説明

治療をモニターするためのバイオマーカーを使用した方法またはシステム

本発明は、単独で、あるいは任意選択でさらなる薬学的活性成分および/またはさらなる治療(例えば、放射線療法など)と組み合わせて使用されるとき、化合物3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンまたは薬学的に許容されるその塩、特にそのモノエタンスルホン酸塩の形態の活性をモニターするためのバイオマーカーに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野、特に特定の化合物の活性のバイオマーカー、および前記化合物による治療のモニタリングに関する。
本発明はさらに具体的には、単独で、あるいは任意選択でさらなる薬学的活性成分および/またはさらなる治療(例えば、放射線療法など)と組み合わせて使用されるとき、化合物3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンまたは薬学的に許容されるその塩、特にそのモノエタンスルホン酸塩の形態の活性をモニターするためのバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
生物における分子過程の知識およびこれらの過程を研究する技術における最近の進歩は、疾患を分類および治療する方法およびシステムの改善をもたらした。疾患の治療のための方法を提供および/または改善し、治療の効果をモニターするための方法およびシステムを提供および/または改善するための研究が多くの分野において行われている。
化合物3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンは、特に、腫瘍疾患、免疫疾患、または免疫性成分が関与する病的状態、または線維性疾患の治療のための、貴重な薬理学的特性を有する画期的な活性成分である。
この化合物の化学構造を、式Aとして下記に示す。
式A
【0003】
【化1】

この化合物のベース形態は、WO01/27081に記載されており、モノエタンスルホン酸塩の形態は、WO2004/013099に記載されており、様々なさらなる塩の形態は、WO2007/141283に示されている。免疫疾患または免疫性成分が関与する病的状態の治療のためのこの分子の使用は、WO2004/017948に記載されており、腫瘍疾患の治療のための使用は、WO2004/096224に記載されており、線維性疾患の治療のための使用は、WO2006/067165に記載されている。
【0004】
この化合物のモノエタンスルホン酸塩の形態は、この塩の形態を医薬品として開発するのに特に適しているものとしている特性を示す。3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノン−モノエタンスルホネートの化学構造を、式A1として下記に示す。
式A1
【0005】
【化2】

前臨床試験によって、この化合物が、腫瘍血管新生を阻害する機序によって腫瘍増殖を抑制する、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)および繊維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)の高度に強力で経口的に生物が利用可能な阻害剤であることが示されてきた。この化合物は、内皮細胞および平滑筋細胞および周皮細胞におけるシグナル伝達を阻害し、腫瘍血管密度を減少させることがさらに示されてきた。
さらに、この化合物は、耐容性良好である用量で今までに試験された全てのモデルにおいてインビボで抗腫瘍効力を示す。下記の表1は、異種移植モデルおよび同種ラット腫瘍モデルにおけるインビボでの抗腫瘍効力試験の結果を示す。
【0006】
【表1】

T/Cは、腫瘍サイズの減少を対照の%で表す。
【0007】
したがってこの化合物は、例えば、血管形成または細胞の増殖が関与する疾患の治療に適している。
この化合物は、WO2006/067165に記載されているように、線維性疾患の治療にさらに適している。
【0008】
診断およびスクリーニングのための方法を開発することを目的とする多くの研究に関わらず、治療をモニターするための効率的な方法およびシステムが依然として求められている。モニタリングは必ずしも可能ではなく、あるいは患者から試料、例えば、生検試料を得て、試験施設においてこれらの試料を研究するなど、患者にとって都合が悪いことが多い複雑、高価および/または時間のかかる手順を必要とする。腫瘍細胞の放射線分析は、腫瘍治療の開始の数週間後にのみ可能となる。
したがって、WO2008/127528によると、反応をモニターし、または患者における感受性を決定し、疾患および障害の治療において役立つ個人に合わせた遺伝的プロファイルの同定を可能にする方法および手順が提供されている。
【0009】
WO2008/134526によると、膀胱癌は、尿試料中の同定されたバイオマーカーのレベル上昇の存在についてスクリーニングによって検出し得る。この文献は、対象からの尿試料中で、この中で同定された膀胱癌についての少なくとも1つのバイオマーカー(α−1B−糖タンパク質、ハプトグロビン、血清トランスフェリン、またはα−1−アンチトリプシンなど)を検出することによる、膀胱癌(初期または後期膀胱癌など)の診断、予後、およびモニタリングのための方法をさらに記載している。バイオマーカーは、バイオマーカータンパク質を検出もしくは結合する作用剤、またはバイオマーカータンパク質もしくはその部分と特異的に反応性の抗体などのコード化核酸を検出もしくは結合する作用剤を使用して、検出、および任意選択で測定し得る。
したがって、特定の細胞表面分子の発現量は、疾患またはその治療を指示するものとして既に提案されてきた。
【0010】
WO2005/083123によると、個体からの試料中のAC133の発現生成物の量、すなわちタンパク質またはそのmRNAの量は、疾患またはその治療の徴候を示す。この参考文献は、未治療の癌患者におけるAC133の発現は、健常人と比較して有意により高いことをさらに記述する。例において、様々な腫瘍患者を治療するときにAC133発現は有意に下落する一方、同じ治療の間に循環内皮細胞の総数は本質的に同じままであることをまた示す。本質的に、この参考文献は、循環内皮細胞の数は、必ずしも個体の状態の徴候を示すとは限らない一方、AC133発現生成物の総量は、前記状態の徴候を示すことをさらに記述する。同様に、WO2004/019864は、AC133をマーカーとして同定し、血管形成を診断およびモニターするための定量的RT−PCRの使用を記載している。
