活性分子の投与のためのキトサンおよびヒアルロナンのナノ粒子
本発明は、薬理学的に活性な分子のデリバリーに、および特にポリヌクレオチドを細胞へトランスフェクションするのに有用な、ナノ粒子系に関する。ナノ粒子系は低分子量キトサンおよびヒアルロナンのナノ粒子を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬理学的に活性な分子の放出に有用な、および特にポリヌクレオチドを細胞へトランスフェクションするのに有用なナノ粒子系に関する。本発明は、低分子量キトサンおよびヒアルロナンのナノ粒子を含む系、およびそれらを含む医薬組成物および化粧品組成物、およびそれらの調製のための方法を目的とする。
【背景技術】
【0002】
治療目的のための生物活性分子の投与は、投与経路および当該分子の物理化学的および形態学的特性に共に依存して、多数の問題を提示する。主な問題は不安定なまたはサイズの大きい活性分子を投与する際に生じることが知られている。生物の内部への高分子の到達は、生体バリアの低い透過性によって限定される。同様に、それらはヒトおよび動物の持つさまざまな防御機構のために分解されやすい。
【0003】
ナノメートルサイズの系への高分子の組み込みは、高分子が上皮バリアを透過するのを容易にし、および高分子を分解されることから保護することが実証されている。そのため、前記バリアと相互作用できるナノ粒子系の設計が、有効成分の粘膜を通る透過を達成するために有望な戦略として提示される。
【0004】
これらの系が外部バリアを越えおよび生物の内部に到達する能力は、系のサイズおよび系の組成に共に依存することも知られている。サイズの小さい粒子は、輸送の程度をより大きいサイズのものと比較して高める。直径1μm未満のナノ粒子は、この基準に対応する。系が天然および生体適合性起源のポリマーから調製される場合、公知の輸送機構によっておよび上皮生理を変えることなく、系が生物の粘膜を通って自然に輸送される可能性が高まる。
【0005】
この意味で、キトサンはナノ粒子に正電荷を与え、それが陰イオン性の生体環境を通じた吸収および/または負に荷電した生体膜への吸着を可能にするという事実のため、キトサンがナノ粒子系の処方において天然のおよび生体適合性のポリマーとして使用されている(WO−A−01/32751、WO−A−99/47130、ES 2098188)。
【0006】
これらの系の作製に使用される別のポリマーが、結合組織の細胞外マトリクスに、および眼球の硝子体に、および関節腔の滑液に存在する天然ポリマーであるヒアルロン酸である。ヒアルロン酸は生分解性および生体適合性ポリマーであり、免疫原性でなく、および粘膜付着性を有する。さらに、ヒアルロナンは、細胞の大多数に存在するCD44受容体と相互作用する。
【0007】
このように、文書WO89/03207およびベネデッティ(Benedetti)他による記事Journal of Controlled Release 13,33−41 (1990)は、溶媒蒸発法によるヒアルロン酸マイクロスフィアの製造を示す。また、文書US6,066,340は、溶媒抽出法を利用して前記マイクロスフィアを得る可能性に関する。
【0008】
文書US2001053359は、さまざまな材料、特にゼラチン、キトサンまたはヒアルロン酸から成るが、その混合物ではない、溶液またはマイクロスフィアの形で与えられる、経鼻投与のための抗ウイルス剤および生体付着材料の組み合わせを提案する。マイクロ粒子は、噴霧および溶媒乳化/蒸発といった標準的な方法で得られる。一旦得られれば、マイクロ粒子は従来の化学架橋法(ジアルデヒドおよびジケトン)によって硬化される。
【0009】
キトサン(または他の陽イオン性ポリマー)および ヒアルロン酸 の組み合わせは、ヒアルロン酸 の粘膜付着性をキトサンの吸収促進作用と組み合わせる目的で、およびナノ粒子の上皮バリアとの相互作用および吸収を改善するために、マイクロ粒子系およびナノ粒子系で提案されている。マイクロ粒子のこの組み合わせの値は、リム(Lim)他, J.Controll.Rel.66,2000,281−292およびリム(Lim)他,Int.J.Pharm.23,2002,73−82の研究に反映されている。前の文書と同様に、これらのマイクロ粒子は溶媒乳化−蒸発法によって調製されている。
【0010】
文書US6,132,750は、少なくとも1種類のタンパク質(コラーゲン、ゼラチン)を含むサイズの小さい粒子(マイクロおよびナノ粒子)の調製に、およびその表面の多糖(キトサンまたは特にヒアルロン酸といったグリコサミノグリカン)に関する。それらは、アミドまたはエステル結合、および任意に無水結合を形成する多官能アシル化剤との界面架橋によって形成される。
【0011】
文書WO2004/112758は、活性分子の投与のためのナノ粒子系について触れ、当該ナノ粒子は、分子量125〜150kDaのキトサン、コラーゲンまたはゼラチンおよびヒアルロン酸塩といった陽イオンポリマーを含む網状複合体によって構成される。それらは、異なる電荷を与える両方のポリマーの静電相互作用によって、および架橋剤の存在下でのイオンチャネル型架橋によって形成される。
【0012】
しかし、これらの系に伴う主な短所は、ナノ粒子が生体環境に一旦組み込まれた際の、生体環境における低い生分解性である。ヒアルロン酸またはその対応する塩はヒアルロニダーゼ酵素によって細胞内で効果的に分解されることがよく知られているが、キトサン生分解性は大きく疑問視され、および活性分子のデリバリーは必要なほど効率的でない。この事実は、ナノ粒子中に存在する活性分子の放出の有効性を顕著に低下させうる。
【0013】
さらに、これらの系に用いられるキトサンは、6.6〜6.8より高いpHでは不溶であり、そのことはDNAといった生物活性分子を投与する際に適用可能性を減じる。
【0014】
DNAおよびRNAといったヌクレオチド分子の、遺伝子治療のための細胞へのトランスフェクションの場合には、分子を標的細胞へ効率的に導入でき、毒性が可能な限り低く、およびトランスフェクション効率が高いデリバリー系が必要である。導入される分子が適当に放出されること、およびそれが機能を可能な限り効率的に実施することが重要である。これらの分子を含む系は、患者に受容されるために、安定および容易に投与可能であるべきである。
【0015】
したがって、生体系への非常に効率的な組み込み、および生体環境におけるナノ粒子の迅速な生分解を可能にする、有効成分の放出のための系を見出すことが非常に望まれる。さらに、これらの系は、容易に製造されおよび保存および輸送に際して安定であるべきである。
【0016】
遺伝子治療の特定の例では、標的細胞のトランスフェクションに関して可能な限り効率的な、および患者にとって便利な系が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
発明者らは、キトサンおよびヒアルロナンを含むナノ粒子を含みキトサンの分子量が90kDa未満である系は、生物活性分子との効率的な結合に加えて、生体環境におけるナノ粒子の有効なおよび容易な分解を可能にし、それによって活性分子の放出を有利にすることを発見している。本発明の系は、細胞のエンドサイトーシス過程による、およびまた細胞膜の特異的受容体との相互作用による、細胞におけるナノ粒子の効率的な内在化を可能にすることが、in vitro試験で観察されている。
【0018】
さらに、in vivo試験は、本発明のナノ粒子が非常に有効に上皮細胞、たとえば角膜上皮細胞へ進入、およびDNAプラスミドを配送し、それによって重要なトランスフェクションレベルに達する能力を実証しており、それは本発明の系を、いくつかの疾患の遺伝子治療に向けた新しい戦略にする。このトランスフェクション効率は、ナノ粒子が以前に凍結乾燥過程に供されている場合でさえ観察され、それは本発明の系がその性質および安定性に影響することなく保存されうることを可能にする。
【0019】
本発明のナノ粒子系は、驚くべきことに、組成物に応じてpH6.4ないし8.0にて安定であり、それは本発明のナノ粒子系を、経鼻、経口投与および局所投与を含むさまざまな投与様式について非常に多用途にし、および血漿のpH7.4でのナノ粒子の安定性を確実にする。この安定性はまた、「in vitro」用途において細胞培養をトランスフェクションするために最も重要である。
【0020】
このように、本発明の目的は、平均サイズ1マイクロメートル未満のナノ粒子を含み、ナノ粒子が
a)ヒアルロナンまたはその塩;および
b)キトサンまたはその誘導体、
を含み、キトサンまたはその誘導体の分子量が90kDa未満である点で特徴づけられる、生物活性分子の放出のための系に関する。
【0021】
本発明の別の目的は、さらに生物活性分子を含む、上に記載したような系に関する。特定の一実施形態では、前記生物活性分子は、多糖、タンパク質、ペプチド、脂質、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸およびその混合物から成る群から選択される。
【0022】
本発明の特定の一実施形態では、ナノ粒子は凍結乾燥形である。
【0023】
本発明の別の目的は、上で定義されたような系を含む医薬組成物に関する。
【0024】
本発明の別の目的は、上で定義されたような系を含む化粧品組成物に関する。
【0025】
本発明の別の目的は、
a)ヒアルロナンまたはその塩の水溶液を調製;
b)キトサンまたはその誘導体の水溶液を調製;
c)ヒアルロナンの水溶液へ網状化剤を添加;および
d)b)およびc)で得られた溶液を撹拌しながら混合し、ナノ粒子が自然形成;
を含み、任意に、生物活性分子が、ナノ粒子の形成前に前記水溶液b)またはc)のいずれかに溶解されるかまたは、段階d)で得られたナノ粒子懸濁液に溶解される、上で定義される系の調製のための方法に関する。
【0026】
特定の一実施形態では、この方法はさらに、段階d)の後に、ナノ粒子が凍結乾燥される追加の段階を含む。
【0027】
最後に、本発明の別の目的は、遺伝子治療のための薬剤の調製における、上で定義されたような系の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ナノ粒子系におけるプラスミドpGFPのカプセル化効率。
【図2】プラスミドpGFPのin vitro徐放。ポリマー質量比HA:CSまたはHA:CSO 1:2;時間:0.5、1、4および24時間;キトシナーゼ活性:0.105U。
【図3】重量比2:1のキトサン(CSO)およびヒアルロン酸(HA)を含むナノ粒子を3つの異なる細胞株(HEK293、NHCおよびHCE)へ投与した際のin vitro細胞毒性。
【図4】重量比2:1のキトサン(CSO)およびヒアルロン酸(HAまたはHAO)を含むナノ粒子を投与した際の、HEK293を細胞株として使用したin vitro細胞毒性(1時間インキュベート)。
【図5】重量比2:1のキトサン(CSまたはCSO)およびヒアルロン酸(HAまたはHAO))を含むナノ粒子からHEK293細胞株へDNA−プラスミドpGFPを配送した際の、2、4、6、8および10日後の細胞のトランスフェクション効率を示す共焦点顕微鏡像。
【図6】重量比1:1のキトサン(CS または CSO)およびヒアルロン酸(HAまたはHAO)を含むナノ粒子からHEK293細胞株へDNA−プラスミドpGFPを配送した際の細胞のトランスフェクション効率。
【図7】インキュベート1時間および12時間後のin vitro細胞取り込みを示す共焦点顕微鏡像。処方:重量比1:2のHAO:CSO;HAO:CSおよびHA:CS、1%のプラスミドpGFPを負荷。
【図8】細胞株HCEを用いた細胞によるナノ粒子の内在化を示す共焦点顕微鏡像:a)37℃;b)4℃およびc)Hermes1抗体でCD44受容体をブロックした4℃。処方:重量比1:2のHA:CSO。
【図9】角膜上皮におけるナノ粒子分解を時間の関数として示す共焦点顕微鏡像(2、4および12時間)。処方:重量比1:2のHA:CSOおよびHA:CS。
【図10】ウサギの角膜上皮におけるコードされた緑色タンパク質の発現を示す共焦点顕微鏡像。処方:プラスミドpEGFPを負荷した重量比1:2のHA:CSOおよびHA:CS。
【図11】HEK293細胞株へDNA−プラスミドpEGFPを、重量比1:2および2:1のキトサン(分子量14、31および45kDa)およびヒアルロン酸を含む凍結乾燥ナノ粒子から配送した際の、4日後の細胞トランスフェクション効率を示す共焦点顕微鏡像。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の系は、生物活性分子を組み込むことができる、構造がヒアルロナン および分子量が 90kDa未満のキトサンの網状物であるナノ粒子を含む。構造は電子相互作用によって結合し、その間に共有結合は実質的に無い。
【0030】
「ナノ粒子」の語で、キトサンおよびヒアルロナンの間の静電相互作用によって、および陰イオン性網状化剤の添加による前記複合体の向イオン性ゲル化によって、形成される構造と理解される。ナノ粒子および続いての網状化の別のポリマー成分の間に生じる静電相互作用は、特徴的な物体を発生させ、その物体は独立しておりおよび観察可能であり、その平均サイズは1μm未満、すなわち平均サイズ1ないし999nmである。
【0031】
「平均サイズ」の語で、ポリマー網状構造を含み水系媒体中で一緒に動くナノ粒子集団の平均直径と理解される。これらの系の平均サイズは、当業者に公知でありおよびたとえば下記の実験の部分に記載される標準的な手順を用いて測定されうる。
【0032】
本発明の系のナノ粒子は、平均粒子サイズ1μm未満であり、すなわち平均サイズ1ないし999nm、好ましくは50ないし500nm、さらにより好ましくは100ないし300nmである。粒子の平均サイズは主に、ヒアルロナンについてのキトサンの比率によって、キトサン脱アセチル化度によって、およびまた粒子形成条件(キトサンおよびヒアルロナン濃度、網状化剤濃度およびそれらの間の重量比)によって影響される。
