説明

活性の高いケトール酸レダクトイソメラーゼ酵素を用いたイソブタノールの発酵生成

グルコースからイソブタノールへの変換に必要な他の酵素に加えて、活性の高いケトール酸レダクトイソメラーゼ酵素を発現する組換え微生物を発酵成長させることによってイソブタノールを発酵生成するための方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業微生物学の分野およびアルコールの生成に関する。より詳細には、イソブタノールが、高い代謝回転数を有する特定のケトール酸レダクトイソメラーゼ(KARI)酵素を用い、組換え微生物の工業的発酵を経て生成される。本発明はまた、天然微生物由来の高活性のKARI酵素を発見するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタノールは、燃料添加剤として、プラスチック産業における化学物質原料として、さらに食品および香料産業における食品等級の抽出剤として有用な重要な産業化学物質である。毎年、100〜120億ポンドのブタノールが石油化学的手段により生産され、この汎用化学製品に対する需要は高まる可能性が高い。
【0003】
イソブタノールを化学合成するための方法は既知であり、例えば、オキソ合成、一酸化炭素の触媒水素化(非特許文献1およびメタノールとn−プロパノールのGuerbet縮合(非特許文献2)が挙げられる。これらのプロセスでは、石油化学製品に由来する出発原料が使用され、それは一般に高価であり、環境に優しいものではない。植物由来の原料からのイソブタノールの生成であれば、温室効果ガスの排出が最小化され、かつ当該技術分野における進歩が示されることになる。
【0004】
イソブタノールは、酵母発酵の副産物として生物学的に生成される。それはアミノ酸の真菌のこの基による不完全代謝の結果として形成される「フーゼル油」の成分である。イソブタノールは、詳細にはL−バリンの異化から生成される。L−バリンのアミン基が窒素源として回収された後に得られるα−ケト酸は、いわゆるEhrlich経路の酵素により脱炭酸化され、イソブタノールに還元される(非特許文献3)。飲料発酵の間に得られるフーゼル油および/またはその成分の収量は典型的には少ない。例えば、ビール発酵中に生成されるイソブタノールの濃度は、100万分の16未満であることが報告されている(非特許文献4)。Dickinsonら、上記に記載のように(イソブタノールの収量として3g/Lが、発酵における20g/Lの濃度でのL−バリンの供給により得られることが報告された)、外因性のL−バリンの発酵物への添加によりイソブタノールの収量が増加する。さらに、n−プロパノール、イソブタノールおよびイソアミルアルコールの生成が、アルギン酸カルシウムで固定化されたザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)の細胞により示されている。L−Leu、L−Ile、L−Val、α−ケトイソカプロン酸(α−KCA)、α−ケト酪酸(α−KBA)またはα−ケトイソ吉草酸(α−KVA)のいずれかが補充された10%グルコースを含有する培地が用いられた(非特許文献5)。α−KCAによりイソブタノールレベルが増加した。アミノ酸はまた、対応するアルコールを生成したが、ケト酸よりも低レベルであった。アミノ酸のロイシン、イソロイシン、および/またはバリンの窒素源としての成長培地への添加時、炭水化物由来のC3〜C5アルコールの収量の増加が示された(特許文献1)。
【0005】
上記の方法が生物学的手段を介したイソブタノール生成の可能性を示す一方、これらの方法は工業規模でのイソブタノール生成にとっては莫大なコストがかかる。糖からの直接的なイソブタノールの生合成であれば経済的に実施可能となり、当該技術分野における進歩が示されることになる。しかし、この生成は、アセトラクテートをジヒドロキシ−イソバレレートに変換するイソブタノール経路における第2のステップを触媒する緩徐なケトール酸レダクトイソメラーゼ(KARI)酵素により著しく阻害される。この酵素は既に高レベルで発現されることから(非特許文献6)、タンパク質の量を増加させる、すなわち酵素の比活性を高めることなくKARIの活性を高める必要性が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005040392号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry」、第6版、2003年、Wiley−VCHVerlag GmbH and Co.(Weinheim,Germany)、第5巻、716−719頁)
【非特許文献2】Carliniら、J.Molec.Catal.A:Chem.220、215−220頁、2004年
【非特許文献3】Dickinsonら、J.Biol.Chem.273、25752−25756頁、1998年
【非特許文献4】Garciaら、Process Biochemistry 29、303−309頁、1994年
【非特許文献5】Oaxacaら、Acta Biotechnol.;11、523−532頁、1991年
【非特許文献6】S.Epelbaumら、J.Bacteriol.、180、4056−4067頁、1998年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
出願人は、イソブタノールの生物学的生成を改善するのに利用可能な高い比活性を有するKARI酵素の発見により、述べられた課題を解決している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、活性の高いKARI酵素を発現する組換え生物に関する。改変微生物は、有意により高い比活性(大腸菌(E.coli)内のKARI酵素の6〜8倍)を有する高レベルの短い形態のKARI酵素を有することになり、イソブタノールの商業的生産において使用可能である。したがって、一実施形態では、本発明は、アセトラクテートをジヒドロキシ−イソバレレートに変換するための方法であって、
a)大腸菌(E.coli)ケトール酸レダクトイソメラーゼの比活性よりも高い比活性のケトール酸レダクトイソメラーゼを有するポリペプチドをコードする遺伝子コンストラクトを含む微生物宿主細胞を提供するステップと、
b)(a)の宿主細胞をアセトラクテートと接触させるステップであって、2,3−ジヒドロキシイソバレレートが生成されるステップと、
を含む方法を提供する。
【0010】
好ましい実施形態では、遺伝子コンストラクトは、以下の条件:
a)約7.5のpH、
b)約22.5℃の温度、および
c)約10mM超のカリウム
のもとで行われるNADPH消費アッセイによって測定される際、精製タンパク質に基づく1.1μモル/分/mgを超える比活性のケトール酸レダクトイソメラーゼを有するポリペプチドをコードする。
【0011】
別の実施形態では、本発明は、イソブタノールを生成するための方法であって、以下の遺伝子コンストラクト:
a)1)ピルベートをアセトラクテートに変換する(経路ステップa)アセトラクテートシンターゼ酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子コンストラクト;
2)(S)−アセトラクテートから2,3−ジヒドロキシイソバレレートへの変換(経路ステップb)において、以下の条件:
i)約7.5のpH、
ii)約22.5℃の温度、および
iii)約10mM超のカリウム
のもとで行われるNADPH消費アッセイによって測定される際、精製タンパク質に基づく1.1μモル/分/mgを超える比活性のケトール酸レダクトイソメラーゼ酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子コンストラクト;
3)2,3−ジヒドロキシイソバレレートをα−ケトイソバレレートに変換する(経路ステップc)ためのアセトヒドロキシ酸デヒドラターゼをコードする少なくとも1つの遺伝子コンストラクト;
4)α−ケトイソバレレートをイソブチルアルデヒドに変換する(経路ステップd)分岐鎖ケト酸デカルボキシラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子コンストラクト;
5)イソブチルアルデヒドをイソブタノールに変換する(経路ステップe)ための分岐鎖アルコールデヒドロゲナーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子コンストラクト;を含む組換え微生物宿主細胞を提供するステップと、
b)(a)の宿主細胞をイソブタノールが生成される条件下で成長させるステップと、
を含む、方法を提供する。
【0012】
別の実施形態では本発明は、大腸菌(E.coli)ケトール酸レダクトイソメラーゼの比活性よりも高い比活性を有するケトール酸レダクトイソメラーゼ酵素を含む組換え宿主細胞を提供する。
【0013】
別の実施形態では、本発明は、以下の条件:
i)約7.5のpH、
ii)約22.5℃の温度、および
iii)約10mM超のカリウム;
のもとで行われるNADPH消費アッセイによって測定される際、精製タンパク質に基づく1.1μモル/分/mgを超える比活性を有するケトール酸レダクトイソメラーゼ酵素をコードする遺伝子コンストラクトの同定および単離のための方法であって、
a)M9最少培地中で成長される場合、大腸菌(E.coli)の倍加時間よりも短い倍加時間を有する細菌種を同定するステップと、
b)(a)の細菌種をケトール酸レダクトイソメラーゼ活性についてスクリーニングし、活性細菌種を同定するステップと、
c)(b)の活性細菌種のゲノムDNAを、ケトール酸レダクトイソメラーゼをコードすることで知られる遺伝子コンストラクトに対して相同性を有する核酸配列でプローブし、前記活性細菌種由来のケトール酸レダクトイソメラーゼをコードする遺伝子コンストラクトを同定し、単離するステップと、
d)前記活性細菌種由来のケトール酸レダクトイソメラーゼをコードする遺伝子コンストラクトを増幅し、発現するステップと、
e)ステップ(d)の発現された遺伝子コンストラクトを、以下の条件:
i)約7.5のpH、
ii)約22.5℃の温度、および
iii)約10mM超のカリウム
のもとで行われるNADPH消費アッセイによって測定される際、精製タンパク質に基づく1.1μモル/分/mgを超える比活性を有するものについてスクリーニングするステップと、
を含む、方法を提供する。
【0014】
本発明は、本願の一部を形成する、以下の詳細な説明、図面、および添付の配列記述からより十分に理解可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】4つの異なるイソブタノール生合成経路を示す。「a」、「b」、「c」、「d」、「e」、「f」、「g」、「h」、「i」、「j」および「k」と称されるステップは、下記の基質から産物への変換を示す。
【図1B】4つの異なるイソブタノール生合成経路を示す。「a」、「b」、「c」、「d」、「e」、「f」、「g」、「h」、「i」、「j」および「k」と称されるステップは、下記の基質から産物への変換を示す。
【0016】
以下の配列は、米国特許施行規則第1.821−1.825条(「ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列開示を有する特許出願の要件−配列の規則(Requirements for Patent Applications Containing Nucleotide Sequences and/or Amino Acid Sequence Disclosures−the Sequence Rules)」)に従い、世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization)(WIPO)基準ST.25(1998年)、ならびにEPOおよびPCTの配列表の要件(規則5.2および49.5(aの2)、ならびに実施細則の第208節および付録C)に一致する。ヌクレオチドおよびアミノ酸配列データにおいて用いられる記号および形式は、米国特許施行規則第1.822条に示される規則に従う。
【0017】
【表1】

【0018】
配列番号11〜22は、実施例1におけるコンストラクトの作成に用いられるオリゴヌクレオチドプライマーのヌクレオチド配列である。
【0019】
配列番号23〜30は、実施例2のコンストラクトの作成に用いられるオリゴヌクレオチドプライマーのヌクレオチド配列である。
【0020】
配列番号11および12は、ilvC遺伝子のPCR増幅のための実施例1で用いられるプライマーのDNA配列である。
【0021】
配列番号13は、大腸菌(E.coli)内でのpBADベクター内のKARI遺伝子のクローン化に用いられるプライマーにおけるフォワードDNA配列である。
【0022】
配列番号14は、大腸菌(E.coli)内でのpBADベクター内のKARI遺伝子のクローン化に用いられるプライマーにおけるリバースDNA配列である。
【0023】
配列番号15は、KARI遺伝子の増幅に用いられるilvC−trc−SacI−FにおけるフォワードDNA配列である。
【0024】
配列番号16は、KARI遺伝子の増幅に用いられるilvC−trc−HindIII−RにおけるリバースDNA配列である。
【0025】
配列番号17〜22は、SacI消化およびDNA配列決定による大腸菌(E.coli)ilvC挿入物の存在の確認に用いられるオリゴヌクレオチドプライマーのヌクレオチド配列である。
【0026】
配列番号17−ilvC−trc−F3
【0027】
配列番号18−ilvC−trc−F5
【0028】
配列番号19−ilvC−trc−R2
【0029】
配列番号20−ilvC−trc−R4
【0030】
配列番号21−pBAD−eF1
【0031】
配列番号22−PALPK−R1
【0032】
配列番号23〜26は、PCRによる緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(PAO1)および蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)(PF5)のゲノムDNAからのilvC遺伝子の増幅にフォワードおよびリバース方向で用いられるオリゴヌクレオチドプライマーのヌクレオチド配列である。
【0033】
配列番号23−PAO1−C−F1
【0034】
配列番号24−PAO1−C−R1
【0035】
配列番号25−PF5−C−F1
【0036】
配列番号26−PF5−C−R1
【0037】
配列番号21、22、27および28は、シュードモナス(Pseudomonas)のilvC遺伝子を有する陽性クローンのDNA配列の確認に用いられるオリゴヌクレオチドプライマーのヌクレオチド配列である。
【0038】
配列番号27−PF5−S−F2
【0039】
配列番号28−PF5−S−R2
【0040】
以下の配列番号は、本発明で用いられるKARI遺伝子のDNA配列に対応する。
【0041】
配列番号29−大腸菌(E.coli)K12−ilvC
【0042】
配列番号30−大腸菌(E.coli)での発現のためのビブリオ(Vibrio)由来のコドン最適化KARI
【0043】
配列番号31−緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)−PAO1−ilvC
【0044】
配列番号32−蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)−PF5−ilvC
【0045】
以下の配列番号は、それぞれ配列番号29〜32に対応するアミノ酸配列である。
【0046】
配列番号33−大腸菌(E.coli)K12−ilvC−[大腸菌(E.coli)K12由来のKARI]
【0047】
配列番号34−コレラ菌(Vibrio cholerae)由来のKARI
【0048】
配列番号35−PAO1−ilvC(1アミノ酸−338アミノ酸)
【0049】
配列番号36−PF5−ilvC(1アミノ酸−338アミノ酸)
【0050】
配列番号37はフォワードプライマーPAL−F1である。
【0051】
配列番号38はリバースプライマー(PAL−R1)である。
【0052】
配列番号39はフォワードプライマー(PAL−EcoR1−F1)である。
【0053】
配列番号40はリバースプライマー(PAL−EcoR1−R1)である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明は、高活性のKARI酵素を有する微生物宿主細胞を用いてアセトラクテートを2,3−ジヒドロキシイソバレレートに変換するための方法に関する。このように形成された2,3−ジヒドロキシ−イソバレレートは、図1に示されるステップを介してイソブタノールにさらに変換される。本発明はまた、より迅速なKARI酵素をその天然宿主微生物内に見出すための方法およびその触媒活性をさらに改善することを目的としたかかる酵素の分子進化について開示する。
【0055】
