説明

活性炭、その製造方法及び用途

【課題】低相対圧力下であってもメタンガス等を多量に効率よく吸着貯蔵でき、且つタンク等への充填性に優れ、貯蔵装置をコンパクト化できるガス吸着剤や電気二重層キャパシタなどに好適な活性炭を提供する。
【解決手段】金属元素濃度で7000ppm以上のアルカリ土類金属化合物の存在下に低軟化点ピッチを炭化処理して真密度1.44〜1.52g/cm3の易黒鉛化性炭素化物を得、アルカリ金属化合物の存在下に前記易黒鉛化性炭素化物を賦活処理し、次いで、この賦活された炭素化物を洗浄することによって、細孔分布において細孔直径1.0〜1.5nmの範囲に細孔容積の最大値を示すピークAがあり、そのピークAの値が0.012〜0.050cm3/gの範囲にあり且つ全細孔容積値の2〜32%の大きさである活性炭を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細孔構造が制御された活性炭、この活性炭の製造方法、及び該活性炭からなる吸着剤等の用途に関する。更に詳しくは、低いBET比表面積でも低級炭化水素ガスなどのガス吸着量が大きく、ガス貯蔵特性に優れた活性炭、この活性炭の製造方法及び、車輌などからの燃料の蒸散を効率よく防止するためのキャニスター(ガソリン蒸発防止装置)、天然ガス燃料等を貯蔵するためのタンクなどの用途に好適な前記活性炭からなる吸着剤等の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭は、電気二重層キャパシタの分極性電極用材料としても有用である。電気二重層キャパシタは、急速充放電が可能、過充放電に強い、化学反応を伴わないために長寿命、広い温度範囲で使用可能、重金属を含まないため環境に優しいなどのバッテリーにはない特性を有しており、従来よりメモリーバックアップ電源等に使用されている。さらに近年では、大容量化開発が急激に進み、高性能エネルギーデバイスへの用途開発が進められ、太陽電池や燃料電池と組み合わせた電力貯蔵システム、ハイブリットカーのエンジンアシスト等への活用も検討されている。
【0003】
また、活性炭は、吸着剤の代表例として、食品、医療、住宅、自動車、化学工業など、産業のあらゆる分野で重要な地位を占めている。また、ガソリン等の石油資源の代替として利用される天然ガスを主成分とするガスを貯蔵するための吸着剤として注目を集めている。
天然ガスはメタンやエタンを主成分とするものである。一般的に、分子サイズの小さいメタン、エタンその他の低級炭化水素ガスや水素の吸着には、BET比表面積が大きく、ミクロ細孔(細孔直径1nm以下)の容積が大きい活性炭が有利といわれている。そしてまた、高比表面積を有する活性炭の吸着性能を向上させるために、活性炭の細孔直径、細孔容積、細孔形状などを制御することにより、所定の分子サイズのガス吸着量を選択的に多くすることが検討されている。しかし、比表面積の大きい活性炭はタンクへの充填性が低い。
【0004】
例えば、特許文献1には、BET比表面積が約750m2/g以上の活性炭にメタンを化学吸着し得る金属単体または金属化合物を担持して得られる吸着剤が開示されている。
特許文献2には、細孔容積2.5〜4.0cm3/gで、かつ平均細孔半径2.1〜4.0nmで、比表面積が1600〜2500m2/gの活性炭が提案されている。この活性炭は、比表面積が少なくとも100m2/gの細孔を有する炭素質材料に第8族金属化合物を添加して賦活処理することにより得ることができると特許文献2に開示されている。
また、特許文献3には、アルカリ金属化合物で賦活してなる活性炭が開示されている。この活性炭は約0.7〜1.2nmの直径をもつミクロ孔の細孔容積が全細孔容積の50%以上を占めている。
【0005】
本出願人は、先に、特許文献4にて、粒子内部にアルカリ土類金属化合物を含み、BET比表面積が10〜2000m2/gである活性炭を提案している。この活性炭は、BJH法による細孔分布において2.0〜5.0nmの細孔容積が0.02cm3/g以上であるときに、電気二重層キャパシタの電気容量をより大きくすることができると提案した。
【0006】
【特許文献1】特開平6−55067号公報
【特許文献2】特開平7−155587号公報
【特許文献3】特開2001−122608号公報
【特許文献4】特開2004−175660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らの検討によると、特許文献1の活性炭は、比表面積3000m2/gのものを用いたときに200mg/gを超えるメタン吸着量を示すが、高すぎる比表面積はタンク等への充填性に難点がある。タンク等への充填性に適した比表面積1500m2/g程度の活性炭ではメタン吸着量が100mg/g以下である。特許文献2の活性炭は、表面に付着した金属化合物が細孔の入り口を塞いだり潰したりしてしまうため、メタンなどのガスを吸着することに利用できる細孔の利用効率が低い。特許文献3の活性炭のメタン吸着量は100mg/g以下である。
また、本出願人が先に特許文献4で提案した電気二重層キャパシタ用の活性炭では、メタン吸着量が十分でない。
【0008】
本発明の目的は、低相対圧力下であってもメタンやメタンを主成分とする天燃ガスを多量に効率よく吸着貯蔵でき、且つタンク等への充填性に優れ、貯蔵装置をコンパクト化できるガス吸着剤や電気二重層キャパシタなどに好適な活性炭、および、該活性炭からなる吸着剤を用いたキャニスター(ガソリン蒸発防止装置)、天然ガスを貯蔵するための装置、及び天然ガス自動車等の用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の目的を達成するために鋭意研究した結果、細孔分布において、細孔直径1.0〜1.5nmの範囲に細孔容積の最大値を示すピークAがあり、そのピークAの値が0.012〜0.050cm3/gの範囲にあり且つ全細孔容積値の2〜32%の大きさである活性炭が、低い比表面積にも拘わらず高いメタン吸着量を示すことを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下のような活性炭が提供される。
(1)細孔分布において、細孔直径1.0〜1.5nmの範囲に細孔容積の最大値を示すピークAがあり、
そのピークAの値が0.012〜0.050cm3/gの範囲にあり且つ全細孔容積値の2〜32%の大きさである活性炭。
(2)BET比表面積が1100〜2200m2/gである(1)に記載の活性炭。
(3)ピークAが細孔直径1.2〜1.4nmの範囲にある(1)又は(2)に記載の活性炭。
(4)細孔直径1.5〜1.7nmの範囲にピークBがある(1)〜(3)のいずれかに記載の活性炭。
(5)細孔直径1.7〜2.0nmの範囲にピークCがある(1)〜(4)のいずれかに記載の活性炭。
(6)細孔直径2.0〜2.5nmの範囲にピークDがある(1)〜(5)のいずれかに記載の活性炭。
