説明

洗浄方法及び洗浄装置

【課題】
炭化水素系溶剤等の洗浄剤を用いた洗浄方法及び洗浄装置において、高い作業効率を保ちながら、省エネルギー化を実現できる洗浄方法及び洗浄装置を提供する。
【解決手段】
本発明に係る洗浄装置10は、第1洗浄槽11、第2洗浄槽12、油分濃度監視部13、貯留タンク14、蒸留再生ユニット15、及び図示しない蒸留再生ユニット制御部を備えている。被洗浄物は第1洗浄槽内で超音波洗浄され、第2洗浄槽でリンス洗浄される。一方、被洗浄物に付着していた油分により汚染された洗浄剤は、第1洗浄槽11から循環路161と第1回収路162に排出され、循環路161の途中に設けられた油分濃度監視部13によって汚染洗浄剤に含まれる油分の濃度が測定される。この測定値は蒸留再生ユニット制御部に送られ、汚染洗浄剤の蒸留量及び該蒸留量の汚染洗浄剤の蒸留に必要な電力の値が算出され、該蒸留量の汚染洗浄剤及び電力が蒸留塔151に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系溶剤等の洗浄剤を用いた洗浄方法及び洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業洗浄に使用する洗浄剤は、第一に優れた洗浄力と高揮発性が求められる。洗浄力は製品の仕上がり品質に影響する最も重要な性質である。一方、揮発性は洗浄工程及びその後の工程の作業性に関連する。揮発性が高ければ、乾燥にかかる時間を節約でき、洗浄工程を含めた各工程の作業効率を高めることができる。さらに、安全性、洗浄装置等の設備投資に関するコスト、ランニングコスト、再生利用性なども、洗浄剤に要求される性質である。
【0003】
従来、これらの要求を満たす洗浄剤として、1,1,1-トリクロロエタンが用いられていた。1,1,1-トリクロロエタンは高い洗浄力と揮発性を有している他、不燃性であり、人体に対する安全性が高いなど、上記要求の殆どを満たす洗浄剤である。しかし、1,1,1-トリクロロエタンはオゾン層破壊物質であるため、1995年に製造が中止されている。
【0004】
1,1,1-トリクロロエタンに替わる洗浄剤として、近年では炭化水素系溶剤が多く用いられている。炭化水素系溶剤は可燃性であり、安全に使用するために設備投資に関するコストが高くなってしまうという問題があるが、工作油等の鉱物油に対する相溶性が高く、この種の汚れに対する洗浄力が優れており、高い揮発性を有していること、及び金属に対する腐食性が低いことから、工業用部品の脱脂洗浄に適している。さらに、蒸留によって溶剤から工作油等の油分を容易に分離できるため、ランニングコストと再生利用性にも優れている。
【0005】
特許文献1に記載の洗浄装置は、洗浄槽に炭化水素系溶剤等の蒸留再生可能な洗浄剤を貯留し、洗浄槽に被洗浄物を浸漬させた後、洗浄剤を被洗浄物の周りに強制流動させることにより洗浄を行っている。一方、被洗浄物に付着した油分(汚れ)によって汚染された洗浄剤は、洗浄槽から排出され、蒸留装置で再生された後、再び洗浄槽に供給される。このように被洗浄物の洗浄と洗浄剤の再生を同時に行うことにより、洗浄剤に混じった油分が被洗浄物に再付着することを防ぐことができると共に、長期に亘って高い洗浄力を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−328567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、被洗浄物の洗浄において、要求される仕上がり品質が高くなりつつある。洗浄剤の洗浄力を高めるには、不純物として洗浄剤に含有されている油分の濃度を下げる必要がある。従来では数%程度で管理されていた油分濃度は、現在では1%以下に抑えられるようになっている。しかしながら、このような微量の油分をリアルタイムで洗浄剤から検出することは困難であり、現状では必要量以上の蒸留を常に行うことでこの要求を満たしている。
【0008】
