説明

活性化レセプタに会合される新しいポリペプチド及びその生物学的応用

【課題】免疫グロブリンタイプ又はレクチンタイプのKIRレセプタ(キラー細胞阻害性レセプタ)の非阻害性対応物であるKARレセプタ(キラー細胞活性化レセプタ)の異常な又は望ましくない機能を診断し、予防し、矯正し、治療することを可能にする新しい手段を提供する。
【解決手段】特定の配列を含む核酸、該核酸によってエンコードされた単離されたポリペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律したレセプタとしてか又はコレセプタとして機能するクラスIのMHC(主要組織適合性遺伝子複合体)の分子に対する活性化レセプタ、及び特にKAR(キラー細胞活性化レセプタ)に由来するシグナルを形質導入する能力をもつ新しい特殊なポリペプチド。免疫原として役立つ前記ポリペプチドから得られる抗体及び、前記ポリペプチドに対応する核酸に関する。
【0002】
本発明は同様に、かかるポリペプチドの獲得方法及び前記ポリペプチド,抗体及び核酸の生物学的応用、より特定的には予防、治療及び診断へのその応用に関する。
【背景技術】
【0003】
生体の一貫性を維持し、無欠性を確保するためには、免疫系は、調整のとれた細胞間連絡系を利用しなければならない。
【0004】
これらの連絡には異なるタイプのレセプタが関与する。そのうちの3つ、すなわちBリンパ球抗原に対するレセプタ(BCR),Tリンパ球抗原に対するレセプタ(TCR)及び抗体のFc部分(RFc)を認識するレセプタについて今や充分に記述されており、それらの異なる構造は比較的良く知られている。
【0005】
抗原に対するレセプタでも抗体に対するレセプタでもないその他のレセプタは、記述されてきたものの、その構造及び作用メカニズムはまだよく知られていない。
【0006】
これらは、KAR(キラー細胞活性化レセプタ)及びその阻害性対応物KIR(キラー細胞阻害性レセプタ)のようなMHC(主要組織適合性遺伝子複合体)の分子に対するレセプタである。
【0007】
KARとKIRは、NK細胞に制限されない:これらは同様に、T細胞により天然に発現される。
【0008】
KARは、KIRと高い相同性をもつ(細胞質外レベルでのKARとKIRの間の相同性は最高96%)。
【0009】
しかしながら、KAR及びKIRは同じ機能を果たすものではない。すなわち、KIRは、NK及びT細胞の活性化の負の制御(阻害作用)に関与するのに対し、KARはNK及びT細胞の活性化の正の制御(刺激作用)に関与する。
【0010】
細胞質内外及び細胞質内のドメインのレベルでの主たる差異は、活性化同型化(KAR)及び阻害性同型体(KIR)の間で実証することができた。
【0011】
実際、KIRとは異なり、KARはその膜内外ドメイン内で荷電アミノ酸残基(リシン)を発現し、その細胞質内ドメイン内にいかなるITIMパターン(チロシン残基に基づく免疫レセプタの阻害パターン)も含んでいない。しかし単量体レセプタKARは、ITAM(チロシン残基に基づく免疫レセプタ活性化パターン)を含んでいない。
【0012】
MHCの分子に対する活性化レセプタであり、IgSF(免疫グロブリンの上科)すなわち、それ自体ITIMもITAMも有さず膜内外荷電アミノ酸(リシン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸)を有するITIM阻害性レセプタの対応物である活性化レセプタの一員であるKARについて観察された状況は、その他のタイプのレセプタについても観察することができる。かくして、(レクチンタイプのものであり、かつその阻害性対応物がNKG2A/Bである)NKG2C/DのようなMHCの分子についての活性化レセプタ(又は少なくとも非阻害性レセプタ)のみならず、そのリガンドがなおも未知である、造血細胞及び非造血性細胞(SIRPβ)についてか又はB細胞、マクロファージ及び樹枝状細胞(ILT1)について記述されたSIRPβ及びILT1のようなその他の非阻害性レセプタについても同様のことがいえる。
【0013】
KARは、特にクラスIのMHCの分子について、自律性レセプタとして機能することができる。かくして、標的細胞の表面上で発現されたクラスIのMHCの分子とKARの係合が、細胞質内Ca2の可動化及び標的細胞の溶解の誘発から実証されたようにリンパ球活性化プログラムを開始することがわかっている。
【0014】
MHC分子に対するその自律性レセプタの機能の他に、KARは同様に、レセプタTCR及びRFcのためのコレセプタ機能をも果たすことができる(非特許文献1、2)。
【0015】
実際、CD16(RFcγIII)のようなレセプタによる免疫グロブリンG(IgG)の定常フラグメント(Fc) の認識の際及びクラスI又はIIのMHCの分子により制限された複合体CD3/TCRによる抗原の認識の際には、KARはコレセプタの役目を果たし、かくして特に少量の抗原に直面して、細胞応答の強度を増大し、経時的細胞応答を維持し、同様に細胞増殖の刺激のために共働することができる。
【0016】
NK及びTリンパ球下位母集団上で天然に発現されるKARの役目は、その固有のリガンドすなわちクラスIのMHCの分子により制限されず、免疫系全般の平衡にまで拡大されている。
【0017】
かくして天然に発現されたKARの機能は、NK及びT細胞の増殖、かかる細胞によるサイトカインタイプの物質の産生、有害な、悪性の又はウイルス感染を受けた自己由来細胞、同種異系細胞のような標的細胞の分解のみならず、或る種の抗原に直面した免疫系の寛容に対し影響を及ぼす。
【0018】
従って、KARの全ての無機能又は機能不全は、全て免疫系の機能に関連する、例えば免疫不全疾患、自己免疫疾患(例えば多発性硬化症)、腫瘍、ウイルス感染、細菌感染、寄生虫感染、アレルギー、移植片拒絶のような、さまざまな疾病又は望ましくない反応を導く可能性がある。例えば、ヒトがKARを発現するリンパ球を平均して10%未満しか有していないとすると、LDGL(顆粒リンパ球増殖病)にかかった患者のリンパ球のほぼ全てはKARを発現する。
【非特許文献1】マンデルボイム・オー(Mandelboim O)ら著、「Science」、1996年、第274巻、p.2097
【非特許文献2】カムビアッジ・エイ(Cambiaggi A.)ら著、「Blood」、1996年、第87巻、p.2369
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、KARのようなクラスIのMHCの分子についての活性化レセプタの異常な又は望ましくない機能を診断しその機能を制御することを可能にする手段を提供することにある。
【0020】
かくして、本発明は、KARに由来するシグナルの形質導入に必要な、以下KARAP(KAR会合タンパク質)と呼ばれる新しいポリペプチド,ならびに、これらの新しいポリペプチドから得られた抗体及び核酸を目的とする。本発明は同様に、前記新しいポリペプチドの獲得方法ならびにその生物学的応用をもその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
「KARレセプタ」というのは、本明細書においては、KARp50レセプタ(KIR II DS1〜KIR II DS5)のようなKIRレセプタの非阻害性対応物である免疫グロブリンタイプのヒトレセプタ、KIR III DS1,ならびにこれらのKARレセプタに類似する構造をもつ非阻害性のあらゆるレセプタ、特に(NK細胞及びT細胞上で天然に発現されている)NKG2C,NKG2Dのようなレクチンタイプのヒトレセプタ、(骨髄性細胞,B細胞上で天然に発現されている)pir Aのような免疫グロブリンタイプのマウスレセプタ、(マスト細胞上で天然に発現されている)gp49A,(NK及びT細胞上で天然に発現されている)Ly49D,Ly49Hのようなレクチンタイプのマウスレセプタを意味している。
【0022】
従って、KARAPポリペプチドというのは、それが無い状態では前記KARレセプタが天然に、検出可能な活性化シグナルを形質導入する能力をもたないような、単離された全てのポリペプチド(KAR以外)のことを意味している。これにより、決定されたKARAPポリペプチドが以上のようなKARレセプタのみならず、上述のようなKARの構造に近い構造をもつ活性化又は非阻害性のその他の単量体レセプタにも、そして特に、ILT1のようなLIR/MIR/ILT系統群の免疫グロブリンタイプのヒト活性化レセプタにも会合(associate)されうるという事実が排除されることはない。
【0023】
本出願においては、「ポリペプチド」という語は、前記ポリペプチドのみならず、アミノ酸の保存的欠失、挿入、逆位又は置換によって得られるようなこのポリペプチドの相同体及び、プロテアーゼを用いて前記ポリペプチドの加水分解によって得られるようなこのポリペプチドのフラグメントをも含んでおり、これらの相同体又はフラグメントは、KARに由来するシグナルを形質導入する能力をもつ。この「ポリペプチド」という語は、本出願において、ポリペプチドと同様タンパク質をも網羅する。
【0024】
本発明に従ったポリペプチドは、KARレセプタにより受理されたシグナルの形質導入に必要なものである:従って、これは、KAR活性化不足の回復を可能にする単離されたタンパク質である。一定の与えられた単離されたポリペプチドが、KAR活性化不足の回復を可能にするか否かを決定するためには、当業者は、このポリペプチドの不在下で適切な細胞によりそれが発現される場合でも、検出可能な活性化シグナルを形質導入するには至らず、又は目的とされている利用分野にとって満足のいく活性化シグナルを形質導入するには至らないKARレセプタが存在することを示すことにより作業を進めることができる。この決定の1実施形態が、KARp50.2レセプタのみを発現するRBL−2H3細胞の活性化能力(セロトニンの塩析)及びKARp50.2レセプタとそのKARAPポリペプチドを同時に発現するRBL−2H3細胞の能力の間での比較により後述の実施例3において提示されている。適切な細胞の例が、後の図5に示されている。
【0025】
「回復されたKAR活性化不足( deficient ) 」というのは、有意な活性化シグナルの前記KARによる細胞での形質導入が可能であるか場合によっては充分であることを意味する。このことは、特に抗体による細胞刺激を用いてテストされうる。
【0026】
細胞レベルで、KARに由来するシグナルが形質導入されているか否かを決定するため、及び、かかるシグナルが刺激されているか又は阻害されているかを決定するために、当業者は数多くの手段を利用することができる。のような手段の例としては、リガンドによる前記KARの刺激及び、分泌されたサイトカイン(例えば、Cambiaggi et al., 1996,Blood 87:2369参照)、細胞増殖(例えば Mandelboim et al., 1996年、Science 274:2097参照)、細胞毒性(例えば後で記述する再誘導された細胞毒性テスト参照)、細胞質内カルシウム可動化(例えば、Blery et al., 1997,J. Biol. Chem.272,8989−8996参照)、及び/又はリン酸化の誘発(例えば Vivier et al., 1991. J. Immunol. 146:206参照)の測定が含まれる。
【0027】
本発明に従ったポリペプチドはさらに、KARには会合するもののこのKARの阻害性対応物には会合しないという能力をもつことを特徴とする。
【0028】
1つのポリペプチドがKARに会合するもののこのKARの阻害性対応物には会合しない(すなわち対応するKIRレセプタに会合しない)能力をもつか否かの決定を可能にする方法は、当業者には周知のものである。かかる方法の一例には、特に次の段階が含まれる:
− 一方ではKARKIR細胞に、そして他方ではKARKIR細胞にこのポリペプチドを発現させる段階;
− 少なくとも抗KAR及び/又は抗KIR抗体を用いてこれらの細胞の溶解産物から単数又は複数のポリペプチド分画を免疫沈降させる段階;