【0011】
本発明によれば、以下の活性炭の製造方法が提供される。
(7)金属元素濃度で7000ppm以上のアルカリ土類金属化合物の存在下に、低軟化点ピッチを炭化処理して真密度1.44〜1.52g/cm3の易黒鉛化性炭素化物を得、
アルカリ金属化合物の存在下に、前記易黒鉛化性炭素化物を賦活処理し、
次いで、この賦活された炭素化物を洗浄することを含む活性炭の製造方法。
(8)低軟化点ピッチを炭化処理して真密度1.44〜1.52g/cm3の易黒鉛化性炭素化物を得、
該炭素化物に金属元素濃度で7000ppm以上のアルカリ土類金属化合物を混合して混合物を得、
アルカリ金属化合物の存在下に、前記混合物を賦活処理し、
次いで、この賦活された混合物を洗浄することを含む活性炭の製造方法。
(9)低軟化点ピッチの軟化点が100℃以下である(7)又は(8)に記載の活性炭の製造方法。
(10)低軟化点ピッチが石炭系ピッチ又は石炭系ピッチの有機溶媒可溶分である(7)又は(8)に記載の活性炭の製造方法。
(11)アルカリ土類金属化合物がベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物である(7)〜(10)のいずれかに記載の活性炭の製造方法。
(12)アルカリ土類金属化合物が、アルカリ土類金属単体、酸化物、水酸化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、リン酸塩、炭酸塩、硫化物、硫酸塩及び硝酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である(7)〜(11)のいずれかに記載の活性炭の製造方法。
(13)アルカリ金属化合物が、アルカリ金属水酸化物である(7)〜(12)のいずれかに記載の活性炭の製造方法。
(14)アルカリ金属化合物が、カリウム、ナトリウム及びセシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物である(7)〜(13)のいずれかに記載の活性炭の製造方法。
【0012】
また、本発明によれば、
(15)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の活性炭と気相法炭素繊維とを含有する炭素複合粉。
(16)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の活性炭とカーボンブラックと結合剤とを含有する分極性電極。
(17)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の活性炭と気相法炭素繊維とカーボンブラックと結合剤とを含有する分極性電極。
(18)活性炭に対する気相法炭素繊維の混合量が0.02〜20質量%である(17)に記載の分極性電極。
(19)気相法炭素繊維が内部に中空構造を有し、その比表面積が10〜50m2/g、平均繊維径が50〜500nm、アスペクト比が5〜1000である(17)または(18)に記載の分極性電極。
(20)結合剤が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、アクリレート系ゴムまたはジエン系ゴムである(16)〜(19)のいずれかに記載の分極性電極。
(21)前記(16)〜(20)のいずれかに記載の分極性電極を用いた電気二重層キャパシタ。
(22)4級アンモニウム塩、4級イミダゾリウム塩、4級ピリジニウム塩、4級ホシホニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む電解質塩を有機溶媒に溶解した電解液を用い、電解質イオンの陽イオン径が3〜15Å、陰イオン径が5〜10Åである前記(21)に記載の電気二重層キャパシタ。
(23)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の活性炭を含有するスラリー。
(24)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の活性炭を含有するペースト。
(25)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の活性炭が表面に塗布された電極シート。
(26)前記(21)または(22)に記載の電気二重層キャパシタを含む電源システム。
【0013】
(27)前記(21)または(22)に記載の電気二重層キャパシタを使用した自動車。
(28)前記(21)または(22)に記載の電気二重層キャパシタを使用した鉄道。
(29)前記(21)または(22)に記載の電気二重層キャパシタを使用した船舶。
(30)前記(21)または(22)に記載の電気二重層キャパシタを使用した航空機。
(31)前記(21)または(22)に記載の電気二重層キャパシタを使用した携帯機器。
(32)前記(21)または(22)に記載の電気二重層キャパシタを使用した事務用機器。
(33)前記(21)または(22)に記載の電気二重層キャパシタを使用した太陽電池発電システム。
(34)前記(21)または(22)に記載の電気二重層キャパシタを使用した風力発電システム。
(35)前記(21)または(22)に記載の電気二重層キャパシタを使用した通信機器。
(36)前記(21)または(22)に記載の電気二重層キャパシタを使用した電子タグ。
【0014】
(37)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の活性炭からなる吸着剤。
(38)炭素数1〜4の炭化水素ガスを吸着するための(37)に記載の吸着剤。
が提供される。
【0015】
さらに、本発明によれば、
(39)前記(37)又は(38)に記載の吸着剤を使用したガソリン蒸発防止装置。
(40)前記(37)又は(38)に記載の吸着剤を使用した天然ガス貯蔵タンク。
(41)前記(37)又は(38)に記載の吸着剤を使用した天然ガス自動車。
が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の活性炭は、低比表面積であっても、低相対圧力下で、メタンなどの炭化水素ガスを多量に吸着することができるので、貯蔵タンク等への活性炭の充填性が良好であり、装置を小型化することができる。その結果、天然ガス自動車などに搭載される天然ガス貯蔵装置や、ガソリン車などに搭載されるキャニスタに用いる吸着剤として好適である。また、本発明の活性炭は低い温度(−30℃付近下)での充放電特性及び内部抵抗特性に優れているので電気二重層キャパシタ等の電極材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を詳細に説明する。
(活性炭)
本発明の活性炭は、細孔直径1.0〜1.5nmの範囲に細孔容積の最大値を示すピークAがあり、そのピークAの値が0.012〜0.050cm3/gの範囲にあり且つ全細孔容積値の2〜32%の大きさである。
