説明

油性潤滑剤を使用する乾燥潤滑法

本発明は、少なくとも1種の油を含有する潤滑剤濃縮物を乾燥潤滑プロセスに使用する、コンベヤベルトを潤滑にする方法に関する。その後、先に潤滑剤濃縮物が塗布されているコンベヤベルトの表面に、pH値が5以上の液体組成物を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の油を含有する潤滑剤濃縮物を乾燥潤滑プロセスに使用する、コンベヤベルトを潤滑にする方法に関する。その後、先に潤滑剤濃縮物が塗布されているコンベヤベルトの表面に、pH値が5以上の液体組成物を塗布するものである。
【背景技術】
【0002】
既知のコンベヤベルト潤滑剤は、固体表面、例えばガラスと金属、又はプラスチックと金属との間での良好な摺動接触(gliding contact)を確実なものとする必要がある用途に使用される。これらの用途としては、瓶詰め及び運搬プラントが挙げられ、この場合、ベルト上におけるボトルの問題のない運搬を確実なものとするために、コンベヤベルトに潤滑剤を塗布する。多くの既知のシステムでは、カリベース(カリウムベース)の軟せっけん等のせっけんが潤滑剤として使用されている。せっけんは通常、脂肪酸等の酸性遊離体、及びアルカノールアミン又はアルカリ水酸化物等の塩基性遊離体から生成される。このようなせっけんベースの潤滑剤は、通常約8〜12のアルカリ性pH範囲内であり、例えば、特許文献1、特許文献2又は特許文献3に開示されている。
【0003】
せっけんベースの潤滑剤の代わりとして、或る特定のアミン化合物を含む多種多様な合成コンベヤベルト潤滑剤が使用されている。これらの合成潤滑剤は、例えばホスフェートトリエステルを含有する潤滑剤濃縮物を開示する特許文献4に記載されている。この潤滑剤濃縮物は、さらなる成分としてアミン及び酸(塩酸、硝酸若しくはリン酸等の無機酸、又はギ酸、酢酸若しくはオレイン酸等の有機酸であり得る)を含有する。アミンの存在により、各潤滑剤のpH値は通常6〜12の範囲内である。
【0004】
これらのコンベヤベルト潤滑剤は一般的に、濃縮物として供給される。このような濃縮物の使用濃縮液(又は使用溶液)は通常、摩擦要件及び水の種類に応じて、典型的な希釈率である0.2重量%〜1.0重量%の各濃縮物を水に適用することによって調製される。0.1重量%より有意に低い活性潤滑成分の使用濃縮物を有する、このような水溶性ベルト潤滑剤(水溶性の使用溶液)は何年にもわたり申し分なく塗布されている。このような水溶性の使用溶液は、「湿潤潤滑剤」としても知られる。
【0005】
特許文献5は、容器及び/又は容器用のコンベヤシステムを処理又は潤滑にするために、抗菌性の潤滑剤組成物を使用するような湿潤潤滑プロセスに関する。使用する潤滑剤組成物は、潤滑剤と、抗菌的に有効な量の第四級ホスホニウム化合物とを含む。潤滑剤は、非中和脂肪酸(オレイン酸であり得る)を含む。
【0006】
特許文献6は、脂肪酸と、アルカリ金属水酸化物、尿素又はアルキルアミン等の中和作用物質とを含む潤滑剤濃縮物に関する。潤滑剤は加えて、5〜9のpH値をもたらすようなpHバッファを含有する。
【0007】
特許文献7は、容器及びコンベヤシステムの潤滑用の非水溶性潤滑剤に関し、実質的に非水溶性の潤滑剤としては、天然潤滑剤、石油系潤滑剤、合成油、グリース及び固体潤滑剤が挙げられ得る。
【0008】
特許文献8は、とりわけ脂肪カルボン酸、例えば長鎖カルボン酸の混合物を0wt%〜50wt%含む、返却可能なガラスボトルのコーティング用の組成物に関する。しかしながら、この組成物は、コンベヤベルトを潤滑にするのではなく、ガラスボトルをコーティングするために使用される。
【0009】
特許文献9は、少なくとも1種の潤滑剤と、少なくとも1種のPETボトル用の保護剤(アルキルエーテルカルボン酸又はその塩等)とを含むコンベヤ潤滑剤組成物に関する。使用する潤滑剤は、脂肪酸(オレイン酸等)又はアルカノールアミンを含む、当業者に既知のいずれの潤滑剤であってもよい。
【0010】
特許文献10は、リン酸エステルと、カルボン酸エーテルと、水と、C〜C22の脂肪酸(オレイン酸等)及び/又はC〜C22の脂肪アルコールとを含む、コンベヤシステム用の潤滑剤組成物に関する。
【0011】
特許文献11は、有効な潤滑量のアミンと、腐食抑制剤と、界面活性剤とを含有する潤滑剤濃縮物組成物に関する。約5〜10の範囲のpH値を得るための中和作用物質として脂肪酸をこの組成物に添加してもよい。
【0012】
特許文献12は、脂肪酸と、アミノアルコールと、ホスフェートエステルとを含む、金属加工プロセスに使用される潤滑剤組成物に関する。使用する脂肪酸はアミノアルコールで中和され、有機ホスフェートエステルと錯体形成され、pHが少なくとも約8の潤滑剤が得られる。潤滑剤は、粉末金属部品及び/又は従来の鉄部品及び非鉄金属部品をサイジング、圧印及び機械加工するのに有用である。
【0013】
特許文献13は、例えば油圧オイル又はコンプレッサオイルに有用な改良型食品グレード潤滑剤に関する。潤滑剤は、少なくとも1種の植物油と、少なくとも1種のポリアルファオレフィンと、少なくとも1種の抗酸化剤とを含む。
【0014】
特許文献14は、カリベースのせっけんを湿潤潤滑剤として使用する場合のような粘着性の堆積物も不快な臭気も形成することなく、ボトル用コンベヤベルトを潤滑にすると共にクリーニングするプロセスに関する。プロセスは、中和第一級脂肪アミンの基剤を含む潤滑剤をコンベヤベルト上に塗布する第1の工程を含む。潤滑剤は、酢酸を用いて6〜8のpH値に中和することができる。第2の工程では、コンベヤベルトを、カチオン性クリーニング剤(例えば、アルキルジメチルベンジルアンモニウム等の第四級アンモニウム化合物)から選択される少なくとも1種のクリーニング剤及び有機酸でクリーニングする。このクリーニング工程は、時折、例えば、毎日又は毎週行い得ることが示唆されている。しかしながら、コンベヤベルトから汚れ又は堆積物を取り除くことは通常、使用する潤滑剤(使用溶液)の大部分が各コンベヤベルトの表面から落ちるため、湿潤潤滑プロセス自体(特許文献14に記載される方法の第1の工程等)により既に実施されている。落ちる(流れ出る)液体は通常、コンベヤベルトの表面から汚れ又は堆積物のほとんどを取り去る。
【0015】
しかしながら、上記の(ほとんど水溶性の)潤滑剤は乾燥潤滑プロセスには全く使用されない。これらのほとんどは、使用溶液、したがって湿潤潤滑剤として使用され、その中の幾つかは油圧オイル等の異なる用途にさらに使用される。これらの潤滑剤のほんの幾つかしか油をベースとするものはない。
【0016】
他方、これらの水溶性の潤滑剤(湿潤潤滑剤)の塗布によって、水の使用率も高くなり、使用者にとっては廃水コストも相対的に高くなる。さらに、従来の目的で使用される場合、これらの水溶性の潤滑剤が、潤滑剤で処理したコンベヤトラックの表面から流れ出ることにより、化学物質及び水が無駄になり、床表面が滑りやすくなる原因となり、周辺環境で働く作業者に対する危険因子を構成し、また床及び他の表面にたまるため、クリーニングが必要となる。
【0017】
湿潤潤滑剤を使用することの上述の欠点を克服するために、特許文献15は、いわゆる「乾燥潤滑剤」としてのコンベヤベルトを潤滑にするための液体組成物の使用を開示している。液体組成物は、各コンベヤベルト(その上に(液体として)塗布される)の表面上に残り、結果としてこの表面から流れ出ることがない乾燥潤滑剤膜を作製するのに適している。液体は通常、水性相(最大95重量%が水)であり、シリコーン油、又は植物油、鉱油及びそれらの混合物から選択される他の油をさらに含む。植物油は、ダイズ油、ヤシ油、オリーブ油又はヒマワリ油であり得る。液体組成物は、水によるさらなる希釈を行っても又は行わなくともコンベヤベルト表面への連続的な塗布を行って、必要な潤滑性を損なうことなく異物の付随的な余水をコンベヤベルト表面から除去するのに好適である。特許文献16の実施例によれば、乾燥潤滑条件下における或る特定の作業時間後に、コンベヤベルトに水を噴霧している。
【0018】
特許文献17は、潤滑剤濃縮物を乾燥潤滑剤として乾燥潤滑プロセスに使用する、コンベヤベルトを潤滑にする方法に関する。潤滑剤濃縮物は、少なくとも0.1wt%の少なくとも1種の遊離脂肪酸と、少なくとも1種の腐食抑制剤とを含有する。
【0019】
特許文献18は、コンベヤトラック又はコンベヤベルトを潤滑にする組成物及び方法に関し、潤滑剤組成物は、脂肪酸を少なくとも約25wt%含有する。潤滑プロセスは、任意で乾燥潤滑として行われ得る。一実施の形態では、脂肪酸が遊離形態で存在し得る。特許文献18と同様の開示は特許文献19に見ることができる。
【0020】
特許文献20、特許文献21及び特許文献22は、任意に乾燥潤滑として行われ得るさらなる潤滑法に関する。水混和性シリコン材料又は鉱油をベースとする潤滑剤等の種々のタイプの潤滑剤が使用され得る。潤滑剤は加えて、オレイン酸等の脂肪酸を含有していてもよい。特許文献22では、水による処理によって、又は一般的な洗剤若しくは改良型の洗剤(例えば、1種又は複数種の界面活性剤、アルカリ性源若しくは水質調節剤を含む)を用いて、シリコンベースの潤滑剤によって容器又はコンベヤベルトを任意にクリーニングし得ることがさらに示唆される。
【0021】
