説明

注射による皮膚反応を減少させるための、アドレナリン受容体アゴニストと充填剤との注射可能な組合せ

本発明は、充填剤またはボツリヌス毒素と、アドレナリン受容体アゴニストとを含む注射可能な組成物、および注射が原因の皮膚反応、特に発赤、斑状出血、挫傷、出血、紅斑、浮腫、壊死、潰瘍、腫脹および/または炎症を低下させる、減少させる、または回避するためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科および皮膚科の分野に属する。
【0002】
本発明は、アドレナリン受容体アゴニスト、好ましくはブリモニジン、および充填剤、好ましくはヒアルロン酸を含む、注射可能な組成物に関する。本発明は、美容処置に起因する表面の挫傷および出血を予防および/または処置する際のその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
表面の挫傷および、それよりも程度は低いにせよ、出血は、皮膚充填剤、ボツリヌス毒素およびレーザーリサーフェシングを含む多くの美容処置の珍しい結果ではなく、平均して約1/3の確率と報告されている。
【0004】
より著しい挫傷は、脂肪吸引、豊胸術/胸のリフト、フェイスリフトおよび腹部形成術などの外科的処置によって起こる。
【0005】
斑状出血、挫傷、炎症の発症に即時作用を有する血液成分の漏出、発赤および浮腫を誘導する血管損傷または血管壁破壊を伴う充填剤の皮下注射または皮内注射が原因の二次的な即時反応の管理が、特に関心対象である。
【0006】
発赤、紅斑、挫傷および出血は一般に大きな問題と見なされていないが、大抵の医師は、処置の前にそれを自分の患者に警告することによって、患者にこの可能性に対する覚悟をさせる。特に、医師は多くの場合、処置の前後にアスピリンまたはその他の抗凝固薬を使用することに対して警告し、処置の直後に広範囲にアイスパックを使用し、治癒を促進するために使用されるハーブであるアルニカをごく一般的に推奨する。この種の欠点は、一部の患者を、特に美容処置に対して失望させる可能性がある。特に、挫傷/出血という結果に関して、医師は、患者にとって最も重大な関心事の一つが、挫傷が起こった場合の休止時間であり、患者は仕事および社会活動に戻るよりも家にいることを好むと報告している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、美容処置または外科的処置の間に、特に充填剤が注入される時に起こる挫傷/出血を軽減する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アドレナリン受容体アゴニストを充填剤とともに注射することにより、注射が原因の皮膚反応の発生を減少させることを出願者が実証したことに基づく。
【0009】
本発明は、一定量のアドレナリン受容体アゴニスト、好ましくはブリモニジンとして公知の生成物と、充填剤またはボツリヌス毒素との組合せ、好ましくはヒアルロン酸との組合せを提供する。前記組合せは、必要とする個体に全身投与される。
【0010】
本発明は、必要とする個体における、一定量のアドレナリン受容体アゴニスト、好ましくはブリモニジンとして公知の生成物の、ボツリヌス毒素または充填剤との組合せ、好ましくはヒアルロン酸との組合せの使用を提供する。
【0011】
本発明は、それを必要とする個体に一定量のアドレナリン受容体アゴニスト、好ましくはブリモニジンとして公知の生成物を提供することにより、挫傷および、それよりも程度は低いにせよ、出血を、特に皮膚充填剤および好ましくはヒアルロン酸を含む美容処置において低下させる、減少させる、または回避するための方法を提供する。
【0012】
第1の態様において、本発明は、
充填剤またはボツリヌス毒素と、
アドレナリン受容体アゴニストと
を含む組成物に関する。
【0013】
本明細書から明らかなように、本発明は、皮膚欠損、特に皮膚の加齢が原因のもの(深いしわ、小じわ、皮膚陥凹など)または皮膚の損傷(瘢痕など)の予防および処置に関する。
【0014】
これまでに、皮膚欠損の処置は大きな関心事となってきた。結果として、皮内または皮下に化合物を注入することが提案された。
【0015】