【0011】
しかし、単独で、あるいは任意選択でさらなる薬学的活性成分および/またはさらなる治療(例えば、放射線療法など)と組み合わせて使用されるとき、上記の活性成分である3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンまたは薬学的に許容されるその塩、特にそのモノエタンスルホン酸塩の形態による個体の治療をモニターするためのバイオマーカーを使用した方法またはシステムは、今までに記載または示唆されてこなかった。このような方法またはシステムはまた、従来技術から予測し得ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、単独で、あるいは任意選択でさらなる薬学的活性成分および/またはさらなる治療(例えば、放射線療法など)と組み合わせて使用されるとき、化合物3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンまたは薬学的に許容されるその塩、特にそのモノエタンスルホン酸塩の形態による個体の治療をモニターするための、バイオマーカーを使用した方法またはシステムを提供することである。
したがって本発明の1つの目的は、化合物3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンまたは薬学的に許容されるその塩、好ましくはモノエタンスルホン酸塩の形態による個体の治療をモニターするための方法またはシステムを提供することであり、前記方法は、前記個体からの試料が前記治療の徴候を示す量のバイオマーカーを含むかどうかを決定することを含む。
【0013】
本発明のさらなる目的は、上記の方法またはシステムであり、バイオマーカーは、タンパク質の発現もしくは状態における変化、あるいは疾患の危険性もしくは進行と相関する、または所与の治療に対する疾患の感受性と相関する、特定の細胞の量における変化を示す。
本発明によるさらなる実施形態において、バイオマーカーは、薬力学的バイオマーカーである。
本発明によるさらなる実施形態において、治療のモニタリングは、奏効の程度のモニタリング、奏効期間のモニタリング、奏効率のモニタリング、安定化率のモニタリング、安定化期間のモニタリング、疾患の悪化までの時間のモニタリング、無増悪生存期間のモニタリングまたは全生存期間のモニタリングのいずれか1つ(特に奏効期間に悪影響がないが、より少ないおよび/またはより問題とならない副作用を伴う)を意味する。
【0014】
本発明のさらなる目的は、前記量が定量化される、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、前記量を参照値と比較することを含む、上記の方法およびシステムである。
本発明のさらなる目的は、前記発現生成物または特定の細胞の前記量と、前記治療の前に前記個体から得た試料中に存在する前記発現生成物または特定の細胞の量とを比較することを含む、上記の方法またはシステムである。
さらなる実施形態において、前記個体からのいくつかの試料は、治療の開始後に異なる時点で得る。これによって、一連の治療の長期間のモニタリングが可能となる。例えば、バイオマーカーの量が前記疾患またはその治療の徴候を示し続けるかを決定することができる。これは例えば、患者毎をベースとした適当な治療スケジュール、投与量およびタイプを確立するのに有用である。さらに、所与の時点での治療の継続が適当であるかどうかを決定することができる。
【0015】
本発明のさらなる目的は、前記試料を前記治療の開始の1カ月以内に得る、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、前記試料を前記治療の開始の1週間以内に得る、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、前記試料を前記治療の開始の2日以内に得る、上記の方法またはシステムである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、前記バイオマーカーがいくつかの特異的細胞表面抗原を示す細胞を含む、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、試料が血液試料である、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、前記バイオマーカーが内皮細胞のホスホ−チロシンレベルである、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、前記バイオマーカーがVEGFR2+CD45dimpY+細胞の数である、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、前記バイオマーカーがVEGFR2+pY+細胞の数である、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、前記バイオマーカーがCD34+CD45dimCD133+CD117-細胞の数、CD34+CD45dimCD133-CD117+細胞の数、CD34+CD45dimCD133+細胞の数およびCD34+CD45dimCD117+細胞の数から選択される、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、前記バイオマーカーがCD34+CD45dimCD133+CD117+細胞の数である、上記の方法またはシステムである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、前記個体からの試料における、フローサイトメトリーを使用した内皮細胞のホスホ−チロシンレベルの減少が治療の徴候を示す、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、前記個体からの血液試料からのフローサイトメトリーを使用したVEGFR2+CD45dimpY+細胞の減少が治療の徴候を示す、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、前記個体からの血液試料からのフローサイトメトリーを使用したVEGFR2+pY+細胞の減少が治療の徴候を示す、上記の方法またはシステムである