説明

注射用ボツリヌス毒素製剤

本発明は、様々な治療目的、美的目的及び/又は美容目的のために、対象に投与することができる、ボツリヌス毒素を含む新規の注射用組成物を提供する。本発明によって企図される注射用組成物は、抗原性の低減、注射後に望まれない局所的拡散をする傾向の低減、臨床的効力の継続時間の増大又は相対的な効力の増強、臨床的効力のより速い開始、及び/又は安定性の改善を含む、従来のボツリヌス製剤に対する1又は2以上の利点を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願
本願は、2008年12月31日に出願された米国仮特許出願第61/142,063号の、米国特許法第119条の下での優先権の利益を主張し、その内容全体は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、様々な治療目的、美的目的及び/又は美容目的のために対象に投与することができるボツリヌス毒素を含む新規の注射用組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
皮膚は、外部環境の脅威から体の臓器を保護し、体温を維持するためのサーモスタットとして作用する。これは、いくつかの異なる層からなり、それぞれは、特殊化された機能を有する。主要な層には、表皮、真皮、及び皮下組織が含まれる。表皮は、真皮の上に重なる上皮細胞の重層化した層であり、真皮は、結合組織からなる。表皮及び真皮はともに、脂肪組織の内部層である皮下組織によってさらに支持されている。
【0004】
皮膚の一番上の層である表皮は、厚さがわずか0.1〜1.5ミリメートルである。(Inlander, Skin, New York, N.Y.: People's Medical Society, 1-7 (1998))。これは、ケラチノサイトからなり、それらの分化の状態に基づいていくつかの層に分けられる。表皮は、角質層と、顆粒メルピギー(granular melphigian)及び基底細胞からなる成長可能な表皮とにさらに分類することができる。角質層は吸湿性であり、その柔軟性及び軟度を維持するために少なくとも10重量%の水分を必要とする。吸湿性は、ケラチンの水保持能力にある程度起因する。角層がその軟度及び柔軟性を失うと、これは粗く且つ脆くなり、乾燥肌をもたらす。
【0005】
表皮の真下にある真皮は、厚さが1.5〜4ミリメートルである。これは、皮膚の3つの層のうちで最も厚い。汗腺及び脂腺(これは、孔又は面皰と呼ばれる皮膚の開口部を通じて物質を分泌する)、毛嚢、神経終末、並びに血管及びリンパ管を含めた皮膚構造のほとんどは、真皮内に見出される(Inlander, Skin, New York, N.Y.: People's Medical Society, 1-7 (1998))。しかし、真皮の主成分は、コラーゲン及びエラスチンである。
【0006】
皮下組織は、皮膚の最深層である。これは、体熱を保存するための断熱材、及び臓器を保護するための衝撃吸収剤の両方として作用する(Inlander, Skin, New York, N.Y.: People's Medical Society, 1-7 (1998))。さらに、皮下組織は、エネルギーを蓄えるための脂肪も貯蔵する。皮膚のpHは通常、5〜6である。この酸性度は、皮脂腺の分泌物に由来する両性アミノ酸、乳酸、及び脂肪酸の存在によるものである。用語「酸外套」は、皮膚のほとんどの領域上の水溶性物質の存在を指す。皮膚の緩衝能は、皮膚の角層内に貯蔵されるこれらの分泌物にある程度起因する。
【0007】
加齢の明らかな徴候の1つであるしわは、皮膚の環境損傷から蓄積する生化学的、組織学的、及び生理学的変化によって生じ得る。(Benedetto, "International Journal of Dermatology," 38:641-655 (1999))。さらに、顔のしわ(wrinkle)の特徴的なしわ(fold)、溝、及びしわ(crease)を引き起こす場合のある他の二次的要因が存在する(Stegman et al., The Skin of the Aging Face Cosmetic Dermatological Surgery, 2nded., St. Louis, Mo.: Mosby Year Book: 5-15 (1990))。これらの二次的要因には、重力の絶え間のない引っ張り、皮膚への頻繁で絶え間のない位置的圧力(例えば、睡眠の間)、及び顔面筋の収縮によって引き起こされる顔の動きの繰返しが含まれる(Stegman et al., The Skin of the Aging Face Cosmetic Dermatological Surgery, 2nd ed., St. Louis, Mo.: Mosby Year Book: 5-15 (1990))。
【0008】
加齢の徴候の一部を潜在的に和らげるために、様々な技法が利用されている。これらの技法は、αヒドロキシ酸及びレチノールを含有する顔用保湿剤から、外科手術、並びに神経毒の注射まで及ぶ。例えば、1986年に、眼形成(ocuplastic)外科医及び皮膚科医からなる夫婦チームのJean及びAlastair Carruthersは、眉間範囲における動きに関連するしわを治療するために、タイプA型のボツリヌス毒素を使用する方法を開発した(Schantz and Scott, In Lewis G. E. (Ed) Biomedical Aspects of Botulinum, New York: Academic Press, 143-150 (1981))。しわを治療するためにタイプA型のボツリヌス毒素をCarrutherらが使用したことにより、この手法に関する影響力ある刊行物が1992年に発表された(Schantz and Scott, In Lewis G. E. (Ed) Biomedical Aspects of Botulinum, New York: Academic Press, 143-150 (1981))。1994年までに、同じチームが、顔面上の他の動きに関連するしわの経験を報告した(Scott, Ophthalmol, 87:1044-1049 (1980))。これはさらには、タイプA型のボツリヌス毒素を使用する美容治療の時代を誕生させた。
【0009】
タイプA型のボツリヌス毒素は、人類が知る最も致死性の天然生物剤であることが報告されている。C.ボツリヌス(C. botulinum)の胞子は、土壌中に見出され、滅菌が不適切な密閉食物容器内で成長することができる。致命的となり得るボツリヌス中毒は、細菌の摂取によって生じ得る。ボツリヌス毒素は、神経筋接合部にわたるアセチルコリンの放出を阻害することにより、シナプス伝達を妨げることによって筋肉の麻痺を生じるように作用し、他の様式でも同様に作用すると考えられている。その作用は、通常、筋痙攣又は筋収縮を引き起こすシグナルを本質的に遮断し、麻痺をもたらす。過去10年の間に、ボツリヌス毒素の筋肉麻痺活性が利用されることによって、様々な治療効果が実現された。ボツリヌス毒素の制御された投与は、筋肉を麻痺させることによって、様々な医学的状態、例えば、機能亢進性骨格筋を特徴とする神経筋障害を治療するために使用されている。ボツリヌス毒素を用いて治療されている状態として、片側顔面痙攣、成人発症型痙性斜頚、裂肛、眼瞼痙攣、脳性麻痺、頚部ジストニア、片頭痛、斜視、側頭下顎関節障害、並びに様々な型のこむら返り及び痙攣が挙げられる。さらに最近では、ボツリヌス毒素の筋肉麻痺効果は、しわ、眉間しわ線、及び顔面筋の痙攣又は収縮の他の結果の治療などの治療的及び美容的顔面用途に適用されている。
【0010】
タイプA型のボツリヌス毒素に加えて、グラム陽性菌のクロストリジウム・ボツリヌス(Clostridium botulinum)によって同様に産生される、7つの他の血清学的に異なる型のボツリヌス毒素が存在する。これらの8つの血清学的に異なるタイプのボツリヌス毒素のうち、麻痺を引き起こすことができる7つは、ボツリヌス毒素血清型A、B、C、D、E、F、及びGと命名されている。これらのそれぞれは、タイプ特異的抗体を用いた中和によって識別される。ボツリヌス毒素タンパク質のそれぞれの分子量は、約150kDである。ボツリヌス毒素の分子サイズ及び分子構造のために、ボツリヌス毒素は、角質層及び下にある皮膚構造の複数の層を横断することができない。異なる血清型のボツリヌス毒素は、用いられる動物種によって、その効果、並びにこれらが誘起する麻痺の重症度及び継続時間が異なる。例えば、ラットにおいて、ボツリヌス毒素タイプAは、麻痺の度合いによって測定した場合、ボツリヌス毒素タイプBより500倍強力であると判定された。さらに、ボツリヌス毒素タイプBは、タイプAについての霊長類のLD50の約12倍である480U/kgの用量で、霊長類において無毒性であると判定された。
【0011】
クロストリジウム・ボツリヌス細菌によって放出されるボツリヌス毒素は、付随する非毒素タンパク質とともに、約150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含有する毒素複合体の成分である。これらの内因性非毒素タンパク質は、血球凝集素タンパク質のファミリー、並びに非血球凝集素タンパク質を含むと考えられている。非毒素タンパク質は、毒素複合体中のボツリヌス毒素分子を安定化させ、毒素複合体が摂取されるとき、ボツリヌス毒素分子が消化酸によって変性されることから保護することが報告されている。したがって、毒素複合体の非毒素タンパク質は、毒素複合体が胃腸管を介して投与される場合、ボツリヌス毒素の活性を保護し、それによって全身的浸透を増強する。さらに、いくつかの非毒素タンパク質は、血液中でボツリヌス毒素分子を特に安定化させると考えられている。
【0012】
毒素複合体中の非毒素タンパク質の存在は一般に、毒素複合体が、以前に述べたように約150kDである裸のボツリヌス毒素分子の分子量より大きい分子量を有する原因となる。例えば、クロストリジウム・ボツリヌス細菌は、約900kD、500kD、又は300kDの分子量を有するボツリヌスタイプA毒素複合体を産生することができる。ボツリヌス毒素タイプB及びCは、約700kD又は約500kDの分子量を有する複合体として産生される。ボツリヌス毒素タイプDは、約300kD又は500kDの分子量を有する複合体として産生される。ボツリヌス毒素タイプE及びFは、約300kDの分子量を有する複合体としてのみ産生される。