− KARKIR細胞に由来する単数又は複数の分画内での前記ポリペプチドの存在及び、KARKIR細胞に由来する単数又は複数の分画内でのこの同じポリペプチドの不存在を観察する段階。抗KIR及び/又は抗KAR抗体の例としては、抗CD158固体、抗p70/NKB1抗体、抗P140抗体そしてより特定的にはEB6,GL183又はPAX250モノクローナル抗体が含まれる。細胞によりこのようなポリペプチドを発現させることを可能にする方法が、後述の実施例3で示されている。
【0029】
なお本発明に従ったKARAPポリペプチドは、
i. 抗CD158,抗P70/NKB1,抗P140抗体のような単数又は複数の抗KIR及び/又は抗KAR抗体,より特定的には、モノクローナル抗体EB6,GL183又はPAX250を用いて活性化シグナルを形質導入する能力をもつKARレセプタを発現する細胞溶解産物の単数又は複数のポリペプチド分画の免疫沈降により得られ、
ii. 各ポリペプチド分画は、任意には、これより以前に抗CD3ζ及び/又は抗FcεRIγを用いた免疫沈降された分画の除去により枯渇され得及び/又は新たに抗CD158,抗P70/NKB1,抗P140抗体のような単数又は複数の抗KIR及び/又は抗KAR抗体、そしてより特定的にはモノクローナル抗体EB6,GL183又はPAX250を用いて免疫沈降され得、
iii. その分子量に従った前記単数又は複数のポリペプチド分画のポリペプチドの分解及び約12±2kDaの分子量に対応するポリペプチドの回収によってか又は、
前記単数又は複数のポリペプチド分画をキナーゼ試験に付した後その分子量に従って前記単数又は複数のポリペプチド分画を分解し、約12,14及び/又は16±2kDaの分子量に対応するリン酸化されたポリペプチドを回収することによっても得られるものであることを特徴とする。
【0030】
活性化シグナルを形質導入する能力をもつKARレセプタを発現する前記細胞は、特に、NK細胞及び/又はT細胞及び/又は骨髄性細胞及び/又はB細胞及び/又はマスト細胞でありうる。KARが、細胞においてシグナルを形質導入する能力を有するか否かを決定する方法が以上で示された。
【0031】
本発明に従ったKARAPポリペプチドはさらに、そのアミノ酸配列が、
− リン酸化可能なチロシンアミノ酸を少なくとも1つ有し、
− 約10±2から16±2kDaの間に含まれる分子質量(特に10±2kDaの実際の分子質量、リン酸化の程度に応じて12±2〜16±2kDaの変性条件下でのポリアクリルアミドゲル上の見かけの分子質量)を有することを特徴とする。
【0032】
さらにこのポリペプチドは、そのアミノ酸配列が細胞質内領域において少なくとも1つのITAM YxxL/Ix6-8YxxL/Iパターンを有することを特徴とする。
【0033】
本発明の1態様に従うと、KARAPポリペプチドのアミノ酸配列は、細胞質外領域、膜内外領域及び/又は細胞質内領域を含む。特徴的には、この細胞質内領域は、このポリペプチドの配列その他の領域との関係において大半を占めている。細胞質外、膜内外、細胞質内領域を同定するための手段は、当業者には既知のものである(例えば、水治療法アルゴリズム、逆小胞形成)。
【0034】
本発明のもう1つの態様に従うと、KARAPポリペプチドのアミノ酸配列は、細胞質外システインアミノ酸を少なくとも1つ有する。
【0035】
本発明のさらにもう1つの態様に従うと、KARAPポリペプチドのアミノ酸配列は、少なくとも1つの膜内外荷電アミノ酸(R,K,D,E)を有する。
【0036】
本発明に従ったポリペプチドは、少なくとも1つのチロシンのレベルでリン酸化されてもよいし、或いは又リン酸化されなくてもよい。
【0037】
本発明に従った一実施形態においては、前記ポリペプチドは、ジスルフィド架橋により結合された2量体の形を有している。これらは、クラスIのMHCの分子のための自律的レセプタとしてか又はCD16のようなRFc又はTCRのコレセプタとして機能するKARに対し、選択的かつ非共有結合的に会合させられる。
【0038】
本発明の有利な一形態に従うと、KARAPポリペプチドは、ZAP−70,P72SYK,P56ICK,P59fyn,P60lyn,Grb−2,PP36−38(lat),PLC−α1,P85(PI−3キナーゼ),ShcのようなドメインSH2をもつ分子、又はShcのようなドメインPTB(ホスホチロシン結合)をもつ分子に結合される能力をもつ。かかる結合は、本発明のポリペプチドをドメインSH2又はPTBをもつ分子と共にインキュベートしプラズモン共鳴を測定することによって観察できる(Olcese et al.,1996,The Journal of Immunology 156:4531〜4534)。
【0039】
本発明に従った特定のKARAPポリペプチドは、基本的に配列番号2により構成されたアミノ酸配列を有する。本発明は、同様に、その配列が基本的に配列番号2の細胞質外部分つまり配列番号3によってか又は配列番号2の膜内外部分つまり配列番号4,又は配列番号2の細胞質内部分つまり配列番号5によって構成されているポリペプチドをも目的としている。本発明に従ったその他の特別なKARAPポリペプチドは、基本的に配列番号11,12,13,14,15,17(マウスC57B1/6のKARAPタンパク質のコンセンサス配列)又は配列番号28(ゲノミック配列から得られるマウス129のKARAPのタンパク質配列)によって構成されている。
【0040】
かかるポリペプチドは同様に、配列決定の後、化学的合成又は組換え型DNA技術を用いて得ることもできる。
【0041】
前記KARAPポリペプチドは、細胞質内ITAMもITIMも有していないものの膜内外アミノ酸残基を有する活性化レセプタKARに由来するシグナルの形質導入に必要なものである。
【0042】
有利な配置に従うと、本発明に従ったポリペプチドは、グリコシル化、リン酸化、スルホン化、ビオチニル化、アシル化、エステル化;ホスホン酸塩のようなリン酸塩基のものに近い分子形態をもつ実体の添加、置換又は抑制;ルシフェラーゼ、GFP(Green Fluorescence Protein) 又はその類似体のような標識付け試薬の添加;親和性リガンドのような精製用標的の添加;その可溶性を修正する実体の添加;によって修飾される。特に有利な修飾としては、受理したシグナルを形質導入するその能力を阻止又は阻害するような形で前記ポリペプチドを修飾するものが含まれる(負のトランス優性形質の戦略)。このように修飾された形をした本発明に従ったポリペプチドは、特に、一定の与えられた免疫応答特に望ましくない又は異常な免疫応答(例えば自己免疫疾患、アレルギー、移植片拒絶)を負に変調させる(阻害する)ことを目的とする全ての組成物又は方法において利用される。このように適切な修飾としては、前記ポリペプチドのチロシン上でのリン酸化を生物学的条件下で加水分解不能にする(例えばホスホン酸塩の添加により)ような修飾が含まれる。この修飾には同様に、本発明に従ったポリペプチドの機能にとって重要なアミノ酸残基を非機能的にする修飾も含まれる。これは例えば特にITAMパターン内に含まれるチロシン残基のようなチロシン残基(Y)をフェニルアラニン残基(F)に置換又は突然変異させることによる。これにより、こうして修飾された前記ポリペプチドの、ドメインSH2又はPTBをもつタンパク質に対する結合が妨げられる。
【0043】
もう1つの有利な措置に従うと、本発明のポリペプチド,そのフラグメント,相同体又は修飾された形態は、細胞膜すなわち脂質2層を横断する能力をもつ。
【0044】
本発明は同様に、本発明に従ったKARAPポリペプチドからの免疫誘発によって得られる、又はかかるポリペプチドのフラグメント,相同体又は修飾された形態から得られるような抗体特にモノクローナル抗体及びかかる抗体のフラグメント特にフラグメントFc,Fv,Fab,F(ab)',CDRをも目的としている。
【0045】
本発明の目的は特に、その配列が基本的に本発明に従ったかかるKARAPポリペプチドの細胞質外、細胞質内又は膜内外部分によって構成されているポリペプチドから免疫誘発によって得られるような、かかる抗体のフラグメント特にフラグメント,Fc,Fv,Fab,F(ab)',CDRにある。本発明は特に、抗原抗体タイプの反応に従って配列番号2,配列番号3,配列番号4,配列番号5,配列番号11,配列番号12,配列番号13,配列番号14,配列番号15,配列番号17及び/又は配列番号28を認識する能力をもつような抗体、ならびにそのフラグメントを目的とする。
【0046】
かかる抗体は、基本的に電気泳動バンドの溶出、化学的合成又は可溶性融合タンパク質技術(GST)により得られ、任意には卵白アルブミンのような免疫原に結合された、本発明に従ったポリペプチド,フラグメント,相同体又は修飾形態に対して、ウサギ及びマウスのような動物を免疫化することによって得られる。
【0047】
このときモノクローナル抗体は、免疫脾細胞のハイブリドーマ融合、スクリーニング及び培養上清の精製によって産生される(Kohler et Milstein, 1975,Nature 256,495−497;抗体,その実験室マニュアル,1988,Harlow 及び David Lane, Ed, Cold Spring Harbor laboratory)。
【0048】
これらの抗体から、標準的な手順に従ってジ抗体を生成することができる。前記フラグメントは、必要とあらばヒト化構造に挿入又は移植することができる。
【0049】
本発明は同様に、本発明に従ったポリペプチド,フラグメント又は相同体のアミノ酸配列の世界遺伝子コードに従いこのコードの縮重を考慮に入れた読取り枠読取りに対応する1つの配列ならびにかかる核酸と60%以上の相同性を有しかつ上述のようなKARに由来する活性化シグナルの形質導入分子についてコードすることのできる変異体をも目的としている。本発明は、特に、そのDNAが基本的に配列番号1(配列番号2の配列の成熟KARAPタンパク質のcDNA),配列番号6,7,8,9,10,16(C57B1/6マウスのKARAPのコンセンサスcDNA配列),配列番号27(ゲノミック配列から得られた129マウスのKARAPのcDNA),配列番号18(129マウスのKARAPのゲノミック配列)、又は配列番号31(ヒトKARAPのcDNA配列)によって、又はこれらの配列の細胞質外、細胞質内及び/又は膜内外領域に対応するあらゆる部分、又はこれらの配列のエキソン又はイントロンに対応するあらゆる部分によって構成されているようなあらゆる核酸をも目的としている。
【0050】
本発明は同様に、以下の段階を含む本発明に従ったポリペプチドの獲得方法をも目的としている:
i. 抗CD158,抗P70/NKB1,抗P140抗体のような単数又は複数の抗KIR及び/又は抗KAR抗体,より特定的には、モノクローナル抗体EB6,GL183又はPAX250を用いて機能的KARレセプタを発現する細胞(例えばNK細胞及び/又はT細胞及び/又は骨髄性細胞及び/又はB細胞及び/又はマスト細胞)の溶解産物の単数又は複数のポリペプチド分画を免疫沈降する段階、
ii. 各ポリペプチド分画は、任意には(場合によっては)、これより以前に抗CD3及び/又は抗FcεRIγを用いた免疫沈降された分画の除去により枯渇され得及び/又は新たに抗CD158,抗P70/NKB1,抗P140抗体のような単数又は複数の抗KIR及び/又は抗KAR抗体、そしてより特定的にはモノクローナル抗体EB6,GL183又はPAX250を用いて免疫沈降され得る、
iii. その分子量に従って前記単数又は複数のポリペプチド分画のポリペプチドを分離し約12±2kDaの分子量に対応するポリペプチドの回収するか、又は
前記単数又は複数のポリペプチド分画をキナーゼ試験に付した後その分子量に従って前記単数又は複数のポリペプチド分画を分離し、約12,14及び/又は16±2kDaの分子量に対応するリン酸化されたポリペプチドを回収する段階。
【0051】