【0033】
ナノ粒子は、ナノ粒子中のキトサンおよびヒアルロナンの割合に依存して変化する、表面電荷(ゼータ電位によって測定される)を有しうる。正電荷への寄与はキトサンのアミン基に起因し、一方、負電荷への寄与はヒアルロナンのカルボキシル基に起因する。キトサン/ヒアルロナン比に依存して、電荷の大きさは−50mVないし+50mVと変化しうる。
【0034】
しばしば、ナノ粒子と生体表面、特に負に荷電している粘膜表面との間の相互作用を改善するために、表面電荷が陽性であることが関心事である。こうすれば、生物活性分子は標的組織上で有利にふるまう。しかし、一部の場合には、非経口投与後のナノ粒子の安定性を確実にするために、中性電荷がより好ましい可能性がある。負電荷はまた、疎水性および受容体親和性相互作用の存在のため、粘膜表面への投与のために関心が持たれうる。
【0035】
キトサン
キトサンはキチン(ポリ−N−アセチル−D−グルコサミン)に由来する天然起源のポリマーであり、Nのアセチル基の重要な部分が加水分解によって消去されている。脱アセチル化度は好ましくは40%より大、より好ましくは60%より大である。一変形では、脱アセチル化度は60〜98%の間である。キトサンはアミノ多糖構造および陽イオン性を有する。キトサンは式(I)のモノマー単位n個の反復を含み:
ここでnは整数であり、およびm個の単位がアセチル化アミン基を有する。n+mの合計は重合度、すなわちキトサン鎖中のモノマー単位の数を表す。
【0036】
本発明のナノ粒子を製造するのに用いられるキトサンは、低分子量を有することで特徴づけられ、分子量90kDa未満、好ましくは1ないし90kDaの上記のようなキトサンまたはその誘導体と理解される。好ましい一実施形態では、キトサンの分子量は1ないし75kDa、より好ましくは2ないし50kDa、さらにより好ましくは2ないし30kDaから成る。約2ないし約15kDaの範囲が特に好ましい。この分子量を持つキトサンは、さまざまな割合のNaNO2を用いたキトサンポリマーの酸化還元といった、当業者によく知られた方法によって得られる。
【0037】
キトサンの代替として、その誘導体もまた使用でき、1つ以上の水酸基および/または1つ以上のアミン基が、キトサンの溶解性を高めるかまたはその接着性を高める目的で修飾されている、分子量90kDa未満のキトサンと理解される。これらの誘導体は、ロバーツ(Roberts),『キチン化学』(Chitin Chemistry),マクミラン社(Macmillan),1992,166に記載される通り、特に、アセチル化、アルキル化またはスルホン化キトサン、チオール化誘導体を含む。好ましくは、誘導体が使用される場合は、O−アルキルエーテル、O−アシルエステル、トリメチルキトサン、ポリエチレングリコールで修飾されたキトサンなどから選択される。他の可能な誘導体は、クエン酸塩、硝酸塩、乳酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩などといった塩である。いずれにしろ、処方の安定性および商業的実行可能性に影響することなく、キトサンに行うことができる修飾を特定する方法は当業者に公知である。
【0038】
分子量90kDa未満のキトサン、またはその誘導体の使用は、本発明の系に特に重要であり、なぜならそれを含むナノ粒子は、生体環境に一旦導入されれば効率的に排出または分解が可能であり、結果として生物活性分子のより効率的なデリバリーを与えるためである。
【0039】
ヒアルロナン
ヒアルロナンは、結合組織、上皮組織および神経組織の全体にわたって広く分布するグリコサミノグリカンである。ヒアルロナンは細胞外マトリクスの主成分の一つであり、および一般に細胞増殖および遊走に大きく寄与する。
【0040】
ヒアルロナンは、式(II)に示す通り交互のベータ−1,4およびベータ−1,3グリコシド結合で互いに結合した、D−グルクロン酸およびD−N−アセチルグルコサミンの交互の付加によって形成される二糖構造の反復を含む直鎖ポリマーであり:
ここで整数nは、重合度、すなわちヒアルロナン鎖中の二糖単位の数を表す。
【0041】
両方の糖が空間的にグルコースと近縁であり、グルコースはベータ構造では、かさ高い基のすべて(水酸基、カルボン酸基、および隣接する糖のアノマー炭素)が立体的に有利なエクアトリアル位になることが可能である一方で、すべての小さい水素原子は立体的により不利なアキシアル位を占める。
【0042】
本発明のナノ粒子を製造するのに用いられるヒアルロナンは、2kDaないし160kDaで構成される分子量を有する。本発明の特定の一実施形態では、ヒアルロナンは、2ないし50kDa、好ましくは2ないし10kDaで構成される分子量を有するオリゴマーである。
【0043】
高分子量のヒアルロナンは市販されており、一方、より低分子量のものは、たとえばヒアルロニダーゼ酵素を用いて、高分子量のヒアルロナンの断片化によって得ることができる。
【0044】
この説明で使用される「ヒアルロナン」の語は、ヒアルロン酸または、その複合体基材(ヒアルロン酸)のどちらかを含む。この複合体基材は、たとえば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、マグネシウム、アルミニウムおよびリチウム塩といった無機塩、および塩基性アミノ酸塩といった有機塩を含む、ヒアルロン酸のアルカリ塩でありうる。本発明の好ましい一実施形態では、アルカリ塩はヒアルロン酸のナトリウム塩である。
【0045】
ヒアルロナンは、無毒性、生分解性および生体適合性の天然親水性多糖である。ヒアルロナンは粘膜付着性を有し、および細胞膜に存在するCD44受容体と特異的に結合し、そのようにして細胞との相互作用に有利に作用する。
【0046】
本発明の一変形では、系内のヒアルロナン/キトサン重量比は2:1ないし1:10、好ましくは2:1ないし1:2 重量:重量で構成される。キトサンのより低い割合は、凝集またはポリマー溶液が得られるため、推奨されない。
【0047】
ナノ粒子組成(キトサン−ヒアルロナン比およびヒアルロナン、ポリマーまたはオリゴマーの分子量)に関わらず、ナノ粒子サイズは1マイクロメートル未満、好ましくは500nm未満、より好ましくは300nm未満に維持される。一実施形態ではナノ粒子サイズは250nm未満、より好ましくは200nm未満である。このサイズは、ナノ粒子が角膜上皮細胞といった上皮細胞を透過し、および生物活性分子を配送することを可能にする。
【0048】
本発明の系のナノ粒子は、網状化剤の存在下でキトサン−ヒアルロナン系のイオンチャネル型ゲル化によって形成され、前記網状化剤はイオン性ゲル化を可能にし、ナノ粒子の自然形成を有利にする。特定の一実施形態では、網状化剤は陰イオン塩である。好ましくは、網状化剤はトリポリリン酸であり、トリポリリン酸ナトリウム(TPP)の使用がより好ましい。網状化過程は非常に単純であり、および本発明の背景に記載される通り当業者に公知である。
【0049】
本発明のキトサンおよびヒアルロナンのナノ粒子は、ナノ粒子の中に、またはその表面に吸着される、生物活性分子を結合する高い能力を有する系を適用する。ヒアルロナンの分子量およびキトサン−ヒアルロナン重量比にかかわらず、ナノ粒子は活性分子の結合において90%を上回る高い効率を示す。したがって、本発明の別の一態様は、生物活性分子をさらに含む、上記のような系に関する。
【0050】
「生物活性分子」の語は、疾患の治療、治癒、予防または診断に使用されるかまたは、ヒトおよび動物の身体的または精神的福祉を改善するために使用される、任意の物質に関する。本発明によると、ヒアルロナンおよびキトサンのナノ粒子は、その溶解性にかかわらず、生物活性分子を組み込むのに適している。結合容量は、組み込まれた分子に依存するが、しかし一般論として、親水性分子およびまた顕著な疎水性の分子の両方について高くなる。これらの分子は、多糖、タンパク質、ペプチド、脂質、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸およびその混合物を含みうる。本発明の好ましい一実施形態では、生物活性分子はポリヌクレオチドであり、好ましくはpEGFP、pBgalおよびpSEAPといったDNAプラスミドである。
【0051】
本発明の好ましい別の一実施形態では、生物活性分子はヘパリンといった多糖である。
【0052】
本発明の別の目的は、前に定義されたナノ粒子系を含む医薬組成物である。
【0053】
医薬組成物の例は、経口、頬側、舌下、局所、眼、経鼻または経膣使用のための任意の液体組成物(すなわち本発明のナノ粒子の懸濁液または分散物)、または、局所、眼、経鼻または経膣投与のためのゲル、軟膏、クリームまたはバームの形の任意の組成物を含む。
【0054】
本発明の一変形では、組成物は眼投与用である、この場合、負に荷電している粘膜および角膜上皮細胞の表面との相互作用を介して、眼表面へのより良好な吸収をナノ粒子が提供するように、ナノ粒子の表面は正に荷電している。
【0055】
ナノ粒子に組み込まれている有効成分の割合は、系の総重量に関して重量で最大40%に達しうる。にもかかわらず、適当な比率は個々の場合で、組み込まれる有効成分、使用される適応、およびデリバリーの効率に依存する。
【0056】
DNAプラスミドのようなポリヌクレオチドを有効成分として組み込む具体的な場合には、その前記系中の比率は重量で1%ないし40%、好ましくは5%ないし20%となる。
【0057】
ヘパリンのような多糖が組み込まれる場合、この成分の割合は系に1%ないし40%、好ましくは10%ないし30%で組み込まれる。
【0058】
本発明の別の目的は、前に定義されたナノ粒子系を含む化粧品組成物に関する。これらの化粧品組成物は、任意の液体組成物(ナノ粒子の懸濁液または分散物)または本発明の系を含みおよび局所投与用のゲル、クリーム、軟膏またはバーム(balm)の形である任意の組成物を含む。
【0059】
本発明の一変形では、化粧品組成物はまた、治療効果を何ら有しないが、化粧剤としての性質を持つ、親油性および親水性の活性分子を組み込むことができる。ナノ粒子中に組み込むことができる活性分子の中で特に、皮膚軟化剤、保存料、芳香物質、にきび薬、抗真菌剤、抗酸化剤、消臭剤、制汗剤、ふけ取り剤、脱色剤、抗脂漏剤、色素、日焼けローション、紫外線吸収剤、酵素、芳香物質が挙げられる。
【0060】
別の一態様では、本発明は、本発明の系の調製のための、および上記のナノ粒子を含む方法に関する。前記方法は、一方で、好ましくは濃度0.1ないし5mg/mLの、ヒアルロナン水溶液の調製、および他方で、好ましくは濃度0.1ないし5mg/mLの、キトサン水溶液の調製を含む。
【0061】
網状化剤の組み込みは、ヒアルロナンの水溶液への、好ましくは濃度0.01ないし1.0mg/mLでの溶解によって実施される。その後、一方はヒアルロナンおよび網状化剤を含みおよび他方はキトサンを含む、両方の水溶液を、撹拌しながら混合し、このようにして水系懸濁液中で自然にナノ粒子を得る。
【0062】
任意に、生物活性分子を、ナノ粒子の内側に組み込むために、キトサンを含む水溶液またはヒアルロナンおよび網状化剤を含む水溶液に溶解する。
【0063】
別の一実施形態では、ナノ粒子が一旦形成されれば、ナノ粒子表面に吸着される目的で、活性分子を水系懸濁液に溶解できる。
【0064】
方法の一変形では、生物活性分子が親油性を示す場合、前に定義された水溶液のいずれかに組み込まれる前に、少量の水およびアセトニトリルのような水混和性有機溶媒の好ましくは約1:1の割合の混合物に溶解され、次いで、終濃度中の有機溶媒の重量濃度が常に10%未満となるように、前記の水溶液のうちの一つに添加される。そのような場合、有機溶媒は、医薬品として許容されない限り、系から除去されなければならない。
【0065】
本発明のキトサン−ヒアルロナンナノ粒子を調製するための方法は前記ナノ粒子が凍結乾燥される追加の段階をさらに含みうる。医薬の視点からは、凍結乾燥形でナノ粒子を利用可能にすることは重要であり、なぜならこれは保存中の安定性を改善しおよび操作すべき産物の容量を低減するためである。キトサン−ヒアルロナンナノ粒子は、凍結保護剤、濃度1ないし5%の範囲のグルコース、スクロースまたはトレハロースといった凍結保護剤の存在下で凍結乾燥されうる。実際、本発明のナノ粒子は、凍結乾燥前後の粒子サイズが顕著に変わらないという別の長所を有する。すなわち、ナノ粒子は、その性質に変化無しに凍結乾燥および再懸濁されうるという長所を有する。
【0066】
本発明の系は、高度に効率的なキャリヤーであり、上皮細胞と相互作用することができ、およびポリヌクレオチドの細胞へのトランスフェクションを促進する高い能力を有することが実証されている。系に含まれるナノ粒子は、核酸を基礎とする分子、オリゴヌクレオチド、siRNAまたはポリヌクレオチド、好ましくは目的タンパク質をコードするプラスミドDNAといった遺伝物質を細胞へ組み込むことができ、そのようにして遺伝子治療において有望な媒体となる。特定の一実施形態では、プラスミドDNAはpEGFPまたはpSEAPである。
【0067】
HEK293(ヒト胚腎臓細胞株)、HCE(ヒト角膜上皮細胞株)およびNHC(正常ヒト結膜細胞株)といった3つの異なる細胞株でのin vitro試験、およびある種の動物の眼上皮におけるin vivo試験は、本発明の系に含まれるナノ粒子が非常に低い細胞毒性を示すこと、およびナノ粒子が細胞のエンドサイトーシス過程によって、およびまた細胞膜の特異的受容体との相互作用によって、細胞により内在化されうることを示している。ヒアルロナンの生分解による、およびキトサンの排泄または生分解によるナノ粒子の生分解は、DNA−プラスミドの非常に効果的な方法でのデリバリーを可能にし、たとえばトランスフェクションされた細胞の25%超について最大10日間で、高いおよび低いトランスフェクションレベルに達する。最良のトランスフェクションレベルはナノ粒子の処方に使用されうる低分子量(10kDa)ヒアルロナンの場合に得られた。さらに、このトランスフェクション効率はまた、ナノ粒子が凍結乾燥工程に供されている場合にも観察される。