発明は多数の商業的かつ産業的な需要を満たす。ブタノールは、種々の用途を有する重要な産業用商品の化学物質であり、その場合、燃料または燃料添加剤としてのその可能性は特に有意である。ブタノールは、4炭素アルコールにすぎなくても、ガソリンの含量に類似のエネルギー含量を有し、任意の化石燃料と混和されうる。ブタノールは、標準の内燃エンジン内で燃焼される場合にCOのみを生成し、SOまたはNOをほとんど生成しないことから燃料または燃料添加剤として好まれる。さらにブタノールは、今日まで最も好ましい燃料添加剤であるエタノールよりも腐食性が少ない。
【0056】
ブタノールは、生物燃料または燃料添加剤としてのその有用性に加え、新興の燃料電池産業における水素配給の問題に影響を与える可能性を有する。今日、燃料電池では水素の輸送および配給に関連した安全性の懸念が悩みの種となっている。ブタノールは、その水素含量において容易に改善可能であり、かつ、既存のガソリンスタンドによる、燃料電池または車両のいずれかで要求される純度での配給が可能である。
【0057】
以下の定義および略語は、特許請求の範囲および明細書の解釈において用いられるものとする。
【0058】
本明細書で用いられる「発明」または「本発明」という用語は、一般に、提示されるかまたは後に改良され捕捉される特許請求の範囲あるいは本明細書の中に記載される本発明のすべての実施形態に適用することを意味する。
【0059】
「イソブタノール生合成経路」という用語は、イソブタノールを生成するための酵素経路を示す。好ましいイソブタノール生合成経路は、図1中に図示され、本明細書中に記載される。
【0060】
「NADPH消費アッセイ」という用語は、(Aulabaughら;Biochemistry、29、2824−2830頁、1990年)に記載のように、KARI共同因子、NADPHの酵素反応からの消失の測定を含む、KARI酵素の比活性を判定するための酵素アッセイを示す。
【0061】
「KARI」は、酵素ケトール酸レダクトイソメラーゼにおける略語である。
【0062】
「アセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼ」および「ケトール酸レダクトイソメラーゼ」という用語は、同義的に用いられ、EC番号、EC1.1.1.86(Enzyme Nomenclature 1992年、Academic Press(San Diego))を有する酵素を示すことになる。ケトール酸レダクトイソメラーゼは、下記により十分に記載のように、(S)−アセトラクテートから2,3−ジヒドロキシイソバレレートへの反応を触媒する。これらの酵素は、限定はされないが、大腸菌(E.coli)ジェンバンク(GenBank)登録番号NC_000913領域:3955993..3957468、コレラ菌(Vibrio cholerae)ジェンバンク登録番号NC_002505領域:157441..158925、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、ジェンバンク登録番号NC_002516領域:5272455..5273471、およびシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)ジェンバンク登録番号NC_004129領域:6017379..6018395を含む多数の供給源から入手可能である。
【0063】
「アセトラクテートシンターゼ」という用語は、ピルベートからアセトラクテートおよびCOへの変換を触媒する酵素を示す。アセトラクテートは2つの(R)−および(S)−立体異性体を有し、酵素には生体系により作製される(S)−異性体が好ましい。好ましいアセトラクテートシンターゼは、EC番号2.2.1.69(Enzyme Nomenclature 1992年、Academic Press(San Diego))で知られる。これらの酵素は、限定はされないが、枯草菌(Bacillus subtilis)(ジェンバンク番号:CAB15618、Z99122、それぞれNCBI(National Center for Biotechnology Information)アミノ酸配列、NCBIヌクレオチド配列)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)(ジェンバンク番号:AAA25079(配列番号2)、M73842(配列番号1))、およびラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)(ジェンバンク番号:AAA25161、L16975)を含む多数の供給源から入手可能である。
【0064】
「アセトヒドロキシ酸デヒドラターゼ」という用語は、2,3−ジヒドロキシイソバレレートからα−ケトイソバレレートへの変換を触媒する酵素を示す。好ましいアセトヒドロキシ酸デヒドラターゼはEC番号4.2.1.9で知られる。これらの酵素は、限定はされないが、大腸菌(E.coli)(ジェンバンク番号:YP_026248(配列番号6)、NC_000913(配列番号5))、出芽酵母(S.cerevisiae)(ジェンバンク番号:NP_012550、NC_001142)、メタノコッカス・マリパルディス(M.maripaludis)(ジェンバンク番号:CAF29874、BX957219)、および枯草菌(B.subtilis)(ジェンバンク番号:CAB14105、Z99115)を含む膨大な微生物から得られる。
【0065】
「分岐鎖α−ケト酸デカルボキシラーゼ」という用語は、α−ケトイソバレレートからイソブチルアルデヒドおよびCOへの変換を触媒する酵素を示す。好ましい分岐鎖α−ケト酸デカルボキシラーゼは、EC番号4.1.1.72で知られ、限定はされないが、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)(ジェンバンク番号:AAS49166、AY548760;CAG34226(配列番号8)、AJ746364、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella Typhimurium)(ジェンバンク番号:NP_461346、NC_003197)、およびクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)(ジェンバンク番号:NP_149189、NC_001988)を含む多数の供給源から得られる。
【0066】
「分岐鎖アルコールデヒドロゲナーゼ」という用語は、イソブチルアルデヒドからイソブタノールへの変換を触媒する酵素を示す。好ましい分岐鎖アルコールデヒドロゲナーゼは、EC番号1.1.1.265で知られるが、他のアルコールデヒドロゲナーゼ(具体的にはEC1.1.1.1または1.1.1.2)の下でも分類されうる。これらの酵素は、電子供与体としてNADH(還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)および/またはNADPHを用い、限定はされないが、出芽酵母(S.cerevisiae)(ジェンバンク番号:NP_010656、NC_001136;NP_014051、NC_001145)、大腸菌(E.coli)(ジェンバンク番号:NP_417484(配列番号10)、NC_000913(配列番号9))、およびクロストリジウム・アセトブチリカム(C.acetobutylicum)(ジェンバンク番号:NP_349892、NC_003030)を含む多数の供給源から得られる。
【0067】
「分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ」という用語は、電子受容体としてNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を用いたα−ケトイソバレレートからイソブチリル−CoA(イソブチリル−補酵素A)への変換を触媒する酵素を示す。好ましい分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼはEC番号1.2.4.4で知られる。これらの分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼは4つのサブユニットからなり、すべてのサブユニット由来の配列は、限定はされないが、枯草菌(B.subtilis)(ジェンバンク番号:CAB14336、Z99116;CAB14335、Z99116;CAB14334、Z99116;およびCAB14337、Z99116)およびシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)(ジェンバンク番号:AAA65614、M57613;AAA65615、M57613;AAA65617、M57613;およびAAA65618、M57613)を含む膨大な微生物から得られる。
【0068】
「炭素基質」または「発酵性炭素基質」という用語は、本発明の宿主生物によって代謝可能な炭素源ならびに特に単糖、オリゴ糖、多糖、およびそれらの1炭素基質または混合物からなる群から選択される炭素源を示す。
【0069】
「kcat」および「K」という用語は、当業者に既知であり、「Enzyme Structure and Mechanism」、第2版(Ferst;W.H.Freeman:NY、1985年;98−120頁)に記載されている。「代謝回転数」と称されることが多い「kcat」という用語は、単位時間当たりの活性部位当たりの産物に変換される基質分子の最大数または酵素が単位時間当たりに代謝回転する回数として定義される。kcat=Vmax/[E](式中、[E]は酵素濃度(Ferst、上記)である。「全代謝回転」および「全代謝回転数」という用語は、KARI酵素と基質の反応により形成される産物の量を示すように本明細書中で用いられる。
【0070】
「触媒効率」という用語は、酵素のkcat/Kとして定義される。「触媒効率」は、基質に対する酵素の特異性を定量化するのに用いられる。
【0071】
「比活性」という用語は、酵素単位が温度、pH、[S]などの特定の条件下で形成される産物のモル数/分として定義される場合、酵素単位/mgのタンパク質を意味する。
【0072】
「緩徐な」または「迅速な」という用語は、酵素活性に関して用いられる場合、酵素の標準に対する代謝回転数に関する。
【0073】
「単離核酸分子」、「単離核酸断片」および「遺伝子コンストラクト」という用語は、同義的に用いられ、一本鎖または二本鎖であり、場合により合成、非天然または改変ヌクレオチド塩基を有するRNAまたはDNAのポリマーを意味することになる。DNAのポリマーの形態での単離核酸断片は、cDNA、ゲノムDNAまたは合成DNAの1つ以上のセグメントからなりうる。
【0074】
「遺伝子」という用語は、場合によりコード配列の上流(5’非コード配列)および下流(3’非コード配列)の調節配列を含む、特定のタンパク質として発現可能な核酸断片を示す。「天然遺伝子」は、それ自体の調節配列を有する天然に見出される遺伝子を示す。「キメラ遺伝子」は、天然遺伝子でない任意の遺伝子を示し、天然に見出されることのない調節およびコード配列を含む。したがって、キメラ遺伝子は、異なる供給源に由来する調節配列およびコード配列または同じ供給源に由来する調節配列およびコード配列を含みうるが、天然に見出されるものとは異なる様式で配列されている。「内因性遺伝子」は、生物のゲノム内のその天然の位置における天然遺伝子を示す。「外来」遺伝子は、通常は宿主生物内に見出されることはないが宿主生物に遺伝子導入によって導入される遺伝子を示す。外来遺伝子は、非天然の生物に導入される天然遺伝子またはキメラ遺伝子を含みうる。「トランス遺伝子」は、形質転換手順によりゲノムに導入されている遺伝子である。
【0075】
本明細書で用いられる「コード配列」という用語は、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を示す。「適切な調節配列」は、上流(5’非コード配列)またはコード配列の下流(3’非コード配列)内に位置するヌクレオチド配列を示し、関連のコード配列の転写、RNAのプロセシングまたは安定性あるいは翻訳に作用する。調節配列は、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセシング部位、エフェクター結合部位およびステムループ構造を含みうる。
【0076】
「プロモーター」という用語は、コード配列または機能RNAの発現を制御可能なDNA配列を示す。一般に、コード配列はプロモーター配列の3’側に位置する。プロモーターは、その全体として天然遺伝子に由来するか、または天然に見出される異なるプロモーターに由来する異なる要素から構成されるか、またはさらに合成DNAセグメントを含む場合がある。異なるプロモーターが異なる組織または細胞種における、あるいは発生の異なる段階で、あるいは異なる環境または生理的状態に応答して遺伝子の発現を誘導可能であることが当業者により理解されている。遺伝子における大部分の細胞種内でほぼ常に発現を誘導するプロモーターが一般に「構成プロモーター」と称される。さらに、ほとんどの場合、調節配列の正確な境界が完全に規定されていないことから、異なる長さのDNA断片が同一のプロモーター活性を有しうると理解されている。
【0077】
「作動可能に連結される」という用語は、一方の機能が他方により影響を受けるような核酸配列の単一の核酸断片上への結合を示す。例えば、プロモーターが、そのコード配列の発現に効果を及ぼすことが可能である(すなわちコード配列がプロモーターの転写調節下にある)場合、コード配列に作動可能に連結されている。コード配列は調節配列にセンスまたはアンチセンス方向に作動可能に連結されうる。
【0078】
本明細書で用いられる「発現」という用語は、本発明の核酸断片に由来するセンス(mRNA)またはアンチセンスRNAの転写および安定な蓄積を示す。発現はmRNAのポリペプチドへの翻訳も示しうる。
【0079】
本明細書で用いられる「形質転換」という用語は、核酸断片の宿主生物のゲノムへの転移を示し、遺伝的に安定な遺伝的形質をもたらす。形質転換された核酸断片を有する宿主生物は、「トランスジェニック」または「組換え」または「形質転換された」生物と称される。
【0080】
「プラスミド」、「ベクター」および「カセット」という用語は、細胞の中央代謝の一部でない、遺伝子を保有することが多く、通常は環状二本鎖DNA断片の形態である余分な染色体要素を示す。かかる要素は、任意の供給源に由来する線状または環状の一本鎖または二本鎖のDNAまたはRNAにおける自己複製配列、ゲノム結合(integrating)配列、ファージまたはヌクレオチド配列である場合があり、ここでは多数のヌクレオチド配列が適切な3’未翻訳配列を有する選択された遺伝子産物におけるプロモーター断片およびDNA配列を細胞に導入可能な固有の作成物に連結されるかまたは組換えられている。「形質転換カセット」は、外来遺伝子を有し、かつ特定の宿主細胞の形質転換を促進する、外来遺伝子に加わる要素を有する特定のベクターを示す。「発現カセット」は、外来遺伝子を有し、かつ外来遺伝子に加え、外来宿主内でのその遺伝子の発現の増大を可能にする因子を有する特定のベクターを示す。
【0081】
本明細書で用いられる「コドン縮重」という用語は、コードされたポリペプチドのアミノ酸配列に作用することなくヌクレオチド配列の変異を可能にする遺伝子コードにおける性質を示す。当業者は、所定のアミノ酸を特定するための、ヌクレオチドコドンの使用時に特定の宿主細胞により示される「コドンバイアス」について十分に理解している。したがって、宿主細胞内での改善された発現のために遺伝子を合成する場合、遺伝子をそのコドン使用の頻度が宿主細胞での好ましいコドンの使用の頻度に近づくように設計することが望ましい。
【0082】
「コドンが最適化された」という用語は、様々な宿主の形質転換における核酸分子の遺伝子またはコード領域を示すとき、DNAによってコードされるポリペプチドを改変することなく宿主生物の典型的なコドンの使用を反映するための核酸分子の遺伝子またはコード領域におけるコドンの改変を示す。
【0083】
本明細書中で用いられる標準の組換えDNAおよび分子クローン化技術は当該技術分野で周知であり、Sambrookら(Sambrook、Fritsch、およびManiatis、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press(Cold Spring Harbor、NY)、1989年)(以降、「Maniatis」);およびSilhavyら(Silhavyら、「Experiments with Gene Fusions」、Cold Spring Harbor Laboratory Press(Cold Spring Harbor、NY)、1984年);およびAusubel F.M.ら、(Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、Greene Publishing Assoc.およびWiley Interscienceにより発行、1987年)による記載がなされている。
