説明

活物質及びその製造方法、非水電解質電池及び電池パック

【課題】 サイクル寿命が向上された非水電解質電池、及び該電池に用いられる活物質及びその製造方法、並びに電池パックを提供する。
【解決手段】 単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物を含み、式Iを満たすことを特徴とする活物質:S/(S+S)≦1.9 (I)。ここで、前記Sは、ピリジンを吸着及び脱離させた後の前記活物質の赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークのピーク面積であり、前記Sは、前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1470cm−1〜1500cm−1の領域に存在するピークのピーク面積であり、前記Sは、前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1520cm−1〜1560cm−1の領域に存在するピークのピーク面積である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、活物質及びその製造方法、非水電解質電池及び電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸化物を負極に用いた非水電解質電池は、チタン酸化物のLi吸蔵放出電位が炭素質物に比して高いために、炭素質物を用いた電池と比較してリチウムデンドライドの発生する可能性が低い。また、チタン酸化物はセラミックスであることから熱暴走を起こしにくい。そのため、チタン酸化物を負極に用いた非水電解質電池は安全性が高い。中でもスピネル型チタン酸リチウムは、充放電反応に伴う体積変化がないため、サイクル特性に優れ、かつ安全性が高い負極活物質として有望である。しかしながら、チタン酸化物を用いた非水電解質電池はエネルギー密度が低いという問題がある。例えば、アナターゼ構造を有する二酸化チタンの理論容量は160 mAh/g程度であり、Li4Ti5O12のようなスピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物の理論容量は170 mAh/g程度である。
【0003】
そこで近年、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物が注目されている。単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物の可逆容量は約240 mAh/g程度であり、これは他のチタン酸化合物に比して著しく高い容量である。
【0004】
しかしながら、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物を負極に用いた場合、サイクル寿命が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−117625号公報
【特許文献2】特開2008−91327号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Ohzuku, T. Kodama, T. Hirai, J. Power Sources 1985, 14, 153.
【非特許文献2】R. Marchand, L. Brohan, M. Tournoux, Material Research Bulletin 15, 1129 (1980).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サイクル寿命が向上された非水電解質電池、該電池に用いられる活物質及びその製造方法、並びに電池パックを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの実施形態によれば、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物を含み、式Iを満たすことを特徴とする活物質が提供される。
【0009】
/(S+S)≦1.9 (I)
ここで、前記Sは、ピリジンを吸着及び脱離させた後の前記活物質の赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークのピーク面積であり、前記Sは、前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1470cm−1〜1500cm−1の領域に存在するピークのピーク面積であり、前記Sは、前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1520cm−1〜1560cm−1の領域に存在するピークのピーク面積である。
【0010】
他の実施形態によれば、上記活物質を含む負極と、正極と、非水電解質とを含む非水電解質電池が提供される。
【0011】
他の実施形態によれば、上記非水電解質電池を含む電池パックが提供される。
【0012】
他の実施形態によれば、上記活物質の製造方法が提供される。該製造方法は、Tiを含有する化合物、及びアルカリ元素を含有する化合物を混合し、加熱することにより、チタン酸アルカリ化合物を合成することと、前記チタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、そのアルカリカチオンをプロトンに交換することにより、チタン酸プロトン化合物を得ることと、前記チタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有し、酸化チタン化合物を生成することとを含む。
