説明

治療薬を投与する装置および方法

本発明は、臓器、好ましくは中空臓器の異常状態の予防、治療または緩和のための装置および方法を開示する。特に、本発明は、人間または動物の身体に挿入および/またはそこで使用することから発生する院内感染のリスクを減らすための装置および方法に関する。特に、本発明は、少なくとも1つの低分子薬剤を放出させ、浸透させることで、外側にもその抗菌効果を加える装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、疾病(限定するつもりはないが、伝染性疾病、炎症性疾患、癌腫など)の治療または予防のために、または、侵襲性医療装置を体内に挿入した人間や動物の院内感染、特にカテーテル関連の尿路感染症の発生を防いだり、その発生率を減らしたりするために治療薬を投与する装置および方法に関する。より詳しくは、本発明は、低分子治療薬、たとえば、隣接組織および/または体腔に浸透する抗癌剤や、抗炎症性化合物、抗ウィルス性化合物または抗菌性化合物を放出する手段を有する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医学の分野では、生体の任意の構造、部分またはシステムに関係する異常機能または異常状態の予防、治療または緩和の際に、局所治療と全身治療を区別したり、侵襲性処置と非侵襲性処置を区別したりすることがある。薬剤の全身投与は、必然的に、治療を受けているところ以外の臓器または機能にも或る種の影響または副作用を与える。同様に、外科的処置は、常に、周囲の健康な組織に或る程度の外傷を生じさせる。外科手術が大規模になれば、生体全体にかなりの負担を与える。
【0003】
院内感染とは、病院で行われる治療や処置のときに受ける感染のことである。院内感染は、入院期間が長引く原因として、時には患者の永続的な衰弱の原因としても大きな世界的関心事である。患者についての影響力に加えて、院内感染は他の患者にも及ぶ可能性があり、健康管理の強化および病院費用の増大の原因となる可能性がある。
【0004】
院内感染の大きな原因は、医療設備の不十分な滅菌ならびに病院その他の治療センターおよび療養所の職員の予防衛生意識の不足である。院内感染の発生は、電子温度計および血圧測定用カフのような種々の非滅菌設備に結びついていた。スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)が、最も普通の院内感染原因であり、ほとんどの抗生物質による治療に抵抗力のあるメチシリン耐性菌の蔓延のために関心が高まっている。院内感染を引き起こす他の病原微生物の例としては、これらに限らないが、大腸菌(Escherichia coli)、セラチア・マルセスセンス(Serratia marcescens)、クレブシエラ(Klebsiella)種、エンテロバクター(Enterobacter)種およびカンジダ(Candida)種がある。
【0005】
静脈カテーテル、尿カテーテルおよびベンチレータ関連チューブが、院内感染の共通の部位、原因である。実際、カテーテル関連の尿路感染症(CAUTI)は、最も普通の院内感染であり、院内肺炎と共に、院内感染の2つの主たる原因となっており、それに対して所定の抗生物質がかなりの比率で使用される。
【0006】
尿カテーテル処置は、病院および慢性治療セッティングにおける日常的な処置であり、有意な感染リスクと関連している。細菌尿症が毎日約5〜10%の発生率で発生していると予想されている。尿路内のカテーテルの存在も感染を治療するのをさらに難しくしている。尿カテーテルが同じ場所に長期間にわたって放置された場合、必然的に、バクテリアが尿カテーテル内で増殖することになる。細菌数が多くなったり、特定の病理学的バクテリアが尿路内で増殖したりする場合には、有害な感染が発生する可能性がある。CAUTIの併発症としては、菌血症、腎盂腎炎、尿石、腎不全があり、その結果、罹患率、死亡率のリスクが増大する。
【0007】
固有のCAUTIを引き起こす、スタフィロコッカス・アウレウスを除くほとんどの微生物は、患者自身の結腸や会陰にある生理的寄生菌から由来し、カテーテル挿入中や収集システムの取扱中に健康管理職員の手から由来する。管腔外汚染が、カテーテル挿入時の早期に生じるか、カテーテル外面に接近した薄い粘膜における毛管作用による会陰から昇ってくる微生物によって後に生じるかする可能性がある。密閉ドレナージの破損または収集袋内尿の汚染によりカテーテル管腔に侵入する微生物の逆流で管腔内汚染が発生する。
【0008】
ほとんどの尿カテーテルは、カテーテル先端部付近に位置する膨張性カフを備えている。カフとは、挿入後にカテーテルを膀胱内の適所に維持するものである。ふくらませたとき、カフは膀胱内のカテーテルの最大表面積に相当する。カテーテルの流出オリフィスがカフに対して遠位端に設けてあり、このことは、カフ自体が常に残尿内に囲まれることになることを意味している。尿が尿病原微生物にとって優れた増殖培地であることはよく知られている。したがって、カフは、特に細菌の着生および増殖の影響を受けやすい部位となる。
【0009】
院内感染を治療し、防止するために全身性抗菌薬をかなり使うことがある。抗菌薬は、おそらく、院内感染率をかなり低い率に保つであろうが、残念なことには、最も厳しい院内感染を多く引き起こす耐性菌に対して選ばれている。したがって、経済的な観点と患者の観点の両方から、院内感染の発生、拡散を防ぐ新しい方法を求める大きな要望がある。 限定するつもりはないが、細菌感染症、ウィルス感染症、炎症性状態、癌腫など、とりわけ癌腫のような他の疾病の治療、予防または緩和に関しては、常により良好な有効性を示し、治療の侵襲性から生じる外傷、ストレスを含む副作用を減らす代替方法、代替装置についての要望がある。
【0010】
薬剤の全身投与は、しばしば、治療を目的としない臓器および組織に副作用を引き起こす。したがって、より良好に制御した放出および治療に通じる治療薬の局所的投与が望ましい。
米国特許第5,007,897号は、特に前立腺の治療のために中空身体臓器に薬液を長期間投薬するシステムに関する。この特許は、留置バルーンに対して遠位端に薬剤投薬用の透過膜袋を含む尿カテーテルを記載している。この透過膜袋は、溶液から薬剤をゆっくり放出することのできる材料、たとえば、セルロース材料、アクリル材料、ポリウレタン、ポリビニルピロリドンおよびポリカーボネートからなる。
【0011】
ほとんどの尿カテーテルは、使用中に感染したとき、ホスト・タンパク質と微生物外細胞外被とからなる細胞間質内に埋め込まれた感染微生物を含む厚いバイオフィルムによって覆われる。バイオフィルムは管腔内、管腔外両方に現れる可能性がある。抗感染症剤含浸カテーテルや銀・ヒドロゲル・カテーテルは、カテーテル表面への微生物の着生を阻止するので、かなりCAUTIのリスクを減らす。しかしながら、これらのコーティングされたカテーテルは、主として、カテーテル表面に着生するグラム陽性微生物または酵母によって引き起こされる感染症にしか影響を及ぼさない。銀合金および銀酸化物でコーティングしたカテーテルも感染症の定着を阻止するために広く使用されている。
【0012】
CAUTIを阻止する他の試みとしては、カテーテル挿入時に抗感染性潤滑剤を使用したり、挿入前に抗感染性溶液にカテーテルを浸漬したり、抗感染性溶液でカテーテルを挿入した膀胱を絶えず洗浄したりすることがある。カテーテルと収集チューブとの間の連結部を密封する努力も行われてきた。これらの方法は、いずれも、満足のいくような結果を与えず、現存方法の代わりとするかまたはそれを補う院内感染を阻止する新しいより良好な方法の方が役立つであろう。
【0013】
酸化窒素(NO)に微生物に抗する防御の役割があることが知られている。たとえば、米国特許出願第2002/0155174号が、局所適用による皮膚ウィルス病の治療のための抗菌剤としての酸性化亜硝酸塩の使用を記載している。酸性化亜硝酸塩は、亜硝酸を形成し、これが解離して窒素の酸化物を形成する。
NabloおよびSchoenfisch(J Biomed Mater Res, 67A: 1276-1283, 2003)も窒素酸化物の抗菌性を利用している。NabloおよびSchoenfischは、たとえば、バイオフィルム形成を阻止するために移植医療装置上で使用できる、細菌着生を30〜95%減少させるNO放出ゾル・ゲル・コーティングを記載している。
【0014】
CAUTIを阻止するための上述した方法は、いずれも、カフには関係せず、カフの表面でのバイオフィルム形成および細菌増殖を防止することには関係していない。たとえば、銀コーティング・カテーテルにおいては、膨張性カフをコーティングするのが難しいし、特に感染を受けやすい部位が残る可能性がある。
【0015】