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、治療後、例えば、29日目に測定し、治療前と比較したCD34+CD45dimCD133+CD117-細胞の割合の増加が、治療の徴候を示す、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、治療後、例えば、29日目に測定し、治療前と比較したCD34+CD45dimCD133-CD117+細胞の減少が、治療の徴候を示す、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、治療後、例えば、29日目に測定し、治療前と比較したCD34+CD45dimCD133+細胞の増加が、治療の徴候を示す、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、治療後、例えば、8日目および29日目に測定し、治療前と比較したCD34+CD45dimCD117+細胞の減少が、治療の徴候を示す、上記の方法またはシステムである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、治療後に測定し、治療前と比較したCD34+CD45dimCD133+細胞の減少が、奏効の徴候を示す(安定疾患)、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、治療後に測定し、治療前と比較したCD34+CD45dimCD117+細胞の減少が、奏効の徴候を示す(安定疾患)、上記の方法またはシステムである。
本発明のさらなる目的は、治療後に測定し、治療前と比較したCD34+CD45dimCD133+CD117+細胞の減少が、奏効の徴候を示す(安定疾患)、上記の方法またはシステムである。
【0020】
本発明のさらなる目的は、化合物3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンまたは薬学的に許容されるその塩、好ましくはモノエタンスルホン酸塩の形態による患者の治療が有効であるかを決定するための方法またはシステムであって、下記の要素:このような決定を要求する患者または医師;患者からの生体材料の試料の取得;個体の治療をモニターするための上記の方法またはシステムを使用した試料の分析;および患者または医師への試験結果の情報伝達を含む。
本発明はまた、本発明による方法またはシステムを行うための少なくとも1つの手段を含む診断キットを提供する。一態様において、キットは、mRNA、タンパク質のレベルまたは細胞もしくは試料レベルでのバイオマーカーセットの発現をモニターするための試薬または材料(抗体または核酸など)、および任意選択で患者の組織標本または患者の試料からの細胞の試験において使用するための1種または複数の活性成分、および任意選択で使用説明書を含み得る。
【0021】
本発明のさらなる目的は、上記で記載されているような化合物3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンまたは薬学的に許容されるその塩、好ましくはモノエタンスルホン酸塩の形態による個体の治療をモニターするための方法またはシステムにおけるバイオマーカーの使用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】VEGFで処理されたHUVEC細胞のホスホ−チロシンレベルに対する異なる化合物の効果。横座標上で:1は、VEGFで未処理および活性成分に未曝露のIgG対照であり;2は、VEGFで未処理および活性成分に未曝露の対照であり;3は、VEGFで処理されたが、活性成分に未曝露の対照であり;4は、VEGFで処理し、1μMの化合物A1に曝露させ;5は、VEGFで処理し、5μMの化合物A1に曝露させ;6は、VEGFで処理し、1μMの化合物AG1478に曝露させ;7は、VEGFで処理し、5μMの化合物AG1478に曝露させ;8は、VEGFで処理し、1mMの化合物5FUに曝露させ;9は、VEGFで処理し、5mMの化合物5FUに曝露させる。
【図2】化合物A1による処理によるインビボでのVEGFR2+CD45dimpY+白血球細胞のホスホ−チロシンレベル。横座標上で:0は、未処理対照を表し;A50は、50mg/kgの化合物A1による処理を表し;A100は、100mg/kgの化合物A1による処理を表す。
【図3】化合物A1による処理によるマウス末梢血中のVEGFR2+pY+細胞のフローサイトメトリー。横座標上で:0は、未処理対照を表し;A50は、50mg/kgの化合物A1による処理を表し;A100は、100mg/kgの化合物A1による処理を表す。
【図4】治療前、ならびに化合物A1による処理後2日目、8日目および29日目に採取した全血中のCD34+CD45dimCD133+/−CD117+/−細胞の割合(象限)。
【図5】レスポンダーおよび非レスポンダーにおける、治療前、ならびに化合物A1による処理後2日目、8日目および29日目に採取した全血中のCD34+CD45dimCD133+/−CD117+/−細胞の比。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の意義の範囲内で、バイオマーカーは、生物学的状態の指標として使用する。バイオマーカーは通常の生物学的過程、病原性過程、または治療的介入に対する薬理反応の指標として客観的に測定および評価される特徴である。これは1998年のNIHの研究グループによって与えられた定義と一致している。
【0024】
さらに具体的には、バイオマーカーは、疾患の危険性もしくは進行、または所与の治療に対する疾患の感受性と相関する変化を示す。提案されたバイオマーカーが確認されると、そのバイオマーカーを使用して、個体における疾患の危険性、疾患の存在を診断し、または個体における疾患の治療を調整(薬物治療または投与体制の選択)することができる。可能性がある薬物療法の評価において、バイオマーカーは、生存または不可逆的な病的状態などの自然のエンドポイントの代用として使用し得る。治療が健康の改善と直接関連を有するバイオマーカーを変化させる場合、そのバイオマーカーは、臨床的有用性を評価するための代用エンドポイントとしての役割を果たす。
【0025】