【0084】
本発明は、植物由来の炭素源からイソブタノールを生成し、ブタノール生成における標準的な石油化学プロセスに関連した負の環境影響を回避する。一実施形態では、本発明は、炭水化物からイソブタノールへの変換における律速ステップとしてそれを解消することになる高い触媒効率を有するKARI酵素を同定するための方法を提供する。本方法は、下記に詳述される酵素の比活性を高めるための、当該技術分野で周知の方法を用いた、同定および適切なKARI酵素とその突然変異誘発を含む。
【0085】
ケト酸レダクトイソメラーゼ(KARI)酵素
アセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼまたはケトール酸レダクトイソメラーゼ(KARI;EC1.1.1.86)は、分岐鎖アミノ酸の生合成における2つのステップを触媒し、その生合成における鍵酵素である。KARIは種々の生物内で見出され、種を通じたアミノ酸配列の比較によると、この酵素には、真菌および大部分の細菌内で見出される短い形態(クラスI)および植物に固有の長い形態(クラスII)という2つのタイプが存在することが示されている。
【0086】
短い形態のKARIは、典型的には330〜340個のアミノ酸残基を有する。長い形態KARIは、約490個のアミノ酸残基を有する。しかし、大腸菌(Escherichia coli)などの一部の細菌は、アミノ酸配列が植物内で見出されるものとかなり異なる場合、長い形態を有する。KARIはilvC遺伝子によりコードされ、最少培地中での大腸菌(E.coli)および他の細菌の成長のための必須酵素である。KARIは、共同因子としてNADPHを用い、その活性においてMg++などの二価カチオンを必要とする。KARIはまた、バリン経路内でのアセトラクテートの利用に加え、イソロイシン生成経路内でアセトヒドロキシブタノエートをジヒドロキシメチルペンタノエートに変換する。
【0087】
2.6Åの分解能での大腸菌(E.coli)のKARI酵素の結晶構造が解明されている(Tyagiら、Ptotein Science、14、3089−3100頁、2005年)。この酵素は2つのドメインからなり、一方は他のピリジンヌクレオチド依存性のデヒドロゲナーゼ内で見出される場合に類似の混合α/β構造を有する。第2のドメインは主にα−ヘリカルであり、内部重複の強力な証拠を示す。大腸菌(E.coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、およびホウレンソウのKARIの活性部位の比較によると、酵素の活性部位内の大部分の残基が保存位置を占めることが示された。大腸菌(E.coli)のKARIがおそらくは有望な生物活性単位である四量体として結晶化された一方、緑膿菌(P.aeruginosa)のKARI(Ahnら、J.Mol.Biol.、328、505−515頁、2003年)は十二量体を形成し、かつホウレンソウ由来の酵素は二量体を形成した。既知のKARIは、アセトラクテートにおいて2s−1(Aulabaughら;Biochemistry、29、2824−2830頁、1990年)または0.12s−1(Raneら、Arch.Biochem.Biophys.338、83−89頁、1997年)の代謝回転数(kcat)が報告された緩徐な酵素である。試験によると、大腸菌(E.coli)内でのイソロイシン−バリン生合成の遺伝子制御が緑膿菌(Ps.aeruginosa)内での場合と異なることが示されている(Marinusら、Genetics、63、547−56頁、1969年)。
【0088】
高活性KARI酵素の同定および単離
大腸菌(E.coli)よりも高い倍化速度を有する生物についての再検討が行われた。3種の微生物、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(PAO1)、蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)(PF5)、およびコレラ菌(Vibrio cholerae)(N16961)が、M9最少培地中で成長される場合、大腸菌(E.coli)よりも短い倍加時間を有することが同定された。KARI酵素をコードする遺伝子がこれらの種の各々から単離され、コードされたタンパク質が発現され、部分精製された。高い倍化速度の生物から単離された酵素の比活性が、340nmでのアセトラクテートからα,β−ジヒドロキシ−イソバレレートへの酵素的変換の間に共同因子NADPHの消失を測定するNADPH消費アッセイ法を用い、大腸菌(E.coli)のKARIのそれと比較された。活性はNADPHにおける6220M−1cm−1のモル吸光係数を用いて計算され、細胞抽出物中の全タンパク質の1mg当たり1分当たりに消費されるNADPHのμモルとして報告されている(AulabaughおよびSchloss、Biochemistry、29、2824−2830頁、1990年を参照)。
【0089】
本明細書中に記載のNADPH消費アッセイに従い、精製タンパク質を用いて測定された、1.1μモル/分/mgを超える比活性のKARIを有するKARI酵素を提供することは本発明の目的である。大腸菌(E.coli)のKARIは緩徐な酵素であり、分岐鎖アミノ酸合成経路内で必須である。KARI(ilvC)をコードする遺伝子は、細胞が高栄養培地中で成長する場合に停止されるが、最少培地中で成長される場合、高レベルで発現される(可溶性タンパク質の約10%)(S.Epelbaumら、上記)。
【0090】
適切なKARI酵素の選択のプロセスは2つのアプローチを含んだ。第1は、自然の多様性の中で新規のKARIを探索することである。かかる探索は、幅広く他の生物に由来する使用可能な酵素に対する相同体を当該技術分野で周知の技術を用いて単離することを含んだ。この探索は、生物が適切なKARIを有する可能性が最も高いのは生物の倍加時間に基づく場合であるという仮定から示された。第2のアプローチは、強力な発現ベクターの作成、突然変異誘発およびKARIコード配列の進化、また最終的には改善されたKARI活性を有する変異体の選択により、人工的な多様性を創出し、探索することを含んだ。
【0091】
上記の方法を用い、KARI酵素は、大腸菌(E.coli)から単離されたKARI酵素(配列番号33[大腸菌(E.coli)K12−ilvC]の活性よりも高い比活性を有する蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)(配列番号35[PAO1−ilvC]配列番号36[PF5−ilvC])およびコレラ菌(Vibrio cholerae)(配列番号34)から単離された。約5〜40μモル/分/mgの比活性が特に適切である場合、約1.1μモル/分/mgを超える比活性を有するKARI酵素が本発明において好ましい。KARIの比活性が精製タンパク質を用いて測定され、かつ、NADPH消費アッセイ(Aulabaugh、上記)の導入が20℃〜25℃(ここでは約22.5℃が好ましい)、7.0〜8.0のpH(ここでは約7.5のpHが好ましい)、また少なくとも約10mMのカリウムを有する緩衝液(ここでは少なくとも約10mM〜約50mMが適切である)中で行われる場合が好ましい。本発明において有用な特定の酵素の一部が下の表2中に挙げられる。
【0092】
【表2】

【0093】
本発明は、本明細書中に記載の特定のシュードモナス(Pseudomonas)およびビブリオ(Vibrio)酵素に限定されない。例えば、これらのポリペプチドは、類似の活性を有する相同体を見出すための基盤としてまたは突然変異誘発およびタンパク質進化における鋳型として用いられうる。
【0094】
KARI相同体の単離
本発明の核酸断片を用い、同じかまたは他の微生物種由来の相同タンパク質をコードする遺伝子の単離が可能である。配列依存性プロトコルを用いた相同KARI遺伝子の単離は当該技術分野で周知である。配列依存性プロトコルの例として、限定はされないが、核酸ハイブリダイゼーションの方法や、核酸増幅技術、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(Mullisら、米国特許第4,683,202号明細書)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、(Taborら、Proc.Acad.Sci.USA 82、1074頁、1985年)または鎖置換増幅(SDA)(Walkerら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、89、392頁、1992年)の様々な使用により例示されるようなDNAおよびRNA増幅の方法が挙げられる。
【0095】
例えば、本発明のタンパク質またはポリペプチドに類似のものをコードする遺伝子であれば、本核酸断片の全部または一部をDNAハイブリダイゼーションプローブとして用いることによって直接単離し、当業者に周知の方法を用いた任意の所望の細菌からのライブラリーのスクリーニングが可能である。本核酸配列に基づく特異的オリゴヌクレオチドプローブについては、当該技術分野で既知の方法による設計および合成が可能である(Maniatis、上記)。さらに、全配列を直接用い、使用可能なインビトロ転写系を用いてのランダムプライマーDNA標識、ニックトランスレーション、または末端標識技術、またはRNAプローブなどの当業者に既知の方法によるDNAプローブの合成が可能である。さらに、特異的プライマーの設計および使用により、本配列の一部または完全長の増幅が可能である。得られる増幅産物を増幅反応の間に直接標識するかまたは増幅反応後に標識し、またプローブとして用い、適切なストリンジェントな条件下での完全長DNA断片の単離が可能である。
【0096】
典型的には、PCRタイプの増幅技術では、プライマーは異なる配列を有し、互いに相補的でない。所望の試験条件によると、プライマーの配列は標的核酸の効率的かつ正確な複製をもたらすように設計される必要がある。PCRプライマーの設計方法は一般的であり、当該技術分野で周知であり、例として、Theinら(Theinら、「The use of oligonucleotide as specific hybridization probes in the Diagonosis of Genetic Disorders,in Human Genetic Diseases:A Practical Approach」、K.E.Davis編、1986年、33−50頁、IRL Press(Herndon,Virginia));およびRychlik(Rychlik、1993年、In White、B.A.(編)、「Methods in Molecular Biology」、第15巻、31−39頁、「PCR Protocols:Current Methods and Applications」、Humana Press Inc.(Totowa,NJ))が挙げられる。
【0097】
一般に本配列の2つの短いセグメントをポリメラーゼ連鎖反応プロトコルで用い、DNAまたはRNAからの相同遺伝子をコードするより長い核酸断片の増幅が可能である。ポリメラーゼ連鎖反応はまた、クローン化核酸断片のライブラリー上で実施可能であり、ここでは一方のプライマーの配列が本核酸断片に由来し、かつ他方のプライマーの配列が微生物遺伝子をコードするmRNA前駆体の3’末端に対するポリアデニル酸領域(tract)の存在を利用する。
【0098】
あるいは、第2のプライマー配列はクローン化ベクター由来の配列に基づく場合がある。例えば、当業者は、RACEプロトコルに従い(Frohmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85、8998頁,1988年)、PCRを用いてcDNAを生成し、転写産物内の単一点と3’または5’末端の間の領域のコピーを増幅することができる。3’および5’方向に一致されたプライマーは本配列から設計されうる。市販の3’RACEまたは5’RACEシステム(Life Technologies(Rockville,MD))を用い、特定の3’または5’cDNA断片が単離されうる(Oharaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、86、5673頁、1989年;およびLohら、Science、243、217−220頁、1989年)。
【0099】
あるいは、本配列は、相同体を同定するためのハイブリダイゼーション試薬として用いられうる。核酸ハイブリダイゼーション試験の基本要素は、プローブ、目的の遺伝子または遺伝子断片を含有すると思われる試料、および特異的なハイブリダイゼーション法を含む。本発明のプローブは、典型的には検出されるべき核酸配列に相補的な一本鎖核酸配列である。プローブは、検出されるべき核酸配列に対して「ハイブリダイズ可能」である。プローブ長は5塩基〜数万の塩基分変化する可能性があり、実施されるべき特定の試験に依存することになる。典型的には、約15塩基〜約30塩基のプローブ長が適切である。検出されるべき核酸配列に対する相補性が求められるプローブ分子は一部に限られる。さらに、プローブと標的配列の間の相補性は完全である必要はない。ハイブリダイゼーションは不完全に相補的な分子間で特に生じる結果として、ハイブリダイズされた領域内の塩基の特定の画分は適切な相補的塩基と対を形成しない。
【0100】
ハイブリダイゼーション法は十分に確立されている。典型的には、プローブおよび試料は、核酸ハイブリダイゼーションを可能にする条件下で混合されなければならない。これは、適切な濃度および温度条件下、無機塩または有機塩の存在下でのプローブと試料との接触を含む。プローブと試料核酸は、プローブと試料核酸の間で考えられる任意のハイブリダイゼーションが生じうるほど十分に長期間接触状態でなければならない。混合物中のプローブまたは標的の濃度は、ハイブリダイゼーションの発生に必要な時間を決定することになる。プローブまたは標的の濃度が高まると、必要なハイブリダイゼーションのインキュベーション時間が短縮される。場合により、カオトロピック剤が添加されうる。カオトロピック剤は、ヌクレアーゼ活性の阻害により核酸を安定化させる。さらに、カオトロピック剤は、室温での短いオリゴヌクレオチドプローブの感度が高くストリンジェントなハイブリダイゼーションを可能にする(Van Nessら、Nucl.Acids Res.19、5143−5151頁、1991年)。適切なカオトロピック剤は、特に、塩化グアニジウム、チオシアン酸グアニジン、チオシアン酸ナトリウム、テトラクロロ酢酸リチウム(lithium tetrachloroacetate)、過塩素酸ナトリウム、テトラクロロ酢酸ルビジウム(rubidium tetrachloroacetate)、ヨウ化カリウム、およびトリフルオロ酢酸セシウムを含む。典型的には、カオトロピック剤は約3Mの最終濃度で存在することになる。必要に応じて、ホルムアミドをハイブリダイゼーション混合物に典型的には30〜50%(v/v)添加できる。
【0101】
様々なハイブリダイゼーション溶液が用いられうる。典型的には、これらは極性有機溶媒の約20〜60%容量、好ましくは30%を含有する。一般的なハイブリダイゼーション溶液では、約30〜50%v/vのホルムアミド、約0.15〜1.0Mの塩化ナトリウム、約0.05〜0.1Mの緩衝液、例えばクエン酸ナトリウム、トリス−HCl、PIPESまたはHEPES(pH範囲が約6〜9)、約0.05〜0.2%の洗剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム、または0.5〜20mMのEDTA、FICOLL(Pharmacia Inc.)(約300〜500キロダルトン)、ポリビニルピロリドン(約250〜500キロダルトン)、および血清アルブミンが用いられる。また典型的なハイブリダイゼーション溶液中に、約0.1〜5mg/mLの未標識担体核酸、断片化核DNA、例えば子牛胸腺またはサケ精液DNA、または酵母RNA、および場合により約0.5〜2%w/vのグリシンが含有されることになる。また他の添加剤として、例えば、種々の極性水溶性または膨潤剤(swellable agents)を含む体積排除剤(volume exclusion agent)、例えばポリエチレングリコール、アニオン性ポリマー、例えばポリアクリレートまたはポリメチルアクリレート、およびアニオン性糖ポリマー、例えば硫酸デキストランが含有されうる。
【0102】
核酸ハイブリダイゼーションは、種々のアッセイ形式に適用可能である。最も適切なものの1つがサンドイッチアッセイ形式である。サンドイッチアッセイは、非変性条件下でのハイブリダイゼーションに特に適合可能である。サンドイッチ型アッセイの主要な要素は固体支持体である。固体支持体は、未標識でありかつ配列の一部に相補的である固定化核酸プローブをそれに吸着または共有結合している。
【0103】
イソブタノール生合成経路
