説明

油圧駆動式産業機械

【課題】産業機械において、作業負荷が変動しても、この作業負荷の変動に応じて油圧回路システムの効率を良好なものとなし、省エネルギ化を図る。
【解決手段】エンジン11により駆動される可変容量式の油圧ポンプ10から吐出された作動油を吐出配管14から油圧アクチュエータ17に供給され、油圧アクチュエータ17からの戻り油を還流させる戻り配管18に、分配弁21によってオイルクーラ20を介する冷却戻り配管22aと、オイルクーラを介さない非冷却戻り配管22bとに分岐させて、これらの流量比を変化させて作動油タンク12内の油温を変化させる。作動油タンク12に温度センサ23が装着され、吐出配管14には圧力センサ25が設けられ、この圧力に応じて制御回路24に最適な作動油温度を演算し、この制御回路24からの制御信号で分配弁21による冷却戻り配管22aと非冷却戻り配管22bとの流量比を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル等の建設機械を含む油圧駆動式産業機械に関するものであり、特にその油圧回路システムにおける作動油の温度を有効に制御し、もって省エネルギ的稼働を可能にするようにした油圧駆動式産業機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧駆動式産業機械として、例えば掘削等の作業を行う作業手段を備えたう油圧ショベル等の建設機械がある。この種の建設機械の油圧回路としては、エンジンにより駆動される可変容量式の油圧ポンプを備え、この油圧ポンプは作動油タンクから作動油を吸い込んで加圧するものであり、この油圧ポンプの吐出油はコントロールバルブを介して油圧シリンダや油圧モータからなる油圧アクチュエータに供給されて、これら油圧アクチュエータが駆動される結果、車両の走行,旋回及び作業手段による所要の作業がなされる。油圧アクチュエータからの戻り油はコントロールバルブを経て作動油タンクに還流される。従って、作動油タンクと油圧ポンプとの間は吸い込み配管で接続され、油圧ポンプとコントロールバルブとの間は吐出配管により接続され、またコントロールバルブと各油圧アクチュエータとはそれぞれ一対からなる供給/排出用配管で接続され、さらにコントロールバルブと作動油タンクとが戻り配管により接続された閉回路からなる油圧回路が構成される。
【0003】
油圧アクチュエータを駆動する際には熱が発生する。従って、閉回路を構成している油圧回路内を流れる作動油が加熱されるので、油圧アクチュエータからの戻り油を冷却する。このために、前述した戻り配管に作動油冷却手段が設けられるが、建設機械に設けられる作動油冷却手段は、通常、内部に作動油を流通させる多数の細管にフィンを装着した冷却器からなるオイルクーラから構成され、このオイルクーラに冷却ファンからの冷却風を供給するようにしている。
【0004】
冷却ファンはエンジンにより駆動する構成としたものがあるが、エンジン回転数に応じて冷却ファンの回転数が変動することになり、この冷却ファンの回転数によりオイルクーラによる戻り油の冷却率も変動することになる。このために、冷却ファンを独立した油圧モータにより駆動することによりエンジン回転数の変動に影響を受けない構成としたものが、例えば特許文献1に開示されている。そして、この特許文献1では、冷却ファンを駆動する油圧モータを可変容量式の油圧モータで構成し、作動油温を検出して、この作動油温に応じた回転数で冷却ファンを駆動するようになし、もって目標とする作動油温となるように制御している。
【特許文献1】特開2000−130164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した建設機械の省エネルギ的な稼動のためには、油圧回路におけるエネルギを効率的に伝達し、無駄に消費されるエネルギロスを最小限に抑制しなければならない。エネルギの伝達効率を高くするには、油圧ポンプの機械効率及び容積効率を向上させ、かつコントロールバルブ及び油圧配管等における圧力損失及び漏れ量を抑制する必要がある。ここで、後述するように、これら各要素は油圧回路内を流れる作動油の粘度に応じて変動する。そして、作動油の温度と粘度とは概略比例し、作動油の温度が低いときには、その粘度が高く、作動油の温度が高くなればなるほど、粘度が低下する。従って、前述した特許文献1に示されているように、目標とする作動油温を設定して、この目標とする作動油温に応じた回転数で冷却ファンを回転させるように制御することは重要である。