米国特許第5,417,657号は、膀胱内、膀胱まわりの細菌を殺し、その増殖を防ぐために微孔性制菌作用バルーンを含む排尿カテーテルを記載している。薬剤が制菌作用バルーンから膀胱内へ、膀胱まわりに浸透圧拡散により放出される。前記尿カテーテル用に意図された薬剤としては、たとえば、ネオスポリン(neosporin)、レセフィン(recephin)、殺菌素(bactericidin)のような抗生物質または抗体がある。抗生物質の放出が浸透圧現象によって行われるという事実は、抗菌性効果を制御するのを難しくしている。尿の含水量は身体の現在の体液平衡に応じてかなり変化するので、抗生物質の配分を難しくし、制御不能にする可能性がある。さらに、膀胱の外側に抗生物質を放出するということはゆっくりしたプロセスであって、長期間にわたってバクテリアを抗生物質にさらすことになる。これは抗生物質耐性バクテリアの発生リスクを増大させる。産業界においては、抗生物質に対する耐性を持つ細菌の数が増大しているので、抗生物質の長期間放出は避けなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の基礎をなすための1つの目的は、種々の状態の局所的治療のための方法および装置であるが、在来の治療と比較して外傷および負担を減らした方法及び装置を利用可能にすることにある。
別の目的は、CAUTIのような院内感染性症を阻止することのできる方法および装置を利用可能にすることにある。
本発明においては、低分子薬剤を放出するための手段を有する装置を用いて、人間または動物の身体の中空臓器内またはそのまわりの異常状態を治療したり、その確立を防いだりするのに有効な手段を達成する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、人間または動物の身体および/または体腔に挿入するための装置であって、膨張可能な/拡大可能な手段を有する装置に関する。膨張可能/拡大可能な手段は、隣接組織および/または体腔に浸透する少なくとも1つの低分子薬剤を放出できる少なくとも1つの成分を含む。特に、本発明は、少なくとも1つの低分子抗菌性化合物(LMAC)を放出することのできる少なくとも1つの成分を含む膨張可能/拡大可能な手段を有する装置に関する。
【0018】
本発明は、また、伝染性疾病、炎症性疾病、癌腫などのような種々の疾病を予防、治療、軽減するための方法にも関する。本発明は、特に、人間または動物での医療装置の挿入および/または使用から発生するCAUTIのような院内感染症の予防、治療の方法に関する。この方法は、LMACを放出することのできる少なくとも1つの成分が装置の膨張可能/拡大可能な手段内に存在するか、または、装置内に設けられることを特徴とする。LMACは、隣接組織および/または体腔に浸透できる。
【0019】
本発明のさらに別の特徴および実施形態ならびにそれに関連した利点は、本明細書、非限定的な実施例および添付特許請求の範囲(参照によりここに組み入れる)を検討することで当業者には明らかとなろう。
以下、本発明を以下の説明、実施例および添付図面において、より詳しく説明する。
【0020】
図1は、中空の細長い本体1と、適切な取り付け部品を有する入口/出口2と、適切な取り付け部品を備える入口/出口3とを有する二重管腔尿カテーテルを概略的に示している。カテーテルの先端は開口部4を有し、この開口部は、第1の管腔を通して入口/出口2と流体接続している。先端の直ぐ下方にカフ5が設けてある。カフは、開口部6を通してふくらまされ、第2の管腔を通して入口/出口3と流体接続している。
【0021】
図2は、身体または体腔内へ導入される任意装置7の端部であって、流体または薬剤を投与するための、または、体液を抜くための随意の第1管腔8と、弾力膜10によって区切られた、カフをふくらませたり、しぼませたりすることのできる第2管腔9とを有する端部を概略的に示している。ふくらんだカフの体積は11で示してある。代案として、管腔8を中実であるが可撓性とし、装置のための案内手段として機能する。装置の主要な機能はカフ11にある。
【0022】
図3は、カテーテル12を膀胱13に挿入したところでの蓄尿システムを概略的に示している。残尿量が14で示してある。カテーテルは、或る量の尿を収容している集尿袋17に接続手段15を経て接続してある。大文字A、B、C、Dは、汚染および/または細菌増殖についての重要なポイントを示している。
【0023】
図4は、大腸菌感染尿のサンプルを50mlフラスコ19に入れた、実施例に記載する実験構成を示している。全シリコーン製のカテーテル18をフラスコに挿入し、カフを本発明の一実施形態に従って溶液でふくらませ、フラスコをひっくり返した。カフはフラスコのネック部を効果的に密封し、或る量の尿20をフラスコに閉じ込めた。光学濃度測定法によって細菌増殖をモニタした。
【0024】
図5は、LMACがカテーテルの内側管腔内にも侵入し、したがって、その抗菌効果を膀胱から集めた尿に発揮するようにカテーテル先端部を改造した2つの実施形態を概略的に示している。Aにおいて、管腔壁は、カテーテル壁の断面図におけるくぼみとして示してある、厚さの薄くなった局所領域を有する。Bにおいて、カテーテル壁は、カフで覆われた部分またはこの部分の一部で薄くなっている。
【0025】
図6は、女性解剖学的構造に従って描いた尿路内の適所にある本発明による装置を概略的に示している。図示の特徴、すなわち、外尿道口付近のカテーテルの領域でカテーテルのシャフトのコーティング28は、必要な変更を加えて、男性解剖学的構造にも同様に適用できる。
【0026】
図7は、男性解剖学的構造に従って描いた尿路内の適所に置いた本発明による装置を概略的に示している。第1の膨張性カフ26が、装置の先端近くに設けてあり、第2の膨張可能な部分30が前立腺尿道内部に位置することになるように装置を位置決めするのを助ける。
【0027】
図8は、留置バルーンからのNO放出の動態を示している。
【0028】
上述したように、全身投与が必然的に副作用のリスクを高め、外科手術が周囲の健康な組織に或る程度の外傷を与えることから、人間または動物の身体における異常状態の局所的非侵襲性予防または治療が望ましい。
【0029】
医療装置が患者と接触するときはいつでも、常に感染症のリスクがある。侵襲性医療装置の場合には、感染症リスクは劇的に高まる。本発明の一態様によれば、院内感染のリスクを減らし、院内感染を治療する装置および方法が開示される。院内感染は、侵襲性医療装置の内外両方で生じる可能性がある。したがって、装置の内外両方で微生物を同時に低減、除去すると有利であろう。
【0030】
本発明者等は、低分子薬剤の局所的投与が人間または動物の身体における異常状態の治療または緩和に使用できるという驚くべきことを発見した。したがって、本発明は、中空臓器に低分子薬剤を局所投与する装置および方法に関する。特に、低分子薬剤、たとえば、限定するつもりはないが、低分子抗菌化合物(LMAC)は、限定するつもりはないが、細菌性感染症、ウィルス性感染症、炎症性状態および癌腫の治療または緩和のための装置で使用することができる。より詳しくは、本発明は、人間または動物の身体および/または体腔に挿入するための装置であって、膨張可能/拡大可能な手段を有し、この膨張可能/拡大可能な手段が、装置内で隣接組織および/または体腔に浸透する少なくとも1つのLMACを放出できる少なくとも1つの成分を含むか、または、受け入れるのに適している装置に関する。
【0031】
本発明によれば、低分子薬剤は、本発明の装置の膨張可能/拡大可能な手段に浸透するに充分に低い分子量を有する化合物または分子である。低分子薬剤は、250U以下、好ましくは200U以下、好ましくは150U以下、好ましくは100U以下、最も好ましくは50U以下の分子量を有する。一実施形態において、低分子薬剤は低分子抗菌化合物(LMAC)である。
【0032】
本発明による装置
本発明の装置は、侵襲性医療装置である。侵襲性医療装置とは、少なくとも一部を人間または動物の身体の任意部位に経皮的または自然開口部などを通して挿入できる装置を謂う。医療装置の例としては、尿カテーテル、気管内チューブ、脈管カテーテル、脈管カテーテル・ポート、外傷ドレン・チューブ、胃チューブなどがある。特に、本発明は、尿路へ挿入するための装置、一般的には、カテーテル、人間もしくは動物の身体の気道へ挿入するための気管内チューブまたは人間もしくは動物の身体の消化管に挿入するための胃チューブに関する。
【0033】