【0068】
驚くべきことに、キトサンは6.6〜6.8より高いpHで不溶であるにもかかわらず、本発明のナノ粒子系はまた、pH6.4ないし8.0でも安定である。このことは、ナノ粒子系を、経鼻、経口および局所投与を含むさまざまな投与様式について非常に多用途にする。それはまた、血漿のpH7.4にてナノ粒子の安定性を確実にする。さらに、この安定性はまた、ナノ粒子を安定細胞株培養へ、または「in vivo」でトランスフェクションするのが困難な安定培養へ、適用するために興味深い。
【0069】
したがって、本発明の別の目的は、遺伝子治療用の薬剤の調製における本発明の系の使用に関する。特定の一実施形態ではそれは、治療されている患者の細胞における機能性発現が可能な遺伝子を含むポリヌクレオチドを含む。
【0070】
この意味で、本発明の系を用いて治療すべき疾患のいくつかの例は、VEGFに対するアンチセンスを伴う黄斑変性症、表皮水疱症および嚢胞性線維症である。本発明の系は糖尿病性網膜症および黄斑変性症に特に有用である。それはまた、一過性形質転換図式による創傷の治癒にも使用されうる。
【0071】
最後に、トランスフェクションの高い効率のために、合成または天然ポリヌクレオチドを含む本発明の系および組成物は、標的細胞、好ましくは哺乳類腫瘍細胞または哺乳類「正常」細胞、および幹細胞または細胞株のトランスフェクションのための使用を可能にする。それはしたがって細胞の遺伝子操作のための有用な道具である。この意味で、本発明はまた、細胞の遺伝子操作のための本発明の系の使用を対象とする。好ましくはそれは、in vitroまたはex vivoでの拡散のデリバリーのためである。
【0072】
一実施形態では核酸は、干渉RNA(iRNA)または低分子干渉RNA(siRNA)のような、相補mRNAと特異的に塩基対形成でき、およびmRNA翻訳および対応するタンパク質の産生を阻害できる、アンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0073】
別の一態様によると、本発明は、核酸の組み込みおよびデリバリーのための本発明のナノ粒子の使用に関する。そのようなデリバリーは、哺乳類細胞、細胞株、幹細胞、初代細胞株といった真核細胞を含む標的細胞を対象とし、およびin vitroまたはex−vivoトランスフェクションまたは細胞形質転換に繋がりうる。したがって、この態様によると、本発明は、本発明のナノ粒子および適当な希釈剤および/または細胞洗浄緩衝液を含む、真核細胞のトランスフェクションのためのキットに関する。
【0074】
下記に、本発明の特徴および長所を明らかにする、いくつかの例証となる実施例が記載されるが、しかし、それらは請求項に定義される本発明の目的を限定すると解釈されない。
【実施例】
【0075】
下記に詳細が記載される実施例に共通の過程として、ナノ粒子は、サイズ、ゼータ電位(または表面電荷)およびカプセル化効率の視点から特徴づけられている。
【0076】
サイズ分布は、光子相関スペクトル法(PCS;ゼータサイザー(Zeta Sizer),ナノシリーズ(Nano series),ナノZS(Nano−ZS),マルバーンインスツルメンツ社(Malvern Instruments),英国)を用いて実施され、ナノ粒子集団の平均サイズ値を得ている。
【0077】
ゼータ電位はレーザードップラー流速計(LDA;ゼータサイザー(Zeta Sizer),ナノシリーズ(Nano series),ナノZS(Nano−ZS),マルバーンインスツルメンツ社(Malvern Instruments),英国)を用いて測定されている。電気泳動移動度を測定するために、試料をミリQ(Milli−Q)水で希釈した。
【0078】
結合効率は、電気泳動ゲルによって、および遊離p−DNAの正確な定量を可能にするピコグリーン(PicoGreen)(登録商標)によって評価した。
【0079】
実施例で使用したキトサン(プロタサン(Protasan)UP Cl 113)はノバマトリクスFMCバイオポリマー社(Novamatrix−FMC Biopolymer)製である。このキトサンを、11、14、31、45および70kDaの低分子量のキトサンを得るために、さまざまな重量比でNaNO2を用いた酸化還元に供する(CS/NaNO20.01;0.02;0.05;0.1)。これらの値はSEC「サイズ排除クロマトグラフィー」によって光散乱検出器を用いて測定した。
【0080】
実施例で使用したヒアルロナンはヒアルロン酸のナトリウム塩である。分子量160kDaのヒアルロナンはビオイベリカ社(Bioiberica S.A.)製であり、および分子量10kDa未満のヒアルロナンは、160kDaのヒアルロナンのヒアルロニダーゼを用いた断片化および溶液を10kDaフィルターを通すことによって得られる。
【0081】
トリポリリン酸ナトリウムはシグマアルドリッチ社(Sigma Aldrich,Co.)製であり、DNA−プラスミドpEGFP、pBgalおよびpSEAPはエリムバイオファーマシューティカル社(Elim.Biopharmaceutical Corp.)製、および使用したその他の製品はシグマアルドリッチ社製である。
【0082】
下記の略語が実施例に使用されている。
CS:分子量125kDaのキトサン
CSO:10〜12、14、31、45および70kDaの低分子量のキトサン
HA:分子量160kDaのヒアルロン酸ナトリウム
HAO:10kDa未満の低分子量のヒアルロン酸ナトリウム
TPP:トリポリリン酸ナトリウム
PBS:リン酸塩緩衝生理食塩水
HBSS:ハンス緩衝塩溶液
【0083】
実施例1.
ナノ粒子の調製
さまざまな割合のキトサン(CSO、11、14、31、45および70kDaのさまざまな分子量を有する)およびヒアルロン酸ナトリウム(HAまたはHAO)でできた、DNA−プラスミド(pEGFP、pBgalまたはpSEAP)が組み込まれたナノ粒子が、イオンチャネル型ゲル化処理によって得られた。
【0084】
一方は0.625mg/mL CSOを含むミリQ(milli−Q)水、および他方は0.625 mg/mL HAまたはHAO、0.025mg/mL TPPおよび対応するプラスミドDNAを重量で5ないし20%で変動する割合で含む、2つの水溶液を調製した。
【0085】
比率1:2のヒアルロン酸:キトサンを含むナノ粒子については、0.75mlの第1の水溶液を0.375mlの第2の溶液とマグネティックスターラーで撹拌しながら混合し、それによって水に懸濁したナノ粒子を自然に得た。
【0086】
比率1:1のヒアルロン酸:キトサンを含むナノ粒子については、0.75mlの第1の水溶液を0.75mlの第2の溶液とマグネティックスターラーで撹拌しながら混合し、それによって水に懸濁したナノ粒子を自然に得た。
【0087】
比率2:1のヒアルロン酸:キトサンを含むナノ粒子については、0.75mlの第1の水溶液を1.5mlの第2の溶液とマグネティックスターラーで撹拌しながら混合し、それによって水に懸濁したナノ粒子を自然に得た。
【0088】
比較試験のために、CSOの代わりにCS(分子量125kDa)を含むナノ粒子もまた、同じ比率のキトサンおよびヒアルロン酸を用いて上記と同じ手順に従って調製した。
【0089】
表Iに見られる通り、ナノ粒子サイズは250nm未満に維持される。にもかかわらず、ゼータ電位値はキトサンおよびヒアルロン酸比に依存し、ナノ粒子中のヒアルロン酸含量の増加につれて陽性が小さくなる(表1)。
【0090】
【表1】
【0091】
実施例2
カプセル化効率検定およびin vitro徐放
実施例1に記載された手順に従って得られたナノ粒子(10〜12kDaのCSOまたはCSを含むもののどちらか)を37℃にて緩衝培地中で撹拌しながら、プラスミドを放出させるのに十分な期間インキュベートした。放出量をさまざまな時間に電気泳動ゲルによって評価する。
【0092】
ナノ粒子が酢酸緩衝液中でインキュベートされる場合、プラスミドの放出は起こらないことが観察される(図1)。さらに、ヒアルロン酸の分子量およびキトサン−ヒアルロン酸重量比にかかわらず、ナノ粒子は85%を上回る結合効率を示す。
【0093】
ナノ粒子系を分解しおよびそうして封入された分子の放出を促進するために、ナノ粒子マトリクスを更生するポリマーの分解のための特異的酵素(たとえばキトサナーゼ、0.105U酵素/170μL処方)を加えることも又可能である。図2は、ナノ粒子の分解後、プラスミドが1時間未満で完全に放出されることを示す。加えて、封入されたプラスミドが一旦放出されれば、その立体構造および構造が完全に維持されることが強調される。
【0094】
実施例3
In vitro細胞毒性分析
細胞生存能を用量の関数として評価するために、実施例1で得られたナノ粒子懸濁液、特に10〜12kDaの低分子量キトサンを含むものから、さまざまなナノ粒子濃度を有するようにさまざまな連続溶液を調製した。
【0095】
この試験は3つの異なる細胞株で実施した:
・HEK293(ヒト胚腎臓細胞株)
・HCE(ヒト角膜上皮細胞株)
・NHC(正常ヒト結膜細胞株)。
【0096】
細胞生存能を100%(培地のみが加えられている培養と考えられる)に対して評価するMTS検定を実施する。細胞を実験前日にウェル当たり細胞300,000個の量で平板播種しなければならない。培地を次いで入れ、および細胞培養をPBSで2回洗浄する。その後、ナノ粒子懸濁液を細胞培養に加え、およびHBSSを1000μLとなるまで加える。細胞を1時間37℃にてインキュベートし、および次いでHBSSまたはPBSで洗浄する。その後、MTS試薬(新規テトラゾリウム化合物3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、分子内塩、の溶液から成る試薬)を加え(120μL/ウェル)およびプレートを490nmにて3時間後に読み取る。試薬は用時調製する。
【0097】
ナノ粒子の検定した用量は160、80、40、20、10および5μg/cm2であった。
【0098】
細胞毒性レベルは細胞株に依存することが観察された(図3)。一般論として、本発明のナノ粒子は非常に低い毒性を示した(図4)。
【0099】
実施例4
ナノ粒子のトランスフェクション効率のin vitro試験
ナノ粒子系のトランスフェクション効率を証明するために、in vitro試験を実施例3で使用したのと同一の細胞株で実施した。
【0100】
10〜12kDaのCSOおよびHAまたはHAOを含むナノ粒子を、実施例1に前述された方法に従って調製した。比較試験のために、CS(Mw=125kDa)を含むナノ粒子もまた使用した。
【0101】
細胞を実験開始24時間前にウェル当たり細胞300,000個の量で平板播種しなければならない。培地を次いで入れ、および細胞培養をPBSで2回洗浄する。その後、ウェル当たりHBSS 300μLを加えた。次いで、ナノ粒子懸濁液を、1μg pDNA/ウェルが添加されるような量で加えた。細胞を5時間37℃にてインキュベートし、次いでHBSSまたはPBSで洗浄し、およびさらなる培地を加えた。この培地は翌日および発現レベルの測定前に毎回交換する。
【0102】
タンパク質発現レベルをトランスフェクション後2日目、および10日間の2日毎に定量した。定量は蛍光顕微鏡法を用いて、および画像の以後の処理はフォトショップエレメンツ(PhotoshopElements)によって実施する。
【0103】
図5および6から、低分子量キトサン(CSO:10〜12kDa)を含むナノ粒子は、分子量125kDaのキトサンを含むナノ粒子と比較する場合、トランスフェクションされた細胞の25%超について最大10日間、より高いおよびより長く続くトランスフェクションレベルを示すことが観察できる。
【0104】
実施例5
In vitro細胞取り込み分析
ナノ粒子の細胞系内への内在化を証明するために、細胞株HEK293を用いてin vitro試験を実施した。
【0105】
ナノ粒子は共焦点顕微鏡で可視化されうるように調製された。したがって、ヒアルロン酸ナトリウムをフルオレセインで予め標識した。下記のナノ粒子処方を分析した:プラスミド1%を負荷した、比率1:2のHAO:CSO[10〜12kDa];HAO:CSおよびHA:CS。
【0106】
約300,000細胞/ウェルを実験の24時間前に平板播種した。続いて、培地を吸引し、次いでPBSで洗浄し、および最後にナノ粒子を培養に加え、HBSSで体積200μLとする。
【0107】
細胞培養を1または2時間インキュベートする。細胞インキュベート後、細胞核をヨウ化プロピジウムで染色し、および共焦点顕微鏡で観察するために標本を調製する。
【0108】
図7で見られる通り、インキュベート1時間後、ナノ粒子処方にかかわらず細胞質に蛍光が観察され、そのためナノ粒子は細胞によって効果的に内在化された。細胞培養を低分子量(10〜12kDa)キトサンナノ粒子[CSO:HAO]で処理する場合、標識されたナノ粒子は、細胞内および核周囲レベルの空胞に局在化している。この細胞内局在化は、核酸を基礎とする生体分子の細胞内デリバリーキャリヤーとしてのこれらのナノ粒子の可能性を示す。
【0109】
実施例6
CD44受容体とのナノ粒子相互作用