本出願は同様に、本発明に従った特殊なKARAPポリペプチド配列を得るための方法をも目的としている。後述の実施例2でその一例を記述する(生物情報処理戦略)この方法は、特に、ポリペプチド配列のうち以下の基準を満たすもののスクリーニングを含んで成る:
− リン酸化可能なチロシンアミノ酸を少なくとも1つ有する、
− 5から25kDaの間の分子質量を有する、
− 細胞質外領域、膜内外領域及び細胞質内領域を有する、
− その細胞質外領域内にシステインアミノ酸を少なくとも1つ有する。
【0052】
− その膜内外領域内に荷電アミノ酸(R,K,D,E)を少なくとも1つ有する、及び
− その細胞質内領域内にITAM YxxL/Ix6-8YxxL/Iパターンを少なくとも1つ有する、
− 選択された配列に対応するポリペプチドは、前述のように、KARに会合しかつ対応する阻害性対応物レセプタ(KIR)には会合しないという能力をもたなくてはならない。
【0053】
本出願は同様に、候補ポリペプチドが本発明に従ったKARAPポリペプチドに対応するか否かを決定する又は制御するための方法をもその目的としている。かかる方法の一例は、後述の実施例2に示されている。かかる方法は、この候補ポリペプチドの特徴的部分(例えば少なくとも1つのITAMパターン又は細胞質外領域を含む細胞質内領域)に対する抗体を産生すること及び1つの細胞上で機能的に発現された場合に前記抗体により抗原抗体タイプの反応に従って認識済みの要素に会合された状態となっているKARレセプタが存在するか否かを確認することから成る。
【0054】
本発明に従ったこのKARAPポリペプチド同定方法は、かくして特に、
− 候補ポリペプチド,特にこの候補ポリペプチドの細胞質外領域及び/又は少なくとも1つのITAMパターンを含む領域に対して導かれたモノ又はポリクローナル抗体(例えば、以上で同定された配列番号2のマウスKARAPタンパク質の場合には配列番号2の細胞質外部分(配列番号3)又は細胞質内部分(配列番号5)の領域に対し導かれた抗体を産生すること、
− 抗原−抗体タイプの結合反応を可能にする穏やかな条件下で候補ポリペプチドがKARAPを構成すると想定されている対象の活性化又は非阻害性レセプタを、1つの機能的形態にて有する細胞の溶解産物と、この抗体を接触させること、
− 場合によって形成される反応産物の中に、前記活性化又は非阻害性レセプタのものに近い見かけの分子質量(KARp50については約50kDa)をもつ産物及び候補ポリペプチドのものに近い見かけの分子質量(特に約10〜16kDaの間)をもつ産物が存在する場合に、本発明に従ったKARAP ポリペプチドであるものとしてその候補ポリペプチドを同定すること、
から成る。
【0055】
本発明に従ったこの同定方法は特に、
− 上述の通りに前記抗体を接触させ、
− 分子複合体を保存する洗剤の穏やかな条件下で(例えば1%のジギトニン、上述の実施例1参照)、場合によって形成された反応産物を沈降させ、
− 例えば、変性条件内でポリアクリルアミドゲル上の分子質量マーカーの存在下での電気泳動遊走により、沈降された産物の分子質量を測定し、
− 上述のとおりの本発明に従ったKARAPポリペプチドであるものとして候補ポリペプチドを同定することによって
実施することができる。
【0056】
本発明は同様に、薬学的に受容可能なビヒクルと会合した(組み合わせた)形で、本発明に従った少なくとも1つのポリペプチド,KARAP,フラグメント,相同体又は修飾された形態、本発明に従った少なくとも1つの抗体又は抗体フラグメント又は、本発明に従った少なくとも1つの核酸又は核酸変異体を有効量含んで成る薬学組成物にも関する。
【0057】
本発明に従った薬学組成物は、経口投与、非経口投与、局所施用、膣内投与、直腸内投与又は経口及び/又は経鼻吸入のため、固体、液体の形又は懸濁液の形で製剤することができる。
【0058】
本発明に従った前記薬学組成物は、KARの活性を変調させることを目的とする。KARの活性を刺激するためには、前記薬学組成物は、例えば、脂質2層を横断する能力をもつ本発明に従った変異体であるポリペプチド,フラグメント,相同体又は核酸のような、前記KARに由来するシグナルの形質導入を容易にする作用物質を含むことになる。KARの活性を阻害するため、前記薬学組成物は、細胞のKARAPを遮断するような形で脂質2層を横断する能力をもつ本発明に従った抗体フラグメント,又は、SH2(ZAP−70,P72syk) 又はPTBドメインをもつタンパク質又は前記KARの活性化のあらゆるアダプタ又はエフェクタ分子を遮断するような形で生物学的条件下で加水分解不能のリン酸などでリン酸化された又はされていない本発明に従った修飾済みポリペプチドのような、前記KAR由来のシグナルの形質導入を遮断する作用物質を含むことになる。かかる修飾は、特にリン酸塩基の添加及び/又は少なくとも1つのチロシン残基(Y)のフェニルアラニン残基(F)への突然変異を含む。
【0059】
従って、本出願は、免疫反応に関与する細胞の異常な又は望ましくない機能の予防、一時的緩和、及び/又は治療を目的とする組成物を目的とする。かかる組成物は、有利には本発明に従ったポリペプチド又は場合によっては修飾済みポリペプチドを含んで成る。
【0060】
細胞のレベルで、KARに由来するシグナルが翻訳されたか否かを決定するため及びかかるシグナルが刺激又は阻害されたか否かを決定するため、当業者は数多くの手段を利用することができる。かかる手段の例が以上で示されてきた。
【0061】
診断用作用物質としての前記ポリペプチド,抗体及び核酸の利用も又、本発明の範囲内に入る(診断方法及びその利用を可能にする診断用キット)。
【0062】
本発明は同様に、以下の段階を含む細胞の異常な又は望ましくない機能のインビトロ診断方法をも目的としている。
【0063】
− 少なくとも1つの細胞又は細胞抽出物を、本発明に従った抗体又はそのフラグメント,又は本発明に従った核酸又はその変異体を接触させる段階、及び
− 場合によって形成された反応産物の存在を明らかにする段階。
【0064】
接触段階は、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)のような抗原抗体タイプの反応、又は核酸ハイブリダイゼーションタイプの反応及びPCR(ポリメラーゼ連鎖増幅)の樹立を可能にする、特に接続時間、温度、緩衝液、場合によってはゲル網状化の条件の中で実施される。
【0065】
場合によって形成される反応産物を明らかにするためには、螢光マーカー、酵素マーカー、放射性マーカー、又は発光マーカーを利用することができる。
【0066】
本発明に従った前記インビトロ診断方法は、免疫増殖疾患、HIV疾患のような免疫不全疾患、顆粒リンパ球増殖疾患のようなガン、リウマチ様多発性関節炎のような自己免疫疾患、マラリアのような感染性疾患、アレルギー応答、移植片拒絶の形で現われうる異常な又は望ましくない細胞機能の診断を可能にする。
【0067】
本発明は同様に、KARの活性化のアダプタまたはエフェクタ分子の同定方法及び、KARの活性化の結果としての細胞活性を変調させる能力をもつ分子の同定方法にも関する。
【0068】
本発明に従ったKARの活性化のアダプタ又はエフェクタ分子の前記同定方法は、次の段階を含んで成る:
i.本発明に従ったポリペプチド(又はそのフラグメント又はその相同体)と候補分子を接触させる段階、及び
ii. 前記ポリペプチド(又はそのフラグメント)に対する結合が観察される候補分子を選択する段階。
【0069】
KARの活性化のアダプタ又はエフェクタ分子である可能性のある候補分子は、例えばSH2又はPTBドメインをもつ分子の中から選択することができる。これらの分子は、可溶性組換え型形態を有することができる。
【0070】
接触段階は例えば、KARの活性化のアダプタ又はエフェクタ分子である可能性のある可溶性組換え型形態で得られた候補分子を、シンチレーション液の球のような放射能測定を可能にする球にカップリングさせること及び前記球上にトリチウム標識づけされた形の本発明に従ったポリペプチド(又はそのフラグメント又は相同体)を通過させることによって実施することができる。このとき、候補分子のうち、放射能測定(cpm)によって前記ポリペプチド,フラグメント又は相同体に対するその結合が観察された候補分子が選定される。
【0071】
接触段階は同様に、マイクロ支持体BIAcore(Pharmacia) のようなプラズモン共鳴の測定を可能にするマイクロ担体上の本発明に従ったポリペプチド(又はそのフラグメント又はその相同体)の不動化によって(例えば、Olcese et al.,1996,The Journal of Immunology 156:4531−4534; Vely et al., Immunology Letters1996,vol.54.p145−150を参照のこと)又はストレプタビジン球上でリン酸化及びビオチニル化された本発明に従ったポリペプチドの不動化(Vely et al. Eur. J. Immunol.1997,27:1994−2000; Le Drean et al. Eur. J. Immunol. 1998,28:264−276)によって、及び前記マイクロ支持体上の、KARの活性化のアダプタ又はエフェクタ分子である可能性のある候補分子の通過によっても実施可能である。このとき、プラズモン共鳴の測定(Resonance Unit) により、候補分子のうち、前記ポリペプチド,フラグメント又は相同体に対するその結合が観察された候補分子が選定される。
【0072】
KARの活性化のアダプタ又はエフェクタ分子のこの同定方法は、その実施様式の如何に関わらず、本発明に従ったKARの活性化の結果としてもたらされる細胞活性を変調させる能力をもつ分子の同定方法の実施における基準として役立つこともできる。
【0073】
本発明に従ったKARの活性化の結果として得られる細胞活性を変調させる能力を有する分子のこの同定方法は、以下の段階を含んで成る:
i.上述の本発明に従った方法によって得られるようなKARの活性化のアダプタ又はエフェクタ分子、及び本発明に従ったポリペプチド(又はそのフラグメント又は相同体)と、候補分子を接触させる段階、及び
ii. 候補分子のうち、かかる候補分子の不存在下で観察されるような前記ポリペプチド(又はそのフラグメント又は相同体)と前記アダプタ又はエフェクタ分子の間の結合に対し効果を及ぼす候補分子を選択する段階。
【0074】
KARの結果得られた細胞活性を変調する可能性のある候補分子は、天然又は合成の化合物バンク、特に化学的又は組合せバンクの中から選択することができる。前記候補分子は、(例えば本発明に従った抗体のような抗イディオタイプ抗体の誘導体又はフラグメント,触媒抗体の誘導体又はフラグメントのような)タンパク質、炭素質、脂質又は核タイプのものでありうる。
【0075】
本発明に従ったKARの活性化の結果としての細胞活性を変調させる能力をもつ分子の同定方法の接触段階は、例えば、本発明に従ったポリペプチド(又はそのフラグメント又は相同体)及び本発明に従った方法によって得られるようなKARの活性化のアダプタ又はエフェクタ分子を用いて前記候補分子を、例えば、酵素特性、リン酸化又は自己リン酸化特性のような未結合状態の前記アダプタ又はエフェクタ分子の化学特性に基づいて前記KARの活性化のアダプタ又はエフェクタ分子と前記ポリペプチドの間の結合率を測定することを可能にするような条件下でインキュベートさせることによって実施することができる。
【0076】
本発明に従ったKARの活性化の結果として得られる細胞活性を変調させる能力をもつ分子の同定方法の接触段階は、同様に、それぞれ放射能又は候補分子の不存在下又は存在下での前記アダプタ又はエフェクタ分子と前記ポリペプチドの間の結合の結果として得られるプラズモン共鳴を測定することによる、上述のようなシンチレーション液球又はトリチウム標識づけされたポリペプチドタイプの技術又はマイクロ支持体及びプラズモン共鳴の測定タイプの技術を利用することによって実施可能である。このとき、候補分子のうち、これらの分子の不存在下で前記アダプタ又はエフェクタ分子と前記ポリペプチドの間で測定されるコントロール結合率を統計的に有意な形で増大又は減少させる候補分子が選定される。