本発明による装置は膨張可能/拡大可能な手段を含む。この装置の膨張可能/拡大可能な手段は、人間もしくは動物の身体または体腔に挿入される医療装置を固定する任意の手段または装置と周囲組織などとの緊密嵌合を確実にする手段であり得る。本発明においては、膨張可能/拡大可能な手段は、気体のような低分子化合物には透過性を示すが、水には不透過性を示すに充分な医療グレードの弾性材料であって、拡大したり、膨張したりすることのできる弾性材料からなる。膨張可能/拡大可能な手段は、尿カテーテルの先端近くのカフと同様に身体内に装置を固定したり、装置と周囲組織との緊密嵌合を確保したり、利用できるスペースを満たしたりするのに使用できる。特に、膨張可能/拡大可能な手段は、限定するつもりはないが、ポリジメチルシロキサンからなるシリコーンゴム、ラテックス・フリー・ラバー、シリコン・コーティング・ラバーのようなポリシロキサン類からなる弾性材料またはGoretex(登録商標)のような半透性膜もしくは選択透過性膜からなるカフである。さらに重要なことには、前記膜は、低分子薬剤、たとえば、限定するつもりはないがLMACの透過を許す。
【0034】
装置の膨張可能/拡大可能な手段において放出される低分子薬剤またはLMACは、隣接組織および/または体腔に前記手段を浸透させ、装置の内外両方でその抗菌効果を発揮することのできる化合物である。低分子薬剤の例としては、限定するつもりはないが、低分子鎮痛薬、抗炎症剤ならびに5−フルオロウラシルおよびシス・プラチナのような細胞障害性剤である。したがって、LMACは、装置に浸透するに充分に低い分子量を持つ、抗菌性の気体のような任意の抗菌化合物であり得る。特にLMACは、活性窒素中間体(RNI)、活性酸素中間体(ROI)またはこれらの2つの組み合わせである。LMACの例としては、限定するつもりはないが、酸化窒素(NO)、NO2-、N23、N24、HNO2、HNO3、NO+、NO-、O2-、O3、一重項酸素、H22、OONO-、HOONO、NOCl、NOSCN、NOチオシアン酸塩、OHラジカルおよびHOClがある。限定するつもりはないが、NO、OONO-、NO2のようなたいていのLMACも細胞障害性効果を発揮することができる。
【0035】
LMACは、その抗菌効果を多数の細胞標的に非特異的に発揮し、これが、おそらく微生物のLMACに対する耐性を生じさせる潜在力を低下させる。比較的大きい投与量で短い半減期を持つLMACを使用することが、耐性バクテリアの発生量をさらに低下させることになる。さらに、いくつかのRNIおよびROIが内因的に発生するので、このような化合物の使用が患者になんらかの大きな健康リスクを与えることはなさそうである。本発明の別の利点は、抗菌性化合物の局所的産生であり、これが、たとえば腸の通常の微生物フローラに影響を及ぼすことにはならないということである。膨張可能/拡大可能な手段における抗生物質の使用は、抗生物質が前記膨張可能/拡大可能な手段に浸透することができないので、LMACと同じ抗菌効果を発揮することはできない。さらにまた、前記膨張可能/拡大可能な手段に浸透するLMACは、効果的なバイオフィルム防止に通じる抗菌化合物の高い局所濃度に通じることになる。
【0036】
本発明のLMACは、膨張可能/拡大可能な手段に含まれるかまたはそれから放出される少なくとも1つの成分からなる。LMACを放出する前記の少なくとも1つの成分は、装置に浸透させるに充分に低い分子量を有する抗菌化合物を放出することができる任意の化合物である。RNI/ROIを放出する成分の例としては、制限するつもりはないが、S−ニトロソチオール(低分子量または高分子量のチオール)、ジアゾニウムジオレエート(NONOates)、ニトロプルシド、有機硝酸塩/亜硝酸塩、無機亜硝酸イオン(NO2-)、N−ニトロソ化合物、C−ニトロソ化合物、オキシム、シドノンイミン(sydnonimines)、オキサジアゾール(フロキサン(furoxans))、オキサ・トリアゾール、ニトロキシル産生化合物(たとえば、ピロチー酸(Piloty's acid)、ヒドロキシルアミン、N−ハイドロキシ−グアニジン、塩化ニトロシル、アジ化ナトリウム、ニトロシル硫酸水素塩、ニトロシルテトラフルオロホウ酸塩、ジニトロシル−鉄−システイン錯体などがある。
【0037】
LMACの放出に影響を及ぼすいくつかの要因がある。これらの化合物により放出されるRNI/ROIは、異なった半減期を有し、pH依存性でも異なっている。したがって、LMACを放出する少なくとも1つの成分は、感染症と関連した特殊な環境、装置を身体に挿入した患者などに応じて変わる可能性がある。
【0038】
本発明の一実施形態においては、低分子薬剤、特にLMACは、本発明装置を挿入する人間または動物の体温で気体状となる。ここで、気体状という用語は、量とは無関係に物が容器全体を専有するという点で固体状態、液体状態とは区別される物の状態を意味する。
本発明方法の膨張可能/拡大可能な手段で放出されるLMACのような低分子薬剤は、帯電した分子、帯電していない分子の両方であり得る。帯電してない分子は、膨張可能/拡大可能な手段の膜透過性を高める可能性がある。
【0039】
種々のLMACが種々のバクテリアに多様な効果を奏する。したがって、本発明は、伝染性バクテリアに応じて種々のLMACを使用する可能性を与える。たとえば、スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)はNOにのみ感受性を示すが、大腸菌には感受性を示さない。
さらに、放出されたLMACは、尿カテーテルの使用に関連した院内感染を生じさせるバクテリアが、少なくとも部分的に、気管内チューブの使用に関連した感染症を生じさせるバクテリアとは異なっている可能性があるので、装置の局在化に関して変更したり、一部修正したりすることもできる。患者や感染症のタイプに応じて、放出されたLMACの投薬量を本発明によって変更または一部修正したりするこができる。上記で使用したような「変更または一部修正」という用語は、たとえば、或るLMACを別のLMACに変えたり、LMACの異なった組み合わせを使用したり、LMACの濃度を変えたりすることによってLMAC自体を変えることを含む。
【0040】
本発明の一実施形態では、前記少なくとも1つの成分が第2の成分と接触したときにLMACが放出される。第2の成分は、たとえば、溶媒であってもよいし、LMACを放出する成分と接触したときにLMACの放出を開始する酸または塩基のような試薬であってもよい。少なくとも2つの成分を接触させることによってLMACを放出させることで大きな利点がある。LMACが比較的短い半減期を有するので、抗菌効果が成分の保管または配送中に低下することはない。
別の実施形態においては、LMACを放出する成分および第2成分は、カフの内側をコーティングしている乾燥粉末、粒状物、薄膜等として膨張可能/拡大可能な手段内に存在し、これら2つの成分の接触は、前記手段に液体を加えることで行われる。液体は、たとえば、限定するつもりはないが、水、生理食塩水またはリン酸緩衝食塩水(PBS)等のような生理緩衝液であってよい。
【0041】
本発明の一実施形態では、LMACを放出する装置の少なくとも1つの成分は、酸性化でLMACを放出する。酸性化は、装置のpHを約1〜5.5まで、好ましくは2〜4まで減らす酸性化剤(「第2成分」)を加えることで行う。酸性化剤は、上述したpHまで装置のpHを減らす任意の酸であってよい。適切な酸としては、たとえば、限定するつもりはないが、アスコルビン酸、クエン酸、酢酸、酪酸、希塩酸、希硫酸、ギ酸、亜硝酸または硝酸がある。
【0042】
本発明の一実施形態では、前記少なくとも1つの成分は亜硝酸塩であり、前記第2成分は酸性化剤であり、この酸性化剤が亜硝酸塩と接触させられたときに、酸化窒素、三酸化二窒素および亜硝酸のようなRNIを放出する。アスコルビン酸が好ましい酸性化剤である。
【0043】
本発明の一実施形態では、LMACを放出する装置の少なくとも1つの成分はアルカリ化でLMACを放出する。アルカリ化は、約7.5〜10の基礎pHまで装置のpHを高める薬剤(「第2成分」)を加えることで行う。pHを高める薬剤としては、限定するつもりはないが、NaOH、NaCO3、NH3がある。アルカリ化で放出されるLMACは、たとえば、限定するつもりはないが、ニトロサルチオール(nitrosalthiol)(S−NO)である。
【0044】
本発明の一実施形態では、膨張可能/拡大可能な手段は、装置に沿ってどこかに設置した少なくとも1つの膨張性カフであり、LMACを放出する少なくとも1つの成分がこの膨張性カフ内に存在する。別の実施形態においては、第2成分が前記膨張性カフに存在する。さらに別の実施形態においては、LMACを放出する前記少なくとも1つの成分および第2成分の両方が前記膨張性カフ内に存在する。膨張性カフは、その中に前記少なくとも1つの成分または前記第2成分を導入するための配置を有する。膨張性カフの前記配置は、装置の使用中に繰り返し成分を投与することを可能にし、したがって、患者内部にある装置の長期間の使用中により効果的に院内感染を予防または治療することを可能にする
