説明

治療用処置システム

【課題】高周波処置により生体組織の吻合等を行った後に行われる加熱処置を適切に行う。
【解決手段】生体組織Aを把持する一対の保持部材8,9と、該保持部材8,9の少なくとも一方に設けられ、把持した生体組織Aを変性させるための高周波エネルギを供給する高周波エネルギ出力部11と、保持部材8,9の少なくとも一方に設けられ、把持した生体組織Aに熱エネルギを供給する発熱部14と、保持部材8,9間に把持した生体組織Aのインピーダンス情報を取得する第1のセンサ11と、保持部材8,9間に把持した生体組織A内の分子振動情報を光学的に取得する第2のセンサ12,13と、これら第1,第2のセンサ11,12,13により取得された情報に基づいて高周波エネルギ出力部11および発熱部14を制御する制御部とを備える治療用処置システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用処置システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織の接合面どうし、または組織の層間どうしの吻合を行うための治療用処置システムとして、生体組織に高周波エネルギを加える高周波処置と、ヒータ部材により生体組織を加熱し熱エネルギを加える加熱処置、とを併用することで、高周波処置のみを行った場合に比べて、吻合度合い(生体組織の接合面どうし、または組織の層間どうしの吻合の均一性や強度)を向上できる装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この特許文献1の治療用処置システムは、生体組織を一対の保持部材間に把持するとともに、把持された生体組織のインピーダンス情報をセンサによって収集し、収集されたインピーダンス情報に基づいて高周波処置および加熱処置において生体組織に付与するエネルギを制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−247893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、生体組織のインピーダンス情報は生体組織の高周波処置の進行とともに増加する傾向があるが、高周波処置がある程度進行していくとその増加傾向は鈍化してしまう。その結果、高周波処置後に行われる加熱処置における生体組織の状態を精度よくモニタリングすることができない。その結果、適切な加熱処置を行うことができないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、高周波処置により生体組織の吻合等を行った後に行われる加熱処置を適切に行うことができる治療用処置システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体組織を把持する一対の保持部材と、該保持部材の少なくとも一方に設けられ、該保持部材間に把持した生体組織を変性させるための高周波エネルギを供給する高周波エネルギ出力部と、前記保持部材の少なくとも一方に設けられ、該保持部材間に把持した生体組織に熱エネルギを供給する発熱部と、前記保持部材の少なくとも一方に設けられ、該保持部材間に把持した生体組織のインピーダンス情報を取得する第1のセンサと、前記保持部材の少なくとも一方に設けられ、該保持部材間に把持した生体組織内の分子振動情報を光学的に取得する第2のセンサと、これら第1,第2のセンサにより取得された情報に基づいて前記高周波エネルギ出力部および前記発熱部を制御する制御部とを備える治療用処置システムを提供する。
【0007】
本発明によれば、保持部材間に把持した生体組織のインピーダンス情報を第1のセンサによって取得し、生体組織内の分子振動情報を第2のセンサによって取得することにより、制御部は、これらのインピーダンス情報および分子振動情報に基づいて高周波エネルギ出力部および発熱部を制御することができる。すなわち、高周波エネルギ出力部による高周波処置がそれほど進行していない状態においては、インピーダンス情報と生体組織内の含水量とが相関しているので、インピーダンス情報によって精度よく高周波処置を行うことができ、高周波処置がある程度進行してきた後には、光学的に取得した分子振動情報によって処置時の生体組織の情報を適切にモニタリングすることができる。したがって、加熱処置中における熱エネルギの供給を適切に行って、吻合の度合いを適切かつ効率的に向上することができる。
【0008】
上記発明においては、前記制御部が、前記第1のセンサにより取得されたインピーダンス情報に基づいて、前記保持部材間に把持した生体組織に対して高周波エネルギを供給するよう前記高周波エネルギ出力部を制御し、前記インピーダンス情報が所定の閾値を超えたときに、前記保持部材間に把持した生体組織に対して熱エネルギを供給するよう前記発熱部を制御してもよい。