【0077】
本発明に従った方法により同定されるようなKARの活性化を変調させる能力をもつ分子は、それらを生物学的条件下で加水分解不能にするような形で及び/又はそれらが細胞脂質2層を横断しうるような形で、化学的に修飾されうる。
【0078】
本発明に従った、KARの活性化を変調させる能力をもつ分子は、有利には前記KARAPとその細胞エフェクタ又はアダプタの間の相互作用を修飾することによって作用する。
【0079】
このとき、本発明に従ったKARの活性化の結果としての細胞活性を変調させる能力をもつ前記分子は、例えばリガンドとの接触によりそのKARが刺激されたリンパ球のようなインビトロで培養された細胞に対して適用することができる。この適用は、例えば、脂質2層を超えることができるようにする化学的修飾又は電気穿刺法による前記細胞内部への進入によって行なわれる。
【0080】
本発明は、いかなる場合であっても制限的なものとみなされてはならない後述の実施例によって例示されている。
【0081】
ここでは、以下の23の図が参考にされている:
【発明を実施するための最良の形態】
【0082】
実施例1
1.材料と方法
モノクローナル抗体(mAbs)及び試薬
以下のモノクローナル抗体が利用された:
− JT3A(Coulter Immunotech 照会番号0178),KD1(Coulter Immunotech照会番号0813)及びTA181,H12(Coulter Immunotech 照会番号1844)のようなイソタイプIgG1の抗CD3,抗CD16及び抗CD56抗体、
− TIA−2のような抗CD3ζ抗体(Coulter Immunotech 66045P2)、
− 抗CD158抗体、すなわちEB6のような抗p58.1抗体(Coulter Immunotech照会番号1847)、GL183のような抗p58.2抗体(Coulter Immunotech照会番号1846)、及び Bottino et al.(Eur. J. Immunol.1996,26,1816)内で記述されている PAX250のような抗p50.3抗体、
− Jouvin M. H. et al.,1994,J. Biol. Chem., 269,5918−5925中に記述された抗血清666のようなウサギ抗FcεRIγ抗血清、
− Bociano L. K. et al., 1986,J. Biol. Biochem. 261,11823−11831の中で記述されている抗血清BC4のようなウサギ抗FcεRIα抗血清、
− ワサビペルオキシダーゼに複合されたヤギ抗マウス抗血清(Sigma A−2304)及びワサビペルオキシダーゼに複合されたヤギ抗ウサギ抗血清(Sigma A-0545),
− イソチオシアン酸フルオレセイン(Coulter Immunotech 0819F(ab'))に複合されたヤギ抗マウス免疫グロブリン(Coulter Immunotech 0819F(ab')),
− GL183−フィコエリスリン(GL183−PE)(Coulter Immunotech 2278)(EB6−フィコエリスリン(EB6−PE)モノクローナル抗体(Coulter-Immunotech 2277)及びヤギ抗マウスフィコエリスリン免疫グロブリン(抗マウスPE)(Coulter Immunotech 0855 F(ab'))。
【0083】
溶解緩衝液は、pH7.5のトリス−HCl 250mM;NaCl 150mM;ジギトニン1%;オルトバナジン酸ナトリウム100μM;NaF10mM;アプロチニン2μg/ml;ロイペプチン2μg/mlを含有し、これらの物質は全て、Sigma 社(USA,MO,St Louis) から購入された。
【0084】
キナーゼ緩衝液は、pH7.2の Hepes 20mM;NaCl 100mM;MnCl 5mM;MgCl 5mM;32γATP10μCi=370kBq(Amersham, Buckinghamshire, UK) を含有していた。
【0085】
薄層電気泳動緩衝液(TLE)は、10%の氷酢酸及び水中1%のピリジン;pH3.5を含んでいた。
【0086】
細胞
LDGL患者由来のヒトNK細胞又はLDGL細胞
ヒトNK細胞は、NK細胞系統CD56,CD16,CD3の顆粒リンパ球増殖性疾患(LDGL,Lymphoproliferative Disease of Granular Lymphocytes)を患う患者から、ヒトNK細胞を得た。末梢血リンパ球(PBL,Peripheral Blood Lymphocyte)を、フィコール/ハイパーク勾配に従った遠心分離により、LDGLを患う患者の血液標本から単離した。次に、これらのLDGL細胞を、照射された異質遺伝子型栄養細胞及び100U/mlのrIL−2の存在下において、10%ウシ胎児血清及び10μg/mlのペニシリン−ストレプトマイシンにより、RPMI−1640培地上で1mlにつき10個の細胞の濃度、37℃の温度で培養した。
【0087】
トランスフェクションを受けた細胞RTIIB.p50.2 の獲得
KAR p50.2を発現するRBL−2H3細胞のトランスフェクタント(American Type Culture Collection)(RTIIB.50.2細胞)を、Blery et al.,1997.J. Biol. Chem., 272,8989−8996に記述された通りに実現した。図6は、概略的に、KIRp58レセプタ(免疫グロブリンタイプの阻害性ヒトレセプタ)及びKARp50(KIRp58レセプタの非阻害性対応物)の構造を表わしている。
【0088】
簡単に言うと、利用されているRTIIB細胞は、マウスCD3の完全な細胞質内ドメインに結びつけられたヒトCD25の完全な膜外及び膜内外ドメインを含むキメラ分子CD25/CD3及びマウスFcγRIIb2レセプタを発現するような形でトランスフェクションを受けたRBL−2H3細胞であるものとして従来記述されてきた細胞である。
【0089】
これらのRTIIB細胞は、さらに、発現ベクターRSV−5gpt上に支持された(p50.283についてコードする)cDNA183.Actの電気穿刺法によるトランスフェクションを受けた。
【0090】
安定したトランスフェクション済みのRTIIB.p50.2細胞は、キサンチン(250μg/l),ハイポキサンチン(13.6μg/l)及びマイコフェノール酸(2μg/l)の存在下での培養により樹立された。
【0091】
細胞溶解試験
IL−2上で培養されたLDGL細胞の細胞溶解活性は、抗CD16,抗CD158及び抗CD56mAbsの不存在下又は存在下で、P815マウス細胞系統(American Type Culture Collection)との関係において測定された。
【0092】
簡単に言うと、51Crで標識づけされた5×10個の標的細胞を、4時間,51Crの標準遊離試験の開始時点でハイブリドーマの上清モノクローナル抗体50μlの存在下でエフェクタ細胞の連続希釈液に添加した(Vivier E. et. al., 1991. J. Immunol. 146:206)。
【0093】
放射性ヨウ化
PBS(リン酸ナトリウム緩衝液)の中で0.5%のホルムアルデヒドに細胞(10−50×10)を固定し、その後、Anderson P. et al., 1989,J. Immunol. 143:1899)によって記述されたようにラクトペルオキシダーゼ(125I,NEN-Dupont Wilmington, DE, USA)を触媒としたヨウ化に先立って、PBS中で30μg/mlのジギトニンを用いて5分間、これに透過性を付与した。
【0094】
細胞を、ジギトニン入り溶解緩衝液中で4℃で30分間、溶解させた。このとき、予め精製した核後上清を、S4B−セファローズ球(Pharmacia, Piscataway, NJ. USA) を被覆する特異的抗体を用いて免疫沈降させた(Vivier E. et al., 1991,J. Immunol. 146:206)。免疫沈降物を、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム及びゲル上の電気泳動によるタンパク質の分解)及びオートラジオグラフィによって分析した。
【0095】
インビトロキナーゼ試験
1mlの溶解緩衝液(試薬参照)の中に細胞(試料1個あたり10×10個)を溶解させた。予備精製した核後上清を、CnBr(Pharmacia)により活性化させたセファロース4Bに共有結合させたモノクローナル抗体を利用して2〜3時間免疫沈降させた。溶解緩衝液中で、免疫複合体を3回洗浄し、そのとき40μlのキナーゼ緩衝液(試薬参照)を37℃で10分間、免疫沈降物に添加した。試料−SDS還元緩衝液を添加することによってキナーゼ反応を停止させた。SDS−PAGEによる分析及びオートラジオグラフィに先立ち、試料を沸とうさせた。いくつかの実験において、試料を2次元非変性/変性対角線SDS−PAGEにより分析した。
【0096】
KARAPのリン酸化の分析
インビトロでのキナーゼ試験及びSDS−PAGEによる分離の後、リン酸化したタンパク質を乾燥したゲルから切除し、Centrilutor(Amicon) 又はPBS(リン酸ナトリウム緩衝液)中0.1%のSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)溶液を利用して溶出させた。溶出したタンパク質を、90分間110℃での200μlのHCl 5.7M中のインキュベーションに先立ち、2時間4℃で20%のトリクロロ酢酸中で沈降させた。個々のアミノ酸を次に乾燥させ、標準レフェレンスとして標識づけされていないホスホチロシン、ホスホトレオニン、ホスホセリン(Sigma)の各々を5μgを含むTLE緩衝液(試薬)5μl中で再び懸濁させた。セルロースプレート(DC−セルロース100−μm)上に試料を被着させ、Multiphor II (pharmacia)上で4℃で45分間1500Vで遊走させた。アセトン及び32Pで標識づけされたアミノ酸の中で1%のニンヒドリンを用いて標準レフェレンスを開発した。
【0097】
免疫トランスファによる分析
免疫沈降物をSDS−PAGEにより分解させ、ニトロセルロースフィルタ上に移し、脱脂粉乳5%のPBS溶液中で希釈された抗CD3ζ又は抗FCεRIγ抗体プローブに対峙させた。ワサビペルオキシターゼ(それぞれ Sigma 照会番号A−2304及びA−0545)に接合されたやぎ抗マウス又は抗ウサギ抗血清及び Amersham(RPN2209)によって市販されているECL検出システムを用いて免疫トランスファを明らかにした。
【0098】
2.結果
表面表現型
LDGL患者に由来し、IL−2(インタロイキン−2)上で培養されたNK細胞の表面表現型を間接的免疫螢光でのFACScan(螢光により活性化された細胞の選別)により分析した。
【0099】
以下で報告するのは、以下のR.P., D.F. 及びMALと呼称するこれらの患者のうちの3名に関する研究の結果である。
【0100】
前記結果は、LDGL(顆粒リンパ球増殖性疾患)細胞R.P., D.F. 又はMALの間接的免疫螢光FACScan による分析が示されている図1Aによって例示されている。イソチオシアン酸フルオレセインに接合されたヤギ抗マウス免疫グロブリンが、第2段階の試薬として用いられた。各タイプのLDGL(上部水平バンド内に示された分析についてはLDGL細胞R.P., 中央水平バンドの分析についてはLDGL細胞D.F., 下部水平バンドの分析についてはLDGL細胞MAL)及び受けた治療の各々について(左側に示されたグラフについてはコントロール治療し、左から右へ抗CD3,抗CD16,抗CD158 EB6,抗CD158 GL183,抗CD158 PAX250という表示されたモノクローナル抗体による治療)、横座標には螢光強度が、又縦座標には、相対的細胞数が報告されている。
【0101】
