説明

油移送装置

【課題】燃料油であっても、短時間にしかも多大な労力を要さずに燃料油タンクの燃料油の排出を行うことができる油移送装置とする。
【解決手段】蒸気流路15を介して球状体11に蒸気を送ることで球状体11を加温し、加温された球状体11を燃料油タンク内の燃料油に浸漬することで燃料油を加温して流動性を向上し、球状体11の吸い込み口12から燃料油を吸い込んで燃料油を燃料油タンクの外部に排出し、燃料油タンクの底部に残る燃料油であっても流動性を向上して容易に排出することができるようにし、短時間にしかも多大な労力を要さずに燃料油タンクの下部に残る燃料油の排出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油タンク内の流動点が高い油を移送する油移送装置に関し、例えば、燃料油タンクの底部に残った燃料油を除去する燃料油除去に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
火力発電設備におけるボイラーの燃料となる燃料油が貯留される燃料油タンクは、例えば、大径筒状の本体に対して燃料油量に応じて昇降する天井が備えられた構成とされている。筒状の本体の下部には燃料油を取り出すなどのためのポンプ取り出し口や、点検等により作業員が入るマンホールなどが設けられている。また、昇降する天井部にも各種作業を行うためのマンホールなどが設けられている。そして、燃料油タンク内の燃料油は蒸気を熱源とした加温用ヒータにより加温されて所望の粘度が保たれている。
【0003】
燃料油タンクの点検や清掃を行う場合、ポンプ取り出し口にポンプを接続して燃料油タンク内の燃料油を排出し、マンホールから作業員が入るなどして点検や清掃を行っている。この時、ポンプ取り出し口よりも下側の燃料油はポンプによる排出が困難であり、また、底面近傍の燃料油は不純物が多いため、加温用ヒータによる加温のみでは加温の効果が得にくいのが実情である。
【0004】
このため、残りの燃料油を加温するための蒸気を別途供給したり作業員による燃料油の掻き出しを行っている。しかし、蒸気を別途供給する場合には作業時間が掛かり効率の悪いものであり、作業員による掻き出し作業は多大な労力を必要とすると共に作業環境が悪いものであった。
【0005】
そこで、従来から、洗浄用溶剤を上部から噴霧して燃料油タンクの内部を清掃(燃料油の排出)することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。洗浄用溶剤を用いることにより不純物が混入した燃料油を粉砕・溶解することができ、燃料油タンクの内部を容易に清掃することができる。
【0006】
しかしながら、従来の技術では、残りの燃料油に洗浄用溶剤を使用しているため、燃料油に別の物質が添加されることになり、燃料油の性状を変化させてしまう。このため、清掃に特化した技術とした場合には有効であるが、燃料油の再利用を行う技術には適用することができない。また、洗浄用溶剤を上部から噴霧するため、残りの燃料油の下層部まで洗浄用溶剤が浸透するのに時間がかかり、効果的に清掃を行うには作業時間が掛かってしまう。
【0007】
【特許文献1】特開平6−126262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、短時間にしかも多大な労力を要さずに油タンクの油を移送することができる油移送装置を提供することを目的とし、特に、燃料油タンクの下部に残る燃料油の排出を行うことができる燃料油除去に適用できる油移送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、油タンク内に挿入されて内部の油を吸い出す油移送装置であって、油タンク内に挿入される球状体と、球状体に形成される吸い込み口と、吸い込み口に連通する長尺管部材と、球状体に形成される加温媒体流通路と、加温媒体流通路に連通し長尺管部材と一体に設けられる加温媒体流通路に加温媒体を送ると共に球状体を加温して熱回収された加温媒体を加温媒体流通路から回収する加温媒体供給回収手段とを備えたことを特徴とする油移送装置にある。
【0010】
第1の態様では、加温媒体流通路を介して球状体に加温媒体を送ることで球状体を加温し、加温された球状体を油タンク内の油に浸漬することで油を加温して流動性を向上し、吸い込み口から油を吸い込んで長尺管部材を介して油を油タンクの外部に排出するので、短時間にしかも多大な労力を要さずに油タンクの油を移送することができる。油に浸漬される球状体は、油タンク内を移動させても、その形状から、油タンク内の配管などに接触して構造体に引っ掛かる等の状況は回避される。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様の油移送装置おいて、球状体の表面にはフィンが設けられていることを特徴とする油移送装置にある。