最初の可能性として、筋肉の麻痺または収縮を誘発することが可能なボツリヌス毒素が局所的に注射され得る。
【0016】
あるいは、好ましい実施形態では、充填剤が注射され得る。充填剤は、一般に皮膚組織に充填することが可能な生体材料として定義される。前記充填剤を水性媒体中に含み、充填性を示す注射用の特許請求の範囲に記載される組成物は、「皮膚充填剤」と定義され得る。
【0017】
この文脈において、ポリアクリルアミドゲル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子またはシリコーンのような同様の化合物を使用することができる。
【0018】
最も好ましい化合物は、ヒアルロン酸、コラーゲン、アルギン酸塩、デキストラン、エラスチンまたはポリウレタンゲルなどの吸収性分子である。
【0019】
ヒアルロン酸またはヒアルロン酸塩は、結合組織、上皮組織、および神経組織の至る所に広く分布している非硫酸化グリコサミノグリカンである。それは、細胞外マトリックスの主な構成要素の一つである。それは細胞増殖および遊走に大きく貢献している。それは、皮膚の水和および皮膚の弾性に重要な役割を果たす。ヒアルロン酸のレベルは、量および質の両方において加齢とともに低下し、皮膚の乾燥およびしわを引き起こす。
【0020】
ヒアルロン酸は、水中で非常に粘性のある溶液を形成する、天然に存在する生体高分子である。従って、ヒアルロン酸は医薬品として広く使用されている。さらに、この化合物は、免疫原性反応が観察されていないことから、非常に安心であると考えられている。今までのところ、認められた有害事象はほとんどない。
【0021】
従って、有利には、充填剤は、ヒアルロン酸またはその製薬学的に許容される塩もしくは誘導体、特にナトリウム塩またはカリウム塩である。ヒアルロン酸は、様々な形態、すなわち、その塩、エステルまたはアミドなどのその誘導体、線状の形態または架橋された形態で用いることができる。特に、分子量(一般に500kDa〜5000kDaの間に含まれる)、および架橋の程度は、用途によって、特に充填する小じわの深さによって決まる。
【0022】
特許請求の範囲に記載される組成物の第2の構成要素は、アドレナリン受容体アゴニストである。アドレナリン受容体アゴニストは、アドレナリン受容体と結合し、それを活性化させることが知られている。
【0023】
当技術分野で周知のように、アドレナリン受容体は、α受容体とβ受容体との両方を包含する。αアドレナリン受容体の中で、α1受容体とα2受容体は、1970年代に識別された。同じ10年の間に、α2受容体は、血管平滑筋で生じ、血管収縮反応の媒介を示すことが見出された(「Subtypes of functional α1− and α2−adrenoceptors」JR Docherty;European Journal of Pharmacology 361(1998)1−15)。よって、αアドレナリン作動性受容体活性化作用(adrenergic agonism)、有利にはα2アドレナリン作動性受容体活性化作用を示す分子は、末梢血管収縮活性を有する。
【0024】
特許請求の範囲に記載される組成物中で使用されるアゴニストは、α受容体および/またはβ受容体に対するものであってよい。しかし、それらの起こり得る副作用のために、βアドレナリン作動性受容体活性化作用を示す分子は、特許請求を放棄することが有利である。本出願の残りの部分において、βアドレナリン受容体に対して親和性を有さない分子は、「αアドレナリン受容体アゴニスト」と名付けられることになる。
【0025】
α受容体の中で、アゴニストは、α1受容体とα2受容体との両方のアゴニストであってもよいし、あるいは、α1またはα2に特異的であってもよい。好ましくは、選択された分子は、α1受容体に対するよりも高い親和性をα2受容体に対して示し、一般に、本出願の残りの部分において、「α2アドレナリン受容体アゴニスト」と名付けられることになる。
【0026】
好ましい実施形態では、アドレナリン受容体アゴニストは、アドレナリン受容体アゴニストα2、好ましくはブリモニジンである。
【0027】
