説明

洗浄剤組成物及び洗浄方法

【課題】 電気・電子部品、光学部品、自動車部品、精密機械部品などの部品に付着したフラックス、ワックス、加工油などの、特には、これらが複合して付着した汚れを洗浄するための洗浄剤組成物及び洗浄方法を提供する。
【解決手段】 沸点が200〜350℃の飽和炭化水素を60〜20重量%、酢酸エステルを40〜80重量%含有する洗浄剤組成物。飽和炭化水素の炭素数は12〜19であり、酢酸エステルが3−メチル−3−メトキシブチルアセテートであり、洗浄剤組成物の引火点が70℃以上であることが好ましい。また、この洗浄剤を用いて被洗浄物を浸漬洗浄後、ハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルに浸漬してすすぎを行う洗浄方法により、さまざまな汚れに対し、十分な洗浄を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品、光学部品、自動車部品、精密機械部品などの部品に付着したフラックス、ワックス、加工油などの、特には、これらが複合して付着した汚れを洗浄するための洗浄剤組成物及び洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フラックス、ワックス、加工油、植物油などが付着した精密部品の洗浄には、トリフロロトリクロロエタンなどのフロン系溶剤あるいは1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、塩化メチレンなどの塩素系溶剤が洗浄剤として使用されてきた。しかし、トリフロロトリクロロエタンや1,1,1−トリクロロエタンはオゾン層を破壊する物質として、1995年末にその製造が禁止された。また、トリクロロエチレンや塩化メチレンは毒性が強く、放出された場合に大気汚染、水質汚染を起こすため、その法規制が厳しい。
【0003】
また、界面活性剤や無機アルカリを添加した水系洗浄剤、リン酸塩類等の水溶性洗浄剤の利用も検討されるが、洗浄力が乏しく、かつ排水処理設備に大きなスペースを必要とするため経済性の面からも好ましくない。そのため、オゾン層破壊がなく、高脱脂力で低毒性、かつ常温で引火性のない、比較的安全な炭化水素系洗浄剤が見直されているが、フロン系溶剤や塩素系溶剤と異なり引火性の液体であるため、消防法により危険物の指定数量の制約がある。
【0004】
消防法危険物第三石油類に分類される炭化水素は、危険物の指定数量としての制約が少ない反面、蒸発速度が遅いために洗浄処理後の乾燥に時間がかかるという問題があった。また、ハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテル(HFC/E)は炭化水素洗浄剤で洗浄後のすすぎ剤や蒸気洗浄剤として使用されるが、炭化水素洗浄剤は、HFC/Eに難溶であるため、被洗浄物表面上で、炭化水素洗浄剤からHFC/Eへの置換が十分に行われず、汚れ成分を含む炭化水素洗浄剤の一部が被洗浄物表面に付着したまま残留し、洗浄不良を起こす恐れがあった。
【0005】
HFC/Eと相溶性のあるグリコールエーテルやエステル等の有機化合物とHFC/Eとの混合物の温浴を用いた洗浄工程と引き続いて該HFC/E単体によるすすぎ工程からなる洗浄方法が提案されている(特許文献1参照)。また、HFC/Eと有機化合物(グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、ヒドロキシカルボン酸エステル類等)から成る均一な洗浄剤で被洗浄物を洗浄した後に該HFC/Eですすぐ工程で、汚染されたすすぎ剤を静置することにより、混入した汚れ成分及び/または洗浄剤成分を分離し、洗浄剤及びすすぎ剤を再利用する方法も提案されている(特許文献2参照)。しかし、これら文献に記載のグリコールエーテル類は、炭化水素と比較すると鉱物油に対する洗浄性が必ずしも高いとはいえない。
【0006】
また、炭化水素系溶剤を主成分とする一次洗浄液で被洗浄物を洗浄処理した後、HFCを主成分とする二次洗浄液ですすぎ洗浄する洗浄装置(特許文献3参照)や、HFC/Eに難溶性の炭化水素等の有機化合物とHFC/Eを洗浄槽に二層分離させて充填し、被洗浄物を主として有機化合物を含む上層液体により洗浄した後、これを主として該HFC/Eを含む下層液体によりシャワー洗浄し、次いで該HFC/Eですすぎ、更にこれを該HFC/Eの飽和蒸気により蒸気洗浄することからなる洗浄方法が提案されている(特許文献4参照)。さらに、炭化水素系溶剤で被洗浄物を洗浄後にHFC/Eですすぎ洗浄する洗浄装置が提案されている(特許文献5参照)。ここでは、炭化水素系溶剤とHFC/Eが相溶しないことで両者を容易に比重分離できることが特徴として挙げられている。これらの特許は、HFC/Eに難溶性の溶剤を用いていることを特徴としており、HFC/Eによるすすぎ工程において溶剤が被洗浄物表面に残存して、溶剤に溶解された汚れ成分が被洗浄物表面にシミを作って洗浄不良を起こす恐れがある。
