説明

油圧式オートテンショナ

【課題】ベローズの外れや作動油の噴き出しを防止することができる油圧式オートテンショナを提供する。
【解決手段】作動油が充填されたシリンダ1内にスリーブ4を設け、スリーブ4内にロッド5の下端部を摺動自在に挿入してスリーブ4内に圧力室6を形成し、ロッド5の上部に設けられたばね座7とシリンダ1の内底面間にリターンスプリング8を組込む。ばね座7の外周とシリンダ1間にベローズ11を装着してリザーバ室17を形成し、リザーバ室17と圧力室6を連通する通路18にチェックバルブ19を設け、シリンダ1とロッド5が収縮する方向に押込み力が負荷された際に押込み力を緩衝する。ばね座7に外部とリザーバ室17を連通する吸入用ベント30aと吐出用ベント30bを組込み、リザーバ室17の体積変化が生じた際に、ベント30a,30bの一方を開放させてリザーバ室17の圧力を保持し、ベローズの外れや作動油の噴き出しを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オルタネータやウォータポンプ、エアコンのコンプレッサ等の自動車補機を駆動するベルトの張力調整用に用いられる油圧式オートテンショナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランクシャフトの回転を各種の自動車補機に伝えるベルト伝動装置においては、図5に示すように、ベルト41の弛み側にテンションプーリ42を支持する揺動可能なプーリアーム43を設け、そのプーリアーム43に油圧式オートテンショナAの調整力を付与して、上記テンションプーリ42がベルト41を押圧する方向にプーリアーム43を付勢し、ベルト41の張力を一定に保持するようにしている。
【0003】
上記のようなベルト伝動装置に使用される油圧式オートテンショナAとして、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。この油圧式オートテンショナにおいては、作動油が充填された底付きシリンダの内底面から立ち上がるスリーブ内にロッドの下部をスライド自在に挿入してスリーブ内に圧力室を形成し、ロッドの上部に設けられたばね座とシリンダの底面間にリターンスプリングを組込んでロッドとシリンダを伸張する方向に付勢している。
【0004】
また、ばね座の外周とシリンダの上部外周に弾性を有するベローズの両端部を嵌合してシリンダとスリーブ間に密閉されたリザーバ室を形成し、そのリザーバ室下部と上記圧力室とを通路で連通し、その通路にチェックバルブを設け、ベルト41からテンションプーリ42およびプーリアーム43を介して油圧式オートテンショナAにシリンダとロッドを収縮させる方向の押込み力が負荷された際に、チェックバルブを閉じ、圧力室内に封入された作動油のダンパ作用によって上記押込み力を緩衝するようにしている。
【0005】
上記のような油圧式オートテンショナは、数mmから数10mmの伸縮機能を有しているため、リザーバ室を密閉するベローズにも伸縮性が要求される。
【0006】
そこで、特許文献1に記載された油圧式オートテンショナにおいては、ベローズの長さ方向の中央部に上向きの反転部と、その反転部の外側に下向きの反転部を設けて伸縮性を付与し、上記上向き反転部に連設された小径筒部をばね座の外周に締め代を持って嵌合すると共に、下向き反転部に連設された大径筒部をシリンダの上部外周に締め代をもって嵌合している。
【特許文献1】特表2000−504395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来の油圧式オートテンショナにおいては、伸張時にはリザーバ室の体積が増加して圧力が低下し、また収縮時にはリザーバ室の体積が減少して圧力が増加するため、リザーバ室の圧力変動によりベローズが収縮または膨張し、その収縮時にベローズに引っ張り力が付与されて外れが生じたり、膨張時に嵌合部に隙間が形成されて内部の作動油が噴き出す可能性があった。
【0008】