α2アドレナリン受容体のアゴニストは、高血圧症、鬱血性心不全、狭心症、痙攣、緑内障、下痢を含む多数の状態に対して、かつ、オピエート離脱症状の抑制のために、治療的に使用されている(J.P.Heible and R.R.Ruffolo Therapeutic Applications of Agents Interacting with a− Adrenoceptors,p.180−206 in Progress in Basic and Clinical Pharmacology Vol.8,P.Lomax and E.S.Vesell Ed.,Karger,1991)。
【0028】
クロニジンなどのアドレナリン受容体アゴニストは主として経口使用されているが、パッチ製剤が知られている。α2アゴニストは、患者のコアおよび末梢の両方において血管収縮を媒介することが知られている。特にα2アドレナリン受容体アゴニストは、寒さまたはストレスによる刺激に応答して、末梢細動脈の血管収縮を引き起こすことが知られている。
【0029】
多数の特許が、眼の症状および眼疾患を処置するためにブリモニジンを使用することを記載している。カナダ特許第CA2326690号では、眼疾患を処置するための、眼にだけ使用するための局所用点眼薬の使用が記載されている。
【0030】
既に上に述べたように、本発明の状況において最も好ましい化合物は、(5−ブロモ−キノキサリン−6−イル)−(4,5−ジヒドロ−1H−イミダゾール−2−イル)−アミン(一般にブリモニジンと称される)およびその製薬学的に許容される塩、特に酒石酸塩である。
【0031】
α2アドレナリン受容体アゴニストであることが知られており、本発明の枠組みで使用することのできるその他の化合物は、クロニジン、アポクロニジンである。
【0032】
より一般には、αアドレナリン受容体アゴニストであるその他の化合物は、シネフリン、オクトドリン、バソプレシンおよび類似体、オルニプレシン、ミドドリン、フェニレフリン、キシロメタゾリン、オキシメタゾリン、ノルエピネフリン、メトキサミンである。
【0033】
β受容体に対しても親和性を有するが、特定の条件下で使用することのできる化合物は、エピネフリン、エフェドリン、エチレフリンである。
【0034】
当然、全てのこれらの化合物の製薬学的に許容される塩も包含される。
【0035】
本発明によれば、用語「製薬学的に許容される塩(類)」は、本明細書において、哺乳動物における局所使用に関し安全かつ効果的であり、所望の生物学的活性を有する本発明の化合物の塩を意味する。製薬学的に許容される塩には、本発明の化合物中に存在する酸性基または塩基性基の塩が含まれる。
【0036】
製薬学的に許容される酸性塩としては、限定されるものではないが、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチジン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルカロン酸塩(glucaronate)、サッカリン酸塩、蟻酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩およびパモ酸塩(すなわち、1,1’−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエート))の塩が挙げられる。本発明の特定の化合物は、様々なアミノ酸とともに製薬学的に許容される塩を形成することができる。
【0037】
適した塩基性塩としては、限定されるものではないが、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛、およびジエタノールアミンの塩が挙げられる。製薬学的に許容される塩についての概説は、BERGE ET AL.,66 J.PHARM.Sci.1−19(1977)を参照されたい。
【0038】
第1の実施形態によれば、特許請求の範囲に記載される組成物は、充填剤またはその混合物、およびアドレナリン受容体アゴニストまたはその混合物、有利にはヒアルロン酸およびブリモニジンだけを含有する。
【0039】
代替的な実施形態によれば、特許請求の範囲に記載される組成物は、1つ以上のさらなる構成成分も含有する。
【0040】
1つ以上のその他の構成成分は、有効成分、例えば麻酔薬であってよい。好ましい麻酔薬は、リドカインまたはその製薬学的に許容される塩である。その他の有効成分は、例えば増殖因子、ペプチドなどである。