本発明の高活性KARI酵素の主な一用途が、イソブタノールの生成にとって有用な代謝経路内の一因子となる。これらの経路の数は解明され、特徴づけられている。
【0104】
炭水化物を使用する微生物が、中央代謝経路としてエムデン・マイヤーホフ・パルナス(EMP)経路、エントナー−ドドロフ経路およびペントースリン酸回路を用い、成長および維持のためにエネルギーおよび細胞前駆体を生成する。これらの経路は、共通に中間体のグリセルアルデヒド−3−リン酸を有し、最終的にピルベートが直接にかまたはEMP経路と相まって形成される。次いで、ピルベートが種々の手段を介してアセチル−補酵素A(アセチル−CoA)に形質転換される。アセチル−CoAは、例えば脂肪酸、アミノ酸および二次代謝物質の生成における鍵中間体としての機能を果たす。糖のピルベートへの変換の組み合わされた反応により、エネルギー(例えばアデノシン−5’−3リン酸、ATP)および還元等価物(例えば還元されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、NADH、および還元されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、NADPH)が生成される。NADHおよびNADPHはそれらの酸化形態(各々、NADおよびNADP)に再循環されなければならない。無機の電子受容体(例えばO、NOおよびSO2−)の存在下で還元等価物を用いるとエネルギープールが増大しうるか、あるいは還元された炭素副産物が形成されうる。
【0105】
図1に示されるように、組換え微生物を用い、炭水化物源からイソブタノールを生成するための4つの有望な経路が存在する。炭水化物からイソブタノールへの変換のためのすべての有望な経路は、所有者共通の(commonly owned)米国特許出願第11/586315号明細書(参照により本明細書中に援用される)中に記載されている。
【0106】
ピルベートからイソブタノールへの変換における好ましい経路は、酵素ステップ「a」、「b」、「c」、「d」、および「e」からなり(図1)、かつ
a)例えばアセトラクテートシンターゼにより触媒される、ピルベートからアセトラクテート
b)例えばアセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼにより触媒される、(S)−アセトラクテートから2,3−ジヒドロキシイソバレレート
c)例えばアセトヒドロキシ酸デヒドラターゼにより触媒される、2,3−ジヒドロキシイソバレレートからα−ケトイソバレレート
d)例えば分岐鎖ケト酸デカルボキシラーゼにより触媒される、α−ケトイソバレレートからイソブチルアルデヒド、および
e)例えば分岐鎖アルコールデヒドロゲナーゼにより触媒される、イソブチルアルデヒドからイソブタノール
といった基質から産物への変換を含む。
【0107】
この経路は、バリン生合成(ピルベートからα−ケトイソバレレートへ)およびバリン異化(α−ケトイソバレレートからイソブタノールへ)における十分に特徴づけられた経路に関与する酵素の組み合わせである。多数のバリン生合成酵素がまたイソロイシン生合成経路内の類似反応を触媒することから、基質特異性は遺伝子源の選択における主要な検討事項である。こういう理由から、アセトラクテートシンターゼ酵素における目的の主な遺伝子はバチルス(Bacillus)(alsS)およびクレブシエラ(Klebsiella)(budB)から得られるものである。これらの特定のアセトラクテートシンターゼは、これらの生物内でのブタンジオール発酵に関与し、ピルベートにおいてはケトブチレートよりも高い親和性を示すことで知られる(Gollopら、J.Bacteriol.172、3444−3449頁、1990年;およびHoltzclawら、J.Bacteriol.121、917−922頁、1975年)。第2および第3の経路ステップはそれぞれアセトヒドロキシ酸レダクトイソメラーゼおよびデヒドラターゼにより触媒される。これらの酵素は多数の供給源、例えば大腸菌(E.coli)から特徴づけられている(Chunduruら、Biochemistry 28、486−493頁、1989年;およびFlintら、J.Biol.Chem.268、14732−14742頁、1993年)。好ましいイソブタノール経路の最終の2つのステップは酵母内で生じることで知られており、そこでは窒素源としてバリンが用いられ、プロセス内でイソブタノールが分泌されうる。α−ケトイソバレレートは、多数のケト酸デカルボキシラーゼ酵素、例えばピルビン酸デカルボキシラーゼによりイソブチルアルデヒドに変換されうる。ピルベートのイソブタノール生成からの方向の誤り(misdirection)を阻止するには、ピルベートに対する親和性が低下したデカルボキシラーゼが望ましい。これまで、当該技術分野で既知のかかる酵素が2種存在する(Smitら、Appl.Environ.Microbiol.71、303−311頁、2005年;およびde la Plazaら、FEMS Microbiol.Lett.238、367−374頁、2004年)。両酵素はラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)の株に由来し、ピルベートよりもケトイソバレレートにおける方が50〜200倍好ましい。最後に、多数のアルデヒドレダクターゼが酵母内で同定されており、その多くは基質特異性の重複を有する。アセトアルデヒドよりも分岐鎖基質の方が好ましいことで知られるものには、限定はされないが、アルコールデヒドロゲナーゼVI(ADH6)およびYpr1pが含まれ(Larroyら、Biochem.J.361、163−172頁、2002年;およびFordら、Yeast 19、1087−1096頁、2002年)、これら双方はNADPHを電子供与体として用いる。分岐鎖基質とともに活性を示すNADPH依存性のレダクターゼYqhDはまた、最近、大腸菌(E.coli)内で同定されている(Sulzenbacherら、J.Mol.Biol.342、489−502頁、2004年)。
【0108】
イソブタノール生成における他の有望な経路の中の2つはまた、「a」、「b」および「c」の3つの初期ステップを有する。一方の経路は、酵素ステップ「a」、「b」、「c」、「f」、「g」、「e」からなる。ステップ「f」は、EC番号1.2.4.4を有する「分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ」を有する。ステップ「g」はEC番号1.2.1.10および1.2.1.57を有する「アシル化アルデヒドデヒドロゲナーゼ」を有し、さらにステップ「e」は「分岐鎖アルコールデヒドロゲナーゼ」を有する。他方の有望な経路は、ステップ「a」、「b」、「c」、「h」、「i」、「j」、「e」からなる。「トランスアミナーゼ」という用語(ステップ「h」)は、EC番号2.6.1.42および2.6.1.66を有する。ステップ「h」はEC番号1.4.1.8および1.4.1.9を有する「バリンデヒドロゲナーゼ」からなるかまたはステップ「i」はEC番号4.1.1.14を有する「バリンデカルボキシラーゼ」からなる。最終的に、ステップ「j」ではEC番号2.6.1.18を有する「ωトランスアミナーゼ」を用いてイソブチルアルデヒドが生成され、それはステップ「e」で還元され、イソブタノールが生成されることになる。ピルベートをイソブタノールに変換するためのすべての有望な経路は図1に示される。
【0109】
さらに、多数の生物はブチリル−CoA中間体を介してブチレートおよび/またはブタノールを生成することで知られている(Duerreら、FEMS Microbiol.Rev.17、251−262頁、1995年;およびAbbad−Andaloussiら、Microbiology 142、1149−1158頁、1996年)。したがって、これらの生物内でのイソブタノール生成は、図1中に示されるステップ「k」、「g」および「e」を用いて生じることになる。ステップ「k」は、EC番号5.4.99.13を有する「イソブチリル−CoAムターゼ」を用いることになる。入れ子構造(nest)のステップは、EC番号1.2.1.10および1.2.1.57を有する「アシル化アルデヒドデヒドロゲナーゼ」を用いてイソブチルアルデヒドを生成し、それに続く酵素ステップ「e」によりイソブタノールを生成することを含む。これらの全経路は、所有者共通の米国特許出願第11/586315号明細書(その全体が参照により本明細書中に援用される)中に十分に記載されている。
【0110】
イソブタノール生成のための微生物宿主
イソブタノール生成のための微生物宿主は、細菌、シアノバクテリア、糸状真菌および酵母から選択されうる。イソブタノール生成に用いられる微生物宿主であれば、収量がブタノールの毒性に制限されないようにイソブタノールに耐性がある必要がある。イソブタノールの高い滴定レベルで代謝活性のある微生物については当該技術分野で周知である。ブタノールに耐性がある突然変異体がソルベントジェニック(solventogenic)のクロストリジア(Clostridia)から単離されているが、他の潜在的に有用な細菌株のブタノール耐性に関して入手可能な情報はほとんどない。細菌におけるアルコール耐性の比較についての大部分の研究によると、ブタノールがエタノールよりも毒性が高いことが示唆されている(de Cavalhoら、Microsc.Res.Tech. 64:215−22頁(2004年)およびKabelitzら、FEMS Microbiol.Lett. 220:223−227頁(2003年))。Tomasら(J.Bacteriol.186:2006−2018頁(2004年))は、クロストリジウム・アセトバティリカム(Clostridium acetobutylicum)における発酵の間での1−ブタノールの収量がブタノール毒性により制限されうることを報告している。クロストリジウム・アセトバティリカムに対する1−ブタノールの主な効果は膜機能の破壊である(Hermannら、Appl.Environ.Microbiol. 50:1238−1243頁(1985年))。
【0111】
イソブタノールの生成のために選択される微生物宿主であれば、イソブタノールに耐性があり、炭水化物をイソブタノールに変換できる必要がある。適切な微生物宿主の選択における基準は、イソブタノールに対する内在的耐性、高いグルコース利用率、遺伝子操作のための遺伝子ツールの利用可能性、および安定的な染色体変化をもたらす能力を含む。
【0112】
イソブタノールに対する耐性を有する適切な宿主株が、株の本質的耐性に基づくスクリーニングにより同定されうる。イソブタノールに対する微生物の本質的耐性は、最少培地内で成長する場合、成長率の50%の阻害(IC50)を担うイソブタノールの濃度を判定することにより測定されうる。IC50値は当該技術分野で既知の方法を用いて判定可能である。例えば、目的の微生物は様々な量のイソブタノールの存在下で成長可能であり、成長率が600ナノメーター(OD600)での光学密度の測定により監視可能である。倍加時間は、成長曲線の対数部分から計算可能であり、成長率の測定値として使用可能である。成長の50%の阻害をもたらすイソブタノールの濃度は、成長の阻害率パーセント対イソブタノール濃度のグラフから判定可能である。好ましくは、宿主株は約0.5%を超えるイソブタノールにおいてIC50を有する必要がある。
【0113】
またイソブタノール生成のための微生物宿主であれば、グルコースを高率で利用する必要がある。大部分の微生物は炭水化物を利用可能である。しかし、特定の環境微生物は炭水化物を高効率で利用できず、従って適切な宿主とならないだろう。
【0114】
宿主を遺伝的に改良する能力は組換え微生物の生成にとって必須である。遺伝子導入技術は、エレクトロポレーション、複合、形質導入または自然形質転換によるものでもよい。広範囲の宿主との複合プラスミドおよび薬剤耐性マーカーが使用可能である。クローニングベクターは、宿主生物内で機能しうる抗生物質耐性マーカーの性質に基づいて宿主生物に適合される。
【0115】
微生物宿主はまた、様々な遺伝子の欠失により、炭素の流れに対して競合する経路を不活性化するために操作される必要がある。これには、直接的不活性化に対するトランスポゾンまたは染色体組み込みベクターのいずれかの可用性が必要である。さらに、生成宿主は、イソブタノールに対する内在的耐性を改善するための突然変異が得られうるように化学的突然変異原に従う必要がある。
【0116】
上記の基準に基づき、イソブタノールの生成に適する微生物宿主は、限定はされないが、クロストリジウム属、ザイモモナス属、エシェリキア属、サルモネラ属、ロドコッカス属、シュードモナス属、バチルス属、ビブリオ属、乳酸桿菌属、腸球菌属、アルカリゲネス属、クレブシエラ属、パエニバチルス属、アースロバクター属、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、ピキア属、カンジダ属、ハンセヌラ属およびサッカロミセス属のメンバーを含む。好ましい宿主は、大腸菌、アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、パエニバチルス・マセランス(Paenibacillus macerans)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、プランタラム菌(Lactobacillus plantarum)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス・ガリナリウム(Enterococcus gallinarium)、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、枯草菌およびサッカロミケスセレビシエを含む。
【0117】
生成宿主の作成
イソブタノールに対する発酵性炭素基質の変換における酵素経路をコードする必須遺伝子を有する組換え生物が、当該技術分野で周知の技術を用いて作成可能である。本発明では、本発明のイソブタノール生合成経路の1つの酵素、例えばアセトラクテートシンターゼ、アセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼ、アセトヒドロキシ酸デヒドラターゼ、分岐鎖α−ケト酸デカルボキシラーゼ、および分岐鎖アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が、上記のように様々な供給源から単離されうる。
【0118】
細菌ゲノムから所望の遺伝子を得る方法については一般的であり、かつ分子生物学の技術分野で周知である。例えば、遺伝子の配列が既知である場合、適切なゲノムライブラリーが制限エンドヌクレアーゼ消化により作成され、所望の遺伝子配列に相補的なプローブを用いてスクリーニングされうる。一旦、配列が単離されると、DNAはポリメラーゼ連鎖反応(米国特許第4,683,202号明細書)などの標準プライマーに特異的な増幅方法を用いて増幅され、適切なベクターを用いる形質転換に適する量のDNAが得られうる。異種宿主内での発現におけるコドン最適化のためのツールは容易に利用可能である。利用可能なコドン最適化のためのツールには、宿主生物のGC含量に基づくものもある。
【0119】
一旦、関連経路の遺伝子が同定されかつ単離されると、それらは当該技術分野で周知の手段により適切な発現宿主に形質転換されうる。種々の宿主細胞の形質転換にとって有用なベクターまたはカセットについては一般的であり、EPICENTRE(登録商標)(Madison、WI)、Invitrogen Corp.(Carlsbad、CA)、Stratagene(La Jolla、CA)、およびNew England Biolabs,Inc.(Beverly、MA)などの企業から市販されている。典型的には、ベクターまたはカセットは、関連遺伝子の転写および翻訳を誘導する配列、選択可能マーカー、および自己複製または染色体組み込みを可能にする配列を有する。適切なベクターは、転写開始制御を有する遺伝子の5’領域および転写終結を制御するDNA断片の3’領域を含む。両方の制御領域は形質転換された宿主細胞に対して相同な遺伝子から誘導されうるが、かかる制御領域が生成宿主として選択される特定の種に対して天然でない遺伝子からも誘導されることが理解されるべきである。
【0120】
所望の宿主細胞内でのコード領域の関連経路の発現を駆動するのに有用な開始制御領域またはプロモーターについては極めて多数存在し、当業者には知られている。仮想的には、これらの遺伝的因子を駆動可能な任意のプロモーターは、本発明に適し、それは、限定はされないが、CYC1、HIS3、GAL1、GAL10、ADH1、PGK、PHO5、GAPDH、ADC1、TRP1、URA3、LEU2、ENO、TPI(サッカロミセス(Saccharomyces)内での発現に有用);AOX1(ピキア(Pichia)内での発現に有用);およびlac、ara、tet、trp、lP、lP、T7、tac、およびtrc(大腸菌(Escherichia coli)、アルカリゲネス(Alcaligenes)、およびシュードモナス(Pseudomonas)内での発現に有用)、ならびに枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、およびパエニバチルス・マセランス(Paenibacillus macerans)内での発現に有用なamy、apr、nprプロモーターおよび様々なファージプロモーターを含む。