本発明の方法またはシステムは、個体において少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを測定するステップが、個体からの生体試料を採取し、次いで生体試料中のバイオマーカー(複数可)のレベルを測定することを含む、例えばインビトロの方法でよい。生体試料は、例えば、血清、新鮮な全血、末梢血単核球細胞、冷凍全血、新鮮な血漿、冷凍血漿、尿、唾液、皮膚、毛包、骨髄、または腫瘍組織の少なくとも1つを含むことができる。
【0026】
本発明の範囲内で、分化クラスター分子CD34、CD45、CD133およびCD117は、特定の細胞型の細胞マーカーとして特に重要である。
したがって、分化クラスター(または命名クラスター、CDと略されることが多い)は、白血球上に存在する細胞表面分子の同定および調査のために使用されるプロトコルである。CD命名法は、1982年にパリで開催された第1回International Workshop and Conference on Human Leukocyte Differentiation Antigens(HLDA)において提案および確立された。このシステムは、白血球(白血球細胞)の表面分子上のエピトープに対して世界中の異なる試験施設によって作成された多くのモノクローナル抗体(mAb)の分類を対象とした。それ以来、その使用は多くの他の細胞型に拡大されてきており、320超の特有なCDクラスターおよびサブクラスターが同定されてきた。提案された表面分子は、2つの特異的モノクローナル抗体(mAb)が分子に結合していることが示されると、CD番号を割り当てられる。分子がよく特性決定されておらず、または1つのmAbのみを有する場合、暫定的指標「w」が通常与えられる(「CDw186」におけるように)。CD分子は、多数の様式で作用することができ、細胞にとって重要な受容体またはリガンド(受容体を活性化する分子)として作用することが多い。シグナルカスケードが通常開始し、細胞の挙動(細胞シグナル伝達)を変化させる。いくつかのCDタンパク質は細胞シグナル伝達において役割を果たしていないが、細胞接着などの他の機能を有する。概ね250の異なるタンパク質がある。
【0027】
CDシステムは、細胞マーカーとして通常使用され、どのような分子がそれらの表面上に存在するかに基づいて細胞を定義することを可能にする。1つのCD分子を使用して集団を定義することは一般ではない(数例は存在するが)一方、マーカーを合わせることは、免疫系内で非常に特定の定義を有する細胞型を可能にした。
CD分子は、フローサイトメトリーを含めた様々な方法を使用して、細胞選別において利用されている。細胞集団は通常、特定の細胞画分がCD分子を発現している、または欠いていることを示す、「+」または「−」の記号を使用して定義する。例えば、「CD34+、CD31−」細胞は、CD34を発現しているが、CD31を発現していない細胞である。このCDの組合せは典型的には、完全に分化した内皮細胞と対立した幹細胞に相当する。下記の表2は、いくつかの造血幹細胞および白血球細胞のCDマーカーを示す。
【0028】
【表2】

【0029】
分化クラスターCD34分子は、人体内の特定の細胞上に存在する分子である。CD34を発現している細胞(CD34+細胞)は通常、臍帯および骨髄中に、造血細胞、血管内皮前駆細胞、血管(リンパ管ではない(胸膜のリンパ管以外))の内皮細胞;肥満細胞、間質中および皮膚の真皮の付属器周辺の亜集団樹状細胞(第XIIIa因子陰性である)、ならびにいくつかの軟部組織腫瘍中の細胞として見出される。CD34+細胞は細胞表面糖タンパク質であり、細胞間接着因子として機能する。CD34+細胞はまた、骨髄細胞外マトリックスへの、または直接ストローマ細胞への幹細胞の結合を媒介し得る。CD34+細胞は、免疫磁気または免疫蛍光方法を使用して血液試料から単離し得る。抗体を使用して、研究および臨床骨髄移植のために造血前駆細胞幹細胞を定量化および精製する。したがって、それらのCD34+発現によって、このような細胞を分類することができる。
【0030】
分化クラスターCD45抗原は、最初に白血球共通抗原と称されたタンパク質である。この遺伝子がコードするタンパク質は、タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)ファミリーのメンバーである。PTPは、細胞増殖、分化、有糸分裂周期、および癌化を含めた種々の細胞過程をレギュレートするシグナル伝達分子であることが知られている。このPTPは、細胞外ドメイン、単一の膜貫通領域および2つのタンデム細胞質内触媒ドメインを含有し、したがって受容体型PTPに属する。この遺伝子は、造血細胞において特異的に発現している。このPTPは、T細胞およびB細胞抗原受容体シグナル伝達の必要不可欠な制御因子であることが示されてきた。PTPは、抗原受容体複合体の成分との直接相互作用によって、または抗原受容体シグナル伝達に必要な様々なSrcファミリーキナーゼを活性化させることによって機能する。このPTPはまた、JAKキナーゼを抑制し、したがってサイトカイン受容体シグナル伝達の制御因子として機能する。別個のアイソフォームをコードする、この遺伝子の4種の選択的にスプライシングされた転写物変異体が報告されてきた。この変異体は、それらの細胞の活性化(同時刺激の形態)を助ける、赤血球以外の全ての分化した造血細胞および形質細胞上に様々な形態で存在するI型膜貫通タンパク質である。この変異体はリンパ腫、B細胞慢性リンパ球性白血病、有毛細胞白血病、および急性非リンパ性白血病において発現している。
【0031】
AC133ともまた称される分化クラスター分子CD133は、ヒトおよびげっ歯類においてProminin1(PROM1)としてまた公知の糖タンパク質である。CD133は、細胞突起に特異的に局在化している5回膜貫通型糖タンパク質(5回膜貫通型、5−TM)の基本メンバーである。CD133は、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞、神経膠芽腫、ニューロンおよびグリア幹細胞、ならびにいくつかの他の細胞型において発現している。
KITまたはC−kit受容体ともまた称される分化クラスター分子CD117は、造血幹細胞および他の細胞型の表面上に発現しているサイトカイン受容体である。この受容体は、幹細胞因子(特定のタイプの細胞が増殖することをもたらす物質)に結合する。CD117は、骨髄において特定のタイプの造血(血液)前駆細胞を同定するために使用される重要な細胞表面マーカーである。特異的に造血幹細胞(HSC)、多分化能前駆細胞(MPP)、および骨髄系共通前駆細胞(CMP)は、高いレベルのCD117を発現する。リンパ球共通前駆細胞(CLP)は、低い表面レベルのCD117を発現する。CD117はまた、胸腺中の最初期胸腺細胞前駆体を同定する。さらに肥満細胞、皮膚のメラニン形成細胞、および消化管のカハール間質細胞は、CD117を発現する。CD117はまた、マウス前立腺幹細胞についてのマーカーである。