【0006】
ところで、油圧ポンプの機械効率を向上させ、また油圧配管等における圧力損失を最小限に抑制するには、作動油の粘度はある程度低い方が良い。一方、油圧ポンプの容積効率を向上させ、またコントロールバルブ等の漏れ量を最小限に抑制するためには、むしろ作動油の粘度を高くしなければならない。従って、油圧ポンプの吐出圧と吐出流量との関係で、油圧回路内を流れる作動油の粘度を低下させた方が動力の伝達効率が良くなる場合があり、省エネルギの観点からは、これとは逆に作動油の粘度を高くした方が良い場合もある。
【0007】
産業機械に作用する作業負荷が一定であり、かつ油圧回路内を流れる作動油の流量が一定であれば、油圧ポンプを効率的に作動させ、かつ油圧回路を流れる作動油の圧力損失及びコントロールバルブにおける漏れ油量を最小限に抑制し、もって機械を効率的に稼働させるのに最適な作動油温は一定になるので、作動油温が所定の設定温度となるように管理すれば良い。しかしながら、例えば油圧ショベル等にあっては、固い地盤や岩石等が多量に含まれる地面を掘削する場合のように、作業手段に高い負荷が作用する重掘削作業があり、また整地作業や軟弱地の掘削等のように比較的小さな負荷のみが作用する軽作業があるというように、作業の種類に応じて負荷が大きく変化する。従って、作動油温が一定となるように制御した場合、作業の種類によっては、油圧回路の全システムにおける効率が良好とはならない。
【0008】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、産業機械において、作業負荷が変動しても、この作業負荷の変動に応じて油圧回路システムの効率を良好なものとなし、省エネルギ化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明は、作動油タンクからの作動油を加圧する可変容量式の油圧ポンプと、この油圧ポンプの吐出油を、コントロールバルブを介して供給することにより駆動制御されて、所定の作業を実行する油圧アクチュエータとを備えた油圧駆動式産業機械であって、前記油圧アクチュエータからの戻り油を冷却するために、この戻り油の冷却率を変化させる冷却率可変式作動油冷却手段と、前記油圧アクチュエータによる作業負荷を検出する負荷検出手段と、前記負荷検出手段により検出される作業負荷に応じて前記戻り油の冷却率を変化させる制御手段とを備える構成としたことをその特徴とするものである。
【0010】
ここで、冷却率可変式作動油冷却手段は、戻り油の管路を、冷却器を介する冷却経路と、冷却器を介さない非冷却経路とに分岐させ、この流路分岐部にこれら両経路への戻り油の分配比率を変化させる可変分配手段で構成することができる。例えば、戻り油の管路を、冷却器を介する流路と冷却器をバイパスする流路とに分岐させ、この流路分岐部に電磁比例弁等からなる分配弁を設ける構成とすることができる。この場合、冷却器は空冷式または水冷式とすることができる。また、空冷式の冷却器を設ける場合、冷却ファンを油圧モータ等の駆動手段で回転駆動するようになし、この冷却ファンの回転数を制御する回転数制御手段を設けて、制御手段からの制御信号に基づいて回転数制御手段による冷却ファンの回転数を制御することによって冷却率可変式作動油冷却手段とすることができる。
【0011】
また、油圧アクチュエータによる作業負荷を検出する負荷検出手段としては、油圧ポンプの吐出圧または吐出流量を検出する構成とすると、容易に、しかも確実に負荷の検出を行うことができる。ここで、作業時には、必ずしも一定の負荷が作用するものではなく、常に変動するため、ある一定の時間における圧力(または流量)の平均値を作業負荷として検出するように構成することができる。制御手段では、このようにして検出される作業負荷に応じて、高負荷作業時には戻り油の冷却率が高く、低負荷作業時には戻り油の冷却率が低くなるように冷却率可変制式作動油冷却手段による冷却率を変化させるが、この冷却率の変化は少なくとも高負荷状態と低負荷状態との2段階に制御するようになし、また複数段階に制御するように構成しても良く、さらに段階的ではなく、連続的に制御する構成とすることもできる。