【0009】
このようにすることで、インピーダンス情報に応じて、高周波処置の進行の度合いを判定でき、インピーダンス情報が所定の閾値を超えるほど高周波処置が進行している場合には、熱エネルギの供給に切り替えることで、インピーダンス情報の鈍化による高周波処置の効率低下を補填して、加熱処置によって効果的に吻合の度合いを向上することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記制御部が、前記第2のセンサにより取得された分子振動情報に基づいて、前記保持部材間に把持した生体組織に対して熱エネルギを供給するよう前記発熱部を制御してもよい。
このようにすることで、発熱部による熱エネルギの供給中における生体組織の状態を適切にモニタリングでき、生体組織に対して適切な熱エネルギの供給を行うことができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記第2のセンサによる分子振動情報の光学的な取得は、赤外分光、自発ラマン分光、非線形分光、またはラマン分光と非線形分光との組み合わせによって行われてもよい。
このようにすることで、生体組織の状態のモニタリングをさらに精度よく行うことができ、より適切な熱エネルギの供給を行うことができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記制御部が、前記発熱部による熱エネルギの供給開始時において前記第2のセンサにより取得された分子振動情報を基準とした分子振動情報の変化に基づいて前記発熱部を制御してもよい。
このようにすることで、熱エネルギの供給開始からの分子振動情報の変化をモニタリングすることにより、静置組織内の含水量の低下割合を確認することができ、発熱部からの適切な熱エネルギの供給を行うことができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記制御部が、前記インピーダンス情報と前記保持部材間に把持した生体組織内の含水量とを対応づけて記憶し、前記発熱部による熱エネルギの供給開始時において前記第2のセンサにより取得された分子振動情報を基準とした分子振動情報の変化と、前記発熱部による熱エネルギの供給開始時における前記含水量との積に基づいて前記発熱部を制御してもよい。
【0014】
このようにすることで、インピーダンス情報に対応づけられた含水量の情報から、第1のセンサによるインピーダンス情報の取得により、各時点における含水量の情報を確認することができる。そして、熱エネルギの供給開始時からの変化量を乗算することによって生体組織内の含水量をより正確に確認することができ、発熱部からの適切な熱エネルギの供給を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高周波処置により生体組織の吻合等を行った後に行われる加熱処置を適切に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る治療用処置システムを示す全体構成図である。
【図2】図1の治療用処置システムの外科用処置具の保持部材によって生体組織を把持した状態の横断面図である。
【図3】図1の治療用処置システムの外科用処置具の一方の保持部材を示す部分的な平面図である。
【図4】図1の治療用処置システムによる生体組織の処置方法を説明するフローチャートである。
【図5】図1の治療用処置システムによる生体組織の処置のタイムチャートと生体組織内の含水量の変化示す図である。
【図6】図5の変形例を示す図である。
【図7】図2の変形例を示す横断面図である。
【図8】図2の多の変形例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る治療用処置システム1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る治療用処置システム1は、図1に示されるように、例えば、腹壁を通して処置を行うための、リニアタイプの外科用処置具2と、該外科用処置具2にエネルギを供給するエネルギ源3と、該エネルギ源3からのエネルギの供給を制御する制御部4と、エネルギ源3からのエネルギのオンオフを行うフットスイッチ5とを備えている。
【0018】
外科用処置具2は、直棒状のシャフト6と、該シャフト6の一端に設けられたハンドル7と、シャフト6の他端に設けられた開閉可能な一対の保持部材8,9とを備えている。ハンドル7と保持部材8,9とは図示しないワイヤによって接続され、ハンドル7を操作することにより、保持部材8,9を開閉させることができるようになっている。また、ハンドル7にはシャフト6内に格納されているカッタ(図示略)を移動させるカッタ駆動ノブ(図示略)が設けられている。