【0032】
下記に示すように本発明によると、特定の細胞マーカーを示す細胞は、活性成分3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンまたは薬学的に許容されるその塩、好ましくはモノエタンスルホン酸塩の形態による個体の治療をモニターするためのバイオマーカーとして有用である。
【0033】
特にこれには、奏効の程度、奏効期間、奏効率、安定化率、安定化期間、疾患の悪化までの時間、無増悪生存期間または全生存期間のモニタリング(特に奏効期間に悪影響がないが、より少ないおよび/またはより問題とならない副作用を伴う)が含まれる。
上記のように、本明細書に定義されているような本発明の治療は、それらの抗血管新生および/または血管透過性作用のために重要である。血管形成、および/または血管透過性の増加は、癌(白血病、カポジ肉腫、多発性骨髄腫およびリンパ腫を含めた)、糖尿病、乾癬、関節リウマチ、血管腫、急性および慢性ネフロパシー、アテローム、動脈再狭窄、自己免疫疾患、急性炎症、喘息、リンパ浮腫、子宮内膜症、不正子宮出血、線維症、肝硬変、ならびに網膜血管増殖を伴う眼疾患(加齢黄斑変性症を含めた)を含めた広範囲の病態において存在する。
【0034】
本明細書に定義されているような本発明の併用療法は、前記療法の個々の成分の同時、連続または別々の投与によって達成し得る。本明細書に定義されているような併用療法は、単独の療法として適用してもよく、あるいは本発明の併用療法に加えて、手術または放射線療法またはさらなる化学療法剤もしくは標的剤が関与し得る。本明細書に記載されているような併用療法の投与の前、間または後に、手術は、部分的もしくは完全な腫瘍切除のステップを含み得る。
本発明の併用療法は、癌およびカポジ肉腫などの疾患の予防および治療に特に有用であることが期待される。特に、本発明のこのような併用療法は有利なことには、例えば、結腸、膵臓、脳、膀胱、卵巣、乳房、前立腺、肺および皮膚の原発性および再発性の固形腫瘍の増殖を遅延させることが期待される。本発明の併用療法は有利なことには、肺癌(悪性胸膜中皮腫、小細胞肺癌(SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)を含めた)、頭頸部癌、食道癌、胃癌、結腸直腸癌、消化管間質腫瘍(GIST)、膵臓癌、肝細胞癌、乳癌、腎細胞癌および尿路癌、前立腺癌、卵巣癌、脳腫瘍、肉腫、皮膚癌、ならびに血液腫瘍(白血病、脊髄形成異常症、骨髄腫、リンパ腫)における腫瘍の増殖を遅延させることが期待される。
【0035】
より特定すると、本発明のこのような併用療法は、白血病、多発性骨髄腫およびリンパ腫を含めた、VEGFと関連する任意の形態の癌を阻害し、また、例えば、結腸(直腸を含めた)、膵臓、脳、腎臓、肝細胞癌、膀胱、卵巣、乳房、前立腺、肺、外陰部、皮膚の特定の腫瘍、特に悪性胸膜中皮腫およびNSCLCを含めた、例えば、VEGFと関連するそれらの原発性および再発性の固形腫瘍、特に、それらの増殖および拡散についてVEGFに有意に依存しているそれらの腫瘍の増殖を阻害することが期待される。より特に、本発明の併用療法は有利なことには、悪性胸膜中皮腫における腫瘍の増殖を遅延させることが期待される。より特に、本発明の併用療法は有利なことには、非小細胞肺癌(NSCLC)における腫瘍の増殖を遅延させることが期待される。
【0036】
本発明の別の態様において、この治療は、VEGFと関連するそれらの原発性および再発性の固形腫瘍、特にそれらの増殖および拡散についてVEGFに有意に依存しているそれらの腫瘍の増殖を阻害することが期待される。
下記の研究は、本発明を例示することを意図する。これらの研究の記載中および本発明を通して使用される略語を、下記のリストで説明する。
【0037】
略語のリスト
APC アロフィコシアニン
BSA ウシ血清アルブミン
CEC 循環内皮成熟細胞
CEP 循環内皮前駆細胞
Cy5.5 シアニン5.5
EGFR 上皮増殖因子受容体
FCM フローサイトメトリー
FITC フルオレセインイソチオシアネート
FSC 前方散乱
HepG2 ヒト肝細胞肝癌細胞系
HUVEC ヒト臍帯静脈内皮細胞
PBL 末梢血白血球
PBS リン酸緩衝生理食塩水
PD 進行性疾患
−PE フィコエリトリンで標識
PerCP ペリジニンクロロフィルタンパク質
PYまたはpY ホスホ−チロシン
RES レスポンダー(Responder)
SSC 側方散乱
TKI チロシンキナーゼ阻害剤
VEGFR 血管内皮増殖因子受容体2
【0038】
前臨床試験
下記のインビトロおよびインビボの実験を行い、肝細胞癌についての化合物A1の抗腫瘍活性を評価し、血液試料中の新規な薬力学的バイオマーカー、すなわち、内皮細胞のホスホ−チロシンレベル、VEGFR2+CD45dimpY+細胞の数およびVEGFR2+pY+細胞の数を同定した。
【0039】
HUVEC細胞による実験(図1)
HUVEC細胞を、化合物A1(1μMおよび5μM)、EGFR阻害剤AG1478(1μMおよび5μM)、ならびに5FU(5−フルオロウラシル(fluorouracile)、1mMおよび5mM)に3時間曝露させ、細胞採取の前に20ng/mlのVEGFを5分間加えた。採取した細胞をPBSによって2度洗浄し、50μLの染色緩衝液中で遠心分離した(300g、5分)。吸引による上清の除去の後、細胞ペレットを250μLの固定/透過処理溶液中で溶解し、20分間氷上に保持した。PY−100Alexa488抗体およびホスファターゼ阻害剤を加えた。細胞を暗中氷上で30分間保持し、Perm/洗浄緩衝液で2度洗浄し、500μLの染色緩衝液中で再び溶解した。次いで、細胞をフローサイトメトリー(FACS Calibur、BD)によって検査した。データはCell Questソフトウェア(BD)から得て、WinMDI2.9(フリーソフトウェア)によって分析した。
【0040】
インビボ試験のためのマウス血液試料(図2および3)