しかし、蒸留には時間がかかるため、上記要求を満たすには、被洗浄物の投入間隔を長くして作業効率を落とすか、蒸留装置を大型化するかのいずれかが必要となる。また、必要以上の量を常に蒸留するため、大量の電力を浪費することになる。最近、温暖化等の環境問題が叫ばれるようになり、省エネルギー化が推奨されている。このため、洗浄装置に対する効率的なエネルギー運用が必要となっている。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、高い作業効率を保ちながら、省エネルギー化を実現できる洗浄方法及び洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る洗浄方法は、洗浄槽に貯留した洗浄剤により被洗浄物の脱脂洗浄を行う洗浄方法において、
前記脱脂により汚染された洗浄剤の油分濃度を油分濃度測定手段によって測定し、
前記測定された油分濃度が管理値となるのに必要な前記汚染洗浄剤の蒸留量及び該蒸留量の汚染洗浄剤を蒸留するのに必要な電力の値を算出し、
前記算出された蒸留量及び電力値に基づいて、前記汚染洗浄剤を蒸留する
ことを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明に係る洗浄装置は、
内部に貯留した洗浄剤により被洗浄物の脱脂洗浄を行う洗浄槽と、
前記脱脂により汚染された洗浄剤の蒸留を行う蒸留装置と、
前記汚染洗浄剤に含まれる油分の濃度を測定する油分濃度測定手段と、
前記測定された油分濃度が管理値となるのに必要な前記汚染洗浄剤の蒸留量及び該蒸留量の汚染洗浄剤を蒸留するのに必要な電力の値を算出し、前記算出された蒸留量及び電力値に基づいて前記蒸留装置を制御する蒸留装置制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
前記油分濃度測定手段は、紫外光吸光光度計を用いることができる。紫外光吸光光度計は、1%以下の微量な洗浄剤中の油分に対してリアルタイムでの測定が可能であるため、油分濃度の変化に即時に対応することができ、高い洗浄性能を維持できるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る洗浄方法及び洗浄装置によれば、炭化水素系溶剤等の蒸留再生可能な洗浄剤を用いた脱脂洗浄の際に、洗浄剤に含まれる油分の濃度を紫外光吸光光度計を用いて常時監視し、この油分濃度が予め与えられた管理値になるよう、汚染洗浄剤の蒸留量及び該蒸留量の汚染洗浄剤を蒸留するのに必要な電力の値を算出し、これらの量と値に基づいて前記蒸留装置を制御している。これにより、蒸留装置に送られる汚染洗浄剤を必要最小限の量にすることができ、洗浄装置全体のエネルギー浪費を抑えることができる。さらに、蒸留量の減少により蒸留にかかる時間を短縮することができるため、洗浄作業の効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】洗浄装置の一実施例を示す概略構成図。
【図2】油分濃度と吸光度の変化を表すグラフ。
【図3】蒸留ユニット制御部の概略構成図。
【図4】加熱ヒータに供給するオイル温度と蒸留量の変化を表すグラフ(a)、及び電力と蒸留量の変化を表すグラフ(b)。
【図5】スチーム蒸発量と蒸留量の変化を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0015】
本発明に係る洗浄装置の一例を図1及び図2を用いて説明する。
図1は本実施例の洗浄装置10を示した概略構成図である。この洗浄装置10は、第1洗浄槽11、第2洗浄槽12、油分濃度監視部(油分濃度測定手段)13、貯留タンク14、蒸留再生ユニット15、及び図示しない蒸留再生ユニット制御部(蒸留装置制御手段)を備えている。第1洗浄槽11の底面の下部には、洗浄槽内に貯留された洗浄剤を超音波で振動させることにより被洗浄物の洗浄を行う超音波振動発振器111が設置されている。被洗浄物は、第1洗浄槽11内に浸漬され、超音波洗浄により洗浄された後、第2洗浄槽12で蒸気洗浄によりリンスされる。このリンスされた被洗浄物を第2洗浄槽12から搬出し、乾燥させることにより、洗浄が終了する。
【0016】