【0013】
他の実施形態によれば、上記活物質の他の製造方法が提供される。該製造方法は、Tiを含有する化合物、アルカリ元素を含有する化合物、及び、異種元素を含有する化合物を混合し、加熱することにより、異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物を合成することと、前記異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、アルカリカチオンをプロトンに交換することにより、異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物を得ることと、前記異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有し、異種元素を含有する酸化チタン化合物を生成することとを含む。
【0014】
他の実施形態によれば、上記活物質の他の製造方法が提供される。該製造方法は、チタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、そのアルカリカチオンをプロトンに交換することにより、チタン酸プロトン化合物を得ることと、前記チタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物の粒子を生成することと、前記酸化チタン化合物の粒子を、塩基性物質及び界面活性剤を含む溶液中に分散することと、前記溶液中から、塩基性物質が付着した前記酸化チタン化合物を分離することとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態の薄型非水電解質電池の断面模式図。
【図2】図1のA部の拡大断面図。
【図3】実施形態の電池パックの分解斜視図。
【図4】図3の電池パックの電気回路を示すブロック図。
【図5】実施例1及び比較例1のIRスペクトル。
【図6】実施例3及び比較例2のIRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、実施形態に係る電池用活物質を詳細に説明する。
本実施形態によれば、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物を含み、式Iを満たすことを特徴とする活物質が提供される。
【0017】
/(S+S)≦1.9 (I)
ここで、前記Sは、ピリジンを吸着及び脱離させた後の前記活物質の赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークのピーク面積であり、前記Sは、前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1470cm−1〜1500cm−1の領域に存在するピークのピーク面積であり、前記Sは、前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1520cm−1〜1560cm−1の領域に存在するピークのピーク面積である。
【0018】
ここで、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造をTiO2(B)と称することとする。また、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物を、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物と称することとする。
【0019】
TiO2(B)で表される結晶構造は、主に空間群C2/mに属し、トンネル構造を示す。なお、TiO2(B)の詳細な結晶構造は、非特許文献2に記載されている。TiO2(B)構造の酸化チタン化合物は、一般式LixTiO2 (0≦x≦1)により表わすことができる。なお、上式のxは、充放電反応により0から1の範囲で変動する。
【0020】
TiO2(B)構造の酸化チタン化合物は、高い理論容量を有するため、活物質として用いることにより、電池の容量を上昇させることができると考えられる。
【0021】
しかしながら、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物は固体酸であり、表面に固体酸点や水酸基などを有するため、非水電解質との反応性が高い。そのため、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を負極活物質として用いた電池では、充放電に伴い負極に過剰な無機及び有機被膜が形成され、抵抗が増加し、出力特性が低下する。その結果、電極性能の低下、電池の内部抵抗の上昇、非水電解質の劣化等の要因によって電池のサイクル寿命が低下する。
【0022】
負極活物質として炭素質物やチタン酸リチウムを用いた電池では、ビニレンカーボネートを非水電解質に添加することにより、負極と非水電解質との反応を抑制することが可能である。このような電池では、ビニレンカーボネートが負極上で還元分解されて負極に安定な被膜を形成することにより、過剰な被膜形成が抑制され得る。しかし、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を負極活物質に用いた電池では、ビニレンカーボネートを添加しても負極と非水電解質との反応が抑制されず、連続的に被膜が形成される。そのため、抵抗が増加し、サイクル寿命が低下するという問題がある。