【0012】
制御手段による戻り油の冷却率の制御は、負荷検出手段で測定される作業負荷に基づいて行われるが、機械の作業負荷は常に変動する。この変動に応じて冷却率を常時変動させるように設定すると、作動油冷却手段等の負担が著しいものとなる。この作動油冷却手段の作動の安定性を確保するには、所定の単位時間を設定して、この単位時間当たりの作業負荷の平均値(例えば平均油温または平均圧力等)を作業負荷履歴とし、この作業負荷履歴から最適な戻り油の冷却率を割り出すように設定することができる。ここで、単位時間は、1時間乃至それ以上が望ましく、例えば、1時間若しくは2時間,3時間等を単位時間とすることができ、また1日を単位時間として設定することもできる。
【0013】
油圧駆動式産業機械のうち、例えば油圧ショベル等の建設機械においては、ある作業現場で所定の作業態様で稼働させる場合、ほぼ一定の稼働条件を継続させることが多く、この間は負荷率が概略一定となるのが一般的である。そこで、制御手段では、作業現場が変わる毎に、または作業状態が変わる毎に、所定時間の作業負荷履歴を算定して、戻り油の冷却率を見直すようになし、作業現場乃至作業状態が変化しない限り、一定の冷却率となるように制御することができる。この制御手段による戻り油の冷却率の見直しは、機械を操作するオペレータによる制御手段の操作により、または作業現場が移動したことを検出して、この検出信号等に基づいて作業負荷履歴を算定することもできる。より微細に制御するには、1単位毎に作業負荷履歴を算出して、次の1単位の時間分における戻り油の冷却率を決定し、単位時間毎に戻り油の冷却率を見直すようにすることもできる。さらに、複数単位の作業負荷履歴の移動平均を求め、この移動平均に基づいて次の1単位の時間分における前記戻り油の冷却率を決定するようにしても良い。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、作業負荷に応じて戻り油の冷却率を変化させることによって、作業負荷の変動に応じて油圧ポンプから油圧アクチュエータへのエネルギの伝達効率を向上させることができ、機械の省エネルギ的な運転が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。まず、図1に産業機械における油圧回路の概略構成を示す。ここで、油圧駆動式産業機械の一例として、作業負荷が大きく変動する建設機械としての油圧ショベルを例示する。ただし、本発明の油圧回路システムが搭載される産業機械はこれに限定されない。
【0016】
而して、図1において、1は例えば斜軸式または斜板式等からなる可変容量式の油圧ポンプであり、この油圧ポンプ1は吸い込み配管2によって作動油タンク3から吸い込んだ作動油を加圧して吐出するものであり、この油圧ポンプ1の吐出配管4はコントロールバルブ5に接続されている。コントロールバルブ5と例えば油圧シリンダ(または油圧モータ)からなる油圧アクチュエータ6との間には一対からなる供給/排出用配管7,7が接続されている。さらに、コントロールバルブ5には戻り配管8が接続されており、この戻り配管8の他端は作動油タンク3に接続されるが、その途中位置には戻り油の冷却手段としてのオイルクーラ9が設けられている。なお、図1においては、構成の簡略化のために、1個の油圧ポンプ1と、1個の油圧アクチュエータ6とを示したが、油圧ショベルその他の産業機械においては、油圧アクチュエータ6は通常複数備えており、また油圧ポンプ1も複数設ける構成とするのが一般的である。
【0017】