しかしながら、コンベヤベルトを潤滑にする任意の形態として乾燥潤滑プロセスを記載している上記文献中のいずれにも、油による乾燥潤滑を行った後に、基剤と脂肪酸とを含有しかつpH値が5以上の液体組成物の塗布を施す方法は、開示されていない。
【0022】
湿潤潤滑に対する乾燥潤滑方法の1つの主な利点は、潤滑に使用される各液体の容量の劇的な減少である。コンベヤベルトの通常の乾燥潤滑では、およそ1.5ml/時間〜20ml/時間の各潤滑剤をコンベヤベルト上に(乾燥潤滑剤として)塗布するのに対し、湿潤潤滑の場合には、同じコンベヤベルト上におよそ10l/時間〜30l/時間の水溶液を塗布しなければならない。コンベヤベルト上で使用される各液体潤滑剤の容量は通常、(乾燥潤滑に対する湿潤潤滑で)1000倍〜10000倍異なる。
【0023】
しかしながら、例えば特許文献15に記載されている乾燥潤滑方法は幾つかの欠点とも関連付けられる。とりわけ、植物油、又は特に鉱油を含有する乾燥潤滑剤の使用に起因して、コンベヤベルト上を運ばれる容器の底面にいわゆる黒変(blackening)が観察される。この黒変は、とりわけ、使用する容器を運搬/再充填する場合、又は例えばコンベヤベルト上を運ばれる対象物により生じるガラス若しくは金属の摩耗によって、通常容器表面に付着した汚れによって引き起こされることが多い。さらなるコンベヤベルト上の汚れのもとは、ビール又は糖含有飲料等の液体分であり、各(再)充填プロセス中に容器内へ充填されずに、各容器の外面上をコンベヤベルト上へと流れ落ちたものである。黒変問題は通常、乾燥潤滑プロセスの場合にのみ起こり、潤滑剤の使用溶液が流れ出ることによって汚れのほとんどがコンベヤベルトの表面から運び去られるため、湿潤潤滑プロセスでは起こらない。
【0024】
汚れと、植物油又はとりわけ鉱油との上記混合物をコンベヤベルトから取り除き、黒変を避けることは困難であるため、全コンベヤベルトシステムを時々止めて、付加的なクリーニング工程を行わなければならない。とりわけ鉱油を使用する場合、油−汚れ混合物は従来の水溶性洗剤組成物では十分に取り除くことができないので、通常、界面活性剤を含有する強アルカリ性の洗剤組成物を使用することによってこのクリーニングを行う。使い切った潤滑剤膜を、コンベヤベルトから完全に取り除かなければ、黒変問題は解決しない。また、新しい潤滑剤膜が不完全に形成されると、運ばれる対象物に関して問題が生じる。クリーニングの後、容器の運搬に関して何ら問題なく全システムを運転することができるまで、各コンベヤベルト上に潤滑剤を十分に(再)塗布するのに(いわゆる開始段階に)さらなる時間を費やさなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】米国特許第5,391,308号明細書
【特許文献2】米国特許第4,274,973号明細書
【特許文献3】米国特許第3,336,225号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1690920号明細書
【特許文献5】国際公開第01/23504号パンフレット
【特許文献6】米国特許出願公開第2004/0102334号明細書
【特許文献7】米国特許第6,288,012号明細書
【特許文献8】米国特許第4,420,578号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2005/0288191号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第1840196号明細書
【特許文献11】米国特許第5,723,418号明細書
【特許文献12】米国特許第5,399,274号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2004/0241309号明細書
【特許文献14】米国特許第4,839,067号明細書
【特許文献15】国際公開第01/07544号パンフレット
【特許文献16】国際公開第01/07577号パンフレット
【特許文献17】国際出願PCT/US2007/087143号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第2005/0059564号明細書
【特許文献19】米国特許第6,855,676号明細書
【特許文献20】米国特許第6,427,826号明細書
【特許文献21】米国特許第6,673,753号明細書
【特許文献22】欧州特許出願公開第1308393号明細書
【特許文献23】欧州特許第1444316号明細書
【特許文献24】米国特許第4,604,220号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の目的は、コンベヤベルト用の新たな乾燥潤滑方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
この目的は、コンベヤベルトを潤滑にする方法であって、
a)少なくとも1種の油を含有する潤滑剤濃縮物を、乾燥潤滑プロセスに使用する工程と、
b)その後、液体組成物をコンベヤベルトの表面に塗布する工程と、
を含み、
液体組成物のpH値が5以上の範囲内であり、
液体組成物が、成分a)として少なくとも1種の基剤を含有し、
液体組成物が、成分b)として少なくとも1種の脂肪酸を含有する、コンベヤベルトを潤滑にする方法によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明による方法の主な利点は、乾燥潤滑プロセス(工程a)中に(低摩擦に起因する)優れた潤滑性がコンベヤベルト上に与えられることである。本発明の工程a)に従う乾燥潤滑プロセスは、異なるタイプの潤滑剤濃縮物を使用する乾燥潤滑プロセスに比べて、又は対応する湿潤潤滑プロセスに比べて、潤滑性の改良をもたらす。また、対応する湿潤潤滑プロセスに比べ、乾燥潤滑プロセスでは、コンベヤベルトのエンジンの電力消費量を10%〜20%低減させることができる。
【0029】
本発明の方法による工程b)に起因して、コンベヤベルトの表面に付着した汚れ(運ばれる容器の底面上の黒変の原因となる)を容易に取り除くことができる。したがって、工程b)は一方で、クリーニング(洗浄)工程とみなされるべきである。乾燥潤滑剤(油)及び工程b)の液体組成物の成分が通常、容易に洗い流すことができる分散液を形成することから、この洗浄は非常に効果的である。基剤自体は、潤滑特性を全く有しないか又は非常に限られた潤滑特性しか有しないのに対し、基剤及び脂肪酸の存在に起因して液体組成物中に含まれるせっけんは優れた潤滑特性を有する。せっけんは、基剤と脂肪酸との化学反応生成物又は付加物とみなされ得る。その結果、工程b)も洗浄と潤滑との組合せ工程とみなすことができる。
【0030】
工程b)で使用される液体組成物が成分として基剤だけでなく、付加的な成分として少なくとも1種の脂肪酸も含有することから、工程b)が行われる限り、液体組成物からコンベヤベルト表面に新たなせっけんが常に供給される。せっけんは、コンベヤベルトから汚れ及び不完全な又は損傷を受けた乾燥潤滑膜を迅速に取り除くだけでなく、コンベヤベルト上での連続的な潤滑をさらにもたらすことから、これは大きな利点である。液体組成物が脂肪酸に対してモル過剰の基剤を含有する場合には、コンベヤベルト表面からの汚れの除去がより迅速に起こる。その結果、優れた潤滑性が、続くクリーニング(洗浄)工程b)の間維持される。これは、コンベヤベルトから汚れを効果的に取り除いて運ばれる容器の黒変を避ける場合に、コンベヤベルトの作業を一切中断しなくてもよいことを意味する。したがって、このようなコンベヤベルトは、24/7−作業モードで(週7日毎日24時間)運転することができる。
【0031】
工程b)に起因するクリーニングが非常に効果的であるため、工程b)は、それほど長時間行わなくてもよい。工程a)に従う乾燥潤滑にスイッチバックすることは容易である。上述のように、乾燥潤滑プロセスも潤滑性の観点から好ましい。
【0032】
本発明による方法の別の利点は、工程a)中、油と、乳化剤及び/又は腐食抑制剤として有用な化合物とを含有する潤滑剤濃縮物を使用する実施形態において、コンベヤベルト、さらにはコンベヤ装置及び/又は運ばれる対象物の腐食を低減することができることである。これは例えば、コンベヤベルトがステンレススチール製であっても、ブリキ製の対象物がコンベヤベルト上を運ばれる場合に当てはまる。油と、乳化剤及び/又は腐食抑制剤として有用なこのような化合物との組合せには、運ばれる対象物に対する黒変を低減させるさらなる効果がある。
【0033】
本発明による方法は、運ばれる対象物の種類/品質、又はコンベヤベルトの材料にかかわらず優れた潤滑性を与える。運ばれる対象物は部分的に又は完全に、ガラス、金属、カートン又はプラスチック製であってもよく、コンベヤベルトは部分的に又は完全に、スチール又はプラスチック製であってもよい。本発明による方法は、例えばステンレススチールのコンベヤベルト上でのガラスボトルの運搬に優れた潤滑性を与える。これまでは、運ばれる対象物もコンベヤベルト自体も部分的に又は完全にプラスチック製でない場合には、コンベヤベルト上で充填、特に再充填される対象物の運搬がかなり複雑であった。本発明による方法によって、ステンレススチールのコンベヤベルト上で使用されるガラス製の対象物、又はプラスチックのコンベヤベルト上のプラスチック製の対象物の運搬のための潤滑性も向上する。
