説明

油圧式エレベータの油圧回路

【課題】 エレベータに乗り降りするときに揺れが生ずることなく、安定して昇降する油圧式エレベータの油圧回路を提供する。
【解決手段】 油圧式エレベータの油圧回路は、人および/または荷物積載用ケージを昇降するシリンダの油圧をバランスウェイトの付設により約1/2の油圧にして駆動源の動力を低減している。この油圧回路は、少なくともケージへの搭乗時および/または荷物搭載時に、その内圧を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、当該保持圧以下の所定圧以上とする複動シリンダまたはラム式シリンダを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式エレベータの油圧回路に係り、特に、搭乗時、荷物搭載時の揺れを防止した油圧式エレベータの油圧回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧式エレベータはシリンダチューブよりラムを突出させ、ケージを昇降する油圧ジャッキが用いられている。この油圧ジャッキは、所定の昇降速度を得るために大きな吐出量の油圧ポンプが必要になるとともに、戻り油を絞りながら速度を制御して下降するため多くのエネルギーの損失が生じていた。
【0003】
本出願人は、省エネルギー型油圧昇降装置として特許文献1を提案している。同文献によれば、図7に示すように、油圧昇降装置120は、ピストンロッド121上端の上端ブロック122に第1プーリ123と、左右ほぼ同一荷重としたバランスウェイト124、124を取付けたシーブ125とが油圧シリンダ126に固定されている。そして油圧昇降装置120は、一端を構造物127に固定したロープ128を第1プーリ123、及び構造物127に固定された第2プーリ129と第3プーリ130に係合させて他端に積載用かご131(以下、かご131という)を取付けている。
この油圧昇降装置120は、バランスウェイト124により、かごの上昇時にかご131とこれを載せる積載物の合計重量がある程度相殺されるため、電動機132の省エネルギー効果が得られる。
【0004】
上記の油圧シリンダ126は可逆回転油圧ポンプモータ133が一方のシリンダチューブ134の上部給排油ポート135から作動油をシリンダ上部室136に供給したときには、ピストン137、即ちピストンロッド121が下方に移動してピストンロッド121内の作動油は中空パイプ138下端の下部給排油ポート139から排出される。
可逆回転油圧ポンプモータ133が他方の下部給排油ポート139から作動油を供給したときには、ピストンロッド121が上方に押し上げられてシリンダチューブ134の内径面とピストンロッド121の外径面との間の作動油は上部給排油ポート135から排出されることになり、ピストンロッド121の上下往復運動が行なわれる。
【0005】
この油圧シリンダ126は、図8に示すように、シリンダチューブ134の下端部にリング部材141の内径部を嵌合させてこれらを溶接にて固着する。そして、シリンダチューブ134の下端面に密接し、且つシリンダチューブ134の内径面に嵌合する形状であって、さらに中央に中空パイプ138を貫入させる開口を有するボトムカバー142をボルト143により固定した。なお、ボトムカバー142とシリンダチューブ134の内径面との嵌合部には液密性を確保するためにOリング144を装着した。
また、中空パイプ138を貫入したボトムカバー142の開口には、中空パイプ138の内径面に嵌合し、且つボトムカバー142の下面に密接する形状であって、さらに中央に下部給排油ポート139を形成したフランジ145をボルト146で固定した。なお、中空パイプ138内径面の嵌合部及びボトムカバー142下面の密接部には、いずれもOリング147、148を装着した。
【0006】
このようなボトムカバー142を用いれば、ボルト143を外すことでボトムカバー142及び中空パイプ138は取り外し可能であるため、ピストン137をシリンダチューブ134の外部に容易に引き出すことができるので、ピストン137のパッキン150、151及び軸受メタル152、153の交換が容易となることを提案している。
【特許文献1】特公開2003−26378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1においては、ケージの自重Wと、最大積載荷重の約1/2の重量との加算した重量に釣り合うバランウェイトが設けられているため、従来例の図7に示す油圧シリンダ126では、図2に示すXb点の無負荷時においてはバランスウェイトの方が重くなり油圧シリンダに縮小方向の力が、また、Xc点の最大積載時においてはケージの方が重くなり油圧シリンダに伸長方向の力が作用している。
また、最大積載荷重の約1/2の積載重量であるXa点ではケージとバランスウェイトとがほぼ釣り合うために油圧シリンダに作用する力がほぼ零であり、これに伴って圧力もほぼ零になっている。このため、圧力が零の近辺(例えば、XLの範囲)では、ケージへの人間の昇降および/または搭載物等の荷重変化によりケージが瞬間的に揺れるという問題が生ずる。
【0008】
例えば、ケージを無負荷とし、バランスウェイト側の重量が重い状態、即ち、下部給排油ポート139側に繋がる室に圧力が発生している状態で、可逆回転油圧ポンプモータ133の圧油を上部給排油ポート135からシリンダ上部室136に供給してケージを上昇させる。このとき、ケージはバランスウェイト側の重量により下部給排油ポート139側に繋がる室の圧油を排出しながら上昇するため、可逆回転油圧ポンプモータ133から上部給排油ポート135に供給する圧油はXa点近辺の圧力で吐出している。この状態で上側の階で停止し、最大積載重量の人間がケージに搭乗すると、ケージ側が重くなり、その重量による圧力がシリンダ上部室136に生じ、ケージが瞬間的に若干下降してケージが揺れる。
【0009】
また、ケージに人間が搭乗して最大積載重量とし、ケージ側の重量が重い状態、即ち、上部給排油ポート135側に繋がるシリンダ上部室136に圧力が発生している状態で、可逆回転油圧ポンプモータ133の圧油を下部給排油ポート139からシリンダに供給してケージを下降させる。このとき、ケージはその重量により上部給排油ポート136側に繋がるシリンダ上部室136の圧油を排出しながら下降するため、可逆回転油圧ポンプモータ133から下部給排油ポート139に供給する圧油はXa点近辺の圧力を吐出している。この状態でケージを下降させ、下側の階で人間が降りるとバランスウェイト側が重くなり、ケージが瞬間的に若干上昇してケージが揺れる。この揺れる範囲は、例えば、圧油が収縮、油中の空気の収縮、あるいは、オイルシール等が収縮して容積が拡大する所定の範囲(圧力Pa)で発生する。
【0010】
また、油圧式エレベータは前記のように狭い場所に設置されているため、かごを昇降する油圧シリンダの整備性の向上が強く望まれている。特許文献1の図7においては、ボルト143を外すことでボトムカバー142及び中空パイプ138は取り外し可能であり、ピストン137をシリンダチューブ134の外部に容易に引き出すことができ、ピストン137のパッキン150、151及び軸受メタル152の交換が容易となることが記載されている。しかしながら、ボトムカバー142の下端部が構造物の基礎127aに取着されているため、ボトムカバー142を直接取り外すことが不可能であり、ピストン134を取り出すためには油圧シリンダ全体を昇降路により外部に取り出した後に、油圧シリンダを分解してパッキン、シールリング及び軸受メタルの点検あるいは交換を行われなければならない。このため、油圧シリンダ及びバランスウェイトを取り外した後、昇降路外に取り出すための作業が必要になり点検、交換等の整備に多大な工数がかかるという問題がある。
【0011】
また、図7に示す特許文献1の油圧エレベータの油圧回路では、可逆回転形の油圧ポンプモータ133が用いられているため、特別に製作した油圧ポンプモータ133が必要となり、設備費が高価になるとともに、故障時の製作に多大な納期が必要になりメンテナンス性が悪いという問題がある。
【0012】
本発明は上記の問題点に着目してなされたもので、第1の目的はエレベータに乗り降りするときに揺れが生ずることなく、安定して昇降する油圧式エレベータの油圧回路を提供する。第2の目的は、簡単な構成で、良好な整備性の油圧シリンダを用いた油圧式エレベータの油圧回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、油圧式エレベータの油圧回路の第1発明は、人および/または荷物積載用ケージを昇降するシリンダの油圧をバランスウェイトの付設により約1/2の油圧にして駆動源の動力を低減した油圧式エレベータの油圧回路であって、少なくともケージへの搭乗時および/または荷物搭載時に、その内圧を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、当該保持圧以下の所定圧以上とする複動シリンダまたはラム式シリンダを有していることを特徴としている。
【0014】
第2発明は、人および/または荷物積載用ケージを昇降するシリンダの油圧をバランスウェイトの付設により約1/2の油圧にして駆動源の動力を低減した油圧式エレベータの油圧回路であって、ケージに連結されるバランスウェイトと、ラムロッドの突出部がエレベータ機械室に、また、シリンダチューブがケージに付設される下降用ラム式シリンダと、ラムロッドの突出部がケージに、そしてまた、シリンダチューブがエレベータ機械室に付設される上昇用ラム式シリンダとからなることを特徴としている。
【0015】
第3発明は、人および/または荷物積載用ケージを昇降するシリンダの油圧をバランスウェイトの付設により約1/2の油圧にして駆動源の動力を低減した油圧式エレベータの油圧回路であって、ケージに連結されるバランスウェイトとラムロッドの突出部がエレベータ機械室に、また、シリンダチューブがケージに付設される下降用ラム式シリンダと、ラムロッドの突出部がケージに、また、シリンダチューブがエレベータ機械室に付設される上昇用ラム式シリンダとからなり、当該シリンタが少なくともケージへの搭乗時および/または荷物搭載時にその内圧を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、当該保持圧以下の所定圧以上であることを特徴としている。
【0016】
第4発明では、シリンダの油圧を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、当該保持圧以下の所定圧以上とする沈下防止装置を設けたことを特徴としている。
【0017】