【0121】
終結制御領域についても好ましい宿主に対して天然の様々な遺伝子から誘導されうる。場合により終結部位は不要でありうるが、含められる場合が最も好ましい。
【0122】
特定のベクターが広範囲の宿主細菌内で複製可能であり、かつ複合により導入可能である。pRK404および3つの関連ベクター:pRK437、pRK442、およびpRK442(H)の完全でかつアノテートされた配列が利用可能である。これらの誘導体はグラム陰性菌における遺伝子操作にとって有用なツールであることが判明している(Scottら、Plasmid 50:74−79頁(2003年))。広範な宿主範囲のInc P4プラスミドRSF1010における数種のプラスミド誘導体についても、グラム陰性菌の範囲内で機能しうるプロモーターとともに利用可能である。プラスミドpAYC36およびpAYC37が複数のクローニング部位とともに活性プロモーターを有し、グラム陰性菌内での異種の遺伝子発現が可能である。
【0123】
染色体遺伝子の置換ツールもまた幅広く利用可能である。例えば、広範な宿主範囲のレプリコンpWV101の感熱性の変異体を改良し、遺伝子置換をグラム陽性菌の範囲内で有効にするのに用いられうるプラスミドpVE6002が作成されている(Maguinら、J.Bacteriol. 174:5633−5638頁(1992年))。さらに、インビトロでのトランスポゾンは、EPICENTRE(登録商標)などの商業的供給源由来の種々のゲノム内でランダム突然変異をもたらすのに使用可能である。
【0124】
様々な好ましい微生物宿主内でのイソブタノール生合成経路の発現は下記にさらに詳細に説明される。
【0125】
大腸菌(E.coli)内でのイソブタノール生合成経路の発現
大腸菌(E.coli)の形質転換にとって有用なベクターまたはカセットは、一般的であり、上掲の企業から市販されている。例えば、イソブタノール生合成経路の遺伝子は、様々な供給源から単離され、修飾pUC19ベクターにクローン化され、大腸菌(E.coli)NM522に形質転換されうる。
【0126】
ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)内でのイソブタノール生合成経路の発現
限定はされないがpRhBR17およびpDA71を含むロドコッカス・エリスロポリス(R.erythropolis)内での発現においては、一連の大腸菌−ロドコッカスのシャトルベクターが使用可能である(Kostichkaら、Appl.Microbiol.Biotechnol. 62:61−68頁(2003年))。さらに、一連のプロモーターが、ロドコッカス・エリスロポリス(R.erythropolis)内での異種の遺伝子発現において使用可能である(Nakashimaら、Appl.Environ.Microbiol.70、5557−5568頁、2004年およびTaoら、Appl.Microbiol.Biotechnol.68、346−354頁、2005年)。ロドコッカス・エリスロポリス(R.erythropolis)内での染色体遺伝子の標的遺伝子破壊は、Taoら、上記およびBransら(Appl.Environ.Microbiol.66、2029−2036頁、2000年)に記載の方法を用いて作成されうる。
【0127】
上記のイソブタノールの生成において必要とされる異種遺伝子は、最初にpDA71またはpRhBR71にクローニングされ、大腸菌に形質転換されうる。次いでベクターは、Kostichkaら、上記に記載のようにエレクトロポレーションによりロドコッカス・エリスロポリスに形質転換されうる。組換え体は、グルコースを含有する合成培地内で成長され、それに続いてイソブタノールの生成が当該技術分野で既知の方法を用いて行われうる。
【0128】
枯草菌(B.Subtilis)内でのイソブタノール生合成経路の発現
枯草菌(B.subtilis)内での遺伝子発現および突然変異の作成のための方法もまた当該技術分野で周知である。例えば、イソブタノール生合成経路の遺伝子はmaybe様々な供給源から単離され、修飾pUC19ベクターにクローン化され、枯草菌(Bacillus subtilis)BE1010に形質転換されうる。さらに、イソブタノール生合成経路の5種の遺伝子は、発現のために2つのオペロンに分離されうる。経路の3種の遺伝子(bubB、ilvD、およびkivD)は、枯草菌(Bacillus subtilis)BE1010の染色体に組み込まれうる(Payneら、J.Bacteriol.173、2278−2282頁、1991年)。残存する2種の遺伝子(ilvCおよびbdhB)は、発現ベクターにクローン化され、組み込まれたイソブタノール遺伝子を有するバチルス(Bacillus)株に形質転換されうる。
【0129】
バチルス・リケニホルムス(B.licheniformis)内でのイソブタノール生合成経路の発現
枯草菌内で複製するプラスミドおよびシャトルベクターの大部分を用い、プロトプラスト形質転換またはエレクトロポレーションのいずれかによりバチルス・リケニフォルミスの形質転換が可能である。イソブタノールの生成において必要とされる遺伝子をプラスミドのpBE20またはpBE60誘導体にクローニング可能である(Nagarajanら、Gene 114:121−126頁(1992年))。バチルス・リケニフォルミスを形質転換するための方法が当該技術分野で既知である(Flemingら、Appl.Environ.Microbiol.、61:3775−3780頁(1995年))。枯草菌内での発現のために作製されたプラスミドをバチルス・リケニフォルミスに形質転換することで、イソブタノールを生成する組換え微生物宿主の生成が可能である。
【0130】
パエニバチルス・マセランス(Paenibacillus macerans)内でのイソブタノール生合成経路の発現
プラスミドを、枯草菌(B.subtilis)内での発現にて記載のように作製し、それを用いてパエニバチルス・マセランスをプロトプラスト形質転換により形質転換し、イソブタノールを生成する組換え微生物宿主を生成することが可能である。
【0131】
アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)(ラルストニア・ユートロファス(Ralstonia eutrophus))内でのイソブタノール生合成経路の発現
アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)内での遺伝子発現および突然変異の作成のための方法は当該技術分野で既知である(Taghaviら、Appl.Environ.Microbiol.、60、3585−3591頁、1994年)。イソブタノール生合成経路における遺伝子は、上記の広宿主域ベクターのいずれか内でクローン化され、またエレクトロポレートされ、イソブタノールを生成する組み換え体の作成が可能である。アルカリゲネス(Alcaligenes)内のポリ(ヒドロキシブタノエート)経路は詳述されており、アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)ゲノムを修飾するための種々の遺伝子技術は既知であり、それらのツールはイソブタノール生合成経路の改変に適用されうる。
【0132】
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)内でのイソブタノール生合成経路の発現
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)内での遺伝子発現のための方法は当該技術分野で既知である(例えば、Ben−Bassatら、米国特許第6,586,229号明細書(参照により本明細書中に援用される))。ブタノール経路遺伝子はpPCU18に挿入され、このライゲートされたDNAはエレクトロコンピテントなシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)DOT−T1 C5aAR1細胞にエレクトロポレートされ、イソブタノールを生成する組み換え体の作成が可能である。
【0133】
サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)内でのイソブタノール生合成経路の発現
サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)内での遺伝子発現のための方法は当該技術分野で既知である(例えば、Methods in Enzymology、第194巻、「Guide to Yeast Genetics and Molecular and Cell Biology」、Part A、2004年、Christine GuthrieおよびGerald R.Fink編、Elsevier Academic Press(San Diego,CA))。酵母内での遺伝子の発現は、典型的にはプロモーター、次いで目的の遺伝子、および転写ターミネーターが必要である。多数の酵母プロモーターは、限定はされないが構成プロモーターFBA、GPD、ADH1、およびGPMと、誘導プロモーターGAL1、GAL10、およびCUP1を含む、イソブタノール生合成経路をコードする遺伝子における発現カセットの作成において用いられうる。適切な転写ターミネーターは、限定はされないが、FBAt、GPDt、GPMt、ERG10t、GAL1t、CYC1、およびADH1を含む。例えば、適切なプロモーター、転写ターミネーター、およびイソブタノール生合成経路の遺伝子は、大腸菌(E.coli)−酵母シャトルベクターにクローン化されうる。
【0134】
ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)内でのイソブタノール生合成経路の発現
乳酸桿菌(Lactobacillus)属はラクトバチルス目(Lactobacillales)の科に属し、かつ枯草菌および連鎖球菌の形質転換で用いられる多数のプラスミドおよびベクターが乳酸桿菌において用いられうる。適切なベクターの非限定例には、pAMβ1およびその誘導体(Renaultら、Gene 183:175−182頁(1996年);およびO’Sullivanら、Gene 137:227−231頁(1993年));pMBB1およびpHW800、pMBB1の誘導体(Wyckoffら、Appl.Environ.Microbiol.62:1481−1486頁(1996年));pMG1、複合プラスミド(Tanimotoら、J.Bacteriol.184:5800−5804頁(2002年));pNZ9520(Kleerebezemら、Appl.Environ.Microbiol.63:4581−4584頁(1997年));pAM401(Fujimotoら、Appl.Environ.Microbiol.67:1262−1267頁(2001年));ならびにpAT392(Arthurら、Antimicrob.Agents Chemother.38:1899−1903頁(1994年))が含まれる。プランタラム菌由来の数種のプラスミドが報告されている(van Kranenburgら、Appl.Environ.Microbiol.71:1223−1230頁(2005年))。
【0135】
様々な腸球菌属(Enterococcus)種(フェシウム菌(E.faecium)、エンテロコッカス・ガリナラム(E.gallinarium)、およびフェカリス菌(E.faecalis))内でのイソブタノール生合成経路の発現
腸球菌属(Enterococcus)属はラクトバチルス(Lactobacillales)科に属し、乳酸桿菌(Lactobacilli)、桿菌(Bacilli)および連鎖球菌(Streptococci)種の形質転換において用いられる多数のプラスミドおよびベクターは腸球菌属(Enterococcus)種において用いられうる。適切なベクターの非限定例として、pAMβ1およびその誘導体(Renaultら、Gene 183、175−182頁、1996年;およびO’Sullivanら、Gene 137、227−231頁、1993年);pMBB1およびpHW800、pMBB1の誘導体(Wyckoffら、Appl.Environ.Microbiol.62、1481−1486頁、1996年);接合性プラスミドpMG1(Tanimotoら、J.Bacteriol.184、5800−5804頁、2002年);pNZ9520(Kleerebezemら、Appl.Environ.Microbiol.63、4581−4584頁、1997年);pAM401(Fujimotoら、Appl.Environ.Microbiol.67、1262−1267頁、2001年);およびpAT392(Arthurら、Antimicrob.Agents Chemother.38、1899−1903頁、1994年)が挙げられる。ラクトコッカス(Lactococcus)由来のnisA遺伝子を用いたエンテロコッカス・フェカーリス(E.faecalis)における発現ベクターも用いられうる(エイケンバウム(Eichenbaum)ら、Appl.Environ.Microbiol. 64:2763−2769頁(1998年))。さらに、エンテロコッカス・フェシウム(E.faecium)の染色体における遺伝子置換用のベクターが用いられうる(Nallaapareddyら、Appl.Environ.Microbiol. 72:334−345頁(2006年))。
【0136】
発酵培地
本発明における発酵培地は、適切な炭素基質を含有する必要がある。適切な基質が、限定はされないが、グルコースおよびフルクトースなどの単糖、乳糖またはスクロースなどのオリゴ糖、デンプンまたはセルロースなどの多糖、あるいはそれらの混合物、ならびに乳清透過液、コーンスティープリカー(cornsteep liquor)、砂糖液(sugar beet molasses)、および大麦モルト(barley malt)などの再生可能な原料由来の未精製混合物を含みうる。さらに、炭素基質はまた二酸化炭素または主要な生化学的中間体への代謝変換が実証されているメタノールなどの1炭素基質でありうる。メチロトローフ(methylotrophic)生物が、1炭素基質および2炭素基質に加え、メチルアミン、グルコサミンおよび代謝活性における種々のアミノ酸などの化合物を含有する他の多数の炭素を用いることでも知られている。例えば、メチロトローフ酵母がメチルアミン由来の炭素を用いてトレハロースまたはグリセロールを形成することで知られている(Bellionら、Microb.Growth C1 Compd.、[Int.Symp.]、7th(1993年)、415−32頁、Murrell J.Collin;Kelly,Don P.編、Intercept(Andover、UK)発行)。同様に、カンジダの様々な種がアラニンまたはオレイン酸を代謝することになる(Sulterら、Arch.Microbiol. 153:485−489頁(1990年))。それ故、本発明で用いられる炭素源が基質を有する多種多様な炭素を包含する場合があり、生物の選択によってのみ限定されうると考えられる。
【0137】
上記の炭素基質およびそれらの混合物のすべてが本発明において適切であると考えられるが、好ましい炭素基質はグルコース、フルクトース、およびスクロースである。
【0138】
発酵培地は、適切な炭素源に加え、イソブタノールの生成に必要な培養物の成長および酵素経路の促進に適する、当業者に既知の、適切なミネラル、塩、共同因子、緩衝液および他の成分を含有する必要がある。
【0139】
培養条件
典型的には細胞が、適切な培地内、約25℃〜約40℃の範囲内の温度で成長される。本発明における適切な成長培地は、ルリア・ベルターニ(Luria Bertani)(LB)培養液、サブロー・デキストロース(Sabouraud Dextrose)(SD)培養液または酵母培地(YM)の培養液などの一般的な商業的に調製された培地である。他の限定または合成された成長培地が用いられる場合があり、かつ特定の微生物の成長に適した培地について微生物学または発酵科学に関する当業者は知っているであろう。異化代謝産物抑制を直接的または間接的に調節することで知られる作用物質、例えば環状アデノシン2’:3’一リン酸(cAMP)の使用についても発酵培地内に取り込まれうる。
【0140】
発酵に適するpH範囲はpH5.0〜pH9.0であり、初期条件としてはpH6.0〜pH8.0が好ましい。
【0141】
発酵は好気性または嫌気性条件下で実施可能であり、嫌気性または微好気性条件が好ましい。
【0142】
工業用バッチおよび連続発酵