【0034】
EDTA等のキレート剤は、コンベヤベルト上での石灰せっけんの形成を防ぐのに使用される。通常、中性からアルカリ性の潤滑条件を使用することによって、コンベヤベルト上で石灰せっけんの形成が起こる。石灰せっけんの形成には、各コンベヤベルト上の潤滑を劇的に低減又はさらには停止させるという負の副作用がある。EDTA等のキレート剤を使用することには、これらが容易には生分解できないという負の副作用がある。本発明の幾つかの実施形態では、脂肪酸及び/又はさらなる酸の存在に起因して、本発明の工程a)で使用される潤滑剤濃縮物はpHスペクトルが酸性範囲にあるため、石灰せっけんの形成が起こらない。また、潤滑剤濃縮物のpH範囲がかなり低いと、生物静力学的な効果が誘発され、細菌、又は食品及び/若しくは飲料の寄生虫の増殖が起こらない。脂肪酸以外の酢酸等の別の酸を使用すると、各潤滑剤濃縮物のさらなる安定化が得られる。
【0035】
本発明に関連する用語「乾燥潤滑剤」とは、各潤滑剤が、完全又は少なくとも実質的に各コンベヤベルトの表面上に残るように、使用する潤滑剤を上記コンベヤベルト上に塗布すること(工程a中)を意味する。実質的に残るとは、使用する潤滑剤が10容量%以下しか、各コンベヤベルトから流れ出ない(落ちない)ことを意味する。明確にするために、乾燥潤滑剤自体は通常、液体、例えばエマルション又は溶液として使用されることが示唆される。この乾燥潤滑剤の塗布に関連するプロセス(方法)は、「乾燥潤滑(プロセス)」と規定される。好ましくは、本発明による乾燥潤滑プロセス中で、潤滑剤濃縮物を(通常サイズが5m〜20m、好ましくは約12mであることに応じて、コンベヤベルトトラック1つ当たり)1.5ml/時間〜20ml/時間、特に約5ml/時間の割合で各コンベヤベルト上に添加する。
【0036】
本発明に関連する用語「湿潤潤滑剤」とは、使用する潤滑剤又は潤滑剤を含有する液体が有意量、各コンベヤベルトの表面から流れ出るように、各潤滑剤をコンベヤベルトの表面上に塗布することを意味する。この湿潤潤滑剤の塗布に関連するプロセス(方法)は、「湿潤潤滑(プロセス)」と規定される。好ましくは、使用する液体量の少なくとも30容量%、より好ましくは少なくとも50容量%、特に少なくとも90容量%が流れ出る。好ましくは、湿潤潤滑プロセス中で潤滑剤を(通常サイズが5m〜20m、好ましく約12mであることに基づき、コンベヤベルトトラック1つ当たり)1.5l/時間〜20l/時間の割合で各コンベヤベルト上に添加する。
【0037】
本発明に関連する用語「潤滑剤濃縮物」とは、各潤滑剤が、好ましくは少なくとも0.1wt%の量で、1種の油、又は2種以上の油の混合物を含有することを意味する。潤滑剤濃縮物は、少なくとも1種の乳化剤、水又は有機溶媒を含むさらなる成分を含有していてもよく、全体で100wt%(油とさらなる成分との合計)になる。
【0038】
本発明に関連する用語「(潤滑剤の)使用溶液」とは、各潤滑剤中に含まれる、1種の油、又は2種以上の油の混合物の量が好ましくは0.1wt%未満、より好ましくは0.01wt%未満であることを意味する。通常、各潤滑剤濃縮物を溶媒、好ましくは水で1000倍〜10000倍に希釈することによって、潤滑剤の使用溶液が得られる。
【0039】
本発明中、化学的な化合物は、特に指定のない限り、(それらを他の化合物と混合する前の)各純粋形態の化学構造/化学名で言及されることを示唆しておかなければならない。とりわけ、それらを混合物中で使用する際には、例えば各混合物のpH値の影響を受けてそれらの化学構造が変化する場合がある。例えば、脂肪酸は完全に又は部分的に遊離(通常、プロトン化)形態で存在していることがある。これは通常、酸性pH範囲内、例えば、pH値が4以下の場合である。しかしながら、脂肪酸はまた、完全に又は部分的に非プロトン化形態で存在していることもある。これは通常、脂肪酸が完全に又は部分的に対応する塩に転化するか、又は化学反応が起こり得る、中性又はアルカリ性pH範囲内の場合である。
【0040】
続いて、本発明によるコンベヤベルトを潤滑にする方法を詳細に説明する。
【0041】
工程a)
(乾燥潤滑プロセス中で)乾燥潤滑剤として使用される潤滑剤濃縮物は、第1の成分として少なくとも1種の油を含有する。油は、当業者に既知のいずれの油であってもよい。好適な油の例は、鉱油、合成油、植物油及び動物(脂肪)油、又は精油である。鉱油は、石油、及びWhite Oil 40C(Texaco Nederland BV)、Technical White Oil 40C(Chevron Nederland)又はWhite Oil TEC 40 CPB(Merkur Vaseline)の商品名で市販されているホワイトオイル等の炭化水素油を含む。植物油は通常、飽和又は(部分的に)不飽和の脂肪酸のトリグリセリドに基づくものである。油は通常、水不溶性又は実質的に水不溶性である。しかしながら、油は通常、水混和性又は少なくとも部分的に水混和性である。好ましい油は、水とエマルションを形成することができる。より好ましくは、油は、合成油又は植物油、最も好ましくは植物油である。
【0042】
合成油は、好ましくはシリコン材料又はシリコンベースの油(「シリコンオイル(silicon oils)」)、例えば「Krytox」(登録商標)(Du Pont Chemicals)若しくは「Bacchus」(登録商標)として入手可能なフッ素系オイル及びフッ素系グリースである。これらの合成油のうちの幾つかは、例えば特許文献22に開示されている。合成油は好ましくは水混和性である。シリコンオイルは好ましくは、アルキルシリコン及びアリールシリコン、クロロシラン等の官能化シリコン、アミノ−、メトキシ−、エポキシ−及びビニル−置換シロキサン及びシラノール、より好ましくはポリジメチルシロキサンから選択される。合成油は、水とエマルションを形成することができるシリコンオイルであることが最も好ましい。
【0043】
植物油は通常、種子、植物又は果物から得られる。植物油という用語は、化学的又は遺伝的に改質された改質植物油も含む。植物油の例は特許文献13に開示されている。好ましい植物油は、ダイズ油、ナタネ油、オリーブ油、ヒマワリ油、ヤシ油、レスクレラ油(lesquerella oil)、キャノーラ油、ピーナッツ油、コーン油、綿実油、パーム油、ヤシ油、ベニバナ油、メドウフォーム油、又はヒマシ油から選択される。より好ましい植物油は、ナタネ油、ダイズ油、パーム油、オリーブ油又はヒマワリ油から選択される。
【0044】
本発明の一実施形態では、工程a)において純粋形態又は略純粋形態の油を使用する。これは、本実施形態中、潤滑剤濃縮物が、1種の油又は2種以上の油の混合物を少なくとも95%wt%、好ましくは少なくとも97wt%、より好ましくは少なくとも99wt%、最も好ましくは(約)100wt%含有することを意味する。
【0045】
別の実施形態では、潤滑剤濃縮物が、少なくとも0.1wt%の量、好ましくは0.1wt%〜25wt%の量、より好ましくは0.5wt%〜15wt%の量、より好ましくは0.5wt%〜5wt%の量で、少なくとも1種の油又は2種以上の油の混合物を含有する。
【0046】
潤滑剤濃縮物は、さらなる成分として水を含有していてもよい。好ましくは、潤滑剤濃縮物が、少なくとも1種の油と水との安定なエマルションを形成する。油と水とは、いずれの比率で混和していてもよい。水が存在する場合、潤滑剤濃縮物は好ましくは、0.1wt%〜25wt%の量で少なくとも1種の油を含有する。
【0047】
本発明の工程a)に従う乾燥潤滑プロセスで使用される潤滑剤濃縮物は、潤滑剤濃縮物のさらなる成分に応じて様々なpH値を有し得る。本発明の一実施形態において、潤滑剤濃縮物のpH値は、4〜9、より好ましくは6〜8の範囲内、最も好ましくは(約)7である。
【0048】
本発明の一実施形態では、少なくとも1種の油を0.1wt%〜25wt%、水、好ましくは脱イオン水を5wt%〜95wt%、任意に乳化剤を少なくとも0.1wt%含有する潤滑剤濃縮物を使用する。
【0049】
潤滑剤濃縮物は、さらなる成分として少なくとも1種の乳化剤を含有していてもよい。好ましい乳化剤は、オレイル−3EO−ホスフェートエステル等の、酸化エチレン(EO)由来のフラグメントを含有し得るリン酸エステル(ホスフェートエステル)である。
【0050】
概して、ホスフェートエステルは、式OP(OX)(Xは独立して、H又はRであり、Rはアリール基又はアルキル基を表し得る)を有する。好ましくは、ホスフェートエステルは、式(I):
【化1】

又は式(II):
【化2】

【0051】
(式中、Rは、アルキル基又はアルキルアリール基であり、nは(互いに独立して)1〜10に等しい値をとり得る)を有する少なくとも1種の化合物である。式(I)又は式(II)中で、Rが2つ以上存在する場合、Rは同じ又は異なる意味を有していてもよい。好ましくは、ホスフェートエステルはNa又はK等のイオンを含有しない。例えば、アルキルはC〜C20−アルキルであってもよく、アリールはフェニルであってもよい。本発明の一実施形態では、少なくとも1種の式(I/ジエステル)の化合物と、少なくとも1種の式(II/モノエステル)の化合物との混合物を使用する。この混合物中のジエステルとモノエステルとの比率は、1:4〜4:1[wt%/wt%]、好ましくは約1:1[wt%/wt%]である。本発明の好ましい実施形態では、ホスフェートエステルが、少なくとも1種の式(I)によるジエステルである。ジエステルは、(副生成物として)各モノエステルを最大10wt%含有し得る。
