説明

油系温・熱間鍛造用潤滑剤

【課題】 金型へ潤滑剤残渣物の固着や堆積を防止し、メンテナンスフリーで安定した連続鍛造加工が可能な油系温・熱間鍛造用潤滑剤を提供する。
【解決手段】 油系温・熱間鍛造用潤滑剤は、基油と共に、金型に残った油分の酸化分解を促進するドライヤーとして、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、鉄、錫、ニッケル、セリウム、カリウムから選ばれた少なくとも1種の金属の有機金属化合物を1〜30重量%含み、好ましくはドライヤーに対し重量比で0.1〜1.0倍の清浄分散剤を更に含んでいる。また、必要に応じて、黒鉛や二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤、低融点金属ビスマスの有機化合物、増稠剤などを添加して、潤滑性能や金型への付着性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼、銅合金、アルミニウム合金などを温間又は熱間で連続鍛造する際に、金型へ塗布した潤滑剤の残渣物が金型表面に固着又は堆積することを防ぎ、安定した鍛造加工が可能な油系温・熱間鍛造用潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄鋼、銅合金、アルミニウム合金などの温・熱間鍛造に用いる油系の潤滑剤として、鉱油に黒鉛粉末を分散した油系温・熱間鍛造用潤滑剤や、鉱油系金属石けんグリースに黒鉛粉末と鉱油を分散・希釈した油系温・熱間鍛造用潤滑剤などが市販されている。また、特開平8−333594号公報には、基油に高塩基性アルカリ土類金属有機酸塩を分散した鍛造用潤滑剤が記載されている。
【0003】
しかし、これら従来の油系温・熱間鍛造用潤滑剤は、水系潤滑剤のように金型を過冷却することなく鍛造加工できる利点があるが、連続精密鍛造の場合、金型に塗布した潤滑剤が熱などにより劣化し、残渣物として金型表面に固着ないし堆積して、欠肉や材料流れ不良などを引き起こす。そのため、残渣物が堆積する度に鍛造加工を中断して、金型を清掃しなければならないという問題点があった。
【特許文献1】特開平8−333594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑み、金型へ潤滑剤残渣物の固着や堆積を防止し、メンテナンスフリーで安定した連続鍛造加工が可能な油系温・熱間鍛造用潤滑剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明が提供する油系温・熱間鍛造用潤滑剤は、基油と共に、金型に残った油分の酸化分解を促進するドライヤーとして、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、鉄、錫、ニッケル、セリウム、カリウムから選ばれた少なくとも1種の金属の有機金属化合物を1〜30重量%含むことを特徴とする。
【0006】
上記本発明の油系温・熱間鍛造用潤滑剤においては、前記ドライヤーに対し重量比で0.1〜1.0倍の清浄分散剤を含むことが好ましい。前記清浄分散剤としては、塩基性スルホネート、塩基性フェネート、サリシレート、コハク酸イミド、ベンジルアミン、コハク酸エステル、共重合系ポリマーから選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0007】
また、上記本発明の油系温・熱間鍛造用潤滑剤は、更に各種の添加成分を含有することができ、例えば、固体潤滑剤として、黒鉛粉末及び/又は二硫化モリブデンを含有することができ、あるいは、温・熱間鍛造時に金型と金属材料との潤滑性能を向上させる添加剤として、低融点金属ビスマスの有機化合物を含有することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金型に残った油分の酸化分解が促進され、金型表面への潤滑剤残渣物の固着又は堆積を防止することができる。従って、本発明の油系温・熱間鍛造用潤滑剤を用いることにより、鉄鋼、銅合金、アルミニウム合金などの温・熱間での連続鍛造を、金型清掃などの必要がないメンテナンスフリーで安定して実施することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の油系温・熱間鍛造用潤滑剤は、必須成分として、基油と、ドライヤーとを含むものである。ドライヤーとは、一般に、乾燥性脂肪油を含む塗料の大気中における酸化を促進して、乾燥時間を短縮する触媒作用を有するものを言い、乾燥剤とも呼ばれている。本発明の潤滑剤において、ドライヤー(乾燥剤)は、金型に残った油分の酸化分解を促進し、金型表面への潤滑剤残渣物の固着又は堆積を防止する作用を果たしている。
【0010】