本プロセスには、発酵のバッチ方法が用いられる。従来のバッチ発酵は、培地の組成物が発酵開始時に設定され、発酵の間に人工的な改変が施されることがない閉鎖系である。したがって、発酵開始時に培地に望ましい生物が接種され、系に何も添加しなくても発酵の生成が可能である。しかし、典型的には「バッチ」発酵は炭素源の添加に関連したバッチであり、pHおよび酸素濃度などの要素を制御する試みがなされることが多い。バッチシステムでは、システムの代謝産物およびバイオマス組成物は、最大で発酵が停止する時間まで常時変化する。バッチ培養物内では、細胞が、変化のない誘導期(lag phase)から高成長の対数期(log phase)、最終的に成長率が減少または停止する定常期(stationay phase)にかけて抑制される。定常期における細胞が、未処理の場合、最終的に死滅することになる。対数期における細胞が、一般に最終生成物または中間体の生成の大部分に関与する。
【0143】
標準のバッチシステムに対する変形がフェドバッチシステムである。フェドバッチ発酵プロセスは本発明においても適切であり、基質が発酵プロセスごとに添加されること以外では典型的なバッチシステムを含む。フェドバッチシステムは、異化代謝産物抑制が細胞の代謝を阻害する傾向がある場合や培地内に限られた量の基質を有することが望ましい場合に有用である。フェドバッチシステム内での実際の基質濃度の測定は困難であることから、それはpH、溶解酸素およびCOなどの排ガスの分圧などの測定可能な要素の変化に基づいて評価される。バッチおよびフェドバッチ発酵は一般的で、当該技術分野で周知であり、例がThomas D.「Brock in Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology」、第2版(1989年)Sinauer Associates,Inc.(Sunderland、MA)またはDeshpande,Mukund(Appl.Biochem.Biotechnol.、36:227頁(1992年))(参照により本明細書中に援用される)において見出されうる。
【0144】
本発明はバッチモードで実施されるが、本方法は連続発酵方法に適合可能であろうことが考えられる。連続発酵は、限定された発酵培地がバイオリアクターに連続的に添加されかつ等量の条件培地が処理と同時に除去される場合の開放系である。細胞が主に対数増殖(log phase growth)期にある場合、連続発酵は一般に一定の高密度で培養物を維持する。
【0145】
連続発酵では、細胞成長または最終生成物濃度に作用する1つの要素またはいくつかの要素の調節が可能になる。例えば、1つの方法では、炭素源などの限られた栄養素または一定速度での窒素レベルが維持され、あらゆる他のパラメータの抑制が可能になる。他のシステムでは、培地の濁度により測定される細胞濃度が一定に保持される間、成長に作用する多数の要素を連続的に改変することが可能である。連続システムでは、恒常的成長条件を維持するように試みることで、培地の除去(drawn off)に起因する細胞欠損を発酵における細胞成長率に対して均衡させなければならない。連続発酵プロセス用の栄養素および成長因子を調節する方法ならびに生成物形成の速度を最大化するための技術については産業微生物学における当該技術分野で周知であり、かつ種々の方法がBrock、上記で詳述されている。
【0146】
本発明がバッチ、フェドバッチまたは連続プロセスのいずれかを用いて実施可能であり、かつ発酵における既知のモードであればいずれであっても適することが考えられる。さらに、細胞が細胞触媒全体として基質上に固定化され、かつイソブタノールの生成における発酵条件に従いうることが考えられる。
【0147】
発酵培地からイソブタノールを単離するための方法
生物学的に生成されるイソブタノールは、アセトン−ブタノール−エタノール(ABE)を発酵するための当該技術分野で既知の方法を用いて発酵培地から単離されうる(例えば、Durre、Appl.Microbiol.Biotechnol.49、639−648頁、1998年、およびGrootら、Process.Biochem.27、61−75頁、1992年およびその中の参考文献)。例えば、固体は遠心分離、濾過、デカンテーションにより発酵培地から除去され、イソブタノールは蒸留、共沸蒸留、液体−液体抽出、吸着、ガスストリッピング、膜蒸発、または透析蒸発などの方法を用いて発酵培地から単離されうる。
【実施例】
【0148】
本発明はさらに以下の実施例にて定義される。これらの実施例が本発明の好ましい実施形態を示す一方であくまで例示目的で与えられることは理解されるべきである。上記の考察およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の本質的な特徴により、その趣旨および範囲から逸脱することなく本発明に対して様々な変更および改良を行うことで、本発明の様々な利用および条件への適合が可能であることが確認できる。
【0149】
一般的方法
実施例で用いられる標準の組換えDNAおよび分子クローン化技術は当該技術分野で周知であり、Sambrookら(Sambrook, J.、Fritsch, E.F.およびManiatis, T.(「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」;Cold Spring Harbor Laboratory Press(Cold Spring Harbor)、1989年、ここではManiatisと称される)およびManiatis(上記)と、Silhavyら(Silhavyら、「Experiments with Gene Fusions」、Cold Spring Harbor Laboratory(Cold Spring Harbor,N.Y.)1984年)と、Ausubelら(Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、Greene Publishing Assoc. and Wiley−Interscienceにより発行、1987年)により記載がなされている。
【0150】
細菌培養物の維持および成長に適する材料および方法は当該技術分野で周知である。以下の実施例における使用に適する技術は、「Manual of Methods for General Bacteriology」(Phillippら編、American Society for Microbiology(Washington,DC.)、1994年)またはThomas D.Brock(Brock、「Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology」、第2版、Sinauer Associates,Inc.(Sunderland,MA)(1989年)における提示として見出されうる。細菌細胞の成長および維持のために用いられるすべての試薬、制限酵素および材料は、他に特に規定がない限り、Aldrich Chemicals(Milwaukee,WI)、BD Diagnostic Systems(Sparks,MD)、Life Technologies(Rockville,MD)、またはSigma Chemical Company(St.Louis,MO)から入手した。
【0151】
以下の実施例で用いられるオリゴヌクレオチドプライマーを表3に示す。
【0152】
【表3】

【0153】
【表4】

【0154】
略語の意味は以下の通りである。「sec」は秒を意味し、「min」は分を意味し、「h」は時間を意味し、「nm」はナノメートルを意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「mg/mL」はミリグラム/ミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「nm」はナノメートルを意味し、「mM」はミリモル濃度を意味し、「M」はモル濃度を意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「μmol」はマイクロモルを意味し、「kg」はキログラムを意味し、「g」はグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「PCR」はポリメラーゼ連鎖反応を意味し、「OD」は光学密度を意味し、「OD600」は600nmの波長で測定された光学密度を意味し、「kDa」はキロダルトンを意味し、「g」は重力定数を意味し、「bp」は塩基対を意味し、「kbp」はキロ塩基対を意味し、「kb」はキロベースを意味し、「%」はパーセントを意味し、「%w/v」は重量/容量パーセントを意味し、「%v/v」は容量/容量パーセントを意味し、「HPLC」は高性能液体クロマトグラフィーを意味し、「g/L」はグラム/リットルを意味し、「μg/L」はマイクログラム/リットルを意味し、「ng/μL」はナノグラム/マイクロリットルを意味し、「pmol/μL」はピコモル/マイクロリットルを意味し、「RPM」は回転/分を意味し、「μmol/min/mg」はマイクロモル/分/ミリグラムを意味し、「w/v」は重量/容量を意味し、「v/v」は容量/容量を意味する。
【0155】
実施例1(比較)
KARI酵素活性の分析
本実施例では、大腸菌(E.coli)のilvC遺伝子によりコードされたKARI酵素によるNADPHのアセトラクテート依存性の酸化を用いたilvC遺伝子の過剰発現コンストラクトの調製および酵素活性の測定について記載する。
【0156】
pBAD−ilvC発現プラスミドの作成−大腸菌(E.coli)からのilvC遺伝子の単離
ilvC遺伝子コード領域を、PCRを用い、大腸菌(E.coli)株FM5(ATCC53911)のゲノムDNAから増幅した。細胞を、Luria Bertani(LB)培地(Mediatech Inc.(Herndon,VA))4mLを有する50mLの培養管内で(300RPMで撹拌しながら37℃で)一晩成長させた。次いで、それらを3分間で1000×gでの遠心分離により回収し、細胞のゲノムDNAを、Gentra Puregeneキット(Gentra Systems,Inc.(Minneapolis,MN);カタログ番号D−5000A)を用い、製造業者の指示書に従って調製した。ilvCコード領域DNA断片を、鋳型として大腸菌(E.coli)DNAとプライマーの配列番号11および12を用い、PCRにより調製した。
【0157】
PCRを、Finnzymes Phusion(商標) High−Fidelity PCR Master Mix(New England Biolabs Inc.(Beverly,MA);カタログ番号F−531)を用い、製造業者のプロトコルに従って行った。増幅を、DNA Thermocycler GeneAmp 9700(PE Applied Biosystems(Foster city,CA))で行った。追加精製を伴わないPCR産物(0.5μL)を、pCR4Blunt TOPO(Invitrogen(Carlsbad,CA)、カタログ番号45−0031)にライゲートし、化学的コンピテントな(chemically competent)TOP10細胞(Invitrogen 44−0301)に形質転換した。ライゲーション産物を、LB培地+100μg/mLのアンピシリン(Teknova Inc(Hollister,CA)、カタログ番号L1004)を有するプレート上にストリークした。ilvC挿入物を有するクローンをSacI/BamHIでの制限消化により確認した。消化した4つの中の3つのプラスミドは、想定された1.5kbpのバンドを有した。得られたクローンをpCR4Blunt TOPO−ilvCと名づけた。
【0158】
pCR4Blunt TOPO−ilvCクローン化ベクター由来のilvC断片をSacI/BamHI消化により放出し、T4 DNAリガーゼ(New England Biolabs(Beverly,MA))を用い、SacI/BamHIで消化されたpTrc99A(Amannら、Gene、69、301−315頁、1988年)にライゲートした。このコンストラクトをエレクトロコンピテントな(electrocompetent)大腸菌(E.coli)TOP10細胞(Invitrogen 44−0035)にエレクトロポレートし、上記のようにLB/アンピシリンプレート上にストリークした。1.5kbの挿入物を有するベクターをpTrc99A−ilvCと名づけた。
【0159】
クローン化のためのpBADベクターの調製
遺伝子の5’末端にSacI部位を有するpBAD.HisA(Invitrogen)ベクターの誘導体を、SacI/HindIII制限部位を用い、ilvC遺伝子のpBADへのクローン化のために作成した。このコンストラクトを3つのステップで作成した。第1に、赤色酵母(Rhodotorula glutinis)由来のフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL;EC4.3.1.5)のコード領域をpBAD−HisAベクターにクローン化し、pBAD−PALを作成した。第2に、EcoRI部位をpBAD−PALコンストラクト上の開始コドンの直前の遺伝子の5’末端に付加し、pBAD−PAL−EcoRIを作成した。第3に、ilvC遺伝子のクローン化のため、EcoRI部位をSacI部位で置換し、得られたベクターをSacI/HindIIIで消化し、pBAD−SacIベクターを作成した。まずPAL遺伝子を、フォワードプライマー(PAL−F1)(配列番号37)およびリバースプライマー(PAL−R1)(配列番号38)を用い、pKK223−PALベクター(米国特許第6521748号明細書)からPCR増幅した。
【0160】
PCRを、TaKaRa Taq DNA Polymerase Premix(TAKARA Bio USA(Madison,WI)、カタログ番号TAK_R004A)を用い、製造業者のプロトコルに従い、Perkin Elmer PCR9700サーモサイクラー(PE Applied Biosystems(Foster city,CA))で行った。PCR産物をQIAQuik PCR精製キット(Qiagen、カタログ番号28106)を用いて部分精製し、BbsIおよびHindIIIで消化した。これにより、5’末端上にオーバーハングしたNcoIを有する断片が生成された。次いで、消化産物を、NcoI/HindIIIで消化済みのpBAD.HisA(Invitrogen)ベクターにライゲートした。ライゲーション反応を、製造業者から提供された標準プロトコルに従い、T4 DNAリガーゼ(Promega)を用いて行った。ライゲーション産物2μLを用い、TOP10エレクトロコンピテント細胞(Invitrogen)を、Bio−RAD Gene Pulser II(Bio−Rad Laboratories Inc(Hercules,CA))を用い、製造業者の指示書に従って形質転換した。形質転換された細胞を、LB培地+100μg/mLのアンピシリンを有する寒天プレート(Teknova Inc(Hollister,CA)、カタログ番号L1004)上にストリークし、37℃で一晩インキュベートした。PAL挿入物を有するクローンをNcoI/HindIIIでの制限消化により確認した。このコンストラクトをpBAD−PALと名づけた。次いで、EcoRI部位を、QuikChange II XL部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene(La Jolla,CA)、カタログ番号200524)を用い、上記コンストラクト内のPAL遺伝子の5’末端に付加した。フォワードプライマー(PAL−EcoRI−F1)(配列番号39)およびリバースプライマー(PAL−EcoR1−R1)(配列番号40)を設計し、反応混合物を製造業者の指示書に従って調製した。上で調製したpBAD−PALコンストラクトを下記反応における鋳型として用いた。
【0161】
反応混合物50μLは、200μLの薄壁チューブ内に、50ng/μLの鋳型プラスミド1.0μL、10pモル/μLの各プライマー1.0μL、10×反応緩衝液5μL、dNTPミックス1.0μLおよびQuik溶液3μL、水30μLおよびpfu−ultra high fidelity DNA polymerase1.0μLを含有した。この反応で用いたすべての試薬およびポリメラーゼを上記のQuikChange II XLキットで提供した。反応を、以下の条件を用い、DNA Thermocycler GeneAmp 2400(PE Applied Biosystems(Foster city,CA))で行った。開始温度は96℃で2分間であり、その後、18回の加熱/冷却サイクルを行った。各サイクルは、96℃で30秒間、次いで60℃で30秒間、次いで72℃で160秒間からなるものであった。温度サイクルの完了時、試料を72℃でさらに600秒間保持し、次いで4℃で試料の回収まで待機した。
【0162】
反応の完了後、(上記のキットからの)制限酵素DpnI1.0μLを反応物に添加後、37℃で3時間インキュベートし、反応物中の鋳型プラスミドを消化した。