【0019】
一方の保持部材8には、図2に示されるように、その幅方向の中央に、長手方向に沿ってカッタを案内するためのカッタ案内溝10が設けられている。カッタ案内溝10の周囲には、高周波電極(高周波エネルギ出力部)11と、赤外光を発する照射部12とが設けられている。
【0020】
他方の保持部材9は、図2および図3に示されるように、一方の保持部材8と同様の構造を有しているが、保持部材8,9を閉じた状態で、照射部12に対向することとなる位置に集光部13が設けられている点、および、高周波電極11の各部にヒータ14が設けられている点で一方の保持部材8と相違している。
【0021】
ヒータ14は、高周波電極11の裏面に間隔をあけて複数設けられている。高周波電極11とヒータ14とは電気的に絶縁されている。
ヒータ14を発熱させると、高周波電極11に熱が伝えられ、高周波電極11に接触した生体組織Aを焼灼することができる。
【0022】
一対の保持部材8,9の生体組織Aを挟んで対向する位置には、上述した一対の高周波電極11が配置されるようになっている。
照射部12は、一方の保持部材8に設けられた高周波電極11を貫通して生体組織Aに接触させられる位置に配置されている。また、集光部13は、他方の保持部材9に設けられた高周波電極11を貫通して生体組織Aに接触させられる位置に配置されている。
【0023】
一対の高周波電極11は、該高周波電極11間に挟まれるようにして保持部材8,9によって把持された生体組織Aに対して高周波エネルギを供給する一方、高周波電極11間に把持された生体組織Aのインピーダンス(インピーダンス情報)Zを測定する第1のセンサ(以下、第1のセンサ11とも言う。)として機能するようになっている。
照射部12および集光部13は、一対の保持部材8,9間に把持された生体組織Aを貫通する光強度を検出する第2のセンサ(以下、第2のセンサ12,13とも言う。)として機能するようになっている。
【0024】
照射部12には光源15が導光部材16を介して接続されている。
また、集光部13には光検出部17が導光部材18を介して接続されている。
高周波電極11およびヒータ14には、エネルギ源3が接続されている。
エネルギ源3は、高周波電極11に対して供給する高周波エネルギを発生する一方、ヒータ14に熱エネルギを発生するための電力を発生するようになっている。
【0025】
制御部4は、高周波電極22によって測定された生体組織SのインピーダンスZに基づいて、生体組織Aに加えるエネルギを高周波エネルギから熱エネルギに切り替えるようになっている。また、制御部4は、高周波電極11間の生体組織Aに対して高周波エネルギを供給する高周波処置中においては、測定されたインピーダンスZに基づいて高周波エネルギを調節し、生体組織Aに対して熱エネルギを供給する加熱処置中においては、集光部13によって集光され光検出器17により検出された光強度に基づいて、ヒータ14から発生する熱エネルギを調節するようになっている。
【0026】
ここで、照射部12から発生する光の強度Iと、集光部13により集光された光の強度Iとの比I/Iは、ランバートベール則から、数1の通りである。
【0027】
【数1】

ここで、G:組織散乱によるロス、L:生体組織Aの厚さ、εab:吸収係数、cab:分子濃度である。
【0028】
水分子の吸収を利用する場合には、照射部12から発する光の波長は1.45μm帯であることが好ましい。また、タンパク質の吸収を利用する場合には、照射部12から発する光の波長帯域は6μm帯(波数にして1600〜1700cm−1)であることが好ましい。光源15としてはレーザ光源であってもよいし、白色光源から所望の波長の光をフィルタ(図示略)によって切り出すことにしてもよい。
【0029】
また、高周波処置後、生体組織Aの変性と脱水とがある程度進行しており、加熱処置により生体組織Aの脱水が主に進行し、加熱処置時に集光部13を通して検出される信号の変化は、生体組織Aの脱水による変化であることとすると、数1における変数G,Lは定数とみなすことができる。これにより、集光部13を通して検出される光の強度Iを逐次計測することにより、生体組織Aの脱水をモニタリングすることができる。
【0030】
そして、ある時点における光の強度Iを基準とすることにより、その時点からの変化量としての生体組織Aの脱水をモニタリングすることができる。数2を利用することにより濃度換算することも可能であり、濃度変化Δcabとして測定することができる。
【0031】
【数2】

【0032】