【0018】
活性炭の細孔分布は、窒素吸着等温線に基づいてBJH法によって算出される。具体的には、活性炭を77.4K(窒素の沸点)に冷却した状態で窒素ガスを導入し容量法により窒素ガスの吸着量V〔cc/g〕を測定する。吸着平衡状態にあるときの窒素ガスの圧力(吸着平衡圧)P〔mmHg〕と窒素ガスの飽和蒸気圧P0〔mmHg〕との比(相対圧力:P/P0)を横軸に、吸着量を縦軸にとってプロットすることにより、窒素吸着等温線を得る。この窒素吸着等温線に基づいて、BJH(Barrett−Joyner−Halenda)法で、細孔分布解析を行った。BJH法自体は公知の方法であり、例えば、J.Amer.Chem.Soc.73.373.(1951)に開示された方法に従って行うことができる。
この細孔分布解析によって、図1に示すような、横軸に細孔直径を、縦軸に細孔容積をとった細孔分布を表す図が得られる。なお、図1は本発明の実施例の細孔分布を示す図である。
【0019】
本発明の活性炭は、細孔容積の最大値を示すピークAが細孔直径1.0〜1.5nmの範囲に、好ましくは1.2〜1.4nmの範囲にある。この範囲にピークAがあると、炭素数1〜4の炭化水素ガスの吸着量が多くなる。
また、本発明の活性炭は、細孔直径1.5〜1.7nmの範囲に細孔容積のピークBがあること、細孔直径1.7〜2.0nmの範囲に細孔容積のピークCがあること、及び/又は細孔直径2.0〜2.5nmの範囲に細孔容積のピークDがあることが好ましい。図1の曲線Mで示される細孔分布(実施例3)では、ピークAが約1.22nmに、ピークBが約1.54nmに、ピークCが約1.85nm、ピークDが2.28nmにそれぞれ現れている。曲線LではピークA、ピークB及びピークCが現れている。曲線KではピークA及びピークBが現れている。
【0020】
ピークAの値は、0.012〜0.050cm3/gの範囲に、好ましくは0.020〜0.050cm3/gの範囲にある。0.012cm3/gよりも小さいとメタンのガス吸着量が低下傾向になる。逆に0.050cm3/gよりも大きいと吸着量自体は大きくなるが、活性炭の容器等への充填密度が低下傾向になる。
【0021】
本発明の活性炭は、細孔直径1.0〜1.5nmの範囲にある細孔容積のピークAの値が全細孔容積値の2〜32%の大きさ、好ましくは20〜31%の大きさである。ピークAの値がこの範囲になることによって、メタン等の炭化水素ガスの吸着量が大きくなる。
【0022】
本発明の活性炭は、BET比表面積が好ましくは1100〜2200m2/g、特に好ましくは1800〜2100m2/gである。BET比表面積が大きすぎると、容器等への充填密度が下がりガス吸着剤として所望されているガス貯蔵量が低下する傾向になる。一方BET比表面積が小さすぎると、全細孔容積が小さくなり、ガス吸着量が低くなる傾向になる。BET比表面積(m2/g)とピークAの値(cm3/g)との比は好ましくは50万:1〜80万:1である。
【0023】
(活性炭の製造方法)
本発明の活性炭の製造方法は、
(A)金属元素濃度で7000ppm以上のアルカリ土類金属化合物の存在下に、低軟化点ピッチを炭化処理して真密度1.44〜1.52g/cm3の易黒鉛化性炭素化物を得、
アルカリ金属化合物の存在下に、前記易黒鉛化性炭素化物を賦活処理し、
次いで、この賦活された炭素化物を洗浄することを含むものと、
(B)低軟化点ピッチを炭化処理して真密度1.44〜1.52g/cm3の易黒鉛化性炭素化物を得、
該炭素化物に金属元素濃度で7000ppm以上のアルカリ土類金属化合物を混合して混合物を得、
アルカリ金属化合物の存在下に、前記混合物を賦活処理し、
次いで、この賦活された混合物を洗浄することを含むものとがある。
【0024】
本発明の活性炭の製造方法に用いられるピッチは、低軟化点ピッチである。ピッチには、石油系ピッチ、石炭系ピッチなどがある。これらのうち、石炭系ピッチ、特に石炭系ピッチの有機溶媒可溶分が本発明においては好ましく用いられる。石炭系ピッチは石油系ピッチと比較して、側鎖が少なく、芳香族化合物の比率が高く、様々な分子構造の多環芳香族化合物が混在しているため、これを原料とした活性炭は、多環芳香族化合物に由来して、種々の複雑な微結晶構造等を形成し、優れたガス吸着特性を発現するものと考えられる。本発明に用いられる低軟化点ピッチは、軟化点が、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは60℃〜90℃のものである。
【0025】
本発明の活性炭の製造方法に用いられるアルカリ土類金属化合物は、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素が含まれている単体又は化合物であれば特に限定されず、無機化合物及び有機化合物のいずれも使用することができる。
アルカリ土類金属の無機化合物としては、酸化物、水酸化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、りん酸塩、炭酸塩、硫化物、硫酸塩及び硝酸塩を例示することができる。
アルカリ土類金属の有機化合物としては、アセチルアセトンやシクロペンタジエン等が配位した有機金属錯体が挙げられる。
【0026】
本発明において好ましく用いられるアルカリ土類金属化合物は、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムから選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素の酸化物、炭酸塩または硫化物である。より具体的には、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫化カルシウム、フッ化ストロンチウム、又は燐酸マグネシウムである。
アルカリ土類金属化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
(製造方法(A))
本発明の活性炭の製造方法(A)では、先ず、アルカリ土類金属化合物の存在下に、低軟化点ピッチを炭化処理して、真密度1.44〜1.52g/cm3の易黒鉛化性炭素化物を生成させる。具体的には低軟化点ピッチとアルカリ土類金属化合物とを混合し、熱処理すればよい。低軟化点ピッチとアルカリ土類金属化合物との混合方法は、均一に混合できれば特に限定されない。例えば、常温下で、低軟化点ピッチ粉末にアルカリ土類金属化合物粉末を添加し攪拌して混合する。攪拌手段としては、V形混合機、ヘンシュエルミキサー、ナウターミキサーなどが挙げられ、これら攪拌手段によって均一に混合すればよい。
【0028】