HepG2細胞を接種されたマウスを、腫瘍サイズによって3群に無作為化し、ビヒクル(対照)、化合物A1(50mg/kg、p.o.)または化合物A1(100mg/kg、p.o.)で14日間処理した。マウスを殺処分し、マウス全血試料を腹部大動脈または心臓からの吸引によって採取した。血液を溶血薬によって室温で10分間溶血させた。遠心分離(500g、5分)後、細胞を1mLの染色緩衝液で洗浄した。次いで、細胞を、100μLの染色緩衝液および5μLのVEGFR2−PE抗体と共に暗中15分間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、500μLの固定/透過処理溶液中で20分間インキュベートし、Perm/洗浄緩衝液によって2度洗浄した。次いで、抗体(PY−100、CD45−PerCP−Cy5.5、各々5μL)およびホスファターゼ阻害剤の混合物を加え、暗中30分間インキュベートした。細胞を洗浄し、フローサイトメトリー(FACS Calibur、BD)によって分析した。データはCell Questソフトウェア(BD)から得て、WinMDI2.9(フリーソフトウェア)によって分析した。
【0041】
抗体
PY−100(ホスホ−チロシン)Alexa Fluor488複合体(Cell Signaling、♯9414)
VEGFR2−PE(BD pharm、555308)
CD45−PerCP−Cy5.5(BD Pham、340953)
Alexa Fluor488マウスIgGκアイソタイプ対照(BD Pham、557702)
緩衝液
BD Cytofix/Cytoperm、固定/透過処理キット(カタログ554714)
1%熱失活FCS、および0.09%(w/v)アジ化ナトリウムを補充した染色緩衝液(DulbeccoのPBS(Mg2+、Ca2+を有さない)(pHは7.4〜7.6に調節))
10x溶解緩衝液(NH4Cl82.6g、NaHCO311.9g、EDTA2Na0.378g、1LまでのH2O、pHは7.3に調節)
【0042】
結果
図1から分かるように、インビトロ試験において、HUVEC細胞のホスホ−チロシンレベルは、化合物A1によって抑制されたが、AG1478(EGFR−TKI)によって抑制されず、5FUによって抑制されなかった。
図2から分かるように、インビボの試験において、化合物A1は、VEGFR2+CD45dimpY+細胞の数を減少させるようである。さらに、図3から分かるように、マウス末梢血中のVEGFR2+pY+細胞は、化合物A1による処理によって抑制された。
【0043】
結論
フローサイトメトリーを使用した内皮細胞のホスホ−チロシンレベルの減少を検出することは、抗血管新生阻害剤化合物A1についての薬力学的バイオマーカーである。
血液試料からのフローサイトメトリーを使用したVEGFR2+CD45dimpY+細胞の減少を検出することは、抗血管新生阻害剤化合物A1についての薬力学的バイオマーカーである。
血液試料からのフローサイトメトリーを使用したVEGFR2+pY+細胞の減少を検出することは、抗血管新生阻害剤化合物A1についての薬力学的バイオマーカーである。
【0044】
第I相臨床試験
さらなる試験、すなわち第I相試験を行い、進行固形腫瘍(ST)を有する患者における化合物A1の抗腫瘍活性を調査し、CD133およびCD117陽性細胞がこの活性成分の活性のバイオマーカーとして有用であり得ることを確認した。
方法
全血は、治療前(1日目)に、ならびに治療後2日目、8日目および29日目に採取した。全血から同定したCD34+CD45dim末梢血細胞の亜集団は、フローサイトメトリーを使用して、CD133およびCD117の細胞表面マーカーによってさらに同定した。全血(800μL)を、4.5mLの0.2%BSA−PBSで補充し、5分間遠心分離した(1500rpm)。吸引による上清の除去の後、4.5mLの0.2%BSA−PBSを加え、遠心分離した。細胞ペレットを、50μLのヒトγ−グロブリンと混合した。抗体(CD34−FITC、CD117−PE、CD45−PerCPおよびCD133−APC)を加え、4Cで45分間保持した。溶血薬(4.5mL)を加え、10分間インキュベートした。遠心分離(1500rpm、5分)後、上清を2度洗浄した。次いで、0.2%BSA−PBS(4.5mL)を加え、上清を遠心分離(1500rpm、5分)によって除去した。細胞ペレットをBSA−PBSで800μLまで満たし、フローサイトメトリーによって分析した。CD34+CD45dimCD133+/−CD117+/−細胞の割合(象限)を分析した。
抗体
CD34FITC、BECKMANCOULTER(カタログ番号IM1870)。
CD117PE、BECKMANCOULTER(カタログ番号IM2732)。
CD45PerCP、BD Biosciences(カタログ番号347464)。
CD133APC、Miltenyi Biotec(カタログ番号130−090−854)。
【0045】
結果
化合物A1による処理およびCD133CD117細胞:フローサイトメトリー分析によって、化合物A1による処理が、治療前と比較して、29日目にCD34+CD45dimCD133+CD117-細胞の割合を有意に増加させ(p<0.001)、CD34+CD45dimCD133-CD117+細胞の割合を逆に減少させた(p<0.01、図4A)ことが明らかになった。29日目のCD34+CD45dimCD133+細胞は、有意に増加し(図4B)、8日目および29日目にCD34+CD45dimCD117+細胞は、有意に減少した(図4C)。
【0046】
化合物A1の反応およびCD133CD117細胞:CD34+CD45dimCD133+細胞およびCD34+CD45dimCD117+細胞は、レスポンダーにおいて減少する傾向があった(安定疾患)が、有意ではなかった(図5A)。治療後の非レスポンダーと比較したときに、CD34+CD45dimCD133+CD117+細胞はレスポンダーにおいて減少する傾向があった(安定疾患)(図5B)が、データは非常に小さな試料サイズ(RES、n=12、PD、n=4)および限定されたエビデンス(evidence)から得た。
【0047】
結論
抗血管新生阻害剤化合物A1のための血液試料中の薬力学的バイオマーカーは、
CD34+CD45dimCD133+CD117-細胞;
CD34+CD45dimCD133-CD117+細胞;
CD34+CD45dimCD133+細胞;および
CD34+CD45dimCD117+細胞
である。
【0048】
抗血管新生阻害剤化合物A1のための血液試料中の予測的バイオマーカーは、CD34+CD45dimCD133+CD117+細胞である。
【0049】
さらなる実施形態