また、第5発明では、沈下防止装置が、複動シリンダまたはラム式シリンダの昇降室のそれぞれに接続する一対のチェック弁と、チェック弁を介して複動シリンダまたはラム式シリンダの昇降室に圧油を供給する沈下防止用油圧ポンプと、沈下防止用油圧ポンプを駆動する沈下防止用電動モータと、ケージの停止を検出する位置センサ、ケージに人および/または荷物を搭載する所定階に呼ぶ昇降用スイッチ、エレベータドアの開スイッチ、タイマー、シリンダの昇降室の圧力を検出する圧力センサ、または、ケージに搭乗する人間の接近を検出する対人近接検出センサ等のいずれから信号を出力する信号出力手段と、信号出力手段からの信号を受けて沈下防止用電動モータを駆動する制御手段と、シリンダに供給する沈下防止用油圧ポンプの圧油を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、当該保持圧以下の所定圧以上にするリリーフ弁とからなることを特徴としている。
【0018】
第6発明では、沈下防止装置が、複動シリンダまたはラム式シリンダからタンクへの戻り油量を制御する制御弁と、シリンダからタンクへの戻り油の圧力を検出する圧力センサと、圧力センサからの信号を受けて前記制御弁に指令を出力し、タンクへの戻り油を絞り、シリンダ油圧を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、当該保持圧以下の所定圧以上にする制御手段とからなることを特徴としている。
【0019】
第7発明では、ケージの停止位置を検出する位置センサと、位置センサからの信号に応じてケージ停止位置を補正する圧油を複動シリンダまたはラム式シリンダに供給するレベル用油圧ポンプと、レベル用油圧ポンプを駆動するレベル用電動モータと、位置センサからの信号を受けてレベル用電動モータを駆動する制御手段とからなるレベル補正用装置を有することを特徴としている。
【0020】
また、第8発明では、ケージの非常停止時に、非常スイッチからの信号に応じて圧油を複動シリンダまたはラム式シリンダに供給する非常用油圧ポンプと、非常用油圧ポンプを駆動する非常用電動モータと、非常スイッチからの信号を受けて非常用電動モータを駆動する制御手段と、非常用油圧ポンプの圧油をシリンダの昇降室のいずれかに送給する切換弁とからなる非常用自動式ケージ昇降装置を有することを特徴としている。
【0021】
第9発明では、ケージの非常停止時に、圧油を複動シリンダまたはラム式シリンダに供給する非常用手動式油圧ポンプと、非常用手動式油圧ポンプの圧油をシリンダの昇降室のいずれかに送給する手動式切換弁とからなる非常用手動式ケージ昇降装置を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
第1発明によると、シリンダには、少なくともケージへの搭乗時および/または荷物搭載時に、最大積載重量またはバランスウエートにより生ずる保持圧、好ましくは、所定圧以上の圧油が供給されて蓄圧している。このため、ケージの上昇と下降、および/あるいは、ケージの無負荷と積載の切換えた時にケージが瞬間的に沈下および上昇するなどの動作、衝撃が無くなり搭乗性が向上する。
また、シリンダの内圧が最大積載重量または無負荷時の保持圧とすることにより、ケージと最大積載重量の約1/2のバランスウェートとの釣り合い状態から、最大に離間している最大積載重量または無負荷時に積載荷重が変更しても瞬間的に若干沈下および上昇することが確実になくなり安定して昇降し、搭乗性が向上する。または、圧力を好まし所定圧以上とすることにより、ケージへの積載荷重が変わってもケージが瞬間的に生ずる若干の沈下および上昇することがなくなるとともに、制御圧が小さくなり、より大きな省エネルギーが図れる。
【0023】
第2発明によると、上昇と下降に別々のラム式シリンダを用いているため、昇降速度を精度良く、かつ容易に制御できるとともに、ラム式シリンダのため構造が簡単になっている。また、ラム式シリンダのためシール類がロッドヘッドのみとなり、その着脱が容易になり点検、交換が容易となって整備性が向上する。また、油圧式エレベータに用いると、ラム式シリンダがケージの昇降時にケージを案内するため、従来のケージを案内するレールが不要となり、エレベータの構成を簡単化することができる。また、ケージが床に固定されたラム式シリンダにより支持されているため、エレベータ室の天井、柱等を強化する必要がなくなり、建屋を安価にできる。
【0024】
第3発明によると、前記の第1発明と第2発明の両者の効果が得られる。
【0025】
第4発明によると、沈下防止装置を設け、少なくともケージへの搭乗時および/または荷物搭載時に、複動シリンダまたはラム式シリンダの内圧を確実に最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、所定圧以上の油圧にしているため、昇降開始時に生ずる瞬間的な若干の沈下および上昇を確実に防止できる。
【0026】
第5発明によると、沈下防止用油圧ポンプの圧油が、リリーフ弁により最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、所定圧以上に調圧されてシリンダに供給されるため、簡単な構成で設定された圧力が得られる。これにより、前記と同様に、若干の沈下および上昇を確実に防止できるとともに、真空にも対応できる。
また、センサあるいはスイッチ等の信号出力手段により検出し、沈下防止用電動モータと沈下防止用油圧ポンプを作動させて所定の油圧を得るために、迅速にシリンダを所定の圧力に上昇でき、エレベータの待ち時間を短縮できる。また、シリンダに作用する負荷により真空が生じても昇降開始前にシリンダが保持圧、好ましくは、所定圧以上にされるため、昇降開始時には瞬間的に若干の沈下および上昇を確実に防止できる。
【0027】
第6発明によると、シリンダからタンクへの戻り油の圧力を圧力センサで検出し、その戻り油を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、所定圧以上に制御弁で制御することにより、確実に設定された圧力が得られる。これにより、簡単な構成で、昇降開始時の瞬間的に生ずる若干の沈下および上昇を確実に防止できる。
【0028】
第7発明によると、ケージの位置を位置センサで検出し、その位置がずれているときレベル補正用装置で補正するため、搭乗時あるいは荷物の積載時にずれがなく、安全に、安心して搭乗、積載することができる。
【0029】
第8発明によると、ケージの非常停止時に非常スイッチを操作することに自動的に降下あるいは上昇でき、簡単な操作で安全圏に移動できる。
【0030】
第9発明によると、停電時でも、非常用手動式油圧ポンプおよび手動式切換弁を操作することにより所定の階に移動できて、安心して搭乗出来るエレベータを得ることができる。
また、以上において、図1の油圧回路は市販製の油圧ユニットを用いることが可能になっているため、特別に製作する必要が無くなり、設備費が安価になるとともに、故障時にも容易に対応できてメンテナンス性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る油圧式エレベータの油圧回路の最良の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る油圧式エレベータの油圧回路図である。
図2は、本発明の実施例1に係る複動シリンダの停止時に伸長室、縮小室に生ずる保持圧を説明する図である。
図3は、本発明の実施例1に係るメータアウト制御によりシリンダに生ずる圧力の関係を説明する図である。
【実施例1】
【0032】
図1において本発明の実施例1に係る油圧式エレベータの油圧回路1は、複動シリンダ3と、複動シリンダ3を伸縮させる昇降用油圧装置5と、ケージ沈下防止装置7と、レベル補正用装置9と、非常用自動式ケージ昇降装置11と、非常用手動式ケージ昇降装置13とから形成されている。この油圧回路1は、詳細は後述するように、複動シリンダ3の速度制御がメータアウト制御により行なわれ、ケージCAが所定の昇降速度を得ている。
前記複動シリンダ3は、ケージ用ワイヤSと滑車Kを介してエレベータのケージCAに連結されている。例えば、複動シリンダ3には滑車Kが連結されるとともに、ケージCAは滑車Kに巻き掛けられたケージ用ワイヤSにより吊り下げられており、複動シリンダ3の伸縮に合わせて滑車Kおよびケージ用ワイヤSを介してケージCAを昇降する。あるいは、ケージCAは複動シリンダ3のピストンロッド蓋22aの一面に搭載されているように構成されていても良い。
【0033】
滑車Kは、バランス用ワイヤSr、固定滑車Krを介してバランスウエートWbに接続されており、バランスウエートWbを用いることによりケージCAおよび人間と荷物の積載重量Wtの昇降に必要な動力を小さくしている。ケージCAまたは複動シリンダ3の近傍には、その停止位置を検出するケージ用位置センサEsが、また、各階にはエレベータのケージCAをその階に呼ぶ上昇・下降用スイッチBsが配設されている。または、扉を開にする開スイッチ、あるいは、各階に配設されるエレベータ用の開閉扉の前に人が接近したことを検出する図示しない近接用センサを設けても良い。
【0034】
ケージCAの重量Waは、ケージCAの自重WsおよびケージCA内に搭乗する人間と荷物の積載重量Wtにより、全体の重量Wa(Wa=Ws+Wt)が設定されている。バランスウエートWbは、例えば、複動シリンダ3に作用するケージCAの自重Wsおよび滑車Kとピストンロッド22と両ワイヤS、Sr等のそれぞれの自重を加算された重量Wdと、積載重量Wtが最大積載重量Wmの約1/2とを加算した重量にほぼ等しく設定されており、積載物が約1/2の最大積載重量WmのときにバランスウエートWbにより複動シリンダ3の圧力がほぼ零になるようにしている。
【0035】
前記複動シリンダ3は、シリンダチューブ21と、シリンダチューブ21に枢密に挿入され、シリンダチューブ21に対して摺動自在に伸縮するピストンロッド22と、シリンダチューブ21に立設されるとともにピストンロッド22の内部に収容され、また、ピストンロッド22を摺動自在に支持するチューブピストン23とより形成されている。チューブピストン23はシリンダチューブ21の基端ブロック21aにあけられた穴に挿入されたピンにより、着脱自在に係止されている。複動シリンダ3は、シリンダを縮小する縮小室である第1空間室25と、シリンダを伸長する伸長室である第2空間室26と、シリンダの伸縮に伴って可変容積となる第3空間室27を有して形成されている。
第1空間室25および第2空間室26は、シリンダの軸芯に直行する断面積がほぼ同一面積により形成されている。
【0036】