アルカリ土類金属化合物は金属元素濃度として7000ppm以上存在させる。7000ppm未満では賦活処理時の触媒効果が不十分となる。なお、金属元素濃度(ppm)は、アルカリ土類金属元素質量/(低軟化点ピッチの質量+アルカリ土類金属化合物の質量)×106で計算される値である。
【0029】
炭化処理の方法は特に制限されないが、先ず400〜700℃、好ましくは450〜550℃の温度範囲で第一炭化処理を行い、次いで500〜700℃、好ましくは540〜670℃の温度範囲で第二炭化処理を行うことが好ましい。また第二炭化処理の温度は第一炭化処理の温度よりも通常高くする。
この炭化処理によって低軟化点ピッチは熱分解反応を起こす。熱分解反応によって、低軟化点ピッチから、ガス・軽質留分が脱離し、残渣は重縮合して最終的には固化する。この炭化処理で、炭素原子間のミクロな結合状態がほぼ決定され、この工程で決定された炭素結晶子の構造は最終生成物である活性炭の構造の基礎を決定づけるものである。
【0030】
第一炭化処理における温度が400℃以下になると熱分解反応が不十分になり炭素化が進行しないことがある。700℃以上になると黒鉛類似の微結晶性構造部分が過剰に形成されてしまいアルカリ賦活が困難になる傾向がある。
この第一炭化処理においては、昇温速度は3〜10℃/hr、より好ましくは4〜6℃/hr、最高温度での保持時間は5〜20時間、より好ましくは8〜12時間である。
【0031】
第二炭化処理における温度が500℃以下になると第二炭化処理の効果が現れ難い傾向になる。700℃以上になると黒鉛類似の微結晶性構造部分が過剰に形成されてしまいアルカリ賦活が困難になる傾向がある。
第二炭化処理においては、昇温速度は3〜100℃/hr、より好ましくは4〜60℃/hr、最高温度での保持時間は0.1〜8時間、より好ましくは0.5〜5時間である。第二炭化処理では、昇温を早くし、最高温度での保持時間を短くし、降温をゆっくりにすることによって本発明の活性炭を得ることができる。最高温度から室温まで下げるために、5時間〜170時間掛けることが好ましい。
【0032】
この炭化処理によって得られる易黒鉛化性炭素化物は、その真密度が、好ましくは1.44〜1.52g/cm3、より好ましくは1.45〜1.52g/cm3になるようにする。真密度をこの範囲にすることによって本発明の活性炭を容易に得ることができる。なお、真密度は液相置換法(ピクノメーター法)で求めた値である。
【0033】
上記炭化処理によって得られた易黒鉛化性炭素化物は、次のアルカリ金属化合物による賦活処理前に平均粒径1〜30μmに粉砕することが好ましい。粉砕方法は特に限定されず、例えば、ジェットミル、振動ミル、バルベライザなどの公知の粉砕方法が挙げられる。易黒鉛化性炭素化物を粉砕せずに粒のままで賦活処理した場合、賦活処理後の洗浄において粒内部に含まれる金属不純物が十分に除去できないことがあり、その金属不純物が吸着剤の耐久性を落とす傾向がある。
【0034】
本発明の活性炭の製造方法(A)では、次に、アルカリ金属化合物の存在下に、前記で得られた易黒鉛化性炭素化物を賦活処理する。具体的には、アルカリ金属化合物と易黒鉛化性炭素化物とを混合し、熱処理する。
【0035】
本発明の活性炭の製造方法に用いられるアルカリ金属化合物は、特に制限されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、などのアルカリ金属の水酸化物が好ましい。アルカリ金属化合物は、炭素化物の重量の1.5〜5.0倍量、より好ましくは1.7〜3.0倍量使用する。
【0036】
賦活処理における温度は、通常600℃〜800℃、好ましくは700℃〜760℃である。
賦活処理は、不活性ガス雰囲気で通常行われる。不活性ガスとしては窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。また、必要に応じて水蒸気、炭酸ガス等を導入して賦活処理を行っても良い。
【0037】
賦活処理において、例えば水酸化カリウムを使用した場合には、300℃〜400℃の温度において水酸化カリウムが溶融し脱水が起こる。そして、400℃以上の温度において、金属カリウムと水蒸気とによる賦活反応が起こる。
このとき反応物は液体状態から固体状態へ変化すると同時に、原料中の炭素の酸化により、一酸化炭素ガス(CO)、二酸化酸素ガス(CO2),水素(H2)などのガスが発生する。このガス発生によって反応物の融液が発泡したり突沸する現象(融液膨張)が起こり容器から噴きこぼれたりするので、反応物の量に対して反応器の容量を十分に大きくしておく必要がある。
【0038】
本発明の製造方法では、易黒鉛化性炭素化物の炭素層間に、アルカリ金属化合物の還元反応によって生じたアルカリ金属が入り込み、炭素層間を抉じ開け、その結果、隙間が多く形成される。従来のアルカリ賦活反応では、主に、炭素化物との反応で炭素が消費され、その消費によって細孔が形成され、アルカリ金属によって形成される炭素層間の隙間は少ない。
【0039】
本発明の製造方法では、賦活処理をアルカリ金属蒸気の存在下で実施することもできる。前述したようにアルカリ金属が炭素層間に入り込むことによって細孔が形成されるので、アルカリ金属化合物に代えて又はアルカリ金属化合物と併用してアルカリ金属蒸気を用いることができる。
【0040】
本発明の活性炭の製造方法(A)では、最後に、賦活された炭素化物を水、酸などによって洗浄する。
酸洗浄に用いられる酸としては、硫酸、燐酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類、蟻酸、酢酸、クエン酸などの有機酸などが挙げられる。洗浄効率と残存物の少なさの観点から、塩酸、クエン酸が好ましい。酸濃度は好ましくは0.01〜20規定、より好ましくは0.1〜1規定である。
【0041】
洗浄方法としては、炭素化物に酸を添加し攪拌すれば良いが、洗浄効率を高めるために、煮沸または50〜90℃で加温することが好ましい。また、超音波洗浄機を使用するとより効果的である。洗浄時間は、0.5時間〜24時間、好ましくは1〜5時間である。
洗浄回数は、洗浄方法によって異なるが、例えば、煮沸酸洗浄を1〜5回行い、次いで残留塩素を除去するために熱水煮沸洗浄を1〜5回程度行うのが好ましい。酸洗浄に使用する容器はグラスライニング、タンタル、テフロン(登録商標)などの材料で形成されたものが好ましい。
【0042】
また、これらの洗浄工程に全自動攪拌加温濾過乾燥機、例えば多機能濾過機WDフィルター(ニッセン製)、FVドライヤー(大川原製作所製)などを使用することができる。尚、洗浄に使用する純水はイオン電気伝導度1.0μS/cm以下のものである。また洗浄廃液はリサイクルして洗浄水の一部として再使用することができる。
【0043】
(製造方法(B))
本発明の別の活性炭の製造方法(B)では、先ず、低軟化点ピッチを炭化処理して、真密度1.44〜1.52g/cm3の易黒鉛化性炭素化物を生成させる。炭化処理の方法等は前記製造方法(A)で述べた方法等と同様である。製造方法(B)における炭化処理ではアルカリ土類金属化合物を存在させなくてもよい。
