説明

注射用医薬製品

本発明は、注射製剤に好適なクロージャーを備えた容器を有する注射用医薬製品であって、前記容器は、酸不安定性プロトンポンプ阻害剤、その塩、酸不安定性プロトンポンプ阻害剤の溶媒和物又はその塩の溶媒和物を含有し、その際、前記の容器及びクロージャーは、亜鉛イオンを実質的に放出しない材料から製造されている医薬製品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、医薬技術分野に関し、かつ改善された注射用医薬製品を記載する。特に本発明は、とりわけ5−ジフルオロメトキシ−2−[(3,4−ジメトキシ−2−ピリジニル)メチルスルフィニル]−1H−ベンズイミダゾール注射製剤を有する改善された医薬製品に関する。
【0002】
先行技術
WO94/02141号は、水性溶剤が添加された、非水性溶剤を有さない2−[(2−ピリジル)メチルスルフィニル]−ベンズイミダゾール化合物を有する注射剤を記載しており、該注射剤のpHは9.5以上かつ11.5以下である。前記注射剤は、溶血を惹起することなく、かつ局所刺激をほとんどもたらさないことが挙げられている。
【0003】
DE4324014号は、パントプラゾールナトリウムセスキ水和物の冷凍乾燥物を、助剤としてのスクロース存在下で、−25℃〜−30℃の製造温度で調製することを記載している。この冷凍乾燥物は、貯蔵安定性が改善され、かつ室温で少なくとも18ヶ月にわたって貯蔵でき、かつその使用に好適な用量の液体形に容易に溶解されることが開示されている。
【0004】
CN1235018号は、結晶水を有さないpH値9〜12.5のパントプラゾールナトリウムの凍結乾燥された注射用粉末を記載しており、該粉末は、パントプラゾールナトリウム、凍結乾燥された粉末の担持剤、金属イオン錯化剤及びpH調整剤から構成されている。
【0005】
WO99/18959号は、担体中に抗潰瘍性化合物及び安定剤としてのグリシンを有し、静脈内注射に化学的かつ物理的に安定である水性医薬組成物を記載している。
【0006】
WO02/41919号は、パントプラゾール水溶液、エチレンジアミン四酢酸及び/又はその好適な塩、並びに水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムの凍結乾燥によって得られる冷凍乾燥されたパントプラゾール製剤を記載している。この製剤は、注射に際して溶解させる場合に有利な特性を有する。
【0007】
注射用パントプラゾールナトリウムは、ゴム栓及びクリンプシールが取り付けられた透明ガラス製バイアル中に入れられた凍結乾燥粉末(例えば、アメリカ合衆国において、商標Protonix(R)I.V.のもと;Protonix(R)I.V.についての医師用卓上手引き記載事項(Physicians’Desk Reference entry for Protonix(R)I.V.)を参照のこと)として市販されている。投与のために、注射用混合物は、専用のラインを通して、設けられたインライン式フィルタを使用して静脈内に投与されるのが望ましい。このフィルタは、溶解された薬剤製品とI.V.溶液とを混合する際に形成されうる沈殿物を除去するために使用されねばならない。
【0008】
冷凍乾燥された医薬化合物をその適用のために担体溶液を用いて溶解させると、溶液中において肉眼で観察可能及び/又は肉眼で観察不可能な粒子の形成を導くことがある。注射用溶液は、非経口的使用が意図される無菌の固形物から構成された溶液を含めて、目視検査で観察できる粒子を実質的に有さないことが望ましく、かつ患者の安全性のために、肉眼で観察不可能な粒子が少数であることも望まれる。USP(アメリカ薬局方(United States Pharmacopoeia))24は、所定の大きさの範囲内の肉眼で観察不可能な外部の粒子を計数する目的のために実施される物理的試験を記載しており、かつ1回量注入のための大容量注射及び小容量注射に適用される試験について説明された粒子状物質の限度を規定している(USP24、〈788〉注射剤中の粒子状物質(Particulate Matter Injections))。
【0009】
本発明の説明