シリンダチューブ21の下部には、基端ブロック21aが付設されており、基端ブロック21aがエレベータ機械室の床面Gに取着されている。複動シリンダ3は、ロッドカバー28とピストンロッド蓋22aが上側になるように図示しないエレベータ機械室の床面Gに設置されており、ロッドカバー28とピストンロッド22に付設されているシール類およびウエアリングの交換、点検を容易にしている。
この複動シリンダ3は、第1空間室25および第2空間室26が昇降用油圧装置5に接続されており、その圧油を受けて伸縮する。昇降用油圧装置5は、第1空間室25にシリンダチューブ21の孔21bより下降用配管31を介して下降用油圧ポンプ32(以下、下降用ポンプ32という)が、また、第2空間室26に基端ブロック21aより上昇用配管34を介して上昇用油圧ポンプ35(以下、上昇用ポンプ35という)が接続している。
【0037】
下降用ポンプ32は下降用電動モータ36に、また、上昇用ポンプ35は上昇用電動モータ37に連結されており、それぞれが後述する制御部47の指令により駆動されている。第3空間室27はタンク38に接続され、複動シリンダ3の伸縮に伴ってタンク38の油を給排している。または、第3空間室27は大気に連通しており、空気を給排している。
実施例1では、下降用ポンプ32と下降用電動モータ36および上昇用ポンプ35と上昇用電動モータ37とは、市販製の油圧ユニットを用いることを可能にしているため、設備費が安価になるとともに、故障時にも容易に対応できてメンテナンス性を向上している。
【0038】
下降用配管31には下降用ポンプ32から順次、下降用逆止弁40、上昇用流量計41が配設されている。また、下降用ポンプ32と下降用逆止弁40との間から分岐された第1配管31aには下降用リリーフ弁43が、下降用逆止弁40と上昇用流量計41との間から分岐された第2配管31bには上昇用電磁式制御弁44(以下、上昇用制御弁44という)が配設されている。
また、下降用配管31には上昇用圧力センサ45が付設されており、第1空間25に作用する圧力を検出し、その検出した圧力をコントローラ等の制御部47に送信している。また、下降用配管31に油温センサを付設し、検出した油温をコントローラ等の制御部47に送信し、油温に応じて上昇速度が一定になるように上昇用制御弁44を制御しても良い。更に、圧力・油温センサとしても良く、この上記センサを流量計に付設し、検出した流量、および、圧力と油温をコントローラ等の制御部47に送信しても良い。
【0039】
上昇用制御弁44は、チェック付のサーボ弁等により形成されており、複動シリンダ3が伸長してケージCAを上昇させるときに制御部47からの指令により作動し、第1空間室25の戻り油を位置(a)、(b)で詳細を後述するようメータアウト制御して複動シリンダ3を所定の速度で伸長させている。また、上昇用制御弁44は、複動シリンダ3が縮小しケージCAを下降させるときに位置(c)でチェック弁を介してタンク38の油を通過させ、第1空間室25に供給して真空になることを防止している。また、上昇用流量計41と第1空間室25との間の下降用配管31に真空防止弁を配設しても良い。
上昇用流量計41は第1空間室25からタンク38に戻る油の流量を測定しており、その流量を制御部47に送信している。
【0040】
制御部47は、上昇用流量計41、上昇用圧力センサ45からの流量信号、圧力信号を受けて、ケージCAの上昇時の圧力をROM等の記憶装置に記憶するとともに、ケージCAの上昇速度が所定範囲に入るように上昇用制御弁44に指令信号を出力している。
また、制御部47は、ケージ用位置センサEsよりケージCAが停止した信号を受けて、ケージ沈下防止装置7に指令を出力して作動させ、少なくとも次のケージCAへの搭乗時または荷物搭載時に複動シリンダ3の圧力が所定圧Pd以上になるようにしている。または、次のケージCAへの搭乗時または荷物搭載時に複動シリンダ3の圧力が無負荷時若しくは最大積載時の保持圧Pmになるようにしている。
【0041】
上昇用配管34には上昇用ポンプ35から順次、上昇用逆止弁50、下降用流量計51が配設されている。また、上昇用ポンプ35と上昇用逆止弁50との間から分岐された第3配管34aには上昇用リリーフ弁53が、上昇用逆止弁50と下降用流量計51との間から分岐された第4配管34bには下降用電磁式制御弁54(以下、下降用制御弁54という)が配設されている。
また、上昇用配管34には、下降用圧力センサ55が付設されており、第2空間26に作用する圧力を検出し、その検出した圧力をコントローラ等の制御部47に送信している。また、下降時にも前記の上昇装置と同様に構成し、上昇用配管34にも油温センサを付設して油温に応じて下降速度が一定になるように下降用制御弁54を制御しても良い。また、前記の下降用リリーフ弁43および上昇用リリーフ弁53は、後述する実施例1のメータアウト制御に示すように、図示しないソレノイド等を用いた電磁式とし、制御部47からの指令に応じて下降用ポンプ32、上昇用ポンプ35の吐出圧を可変に制御することができる。
【0042】
下降用制御弁54は、チェック付のサーボ弁等により形成されており、複動シリンダ3が縮小してケージCAを下降させるときに制御部47からの指令により作動し、第2空間室26の戻り油を位置(d)、(e)でメータアウト制御して複動シリンダ3を所定の速度で縮小させている。下降用制御弁54は、複動シリンダ3が伸長しケージCAを上昇させるときに位置(f)でチェック弁を介してタンク38の油を通過させ、第2空間室26に供給して真空になることを防止している。また、下降用流量計51と第2空間室26との間の上昇用配管34に真空防止弁を配設しても良い。
下降用流量計51は第2空間室26からタンク38に戻る油の流量を測定しており、その流量を制御部47に送信している。
【0043】
制御部47は、下降用流量計51、下降用圧力センサ55からの流量信号、圧力信号を受けて、ケージCAの下降時の圧力をROM等の記憶装置に記憶するとともに、ケージCAの下降速度が所定範囲に入るように下降用制御弁54に指令信号を出力している。また、制御部47は、ケージ用位置センサEsよりケージCAが停止した信号を受けて、ケージ沈下防止装置7に指令を出力して作動させ、少なくとも次のケージCAへの搭乗時または荷物搭載時に複動シリンダ3の圧力が所定圧以上Pdになるようしている。または、前記の上昇時と同様に、無負荷時の保持圧若しくは最大積載時の保持圧になるようにしている。
【0044】
ケージ沈下防止装置7は、沈下防止用油圧ポンプ7a、沈下防止用電動モータ7b、一対の沈下防止用逆止弁7c、7d、沈下防止用リリーフ弁7e、一対の沈下防止用絞り7f、7f、上昇用圧力センサ45、下降用圧力センサ55、タンク38、ケージ用位置センサEs、上昇・下降用スイッチBs、制御部47により形成されている。沈下防止用油圧ポンプ7aは、沈下防止用逆止弁7c、第5配管31cを介して下降用配管31に、また、沈下防止用逆止弁7d、第6配管34cを介して上昇用配管34に、逆止弁40、50と複動シリンダ3との間で、それぞれに接続されている。沈下防止用リリーフ弁7eは、セット圧が所定圧Pd以上、または、無負荷時若しくは最大積載時の保持圧Pmになるように調整されている。一対の沈下防止用絞り7fは、沈下防止用リリーフ弁7eで調圧した沈下防止用油圧ポンプ7aの圧油を緩衝して複動シリンダ3の第1空間室25および第2空間室26に供給している。
【0045】
ケージ沈下防止装置7は次のように作動する。ケージ沈下防止装置7は、ケージ用位置センサEsからケージCAの停止した信号を制御部47が受け、制御部47は停止信号に応じて沈下防止用電動モータ7bに駆動信号を送り、沈下防止用電動モータ7bを駆動する。沈下防止用電動モータ7bは沈下防止用油圧ポンプ7aを回転させ、圧油を吐出させる。
沈下防止用油圧ポンプ7aの圧油は、沈下防止用リリーフ弁7eにより所定圧Pd、または、無負荷時若しくは最大積載時の保持圧Pmに調圧され、一対の沈下防止用絞り7f、7fおよび一対の沈下防止用逆止弁7c,7dを介して複動シリンダ3の第1空間室25および第2空間室26に供給される。複動シリンダ3は、第1空間室25および第2空間室26の断面積がほぼ等しく設定されているため、伸縮することなく内部の油圧が上昇し、第1空間室25および第2空間室26が等しい所定圧Pd、または、無負荷時若しくは最大積載時の保持圧Pmに上昇する。
この所定圧Pdは、最大積載重量または無負荷時の保持圧以下で、複動シリンダ3が沈下あるいは上昇が起こらない範囲に設定している。この所定圧Pd、または、無負荷時若しくは最大積載時の保持圧Pmは、沈下防止用リリーフ弁7eの調圧により容易に設定できる。
【0046】
上記では、ケージ沈下防止装置7は、制御部47がケージ用位置センサEsからケージCAの停止した信号を受けて指令を出力したが、次のケージCAへの搭乗時および/または荷物搭載時の間にタイマーにより所定間隔毎、複動シリンダ3が最大積載重量または無負荷時の保持圧以下になったのを上昇用圧力センサ45および下降用圧力センサ55で検出したとき、あるいは、次の搭乗のための扉開信号を受けて沈下防止用電動モータ7bを起動し、沈下防止用油圧ポンプ7aの圧油を複動シリンダ3に吐出させても良く、また、上記を適宜組み合わせて使用しても良い。
これにより、複動シリンダ3が少なくともケージCAへの搭乗時および/または荷物搭載時に、その内圧が最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、最大積載重量または無負荷時の保持圧以下の所定圧になっている。また、前記の沈下防止用リリーフ弁7eは、後述する実施例に示すように、図示しないソレノイド等を用いた電磁式とし、制御部47からの指令に応じて沈下防止用油圧ポンプ7aの吐出圧を可変に制御することができる。
【0047】
または、ケージ沈下防止装置7は次のように作動させても良い。ケージ沈下防止装置7は、ケージCAの昇降時に複動シリンダ3に生ずる油圧を上昇用圧力センサ45または下降用圧力センサ55で検出して制御部47に送る。制御部47は、その送られた油圧信号が設定されている沈下防止の所定圧Pdよりも低いときにはROM等の記憶装置に記憶して置き、ケージCAが停止したときにその停止信号をケージ位置センサEsより受けて、沈下防止用電動モータ7bに始動信号を出力する。沈下防止用電動モータ7bは始動信号を受けて回転して沈下防止用油圧ポンプ7aを駆動し、沈下防止用油圧ポンプ7aより圧油を発生させ、沈下防止用逆止弁7c、7dを介して複動シリンダ3に送給させる。
【0048】
複動シリンダ3は、沈下防止用リリーフ弁7eにより調整された所定圧Pdの圧油を受け、その内部の圧力を瞬間的に上昇する。この所定圧Pdの圧油は、次の昇降時に、制御部47からの指令により上昇用制御弁44または下降用制御弁54が当初滑らかに切換りながら減圧され、その後にメータアウト制御を行われ、その圧力を所望する必要圧力にしている。これにより、次にケージCAが昇降するときには、瞬間的に沈下または上昇することなく滑らかに起動する。