。前記配置は、また、カフ内へ液体を導入してLMACを放出する少なくとも1つの成分と第2成分とを接触させるのにも適している。
【0045】
装置が人間または動物の身体の尿路へ挿入するためのカテーテル(図3)である場合、このカテーテルが挿入されたときにカフは膀胱内に置かれ、膀胱内に存在する残尿によって取り囲まれる。したがって、本発明により放出されるLMACは、残尿によって取り囲まれたカフの外側に生じる感染症に伴う問題を解決する。
【0046】
本発明の一実施形態では、膨張可能/拡大可能な手段によって取り囲まれる装置部分は、厚さの薄くなった局所的領域を持ち、LMACを装置の内側へも浸透させ、装置内側でも抗菌効果を加える(図5A)。別の実施例によれば、カテーテル壁は膨張性カフによって囲まれるかまたはそれに関連している部分、もしくはその一部で薄くなっている(図5B)。本発明による装置は、細菌感染が装置の他の部分に拡散、移動するのを防ぐことによって装置の外側、内側両方で二重の効果を奏する。
【0047】
さらに別の実施形態によれば、装置のシャフトは、部分的または全体的に、治療薬、たとえば、抗菌剤または上述したようにLMACを放出することのできる1つまたはそれ以上の物質でコーティングされる。図6が、使用中に、外尿道口に位置する装置部分をコーティングした(28)実施形態を示している。ここで謂うコーティングとは、1つまたはそれ以上の物質を材料に含ませた、たとえば、シリコーンに埋め込んだ実施形態も含んでいる。女性解剖学的構造に関連して示してあるが、この実施形態は、外尿道口と膀胱の間の距離が長くなるということを考慮すれば、男性解剖学的構造にも等しく適用できる。
【0048】
また、抗菌効果を向上させるに充分な濃度で1つまたはそれ以上の金属イオンを膨張可能/拡大可能な手段の中身に存在させたり、この中身に導入させたり、または、装置の壁、たとえば、カテーテルの壁もしくはその一部に含ませたりすることも企図されている。装置の壁に含ませるということは、化合物を表面にコーティングしたり、材料内に全体的にもしくは部分的に導入したり、または、材料に均一に混合させたりすることを意味する。適切な金属イオンとしては、たとえば、対応する金属の可溶性塩として利用できる亜鉛、銅、マグネシウム、鉄および銀のイオンがある。本発明の一実施形態によれば、アスコルビン酸も使用される。この場合、好ましくは、金属イオンと組み合わせるか、最も好ましくは亜鉛と組み合わせる。これらの成分を装置を構成している材料、たとえばシリコーンに混合させると好ましい。この特別な実施形態の1つの利点は、成分が装置の外側で、たとえば尿道または膀胱において作用を発揮し、また、装置の内側において管腔内で作用を発揮することができるということにある。
【0049】
本発明による装置が現存する装置は、たとえば、限定するつもりはないが、当業者に知られている尿カテーテルの特徴を組み入れることも考えられる。このような組み合わせの1つは、銀コーティング・カテーテルと、本発明のLMAC放出膨張可能/拡大可能な手段との組み合わせである。他の組み合わせも当業者には明らかであろう。
【0050】
本発明の別の実施形態は、人間または動物の身体および/または体腔へ挿入する装置に関する。この場合、装置は、その材料内またはその表面上に組み込んだ少なくとも1つの化合物を有し、この化合物が少なくとも1つの低分子薬剤を放出することできる。前記材料または表面が体液と接触したとき、前記組み込んだ少なくとも1つの化合物が少なくとも1つの低分子化合物、たとえばLMACを放出する。
【0051】
一実施形態においては、少なくとも1つの成分を材料または表面に組み込んだ前記装置は、上述したように、少なくとも1つの低分子薬剤を膨張可能/拡大可能な手段から放出させることもできる。
装置の材料または表面に組み込むことのできる化合物の例としては、限定するつもりはないが、アスコルビン酸、亜硝酸塩、活性窒素中間体、活性酸素中間体または任意のそれらの組み合わせがある。一実施形態においては、組み込んだ化合物は、アスコルビン酸および亜鉛と組み合わせた亜硝酸塩を含む。
一実施形態において、材料または表面に組み込んだ少なくとも1つの化合物を有する前記装置は、尿カテーテル、気管内チューブまたは胃チューブである。
【0052】
また別の実施形態においては、材料または表面に少なくとも1つの化合物を組み込んだ前記装置は、上述したように低分子化合物に対して充分な浸透性の医療グレードの弾性材料からなる膨張可能/拡大可能な手段も有する。
【0053】
院内感染を予防および/または治療する方法
本発明は、また、動物または人間の身体または体腔に挿入した装置から少なくとも1つの低分子薬剤を放出することによって前記身体または体腔における異常状態を予防および/または治療する方法に関する。特に、本発明は、人間または動物の身体および/または体腔内への挿入および/またはそこへ挿入した装置の使用から生じる院内感染を予防および/または治療する方法であって、前記装置が膨張可能/拡大可能な手段を有し、少なくとも1つの低分子薬剤、たとえば、限定するつもりはないが、前記手段内の低分子抗菌化合物(LMAC)を放出できる少なくとも1つの成分を前記手段内へ投与し、前記低分子薬剤が隣接組織および/または体腔に浸透する方法に関する。本発明の一実施形態では、この方法は、尿カテーテルの挿入、使用で生じる院内感染のリスクを減らし、院内感染症を治療するのに使用される。
【0054】
別の実施形態においては、この方法は、人間または動物の身体の気管内への気管内チューブの挿入および使用から生じる院内感染のリスクを減らし、院内感染症を治療するのに使用される。
また別の実施形態では、この方法は、人間または動物の身体の消化管への胃チューブの挿入および使用で発生する院内感染のリスクを減らし、院内感染症を治療するのに使用される。
【0055】
装置の膨張可能/拡大可能な手段は、人間または動物の身体または体腔に挿入された医療装置を固定する手段、または、装置と周囲組織との間の緊密な嵌合を確実にする手段、または、臓器内部の全利用可能体積を確実に満たす手段などである。本発明の方法においては、膨張可能/拡大可能な手段は、気体に対しては充分な透過性を示すが、水に対しては不透過性を示す弾性材料からなり、拡大、膨張して、たとえば、身体内に装置を固定する。特に、膨張可能/拡大可能な手段は、限定するつもりはないが、ポリ・ジメチルシロキサンからなるシリコーンゴム、ラテックス・フリー・ラバー、シリコン・コーティング・ラバーのようなポリシロキサン類からなる弾性材料またはGoretex(登録商標)のような半透性膜もしくは選択透過性膜からなるカフである。装置が尿カテーテルである場合、人間または動物の身体に挿入したとき、カフは膀胱内に存在する残尿によって取り囲まれて膀胱内に位置する。
【0056】
低分子薬剤の例としては、限定するつもりはないが、低分子鎮痛薬、抗炎症剤ならびに5−フルオロウラシルおよびシス・プラチナのような細胞障害性剤がある。抗菌効果を加える低分子化合物は、放出されたときに装置の膨張可能/拡大可能な手段に浸透するに充分に低い分子量を有する任意の抗菌化合物であってよい。特に、LMACは、RNI、ROIまたはこれら2つの組み合わせである。LMACの例としては、限定するつもりはないが、酸化窒素(NO)、NO2、N23、N24、HNO3、HNO2、NO+、NO-、O2-、O3、一重項酸素、H22、OONO-、HOONO、OHラジカルおよびHOClがある。限定するつもりはないが、NO、OONO-、NO2のようなたいていのLMAC
も細胞障害性効果を発揮することができる。
【0057】
本発明方法の膨張可能/拡大可能な手段で放出されるLMACのような低分子薬剤は、帯電した分子、帯電していない分子の両方であり得る。帯電してない分子は、膨張可能/拡大可能な手段の膜透過性を高める可能性がある。
また、抗菌効果を向上させるに充分な濃度で1つまたはそれ以上の金属イオンを膨張可能/拡大可能な手段の中身に存在させたり、この中身に導入させたり、または、装置の壁、たとえば、カテーテルの壁もしくはその一部に含ませたりすることも企図されている。装置の壁への組み込みは、化合物が表面へコーティングされるか、材料の全体にまたは部分的に導入されるか、または、材料に均一に混合させるかすることを意味する。適切な金属イオンとしては、たとえば、対応する金属の可溶性塩として利用できる亜鉛、銅、マグネシウム、鉄および銀のイオンがある。
本発明の一実施形態によれば、アスコルビン酸も使用される。この場合、好ましくは、金属イオンと組み合わせるか、最も好ましくは亜鉛と組み合わせる。これらの成分を装置を構成している材料、たとえばシリコーンに混合させると好ましい。この特別な実施形態の1つの利点は、成分が装置の外側で、たとえば尿道または膀胱において作用を加え、また、装置の内側で、管腔内で作用を加えることができるということにある。
【0058】