驚くべきことに、注射用パントプラゾールを有する医薬製品に、亜鉛イオンを実質的に放出しない容器及び/又はクロージャー系を使用することによって、パントプラゾール注射溶液中での粒子形成を抑制又は完全に回避できるということを、目下のところ見出した。この説明に限られることなく、容器及び/又はクロージャー系から放出される亜鉛イオンが、溶解されたパントプラゾール注射溶液と接触する際に、注射溶液中で亜鉛−パントプラゾール粒子の形成をもたらすことがあると解される。従って、亜鉛イオンを実質的に放出しない容器及び/又はクロージャー系のための材料を使用することによって、パントプラゾール注射溶液中での粒子形成を抑制又は完全に回避できる。
【0010】
従って、本発明の対象は、注射製剤に好適なクロージャーを備えた容器を有する注射用医薬製品であって、前記容器は、5−ジフルオロメトキシ−2−[(3,4−ジメトキシ−2−ピリジニル)メチルスルフィニル]−1H−ベンズイミダゾール(パントプラゾール)、その塩、パントプラゾールの溶媒和物及びその塩の溶媒和物の群から選択された化合物を含有し、その際、前記容器及び前記クロージャーは、亜鉛イオンを実質的に放出しない材料から製造されている医薬製品である。
【0011】
本発明に関する注射剤に好適な容器は、通常又は慣用の取扱、輸送、貯蔵、販売及び使用の条件下で局方の基準を超えて力価、質又は純度を変えるほど注射製剤(パントプラゾール)と物理的かつ化学的に相互作用しない容器を意味する。本発明に関する容器は、亜鉛イオンを実質的に放出しない材料から製造されている。本発明に関する好適な容器は、例えばガラスから製造されている。特に好適な容器は、I型ガラス製容器(ヨーロッパ薬局方2002年度版(European Pharmacopoeia 2002)による)である。本発明の一実施態様においては、この容器は、ヨーロッパ薬局方2002年度版によるI型ガラス製容器の基準を満たす透明ガラス製バイアル(例えば、名称Fiolax(R)−klarのもとで市販されているガラス)である。
【0012】
本発明にかかる注射剤用容器は、汚染又は含有量の損失を防ぐように好適なクロージャーで閉じられているか又はシールされている。本発明の好ましい実施態様においては、このクロージャーに針を貫通させ、かつ針の抜き取りによって直ちに閉じて、容器を汚染から保護する。本発明に関するクロージャーは、亜鉛イオンを実質的に放出しない材料から製造されている。亜鉛イオンを実質的に放出しないクロージャー用材料は、その材料における抽出可能な亜鉛の量が5ppm以下、4ppm以下、特に好ましくは3ppm以下、殊に好ましくは2ppm以下、とりわけ好ましくは1ppm、なかんずく好ましくは0ppm(すなわち、検出不能)である材料を意味する。抽出可能な亜鉛の量は、ヨーロッパ薬局方2002年度版中に、ゴム栓中の抽出可能な亜鉛の測定について規定された方法によって測定する。好適なクロージャーは、例えば、ゴム又はケイ素エラストマーから製造されている。これに関連して、栓には、亜鉛含有成分を使用することなく(例えば、重合工程において亜鉛触媒を使用することなく)製造されたゴム又はケイ素エラストマーを使用することが好ましい。本発明の別の実施態様においては、完全に又は部分的に好適な材料でラミネート又はコーティングされたクロージャーを使用することが好ましい。薬剤と接触しうるクロージャー表面(例えば、容器内側に及ぶクロージャーの部分)が、好適な不活性材料でラミネート又はコーティングされていることが好ましい。例として、好適なフルオロポリマー樹脂を、このラミネートに使用してよい。かかるラミネートは、有効なクロージャーと薬剤との遮断を確保し、かつ薬剤とクロージャーとの相互作用を減らすか又は完全に防ぐ。更に、かかるラミネートは、クロージャーからの内部粒子の排出を解消し、かつ薬剤がクロージャーに接着するのを防ぐはずである。更にラミネート又はコーティングは、被削に滑性をもたらし、これによって製造におけるクロージャーの粘着又は集塊といった問題を解消する。クロージャー用材料は、ヨーロッパ薬局方2002年度版による1型ゴムであることが好ましい。このクロージャーは、凍結乾燥用クロージャーであることが好ましい。本発明に関する凍結乾燥用クロージャーは、凍結物の乾燥を真空室内で可能にするクロージャーを意味する。かかる凍結乾燥用クロージャーは、真空中での昇華工程のために十分な開口部を残した状態にした後に、ガラス製容器の上方位置に設けられる。この乾燥工程の終盤に、それを真空室内で水理学的又は機械的手段によってガラス製容器内に完全に挿入できる。