【0044】
次に、前記炭化処理で得られた易黒鉛化性炭素化物に金属元素濃度として7000ppm以上のアルカリ土類金属化合物を混合して混合物を得、アルカリ金属化合物の存在下で、混合物を賦活処理する。具体的には、易黒鉛化性炭素化物とアルカリ金属化合物とアルカリ土類金属化合物とを混合し、熱処理する。賦活処理の方法等は前記製造方法(A)で述べた方法等と同様である。なお、金属元素濃度(ppm)は、アルカリ土類金属元素質量/(炭素化物の質量+アルカリ土類金属化合物の質量)×106で計算される値である。
最後に、賦活された炭素化物を洗浄する。この洗浄方法も前記製造方法(A)で述べた方法等と同様である。
【0045】
(用途)
本発明の活性炭は、吸着剤として用いることができる。とくにガス吸着剤として好適に用いることができる。
本発明の吸着剤によって吸着できるガスとしては、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン等の炭素数1〜4の炭化水素ガス、水素、天然ガスや都市ガス、LPガス、ジメチルエーテル、二酸化炭素、硫化水素、酸素、窒素、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、一酸化炭素、アンモニア、これらを含む混合ガス、などが挙げられる。吸着できる蒸気としてはメタノール、エタノール、水、クロロホルム、アルデヒド類、低級炭化水素類などが挙げられる。なかでも、炭素数1〜4の炭化水素ガス、特に天然ガスを主成分とするガスの吸着性能に優れているので、天然ガス吸着剤として好ましく使用される。
【0046】
本発明の吸着剤を使用して天然ガスなどを吸着させるには、吸着剤をボンベ、タンク等の密閉容器に充填し、該容器にガスを導入してガスを吸着させればよい。また、吸着したガスを使用する場合は脱着させればよい。吸脱着の条件はとくに限定されるものではないが、ガスないし密閉容器の温度は相変化物質の相変化温度(通常は融点)以下とするのが好ましい。このように本発明の吸着剤を使用して天然ガス貯蔵タンクを得ることができる。さらに本発明の活性炭はタンク等への充填性に優れているので、同じ吸着性能であっても天然ガス貯蔵タンクを小型にすることができる。従って、本発明の活性炭は天然ガス自動車の燃料タンク用途に適している。
【0047】
本発明の吸着剤を使用することによってガソリン蒸発防止装置(キャニスター)を得ることができる。地球環境保護の観点から車輌の運行に関して各種の公害対策が運用されている。該対策の一つとして、車両停止時に燃料タンクや気化器のフロート室や燃料貯留室等で蒸散した燃料をキャニスターの中の吸着剤に吸着させ貯蔵し、車輌走行時に大気をキャニスターに送り込み、吸着していた燃料を脱離させエンジンの吸気管に送り込み燃焼処理するシステムが使われている。本発明の活性炭は吸着性能に優れているので、このキャニスターに用いる吸着剤として好適である。
【0048】
本発明の活性炭は、その他様々な用途に適用することができる。例えば、エチレンガスの除去による、野菜、果実、生花等の園芸農作物の鮮度保持や熟成度調整に適用でき;水蒸気の除去による、磁気ディスク装置の湿度調節に適用でき;建材や車両内装等に使用されている接着剤や樹脂から揮散される揮発性有機化合物(以下、VOCと略す)の除去による、シックハウス症候群等の予防、治療に適用できる。さらに、様々な用途に適用するために本発明の活性炭(吸着剤)は、樹脂シート、紙、不織布等に付着させたり、挟み込んだりして使用することができ、また樹脂に練り込んで使用することもできる。
【0049】
(炭素複合粉)
本発明の活性炭に気相法炭素繊維を配合することにより一層の特性向上が図られる。気相法炭素繊維を活性炭に配合する方法は特に制限されないが、気相法炭素繊維を易黒鉛化性炭素化物と混合し賦活する方法によって気相法炭素繊維と活性炭とからなる炭素複合粉とすることが好ましい。この方法によって粒子同士の接触抵抗が低減されるとともに導電性及び電極強度が向上し、電圧印加持の電極膨張率が低減される効果も発現される。また、気相法炭素繊維を活性炭と混合する方法によって炭素複合粉とすることもできる。炭素複合粉にすることによって活性炭単独の場合に比べて熱伝導率が向上する。
【0050】
活性炭に配合する気相法炭素繊維は、例えばベンゼンと金属触媒粒子とを水素気流中で約1000℃で吹き付けることによって製造することができるものである。気相法炭素繊維としては、上記のような製法によって得た後、1000〜1500℃で焼成したものを、さらに2500℃以上の温度で黒鉛化処理したものを使用することができる。
【0051】
気相法炭素繊維は、好ましくは内部に中空構造を有し、その比表面積が10〜50m2/g、平均繊維径が50〜500nm、アスペクト比が5〜1000のものである。気相法炭素繊維は、分岐状繊維、直鎖状またはそれらの混合物のいずれもが使用可能である。
【0052】
気相法炭素繊維は、繊維長さが活性炭の平均粒子径の0.5倍〜2倍の範囲が好ましい。気相法炭素繊維の長さが0.5倍よりも短いと粒子同士の橋渡しができず導電性が不十分となるおそれがあり、長さが2倍を超えると活性炭粒子の隙間に気相法炭素繊維が入れず分極性電極の強度が低下するおそれがある。
【0053】
気相法炭素繊維は同芯円状の配向構造を持っているため、ガス賦活(水蒸気、CO2など)、薬品賦活(塩化亜鉛、燐酸、炭酸カルシウムなど)、アルカリ賦活(水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなど)などにより、あらかじめ賦活されたものを使用することも可能である。この場合にはミクロ孔(2.0nm以下の細孔)容積が0.01〜0.4cm3/g、BET比表面積が10〜500m2/gになるように表面構造を制御したものが好ましい。ミクロ孔容積が多すぎると、電極内部でのイオン拡散抵抗が増大して好ましくないことがある。
【0054】
気相法炭素繊維の量は、活性炭に対して、好ましくは0.02〜20質量%、より好ましくは0.1〜20質量%、とくに好ましくは0.5〜10質量%である。0.02質量%未満だと、易黒鉛化性炭素化物と混合した複合粉の熱伝導率を増加させる効果が少なく、賦活時の均熱性が不十分になるために、均一な賦活が困難となり、体積あたりの静電容量(F/cm3)が大きく品質安定性に優れた活性炭を工業的に製造できることができないおそれがある。20質量%を超えると電極密度が低くなり、体積あたりの電気容量(F/cm3)が低下してしまうおそれがある。
【0055】
気相法炭素繊維の良導電性、熱伝導を生かした放熱性の改善に加え、塊状の活性炭粒子に繊維状のものが混在することによる電極膨張クッション材としての役割が増強されるため、電圧印加持の電極膨張率が増加するのを抑えるのにも効果的である。