【0023】
本発明者らは、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を含み、ピリジンを吸着させ、脱離させた後の赤外拡散反射スペクトルにおいて、S/(S+S)が1.9以下である活物質を用いることにより、非水電解質電池の抵抗の増加を抑制し、サイクル寿命を向上できることを見出した。
【0024】
ここで、Sは、赤外拡散反射スペクトルにおいて1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークのピーク面積であり、Sは1470cm−1〜1500cm−1の領域に存在するピークのピーク面積であり、Sは1520cm−1〜1560cm−1の領域に存在するピークのピーク面積である。
【0025】
活物質にピリジンを吸着及び脱離させた後の赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークは、ルイス酸点由来のピークと考えられる。また、1470cm−1〜1500cm−1の領域に存在するピークはブレンスデッド酸点及びルイス酸点に由来するピークと考えられる。また、1520cm−1〜1560cm−1の領域に存在するピークはブレンスデッド酸点に由来するピークと考えられる。
【0026】
赤外拡散反射分光法では、活物質にピリジンを吸着させ脱離した後に測定することによって、プロトンを受容するルイス酸点と、プロトンを供与するブレンステッド酸点とを区別することが可能である。
【0027】
TiO2(B)構造の酸化チタン化合物は、そのルイス酸点によって非水電解質中に含まれる溶媒やリチウム塩と反応し、その結果、過剰な被膜が形成されると考えられる。しかし、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を含みながらもS/(S+S)が1.9以下である活物質は、ルイス酸点の影響力が低下しており、非水電解質との反応性が抑制されている。よって、このような活物質を用いることにより、抵抗の増加を抑制し、電池のサイクル寿命を向上させることができる。
【0028】
なお、ブレンステッド酸点は、非水電解質との反応にはあまり寄与しないと考えられ、また、活物質のルイス酸点の影響力が低下した場合でも、ブレンステッド酸点の影響力は比較的低下しない。それ故、ブレンスデッド酸点及びルイス酸点に由来するピークと、ブレンスデッド酸点に由来するピークとを、ルイス酸点の影響力を表す基準として用いることができる。
【0029】
/(S+S)は、ルイス酸点およびブレンスデッド酸点の両酸点の影響を小さくするため、0.5以上であることが好ましい。
【0030】
本実施形態における活物質に含まれるTiO2(B)構造の酸化チタン化合物は、異種元素を含んでいてもよい。異種元素が含まれることにより、酸化チタン化合物の表面のルイス酸点の影響力が抑制される。異種元素としては、Zr、Nb、Mo、Ta、Y、P及びBから選択される少なくとも1つの元素を用いることができる。
【0031】
異種元素は、異種元素を含有するTiO2(B)構造の酸化チタン化合物の総質量に対して、0.01〜8質量%の範囲で含まれることが好ましい。異種元素を0.01質量%以上含むことにより、ルイス酸点の影響力を低下させることができる。異種元素の固溶限界の観点から、8質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。異種元素は、0.05〜3質量%の範囲で含まれることがより好ましい。
【0032】
異種元素を含有するTiO2(B)構造の酸化チタン化合物中において、異種元素の含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法によって測定することができる。
【0033】
本実施形態における活物質に含まれるTiO2(B)構造の酸化チタン化合物は、塩基性物質が付着しているものであってもよい。TiO2(B)構造の酸化チタン化合物の表面が塩基性物質で少なくとも部分的に被覆されることにより、酸化チタン化合物の表面のルイス酸点の影響力が抑制される。
【0034】
塩基性物質としては、塩基性ポリマーを用いることができる。塩基性ポリマーの例には、ポリベンゾイミダゾール及びポリビニルピリジンが含まれる。
【0035】
塩基性物質の含有量は、塩基性物質が付着したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物の総質量に対して、0.01質量%以上2質量%以下であることが好ましい。塩基性物質の含有量が0.01質量%以上であることにより、ルイス酸点の影響力を抑制することができる。塩基性物質の含有量を2質量%以下にすることにより、充放電の際、リチウムの挿入脱離を阻害せずに副反応を抑制することができる。塩基性物質の含有量は、0.01質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
塩基性物質が付着したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物中において、塩基性物質の含有量は、熱重量分析(TG)よって測定することができる。塩基性物質を付着させていない状態の酸化チタン化合物と、塩基性物質が付着した後の酸化チタン化合物のTG測定の重量差が塩基性物質の重量となる。