本発明の方法のLMACは、装置の膨張可能/拡大可能な手段に含まれる少なくとも1つの成分から放出される。LMACを放出する前記の少なくとも1つの成分は、装置に浸透させるに充分に低い分子量を有する抗菌化合物を放出することができる任意の化合物である。RNI/ROIを放出する成分の例としては、限定するつもりはないが、S−ニトロソチオール(低分子量または高分子量のチオール)、ジアゾニウムジオレエート(NONOates)、ニトロプルシド、有機硝酸塩/亜硝酸塩、無機亜硝酸イオン(NO2-)、N−ニトロソ化合物、C−ニトロソ化合物、オキシム、シドノンイミン(sydnonimines)、オキサジアゾール(フロキサン(furoxans))、オキサ・トリアゾール、ニトロキシル産生化合物(たとえば、ピロチー酸(Piloty's acid)、ヒドロキシルアミン、N−ハイドロキシ−グアニジン、塩化ニトロシル、アジ化ナトリウム、ニトロシル硫酸水素塩、ニトロシルテトラフルオロホウ酸塩、ジニトロシル−鉄−システイン錯体などがある。
【0059】
本発明による方法の一実施形態において、前記少なくとも1つの成分が第2成分と接触したときにLMACが放出される。第2の成分は、たとえば、溶媒であってもよいし、LMACを放出する成分と接触したときにLMACの放出を開始する酸または塩基のような試薬であってもよい。
【0060】
この方法の別の実施形態においては、LMACを放出する成分および第2成分は、乾燥粉末、粒状物、薄膜等の形で装置内に存在する。これら2つの成分の接触は、前記装置に液体を加えることで行われる。液体は、たとえば、限定するつもりはないが、水、生理食塩水またはリン酸緩衝食塩水(PBS)等のような生理緩衝液であってよい。
【0061】
本発明方法のまた別の実施形態においては、前記LMACを放出する少なくとも1つの成分は、酸性化に応じて低分子化合物を放出する。酸性化は、装置内のpHを約pH1〜5.5、好ましくは約2〜4まで減らす酸性化剤を加えることで行う。酸性化剤は、上述したpHまで装置のpHを減らす任意の酸であってよい。適切な酸としては、たとえば、アスコルビン酸、クエン酸、酢酸、酪酸、希塩酸、希硫酸、ギ酸、亜硝酸または硝酸がある。
【0062】
本発明方法の別の実施形態においては、前記少なくとも1つの成分は亜硝酸塩であり、前記第2成分は酸性化剤であり、この酸性化剤が、亜硝酸塩と接触させられたときに、酸化窒素、三酸化二窒素および亜硝酸のようなRNIを放出する。アスコルビン酸が好ましい酸性化剤である。
【0063】
本発明方法の一実施形態においては、LMACを放出する少なくとも1つの成分は、アルカリ化でLMACを放出する。アルカリ化は、約pH7.5〜10の基礎pHまで装置のpHを高める薬剤(「第2成分」)を加えることで行う。pHを高める薬剤としては、限定するつもりはないが、NaOH、NaCO3、NH3がある。アルカリ化で放出されるLMACは、たとえば、限定するつもりはないが、ニトロサルチオール(S−NO)がある。
本発明の一実施形態では、低分子化合物は、装置を挿入した人間または動物の体温で気体状である。
【0064】
本発明の別の実施形態においては、本方法は、装置に沿って設置した膨張性カフ内およびその周りでの院内感染症の治療のために使用される。装置に沿って設置したカフ内へ少なくとも1つの成分および/または第2成分が投与される。膨張性カフは、少なくとも1つのLMACおよび/または前記第2成分を放出する前記成分をカフに投与することを可能にする配置(図1における3および6)を有する。膨張性カフの配置を通して、低分子化合物を放出する前記成分および/または第2成分が、装置使用中に繰り返して装置に添加され、患者内部の装置の長期間の使用中に院内感染症をより効果的に予防または治療できる。前記配置は、また、カフ内へ液体を導入してLMACを放出する少なくとも1つの成分と第2成分とを接触させるのにも適している。酸性化剤は、前記配置を通して投与することもできる。さらに、前記配置を用いることにより、個々の患者毎に放出LMACの投与量を変更、修正するのが容易になる。
【0065】
本発明の一実施形態によれば、カフは、まず、約10mlの水または生理食塩水でふくらませるか、または、LMACを放出する少なくとも1つの成分と第2成分(好ましくは亜硝酸塩およびアスコルビン酸)を含む約10mlの溶液でふくらませる。カフだけがまず水または生理食塩水でふくらまされる場合、LMACを放出する少なくとも1つの成分および第2成分、好ましくは乾燥状態で亜硝酸塩およびアスコルビン酸を収容する注射器を使用して約2mlの量をカフから吸い出す。成分が水または生理食塩水に溶解し、この溶液をカフに導入する。カフ内の成分の濃度を調整し、効果的な抗菌効果を得るために、この作業は、たとえば、尿収集袋を交換するときに適切な間隔でまたは所定間隔で繰り返すとよい。
【0066】
代替案として、まず、LMACを放出する少なくとも1つの成分および第2成分(好ましくは、乾燥状態での亜硝酸塩およびアスコルビン酸)を収容している注射器を使用してカフを満たす。この実施形態は、カテーテルの挿入、保守に関する通常の業務を変える必要がなく、注射器を使用するだけで充分であるという利点を有する。
【0067】
本発明は、また、上述の装置を使用する、院内感染症の予防および治療のための方法にも関する。
尿収集装置、たとえば、容器またはドレナージ袋が、一般的に、カテーテル挿入患者から尿を集めるのに使用される。収集装置は、通常、尿を収集装置(図3)に導くカテーテルに取り付けたチューブを有する。
カテーテル処置では、しばしば、収集装置および関連したチューブにおける微生物の増殖から生じる尿路感染症の可能性がある。閉じたドレナージにおける破損に関連して収集システムを動かしたり、操作したりするときに収集装置で増殖している微生物が膀胱へ運ばれる可能性がある。図3に示すようなカテーテル処置中に感染症の発生について主な重大ポイントが4つある。1つは、Aで示す外尿道口を取り囲んでいる領域である。もう1つは、膀胱の内部Bである。ここでは、カフおよびカテーテルの先端が残尿内にある。第3の感染ポイントは、カテーテル自体と収集装置との連結部または接続部Cである。図3において、接続部Cは、収集袋よりもカテーテルに近いところに位置するように描いてある。実際には、接続部Cは、収集袋のところの、カテーテルと前記袋との間の任意のところにあり、事実、いくつかの接続部Cを設けることができる。第4の重要ポイントは、収集袋Dそれ自体である。ここでは、バクテリアが室温において大量の尿内で増殖する可能性がある。したがって、収集システムにおける汚染物質から発生する尿路感染症の予防のための効果的な方法についての要望もある。
【0068】
したがって、本発明は、尿カテーテルに接続した収集装置における微生物増殖を防ぐことによって尿カテーテルを入れた患者の院内感染を予防する方法であって、LMACを放出する少なくとも1つの成分を収集装置に添加する方法にも関する。この本発明方法を用いる利点は、抗菌効果を非特異的に発揮するLMACの使用が、おそらく、抗生物質耐性微生物株を生じさせる可能性を低下させることになるということにある。特に、LMACはRNI、ROIまたはこれら2つの組み合わせである。LMACの例としては、限定するつもりはないが、酸化窒素(NO)、NO2、N23、N24、HNO3、HNO2、NO+、NO-、O2-、O3、一重項酸素、H22、OONO-、HOONO、NOCl、NOSCN、NOチオシアン酸塩、OHラジカルおよびHOClがある。
【0069】
収集装置におけるLMACを放出する少なくとも1つの成分は、収集装置において、LMACを放出することのできる任意の化合物、たとえば、限定するつもりはないが、S−ニトロソチオール(低分子量または高分子量のチオール)、ジアゾニウムジオレエート(NONOates)、ニトロプルシド、有機硝酸塩/亜硝酸塩、無機亜硝酸イオン、N−ニトロソ化合物、C−ニトロソ化合物、オキシム、シドノンイミン(sydnonimines)、オキサジアゾール(フロキサン(furoxans))、オキサ・トリアゾール、ニトロキシル産生化合物(たとえば、ピロチー酸(piloty's acid)、ヒドロキシルアミン、N−ハイドロキシ−グアニジン、塩化ニトロシル、アジ化ナトリウム、ニトロシル硫酸水素塩、ニトロシルテトラフルオロホウ酸塩、ジニトロシル−鉄−システイン錯体がある。
【0070】
本方法の別の実施形態において、収集装置における前記LMACを放出する少なくとも1つの成分は、酸性化に応じて低分子化合物を放出する。酸性化は、装置のpHを約pH1〜5.5まで、好ましくは2〜4まで減らす酸性化剤(「第2成分」)を加えることで行う。酸性化剤は、上述したpHまで装置のpHを減らす任意の酸であってよい。適切な酸としては、たとえば、アスコルビン酸、クエン酸、酢酸、酪酸、希塩酸、希硫酸、ギ酸、亜硝酸または硝酸がある。