このように構成された本実施形態に係る治療用処置システム1の作用について以下に説明する。
保持部材8,9間に挟んだ生体組織Aに高周波電極11から加える高周波エネルギの設定電力、ヒータ14から加える熱エネルギの設定温度および生体組織AのインピーダンスZの閾値を予め設定しておく。
【0033】
そして、例えば、腹壁を貫通して腹腔内に挿入した一対の保持部材8,9を、処置対象の生体組織Aに対峙させる。ハンドル7を操作して、生体組織Aを一方の保持部材8の高周波電極11と、他方の保持部材9の高周波電極11との間に挟んで保持する。
この状態で、図4に示されるように、術者はフットスイッチ5を踏むことにより(ステップS1)、エネルギ源3から高周波エネルギを高周波電極11間に供給する(ステップS2)。これにより、保持部材8,9間に把持した生体組織A内に電流が流れ、生体組織Aが発熱させられて生体組織Aの高周波処置が行われる。
【0034】
このとき、生体組織AのインピーダンスZは、一対の高周波電極11を第1のセンサとして測定されている。図5に示されるように、測定されたインピーダンスZが所定の閾値以上であるか否かが判定され(ステップS3)、閾値より小さい場合には、高周波処置が継続される。測定されたインピーダンスZが所定の閾値以上となった場合には、制御部4は、高周波エネルギによる高周波処置を停止し(ステップS4)、ヒータ14による加熱処置に切り替える(ステップS5)。
【0035】
ヒータ14に電力が供給されると、一対の高周波電極11が加熱させられて、その熱によって高周波電極11に密着している生体組織Aが表面から内部側に向かって凝固させられる。
また、ヒータ14による加熱処置が開始されると、制御部4は、光源15に対して光を発するように指令し、照射部12から生体組織Aに光を入射させる。これにより、生体組織Aを貫通して集光部13により集光された光が、光検出器17によって検出されて制御部4に送られる。
【0036】
図5に示されるように、この最初に検出された光の強度がI(t)となる。そして、この光強度I(t)と、逐次検出される光強度I(t)とを用いて、数2により、含水量の変化Δcabが算出される。
制御部4は、算出された含水量の変化Δcabの値を監視し(ステップS6)、所定の閾値ΔHOに達した場合に、ヒータ14に供給する電力を停止し、加熱処置を終了する(ステップS7)。
【0037】
このように、本実施形態に係る治療用処置システム1によれば、生体組織Aを把持した直後の生体組織Aに対する高周波処置の進行していない状態で、生体組織AのインピーダンスZに基づいて高周波処置を行うので、インピーダンスZによって、加熱処置に切り替えるタイミングを精度よく検出することができる。なお、上記説明によれば、第1および第2のセンサは一対の保持部材8,9の少なくとも一方に設けていればよく、制御部4は、第1のセンサおよび/または第2のセンサからの送出される検出信号に基づいて高周波処置および/または加熱処置の起動を制御する制御信号を送出し得る任意の手段であってよく、制御部としてのコンピュータにインストールすることで上述した制御を実行可能に機能するようなソクトウェアを含んでいる記憶媒体であってもよい。
【0038】
そして、高周波処置のある程度進行した状態から行われる加熱処置においては、インピーダンスZと含水量との相関が崩れるが、生体組織A内の水の分子振動情報を光学的に検出する第2のセンサ12,13によって、含水量の変化Δcabを精度よく取得することができる。これにより、加熱処置における生体組織Aの凝固の状態を精度よく把握して、加熱処置を適切に停止することができるという利点がある。
【0039】
なお、本実施形態においては、加熱処置において、含水量の変化Δcabの値に基づいて加熱処置の終了時を判断することとしたが、これに代えて、含水量自体に基づいて判断することにしてもよい。
【0040】
この場合には、例えば、図6に示されるように、高周波処置におけるインピーダンスZと含水量との相関関数f(Z(t))を予め求めておき、高周波処置の終了時においてインピーダンスZ(t)から含水量F(Z(t))を算出し、さらに、加熱処置における含水量の変化Δcabの値を乗算することにより、加熱処置中における含水量を算出することができる。
このようにすることで、生体組織Aの凝固の状態を精度よく表す含水量によって、より直接的に加熱処置中における生体組織Aの状態をモニタリングすることができるという利点がある。
【0041】
また、本実施形態においては、生体組織A内の分子振動情報を光学的に検出する第2のセンサ12,13として、生体組織Aを挟んで対向配置される照射部12と集光部13とを備える透過型のものを例示したが、これに代えて、図7に示されるように、照射部12と集光部13とを所定の間隔をあけて同一の保持部材8に配置し、生体組織A内において散乱して戻る光を検出する反射型のものを採用してもよい。