【0012】
第2の態様では、フィンにより球状体の表面積を増加させることができ、加温を効率的に行うことができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様の油移送装置において、油タンクの外で長尺管部材を任意の状態に支持して油タンク内の球状体の状況を調節する支持部材を備えたことを特徴とする油移送装置にある。
【0014】
第3の態様では、長尺管部材を任意の状態に支持することで、油タンク内の球状体を、一方向への移動、傾動、揺動等、任意の状態に調節することができる。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1〜第3のいずれかの態様の油移送装置において、球状体は鉄製であり、加温媒体は蒸気であることを特徴とする油移送装置にある。
【0016】
第4の態様では、鉄製の球状体を蒸気により効率よく加温することができる。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1〜第4のいずれかの態様の油移送装置において、油タンクの内壁の表面には遠赤外線を放射する加熱部材が形成されていることを特徴とする油移送装置にある。
【0018】
第5の態様では、加熱部材により遠赤外線が放射され、油の加温が促進される。
【0019】
本発明の第6の態様は、第1〜第5のいずれかの態様の油移送装置において、油タンクの天井は昇降自在に備えられ、油タンクの天井部から球体が吊り下げられ、球体の表面には遠赤外線を放射する加熱部材が形成されていることを特徴とする油移送装置にある。
【0020】
第6の態様では、昇降する天井を有する油タンクにおける油の加温を効率よく行うことができる。
【0021】
本発明の第7の態様は、第5または第6の態様の油移送装置において、加熱部材はゼオライトであることを特徴とする油移送装置にある。
【0022】
第7の態様では、ゼオライトにより遠赤外線を放射して油を加温することができる。
【0023】
本発明の第8の態様は、第1〜第7のいずれかの態様の油移送装置において、油タンクには発電設備のボイラーの燃料となる燃料油が貯留され、燃料油を除去することを特徴とする油移送装置にある。
【0024】
第8の態様では、短時間にしかも多大な労力を要さずに燃料油タンクの燃料油を除去することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の油移送装置は、流動点が高い油であっても、短時間にしかも多大な労力を要さずに油タンクの油の移送を行うことができる油移送装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1には本発明の一実施形態例に係る油移送装置である燃料油除去装置が適用される燃料油タンクの全体を表す外観、図2には本発明の一実施形態例に係る油移送装置である燃料油除去装置により燃料油を回収している状態の概念、図3には燃料油除去装置の外観、図4には燃料油除去装置により燃料油を排出している状態の概略構成、図5には燃料油タンクの内部構造を表す概略構成を示してある。
【0027】
図1に示すように、火力発電所におけるボイラーの燃料油を貯留する油タンクとしての燃料油タンク1は、円筒状の本体2に対して天井3が内部の容量に応じて昇降自在に設けられている。そして、本体2の下部には燃料油タンク1の内部の点検や清掃のためのマンホール4が設けられている。通常、燃料油タンク1内は、例えば、蒸気により加温されて油としての燃料油の粘度が所望の状態に維持されている。燃料油タンク1の内部の点検等を行う場合、内部の燃料油をマンホール4等から排出し、マンホール4から作業員が燃料油タンク1内に入って点検等を行う。燃料油タンク1の底部近傍の燃料油は、蒸気による加温の影響が少ないため流動性が悪くなりやすく、特に、マンホール4より下側の底部近傍に溜まった燃料油は加温され難く排出(移送)が困難である。
【0028】
このため、図2に示すように、油移送装置としての燃料油除去装置5を用いて底部近傍に溜まった燃料油を移送ポンプ6により吸い出して排出(移送)し、別タンク7に一旦収容して再使用するようにしている。また、燃料油の状況によっては移送ポンプ6により吸い出し、回収タンク8に回収して廃棄処分する等の処理が行われる。加温され難い底部近傍の燃料油は、燃料油除去装置5の機能により加温されて粘度が所望状態に維持される。また、加温され難い底部近傍の燃料油は、後述する遠赤外線を放射する加熱部材により温度が維持されて粘度が所望状態に維持される。これにより、短時間にしかも多大な労力を要さずに燃料油タンクの下部に残る燃料油の排出を行うことができる。