この発明の課題は、ベローズの外れや作動油の噴き出しを防止することができるようにした油圧式オートテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明においては、閉塞端を下部に有し、内部に作動油が充填されたシリンダ内に、その内底面から立ち上がるスリーブを設け、そのスリーブ内にロッドの下端部を摺動自在に挿入してスリーブ内に圧力室を形成し、前記ロッドの上部に設けられたばね座とシリンダの内底面間に、シリンダとロッドを伸張する方向に付勢するリターンスプリングを組込み、前記ばね座の外周とシリンダの上部外周に弾性を有する伸縮可能なベローズの両端部を嵌合してシリンダとスリーブ間に密閉されたリザーバ室を形成し、そのリザーバ室と前記圧力室を連通する通路に、圧力室の圧力がリザーバ室の圧力より高くなると通路を閉じるチェックバルブを設けた油圧式オートテンショナにおいて、前記ばね座に、前記リザーバ室の作動油面上に形成された空気溜まりと外部を連通する通気孔を形成し、その通気孔内に空気溜まりの圧力変化に応じて開放するベントを組込んだ構成を採用したのである。
【0010】
ここで、ベントには、空気溜まりの圧力上昇時に開放する吐出用ベントと、空気溜まりの圧力低下時に開放する吸入用ベントの2種類が存在し、いずれのベントを通気孔に組込むようにしてもよい。上記2種類のベントを採用し、その2種類のベントをばね座に形成された2つの通気孔に個別に組込むことにより、リザーバ室の内圧の安定化に効果を挙げることができ、ベローズの外れを防止し、かつ作動油の噴き出しを防止することができる。また、1つの通気孔に吸気用ベントと吐出用ベントの両方向の機能を備えたベントを組み込むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記のように、外部とリザーバ室の空気溜まりに連通する通気孔にベントを組込んだことにより、そのベントが吸入用のものであると、シリンダとロッドが相対的に伸張し、リザーバ室の体積増加による圧力低下時に、上記ベントが開放し、外部の空気がリザーバ室の空気溜まりに流入してリザーバ室の圧力が一定に保たれることになり、ベローズの外れを防止することができる。
【0012】
また、ベントが吐出用のものであると、シリンダとロッドが相対的に収縮し、リザーバ室の体積減少による圧力上昇時に、上記ベントが開放し、リザーバ室の空気溜まりの空気が外部に流出してリザーバ室の圧力が一定に保たれることになり、作動油の噴き出しを防止することができる。
【0013】
そして、リザーバ室の圧力が一定範囲を外れたときのみベントが開放して外部とリザーバ室を連通するので、通気孔からリザーバ室内の作動油が外部に漏洩したり、リザーバ室内に外部から塵埃、水等が浸入することが殆どない。
【0014】
さらに、ベントを単体でばね座に設けることができるので、ベントの装着位置の自由度が高く、リザーバ室内の作動油から離れた位置にベントを装着することで作動油の外部への漏洩を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を図面に基いて説明する。図1に示すように、シリンダ1は下部が閉塞し、その閉塞端部にエンジンブロックに回転自在に連結される連結片2が設けられている。
【0016】
シリンダ1の内底面には、スリーブ嵌合孔3が設けられ、そのスリーブ嵌合孔3内にスリーブ4の下端部が圧入されている。スリーブ4内にはロッド5の下部に設けられたピストン5aがスライド自在に挿入され、そのピストン5aの挿入によって、スリーブ4内に圧力室6が設けられている。
【0017】
ロッド5のシリンダ1の外部に位置する上端部にはばね座7が固定され、そのばね座7とシリンダ1の底面間に組込まれたリターンスプリング8は、シリンダ1とロッド5が相対的に伸張する方向に付勢している。
【0018】
ばね座7の上端には図5に示すプーリアーム43に対して連結される連結片9が設けられている。また、ばね座7には、リターンスプリング8の上部を覆う筒部10が一体に設けられ、その筒部10とシリンダ1の上部間にベローズ11が装着されている。
【0019】