一方、被洗浄物を超音波洗浄することにより、第1洗浄槽11内の洗浄剤は被洗浄物に付着していた油分により汚染される。この汚染された洗浄剤は、第1洗浄槽11から循環路161と第1回収路162に排出される。循環路161の途中には油分濃度監視部13が設けられており、第1循環路を通過する汚染洗浄剤の油分濃度がリアルタイムで測定される。測定された汚染洗浄剤は、再び第1洗浄槽11に回収される。一方、第1回収路162から回収された汚染洗浄剤は、貯留タンク14に貯留される。貯留タンク14は液面感知スイッチを有しており、貯留タンク14内の汚染洗浄剤が所定量以上又は別の所定量以下とならないよう汚染洗浄剤の流入、流出が制御されている。
【0017】
油分濃度監視部13による油分濃度の測定データは、図示しない蒸留再生ユニット制御部に送られる。この蒸留再生ユニット制御部は、後述する方法に従って、蒸留量及び該蒸留量の汚染洗浄剤の蒸留に必要な電力の値を算出し、該蒸留量の汚染洗浄剤及び電力を蒸留再生ユニット15内の蒸留塔151に供給する。蒸留塔151では加熱ヒータにより汚染洗浄剤の蒸留を行っており、洗浄剤と油分の沸点差によって、洗浄剤と油分の分離を行っている。本実施例では、洗浄剤として油分より沸点の低いものを用いており、加熱ヒータの加熱温度を油分の沸点より低くすることで、洗浄剤と油分を分離することができる。洗浄剤から分離された油分は、オイルタンク152に回収される。蒸気となった洗浄剤は、三方コック153で2方向に分岐し、一方はコンデンサー154に送られ、凝縮されて液体に戻ったのち、エゼクター155を経由して循環タンク156に送られ、循環タンク156から洗浄槽11に送られる。また、もう一方は第1供給路163に送られ、加熱器121によって蒸気の状態を維持したまま第2洗浄槽12に供給される。
【0018】
第2洗浄槽12に供給された蒸気は、上記のように、被洗浄物の蒸気(リンス)洗浄に用いられる。しかしながら、第2洗浄槽12に搬入された被洗浄物は第1洗浄槽で既に洗浄されているため、第2洗浄槽12内の洗浄剤はほとんど汚染されない。そのため、蒸気洗浄後の洗浄剤は、第2回収路164を通って液戻しタンク122で液体に戻ったのち、第2供給路165を通って第1洗浄槽11に供給され、再び被洗浄物の洗浄に用いられる。
【0019】
本実施例で用いた各種方法について、以下で説明する。
(1)油分濃度の測定方法
本実施例の油分濃度監視部13は、覗き窓が設けられた、洗浄剤を貯留するタンクと、該覗き窓から所定の距離だけ離間して設けられた紫外光吸光光度計から成り、覗き窓を介してタンク内の洗浄剤の吸光度を測定し、油分濃度の監視を行う。紫外光吸光光度計は、紫外光源としてシーシーエス株式会社製のHLV-24-UV365(波長365nm)を用い、紫外センサとしてオムロン株式会社製のF3UV-A03を用いている。また、覗き窓と紫外光吸光光度計の間の距離は100mmとする。
【0020】
次に、洗浄剤として炭化水素系溶剤NS100(ジャパンエナジー社製)を用い、不純物として前記洗浄剤に混入させる油分としてPG-3080(プレス工作油)を用いた場合の、油分濃度と吸光度の関係を図2に示す。なお、図2の縦軸は、新液(油分濃度0%)の吸光度の測定値から各油分濃度の吸光度の測定値を引いたものである。
【0021】
図2に示すように、油分濃度の変化に応じて測定される吸光度はほぼ直線で変化する。従って、予備実験により油分濃度と吸光度の変化を直線で近似し、実際の洗浄で紫外光吸光光度計を用いて測定した吸光度をこの直線近似に代入することにより、油分濃度を測定することができる。
【0022】
(2)蒸留量の算出方法