かかる凍結乾燥用クロージャーのプラグ部は、スリット、通路又は他の適切な手段を、突出要素又はその外径で位置決めする要素と一緒に提供することが好ましく、それによって昇華工程の間にわたって乾燥位置(途中まで;本明細書中では、不完全に栓をするとしても引き合いに出される)への挿入が可能になる。好ましくは、凍結乾燥用クロージャーを昇華位置において強く保持する位置決め要素の設計は、そのクロージャーが完全に挿入された際に過剰に高い抵抗を発生させないことが望ましい。クロージャー上面には、標識又はくぼみが存在してよい。特に好ましい実施態様においては、このクロージャーは、ヨーロッパ薬局方2002年度版による1型のブチルゴム栓であり、前記ゴム栓は部分的にフルオロポリマーによってラミネートされており、その際、このラミネートは、バイアルの内側に達するプラグ部を含めた全ての部分を覆っている。
【0013】
別の実施態様においては、本医薬製品は、付加的に好適なクリンプシールを有する。
【0014】
好ましい実施態様においては、本医薬製品は、ゴム栓及びクリンプシールが取り付けられた透明ガラス製バイアルを有する。
【0015】
別の好ましい実施態様においては、本容器は、ブローバック(blow back)をフランジの内側に備えたバイアルを有する。このブローバックは、栓の取付けを改善し、かつこの栓がバイアル外部に飛び出るのを防ぐ。このバイアルのフランジ及び栓の寸法は、栓がバイアル内に完全に押圧されていない凍結乾燥工程の間、並びに栓がバイアル内に完全に押圧されており、かつクリンプシールによって固定されていない凍結乾燥工程後に、栓の良好な取付を保証するように選択される。真空をバイアル中で可能な限り長く保つために、バイアルと栓との間の十分なシール面を提供するサイズ寸法を有するブローバックを備えていることが好ましい。ブローバックを備えたバイアルの場合には、部分的にフルオロポリマーでラミネートされた栓が好ましい。バイアルのブローバックと接触する栓の表面がラミネートされているのではなく、ラミネートは、この栓の領域からプラグ部の下方に広がり、かつ少なくともバイアルの内側に達する全ての部分を覆っていることが好ましい。
【0016】
本発明にかかる容器は、好適な溶剤を付加すること及び製品の無菌性を維持するようにして得られた注射剤の全て又は一部を抜き取ることを可能にすることが好ましい。本発明にかかる容器は、任意の好適な容量、好ましくは20ml以下、特に好ましくは15ml以下、殊に好ましくは12ml以下(例えば、12ml)を保持してよい。
【0017】
本発明にかかる別の実施態様においては、閉じられた容器クロージャー系は、内側が減圧されている。この圧力は、注射用溶剤をこの閉じられた系に添加することを可能にするまで減らす(例えば、クロージャーを針で貫通させる)ことが好ましい。800ミリバール以下、600ミリバール以下、特に500ミリバール以下(例えば、500ミリバール)に減圧されていることが好ましい。かかる容器/クロージャー系は、内側が減圧されていない容器クロージャー/系と比較とすると、注射用溶剤の十分な添加を可能にする。減圧を適用するにあたっては、ブローバックを備えた容器/クロージャー系が特に好ましい。前記系は、ブローバックを有さない慣用の系と比較すると、極めて気密性が高く、かつ空気流入の危険性及びこれに伴う潜在的な汚染を回避できることが判明した。
【0018】
5−ジフルオロメトキシ−2−[(3,4−ジメトキシ−2−ピリジニル)メチルスルフィニル]−1H−ベンズイミダゾール(INN:パントプラゾール、本発明に関しては、パントプラゾールとしても引き合いに出される)は、EP−A−0166287号から公知である。パントプラゾールは、キラル化合物である。本発明に関しては、パントプラゾールという語は、パントプラゾールの純粋なエナンチオマー及びそれらの任意の混合比の混合物をも含む。例として、(S)−パントプラゾール[(−)−パントプラゾール]が挙げられる。その際、パントプラゾールは、それ自体で存在するか又は好ましくはその塩基との塩の形で存在する。挙げられる塩基との塩の例は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム及びカルシウム塩である。パントプラゾール及び/又はその塩は、それが結晶形で単離される際には種々の量の溶剤を含有してよい。本発明に関しては、パントプラゾールはまた、5−ジフルオロメトキシ−2−[(3,4−ジメトキシ−2−ピリジニル)メチルスルフィニル]−1H−ベンズイミダゾール及びその塩の全種の溶媒和物及び、特に水和物を意味する。かかるパントプラゾールの塩基との塩の水和物は、例えばWO91/19710号に開示されている。便宜上、パントプラゾールは、パントプラゾールナトリウム、パントプラゾールナトリウムセスキ水和物(=パントプラゾールナトリウム×1.5HO)、パントプラゾールマグネシウム二水和物及び(−)−パントプラゾールマグネシウム二水和物を意味する(これに関しては、WO00/10995号及びWO04/013126号が引き合いに出される)。