この実施例では、ナノ粒子が、ヒアルロナンの特異的受容体であるCD44受容体との相互作用後に内在化されうるかを評価する。ナノ粒子は、ヒアルロン酸がフルオレセインアミンで予め標識されることを除き、実施例1にしたがって調製される。処方は比率1:2のHA:CSO[10〜12kDa]であった。
【0110】
この試験では、細胞株HCEを使用し、細胞を異なる温度でインキュベートした(4および37℃)。図8a)およびb)で見られる通り、プラスミドおよびヒアルロン酸が細胞内レベルに観察できるため、ナノ粒子は細胞によって内在化される。37℃にてナノ粒子はエンドサイトーシスによっておよび/またはCD44との相互作用によって内在化され、一方4℃では、これらのナノ粒子は受容体CD44と相互作用する場合だけ内在化される。
【0111】
さらに、実験のうちの一つで、受容体CD44はHermes1抗体でブロックされる。図8c)に見られる通り、4℃で、前述している通り、この温度では内在化は受容体の相互作用だけによるため、ナノ粒子が内在化されていないのが観察できる。
【0112】
実施例7
ナノ粒子が眼上皮細胞と相互作用する、および細胞内で分解される効率のin vivo試験
ナノ粒子の眼粘膜との相互作用を評価するため、比率1:2のHA:CSO[10〜12kDa]およびHA:CSの処方を含むナノ粒子を、ヒアルロン酸がフルオレセイン(HA−fl)で予め標識された以外、実施例1にしたがって調製した。HA−flの溶液を対照として使用した。ナノ粒子を遠心分離によって濃縮し、および続いてミリQ(milliQ)水に再懸濁し、ナノ粒子濃度3mg/mLとした。ナノ粒子0.3mgを2kgのウサギの眼に滴下した。25μLの滴下4回を10 分毎に実施した。
【0113】
動物を滴下2、4または12時間後に屠殺し、および次いで角膜および結膜を摘出した。新鮮組織を共焦点顕微鏡で観察した。
【0114】
図9で見られる通り、ナノ粒子に対応する強い蛍光シグナルが、角膜および結膜の細胞の中に検出された。加えて、蛍光強度が経時的に低下することが観察され、これは分子量10〜12kDaのキトサンを含むナノ粒子でより明瞭である。このことは、何らかの形でこれらのナノ粒子が細胞内で吸収または分解されることを示唆する。ヒアルロニダーゼが眼組織におけるヒアルロナンの分解を担うことが知られている。これらの結果は、低分子量キトサンもまた細胞内レベルで高い効率で分解されることを示し、それは上皮細胞内の生物活性分子の効率的なデリバリーを達成するために、分子量90kDa未満のキトサンを用いることの長所を実証する。
【0115】
実施例8
眼組織をトランスフェクションするためのナノ粒子の効率のin vivo試験
本発明のナノ粒子が眼組織を in vivoでトランスフェクトする能力を測定する目的で、および眼遺伝子デリバリーのためにこれらのキャリヤーの効率を測定する目的で、実施例7に記載の手順に従って調製した、10%pGFPを負荷したナノ粒子を、下記の用量で2kgの意識のある正常ウサギへ局所投与した:25、50および100μg pGFP/眼。処方の15μLを10分毎に投与した(より高い用量には、処方の排液を避けるために、30分間の中間期間を残して、50+50μLを投与した)。動物を屠殺し、および次いで角膜および結膜を摘出した。コードされた緑色タンパク質の発現を、摘出した角膜および結膜上皮中で、トランスフェクションの2、4および7日後に、共焦点顕微鏡で観察した。図10に観察される通り、低分子量キトサン(CSO)を含むナノ粒子は、より低い用量でより高いトランスフェクションレベルを与え、およびしたがって遺伝子発現の持続時間を評価するのに使用された。トランスフェクションの4および7日後に、緑色の角膜細胞がまだ撮影された。
【0116】
これらの結果が、250gのSprague−Dawleyラットの摘出眼における遺伝子発現の評価によって、さらに確認された。この場合、pβgalがナノ粒子系に10%の割合で負荷されたことを除いて、同一のナノ粒子処方を使用した。
【0117】
体積5μL中のナノ粒子2.5μgをラットに投与し、および48時間後に動物を屠殺し、および眼を摘出し、パラホルムアルデヒドで固定し、および最後に、タンパク質の発現を可視化するために、X−galを用いた染色に供した。
【0118】
これらの結果は、低分子量キトサンおよびヒアルロナンでできたナノ粒子が角膜上皮細胞に入りおよび細胞の内部で分解され、そのようにしてDNA−プラスミドを非常に有効な方法で配送し、および重要なトランスフェクションレベルに達する能力の証拠を提供する。したがって、これらのナノ粒子は、いくつかの眼科疾患の治療のためのこの特定の場合に、遺伝子治療のための新しい戦略に相当しうる。
【0119】
実施例9
キトサンおよびヒアルロン酸のナノ粒子の凍結乾燥
【0120】
実施例1にしたがって得られたナノ粒子、特にCSO:HAおよびCSO:HAOを重量比2:1で含みおよびポリマー総重量に対して7%プラスミドを負荷されたものを、さまざまな凍結保護剤(重量で1および5%のスクロース、トレハロースおよびグルコース)を添加しおよび−80℃へ冷却(−50℃にて第1および第2乾燥)することによって凍結乾燥処理に供した。続いて、処方を水に再懸濁し、および粒子サイズを測定した。表2に示す通り、すべての処方は適切に再懸濁され、初期ナノ粒子系を生じた。
【0121】
【表2】
【0122】
後で、分子量がナノ粒子系の凍結乾燥および再懸濁にどのように影響するかを調べるため、別の凍結乾燥試験をしかし異なる分子量を持つキトサンを用いて実施した。この場合、使用したヒアルロン酸は分子量160kDaであり、およびCSO:HA比は1:2および2:1であった。
【0123】
【表3】
【0124】
表3に示す通り、キトサン分子量(11、14、31、45または70kDa)およびCSO:HA重量比(2:1または1:2)にかかわらず、すべての系は粒子サイズをナノメートル範囲に維持しながら適当に再懸濁される。
【0125】
実施例10
異なるpHでのナノ粒子安定化
CSO:HAおよびCSO:HAO(MwCSO:11kDa)を含むナノ粒子系の凍結乾燥および再懸濁後、これらをさまざまなpHの緩衝液で希釈した。
【0126】
表4から判る通り、ナノ粒子系の安定性は個々の系の組成に依存して変化する。たとえば、CSO:HAを含むナノ粒子は、pH7.4および8.0にて安定であり、一方、CSO:HAOを含むナノ粒子は、pH6.4および8.0にて安定である。しかし、キトサンは6.6−6.8より高いpHでは不溶であることが知られているため、両方の系がpH8.0にて安定であるのは驚くべきことである。結果として、それらのナノ粒子系は、さまざまなpHでの安定性のため、DNAの投与に用途が広い。
【0127】
【表4】
【0128】
さらに、ナノ粒子の安定性を、分子量45および70kDaのキトサンを選び、さまざまなCSO:HA比(2:1、1:1、1:2)を用いて分析した。表5に示す通り、CSO:HA重量比にかかわらず、ナノ粒子はpH7.4および8.0にて安定である。
【0129】
【表5】
【0130】
また、表6から判る通り、ナノ粒子サイズはpH8にて少なくとも1週間、ナノメートル範囲に維持される。
【0131】
【表6】
【0132】
実施例11
HEK293細胞株における凍結乾燥ナノ粒子のin vitroトランスフェクション試験
我々のナノ粒子系が、凍結乾燥後に、細胞培養をトランスフェクションする能力を有するかどうかを調べるために、7%のプラスミドpEGFPを負荷したさまざまな処方のCSOおよびHAを細胞株HEK293で分析した(用量:pEGFP 1μg)。この実験に使用したキトサンの分子量は14、31および45kDaであり、およびCSO:HAの重量比は2:1および1:2であった。これらの処方をグルコース1%(w/V)の存在下で予め凍結乾燥しおよび再懸濁した。
【0133】
蛍光顕微鏡で撮影した画像(図11)は、蛍光タンパク質の細胞内の存在を示し、およびしたがってそれらは、CSOおよびHAを含む凍結乾燥ナノ粒子系がトランスフェクションする能力を示すことを示した。写真は処方を細胞と接触させてから4日後に撮影した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬理学的に活性な分子の放出に有用な、および特にポリヌクレオチドを細胞へトランスフェクションするのに有用なナノ粒子系に関する。本発明は、低分子量キトサンおよびヒアルロナンのナノ粒子を含む系、およびそれらを含む医薬組成物および化粧品組成物、およびそれらの調製のための方法を目的とする。
【背景技術】
【0002】
治療目的のための生物活性分子の投与は、投与経路および当該分子の物理化学的および形態学的特性に共に依存して、多数の問題を提示する。主な問題は不安定なまたはサイズの大きい活性分子を投与する際に生じることが知られている。生物の内部への高分子の到達は、生体バリアの低い透過性によって限定される。同様に、それらはヒトおよび動物の持つさまざまな防御機構のために分解されやすい。
【0003】
ナノメートルサイズの系への高分子の組み込みは、高分子が上皮バリアを透過するのを容易にし、および高分子を分解されることから保護することが実証されている。そのため、前記バリアと相互作用できるナノ粒子系の設計が、有効成分の粘膜を通る透過を達成するために有望な戦略として提示される。
【0004】
これらの系が外部バリアを越えおよび生物の内部に到達する能力は、系のサイズおよび系の組成に共に依存することも知られている。サイズの小さい粒子は、輸送の程度をより大きいサイズのものと比較して高める。直径1μm未満のナノ粒子は、この基準に対応する。系が天然および生体適合性起源のポリマーから調製される場合、公知の輸送機構によっておよび上皮生理を変えることなく、系が生物の粘膜を通って自然に輸送される可能性が高まる。
【0005】
この意味で、キトサンはナノ粒子に正電荷を与え、それが陰イオン性の生体環境を通じた吸収および/または負に荷電した生体膜への吸着を可能にするという事実のため、キトサンがナノ粒子系の処方において天然のおよび生体適合性のポリマーとして使用されている(WO−A−01/32751、WO−A−99/47130、ES 2098188)。
【0006】
これらの系の作製に使用される別のポリマーが、結合組織の細胞外マトリクスに、および眼球の硝子体に、および関節腔の滑液に存在する天然ポリマーであるヒアルロン酸である。ヒアルロン酸は生分解性および生体適合性ポリマーであり、免疫原性でなく、および粘膜付着性を有する。さらに、ヒアルロナンは、細胞の大多数に存在するCD44受容体と相互作用する。
【0007】
このように、文書WO89/03207およびベネデッティ(Benedetti)他による記事Journal of Controlled Release 13,33−41 (1990)は、溶媒蒸発法によるヒアルロン酸マイクロスフィアの製造を示す。また、文書US6,066,340は、溶媒抽出法を利用して前記マイクロスフィアを得る可能性に関する。
【0008】
文書US2001053359は、さまざまな材料、特にゼラチン、キトサンまたはヒアルロン酸から成るが、その混合物ではない、溶液またはマイクロスフィアの形で与えられる、経鼻投与のための抗ウイルス剤および生体付着材料の組み合わせを提案する。マイクロ粒子は、噴霧および溶媒乳化/蒸発といった標準的な方法で得られる。一旦得られれば、マイクロ粒子は従来の化学架橋法(ジアルデヒドおよびジケトン)によって硬化される。
【0009】
キトサン(または他の陽イオン性ポリマー)および ヒアルロン酸 の組み合わせは、ヒアルロン酸 の粘膜付着性をキトサンの吸収促進作用と組み合わせる目的で、およびナノ粒子の上皮バリアとの相互作用および吸収を改善するために、マイクロ粒子系およびナノ粒子系で提案されている。マイクロ粒子のこの組み合わせの値は、リム(Lim)他, J.Controll.Rel.66,2000,281−292およびリム(Lim)他,Int.J.Pharm.23,2002,73−82の研究に反映されている。前の文書と同様に、これらのマイクロ粒子は溶媒乳化−蒸発法によって調製されている。
【0010】
文書US6,132,750は、少なくとも1種類のタンパク質(コラーゲン、ゼラチン)を含むサイズの小さい粒子(マイクロおよびナノ粒子)の調製に、およびその表面の多糖(キトサンまたは特にヒアルロン酸といったグリコサミノグリカン)に関する。それらは、アミドまたはエステル結合、および任意に無水結合を形成する多官能アシル化剤との界面架橋によって形成される。
【0011】
文書WO2004/112758は、活性分子の投与のためのナノ粒子系について触れ、当該ナノ粒子は、分子量125〜150kDaのキトサン、コラーゲンまたはゼラチンおよびヒアルロン酸塩といった陽イオンポリマーを含む網状複合体によって構成される。それらは、異なる電荷を与える両方のポリマーの静電相互作用によって、および架橋剤の存在下でのイオンチャネル型架橋によって形成される。
【0012】
しかし、これらの系に伴う主な短所は、ナノ粒子が生体環境に一旦組み込まれた際の、生体環境における低い生分解性である。ヒアルロン酸またはその対応する塩はヒアルロニダーゼ酵素によって細胞内で効果的に分解されることがよく知られているが、キトサン生分解性は大きく疑問視され、および活性分子のデリバリーは必要なほど効率的でない。この事実は、ナノ粒子中に存在する活性分子の放出の有効性を顕著に低下させうる。
【0013】
さらに、これらの系に用いられるキトサンは、6.6〜6.8より高いpHでは不溶であり、そのことはDNAといった生物活性分子を投与する際に適用可能性を減じる。
【0014】
DNAおよびRNAといったヌクレオチド分子の、遺伝子治療のための細胞へのトランスフェクションの場合には、分子を標的細胞へ効率的に導入でき、毒性が可能な限り低く、およびトランスフェクション効率が高いデリバリー系が必要である。導入される分子が適当に放出されること、およびそれが機能を可能な限り効率的に実施することが重要である。これらの分子を含む系は、患者に受容されるために、安定および容易に投与可能であるべきである。
