説明

油面接着性室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物及びシール

【課題】耐薬品性(特に耐エンジンオイル性)に優れ、かつ油面接着性に優れた硬化物を与える室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物、及びその硬化物よりなるシールを提供する。
【解決手段】(A)一般式(1)〜(4)で示されるオルガノポリシロキサンから選ばれる1種又は2種以上、(B)表面が脂肪酸及び/又はパラフィン系の処理剤で処理されている重質炭酸カルシウム、(C)吸油性炭素粉末、(D)一般式(5)で示されるシラン又はその部分加水分解物、(E)硬化触媒及び(F)分子内にイソシアネート基を1個有する有機化合物を含有することを特徴とする油面接着性室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性(特に耐エンジンオイル性)に優れ、かつ油面接着性に優れた硬化物を与える室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物、特には硬化物が接着界面にマシン油、切削油、タービン油、エンジンオイル、ギヤオイルなどが付着した被着体においても良好な接着強度及び凝集破壊を示すことから、自動車用FIPG材料として有用とされる油面接着性室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物及びその硬化物よりなるシールに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のエンジン周辺のシールについては、従来コルク、有機ゴム、アスベストなどで作られた耐油性のガスケット、パッキング材が使用されているが、これらには在庫管理及び作業工程が煩雑であるという不利があり、更にはそのシール性能にも信頼性がないという欠点がある。そのため、この種の用途には室温硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物を利用したFIPG(Formed In Place Gaskets)方式が採用されるようになり、作業性、密閉性、耐熱性の面で高い評価が得られている。
【0003】
しかし、従来公知の室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、形成される硬化物が油面に対する接着性が十分でないという欠点がある。例えばエンジンブロック、オイルパンなどの成形、打ち抜き時に、マシン油、切削油、タービン油などが不可避的に付着する。また、上記室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物がエンジンブロックに施工された後、完全に硬化する前の段階で、エンジンブロックにエンジンオイル等が注入されることもある。またミッション(ATF(オートマチックトランスミッション)、CVT(連続可変トランスミッション))では組付け検査後、被着体表面がオイルで汚染されることがある。従って、これらのオイル状物質が、室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物とエンジンブロックとの接着面上に存在しているために、シール材として機能する硬化物の接着不良が発生するという問題が生じている。上記問題は、接着界面上を完全に洗浄することである程度までは解決できるが、この洗浄工程はかなりの時間を費やすため、エンジン組み立て工程を従来通りにすることが困難になっている。
【0004】
一方で、油面に対し接着性がある程度改善された室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物の例示としては、特開平5−98160号公報(特許文献1)及び特開平8−176445号公報(特許文献2)が提案されている。しかしながら、前者においては吸油性炭素粉末を充填剤とし、高充填されないと油面接着性、特に凝集破壊が得づらく、その様な組成物の粘度及びチクソ性がかなり高いため、製造が困難であった。また、吸油性炭素粉末を高充填することによりエンジンオイル等が硬化物に吸収されやすいため、耐エンジンオイル後の硬度低下が顕著に確認される問題もあった。その上、吸油性炭素粉末が経時でシリコーンオイルを吸収してしまい、経時で油面接着性能の低下が起こる問題もあった。また後者においては、架橋剤としてイミノキシシランを用いているが、この硬化剤を使用すると、脱オキシムタイプに硬化タイプが制限され、汎用性が劣り、かつこのような硬化剤を使用しても、十分な上記特開平5−98160号公報と同様油面接着性、特に凝集破壊が得づらい問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−98160号公報
【特許文献2】特開平8−176445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐薬品性(特に耐エンジンオイル性)に優れ、かつ油面接着性に優れた硬化物を与える室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物、及びその硬化物よりなるシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、下記一般式(1)〜(4)で示されるオルガノポリシロキサンの1種又は2種以上をベースオイルとし、充填剤として特定の重質炭酸カルシウムと吸油性炭素粉末を併用した組成物が、十分な油面接着性能(特に凝集破壊率)を有する硬化物となり得、更に該組成物中に分子内にイソシアネート基を1個有する有機化合物を添加することにより、その硬化物の油面接着性能の経時低下防止ならびに耐薬品性(特に耐エンジンオイル性)が飛躍的に向上することを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記の油面接着性室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物及びシールを提供する。
〔請求項1〕
(A)下記一般式(1)〜(4)で示されるオルガノポリシロキサンから選ばれる1種又は2種以上: 100質量部、
【化1】