而して、油圧ショベルは作業の態様や種類に応じて負荷が大きく変動する。油圧ポンプ1からの出力圧(P)と出力流量(Q)との関係、所謂P−Q特性は図2に示したように、油圧ポンプ1の吐出圧が低いときには、吐出流量が多くなり、油圧ポンプ1からの吐出圧が高くなると、吐出流量が少なくなるという傾向を示す。従って、高い吐出圧が必要な作業負荷が大きいときには、吐出流量が少なく、軽い作業を実行するために、油圧ポンプ1からの吐出圧が低いときには、その吐出流量が多くなる。
【0018】
この図2のP−Q特性線図において、低負荷作業を行っている状態を作動状態aとし、また高負荷作業を行っている状態を作動状態bとしたときにおいて、作動油の動粘度(cSt)の変化と、油圧ポンプ1の効率,コントロールバルブ5の効率及び配管、特に高圧となる吐出配管4及び一方の供給/排出配管7の効率との関係を図3(a)〜(c)に示す。ここで、これらの図において、容積効率(ηv)は全流量に対する実際に油圧アクチュエータ6を駆動するために使用される流量の比、機械効率(ηm)は油圧ポンプ1にあっては、設定圧(理論値)に対する出力圧の比、コントロールバルブ5及び配管の効率については、入力側の圧力に対する出力側の圧力の比、つまり圧損の程度である。
【0019】
図3(a)には、作動油粘度に対する油圧ポンプ1の容積効率及び機械効率の関係が示されており、作動状態aの容積効率は曲線(ηv・a),作動状態bの容積効率は曲線(ηv・b)となり、また作動状態aの機械効率は曲線(ηm・a),作動状態bの機械効率は曲線(ηm・b)となる。従って、この線図からは、容積効率は作動油の粘度が高くなればなるほど高効率になり、これとは逆に機械効率は作動油の粘度が低い方が高効率となる。その結果、油圧ポンプ1の全効率(ηt)は、作動状態aでは曲線(ηt・a)、作動状態bでは曲線(ηt・b)となる。また、図3(b)に示したように、作動油粘度に対するコントロールバルブ5の容積効率及び機械効率の関係も前述した油圧ポンプ1とほぼ同様の傾向を示しており、作動状態aの容積効率は曲線(ηv・a),作動状態bの容積効率は曲線(ηv・b)となり、作動状態aの機械効率は曲線(ηm・a),作動状態bの機械効率は曲線(ηm・b)となる。そして、コントロールバルブ5の全効率(ηt)は、作動状態aでは曲線(ηt・a)、作動状態bでは曲線(ηt・b)となる。さらに、配管内では圧損が生じるものの、実質的に作動油の漏れがないことから、図3(c)に示したように、作動状態aの機械効率は曲線(ηm・a),作動状態bの機械効率は曲線(ηm・b)となる。
【0020】
以上の点から、油圧回路全体の効率としては、図4に示したように、作動状態aでの全効率特性は曲線aTとなり、また作動状態bの全効率特性は曲線bTとなる。従って、作動状態aでは、作動油の動粘度が値A(cSt)のときが最も高い作業効率を発揮し、作動状態bでは、作動油の動粘度が値A(cSt)より低い値B(cSt)で最高の作業効率を発揮することがわかる。
【0021】
作動油の粘度は作動油温度と実質的に比例するので、油圧ポンプ1が低圧・大流量で作動し、機械が軽作業を行っている作動状態aでは作動油の粘度が値A(cSt)となるように作動油の温度を高くする。これに対して、油圧ポンプ1が高圧・小流量で駆動されて、重作業を行っている作動状態bでは、作動油の粘度が値B(cSt)となるように作動油の温度を低下させるようにする。これによって、油圧回路システム全体の効率が向上し、油圧ショベルの省エネルギ的稼働を図ることができる。
【0022】
以上の点から、作業負荷に応じて作動油の温度を変化させるための具体的な一構成例を図5に示す。この図5において、10はエンジン11により駆動される可変容量式の油圧ポンプであり、この油圧ポンプ10と作動油タンク12との間を接続する吸い込み配管13から供給される作動油を加圧して吐出配管14に供給する。吐出配管14は複数の方向切換弁15aからなるコントロールバルブユニット15に接続されており、このコントロールバルブユニット15には複数の供給/排出配管16が接続されており、これら各供給/排出配管16は油圧シリンダ17Cや油圧モータ17Mといった油圧アクチュエータ17に接続されている。そして、コントロールバルブ15における戻り配管18は冷却手段19を介して戻り油を冷却して作動油タンク12に還流される。