【特許文献1】特開平10−36894号公報
【特許文献2】特開2001−334104号公報
【特許文献3】特開平6−328052号公報
【特許文献4】特開平10−192797号公報
【特許文献5】特開平10−202209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述のような洗浄不良を起こさず、オゾン層破壊等の環境上の問題が無く、危険物の指定数量としての制約が少なく、揮発によるロスが少なく、加熱洗浄ができ、十分な乾燥性能を有し、回収が容易で、かつ、フラックス、ワックス、加工油などが複合して付着した汚れに対して十分な洗浄特性を有する洗浄剤組成物及び洗浄方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、飽和炭化水素と酢酸エステルとの混合物が、各種汚れの洗浄に適し、また、ハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルと特有の溶解特性があることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の洗浄剤組成物は、沸点が200〜350℃の飽和炭化水素を60〜20重量%、酢酸エステルを40〜80重量%含有する。また、飽和炭化水素の炭素数は12〜19であり、酢酸エステルが3−メチル−3−メトキシブチルアセテートであり、洗浄剤組成物の引火点が70℃以上であることが好ましい。引火点が70℃未満であると、通常、洗浄で使用する温度範囲において、引火性蒸気の発生が多くなり、安全上の危険性が増大するため、引火点70℃以上のものが好ましい。
【0010】
また、この洗浄剤を用いて被洗浄物を浸漬洗浄後、ハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルに浸漬してすすぎを行う洗浄方法により、さまざまな汚れに対し、十分な洗浄を行うことができる。
さらに、上記の洗浄方法を行った後、ハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルの蒸気と被洗浄物を接触させて蒸気洗浄を行い、その後、被洗浄物を乾燥する洗浄方法であって、蒸気洗浄の際に、前記洗浄剤組成物とハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルが相溶することにより、被洗浄物表面上の洗浄剤組成物とハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルを置換させ、かつ、すすぎや蒸気洗浄を行った後の洗浄剤組成物を含むハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルを冷却することにより二層分離させることにより、各々を容易に回収することができる。このときのハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルの沸点は30〜150℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明による洗浄剤組成物は、オゾン層破壊等の環境上の問題が無く、第3石油類に属することから危険物の指定数量としての制約が少なく、高沸点がゆえに揮発によるロスが少なくて加熱洗浄ができ、かつ、フラックス、ワックス、加工油などが複合して付着した汚れに対して十分な洗浄特性を有している。そして、HFC/Eの沸点温度近傍において相溶し、低温になるに連れて溶解度が大きく低下する本発明の洗浄剤組成物の特性を活用した洗浄方法により、該HFC/Eによる被洗浄物のすすぎの健全性、被洗浄物の速い蒸発速度及び洗浄剤と蒸気洗浄剤の容易な分離回収方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の洗浄剤組成物は、沸点が200〜350℃の範囲にある飽和炭化水素を60〜20重量%含む。