【0071】
本発明方法の別の実施形態では、前記少なくとも1つの成分は亜硝酸塩であり、前記第2成分は酸性化剤であり、この酸性化剤が、亜硝酸塩と接触させられたときに、酸化窒素、三酸化二窒素および亜硝酸のようなRNIを収集装置内で放出する。アスコルビン酸が好ましい酸性化剤である。
【0072】
1つの実施形態において、本発明による装置または方法は、人間または動物の身体における異常状態を治療または緩和するために使用される。前記異常状態とは、限定するつもりはないが、細菌性感染症、ウィルス感染症、炎症状態および癌腫である。治療は、尿道、前立腺、膀胱、膣、子宮頸部、子宮または輸卵管のうちの1つを含む泌尿生殖器で行うことができる。
【0073】
パーツ・キット
一実施形態において、本発明は、少なくとも1つの低分子薬剤の局所送達および人間または動物の身体における異常状態の治療に使用されるキットに関する。異常状態の例としては、限定するつもりはないが、細菌性感染症、ウィルス感染症、炎症性状態および癌腫がある。特に、前記キットは、膨張性カフおよび人間または動物の身体または体腔内で前記カフをふくらませるのに適した注射器を有する装置を含み、前記注射器が、低分子薬剤の放出に必要な成分を含み、この放出が、前記装置の前記膨張性カフに前記成分を投与した後に行われる。
【0074】
本発明は、また、人間または動物の身体および/または体腔内に膨張性カフを入れる、尿カテーテル、気管内チューブまたは胃チューブのような侵襲性医療装置の挿入および/または挿入で発生する院内感染症を予防または治療するために使用するキットにも関する。前記キットは、前記装置と、前記カフをふくらませるのに適した注射器とを含み、前記注射器が、LMACの放出のために必要な成分を含み、この放出が、前記装置の前記膨張性カフへの前記成分の投与の後に行われる。LMACは、カフおよび/または装置に浸透するのに充分に低い分子量を有する任意の化合物であり得る。一実施形態において、LMACは、活性窒素中間体(RNI)、活性酸素中間体(ROI)またはこれらの2つの組み合わせである。キットは使いやすく、病院または他の健康管理センターでの付加的な設備または職員の特別な訓練を必要としない。
【0075】
注射器内に含まれる必要な成分は、LMACを放出する少なくとも1つの成分、および、場合により、LMAC放出成分と接触した際にLMACの放出を誘発する第2成分である。これらの成分は、乾燥粉末、粒状物、薄膜等の形で存在し、水、生理食塩水または任意の生理緩衝液(たとえば、PBS)のような液体と組み合わさって前記LMACを放出する。一実施形態において、粉末と液体は別々の容器に保っておき、投与前または前記カフの膨張と同時に注射器内で混ぜ合わせる。
本発明キットの一実施形態においては、注射器内の必要な成分のうちの1つは、酸性化でRNIを産生する亜硝酸塩である。酸性化は、たとえば、限定するつもりはないが、アスコルビン酸、クエン酸、酢酸、酪酸、希塩酸、希硫酸、ギ酸、亜硝酸または硝酸を加えることで行う。
【0076】
本発明は、院内感染の予防および/または治療のために開発された他の装置、方法および/またはキット、たとえば、限定するつもりはないが、医療装置の挿入時に使用できる抗感染性潤滑剤、装置に塗布する抗感染性クリームまたは軟膏、使用前の医療装置の抗感染性抗菌薬溶液への浸漬、酸化銀コーティング装置(たとえば、カテーテル)と組み合わせて使用することもできる。同様にして、本装置は、当業者によく知られている公知装置(たとえば、カテーテル)から採用した特徴を含むことができる。
【0077】
癌腫などの治療
本発明の別の態様は、人間または動物の身体内部、好ましくは、限定するつもりはないが、中空臓器内部における伝染性疾病以外の疾病、たとえば癌腫を治療する可能性である。一実施形態において、本発明による装置は、人間または動物の身体における異常状態を治療または緩和するために使用される。別の実施形態は、前立腺ガンの治療に関する。それによれば、本発明の装置は抗癌剤を前立腺に放出できる第2の膨張可能/拡大可能な手段を有する。装置内部の薬剤の温度を制御し、膨張可能な手段が前立腺尿道などの壁に対して発揮する圧力を制御することによって治療を一部変更し得ることが企図されている。本発明による前立腺ガンの治療は、公知の治療またはこれから開発されるであろう治療の代替手段、または、好ましくはこれらの治療の補助となり得る。前立腺が放射線照射を受けると同時に薬剤の投与を受け、場合により、高温にさらされ、治療の効果が高まると共に、放射線照射レベルを低下させることができると考えられる。
【0078】
別の実施形態によれば、尿路感染症の治療に関連して先に説明した装置および方法を使用して膀胱ガンを治療するが、その場合、抗癌剤をLMACの代わりに使用するか、LMACと一緒に使用するように一部変更を行う。先に述べたような活性窒素中間体(RNI)および活性酸素中間体(ROI)は、単独でまたは抗癌剤と組み合わせて癌腫の治療にも使用できることが企図されている。また、ここでは、本発明方法を公知の治療またはこれから開発されるであろう治療に対する補助として使用することも企図されている。
【0079】
本発明は、また、非院内感染症に抗菌効果を発揮する上述したような装置にも関する。一実施形態においては、少なくとも1つのLMACを放出する少なくとも1つの成分は、人間の尿路に挿入されたカテーテルに沿って位置する膨張性カフ内に存在する。LMACはカフを透過し、その効果を前立腺に加える。たとえば、慢性前立腺炎が細菌感染によって引き起こされると考えられている。第1のカフから或る特定の距離のところに第2のカフを配置し、装置を固定することによって、第2のカフが尿路内に位置し、前立腺によって取り囲まれるようにすることができる。この実施形態は、前立腺の最小限の侵襲性治療を長期にわたって可能にする。
【0080】
また別の実施形態によれば、本発明の装置および方法は、膣および/または子宮頸部に対する薬剤の投与のために、たとえばウィルス感染症(たとえば、ヘルペスウイルス、ヒト乳頭腫ウィルスの感染症)、形成異常症または癌腫(たとえば、子宮頸癌または膣癌)の治療のために膣疾患または子宮頸部疾患の治療に適用できる。
同様にして、本発明による装置および方法は、子宮の異常状態、たとえば、限定するつもりはないが、子宮癌、子宮線維腫および子宮虚血症の治療に使用できる。
ここでもまた、本発明の装置および方法を血栓の除去または血栓症の治療のような処置に利用して、たとえば、鬱血した血管を拡大すると同時に、拡張部位または外科的介入部位に薬剤を投与する、たとえば血管の再閉塞(reocculsion)を防ぐことも考えられる。
【0081】
発明の利点
本発明は、人間または動物の身体または体腔に対して薬剤の局所的投与を行う装置および/または方法に関する。したがって、本発明は、薬剤の全身投与に伴う問題を解決する。本発明は、時間、場所および濃度のようなパラメータを容易に制御できる局所的治療を提供する。
本発明は、深刻な問題に対する簡単かつ安全な解決案を提供する。そのうちの特別な利点の1つは、本発明の装置および方法で使用するために提案したLMACの低い全身毒性にある。たとえば、亜硝酸塩は、特に貯蔵肉製品において食品添加物として一般的に受け入れられている。許される最高の濃度は200ppmであり、これは約3mMの濃度に等しい。これは、本発明で達する濃度と同じ範囲内にある。特に、胃粘膜は、唾液中の亜硝酸塩の自然酸性化からの同様量の内在性酸化窒素に絶えずさらされている。ここに提案した抗菌化合物は、宿主細胞に対する急性毒性が低いか無視し得るほどであると思われる。 カフが破裂するというありそうもない場合でも、カフの中身(約10ml)は周囲の残尿(20〜30ml)によって希釈され、中性化されることになる。したがって、LMACも溶液のpHも、患者にいかなるリスクも与えない。
【0082】
別の利点は、投与されたドレナージ・システムの保全性を妨げることなく選んだ投与量および間隔で抗菌化合物を反復投与できることにある。
また別の利点は、LMAC放出の動態にある。カフにおいて、放出されるLMACには短くて高いピークがあることになる。LMACは膜を急速に透過することになる。それと対照的に、高分子量を有する従来の抗生物質を用いる場合、たとえば米国特許第5,417,657号におけるように、抗生物質の膜透過性は低いことになり、抗生物質のゆっくりした放出となる。当業者にとって周知であるように、長期間にわたるゆっくりした放出は、選別リスクを高める。すなわち、バクテリアが抗生物質耐性を獲得する。
本発明のさらに別の利点は、少なくとも1つの成分および第2成分がカフ内で混合されたときの作用物質(LMAC)の現場生成にある。輸送または配送中の抗菌性活性度の損失がない。
或る特別な利点は、本発明の装置および方法が臨床診療に導入しやすいという事実にある。