【0052】
式(I)又は式(II)によるホスフェートエステルの好ましい例は、(C16〜C18)−アルキル−O−5EO−ホスフェートエステル(モノエステルとジエステルとの混合物)、(セチル−オレイル)−O−4EO−ホスフェートエステル(モノエステルとジエステルとの混合物)、(C12〜C14)−アルキル−O−4EO−ホスフェートエステル(モノエステルとジエステルとの混合物)、(C13〜C15)−アルキル−O−3EO−ホスフェートエステル、(C13〜C15)−アルキル−O−7EO−ホスフェートエステル、オレイル−O−4EO−ホスフェートエステル(モノエステルとジエステルとの混合物)、ラウリル−O−4EO−ホスフェートエステル及びC17−アルキル−O−6EO−ホスフェートエステル(モノエステルとジエステルとの混合物、好ましくは5.5:4.5の比率)である。このホスフェートエステル中、「(C16〜C18)」等の用語は、各アルキル残基がC16〜C18の鎖長で変わり得るか、又は各鎖長のこのアルキル残基を有する混合物を使用することを意味する。同じことが、「(セチル−オレイル)」等の用語に適用される。この好ましいホスフェートエステルは、Phospholan PE 65(Akzo Nobel)、Maphos 54P(BASF)、Maphos 74P(BASF)、Maphos 43T(BASF)、Maphos 47T(BASF)、Lubrhophos LB−400(Rhodia)、Lubrhophos RD−510(Rhodia)及びLakeland PAE 176(Lakeland)の商品名で市販されている。より好ましくは、式(I)又は式(II)によるホスフェートエステルは、(C12〜C18)−アルキルフラグメントと、3個〜6個のEOフラグメントとを含有する。
【0053】
好ましい乳化剤のさらなる種類はアルコキシル化カルボン酸であり、これは、アルキルエーテルカルボン酸としても知られており、かつ1つ又は複数のエーテル基を含有する飽和又は不飽和のカルボン酸、又はその混合物である。アルコキシル化は、エトキシル化であることが好ましく、各エトキシル化化合物が、酸化エチレン由来の1つ又は複数のフラグメント(EOフラグメント)を含有することを意味する。3EOは、各化合物が酸化エチレン由来のフラグメントを3つ含有することを意味する。この規定は、アルコキシル化脂肪アルコール、アルコキシル化エステル、又はアルコキシル化ホスフェートエステル等の下記又は上記の化合物にも適用される。
【0054】
好ましいエトキシル化カルボン酸は、C〜C18−アルキルフラグメントと、1個〜6個、好ましくは3個〜6個のEOフラグメントとを含有する。C〜C18−アルキルは、各フラグメントが、4個から最大18個の炭素原子を含有し、これがアルキル残基を形成するか、又は指示範囲内の少なくとも2つのアルキル残基の混合物を使用することを意味する。通常、エトキシル化カルボン酸は、2種以上の酸((C16〜C18)−アルキルエーテルカルボン酸等)の混合物として使用される。エトキシル化カルボン酸の好ましい例は、C12−アルキル−4EO−カルボン酸、(C16〜C18)−アルキル−2EO−カルボン酸、(C16〜C18)−アルキル−5EO−カルボン酸、(C16〜C18)−アルキル−10,5EO−カルボン酸又は(C〜C)−アルキル−8EO−カルボン酸である。より好ましくは、エトキシル化カルボン酸は、C12−アルキル−4EO−カルボン酸である。エトキシル化カルボン酸は、例えばKao Chemicals GmbH(Emmerich, Germany)から、Akypo RLM 25、Akypo RO 20、Akypo RO 50、Akypo RO 90、Akypo RCO 105又はAkypo LF2の商品名で市販されている。本発明の好ましい一実施形態では、エトキシル化カルボン酸エステルが、(C12〜C18)−アルキルフラグメントと、3個〜6個のEOフラグメントとを含有する。例としては、C12−アルキル−4EO−カルボン酸、又は(C12〜C18)−アルキル−5EO−カルボン酸である。
【0055】
本発明の一実施形態において、乳化剤は、少なくとも1種のホスフェートエステル及び少なくとも1種のアルコキシル化カルボン酸である。本発明の別の実施形態では、乳化剤は少なくとも1種のホスフェートエステルである。本発明のさらなる実施形態では、乳化剤は少なくとも1種のアルコキシル化カルボン酸である。
【0056】
さらに乳化剤(乳化作用物質)は、(有機)溶媒又は界面活性剤としても使用され得る化合物を含んでいてもよい。本発明による好ましい乳化剤は、アルコキシル化脂肪アルコール、アルコキシル化エステル、任意にアルコキシル化した脂肪アルコール又はホスフェートエステルである。
【0057】
好ましい脂肪アルコールは、セチルアルコール又はオレイルアルコール、特にセチルアルコール(1−ヘキサデカノール)である。アルコキシル化脂肪アルコールは、エトキシル化脂肪アルコールであることが好ましい。乳化剤として好適なエトキシル化脂肪アルコールは、BASF AG(Ludwigshafen, Germany)からLutensol XLシリーズ(XL 70等)、Emulan EL、Emulan NP 2080、Emulan OC、Emulan OG、Emulan OP25、又はEmulan OUの商品名で市販されている。エトキシル化脂肪アルコールの好ましい例は、RO(CO)H(R=C1021及びx=4、5、6、7、8、9、10及び14)である。
【0058】
アルコキシル化エステルは、エトキシル化エステルであることが好ましい。エトキシル化エステルは、対応するアルコール由来のエステルフラグメント中に1つ又は複数のエーテル基(EOフラグメント)を含有するカルボン酸のエステルである。好ましいエトキシル化エステルは、エトキシル化脂肪酸エステル、特にオレイン酸のエトキシル化エステルであり、これはBASF AGからEmulan Aの商品名で市販されている。
【0059】
本発明で使用される潤滑剤濃縮物中の乳化剤の存在は、防食特性、乳化作用をもたらし、pH値を酸性範囲にまで下げ、また乾燥潤滑プロセス中の黒変を低減するという利点と関係がある。乳化剤として上記に示される化合物の各特性は、潤滑剤濃縮物中に含まれるさらなる化合物に依存することを示唆しておかなければならない。
【0060】
存在する場合、潤滑剤濃縮物は概して、少なくとも0.1wt%の量、好ましくは0.1wt%〜40wt%の量、より好ましくは0.5wt%〜25wt%の量で少なくとも1種の乳化剤を含有する。
【0061】
上記の必須の成分及び任意の成分に加えて、潤滑剤濃縮物は、界面活性剤、腐食抑制剤、強有機酸若しくは弱有機酸等の酸(例えば1つ又は複数のエーテル基を含有する飽和又は不飽和のカルボン酸)、キレート剤、溶媒、又は殺生物剤又は抗酸化剤等の当業者に既知のさらなる成分を1つ又は複数含有していてもよい。任意の成分は、例えばそれらの混和性の観点から、互いに相溶性であるように選択される。
【0062】
好適な界面活性剤の例は、特許文献15又は特許文献20に見ることができる。好ましい界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸、カルボン酸、アルキルホスホン酸、並びにそれらのカルシウム塩、ナトリウム塩及びマグネシウム塩、ポリブテニルコハク酸誘導体、シリコーン界面活性剤、フルオロ界面活性剤、並びに油溶性の脂肪族炭化水素鎖に結合した極性基を含有する分子が挙げられる。安定して存在する場合、上記の好ましい界面活性剤を、塩としてではなく酸性形態で使用する。所望の結果が与えられる量で界面活性剤を使用する。この量は、組成物の総重量に対して、個々の成分が0wt%〜約30wt%、好ましくは約0.5wt%〜約20wt%の範囲となり得る。
【0063】
好適なキレート剤の例は、本発明の工程b)に関する各規定に見ることができる。
【0064】
本発明の一実施形態において、工程a)で使用される潤滑剤濃縮物は少なくとも1種の脂肪酸を含有する。脂肪酸は、当業者に既知のいずれの脂肪酸であってもよい。好ましくは、脂肪酸は、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸(myistic acid)、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸又はリノール酸等のC〜C22−脂肪酸である。脂肪酸は、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸又は多価不飽和脂肪酸であってもよい。脂肪酸がオレイン酸であることが最も好ましい。一実施形態において、各酸は完全に又は部分的に、遊離脂肪酸として使用される。
【0065】
本発明に関連する用語「遊離脂肪酸」とは、各脂肪酸の酸性官能基(カルボン酸基)が、各潤滑剤の任意の他の成分によって遮断されないか、又はこれと反応しないことを意味する。好ましくは、各潤滑剤は、各脂肪酸のカルボン酸基を遮断し、及び/又はこれと反応し得る対イオンを全く含有しない。特に、各潤滑剤は、任意のカチオン性イオン又はカルボン酸基の対イオンとして作用し得る他のカチオン性成分を実質的に含有しない。また、各潤滑剤濃縮物は、アミンを全く含まないことが好ましい。