なお、上記でケージCAの昇降時の油圧が所定圧Pdの場合には、制御部47はケージ沈下防止装置7に指令を出力せず、複動シリンダ3は昇降時の圧力を保持している。
上記において、沈下防止用リリーフ弁7eが所定圧Pdでなく、無負荷時若しくは最大積載時の保持圧Pmに設定されている場合には、複動シリンダ3の内圧はリリーフ弁7eによる保持圧Pmに調圧されている。
【0049】
レベル補正用装置9は、補正用油圧ポンプ9a、補正用電動モータ9b、補正用電磁式切換弁9c、補正用リリーフ弁9d、補正用絞り弁9e、タンク38、制御部47、ケージ用位置センサEs等により形成されている。補正用油圧ポンプ9aは、補正用電磁式切換弁9cに接続されている第7配管31dを介して下降用配管31に、また、第8配管34dを介して上昇用配管34に、逆止弁40、50と複動シリンダ3との間で、それぞれに接続されている。補正用リリーフ弁9dは無負荷時若しくは最大積載時の保持圧Pm以上のセット圧に調整されている。
【0050】
レベル補正用装置9は、制御部47がケージCAの停止位置を検出するケージ用位置センサEsに接続されており、ケージCAの停止位置が所定間隔以上ずれたことを検出した信号を受けたときに、補正用電動モータ9bに始動信号を出力する。また、制御部47は停止位置のずれた方向の信号に応じて補正用電磁式切換弁9cを切換えて補正用油圧ポンプ9aの圧油を複動シリンダ3に送給してケージCAの位置が正規の停止位置になるように補正している。このとき、複動シリンダ3の戻り油は補正用電磁式切換弁9cを経て補正用絞り弁9eに至り、補正用絞り弁9eで戻り油が絞られて複動シリンダ3は緩慢に伸長または縮小している。
例えば、ケージCAが所定間隔以上に下降した場合には、補正用電磁式切換弁9cをa位置に切換えて、補正用油圧ポンプ9aの圧油を第8配管34d、上昇用配管34を介して第2空間室26に供給して複動シリンダ3を伸長してケージCAの位置が正規の停止位置になるように補正している。このとき、補正用リリーフ弁9dが無負荷時若しくは最大積載時の保持圧Pm以上のセット圧に調整されているため、複動シリンダ3は沈下することなく滑らかに上昇する。
【0051】
非常用自動式ケージ昇降装置11は、詳細は図5に示すが、図1ではレベル補正用装置9と同様に構成されている。図5において、非常用自動式ケージ昇降装置11は、非常用油圧ポンプ11a、非常用電動モータ11b、非常用電磁式切換弁11c、非常用リリーフ弁11d、非常用絞り弁11e、タンク38、非常用スイッチ11f(図4に示す)、制御部47等により形成されている。
非常用スイッチ11fは、例えば、ケージCA内に配設されており、図1に示す上昇・下降スイッチBsと同様に制御部47に接続され、非常時にケージCAに搭乗した人により操作される。非常用油圧ポンプ11aは、非常用電磁式切換弁11cに接続されている第9配管31eを介して下降用配管31に、また、第10配管34eを介して上昇用配管34に、流量計41、51と逆止弁40、50との間で、それぞれに接続されている。非常用リリーフ弁9dは、無負荷時若しくは最大積載時の保持圧Pm以上のセット圧に調整されている。
【0052】
非常用自動式ケージ昇降装置11は、昇降用油圧装置5が故障した場合にケージCA内に搭乗した人による非常用スイッチ11fの操作信号を受けて非常用電動モータ11bが始動する。また、非常用スイッチ11fの操作により、非常用電磁式切換弁11cが切換るとともに、非常用電動モータ11bが非常用油圧ポンプ11aを駆動し、その圧油が非常用電磁式切換弁11cを経て複動シリンダ3に送給される。複動シリンダ3は、伸長または縮小してケージCAを近い階に停止させる。このとき、複動シリンダ3の戻り油は非常用電磁式切換弁11cを経て非常用絞り弁11eに至り、非常用絞り弁11eで戻り油が絞られて複動シリンダ3は緩慢に伸長または縮小している。
【0053】
非常用手動式ケージ昇降装置13は、手動式油圧ポンプ13a、手動式切換弁13b、手動用リリーフ弁13c、手動用絞り弁13d、タンク38等により形成されている。手動式油圧ポンプ13aは、手動式切換弁13bに接続されている第11配管31fを介して下降用配管31に、また、第12配管34fを介して上昇用配管34に、逆止弁40、50と複動シリンダ3との間で、それぞれに接続されている。手動式非常用リリーフ弁9dは、無負荷時若しくは最大積載時の保持圧Pm以上のセット圧に調整されている。
非常用手動式ケージ昇降装置13は、停電等によりエレベータが停止した場合に人により操作される。人の操作により手動式切換弁13bが切換り、また、人により手動式油圧ポンプ13aが操作され、その圧油が手動式切換弁13bを経て複動シリンダ3に送給される。複動シリンダ3は、操作に応じて伸長または縮小してケージCAを次の階に停止させる。このとき、複動シリンダ3の戻り油は手動式切換弁13bを経て手動用絞り弁13dに至り、手動用絞り弁13dで戻り油が絞られて複動シリンダ3は緩慢に伸長または縮小している。
【0054】
次に、本発明の実施例1に係る油圧式エレベータの油圧回路1の作動について説明する。
最初に複動シリンダ3に作用する圧力について図2、図3を用いて説明する。図2、図3は、横軸に積載荷重Wtを示し、その左側の縦軸Xbで積載荷重Wtが零(Wo)を、また、右側の縦軸Xcで最大積載荷重Wmを記しており、左側の縦軸から右側の縦軸に移動すると積載荷重Wtが増している。縦軸Xb、Xcは複動シリンダ3に生ずる保持圧Ptを示す。バランスウエートWbは最大積載重量Wmの1/2に設定されており、中央点のXa点で複動シリンダ3に生ずる保持圧Ptを零にしている。
【0055】
複動シリンダ3が伸縮なしの停止時には、図2に示すように、積載荷重Wtが零Woから最大積載重量Wmの1/2の間、即ち、横軸XbからXaの間は、バランスウエートWbの方が重いためピストンロッド22は引張力を受けており、一点鎖線(A)で示すごとく複動シリンダ3には伸長力により第1空間25に保持圧Ptが生じている。この保持圧Ptは積載重量Wtが零Woで最大保持圧Pmoとなっている。
また、積載荷重Wtが最大積載重量Wmの1/2から最大積載重量Wmの間、即ち、横軸XaからXcの間は、ケージCAの方が重いためピストンロッド22が収縮力を受けており、二点鎖線(B)に示すごとく複動シリンダ3には縮小力により第2空間26に保持圧Ptが生じている。この保持圧Ptは積載重量Wtが最大積載重量Wmで最大保持圧Pmmとなっている。上記において、それぞれの反対側の第2空間26および第1空間25は、保持圧Ptが零となっている。
【0056】
なお、図2において、保持圧Pmoと、保持圧Pmmは、第1空間室25と第2空間室26の断面積が等しいこと、また、バランスウエートWbが最大積載重量Wmの1/2に設定されていることにより、中央点のXaを中心として左右対称の等しい保持圧Ptとなっており、積載荷重Wtが零Woおよび最大積載重量Wmには最大保持圧Pmとなっている。この保持圧Ptは、積載荷重Wtに対するバランスウエートWbの重量、または、第1空間室25と第2空間室26の断面積を変更することにより変わり、最大積載時または無負荷時のいずれかの圧力が最大値となり、この最大保持圧Pmo、Pmmのいずれかに合わせてリリーフ弁7eを設定すれば良い。
【0057】
次に、バランスウエートWbの重量が最大積載重量Wmの1/2に設定された場合における従来の油圧回路で生ずる不具合について図2を用いて説明する。
例えば、XaとXbの間では、バランスウエートWbの方の重量が大きいため、第1空間室25はバランスウエートWbの重量を受けて保持圧Ptが生じており、第2空間室26は低圧になっている。この状態でケージCAに搭乗あるいは積載物を搭載すると、搭乗により第2空間室26に保持圧Ptが生ずるが、第2空間室26が低圧のためケージCAが瞬間的に下降することが生じて搭乗性が悪くなる。
同様に、XaとXcの間では、バランスウエートWbの方の重量が小さいため、第2空間室26は積載重量Wtを受けて保持圧Ptが生じており、第1空間室25は低圧になっている。この状態で搭乗している人、あるいは、積載物を降ろすと、バランスウエートWbが重くなり第1空間室25に保持圧Ptが生ずるが、前記と同様に第1空間室25が低圧のため、ケージCAが瞬間的に上昇することが生じて搭乗性が悪くなる。このように、圧力が零の近辺(例えば、XLの範囲)では、ケージへの人間の昇降等の荷重変化によりケージが瞬間的に揺れるという問題が生ずる。
【0058】
これを防止するため、図3に示すごとく、停止時に、複動シリンダ3の第1空間室25および第2空間室26の油圧が中央点のXa点で最大保持圧Pmに、好ましくは最大保持圧Pm以下で所定圧Pd以上になるようにしている。このために、制御部47は、ケージCAの停止信号を用いて沈下防止用油圧ポンプ7aを作動させて停止時に、好ましくは、少なくとも次のケージCAの搭乗時前および/または荷物搭載時前に圧油を複動シリンダ3に供給している。これに伴って、少なくとも次のケージCAの搭乗時および/または荷物搭載時に複動シリンダ3の第1空間室25および第2空間室26の油圧が瞬間的に上昇し、複動シリンダ3が所定圧Pd、または最大保持圧Pmの圧油を蓄えている。これにより、ケージCAの積載重量Wtが切換えられたときにケージCAが瞬間的に沈下または上昇することがなくなる。
【0059】
圧油の所定圧Pdは、図2に示すように、ケージCAに搭載される重量が最大積載荷重Wmになっても複動シリンダ3の圧油が圧縮により瞬間的な沈下または上昇などがほぼ起こらない圧力に、または、許容できる若干の沈下および上昇の範囲の圧力に設定されている。この設定圧は試験等により設定される。
または、バランスウエートWbの重量が最大積載重量Wmの約1/2よりも重い場合には無負荷時に発生する最大保持圧Pmoが最大積載時に発生する最大保持圧Pmmよりも大きくなり、また反対に軽い場合には最大積載時に発生する最大保持圧Pmmが大きくなり、リリーフ弁7eは、この最大保持圧Pmo、Pmmのいずれかに合わせて設定すると良い。
なお、以下では最大保持圧Pmoと最大保持圧Pmmは等しい場合について最大保持圧Pmとして説明する。
【0060】
次に、上記の瞬間的に沈下および上昇を防止するメータアウト制御について図3を参照して説明する。実施例1のメータアウト制御では、図2の保持圧が高いときには、下降用ポンプ32の圧力を下降用リリーフ弁43で、また、上昇用ポンプ35の圧力を上昇用リリーフ弁53で調圧し、その吐出圧力を保持圧Ptに応じて調整して圧油を複動シリンダ3に供給している。