単独で、あるいは任意選択でさらなる薬学的活性成分および/またはさらなる治療(例えば、放射線療法など)と組み合わせて使用されるとき、化合物3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンまたは薬学的に許容されるその塩、特にそのモノエタンスルホン酸塩の形態で治療し得る疾患は、骨髄腫細胞の細胞増殖、移動もしくはアポトーシスが関与する疾患、血管形成または線維症である。
好ましい実施形態において、疾患は、腫瘍の存在を含む。
さらなる実施形態において、疾患は、進行性腫瘍である。
さらなる実施形態において、疾患は、例えば、特発性肺線維症などの線維性疾患である。
さらなる実施形態において、疾患は、癌(カポジ肉腫、白血病、多発性骨髄腫およびリンパ腫を含めた)、糖尿病、乾癬、関節リウマチ、血管腫、急性および慢性ネフロパシー、アテローム、動脈再狭窄、自己免疫疾患、急性炎症、喘息、リンパ浮腫、子宮内膜症、不正子宮出血、線維症、肝硬変、ならびに網膜血管増殖を伴う眼疾患(加齢黄斑変性症を含めた)から選択される。
さらなる実施形態において、疾患は、非小細胞肺癌(NSCLC)、小細胞肺癌(SCLC)、悪性胸膜中皮腫または腹膜中皮腫、頭頸部癌、食道癌、胃癌、結腸直腸癌、消化管間質腫瘍(GIST)、膵臓癌、肝細胞癌、乳癌、腎細胞癌、尿路癌、前立腺癌、卵巣癌、脳腫瘍、肉腫、皮膚癌、ならびに血液腫瘍(白血病、脊髄形成異常症、骨髄腫、リンパ腫)から選択される。
【0050】
化合物3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンの本明細書の上記に既に記載されているもの以外の薬学的に許容される塩には、例えば、酸付加塩が含まれてもよい。このような酸付加塩には、例えば、薬学的に許容されるアニオンを与える無機酸または有機酸を有する塩が含まれる(ハロゲン化水素、または硫酸もしくはリン酸、またはトリフルオロ酢酸、クエン酸もしくはマレイン酸によってなど)。さらに、薬学的に許容される塩は、薬学的に許容されるカチオンを与える無機塩基または有機塩基によって形成し得る。無機塩基または有機塩基を有するこのような塩には、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩またはカリウム塩など)、およびアルカリ土類金属塩(カルシウム塩またはマグネシウム塩など)が含まれる。
【0051】
本発明によると、化合物は、1種または複数の薬学的に許容される賦形剤または担体を使用して適宜に製剤し得る。本発明の範囲内で使用し得る適切な製剤は、これらの化合物に関連する文献および特許出願において既に記載されてきた。これらの製剤は、参照により本明細書中に組み込まれている。
【0052】
本発明による一実施形態において、式A1の化合物についての製剤は、好ましくは、脂質担体、増粘剤および流動促進剤/可溶化剤を含む活性物質の脂質懸濁液であり、最も好ましくは、脂質担体は、トウモロコシ油グリセリド、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(diethylenglycolmonoethylether)、エタノール、グリセロール、グリコフロール、マクロゴールグリセロールカプリロカプリレート、マクロゴールグリセロールリノレエート、中鎖部分グリセリド、中鎖トリグリセリド、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリオキシルヒマシ油、ポリオキシル水素化ヒマシ油、プロピレングリコールモノカプリレート、モノラウリン酸プロピレングリコール、精製ダイズ油、トリアセチン、クエン酸トリエチル、またはその混合物から選択され、増粘剤は、オレオゲル形成賦形剤(コロイド状シリカもしくはBentonitなど)、または高粘度の親油性もしくは両親媒性賦形剤(ポリオキシル水素化ヒマシ油、水素化植物油マクロゴールグリセロール−ヒドロキシステアレート、マクロゴールグリセロール−リシノレエートまたはハードファットなど)から選択され、流動促進剤/可溶化剤は、好ましくはマクロゴールグリセロール−ヒドロキシステアレートまたはマクロゴールグリセロール−リシノレエートから選択される1種または複数のマクロゴールグリセロールを任意選択でさらに含むレシチンから選択される。脂質懸濁液製剤は、文献から公知の製剤を生成する従来の方法によって、すなわち、均質化した懸濁液を得るために、所定の温度にて所定の順序で成分を混合することによって調製し得る。
【0053】
上記の製剤は、好ましくは医薬カプセル剤、好ましくは軟質ゼラチンカプセル剤(カプセル殻は、可塑剤として、例えば、グリセロールを含むことを特徴とする)、または硬質ゼラチンカプセル剤もしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセル剤(任意選択でシーリング(sealing)またはバンディング(banding)を伴う)中に組み込んでもよい。カプセル医薬品剤形は、文献から公知のカプセル剤を生成する従来の方法によって調製し得る。軟質ゼラチンカプセル剤は、例えば、「回転金敷手順」などの、例えば、Swarbrick, Boylann, Encyclopedia of pharmaceutical technology, Marcel Dekker、1990、第2巻、269頁ffもしくはLachmann et al.、「The Theory and Practice of Industrial Pharmacy」、第2版、404〜419頁、1976などに記載の文献から公知の軟質ゼラチンカプセル剤を生成する従来の方法、または例えば、Jimerson R. F. et al.、「Soft gelatin capsule update」、Drug Dev. Ind. Pharm.、第12巻、第8〜9号、1133〜44頁、1986に記載されている手順などの他の手順によって調製し得る。
【0054】
上記で定義した製剤または上記で定義したカプセル剤は、0.1mg〜20mgの活性物質/体重kg、好ましくは0.5mg〜4mgの活性物質/体重kgの投与量範囲で使用し得る。
上記で定義したカプセル剤は、適切なガラス製容器もしくは軟質プラスチック製容器中に、またはアルミニウムパウチもしくは二重ポリ袋中にパッケージし得る。
【0055】
投与量およびスケジュールは、特定の病態および患者の全体的な状態によって変化し得る。本発明の化合物Aまたは薬学的に許容されるその塩による治療に加えて、1種または複数のさらなる化学療法剤が使用される場合、投与量およびスケジュールはまた変動し得る。スケジュール作成は、任意の特定の患者を治療している医師が決定することができる。