【0066】
潤滑剤濃縮物が、使用する(遊離)脂肪酸の酸性官能基を遮断し得るか、又はこれと反応し得る任意の他の成分を含有する場合、本実施形態における潤滑剤濃縮物に使用される脂肪酸の量は、好ましくは少なくとも0.1wt%の濃度の(遊離)脂肪酸をもたらすレベルまで上昇させる必要がある。潤滑剤濃縮物等の組成物中に含まれる(遊離)脂肪酸の量を検出する方法は、当該技術分野で既知である。
【0067】
存在する場合、潤滑剤濃縮物は、少なくとも0.1wt%の量、好ましくは0.1wt%〜25wt%の量、より好ましくは0.3wt%〜5wt%の量で、少なくとも1種の脂肪酸又は2種以上の脂肪酸の混合物を含有する。
【0068】
工程a)で使用される潤滑剤濃縮物が少なくとも1種の脂肪酸をさらに含有する、本発明の実施形態では、各潤滑剤濃縮物のpH値が酸性範囲であることが好ましい。pH値は、例えば、4以下の範囲内、好ましくは3以下の範囲内、より好ましくは1〜3、特には(約)2である。各潤滑剤濃縮物をさらに希釈する場合、例えば乾燥潤滑プロセスを湿潤潤滑プロセスと組合せると、通常、使用溶液(例えば水で希釈した潤滑剤濃縮物)のpH値は、5.5〜7.5の範囲内、好ましくは7となる。
【0069】
本発明の別の実施形態では、工程a)で使用される潤滑剤濃縮物が少なくとも1種の酸をさらに含有する。この酸は上記の(遊離)脂肪酸の規定に該当するものではない。好ましくは、この酸は、アルコキシル化カルボン酸及びサリチル酸を含む強有機酸又は弱有機酸から選択される。
【0070】
より好ましくは、この酸は、プロピオン酸、グリコール酸、グルコン酸、クエン酸、酢酸又はギ酸等の弱有機酸、特に酢酸である。潤滑剤濃縮物中の、この(さらなる)酸の存在によって、潤滑剤濃縮物のpH値がより低く(4以下の範囲内)、好ましくはpH値が1〜3、特に(約)2に良好に調整される。存在する場合、この(さらなる)酸の濃度は、少なくとも0.1wt%の量、好ましくは0.1%〜25%、より好ましくは0.1wt%〜5.0wt%の量である。
【0071】
本発明の別の実施形態では、少なくとも1種の油を0.1wt%〜25wt%、少なくとも1種の乳化剤を0.1wt%〜40wt%、好ましくは0.5wt%〜25wt%、少なくとも1種の脂肪酸を0wt%〜25wt%、好ましくは0wt%〜5.0wt%、少なくとも1種の酸を0wt%〜5.0wt%、並びに水及び/又は少なくとも1種の有機溶媒を5wt%〜95wt%含有する潤滑剤濃縮物を使用する。好ましい有機溶媒は、グリコールエーテル、特にジプロピレングリコールメチルエーテルであり、これは、Dow ChemicalsからDovanol DPMの商品名で市販されている。また任意に、水と少なくとも1種の有機溶媒との混合物を使用してもよい。潤滑剤濃縮物が、好ましくは10wt%より多い有機溶媒を含有する場合、この濃縮物は、(透明な)溶液として及び/又は不連続的にコンベヤベルト上に塗布されることが好ましい。
【0072】
本発明の別の実施形態では、少なくとも1種の油を0.1wt%〜25wt%、水を0wt%〜95wt%、少なくとも1種の乳化剤を0.1wt%〜95wt%、少なくとも1種の酸を0wt%〜5wt%、少なくとも1種のさらなる成分、好ましくは界面活性剤を0wt%〜30wt%含有する潤滑剤濃縮物を使用する。潤滑剤濃縮物は、エマルションとして、及び/又は不連続的にコンベヤベルト上に塗布されることが好ましい。
【0073】
本発明の一実施形態では、実質的な量で任意の中和剤を含有しない潤滑剤濃縮物を使用する。本実施形態において、各潤滑剤濃縮物のpH値は好ましくは酸性範囲内であり、及び/又は、潤滑剤濃縮物は脂肪酸を含有する。中和剤及び下記の錯化剤又はポリアルキレンポリマーに関連する実質的な量とは、中和剤が、使用する潤滑剤濃縮物中に全く存在しないか、又はその濃度が潤滑剤濃縮物の0.05wt%未満、好ましくは0.01wt%未満の量であることを意味する。中和剤(中和作用物質)の例は、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;アンモニア;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム又はリン酸ナトリウム等のバッファ;第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン又はアルカノールアミン等のアルキルアミン;並びに脂肪アルキル置換アミン等のアミンである。
【0074】
本発明の別の実施形態において、実質的な量でポリアルキレングリコールポリマーを含有しない潤滑剤濃縮物を使用する。このようなポリアルキレングリコールポリマーには、分子量が通常少なくとも1000から最大約数十万である、酸化アルキレンのポリマー又は誘導体、及びその混合物又は組合せが含まれる。このようなポリアルキレングリコールポリマーは、例えば特許文献19に開示されている。
【0075】
工程a)で使用される潤滑剤濃縮物は、例えば任意の順番で個々の成分を混合することによって当該技術分野で知られているように調製することができる。しかしながら、本発明による潤滑剤濃縮物は、少なくとも1種の油を含有する第1の濃縮物を水等の溶媒で希釈することによっても調製することができる。得られた混合物は少なくとも1種の油又は2種以上の油の混合物を少なくとも0.1wt%含有することが好ましい。
【0076】
工程b)
工程b)で使用される液体組成物はコンベヤベルトの表面に塗布される。この液体組成物中に含まれる成分はいずれの成分であってもよいが、各液体組成物の個々の成分を互いに混合させた後に液体組成物のpH値が5以上の範囲内となるものとする。
【0077】
液体組成物は、成分a)として少なくとも1種の基剤を含有する。好ましくは、基剤は、アルカノールアミン、アミン、アンモニア、アンモニア水酸化物、尿素、アルカリ水酸化物、バッファ、脂肪アミン、アルコキシル化脂肪アミン、脂肪アミン酸化物又はアルコキシル化脂肪アミン酸化物から選択される。
【0078】
アルカノールアミンは好ましくはエタノールアミン、より好ましくはモノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)又はトリエタノールアミン(TEA)である。アルカリ水酸化物(アルカリ金属水酸化物)は好ましくは、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム、より好ましくは水酸化カリウムである。アンモニア(NH)及びアンモニア水酸化物(NHOH)は通常、水溶液として使用される。尿素に加え、当業者に既知の尿素の任意の安定な誘導体も基剤として使用し得る。
【0079】
アミンという用語は、上記で規定したアルカノールアミン、又は下記の脂肪アミン、アルコキシル化脂肪アミン又はそれらの各アミン酸化物とは異なるいずれのアミンも含む。アミンは例えば、第一級アルキルアミン、第二級アルキルアミン若しくは第三級アルキルアミン、又はモルフォリン等の環状アミンであってもよい。バッファは、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、及びリン酸二水素ナトリウム等の既知のバッファであり得る。
【0080】
脂肪アミンは、当業者に既知のいずれの脂肪アミンであってもよい。アルコキシル化脂肪アミンは各脂肪アミンに由来し、ここで、各アルコキシル化化合物は好ましくは、酸化エチレンに由来の1つ又は複数のフラグメント(EOフラグメント)を含有するエトキシル化化合物である。各脂肪アミン又はアルコキシル化脂肪アミンは、第一級アミン、第二級アミン又は第三級アミンであってもよい。(アルコキシル化)脂肪アミンは、8個〜22個の炭素原子を含有する(C〜C22)飽和又は不飽和、分枝状又は線状アルキル基である少なくとも1つの置換基を含有する。(アルコキシル化)脂肪アミンはまた、上記規定による2種以上の(アルコキシル化)脂肪アミンの混合物であってもよい。
【0081】
好ましくは、脂肪アミンは式(III):
【化3】

【0082】
(式中、Rは8個〜30個の炭素原子を有するアルキル基であり、Rは、水素、1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、Rは、水素又は2個〜12個の炭素原子を有するアルキレン基であり、Xは(RがHでなければ)、水素又は親水基(−NH、OR、−SO−(アミンアルコキシレート)、アミンアルコキシレート又はアルコキシレート等)であり、Rは、水素又は(C〜C18)−アルキルである)による化合物である。
【0083】
好ましいアルコキシル化脂肪アミンは式(III)による化合物に由来するため、各化合物はさらに、1つ又は複数のアルコキシレートフラグメント、好ましくは、酸化エチレンに由来の1つ又は複数のフラグメント(エトキシレートフラグメント又はEOフラグメント)、より好ましくは1個〜40個、最も好ましくは5個〜25個の、酸化エチレンに由来のフラグメントを含有する。各アルコキシレートフラグメントは、任意の置換基R〜R中、好ましくは置換基R中に含まれ得る。
【0084】