本発明の活性炭は、分極性電極及び電気二重層キャパシタに利用することができる。
【0056】
(3)分極性電極及び電気二重層キャパシタ
本発明の分極性電極は、本発明の活性炭とカーボンブラックと結合剤とを含有するものであり、好ましくはさらに気相法炭素繊維を含有するものである。
本発明分極性電極に用いるカーボンブラックとしては電気化学素子の電極に用いられる導電材として知られる炭素材料を用いることができる。例えば、アセチレンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラックなどが挙げられる。カーボンブラックの量は、分極電極100質量部に対して通常0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜10質量部である。
【0057】
気相法炭素繊維は前述したとおりのものである。分極性電極に気相法炭素繊維を含有させる方法としては、気相法炭素繊維と活性炭とカーボンブラックと結合剤とを混合する方法の他に、前述の炭素複合粉をカーボンブラック及び結合剤と混合する方法がある。
【0058】
分極性電極は、通常、活性炭に導電剤および結合剤を加えて混練圧延する方法;活性炭に導電剤、結合剤、必要に応じて溶媒を加えてスラリー状又はペースト状にして導電材に塗布する方法;活性炭に未炭化樹脂類を混合して焼結する方法等によって製造することができる。
【0059】
例えば、平均粒径1〜50μmの本発明の活性炭の粉末に、導電剤としてカーボンブラック等を加え、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、アクリレート系ゴム、ブタジエン系ゴム等の結合剤を加え、ブレンダーで乾式混合し、次いで該混合粉に沸点200℃以下の有機溶剤を添加して膨潤させてから混練し、厚さ0.1〜0.5mm程度のシートに成形し、100〜200℃程度の温度で真空乾燥することによって分極性電極を得ることができる。
【0060】
有機溶剤としては、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルメチルケトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類など沸点200℃以下の有機溶剤であれば特に限定されるものではないが、トルエン、アセトン、エタノールなどが好適である。沸点が200℃以上の有機溶媒を用いると、シート形成後100〜200℃で乾燥したときに有機溶媒がシート中に残存するため好ましくない。
【0061】
このシートを所定の形状に打ち抜き電極とする。この電極に集電材である金属板を積層し、セパレータを介し、金属板を外側にして2枚重ね、電解液に浸して電気二重層キャパシタとすることができる。
【0062】
電気二重層キャパシタの電解液としては公知の非水溶媒電解質溶液、水溶性電解質溶液のいずれも使用可能であり、さらに他の電解液の他に、非水系電解質である高分子固体電解質及び高分子ゲル電解質、イオン性液体も使用することができる。
水系(水溶性電解質溶液)のものとしては、硫酸水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。
また非水系(非水溶媒電解質溶液)のものとしては、R1234+またはR1234+で表されるカチオン(R1,R2,R3,R4はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基またはアリル基である)と、BF4-、PF6-、ClO4-等のアニオンとからなる4級アンモニウム塩または4級ホスホニウム塩を電解質として用い、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系非水溶媒を溶媒として用いたものが挙げられる。また、電解質または溶媒は、それぞれ二種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0063】
電極間に必要に応じて介在させるセパレータは、イオンを透過する多孔質セパレータであれば良く、例えば、微孔性ポリエチレンフィルム、微孔性ポリプロピレンフィルム、エチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ガラス繊維混抄不織布などが好ましく使用できる。
【0064】
本発明の電気二重層キャパシタは、一対のシート状電極の間にセパレータを介して電解液と共に金属ケースに収納したコイン型、一対の正極と負極をセパレータを介して巻回してなる巻回型、セパレータを介して多数のシート状電極を積み重ねた積層型等いずれの構成もとることができる。
【0065】
本発明の電気二重層キャパシタは電源システムに適用することができる。そしてこの、電源システムは、自動車、鉄道などの車両用電源システム;船舶用電源システム;航空機用電源システム;携帯電話、携帯情報端末、携帯電子計算機などの携帯電子機器用電源システム;事務機器用電源システム;態様電池発電システム、風力発電システムなどの発電システム用電源システム;などに適用することができる。また、本発明の電気二重層キャパシタは、通信機器;ICタグなどの電子タグに適用することができる。電子タグは、送信機、受信機、記憶装置、及び電源を有し、外部からの無線信号を受信機が受信したときに、記憶装置内の情報を送信機で送信するものである。本発明の電気二重層キャパシタは、電子タグの電源として使用できる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例・比較例によって、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例における各特性の測定方法は以下の通りである。
(BET比表面積および細孔容積の測定)
Quantachrome社製、NOVA1200を使用し、液体窒素温度における窒素の吸着等温線より、BET法およびBJH法を用いて算出した。
(ガス吸着量の測定)
常圧から3.5MPaまで加圧した時のメタン吸着量を測定した。
脱気した容器内にメタンガスを導入し、圧力が安定した後その圧力を測定した。この圧力と容器の容積から内部に存在する気体メタン量を算出し、測定した導入メタンガス量から気体メタン量を減じてガス吸着量とした。
【0067】
実施例1
軟化点86℃の石炭ピッチを500℃で第一炭化処理(昇温速度5℃/hr、500℃での保持時間10時間)し、550℃で第二炭化処理(昇温速度50℃/hr、550℃での保持時間1時間、降温時間100時間)し、粉砕して、平均粒径3.5μm、真密度1.45g/cm3の易黒鉛化性炭素化物を得た。易黒鉛化性炭素化物1000gに炭酸カルシウム粉25gを添加しヘンシェルミキサーにて60秒間攪拌し混合した。さらに該炭素粉に質量比で1.6倍量のKOH微粉を添加し、ボールミルで混合し、Ni製容器(300mm×300mm×3t×高さ10mm)に充填した。