【0013】
ボツリヌス毒素にさらなる安定性をもたらすために、毒素複合体は従来、製造の間に複合体をアルブミンと組み合わせることによって安定化される。例えば、BOTOX(登録商標)(Allergan, Inc.社製、Irvine、CA)は、アクセサリータンパク質、0.5ミリグラムのヒトアルブミン、及び0.9ミリグラムの塩化ナトリウムとともに100UのタイプAボツリヌス毒素を含有するボツリヌス毒素含有製剤である。アルブミンは、製造、輸送、貯蔵、及び投与に関連するものを含めた異種環境中で、毒素複合体に結合し、これを安定化させるように機能を果たす。
【0014】
一般に、ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素複合体及びアルブミンを含有する組成物の慎重に制御された注射によって患者に投与される。しかし、この手法に関連するいくつかの問題が存在する。所望の治療効果又は美容効果を実現するためには、注射が苦痛であるだけでなく、注射部位の周囲に、典型的には大きな、毒素の皮下原泉(well)が局所的に生成される。ボツリヌス毒素は、これらの皮下原泉から移動することによって、体の周囲範囲内に望まれない麻痺を引き起こす場合がある。この問題は、治療されるべき範囲が大きく、その範囲を治療するのに、毒素の多くの注射が必要とされる場合悪化する。さらに、注射される毒素複合体は、ボツリヌス毒素を安定化させ、毒素複合体の分子量を増大させる非毒素タンパク質及びアルブミンを含有するので、毒素複合体は、体内で長い半減期を有し、患者において望ましくない抗原性応答を引き起こす場合がある。例えば、一部の患者は、現在の市販の製剤中で安定剤として使用されるアルブミンに対してアレルギーを経時的に発症する。また、毒素複合体は、患者の免疫系を誘発することによって中和抗体を形成する場合があり、その結果、同じ効果を実現するのに、その後の投与においてより大量の毒素が必要とされる。これが起こる場合、その後の注射は、こうした注射により、患者の血流中に大量の毒素が放出されないように慎重に行わなければならず、大量の毒素が放出されると、特に非毒素タンパク質及びアルブミンは、血液中でボツリヌス毒素を安定化させるので、致命的な全身性の毒作用に至る場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Inlander, Skin, New York, N.Y.: People's Medical Society, 1-7 (1998)
【非特許文献2】Benedetto, "International Journal of Dermatology," 38:641-655 (1999)
【非特許文献3】Stegman et al., The Skin of the Aging Face Cosmetic Dermatological Surgery, 2nd ed., St. Louis, Mo.: Mosby Year Book: 5-15 (1990)
【非特許文献4】Schantz and Scott, In Lewis G. E. (Ed) Biomedical Aspects of Botulinum, New York: Academic Press, 143-150 (1981)
【非特許文献5】Scott, Ophthalmol, 87:1044-1049 (1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
現在のボツリヌス毒素製剤に関連する欠点を考慮すると、効果的で安定であるが、低減された抗原性、及び注射後の局所的拡散傾向がより低い注射用ボツリヌス毒素製剤を有することが非常に望ましい。様々な治療目的、美的目的及び/又は美容目的のためにそのようなボツリヌス毒素製剤を使用することも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、正に帯電した担体分子と非共有結合的に会合したボツリヌス毒素を含む注射用組成物を提供する。好適な実施形態では、本発明の組成物は、従来の市販のボツリヌス毒素製剤、例えば、BOTOX(登録商標)又はMYOBLOC(登録商標)などに対して1又は2以上の利点を有する。例えば、ある特定の実施形態では、この組成物は、抗原性の低減、注射後に周囲組織中に拡散する傾向の低減、従来のボツリヌス毒素製剤と比べた、臨床的効力の継続時間の増大又は効力の増強、臨床的効力のより速い開始、及び/又は安定性の改善を含む、従来の注射用ボツリヌス製剤に対する1又は2以上の利点を示すことができる。
【0018】
本発明の一態様は、ある特定の非天然分子(すなわち、クロストリジウム・ボツリヌス細菌から得られるボツリヌス毒素複合体中に見出されない分子)を、ボツリヌス毒素、ボツリヌス毒素複合体、特に、低減されたボツリヌス毒素(reduced botulinum toxin)複合体(本明細書に定義されるような)に付加することによって、組織を通じた毒素の拡散を改善することができるという認識である。この非天然分子は、毒素と非共有結合的に会合し、毒素が、注射後に標的構造に到達する能力を改善する浸透エンハンサーとして作用する。さらに、この非天然分子は、注射前後の毒素の安定性を増大させることができる。例として、浸透エンハンサーは、陽イオンペプチドなどの正に帯電した担体とすることができ、これは、固有のボツリヌス毒素様活性をまったく有さず、しかも、本明細書に記載されるような1又は2以上のタンパク質トランスダクションドメインを含有する。
【0019】
本発明の別の実施形態は、ボツリヌス毒素、ボツリヌス毒素複合体(又は150kDの神経毒自体のみ、若しくは天然複合タンパク質のいくつかを含むが、すべてを含まない神経毒を含む低減されたタンパク質ボツリヌス毒素(reduced protein botulinum toxin)複合体)、及び正に帯電した担体を含む組成物を提供することである。
【0020】
本発明はさらに、そのような治療を必要とする対象又は患者に、有効量の本発明の組成物を注射することによって、生物学的効果を生じさせるための方法に関する。生物学的効果として、例えば、筋肉麻痺、過分泌若しくは発汗の低減、神経性疼痛若しくは片頭痛の治療、鼻炎若しくは副鼻腔炎の管理、機能亢進性膀胱の治療、筋痙攣の低減、ざ瘡の予防若しくは低減、免疫応答の低減若しくは増強、しわの低減、又は様々な他の障害の予防若しくは治療を挙げることができる。
【0021】
本発明は、ボツリヌス毒素、ボツリヌス毒素複合体、若しくは低減されたタンパク質ボツリヌス毒素複合体、及び正に帯電した担体を含有する製剤、又はそのような製剤を生成するのに続いて使用することができるプレミックスを調整するためのキットも提供する。ボツリヌス毒素複合体(又は、150KDの神経毒自体のみ、若しくはいくつかの天然の複合タンパク質を含む神経毒を含む低減されたボツリヌス毒素複合体)、及び正に帯電した担体を順次投与するための手段を含有するキットも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】RT003又はBOTOX(登録商標)を繰り返して投与した後に、ベースラインのDAS値(0.4)に戻るのに必要とされる時間を示す棒グラフの図である。
【図2】図2Aは、正中の側方(lateral-to-midline)の注射によって影響されているマウスの腓腹筋の一部を示すために、暗い染料を注射されたマウスの後肢を示す図である。図2Bは、正中注射によって影響されているマウスの腓腹筋の一部を示すために、暗い染料を注射されたマウスの後肢を示す図である。
【図3】マウスの腓腹筋の正中の側方又は正中に、RT003、RTT150、又はBOTOX(登録商標)を注射した後の、時間の関数として測定した指外転スコア(digital abduction score)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、ボツリヌス毒素、ボツリヌス毒素複合体、又は低減されたボツリヌス毒素複合体を含む新規の注射用組成物に関する。好適な実施形態では、この組成物は、毒素を安定化させ、又は注射後に組織を通じて毒素を輸送若しくは送達することを可能にし、その結果毒素は、外因性アルブミンに結合された、従来の市販のボツリヌス毒素複合体(例えば、BOTOX(登録商標)又はMYOBLOC(登録商標))と比較して、低減された抗原性、より良好な安全性プロファイル、増強された効力、臨床的効力のより速い開始及び/又は臨床的効力のより長い継続時間を有する。本発明の組成物は、本明細書に記載されるように、様々な治療目的、美的目的、及び/又は美容目的のために、対象にボツリヌス毒素を供給するための注射用用途として使用することができる。本発明の組成物は、他の組成物に対して改善された安全性プロファイル、及びボツリヌス毒素の送達方法も有する。さらに、これらの組成物は、ボツリヌス毒素に対する免疫応答の有益な低減をもたらすことができる。
【0024】
用語「ボツリヌス毒素」は、本明細書で使用する場合、細菌によって産生されるものであっても、組換え技法によって生成されるものであっても、任意の既知のタイプのボツリヌス毒素(例えば、C.ボツリヌスの様々な血清型に関連する150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子)、並びに新しく発見される血清型、及び操作される変異体又は融合タンパク質を含めて、引き続いて発見され得る任意のタイプを指すことができる。上述したように、現在、7つの免疫学的に異なるボツリヌス神経毒、すなわちボツリヌス神経毒血清型A、B、C、D、E、F、及びGが特徴づけられており、そのそれぞれは、タイプ特異的抗体を用いた中和によって識別される。ボツリヌス毒素血清型は、例えば、Sigma-Aldrich(St. Louis、Mo.)、及びMetabiologics, Inc.(Madison、Wis.)、並びに他の供給源から市販されている。ボツリヌス毒素の様々な血清型は、これらが影響する動物種、並びにこれらが誘起する麻痺の重症度及び継続時間において異なる。ボツリヌス毒素の少なくとも2つのタイプ、すなわちタイプA及びBが、ある特定の状態を治療するための製剤として市販されている。タイプAは、例えば、商標BOTOX(登録商標)を有するAllergan、及び商標DYSPORT(登録商標)を有するIpsenの製剤中に含まれており、タイプBは、商標MYOBLOC(登録商標)を有するElanの製剤中に含まれている。