【0037】
なお、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物に塩基性物質を付着させた場合、赤外拡散反射スペクトルにおいて、ルイス酸に由来するピークと共に、ブレンステッド酸及びルイス酸に由来するピーク、及び、ブレンステッド酸に由来するピークの強度も減少する。しかし、これらのピーク強度の減少の低度は、ルイス酸に由来するピークの減少の程度よりも小さいため、S/(S+S)を1.9以下にすることができる。
【0038】
(赤外拡散反射分光法)
赤外拡散反射スペクトルの測定方法について説明する。
まず、測定に供する活物質をサンプルカップに入れ、拡散反射測定装置に設置する。窒素ガスを50 mL/minで流通させながら、500℃まで昇温し、1時間保持する。その後、温度を室温まで降下させ、再度100℃まで昇温する。次いで、サンプルカップを設置したセル内を減圧し、セル内にピリジン蒸気を導入し、30分間吸着させる。
【0039】
次いで、窒素ガスを100 mL/minで流通させながら100℃で1時間保持し、その後150℃に昇温して1時間保持する。これによって、活物質に物理吸着又は水素結合したピリジンを脱離させる。その後、赤外拡散反射測定を行う。
【0040】
得られたスペクトルにおいて、バックグラウンドを除外し、ピーク面積を求める。ピーク面積は、ピークの両端からベースラインを引いて求める。
【0041】
このような赤外拡散反射分光法によれば、試料中に存在する官能基が分かるため、測定試料の構成を明らかにすることができる。
【0042】
電極中に含まれる活物質を測定する場合は、電極から活物質を抽出して測定に供する。例えば、活物質を含む層を集電体から剥がし取り、熱処理して、高分子材料や導電剤などを除去することによって、電極から活物質を抽出することができる。或いは、活物質を含む層を集電体から剥がし取り、次いで、ソックスレー抽出法により高分子材料を除去し、活物質とカーボン材料を抽出することもできる。ソックスレー抽出法において、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を用いることにより、電極から高分子材料を取り除くことができる。ソックスレー抽出法により得られた活物質とカーボン材料の混合物から、カーボン材料を酸素やオゾンなどにより酸化させ、二酸化炭素として除去することで活物質のみを抽出することができる。
【0043】
(比表面積)
TiO2(B)構造の酸化チタン化合物の比表面積は、5m/g以上100m/g以下であることが好ましい。比表面積が5m/g以上であることにより、リチウムイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保することができ、電池の容量を高くすることができる。比表面積が100m/g以下であることにより、充放電中のクーロン効率を良好にすることができる。
【0044】
以上の実施形態によれば、抵抗増加が抑制され、サイクル寿命が向上された非水電解質電池を実現できる活物質を提供することができる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を含み、式Iを満たす活物質の製造方法を説明する。
【0046】
(第1の方法)
第1の方法は、Tiを含有する化合物、及び、アルカリ元素を含有する化合物を混合し、加熱することにより、チタン酸アルカリ化合物を合成する工程と、前記チタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、アルカリカチオンをプロトンに交換することにより、チタン酸プロトン化合物を得る工程と、前記チタン酸プロトン化合物を少なくとも2回加熱処理する工程とを含む。
【0047】
まず、出発原料として、Tiを含有する化合物、及びアルカリ元素を含有する化合物を用いる。これらの出発原料を所定の化学量論比で混合し、加熱して、チタン酸アルカリ化合物を合成する。ここで合成されたチタン酸アルカリ化合物の結晶形状は、何れの形状であってもよい。加熱処理は、800〜1100℃で行うことができる。
【0048】
出発原料のうち、Tiを含有する化合物には、アナターゼ型TiO2、及びルチル型TiO2、TiCl4から選択される一以上の化合物を用いることができる。アルカリ元素を含有する化合物には、Na、K、又はCsを含む化合物を用いることができ、例えば、炭酸塩、水酸化物及び、塩化物から選択される一以上の化合物を用いることができる。
【0049】
次に、酸処理によるプロトン交換を行う。まず、チタン酸アルカリ化合物を蒸留水でよく水洗し、不純物を除去する。その後、該チタン酸アルカリ化合物を酸処理し、チタン酸アルカリ化合物のアルカリカチオンをプロトンに交換することにより、チタン酸プロトン化合物を得ることができる。チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム及びチタン酸セシウムのようなチタン酸アルカリ化合物は、結晶構造を崩さずにそれらのアルカリカチオンをプロトンと交換することが可能である。
【0050】
酸処理は、チタン酸アルカリ化合物の粉末に酸を加えて攪拌することによって行うことができる。酸は、濃度0.5〜2Mの塩酸、硝酸及び硫酸から選択される酸を用いることができる。酸処理は、アルカリカチオンがプロトンに十分に交換されるまで継続することが好ましい。酸処理の時間は、特に制限されないが、室温25℃付近で、24時間以上行うことが好ましく、1〜2週間ほど行うことがより好ましい。さらに、24時間ごとに酸溶液を新しいものと交換することがより好ましい。酸処理の条件は、例えば、室温で、1M硫酸を用いて24時間とすることができる。