脂肪アミン酸化物又はアルコキシル化脂肪アミン酸化物は、(第三級)窒素原子に結合した酸素原子をさらに有する第三級アミンである、それぞれ上記の脂肪アミン又はアルコキシル化脂肪アミンに由来のいずれの化合物であってもよい。
【0085】
脂肪アミン(X又はR=H)の例は、ジメチルデシルアミン、ジメチルオクチルアミン、オクチルアミン、ノニアルアミン、デシルアミン、エチルオクチルアミン、及びそれらの混合物である。
【0086】
Xが−NHである場合、好ましい例は、N−ココ−1,3−ジアミノプロパン、N−オレイル−1,3−ジアミノプロパン、N−タロー−1,3−ジアミノプロパン、又はそれらの混合物等のアルキルプロピレンアミンである。
【0087】
好ましいエトキシル化アミンの例は、エトキシル化タローアミン、1個〜30個のEOフラグメントを有するココアミンエトキシレート等のエトキシル化ココナッツアミン(例えばEthomeen C15又はEthomeen C25(Akzo Nobel)として市販されている)、エトキシル化アルキルプロピレンアミン、及びそれらの混合物である。
【0088】
脂肪アミン酸化物の例は、タロービス−(2−ヒドロキシエチル)アミン酸化物、C14−アルキルジメチル)アミン酸化物、(C12〜C14)アルキル(ジメチル)アミン酸化物、及びそれらの酸化物である。
【0089】
より好ましくは、基剤(成分a)は、アルカノールアミン、アンモニア水酸化物、アルカリ水酸化物、尿素、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、Xが−NHである式(III)による脂肪アミン、又はXがHであり、窒素原子に結合した酸素原子をさらに有する第三級アミンである一般式(III)による脂肪アミン酸化物から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0090】
さらに好ましくは、基剤(成分a)は、アルカノールアミン、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムから選択される少なくとも1種の化合物である。最も好ましくは、基剤は、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)又はトリエタノールアミン(TEA)である。
【0091】
液体組成物は、少なくとも2wt%の量、好ましくは2wt%〜25wt%の量、より好ましくは4wt%〜20wt%の量、最も好ましくは4wt%〜15wt%の量で成分a)を含有する。
【0092】
(工程bで使用される)液体組成物は、成分b)として少なくとも1種の脂肪酸を含有する。脂肪酸は、当業者に既知のいずれの脂肪酸であってもよい。好ましくは、脂肪酸は、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸又はリノール酸等のC〜C22−脂肪酸である。脂肪酸は、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸又は多価不飽和脂肪酸、及びそれらの混合物であってもよい。脂肪酸がオレイン酸であることが最も好ましい。
【0093】
本発明の工程b)で使用される液体組成物のpH値に起因して、脂肪酸(成分b)は通常、完全に又は少なくとも部分的に、この液体組成物中において非プロトン化形態で存在する。しかしながら、液体組成物を調製する際、各脂肪酸を遊離形態で使用してもよい。基剤(成分a)及び脂肪酸(成分b)は通常、化学反応を経て及び/又は互いの付加物を形成する。基剤と脂肪酸との反応生成物及び/又は付加物はせっけんとみなすことができ、これは、使用する脂肪酸が完全に又は少なくとも部分的に、対応する塩に転化することを意味する。
【0094】
液体組成物は、少なくとも2wt%の量、好ましくは2wt%〜30wt%の量、より好ましくは5wt%〜25wt%の量、最も好ましくは8wt%〜20wt%の量で成分b)を含有する。
【0095】
本発明の工程b)で使用される液体組成物のpH値は、5以上の範囲内、より好ましくは7以上の範囲内、特に9〜13の範囲内である。
【0096】
本発明の工程b)で使用される液体組成物中、成分a)(基剤)及び成分b)(脂肪酸)は、互いにいずれの比率で存在していてもよいが、液体組成物のpH値は5以上の範囲内であるものとする。基剤と脂肪酸とのモル比の例は、0.63:1、2.4:1、4.0:1又はさらに、25.0:1である。好ましくは、液体組成物は、脂肪酸に対してモル過剰の基剤を含有する。最も好ましくは、基剤と脂肪酸とのモル比が2.0:1〜4.5:1[mol/mol]の範囲内である。
【0097】
本発明の実施形態において、工程b)で使用される液体組成物は水をさらに含有する。好ましくは、残余を埋めるものとして水を使用し、これは、100wt%から各液体組成物の残りの成分の合計を減算した量で水を添加することを意味する。存在する場合、液体組成物中の水の濃度は、0.1wt%〜96wt%の量、より好ましくは20wt%〜90wt%の量、最も好ましくは40wt%〜80wt%の量である。
【0098】
基剤、脂肪酸及び任意の水に加えて、工程b)で使用される液体組成物は、界面活性剤、乳化剤、溶媒、ヒドロトロープ、腐食抑制剤、応力亀裂抑制作用物質、カップリング剤、摩耗防止剤、抗菌剤、摩擦調整剤若しくは粘度調整剤、消泡剤、又はキレート剤等の1種又は複数のさらなる成分を含有していてもよい。任意の成分は、一緒に混合した場合に液体組成物のpH値が5以上の範囲となるように選択される。
【0099】
液体組成物は一実施形態においてキレート剤を含有していてもよい。特に、このようなキレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はその塩、特に二ナトリウム又は四ナトリウム塩、イミノ二コハク酸ナトリウム塩、トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸一水和物、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ三酢酸のナトリウム塩、N−ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸の五ナトリウム塩、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)グリシンの三ナトリウム塩、又はグルコヘプトン酸ナトリウムのナトリウム塩である。
【0100】
一実施形態において、液体組成物は少なくとも1種のヒドロトロープをさらに含有していてもよい。ヒドロトロープは、当業者に既知であり、例えば、特許文献23又は特許文献24に開示されている。好ましくは、ヒドロトロープは、アニオン性スルホネート(C〜C18アルキルスルホネート(1−オクタンスルホネート等)のアルカリ金属塩、アルカリ金属アリールスルホネート、C〜C30アルカリールスルホネート(ナトリウムC〜C18アルキルナフタレンスルホネート、ナトリウムキシレンスルホネート、ナトリウムクメンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、又はアルキル化ジフェニルオキシドジスルホネート等)である。より好ましくは、ヒドロトロープは、キシレンスルホン酸のナトリウム塩、又はクメンスルホン酸のナトリウム塩である。
【0101】
別の実施形態では、液体組成物が少なくとも1種の応力亀裂抑制作用物質(応力亀裂抑制剤)をさらに含有していてもよい。好ましくは、応力亀裂抑制作用物質は、アルキルホスフェートエステル又はアルキルアリールホスフェートエステルである。さらに好適な応力亀裂抑制作用物質は、ポリオキシエチレンデシルエーテルリン酸又はそのカリウム塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸又はそのカリウム塩、ポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテルリン酸又はそのカリウム塩、及びそれらの混合物から選択される。
【0102】
別の実施形態では、液体組成物は、工程a)で規定される少なくとも1種の乳化剤をさらに含有していてもよい。
【0103】
存在する場合、液体組成物は、各々30wt%以下の量、より好ましくは10wt%〜30wt%の量、最も好ましくは15wt%〜25wt%の量で、キレート剤、ヒドロトロープ、乳化剤又は応力亀裂抑制作用物質を含有する。しかしながら、液体組成物が、キレート剤、ヒドロトロープ、乳化剤及び応力亀裂抑制作用物質から選択される少なくとも3種の成分を含有する場合、全成分の各個々の量の合計は好ましくは40wt%以下である。
【0104】
本発明の一実施形態において、液体組成物は、工程a)について上記で規定される少なくとも1種の油をさらに含有していてもよい。好ましくは、同じ油、又は2種以上の油の混合物を工程a)及び工程b)で使用する。存在する場合、液体組成物は10wt%以下の量で油を含有する。
【0105】
本発明の一実施形態では、少なくとも1種の基剤を4wt%〜20wt%、少なくとも1種の脂肪酸を5wt%〜25wt%、水を40wt%〜80wt%、及び少なくとも1種のキレート剤、少なくとも1種のヒドロトロープ、少なくとも1種の乳化剤及び/又は少なくとも1種の応力亀裂抑制剤を0wt%〜30wt%含有する液体組成物を使用する。好ましくは、基剤は脂肪酸に対してモル過剰で存在する。