この場合には、数1に代えて、数3の関係式を用いることができる。
【0042】
【数3】

ここで、lsd:照射部12と集光部13との距離、k:光路長係数である。
【0043】
この場合に、照射部12と集光部13との距離を任意に調節できることにしてもよい。このようにすることで、生体組織A内を光が通過する光路を変更でき、保持部材8,9に把持された状態の生体組織Aの厚さ方向の所望の位置における生体組織Aの状態をモニタリングすることができる。
【0044】
また、図8に示されるように、第2のセンサ12,13としては、透過型と反射型の両方を備えることにしてもよい。このようにすることで、生体組織Aの厚さが厚い場合や、生体組織Aの吸収係数が高い場合等、透過型では光の検出が困難な場合に反射型を用いることができる。
【0045】
また、照射部12と集光部13とを備える第2のセンサを複数対、保持部材8,9に配置してもよい。このようにすることで、把持する生体組織Aの状態を複数箇所において検出し、その平均によって、より精度よくモニタリングすることができる。
【0046】
また、照射部12と集光部13とをカッタ案内溝10に一致する位置に配置してもよい。カッタを通過させるために高周波電極11を貫通しているカッタ案内溝10に照射部12および集光部13を一致させることで、これら照射部12および集光部13のために高周波電極11を切り欠かずに済み、高周波処置において生体組織Aをムラなく焼灼することができる。
【0047】
また、本実施形態においては生体組織Aを構成する分子成分に起因する物理量として分子振動情報を検出するために、水の分子振動に起因した赤外光の吸収による光強度の増減検出を使用したが、これに代えて、以下の光を検出することにしてもよい。
まず、自発ラマン散乱光(非共鳴ラマン散乱または共鳴ラマン散乱)を検出することにしてもよい。
この場合には、光源として単色のレーザ光を生体組織Aに照射し、自発ラマン散乱光を分光選択的に検出することになる。生体組織Aを構成する分子の振動情報が反映したラマン散乱スペクトルを得ることができる。
【0048】
水の分子振動による吸収に起因した光強度の増減を検出する場合と比較して、自発ラマン散乱光のスペクトルは分子振動情報を多く含んでいる。生体組織Aの状態として、例えば、生体組織Aのタンパク質や脂質等の組成の変化を指標としてモニタリングする場合には有効である。
【0049】
この場合に、検出されたラマン散乱スペクトルにおいて、特定の振動ピークに着目し、そのピークの増減を指標としてもよいし、スペクトルを多変量解析(ケモメトリックス)にかけて統計的な処理を行い、生体組織Aの状態のモニタリングを行ってもよい。分子レベル情報の解析の手法としては、多変量解析(ケモメトリックス)の任意の手法を適用することができる。行うべき解析に応じて、適用する多変量解析の手法を選択する。例えば、得られた振動スペクトルに対して主成分分析(Principle Component Analysis, 以下,PCAという。)を適用し、主成分のスコアプロット(PCAスコアプロット)の分布から試料の状態を分類することが可能である。
【0050】
また、予め試料に含まれる分子の検量線を作成しておくことで、試料に含まれる成分の濃度を推定することとしてもよい。多変量解析では検量線は検量行列を算出することで作成さる。検量行列を算出するアルゴリズムとして、PCAの結果を使用しないCLS(Classical Least Square Fitting)、ILS(Inverse Least Squares Fitting)法と、PCA結果(PCAスコア値)に準拠するPCR(Principle Component Regression)、PLS(Partial Least Squares Fitting)法を適用しても良い。この場合には、透過、反射のいずれの検出形態でもよい。
【0051】
また、非線形ラマン散乱光を検出することにしてもよい。
非線形ラマン散乱光の特徴として、自発ラマン散乱光と比較して散乱効率が高いことを挙げることができる。このため、生体組織Aを構成する分子情報をスペクトルとして迅速に取得することができる。非線形ラマン散乱光を得る手法としては、例えば、SRS(Stimulated Raman Scattering:誘導ラマン散乱法)、CARS(Coherent Anti-Stokes Raman Scattering:コヒーレントアンチストークスラマン散乱法)、CSRS(Coherent Stokes Raman Scattering:コヒーレントストークスラマン散乱法)、ISRS(Impulsive Stimulated Raman Scattering:インパルシブ誘導ラマン散乱法)、RIKES(Raman Induced Kerr Effect Spectroscopy:ラマン誘起カー効果分光法)、MISRS(Multipulse Impulsive Stimulated Raman Scattering:マルチパルスインパルシブ誘導ラマン散乱法)あるいはこれらの検出法を包含する形態としての四光波混合過程にもとづく振動分光法があげられる。