【0041】
また、特許請求の範囲に記載される組成物は、その他の製薬学的に許容される構成成分、例えば担体、賦形剤、防腐剤などを含有することができる。
【0042】
一実施形態では、本発明の化合物は、それを必要とする患者に全身経路により、好ましくは注射により投与される。従って、本発明の状況において、化合物は、製薬学的に許容される担体中で皮膚の罹患部位に送達される。本明細書において、製薬学的に許容される担体は、医薬品または薬物の皮膚、皮内、もしくは経皮送達のために皮膚に適用することのできる任意の製薬学的に許容される製剤である。製薬学的に許容される担体と本発明の化合物との組合せを、本発明の注射可能な製剤と呼ぶ。
【0043】
本発明の枠組みにおいて、組成物は、製薬学的に許容される注射可能な製剤である。本発明の状況において、「製薬学的に許容される注射可能な製剤」により、全身送達に製薬学的に許容される任意の製剤が意味される。好ましくは、組成物は、皮下経路または皮内経路により表面、中間、または深部の真皮に投与される。一般に、特許請求の範囲に記載される組成物は、溶液またはゲル、好ましくは水性の溶液またはゲルにある。
【0044】
特許請求の範囲に記載される組成物は、治療上有効な量のアドレナリン受容体アゴニストおよび充填剤からなるか、またはそれらを含む。本明細書において、「治療上有効な量の本発明の化合物」とは、本発明の状況において所望の効果を得るために効果的な最小量の化合物を意味する。
【0045】
一般に、特許請求の範囲に記載される組成物は、
該組成物の1重量%〜2.5重量%に相当する充填剤、好ましくはHAと、
該組成物の0.0001重量%〜1重量%に相当するアドレナリン受容体アゴニスト、好ましくはブリモニジンと、
所望により、該組成物の0.01重量%〜3重量%に相当する麻酔薬と
を含む。
【0046】
既に上に述べたように、特許請求の範囲に記載される組成物は、被験体または患者に、特に顔面部皮膚への注射(額、眼、鼻唇溝など)により投与されることが意味される。本明細書において、用語「被験体」または「患者」は、同等に用いられ、本発明の化合物または製剤をこれから投与されるかまたは既に投与された任意の動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを意味する。用語「哺乳動物」は、本明細書において、任意の哺乳動物を包含する。
【0047】
従って、本発明は、全身投与量の化合物を患者に送達するための製剤も提供する。実施する上での、そして処置の順序について、活性化合物の量は、次の通りである。
−充填剤、好ましくはHAについて、0.05mg/体重kg〜2mg/体重kg。これは5mg〜100mgに相当する。
−アドレナリン受容体アゴニスト、好ましくはブリモニジンについて、5.10−3μg〜0.8mg/体重kg。これは0.5μg〜40mgに相当する。
【0048】
好ましい実施形態では、注射用の特許請求の範囲に記載される組成物の体積は、0.1〜10ml、一般に0.5〜4mlで変化する。好ましくは、前記体積は、単回用量シリンジとして提示される。前記注射は、例えば4〜18ヶ月後に繰り返すことができる。
【0049】
本発明の別の態様は、本発明の全身製剤をラベルと使用説明書とともに適した容器中に含む製造品である。容器は、有利には単回用量シリンジである。
【0050】
好ましくは、説明書は、本発明の製剤とともに包装され、それは例えば、パンフレットまたは包装ラベルである。ラベル表示される説明書は、患者を処置するために十分な量および時間で本発明の製剤を投与するための方法を説明する。好ましくは、ラベルには、投薬量および投与説明書、製剤の組成、臨床薬理学、薬剤耐性、薬物動態、吸収、バイオアベイラビリティ、および禁忌症が含まれる。
【0051】
特許請求の範囲に記載される注射可能な組成物は、次に、前記組成物を含むシリンジを含むキットに組み込むことができる。前記キットにおいて、2つの有効成分、すなわち充填剤とアドレナリン受容体アゴニストは、一つのシリンジに含まれる一つの混合物として提示されてもよいし、または即時混合するための2つの別々のシリンジに含めてもよい。
【0052】