【0029】
図3に基づいて燃料油除去装置5の構成を詳細に説明する。
【0030】
図に示すように、燃料油除去装置5は、燃料油タンク1内に挿入される鉄製の球状体11を備え、球状体11の下側には底部近傍に溜まった燃料油を吸い込むための吸い込み口12が設けられている。一方、球状体11には長尺管部材としての吸い込み管13が接続され、吸い込み管13は通路14を介して吸い込み口12に連通している。吸い込み管13は移送ポンプ6(図2参照)に接続され、移送ポンプ6(図2参照)の駆動により吸い込み口12から通路14を介して燃料油が吸引される。
【0031】
また、球状体11には加温媒体流通路としての蒸気流路15が形成され、蒸気流路15は入口部15aと出口部15bとの間で流路が形成されている。そして、蒸気流路15の入口部15aには加温媒体供給回収手段としての蒸気供給管16が接続され、蒸気流路15の出口部15bには加温媒体供給回収手段としての蒸気回収管17が接続されている。蒸気供給管16及び蒸気回収管17は吸い込み管13と一体に設けられている。
【0032】
図示しない蒸気源から蒸気供給管16に加温用の蒸気が送られると、入口部15aから蒸気流路15に蒸気が送られて球状体11を加温し、熱回収された蒸気は出口部15bから蒸気回収管17を通って回収される。このため、鉄製の球状体11が蒸気によって加温される。加温された状態の球状体11は燃料油タンク1(図2参照)の底部近傍の燃料油に浸漬され、燃料油が球状体11によって加温されて球状体11の周囲の燃料油の流動性を向上させ、吸い込み口12からの吸い込みを容易にしている。
【0033】
球状体11の表面には複数のフィン18が設けられ、フィン18により球状体11の表面積が十分に確保されている。このため、フィン18により球状体11の表面積を増加させることができ、燃料油の加温を効率的に行うことができる。
【0034】
図4に示すように、上述した燃料油除去装置5は、燃料油タンク1のマンホール4から球状体11が燃料油タンク1内に挿入され、図3、図4に示すように、蒸気供給管16及び蒸気回収管17が一体に設けられた吸い込み管13は、燃料油タンク1の外で支持部材21により支持されている。支持部材21は吸い込み管13が載置される回動・傾動テーブル22を備え、吸い込み管13を任意の角度位置に調整することができる。また、回動・傾動テーブル22にはコロ23が設けられ、コロ23によって吸い込み管13は軸方向に移動自在に支持されている。このため、吸い込み管13が任意の状態で支持されることになり、燃料油タンク1内の球状体11の状況、即ち、一方向への移動、傾動、揺動等、任意の状態に調節することができる。
【0035】
更に、図5に示すように、燃料油タンク1の天井3は、燃料油の残量に基づいて昇降手段25により昇降自在に支持されている。天井3の内面(燃料油タンクの内壁の表面)及び底板26の上面(燃料油タンクの内壁の表面)には加熱部材としてのゼオライト27がコーティングされ、遠赤外線が放射される。このため、ゼオライト27により燃料油タンク1内に均一に赤外線を放射することができ、燃料油を加温することができる。
【0036】
また、天井3にはデッキマンホール28が設けられ、デッキマンホール28から球体31が吊り下げられている。球体31の表面には多数の平面部が形成されてミラーボール状とされ、多数の平面部には加熱部材としてのゼオライト32がコーティングされ、遠赤外線が放射される。このため、天井3が下がった場合でも、球体31のゼオライト32により燃料油タンク1内の燃料油の近傍に赤外線を放出することができ、昇降する天井3を有する燃料油タンク1における燃料油の加温を効率よく行うことができる。
【0037】
尚、図示例の燃料油タンク1は天井3が昇降自在とされたものであるが、固定天井が設けられた燃料油タンクを適用する場合、側壁の内側(燃料油タンクの内壁の表面)にゼオライト27をコーティングすることができる。
【0038】