ベローズ11は、その長さ方向の中央部に上向き反転部11aと、その上向き反転部11aの外側に下向き反転部11bが形成され、上記上向き反転部11aに連設された小径筒部11cが筒部10に締め代をもって嵌合され、その小径筒部11cの端部内周に形成されたリップ12と筒部10の外周に設けられたリップ係合溝13の係合によって抜止めされている。
【0020】
また、下向き反転部11bに連設された大径筒部11dの端部がシリンダ1の上部外周に締め代をもって嵌合され、その大径筒部11dの端部内周に形成されたリップ14とシリンダ1の上部外周に設けられたリップ係合溝15の係合によって抜止めされている。
【0021】
上記ベローズ11の装着により、シリンダ1の上部開口は閉鎖されて内部に充填された作動油の漏洩が防止されている。また、ベローズ11の装着によって、そのシリンダ1とスリーブ4との間に密閉されたリザーバ室17が形成され、そのリザーバ室17の作動油面上に空気溜まり17aが設けられている。
【0022】
リザーバ室17と圧力室6は、スリーブ嵌合孔3とスリーブ4の嵌合面間に形成された通路18で連通し、その通路18の圧力室6側の端部に設けられたチェックバルブ19は、圧力室6内の圧力がリザーバ室17内の圧力より高くなると、通路18を閉鎖するようになっている。
【0023】
ロッド5の下端部には、圧力室6とリザーバ室17とを連通する連通路20が形成されている。連通路20の圧力室6側の端部には嵌合凹部21が設けられ、その嵌合凹部21に圧入された絞り部材22に絞り23が形成されている。
【0024】
ばね座7には、リザーバ室17の空気溜まり17aと外部を連通する2つの通気孔25,26が形成されている。各通気孔25,26は、リザーバ室17側を小径とする段付き孔とされ、各通気孔25,26の大径孔部内にベント(空気自動弁)30が組込まれている。
【0025】
図4に示すように、ベント30は、ゴムや軟質の合成樹脂等の弾性を有する材料から形成されている。このベント30は、金属リング31によって補強された円筒部32の一端を端板33により閉鎖したキャップ状をなし、その端板33の表面中央部に形成された突出部34にスリット35を設けた構成とされ、上記円筒部32内の圧力を高めるとスリット35が開放して、円筒部32内の圧力がスリット35から逃げるようになっている。
【0026】
上記ベント30は、2つの通気孔25,26に対して逆向きの組付けとされている。図2では、通気孔25に対し、端板33を前側とする組込みとして吸入用(吸入用ベント30a)として使用しており、また、図3では、通気孔26に対し、端板33を後側とする組込みとして吐出用(吐出用ベント30b)として使用している。
【0027】
実施の形態で示す油圧式オートテンショナは上記の構成からなり、図5に示す補機駆動用ベルト41の張力調整に際しては、シリンダ1の閉塞端に設けた連結片2をエンジンブロックに連結し、かつばね座7の連結片9をプーリアーム43に連結して、そのプーリアーム43に調整力を付与する。
【0028】
上記のようなベルト41の張力調整状態において、補機の負荷変動等によってベルト41の張力が変化し、上記ベルト41の張力が弱くなると、リターンスプリング8の押圧によりシリンダ1とロッド5が伸張する方向に相対移動してベルト41の弛みが吸収される。
【0029】
ここで、シリンダ1とロッド5が伸張する方向に相対移動するとき、圧力室6内の圧力はリザーバ室17内の圧力より低くなるため、チェックバルブ19が通路18を開放する。このため、リザーバ室17内の作動油は通路18から圧力室6内にスムーズに流れ、シリンダ1とロッド5は伸張する方向にスムーズに相対移動してベルト41の弛みを直ちに吸収する。
【0030】
一方、ベルト41の張力が強くなると、ベルト41から油圧式オートテンショナのシリンダ1とロッド5を収縮させる方向の押込み力が負荷される。このとき、圧力室6内の圧力はリザーバ室17内の圧力より高くなるため、チェックバルブ19は通路18を閉じる。
【0031】
また、圧力室6内の作動油は絞り23から連通路20に流れてリザーバ室17内に流入し、上記絞り23内を流動する際の流動抵抗によって油圧ダンパ力が発生し、その油圧ダンパ力によって、油圧式オートテンショナに負荷される上記押込み力が緩衝されると共に、シリンダ1とロッド5は、押込み力とリターンスプリング8の弾性力とが釣り合う位置まで収縮する方向にゆっくりと相対移動する。