【0019】
このパントプラゾールは、本発明にかかる医薬製品中に粉末として含まれていることが好ましい。パントプラゾールを凍結乾燥(本明細書中では、冷凍乾燥としても引き合いに出される)製剤として提供することが特に好ましい。
【0020】
本発明にかかる医薬製品は、パントプラゾールの代わりに、他の酸不安定性プロトンポンプ阻害剤(H/KATPアーゼ阻害剤)を含有してもよい。挙げられる本発明の意図内の他の酸不安定性プロトンポンプ阻害剤は、特に、置換されたピリジン−2−イル−メチルスルフィニル−1H−ベンズイミダゾールであり、これは例えばEP−A−0005129号、EP−A−0166287号、EP−A−0174726号、EP−A−0184322号、EP−A−0261478号及びEP−A−0268956号に開示されている。そこでは、5−メトキシ−2−[(4−メトキシ−3,5−ジメチル−2−ピリジニル)メチルスルフィニル]−1H−ベンズイミダゾール(INN:オメプラゾール)、2−[3−メチル−4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−2−ピリジニル)メチルスルフィニル]−1H−ベンズイミダゾール(INN:ランソプラゾール)及び2−{[4−(3−メトキシプロポキシ)−3−メチルピリジン−2−イル]−メチルスルフィニル}−1H−ベンズイミダゾール(INN:ラベプラゾール)が好ましいと挙げられている。更なる酸不安定性プロトンポンプ阻害剤は、例えば、置換されたフェニルメチルスルフィニル−1H−ベンズイミダゾール、シクロヘプタピリジン−9−イルスルフィニル−1H−ベンズイミダゾール又はピリジン−2−イルメチルスルフィニルチエノイミダゾールであり、それらはDE−A−3531487号、EP−A−0434999号及びEP−A−0234485号に開示されている。挙げられる例は、2−[2−(N−イソブチル−N−メチルアミノ)ベンジル−スルフィニル]ベンズイミダゾール(INN:レミノプラゾール)及び2−(4−メトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−シクロヘプタ−[b]ピリジン−9−イルスルフィニル)−1H−ベンズイミダゾール(INN:ネパプラゾール)である。
【0021】
この酸不安定性プロトンポンプ阻害剤は、キラル化合物である。酸不安定性プロトンポンプ阻害剤という語は、酸不安定性プロトンポンプ阻害剤の純粋なエナンチオマー及びそれらの任意の混合比の混合物をも含む。例として挙げられる純粋なエナンチオマーは、5−メトキシ−2−[(S)−[(4−メトキシ−3,5−ジメチル−2−ピリジニル)メチル]スルフィニル]−1H−ベンズイミダゾール(INN:エソメプラゾール)である。
【0022】
その際、酸不安定性プロトンポンプ阻害剤は、それ自体で存在するか又はその塩基との塩の形で存在する。挙げられる塩基との塩の例は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム及びカルシウム塩である。必要であれば、酸不安定性プロトンポンプ阻害剤の塩基との塩は、水和物の形で存在していてもよい。パントプラゾールに加えて挙げられる特に好ましい酸不安定性プロトンポンプ阻害剤は、オメプラゾールマグネシウム、オメプラゾール、エソメプラゾールマグネシウム及びエソメプラゾールである。
【0023】
本医薬製品は、酸不安定性プロトンポンプ阻害剤(例えば、パントプラゾール)に加え、1種以上の付加的な製剤学的に許容される添加剤を含有してよい。本発明に関して挙げられる例は、錯化剤、例えばエチレンジアミン四酢酸及び/又はその好適な塩、安定剤(例えば、グリシン)、好適な塩基、例えば炭酸ナトリウム又は水酸化ナトリウム及び担体、例えば炭水化物を含む。
【0024】