特許請求の範囲に記載される組成物は、有利には有効成分を保持するために適した条件で滅菌される。
【0053】
既に上に述べたように、特許請求の範囲に記載される組成物は、皮膚欠損、特に深いしわ、小じわ、皮膚陥凹および瘢痕の予防および/または処置にささげられる。それは、美容または治療上の処置に関する。
【0054】
本発明によれば、特許請求の範囲に記載される組合せの主な利点が、特に皮膚充填剤の注射に関連する紅斑、斑状出血、挫傷または出血を低下させるか、減少させるか、または回避することであることが示された。
【0055】
特許請求の範囲に記載される組成物のその他の利点になり得る点は、次の通りである。
−組成物が麻酔薬、例えばリドカインをさらに含む場合、前記麻酔薬の効率が改善される。αアドレナリン受容体アゴニストによりもたらされる血管収縮作用は、広い範囲での麻酔薬の拡散を制限し、そのため麻酔薬を厳密な注射部位で効率的にする。
−炎症を減少させることにより、おそらく充填剤の分解が遅くなったことが原因で、充填剤がより長く持続する。充填剤が炎症性であればあるほど、組織反応はより重度となり、炎症性種のレベルはより高くなる、従って充填剤をより速く分解する。血管収縮分子を充填剤の中に導入することにより、炎症性種の誘引(attraction)を注射部位に制限できる。
−浮腫および腫脹の減少が観察される。先の利点と同じ理由で、充填剤の血管収縮活性は、注射に反応して液体の激しい流入を制限する、そのため注射部位の近くの液体の集中を妨げる。
【0056】
より一般的には、特許請求の範囲に記載される組成物は、次には注射が原因の全ての望ましくない皮膚反応(即時および/または二次的)を低下させる、減少させるまたは回避することを意図する。それには、実際に斑状出血、挫傷または出血が含まれるが、おそらく発赤、紅斑、浮腫、壊死、潰瘍、腫脹および炎症も含まれる。
【0057】
2つの有効成分を含有する特許請求の範囲に記載される組成物は、同時に、別々にまたは順次に使用されてよい。言い換えれば、本発明は、一定量のアドレナリン受容体アゴニスト、好ましくはブリモニジンとして知られている生成物を、充填剤、好ましくはヒアルロン酸と組み合わせる部品のキットを提供する。
【0058】
上記に加えて、以下の実施例は、特定の実施形態を説明するために提供されるものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】充填剤単独(試験1)と比較した、特許請求の範囲に記載される組成物(試験2)についての0日目〜8日目の刺激性一次指標(Irritating Primary Index)(IPI)の変化を示す図である。
【図2】充填剤単独(試験1)と比較した、特許請求の範囲に記載される組成物(試験2)についての8日目の炎症性反応の総スコアを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
ウサギにおける充填剤の皮内注射の後にブリモニジンが刺激作用を生じる可能性を評価するために、リドカインおよびRADACT014という名称の血管収縮薬(ブリモニジン)を含有するヒアルロン酸に基づく皮膚充填剤の皮内テストを実施した。
【0061】
2匹の成体ウサギに、皮内経路により、0.2mLの試験生成物RADACT014(試験2)、NaCl 0.9%(試験5:陰性対照)および10LDEEP010(RADACT014と同じヒアルロン酸充填剤であるが、リドカインもブリモニジンも含まない;試験1:陽性対照)を投与した。
【0062】
ブリモニジンを含有する充填剤(バッチRADACT014(試験2))によって得た結果を、ブリモニジンを含まない皮膚充填剤(陽性対照:試験1)と比較する。
【0063】
これらの部位を、注射後0日から8日まで、組織反応の肉眼的証拠、例えば紅斑、浮腫および壊死などについて調べ(図1)、8日目に犠牲にした後に顕微鏡的な組織応答の観察を行った(図2)。
【0064】
研究は、ISO10993基準:医療用具の生物学的評価、第10部:刺激作用および遅延型過敏症のための試験の要件に従って行った。
【0065】
[材料および方法]
(対照架橋ヒアルロン酸充填剤:10LDEEP010の調製)