【0015】
したがって、生体系への非常に効率的な組み込み、および生体環境におけるナノ粒子の迅速な生分解を可能にする、有効成分の放出のための系を見出すことが非常に望まれる。さらに、これらの系は、容易に製造されおよび保存および輸送に際して安定であるべきである。
【0016】
遺伝子治療の特定の例では、標的細胞のトランスフェクションに関して可能な限り効率的な、および患者にとって便利な系が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
発明者らは、キトサンおよびヒアルロナンを含むナノ粒子を含みキトサンの分子量が90kDa未満である系は、生物活性分子との効率的な結合に加えて、生体環境におけるナノ粒子の有効なおよび容易な分解を可能にし、それによって活性分子の放出を有利にすることを発見している。本発明の系は、細胞のエンドサイトーシス過程による、およびまた細胞膜の特異的受容体との相互作用による、細胞におけるナノ粒子の効率的な内在化を可能にすることが、in vitro試験で観察されている。
【0018】
さらに、in vivo試験は、本発明のナノ粒子が非常に有効に上皮細胞、たとえば角膜上皮細胞へ進入、およびDNAプラスミドを配送し、それによって重要なトランスフェクションレベルに達する能力を実証しており、それは本発明の系を、いくつかの疾患の遺伝子治療に向けた新しい戦略にする。このトランスフェクション効率は、ナノ粒子が以前に凍結乾燥過程に供されている場合でさえ観察され、それは本発明の系がその性質および安定性に影響することなく保存されうることを可能にする。
【0019】
本発明のナノ粒子系は、驚くべきことに、組成物に応じてpH6.4ないし8.0にて安定であり、それは本発明のナノ粒子系を、経鼻、経口投与および局所投与を含むさまざまな投与様式について非常に多用途にし、および血漿のpH7.4でのナノ粒子の安定性を確実にする。この安定性はまた、「in vitro」用途において細胞培養をトランスフェクションするために最も重要である。
【0020】
このように、本発明の目的は、平均サイズ1マイクロメートル未満のナノ粒子を含み、ナノ粒子が
a)ヒアルロナンまたはその塩;および
b)キトサンまたはその誘導体、
を含み、キトサンまたはその誘導体の分子量が90kDa未満である点で特徴づけられる、生物活性分子の放出のための系に関する。
【0021】
本発明の別の目的は、さらに生物活性分子を含む、上に記載したような系に関する。特定の一実施形態では、前記生物活性分子は、多糖、タンパク質、ペプチド、脂質、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸およびその混合物から成る群から選択される。
【0022】
本発明の特定の一実施形態では、ナノ粒子は凍結乾燥形である。
【0023】
本発明の別の目的は、上で定義されたような系を含む医薬組成物に関する。
【0024】
本発明の別の目的は、上で定義されたような系を含む化粧品組成物に関する。
【0025】
本発明の別の目的は、
a)ヒアルロナンまたはその塩の水溶液を調製;
b)キトサンまたはその誘導体の水溶液を調製;
c)ヒアルロナンの水溶液へ網状化剤を添加;および
d)b)およびc)で得られた溶液を撹拌しながら混合し、ナノ粒子が自然形成;
を含み、任意に、生物活性分子が、ナノ粒子の形成前に前記水溶液b)またはc)のいずれかに溶解されるかまたは、段階d)で得られたナノ粒子懸濁液に溶解される、上で定義される系の調製のための方法に関する。
【0026】
特定の一実施形態では、この方法はさらに、段階d)の後に、ナノ粒子が凍結乾燥される追加の段階を含む。
【0027】
最後に、本発明の別の目的は、遺伝子治療のための薬剤の調製における、上で定義されたような系の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ナノ粒子系におけるプラスミドpGFPのカプセル化効率。
【図2】プラスミドpGFPのin vitro徐放。ポリマー質量比HA:CSまたはHA:CSO 1:2;時間:0.5、1、4および24時間;キトシナーゼ活性:0.105U。
【図3】重量比2:1のキトサン(CSO)およびヒアルロン酸(HA)を含むナノ粒子を3つの異なる細胞株(HEK293、NHCおよびHCE)へ投与した際のin vitro細胞毒性。
【図4】重量比2:1のキトサン(CSO)およびヒアルロン酸(HAまたはHAO)を含むナノ粒子を投与した際の、HEK293を細胞株として使用したin vitro細胞毒性(1時間インキュベート)。
【図5】重量比2:1のキトサン(CSまたはCSO)およびヒアルロン酸(HAまたはHAO))を含むナノ粒子からHEK293細胞株へDNA−プラスミドpGFPを配送した際の、2、4、6、8および10日後の細胞のトランスフェクション効率を示す共焦点顕微鏡像。
【図6】重量比1:1のキトサン(CS または CSO)およびヒアルロン酸(HAまたはHAO)を含むナノ粒子からHEK293細胞株へDNA−プラスミドpGFPを配送した際の細胞のトランスフェクション効率。
【図7】インキュベート1時間および12時間後のin vitro細胞取り込みを示す共焦点顕微鏡像。処方:重量比1:2のHAO:CSO;HAO:CSおよびHA:CS、1%のプラスミドpGFPを負荷。
【図8】細胞株HCEを用いた細胞によるナノ粒子の内在化を示す共焦点顕微鏡像:a)37℃;b)4℃およびc)Hermes1抗体でCD44受容体をブロックした4℃。処方:重量比1:2のHA:CSO。
【図9】角膜上皮におけるナノ粒子分解を時間の関数として示す共焦点顕微鏡像(2、4および12時間)。処方:重量比1:2のHA:CSOおよびHA:CS。
【図10】ウサギの角膜上皮におけるコードされた緑色タンパク質の発現を示す共焦点顕微鏡像。処方:プラスミドpEGFPを負荷した重量比1:2のHA:CSOおよびHA:CS。
【図11】HEK293細胞株へDNA−プラスミドpEGFPを、重量比1:2および2:1のキトサン(分子量14、31および45kDa)およびヒアルロン酸を含む凍結乾燥ナノ粒子から配送した際の、4日後の細胞トランスフェクション効率を示す共焦点顕微鏡像。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の系は、生物活性分子を組み込むことができる、構造がヒアルロナン および分子量が 90kDa未満のキトサンの網状物であるナノ粒子を含む。構造は電子相互作用によって結合し、その間に共有結合は実質的に無い。
【0030】
「ナノ粒子」の語で、キトサンおよびヒアルロナンの間の静電相互作用によって、および陰イオン性網状化剤の添加による前記複合体の向イオン性ゲル化によって、形成される構造と理解される。ナノ粒子および続いての網状化の別のポリマー成分の間に生じる静電相互作用は、特徴的な物体を発生させ、その物体は独立しておりおよび観察可能であり、その平均サイズは1μm未満、すなわち平均サイズ1ないし999nmである。
【0031】
「平均サイズ」の語で、ポリマー網状構造を含み水系媒体中で一緒に動くナノ粒子集団の平均直径と理解される。これらの系の平均サイズは、当業者に公知でありおよびたとえば下記の実験の部分に記載される標準的な手順を用いて測定されうる。
【0032】
本発明の系のナノ粒子は、平均粒子サイズ1μm未満であり、すなわち平均サイズ1ないし999nm、好ましくは50ないし500nm、さらにより好ましくは100ないし300nmである。粒子の平均サイズは主に、ヒアルロナンについてのキトサンの比率によって、キトサン脱アセチル化度によって、およびまた粒子形成条件(キトサンおよびヒアルロナン濃度、網状化剤濃度およびそれらの間の重量比)によって影響される。
【0033】
ナノ粒子は、ナノ粒子中のキトサンおよびヒアルロナンの割合に依存して変化する、表面電荷(ゼータ電位によって測定される)を有しうる。正電荷への寄与はキトサンのアミン基に起因し、一方、負電荷への寄与はヒアルロナンのカルボキシル基に起因する。キトサン/ヒアルロナン比に依存して、電荷の大きさは−50mVないし+50mVと変化しうる。
【0034】
しばしば、ナノ粒子と生体表面、特に負に荷電している粘膜表面との間の相互作用を改善するために、表面電荷が陽性であることが関心事である。こうすれば、生物活性分子は標的組織上で有利にふるまう。しかし、一部の場合には、非経口投与後のナノ粒子の安定性を確実にするために、中性電荷がより好ましい可能性がある。負電荷はまた、疎水性および受容体親和性相互作用の存在のため、粘膜表面への投与のために関心が持たれうる。
【0035】
キトサン
キトサンはキチン(ポリ−N−アセチル−D−グルコサミン)に由来する天然起源のポリマーであり、Nのアセチル基の重要な部分が加水分解によって消去されている。脱アセチル化度は好ましくは40%より大、より好ましくは60%より大である。一変形では、脱アセチル化度は60〜98%の間である。キトサンはアミノ多糖構造および陽イオン性を有する。キトサンは式(I)のモノマー単位n個の反復を含み:
ここでnは整数であり、およびm個の単位がアセチル化アミン基を有する。n+mの合計は重合度、すなわちキトサン鎖中のモノマー単位の数を表す。
【0036】
本発明のナノ粒子を製造するのに用いられるキトサンは、低分子量を有することで特徴づけられ、分子量90kDa未満、好ましくは1ないし90kDaの上記のようなキトサンまたはその誘導体と理解される。好ましい一実施形態では、キトサンの分子量は1ないし75kDa、より好ましくは2ないし50kDa、さらにより好ましくは2ないし30kDaから成る。約2ないし約15kDaの範囲が特に好ましい。この分子量を持つキトサンは、さまざまな割合のNaNO2を用いたキトサンポリマーの酸化還元といった、当業者によく知られた方法によって得られる。
【0037】
キトサンの代替として、その誘導体もまた使用でき、1つ以上の水酸基および/または1つ以上のアミン基が、キトサンの溶解性を高めるかまたはその接着性を高める目的で修飾されている、分子量90kDa未満のキトサンと理解される。これらの誘導体は、ロバーツ(Roberts),『キチン化学』(Chitin Chemistry),マクミラン社(Macmillan),1992,166に記載される通り、特に、アセチル化、アルキル化またはスルホン化キトサン、チオール化誘導体を含む。好ましくは、誘導体が使用される場合は、O−アルキルエーテル、O−アシルエステル、トリメチルキトサン、ポリエチレングリコールで修飾されたキトサンなどから選択される。他の可能な誘導体は、クエン酸塩、硝酸塩、乳酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩などといった塩である。いずれにしろ、処方の安定性および商業的実行可能性に影響することなく、キトサンに行うことができる修飾を特定する方法は当業者に公知である。
【0038】
分子量90kDa未満のキトサン、またはその誘導体の使用は、本発明の系に特に重要であり、なぜならそれを含むナノ粒子は、生体環境に一旦導入されれば効率的に排出または分解が可能であり、結果として生物活性分子のより効率的なデリバリーを与えるためである。
【0039】
ヒアルロナン
ヒアルロナンは、結合組織、上皮組織および神経組織の全体にわたって広く分布するグリコサミノグリカンである。ヒアルロナンは細胞外マトリクスの主成分の一つであり、および一般に細胞増殖および遊走に大きく寄与する。
【0040】
ヒアルロナンは、式(II)に示す通り交互のベータ−1,4およびベータ−1,3グリコシド結合で互いに結合した、D−グルクロン酸およびD−N−アセチルグルコサミンの交互の付加によって形成される二糖構造の反復を含む直鎖ポリマーであり:
ここで整数nは、重合度、すなわちヒアルロナン鎖中の二糖単位の数を表す。
【0041】
両方の糖が空間的にグルコースと近縁であり、グルコースはベータ構造では、かさ高い基のすべて(水酸基、カルボン酸基、および隣接する糖のアノマー炭素)が立体的に有利なエクアトリアル位になることが可能である一方で、すべての小さい水素原子は立体的により不利なアキシアル位を占める。
【0042】
本発明のナノ粒子を製造するのに用いられるヒアルロナンは、2kDaないし160kDaで構成される分子量を有する。本発明の特定の一実施形態では、ヒアルロナンは、2ないし50kDa、好ましくは2ないし10kDaで構成される分子量を有するオリゴマーである。
【0043】
高分子量のヒアルロナンは市販されており、一方、より低分子量のものは、たとえばヒアルロニダーゼ酵素を用いて、高分子量のヒアルロナンの断片化によって得ることができる。
【0044】
この説明で使用される「ヒアルロナン」の語は、ヒアルロン酸または、その複合体基材(ヒアルロン酸)のどちらかを含む。この複合体基材は、たとえば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、マグネシウム、アルミニウムおよびリチウム塩といった無機塩、および塩基性アミノ酸塩といった有機塩を含む、ヒアルロン酸のアルカリ塩でありうる。本発明の好ましい一実施形態では、アルカリ塩はヒアルロン酸のナトリウム塩である。
【0045】
ヒアルロナンは、無毒性、生分解性および生体適合性の天然親水性多糖である。ヒアルロナンは粘膜付着性を有し、および細胞膜に存在するCD44受容体と特異的に結合し、そのようにして細胞との相互作用に有利に作用する。
【0046】
本発明の一変形では、系内のヒアルロナン/キトサン重量比は2:1ないし1:10、好ましくは2:1ないし1:2 重量:重量で構成される。キトサンのより低い割合は、凝集またはポリマー溶液が得られるため、推奨されない。
