説明

洗米排水の固液分離方法

【課題】洗米排水から有価物を効率的に回収する目的で、平易な方法により洗米排水の固液分離を効率的かつ迅速に行うことができる、洗米排水の固液分離方法を提供する。
【解決手段】洗米排水をpH5以下とし、その後、遠心分離を行った。洗米排水に酸を添加して洗米排水をpH5以下とし、又は、洗米排水を室温にて1〜24時間放置して洗米排水に含まれる微生物の作用により洗米排水をpH5以下とする。酸を添加する場合は、クエン酸が好ましく用いられる。或いは、洗米排水をpH5以下とした後、洗米排水にアルギン酸ナトリウム又はキトサンを添加して浮遊物を凝集させ、その後、遠心分離を行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗米排水の固液分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
洗米排水には、タンパク質、食物繊維、油脂、ビタミン、ミネラル、脱落デンプン等の有価物が多量に含まれており、これらの有価物を効率的に回収して利用する方法について、種々の検討が行われている。洗米排水からの有価物の回収は、はじめに、固液分離を行って水溶性画分と不溶性画分に分け、つぎに、それぞれの画分から水溶性有価物、不溶性有価物を回収することによって行われる。したがって、洗米排水から効率的に有価物を回収するためには、固液分離をいかに効率的に行うことができるかが一つの鍵となる。
【0003】
洗米排水の固液分離に関する従来技術としては、濾過による方法が知られている(例えば、特許文献1〜3を参照)。しかし、この方法では、洗米排水中に含まれる微小粒子やコロイド状物質による目詰まりが起こって、すぐに濾速が低下するため、工業的な利用は困難であった。
【0004】
また、生物処理を行った後に脱水する方法(例えば、特許文献4を参照)が知られている。しかし、この方法では、生物処理に長時間を要するほか、回収される有価物の成分が生物処理に用いられる微生物の作用によって変質してしまうという問題があった。
【0005】
また、凝集処理により固形分を凝集させ、この固形分を微細気泡とともに浮上させて回収する方法(例えば、特許文献5を参照)が知られている。しかし、この方法では、回収される固形分は多量の水と気泡を含んでいるため、さらに脱水工程が必要であり、工程が複雑になってしまうという問題があった。
【0006】
さらに、プロテアーゼ処理により固形分を凝集させ、沈降させる方法(例えば、特許文献6を参照)が知られている。しかし、この方法では、プロテアーゼを用いるために処理コストが高くなるほか、プロテアーゼによりタンパクがペプチドに分解されるため、タンパクを回収することができないという問題があった。
【特許文献1】特開平10−57721号公報
【特許文献2】特開平6−327916号公報
【特許文献3】特開平6−91141号公報
【特許文献4】特開平5−111698号公報
【特許文献5】特開平8−267051号公報
【特許文献6】特開2007−38214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、洗米排水から有価物を効率的に回収する目的で、平易な方法により洗米排水の固液分離を効率的かつ迅速に行うことができる、洗米排水の固液分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1記載の洗米排水の固液分離方法は、洗米排水をpH5以下とし、その後、遠心分離を行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2記載の洗米排水の固液分離方法は、請求項1において、洗米排水に酸を添加して洗米排水をpH5以下とすることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3記載の洗米排水の固液分離方法は、請求項2において、酸がクエン酸であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4記載の洗米排水の固液分離方法は、請求項1において、洗米排水を室温にて1〜24時間放置して洗米排水に含まれる微生物の作用により洗米排水をpH5以下とすることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明の請求項5記載の洗米排水の固液分離方法は、洗米排水をpH5以下とした後、洗米排水にアルギン酸ナトリウム及び/又はキトサンを添加して浮遊物を凝集させ、その後、遠心分離を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の洗米排水の固液分離方法によれば、洗米排水をpH5以下とし、その後、遠心分離を行うという平易な方法により、洗米排水の固液分離を効率的かつ迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の洗米排水の固液分離方法について、詳細に説明する。
【0015】
本発明の洗米排水の固液分離方法は、洗米排水をpH5以下とし、その後、遠心分離を行うものである。洗米排水をpH5以下とすることにより、遠心上清の濁度、BOD、COD、SSが大幅に低下し、固液分離の効率が向上する。
【0016】
また、洗米排水をpH5以下とすることにより、透明で粘度が低下した遠心上清が得られるため、この遠心上清をそのまま逆浸透膜処理することが可能となり、水の再利用が容易となる。さらに、逆浸透膜処理により遠心上清に含まれるビタミンやミネラル等の水溶性有価物を容易に濃縮し回収することができる。なお、pH5を超えた状態で洗米排水を遠心分離した場合には、上清に懸濁物質が残存し、逆浸透膜処理による水の再利用、水溶性有価物の回収が困難となる。
【0017】
洗米排水をpH5以下とするには、洗米排水に酸を添加すればよい。ここで添加する酸としては、特定のものに限定されず、固液分離の効率は、添加する酸の種類にはほとんど依存しない。なお、洗米排水から回収した有価物を食品用途などに用いる場合には、人体に対する安全性等の観点から、食品添加物として使用されているクエン酸が好ましく用いられる。
【0018】
洗米排水をpH5以下とするために、酸を添加する代わりに、洗米排水を室温にて放置してもよい。洗米排水を室温にて放置すると、洗米排水に含まれる微生物の作用により洗米排水がpH5以下となる。放置する時間は1〜24時間が好適である。放置する時間が1時間より短いとpH5以下にならず、24時間より長いと洗米排水に含まれる有価物が劣化する虞があり、好ましくない。
【0019】
また、洗米排水をpH5以下とした後、凝集剤を添加して浮遊物を凝集させ、その後、遠心分離を行うことにより、固液分離の効率をより向上させることができる。凝集剤としては、人体に対する安全性等の観点から、食品添加物として使用されているアルギン酸ナトリウム又はキトサンが好ましく用いられる。
【0020】
以上の本発明の洗米排水の固液分離方法によれば、平易な方法により洗米排水の固液分離を効率的かつ迅速に行うことができ、洗米排水から有価物を変質させることなく効率的に回収することが可能となる。
【0021】
なお、洗米排水を固液分離して得られた固形分からは、溶媒抽出やアルカリ抽出により油脂やタンパク質を回収することができる。また、アミラーゼを作用させることによりデンプンをグルコースやオリゴ糖に加水分解して、これを例えば、バイオエタノールの発酵用の原料として利用することもできる。
【0022】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
米国産の米2kgに水3Lを加えて手で1分間洗米した。笊で米を分離して洗米水2.7Lを得た。洗米水を40mLずつ分注し、10%のクエン酸溶液又は1Nの水酸化ナトリウム溶液を適宜添加して表1に示すpHに調整し、その後、コクサン社製遠心分離機H−103Nを用いて3,000rpm(1,500×g)で1分間遠心分離した。遠心上清の濁度を島津社製分光光度計UV−3100PCを用いて660nmで測定した。
【0024】
表1に示すとおり、pH5以下の範囲で透明な遠心上清が得られた。
【0025】
【表1】