【0025】
本発明の組成物中に使用される用語「ボツリヌス毒素」はまた、ボツリヌス毒素誘導体、すなわち、ボツリヌス毒素活性を有するが、天然に存在するボツリヌス毒素又は組換え天然ボツリヌス毒素と比べて、任意の部分上又は任意のアミノ酸鎖上に、1又は2以上の化学的又は機能的変化を含有する化合物を指すことができる。例えば、ボツリヌス毒素は、天然型と比較した場合に、そのアミノ酸の少なくとも1つで欠失、修飾、又は置換された神経毒である修飾神経毒とすることができ、或いは修飾神経毒は、組換えで生成された神経毒、又はその誘導体若しくは断片とすることができる。例えば、ボツリヌス毒素は、例えば、その特性を増強し、又は望ましくない副作用を減少させるが、依然として所望のボツリヌス毒素活性を保持する様式で修飾されたものとすることができる。或いは、本発明で使用されるボツリヌス毒素は、組換え技法又は合成化学技法を使用して調製される毒素、例えば、組換えペプチド、融合タンパク質、又は例えば、異なるボツリヌス毒素血清型のサブユニット若しくはドメインから調製されるハイブリッド神経毒とすることができる(例えば、米国特許第6,444,209号明細書を参照)。ボツリヌス毒素は、必要なボツリヌス毒素活性を有することが示され、そのような場合、それ自体で、又は組合せ若しくはコンジュゲート分子、例えば、融合タンパク質の一部として使用することができる、全分子の一部とすることもできる。或いは、ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素前駆体の形態とすることができ、これは、それ自体無毒性の、例えば、タンパク質分解的切断で毒性となる無毒性亜鉛プロテアーゼとすることができる。
【0026】
用語「ボツリヌス毒素複合体」又は「毒素複合体」は、本明細書で使用する場合、付随する内因性非毒素タンパク質(すなわち、クロストリジウム・ボツリヌス細菌によって産生される血球凝集素タンパク質及び非毒素非血球凝集素タンパク質)を伴った、約150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子(ボツリヌス毒素血清型A〜Gのいずれか1つに属する)を指す。しかし、ボツリヌス毒素複合体は、1つの単位の毒素複合体として、クロストリジウム・ボツリヌス細菌に由来する必要はないことに留意されたい。例えば、ボツリヌス毒素又は修飾ボツリヌス毒素を組換えで最初に調製し、次いで引き続いて非毒素タンパク質と組み合わせることができる。組換えボツリヌス毒素を購入し(例えば、List Biological Laboratories、Campbell、Ca.から)、次いで非毒素タンパク質と組み合わせることもできる。
【0027】
本発明は、1又は2以上の外因性安定剤の添加、内因性安定剤の除去、又はこれらの組合せを通じて、ボツリヌス毒素分子の安定性を調節することも企図する。例えば、本発明は、「低減されたボツリヌス毒素複合体」の使用を企図し、このボツリヌス毒素複合体は、クロストリジウム・ボツリヌス細菌によって産生されるボツリヌス毒素複合体中に天然に見出される量と比較して、低減された量の非毒素タンパク質を有する。一実施形態では、低減されたボツリヌス毒素複合体は、任意の従来のタンパク質分離方法を使用することによって、クロストリジウム・ボツリヌス細菌に由来するボツリヌス毒素複合体から、血球凝集素タンパク質又は非毒素非血球凝集素タンパク質の画分を抽出して調製される。例えば、低減されたボツリヌス毒素複合体は、pH7.3で赤血球に曝すことにより、ボツリヌス毒素複合体を分離することによって生成することができる(例えば、参照により本明細書に組み込まれている、EP1514556A1を参照)。HPLC、透析、カラム、遠心分離、及びタンパク質からタンパク質を抽出するための他の方法を使用することができる。或いは、低減されたボツリヌス毒素複合体が、合成で生成されるボツリヌス毒素を非毒素タンパク質と組み合わせることによって生成される場合、天然に存在するボツリヌス毒素複合体に存在すると思われるものより少ない血球凝集素又は非毒素非血球凝集素タンパク質を混合物に単に添加することができる。本発明による低減されたボツリヌス毒素複合体中の非毒素タンパク質のいずれも(例えば、血球凝集素タンパク質若しくは非毒素非血球凝集素タンパク質、又は両方)、独立して任意の量を低減することができる。ある特定の例示的な実施形態では、1又は2以上の非毒素タンパク質は、ボツリヌス毒素複合体中に通常見出される量と比較して、少なくとも約0.5%、1%、3%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%低減される。上述したように、クロストリジウム・ボツリヌス細菌は、7つの異なる血清型の毒素を産生し、市販の製剤は、様々な相対的量の非毒素タンパク質(すなわち、様々な量の毒素複合体)を用いて製造される。例えば、MYOBLOC(商標)は、0.05%のヒト血清アルブミン、0.01Mのコハク酸ナトリウム、及び0.1Mの塩化ナトリウムとともに、1ml当たり5000Uのボツリヌス毒素タイプBを有する。DYSPORT(商標)は、125mcgのアルブミン及び2.4mgのラクトースとともに、500Uのボツリヌス毒素タイプA−血球凝集素複合体を有する。ある特定の実施形態では、クロストリジウム・ボツリヌス細菌に由来するボツリヌス毒素複合体中に通常見出される、実質的にすべての非毒素タンパク質(例えば、血球凝集素タンパク質及び非毒素非血球凝集素タンパク質の95%、96%、97%、98%、又は99%超)が、ボツリヌス毒素複合体から除去される。さらに、内因性非毒素タンパク質の量は、いくつかの場合では同じ量を低減することができるが、本発明は、内因性非毒素タンパク質のそれぞれを異なる量で低減すること、並びに内因性非毒素タンパク質の少なくとも1つを低減するが、他のものは低減しないことも企図する。
【0028】
上述したように、外因性安定剤(例えば、アルブミン)は、ボツリヌス毒素製剤を安定化するために一般に添加される。例えば、BOTOX(登録商標)の場合では、複合体を安定化するために、タイプAボツリヌス毒素複合体100U当たり、0.5mgのヒトアルブミンを添加する。一般に、本発明による組成物を安定化するために添加することができる外因性安定剤の量は、特に制限されない。いくつかの実施形態では、添加される安定剤の量は、本発明の正に帯電した担体が、それ自体で安定剤として作用する能力のために慣例的に添加される量未満とすることができる。例えば、添加される外因性アルブミンの量は、従来の1000倍過剰の外因性アルブミンより少ない任意の量とすることができ、本発明のある特定の例示的な実施形態では、ボツリヌス毒素100U当たり、わずか約0.25、0.20、0.15、0.10、0.01、0.005、0.001、0.0005、0.00001、0.000005、0.000001、又は0.0000001mgである。一実施形態では、外因性アルブミンは、本発明の組成物に安定剤としてまったく添加されない。
【0029】
本発明によれば、タンパク質トランスダクションドメイン、又は効率基(efficiency group)を有する正に帯電した担体分子は、本明細書に記載されるように、ボツリヌス毒素のための輸送システムとして適しており、筋肉及び/又は他の皮膚に関連する構造などの標的構造に、浸透の改善を伴って注射されることを可能にすることが見出された。輸送は、ボツリヌス毒素の共有結合性修飾を伴うことなく起こる。ボツリヌス毒素の浸透を増強することに加えて、本発明の正に帯電した担体は、ある特定の好適な実施形態では、分解に対してボツリヌス毒素を安定化することができる。そのような実施形態では、ボツリヌス毒素を安定化させるために通常存在する血球凝集素タンパク質及び非毒素非血球凝集素タンパク質は、低減し、又は完全に省くことができる。同様に、製造の間に通常添加される外因性アルブミンも省くことができる。
【0030】
用語「担体」に関連して用語「正に帯電した」又は「陽イオン性の」を使用することにより、担体が、少なくとも何らかの溶液相条件下で、より好ましくは、少なくとも何らかの生理学的に適合性の条件下で、正電荷を有することを意味する。より具体的には、「正に帯電した」及び「陽イオン性の」は、本明細書で使用する場合、対象の基、例えば、4級アミンが、すべてのpH条件下で帯電している機能性を含有し、又は1級アミンの場合におけるpH変化などのある特定の溶液相条件下で、正電荷を獲得することができる機能性を含有することを意味する。より好ましくは、「正に帯電した」又は「陽イオン性の」は、本明細書で使用する場合、生理学的に適合性の条件にわたって、陰イオンと会合する挙動を有する基を指す。多数の正に帯電した部分を有するポリマーは、当業者に明らかとなるように、ホモポリマーである必要はない。正に帯電した部分の他の例は、従来技術において周知であり、当業者に明らかとなるように、容易に使用することができる。
【0031】