架橋ヒアルロン酸充填剤10LDEEP010(試験1)は、約2〜4×10Daの高分子量を特徴とする細菌由来のヒアルロン酸ナトリウムを25%のBDDEで架橋することによって得た。架橋の終わりに、03%の濃度に達するように塩酸リドカインを架橋ヒアルロン酸に添加した。リドカインの均質なブレンドは、混合物をメッシュに通して押出することによって得られる。得られたゲルを20mg/mLの濃度で1mLシリンジに充填し、蒸気滅菌した。
【0066】
(ブリモニジンを含有する対照架橋ヒアルロン酸充填剤:RADACT014の調製)
同一の架橋条件を、同一のヒアルロン酸に適用してリドカインを含まない充填剤を得た。並行して、8gのNaOHおよび42gの精製水を用いて4N水酸化ナトリウム溶液を調製した。ブリモニジンおよびリドカインを含有する別の溶液を、0.22gの酒石酸ブリモニジンおよび0.33gの塩酸リドカインを9.45mLのリン酸緩衝液に溶解することによって得た。NaOH溶液を用いてpHを6に調整した。次に、ブリモニジンおよびリドカイン溶液を0.22μmで濾過した。
【0067】
ブリモニジンおよびリドカインを含有する充填剤は、RADACT014(試験2)と呼ばれ、2つの活性剤および50gの前の架橋ヒアルロン酸ゲルを含有する溶液5gを、3つのステップ、すなわち5分間の機械的混合、それに続いて15分間の休止、その後さらに5分間の混合に分けて穏やかに混合することによって得た。得られたゲルを1mLシリンジに充填し、蒸気滅菌した。ヒアルロニダーゼ消化の後の活性剤の終濃度は、ブリモニジンについてHPLC−MS−MSにより0.16%、リドカインについてHPLCにより0.29%と決定した。
【0068】
(即時有害事象の減少の調査)
RADACT014による刺激作用の減少の可能性を、ISO10993−10の要件:医療用具の生物学的評価−刺激作用および遅延型過敏症のための試験の要件に従って実施された動物実験において評価した。
【0069】
(実験プロトコール)
0日目(D0)に、2匹の成体ウサギに、皮内経路により、27G針を用いて注入された0.2mLの試験生成物(試験1:10LDEEP010および試験2:RADACT014)ならびに陰性対照(試験5:生理食塩水)を投与した。これらの条件において、各生成物について4つの部位が注射された。
【0070】
次に、注射された部位を、紅斑、浮腫、潰瘍および壊死などの組織反応の肉眼的証拠について、0日目から8日目まで1日2回調べ、次の基準をもつスコアとした。
【0071】
【表1】

【0072】
8日目に、動物を安楽死させ、注射部位を収集し、組織学的解析のために固定した。顕微鏡分析を実施して、次の基準を評価した。
【0073】
【表2】

【0074】
(結果の活用)
この実験において、浮腫も壊死も生じなかった。さらに、10LDEEP010だけが軽微な持続性の潰瘍を2日目から8日目まで示した。
【0075】
1.刺激性一次指標(IPI)
試験生成物のIPIは、以下のように、観察時間ごとに決定される。
IPI試験=Σ(浮腫スコア+紅斑スコア)/観察数−IPI陰性対照
陰性対照は、試験5、すなわち生理食塩水である
各観察時間に対してIPI陰性対照は0と見積もる。
得られた結果を図1に示す。
10LDEEP010(試験1)は、実験の間、刺激作用指標の最大値を示した。指標は0日目と1日目の間に増加し、その後安定した状態を保った。この生成物は非常に刺激性である。
試験2の生成物は、RADACT014と呼ばれ、ブリモニジンを含有しており、IPIの最低値を示した。指標は0日目と2日目の間に増加し、その後7日目まで安定し、最終的に8日目減少した。
RADACT014は、3日目から皮膚充填剤の炎症効果の減少を明白かつ持続的な方法で示しており、従って刺激作用に関してブリモニジンのプラスの効果を実証している。
【0076】
2.組織学的解析
炎症の総スコアを、局所耐性−代表的な細胞種および量に従って組織学的観察から決定した。図2は、各々の生成物の炎症の総スコアを表す。8日目に、中等度(10LDEEP010)から限られた(RADACT014)炎症性浸潤が示され、主な細胞集団はマクロファージと少数の好酸球であった。陰性対照(生理食塩水、試験5)について特異的反応は観察されなかった。
【0077】
3.結論