(式中、Rはメチル基又はエチル基であり、R1は炭素原子数1〜10の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、Xは10以上の整数である。Yは酸素原子又は炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、Nは独立に0又は1の整数である。)
【化2】

(式中、R、R1、X、Y、Nは上記の通りであり、Zは炭素原子数2〜5のアルケニル基である。)
【化3】

{式中、R、R1、X、Y、Nは上記の通りであり、dは1以上10以下の整数である。また、R2は下記一般式
【化4】

(ここで、R、R1、Y、Nは上記の通りである。)で示される加水分解性基を含む分岐鎖である。}
【化5】

(式中、R、R1、R2、X、Y、Z、N、dは上記の通りである。)
(B)表面が脂肪酸及び/又はパラフィン系の処理剤で処理されている重質炭酸カルシウム: 10〜150質量部、
(C)吸油性炭素粉末: 1〜30質量部、
(D)下記一般式(5)
34-nSiKn (5)
(式中、R3は同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基である。また、Kは加水分解性基であり、nは3又は4の整数である。)
で示されるシラン又はその部分加水分解物: 1〜25質量部、
(E)硬化触媒: 0.01〜15質量部、
(F)分子内にイソシアネート基を1個有する有機化合物: 0.1〜10質量部
を含有することを特徴とする油面接着性室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項2〕
(C)成分である吸油性炭素粉末がアセチレンブラック粉末であり、かつその平均粒径が30〜50nm、BET−N2吸着法比表面積が30〜80m2/gであり、かつDBP吸油量が130〜200ml/100gであることを特徴とする請求項1記載の室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項3〕
更に、(G)非反応性シリコーンオイルを(A)成分100質量部に対して0.1〜100質量部含有することを特徴とする請求項1又は2記載の室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項4〕
請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物を硬化させてなるシール。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐薬品性(特に耐エンジンオイル性)に優れ、かつ油面接着性に優れた硬化物を与える室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物が得られ、この硬化物は、シール、特には自動車用途及び建築用途のシール材として有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用される(A)成分は、本組成物のベースポリマーとなるものである。脱アルコール型室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物を調製する場合、未硬化組成物の保存安定性が懸念されるため、下記一般式(1)〜(4)で示されるオルガノポリシロキサンから選ばれる1種又は2種以上を使用する。
【0011】
【化6】

(式中、Rはメチル基又はエチル基であり、R1は炭素原子数1〜10の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、Xは10以上の整数である。Yは酸素原子又は炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、Nは独立に0又は1の整数である。)
【0012】
【化7】