一般に、正に帯電した担体(「正に帯電した主鎖」とも呼ばれる)は一般に、生理的なpHで正電荷を担持する鎖中の基、又は主鎖から延在する側鎖に付着した正電荷を担持する基を伴う原子の鎖である。ある特定の好適な実施形態では、正に帯電した主鎖は、陽イオンペプチドである。本明細書で使用する場合、用語「ペプチド」は、アミノ酸配列を指すが、アミノ酸配列内のアミノ酸残基の数に関して言外の意味をまったく担持しない。したがって、用語「ペプチド」は、ポリペプチド及びタンパク質も包含する。ある特定の好適な実施形態では、正に帯電した主鎖自体は、規定された酵素的又は治療的生物活性を有さない。ある特定の実施形態では、主鎖は直線の炭化水素主鎖であり、これは、いくつかの実施形態では、窒素、酸素、硫黄、ケイ素、及びリンから選択されるヘテロ原子によって中断される。主鎖原子の大部分は、通常、炭素である。さらに、主鎖は、反復単位(例えば、アミノ酸、ポリ(エチレンオキシ)、ポリ(プロピレンアミン)、ポリアルキレンイミンなど)のポリマーであることが多いが、ヘテロポリマーであってもよい。1つの群の実施形態では、正に帯電した主鎖は、ポリプロピレンアミンであり、いくつかのアミン窒素原子が、正電荷を担持するアンモニウム基(テトラ置換された)として存在する。別の実施形態では、正に帯電した主鎖は非ペプチジルポリマーであり、これは、約10,000〜約2,500,000、好ましくは、約100,000〜約1,800,000、最も好ましくは、約500,000〜約1,400,000の分子量を有する、ポリアルキレンイミン、例えば、ポリエチレンイミン又はポリプロピレンイミンなどのヘテロポリマー又はホモポリマーとすることができる。別の群の実施形態では、主鎖は、正に帯電した基(例えば、アンモニウム基、ピリジニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基、グアニジウム基、又はアミジニウム基)を含む複数の側鎖部分を付着させている。この群の実施形態における側鎖部分は、主鎖に沿って間隔を置いて配置することができ、この間隔は、分離が一貫しているか、又は可変である。さらに、側鎖の長さは、同様であっても異なっていてもよい。例えば、1つの群の実施形態では、側鎖は、1〜12個の炭素原子を有し、上述した正に帯電した基の1つにおける遠位末端(主鎖から離れた)で終止する直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖とすることができる。正に帯電した担体とボツリヌス毒素、低減されたboの間の会合は、非共有結合性相互作用によるものであり、その非限定例には、イオン相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、又はこれらの組合せが含まれる。
【0032】
1つの群の実施形態では、正に帯電した主鎖は、複数の正に帯電した側鎖基(例えば、リシン、アルギニン、オルニチン、ホモアルギニンなど)を有するポリペプチドである。好ましくは、ポリペプチドは、約100〜約1,500,000、より好ましくは約500〜約1,200,000、最も好ましくは約1000〜約1,000,000の分子量を有する。本発明のこの部分においてアミノ酸が使用される場合、側鎖は、付着の中心でD型又はL型(R又はS配置)を有することができることを、当業者は理解するであろう。ある特定の好適な実施形態では、ポリペプチドは、約500〜約5000、より好ましくは1000〜約4000、最も好ましくは2000〜約3000の分子量を有する。
【0033】
或いは、主鎖は、アミノ酸アナログ及び/又は合成アミノ酸を含むことができる。主鎖は、ペプトイドなどのポリペプチドのアナログとすることもできる。例えば、Kessler, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32:543 (1993);Zuckermann et al. Chemtracts-Macromol. Chem. 4:80 (1992);及びSimon et al. Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 89:9367 (1992)を参照。簡単に言えば、ペプトイドは、側鎖が、α−炭素原子ではなく、主鎖の窒素原子に付着しているポリグリシンである。上記のように、側鎖の一部は、正に帯電した基において一般に終止することによって、正に帯電した主鎖成分をもたらす。ペプトイドの合成は、例えば、米国特許第5,877,278号に記載されており、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。この用語を本明細書で使用する場合、ペプトイド主鎖構成を有する正に帯電した主鎖は、「非ペプチド」とみなされ、その理由は、これらが、α−炭素位置に天然に存在する側鎖を有するアミノ酸からなっていないためである。
【0034】
例えば、Fletcher et al.((1998) Chem. Rev. 98:763)によって概説され、その中で引用された参考文献によって詳述されているように、例えば、ペプチドのアミド結合が、代わりのもの、例えば、エステル結合、チオアミド(−−CSNH−−)、逆向きのチオアミド(−−NHCS−−)、アミノメチレン(−−NHCH−−)又は逆向きのメチレンアミノ(−−CHNH−−)基、ケト−メチレン(−−COCH−−)基、ホスフィネート(−−PORCH−−)、ホスホンアミデート及びホスホンアミデートエステル(−−PORNH−−)、逆ペプチド(−−NHCO−−)、trans−アルケン(−−CR=CH−−)、フルオロアルケン(−−CF=CH−−)、ジメチレン(−−CHCH−−)、チオエーテル(−−CHS−−)、ヒドロキシエチレン(−−CH(OH)CH−−)、メチレンオキシ(−−CHO−−)、テトラゾール(CN)、スルホンアミド(−−SONH−−)、メチレンスルホンアミド(−−CHRSONH−−)、逆向きのスルホンアミド(−−NHSO−−)などで置換されている、ポリペプチドの立体模倣体又は電子模倣体、並びにマロネート及び/又はgem−ジアミノ−アルキルサブユニットを有する主鎖を使用する様々な他の主鎖を使用することができる。前述の置換の多くは、α−アミノ酸から形成される主鎖と比べて、およそ等比体積のポリマー主鎖をもたらす。
【0035】
上記に与えた主鎖のそれぞれにおいて、正に帯電した基を担持する側鎖基を付加することができる。例えば、スルホンアミドを連結した主鎖(−−SONH−−及び−−NHSO−−)は、窒素原子に付着した側鎖基を有することができる。同様に、ヒドロキシエチレン(−−CH(OH)CH−−)連結は、ヒドロキシ置換基に付着した側鎖基を有することができる。当業者は、正に帯電した側鎖基を提供するために、標準的な合成法を使用して、他の連結化学を容易に適応させることができる。
【0036】
一実施形態では、正に帯電した主鎖は、タンパク質トランスダクションドメイン(効率基とも呼ばれる)を有するポリペプチドである。本明細書で使用する場合、効率基又はタンパク質トランスダクションドメインは、組織又は細胞膜を通じた、正に帯電した主鎖の転移を促進する効果を有する任意の因子である。タンパク質トランスダクションドメイン又は効率基の非限定例には、−(gly)n1−(arg)n2、HIV−TAT若しくはその断片、又はアンテナペディアのタンパク質トランスダクションドメイン若しくはその断片が含まれ、式中、添字n1は、0〜20、より好ましくは0〜8、さらにより好ましくは2〜5の整数であり、添字n2は、独立して、約5〜約25、より好ましくは約7〜約17、最も好ましくは約7〜約13の奇整数である。いくつかの実施形態では、HIV−TAT断片は、ジスルフィド凝集に関連する問題を最小限にするために、HIV−TAT分子のシステインに富む領域を含有しない。HIV−TAT断片が、式(gly)−RGRDDRRQRRR−(gly)、(gly)−YGRKKRRQRRR−(gly)、又は(gly)−RKKRRQRRR−(gly)を有し、式中、添字p及びqはそれぞれ独立に0〜20の整数であり、断片は、その断片のC末端又はN末端を介して主鎖に付着している実施形態は、なおさらに好適である。ある特定の好適な実施形態では、pは1であり、qは0であり、又はpは0であり、qは1である。好適なHIV−TAT断片は、添字p及びqがそれぞれ独立に、0〜8、より好ましくは0〜5の整数であるものである。別の好適な実施形態では、正に帯電した側鎖又は枝分れ基は、アンテナペディア(Antp,Antennapedia)タンパク質トランスダクションドメイン(PTD,protein transduction domain)、又は活性を保持するその断片である。これらは、例えば、Console et al., J. Biol. Chem. 278:35109 (2003)から、当技術分野において知られており、本発明によって企図されるAntp PTDの非限定例は、SGRQIKIWFQNRRMKWKKCである。
【0037】
好ましくは、正に帯電した担体は、全担体重量の百分率として少なくとも約0.01%、好ましくは、約0.01〜約50重量パーセント、より好ましくは、約0.05〜約45重量パーセント、最も好ましくは、約0.1〜約30重量%の量で側鎖の正に帯電したタンパク質トランスダクションドメインを含む。式−(gly)n1−(arg)n2を有する正に帯電したタンパク質トランスダクションドメインについて、好適な範囲は約0.1〜約25%である。
【0038】
別の実施形態では、主鎖部分はポリリジンであり、正に帯電したタンパク質トランスダクションドメインは、リシン側鎖のアミノ基、又はC末端若しくはN末端に付着している。いくつかの好適な実施形態では、ポリリジンは、少なくとも100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、又は6000D、並びに約2,000,000D未満、約1,000,000D未満、約500,000D未満、約250,000D未満、約100,000D未満、約75,000D未満、約50,000D未満、及び約25,000D未満である分子量を有することができる。100〜2,000,000Dの範囲内で、下方及び/又は上方の範囲は、それぞれ100増減することができ、得られる各サブ範囲は、本発明の特に企図された実施形態であることが企図されている。いくつかの例示的な実施形態では、ポリリジンは、約1,000〜約1,500,000D、約2,000〜約800,000D、又は約3,000〜約200,000Dの分子量を有する。他の例示的な実施形態では、ポリリジンは、約100〜約10,000D、約500〜約5,000D、約1,000〜約4,000D、約1,500〜約3,500D、又は約2,000〜約3,000Dの分子量を有する。いくつかの実施形態では、本発明によって企図されるポリリジンは、任意の市販の(Sigma Chemical Company、St. Louis、Mo.、USA)ポリリジン、例えば、70,000超のMWを有するポリリジン、70,000〜150,000のMWを有するポリリジン、150,000〜300,000のMWを有するポリリジン、及び300,000超のMWを有するポリリジンなどとすることができる。適切なポリリジンの選択は、組成物の残りの成分に依存し、組成物に総合的な正味の正電荷を供給し、好ましくは、負に帯電した成分の合わせた長さの1〜4倍である長さをもたらすのに十分となる。好適な正に帯電したタンパク質トランスダクションドメイン又は効率基には、例えば、−gly−gly−gly−arg−arg−arg−arg−arg−arg−arg(−GlyArg)又はHIV−TATが含まれる。