飽和炭化水素は、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても、これらを単独で用いても複数を混合して用いても構わない。飽和脂肪族炭化水素が好ましく、特には、直鎖飽和脂肪族炭化水素が好ましい。沸点が200℃未満の飽和炭化水素は消防法危険物の第二石油類、または、第一石油類に属するため、安全上好ましくない。また、沸点が350℃を超えると、飽和炭化水素が高粘度になるため、洗浄効率が低下したり、洗浄後の乾燥がしにくくなるため好ましくない。飽和炭化水素は炭素数12〜19、特に炭素数12が、特には、ノルマルドデカンが好ましく用いられる。
本発明の洗浄剤組成物は、上記飽和炭化水素を60〜20重量%含有するものであり、40〜30重量%含有することが好ましい。飽和炭化水素が20重量%未満であると、鉱物油に対する洗浄性が低下するため好ましくない。また、60重量%を超えると、HFC/Eとの相溶性が低くなるため、HFC/Eでのすすぎや蒸気洗浄を行う際、洗浄剤の置換が行われにくくなるため好ましくない。
【0013】
本発明の洗浄剤組成物は、酢酸エステルを40〜80重量%含有するものであり、60〜70重量%含有することが好ましい。酢酸エステルとしては、ヒドロキシル基を有する脂肪族炭化水素誘導体と酢酸のエステル、特には、ジアルキルエーテルの水素元素の一つをヒドロキシル基で置換したアルコールと酢酸のエステルが好ましく用いられる。酢酸エステルの炭素数は5〜10、特に6〜8が好ましい。
酢酸エステルが40重量%未満であると、フラックス、ワックスといった極性物質を含む汚れに対する洗浄性が低下するとともに、HFC/Eとの溶解性が低下するため、HFC/Eでのすすぎや蒸気洗浄を行う際、洗浄剤の置換がされにくくなるため好ましくない。また、80重量%を超えると鉱物油に対する洗浄性が低下するため好ましくない。
【0014】
酢酸エステルとしては、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ブチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられる。入手の容易性、引火点の高さから、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテートの一種である3−メチル−3−メトキシブチルアセテートが好ましく用いられる。
【0015】
本発明の洗浄剤組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の炭化水素類、エステル類、アルコール類、ケトン類、ラクタム類などの配合成分や、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防錆剤などの慣用の添加剤を含めることができる。これら成分の含有量は、合計で10重量%未満、特には2重量%未満であることが好ましい。また、通常、水は配合されないことが好ましい。
【0016】
界面活性剤としては非イオン性界面活性剤が好ましく、例えば高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、シリコン系、フッ素系などいずれのものも使用できる。
【0017】
また、紫外線吸収剤及び酸化防止剤としては、洗浄液の長期保存などにおける安定性の向上に役立ち、紫外線吸収剤としては例えばベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系などを使用でき、酸化防止剤としては例えばフェノール系、アミン系、硫黄系、リン系など、本発明の洗浄剤組成物に溶解するものはいずれも使用できる。フェノール系酸化防止剤を、50〜1000ppm添加することが特に好ましい。
【0018】
本発明の洗浄剤組成物は引火点が高い反面、蒸発速度が遅いという問題があるため、速乾性を持たせるためにHFC/Eを蒸気洗浄剤とする蒸気洗浄を用いるのが好ましい。すなわち、HFC/Eを満たしたすすぎ槽で被洗浄物に付着した洗浄剤をすすいで除去した後に、被洗浄物を該HFC/Eの飽和蒸気層に静置することで蒸発速度が格段に改善される。ここで、HFC/Eの沸点は30〜150℃の範囲にあり、ハンドリングのしやすさ、洗浄剤との相溶性及び洗浄剤との沸点差を考慮して、沸点が40〜110℃のハイドロフルオロエーテル(HFE)が特に好ましく用いられる。HFEの例としては、1,2,2,2−テトラフルオロエチル−ヘプタフルオロプロピルエーテル(沸点40℃)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−2−ヘプタフルオロプロピロキシ−3−(1,2,2,2−テトラフルオロエトキシ)−プロパン(沸点104℃)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(沸点56℃)、ノナフルオロブチルメチルエーテル(沸点61℃)、ノナフルオロブチルエチルエーテル(沸点76℃)が挙げられる。