油分濃度監視部13による油分濃度の測定データは、図3に示す蒸留再生ユニット制御部20(図1では図示せず)に送られる。この蒸留再生ユニット制御部20は、油分濃度監視部13から送られる油分濃度の測定値から、目的とする濃度に油分量を維持するのに必要な蒸留量を算出する蒸留量算出部21と、蒸留量算出部21で算出された蒸留量の汚染洗浄剤を蒸留再生ユニット15内の蒸留等151が蒸留するのに必要な電力の値を算出する電力算出部22と、電力算出部22が算出した電力値の電力を蒸留再生ユニット15に供給する電力供給部23と、を有している。ここで、上記の蒸留量算出部21の油分量算出には、例えばPID制御と呼ばれるフィードバック制御システムを用いることができる。このPID制御では、ある時刻での入力値(油分濃度の測定値)と出力値(ある蒸留量の汚染洗浄剤を蒸留した結果得られる油分濃度の計算値)及び目標値に対して、出力値と目標値の残差が0となるよう、入力値の変化に応じて蒸留量を常に計算し直している。これにより、油分濃度の時間的変化に対応した蒸留量の算出を行うことができる。なお、上記目標値は例えば0.1%のように所定の数値で与えても良いし、0.05%〜0.5%のように所定の幅で与えても良い。
【0023】
(3)電力値の算出方法
蒸留塔151の加熱ヒータの温度(オイル温度)と蒸留量の関係及び加熱ヒータに供給する電力と蒸留量の関係は、図4の(a)及び(b)に示すように、ほぼ一次関数の関係にある。従って、油分濃度測定の場合と同様に、予備実験等により電力と蒸留量の変化を一次関数で近似し、蒸留量算出部21で算出した蒸留量をこの関数に代入することにより、加熱ヒータに供給する電力の値を算出できる。
【0024】
なお、蒸留方法は蒸気加熱であっても良い。蒸気加熱では、スチーム圧を変化させることにより蒸留量を制御する。例えばスチーム圧が0.05MPa増加すると、電力量は約4KW増加するため、図5のスチーム蒸発量と蒸留量の関係から、必要な蒸留量の汚染洗浄剤を蒸留するための電力量が算出することができる。
【符号の説明】
【0025】
11…第1洗浄槽
111…超音波振動発振器
12…第2洗浄槽
121…加熱器
122…液戻しタンク
13…油分濃度監視部
14…貯留タンク
15…蒸留再生ユニット
151…蒸留塔
152…オイルタンク
153…三方コック
154…コンデンサー
155…エゼクター
156…循環タンク
161…循環路
162…第1回収路
163…第2回収路
164…第1供給路
165…第2供給路
20…蒸留再生ユニット制御部
21…蒸留量算出部
22…電力算出部
23…電力供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄槽に貯留した洗浄剤により被洗浄物の脱脂洗浄を行う洗浄方法において、
前記脱脂により汚染された洗浄剤の油分濃度を油分濃度測定手段によって測定し、
前記測定された油分濃度が管理値となるのに必要な前記汚染洗浄剤の蒸留量及び該蒸留量の汚染洗浄剤を蒸留するのに必要な電力の値を算出し、
前記算出された蒸留量及び電力値に基づいて、前記汚染洗浄剤を蒸留する
ことを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
前記油分濃度測定手段が紫外光吸光光度計であることを特徴とする請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
内部に貯留した洗浄剤により被洗浄物の脱脂洗浄を行う洗浄槽と、
前記脱脂により汚染された洗浄剤の蒸留を行う蒸留装置と、
前記汚染洗浄剤に含まれる油分の濃度を測定する油分濃度測定手段と、
前記測定された油分濃度が管理値となるのに必要な前記汚染洗浄剤の蒸留量及び該蒸留量の汚染洗浄剤を蒸留するのに必要な電力の値を算出し、前記算出された蒸留量及び電力値に基づいて前記蒸留装置を制御する蒸留装置制御手段と、
を備えることを特徴とする洗浄装置。
【請求項4】
前記油分濃度測定手段が紫外光吸光光度計であることを特徴とする請求項3に記載の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−32561(P2011−32561A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182103(P2009−182103)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(592068635)アクトファイブ株式会社 (8)
【Fターム(参考)】