【0039】
別の好適な実施形態では、正に帯電した主鎖はポリアルキレンイミンであり、その非限定例には、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、及びポリブチレンイミンが含まれる。ある特定の実施形態では、ポリアルキレンイミンは、少なくとも100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、又は6000D、並びに約2,000,000D未満、約1,000,000D未満、約500,000D未満、約250,000D未満、約100,000D未満、約75,000D未満、約50,000D未満、及び約25,000D未満の分子量を有する。100〜2,000,000Dの範囲内で、下方及び/又は上方の範囲は、それぞれ100増減することができ、これにより得られる各サブ範囲も、本発明の具体的に企図された実施形態である。
【0040】
本発明の他の実施形態では、担体は、比較的短いポリリジン又はポリエチレンイミン(PEI)主鎖(これは、直線であっても分岐していてもよい)であり、これは、正に帯電した枝分れ基を有する。理論によって束縛されることを望むことなく、そのような担体は、輸送効率を劇的に減少させる、治療組成物中の主鎖及びボツリヌス毒素の制御されない凝集を最小限にするのに有用であると考えられる。担体が比較的短い直線のポリリジン又はPEI主鎖である場合、主鎖は、75,000D未満、より好ましくは、30,000D未満、最も好ましくは、25,000D未満の分子量を有することになる。しかし、担体が比較的短い分岐したポリリジン又はPEI主鎖である場合、主鎖は、60,000D未満、より好ましくは、55,000D未満、最も好ましくは、50,000D未満の分子量を有することになる。
【0041】
特に興味深い一実施形態では、非天然分子は、固有のボツリヌス毒素様活性をまったく有さず、しかも本明細書に記載されるような1又は2以上のタンパク質トランスダクションドメインを含有する陽イオンペプチドである。いずれの特定の科学的な理論にも束縛されることを望むことなく、このペプチドは、注射後の、複合体中に会合した分子の組織浸透を増強する一方で、皮膚内及びインビトロでボツリヌス毒素の安定化を増強すると考えられる。これらのペプチドによってもたらされる組織浸透の増強は、特に、外因性アルブミン(例えば、BOTOX(登録商標)又はMYOBLOC(登録商標))に結合した従来の市販のボツリヌス毒素複合体と比較して、抗原性の低減、より良好な安全性プロファイル、効力の増強、臨床的効力のより速い開始、又は臨床的効力のより長い継続時間をもたらすと考えられる。
【0042】
好適な実施形態では、本発明による組成物中の正に帯電した担体の濃度は、例えば、運動神経板などの分子標的へのボツリヌス毒素の送達を増強するのに十分である。さらに、理論に束縛されることを望むわけではないが、浸透速度は、受容体媒介性動態に従い、その結果、組織浸透は、浸透増強分子の量を飽和点まで増加させると増大し、その後、輸送速度は一定になると考えられる。したがって、好適な実施形態では、添加される浸透増強分子の量は、飽和直前で浸透速度を最大にする量に等しい。本発明の注射用組成物中の正に帯電した担体についての有用な濃度範囲は、本明細書に記載されるようなボツリヌス毒素組成物1ユニット当たり、約0.1pg〜約1.0mgである。より好ましくは、本発明の局所的組成物中の正に帯電した担体は、ボツリヌス毒素1ユニット当たり、約1.0pg〜0.5mgの範囲で存在する。
【0043】
本発明の組成物は、対象又は患者、(すなわち、特定の治療を必要とするヒト又は他の哺乳動物)の皮膚又は上皮への注射を可能にする形態であることが好ましい。用語「必要とする」は、薬学又は健康に関連する必要性(例えば、望ましくない顔面筋痙攣を伴う状態を治療すること)、並びに美容的及び主観的必要性(例えば、顔の組織の外見を変更又は改善すること)の両方を含むことを意味する。好適な実施形態では、組成物は、ボツリヌス毒素(付随した非毒素タンパク質、又は低減された、付随した非毒素タンパク質を含有する)を、正に帯電した担体、及び通常、1又は2以上のさらなる薬学的に許容される担体又は賦形剤と混合することによって調製される。その最も単純な形態では、これらは、緩衝食塩水(例えば、リン酸緩衝食塩水)などの水性の薬学的に許容される希釈剤を含有することができる。しかし、組成物は、適用される組織と適合性である皮膚科学的又は薬学的に許容される担体、媒体、又は媒質を含めて、注射用の医薬組成物又は薬用化粧品組成物中に一般に見出される他の成分を含有することができる。用語「皮膚科学的又は薬学的に許容される」は、本明細書で使用する場合、そのように記載される組成物又はその成分が、過度の毒性、不適合性、不安定性、アレルギー反応などを伴うことなく、これらの組織と接触して使用する、又は一般に患者において使用するのに適していることを意味する。適切な場合、本発明の組成物は、考慮されている分野、特に、化粧品及び皮膚科学において慣例的に使用される任意の成分を含むことができる。
【0044】
その形態の観点から、本発明の組成物として、筋肉、及びこの組成物を使用することができる他の組織に注射するのに使用される、溶液、エマルジョン(マイクロエマルジョンを含む)、懸濁液、ゲル、粉末、又は他の一般的な固体若しくは液体組成物を挙げることができる。好適な実施形態では、本発明の組成物は、シリンジを用いて注射するのに適した低粘度の滅菌製剤中に存在する。本発明の組成物は、注射する前に薬学的に許容される液体希釈剤を使用して再構成される凍結乾燥粉末の形態とすることができる。ある特定の実施形態では、凍結乾燥粉末は、液体希釈剤を用いて再構成されることによって、約0.1〜約2000cP、より好ましくは、約0.2〜約500cP、さらにより好ましくは、約0.3〜約50cP、さらにより好ましくは、約0.4〜約2.0cPの粘度を有する注射用製剤を形成する。本発明の組成物は、ボツリヌス毒素及び正に帯電した担体に加えて、抗菌剤、水和剤(hydration agent)、組織増量剤又は組織充填剤、保存剤、乳化剤、天然油又は合成油、溶媒、界面活性剤(surfactant)、界面活性剤(detergent)、ゲル化剤、抗酸化剤、充填剤、増粘剤、粉末、粘度制御剤、及び水など、並びに任意選択により、麻酔薬、かゆみ止め活性剤(anti-itch actives)、植物抽出物、品質改良剤、ミネラル、ポリフェノール、シリコーン又はその誘導体、ビタミン、及び植物薬といった製品において一般に使用される他の成分を含有することができる。
【0045】
本発明による注射用組成物は、制御放出組成物又は徐放組成物の形態とすることができ、これらの組成物は、カプセル化され、又は他の方法で材料内に入れられたボツリヌス毒素及び正に帯電した担体を含み、その結果、これらは、経時的に制御された様式で組織内に放出される。ボツリヌス毒素及び正に帯電した担体を含む組成物は、マトリックス、リポソーム、ベシクル、マイクロカプセル、微小球内など、又は固体微粒子材料内に入れることができ、これらのすべては、経時的にボツリヌス毒素を放出するように選択及び/又は構築される。ボツリヌス毒素及び正に帯電した担体は、一緒に(すなわち、同じカプセル内)又は別個に(すなわち、別個のカプセル内)カプセル化することができる。
【0046】
本発明によるボツリヌス毒素製剤は、注射によって(一般にシリンジを使用して)、皮膚の下にある筋肉に、又は皮膚内の腺構造に、麻痺を生じさせ、弛緩を生じさせ、収縮を軽減し、痙攣を予防若しくは軽減し、腺の排出量を低減するのに、又は他の所望の効果に有効な量で送達することができる。このようにしてボツリヌス毒素を局所的に送達することにより、所望の効果を得るのに、注射用物質又は移植可能物質と比べて、投与量の低減をもたらし、毒性を低減し、より正確な投与量の最適化を可能にすることができる。
【0047】
本発明の組成物が投与されることによって、有効量のボツリヌス毒素が送達される。用語「有効量」は、本明細書で使用する場合、所望の筋肉麻痺、又は他の生物学的若しくは美的効果を生じさせるのに十分であるが、暗黙的に安全な量、すなわち、深刻な副作用を回避するのに十分低い量である、上記に定義されたようなボツリヌス毒素の量を意味する。所望の効果には、例えば、特に顔における微細なライン及び/若しくはしわの外見の減少、又は他の方法での顔の外見の調整、例えば、眼の拡張、口の端の持ち上げ、若しくは上唇から広がるラインの平滑化などの目的でのある特定の筋肉の弛緩、或いは筋肉の緊張の一般的な緩和が含まれる。最後に述べられた効果、すなわち筋肉の緊張の一般的な緩和は、顔又は他の場所で行うことができる。本発明の組成物は、単回投与治療として適用するために、適切な有効量のボツリヌス毒素を含有することができ、又は投与箇所で希釈するため、若しくは複数の適用において使用するために、さらに濃縮することができる。本発明の正に帯電した担体を使用することにより、ボツリヌス毒素は、状態、例えば、しわ、望ましくない顔面筋若しくは他の筋肉の痙攣、多汗症、ざ瘡など、又は筋肉痛若しくは筋痙攣の緩和が望まれる体の他の場所での状態を治療するために、対象に注射によって投与することができる。ボツリヌス毒素は、筋肉、又は他の皮膚に関連する組織構造、若しくは他の標的組織構造に注射によって投与される。投与は、例えば、脚、肩、背中(下背を含む)、腋窩、手掌、足、首、顔、鼠径部、手若しくは足の背側、肘、上腕、膝、太股、臀部、胴体、骨盤、又はボツリヌス毒素の投与が望まれる体の任意の他の部分に行うことができる。
【0048】
本発明の注射用ボツリヌス毒素含有組成物の投与は、アセチルコリンのシナプス伝達又は放出の予防が、治療的な利益を付与する任意の状態を含む他の状態を治療するのに実施することもできる。例えば、本発明による組成物によって治療することができる状態として、限定することなく、神経性疼痛、片頭痛、又は他の頭痛、過活動膀胱、鼻炎、副鼻腔炎、ざ瘡、ジストニア、ジストニア収縮(主観的であっても臨床的であっても)、多汗症(主観的であっても臨床的であっても)、及びコリン作動性神経系によって制御される1又は2以上の腺の過分泌が挙げられる。本発明の組成物は、免疫応答を低減若しくは増強し、又は注射によるボツリヌス毒素の投与が提案若しくは実施されている他の状態を治療するために使用することもできる。