【0163】
次いで、DpnIで消化した反応産物2.0μLを、Bio RAD Gene Pulser II(Bio−Rad Laboratories Inc(Hercules,CA))を用い、製造業者の指示書に従い、大腸菌(E.coli)TOP10エレクトロコンピテント細胞(Invitrogen)50μlに形質転換した。異なる容量(2.0μL、5.0μLおよび20μL)の形質転換細胞を、LB培地および100μg/mLのアンピシリンを有する10cmの寒天プレート上にストリークし、プレートを37℃で一晩インキュベートした。3つのクローンを十分に分離されたコロニーを有するプレートから採取した。3つのクローン由来のプラスミドを、Qiaprep spin miniprep kit(Qiagen(Valencia CA)、カタログ番号27106)を用い、製造業者の使用説明書に従って精製した。陽性クローンを、10×反応緩衝液(Promega緩衝液)1.0μL、精製プラスミド1.0μLおよび各制限酵素1.0μLを脱イオン水6.0μL中に入れることによる制限酵素EcoRIおよびHind III(Promega(Madison,WI))を用いた制限消化分析により確認した。反応混合物を37℃で60分間インキュベートした。各クローンの消化産物を0.8%アガロースE gel(Invitrogen、カタログ番号G5018−08)上で分離した。1つの2.1kbpおよび1つの4.0kbpのDNA断片を、コンストラクト内にEcoRIおよびHindIII制限部位の双方を有する試料中のゲル上で検出した。次いで、このコンストラクト内のEcoRI部位を、プラスミド鋳型pBAD−PAL−EcoRIとプライマーの配列番号13および14を伴う上記と同じプロトコルを用いてSacI部位で置換した。
【0164】
陽性クローンを制限酵素SacIおよびHindIII(Promega(Madison、WI))を用いる制限消化分析により確認した。一旦、陽性クローンが同定されると、上記の制限消化反応を大規模に(50μL)に設定した。消化されたベクターを有する4kbpの断片を、1%アガロースゲルおよびQIAquickゲル抽出キット(Qiagen(ValenciaCA)、カタログ番号28704)を用い、製造業者のプロトコルに従って混合物からゲル精製した。このコンストラクトをpBAD−SacIと名づけた。
【0165】
KARIの過剰発現に用いる宿主株
ノックアウトされたilvC遺伝子である宿主株大腸菌(E.coli)のBw25113(ΔilvC)を、KARI酵素を過剰発現するコンストラクトの作成に用いた。この株においては、大腸菌(E.coli)染色体上のilvC遺伝子全体を、ラムダレッド相同性組換え技術(DatsenkoおよびWanner、Proc.Natl.Acad Sci.USA.97、6640−6645頁、2000年)を用い、カナマイシンカセットと置換した。この技術を用いたノックアウト株の作製に必要な株およびベクターのすべてを、Prof.Barry Wanner(Purdue University(West Lafayette,IN))から入手した。
【0166】
クローン化のためのilvCコード領域の調製
ilvCにおけるコード領域を、high fidelity pfu−ultra polymerase(Stratagene(La Jolla,CA))を用いて増幅するとともに、SacI部位をATGの直前のフォワードプライマーの5’末端に付加し、かつHindIII部位を停止コドンの直後のリバースプライマーの5’末端に付加した。配列番号15を有するプライマー(フォワード:ilvc−trc−SacI−F)および配列番号16を有するプライマー(リバース:ilvc−trc−HindIII−R)をこの反応に用いた。PCR反応に用いた鋳型は、上記のptrc99A−ilvCコンストラクトであった。
【0167】
反応混合物50μLは、pfu−ultra polymerase(Stratagene)、50ng/μLの鋳型1.0μL、10pモル/μLのフォワードおよびリバースプライマーの各々1.0μL、40mM dNTPミックス(Clonetech(Mountain View,CA))1.0μL、pfu−ultra DNA polymerase(Stratagene)1.0μL、ならびに水39μLが供給された10×反応緩衝液5.0μLを含有した。この反応混合物を、DNA Thermocycler GeneAmp 2400(PE Applied Biosystems(Foster city,CA))におけるPCR反応用の200μLの薄壁チューブ内に入れた。PCR反応を実施するため、以下の条件を用いた。開始温度は94℃で2分間であった。次いで、30回の加熱/冷却サイクルを行った。各サイクルは、94℃で30秒間、58℃で30秒間、次いで68℃で1分間および40秒間からなるものであった。温度サイクルの完了時、試料を60℃でさらに10分間保持し、次いで4℃で試料の回収まで待機した。
【0168】
PCR産物をQIAquik PCR精製キット(Qiagen、カタログ番号28106)を用いて部分精製し、HindIIIおよびSacIにより消化し、次いで上記のプロトコルを用いてゲル精製した。消化されたPCR断片を、同じ酵素セットにより消化されたpBAD−SacIベクターにライゲートした。ライゲーション反応物20μLは、T4 DNAリガーゼ(Promega)1.0μL、T4 DNAリガーゼを伴う10×反応緩衝液2.0μL、45ngのベクターと45ngの挿入物、および脱イオン水を含有した。反応物を、Eppendorfサーマルサイクラー(Eppendorf North America(Westbury,NY))内で、16℃で一晩インキュベートした。
【0169】
ライゲーション産物2μLを、BioRAD Gene Pulser II(Bio−Rad Laboratories Inc.(Hercules,CA))を用い、大腸菌(E.coli)TOP10エレクトロコンピテント細胞(Invitrogen)に形質転換した。形質転換クローンを、LB培地および100μg/mLのアンピシリンを有する寒天プレート上で選択した。クローン内での大腸菌(E.coli)ilvC遺伝子挿入物の存在を、SacIでの消化およびプライマーの配列番号17〜22を用いたDNA配列決定により確認した。ilvC遺伝子挿入物を有するコンストラクトをpBAD−K12−ilvCと名づけた。
【0170】
KARI発現の分析のための株の調製
上記pBAD−K12−ilvCコンストラクトおよびpTrc99A−ilvCのプラスミド(双方ともTOP10宿主株内)を、Qiaprep spin miniprep kit(Qiagen(Valencia CA)、カタログ番号27106)を用い、製造業者の使用説明書に従い、100μg/mLのアンピシリンを含有するLB培地中で一晩培養物3mLから調製した。pBAD−K12−ilvC1μLおよびpTrc99A−ilvC1μLを、Bio RAD Gene PulserII(Bio−Rad Laboratories Inc(Hercules,CA))を用い、製造業者の指示書に従い、大腸菌(E.coli)Bw25113(ΔilvC)エレクトロコンピテント細胞に別々に形質転換した。形質転換細胞をLB培地+100μg/mLのアンピシリンを有する寒天プレート上にストリークし、37℃で一晩インキュベートした。これらのプレート由来のコロニーを無細胞抽出物(cell free extract)の調製に用いた。
【0171】
無細胞抽出物の調製
pBAD−K12−ilvCおよびpTrc99A−ilvCを有する細胞を、100μg/mLのアンピシリン、誘導因子の0.02%(w/v)アラビノースおよび1mMイソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を含有するLB培地3.0mL中で、250rpmで振とうしながら37℃でそれぞれ成長させた。細胞を、22.5℃、6000×gで5分間の遠心分離により回収し、細胞ペレットを1.5mLの微量遠心管内の100mM HEPES緩衝液(pH7.5)300μL中に再懸濁し、(容量基準で)40%の水および60%の氷で満たした水槽内に入れ、Misonix 300ソニケーター(Misonix(Farmingdale,NY))を用いて2〜3分間超音波処理した(出力1.0で3.0秒バースト後、3.0秒の停止)。細胞残渣を遠心分離(Eppendorf微量遠心管、モデル5415D、22.5℃、9300×gで5分間)により除去した。
【0172】
あるいは、細胞抽出物を、洗剤に基づくタンパク質抽出試薬BugBuster master mix(Novagen、カタログ番号71456)を用いて調製した。培養物3.0mL由来の細胞ペレットをBugBuster master mix300μL中に再懸濁し、室温で20分間インキュベートした。細胞残渣を、22.5℃、9300×gで5分間の遠心分離(Eppendorff微量遠心管モデル5415D)により除去した。
【0173】
タンパク質の定量
試料中の全タンパク質濃度を、Coomassie Plus(Pierce#23238(Rockford,IL))を用いたBradford Coomassie Assay(BCA)により測定した。試料およびタンパク質の標準(ウシ血清アルブミン、BSA)を、製造業者のプロトコルに従い、96ウェルマイクロプレート内で設定した。タンパク質の濃度を、SpectraMaxプレートリーダー(Molecular Devices Corporation(Sunnyvale,CA))を用い、595nmでの吸光度に従って測定した。
【0174】
KARI酵素アッセイプロトコル
アッセイ基質の(R,S)−アセトラクテートをAulabaughおよびSchloss(AulabaughおよびSchloss、Biochemistry、29、2824−2830頁、1990年)に記載のように合成した。すなわち、1.0gの2−アセトキシ−2−メチル−3−オキソ酪酸エチルエステル(Aldrich(Milwaukee,WI))を1.0MのNaOH10mLと混合し、室温で撹拌した。溶液pHが中性になったら、追加的なNaOHを徐々に添加し、約8.0のpHを維持した。アッセイで用いたすべての他の化学物質をSigmaから購入した。
【0175】
KARIによるアセトラクテートから2,3−ジヒドロキシイソバレレートへの酵素的変換の後に、共同因子NADPHの反応物からの消失を分光光度計(Agilent Technologies(Santa Clara,CA))を340nmで用いて測定した。NADPHについての活性を6220M−1cm−1のモル吸光係数を用いて計算した。用いたストック溶液は、HCl/KOHによってpH7.5に調整した100mM HEPES−カリウム塩;1.0M MgCl;20mM NADPHおよび90mMアセトラクテートであった。ストック用反応緩衝液混合液40mLは100mM HEPESストックおよびMgClストック400μLを含有する。
【0176】
反応緩衝液(194μL)を、プラスチック製使い捨てキュベット(Eppendorf UVette、Eppendorf AG(Hamburg,Germany))内でNADPH(2.0μL)ストックおよび細胞抽出物(2.0μL)と混合し、22.5℃、340nmでの吸光度を20秒間記録した。初期のA340は通常、約0.9〜1.0であった。次いで、アセトラクテート(2.0μL)をキュベットに添加し、反応を開始した。アッセイにおける原料の最終濃度は、pH7.5での100mMカリウムHEPES、10mM MgCl、200μM NADPHおよび900μMアセトラクテートであった。この溶液を完全に混合し、340nmでのその吸光度をさらに80秒間記
録した。ここで報告されるKARI活性は、細胞抽出物中の全タンパク質の1mg当たり、1分当たりに消費されるNADPHのμモルとして定義される。pBAD−K12−ilvCプラスミドおよびptrc99A−ilvCプラスミドで形質転換した大腸菌(E.coli)Bw25113(ΔilvC)細胞から調製した細胞抽出物中のタンパク質濃度およびKARI活性の結果を表4に示す。2つの細胞抽出物試料を、pBAD−K12−ilvCコンストラクト用に、一方は超音波処理、他方はBugBusterを用いて調製した。pTrc99A−ilvCコンストラクト用の細胞抽出物試料を、BugBusterを用いて調製した。これらの分析によると、KARIタンパク質がpBAD−K12−ilvCプラスミドを有する細胞内の方がpTrc99A−ilvCを有する細胞内よりも高レベルに発現されたが、2つの異なる方法により調製した細胞抽出物試料中での酵素比活性は有意に異ならないことが示された。pBAD−HisB(Invitrogen)で形質転換された大腸菌(E.coli)株Bw25113を陰性対照として用いた。陰性対照におけるNADPH消費率は極めて低かった(pBAD−K12−ilvC遺伝子を有するものについて測定された消費率の約1%〜2%)。
【0177】
【表5】

【0178】
実施例2
様々な微生物由来の比活性の高い酵素を有するKARIの同定
本実施例の目的は、高い比活性を有するKARI酵素を含有する微生物の同定の仕方を説明することである。
【0179】
大腸菌(E.coli)よりも迅速な倍加時間を有するKARIを含有する生物が、最少培地中で成長する間、活性の高いKARI酵素を含有することになると仮定された。緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(PAO1)、蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)(PF5)、およびコレラ菌(Vibrio cholerae)(N16961)といった3種の微生物が、M9最少培地中での成長時、大腸菌(E.coli)よりも迅速な倍加時間を有するものとして同定された(下記参照)。これらの生物のゲノムDNA製剤は市販されている。表5は、M9最少培地中での成長後の倍加時間のこれらの生物と大腸菌(E.coli)との比較を示す。
【0180】
【表6】

【0181】
上記のように、KARI酵素は異なるクラスに分類されている。シュードモナス(Pseudomonas)PF5およびPAO1酵素はクラスI KARI群(同科内の最大の群である)に属する一方、大腸菌(E.coli)およびコレラ菌(V.Cholerae)酵素はクラスII細菌KARI群に属する。
【0182】
緑膿菌(P.aeruginosa)(PAO1、ATCC 47085)および蛍光菌(P.fluorescens)(PF5、ATCC BAA−477)の精製ゲノムDNAをATCC(American Type Culture Collection(10801 University Blvd(Manassas,VA))から購入した。各生物由来のゲノムDNA(各々10μg)を、PCR反応で用いるため、pH8.5の10mMトリス−HCl100μLで再水和した。SacI部位をフォワードプライマー(配列番号23および25)に結合させかつHindIII部位をリバースプライマー(配列番号24および26)に結合させた、プライマー対を用い、ilvC遺伝子コード領域を、high fidelity pfu−ultra DNA polymerase(Stratagene)を用い、PAO1およびPF5のゲノムDNAからPCRで増幅した。プライマーを、これらの生物におけるPF5およびPAO1 ilvC遺伝子の公的に有益な(GeneBank)配列に基づいて設計した。
【0183】
各PCR反応物50μLは、ゲノムDNA1.0μLおよび10pモル/μLのフォワードおよびリバースプライマーを各遺伝子につき1.0μLずつ含有した。
【0184】
PCR反応を、以下の反応条件を用い、Eppendorf master cyclers gradient(Eppendorf North America(Westbury,NY))で行った。開始温度は2分間で95℃であった。次いで、5回の加熱/冷却サイクルを行った。各サイクルは、95℃で30秒間、55℃で30秒間、および72℃で10分間と30秒間からなるものであった。25回のさらなる加熱/冷却サイクルを行った。これらの各サイクルは、95℃で30秒間、65℃で30秒間、および72℃で1.0分間と30秒間からなるものであった。これらの温度サイクルの完了時、試料を72℃でさらに10分間保持し、次いで4℃で試料の回収まで待機した。
【0185】
実施例1に記載の手順を用い、得られたPCR断片をHindIIIおよびSacIで消化し、pBAD−SacI発現ベクターにクローン化し、ilvC−ノックアウト株BW25113(ΔilvC)に形質転換した。陽性クローンを制限酵素消化により同定し、プライマーの配列番号21(pBAD−eF1)、配列番号22(PALPK−R1)、配列番号27(PF5−S−F2)、および配列番号28(PF5−S−R2)を用いる完全長DNA配列決定により確認し、ここで得られた株をBW25113(ΔilvC)−PAO1−ilvCおよびBW25113(ΔilvC)−PF5−ilvCと名づけた。