本発明にかかる医薬製品は、酸不安定性プロトンポンプ阻害剤(例えば、パントプラゾール)と好適な溶剤(好ましくは水性溶剤の溶液)及び場合により更なる添加剤との混合物を容器内に供給し、そしてその酸不安定性プロトンポンプ阻害剤(例えば、パントプラゾール)溶液を有する容器を凍結乾燥工程に供することによって得ることができることが好ましい。この凍結乾燥は、自体公知の方法によって実施してよい。好ましい実施態様においては、その容器を、凍結乾燥工程を適用する前に、不完全に栓をする。この凍結乾燥工程の完了後に、その容器を、好ましくは不活性雰囲気(例えば、窒素)及び減圧下で栓で閉じて、そして好ましくはクリンプシールを設ける。
【0025】
本発明の一実施態様によれば、凍結乾燥工程に使用されるパントプラゾール溶液は、エチレンジアミン四酢酸及び/又はその好適な塩並びに水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムを水性溶剤に添加することによって得てよい。本発明に関して例として挙げられるエチレンジアミン四酢酸の好適な塩の例は、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム塩、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム塩及びエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩である。使用されるパントプラゾールの量に対するエチレンジアミン四酢酸及び/又はその好適な塩の質量の割合は、0.05〜25%、好ましくは0.25〜12.5%、特に好ましくは1〜5%である。この水性溶剤は、注射用水であることが好ましい。次いで、パントプラゾールをその溶液に添加し、そして撹拌によって溶解させる。パントプラゾールの質量の割合(m/m)が0.5〜10%、特に好ましくは1〜6%である溶液を得ることが好ましい。本発明の更なる好ましい実施態様においては、凍結乾燥工程に使用される溶液のpHは8以上、特に好ましくはそのpHは10〜13の範囲内である。次いで、この溶液を滅菌濾過し、バイアル内に装入する。次いで、この溶液を前記のように凍結乾燥させる。
【0026】
パントプラゾール注射剤は、このように得られた冷凍乾燥生成物を好適な溶剤、例えば、生理食塩水、5%のグルコース水溶液、又は注射用の蒸留水中に溶解させることによって製造できる。本発明にかかるパントプラゾール注射剤は、静脈内注射の形態で使用することが好ましい。
【0027】
本発明にかかる医薬製品は、酸不安定性プロトンポンプ阻害剤(例えば、パントプラゾール)を、それぞれの疾患の治療について慣用の用量で含有することが好ましい。本発明にかかる医薬製品は、ピリジン−2−イルメチルスルフィニル−1H−ベンズイミダゾールの使用によって治療可能又は回避可能と考えられる全種の疾病の治療及び予防に利用できる。特に本発明にかかる医薬製品は、胃疾患の治療に利用できる。本発明に関して挙げられる例は、良性胃潰瘍、胃食道逆流疾患症(GERD)、びらん性食道炎の既往症が関与するGERD、ゾリンジャー・エリソン症候群が関与する異常な分泌過多、ゾリンジャー・エリソン症候群、十二指腸潰瘍、ヘリコバクター・ピロリが関与する十二指腸潰瘍の治療又は予防、継続的なNSAIDの治療又はヘリコバクター・ピロリの根絶における抗生物質との組合せ療法を必要とする胃十二指腸の合併症の危険性が高い患者におけるNSAIDが関与する胃潰瘍又は十二指腸潰瘍を予防である。本発明にかかる医薬製品内に含まれる冷凍乾燥生成物は、特に、5〜150mg、好ましくは5〜60mgのパントプラゾールを含有する。挙げられる例は、10mg、20mg、40mg、50mg、80mg又は96mgのパントプラゾールを含有する冷凍乾燥生成物又は注射剤である。1日量(例えば、40mgの有効化合物)の投与は、例えば、単一量の形態で実施するか又は若干回の量(例えば、20mgの有効化合物を2回)によって実施してよい。注射剤中のパントプラゾール濃度は、投与経路に応じて変動してよく、かつ遊離の化合物を基準に一般的には0.05〜10mg/ml、好ましくは0.1〜5mg/mlの割合に及ぶ。例えば大量投与の場合には、20〜120mgの冷凍乾燥生成物を10mlの生理食塩水で溶解させ、そして例えば少なくとも2分の時間にわたって静脈内投与してよい。代替的に、2個のバイアルの内容物(それぞれ、例えば10mlの生理食塩水で溶解されている)を組み合わせて、そして更に(例えば80mlの)5%のデキストロース注射液(Dextrose Injection)(USP)、0.9%の塩化ナトリウム注射液(Sodium Chloride Injection)(USP)又は乳酸加リンゲル注射液(Lactated Ringer’s Injection)(USP)で、(全容量100mlまで)希釈(混合)させてよい。かかる溶液は、約15分の時間にわたって約7ml/分の速度で静脈内投与してよい。