【0049】
最も好ましくは、組成物は、医師又は他の健康管理専門家によって、又はこれらの指導の下で投与される。組成物は、1回の治療において、又は経時的に一連の治療において投与することができる。好適な実施形態では、本発明による組成物は、ボツリヌス毒素に関連する効果が望まれる1又は2以上の位置で注射される。その性質のために、ボツリヌス毒素は、いずれの有害な結果又は望まれない結果も生じることなく、所望の結果を生じる量、適用割合、及び頻度で投与されることが好ましい。例えば、ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、皮膚表面1cm当たり約1U〜約20,000U、より好ましくは約1U〜約10,000Uのボツリヌス毒素の割合で適用される。これらの範囲内でのより高い投与量は、例えば、本明細書に記載されるように、ボツリヌス毒素が制御放出物質とともに投与される状況において使用することができる。ある特定の実施形態では、本発明のボツリヌス毒素製剤は、注射1回当たり1〜400U、より好ましくは10〜350U、さらにより好ましくは30〜250U、最も好ましくは50〜200Uのボツリヌス毒素を供給するように投与される。
【0050】
本発明は、皮膚を横切って、本明細書に記載されるボツリヌス毒素含有組成物を注射するための、様々な送達デバイスの使用も企図する。そのようなデバイスとして、限定することなく、針及びシリンジを挙げることができ、又はこれらは、組成物を分配し、組成物の分配をモニターし、1又は2以上の局面において対象の状態を任意選択によりモニターする(例えば、分配されている物質に対する対象の反応をモニターすること)ことができる、より高度なデバイスを伴うことができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、組成物は、予め製剤化し、且つ/又は送達デバイス内にそれ自体として予め組み込むことができる。本発明は、組成物が、1又は2以上の成分を、残りの成分と別個に貯蔵するキットで提供される実施形態も企図する。例えば、ある特定の実施形態では、本発明は、ボツリヌス毒素及び正に帯電した担体を、適用時又は適用時の前に混合するために、別個に貯蔵するキットを提供する。正に帯電した担体の量、又はこれらの分子とボツリヌス毒素の濃度比は、対象とする組成物において使用するのにどの担体が選択されるかに依存する。所与の場合における担体分子の適切な量又は比は、例えば、以下に記載されるものなどの1又は2以上の実験を行うことによって、容易に求めることができる。
【0052】
一般に、本発明は、ボツリヌス毒素(或いは、ボツリヌス毒素複合体又は低減されたボツリヌス毒素複合体として)を、その必要のある対象又は患者に投与するための方法であって、本明細書に記載されるように、有効量のボツリヌス毒素が正に帯電した担体とともに投与される方法も企図する。「〜とともに」とは、2つの成分(ボツリヌス毒素及び正に帯電した担体)が、組合せの手順で投与されることを意味し、この手順は、対象に投与する前にこれらを合わせても、別個にこれらを投与してもよいが、これらが、有効量の治療用タンパク質の要求される送達をもたらすように一緒に作用するような様式においてである。例えば、正に帯電した担体を含有する組成物を対象の皮膚に最初に投与し、その後、ボツリヌス毒素を含有する皮膚パッチ、シリンジ、又は他のデバイスを適用することができる。ボツリヌス毒素は、シリンジ又は他の分配デバイス内に乾燥形態で貯蔵することができ、正に帯電した担体は、2つが一緒に作用し、所望の組織浸透の増強をもたらすように、毒素を適用する前に注射することができる。したがって、その意味において、2つの物質(正に帯電した担体及びボツリヌス毒素)は、組合せで作用し、又はおそらく、インサイチュ(in situ)で組成物又は組合せを形成するように相互作用する。したがって、本発明は、ボツリヌス毒素を分配するためのデバイス、及び正に帯電した担体を含有し、対象の皮膚又は標的組織に注射するのに適した液体、ゲルなどを含むキットも含む。健康管理専門家の指導下で、又は患者若しくは対象によって本発明の組成物を投与するためのキットは、その目的に適した受諾開発のアプリケーターも含むことができる。
【0053】
本発明の組成物は、約4.5〜約6.3の範囲のpHを有する生理学的環境で使用するのに適しており、したがって、そのようなpHを有することができる。本発明による組成物は、室温又は冷蔵条件下で貯蔵することができる。
【0054】
本明細書に記載される以下の実施例及び実施形態は、例示的な目的のためだけであり、これらを踏まえた様々な改変又は変更は、当業者に示され、本願の精神及び認識範囲内、並びに添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。本明細書に引用されるすべての刊行物、特許、及び特許出願は、すべての目的について、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【実施例1】
【0055】
マウスモデルにおける局所筋肉麻痺の継続時間
この実施例は、RT003又はBOTOX(登録商標)を注射されたマウスにおける局所筋肉麻痺の継続時間を比較する。RT003は、タイプAボツリヌス毒素(精製されて、すべての内因性非毒素タンパク質が除去された)、及び配列RKKRRQRRRG−(K)15−GRKKRRQRRRを有する正に帯電した担体を含有する、本発明による例示的な注射用製剤である。BOTOX(登録商標)も、タイプAボツリヌス毒素を含有するが、タイプAボツリヌス毒素分子を安定化するために、外因性アルブミンが添加されている。
【0056】
筋肉麻痺は、"A comparison of the safety margins of botulinum neurotoxin serotypes A, B, and F in mice", Toxicon 2001;39 (12):1815-1820においてAoki, K.R.によって報告されたような指外転スコア(DAS,digit abduction score)アッセイを使用して測定した。DASアッセイでは、マウスは、その尾で短時間吊るされることによって、マウスがその後肢を伸ばし、その後指を外転させる特徴的な驚愕反応を引き起こす。マウスがこの驚愕反応を示すことができる程度を、5点スケール(0〜4)で採点し、0は、正常な驚愕反応を表し、4は、指の外転及び脚の伸長の最大の低減を表す。採点は、対象マウスが神経毒で処置された程度の知識をまったく有さない観察者によって行う。DASアッセイを使用するベースラインスコアは、動物の未処置集団について0.4であると決定した。
【0057】
この実施例において報告する試験は、10匹の動物(RT003群中の5匹のマウス、及びBOTOX(登録商標)群中の5匹のマウス)を伴った。それぞれの動物に、それぞれのボツリヌス毒素製剤(すなわち、RT003又はBOTOX(登録商標))を3回注射し、各投薬の間に40日の期間を伴った。注射後、各試験群中の動物のすべてが、DASアッセイの0.4ベースラインを超えた日の数をカウントした。図1に示した結果は、RT003処置群についてのDASアッセイスコアは、最初、2番目、及び3番目の処置の後に、それぞれ25、22、及び21日間、0.4ベースライン値を超えて留まったことを示す。対照的に、BOTOX(登録商標)処置群についてのDASアッセイスコアは、最初、2番目、及び3番目の処置の後に、それぞれ11、8、及び11日間、0.4ベースライン値を超えて留まった。
【0058】
これらのDASアッセイデータは、RT003製剤によって引き起こされる局所筋肉麻痺は、BOTOX(登録商標)によって引き起こされる局所筋肉麻痺の約2倍長く続くことを示す。この結果は、本発明による、RT003及び他の注射用ボツリヌス毒素含有化合物の治療用途にとって重要な意味を有する。特に、本発明による注射用組成物を使用することによって、ボツリヌス毒素により引き起こされる特定の美容効果又は治療効果を維持するために必要とされるフォローアップ注射の頻度を有意に低減することができる。さらには、適用頻度の低減により、より良好な長期効力をもたらすことができ、その理由は、対象が、ボツリヌス毒素に対する抗体を発生させる傾向がより少ないためである。
【実施例2】
【0059】
安全性プロファイルの改善を伴った注射用ボツリヌス毒素製剤
過去数十年にわたって、ボツリヌス毒素では、しわ、多汗症、及び筋痙攣を含めた様々な状態を治療するための治療剤としての用途が見出された。しかし、ボツリヌス毒素は、ヒトに知られている最も強力な天然に存在する毒素であり、毒素の不適切な投与は、極度に危険となり得る。例えば、ボツリヌス毒素の偶発的な全身送達は、麻痺、困難呼吸、及び死亡にさえ至る場合がある。さらに、ボツリヌス毒素が、治療的処置の一部として、体の局所領域に適切に送達されたとしても、毒素は、経時的に拡散する自然の傾向を有し、それによって、体の他の部分における望まれない麻痺のリスクを増大させる。例えば、ボツリヌス毒素が、しわを治療するために眼の周囲に注射される場合、これは、眼瞼の移動を制御する筋肉に拡散する場合がある。これが起こると、眼瞼筋が部分的に麻痺する場合があり、「眼瞼下垂」として知られる周知の状態に至り、眼瞼が部分的に閉じられ、正常な視野を妨害する。
【0060】
本発明の一態様は、現在利用可能な市販のボツリヌス毒素製剤と比較して、安全性プロファイルが改善された注射用ボツリヌス毒素製剤を提供することである。好適な実施形態では、注射用ボツリヌス毒素製剤は、注射後に拡散する傾向が低減されている。このようにして、本発明のある特定の好適な製剤は、ボツリヌス毒素のより正確な送達を可能にし、ボツリヌス毒素の制御されない局所的拡散に関連する望まれない副作用を劇的に低減する。
【0061】
この実施例は、様々な製剤中のボツリヌス毒素が、注射後に拡散する傾向の比較による試験を報告する。この試験は、3つのボツリヌス毒素製剤、すなわち、(1)BOTOX(登録商標);(2)式RKKRRQRRRG−(K)15−GRKKRRQRRRを有する正に帯電した担体と非共有結合的に会合した、150kDのタイプAボツリヌス毒素分子を含有する、緩衝され、安定化された溶液であるRT003;及び(3)RT003中に存在する正に帯電した担体を含有しないことを除いて、RT003製剤と同一であるRTT150を伴った。