(式中、R、R1、X、Y、Nは上記の通りであり、Zは炭素原子数2〜5のアルケニル基である。)
【0013】
【化8】

{式中、R、R1、X、Y、Nは上記の通りであり、dは1以上10以下の整数である。また、R2は下記一般式
【化9】

(ここで、R、R1、Y、Nは上記の通りである。)で示される加水分解性基を含む分岐鎖である。}
【0014】
【化10】

(式中、R、R1、R2、X、Y、Z、N、dは上記の通りである。)
【0015】
(A)成分の好ましい粘度は、25℃の条件下において1,000〜300,000mPa・sである。これは1,000mPa・sより小さいと硬化後のエラストマーに優れた物理的性質、特に柔軟性・耐衝撃性を与えることができないおそれがあるためであり、また、300,000mPa・sより大きいと組成物の粘度が高くなり、流動性が著しく低下するおそれがあるためである。そのため、より好ましくは5,000〜100,000mPa・sである。なお、この粘度は回転粘度計による測定値である(以下、同様)。
【0016】
上記一般式中、Rはメチル基又はエチル基であり、メチル基が好ましい。R1は炭素原子数1〜10、特に1〜6の置換又は非置換の一価の炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基及びこれらの基の水素原子が部分的にハロゲン原子などで置換された基、例えば3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。上記一般式(2)〜(4)中の複数のR1は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0017】
また、Yは酸素原子又は炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられ、具体的にはエチレン基が好ましい。更に、Zは炭素原子数2〜5のアルケニル基であり、アルケニル基としてはビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基等が挙げられ、その中でもビニル基が最も好ましい。
【0018】
一般式(1)〜(4)で示されるオルガノポリシロキサンの中で、一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンと一般式(3)で示されるオルガノポリシロキサンが好ましい。一般式(2)で示されるオルガノポリシロキサンは、一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンと、一般式(4)で示されるオルガノポリシロキサンは、一般式(3)で示されるオルガノポリシロキサンと併用して用いることが好ましい。
その場合、それぞれ一般式(2)で示されるオルガノポリシロキサン、一般式(4)で示されるオルガノポリシロキサンの(A)成分としての配合比率は、50質量%以下、特に30質量%以下とすることが好ましい。
【0019】
(B)成分の重質炭酸カルシウムは、本組成物に良好な作業性を与えると共に、十分な油面接着性、特に良好な凝集破壊を得るための成分である。
【0020】
(B)成分は、表面が脂肪酸及び/又はパラフィン系の処理剤で処理されていることが十分な油面接着を得るために必要であり、空気透過法比表面積は、0.5〜2.5m2/g、特に0.7〜2.3m2/gであることが好ましい。なお、コロイダル炭酸カルシウムを使用した組成物の場合においては、重質炭酸カルシウムを用いた組成物に比べて十分な油面接着性が得られず、また作業性等も低下してしまう。このような重質炭酸カルシウムとしては、市販品を使用することができ、例えば、丸尾カルシウム(株)製のMCコートP−20やMCコートS−20等を用いることができる。
【0021】
(B)成分の添加量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して10〜150質量部、好ましくは30〜80質量部である。多すぎると樹脂接着性の低下及び組成物の粘度が上昇し、混合及び施工時の吐出性が悪くなり、また、少なすぎると十分な油面接着性、特に凝集破壊率が大幅に低下する。
【0022】
(C)成分の吸油性炭素粉末は、本組成物に良好な油面接着性、特に良好な接着強度と凝集破壊を得るための成分である。(C)成分である吸油性炭素粉末の具体例としては、活性炭素等の多孔質炭素粉末、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックなどを挙げることができ、これらを単独あるいは2種以上を組み合わせても使用できる。
【0023】
上記、カーボンブラックの中でより好まれるものはアセチレンブラック粉末であり、更にその中でも最も好ましいアセチレンブラック粉末は、その性状ができるだけ粉状であることが好ましい。
上記アセチレンブラック粉末の平均粒径は30〜50nmの範囲であること、また吸着法によるBET−N2比表面積が30〜80m2/gの範囲であること、かつDBP吸油量が130〜200ml/100gの範囲であることが好ましく、更には、平均粒径が30〜40nm、比表面積が50〜80m2/g、かつDBP吸油量が150〜190ml/100gの範囲であることが好ましい。この(C)成分の吸油性炭素粉末も市販品を使用することができ、例えば電気化学工業(株)製のデンカブラック等を使用することができる。なお、本発明において、平均粒径は、例えばレーザー光回折法等による重量平均値(又はメディアン径)等として求めることができ、DBP吸油量はJIS K6221に準拠して測定することができる。
【0024】
(C)成分の添加量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して1〜30質量部、好ましくは5〜20質量部である。多すぎると組成物の粘度が上昇し、混合及び施工時の吐出性が悪くなり、また、少なすぎると十分な油面接着性、特に良好な接着強度と凝集破壊を得ることができなくなる他、組成物自体のチクソ性も低下し、流動するおそれがある。
【0025】
(D)成分は、下記一般式(5)
34-nSiKn (5)
(式中、R3は同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基である。また、Kは加水分解性基であり、nは3又は4の整数である。)
示されるシラン又はその部分加水分解物であり、本発明の組成物において架橋剤として作用するものである。
【0026】
上記一般式(5)のR3は同一又は異種の好ましくは炭素原子数1〜10、特に炭素原子数1〜8のアルキル基、アルケニル基、ハロアルキル基等の非置換又は置換の一価炭化水素基である。これらの中でメチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、フェニル基およびトリフルオロプロピル基が好ましく、特にメチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基が好ましい。また、Kは加水分解性基であり、具体例としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基、イソプロペノキシ基、1−エチル−2−メチルビニルオキシム基などのアルケニルオキシム基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基などのケトオキシム基、アセトキシ基、プロピオノキシ基、ブチロイロキシ基、ベンゾイルオキシム基などのアシロキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基などのアミノ基、ジメチルアミノキシ基、ジエチルアミノキシ基などのアミノキシ基、N−メチルアセトアミド基、N−エチルアセトアミド基、N−メチルベンズアミド基などのアミド基などが例示される。これらの中で、アルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基が好ましい。nは3又は4の整数である。
【0027】