以下のことが観察できる:
− NK細胞R.P., D.F. 及びMALは全てCD3 及びCD16 である。
【0102】
− NK細胞R.P. は、p50.1,p50.2,p50.3 である。これらは、抗CD158EB6モノクローナル抗体によって認識され、抗CD158GL183及びPAX250モノクローナル抗体によっては認識されない。
【0103】
− NK細胞D.F.は、p50.1,p50.2,p50.3 である。これらは、抗CD158GL183モノクローナル抗体によって認識され、抗CD158EB6及びPAX250モノクローナル抗体によって認識されない。
【0104】
− NK細胞MALは、p50.1,p50.2,p50.3 である。これらは抗CD158 PAX250モノクローナル抗体によって認識され、抗CD158 EB6及びGL183モノクローナル抗体によっては認識されない。
【0105】
従って、LDGLを患う3人の患者は、それぞれ抗KIR p58.1(EB6),抗KIR p58.2(GL183)及び抗KAR p50.3(PAX250)という抗CD158抗体によって認識されるNK細胞のリンパ球増殖を示した。かくして3つのNK細胞グループ、すなわちLDGL R.P細胞、LDGL D.F細胞及びLDGL MAL細胞を定義づけすることができた。
【0106】
細胞溶解試験
標的細胞FcγR としてP815を利用して再誘導される細胞毒性試験を、NK細胞R.P.p50.1,D.F.p50.2 及びMAL.p50.3 について実現した。
【0107】
結果は、異なるモノクローナル抗体で再誘導された細胞毒性試験を示す図1Bに例示されている:表示された供与体(左側のR.P.p50.1,中央のD.F.p50.2 又は右側のMAL.p50.3)に由来し、IL−2上で培養されたNK細胞がエフェクタ細胞として利用された。試験は、抗体無し(白色円)で、又は抗CD16モノクローナル抗体(黒色三角形)、抗CD56モノクローナル抗体(白色三角形)、抗CD158モノクローナル抗体(R.PについてはEB6,D.FについてはGL183,MALについてはPAX250)(黒色円)の存在下で実施された。横座標には、エフェクタ細胞と標的細胞の比率(E:T比;8:1;4:1;2:1;1:1;0.5:1;0.25:1)が報告されており、縦座標には、特異的溶解百分率(0〜120%の目盛)が報告されている。
【0108】
再誘導された細胞毒性試験は、KIRレセプタの刺激の際に観察されたものとは対照的に、NK細胞に対する抗CD158抗体の添加が細胞P815の細胞溶解を著しく増大させる(図1B)ということを示している。
【0109】
コントロールとして、抗CD16モノクローナル抗体は、イソタイプに対合(match)された抗CD56モノクローナル抗体がいかなる効果ももたないのに対し、抗CD158モノクローナル抗体と類似の要領でP815の自発的細胞溶解を増大させる。
【0110】
従って、これらのNK細胞は、その表面において、KIRの活性化イソタイプの型タンパク質であるKARを発現する。さらにこれらの結果はcDNA KIR/KARの逆転写酵素を用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖増幅)分析により確認された。
【0111】
放射性ヨウ化及び免疫トランスファにより発現されたKARの分析:KARAPの同定
LDGL患者由来のNK細胞上で発現されたKARレセプタを、内部放射性ヨウ化とそれに続く免疫沈降によって分析した。
【0112】
結果は図2Aに例示されており、この図では、125Iで放射性標識づけされ抗CD158 EB6モノクローナル抗体を用いて免疫沈降され(トラック1)その後抗CD3ζ/抗FcεRIγモノクローナル抗体を用いて精製され(トラック2〜7)、最後に抗CD158 EB6 モノクローナル抗体を用いて再度免疫沈降された(トラック8)供与体R.P.(p50.1)のNK細胞(10×10 細胞/トラック)から実施された、変性条件下で13%のゲル上のSDS−PAGE分析が示されている。
【0113】
同じプロフィールは、供与体D.F.(p50.2)及びMAL.(p50.3)を用いて得られた(データ示さず)。
【0114】
NK細胞の溶解産物から調製された抗CD158抗体の免疫沈降物が、≒50kDaで観察されたKARに加えて、約12±1kDaで遊走するさらに小さい分子質量のバンドを含有することを観察することができる。
【0115】
KIRは、ヒトNK細胞内でポリペプチドCD3ζ及びFcεRIγと会合することが示された。抗CD3ζ及び抗FcεRIγ抗体を利用した予備枯渇実験により、KARに会合した約12kDaのバンドがCD3ζ又はFcεRIγであるという可能性(図2A)は無くなっていた。
【0116】
この約12±1kDaのバンドに対応するタンパク質集合体を、KARAP(KAR−associated proteins, KARに会合したタンパク質)と命名した。
【0117】
これらの結果は、NK細胞溶解産物から調製した抗CD158mAbsの免疫沈降物中には、抗CD3ζ抗体の存在下で反応性あるバンドがことごとく存在していないことを明らかにした免疫トランスファ実験になって確認された。
【0118】
抗CD3ζ抗体の存在下で得られたこれらの結果は、変性条件下での15%のゲル上のSDS−PAGE分解及び抗CD3ζモノクローナル抗体プローブ(右側標識付け矢印)を用いたニトロセルロースフィルタのインキュベートによる、D.F.細胞の完全溶解産物及びかかる溶解産物の免疫沈降物の分析を示す図2Bによって例示されている。D.F.細胞の完全溶解産物(LCC)を、トラック1にトラックあたり5×10 個の細胞の割合で被着させ、かかる溶解産物の免疫沈降物をトラック2〜4にトラックあたり15×10 個の細胞の割合で被着させた。免疫沈降は、コントロールとしてトラック2で抗FcεRIαBC4モノクローナル抗体を、トラック3で抗CD16モノクローナル抗体を、そしてトラック4で抗CD158GL183モノクローナル抗体を利用して、D.F.細胞溶解産物について実施された。
【0119】
同じ結果は、抗CD3ζmAbを用いて細胞R.P.及びMALについても得られた。
【0120】
抗FcεRIγmAbを用いて得た結果(データ図示せず)は、同じ確認事実をもたらした。
【0121】
インビトロキナーゼ試験及び薄層電気泳動(TLE)によるKARAPの分析
抗CD158モノクローナル抗体の免疫沈降物について実施されたインビトロキナーゼ試験は、KARが、NK細胞内で約14±1kDaで遊走する低分子量の支配的なリンタンパク質に会合することを明らかにした。
【0122】
結果は、図3Aに例示されている: NK細胞MALから調製された溶解産物を、インビトロキナーゼ試験に先立ち、表示された抗体(トラック1では抗FcεRIα,トラック2では抗CD16,トラック3では抗CD158)で免疫沈降させた。リン酸化されたタンパク質を、変性条件下で15%のゲル上でSDS−PAGEにより分離した。
【0123】
これらの結果は、内部ヨウ化によって観察された12kDaのKARAPのリン酸化された形態について予想された分子質量の変化と一致している。その上、NK KAR+細胞から調製された抗CD158mAbsの免疫沈降物は、(図3Aに14kDaでのKARAPの矢印の両側の星印により示された)それぞれ16±1kDa及び12±1kDaで遊走するその他の2つのホスホ−KARAPを含んでいる。
【0124】
リン酸化されたKARAPの類似したグループとKARの会合は、NK細胞KARクローンのパネルでも観察され、NK KIRクローンでは見られなかった。16,14及び12kDaでのホスホ−KARAPの相対的強度はNK細胞の由来に従って変動しうるということが観察された。
【0125】
リン酸化されたアミノ酸の分析は、14kDaの主要KARAPが主としてチロシン残基レベルでリン酸化されることを明らかにした。
【0126】
結果は、図3Cにより例示されている:インビトロキナーゼ試験の後、KARAP(左)及びCD3ζ(右)KARAPバンドを切除し、薄層電気泳動によるリン酸化アミノ酸分析に付した。この実験では、それぞれNK細胞R.Pの溶解産物から調製された抗CD158及び抗CD16モノクローナル抗体の免疫沈降物から、KARAP及びCD3ζバンドを単離した。
【0127】
それでも、トレオニン残基レベルではなくセリン残基レベルでのリン酸化も検出することができる。コントロールとしてリン酸化アミノ酸分析は、チロシン残基のレベルでのみCD3ζのリン酸化を確認した。
【0128】
KARAP及び活性化シグナルの形質導入(トランスフェクタントKAR
KIRp58.2とは対照的に、非リンパ球様の細胞系統RBL−2H3のトランスフェクタント内でのKARp50.2の発現は、KARp50.2の活性化機能の再構築を導くものではない。実際、抗CD158抗体により誘発されるRBL−2H3p50.2 細胞トランスフェクタントの刺激は、細胞質内Ca2+の検出可能な可動化もセロトニンの検出可能な遊離も全く導かない。驚くべきことに、RBL−2H3p50.2 細胞トランスフェクタントから調製された抗CD158モノクローナル抗体の免疫沈降物について実施されたインビトロキナーゼ試験は、検出可能なKARAPを全く内含していなかった。
【0129】
結果は、図3Bによって例示されている:RBL−2H3p50.2 細胞から調製した溶解産物を、インビトロキナーゼ試験に先立ち、表示された抗体(トラック1では抗CD3ε,トラック2では抗FcεRIα,トラック3では抗CD158)で免疫沈降させた。リン酸化タンパク質を、変性条件下で15%のゲル上でのSDS−PAGEにより分離した。
【0130】
RBL−2H3p50.2 細胞のトランスフェクタント内でのKARAPに対するKARの会合の欠如は、内部ヨウ化によっても確認された(データ図示せず)。
【0131】
従ってKARAPは、選択的にKARに会合し、KARAPに対するKARの会合の欠如は、検出可能な任意の活性化シグナルを形質導入する能力をKARがもたないことと相関される。
【0132】
KAR−KARAP会合(対角線ゲル)
最終的に、抗CD158モノクローナル抗体の免疫沈降物の対角線2次元ゲル上での分析が、対角線ゲルに沿って約16,14及び12kDaのホスホ−KARAPが減少することを明らかにした。
【0133】
結果は図4に例示されている:NKR.P.細胞の溶解産物から調製された抗CD158モノクローナル抗体の免疫沈降物(IP)を、非変性/(水平方向)/変性(垂直方向)条件での2次元13%ゲル上でのSDS−PAGEによる分析に先立ち、インビトロキナーゼ試験に付した。
【0134】
かくしてこれらの結果は、ジスルフィド結合により結合されたKARAP二量体複合体に対しNK細胞内でKARが会合させられるということを表わしている。
【0135】
3.論述
特にクラスIのMHCの分子についての自律的活性化レセプタ又はTCR(Tリンパ球レセプタ)又はRFc(免疫グロブリン定常フラグメントについてのレセプタ)のコレセプタであるKARは、NK及びT細胞の活性化のための新しい1つの方法を表わしている。
【0136】
本発明者は、KARが実際NK細胞内で、ジスルフィド結合によって結合された二量体の形で会合されたKARAPを介入させる多量体複合体の形に集合させられていることを実証した。
【0137】
放射性ヨウ化による分析が約12±1kDaのKARAPを立証したとすると、キナーゼ試験による分析は、約16,14,及び12±1kDaの3つのホスホ−KARAPを立証した。
【0138】
KARAPに対するKARの会合と、KARの活性化機能の間の相関は、KARAPが、多量体KAR複合体の形質導入サブユニットとして作用することを示唆している。
【0139】
しかしながら、RBL−2H3細胞のトランスフェクタントについて観察されたようなKARAPに対するKARの会合の欠如は、ITAM(チロシン残基に基づく免疫レセプタの活性化パターン)をもつポリペプチドを内含する抗原又は抗体に対する多量体活性化レセプタについて観察されたこととは異なり、細胞表面上のレセプタの発現を妨げるものではない。