【0186】
コレラ菌(V.Cholerae)VC0162遺伝子コード領域を大腸菌(E.coli)での発現のために既知のタンパク質配列(登録番号NP_229819.1)に基づいてコドン最適化し、合成的なカスタム遺伝子合成(DNA 2.0,Inc.(Menlo Park,CA))により調製した。SacIおよびHindIII部位を遺伝子の末端に結合し、それを調製した。このDNA断片をまた、SacIおよびHindIII制限部位を用いてpBAD−SacI発現ベクターにクローン化し、ilvC−ノックアウト株BW25113(ΔilvC)に形質転換した。得られた株をBW25113(ΔilvC)−VCopt−VC0162と名づけた。コドン最適化されたVC0162の配列は配列番号30で与えられる。
【0187】
K12、PAO1、PF5およびVC株由来のタンパク質およびKARI活性アッセイ
KARI酵素を発現するすべての株BW25113(ΔilvC)−K12−ilvC、BW25113(ΔilvC)−PAO1−ilvC.BW25113(ΔilvC)−PF5−ilvCおよびBW25113(ΔilvC)−VCopt−VC0162の無細胞抽出物を、実施例1に記載のようにBugBusterを用いて調製した。KARIアッセイを、反応緩衝液188μL、20mM NADPHストック2.0μL、アッセイ緩衝液で希釈した20%細胞抽出物5.0μLおよび90mMアセトラクテート5.0μLを用いて行った。それ故、本実施例で用いる最終のアッセイ溶液は、酵素、100mMカリウム−HEPES、10mM MgCl,200μM NADPHおよび2.25mMアセトラクテートからなるものであった。
【0188】
表6は、誘導因子としての0.02%(w/v)のアラビノースの存在下で一晩成長させた4種の異なる生物のKARI比活性を示す。細胞抽出物中の全タンパク質の量およびKARI活性を上記のように測定した。表6にまとめるように、最少培地中での成長時により迅速な倍加時間を有するものとして同定された生物由来のKARI酵素は(表5)、いずれも大腸菌(E.coli)由来のKARIよりも高い比活性を有する。各抽出物は、SDS−PAGEによる推定とほぼ等しいレベルのKARIタンパク質の発現を有した(データは示さず)。これらの結果は、最少培地中での成長期間中の倍加時間がより高い比活性を有するKARI酵素を同定するための手段として用いられうるという仮説を支持している。
【0189】
【表7】

【0190】
実施例3
精製K12−KARIおよびPF5−KARIの比活性の分析
実施例2における、粗細胞抽出物で観察されるKARI比活性の増大について一層解明するため、K12−KARIおよびPF5−KARIを均質になるまで精製することで各タンパク質の濃度の正確な定量を可能にし、精製KARI酵素の比活性を測定した。
【0191】
K12−KARIおよびPF5−KARIの精製
K12−KARIおよびPF5−KARIの双方を弱アニオン交換スピンカラムVivapure IEX D、miniH(Vivascience AG(Hannover,Germany))を用いて精製後、100KDaの分子量カットオフを有するMicrocon機器(YM100、Millpore(Bedford,MA))で濃縮した。精製手順を室温(22.5℃)で行った。
【0192】
アニオン交換スピンカラムで用いたストック溶液は、pH7.0での100mMカリウム−HEPES、1.0M MgCl、250mM EDTA、10%Brij35および2M KClであった。洗浄用緩衝液(BufferA)を、MgClストック50μL、EDTAストック20μLおよび10%Brij35 10μLの添加とともに、100mM HEPESストック5.0mLの水15mLへの添加により作製した。溶出緩衝液#1(緩衝液B)を、MgClストック50μl、EDTAストック20μLおよび10%Brij3510μLの添加とともに、100mM HEPES5.0ml、KClストック2.0mLの13mL水への添加により作製した。溶出緩衝液#2(緩衝液C)を、MgClストック50μL、EDTAストック20μLおよび10%Brij3510μLの添加とともに、100mM HEPESストック5mL、KClストック5.0mLの10mL水への添加により作製した。緩衝液B中での最終のKCl濃度は約200mMであり、緩衝液C中では約500mMである。
【0193】
株BW25113(ΔilvC)−K12−ilvCおよびBW25113(ΔilvC)−PF5−ilvCの無細胞抽出物を、実施例1に記載のようにBugBusterを用いて調製した。Vivapure IEX Dカラムへの装填のために希釈した細胞抽出物を調製するため、二重脱イオン水600μLを抽出物200μLに添加した。
【0194】
Vivapure IEX Dカラムを、2000×gで5分間の遠心分離(Eppendorf微量遠心管モデル5415D)により緩衝液A400μLでまず洗浄した。同一の機器およびプロセスをVivapure IEX D精製手順全体を通じて用いた。希釈した細胞抽出物(上記)をカラムに装填し、400μLずつの2つのバッチで遠心分離した。次いで、カラムを緩衝液A400μLで(2回)洗浄した。PF5−KARI試料においては、緩衝液B400μLを装填し、酵素をカラムから回収用チューブに溶出した。K12−KARI試料においては、代わりに緩衝液C400μLを用いた。
【0195】
Microcon YM100機器を、13800×gで5分間の遠心分離(Eppendorf微量遠心管モデル5415D)により脱イオン水400μLでまず洗浄した。次いで、Vivapure IEX Dでの精製から回収した試料を装填し、13800×gで4分間遠心分離した。流入物(flow−through)を廃棄し、緩衝液B400μLを試料チャンバに添加し、13800×gで4分間遠心分離した。緩衝液B200μLの試料チャンバへの添加前に、洗浄手順を(2回)繰り返した。試料チャンバを清潔な回収用チューブに反転させ、5000×gで2分間遠心分離し、精製試料を回収した。
【0196】
各精製KARI試料の純度をキャピラリー電気泳動(Agilent 2100 Bioanalyzer、Agilent Technology(Santa Clara,CA))により確認した。試料をProtein 230試薬キットを用いて調製し、製造業者の使用説明書に従ってProtein Labchip(試薬キットが提供)に適用し、Bioanalyzerにより分析した。バックグラウンドをほとんど伴わない単一のピークが各精製試料における電気記録図上に認められた。
【0197】
精製KARI試料のタンパク質定量
280nmでの精製KARI試料のUV吸収測定を、分光光度計(Agilent Technology(Santa Clara,CA))および1cmの経路長の使い捨てプラスチック製キュベット(UVette、eppendorf(Hamburg,Germany))を用いて行い、精製試料中でのKARIの量を定量した。PF5−KARIにおける280nmでの吸光係数(1mg/mLにおいては0.73)およびK12−KARIにおける280nmでの吸光係数(1mg/mLにおいては0.98)を、ExPASyウェブサイト上で利用可能なプログラムProtparamにより予測した(Pace C.N.ら、Protein Sci.11、2411−2423頁、1995年)。UV吸収測定のため、精製試料を緩衝液B中で20%(v/v)まで希釈した。希釈したPF5−KARI試料におけるA280は0.41であり、希釈したK12−KARIにおけるA280は0.36であった。
【0198】
精製KARIにおける活性アッセイ
本実施例で用いられるアッセイ条件は、20%(v/v)精製試料5μLを細胞抽出物の代わりに用いたこと以外では実施例2の場合と同じであった。精製試料のタンパク質濃度およびその比活性を表7に示す。試験対象の最速の成長者(grower)である精製PF5−KARIの比活性は、K12−KARIの比活性の2倍であった。これらの結果が実施例2におけるこれら2種の酵素の粗製剤を用いて得られたデータと一致することから、最少培地中での成長の間での倍加時間が大腸菌(E.coli)酵素よりも高い比活性を有するKARI酵素を同定するための手段として用いられうるという仮説に対してさらなる支持が得られる。
【0199】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトラクテートをジヒドロキシ−イソバレレートに変換するための方法であって、
a)大腸菌(E.coli)ケトール酸レダクトイソメラーゼの比活性よりも高い比活性のケトール酸レダクトイソメラーゼを有するポリペプチドをコードする遺伝子コンストラクトを含む微生物宿主細胞を提供するステップと、
b)(a)の宿主細胞をアセトラクテートと接触させるステップであって、2,3−ジヒドロキシイソバレレートが生成されるステップと、
を含む方法。
【請求項2】
遺伝子コンストラクトが、以下の条件:
a)約7.5のpH、
b)約22.5℃の温度、および
c)約10mM超のカリウム
のもとで行われるNADPH消費アッセイによって測定される際、精製タンパク質に基づく1.1μモル/分/mgを超える比活性のケトール酸レダクトイソメラーゼを有するポリペプチドをコードする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イソブタノールを生成するための方法であって、
a)以下の遺伝子コンストラクト:
1)ピルベートをアセトラクテートに変換する(経路ステップa)アセトラクテートシンターゼ酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子コンストラクト;
2)(S)−アセトラクテートから2,3−ジヒドロキシイソバレレートへの変換(経路ステップb)において、以下の条件:
i)約7.5のpH、
ii)約22.5℃の温度、および
iii)約10mM超のカリウム
のもとで行われるNADPH消費アッセイによって測定される際、精製タンパク質に基づく1.1μモル/分/mgを超える比活性のケトール酸レダクトイソメラーゼ酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子コンストラクト;
3)2,3−ジヒドロキシイソバレレートをα−ケトイソバレレートに変換する(経路ステップc)ためのアセトヒドロキシ酸デヒドラターゼをコードする少なくとも1つの遺伝子コンストラクト;
4)α−ケトイソバレレートをイソブチルアルデヒドに変換する(経路ステップd)分岐鎖ケト酸デカルボキシラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子コンストラクト;
5)イソブチルアルデヒドをイソブタノールに変換する(経路ステップe)ための分岐鎖アルコールデヒドロゲナーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子コンストラクト;
を含む組換え微生物宿主細胞を提供するステップと、
b)(a)の宿主細胞をイソブタノールが生成される条件下で成長させるステップと、
を含む方法。
【請求項4】
ケトール酸レダクトイソメラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの遺伝子コンストラクトがシュードモナスから単離される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
宿主細胞が、細菌、シアノバクテリア、糸状菌および酵母からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
宿主細胞が、クロストリジウム、ザイモモナス、エシェリキア、サルモネラ、ロドコッカス、シュードモナス、バチルス、乳酸桿菌、腸球菌、アルカリゲネス、クレブシエラ、
パエニバチルス、アルスロバクター、コリネバクテリウム、ブレビバクテリウム、ピキア、カンジダ、ハンセヌラ、ビブリオおよびサッカロミセスからなる群から選択される属のメンバーである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
宿主細胞が大腸菌である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細胞がラクトバチルス・プランタルムである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
細胞がサッカロミセス・セレビシェである、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
アセトラクテートシンターゼが配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
ケトール酸レダクトイソメラーゼ活性を有するポリペプチドが、配列番号34、配列番号35、および配列番号36からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
アセトヒドロキシ酸デヒドラターゼ活性が配列番号6で示されるアミノ酸配列を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
分岐鎖アルコールデヒドロゲナーゼが配列番号10で示されるアミノ酸配列を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
分岐鎖α−ケト酸デカルボキシラーゼが配列番号8で示されるアミノ酸配列を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項15】
大腸菌ケトール酸レダクトイソメラーゼの比活性を超える比活性を有するケトール酸レダクトイソメラーゼ酵素を含む組換え宿主細胞。
【請求項16】
ケトール酸レダクトイソメラーゼ酵素が、以下の条件:
a)約7.5のpH、
b)約22.5℃の温度、および
c)約10mM超のカリウム
のもとで行われるNADPH消費アッセイによって測定される際、精製タンパク質に基づく1.1μモル/分/mgを超える比活性を有する、請求項15に記載の組換え宿主細胞。
【請求項17】
以下の条件:
i)約7.5のpH、
ii)約22.5℃の温度、および
iii)約10mM超のカリウム;
のもとで行われるNADPH消費アッセイによって測定される際、精製タンパク質に基づく1.1μモル/分/mgを超える比活性を有するケトール酸レダクトイソメラーゼ酵素をコードする遺伝子コンストラクトの同定および単離のための方法であって、
a)M9最少培地中で成長させる場合、大腸菌の倍加時間よりも短い倍加時間を有する細菌種を同定するステップと、
b)(a)の細菌種をケトール酸レダクトイソメラーゼ活性についてスクリーニングし、活性細菌種を同定するステップと、
c)(b)の活性細菌種のゲノムDNAを、ケトール酸レダクトイソメラーゼをコードすることで知られる遺伝子コンストラクトに対して相同性を有する核酸配列でプローブし、前記活性細菌種由来のケトール酸レダクトイソメラーゼをコードする遺伝子コンストラクトを同定し、単離するステップと、
d)前記活性細菌種由来のケトール酸レダクトイソメラーゼをコードする前記遺伝子コンストラクトを増幅し、発現するステップと、
e)ステップ(d)の前記発現された遺伝子コンストラクトを、以下の条件:
i)約7.5のpH、
ii)約22.5℃の温度、および
iii)約10mM超のカリウム
のもとで行われるNADPH消費アッセイによって測定される際、精製タンパク質に基づく1.1μモル/分/mgを超える比活性を有するものについてスクリーニングするステップと、
を含む、方法。
【請求項18】
活性細菌種が、クロストリジウム、ザイモモナス、エシェリキア、サルモネラ、ロドコッカス、シュードモナス、バチルス、ビブリオ、乳酸桿菌、腸球菌、アルカリゲネス、クレブシエラ、パエニバチルス、アルスロバクター、コリネバクテリウム、およびブレビバクテリウムからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(a)の倍加時間が、M9最少培地中で成長させる場合、大腸菌の倍加時間の80%以下である、請求項17に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【公表番号】特表2010−524470(P2010−524470A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504212(P2010−504212)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【国際出願番号】PCT/US2008/060466
【国際公開番号】WO2008/130995
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(310011310)ビュータマックス・アドバンスド・バイオフューエルズ・エルエルシー (24)
【Fターム(参考)】