以下の非限定的な実施例において、本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0083】
実施例1 アスコルビン酸および硝酸ナトリウムの溶液における大腸菌株の培養
1.1 材料および方法
尿路感染症の軽い患者の尿から分離した大腸菌株を使用した。細いネック部を有する50mlガラス瓶(図4)を健康なボランティアから採取した新鮮な尿(pH6.5)で満たした。この尿に、105コロニー形成単位/mlの最終密度まで大腸菌株を接種した。次いで、全シリコーン製の尿カテーテルをこの瓶に挿入し、以下を含む溶液でカフを満たした。
1.2.0の最終pHまでの生理食塩水+アスコルビン酸(20mM)+HCl(対照標準、n=3)
または
2.生理食塩水+アスコルビン酸(20mM)+HCl+亜硝酸ナトリウム(2mM)、pH2(亜硝酸、n=3)。
拡大させたカフを瓶のネック部のところに固定し、瓶をひっくり返したときに尿が漏出しないようにした。次いで、ガラス瓶を37℃で10時間、培養し、その後、尿に囲まれている大腸菌の増殖をSpectramax(登録商標)(Molecular Devices Inc.)によって、540ナノメートルで光学濃度(光学密度)に基づいてモニタした。
1.2 結果
対照では、光学濃度値は0.12から0.35まで増大したが、亜硝酸塩グループでは、目に見える増殖は観察されなかった(培養前は光学濃度は0.12、10時間後は0.13)。
この実験は、酸性アスコルビン酸溶液に亜硝酸塩を添加した結果、静菌性化合物(たとえば、NO、N23、亜硝酸)が生成され、これが薄いシリコーン膜を透過し、尿中の膜外側でのバクテリア増殖を阻止できることを示している。
【0084】
実施例2 生菌数
2.1 材料および方法
尿路感染症の患者から分離した大腸菌および参考株、大腸菌ATCC25992をこの実験で使用した。オーバーナイト培養物を25mlの尿に加えて最終濃度を105CFU/mlとした。この尿を、膀胱と尿道に似ている形状を有する長いネックの50mlフラスコに入れた。全シリコーン製カテーテル(Argyle, Sherwood Medical, Tullamore, Ireland)をこのフラスコに入れ、保持用バルーンを、アスコルビン酸(10mM)および亜硝酸ナトリウム(5mM)を含有する10mlの生理食塩水で満たした。塩化水素酸(3M)を使用して溶液のpHを2.5まで調節した。投与直前にアスコルビン酸および亜硝酸塩を準備し、混合した。対照としてアスコルビン酸溶液(pH2.5)のみを使用した。保持バルーンを満たした後、カテーテルを徐々に引き出し、ネックのところで固定し、フラスコ開口部をシールした。次いで、フラスコをひっくり返し、24時間37℃で培養した。実験の終りに、尿を連続的に希釈し、血液寒天板上でさらに培養して生菌数(cfu/ml)を決定した。すべての実験を四通り行った。尿のpHは6.5であったが、実験の進行中に低下することはなかった。或る別の実験において、7日に一度バルーンを空にし、新鮮な亜硝酸およびアスコルビン酸の溶液を再充填した。培養は上記の通りに実施した。
2.2 結果
アスコルビン酸のみを使用する対照実験においては、細菌数が、24時間後に、105cfu/ml〜108cfu/mlまで増加した。対照では、保持バルーンにアスコルビン酸および亜硝酸塩を充填したとき、バクテリアは効果的に死んだ。
7日培養実験において、バクテリアは尿中に検出されなかった。
【0085】
実施例3 薬剤放出動態
3.1 材料および方法
保持バルーンからのNO放出の動態を個別の実験でモニタした。カテーテルをフラスコに入れ、保持バルーンにアスコルビン酸/亜硝酸溶液を充填した後、フラスコを閉じた。合成NOなし空気で入口を4.5L/分の率でフラッシュし、急速応答ケミルミネセンス・システム(Aerocrine AB, Stockholm, Sweden)によってヘッドスペースNOを出口から連続的に測定した。
3.2 結果
バルーンからのNO放出速度がまずピークに達し、次いで、約30分の半減期で減少した。図8を参照されたい。この結果は、本発明の基礎をなす概念を証明し、尿路感染症の治療のための装置および方法の有用性を示す。
【0086】
実施例4 比較実験
4.1 材料および方法
実験は実施例2で説明したのと同様に実施したが、亜硝酸塩およびアスコルビン酸の代わりに、従来の抗生物質、シプロフロキサシン(Ciloxan(登録商標), Alcon Sverige AB, Stockholm, Sweden)、トリメトプリム(Trimetoprim)(bacterriostatiskt-hammar)(Sigma, Stockholm)を用いた。別のフラスコで、シプロフロキサシンを尿に直接添加した。
4.2 結果
シプロフロキサシンを保持バルーンに入れたとき、バルーンを取り囲む尿中に抗菌性効果はまったく見られなかった。対照において、抗生物質を尿に直接添加したとき、予想通りにバクテリアが効果的に死んだ。このことは、低分子薬剤のみがバルーンの膜を透過できることを示している。
【0087】
本発明者等が現在のところ知っている最良の形態を構成する好ましい実施形態に関して本発明を説明してきたが、添付の特許請求の範囲に記載する発明の範囲から逸脱することなく、当業者にとって自明である種々の変更、一部修正をなし得ることは了解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】中空の細長い本体1と、適切な取り付け部品を有する入口/出口2と、適切な取り付け部品を備える入口/出口3とを有する二重管腔尿カテーテルを概略的に示している。
【図2】身体または体腔内へ導入される任意装置7の端部であって、流体または薬剤を投与するための、または、体液を抜くための随意の第1管腔8と、弾力膜10によって、区切られた、カフをふくらませたり、しぼませたりすることのできる第2管腔9とを有する端部を概略的に示している。
【図3】カテーテル12を膀胱13に挿入したところでの蓄尿システムを概略的に示している。
【図4】大腸菌感染尿のサンプルを50mlフラスコ19に入れた、実施例に記載する実験構成を示している。
【図5】LMACがカテーテルの内側管腔内にも侵入し、したがって、その抗菌効果を膀胱から集めた尿に加えるようにカテーテル先端部を改造した2つの実施形態を概略的に示している。
【図6】女性解剖学的構造に従って描いた尿路内の適所にある本発明による装置を概略的に示している。
【図7】男性解剖学的構造に従って描いた尿路内の適所に置いた本発明による装置を概略的に示している。
【図8】留置バルーンからのNO放出の動態を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張可能/拡大可能な手段を有する、人間または動物の身体および/または体腔に挿入するための装置であって、膨張可能/拡大可能な手段が、隣接組織または体腔に浸透することのできる少なくとも1つの低分子薬剤を放出することのできる少なくとも1つの成分を含むことを特徴とする上記装置。
【請求項2】
低分子薬剤が低分子抗菌化合物(LMAC)である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
少なくとも1つの成分が第2成分と接触したときにLMACが放出される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
接触が、水、生理食塩水または任意の生理的緩衝液からなるグループから選んだ液体を前記手段に導入することで行われる、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
装置が人間または動物の尿路へ挿入するカテーテルであり、膨張可能/拡大可能な手段が膨張性カフからなる、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
尿路に挿入したときカフが膀胱内に位置する、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
装置が気管内チューブである、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
装置が胃チューブである、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
LMACが活性窒素中間体、活性酸素中間体またはこれらの2つの組み合わせである、請求項2に記載の装置。
【請求項10】
LMACが、酸化窒素(NO)、NO2、N23-、N24、HNO3、HNO2、NO+、NO-、O2-、O3、一重項酸素、H22、OONO-、HOONO、NOCl、NOSCN、NOチオシアン酸塩、OHラジカルおよびHOClからなる群から選んだものである、請求項2に記載の装置。