【0140】
免疫グロブリンの上科の活性化又は少なくとも非阻害性のその他のレセプタは、KARp50(免疫グロブリンタイプのヒトKAR)すなわち:レクチンタイプのヒトKARレセプタNKG2C/D,免疫グロブリンタイプのマウスKARレセプタ pirA,gp49A,レクチンタイプのマウスKARレセプタLy49D,Ly49Hのみならず、ILT1のようなLIR/MIR/ILT系統群のヒト活性化レセプタと驚くほどの類似性を示している。
【0141】
これらの類似性は、免疫グロブリン上科(IgSF)又はレクチンタイプの活性化又は非阻害性レセプタ又はそれらの阻害性対応物を示している図5によって例示されている。各々のレセプタ対の名称(左から右へ、mPIR−B−mPIR−A,ILT2−ILT1,SIRPα−SIRPβ,KIR−KAR,FcγRIIB−FcγRIII, NKG2A/B−NKG2C/D,mLy49A/B/C/E/F/G/I−mLy49D/H)の下には、それらを天然に発現する細胞が表示されている。活性化又は非阻害性レセプタは、ITIM(チロシン残基に基づく免疫レセプタ阻害パターン)もITAM(チロシン残基に基づく免疫レセプタ活性化パターン)も有さず、それらの膜内外(TM)ドメイン内に荷電アミノ酸を有する(R=アルギニン、K=リシン、D=アスパラギン酸、E=グルタミン酸)。阻害性対応物(各対の左側要素)は、その細胞質内(IC)部分内にITIMパターンを有する。各々の活性化又は非阻害性レセプタは、細胞質外(EC)レベルで、その阻害性対応物との強い相同性を示す。
【0142】
実施例2
KARAP分子の生化学的特徴づけ(上述の実施例1参照)により、我々は、特に以下のようなポリペプチドの主要な同定基準を明確にすることができた:すなわち
− ジスルフィド結合の形成を可能にする、細胞質外システインアミノ酸を有するポリペプチド(図4参照);
− 約12〜16kDaの間に含まれるみかけの分子質量をもつポリペプチド;
− リン酸化可能なチロシンアミノ酸を少なくとも1つ有するポリペプチド(図3C参照)。
【0143】
12,14及び16kDaにおいて同定されたKARAP分子の間に存在する強い類似性のため、我々は、これら3つの分子形態が、12kDaを超えることのあり得ない分子量をもつ同じKARAP ポリペプチドの異なるリン酸化度を表わしているということを想定した。
【0144】
さらに、KARAPの主要な特性は、KIRとではなくKARとのその選択的会合にある。KIRとは異なりKARは、KARは膜内外荷電アミノ酸(リシン:K)を有し、この特殊性は同じく複合体CD3/TCR,BCR,FcεRI及びFcγRIIIA(CD16)の中に存在するITAMをもつポリペプチドの会合に基づくものであることから、我々は、KARAPがITAMをもつ膜内外ポリペプチドの系統群の新メンバであることを考慮して我々のKARAP遺伝子の同定戦略を方向づけした。これらのポリペプチドは、実際KARAPと、同じ特徴を分ち合っている:すなわち、
− ジスルフィド架橋の形成を可能にする細胞質外システインアミノ酸(C)を有するポリペプチド,
− 25kDaを超えない低分子質量のポリペプチド,
− YXXL/IX6−8 YXXL/I,のようなITAMパターン内に含まれたリン酸化可能なチロシンアミノ酸を少なくとも1つ有するポリペプチド,及び
− 膜内外荷電アミノ酸の存在。
【0145】
かくして、我々は、EST,GENBANK,SWISS PROT及びEMBLのような形で入手可能な公共のcDNAバンクから1つの遺伝子を同定する生物学的情報処理戦略を作り上げた。我々は、次のような異なる2つのアプローチを利用した:
1) 我々は、50〜200個のアミノ酸(考慮対象の分子量は5.5〜22kDaの間に含まれる)をもつペプチドのみをとり上げて、ESTの集合体を6つの読取り段階に従って翻訳した。 このサブベースに対して、我々は次のような複数の基準を適用した:
− Argos 方法(Rao & Argos,1986,Biochem, Biophys. Acta, 869,197−214)に従って、アミノ酸30の前に始まる、少なくとも10個のアミノ酸の予測された膜内外領域の存在。実際、CD3ζ及びFcεRIγのようなITAMをもつポリペプチドとの相同性により、KARAP配列の主要な部分は、細胞質内のものであると予測されている。
【0146】
膜内外ゾーンのC末端位置におけるITAMパターン(Y−x−x−〔IL〕−x(6,8)−Y−x−x〔IL〕)の探索。
【0147】
− 荷電アミノ酸(R,K,D,E)の膜内外領域内における存在。
【0148】
− 膜内外ゾーンのC末端位置におけるシステインアミノ酸(C)の存在。
【0149】
2) CD3Z_HUMAN入力との配列相同性を有するEST入力の探索(EMBL,GEN BANK及びSWISS PROTでも同様に行なわれる分析)。利用されるプログラムは、TBLASTN(1,4,11バージョン;Altschul, Stephen F., Warren Gish, Webb Miller, Eugene W. Myers, and David J. Lipman, 1990,J. Mol. Biol. 215,403−10)又はTBLASTN(2,0,3バージョン;Altschul, Stephen F., Thomas L. Madden, Alejandro A. Schaffer, Jinghui Zhang, Zheng Zhang, Webb Miller, and David J. Lipman,1997,Nucleic Acids Res.25,3389−3402)である。これらの類似入力に対して、我々は次に、第1のアプローチで利用した選択基準を適用した。
【0150】
これら2つの生物学的情報処理アプローチを組合せることにより、疎水性プロフィールを用いて連続的に(Genworks プログラム,DNA Strider),候補分子のリーダー領域、膜内外領域、細胞質内及び細胞質外領域を決定した後、我々は、潜在的にKARAPのものに対応する配列を多数得た。これらの配列のうち、Genbank 上でAA242315の受入れ番号に対応する配列が、我々にはマウスのKARAP遺伝子の配列(C57B1/6マウスcDNA 配列番号1)であるように思われた。図7は、本発明に従ったKARAP ポリペプチドのDNA配列(cDNA 配列番号1)を表わしている。この配列は、マウスのKARAP遺伝子の配列に対応する。実際、ヌクレオチド配列の翻訳は、396ヌクレオチドの読取り枠(配列番号2)を与える。この結果は、リーダー配列(これを含まず)から停止コドンまでに含まれるKARAP遺伝子のヌクレオチド配列の一部分(配列番号1)を表わし、かつ同様にこのヌクレオチド配列の下に対応するアミノ酸配列(1文字コード)(配列番号2,3文字コード),すなわち本発明に従った成熟マウスのKARAPタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)をも表わしている図8によって例示されている。この配列の標準的な分析は、87個のアミノ酸の成熟タンパク質(9.6kDaの分子質量)、16アミノ酸の細胞質外部分(Q1〜G16),24アミノ酸の膜内外部分(V17−G40)及び47アミノ酸の細胞質内部分(R41〜R87)を予測している。我々の探索戦略に従うと、細胞質外部分は、少なくとも1つのシステインアミノ酸(実際には2つ、C8及びC10),膜内外アミノ酸(D25)及び細胞質内ITAM(Y65QELQGQRHEVY76SDL)を含む。図9は、以前に記述されたITAMを有するポリペプチドとITAMパターン(単複)を有する本発明に従ったポリペプチドの間の配列のアラインメントによって行なうことのできる比較を例示し、その結果としてのコンセンサスITAM配列を示す。図9は、ITAMをもつポリペプチドのITAM(6個のCD3,1個のIgα,1個のIgβ,FcεRIγ及びFcεRIβ)及び(この図9に「KARAP」と表示された)本発明に従った以上で同定されたマウスのKARAP ポリペプチド(配列番号2)のITAMパターンのアラインメントを表わしている。以前に記されたITAM(図9)とのこの比較に基づいて、我々には、(ZAP−70及びp72Sykといったような)縦列SH2基をもつチロシンキナーゼタンパク質とリン酸化されたKARAPの会合を考慮することが可能となった。ZAP−70のSH2基に対応する組換え型融合タンパク質(Olcese L., Lang P., Vely F., Cambiaggi A., Marguet D., Blery M., Hippen K. L., Biassoni R., Moretta A., Moretta L., Cambier J. C., Vivier E.1996,J. Immunol. 156:4531−4534 の中で記述された調製物)とKARAPの会合はインビトロで確認された。これらの実験は、図3A,トラック3に記述されている通りに実施されたが、細胞溶解産物は、抗CD158抗体ではなく ZAP−70のSH2基に対応する組換え型融合タンパク質によって吸着された。かくして、KARAPは、KARに会合され、リン酸化されたチロシンの形でZAP−70に会合する新しいITAM入り膜内外分子である。従ってKARAPは、T及びNKリンパ球の新たな形質導入要素である。KARAP又はKARAP類似体が同様にITIM含有レセプタの活性化イソ型タンパク質にも会合し、これらの形質導入サブユニットの多分子複合体の中で、レセプタの係合の際に発せられるシグナルとして役立つことも可能である。
【0151】
配列がわかっている候補ポリペプチドが本発明に従ったKARAPタンパク質に対応することを決定又は制御するために特に適した方法は、この候補ポリペプチドの特徴的部分(例えば少なくとも1つのITAMパターン又は細胞質外領域を含む細胞質内領域)に対する抗体を産生すること及び、この抗体が、機能的細胞上で、例えばその候補ポリペプチドがそのKARAPであると想定されているレセプタに会合した状態にある標的である機能的KAR 細胞を認識することを確認すること(すなわち、KAR 細胞の場合、抗体が、KARレセプタに会合した状態にある標的を認識することを確認すくこと)から成る。
【0152】
本発明に従ったこのKARAP ポリペプチドの同定方法は、かくして以下の段階から成る。
【0153】
− 候補ポリペプチド,特にこの候補ポリペプチドの少なくとも1つのITAMパターンを含む領域に対して導かれたモノ又はポリクローナル抗体(例えば、以上で同定されたマウスKARAPタンパク質の場合には配列番号2の細胞質外部分(配列番号3)又は細胞質内部分(配列番号5)の領域に対し導かれた抗体)を産生する段階;
− 抗原−抗体タイプの結合反応を可能にする穏やかな条件下で候補ポリペプチドがKARAPを構成すると想定されている対象の活性化又は非阻害性レセプタを、1つの機能的形態にて有する細胞、例えばNK又はT細胞のような機能的KAR 細胞の溶解産物と、この抗体を接触させる段階、
− 場合によって形成される反応産物の中に、KARのものに近い見かけの分子質量(約50kDa)をもつ産物及び候補ポリペプチドのものに近い見かけの分子質量(特に約10〜16kDaの間)をもつ産物が存在する場合に、本発明に従ったKARAP ポリペプチドであるものとしてその候補ポリペプチドを同定する段階。
【0154】
本発明に従ったこの同定方法は特に、
− 上述の通りに前記抗体を接触させ、
− 分子複合体を保存する洗剤の穏やかな条件下で(例えば1%のジギトニン,上述の実施例1参照),場合によって形成された反応産物を沈降させ、
− 例えば、変性条件内でポリアクリルアミドゲル上の分子質量マーカーの存在下での電気泳動遊走により、沈降された産物の分子質量を測定し
− 上述のとおりの本発明に従ったKARAPポリペプチドであるものとして候補ポリペプチドを同定すること、
によって実施することができる。