【0023】
冷却手段19はオイルクーラ20を有し、このオイルクーラ20により油圧アクチュエータ17を駆動することにより加熱された戻り油が冷却される。ただし、戻り配管18から作動油タンク12に還流される戻り油の全量がオイルクーラ20により冷却されるのではなく、オイルクーラ20の前段には分配弁21が装着されており、この分配弁21にはオイルクーラ20を介して作動油タンク12に還流させる冷却戻り配管22aと、オイルクーラを介さないで作動油タンク12に還流させる非冷却戻り配管22bとに分岐している。従って、冷却戻り配管22aに流す戻り油量と非冷却戻り配管22bとの流量比を制御することによって、作動油タンク12内の油温を変化させることができる。従って、これらによって冷却率可変式作動油冷却手段が構成される。
【0024】
作動油タンク12には作動油の温度を測定する温度センサ23が装着されており、この温度センサ23により検出される作動油温信号が制御回路24に取り込まれるようになっている。また、吐出配管14(または油圧ポンプ10)には、その圧力を検出する圧力センサ25が接続されており、この圧力センサ25は作業負荷検出手段として機能するものであり、その検出信号も制御回路24に取り込まれるようになっている。制御回路24は記憶部24aと演算部24bとを備えており、記憶部24aには油圧ポンプ10の吐出圧に応じて最も高い効率で機械を駆動するのに最適な作動油の温度を記憶し、演算部24bでは記憶部24aに記憶されている最適な作動油温に関するデータを読み出して、温度センサ23により検出した作動油温と比較して、分配弁21における冷却戻り配管22aと非冷却戻り配管22bとの流量比を求めるものである。即ち、温度センサ23による作動油温に関するデータは、所定時間内、例えば1時間内での平均油温とする。このようにして演算した平均油温が作業負荷履歴となり、これが記憶部24aに記憶されているデータと比較されて、当該負荷率での最適油温が算出されることになる。そして、この演算結果に基づいて、制御回路24から分配弁21に対して目標とする流量比で戻り油の冷却戻り配管22a及び非冷却戻り配管22bに流量の分配を行うように制御する。
【0025】
ここで、図4に示したように、油圧ショベルが軽作業を行っている作動状態aでは、油圧ポンプ10が低圧・大流量で駆動されることになるので、作動油の設定温度は高い温度として、作動油の粘度が同図の値A(cSt)となるように設定する。これに対して、油圧ポンプ10が高圧・小流量で駆動されて、重作業を行っている作動状態bでは作動油の設定温度は低い温度として、作動油の粘度を同図の値B(cSt)となるように設定する。即ち、作動油の設定温度を高温状態と低温状態との2段階に制御される。
【0026】
即ち、図6にあるように、油圧ポンプ10が作動して、油圧ショベルの作動が開始すると、油圧ポンプ10の吐出圧が測定され、かつ作動油タンク12の油温が測定される(ステップ1)。この吐出圧の測定は機械が作動している間は継続的に行われるものであり、制御回路24においては、直前15分間の圧力平均値Prefとそれより前1時間分の圧力平均値Pmeanとの差(Pref−Pmean )=ΔPを求める(ステップ2)。なお、この平均値の差分ΔPには所定のヒステリシス特性を持たせるために、ある不感帯となる領域を設定しておき、差ΔPはこの不感帯からなる設定値ΔP´と比較される。そして、差ΔPが設定値ΔP´より小さい場合には(ステップ3)、作業の性質に変化がないとして、設定油温を変更することなく(ステップ4)、分配弁21における戻り油の分配比を変化させない(ステップ5)。一方、差ΔPが設定値ΔP´より大きい場合にはステップ6になり、作業の性質が変化し、重作業から軽作業に、または軽作業から重作業に変化したとして、設定油温を変更する(ステップ7)。ここで、設定温度が変更されたときには、分配弁21における戻り油の分配比を変化させる(ステップ8)。
【0027】
