記油圧シリンダーへの油流入量を調整する際の制御ゲインを調整するステップとを情報処理装置に実行させることを特徴とする油圧圧下制御装置の制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−183428(P2011−183428A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50824(P2010−50824)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】