例えば、積載荷重が零(Wo)および最大積載荷重WLの保持圧が高い場合には、ポンプ32、35から低い吐出圧力の圧油を、また、積載荷重がWL/2(中央点のXa点)の保持圧が低い場合にはポンプ32、35から高い吐出圧力の圧油を供給する。このように、ポンプ32、35の吐出圧力を適宜選択することにより、戻し油の圧力を略一定にすることができる。これにより、複動シリンダ3からタンク38への戻り油の圧力は小さい圧力差にでき、また、上昇用制御弁44あるいは下降用制御弁54での絞りの面積差を小さくできて、流量精度を向上することができる。
【0061】
メータアウト制御は、図3に一例を示すように、複動シリンダ3が伸縮する作動時において、第1空間室25の圧力は点線(D)に示すように横軸XbからXcに向けて漸次低下させ、また、反対に第2空間室26の圧力は実線(E)に示すように、横軸XbからXcに向けて漸次増加するようにしている。なお、この実施例では、中央点のXa点で増減量(傾斜角度)を変化させてメータアウトの制御をしているが一直線、あるいは、曲線にしても良い。
以下では、リリーフ弁7eのセット圧が所定圧Pdに設定されている例で説明するが、前記のように無負荷時または最大積載時に発生する最大保持圧Pmに設定するようにしても良く、この場合にも同様に制御すればよい。
【0062】
図3において、先ず、ケージCAを上昇する場合について説明する。
積載重量Wtが横軸XbとXaの間(例えば、点Xe)では、ケージCA側の重量よりもバランスウエートWbの方の重量が重くなっており、停止時にはバランスウエートWbにより第1空間室25に保持圧Pteが生じている。この状態で、ケージCAを上昇させるために、上昇用ポンプ35を始動させて吐出圧力Peの圧油を第2空間室26に送給する。この圧力Peはピストンロッド22を介して第1空間室25の保持圧Pteを戻り圧Preの圧油に上昇させる。バランスウエートWbおよび吐出圧力Peにより生じた第1空間室25の戻り圧Preの圧油は、タンク38へ戻る途中で制御部47からの指令により作動する上昇用制御弁44の位置(a)により絞られて所定圧、即ち、一定の流量になるようにメータアウト制御される。上昇用制御弁44はタンク38への戻り油量を制御してケージCAの上昇速度を一定に保っている。このときの上昇用ポンプ35の吐出圧Peは、積載重量Wtによる保持圧Pteと設定した戻り圧Preとに応じて設定された上昇用リリーフ弁53により調圧されている。
【0063】
積載重量Wtが横軸XaとXcの間(例えば、点Xf)では、バランスウエートWbの重量よりもケージCA側の方の重量が重くなっており、停止時にはケージCA側の方の重量により第2空間室26に保持圧Ptfが生じている。この状態で、ケージCAを上昇させるために、上昇用ポンプ35を始動させて保持圧Ptf以上の吐出圧力Pfの圧油を上昇用ポンプ35から第2空間室26に送給する。この吐出圧力Pfはピストンロッド22を介して第1空間室25の戻り油に作用し、戻り油を略零(Pfo)から戻り圧Pfrとしている。積載重量Wtによる保持圧Ptfと吐出圧力Pfとの差により生じた第1空間室25の戻り圧Pfrの圧油がタンク38へ戻る途中で上昇用制御弁44により絞られて所定の戻り圧になるようにメータアウト制御される。
【0064】
上昇用制御弁44はタンク38への戻り油量を制御してケージCAの上昇速度を一定に保っている。このとき、上昇用ポンプ35は、第2空間室26に吐出する油量によってケージCAの上昇速度を一定に保っており、その吐出圧Pfは積載重量Wtと設定した戻り圧Pfrとに応じて設定された上昇用リリーフ弁53により調圧されている。
上記では、複動シリンダ3の第1空間室25および第2空間室26の平均値の圧力は所定圧Pd以下となっている。このため、ケージCaが上昇して所定階で停止すると、その停止が位置センサESで検出されて制御部47に送信され、制御部47はケージ沈下防止装置7を作動させて複動シリンダ3の第1空間室25および第2空間室26の圧力は所定圧Pdにしている。
【0065】
次に、ケージCAを下降する場合について説明する。
積載重量Wtが横軸XbとXaの間(例えば、点Xe)では、前記の上昇時のごとくバランスウエートWbにより第1空間室25に保持圧Pteが生じており、この状態でケージCAを下降するために下降用ポンプ32を始動させて、保持圧Pteが生じている第1空間室25に下降用ポンプ32の吐出圧力Preの圧油を送給する。この吐出圧力Preにより第2空間室26の零より生じた戻り圧peの圧油を下降制御弁54の位置(d)で絞り、所定圧にするとともに、その戻り流量を一定にするメータアウト制御を行なう。これにより、ケージCAは、下降用ポンプ32の吐出油量と下降制御弁54の油量制御により一定の下降速度が得られる。
【0066】
また、積載重量Wtが横軸XaとXcの間(例えば、点Xf)では、前記の上昇時のごとくケージCA側の重量により第2空間室26に保持圧Ptfが生じており、この状態でケージを下降するために下降用ポンプ32を始動させて、下降用ポンプ32から第1空間室25に吐出圧力Pfrの圧油を送給する。この吐出圧力Pfrは、ピストンロッド22を介して第2空間室26の保持圧Ptfを加圧し戻り圧Pfの圧油にする。第2空間室26の戻り油は、タンク38に戻る途中で下降用制御弁54の位置(d)により絞られて所定の戻り圧になるようにメータアウト制御される。下降用ポンプ32は、第1空間室25に吐出する油量と、第2空間室26からの戻り油量の制御によってケージCAの下降速度を一定に保っており、その吐出圧Pfrは積載重量Wtによる保持圧Ptfと設定した戻り圧Pfに応じて設定された下降用リリーフ弁43により調圧されている。
【0067】
このとき、複動シリンダ3の第1空間室25および第2空間室26の圧力は所定圧Pd以下となっている。このため、ケージCaが下降して所定階で停止すると、上昇時と同様に、その停止が位置センサESで検出されて制御部47に送信され、制御部47はケージ沈下防止装置7を作動させて複動シリンダ3の第1空間室25および第2空間室26の平均値の圧力は所定圧Pdにしている。
これにより、次のケージCAへの搭乗時および/または荷物搭載時には、複動シリンダ3の内圧が最大保持圧Pm以下の所定圧Pdになっており、ケージCAへの負荷が変動しても沈下あるいは上昇等の発生を防止できる。
【0068】
次に、実施例1の油圧回路1を用いた油圧式エレベータの作動について説明する。
例えば、油圧式エレベータに搭乗して上階に行きたい人は、搭乗する階にあるケージCAの外側にある上昇スイッチBsを押釦する。この上昇信号は制御部47に送られ、制御部47は、ケージCAが搭乗する階にあるとき、扉を開く指令を出力する前に、ケージ沈下防止装置7を作動させて、沈下防止用リリーフ弁7eで所定圧Pdに調圧された沈下防止用油圧ポンプ7aの圧油を複動シリンダ3の第1空間室25および第2空間室26に供給する。複動シリンダ3は、第1空間室25および第2空間室26が瞬間的に沈下および上昇しない等しい所定圧Pdに上昇する。この後に、制御部47は扉を開く指令を出力して扉を開く。これにより、ケージCAに最大人員が搭乗しても瞬間的に沈下することが無くなる。このとき、制御部47は複動シリンダ3が所定圧Pdに上昇したことを圧力センサ45,55で検出した後に、扉を開くと安全性が向上して良い。
【0069】
ケージCAが搭乗する階に無いときには、制御部47はケージCAを搭乗する階に移動させるために昇降用油圧装置5を作動させる。例えば、ケージCAを下の階より上の階に移動させるときには、制御部47は、上昇用電動モータ37に指令を出力して上昇用ポンプ35を駆動させて圧油を発生させる。この圧油は、上昇用逆止弁50、上昇用流量計51を経て基端ブロック21aから第2空間室26に送られ、複動シリンダ3のピストンロッド22は伸長する。
ピストンロッド22の伸長に伴って、第1空間室25が縮小されて内部の油が下降用配管31から排出される。このとき、上昇信号は制御部47にも送られており、制御部47は上昇用制御弁44を作動させている。
【0070】
第1空間室25からの戻り油は、下降用配管31から上昇用流量計41、および、分岐された第2配管31bを経て上昇用制御弁44に至り、上昇用制御弁44で流量がメータアウト制御されてタンク38に戻る。この戻り油は、上昇用流量計41で流量を、また、上昇用圧力センサ45で圧力を計測されて制御部47に送信される。制御部47は、圧力に応じた指令値を上昇用制御弁44に出力して戻り油を絞り、油圧エレベータの上昇速度が所定範囲に入るように上昇用制御弁44により流量をメータアウト制御している。上昇用ポンプ35の流量を第2空間室26が受けて複動シリンダ3は伸長し、ケージCAを搭乗する階に移動させた後に伸長を停止し、ケージCAを所定階に停止する。
【0071】
このとき、制御部47はケージCAが停止したのをケージ用位置センサEsより受けてケージ沈下防止装置7を作動する。ケージ沈下防止装置7は、沈下防止用電動モータ7bを始動し、防止用油圧ポンプ7aより圧油を複動シリンダ3に送給する。複動シリンダ3は、第1空間室25および第2空間室26の油圧が上昇し、沈下防止用リリーフ弁7eにより所定圧Pd以上に調整される。これにより、次にケージCAに搭乗時および/または荷物搭載時には、第1空間室25および第2空間室26の油圧が所定圧Pdになっているため、瞬間的に沈下または上昇することなく滑らかに起動する。
【0072】
油圧式エレベータで下降したいときには、同様にケージCAの外側で、搭乗する階にある下降スイッチBsを押釦する。ケージCAが搭乗する階にあるときには、前記の上昇時と同様に、扉を開く前にケージ沈下防止装置7を作動させて、複動シリンダ3の第1空間室25および第2空間室26の圧力を所定圧Pdに上昇する。
ケージCAが搭乗する階に無いときには、制御部47はケージCAを搭乗する階に移動させるために昇降用油圧装置5を作動させる。例えば、ケージCAを上の階より下の階に移動させるときには、制御部47は、下降用電動モータ36に指令を出力して下降用ポンプ32を駆動させて圧油を発生させる。この圧油は、下降用逆止弁40、上昇用流量計41を経て第1空間室25に送られ、複動シリンダ3のピストンロッド22は縮小する。
ピストンロッド22の縮小に伴って、第2空間室26が縮小されて内部の油が上昇用配管34から排出される。下降スイッチBsの下降信号は制御部47から下降用制御弁54にも送られており、下降用制御弁54を作動している。
【0073】
第2空間室26からの戻り油は、上昇用配管34から下降用流量計51を経て下降用制御弁54に至り、下降用制御弁54で流量をメータアウト制御されてタンク38に戻る。この戻り油は、下降用流量計51で流量を、また、下降用圧力センサ55で圧力を計測されて制御部47に送信される。制御部47は、圧力に応じた指令値を下降用制御弁54に出力して戻り油を絞り、油圧エレベータの下降速度が所定範囲に入るように下降用制御弁54により流量をメータアウト制御している。下降用ポンプ32の流量を第1空間室25が受けて複動シリンダ3は縮小し、ケージCAを搭乗する階に移動させた後に縮小を停止し、ケージCAを所定階に停止する。