【0019】
一般に蒸気洗浄では蒸気洗浄剤の沸点近傍において洗浄剤と蒸気洗浄剤は相溶するのが好ましいとされている。本発明の洗浄剤組成物であるノルマルドデカンと3−メチル−3−メトキシブチルアセテートの混合物と、蒸気洗浄剤としてのHFEの一種である1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(HFE−1)(実施例1〜5、及び比較例1〜3)の溶解度を図1に示す。本発明の洗浄剤組成物は、50℃でHFE−1に相溶することから、良好な蒸気洗浄が達成される。また、本発明の洗浄剤組成物のHFE−1への溶解度は温度が下がるに連れて急激に低下する。したがって、蒸気洗浄剤の沸点近傍で均一な本発明の洗浄剤組成物と蒸気洗浄剤の混合物は、冷却すると二層に分離して、容易に各々を回収し、再利用することができる。
【0020】
本発明の洗浄方法において、被洗浄物を洗浄剤組成物と接触させる方法は特に制限されるものでなく、公知のいずれの方法も使用できる。例えば、洗浄剤組成物を含浸したスポンジなどによる拭き取り、洗浄剤組成物への浸漬、スプレーなどにより接触させることが好ましい。浸漬による洗浄においては、洗浄効果を高めるために、同時に攪拌、揺動、超音波、エアバブリングなどを組み合せることが更に好ましい。この場合、超音波の使用条件は、例えば発振周波数20〜100kHz、洗浄剤1L当りの発振出力10〜200Wが好ましい。エアバブリングでは、微細な気泡を、好ましくはガス:洗浄剤の体積比を1:1〜5:1で通気することにより、洗浄剤組成物に溶解しない汚れを気泡と共に上昇させ、分離できる。スプレーによる洗浄においては、その圧力は、例えば0.05〜1MPaが好ましい。いずれの場合も洗浄時間は、15秒間〜2時間、特には30秒間〜20分間が好ましい。この範囲未満では洗浄が不十分で、汚れを十分に除去できない。一方、この範囲を超えても洗浄効果は格別に向上しない。洗浄温度は、20〜130℃が好ましく、50〜130℃で加熱処理することにより洗浄効果を著しく上昇させることができる。
【0021】
本発明の洗浄方法において、被洗浄物に付着した洗浄剤の除去は、HFC/Eを用いたすすぎ及び蒸気洗浄により行う。その方法は特に制限されるものでなく、公知のいずれの方法も使用できる。例えば、HFC/Eを満たしたすすぎ槽で洗浄剤の付着した被洗浄物をすすいだ後に、該HFC/Eの飽和蒸気層に静置して蒸気洗浄することにより清浄な物品が得られる。すすぎ槽は、沸騰浴または冷浴のいずれか一方、または、両方でもよく、また、すすぎ効果を高めるために攪拌機または超音波発生機を取り付けることもできる。沸騰浴ですすいだ後に超音波発生機の付いた冷浴ですすぐのが最も効果的である。被洗浄物はすすぎ槽でHFC/Eの沸点よりも低い温度に冷却された後に引き上げられて、該HFC/Eの飽和蒸気層に導入されると、被洗浄物表面で該HFC/Eは凝縮・液化して、すすぎ槽では除去できなかった汚れを含む洗浄剤と置換され、すすぎが完了する。この際、該HFC/Eと洗浄剤の相溶性が低いと、置換が不十分となり、被洗浄剤表面に洗浄剤が残留して、シミが発生する恐れがあるが、本発明の洗浄剤組成物は該HFC/Eの沸点近傍で該HFC/Eと相溶するため、洗浄不良は起こらない。すすぎを終了した被洗浄物の表面は、該HFC/Eのみで濡れている状態にあるため、速やかに乾燥される。
【0022】
蒸気洗浄剤から洗浄剤成分や汚れ成分を分離するには、しばしば蒸留法が適用される。本発明の洗浄剤組成物においても蒸気洗浄剤との分離に蒸留法を用いることが可能であるが、一般に蒸留法には多大な時間や費用を要するという問題点がある。図1に示したように、本発明の洗浄剤組成物と蒸気洗浄剤の相溶性には顕著な温度依存性があることから、本発明の洗浄方法では、洗浄剤を含有するすすぎ槽や蒸気洗浄剤の凝縮液を冷却して2層分離させて、各々を回収して再利用する分離方法も含まれている。ここで、回収された汚れ成分を含む洗浄剤は、蒸留法等により洗浄剤組成物と汚れ成分に分離された後に再利用される。