【0028】
本発明にかかる医薬製品は、複数回量用の容器の形、好ましくは1回量用の容器の形で提供してよい。
【0029】
本発明にかかる医薬製品の製造を、以下に実施例として説明する。以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するものであり、それを限定するものではない。
【0030】
実施例
注射用医薬製品の製造
実施例1
窒素雰囲気下で、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.276g及び水酸化ナトリウム6.7g(1N水溶液)を、4〜8℃の注射用水480gに添加する。パントプラゾールナトリウムセスキ水和物12.47gを、撹拌しつつ添加し、透明溶液を得る。この溶液の質量を、注射用水を添加することによって500gに調節する。この溶液のpHは、11.76である。この溶液を、0.2μmのメンブランフィルターに通して濾過し、そしてガラス製バイアル中に充填する(バイアルごとに1.81g;12mlの基準内容量を有するヨーロッパ薬局方によるI型ガラスのガラス製バイアル−Fiolax(R))。この充填されたバイアルに不完全に栓をして(ヨーロッパ薬局方2002年度版による1型のブチルゴム栓;基準サイズ20)、そして冷凍乾燥のために凍結乾燥機(例えば、GT4 Edwards/Kniese又はGT8 Amsco)内に置く。このバイアルを、−45℃まで冷却し、次いでこの温度を真空(0.1〜0.5ミリバール)下で−20℃〜−5℃まで上昇させて乾燥させる。主乾燥の完了後に、この温度を30℃まで上昇させ、真空を0.01ミリバールに調節し、そして乾燥を更に3時間にわたって継続する。圧力を、窒素を流すことによって500ミリバールまで上昇させ、そしてこのバイアルに栓をして、そしてクリンプする。オフホワイトの冷凍乾燥生成物が得られ、該生成物は生理食塩水で容易に溶解して、透明溶液が得られる。
【0031】
実施例2
窒素雰囲気下で、パントプラゾールナトリウムセスキ水和物12.47gを、4〜8℃の注射用水480gに撹拌しつつ添加し、透明溶液を得る。この溶液の容量を、注射用水を添加することによって500gに調節する。この溶液のpHは10.85である。この溶液を、0.2μmのメンブランフィルターに通して濾過し、そしてガラス製バイアル中に充填する(バイアルごとに1.81g;12mlの基準内容量を有するヨーロッパ薬局方によるI型ガラスのガラス製バイアル−Fiolax(R))。この充填されたバイアルに不完全に栓をして(ヨーロッパ薬局方2002年度版による1型のブチルゴム栓;基準サイズ20)、そして冷凍乾燥のために凍結乾燥機(例えば、GT4 Edwards/Kniese又はGT8 Amsco)内に置く。このバイアルを−45℃まで冷却し、次いでこの温度を真空(0.1〜0.5ミリバール)下で−20℃〜−5℃まで上昇させて乾燥させる。主乾燥の完了後に、この温度を30℃まで上昇させ、真空を0.01ミリバールに調節し、そして乾燥を更に3時間にわたって継続する。圧力を、窒素を流すことによって500ミリバールまで上昇させ、そしてこのバイアルに栓をして、そしてクリンプする。オフホワイトの冷凍乾燥生成物が得られる。
【0032】
実施例3