【0047】
ナノ粒子組成(キトサン−ヒアルロナン比およびヒアルロナン、ポリマーまたはオリゴマーの分子量)に関わらず、ナノ粒子サイズは1マイクロメートル未満、好ましくは500nm未満、より好ましくは300nm未満に維持される。一実施形態ではナノ粒子サイズは250nm未満、より好ましくは200nm未満である。このサイズは、ナノ粒子が角膜上皮細胞といった上皮細胞を透過し、および生物活性分子を配送することを可能にする。
【0048】
本発明の系のナノ粒子は、網状化剤の存在下でキトサン−ヒアルロナン系のイオンチャネル型ゲル化によって形成され、前記網状化剤はイオン性ゲル化を可能にし、ナノ粒子の自然形成を有利にする。特定の一実施形態では、網状化剤は陰イオン塩である。好ましくは、網状化剤はトリポリリン酸であり、トリポリリン酸ナトリウム(TPP)の使用がより好ましい。網状化過程は非常に単純であり、および本発明の背景に記載される通り当業者に公知である。
【0049】
本発明のキトサンおよびヒアルロナンのナノ粒子は、ナノ粒子の中に、またはその表面に吸着される、生物活性分子を結合する高い能力を有する系を適用する。ヒアルロナンの分子量およびキトサン−ヒアルロナン重量比にかかわらず、ナノ粒子は活性分子の結合において90%を上回る高い効率を示す。したがって、本発明の別の一態様は、生物活性分子をさらに含む、上記のような系に関する。
【0050】
「生物活性分子」の語は、疾患の治療、治癒、予防または診断に使用されるかまたは、ヒトおよび動物の身体的または精神的福祉を改善するために使用される、任意の物質に関する。本発明によると、ヒアルロナンおよびキトサンのナノ粒子は、その溶解性にかかわらず、生物活性分子を組み込むのに適している。結合容量は、組み込まれた分子に依存するが、しかし一般論として、親水性分子およびまた顕著な疎水性の分子の両方について高くなる。これらの分子は、多糖、タンパク質、ペプチド、脂質、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸およびその混合物を含みうる。本発明の好ましい一実施形態では、生物活性分子はポリヌクレオチドであり、好ましくはpEGFP、pBgalおよびpSEAPといったDNAプラスミドである。
【0051】
本発明の好ましい別の一実施形態では、生物活性分子はヘパリンといった多糖である。
【0052】
本発明の別の目的は、前に定義されたナノ粒子系を含む医薬組成物である。
【0053】
医薬組成物の例は、経口、頬側、舌下、局所、眼、経鼻または経膣使用のための任意の液体組成物(すなわち本発明のナノ粒子の懸濁液または分散物)、または、局所、眼、経鼻または経膣投与のためのゲル、軟膏、クリームまたはバームの形の任意の組成物を含む。
【0054】
本発明の一変形では、組成物は眼投与用である、この場合、負に荷電している粘膜および角膜上皮細胞の表面との相互作用を介して、眼表面へのより良好な吸収をナノ粒子が提供するように、ナノ粒子の表面は正に荷電している。
【0055】
ナノ粒子に組み込まれている有効成分の割合は、系の総重量に関して重量で最大40%に達しうる。にもかかわらず、適当な比率は個々の場合で、組み込まれる有効成分、使用される適応、およびデリバリーの効率に依存する。
【0056】
DNAプラスミドのようなポリヌクレオチドを有効成分として組み込む具体的な場合には、その前記系中の比率は重量で1%ないし40%、好ましくは5%ないし20%となる。
【0057】
ヘパリンのような多糖が組み込まれる場合、この成分の割合は系に1%ないし40%、好ましくは10%ないし30%で組み込まれる。
【0058】
本発明の別の目的は、前に定義されたナノ粒子系を含む化粧品組成物に関する。これらの化粧品組成物は、任意の液体組成物(ナノ粒子の懸濁液または分散物)または本発明の系を含みおよび局所投与用のゲル、クリーム、軟膏またはバーム(balm)の形である任意の組成物を含む。
【0059】
本発明の一変形では、化粧品組成物はまた、治療効果を何ら有しないが、化粧剤としての性質を持つ、親油性および親水性の活性分子を組み込むことができる。ナノ粒子中に組み込むことができる活性分子の中で特に、皮膚軟化剤、保存料、芳香物質、にきび薬、抗真菌剤、抗酸化剤、消臭剤、制汗剤、ふけ取り剤、脱色剤、抗脂漏剤、色素、日焼けローション、紫外線吸収剤、酵素、芳香物質が挙げられる。
【0060】
別の一態様では、本発明は、本発明の系の調製のための、および上記のナノ粒子を含む方法に関する。前記方法は、一方で、好ましくは濃度0.1ないし5mg/mLの、ヒアルロナン水溶液の調製、および他方で、好ましくは濃度0.1ないし5mg/mLの、キトサン水溶液の調製を含む。
【0061】
網状化剤の組み込みは、ヒアルロナンの水溶液への、好ましくは濃度0.01ないし1.0mg/mLでの溶解によって実施される。その後、一方はヒアルロナンおよび網状化剤を含みおよび他方はキトサンを含む、両方の水溶液を、撹拌しながら混合し、このようにして水系懸濁液中で自然にナノ粒子を得る。
【0062】
任意に、生物活性分子を、ナノ粒子の内側に組み込むために、キトサンを含む水溶液またはヒアルロナンおよび網状化剤を含む水溶液に溶解する。
【0063】
別の一実施形態では、ナノ粒子が一旦形成されれば、ナノ粒子表面に吸着される目的で、活性分子を水系懸濁液に溶解できる。
【0064】
方法の一変形では、生物活性分子が親油性を示す場合、前に定義された水溶液のいずれかに組み込まれる前に、少量の水およびアセトニトリルのような水混和性有機溶媒の好ましくは約1:1の割合の混合物に溶解され、次いで、終濃度中の有機溶媒の重量濃度が常に10%未満となるように、前記の水溶液のうちの一つに添加される。そのような場合、有機溶媒は、医薬品として許容されない限り、系から除去されなければならない。
【0065】
本発明のキトサン−ヒアルロナンナノ粒子を調製するための方法は前記ナノ粒子が凍結乾燥される追加の段階をさらに含みうる。医薬の視点からは、凍結乾燥形でナノ粒子を利用可能にすることは重要であり、なぜならこれは保存中の安定性を改善しおよび操作すべき産物の容量を低減するためである。キトサン−ヒアルロナンナノ粒子は、凍結保護剤、濃度1ないし5%の範囲のグルコース、スクロースまたはトレハロースといった凍結保護剤の存在下で凍結乾燥されうる。実際、本発明のナノ粒子は、凍結乾燥前後の粒子サイズが顕著に変わらないという別の長所を有する。すなわち、ナノ粒子は、その性質に変化無しに凍結乾燥および再懸濁されうるという長所を有する。
【0066】
本発明の系は、高度に効率的なキャリヤーであり、上皮細胞と相互作用することができ、およびポリヌクレオチドの細胞へのトランスフェクションを促進する高い能力を有することが実証されている。系に含まれるナノ粒子は、核酸を基礎とする分子、オリゴヌクレオチド、siRNAまたはポリヌクレオチド、好ましくは目的タンパク質をコードするプラスミドDNAといった遺伝物質を細胞へ組み込むことができ、そのようにして遺伝子治療において有望な媒体となる。特定の一実施形態では、プラスミドDNAはpEGFPまたはpSEAPである。
【0067】
HEK293(ヒト胚腎臓細胞株)、HCE(ヒト角膜上皮細胞株)およびNHC(正常ヒト結膜細胞株)といった3つの異なる細胞株でのin vitro試験、およびある種の動物の眼上皮におけるin vivo試験は、本発明の系に含まれるナノ粒子が非常に低い細胞毒性を示すこと、およびナノ粒子が細胞のエンドサイトーシス過程によって、およびまた細胞膜の特異的受容体との相互作用によって、細胞により内在化されうることを示している。ヒアルロナンの生分解による、およびキトサンの排泄または生分解によるナノ粒子の生分解は、DNA−プラスミドの非常に効果的な方法でのデリバリーを可能にし、たとえばトランスフェクションされた細胞の25%超について最大10日間で、高いおよび低いトランスフェクションレベルに達する。最良のトランスフェクションレベルはナノ粒子の処方に使用されうる低分子量(10kDa)ヒアルロナンの場合に得られた。さらに、このトランスフェクション効率はまた、ナノ粒子が凍結乾燥工程に供されている場合にも観察される。
【0068】
驚くべきことに、キトサンは6.6〜6.8より高いpHで不溶であるにもかかわらず、本発明のナノ粒子系はまた、pH6.4ないし8.0でも安定である。このことは、ナノ粒子系を、経鼻、経口および局所投与を含むさまざまな投与様式について非常に多用途にする。それはまた、血漿のpH7.4にてナノ粒子の安定性を確実にする。さらに、この安定性はまた、ナノ粒子を安定細胞株培養へ、または「in vivo」でトランスフェクションするのが困難な安定培養へ、適用するために興味深い。
【0069】
したがって、本発明の別の目的は、遺伝子治療用の薬剤の調製における本発明の系の使用に関する。特定の一実施形態ではそれは、治療されている患者の細胞における機能性発現が可能な遺伝子を含むポリヌクレオチドを含む。
【0070】
この意味で、本発明の系を用いて治療すべき疾患のいくつかの例は、VEGFに対するアンチセンスを伴う黄斑変性症、表皮水疱症および嚢胞性線維症である。本発明の系は糖尿病性網膜症および黄斑変性症に特に有用である。それはまた、一過性形質転換図式による創傷の治癒にも使用されうる。
【0071】
最後に、トランスフェクションの高い効率のために、合成または天然ポリヌクレオチドを含む本発明の系および組成物は、標的細胞、好ましくは哺乳類腫瘍細胞または哺乳類「正常」細胞、および幹細胞または細胞株のトランスフェクションのための使用を可能にする。それはしたがって細胞の遺伝子操作のための有用な道具である。この意味で、本発明はまた、細胞の遺伝子操作のための本発明の系の使用を対象とする。好ましくはそれは、in vitroまたはex vivoでの拡散のデリバリーのためである。
【0072】
一実施形態では核酸は、干渉RNA(iRNA)または低分子干渉RNA(siRNA)のような、相補mRNAと特異的に塩基対形成でき、およびmRNA翻訳および対応するタンパク質の産生を阻害できる、アンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0073】
別の一態様によると、本発明は、核酸の組み込みおよびデリバリーのための本発明のナノ粒子の使用に関する。そのようなデリバリーは、哺乳類細胞、細胞株、幹細胞、初代細胞株といった真核細胞を含む標的細胞を対象とし、およびin vitroまたはex−vivoトランスフェクションまたは細胞形質転換に繋がりうる。したがって、この態様によると、本発明は、本発明のナノ粒子および適当な希釈剤および/または細胞洗浄緩衝液を含む、真核細胞のトランスフェクションのためのキットに関する。
【0074】
下記に、本発明の特徴および長所を明らかにする、いくつかの例証となる実施例が記載されるが、しかし、それらは請求項に定義される本発明の目的を限定すると解釈されない。
【実施例】
【0075】
下記に詳細が記載される実施例に共通の過程として、ナノ粒子は、サイズ、ゼータ電位(または表面電荷)およびカプセル化効率の視点から特徴づけられている。
【0076】
サイズ分布は、光子相関スペクトル法(PCS;ゼータサイザー(Zeta Sizer),ナノシリーズ(Nano series),ナノZS(Nano−ZS),マルバーンインスツルメンツ社(Malvern Instruments),英国)を用いて実施され、ナノ粒子集団の平均サイズ値を得ている。
【0077】
ゼータ電位はレーザードップラー流速計(LDA;ゼータサイザー(Zeta Sizer),ナノシリーズ(Nano series),ナノZS(Nano−ZS),マルバーンインスツルメンツ社(Malvern Instruments),英国)を用いて測定されている。電気泳動移動度を測定するために、試料をミリQ(Milli−Q)水で希釈した。
【0078】
結合効率は、電気泳動ゲルによって、および遊離p−DNAの正確な定量を可能にするピコグリーン(PicoGreen)(登録商標)によって評価した。
【0079】
実施例で使用したキトサン(プロタサン(Protasan)UP Cl 113)はノバマトリクスFMCバイオポリマー社(Novamatrix−FMC Biopolymer)製である。このキトサンを、11、14、31、45および70kDaの低分子量のキトサンを得るために、さまざまな重量比でNaNO2を用いた酸化還元に供する(CS/NaNO20.01;0.02;0.05;0.1)。これらの値はSEC「サイズ排除クロマトグラフィー」によって光散乱検出器を用いて測定した。
【0080】
実施例で使用したヒアルロナンはヒアルロン酸のナトリウム塩である。分子量160kDaのヒアルロナンはビオイベリカ社(Bioiberica S.A.)製であり、および分子量10kDa未満のヒアルロナンは、160kDaのヒアルロナンのヒアルロニダーゼを用いた断片化および溶液を10kDaフィルターを通すことによって得られる。
【0081】
トリポリリン酸ナトリウムはシグマアルドリッチ社(Sigma Aldrich,Co.)製であり、DNA−プラスミドpEGFP、pBgalおよびpSEAPはエリムバイオファーマシューティカル社(Elim.Biopharmaceutical Corp.)製、および使用したその他の製品はシグマアルドリッチ社製である。
【0082】
下記の略語が実施例に使用されている。
CS:分子量125kDaのキトサン
CSO:10〜12、14、31、45および70kDaの低分子量のキトサン
HA:分子量160kDaのヒアルロン酸ナトリウム
HAO:10kDa未満の低分子量のヒアルロン酸ナトリウム
TPP:トリポリリン酸ナトリウム
PBS:リン酸塩緩衝生理食塩水
HBSS:ハンス緩衝塩溶液
【0083】
実施例1.