【0074】
このとき、制御部47は、ケージCAが停止したのをケージ用位置センサEsより受けてケージ沈下防止装置7を作動する。ケージ沈下防止装置7は、上昇時と同様に作動して複動シリンダ3の第1空間室25および第2空間室26の油圧を所定圧Pdに上昇させる。これにより、次にケージCAが昇降するときには、瞬間的に沈下または上昇することなく滑らかに起動する。上記のごとく、少なくとも次の昇降時には複動シリンダ3を所定圧Pd以上に上昇するようにすれば良い。
【0075】
上記の油圧式エレベータでは、複動シリンダ3には、ケージCAの自重Wtおよび積載荷重WtはバランスウエートWbにより軽減され、積載荷重Wtのみの重量となって作用しているため、複動シリンダ3を小さい圧力で伸縮することが可能になっている。また、複動シリンダ3は第1空間室25および第2空間室26の小さい容積の圧油を給排することにより下降用ポンプ32および上昇用ポンプ35は吐出量が少なくて済み、また、メータアウト制御でもポンプの供給圧をできるだけ低くすることにより、戻り油の絞り圧を低くして制御しているため、小さい駆動力で駆動されるので省エネルギー化を図ることができる。
例えば、積載荷重が750Kgで、速度が45m/minの場合には、従来に比べて、約1/3の電力でケージCAを昇降できる。
【0076】
上記において、制御部47は、ケージCAの停止をケージ用位置センサEsにより検出し、その停止信号によりケージ沈下防止装置7を作動させ、少なくとも次の昇降時には複動シリンダ3を所定圧Pd以上にしたが、次のようにしても良い。
(1)制御部47にコントローラ等を用いて、設定されている所定圧Pd(または最大保持圧Pm)と、圧力センサ45、55で計測された昇降時の戻り圧とを比較し、計測された戻り圧が設定されている所定圧Pd(または最大保持圧Pm)よりも低いときにケージ沈下防止装置7を起動し、複動シリンダ3の圧力を所定圧Pd(または最大保持圧Pm)にしても良い。
このとき、制御部47は、複動シリンダ3の第1空間室25と第2空間室26との圧力の平均値を算出し、ケージ停止時にその値が所定圧Pd(または最大保持圧Pm)にあるようにすると良い。
(2)上記では制御部47にコントローラ等を用いたが、ケージCAの停止および上昇・下降スイッチBsの押釦の信号を受けるリレースイッチ等を設け、このリレースイッチ等を作動させてケージ沈下防止装置7を起動し、複動シリンダ3の圧力を所定圧Pdまたは最大保持圧Pmにしても良い。
(3)ケージCAが押釦された階にあるときには、扉を開く前にケージ沈下防止装置7を作動させたが、複動シリンダ3の圧力を圧力センサ45、55で検出し、その圧力が所定圧Pdまたは最大保持圧Pmにあるときにはケージ沈下防止装置7を作動させずに直ちにエレベータの扉を開いても良い。
(4)エレベータの待機中に、複動シリンダ3の圧力を圧力センサ45、55で検出し、その圧力が所定圧Pdまたは最大保持圧Pm以下になったときに、ケージ沈下防止装置7を起動し、複動シリンダ3の圧力を絶えず所定圧Pdまたは最大保持圧Pmに維持するようにしても良い。
(5)エレベータの待機中に、所定時間毎にタイマー等でケージ沈下防止装置7を起動し、複動シリンダ3の圧力を所定圧Pdまたは最大保持圧Pmにしても良い。
(6)エレベータの開閉扉に人が接近したのを近接用センサにより検出し、ケージ沈下防止装置7を作動させても良い。これにより、複動シリンダ3を迅速に所定圧Pdまたは最大保持圧Pmにして扉を開くまでの時間を短縮できる。
(7)上記を組み合わせてケージ沈下防止装置7を作動させても良い。
【実施例2】
【0077】
次に、本発明の実施例2に係る油圧式エレベータの油圧回路1Aについて図4から図6を用いて説明する。
なお、実施例1と同一の部品は同一の符号を付して説明は省略する。
図4は、本発明の実施例2に係るエレベータのケージとラム式シリンダとバランスウェートの構成図である。
図5は、本発明の実施例2に係る油圧式エレベータの油圧回路図である。
図6は本発明の実施例2に係るメータアウトによりシリンダに生ずる圧力の関係を説明する図である。
なお、複動シリンダ3を所定圧Pdまたは最大保持圧Pmにするとき、前記実施例1ではケージCAの停止を検出しケージ沈下防止装置7を作動させて行ったが、実施例2ではケージCAの昇降時のメータアウト制御で行っている。
以下では、戻り圧およびポンプ圧の平均値が最大保持圧Pm以上になるようにしており、用語としては最大保持圧Pm以上を用いて説明する。
【0078】
図4、図5において、本発明の実施例2に係る油圧式エレベータの油圧回路1Aは、下降用ラム式シリンダ61と、上昇用ラム式シリンダ62と、両シリンダ61、62を伸縮させる昇降用油圧装置5Aと、ケージ沈下防止装置7と、レベル補正用装置9と、非常用自動式ケージ昇降装置11と、非常用手動式ケージ昇降装置13と、コントローラ等制御部47Aとから形成されている。
油圧回路1Aは、詳細は後述するように、下降用ラム式シリンダ61と上昇用ラム式シリンダ62の速度が制御部47Aからの指令を受けた上昇用制御弁44または下降用制御弁54でメータアウト制御により行なわれ、ケージCAが所定の昇降速度と、シリンダ61、62の停止時における最大保持圧Pm以上を得ている。
【0079】
ケージCAは、一対の固定滑車Krにそれぞれ巻き掛けられたバランス用ワイヤSrによりそれぞれのバランスウエートWbに、また、一対の下降用ラム式シリンダ61と1個の上昇用ラム式シリンダ62に、それぞれ連結されている。ケージCAは、バランスウエートWbにより両シリンダ61、62を作動する圧力が低減された圧油により、両シリンダ61、62が伸縮して昇降する。
下降用ラム式シリンダ61は、ラムロッド61aの突出部がエレベータの機械室の天井等に取着され、また、ラムロッド61aを収容するとともにラムロッド61aに摺動自在にされているラムチューブ61bがケージCAに取着されている。下降用ラム式シリンダ61は、そのラムロッド61aにあけられた孔61cが昇降用油圧装置5Aの下降用配管31に接続されており、圧油を受けて伸長しケージCAを下降させる。このラムロッド61aはシリンダ用鋼管を用いるとともに、その上端部および下端部を閉じ、かつ、その内部にパイプ等による通路を有する構成にすると軽量化され、また、内部の油量が少なくなり良い。下降用ラム式シリンダ61はラムロッド61aのみがエレベータの機械室の天井等に取着されており、ケージCAを支持していないため、機械室の天井、建屋の梁、柱等を強化する必要がなく、建屋を安価にできる。
【0080】
上昇用ラム式シリンダ62は、上昇用ラムロッド62aの突出部がケージCAの底部に、また、上昇用ラムロッド62aを収容するとともに上昇用ラムロッド62aに摺動自在にされている上昇用ラムチューブ62bがエレベータの機械室の床面Gに取着されている。この上昇用ラム式シリンダ62は、その上昇用ラムチューブ62bが掘られたビットGb等に収納されている。上昇用ラム式シリンダ62は、その上昇用ラムチューブ62bにあけられた孔62cが昇降用油圧装置5Aの上昇用配管34に接続されており、圧油を受けて伸長しケージCAを上昇させる。
前記のように、下降用ラム式シリンダ61および上昇用ラム式シリンダ62は、ピストンを有しておらず単純構造のラムを用いているため、シール類の点検、交換が容易になっている。また、上昇用ラム式シリンダ62はケージCAを支持するとともに、その上昇用ラム式シリンダ62が機械室の床に取着されているため、床のみを強化すれば良く、建屋を安価にできる。
【0081】
図5において、昇降用油圧装置5Aは、下降用配管31が下降用ポンプ32Aに、また、上昇用配管34が上昇用ポンプ35Aにそれぞれ接続されており、両ポンプ32A、35Aは、両方向回転形電動モータ37A(以下、両方向電動モータ37Aという)に連結されて駆動されている。この両ポンプ32A、35Aは、その吐出圧力が下降用リリーフ弁43おび上昇用リリーフ弁53により調圧されている。例えば、図6に示すように、上昇用リリーフ弁53のセット圧PUrおよび下降用リリーフ弁43のセット圧PDrは、最低作動圧およびその余裕値を考慮して最大保持圧Pmよりも高い値に設定されている。この上昇用リリーフ弁53のセット圧PUrおよび下降用リリーフ弁43のセット圧PDrは、最大保持圧Pmに応じて同一のセット圧にしても良く、また、異なった値にも設定できる。
例えば、下降用ポンプ32Aは右回転で、上昇用ポンプ35Aは左回転で圧油を発生するとともに、それぞれのポンプ32A、35Aは反対回転(逆転という)で後述するようにタンク38の油を低圧で循環させている。
【0082】
下降用ポンプ32Aと下降用逆止弁40との間から分岐された第1配管31aには上昇用吸込弁64が配設されており、上昇用吸込弁64は下降用ポンプ32Aが逆転しているときタンク38の油を通過させ、下降用ポンプ32Aに吸引させてそのまま低圧にてタンク38に吐出させている。
上昇用ポンプ35Aと上昇用逆止弁50との間から分岐された第3配管34aには下降用吸込弁65が配設されており、下降用吸込弁65は上昇用ポンプ35Aが逆転しているときタンク38の油を通過させ、上昇用ポンプ35Aに吸引させてそのまま低圧にてタンク38に吐出させている。
【0083】
両方向電動モータ37Aは、上昇・下降スイッチBsの信号を受けて回転方向を決定し、例えば、両方向電動モータ37Aは右回転で下降用ポンプ32Aから圧油を下降用ラム式シリンダ61に送って伸長させるとともに、上昇用ポンプ35Aを逆転させてタンク38の油を点線Yのごとく下降用吸込弁65から吸引して低い圧力で循環させている。
反対に、左回転で上昇用ポンプ35Aから圧油を上昇用ラム式シリンダ62に送って伸長させるとともに、下降用ポンプ32Aを逆転させてタンク38の油を点線Vのごとく上昇用吸込弁64から吸引して低い圧力で循環させている。このとき、下降用ポンプ32Aおよび上昇用ポンプ35Aは、定容量形油圧ポンプを用いている。これにより、実施例1と同様に、安価な油圧ポンプを用いることができる。
【0084】
制御部47Aは、ケージCAの上昇時に、上昇用流量計41、上昇用圧力センサ45からの流量信号、圧力信号を受けて、ケージCAの上昇時の戻り圧が最大保持圧Pm以上に、および、ケージCAの上昇速度が所定範囲に入るように上昇用制御弁44に指令信号を出力している。上昇用制御弁44は、下降用ラム式シリンダ61からタンク38への戻り油を絞って最大保持圧Pm以上にするとともに、ケージCAの上昇速度が所定範囲に入るように制御している。
上昇用ポンプ35Aの吐出圧力は、図6(a)に実線で示す上昇用リリーフ弁53の一定圧力PUrの範囲内で、かつ、ケージCAの上昇速度を一定にする下降用ラム式シリンダ61の戻り圧と、ケージCAの積載重量Wtに応じて上昇用ラム式シリンダ62に生ずる保持圧との関係より自動的に設定されている。