この実験は、皮膚区画に注射された皮膚充填剤(試験1:10LDeep010)が多少の炎症応答と軽微な潰瘍を誘発することを示した。活性分子(ブリモニジン)をこの種類の皮膚充填剤(RADACT014)に組み込むことにより、炎症応答を減らすことが可能である。肉眼的証拠(紅斑、浮腫、潰瘍および壊死)および組織学的分析の両方が、充填剤と組み合わせたブリモニジン分子によりもたらされる利点を実証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填剤またはボツリヌス毒素と、
α−アドレナリン受容体アゴニストと
を含む注射可能な組成物。
【請求項2】
前記アドレナリン受容体アゴニストが、α2−アドレナリン受容体アゴニスト、好ましくはブリモニジンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記充填剤が、ヒアルロン酸である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、麻酔薬、好ましくはリドカインをさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、
前記組成物の1重量%〜2.5重量%に相当する充填剤、好ましくはHAと、
前記組成物の0.0001重量%〜1重量%に相当するアドレナリン受容体アゴニスト、好ましくはブリモニジンと、
任意選択的に、前記組成物の0.01重量%〜3重量%に相当する麻酔薬と
を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
シリンジを含み、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物を含有するキット。
【請求項7】
皮膚欠損、特に、深いしわ、小じわ、皮膚陥凹および瘢痕を予防または処置する際に用いるための、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物または請求項6に記載のキット。
【請求項8】
それを必要とする個人に請求項1〜5のいずれかに記載の組成物を注入することによる、皮膚欠損、特に、深いしわ、小じわ、皮膚陥凹および瘢痕を予防または処置するための美容方法。
【請求項9】
注射が原因の皮膚反応、特に発赤、斑状出血、挫傷、出血、紅斑、浮腫、壊死、潰瘍、腫脹および/または炎症を低下させる、減少させる、または回避する際に用いるための、請求項7に記載の組成物またはキット。
【請求項10】
注射が原因の皮膚反応、特に発赤、斑状出血、挫傷、出血、紅斑、浮腫、壊死、潰瘍、腫脹および/または炎症を低下させる、減少させる、または回避するための、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
同時、個別または順次の使用のための複合製剤としての、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
皮膚欠損、特に、深いしわ、小じわ、皮膚陥凹および瘢痕を予防または処置するための、同時、個別または順次の使用のための複合製剤としての、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
注射が原因の皮膚反応、特に発赤、斑状出血、挫傷、出血、紅斑、浮腫、壊死、潰瘍、腫脹および/または炎症を低下させる、減少させる、または回避するための、同時、個別または順次の使用のための複合製剤としての、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−528132(P2012−528132A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512406(P2012−512406)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057493
【国際公開番号】WO2010/136594
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511288692)
【出願人】(599045604)ガルデルマ・リサーチ・アンド・デヴェロップメント (117)
【Fターム(参考)】