【0062】
この試験で使用したマウスのそれぞれの腓腹筋に、筋肉の正中の側方部分(図2A)、又は筋肉の正中部分(図2B)で上述のボツリヌス毒素製剤のうちの1つを注射した。ボツリヌス毒素を注射した後に、4日間、マウスのそれぞれにDASアッセイを実施することによって、それぞれの製剤のボツリヌス毒素が、マウスの腓腹筋から後足に向けて拡散する何らかの傾向を示したかどうかを判定した。DASアッセイから、試験動物がその後指を外転させる能力のいかなる低減も、ボツリヌス毒素拡散の徴候として解釈した。
【0063】
図3は、上述したような異なるボツリヌス毒素製剤を試験動物に注射した後に実施したDASアッセイの結果を示す。指外転スコアは、注射が、腓腹筋の正中又は正中の側方部分であったことに対応する2つの集団に分けられることに留意されたい。正中の側方注射についてのDASスコアと比較した場合、正中注射についてのDASスコアが一般により低いことは、試験動物の後足における麻痺の程度が、正中注射後に一般により低いことを示す。理論によって制限されることを望むことなく、この挙動は、正中の側方注射と比較した場合、正中注射後に、ボツリヌス毒素が試験動物の後指に到達するのに移動しなければならない距離がより大きいことから生じると考えられる。ボツリヌス毒素による移動の、このより大きい必要な距離が、後指の麻痺の可能性を減少させると考えられる。
【0064】
図3は、RT003製剤を正中注射した後の、4日すべてにわたる0の指外転スコアを示す。この結果は、RT003製剤中のボツリヌス毒素は、注射した後に腓腹筋の正中部分に局在して留まり、実験の時間尺度で麻痺を引き起こす拡散がまったく起こらないことを示す。一方、0.4DASベースラインを超える指外転スコアが、RTT150製剤及びBOTOX(登録商標)製剤を注射した後に観察され、平均DASスコアは、BOTOX(登録商標)製剤についてより高い。RTT150製剤及びBOTOX(登録商標)製剤についてのDASの結果は、試験動物の後指の麻痺が、これらの製剤を正中注射した後に観察され、BOTOX(登録商標)製剤を注射した後に、より大きい程度の麻痺が観察されたことを示す。これらのデータは、RTT150製剤及びBOTOX(登録商標)製剤中のボツリヌス毒素分子は、注射後に局所的に拡散することができ、BOTOX(登録商標)製剤中のボツリヌス毒素分子について、局所的な拡散の程度がより大きいことを示す。
【0065】
図3はまた、後指の麻痺は、特定のボツリヌス毒素製剤に関係なく、正中の側方注射後に、すべての試験動物について観察されることを示す。上記に論じたように、正中注射と比較した場合に、正中の側方に注射した後のこのより大きい程度の麻痺は、試験動物の後足までのボツリヌス毒素の移動距離がより短いことに関係すると考えられる。しかし、3つのすべてのボツリヌス毒素製剤は、正中の側方に注射した後に、麻痺を引き起こす拡散を示すが、RT003を注射した試験動物における麻痺の程度は、実験の時間尺度の間に、RTT150及びBOTOX(登録商標)製剤について観察された麻痺の程度より、平均で低い。したがって、正中の側方注射に対応するDASアッセイデータは、RTT150及びBOTOX(登録商標)と比較した場合、これが、RT003製剤について、ボツリヌス毒素の局所的拡散の傾向の減少を示すという点で、正中注射についてのデータと定性的に同様である。
【0066】
正中注射及び正中の側方注射後の局所的拡散速度の比較は、「拡散指数」と呼ばれるパラメータを考慮することによって行うことができ、これは、式(1)によって定義される:
【0067】
【数1】

【0068】
指外転スコアは、0〜4に及ぶことができ、正中の側方の指外転スコアは、正中の指外転スコアより高いことが予期される(上述したように)ので、拡散指数値は一般に、0〜100の範囲となる。100に接近する拡散指数値は、正中の指外転スコアと正中の側方の指外転スコアの比が1に接近することを示す。これは、注射後の拡散速度が、正中注射及び正中の側方注射後に、ボツリヌス毒素が試験動物の後指(hind-digit)に到達し、これらの後指を麻痺させる拡散時間が、同等であるか、ほぼ同じであるほど十分に高い場合に起こり得る。その一方で、0に接近する拡散指数値は、正中の指外転スコアと正中の側方の指外転スコアの比が0に接近していることを示す。これは、正中注射後のボツリヌス毒素の拡散が非常に低く、その結果、拡散が試験動物の後指において麻痺を引き起こすのに不十分であるが、正中の側方注射の後に麻痺が観察される場合に起こり得る。
【0069】
表1は、図3に対応する実験において報告したような、BOTOX(登録商標)、RT003、及びRTT150の正中注射又は正中の側方注射後の指外転スコアを使用して計算した拡散指数値を示す。実験の時間尺度において、BOTOX(登録商標)製剤の注射に対応する拡散指数値は、RTT150製剤及びRT003製剤について観察された値より高い。これは、BOTOX(登録商標)製剤の注射について、正中の指外転スコアと正中の側方の指外転スコアの比が、RTT150製剤及びRT003製剤について観察された比と比較して1により近いことを示す。ボツリヌス毒素は、正中注射後に試験動物の後指の麻痺を引き起こすためにさらに拡散しなければならないので、BOTOX(登録商標)注射後の正中の指外転スコアと正中の側方の指外転スコアの比が1により近いという知見は、BOTOX(登録商標)の正中注射後のボツリヌス毒素の拡散速度は、正中の側方の注射後の速度と比べてかなり本質的であることを示す。言い換えれば、正中注射に関連する拡散経路長の増大は、麻痺を引き起こすのにそれほど障壁ではない。
【0070】
対照的に、RT003についての拡散指数値は、実験の4日の時間尺度においてすべて0である。この結果は、RT003を正中注射した後に、麻痺を誘発する拡散はまったく観察されないことを示す。言い換えれば、正に帯電した担体に非共有結合的に会合したタイプAボツリヌス毒素分子を含有するRT003製剤は、注射されたタイプAボツリヌス毒素の局在化の増強を可能にする。このようにして、RT003製剤は、BOTOX(登録商標)製剤の安全性プロファイルと比較して、改善された安全性プロファイルをもたらし、望まれない麻痺を最小限にする。
【0071】
RTT150についての観察された拡散指数値は、RT003の場合のように0ではないが、BOTOX(登録商標)製剤について観察されたものより依然として低い[表1を参照]。この結果は、実験の4日の時間尺度において、観察可能な後指の麻痺を生じさせるのに十分なボツリヌス毒素拡散が起こるが、ボツリヌス毒素の麻痺を引き起こす拡散に必要とされる時間は、正中注射後に相対的に長いことを示す。
【0072】
【表1】

【実施例3】
【0073】
抗体を生成する傾向が低減された注射用ボツリヌス毒素製剤
しわなどの望まれない状態を治療するために、ボツリヌス毒素が患者中に定期的に注射される場合、ボツリヌス毒素の効力の継続時間は同じままである場合があっても、ボツリヌス毒素の効力が連続的な注射とともに減少することが観察されることが多い。この現象は、患者の免疫系によるボツリヌス毒素に対する抗体の形成の結果であると考えられている。治療の展望から、患者によるボツリヌス毒素に対する抗体の形成は望ましくなく、その理由はつまり、同じ効果を実現するのに、ますますより大用量のボツリヌス毒素が必要とされるためであり、これは、安全性及び費用の両方に関係した重大な問題を提示する。
【0074】
ある特定の実施形態では、本発明は、現在、利用可能な市販の注射用ボツリヌス毒素製剤と比較した場合、抗体形成を誘発する傾向が減少した注射用ボツリヌス毒素製剤を提供する。したがって、これらの実施形態では、ボツリヌス毒素製剤は、同じ効果を実現するのに、経時的により少ない毒素の使用を可能にすることによって、ボツリヌス毒素注射に関連するリスクを最小限にするのに役立つ。
【0075】
この実施例では、実施例2において記載したようにRT003及びBOTOX(登録商標)を繰り返して注射した後に得たDASアッセイデータを、時間の関数として分析することによって、これらの2つの製剤の効力が、同じ試験動物に繰り返して投与した後にどのように変化するかを求めた。一般に、いずれかの製剤を繰り返して投与した後に、ボツリヌス毒素に関連する効果の継続時間は同じであった。しかし、繰り返して投与した後の筋肉麻痺の程度は、製剤に応じて変化した。筋肉麻痺の程度の変化を定量化するために、RT003又はBOTOX(登録商標)を注射した後の指外転スコアの変化率を、式(2)によって求めた:
【0076】
【数2】

【0077】
式(2)の分子は、n番目の処置と最初の処置についての測定された指外転スコアの間の差異であるので、n番目の処置について測定された指外転スコアが、最初の処置について測定された指外転スコア未満である場合、DASの変化率は負となる。言い換えれば、最初の処置と比較した場合に、n番目の処置後により小さい麻痺が観察される場合、DASの変化率は負である。表2は、実施例2に記載した手順に従って、RT003製剤及びBOTOX(登録商標)製剤を繰り返して投与した後の測定されたDAS値の変化率を示す。
【0078】
【表2】

【0079】
表2に示したように、最初の再処置の後に、指外転スコアの変化率は、BOTOX(登録商標)製剤について−44%であった。これは、効力の実質的な低下を示す。対照的に、RT003製剤についての指外転スコアの変化率は0であり、2番目の再処置後のDASスコアが、初めての投与及び最初の再処置と同じであったことを示した。この結果は、RT003の最初の再処置後に観察された麻痺の程度は、最初の処置後の麻痺の程度と同じであり、最初の再処置後でさえ、試験動物において起こった中和抗体の形成は無視できることを示す。RT003及びBOTOX(登録商標)の2番目の再処置後で、DAS値の計算された変化率は、両製剤について負であったが、RT003製剤についてのDAS値の変化率の規模は、BOTOX(登録商標)について求められた値の半分であった。BOTOX(登録商標)について観察された、より大きく、負のDAS値の変化率は、試験動物が、RT003と比較した場合、BOTOX(登録商標)に対する抗体をより高い割合で産生したことを示す。したがって、これらのデータは、RT003などの本発明によって企図される製剤は、ボツリヌス毒素の効果を中和する抗体の形成を誘発する傾向がより低い場合があることを示す。したがって、この結果は、本発明によって企図される製剤を使用することによって、同じ治療効果を実現するのに、経時的により少ないボツリヌス毒素を使用することができることを示す。