【0085】
また、制御部47Aは、ケージCAの下降時に、下降用流量計51、下降用圧力センサ55からの流量信号、圧力信号を受けて、ケージCAの下降時の戻り圧が最大保持圧Pm以上に、および、ケージCAの下降速度が所定範囲に入るように下降用制御弁54に指令信号を出力している。下降用制御弁54は、上昇用ラム式シリンダ62からタンク38への戻り油を絞って最大保持圧Pm以上にするとともに、ケージCAの上昇速度が所定範囲に入るように制御している。下降用ポンプ32Aの吐出圧力は、図6(b)に点線で示す上昇用リリーフ弁53の一定圧力PDrの範囲内に入るように設定されている。
なお、図6(a)では最大積載荷重Wmの近傍で下降用ラム式シリンダ61からの戻り圧が最大保持圧Pmよりも小さい値に表示されているが、このときには第1上昇用ポンプ35Aの吐出圧力が最大積載荷重Wmよりも大きくなり、下降用ラム式シリンダ61と上昇用ラム式シリンダ62の圧力の平均値は最大積載荷重Wm以上となっている。また、図6(b)でも同様である。
【0086】
次に、油圧回路1Aの作動について、先ずケージCAの上昇時を図6(a)により説明する。例えば、実施例1と同様に、積載重量Wtが横軸XbとXaの間、例えば、Xhでは、ケージCA側の重量よりもバランスウエートWbの方の重量が重くなっており、停止時にはバランスウエートWbにより下降用ラム式シリンダ61に保持圧Pthが生じている。この状態で、ケージCAを上昇させるために、上昇用ポンプ35Aを始動させて吐出圧力Phを上昇用ラム式シリンダ62に送給する。この圧力Phは上昇用ラムロッド62a、ケージCAを介して下降用ラム式シリンダ61に作用し、その保持圧Pthを戻り圧Prhに上昇させる。この下降用ラム式シリンダ61の戻り圧Prhは、下降用ラム式シリンダ61からタンク38に戻る途中で上昇用制御弁44により絞られて所定の戻り圧、即ち、戻り流量が一定になるようにメータアウト制御される。この上昇用制御弁44はタンク38への戻り油量を絞ってケージCAの上昇速度を一定に保っている。上昇用ポンプ35Aの吐出圧Phは積載重量Wtと、設定された戻り圧Prhに応じて変化している。
【0087】
次に、積載重量Wtが横軸XaとXcの間、例えばXiでは、バランスウエートWbの重量よりもケージCA側の方の重量が重くなっており、停止時にはケージCA側の方の重量により上昇用ラム式シリンダ62に保持圧Ptiが生じている。この状態で、ケージCAを上昇させるために、上昇用ポンプ35Aを始動させて保持圧Pti以上の吐出圧力Piを上昇用ポンプ35Aから上昇用ラム式シリンダ62に送給する。この圧力Piは前記と同様にケージCAを介して下降用ラム式シリンダ61に作用し、その戻り油を略零(Pro)から戻り圧Priの圧油にする。下降用ラム式シリンダ61の戻り圧Priの圧油は、タンク38に戻る途中で上昇用制御弁44により絞られて所定圧になるようにメータアウト制御される。このとき、上昇用ポンプ35Aは、上昇用ラム式シリンダ62に吐出する油量によってケージCAの上昇速度を一定に保っており、その吐出圧PfはケージCAへの搭載重量Wtと設定された戻り圧Prfに応じて変化している。
上記において、ケージCaが上昇して所定階で停止すると、下降用ラム式シリンダ61および上昇用ラム式シリンダ62は、ケージCAを介して平均化されてその内圧は最大保持圧Pm以上となっている。
【0088】
次に、ケージCAを下降する場合について図6(b)を用いて説明する。積載重量Wtが横軸XbとXaの間では、上昇時と同様にバランスウエートWbにより下降用ラム式シリンダ61に保持圧Pthが生じており、この状態でケージを下降するために下降用ポンプ32Aを始動させて、下降用ポンプ32Aの吐出圧力を下降用ラム式シリンダ61に送給する。この吐出圧力は、前記と同様にケージCAを介して上昇用ラム式シリンダ62に作用する。上昇用ラム式シリンダ62の戻り油の戻り圧が零からPrhに上昇し、その戻り圧Prhが下降用制御弁54によりメータアウト制御がなされて所定の戻り圧、即ち、一定の戻り油量が得られるとともに、ケージCAの一定の下降速度が得られる。
【0089】
また、積載重量Wtが横軸XaとXcの間では、前記の上昇時のごとくケージCA側の重量により上昇用ラム式シリンダ62に保持圧Ptiが生じており、この状態でケージを下降するために下降用ポンプ32Aを始動させて、下降用ポンプ32Aから下降用ラム式シリンダ61に送給する。この吐出圧力はケージCAを介して上昇用ラム式シリンダ62の圧油を保持圧Ptiから戻り圧Priに上昇させる。この上昇用ラム式シリンダ62からタンク38への戻り油は下降用制御弁54により絞られてメータアウト制御され、所定の戻り圧になる。このとき、下降用ポンプ32Aの吐出する油量によってケージCAの下降速度を一定に保っている。
【0090】
上記において、ケージCaが下降して所定階で停止すると、下降用ラム式シリンダ61および上昇用ラム式シリンダ62は、ケージCAを介して平均化されてその内圧は最大保持圧Pm以上となっている。
これにより、次のケージCAへの搭乗時および/または荷物搭載時には、下降用ラム式シリンダ61および上昇用ラム式シリンダ62の内圧が最大積載重量または無負荷時の保持圧になっており、ケージCAへの負荷が変動しても沈下あるいは上昇等の発生を防止できる。
【0091】
次に、油圧回路1Aを用いた油圧式エレベータの作動について説明する。例えば、油圧式エレベータが上昇するときには上昇スイッチBsが押釦される。この上昇信号を制御部47Aから両方向電動モータ37Aが受けて回転し、上昇用ポンプ35Aに圧油を発生させている。この圧油は、上昇用逆止弁50、上昇用流量計51を経て上昇用ラム式シリンダ62に送られ、上昇用ラム式シリンダ62を伸長させるとともに、ケージCAを介して下降用ラム式シリンダ61を縮小させてケージCAを上昇させる。
下降用ラム式シリンダ61の縮小に伴って、その内部の油が下降用配管31から第2配管31b、上昇用制御弁44を経てタンク38に排出される。このとき、上昇信号は制御部47Aから上昇用制御弁44にも送信されており、上昇用制御弁44を作動させている。
【0092】
下降用ラム式シリンダ61からの戻り油は、上昇用制御弁44で圧力が最大保持圧Pm以上に、また、流量が上昇速度に合わせてメータアウト制御されてタンク38に戻る。この戻り油は、上昇用流量計41で流量を、また、上昇用圧力センサ45で圧力を計測されて制御部47Aに送信される。制御部47Aは、上昇用圧力センサ45により圧力を、また、上昇用流量計41により流量を確認しながら上昇用制御弁44を制御し、油圧エレベータのケージCAの上昇をメータアウト制御している。
これにより、下降用ラム式シリンダ61は、最大保持圧Pm以上で、かつ、積載重量Wtに応じた戻り圧に調整される。また、上昇用ラム式シリンダ62は積載重量Wtに応じた下降用ラム式シリンダ61の戻り圧とケージCAの積載重量Wtにより生ずる圧力とにより設定された上昇用ポンプ35Aの圧力を受けており、その内圧は最大保持圧Pm以上になっている。これにより、次にケージCAが上昇するときには、両シリンダ61、62とも少なくとも最大保持圧Pm以上になっており、両シリンダ61、62は瞬間的に沈下または上昇することなく滑らかに起動する。
【0093】
油圧式エレベータが下降するときには下降スイッチBsが押釦される。この下降信号を制御部47Aから両方向電動モータ37Aが受けて回転し、下降用ポンプ32Aに圧油を発生させている。この圧油は、下降用逆止弁40、下降用流量計41を経て下降用ラム式シリンダ61に送られ、下降用ラム式シリンダ61を伸長させるとともに、ケージCAを介して上昇用ラム式シリンダ62を縮小させてケージCAを下降させる。
上昇用ラム式シリンダ62の縮小に伴って、その内部の油が上昇用配管34から第4配管34b、下降用制御弁54を経てタンク38に排出される。このとき、下降信号は制御部47Aから下降用制御弁54にも送信されており、下降用制御弁54を作動させている。
【0094】
上昇用ラム式シリンダ62からの戻り油は、下降用制御弁54で圧力が最大保持圧Pm以上に、また、流量が下降速度に合わせてメータアウト制御されてタンク38に戻る。この戻り油は、下降用流量計51で流量を、また、下降用圧力センサ55で圧力を計測されて制御部47Aに送信される。制御部47Aは、下降用圧力センサ55により圧力を、また、下降用流量計51により流量を確認しながら下降用制御弁54を制御し、油圧エレベータのケージCAの下降をメータアウト制御している。
これにより、上昇時と同様に、次にケージCAが昇降するときには、両シリンダ61、62とも少なくとも最大保持圧Pm以上になっており、両シリンダ61、62は瞬間的に沈下または上昇することなく滑らかに起動する。
【実施例3】
【0095】
次に、油圧回路1あるいは油圧回路1Aを用いた実施例3で、ケージ昇降時に所定圧Pd以上、または、最大保持圧Pmにする例について説明する。
実施例3では、ケージCAの昇降時に、シリンダからの戻り圧が所定圧Pdまたは最大保持圧Pmよりも低いときに、ケージ沈下防止装置7を作動させて戻り油に供給して戻り圧を上昇させる。
以下では、リリーフ弁7eのセット圧が所定圧Pdに設定されている例で説明するが、前記のように無負荷時または最大積載時に発生する最大保持圧Pmに設定する場合にも同様に制御すればよい。
実施例3では、前記のように沈下防止用リリーフ弁7eは、図示しないソレノイド等を用いた電磁式とし、制御部47からの指令に応じて沈下防止用油圧ポンプ7aの吐出圧を可変に制御している。例えば、沈下防止用リリーフ弁7eの調圧は、保持圧が略零の近傍(図2のXLの範囲)にあるときは保持圧に応じて可変とし、保持圧が零に近いほど所定圧Pd以上の高い圧力を、また、保持圧が所定圧Pdに近いほど所定圧Pd以上で保持圧に近傍した圧力を出力するように可変としている。
【0096】
油圧回路1Aにおいて、ケージCaの上昇時に、制御部47Aは上昇用圧力センサ45で戻り油の圧力を計測し、計測された圧力が所定圧Pd未満の場合にはケージ沈下防止装置7の沈下防止用電動モータ7bを始動する。
沈下防止用電動モータ7bは沈下防止用油圧ポンプ7aを回転させて圧油を吐出させ、その圧油を沈下防止用リリーフ弁7eで積載荷重Wtに応じた所定圧Pdに調整し、沈下防止用逆止弁7cを経て下降用配管31に送給させる。
調整された所定圧Pdの圧油は、下降用ラム式シリンダ61の戻り油に加算されて上昇用制御弁44に入り、上昇用制御弁44で戻り圧を所定圧Pd以上に上昇するとともに、一定の流量に制御されてタンク38に戻る。このとき、上昇用ラム式シリンダ62が上昇用ポンプ35Aの吐出圧を受けて上昇しているため、沈下防止用逆止弁7dを閉じており、沈下防止用油圧ポンプ7aは下降用配管31に送給される。また、制御部47Aは、下降用流量計51で上昇用ポンプ35Aの吐出流量を測定した結果を受け、その結果より上昇用制御弁44の流量と圧力を制御して、ケージCAの上昇速度および戻り油が所定圧Pdになるようにしている。