【0155】
実施例3
1.KARAPに対応する複数のESTの同定
上述の実施例2に示されたような生物学的情報処理による我々のマウスKARAPクローニング戦略は、同様に、我々のKARAPの定義に対応する5EST(Expressed Tag Sequences :発現済みタグ配列)の存在をも明らかにする。つまり、これは、EST AA242315,AA734769,W88159,AA098506及びW41142である。図10A〜14Aは、それぞれ、EST AA242315,AA734769,W88159,AA098506及びW41142のcDNA配列を例示している(それぞれ配列番号6〜10)。図10B〜14Bは、それぞれこれらのESTに対応するタンパク質配列を例示する(それぞれEST AA242315,AA734769,W88159,AA098506 及び W41142のタンパク質について配列番号11〜15)。これらのESTは全てC57B1/6マウス由来の組織から得られ、読取り枠に対応するcDNA配列を得るように整列させられたものである。このことは、EST AA098506(配列番号9)、AA242315(配列番号6)、W88159(配列番号8)、AA734769(配列番号7)及びW41142(配列番号10)の配列のアラインメントを表わし、結果として得られたコンセンサス配列(コンセンサスマウスKARAPcDNA:配列番号16)を示す図15によって例示されている。
【0156】
このことは同様に、EST AA242315(配列番号11),W88159(配列番号13),W41142(配列番号15),AA098506(配列番号14)及びAA734769(配列番号12)のタンパク質配列のアラインメントを表わし、かつ結果として得られるコンセンサス配列(コンセンサス配列KARAPタンパク質,配列番号17)を表わす図16によっても例示されている。これらの図15及び16上で、記号「・」は、考慮対象のコンセンサス配列との同一性を表わし、記号「−」は、配列決定データの欠如を表わす。
【0157】
2.マウスKARAPのゲノム配列
129マウス系統のマウスから単離したゲノミックDNAのライブラリ(ラムダファージ、EMBL3)を、従来の技術に従って EST AA734769の配列に対応するcDNAを用いてスクリーニングした。18kbのフラグメントを含むファージを、陽性として同定した。一連の制限酵素での切断によりこのファージのカルトグラフィを実施し、ファージから得た9kbのEcoRI−EcoRIフラグメントをpBlue−Scriptクローニングベクター内でクローニングした。これには、マウスKARAP遺伝子全体(初期ATGからSTOP配列まで)が含まれている。このマウスKARAP遺伝子の配列は、図17に示されている(配列番号18;2838pb)。
【0158】
その上、マウスKARAPのゲノム組織を得るべく、オリゴヌクレオチドプライマが生成された。利用されたプライマは以下の表1に示されている(配列番号19〜26)。
【表1】

【0159】
マウスKARAPのゲノム組織は図18に示されている。我々はこれらのデータから、129系統のマウスのKARAPのcDNA配列ひいてはタンパク質配列を得た。このcDNA配列(配列番号27)及びこのタンパク質配列(配列番号28)は図19に示されている。
【0160】
かくして翻訳されたタンパク質配列は、以下のとおりである。
【0161】
(配列) シグナル配列
(配列) 細胞質外ドメイン
(配列) 膜内外ドメイン
(配列) 細胞質内ドメイン
ゲノミックカルトグラフィのこれらの結果全体は、マウスKARAP遺伝子(初期ATGからSTOP配列まで)が長さ約2.9kbであり、5個のエキソンを含むことを示している。これらの結果は、上から下へ、129マウスのマウスKARAPのゲノミックDNA(黒色:翻訳済みエキソン;水平ハッチング:未翻訳エキソン、白色:イントロン)、対応するタンパク質配列(エキソン1〜エキソン5までの配列番号28)及びこのタンパク質の異なる領域の性質(SS=シグナル配列;EC=細胞質外ドメイン;TM=膜内外ドメイン;IC=細胞質内ドメイン)を表わす図20によって例示されている。エキソン1は、シグナル配列のN末端部分についてコードし、エキソン2はシグナル配列の残りの部分及び細胞質外部分の最初の3つのアミノ酸についてコードし、エキソン3は、細胞質外部分の残りの部分、膜内外部分及び細胞質内部分の最初の9つのアミノ酸についてコードし、エキソン4は、細胞質内部分の14のアミノ酸についてコードし、エキソン5はタンパク質の残りの部分についてコードする。KARAPといったようなITAMを有するポリペプチドのゲノム組織に期待されるように、ITAMは、タイプ0のイントロンによって分離された2つのエキソン(エキソン4及び5)によってコードされる。
【0162】
3.DAP−12ヒトKARAPによりRBL−2H3の中で発現されるKAR(p50.2)の機能的再構築
我々は、マウスKARAPの配列から演繹されるオリゴヌクレオチドプライマを生成することによりRT−PCRによってヒトKARAPについてコードするcDNAを得た。利用されたプライマは、以下の表2に示されいる(配列番号29及び30)。
【表2】

【0163】
得られたcDNA配列は図21に示されている(配列番号31:ヒトKARAPのcDNA)。KAR ヒトNKクローンから抽出されたRNAは、このcDNAの生成のベースとして役立った。このcDNAを、pNT−neo 真核生物発現ベクタ内でクローニングし、このヒトKARAPについて安定したトランスフェクタントを、RBL−2H3細胞系統のKAR(p50.2)トランスフェクタント内で生成した(Blery et al, J. Biol. Chem., 1997)。p50.2 及びKARAP というこのように2重にトランスフェクションを受けたRBL−2H3細胞上で発現されたKARレセプタがもつ活性化シグナルを形質導入する能力を、p50.2の細胞質外部分に対して導かれた抗体を用いての刺激によって、又トリチウム標識づけされたセロトニンの塩析に従ってテストした。
【0164】
このトリチウム標識づけされたセロトニンの塩析実験のために従ったプロトコルは以下のとおりである:
これらの細胞を剥離させ、遠心分離に付し、1mlにつき1×10個の細胞という最終濃度でRPMI−10%SVFの中で再懸濁させる。このとき、細胞を、1時間細胞1mlあたり2μCiのトリチウム標識づけ済みセロトニンを用いてインキュベートさせる。細胞を洗浄し、次に、細胞がその原液から余剰のセロトニンを塩析させるべく37℃で1時間培地の中に戻す。その後、細胞をマウスのIgE(2681−I)又は抗p50AC(GL183)と共に、96ウェル付き平板(1ウェルあたり細胞200000個)の中に分布させる。細胞を1時間付着させその後洗浄する。細胞を15分間37℃に戻し、次にF(ab') 2Gモノクローナル抗体(50μg/ml)を用いて刺激する。37℃で30分間、細胞を放置してそれらがそのセロトニンを遊離させることができるようにする。低温HBSSを添加し細胞を氷上に置くことによって反応を終結させる。このとき各ウェルの上清の半分を回収し、1mlのシンチレーション液中に入れる。セロトニンが投入された未刺激の細胞から得られた同量の溶解産物から100%の脱顆粒化が得られる。このときβカウンタで試料を計数する。
【0165】
得られた結果は、ヒトのp50/KARAPの2重トランスフェクションを受け、横座標に示された抗体(左側:抗体無し;中央:マウスIgE:mIgE1/500;右側:GL183 5μg/ml)による刺激を受けたRBL−2H3細胞により上清内で塩析されたセロトニンの%を示す図22によって例示されている。この図22に示されているように、KARの細胞質外部分と反応する抗体(モノクローナル抗体 GL183)によるRBL−2H3中のKARの係合が細胞の活性化という形で現われないのに対し、ヒトのKARとKARAPを同時に発現する2重トランスフェクタントRBL−2H3でのGL183によるKARの係合は細胞活性化(ここでは細胞からのセロトニンの遊離により表出される)という形で現われる。従ってこのことは、同定されたヒトKARAP配列がKARの機能性を再構築するということの明確な証拠である。
【0166】
図23は、ヒトKARAP遺伝子の組織とマウスKARAP遺伝子の組織の間の相同性を例示する(E1〜E5:エキソン1〜エキソン5;I1〜I4:イントロン1〜イントロン4)。ここには、ヒト及びマウスのKARAP遺伝子の塩基対の番号づけが表示されている。
【0167】
(配列表)
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1A】R.P.,D.F., 及びMALと呼称されるLDGL(顆粒リンパ球増殖性疾患)を患う患者に由来しIL−2(インタロイキン2)上で培養された細胞の間接的免疫蛍光検査法でのフラックス白球計算器(Becton-Dickinson の登録商標FACScan)による分析を示す。
【図1B】異なる供与体に由来するIL−2上で培養されたNK細胞上で実施された、異なるモノクローナル抗体を用いて再度導かれた細胞毒性試験の結果を示している。
【図2A】抗CD3ζ/抗FcεRIγ抗体を用いてFcεRIγ及びCD3ζの枯渇前後に、抗CD158EB6モノクローナル抗体を用いて免疫沈降された、125Iでの放射性標識づけ済みの供与体R.P.(p50.1) のNK細胞から実施されたSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム及びゲル上電気泳動によるタンパク質の分解)分析を示す。
【図2B】細胞D.F.の完全溶解産物及びかかる溶解産物の免疫沈降物の抗CD3ζ抗体プローブを用いたSDS−PAGE分析を示している。
【図3A】MAL NK細胞の溶解産物の免疫沈降物が付されたインビトロキナーゼ試験に由来するリン酸化されたタンパク質のSDS−PAGE分析を示す。
【図3B】図3Aと同じタイプではあるものの、RBL−2H3p50.2細胞から実施されたSDS−PAGE分析を示す。
【図3C】R.P., NK細胞のそれぞれ抗CD−158及び抗CD16免疫沈降物について実施されたインビトロキナーゼ試験後に切除された、KARAP及びCD3ζバンドのリン酸化されたアミノ酸の薄層電気泳動(TLE)による分析を示している。
【図4】キナーゼ試験を受けたR.P.NK細胞の溶解産物の抗CD158免疫沈降物の非変性/変性条件での2次元SDS−PAGE分析を示す。
【図5】免疫グロブリン上科又はレクチンタイプの活性化又は非阻害性レセプタ及びそれらの阻害性対応物を示す。
【図6】KIR(p58)及びKAR(p50)の概略的構造を表わす。
【図7】本発明に従ったマウスのKARAPポリペプチドのcDNA配列を表わす(配列番号1)。
【図8】本発明に従ったKARAPポリペプチドのアミノ酸配列(成熟タンパク質配列番号2)及びヌクレオチド配列(リーダ配列(これを除く)から停止コドンまでに含まれたもの)を表わしている。
【図9】本発明に従ったKARAPポリペプチドのITAM及び複数のITAMのアラインメントを表わしている。
【図10A】ESTのAA242315のcDNA配列(配列番号6)を例示する。
【図10B】ESTのAA242315のタンパク質配列(配列番号11)を例示する。
【図11A】ESTのAA734769のcDNA配列(配列番号7)を例示する。
【図11B】ESTのAA734769のタンパク質配列(配列番号12)を例示する。
【図12A】ESTのW88159のcDNA配列(配列番号8)を例示する。
【図12B】ESTのW88159のタンパク質配列(配列番号13)を例示する。
【図13A】ESTのAA098506のcDNA配列(配列番号9)を例示する。
【図13B】ESTのAA098506のタンパク質配列(配列番号14)を例示する。
【図14A】ESTのW41142のcDNA配列(配列番号10)を例示する。
【図14B】ESTのW41142のタンパク質配列(配列番号15)を例示する。