上記(D)成分の具体例としては、エチルシリケート、プロピルシリケート、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メチルトリプロペノキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリ(ブタノキシム)シラン、ビニルトリ(ブタノキシム)シラン、フェニルトリ(ブタノキシム)シラン、プロピルトリ(ブタノキシム)シラン、テトラ(ブタノキシム)シラン、3,3,3−トリフルオロプロピル(ブタノキシム)シラン、3−クロロプロピル(ブタノキシム)シラン、メチルトリ(プロパノキシム)シラン、メチルトリ(ペンタノキシム)シラン、メチルトリ(イソペンタノキシム)シラン、ビニル(シクロペンタノキシム)シラン、メチルトリ(シクロヘキサノキシム)シランなど、及びこの部分加水分解物などが例示される。
【0028】
この(D)成分の架橋剤は、シラン、この部分加水分解で得られたシロキサンのいずれでもよいし、このシロキサンは直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、これらは1種類に限定されず、その2種以上を使用してもよい。
【0029】
この(D)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して1〜25質量部、好ましくは3〜15質量部である。(D)成分が1質量部未満ではこの組成物の製造時あるいは保存中にこれがゲル化を起こしたり、この組成物から得られる弾性体が目的とする物性を示さなくなり、25質量部より多くするとこの組成物の硬化時における収縮率が大きくなり、この硬化物の弾性も低くなるので、1〜25質量部の範囲とする必要がある。
【0030】
(E)成分の硬化触媒は、本発明の組成物における(A)成分のベースオイルと(D)成分の加水分解性架橋剤との縮合反応の触媒作用を行なうものである。具体的にはオクタン酸鉄、ナフテン酸鉄、オクタン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、オクタン酸錫、ナフテン酸錫、オクタン酸鉛、ナフテン酸鉛のような有機酸金属塩、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエートなどのようなアルキル錫エステル化合物、ハロゲン化錫化合物、錫オルソエステル化合物、テトラブチルチタネート、テトラブチルジルコネートのような金属アルコレート、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタンなどのチタンキレート、ジエチルヒドロキシルアミン、ジメチルヒドロキシルアミンなどのアミン類などが例示される。
【0031】
この(E)成分としての硬化触媒の使用は1種類に限定されず、これは2種以上を使用してもよい。この(E)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.01〜15質量部、好ましくは0.05〜5質量部である。0.01質量部未満ではこの組成物を空気中に曝したときにタックフリーの皮膜形成に長時間が必要となり、その内部硬化性も悪くなり、15質量部より多くすると皮膜形成時間が数秒間と極めて短くなって作業性が劣るようになる他、硬化物の耐熱性も低下する。
【0032】
(F)成分の分子内にイソシアネート基を1個有する有機化合物は、(B)成分、(C)成分と共に本発明の室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物の油面接着性の経時安定性、ならびに耐薬品性(特に耐エンジンオイル性)を向上させるための重要な成分である。これは、薬品中(ここではエンジンオイルを例として挙げる)に含まれるNH基、SH基等と分子内にイソシアネート基を1個有する有機化合物が反応し、ウレタン結合又はチオウレタン結合を形成することで硬化物の硬度・物性保持ができるものと思われる。また、イソシアネート基は良好な水酸基補足剤でもあるため、組成物の経時安定性も向上し、結果として油面接着性能も安定することができる。
【0033】
この分子内にイソシアネート基を1個有する有機化合物は、分子内にイソシアネート基を1個含有するものであれば特に制限されず、また、分子内にイソシアネート基を1個含有する有機ケイ素化合物でもよい。本発明においては、分子内に1つのイソシアネート基を持っていることが重要である。これは、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有すると、1分子内に2つのNH基又はSH基を有する有機化合物が存在した場合、ウレタン結合又はチオウレタン結合を介してイソシアネート基を含む分子が結合し、結果としてゴムが脆く、接着性も悪くなる。
【0034】
この分子内にイソシアネート基を1個有する有機化合物としては公知のものが好適に使用される。具体的には、エチルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、プロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、sec−ブチルイソシアネート、tert−ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、ベンジルイソシアネート、シクロペンチルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、p−トリルイソシアネート等の有機化合物、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等の有機ケイ素化合物が例示される。
【0035】
この分子内にイソシアネート基を1個有する有機化合物の配合量は、(A)成分100質量部当たり0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部使用される。0.1質量部未満では十分な油面接着性の経時保持ならびに良好な耐薬品性能を有することができず、10質量部より多いとコスト高となる上、油面接着性能が低下する。
【0036】
また、本発明の室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物には、(G)非反応性のシリコーンオイル、好ましくは両末端がトリメチルシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサンを配合することが好ましい。この成分を配合することにより、作業性、糸切れ性等の特性が向上すると共に、硬化後のゴム物性を調整することができる。
【0037】
この粘度(25℃)は5〜50,000mPa・s、特に50〜5,000mPa・sであることが好ましい。配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜100質量部、特に5〜80質量部であることが好ましい。
【0038】
本発明の室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、前記した(A)〜(F)成分、更に(G)成分の他に、更に必要に応じて、硬化前の流れ特性を改善し、硬化後のゴム状弾性体に必要な機械的性質を付与するために、微粉末状の無機質充填剤を添加することもできる。無機質充填剤としては石英微粉末、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、煙霧質二酸化チタン、珪藻土、水酸化アルミニウム、微粒子状アルミナ、マグネシア、酸化亜鉛、炭酸亜鉛及びこれらをシラン類、シラザン類、低重合度シロキサン類、有機化合物などで表面処理したものなどが例示される。更に、本発明の室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物には、有機溶剤、防カビ剤、難燃剤、耐熱剤、可塑剤、チクソ性付与剤、接着促進剤、硬化促進剤、顔料などを添加することができる。
【0039】
本発明の室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、(A)〜(F)成分及び必要に応じて(G)成分や各種添加剤を、湿気を遮断した状態で混合することにより得られる。得られた組成物は密閉容器中でそのまま保存し、使用時に空気中の水分に晒すことによりゴム状弾性体に硬化する、いわゆる1包装型室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物として用いることができる。
【0040】