本発明で用いるドライヤー(乾燥剤)は、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、鉄、錫、ニッケル、セリウム、カリウムから選ばれた少なくとも1種の金属の有機金属化合物からなる。これらの有機金属化合物は単独で使用しても、又は2種以上を併用することもできる。また、これらの中では2−エチルヘキシル酸鉄、2−エチルヘキシル酸銅が特に好ましい。
【0011】
本発明の油系温・熱間鍛造用潤滑剤は、上記基油とドライヤー(乾燥剤)の必須成分のほかに、清浄分散剤を含むことができる。清浄分散剤は、一般に内燃機関(エンジン)用潤滑油の添加剤として用いられ、潤滑油の酸化などによって生ずるカーボン状物質やスラッジなどを潤滑油中に懸濁分散させて、エンジン各部に堆積することを防ぐものである。この清浄分散剤の添加により、金型表面への潤滑剤残渣物の固着又は堆積をより一層防止することができる。
【0012】
上記清浄分散剤としては、塩基性スルホネート、塩基性フェネート、サリシレート、コハク酸イミド、ベンジルアミン、コハク酸エステル、共重合系ポリマーから選ばれた少なくとも1種が好ましく、その中でもアルケニルコハク酸ポリイミド、アルキルサリシル酸カルシウムが特に好ましい。尚、塩基性スルホネート及び塩基性フェネートにおける塩基性とは、塩基価が数十mgKOH/g以上、具体的には40mgKOH/g以上のものを言い、その中で塩基価が数百mgKOH/g以上のものを特に高塩基性あるいは超塩基性と称することもある。
【0013】
清浄分散剤を添加する場合、清浄分散剤の添加量は上記ドライヤー(乾燥剤)に対し、重量比で0.1〜1.0倍の範囲が好ましい。清浄分散剤の添加量がドライヤー(乾燥剤)に対して、重量比で0.1倍未満では添加の効果がほとんど得られず、また1.0倍を超えても添加の効果が増加することはない。
【0014】
尚、本発明で用いる基油は、油系温・熱間鍛造用潤滑剤に通常使用されているものでよく、鉱油、植物油、合成油のいずれか、若しくは、その2種以上の混合物を用いることができる。基油は引火点が200℃以上であり、動粘度が40℃で1000mm/s未満であることが好ましい。引火点が200℃未満の場合には金型への塗布時に発火しやすく、また動粘度が40℃で1000mm/s以上になると金型への塗布時にスプレー塗布が困難となるからである。
【0015】
本発明の油系温・熱間鍛造用潤滑剤は、上記以外に更に各種の添加成分を含有することができ、例えば、固体潤滑剤として黒鉛粉末及び/又は二硫化モリブデンを含有することができる。これらの固体潤滑剤の添加により、金型への焼きつき防止性能を向上する効果が得られる。尚、使用する固体潤滑剤粉末は、一般的に固体潤滑剤として用いられているグレードであってよい。
【0016】
また、潤滑性能を向上させるために、低融点金属ビスマスの有機化合物を添加することができる。低融点金属ビスマスの有機化合物としては、例えば、2−エチルヘキシル酸ビスマスなどが好ましい。
【0017】
更に、金属石けん系、ウレア系、無機系又はカルシウムスルホネート系などの増稠剤を配合することにより、高温の金型に対する潤滑剤の付着性を一層向上させることができる。これらの増稠剤としては、例えば、リチウム石けん、カルシウムスルホネートなどを好適に使用することができる。
【0018】
尚、本発明の油系温・熱間鍛造用潤滑剤は、上記した必須成分である基油とドライヤー(乾燥剤)、必要に応じて他の添加成分を配合し、混合して分散あるいは溶解させることにより、調整することができる。また、必要に応じて、耐荷重添加剤、錆止剤、腐食防止剤、消泡剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤などを、更に添加することができる。
【実施例】
【0019】
下記表1に示す組成(重量%)を有する各油系温・熱間鍛造用潤滑剤を準備した。実施例1〜8及び比較例C1の増稠剤を配合しないタイプは、ホモミキサーを使用して各成分を基油に分散、溶解させた。また、実施例9〜10及び比較例C2の増稠剤を配合するタイプは、万能混合撹拌機を用いて、増稠剤単独に対し又は予め基油に高濃度に増稠剤を配合したものに対し、他の成分を数回に分けて添加撹拌し、最終的に各成分を基油に分散、溶解させた。
【0020】
上記により調整した実施例1〜10及び比較例C1〜C2の潤滑剤を、テーパーカップ試験法にて評価した。即ち、テーパーカップ試験法において、図1の左半分に示すように、試験機に直径32mm×高さ30mmの被加工材1をセットした。被加工材1の材質は、アルミ合金A−4032、銅合金C−3771、炭素鋼S45Cである。また、使用したテーパーカップ試験機は、6.0MNクランクプレス、ストローク148mm、鍛造速度30spmである。
【0021】
上記被加工材1の加熱温度は、アルミ合金A−4032で500℃、銅合金C−3771で700℃(共に電気炉で設定温度に加熱)、炭素鋼S45Cで1020℃(高周波加熱装置で設定温度に加熱)とした。また、パンチ2の温度は450℃(高周波加熱装置で設定温度に加熱)、ダイス3の温度は150℃(埋め込みヒーター4で設定温度に加熱)とした。