【0068】
該容器をバッチ賦活炉(分割式加熱炉、富士電波工業製)に入れて熱処理した。賦活条件は、N2雰囲気下で、昇温速度10℃/分にて昇温し、400℃で30分間保持し、さらに800℃で15分間保持し、次いで100℃以下まで降温した。Ni製容器をバッチ賦活炉から取出し、反応生成物を得た。この反応生成物に1N−塩酸を加えて中和し、0.1N−塩酸で煮沸洗浄を2回行って金属不純物を除去した。次に蒸留水で煮沸洗浄を2回行って残留Cl及び金属不純物を除去した。110℃で熱風乾燥し、次いで330メッシュ篩と磁選機(磁力12000G)を通して平均粒径4.6μmの活性炭を得た。
この活性炭の比表面積は1170m2/gであった。また図1の曲線Kで示すように、約1.22nmにピークが現れており、細孔直径1.0〜1.5nmの範囲での細孔容積のピーク値は0.013cm3/gであり、全細孔容積0.56cm3/gの2%の大きさであった。該活性炭のメタンガス吸着量の測定結果を表1に、細孔分布を図1に示す。
【0069】
実施例2
軟化点86℃の石炭ピッチを500℃で第一炭化処理(昇温速度5℃/hr、500℃での保持時間10時間)し、660℃で第二炭化処理(昇温速度50℃/hr、660℃での保持時間1時間、降温時間100時間)し、粉砕して、平均粒径3.5μm、真密度1.51g/cm3の易黒鉛化性炭素化物を得た。易黒鉛化性炭素化物1000gに酸化カルシウム粉10gと水酸化カルシウム5gを添加しヘンシェルミキサーにて60秒間攪拌し混合した。さらに該炭素粉に対する質量比で2.6倍量のKOH微粉を添加し、ボールミルで混合し、Ni製容器(300mm×300mm×3t×高さ10mm)に充填した。
【0070】
該容器をバッチ賦活炉(分割式加熱炉、富士電波工業製)に入れて熱処理した。賦活条件は、N2雰囲気下で、昇温速度10℃/分にて昇温し、400℃で30分間保持し、さらに720℃で15分間保持し、次いで100℃以下まで降温した。Ni製容器をバッチ賦活炉から取出し、反応生成物を得た。この反応生成物に1N−塩酸を加えて中和し、0.1N−塩酸で煮沸洗浄を2回行って金属不純物を除去した。次に蒸留水で煮沸洗浄を2回行って残留Cl及び金属不純物を除去した。110℃で熱風乾燥し、次いで330メッシュ篩と磁選機(磁力12000G)を通して平均粒径4.4μmの活性炭を得た。
この活性炭の比表面積は1810m2/gであった。また図1の曲線Lに示すように、約1.22nmに細孔容積のピークが現れており、細孔直径1.0〜1.5nmの範囲での細孔容積のピーク値は0.021cm3/gであり且つ全細孔容積0.88cm3/gの24%の大きさであった。該活性炭のメタンガス吸着量の測定結果を表1に、細孔分布を図1に示す。
【0071】
実施例3
軟化点86℃の石炭ピッチ1000gに炭酸カルシウムを30g添加し、560℃で第一炭化処理(昇温速度5℃/hr、560℃での保持時間10時間)し、次いで640℃で第二炭化処理(昇温速度50℃/hr、640℃での保持時間1時間、降温時間100時間)し、粉砕して、平均粒径3.5μm、真密度1.48g/cm3の易黒鉛化性炭素化物を得た。易黒鉛化性炭素化物に質量比で3.0倍量のKOH微粉を添加しボールミルで混合し、Ni製容器(600φ×3t×高さ1050mm)に充填した。
【0072】
該容器を連続賦活炉(ローラーハースキルン、ノリタケカンパニー製)に入れて熱処理した。賦活条件は、N2雰囲気下で、昇温速度5℃/分にて昇温し、400℃で30分間保持し、さらに740℃で15分間保持し、次いで100℃以下まで降温した。Ni製容器を連続賦活炉から取出し反応生成物を得た。反応生成物に1N−塩酸を添加して中和し、0.1N−塩酸で煮沸洗浄を3回行って金属不純物を除去した。次に蒸留水で煮沸洗浄を3回行って残留Cl及び金属不純物を除去した。110℃で熱風乾燥し、次いで330メッシュ篩と磁選機(磁力12000G)を通して平均粒径4.5μmの活性炭を得た。
この活性炭の比表面積は2020m2/gであった。また図1の曲線Mで示すように、約1.22nmのところに細孔容積のピークが現れており、細孔直径1.0〜1.5nmの範囲での細孔容積のピーク値は0.033cm3/gであり且つ全細孔容積1.06cm/gの31%の大きさであった。該活性炭のメタンガス吸着量の測定結果を表1に、細孔分布を図1に示す。
【0073】
比較例1
炭酸カルシウムの量を17gに変更した以外は、実施例3と同様にして活性炭を製造した。
活性炭の比表面積は1570m2/gであり、図1の曲線Nに示すように細孔直径1.0〜1.5nmの範囲に細孔容積のピークは現れなかった。細孔直径1.22nmにおける細孔容積は0.006cc/gであり、全細孔容積0.78cm3/gの0.008%の大きさであった。該活性炭のメタンガス吸着量は140mg/gであった。
【0074】
比較例2
実施例2と同様にして平均粒径3μmの易黒鉛化性炭素化物を得た。この易黒鉛化性炭素化物1000gに、アルカリ土類金属化合物を添加せずに、アルカリ金属化合物(KOH微粉)のみを添加して賦活した以外は実施例2と同様にして活性炭を製造した。この活性炭の比表面積は2210m2/gであった。また図1の曲線Oに示すように細孔直径1.0〜1.5nmの範囲に細孔容積のピークは現れなかった。細孔直径1.22nmにおける細孔容積は0.008cm3/gであり且つ全細孔容積0.92cm3/gの0.9%の大きさであった。該活性炭のメタンガス吸着量の測定結果を表1に、細孔分布を図1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示されるように、細孔径1.0〜1.5nmの細孔容積のピーク値が0.012〜0.050cm3/gの範囲にあり、且つ全細孔容積値の2〜32%の大きさであるように細孔構造を制御した活性炭(実施例1〜3)は比表面積が小さいにもかかわらずメタンガスの吸着量が高いことがわかる。この活性炭はタンク等への充填性に優れ、ガス貯蔵能力に優れているので、天然ガスなどのガス吸着剤として好適に使用することができ、工業的価値は極めて大きい。一方、比較例1の活性炭はメタンガス吸着量が十分でなく、比較例2の活性炭はメタンガス吸着量が実施例1の活性炭と同程度であるが、比表面積が大きく、充填性に難がある。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例及び比較例で得られた活性炭の細孔直径に対する細孔容積の分布を示す図。
【符号の説明】
【0078】
曲線K:実施例1で得られた活性炭の細孔分布
曲線L:実施例2で得られた活性炭の細孔分布
曲線M:実施例3で得られた活性炭の細孔分布
曲線N:比較例1で得られた活性炭の細孔分布