【0051】
例えば、超音波のような振動を加えながら酸処理することによって、プロトン交換をより円滑に行うことができ、好適な状態のチタン酸プロトン化合物を得ることができる。
【0052】
また、プロトン交換をより効率的に行うために、チタン酸アルカリ化合物を、予めボールミルなどで粉砕することも好ましい。粉砕は、例えば、100cm2の容器あたり、直径10〜15mm程度のジルコニアボールを用い、600〜1000rpmの回転速度で1〜3時間ほどジルコニアボールを回転させることにより行うことができる。粉砕を1時間以上行うことにより、チタン酸アルカリ化合物を十分に粉砕することができる。粉砕時間を3時間以下にすることにより、メカノケミカル反応によって目的生成物と異なる化合物が生じることを防ぐことができる。
【0053】
プロトン交換が完了した後、任意に、水酸化リチウム水溶液のようなアルカリ性溶液を添加し、残留した酸を中和する。得られたチタン酸プロトン化合物は、蒸留水で水洗し、次いで乾燥する。チタン酸プロトン化合物は、洗浄水のpHが6〜8の範囲に入るまで十分に水洗することが好ましい。一方で、酸処理後に残留した酸の中和や洗浄、乾燥をせずに次の工程に進むこともできる。
【0054】
次に、チタン酸プロトン化合物を少なくとも2回加熱処理する。第1の加熱処理は、350〜500℃の範囲の温度で1〜3時間行う。次いで、得られたチタン酸化物を第2の加熱処理に供する。第2の加熱処理は、200〜300℃の範囲の温度で、1〜24時間行う。さらに、200〜300℃の範囲の温度で、さらなる加熱処理を繰返してもよい。
【0055】
このように、チタンプロトン化合物を焼成して得られたチタン酸化物を、さらに比較的低温で加熱処理することにより、チタン酸化物の表面物性が変わり、S/(S+S)を1.9以下にすることが可能である。
【0056】
なお、以上の方法により得られたTiO2(B)構造の酸化チタン化合物は、出発原料にLiを含む化合物を用いることにより、Liが予め含まれていても良いが、充放電によりLiが吸蔵されるものであってもよい。
【0057】
以上に記載した第1の方法によれば、TiO2(B)構造を有し、S/(S+S)が1.9以下である酸化チタン化合物を製造することが可能である。
【0058】
(第2の方法)
第2の方法として、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物に異種元素を含有させることによる、活物質の製造方法について説明する。該方法は、Tiを含有する化合物、アルカリ元素を含有する化合物、及び、異種元素を含有する化合物を混合し、加熱することにより、異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物を合成する工程と、前記異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、アルカリカチオンをプロトンに交換することにより、異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物を得る工程と、前記異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有し、異種元素を含有する酸化チタン化合物を生成する工程とを含む。
【0059】
まず、出発原料として、Tiを含有する化合物、アルカリ元素を含有する化合物、及び、異種元素を含有する化合物を用いる。これらの出発原料を所定の化学量論比で混合し、加熱して、異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物を合成する。ここで合成されたチタン酸アルカリ化合物の結晶形状は、何れの形状であってもよい。加熱処理は、これに限定されないが、800〜1100℃で行うことができる。
【0060】
出発原料のうち、Tiを含有する化合物及びアルカリ元素を含有する化合物は、第1の方法で記載したものを用いることができる。
【0061】
異種元素を含有する化合物には、Zr、Nb、Mo、Ta、Y、P及びBから選択される少なくとも1つの元素を含む化合物を用いることができ、例えば、炭酸塩、及び水酸化物などから選択される一以上の化合物を用いることができる。
【0062】
異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物の例には、異種元素を含有するチタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム及びチタン酸セシウムが含まれるが、これらに限定されない。
【0063】
次に、酸処理によるプロトン交換を行う。まず、異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物を蒸留水でよく水洗し、不純物を除去する。その後、該チタン酸アルカリ化合物を酸処理し、チタン酸アルカリ化合物のアルカリカチオンをプロトンに交換することにより、異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物を得ることができる。チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム及びチタン酸セシウムのようなチタン酸アルカリ化合物は、結晶構造を崩さずにそれらのアルカリカチオンをプロトンと交換することが可能であり、異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物も同様である。