窒素雰囲気下で、水酸化ナトリウム2.45g(1N水溶液)を、4〜8℃の注射用水480gに添加する。パントプラゾールナトリウムセスキ水和物12.47gを、撹拌しつつ添加し、透明溶液を得る。この溶液の質量を、注射用水を添加することによって500gに調節する。この溶液のpHは、11.5である。この溶液を、0.2μmのメンブランフィルターに通して濾過し、そしてガラス製バイアル中に充填する(バイアルごとに1.81g;12mlの基準内容量を有するヨーロッパ薬局方によるI型ガラスのガラス製バイアル−Fiolax(R))。この充填されたバイアルに不完全に栓をして(ヨーロッパ薬局方2002年度版による1型のブチルゴム栓;基準サイズ20)、そして冷凍乾燥のために凍結乾燥機(例えば、GT4 Edwards/Kniese又はGT8 Amsco)内に置く。このバイアルを、−45℃まで冷却し、次いでこの温度を真空(0.1〜0.5ミリバール)下で−20℃〜−5℃まで上昇させて乾燥させる。主乾燥の完了後に、この温度を30℃まで上昇させ、真空を0.01ミリバールに調節し、そして乾燥を更に3時間にわたって継続する。圧力を、窒素を流すことによって500ミリバールまで上昇させ、そしてこのバイアルに栓をして、そしてクリンプする。オフホワイトの冷凍乾燥生成物が得られる。
【0033】
実施例4
窒素雰囲気下で、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.05gを、4〜8℃の注射用水480gに添加する。パントプラゾールナトリウムセスキ水和物12.47gを、撹拌しつつ添加して、透明溶液を得る。この溶液の質量を、注射用水を添加することによって500gに調節する。この溶液のpHは、10.2である。この溶液を、0.2μmメンブランフィルターに通して濾過し、そしてガラス製バイアル中に充填する(バイアルごとに1.81g;12mlの基準内容量を有するヨーロッパ薬局方によるI型ガラスのガラス製バイアル−Fiolax(R))。この充填されたバイアルに不完全に栓をして(ヨーロッパ薬局方2002年度版による1型のブチルゴム栓;基準サイズ20)、そして冷凍乾燥のために凍結乾燥機(例えば、GT4 Edwards/Kniese又はGT8 Amsco)内に置く。このバイアルを、−45℃まで冷却し、次いでこの温度を真空(0.1〜0.5ミリバール)下で−20℃〜−5℃まで上昇させて乾燥させる。主乾燥の完了後に、この温度を30℃まで上昇させ、真空を0.01ミリバールに調節し、そして乾燥を更に3時間にわたって継続する。圧力を、窒素を流すことによって500ミリバールまで上昇させ、そしてこのバイアルに栓をして、そしてクリンプする。オフホワイトの冷凍乾燥生成物が得られる。
【0034】
図面の説明
図1は、ブローバック(2)をフランジ(3)に有するガラス製バイアル(1)を示す。
図2は、バイアル(1)のブローバック(2)の詳細図を示す。
図3は、ゴム栓(4)の詳細図を示す。この栓は、スリット(5)を備える。(6)によって示される線で始まるプラグ部の下方でかつ内側の領域(7)は、フルオロポリマーでラミネートされている。
図4は、ゴム栓(4)の下面図を示す。
図5は、ゴム栓(5)の注射部位標識(9)付きフランジ部(8)上面での上面図を示す。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ブローバック(2)をフランジ(3)に有するガラス製バイアル(1)を示す
【図2】バイアル(1)のブローバック(2)の細部を示す
【図3】ゴム栓(4)の詳細図を示す。この栓は、スリット(5)を備える。(6)によって示された線で始まるプラグ部の下方でかつ内側の領域(7)は、フルオロポリマーでラミネートされている
【図4】ゴム栓(4)の下面図を示す
【図5】ゴム栓(5)の注射部位標識(9)付きフランジ部(8)上面での上面図を示す
【符号の説明】
【0036】
1 バイアル、 2 ブローバック、 3 フランジ、 4 ゴム栓、 5 スリット、 6 線、 7 プラグ部、 8 フランジ部、 9 標識

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射製剤に好適なクロージャーを備えた容器を有する注射用医薬製品であって、前記容器は、酸不安定性プロトンポンプ阻害剤、その塩、酸不安定性プロトンポンプ阻害剤の溶媒和物及びその塩の溶媒和物の群から選択された化合物を含有し、その際、前記容器及び前記クロージャーは、亜鉛イオンを実質的に放出しない材料から製造されている医薬製品。
【請求項2】
5−ジフルオロメトキシ−2−[(3,4−ジメトキシ−2−ピリジニル)メチルスルフィニル]−1H−ベンズイミダゾール(パントプラゾール)、その塩、パントプラゾールの溶媒和物及びその塩の溶媒和物の群から選択された化合物を含有する、請求項1に記載の医薬製品。
【請求項3】
パントプラゾールが、パントプラゾールナトリウムセスキ水和物である、請求項2に記載の医薬製品。