【0023】
洗浄対象物としては、電子・電気部品、光学部品、精密機械部品、自動車部品などの部品を例示することができる。対象となる電気・電子部品としては、プリント配線基板、セラミック配線基板などの配線基板、リードフレームなどの半導体パッケージ部材、リレー、コネクターなどの接点部材、液晶、プラズマディスプレイなどの表示部品、ハードディスク記憶媒体、磁気ヘッドなどの磁気記憶部品、水晶振動子などの圧電部品、モータ、ソレノイドなどの電動機部品、センサー部品が挙げられる。光学部品としては、眼鏡、カメラ用などのレンズ、その筐体が挙げられる。精密機械部品としては、VTRなどに用いられる精密ベアリングなどの部品が挙げられる。
【0024】
洗浄対象物に付着している汚れとしては、アスファルトピッチ、ワックス、松脂、油脂、鉱油などからなる機械油、植物油、グリース、フラックス、フォトレジスト、接着剤が挙げられる。本発明の洗浄剤組成物は、特に、フラックス、ワックスに対して優れた洗浄力を有する。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例により限定して解釈されるものではない。
【0026】
実施例1〜5、比較例1〜10
[洗浄剤の調製]
ノルマルウンデカン(n−C11)(沸点171℃)、ノルマルドデカン(n−C12)(沸点209℃)及び3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート(MMBAC)(沸点188℃)を用い、表1の配合量で配合して、実施例1〜5と比較例1〜10の洗浄剤を調製した。
【0027】
【表1】

【0028】
[引火点]
実施例1〜5と比較例1〜10の洗浄剤のタグ密閉式引火点(JIS K2265)を表1に併せて示した。実施例1〜5と比較例1〜4の洗浄剤は第三石油類(引火点70℃以上200℃未満)、比較例5〜10の洗浄剤は第二石油類である。(引火点21℃以上70℃未満)。
【0029】
[蒸気洗浄剤への溶解度]
第三石油類に分類される実施例1〜5と比較例1〜4の洗浄剤について、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(HFE−1)への溶解度を測定した。結果を表2と図1に示す。ここで、溶解度の測定の上限は100g/100gHFE−1とした。実施例1〜5の洗浄剤は50℃でHFE−1と相溶し、冷却するに従い相溶性は大きく低下した。一方、比較例1〜3の洗浄剤は50℃においてもHFE−1への溶解度が低く、部品上に残存付着している洗浄剤との置換が行われにくい。したがって、実施例1〜5と同じ条件で蒸気洗浄した場合は、すすぎ不良となる。また、比較例4の洗浄剤は−10℃においてもHFE−1に完全に相溶するため、冷却しながら洗浄剤と蒸気洗浄剤(HFE−1)を分離して各々を回収することはできない。50℃においてHFE−1に溶解している各洗浄剤(100g/100gHFE−1を上限とする)の−10℃における回収率を分離回収率として表2に付記する。
【0030】
【表2】

【0031】
[松脂溶解性]
第三石油類に分類される実施例1〜5と比較例1〜4の洗浄剤について松脂(関東化学)の溶解性試験を実施した。各洗浄剤40重量%と松脂60重量%を混合し、室温で超音波照射(出力100W、周波数28kHz)を5分間行い、目視により不溶解分の有無を観察した。完全に相溶したものを○、微かにでも不溶解分の有るものを×として評価し、表2に併せて示した。この結果から、実施例1〜5の洗浄剤は高い松脂溶解性を示すことがわかる。一方、比較例1〜2の洗浄剤の松脂溶解性は劣っていることがわかる。
【0032】
[フラックス洗浄性]
フラックス洗浄性の評価は、金属板(銅板50×50mm、厚さ0.03mm)上にロジン系フラックス入りハンダペースト(タムラ化研製、SQ−1030SZM−1)各1mgを9箇所に塗布し、250℃で30秒間リフローしたものを洗浄した。この洗浄対象物を200cmの洗浄液が充填された洗浄槽において液温20℃で超音波照射(出力100W、周波数28kHz)し、10秒間洗浄した。洗浄後、金属板上にフラックスの痕跡が認められなくなったものを○、微かにでも痕跡のあるものを×として評価し、表2に併せて示した。この結果から、実施例1〜5の洗浄剤は高いフラックス洗浄性を示すことがわかる。
【0033】
[ワックス洗浄性]