【0064】
酸処理は、チタン酸アルカリ化合物の粉末に酸を加えて攪拌することによって行うことができる。酸は、濃度0.5〜2Mの塩酸、硝酸及び硫酸から選択される酸を用いることができる。酸処理は、アルカリカチオンがプロトンに十分に交換されるまで継続することが好ましい。酸処理の時間は、特に制限されないが、室温25℃付近で、濃度1M程度の塩酸を用いた場合、24時間以上行うことが好ましく、1〜2週間ほど行うことがより好ましい。さらに、24時間ごとに酸溶液を新しいものと交換することがより好ましい。第1の方法で記載したように、超音波のような振動を加えながら酸処理してもよい。また、プロトン交換をより効率的に行うために、チタン酸アルカリ化合物を予めボールミルなどで粉砕することも好ましい。
【0065】
プロトン交換が完了した後、任意に、水酸化リチウム水溶液のようなアルカリ性溶液を添加し、残留した酸を中和する。得られた異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物は、蒸留水で水洗し、次いで乾燥する。チタン酸プロトン化合物は、洗浄水のpHが6〜8の範囲に入るまで十分に水洗することが好ましい。一方で、酸処理後に残留した酸の中和や洗浄、乾燥をせずに次の工程に進むこともできる。
【0066】
次に、異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、異種元素を含有するTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を得ることができる。
【0067】
加熱処理温度は、チタン酸プロトン化合物体の組成や粒子径、結晶形状のような条件により最適な温度が異なるため、チタン酸プロトン化合物に依存して適宜決定されるが、250〜500℃の範囲であることが好ましい。250℃以上であると、結晶性が良好であり、H2Ti817の不純物相の生成が抑制され、電極容量、充放電効率、繰り返し特性も良好である。一方、500℃以下であると、H2Ti817並びにアナターゼ型TiO2の不純物相の生成が抑制されるため、電極容量の低下を防ぐことができる。より好ましい加熱処理温度は、300〜400℃である。
【0068】
加熱時間は、温度に応じて30分以上24時間以下の範囲に設定できる。例えば、300℃以上400℃以下の温度の場合、1時間以上3時間以下にすることができる。
【0069】
以上に記載した第2の方法によれば、TiO2(B)構造を有し、S/(S+S)が1.9以下である酸化チタン化合物を製造することが可能である。
【0070】
(第3の方法)
第3の方法として、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物に塩基性物質を付着させることによる、活物質の製造方法について説明する。該方法は、チタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、そのアルカリカチオンをプロトンに交換することにより、チタン酸プロトン化合物を得る工程と、前記チタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物の粒子を生成する工程と、前記酸化チタン化合物の粒子を、塩基性物質及び界面活性剤を含む溶液中に分散させる工程と、前記溶液中から、塩基性物質が付着した酸化チタン化合物を分離する工程とを含む。
【0071】
まず、チタン酸アルカリ化合物を第1の方法と同様に酸処理によりプロトン交換し、チタン酸プロトン化合物を得る。次いで、得られたチタン酸プロトン化合物を、第1の方法と同様に加熱処理することにより、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を得る。
【0072】
チタン酸アルカリ化合物は、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、又は、チタン酸セシウムであってよいが、これらに限定されない。例えば、Na2Ti37、K2Ti49、Cs2Ti511を用いることができる。
【0073】
チタン酸アルカリ化合物は、例えば、Tiを含有する化合物とアルカリ元素を含有する化合物を、所定の化学量論比で混合して加熱する固相反応法によって合成することができる。チタン酸カリウム(例えば、K2Ti49)は、例えばフラックス法で合成することも可能である。また、市販のチタン酸アルカリ化合物を用いてもよい。Tiを含有する化合物及びアルカリ元素を含有する化合物は、第1の方法において記載したものと同様である。
【0074】
次いで、得られたTiO2(B)構造の酸化チタン化合物の粒子に、塩基性物質を付着させる。例えば、塩基性物質の溶液に界面活性剤を加え、これにTiO2(B)構造の酸化チタン化合物の粒子を浸漬させ、任意に減圧した後、ろ過により分離し、乾燥することにより、塩基性物質が付着した酸化チタン化合物粒子を得ることができる。
【0075】
塩基性物質としては、塩基性ポリマーを用いることができる。塩基性ポリマーの例には、ポリベンゾイミダゾール、及びポリビニルピリジンが含まれる。
【0076】