曲線O:比較例2で得られた活性炭の細孔分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔分布において、細孔直径1.0〜1.5nmの範囲に細孔容積の最大値を示すピークAがあり、
そのピークAの値が0.012〜0.050cm3/gの範囲にあり且つ全細孔容積値の2〜32%の大きさである活性炭。
【請求項2】
BET比表面積が1100〜2200m2/gである請求項1に記載の活性炭。
【請求項3】
ピークAが細孔直径1.2〜1.4nmの範囲にある請求項1又は2に記載の活性炭。
【請求項4】
細孔直径1.5〜1.7nmの範囲にピークBがある、請求項1〜3のいずれかに記載の活性炭。
【請求項5】
細孔直径1.7〜2.0nmの範囲にピークCがある、請求項1〜4のいずれかに記載の活性炭。
【請求項6】
細孔直径2.0〜2.5nmの範囲にピークDがある、請求項1〜5のいずれかに記載の活性炭。
【請求項7】
金属元素濃度で7000ppm以上のアルカリ土類金属化合物の存在下に、低軟化点ピッチを炭化処理して真密度1.44〜1.52g/cm3の易黒鉛化性炭素化物を得、
アルカリ金属化合物の存在下に、前記易黒鉛化性炭素化物を賦活処理し、
次いで、この賦活された炭素化物を洗浄することを含む活性炭の製造方法。
【請求項8】
低軟化点ピッチを炭化処理して真密度1.44〜1.52g/cm3の易黒鉛化性炭素化物を得、
該炭素化物に金属元素濃度で7000ppm以上のアルカリ土類金属化合物を混合して混合物を得、
アルカリ金属化合物の存在下に、前記混合物を賦活処理し、
次いで、この賦活された混合物を洗浄することを含む活性炭の製造方法。
【請求項9】
低軟化点ピッチの軟化点が100℃以下である請求項7又は8に記載の活性炭の製造方法。
【請求項10】
低軟化点ピッチが石炭系ピッチ又は石炭系ピッチの有機溶媒可溶分である請求項7又は8に記載の活性炭の製造方法。
【請求項11】
アルカリ土類金属化合物がベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物である請求項7〜10のいずれかに記載の活性炭の製造方法。
【請求項12】
アルカリ土類金属化合物が、アルカリ土類金属単体、酸化物、水酸化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、リン酸塩、炭酸塩、硫化物、硫酸塩及び硝酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項7〜11のいずれかに記載の活性炭の製造方法。
【請求項13】
アルカリ金属化合物が、アルカリ金属水酸化物である請求項7〜12のいずれかに記載の活性炭の製造方法。
【請求項14】
アルカリ金属化合物が、カリウム、ナトリウム及びセシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物である請求項7〜13のいずれかに記載の活性炭の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜6のいずれかに記載の活性炭と気相法炭素繊維とを含有する炭素複合粉。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれかに記載の活性炭とカーボンブラックと結合剤とを含有する分極性電極。
【請求項17】
請求項1〜6のいずれかに記載の活性炭と気相法炭素繊維とカーボンブラックと結合剤とを含有する分極性電極。
【請求項18】
活性炭に対する気相法炭素繊維の混合量が0.02〜20質量%である請求項17に記載の分極性電極。
【請求項19】
気相法炭素繊維が内部に中空構造を有し、その比表面積が10〜50m2/g、平均繊維径が50〜500nm、アスペクト比が5〜1000である請求項17または18に記載の分極性電極。
【請求項20】
結合剤が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、アクリレート系ゴムまたはジエン系ゴムである請求項16〜19のいずれかに記載の分極性電極。
【請求項21】
請求項16〜20のいずれかに記載の分極性電極を用いた電気二重層キャパシタ。
【請求項22】
4級アンモニウム塩、4級イミダゾリウム塩、4級ピリジニウム塩、4級ホシホニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む電解質塩を有機溶媒に溶解した電解液を用い、電解質イオンの陽イオン径が3〜15Å、陰イオン径が5〜10Åである請求項21に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項23】
請求項1〜6のいずれかに記載の活性炭を含有するスラリー。
【請求項24】
請求項1〜6のいずれかに記載の活性炭を含有するペースト。
【請求項25】
請求項1〜6のいずれかに記載の活性炭が表面に塗布された電極シート。
【請求項26】
請求項21または22に記載の電気二重層キャパシタを含む電源システム。
【請求項27】
請求項21または22に記載の電気二重層キャパシタを使用した自動車。
【請求項28】
請求項21または22に記載の電気二重層キャパシタを使用した鉄道。
【請求項29】
請求項21または22に記載の電気二重層キャパシタを使用した船舶。
【請求項30】
請求項21または22に記載の電気二重層キャパシタを使用した航空機。
【請求項31】
請求項21または22に記載の電気二重層キャパシタを使用した携帯機器。
【請求項32】
請求項21または22に記載の電気二重層キャパシタを使用した事務用機器。
【請求項33】
請求項21または22に記載の電気二重層キャパシタを使用した太陽電池発電システム。
【請求項34】
請求項21または22に記載の電気二重層キャパシタを使用した風力発電システム。
【請求項35】
請求項21または22に記載の電気二重層キャパシタを使用した通信機器。
【請求項36】
請求項21または22に記載の電気二重層キャパシタを使用した電子タグ。
【請求項37】
請求項1〜6のいずれかに記載の活性炭からなる吸着剤。
【請求項38】
炭素数1〜4の炭化水素ガスを吸着するための、請求項37に記載の吸着剤。
【請求項39】
請求項37又は38に記載の吸着剤を使用したガソリン蒸発防止装置。
【請求項40】
請求項37又は38に記載の吸着剤を使用した天然ガス貯蔵タンク。
【請求項41】
請求項37又は38に記載の吸着剤を使用した天然ガス自動車。

【図1】
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【公開番号】特開2007−186403(P2007−186403A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292057(P2006−292057)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】