【0052】
また、非線形ラマン散乱光の検出法として、例えば、偏光CARS検出を用いることができる。この場合には、照射部12と集光部13にはそれぞれ偏光子と検光子を配置する必要がある。自発ラマン散乱光では得ることができないタンパク質の高次構造を反映したスペクトルを得ることができ、得られる分子情報を多様化させることができる。つまり、生体組織Aの状態をモニタリングするために得られる情報を多様化させることが可能となり、より高精度に生体組織Aの状態をモニタリングすることができる。この場合には、透過、反射のいずれの検出形態でもよい。
【0053】
また、生体試料Aからの光として、自発ラマン散乱光と非線形ラマン散乱光とを組み合わせて検出してもよい。
情報をさらに高度化させることができ、スペクトルデータに基づく分析性能および精度を向上することができる。つまり、生体組織のモニタリング性能および精度を向上することができる。この場合にも、透過、反射のいずれの検出形態でもよい。
【符号の説明】
【0054】
A 生体組織
1 治療用処置システム
4 制御部
8,9 保持部材
11 高周波電極(高周波エネルギ出力部、第1のセンサ)
12 照射部(第2のセンサ)
13 集光部(第2のセンサ)
14 ヒータ(発熱部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を把持する一対の保持部材と、
該保持部材の少なくとも一方に設けられ、該保持部材間に把持した生体組織を変性させるための高周波エネルギを供給する高周波エネルギ出力部と、
前記保持部材の少なくとも一方に設けられ、該保持部材間に把持した生体組織に熱エネルギを供給する発熱部と、
前記保持部材の少なくとも一方に設けられ、該保持部材間に把持した生体組織のインピーダンス情報を取得する第1のセンサと、
前記保持部材の少なくとも一方に設けられ、該保持部材間に把持した生体組織内の分子振動情報を光学的に取得する第2のセンサと、
これら第1,第2のセンサにより取得された情報に基づいて前記高周波エネルギ出力部および前記発熱部を制御する制御部とを備える治療用処置システム。
【請求項2】
前記制御部が、前記第1のセンサにより取得されたインピーダンス情報に基づいて、前記保持部材間に把持した生体組織に対して高周波エネルギを供給するよう前記高周波エネルギ出力部を制御し、前記インピーダンス情報が所定の閾値を超えたときに、前記保持部材間に把持した生体組織に対して熱エネルギを供給するよう前記発熱部を制御する請求項1に記載の治療用処置システム。
【請求項3】
前記制御部が、前記第2のセンサにより取得された分子振動情報に基づいて、前記保持部材間に把持した生体組織に対して熱エネルギを供給するよう前記発熱部を制御する請求項2に記載の治療用処置システム。
【請求項4】
前記第2のセンサによる分子振動情報の光学的な取得は、赤外分光、自発ラマン分光、非線形分光またはラマン分光と非線形分光との組み合わせによって行われる請求項1から請求項3のいずれかに記載の治療用処置システム。
【請求項5】
前記制御部が、前記発熱部による熱エネルギの供給開始時において前記第2のセンサにより取得された分子振動情報を基準とした分子振動情報の変化に基づいて前記発熱部を制御する請求項3または請求項4に記載の治療用処置システム。
【請求項6】
前記制御部が、前記インピーダンス情報と前記保持部材間に把持した生体組織内の含水量とを対応づけて記憶し、前記発熱部による熱エネルギの供給開始時において前記第2のセンサにより取得された分子振動情報を基準とした分子振動情報の変化と、前記発熱部による熱エネルギの供給開始時における前記含水量との積に基づいて前記発熱部を制御する請求項3または請求項4に記載の治療用処置システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−194059(P2011−194059A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64695(P2010−64695)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】