ナノ粒子の調製
さまざまな割合のキトサン(CSO、11、14、31、45および70kDaのさまざまな分子量を有する)およびヒアルロン酸ナトリウム(HAまたはHAO)でできた、DNA−プラスミド(pEGFP、pBgalまたはpSEAP)が組み込まれたナノ粒子が、イオンチャネル型ゲル化処理によって得られた。
【0084】
一方は0.625mg/mL CSOを含むミリQ(milli−Q)水、および他方は0.625 mg/mL HAまたはHAO、0.025mg/mL TPPおよび対応するプラスミドDNAを重量で5ないし20%で変動する割合で含む、2つの水溶液を調製した。
【0085】
比率1:2のヒアルロン酸:キトサンを含むナノ粒子については、0.75mlの第1の水溶液を0.375mlの第2の溶液とマグネティックスターラーで撹拌しながら混合し、それによって水に懸濁したナノ粒子を自然に得た。
【0086】
比率1:1のヒアルロン酸:キトサンを含むナノ粒子については、0.75mlの第1の水溶液を0.75mlの第2の溶液とマグネティックスターラーで撹拌しながら混合し、それによって水に懸濁したナノ粒子を自然に得た。
【0087】
比率2:1のヒアルロン酸:キトサンを含むナノ粒子については、0.75mlの第1の水溶液を1.5mlの第2の溶液とマグネティックスターラーで撹拌しながら混合し、それによって水に懸濁したナノ粒子を自然に得た。
【0088】
比較試験のために、CSOの代わりにCS(分子量125kDa)を含むナノ粒子もまた、同じ比率のキトサンおよびヒアルロン酸を用いて上記と同じ手順に従って調製した。
【0089】
表Iに見られる通り、ナノ粒子サイズは250nm未満に維持される。にもかかわらず、ゼータ電位値はキトサンおよびヒアルロン酸比に依存し、ナノ粒子中のヒアルロン酸含量の増加につれて陽性が小さくなる(表1)。
【0090】
【表1】
【0091】
実施例2
カプセル化効率検定およびin vitro徐放
実施例1に記載された手順に従って得られたナノ粒子(10〜12kDaのCSOまたはCSを含むもののどちらか)を37℃にて緩衝培地中で撹拌しながら、プラスミドを放出させるのに十分な期間インキュベートした。放出量をさまざまな時間に電気泳動ゲルによって評価する。
【0092】
ナノ粒子が酢酸緩衝液中でインキュベートされる場合、プラスミドの放出は起こらないことが観察される(図1)。さらに、ヒアルロン酸の分子量およびキトサン−ヒアルロン酸重量比にかかわらず、ナノ粒子は85%を上回る結合効率を示す。
【0093】
ナノ粒子系を分解しおよびそうして封入された分子の放出を促進するために、ナノ粒子マトリクスを更生するポリマーの分解のための特異的酵素(たとえばキトサナーゼ、0.105U酵素/170μL処方)を加えることも又可能である。図2は、ナノ粒子の分解後、プラスミドが1時間未満で完全に放出されることを示す。加えて、封入されたプラスミドが一旦放出されれば、その立体構造および構造が完全に維持されることが強調される。
【0094】
実施例3
In vitro細胞毒性分析
細胞生存能を用量の関数として評価するために、実施例1で得られたナノ粒子懸濁液、特に10〜12kDaの低分子量キトサンを含むものから、さまざまなナノ粒子濃度を有するようにさまざまな連続溶液を調製した。
【0095】
この試験は3つの異なる細胞株で実施した:
・HEK293(ヒト胚腎臓細胞株)
・HCE(ヒト角膜上皮細胞株)
・NHC(正常ヒト結膜細胞株)。
【0096】
細胞生存能を100%(培地のみが加えられている培養と考えられる)に対して評価するMTS検定を実施する。細胞を実験前日にウェル当たり細胞300,000個の量で平板播種しなければならない。培地を次いで入れ、および細胞培養をPBSで2回洗浄する。その後、ナノ粒子懸濁液を細胞培養に加え、およびHBSSを1000μLとなるまで加える。細胞を1時間37℃にてインキュベートし、および次いでHBSSまたはPBSで洗浄する。その後、MTS試薬(新規テトラゾリウム化合物3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、分子内塩、の溶液から成る試薬)を加え(120μL/ウェル)およびプレートを490nmにて3時間後に読み取る。試薬は用時調製する。
【0097】
ナノ粒子の検定した用量は160、80、40、20、10および5μg/cm2であった。
【0098】
細胞毒性レベルは細胞株に依存することが観察された(図3)。一般論として、本発明のナノ粒子は非常に低い毒性を示した(図4)。
【0099】
実施例4
ナノ粒子のトランスフェクション効率のin vitro試験
ナノ粒子系のトランスフェクション効率を証明するために、in vitro試験を実施例3で使用したのと同一の細胞株で実施した。
【0100】
10〜12kDaのCSOおよびHAまたはHAOを含むナノ粒子を、実施例1に前述された方法に従って調製した。比較試験のために、CS(Mw=125kDa)を含むナノ粒子もまた使用した。
【0101】
細胞を実験開始24時間前にウェル当たり細胞300,000個の量で平板播種しなければならない。培地を次いで入れ、および細胞培養をPBSで2回洗浄する。その後、ウェル当たりHBSS 300μLを加えた。次いで、ナノ粒子懸濁液を、1μg pDNA/ウェルが添加されるような量で加えた。細胞を5時間37℃にてインキュベートし、次いでHBSSまたはPBSで洗浄し、およびさらなる培地を加えた。この培地は翌日および発現レベルの測定前に毎回交換する。
【0102】
タンパク質発現レベルをトランスフェクション後2日目、および10日間の2日毎に定量した。定量は蛍光顕微鏡法を用いて、および画像の以後の処理はフォトショップエレメンツ(PhotoshopElements)によって実施する。
【0103】
図5および6から、低分子量キトサン(CSO:10〜12kDa)を含むナノ粒子は、分子量125kDaのキトサンを含むナノ粒子と比較する場合、トランスフェクションされた細胞の25%超について最大10日間、より高いおよびより長く続くトランスフェクションレベルを示すことが観察できる。
【0104】
実施例5
In vitro細胞取り込み分析
ナノ粒子の細胞系内への内在化を証明するために、細胞株HEK293を用いてin vitro試験を実施した。
【0105】
ナノ粒子は共焦点顕微鏡で可視化されうるように調製された。したがって、ヒアルロン酸ナトリウムをフルオレセインで予め標識した。下記のナノ粒子処方を分析した:プラスミド1%を負荷した、比率1:2のHAO:CSO[10〜12kDa];HAO:CSおよびHA:CS。
【0106】
約300,000細胞/ウェルを実験の24時間前に平板播種した。続いて、培地を吸引し、次いでPBSで洗浄し、および最後にナノ粒子を培養に加え、HBSSで体積200μLとする。
【0107】
細胞培養を1または2時間インキュベートする。細胞インキュベート後、細胞核をヨウ化プロピジウムで染色し、および共焦点顕微鏡で観察するために標本を調製する。
【0108】
図7で見られる通り、インキュベート1時間後、ナノ粒子処方にかかわらず細胞質に蛍光が観察され、そのためナノ粒子は細胞によって効果的に内在化された。細胞培養を低分子量(10〜12kDa)キトサンナノ粒子[CSO:HAO]で処理する場合、標識されたナノ粒子は、細胞内および核周囲レベルの空胞に局在化している。この細胞内局在化は、核酸を基礎とする生体分子の細胞内デリバリーキャリヤーとしてのこれらのナノ粒子の可能性を示す。
【0109】
実施例6
CD44受容体とのナノ粒子相互作用
この実施例では、ナノ粒子が、ヒアルロナンの特異的受容体であるCD44受容体との相互作用後に内在化されうるかを評価する。ナノ粒子は、ヒアルロン酸がフルオレセインアミンで予め標識されることを除き、実施例1にしたがって調製される。処方は比率1:2のHA:CSO[10〜12kDa]であった。
【0110】
この試験では、細胞株HCEを使用し、細胞を異なる温度でインキュベートした(4および37℃)。図8a)およびb)で見られる通り、プラスミドおよびヒアルロン酸が細胞内レベルに観察できるため、ナノ粒子は細胞によって内在化される。37℃にてナノ粒子はエンドサイトーシスによっておよび/またはCD44との相互作用によって内在化され、一方4℃では、これらのナノ粒子は受容体CD44と相互作用する場合だけ内在化される。
【0111】
さらに、実験のうちの一つで、受容体CD44はHermes1抗体でブロックされる。図8c)に見られる通り、4℃で、前述している通り、この温度では内在化は受容体の相互作用だけによるため、ナノ粒子が内在化されていないのが観察できる。
【0112】
実施例7
ナノ粒子が眼上皮細胞と相互作用する、および細胞内で分解される効率のin vivo試験
ナノ粒子の眼粘膜との相互作用を評価するため、比率1:2のHA:CSO[10〜12kDa]およびHA:CSの処方を含むナノ粒子を、ヒアルロン酸がフルオレセイン(HA−fl)で予め標識された以外、実施例1にしたがって調製した。HA−flの溶液を対照として使用した。ナノ粒子を遠心分離によって濃縮し、および続いてミリQ(milliQ)水に再懸濁し、ナノ粒子濃度3mg/mLとした。ナノ粒子0.3mgを2kgのウサギの眼に滴下した。25μLの滴下4回を10 分毎に実施した。
【0113】
動物を滴下2、4または12時間後に屠殺し、および次いで角膜および結膜を摘出した。新鮮組織を共焦点顕微鏡で観察した。
【0114】
図9で見られる通り、ナノ粒子に対応する強い蛍光シグナルが、角膜および結膜の細胞の中に検出された。加えて、蛍光強度が経時的に低下することが観察され、これは分子量10〜12kDaのキトサンを含むナノ粒子でより明瞭である。このことは、何らかの形でこれらのナノ粒子が細胞内で吸収または分解されることを示唆する。ヒアルロニダーゼが眼組織におけるヒアルロナンの分解を担うことが知られている。これらの結果は、低分子量キトサンもまた細胞内レベルで高い効率で分解されることを示し、それは上皮細胞内の生物活性分子の効率的なデリバリーを達成するために、分子量90kDa未満のキトサンを用いることの長所を実証する。
【0115】
実施例8
眼組織をトランスフェクションするためのナノ粒子の効率のin vivo試験
本発明のナノ粒子が眼組織を in vivoでトランスフェクトする能力を測定する目的で、および眼遺伝子デリバリーのためにこれらのキャリヤーの効率を測定する目的で、実施例7に記載の手順に従って調製した、10%pGFPを負荷したナノ粒子を、下記の用量で2kgの意識のある正常ウサギへ局所投与した:25、50および100μg pGFP/眼。処方の15μLを10分毎に投与した(より高い用量には、処方の排液を避けるために、30分間の中間期間を残して、50+50μLを投与した)。動物を屠殺し、および次いで角膜および結膜を摘出した。コードされた緑色タンパク質の発現を、摘出した角膜および結膜上皮中で、トランスフェクションの2、4および7日後に、共焦点顕微鏡で観察した。図10に観察される通り、低分子量キトサン(CSO)を含むナノ粒子は、より低い用量でより高いトランスフェクションレベルを与え、およびしたがって遺伝子発現の持続時間を評価するのに使用された。トランスフェクションの4および7日後に、緑色の角膜細胞がまだ撮影された。
【0116】
これらの結果が、250gのSprague−Dawleyラットの摘出眼における遺伝子発現の評価によって、さらに確認された。この場合、pβgalがナノ粒子系に10%の割合で負荷されたことを除いて、同一のナノ粒子処方を使用した。
【0117】
体積5μL中のナノ粒子2.5μgをラットに投与し、および48時間後に動物を屠殺し、および眼を摘出し、パラホルムアルデヒドで固定し、および最後に、タンパク質の発現を可視化するために、X−galを用いた染色に供した。
【0118】
これらの結果は、低分子量キトサンおよびヒアルロナンでできたナノ粒子が角膜上皮細胞に入りおよび細胞の内部で分解され、そのようにしてDNA−プラスミドを非常に有効な方法で配送し、および重要なトランスフェクションレベルに達する能力の証拠を提供する。したがって、これらのナノ粒子は、いくつかの眼科疾患の治療のためのこの特定の場合に、遺伝子治療のための新しい戦略に相当しうる。
【0119】
実施例9
キトサンおよびヒアルロン酸のナノ粒子の凍結乾燥