ワックスの洗浄性評価は、金属板(銅板50×50mm、厚さ0.03mm)上にテルペンフェノール樹脂系ワックス(日化精工製、アルコワックス542M)100mgを塗布し、室温で30秒間超音波照射(出力100W、周波数28kHz)して洗浄を行った。評価はワックスの残存率(残存するワックス重量の初期塗布量に対する割合(%))を求め、残存率15%未満を○、15%以上を×とした。この結果から、実施例1〜5の洗浄剤は高いワックス洗浄性を示すことがわかる。
【0034】
[植物油洗浄性]
植物油の洗浄性評価は、積層メッシュ板(SUS製30mmφ、厚さ1.0mm)上にひまし油(関東化学)300〜400mgを付着させ、室温で60秒間超音波照射(出力100W、周波数28kHz)して洗浄を行った。評価は植物油残存率(残存する植物油重量の初期の付着量に対する割合(%))を求め、残存率15%未満を○、15%以上を×とした。この結果から、実施例1〜5の洗浄剤は高い植物油洗浄性を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の洗浄剤組成物は、オゾン層破壊等の環境上の問題が無く、危険物の指定数量としての制約が少なく、揮発によるロスが少なく、加熱洗浄ができ、十分な乾燥性能を有し、かつ、回収が容易であることから、本発明の洗浄剤組成物及び洗浄方法は、電気・電子部品、光学部品、自動車部品、精密機械部品などの部品に付着したフラックス、ワックス、加工油などの、特には、これらが複合して付着した汚れの洗浄に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】HFEの一種である1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルに対する、本発明の洗浄剤組成物の溶解度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が200〜350℃の飽和炭化水素を60〜20重量%、酢酸エステルを40〜80重量%含有することを特徴とする洗浄剤組成物。
【請求項2】
飽和炭化水素の炭素数が12〜19である請求項1記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
酢酸エステルが3−メチル−3−メトキシブチルアセテートである請求項1又は2記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
洗浄剤組成物の引火点が70℃以上である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物。
【請求項5】
被洗浄物を請求項1乃至4のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物を用いて浸漬洗浄後、ハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルに浸漬してすすぎを行うことを特徴とする洗浄方法。
【請求項6】
請求項5に記載の洗浄方法を行った後、ハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルの蒸気と被洗浄物を接触させて蒸気洗浄を行い、その後、被洗浄物を乾燥する洗浄方法であって、蒸気洗浄の際に、前記洗浄剤組成物とハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルが相溶することにより、被洗浄物表面上の洗浄剤組成物とハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルを置換させ、かつ、すすぎや蒸気洗浄を行った後の洗浄剤組成物を含むハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルを冷却することにより二層分離させ、各々を回収することを特徴とする洗浄方法。
【請求項7】
ハイドロフルオロカーボン又はハイドロフルオロエーテルの沸点が30〜150℃である請求項5又は6に記載の洗浄方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−249114(P2006−249114A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63234(P2005−63234)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】