以上のようにして、目標となる油温が決定されると、ステップ9において、作動油タンク12内の作動油の温度が目標値となるように、戻り油の油温が制御される。即ち、温度センサ23により測定した作動油温が目標となる作動油温より低いと、冷却手段19における分配弁21の流量比が非冷却戻り配管22bの方を大流量となし、もって戻り油の冷却率を低下させる。一方、測定作動油温が目標値より高いと、分配弁21における冷却戻り配管22aの方の流量を多くして、戻り油の冷却率を高くする。前述した1時間は作業負荷履歴を取得する上での単位時間となるものであり、この作業負荷履歴を取得することによって、戻り油の分配比の見直しが行われるが、この戻り油の分配比の見直しは単位時間である1時間毎に行われる。
【0028】
以上の制御は、温度センサ23で測定される作動油タンク12内の作動油温が正確に設定温度とするのではなく、所定のヒステリシスを持たせるように設定しておく。従って、作動油温が所定の設定範囲内となると、その温度状態が維持される。これによって、油圧ショベルが稼働する際に、油圧回路を構成する全システムの効率が良好となり、省エネルギを図ることができる。
【0029】
ここで、油圧ショベルに作用する作業負荷に応じて戻り油の温度制御がなされるが、作業負荷を高負荷作業と低負荷作業との2段階に分けるようにしている。ただし、作業の種類によっては、さらに多段に制御することができ、さらに連続的に制御するように構成することもできる。つまり、油圧ショベルは様々な種類の作業を行うことができ、作業の種類によっては、高負荷作業と低負荷作業との中間の作業が継続して行われる場合もある。例えば、図4において、作動状態aの軽作業時に最適な作動油の温度と、作動状態bの重作業時に最適な作動油の温度との中間の温度に調整する方が効率を高くすることができる場合には、制御回路24からの制御信号に基づいてそれに見合った分配弁21による冷却戻り配管22aと非冷却戻り配管22bとの分配比率となるように微細に制御することもできる。
【0030】
次に、図7に作動油の温度制御を行う機構の他の例を示す。同図、前述した図5と同一または均等な部材については、それと同一の符号を付すものとする。この図7では、負荷検出手段として、油圧ポンプ10の吐出流量を検出する流量センサ30で構成している。図2のP−Q特性から、油圧ポンプ10の吐出流量を検出することによっても、作業負荷を検出することはできる。また、オイルクーラ20において、戻り油を冷却ファン31からの冷却風により冷却する構成としている。冷却ファン31はファン駆動用油圧モータ32により駆動されるものであり、このファン駆動用油圧モータ32は、油圧アクチュエータ17を駆動するメインポンプとしての油圧ポンプ10と共にエンジン11により駆動されるファン駆動用油圧ポンプ33に接続されている。そして、ファン駆動用油圧ポンプ33とファン駆動用油圧モータ32との間には、このファン駆動用油圧モータ32の回転数を制御するための回転数制御部34が設けられており、これによって冷却ファン31の回転数を制御し、もってオイルクーラ20の冷却率が可変な冷却率可変式作動油冷却手段を構成する。この回転数制御部34は、前述した第1の実施の形態と同様、流量センサ30により検出される作業負荷と、温度センサ23により検出される作動油タンク12内の作動油温とから、記憶部24a及び演算部24bを備えた制御回路24からの制御信号に基づいて制御される。
【0031】
以上のように構成することによっても、前述した第1の実施の形態と同様、作業負荷に応じて油圧回路を流れる作動油が最適な温度となるように調整することができ、もって省エネルギ化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】油圧駆動式産業機械における油圧回路の構成例を示す油圧回路図である。
【図2】油圧ポンプの吐出圧と吐出流量との関係を示す線図である。
【図3】作動油の動粘度の変化による油圧ポンプの効率,コントロールバルブの効率及び配管の効率の変化を示す線図である。
【図4】作動油の動粘度の変化による油圧回路の全効率の変化を示す線図である。
【図5】本発明における第1の実施の形態を示す油圧ショベルの油圧回路の構成説明図である。