【請求項4】
オメプラゾールマグネシウム、オメプラゾール、エソメプラゾールマグネシウム又はエソメプラゾールを含有する、請求項1に記載の医薬製品。
【請求項5】
クロージャーが製造される材料における抽出可能な亜鉛の量が、該量をヨーロッパ薬局方2002年度版によって測定した場合に、5ppm以下、4ppm以下、特に好ましくは3ppm以下、とりわけ好ましくは1ppm以下、なかんずく好ましくは0ppm(すなわち、検出不能)である、請求項1に記載の医薬製品。
【請求項6】
クロージャーが、ヨーロッパ薬局方2002年度版による1型のブチルゴム栓であり、前記栓は部分的にフルオロポリマーによってラミネートされている、請求項5に記載の医薬製品。
【請求項7】
ヨーロッパ薬局方2002年度版による1型のゴム栓及びクランプシールを備えた透明ガラス製バイアルを有する、請求項1に記載の医薬製品。
【請求項8】
ゴム栓が、請求項6に記載の栓である、請求項7に記載の医薬製品。
【請求項9】
ガラス製バイアルが、ブローバックをフランジの内側に有し、かつクロージャーが有する抽出可能な亜鉛が0ppmであるヨーロッパ薬局方2002年度版による1型のブチルゴム栓であり、前記栓は部分的にフルオロポリマーによってラミネートされている、請求項7に記載の医薬製品。
【請求項10】
フルオロポリマーによるラミネートが、バイアルのフランジの内側のブローバックと接触している栓領域に続く栓表面の領域から下方に広がり、かつバイアルの内側に達する栓部分を覆っている、請求項9に記載の医薬製品。
【請求項11】
容器内側が減圧されている、請求項1に記載の医薬製品。
【請求項12】
800ミリバール以下、600ミリバール以下又は500ミリバール以下に減圧されている、請求項11に記載の医薬製品。
【請求項13】
20ml以下の容量を有する、請求項1に記載の医薬製品。
【請求項14】
付加的に1種以上の好適な添加剤を含有する、請求項1に記載の医薬製品。
【請求項15】
添加剤が、錯化剤、安定剤、好適な塩基、担体及びそれらの混合物の群から選択された、請求項14に記載の医薬製品。
【請求項16】
エチレンジアミン四酢酸及び/又はその好適な塩並びに水酸化ナトリウムを含有する、請求項14に記載の医薬製品。
【請求項17】
請求項1に記載の注射用医薬製品を製造する方法において、(a)酸不安定性プロトンポンプ阻害剤と溶剤及び場合により更なる添加剤との混合物を容器内に供給する段階、(b)前記混合物を有する前記容器を凍結乾燥に供する段階及び(c)前記容器を、クロージャーで閉じる段階を含む方法。
【請求項18】
段階(c)を、減圧下で行う、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1に記載の医薬製品を利用する、胃疾患を治療又は予防する方法。
【請求項20】
良性胃潰瘍、胃食道逆流疾患症(GERD)、びらん性食道炎の既往症が関与するGERD、ゾリンジャー・エリソン症候群が関与する異常な分泌過多、ゾリンジャー・エリソン症候群、十二指腸潰瘍、ヘリコバクター・ピロリが関与する十二指腸潰瘍の群から選択された疾病を治療又は予防し、継続的なNSAIDの治療及びヘリコバクター・ピロリの根絶における抗生物質との組合せ療法を必要とする胃十二指腸の合併症の危険性が高い患者におけるNSAIDが関与する胃潰瘍又は十二指腸潰瘍を予防する方法において、請求項1に記載の医薬製品を利用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−502803(P2007−502803A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523637(P2006−523637)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051841
【国際公開番号】WO2005/018639
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(390019574)アルタナ ファルマ アクチエンゲゼルシャフト (69)
【氏名又は名称原語表記】ALTANA Pharma AG
【住所又は居所原語表記】Byk−Gulden−Str. 2、 D−78467 Konstanz、 Germany
【Fターム(参考)】