【0056】
放射線療法は、臨床放射線療法における公知の診療によって投与し得る。電離放射線の線量は、臨床放射線療法において使用することが知られている線量である。使用される放射線療法には、例えば、γ線、X線の使用、および/または放射性同位体からの放射線の定方向送達が含まれる。マイクロ波およびUV照射などの他の形態のDNA傷害要因はまた、本発明に含まれる。例えば、X線は、1.8〜2.0Gyの1日線量で、1週間に5日、5〜6週間投与し得る。通常総分割線量は、45〜60Gyの範囲内にある。単一のより高い線量、例えば、5〜10Gyを、一連の放射線療法の部分として投与し得る。単回線量を手術中に投与し得る。超分割放射線療法を使用してもよく、それによって低線量のX線を、ある期間に亘って定期的に、例えば、数日に亘り1時間当たり0.1Gy投与する。放射性同位体についての線量範囲は広範に変化し、同位体の半減期、放射された放射線の強度およびタイプ、ならびに細胞による取込みによって決まる。
【0057】
特定の病態の治療上の処置または予防的治療のために必要な各治療の用量の規模は、治療を受けるホスト、投与経路および治療される病気の重症度によって必然的に変化する。したがって、最適な投与量は、任意の特定の患者を治療している医師が決定し得る。例えば、毒性を減少させるために、併用療法の成分の上記の用量を減少させることが必要または望ましいことがあり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体からの試料が、治療の徴候を示す量でバイオマーカーを含むかどうかを決定することを含む、化合物3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンまたは薬学的に許容されるその塩による前記個体の前記治療をモニターするための方法またはシステム。
【請求項2】
化合物が、3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンのモノエタンスルホン酸塩の形態である、請求項1に記載の方法またはシステム。
【請求項3】
バイオマーカーが、タンパク質の発現もしくは状態における変化、あるいは疾患の危険性もしくは進行と相関する、または所与の治療に対する疾患の感受性と相関する、特定の細胞の量における変化を示す、請求項1または2に記載の方法またはシステム。
【請求項4】
治療のモニタリングが、奏効の程度のモニタリング、奏効期間のモニタリング、奏効率のモニタリング、安定化率のモニタリング、安定化期間のモニタリング、疾患の悪化までの時間のモニタリング、無増悪生存期間のモニタリングまたは全生存期間のモニタリングのいずれか1つ(特に奏効期間に悪影響がないが、より少ないおよび/またはより問題とならない副作用を伴う)を意味する、請求項1または2に記載の方法またはシステム。
【請求項5】
前記量が定量化される、請求項1または2に記載の方法またはシステム。
【請求項6】
前記量を参照値と比較することを含む、請求項1または2に記載の方法またはシステム。
【請求項7】
前記バイオマーカーが、いくつかの特異的細胞表面抗原を示す細胞を含む、請求項1または2に記載の方法またはシステム。
【請求項8】
試料が、血液試料である、請求項1または2に記載の方法またはシステム。
【請求項9】
前記バイオマーカーが、内皮細胞のホスホ−チロシンレベルである、請求項1または2に記載の方法またはシステム。
【請求項10】
前記バイオマーカーが、VEGFR2+CD45dimpY+細胞の数である、請求項1または2に記載の方法またはシステム。
【請求項11】
前記バイオマーカーが、VEGFR2+pY+細胞の数である、請求項1または2に記載の方法またはシステム。
【請求項12】
前記バイオマーカーが、CD34+CD45dimCD133+CD117-細胞の数、CD34+CD45dimCD133-CD117+細胞の数、CD34+CD45dimCD133+細胞の数およびCD34+CD45dimCD117+細胞の数から選択される、請求項1または2に記載の方法またはシステム。
【請求項13】
前記バイオマーカーが、CD34+CD45dimCD133+CD117+細胞の数である、請求項1または2に記載の方法またはシステム。
【請求項14】
化合物3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンまたは薬学的に許容されるその塩による患者の治療が有効であるかを決定するための方法またはシステムであって、下記の要素:このような決定を要求する患者または医師;患者からの生体材料の試料の取得;請求項1または2に記載の、個体の治療をモニターするための方法またはシステムを使用した試料の分析;および患者または医師への試験結果の情報伝達を含む、方法またはシステム。
【請求項15】
請求項1または2に記載の方法またはシステムを行うための少なくとも1つの手段を含む、診断キット。
【請求項16】
mRNA、タンパク質のレベルまたは細胞もしくは試料レベルでのバイオマーカーセットの発現をモニターするための、抗体または核酸から選択される試薬または材料;任意選択で患者の組織標本または患者の試料からの細胞の試験において使用するための1種または複数の活性成分;および任意の使用説明書を含む、請求項15に記載の診断キット。
【請求項17】
化合物3−Z−[1−(4−(N−((4−メチル−ピペラジン−1−イル)−メチルカルボニル)−N−メチル−アミノ)−アニリノ)−1−フェニル−メチレン]−6−メトキシカルボニル−2−インドリノンまたは薬学的に許容されるその塩による個体の治療をモニターするための、請求項1または2に記載の方法またはシステムにおけるバイオマーカーの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−520446(P2012−520446A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553450(P2011−553450)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053063
【国際公開番号】WO2010/103058
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】