【図6】図5の油圧回路における制御回路による戻り油の温度制御を実行するためのフローチャート図である。
【図7】本発明における第2の実施の形態を示す油圧ショベルの油圧回路の構成説明図である。
【符号の説明】
【0033】
10 油圧ポンプ 11 エンジン
12 作動油タンク 13 吸い込み配管
14 吐出配管 15 コントロールバルブユニット
16 供給/排出配管 17 油圧アクチュエータ
18 戻り配管 19 冷却手段
20 オイルクーラ 21 分配弁
22a 冷却戻り配管 22b 非冷却戻り配管
23 温度センサ 24 制御回路
24a 記憶部 24b 演算部
30 流量センサ 31 冷却ファン
32 ファン駆動用油圧モータ
33 ファン駆動用油圧ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油タンクからの作動油を加圧する可変容量式の油圧ポンプと、この油圧ポンプの吐出油を、コントロールバルブを介して供給することにより駆動制御されて、所定の作業を実行する油圧アクチュエータとを備えた油圧駆動式産業機械において、
前記油圧アクチュエータからの戻り油を冷却するために、この戻り油の冷却率を変化させる冷却率可変式作動油冷却手段と、
前記油圧アクチュエータによる作業負荷を検出する負荷検出手段と、
前記負荷検出手段により検出される作業負荷に応じて前記戻り油の冷却率を変化させる制御手段と
を備える構成としたことを特徴とする油圧駆動式産業機械。
【請求項2】
前記冷却率可変式作動油冷却手段は、前記戻り油の管路を、冷却器を介する冷却経路と、冷却器を介さない非冷却経路とに分岐させ、この分岐部にこれら両経路への戻り油の分配比率を変化させる分配手段を設ける構成としたことを特徴とする請求項1記載の油圧駆動式産業機械。
【請求項3】
前記冷却率可変式作動油冷却手段は、冷却ファンからの冷却風が供給される冷却器からなり、この冷却ファンの回転数を制御する回転数制御手段を備える構成としたことを特徴とする請求項1記載の油圧駆動式産業機械。
【請求項4】
前記負荷検出手段は、前記油圧アクチュエータへの供給圧力または供給流量を検出するものであることを特徴とする請求項1記載の油圧駆動式産業機械。
【請求項5】
前記制御手段は、高負荷作業時には前記戻り油の冷却率が高く、低負荷作業時には前記戻り油の冷却率が低くなるように2段階若しくは複数段階で制御する構成としたことを特徴とする請求項1記載の油圧駆動式産業機械。
【請求項6】
前記制御手段は、高負荷作業時には前記戻り油の冷却率が高く、低負荷作業時には前記戻り油の冷却率が低くなるように連続的に制御する構成としたことを特徴とする請求項1記載の油圧駆動式産業機械。
【請求項7】
前記制御手段は、前記負荷検出手段で少なくとも1時間の間に測定される負荷率を1単位として、この1単位の負荷率の平均値を作業負荷履歴とし、この作業負荷履歴に基づいて前記戻り油の冷却率を割り出す構成としたことを特徴とする請求項1記載の油圧駆動式産業機械。
【請求項8】
前記制御手段は、作業状態が変化する毎に前記1単位の作業負荷履歴を算出可能とし、この作業状態が変化しない限り一定の冷却率で前記戻り油を冷却する構成としたことを特徴とする請求項7記載の油圧駆動式産業機械。
【請求項9】
前記制御手段は、前記1単位毎に作業負荷履歴を算出して、次の1単位の時間分における前記戻り油の冷却率を決定する構成としたことを特徴とする請求項7記載の油圧駆動式産業機械。
【請求項10】
前記制御手段は、複数単位の前記作業負荷履歴の移動平均を求め、この移動平均に基づいて次の1単位の時間分における前記戻り油の冷却率を決定する構成としたことを特徴とする請求項7記載の油圧駆動式産業機械。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−211843(P2007−211843A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30749(P2006−30749)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】