【0106】
工程b)で使用される液体組成物は、例えば任意の順番で個々の成分を混合することによって当該技術分野で知られているように調製することができる。
【0107】
工程a)及び/又は工程b)の作業モード
本発明による方法は、当業者に既知の任意の従来型コンベヤベルトシステム(ユニット)上で使用することができる。コンベヤベルトシステム、特にチェーン及びトラックは、部分的に又は完全に、スチール、特にステンレススチール、又はプラスチック等の当該技術分野で既知の任意の材料で作製され得る。このようなコンベヤベルト(設備)は、例えば食品産業及び/又は飲料産業での、例えばボトル等の容器のクリーニング、充填又は再充填に広く使用される。通常、コンベヤベルトシステムには、幾つかの個々のコンベヤベルト(コンベヤベルトセクション)が含まれる。
【0108】
各コンベヤベルト上を運ばれる対象物は、これに関して使用される、当業者に既知の任意の対象物(容器、特にボトル、缶又は段ボール箱等)であり得る。この対象物は部分的に又は完全に、金属、ガラス、ボール紙又はプラスチック等の任意の材料、好ましくはガラス又はプラスチックから作製され得る。好ましいプラスチック物品又は容器は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)又はポリ塩化ビニル(PVC)製である。
【0109】
本発明の一実施形態において、コンベヤベルトは部分的に又は完全にプラスチック製であり、及び/又はコンベヤベルト上を運ばれる対象物は部分的に又は完全に、プラスチック製であり、特にプラスチックボトルである。好ましくは、プラスチック対象物(物品)は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)又はポリ塩化ビニル(PVC)製である。本発明のこの実施形態は、このような対象物を充填、特に再充填するプロセスに使用されることが好ましい。
【0110】
本発明による方法において、工程a)で乾燥潤滑剤として使用される潤滑剤濃縮物は、現行の技術水準において既知のいずれかの方法によって各コンベヤベルト上に塗布することができる。特許文献15は、コンベヤベルトの(上部)表面に潤滑剤濃縮物を塗布することが可能な方法の概説を提示している。塗布装置として、噴霧ノズル、定量型ダイヤフラムポンプ、ブラシ塗布装置、又はいわゆるフリッカーを使用してもよい。潤滑剤濃縮物を連続的に又は好ましくは不連続的に塗布してもよい。例えば、潤滑剤濃縮物は、運ばれる対象物に応じて、5分毎、20分毎又はさらに24時間毎にコンベヤベルト表面に不連続的に塗布してもよい。
【0111】
本発明の工程b)で使用される液体組成物は、現行の技術水準において既知のいずれかの方法によってコンベヤベルトの表面に塗布することができる。通常、液体組成物は、湿潤潤滑(プロセス)に対応するように実行される。これは、上記の液体組成物が好ましくは「(液体組成物の)使用溶液」に希釈されることを意味する。通常、液体組成物の使用溶液は、各液体組成物を、溶媒、好ましくは水で希釈することによって得られる。希釈倍率は通常、50〜500の範囲、好ましくは80〜150の範囲、最も好ましくは(約)100である。
【0112】
その結果、使用溶液は、各成分の通常の量、好ましい量、より好ましい量又はさらに最も好ましい量を希釈倍率で除算したものに等しい量で、上記の液体組成物の個々の化合物を含有する。例えば、希釈倍率が100である使用溶液は、少なくとも0.02wt%の量で、好ましくは0.02wt%〜0.25wt%の量で、より好ましくは0.04wt%〜0.2wt%の量で、最も好ましくは0.04wt%〜0.15wt%の量で成分a)を含有する。
【0113】
本発明の一実施形態では、i)少なくとも1種の基剤を少なくとも0.02wt%、より好ましくは0.04wt%〜0.2wt%、ii)少なくとも1種の脂肪酸を少なくとも0.02wt%、より好ましくは0.05wt%〜0.25wt%、iii)少なくとも1種のキレート剤、少なくとも1種のヒドロトロープ、少なくとも1種の乳化剤及び/又は少なくとも1種の応力亀裂抑制剤を、0wt%〜0.3wt%、より好ましくは0wt%〜0.25wt%、並びにiv)少なくとも1種の溶媒、好ましくは水を少なくとも50wt%、より好ましくは少なくとも95wt%含有する、液体組成物の使用溶液を工程b)で使用する。好ましくは、基剤は、脂肪酸に対してモル過剰で存在する。
【0114】
これは、液体組成物が有意量、各コンベヤベルトの表面から流れ出るように、液体組成物をコンベヤベルトの表面に塗布することをさらに意味する。好ましくは、塗布する液体量の少なくとも30容量%、より好ましくは少なくとも50容量%、特に少なくとも90容量%が流れ出る。好ましくは、液体組成物を(通常サイズに応じてコンベヤベルトトラック1つ当たり)1.5l/時間〜20l/時間の割合で各コンベヤベルト上に添加する。
【0115】
例えば、工程b)の液体組成物(の使用溶液)は、自動投入システムを介して塗布されてもよい。典型的な使用濃度は、用途、水の硬度及び汚れの程度に応じて、0.6%(w/w)〜1.2%(w/w)(83部〜167部の水に対して1部の液体組成物)である。好ましくは、これは、水の硬度が185mg/l(所定の1.2%(w/w)に関する最大許容量)未満の炭酸カルシウムである使用に推奨され、軟水の使用が提言される。
【0116】
工程b)を行うと、工程a)のオペレータ条件に起因して、コンベヤベルトがクリーニングされ、コンベヤベルトの表面から汚れが取り除かれる。また、本発明による工程b)は潤滑作用ももたらす。したがって、工程b)は、コンベヤベルトをクリーニングすると共に(任意に)潤滑にするために行われる。
【0117】
液体組成物は、例えば、噴霧ノズル又は当業者に既知の任意の他のポンプによって、コンベヤベルトの表面に塗布することができる。工程b)を行う作業時間に関する制限はない。好ましくは、工程a)の作業時間が、工程b)の作業時間よりも長く、より好ましくは少なくとも10倍、さらに好ましくは少なくとも20倍、特に少なくとも40倍長い。
【0118】
本発明の一実施形態では、本方法を連続的に行うことにより、工程a)及び工程b)を交互に行う。何ら問題がなければ、工程a)と工程b)とを数回切り替えることが可能であるため、工程a)及び工程b)の作業間隔を変更してもよい。コンベヤベルトシステムの幾つかのセクションでのみ工程b)を行うことも可能である。
【0119】
上記実施形態は、コンベヤベルト上の対象物の運搬に好ましく使用され、これによりコンベヤベルトは、例えばボトルの洗浄工程、仕分け工程、充填工程、ラベル付け工程又はパッケージング工程を行うための異なる作業ユニット(セクション)に一体化される。好ましくは、上記実施形態は、特に部分的に又は完全にスチール、好ましくはステンレススチール又はプラスチック製のコンベヤベルト上でガラス容器又はプラスチック容器、特にガラスボトル又はプラスチックボトルを充填又は再充填するプロセスに使用される。
【0120】
好ましくは、コンベヤベルトの個々のセクションは、デパレタイザ(depalletizer)、ボトル仕分けユニット、ボトル洗浄器、充填ユニット、蓋締め(capping)ユニット、ラベル付けユニット、パッケージングユニット(領域)、クレートコンベヤユニット及び/又は電子的ボトル検査のための領域に一体化されるか、これらと連結するか、又はこれらの間に配置され得る。各セクション(ユニット)は、任意の順番及び/又は数で互いに連結し得る。
【0121】
以下の実施例は、本発明のより詳細な説明の提示を助けるものである。
【実施例】
【0122】
以下において、組成物の成分量のパーセント(%)は全て、特に指示がない限り重量パーセント(wt%)として表す。
【0123】
実施例I 工程a)に従う乾燥潤滑
1. トラックコンベヤ試験
1.1 潤滑性及び耐久性の試験方法の説明
1.1.1 試験トラック
パイロットコンベヤ施設で試行を行う。このパイロットコンベヤには、ステンレススチール及びプラスチック(アセタール)の試験トラックが含まれる。
【0124】
1.1.2 試験手順
以下の標準的な試験手順を適用する。
1. いかなる試行も行なう前に、試験トラックに残渣がないことを確実にする。必要であれば、酸性洗浄剤若しくはアルカリ性洗浄剤、及び/又はアルコールでトラックをクリーニングし、前の試行からの潤滑剤の残りを完全に取り除く。
2. 水で(約10分)トラックを洗い流し、Kleenexを用いて乾燥させる。
3. デジタル式のトラックコンベヤシステム用プログラムを始動させる。
4. 2分後、チェーン上に10mlの各組成物をピペットで直接加える。このプロセスは、非常に慎重かつゆっくりと行う必要があり、確実にチェーン表面全体に処理が行き渡るようにする。プラスチック製の布又はブラシを用いて、延展を助ける。
5. 始動から20分後、スイッチを入れ、(約8リットル/分で)水道水によって洗い流す。
6. 10分洗い流した後、プログラムを止める。
【0125】
1.2 評価