【実施例4】
【0080】
安定性が改善された注射用ボツリヌス毒素
この実施例は、本発明の注射用ボツリヌス毒素製剤中に使用される正に帯電した担体分子は、製剤の安全性プロファイルを増強するだけでなく(実施例2)、その安定性も改善することを実証する。表3は、RT003製剤及びRTT150製剤が、様々な時間間隔の間、4℃(RT003のみ)及び40℃(RT003及びRTT150の両方)でエージングされる、エージング実験の結果を示す。指定した温度で指定した時間エージングした後、RT003及びRTT150製剤の効力を、一連のマウスIP LD50アッセイによって測定した。表3に要約した結果は、RT003の効力は、6カ月後でさえ、4℃でエージングした後に本質的に変化しないことを示す。さらに、RT003製剤の効力は、製剤の、マウスIP LD50アッセイにおいて標的動物を殺す能力によって測定した場合、RT003製剤が、高温(40℃)で6カ月間エージングされる場合でさえ、わずかに減少するだけである。一方、RTT150製剤は、40℃で1カ月だけエージングした後に効力の著しい減少を示した。RT003製剤及びRTT150製剤は、RT003製剤が、式RKKRRQRRRG−(K)15−GRKKRRQRRRを有する正に帯電した担体分子も含有することを除いて同一であるので、これらのデータは、正に帯電した担体分子は、RT003製剤中のボツリヌス毒素の安定性を改善することを示す。
【0081】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療効果又は美容効果を実現するために、その必要のある個体にボツリヌス毒素を投与する方法であって、
治療効果又は美容効果を実現するために、前記個体中に有効量の組成物を注射するステップを含み、
前記組成物が、
複数の効率基が付着した正に帯電した主鎖を含む、正に帯電した担体と、
ボツリヌス毒素複合体、低減されたボツリヌス毒素複合体、又はボツリヌス毒素と
を含み、前記正に帯電した担体が、前記ボツリヌス毒素複合体、低減されたボツリヌス毒素複合体、又はボツリヌス毒素と非共有結合的に会合している方法。
【請求項2】
ボツリヌス毒素複合体、低減されたボツリヌス毒素複合体、又はボツリヌス毒素が、C.ボツリヌスの血清型A、B、C、D、E、F、又はGから得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
正に帯電した主鎖がポリアミノ酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ポリアミノ酸が、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、及びポリオルニチンからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
効率基が、(gly)n1−(arg)n2、HIV−TAT若しくはその断片、アンテナペディアのタンパク質トランスダクションドメイン若しくはその断片、(gly)−RGRDDRRQRRR−(gly)、(gly)−YGRKKRRQRRR−(gly)又は(gly)−RKKRRQRRR−(gly)q、及びSGRQIKIWFQNRRMKWKKCからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;
式中、添字n1は、0〜20の整数であり、添字n2は、独立して、約5〜約25、より好ましくは約7〜約17、最も好ましくは約7〜約13の奇整数であり、
式中、添字p及びqは、それぞれ独立に、0〜8の整数である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
正に帯電した担体が、分解に対してボツリヌス毒素を安定化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
正に帯電した担体が、注射後のボツリヌス毒素の局所的拡散を低減する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
正に帯電した担体がアミノ酸配列RKKRRQRRRG−(K)15−GRKKRRQRRRを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
組成物が、BOTOX(登録商標)と比較して、対象の体内に注射した後に抗体産生を誘発する傾向が低減されている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
美容効果がしわの治療である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
治療効果が、片側顔面痙攣、成人発症型痙性斜頚、裂肛、眼瞼痙攣、脳性麻痺、頭痛、斜視、側頭下顎関節障害、神経性疼痛、過活動膀胱、鼻炎、副鼻腔炎、ざ瘡、ジストニア、ジストニア収縮、多汗症、及びコリン作動性神経系によって制御される腺の過分泌からなる群から選択される障害に関連する症状の低減である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
注射用ボツリヌス毒素製剤を調製する方法であって、
有効量のボツリヌス毒素複合体、低減されたボツリヌス毒素複合体、又はボツリヌス毒素を提供するステップと;
複数の効率基が付着した正に帯電した主鎖を含む、正に帯電した担体を提供するステップと;
前記ボツリヌス毒素複合体、低減されたボツリヌス毒素複合体、又はボツリヌス毒素を、前記正に帯電した担体及び薬学的に許容される希釈剤と組み合わせるステップと
を含む方法。
【請求項13】
ボツリヌス毒素複合体、低減されたボツリヌス毒素複合体、又はボツリヌス毒素が、C.ボツリヌスの血清型A、B、C、D、E、F、又はGから得られる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
正に帯電した主鎖がポリアミノ酸を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
ポリアミノ酸が、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、及びポリオルニチンからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
効率基が、(gly)n1−(arg)n2、HIV−TAT若しくはその断片、アンテナペディアのタンパク質トランスダクションドメイン若しくはその断片、(gly)−RGRDDRRQRRR−(gly)、(gly)−YGRKKRRQRRR−(gly)又は(gly)−RKKRRQRRR−(gly)q、及びSGRQIKIWFQNRRMKWKKCからなる群から選択されるアミノ酸配列であり;
式中、添字n1は、0〜20の整数であり、添字n2は、独立して、約5〜約25、より好ましくは約7〜約17、最も好ましくは約7〜約13の奇整数であり;
式中、添字p及びqは、それぞれ独立に、0〜8の整数である、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
正に帯電した担体が、分解に対してボツリヌス毒素を安定化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
正に帯電した担体が、注射後のボツリヌス毒素の局所的拡散を低減する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
正に帯電した担体がアミノ酸配列RKKRRQRRRG−(K)15−GRKKRRQRRRを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
製剤が、BOTOX(登録商標)と比較して、対象の体内に注射した後に抗体産生を誘発する傾向が低減されている、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
有効量のボツリヌス毒素複合体、低減されたボツリヌス毒素複合体、又はボツリヌス毒素と;
複数の効率基が付着した正に帯電した主鎖を含む、正に帯電した担体と
を含む滅菌注射用組成物であって;
前記ボツリヌス毒素複合体、低減されたボツリヌス毒素複合体、又はボツリヌス毒素が、前記正に帯電した担体と非共有結合的に会合する組成物。
【請求項22】
有効量のボツリヌス毒素複合体、低減されたボツリヌス毒素複合体、又はボツリヌス毒素と;
複数の効率基が付着した正に帯電した主鎖を含む、正に帯電した担体とを含むシリンジであって;
前記ボツリヌス毒素複合体、低減されたボツリヌス毒素複合体、又はボツリヌス毒素が、前記正に帯電した担体と非共有結合的に会合するシリンジ。
【請求項23】
有効量のボツリヌス毒素複合体、低減されたボツリヌス毒素複合体、又はボツリヌス毒素と;
複数の効率基が付着した正に帯電した主鎖を含む、正に帯電した担体と;
薬学的に許容される水性液体希釈剤と
を含む再構成されたボツリヌス毒素組成物であって、
前記ボツリヌス毒素複合体、低減されたボツリヌス毒素複合体、又はボツリヌス毒素が、前記正に帯電した担体と非共有結合的に会合し、
前記再構成されたボツリヌス毒素組成物が約0.4〜約2.0cPの範囲の粘度を有する組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−514003(P2012−514003A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543704(P2011−543704)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/069576
【国際公開番号】WO2010/078242
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(509168461)ルバンス セラピュティックス インク. (9)
【氏名又は名称原語表記】REVANCE THERAPEUTICS,INC.
【Fターム(参考)】