本発明の組成物は、シール材、特に自動車用途及び建築用途のシール材として有効である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、粘度は25℃での回転粘度計による測定法の測定値を示したものである。
【0042】
[実施例1]
分子鎖両末端が、エチレン基を介し、トリメトキシシリル基で封鎖された粘度50,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100質量部に、表面がパラフィン系の処理剤で処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP−20,丸尾カルシウム(株)製、空気透過法比表面積;0.8〜2.0m2/g)60質量部とアセチレンブラック粉末(商品名;デンカブラック粉状、電気化学工業(株)製、平均粒径35nm、BET比表面積68m2/g、DBP吸油量175ml/100g)15質量部を均一になるまで分散混合したのち、メチルトリメトキシシラン5質量部、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタン2質量部、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン2質量部を加え、減圧下で完全に混合し、組成物を得た。
【0043】
[実施例2]
分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖された、粘度50,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100質量部、両末端がトリメチルシリル基で封鎖された粘度1,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部に、表面がパラフィン系の処理剤で処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP−20,丸尾カルシウム(株)製、空気透過法比表面積;0.8〜2.0m2/g)60質量部とアセチレンブラック粉末(商品名;デンカブラック粉状、電気化学工業(株)製、平均粒径35nm、BET比表面積68m2/g、DBP吸油量175ml/100g)15質量部を均一になるまで分散混合したのち、メチルトリメトキシシラン5質量部、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタン2質量部、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン2質量部を加え、減圧下で完全に混合し、組成物を得た。
【0044】
[実施例3]
分子鎖両末端が、エチレン基を介し、トリメトキシシリル基で封鎖された粘度50,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100質量部、両末端がトリメチルシリル基で封鎖された粘度1,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部に、表面がパラフィン系の処理剤で処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP−20,丸尾カルシウム(株)製、空気透過法比表面積;0.8〜2.0m2/g)60質量部とアセチレンブラック粉末(商品名;デンカブラック粉状、電気化学工業(株)製、平均粒径35nm、BET比表面積68m2/g、DBP吸油量175ml/100g)15質量部を均一になるまで分散混合したのち、メチルトリメトキシシラン5質量部、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタン2質量部、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン2質量部を加え、減圧下で完全に混合し、組成物を得た。
【0045】
[実施例4]
分子鎖両末端が、エチレン基を介し、トリメトキシシリル基で封鎖された粘度50,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100質量部、両末端がトリメチルシリル基で封鎖された粘度1,000mPa・sのジメチルポリシロキサン20質量部に、表面がパラフィン系の処理剤で処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP−20,丸尾カルシウム(株)製、空気透過法比表面積;0.8〜2.0m2/g)60質量部とアセチレンブラック粉末(商品名;デンカブラック粉状、電気化学工業(株)製、平均粒径35nm、BET比表面積68m2/g、DBP吸油量175ml/100g)15質量部を均一になるまで分散混合したのち、メチルトリメトキシシラン5質量部、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタン2質量部、フェニルイソシアネート1質量部を加え、減圧下で完全に混合し、組成物を得た。
【0046】
[比較例1]
実施例2において、表面がパラフィン系の処理剤で処理された重質炭酸カルシウムを除いた以外は実施例2と同様の手法で組成物を得た。
【0047】
[比較例2]
実施例2において、アセチレンブラック粉末を除いた以外は実施例2と同様の手法で組成物を得た。
【0048】
[比較例3]
実施例2において、表面がパラフィン系の処理剤で処理された重質炭酸カルシウムを200質量部とした以外は実施例2と同様の手法で組成物を得た。
【0049】
[比較例4]
実施例2において、アセチレンブラック粉末を35質量部とした以外は実施例2と同様の手法で組成物を得ようとしたが、うまく調製できなかった。
【0050】
[比較例5]
実施例2において、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランの代わりに、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いた以外は実施例2と同様の手法で組成物を得た。
【0051】
[比較例6]
実施例4において、フェニルイソシアネートの代わりに、ジフェニルメタンジイソシアネートを用いた以外は実施例4と同様の手法で組成物を得た。
【0052】
上記で調製した室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物(シリコーンゴム組成物)を2mmの型枠に流し込み、23℃,50%RHで7日間養生して2mm厚のゴムシートを得た。JIS A5758に規定する方法に準じてタックフリータイム(指触乾燥時間)及びスランプ性(流動性)を測定し、JIS K6249に準じて2mm厚シートよりゴム物性を測定した。
また、この組成物と、幅25mm、長さ100mmの被着体(アルミニウム)を用い、23℃,50%RHで7日間養生して接着面積2.5mm2、接着厚さ1mmの剪断接着試験体を作製した。更に、トルエンにて洗浄した被着体(幅25mm、長さ100mmのアルミニウム)上にエンジンオイルを5〜7g/m2となるように塗布した後、室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物を面積2.5mm2、厚さ1mmに塗布し、その上にエンジンオイルを5〜7g/m2となるように塗布した被着体(幅25mm、長さ100mmのアルミニウム)を被せ、23℃,50%RHで7日間養生して油面剪断接着試験体を作製した。上記剪断接着試験体を用いて剪断接着力と凝集破壊率を、上記油面剪断接着試験体を用いて油面剪断接着力と油面凝集破壊率を、それぞれJIS K6850に準じて測定した。
また、上記室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物を常温で6ヶ月保存後に、上記と同様にして各種試験を行った。更に、得られた室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化物の耐薬品性能を確認するため、ゴムシート及び各剪断接着試験体をエンジンオイルに120℃にて10日間浸漬後に、上記と同様にして各種試験を行った。
これらの結果を表1に示す。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)〜(4)で示されるオルガノポリシロキサンから選ばれる1種又は2種以上: 100質量部、
【化1】