試行中、6個〜8個のボトルを試験トラック上に置く。A/D変換器を備える電子秤によって、引っ張る力(pulling power)(Fz)を継続して測定する。測定は、最大2kgに制限される。引っ張る力/ボトル又は缶の重量の係数は、潤滑性を表す摩擦係数を表す(μ=F)。最終的にこのデータをMSエクセルに移し、振幅の真ん中で値(μ)を読み出すことができる。水で洗い流す間、耐久性を記録する。耐久性は、重負荷又は水での洗い流し等の不利な条件に対する潤滑剤の耐性である。
【0126】
2. 試行
2.1. ステンレススチールトラック上のガラスボトル
総重量8.1kgの8個のガラスボトルで試験を行う。
【0127】
2.1.1. 現行の技術水準による濃縮組成物
3.68%のN−オレイル−1,3−ジアミノプロパン、3.6%の(C16〜18)アルキル(9EO)カルボン酸及び6%のポリエチレングリコール(M=200)を含有し、100%まで軟水を添加した潤滑剤1の濃縮物を調製する。95%HOで希釈した5%のこの潤滑剤1を濃縮物Aとして使用し、5%HOで希釈した95%のこの潤滑剤1を濃縮物Bとして使用する。
【0128】
2.1.2. 本発明による濃縮組成物
小さい20ml容のネジ蓋付きガラス中で成分を振盪することによって、水中油型エマルションを調製する(以下に記載)。
濃縮物C:50%のシリコーンオイル(Dow Corning 200)及び50%のH
濃縮物D:95%のヒマワリ油及び5%のH
濃縮物E:75%の鉱油及び25%のH
【0129】
2.1.3. 結果
以下の表1は、異なる時間段階での摩擦係数(μ)を示す。潤滑剤の塗布が2分後から始まるので、10分及び20分での値が潤滑性を示す。水での洗い流しが20分後から始まるので、25分及び30分が耐久性の指標となる。0.15を超える値(μ)は、不十分な潤滑性を示し、測定装置の限界を超えている。
【0130】
【表1】

【0131】
本発明の工程a)による乾燥潤滑プロセスに使用する場合、本発明の濃縮物(C〜E)はほとんどの場合で、従来技術(A及びB)に比べて有意な摩擦の低減を示す。また、洗い流す間も(20分後に洗い流す工程を始める)より長く潤滑性が残存するため、濃縮物C〜濃縮物Eにより性能の向上が認められる。
【0132】
実施例II 工程a)及び工程b)に従う、乾燥潤滑とクリーニングとの組合せ
以下の標準的な試験手順を適用する。
1. いかなる試行も行なう前に、試験トラックに残渣がないことを確実にする。必要であれば、酸性洗浄剤及び/又はアルコールでトラックをクリーニングし、前の試行からの潤滑剤の残りを完全に取り除く。
2. 水で(約10分)トラックを洗い流し、Kleenexを用いて乾燥させる。
3. デジタル式のトラックコンベヤシステム用プログラムを始動させる。
4. 2分後、チェーン上に10mlの濃縮物1をピペットで直接加える。このプロセスは、非常に慎重かつゆっくりと行う必要があり、確実にチェーン表面全体に処理が行き渡るようにする。プラスチック製の布又はブラシを用いて、延展を助ける。
5. 始動から10分後、スイッチを入れ、工程b)の液体組成物の使用溶液を持続的に(permanent)投与する。
6. 始動から31分後、プログラムを止める。
【0133】
【表2】

【0134】
表2は、種々の段階における摩擦係数(μ)を示す。工程a)は、表2に記載の潤滑剤濃縮物を使用して10分間行う。特に指定のない限り、実験は、実施例1、項目1及び項目2に従って行う。10分後、本発明の工程b)に従うクリーニング条件に条件を切り替える。工程b)中では、水で100倍に希釈することによって液体組成物から得られる使用溶液を使用する。液体組成物は、トリエタノールアミンを10wt%、及びオレイン酸を8wt%含有し、残り(合計100wt%)は水の添加によってもたらされる。各使用溶液は、5l/時間の割合で連続的にコンベヤベルト上に噴霧する。使用するホワイトオイルは、「Technical White Oil 40C」の商品名でChevron Nederlandから市販されているものである。
【0135】
表2の実験は、基剤と脂肪酸とを含有する液体組成物を工程b)で使用することによって安定な潤滑性が得られることを表す。さらに、表1及び表2の実験は、工程b)のクリーニング条件と比べて乾燥潤滑条件下でより良好な潤滑性(より低いμ係数)が工程a)で得られることを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンベヤベルトを潤滑にする方法であって、
a)少なくとも1種の油を含有する潤滑剤濃縮物を、乾燥潤滑プロセスに使用する工程と、
b)その後、液体組成物を前記コンベヤベルトの表面に塗布する工程と、
からなり、
前記液体組成物のpH値が5以上の範囲内であり、
前記液体組成物が、成分a)として少なくとも1種の基剤を含有し、
前記液体組成物が、成分b)として少なくとも1種の脂肪酸を含有する、コンベヤベルトを潤滑にする方法。
【請求項2】
前記潤滑剤濃縮物中、前記油が少なくとも1種の植物油及び/又は合成油である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コンベヤベルトが部分的に又は完全にスチール製又はプラスチック製であり、及び/又は前記コンベヤベルト上を運ばれる対象物が部分的に又は完全にガラス製又はプラスチック製である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記潤滑剤濃縮物が、
少なくとも1種の油を0.1wt%〜25wt%、
少なくとも1種の乳化剤を0.1wt%〜50wt%、
少なくとも1種の脂肪酸を0wt%〜25wt%、並びに
水及び/又は少なくとも1種の有機溶媒を5wt%〜95wt%含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記潤滑剤濃縮物をエマルションとして前記コンベヤベルト上に塗布する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記潤滑剤濃縮物が、少なくとも1種の油を少なくとも95wt%含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記乳化剤が、式(I):
【化1】

又は式(II):

(式中、Rは、アルキル基又はアルキルアリール基であり、nは互いに独立して、1〜10に等しい値をとり得る)を有する少なくとも1種のホスフェートエステル、及び/又は(C〜C18)−アルキルフラグメントと、1個〜6個のEOフラグメントとを含有する少なくとも1種のエトキシル化カルボン酸である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)中の前記液体組成物において、前記基剤が、アルカノールアミン、アミン、アンモニア、アンモニア水酸化物、尿素、アルカリ水酸化物、バッファ、脂肪アミン、アルコキシル化脂肪アミン、脂肪アミン酸化物又はアルコキシル化脂肪アミン酸化物から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程b)中の前記液体組成物が、前記脂肪酸に対してモル過剰の前記基剤を含有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程b)中の前記液体組成物において、前記基剤が、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)又はトリエタノールアミン(TEA)であり、及び/又は前記脂肪酸がオレイン酸である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記コンベヤベルトをクリーニングすると共に、任意に潤滑にする工程b)を行う、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
連続的に工程a)及び工程b)を交互に行う、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程a)の作業時間が、工程b)の作業時間よりも少なくとも20倍長い、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程b)で使用される前記液体組成物のpH値が9〜13の範囲内である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記液体組成物を工程b)における使用溶液として用いる、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−518896(P2011−518896A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502016(P2011−502016)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/038227
【国際公開番号】WO2009/120768
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(398061050)ディバーシー・インコーポレーテッド (101)
【住所又は居所原語表記】8310 16th Street,Sturtevant,Wisconsin 53177−0902,United States of America
【Fターム(参考)】