【図15A】EST AA242315,AA734769,W88159,AA098506及びW41142のcDNA配列のアラインメント及び、結果としてもたらされるコンセンサス配列(配列番号16:コンセンサスC57B1/6マウスのKARAPcDNA)。
【図15B】EST AA242315,AA734769,W88159,AA098506及びW41142のcDNA配列のアラインメント及び、結果としてもたらされるコンセンサス配列(配列番号16:コンセンサスC57B1/6マウスのKARAPcDNA)。
【図16】EST AA242315,AA734769,W8819,AA098506及びW41142のタンパク質配列のアラインメント及び結果として得られるコンセンサス配列(配列番号17:コンセンサスC57B1/6マウスのKARAPタンパク質)を表わす。
【図17A】129系統のマウスのKARAP遺伝子配列(配列番号18:2838pb)を表わす。
【図17B】129系統のマウスのKARAP遺伝子配列(配列番号18:2838pb)を表わす。
【図18】129系統のマウスのKARAPのゲノム組織を表わす。
【図19】129系統のマウスのKARAPのcDNA配列(配列番号27)及び対応するタンパク質配列(配列番号28)を表わす。
【図20】上から下に129系統のマウスのKARAP遺伝子のゲノム組織、対応するタンパク質配列及びこのタンパク質の異なる領域の性質を表わしている。
【図21】ヒトKARAPのcDNA(配列番号31)を表わす。
【図22】ヒトp50/KARAPの2重トランスフェクションを受け横座標に記された抗体(左側:抗体無し;中央:マウスIgE:mIgE 1/500;右側:GL183 5μg/ml)による刺激を受けたRBL−2H3細胞による、上清中で塩析されたセロトニンの百分率を表わす。
【図23】ヒトKARAP遺伝子の組織とマウスKARAP遺伝子の組織の間の相同性を例示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号31の配列を含む核酸。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸によってエンコードされた単離されたポリペプチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリペプチド又はそのフラグメント又は相同体であって、前記相同体又はフラグメントはKARに由来するシグナルを形質導入する能力を有するものであり、
細胞中でKAR活性化不全の回復を可能にすること、KARに会合しかつこのKARを阻害する相対物には会合しない能力をもつこと、及び
そのアミノ酸配列が、
− リン酸化可能なチロシンアミノ酸を少なくとも1つ有し、
− 10±2から16±2kDaの間に含まれる分子質量を有し、
− 少なくとも1つのITAM YxxL/Ix6−8YxxL/Iパターンを有し、
− 細胞質外領域、膜内外領域及び細胞質内領域を含み、
− 少なくとも1つの細胞質外システインアミノ酸を含んで成り、
− 少なくとも1つの膜内外荷電アミノ酸(R,K,D,E)を有することを特徴とする、ポリペプチド又はそのフラグメント又は相同体。
【請求項4】
前記細胞がNK細胞及び/又はT細胞及び/又は骨髄性細胞及び/又はB細胞及び/又はマスト細胞であることを特徴とする請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
少なくとも1つのチロシン残基レベルでリン酸化されていることを特徴とする請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項6】
2量体の形を有することを特徴とする請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項7】
SH2又はPTBドメインをもつ分子に結合されることを特徴とする請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項8】
グリコシル化、リン酸化、スルホン化、ビオチニル化、アシル化、エステル化;ホスホン酸塩のようなリン酸塩基のものに近い分子形態をもつ物質(entity)の添加、置換又は抑制;ルシフェラーゼ、GFP(Green Fluorescence Protein) 又はその類似体のような標識付け試薬の添加;親和性リガンドのような精製用標的の添加;その可溶性を修正する物質の添加;によって修飾されることを特徴とする請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項9】
細胞膜を横断する能力を有することを特徴とする請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項10】
シグナルを形質導入するその能力を阻害するように修飾されることを特徴とする請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項11】
特にホスホン酸塩基の添加により生物学的条件下で加水分解不能となるような形で修飾されることを特徴とする請求項10に記載のポリペプチド。
【請求項12】
フェニルアラニン残基によるチロシン残基の置換により修飾されることを特徴とする請求項10に記載のポリペプチド。
【請求項13】
請求項2または3に記載のポリペプチドに結合する抗体又はかかる抗体のフラグメント特にFc,FV,Fab,F(ab’)又はCDRフラグメント。
【請求項14】
請求項3に記載のポリペプチドの獲得方法において、
i. 抗CD158、抗p70/NKB1、抗p140抗体、より特定的には、EB6、GL183またはPAX250モノクローナル抗体のような単数又は複数の抗KIR及び/又は抗KAR抗体を用いてKAR細胞の細胞溶解産物の単数又は複数のポリペプチド分画の免疫沈降する段階を含み、ここで
ii. 各ポリペプチド分画は、任意には、さらに以前に抗CD3及び/又は抗FcεRIγを用いた免疫沈降された分画の除去により枯渇され得及び/又は新たに抗CD158、抗p70/NKB1または抗p140抗体、より特定的には、EB6、GL183またはPAX250モノクローナル抗体のような単数又は複数の抗KIR及び/又は抗KAR抗体を用いて免疫沈降され得、
iii. その分子量に従って前記ポリペプチド分画のポリペプチドを分離し12±2kDaの分子量に対応するポリペプチドを回収するか又は、
前記単数又は複数のポリペプチド分画をキナーゼ試験に付した後その分子量に従って前記ポリペプチド分画のポリペプチドを分離し、12、14及び/又は16±2kDaの分子量に対応するリン酸化されたポリペプチドを回収する段階をも含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項15】
前記KAR細胞がNK細胞及び/又はT細胞及び/又骨髄性細胞及び/又はB細胞及び/又はマスト細胞であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項3に記載のポリペプチドの配列を獲得する方法であって、
− リン酸化可能なチロシンアミノ酸を少なくとも1つ有し、
− 5から25kDaの間の分子質量を有し、
− 細胞質外領域、膜内外領域及び細胞質内領域を有し、
− その細胞質外領域内にシステインアミノ酸を少なくとも1つ有し、
− その膜内外領域内に荷電アミノ酸(R,K,D,E)を少なくとも1つ有し、かつ
− その細胞質内領域内にITAM YxxL/Ix6−8YxxL/Iパターンを少なくとも1つ有するもののみを選択するため候補配列の間でのスクリーニングによって作業を行なうこと及び、選択された配列(単複)に対応するポリペプチド(単複)が、KARを阻害する対応物レセプタに会合することなくKARレセプタに会合する能力を有することを確保することを特徴とする方法。
【請求項17】
候補ポリペプチドが、請求項3に記載のポリペプチドに対応するか否かを決定するための方法において、
− 候補ポリペプチド、特にこの候補ポリペプチドの細胞質外領域及び/又は少なくとも1つのITAMパターンを含む領域に対して導かれたモノ又はポリクローナル抗体を産する段階、
− 抗原−抗体タイプの結合反応を可能にする穏やかな条件下で候補ポリペプチドがKARAPを構成すると想定されている対象の活性化又は非阻害性レセプタを、1つの機能的形態にて有する細胞の溶解産物と、この抗体を接触させる段階、
− 場合によって形成される反応産物の中に、前記活性化又は非阻害性レセプタのものに近い見かけの分子質量をもつ産物及び候補ポリペプチドのものに近い見かけの分子質量をもつ産物が存在する場合に候補ポリペプチドを同定する段階、
を含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項18】
薬学的に受容可能なビヒクルと会合した状態で、有効量の請求項2〜12のいずれか1つに記載のポリペプチド又はそのフラグメント、又は有効量の請求項13に記載の抗体またはそのフラグメント、又は有効量の請求項1に記載の核酸又はその変異体を含んで成る薬学組成物。
【請求項19】
1つの細胞の異常な又は望ましくない機能のインビトロ診断方法において、
− 少なくとも1つの細胞又は細胞抽出物を、請求項13に記載の抗体又はそのフラグメント、または該抗体またはそのフラグメントと反応するポリペプチドまたはそのフラグメントをエンコードする核酸又はその変異体を接触させる段階、及び
− 形成され得た反応産物の存在を明らかにする段階、
を含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項20】
前記異常な又は望ましくない機能が、免疫増殖疾患、HIV疾患のような免疫不全疾患、顆粒リンパ球増殖疾患のようなガン、リウマチ様多発性関節炎のような自己免疫疾患、マラリアのような感染性疾患、アレルギー応答、移植片拒絶の形で現われることを特徴とする請求項19に記載のインビトロ診断方法。
【請求項21】
KARの活性化のアダプタ分子又はエフェクタ分子の同定方法において、
i.請求項2〜12のいずれか1つに記載のポリペプチド(又はそのフラグメント)と候補分子を接触させる段階、及び
ii. 前記ポリペプチド(又はそのフラグメント)に対する結合が観察される候補分子を選択する段階、
を含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項22】
KARの活性化の結果として得られる細胞活性を変調させる能力を有する分子の同定方法において
i.請求項21に記載の方法によって得られるようなKARの活性化のアダプタ又はエフェクタ分子、及び請求項2〜12のいずれか1つに記載のポリペプチド(又はそのフラグメント)と、候補分子を接触させる段階;及び
ii. 候補分子のうち、かかる候補分子の不存在下で観察されるような前記ポリペプチド(又はそのフラグメント)と前記アダプタ又はエフェクタ分子の間の結合に対し効果を及ぼす候補分子を選択する段階、
を含むことを特徴とする方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2009−5699(P2009−5699A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153485(P2008−153485)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【分割の表示】特願平10−546687の分割
【原出願日】平成10年4月30日(1998.4.30)
【出願人】(500181278)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サーント エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (イ エン エス ウ エル エム) (1)
【Fターム(参考)】