(式中、Rはメチル基又はエチル基であり、R1は炭素原子数1〜10の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、Xは10以上の整数である。Yは酸素原子又は炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、Nは独立に0又は1の整数である。)
【化2】

(式中、R、R1、X、Y、Nは上記の通りであり、Zは炭素原子数2〜5のアルケニル基である。)
【化3】

{式中、R、R1、X、Y、Nは上記の通りであり、dは1以上10以下の整数である。また、R2は下記一般式
【化4】

(ここで、R、R1、Y、Nは上記の通りである。)で示される加水分解性基を含む分岐鎖である。}
【化5】

(式中、R、R1、R2、X、Y、Z、N、dは上記の通りである。)
(B)表面が脂肪酸及び/又はパラフィン系の処理剤で処理されている重質炭酸カルシウム: 10〜150質量部、
(C)吸油性炭素粉末: 1〜30質量部、
(D)下記一般式(5)
34-nSiKn (5)
(式中、R3は同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基である。また、Kは加水分解性基であり、nは3又は4の整数である。)
で示されるシラン又はその部分加水分解物: 1〜25質量部、
(E)硬化触媒: 0.01〜15質量部、
(F)分子内にイソシアネート基を1個有する有機化合物: 0.1〜10質量部
を含有することを特徴とする油面接着性室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(C)成分である吸油性炭素粉末がアセチレンブラック粉末であり、かつその平均粒径が30〜50nm、BET−N2吸着法比表面積が30〜80m2/gであり、かつDBP吸油量が130〜200ml/100gであることを特徴とする請求項1記載の室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
更に、(G)非反応性シリコーンオイルを(A)成分100質量部に対して0.1〜100質量部含有することを特徴とする請求項1又は2記載の室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物を硬化させてなるシール。

【公開番号】特開2010−37507(P2010−37507A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205059(P2008−205059)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】