【0032】
ここで、油圧式オートテンショナによって張力調整されるベルト41は、エンジンの始動時に大きな弛みが生じる。その際、油圧式オートテンショナのシリンダ1とロッド5が伸張する方向に急速に相対移動してリザーバ室17の体積が増加し、逆に圧力が急激に低下する。
【0033】
このとき、図2に示すように、吸入用ベント30aのスリット35が開放し、外部の空気がリザーバ室17の空気溜まり17a内に流入し、その空気の流入によって、リザーバ室17内の圧力は一定に保持される。
【0034】
また、油圧式オートテンショナのシリンダ1とロッド5が収縮する方向に急速に相対移動すると、リザーバ室17の体積が減少し、逆に圧力が急激に増大する。このとき、図3に示すように、吐出用ベント30bのスリット35が開放し、リザーバ室17の空気溜まり17aの空気は外部に流出し、その空気の流出によって、リザーバ室17内の圧力は一定に保持される。
【0035】
このように、リザーバ室17の圧力が低下すると、吸入用ベント30aが開放して外部の空気がリザーバ室17内に流入し、また、リザーバ室17の圧力が上昇すると、吐出用ベント30bが開放して、リザーバ室17内の空気が流出するため、リザーバ室17の圧力はほぼ一定に保持されることになる。このため、ベローズ11が大きく膨張したり収縮したりすることはなく、ベローズ11の外れや作動油の噴き出しを確実に防止することができる。
【0036】
実施の形態では、ばね座7に2つの通気孔25,26を形成し、各通気孔25,26に吸入用ベント30aと吐出用ベント30bを個別に組込むようにしたが、通気孔を1つとし、その通気孔に吸入用ベント、または吐出用ベントを組込むようにしてもよい。また、1つの通気孔に吸入用ベントと吐出用ベントの両方向の機能を備えたベントを組込むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明に係る油圧式オートテンショナの実施の形態を示す縦断正面図
【図2】図1に示す油圧式オートテンショナのばね座の一側部を拡大して示す断面図
【図3】図1に示す油圧式オートテンショナのばね座の他側部を拡大して示す断面図
【図4】ベントの一部切欠斜視図
【図5】補機駆動用ベルトの張力調整装置を示す正面図
【符号の説明】
【0038】
1 シリンダ
4 スリーブ
5 ロッド
6 圧力室
7 ばね座
8 リターンスプリング
11 ベローズ
17 リザーバ室
18 通路
19 チェックバルブ
25 通気孔
26 通気孔
30 ベント
30a 吸入用ベント
30b 吐出用ベント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞端を下部に有し、内部に作動油が充填されたシリンダ内に、その内底面から立ち上がるスリーブを設け、そのスリーブ内にロッドの下端部を摺動自在に挿入してスリーブ内に圧力室を形成し、前記ロッドの上部に設けられたばね座とシリンダの内底面間に、シリンダとロッドを伸張する方向に付勢するリターンスプリングを組込み、前記ばね座の外周とシリンダの上部外周に弾性を有する伸縮可能なベローズの両端部を嵌合してシリンダとスリーブ間に密閉されたリザーバ室を形成し、そのリザーバ室と前記圧力室を連通する通路に、圧力室の圧力がリザーバ室の圧力より高くなると通路を閉じるチェックバルブを設けた油圧式オートテンショナにおいて、
前記ばね座に、前記リザーバ室の作動油面上に形成された空気溜まりと外部を連通する通気孔を形成し、その通気孔内に空気溜まりの圧力変化に応じて開放するベントを組込んだことを特徴とする油圧式オートテンショナ。
【請求項2】
前記ベントが、空気溜まりの圧力上昇時に開放する吐出用ベントと、圧力低下時に開放する吸入用ベントの両方向のベントからなる請求項1に記載の油圧式オートテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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