【請求項11】
LMACを放出する少なくとも1つの成分が酸性化に応じて該LMACを放出する、請求項3に記載の装置。
【請求項12】
少なくとも1つの成分が亜硝酸塩である、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
第2成分がアスコルビン酸である、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
少なくとも1つの成分が亜硝酸塩であり、第2成分がアスコルビン酸である、請求項11に記載の装置。
【請求項15】
LMACを放出する少なくとも1つの成分がアルカリ化に応じて該LMACを放出する、請求項3に記載の装置。
【請求項16】
LMACが体温で気体状である、請求項2に記載の装置。
【請求項17】
膨張可能/拡大可能な手段の内容物または前記装置の材料もしくは表面に或る濃度の1つまたはそれ以上の金属イオンを有し、該濃度が抗菌効果を向上させるに充分である、請求項1〜16のうちいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
人間または動物の身体および/または体腔に挿入した装置の挿入および/または使用で発生する院内感染を予防および/または治療する方法であって、該装置が膨張可能/拡大可能な手段を有する方法において、該手段内に少なくとも1つの低分子薬剤を放出することのできる少なくとも1つの成分を該手段に投与し、低分子薬剤が隣接組織および/または体腔に浸透することを特徴とする方法。
【請求項19】
低分子薬剤が低分子抗菌化合物(LMAC)である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの成分が第2成分と接触したときにLMACが放出される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
接触が、水、生理食塩水または任意の生理的緩衝液からなる群から選んだ液体を前記手段に導入することで行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
LMAC、酸性化剤および/または液体を放出する少なくとも1つの成分を膨張可能/拡大可能な手段内に投与し、この手段が、少なくとも1つのLMAC、カフ内の酸性化剤および/または液体を放出する該成分を投与するための配置を有する、請求項19または20に記載の方法。
【請求項23】
装置が人間または動物の尿路へ挿入するカテーテルであり、膨張可能/拡大可能な手段が膨張性カフからなる、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
装置が、人間または動物の身体の気道へ挿入するための気管内チューブである、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
装置が、人間または動物の身体の消化管へ挿入するための胃チューブである、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
LMACが活性窒素中間体、活性酸素中間体またはこれらの2つの組み合わせである、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
LMACが、酸化窒素(NO)、NO2-、N23、N24、HNO3、HNO2、NO+、NO-、O2-、O3、一重項酸素、H22、OONO-、HOONO、NOCl、NOSCN、NOチオシアン酸塩、OHラジカルおよびHOClからなる群から選んだものである、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1つの成分が酸性化に応じてLMACを放出する、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
少なくとも1つの成分が亜硝酸塩である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
第2成分がアスコルビン酸である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
少なくとも1つの成分が亜硝酸塩であり、第2成分がアスコルビン酸である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つの成分がアルカリ化に応じてLMACを放出する、請求項19に記載の方法。
【請求項33】
LMACが体温で気体状である、請求項19に記載の方法。
【請求項34】
1つまたはそれ以上の金属イオンが、抗菌効果を向上させるに充分な濃度で、膨張可能/拡大可能な手段の中身に存在するか、または、そこに導入される、請求項19に記載の方法。
【請求項35】
請求項1〜17のうちいずれか1項に記載の装置を使用することを特徴とする、院内感染の予防および治療のための方法。
【請求項36】
少なくとも1つの低分子抗菌化合物(LMAC)を放出する少なくとも1つの成分を尿収集装置に添加することを特徴とする、尿カテーテルに接続した該収集装置内での微生物増殖を阻止することによって尿カテーテルを挿入した患者の院内感染を予防する方法。
【請求項37】
少なくとも1つの成分が、酸性化に応じて尿収集装置内にLMACを放出する亜硝酸塩である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
装置内のpHを約pH1〜5.5、好ましくは約2〜4まで減らす酸性化剤を加えることで酸性化を行う、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
酸性化がアスコルビン酸を加えることで行われる、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
人間または動物の身体および/または体腔内に膨張性カフを有する侵襲性医療装置を挿入および/または使用することで発生する院内感染の予防および/または治療で使用するキットであり、該装置と、カフをふくらますのに適した注射器とを含み、注射器が、投与後に装置の膨張性カフ内へ少なくとも1つの低分子抗菌化合物(LMAC)を放出するのに必要な成分を含むキット。
【請求項41】
装置が尿カテーテルである、請求項40に記載のキット。
【請求項42】
装置が気管内チューブである、請求項40に記載のキット。
【請求項43】
装置が胃チューブである、請求項40に記載のキット。
【請求項44】
必要な成分が、水、生理食塩水または任意の生理的緩衝液のような液体との組み合わせでLMACを放出する粉末として存在する、請求項40に記載のキット。
【請求項45】
必要な成分が、投与前に混合するか、または、カフの膨張と同時に混合する別々の溶液として存在する、請求項40に記載のキット。
【請求項46】
材料または表面に組み込んだ化合物を有する、人間または動物の体および/または体腔に挿入するための装置であって、化合物が、アスコルビン酸、活性窒素中間体、活性酸素中間体またはこれらの任意の組み合わせのうちの1つであることを特徴とする上記装置。
【請求項47】
装置がカテーテルである、請求項46に記載の装置。
【請求項48】
化合物が亜硝酸塩を含む、請求項46または47に記載の装置。
【請求項49】
化合物がアスコルビン酸と組み合わせた亜硝酸塩を含む、請求項46または47に記載の装置。
【請求項50】
化合物がアスコルビン酸および亜鉛と組み合わせた亜硝酸塩を含む、請求項46または47に記載の装置。
【請求項51】
請求項1に記載の装置を使用して異常状態を予防、治療または緩和する方法。
【請求項52】
異常状態が、細菌性感染症、ウィルス感染症、炎症性状態および癌腫から選択したものである、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
治療が、尿道、前立腺、膀胱、膣、子宮頸部、子宮または輸卵管の1つを含む泌尿生殖器について行われる、請求項52に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−534361(P2007−534361A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545287(P2006−545287)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001879
【国際公開番号】WO2005/056102
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(506203774)
【Fターム(参考)】