上述した燃料油除去装置5を用いることで、蒸気流路15を介して球状体11に蒸気が送られて球状体11が加温され、加温された球状体11を燃料油タンク1内の燃料油に浸漬することで燃料油を加温して流動性を向上し、球状体11の吸い込み口12から燃料油を吸い込んで燃料油を燃料油タンク1の外部に排出することができる。燃料油に浸漬される球状体11は、燃料油タンク1内を移動させても、その形状から、燃料油タンク1内の配管などに接触して構造体に引っ掛かる等の状況が回避される。このため、燃料油タンク1の底部に残る燃料油であっても流動性を向上して容易に排出することができ、短時間にしかも多大な労力を要さずに燃料油タンク1の下部に残る燃料油の排出を行うことができる。
【0039】
尚、上述した実施形態例では、燃料油の排出に適用した例を挙げて説明したが、燃料油に限らず流動点が高い油の搬送(移送)に幅広く適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、油タンク内の流動点が高い油を移送する油移送装置、例えば、燃料油タンクの底部に残った燃料油を除去する燃料油除去装置の産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態例に係る油移送装置である燃料油除去装置が適用される燃料油タンクの全体を表す外観図である。
【図2】本発明の一実施形態例に係る油移送装置である燃料油除去装置により燃料油を回収している状態の概念図である。
【図3】燃料油除去装置の外観図である。
【図4】燃料油除去装置により燃料油を排出している状態の概略構成図である。
【図5】燃料油タンクの内部構造を表す概略構成図である。
【符号の説明】
【0042】
1 燃料タンク
2 本体
3 天井
4 マンホール
5 燃料油除去装置
6 移送ポンプ
7 別タンク
8 回収タンク
11 球状体
12 吸い込み口
13 吸い込み管
14 通路
15 蒸気流路
16 蒸気供給管
17 蒸気回収管
18 フィン
21 支持部材
22 回動・傾動テーブル
23 コロ
25 昇降手段
26 底板
27、32 ゼオライト
28 デッキマンホール
31 球体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油タンク内に挿入されて内部の油を吸い出す油移送装置であって、
油タンク内に挿入される球状体と、
球状体に形成される吸い込み口と、
吸い込み口に連通する長尺管部材と、
球状体に形成される加温媒体流通路と、
加温媒体流通路に連通し長尺管部材と一体に設けられる加温媒体流通路に加温媒体を送ると共に球状体を加温して熱回収された加温媒体を加温媒体流通路から回収する加温媒体供給回収手段と
を備えたことを特徴とする油移送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油移送装置において、
球状体の表面にはフィンが設けられていることを特徴とする油移送装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の油移送装置において、
油タンクの外で長尺管部材を任意の状態に支持して油タンク内の球状体の状況を調節する支持部材を備えたことを特徴とする油移送装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の油移送装置において、
球状体は鉄製であり、加温媒体は蒸気であることを特徴とする油移送装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の油移送装置において、
油タンクの内壁の表面には遠赤外線を放射する加熱部材が形成されていることを特徴とする油移送装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の油移送装置において、
油タンクの天井は昇降自在に備えられ、油タンクの天井部から球体が吊り下げられ、球体の表面には遠赤外線を放射する加熱部材が形成されていることを特徴とする油移送装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の油移送装置において、
加熱部材はゼオライトであることを特徴とする油移送装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の油移送装置において、
油タンクには発電設備のボイラーの燃料となる燃料油が貯留され、燃料油を除去することを特徴とする油移送装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−204096(P2007−204096A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23557(P2006−23557)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】