【0097】
反対に、下降時には、制御部47Aは下降用圧力センサ55で上昇用ラム式シリンダ62の戻り油の圧力を計測し、計測された圧力が所定圧Pd未満の場合にはケージ沈下防止装置7の沈下防止用電動モータ7bを始動させ、前記の上昇時と同様に制御する。沈下防止用油圧ポンプ7aの圧油は、沈下防止用リリーフ弁7eにより積載荷重に応じた所定圧Pd以上に調整され、沈下防止用逆止弁7dを経て上昇用配管34に送給される。調整された所定圧Pdの圧油は、上昇用ラム式シリンダ62の戻り油に加算されて下降用制御弁54に入り、下降用制御弁54で戻り圧を所定圧Pd以上に上昇するとともに、一定の流量に制御されてタンク38に戻る。
【0098】
これにより、上昇用ラム式シリンダ62は所定圧Pdになるとともに、下降用ラム式シリンダ61がケージCAの積載重量Wtに応じた下降用ポンプ32Aの圧油を受けて所定圧Pdに上昇している。また、制御部47Aは、上昇用流量計41で下降用ポンプ32Aの吐出流量を測定した結果を受け、その結果より下降用制御弁54の流量と圧力を制御して、ケージCAの下降速度および戻り油が所定圧Pdになるようにしている。
【0099】
上記の実施例では、メータアウト制御で説明したが、これに囚われることなく、メータイン制御の一般的な油圧回路においても、「少なくともケージへの搭乗時および/または荷物搭載時に、その内圧を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、当該保持圧以下の所定圧以上とする」ことは有効であり、後者の油圧回路でも使用できる。また、上記の実施例では、圧力センサ45、55により、保持圧、戻り圧を測定し、その圧力によりメータアウト制御したが、積載重量Wtをロードセル等で測定し、その結果制御部47により圧力を求め、その圧力を基に制御しても良い。
上記実施例1の油圧回路1は、例えば、単独のポンプおよびモータ、複動シリンダ3を用いており、実施例2の油圧回路1Aでは1個のポンプおよびモータ、ラム式シリンダを用いているが、実施例1と実施例2の構成の組合せを適宜変えて構成することができる。また、実施例1の油圧回路1の油圧ポンプは、固定容量形を用いているが可変容量形を使用しても良く、あるいは、電動モータには可変回転形電動モータ使用しても良い。
本発明の油圧シリンダ1を油圧式エレベータに用いて説明したが、これ以外の油圧式荷役機械に用いることができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の実施例1に係る油圧式エレベータの油圧回路図である。
【図2】本発明の実施例1に係る複動シリンダの停止時に伸長室、縮小室に生ずる保持圧を説明する図である。
【図3】本発明の実施例1に係るメータアウトによりシリンダに生ずる圧力の関係を説明する図である。
【図4】本発明の実施例2に係るエレベータのケージとラム式シリンダとバランスウェートの構成図である。
【図5】本発明に係る第2実施例の油圧式エレベータの油圧回路図である。
【図6】本発明の実施例2に係るメータアウトによりシリンダに生ずる圧力の関係を説明する図で、図6(a)は上昇時を、図6(b)は下降時を示す図である。
【図7】従来の油圧シリンダを用いた油圧式エレベータの油圧回路図である。
【図8】従来の油圧シリンダの一部を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0101】
1,1A・・・・・・・油圧式エレベータの油圧回路
3・・・・・・・・・・複動シリンダ
5、5A・・・・・・・昇降用油圧装置
7・・・・・・・・・・ケージ沈下防止装置
9・・・・・・・・・・レベル補正装置
11・・・・・・・・・非常用自動式ケージ昇降装置
13・・・・・・・・・非常用手動式ケージ昇降装置
21・・・・・・・・・シリンダチューブ
22・・・・・・・・・ピストンロッド
23・・・・・・・・・チューブピストン
32、32A・・・・・下降用油圧ポンプ
35、35A・・・・・上昇用油圧ポンプ
41・・・・・・・・・上昇用流量計
44・・・・・・・・・上昇用電磁式制御弁
45・・・・・・・・・上昇用圧力センサ
51・・・・・・・・・下降用流量計
54・・・・・・・・・下降用電磁式制御弁
55・・・・・・・・・下降用圧力センサ
61・・・・・・・・・下降用ラム式シリンダ
62・・・・・・・・・上昇用ラム式シリンダ
64・・・・・・・・・上昇用吸込み弁
65・・・・・・・・・下降用吸込み弁
Wb・・・・・・・・・バランスウェート
CA・・・・・・・・・ケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人および/または荷物積載用ケージを昇降するシリンダの油圧をバランスウェ
イトの付設により約1/2の油圧にして駆動源の動力を低減した油圧式エレベータの油圧回路であって、少なくともケージへの搭乗時および/または荷物搭載時に、その内圧を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、当該保持圧以下の所定圧以上とする複動シリンダまたはラム式シリンダを有していることを特徴とする油圧式エレベータの油圧回路。
【請求項2】
人および/または荷物積載用ケージを昇降するシリンダの油圧をバランスウェイトの付設により約1/2の油圧にして駆動源の動力を低減した油圧式エレベータの油圧回路であって、ケージに連結されるバランスウェイトと、ラムロッドの突出部がエレベータ機械室に、また、シリンダチューブがケージに付設される下降用ラム式シリンダと、ラムロッドの突出部がケージに、そしてまた、シリンダチューブがエレベータ機械室に付設される上昇用ラム式シリンダとからなることを特徴とする油圧式エレベータの油圧回路。
【請求項3】
人および/または荷物積載用ケージを昇降するシリンダの油圧をバランスウェイトの付設により約1/2の油圧にして駆動源の動力を低減した油圧式エレベータの油圧回路であって、ケージに連結されるバランスウェイトと、ラムロッドの突出部がエレベータ機械室に、また、シリンダチューブがケージに付設される下降用ラム式シリンダと、ラムロッドの突出部がケージに、また、シリンダチューブがエレベータ機械室に付設される上昇用ラム式シリンダとからなり、当該シリンタが少なくともケージへの搭乗時および/または荷物搭載時にその内圧を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、当該保持圧以下の所定圧以上であることを特徴とする油圧式エレベータの油圧回路。
【請求項4】
シリンダの油圧を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、当該保持圧以下の所定圧以上とする沈下防止装置を設けたことを特徴する請求項1から請求項3のいずれか1つの請求項に記載の油圧式エレベータの油圧回路。
【請求項5】
沈下防止装置が、複動シリンダまたはラム式シリンダの昇降室のそれぞれに接続する一対のチェック弁と、チェック弁を介して複動シリンダまたはラム式シリンダの昇降室に圧油を供給する沈下防止用油圧ポンプと、沈下防止用油圧ポンプを駆動する沈下防止用電動モータと、ケージの停止を検出する位置センサ、ケージに人および/または荷物を搭載する所定階に呼ぶ昇降用スイッチ、エレベータドアの開スイッチ、タイマー、シリンダの昇降室の圧力を検出する圧力センサ、または、ケージに搭乗する人間の接近を検出する対人近接検出センサ等のいずれから信号を出力する信号出力手段と、信号出力手段からの信号を受けて沈下防止用電動モータを駆動する制御手段と、シリンダに供給する沈下防止用油圧ポンプの圧油を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、当該保持圧以下の所定圧以上にするリリーフ弁とからなることを特徴とする請求項4記載の油圧式エレベータの油圧回路。
【請求項6】
沈下防止装置が、複動シリンダまたはラム式シリンダからタンクへの戻り油量を制御する制御弁と、シリンダからタンクへの戻り油の圧力を検出する圧力センサと、圧力センサからの信号を受けて前記制御弁に指令を出力し、タンクへの戻り油を絞り、シリンダ油圧を最大積載重量または無負荷時の保持圧、好ましくは、当該保持圧以下の所定圧以上にする制御手段とからなることを特徴とする請求項4記載の油圧式エレベータの油圧回路。
【請求項7】
ケージの停止位置を検出する位置センサと、位置センサからの信号に応じてケージ停止位置を補正する圧油を複動シリンダまたはラム式シリンダに供給するレベル用油圧ポンプと、レベル用油圧ポンプを駆動するレベル用電動モータと、位置センサからの信号を受けてレベル用電動モータを駆動する制御手段とからなるレベル補正用装置を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1つの請求項に記載の油圧式エレベータの油圧回路。
【請求項8】
ケージの非常停止時に、非常スイッチからの信号に応じて圧油を複動シリンダまたはラム式シリンダに供給する非常用油圧ポンプと、非常用油圧ポンプを駆動する非常用電動モータと、非常スイッチからの信号を受けて非常用電動モータを駆動する制御手段と、非常用油圧ポンプの圧油をシリンダの昇降室のいずれかに送給する切換弁とからなる非常用自動式ケージ昇降装置を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1つの請求項に記載の油圧式エレベータの油圧回路。
【請求項9】
ケージの非常停止時に、圧油を複動シリンダまたはラム式シリンダに供給する非常用手動式油圧ポンプと、非常用手動式油圧ポンプの圧油をシリンダの昇降室のいずれかに送給する手動式切換弁とからなる非常用手動式ケージ昇降装置を有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1つの請求項に記載の油圧式エレベータの油圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−44939(P2006−44939A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232432(P2004−232432)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(591026414)オイルドライブ工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】