【0022】
このテーパーカップ試験において、表1に示す実施例1〜10及び比較例C1〜C2の各潤滑剤を、450℃に加熱したパンチ2に対して、塗布量が3g/3secとなるようにスプレー塗布した。また、ダイス3には、アルミ合金A−4032の試験時には溶剤系二硫化モリブデン潤滑剤を塗布し、それ以外では水系黒鉛潤滑剤を塗布した。
【0023】
上記の潤滑剤を塗布した各被加工材1を、図1の右半分に示すように、パンチ2で押込み量(無負荷時のギャップ値)12mmの鍛造加工を行った。その後、試験後のパンチ2に付着した潤滑剤残渣物を、4段階で評価した。即ち、4段階評価は、◎:固着無し(エアブローで簡単に取れる粉状付着を含む)、〇:極微量の固着が有るが実用上問題無し、△:少量の固着有り、×:固着有り、とした。
【0024】
また、試験後のパンチ2の表面を観察し、焼付き状態を3段階で評価した。即ち、3段階評価は、〇:焼付き無し、△:少し焼付き有り、×:焼付き有り、とした。更に、鍛造時の最大荷重(kN)と、カップ底厚h(mm)を測定した。最大荷重が低く、カップ底厚が薄いほど、潤滑剤の潤滑性能が良好であると評価される。これらの試験結果を、上記実施例及び比較例の組成と共に、下記表1に併せて示した。
【0025】
【表1】

【0026】
上記表1の試験結果から分るように、本発明による実施例1〜10は、何れも潤滑剤残渣物の固着を防止することができた。また、実施例1〜5ではアルミ合金A−4032の鍛造で焼き付が認められたが、更に固体潤滑剤を配合した実施例6〜10では潤滑性能が向上し、全ての被加工材で焼き付が無くなった。
【0027】
また、本発明による実施例1〜10の最大荷重及びカップ底厚の対比から、低融点金属ビスマスの有機化合物である有機ビスマス化合物を配合することで、潤滑性能が一層向上することが分る。更に、リチウム石けんやカルシウムスルホネートなどの増稠剤を配合することにより、金型へ塗布時の潤滑剤の付着性能が向上し、結果的に良好な潤滑性能が発揮されることが分る。
【0028】
一方、比較例C1は、基本的に基油のみからなるため、全ての被加工材で潤滑剤残渣物の固着が発生し、またアルミ合金A−4032の鍛造では焼き付が認められた。比較例C2では、基本的に基油と固体潤滑剤と増稠剤とを含むため、焼き付は認められず良好な潤滑性能を示したが、全ての被加工材で潤滑剤残渣物の固着が発生した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】テーパーカップ試験法を模式的に示す断面図であり、左半分は加工前の状態及び右半分は加工後の状態を示す。
【符号の説明】
【0030】
1 被加工材
2 パンチ
3 ダイス
4 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温・熱間での連続鍛造に用いる油系の潤滑剤であって、基油と共に、金型に残った油分の酸化分解を促進するドライヤーとして、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、鉄、錫、ニッケル、セリウム、カリウムから選ばれた少なくとも1種の金属の有機金属化合物を1〜30重量%含むことを特徴とする油系温・熱間鍛造用潤滑剤。
【請求項2】
前記ドライヤーに対し重量比で0.1〜1.0倍の清浄分散剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の油系温・熱間鍛造用潤滑剤。
【請求項3】
前記清浄分散剤が、塩基性スルホネート、塩基性フェネート、サリシレート、コハク酸イミド、ベンジルアミン、コハク酸エステル、共重合系ポリマーから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2に記載の油系温・熱間鍛造用潤滑剤。
【請求項4】
更に固体潤滑剤として黒鉛粉末及び/又は二硫化モリブデンを含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の油系温・熱間鍛造用潤滑剤。
【請求項5】
温・熱間鍛造時に金型と金属材料との潤滑性能を向上させる添加剤として、低融点金属ビスマスの有機化合物を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の油系温・熱間鍛造用潤滑剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−24049(P2009−24049A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186486(P2007−186486)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(591213173)住鉱潤滑剤株式会社 (42)
【出願人】(390008822)アート金属工業株式会社 (39)
【Fターム(参考)】