【0120】
実施例1にしたがって得られたナノ粒子、特にCSO:HAおよびCSO:HAOを重量比2:1で含みおよびポリマー総重量に対して7%プラスミドを負荷されたものを、さまざまな凍結保護剤(重量で1および5%のスクロース、トレハロースおよびグルコース)を添加しおよび−80℃へ冷却(−50℃にて第1および第2乾燥)することによって凍結乾燥処理に供した。続いて、処方を水に再懸濁し、および粒子サイズを測定した。表2に示す通り、すべての処方は適切に再懸濁され、初期ナノ粒子系を生じた。
【0121】
【表2】
【0122】
後で、分子量がナノ粒子系の凍結乾燥および再懸濁にどのように影響するかを調べるため、別の凍結乾燥試験をしかし異なる分子量を持つキトサンを用いて実施した。この場合、使用したヒアルロン酸は分子量160kDaであり、およびCSO:HA比は1:2および2:1であった。
【0123】
【表3】
【0124】
表3に示す通り、キトサン分子量(11、14、31、45または70kDa)およびCSO:HA重量比(2:1または1:2)にかかわらず、すべての系は粒子サイズをナノメートル範囲に維持しながら適当に再懸濁される。
【0125】
実施例10
異なるpHでのナノ粒子安定化
CSO:HAおよびCSO:HAO(MwCSO:11kDa)を含むナノ粒子系の凍結乾燥および再懸濁後、これらをさまざまなpHの緩衝液で希釈した。
【0126】
表4から判る通り、ナノ粒子系の安定性は個々の系の組成に依存して変化する。たとえば、CSO:HAを含むナノ粒子は、pH7.4および8.0にて安定であり、一方、CSO:HAOを含むナノ粒子は、pH6.4および8.0にて安定である。しかし、キトサンは6.6−6.8より高いpHでは不溶であることが知られているため、両方の系がpH8.0にて安定であるのは驚くべきことである。結果として、それらのナノ粒子系は、さまざまなpHでの安定性のため、DNAの投与に用途が広い。
【0127】
【表4】
【0128】
さらに、ナノ粒子の安定性を、分子量45および70kDaのキトサンを選び、さまざまなCSO:HA比(2:1、1:1、1:2)を用いて分析した。表5に示す通り、CSO:HA重量比にかかわらず、ナノ粒子はpH7.4および8.0にて安定である。
【0129】
【表5】
【0130】
また、表6から判る通り、ナノ粒子サイズはpH8にて少なくとも1週間、ナノメートル範囲に維持される。
【0131】
【表6】
【0132】
実施例11
HEK293細胞株における凍結乾燥ナノ粒子のin vitroトランスフェクション試験
我々のナノ粒子系が、凍結乾燥後に、細胞培養をトランスフェクションする能力を有するかどうかを調べるために、7%のプラスミドpEGFPを負荷したさまざまな処方のCSOおよびHAを細胞株HEK293で分析した(用量:pEGFP 1μg)。この実験に使用したキトサンの分子量は14、31および45kDaであり、およびCSO:HAの重量比は2:1および1:2であった。これらの処方をグルコース1%(w/V)の存在下で予め凍結乾燥しおよび再懸濁した。
【0133】
蛍光顕微鏡で撮影した画像(図11)は、蛍光タンパク質の細胞内の存在を示し、およびしたがってそれらは、CSOおよびHAを含む凍結乾燥ナノ粒子系がトランスフェクションする能力を示すことを示した。写真は処方を細胞と接触させてから4日後に撮影した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均サイズ1マイクロメートル未満のナノ粒子を含み、ナノ粒子が
a)ヒアルロナンまたはその塩;および
b)キトサンまたはその誘導体、
を含む生物活性分子の放出のための系であって、キトサンまたはその誘導体の分子量が90kDa未満であることを特徴とする系。
【請求項2】
キトサンまたはその誘導体の分子量が1ないし75kDaで構成される、請求項1に記載の系。
【請求項3】
キトサンまたはその誘導体の分子量が2ないし50kDa、より好ましくは2ないし15kDaで構成される、請求項1または2に記載の系。
【請求項4】
ヒアルロナンまたはその塩の分子量が2ないし160kDaで構成される、請求項1から3のいずれかに記載の系。
【請求項5】
ヒアルロナン/キトサン重量比が2:1ないし1:10、好ましくは2:1および1:2w:wで構成される、請求項1から4のいずれかに記載の系。
【請求項6】
ヒアルロナンがヒアルロン酸のナトリウム塩である、請求項1から5のいずれかに記載の系。
【請求項7】
ナノ粒子が網状化剤によって網状である、請求項1から6のいずれかに記載の系。
【請求項8】
網状化剤がトリポリリン酸塩、好ましくはトリポリリン酸ナトリウムである、請求項7に記載の系。
【請求項9】
ナノ粒子が平均サイズ1ないし999nm、好ましくは50ないし500nm、さらに好ましくは約100ないし約300nmである、請求項1から8のいずれかに記載の系。
【請求項10】
多糖、タンパク質、ペプチド、脂質、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸およびその混合物から成る群から選択される生物活性分子をさらに含む、請求項1から9のいずれかに記載の系。
【請求項11】
生物活性分子が、核酸を基礎とする分子、オリゴヌクレオチド、siRNAまたはポリヌクレオチドであり、好ましくはDNA−プラスミドである、請求項10に記載の系。
【請求項12】
ナノ粒子が凍結乾燥形である、請求項1から11のいずれかに記載の系。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかで定義されるような系を含む医薬組成物。
【請求項14】
凍結乾燥形の、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
眼投与に適した形の、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1から12のいずれかで定義されるような系を含む化粧品組成物。
【請求項17】
皮膚軟化剤、保存料、芳香物質、にきび薬、抗真菌剤、抗酸化剤、消臭剤、制汗剤、ふけ取り剤、脱色剤、抗脂漏剤、色素、日焼けローション、紫外線吸収剤および酵素から選択される化粧剤をさらに含む、請求項16に記載の化粧品組成物。
【請求項18】
a)ヒアルロナンまたはその塩の水溶液を調製;
b)キトサンまたはその誘導体の水溶液を調製;
c)ヒアルロナンまたはその塩の水溶液へ網状化剤を添加;および
d)b)およびc)で得られた溶液を撹拌しながら混合し、ナノ粒子が自然形成
:を含む、請求項1から12のいずれかに記載の系の調製のための方法。
【請求項19】
ナノ粒子の形成前に生物活性分子が水溶液b)またはc)のいずれかに溶解される、請求項18で定義される方法。
【請求項20】
生物活性分子が段階d)で得られるナノ粒子懸濁液に溶解される、請求項18で定義される方法。
【請求項21】
段階d)の後に、前記ナノ粒子が凍結乾燥される追加の段階をさらに含む、請求項18から20のいずれかで定義される方法。
【請求項22】
遺伝子治療のための薬剤の調製における、請求項1から12のいずれかで定義される系の使用。
【請求項1】
平均サイズ1マイクロメートル未満のナノ粒子を含み、ナノ粒子が
a)ヒアルロナンまたはその塩;および
b)キトサンまたはその誘導体、
を含む生物活性分子の放出のための系であって、キトサンまたはその誘導体の分子量が90kDa未満であることを特徴とする系。
【請求項2】
キトサンまたはその誘導体の分子量が1ないし75kDaで構成される、請求項1に記載の系。
【請求項3】
キトサンまたはその誘導体の分子量が2ないし50kDa、より好ましくは2ないし15kDaで構成される、請求項1または2に記載の系。
【請求項4】
ヒアルロナンまたはその塩の分子量が2ないし160kDaで構成される、請求項1から3のいずれかに記載の系。
【請求項5】
ヒアルロナン/キトサン重量比が2:1ないし1:10、好ましくは2:1および1:2w:wで構成される、請求項1から4のいずれかに記載の系。
【請求項6】
ヒアルロナンがヒアルロン酸のナトリウム塩である、請求項1から5のいずれかに記載の系。
【請求項7】
ナノ粒子が網状化剤によって網状である、請求項1から6のいずれかに記載の系。
【請求項8】
網状化剤がトリポリリン酸塩、好ましくはトリポリリン酸ナトリウムである、請求項7に記載の系。
【請求項9】
ナノ粒子が平均サイズ1ないし999nm、好ましくは50ないし500nm、さらに好ましくは約100ないし約300nmである、請求項1から8のいずれかに記載の系。
【請求項10】
多糖、タンパク質、ペプチド、脂質、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸およびその混合物から成る群から選択される生物活性分子をさらに含む、請求項1から9のいずれかに記載の系。
【請求項11】
生物活性分子が、核酸を基礎とする分子、オリゴヌクレオチド、siRNAまたはポリヌクレオチドであり、好ましくはDNA−プラスミドである、請求項10に記載の系。
【請求項12】
ナノ粒子が凍結乾燥形である、請求項1から11のいずれかに記載の系。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかで定義されるような系を含む医薬組成物。
【請求項14】
凍結乾燥形の、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
眼投与に適した形の、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1から12のいずれかで定義されるような系を含む化粧品組成物。
【請求項17】
皮膚軟化剤、保存料、芳香物質、にきび薬、抗真菌剤、抗酸化剤、消臭剤、制汗剤、ふけ取り剤、脱色剤、抗脂漏剤、色素、日焼けローション、紫外線吸収剤および酵素から選択される化粧剤をさらに含む、請求項16に記載の化粧品組成物。
【請求項18】
a)ヒアルロナンまたはその塩の水溶液を調製;
b)キトサンまたはその誘導体の水溶液を調製;
c)ヒアルロナンまたはその塩の水溶液へ網状化剤を添加;および
d)b)およびc)で得られた溶液を撹拌しながら混合し、ナノ粒子が自然形成
:を含む、請求項1から12のいずれかに記載の系の調製のための方法。
【請求項19】
ナノ粒子の形成前に生物活性分子が水溶液b)またはc)のいずれかに溶解される、請求項18で定義される方法。
【請求項20】
生物活性分子が段階d)で得られるナノ粒子懸濁液に溶解される、請求項18で定義される方法。
【請求項21】
段階d)の後に、前記ナノ粒子が凍結乾燥される追加の段階をさらに含む、請求項18から20のいずれかで定義される方法。
【請求項22】
遺伝子治療のための薬剤の調製における、請求項1から12のいずれかで定義される系の使用。
【図3】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2009−537604(P2009−537604A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511514(P2009−511514)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【国際出願番号】PCT/EP2007/054983
【国際公開番号】WO2007/135164
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508346572)アドヴァンスド イン ヴィトロ セル テクノロジーズ ソシエダッド アノニマ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【国際出願番号】PCT/EP2007/054983
【国際公開番号】WO2007/135164
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508346572)アドヴァンスド イン ヴィトロ セル テクノロジーズ ソシエダッド アノニマ (1)
【Fターム(参考)】
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