【実施例2】
【0026】
実施例1と同様にして洗米水2Lを得、これに10%のクエン酸溶液を添加してpH5.0に調整した。実施例1と同様に遠心分離を行い、遠心上清を得た。この上清のBOD、COD、SSを洗米水と比較した。
【0027】
表2に示すとおり遠心分離によりBODの80%以上がSS分として除去されること、遠心上清にはSS分がほとんど残存しないことが確認された。
【0028】
【表2】

【実施例3】
【0029】
旭化成社製ペンシル型モジュールUSP−043を用いて、遠心上清の濾過試験を行った。実施例2と同様にして得た洗米水の遠心上清1Lを、クロスフロー濾過により循環流速2L/分、平均濾過圧0.05MPaの条件で濾過した。濾過速度は40mL/分であり、5分後の濾速が15mL/分にまで低下したが、その後の濾過速度の大幅な低下は見られなかった。原水1L全てを処理するのに要した時間は1時間であった。
【0030】
一方、通常の洗米水をそのまま用いて同様の試験を行った場合には、15mL/分の処理濾速が得られたものの、5分後の濾速が7mL/分にまで低下し、10分後の濾速は5mL/分まで低下した。原水1L全量の処理には2時間を要した。
【実施例4】
【0031】
実施例1と同様にして洗米水を得、pHを調整してから室温に24時間放置した。
【0032】
表3に示すとおり、微生物が増加しpHが3〜4に低下した。実施例1と同様に遠心分離を行うことで、透明な遠心上清が得られた。
【0033】
【表3】

【実施例5】
【0034】
実施例1と同様にして洗米水を得、洗米水を40mLずつ分注し、表4に示す、6種類の酸溶液をそれぞれ用いてpH4.0に調整した。実施例1と同様に遠心分離を行い、得られた遠心上清の濁度を測定した。
【0035】
表4に示すとおり、クエン酸を用いたときに、その他の酸を用いたときと同程度の透明な遠心上清が得られた。
【0036】
【表4】

【実施例6】
【0037】
実施例2と同様にしてpH5.0に調整した洗米水を得、これに凝集剤としてアルギン酸ナトリウム、又はキトサンを添加した。実施例1と同様に遠心分離を行い、得られた遠心上清の濁度を測定した。
【0038】
表5に示す通り、凝集剤を添加した場合には、添加しない場合よりも透明な遠心上清が得られ、アルギン酸ナトリウム2ppm、キトサン50ppmにまで添加量を下げても、その効果は維持された。また、2つの凝集剤を組み合わせた場合には、単独で使用する場合よりも透明な遠心上清が得られた。
【0039】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗米排水をpH5以下とし、その後、遠心分離を行うことを特徴とする洗米排水の固液分離方法。
【請求項2】
洗米排水に酸を添加して洗米排水をpH5以下とすることを特徴とする請求項1記載の洗米排水の固液分離方法。
【請求項3】
酸がクエン酸であることを特徴とする請求項2記載の洗米排水の固液分離方法。
【請求項4】
洗米排水を室温にて1〜24時間放置して洗米排水に含まれる微生物の作用により洗米排水をpH5以下とすることを特徴とする請求項1記載の洗米排水の固液分離方法。
【請求項5】
洗米排水をpH5以下とした後、洗米排水にアルギン酸ナトリウム及び/又はキトサンを添加して浮遊物を凝集させ、その後、遠心分離を行うことを特徴とする洗米排水の固液分離方法。

【公開番号】特開2010−29756(P2010−29756A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192626(P2008−192626)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(390019987)亀田製菓株式会社 (18)
【Fターム(参考)】