塩基性物質の付着量は、塩基性物質が付着したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物の総質量に対して0.01質量%以上2質量%以下とすることが好ましい。
【0077】
界面活性剤は、アニオン性、カチオン性及び非イオン性の界面活性剤から選択される任意のものを用いることができる。例えば、非イオン性界面活性剤であるトリオクチルフォスフェートを用いることが好ましい。
【0078】
酸化チタン化合物の粒子を塩基性物質及び界面活性剤を含む溶液中に分散させることにより、酸化チタン化合物の二次粒子の内部にまで塩基性物質が含浸され、二次粒子内部のルイス酸の影響を抑えることができる。よって、第3の方法によれば、ルイス酸点の影響力がより低下した酸化チタン化合物を得ることが可能である。
【0079】
塩基性物質及び界面活性剤を含む溶液中における界面活性剤の濃度は、これに限定されないが、0.1質量%以上2質量%以下であることが好ましい。
【0080】
第3の方法の変形例として、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物、塩基性物質、及び、界面活性剤を含む溶液を用いて電極を作製することにより、塩基性物質が付着したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を得ることも可能である。
【0081】
このような方法では、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物の粒子を、塩基性物質と界面活性剤とを含む溶液中に分散させることにより、分散液を調製する工程と、該分散液を用いて電極作製用スラリーを調製する工程とを含む。得られたスラリーを、集電体として機能する金属箔の片面又は両面に塗布し、乾燥し、プレスすることによって、電極を得ることができる。
【0082】
このような製造方法によって製造された電極中では、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物の表面の少なくとも一部に塩基性物質が付着している。従って、酸化チタン化合物のルイス酸点の影響力を抑制することができる。
【0083】
(粉末X線回折)
以上の第1、第2の方法によって得られた酸化チタン化合物がTiO2(B)の結晶構造を有することは、Cu−Kαを線源とする粉末X線回折により測定することができる。
【0084】
粉末X線回折測定は、次のように行うことができる。まず、対象試料を平均粒子径が5μm程度となるまで粉砕する。平均粒子径はレーザー回折法によって求めることができる。粉砕した試料を、ガラス試料板上に形成された深さ0.2mmのホルダー部分に充填する。このとき、試料が十分にホルダー部分に充填されるように留意する。また、試料の充填不足によりひび割れ、空隙等がないように注意する。次いで、外部から別のガラス板を使い、充分に押し付けて平滑化する。充填量の過不足により、ホルダーの基準面より凹凸が生じることのないように注意する。次いで、試料が充填されたガラス板を粉末X線回折装置に設置し、Cu−Kα線を用いて回折パターンを取得する。なお、一般的にTiO2(B)は結晶性が低いため、サンプルによっては、粉末X線測定においてX線回折図形のピーク強度が弱く、いずれかのピークの強度が観測しにくいものもある。
【0085】
以上の実施形態によれば、TiO2(B)の結晶構造を有する酸化チタン化合物を含み、式Iを満たす活物質を得ることができ、抵抗増加が抑制され、サイクル寿命が向上された非水電解質電池を実現することができる。
【0086】
(第3実施形態)
第3実施形態では、上記第1実施形態における活物質を負極に含み、さらに、正極と、非水電解質、セパレータ及び外装部材を含む非水電解質電池が提供される。以下に、負極、正極、非水電解質、セパレータ、及び外装部材について詳細に説明する。
【0087】
1)負極
負極は、集電体と、負極層(負極活物質含有層)とを含む。負極層は、集電体の片面若しくは両面に形成され、活物質と、導電剤及び結着剤を含む。
【0088】
活物質として、上記第1実施形態において説明された、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を含み、式Iを満たすことを特徴とする活物質が用いられる。このような活物質は、前述したように抵抗増加が抑制されたものである。それ故、そのような活物質を含む負極を用いることにより、非水電解質電池のサイクル寿命を向上することができる。
【0089】
導電剤は、集電性能を高め、活物質と集電体との接触抵抗を抑える。導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー、及びカーボンナノチューブが含まれる。
【0090】
結着剤は、活物質、導電剤、及び集電体を結着させる。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、及びスチレンブタジェンゴムが含まれる。
【0091】
負極層中の活物質、導電剤及び結着剤は、それぞれ70質量%以上96質量%以下、2質量%以上28質量%以下、及び2質量%以上28質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の量を2質量%以上にすることにより、負極層の集電性能を向上させることができる。また、結着剤の量を2質量%以上にすることにより、負極層と集電体の結着性を向上させることができる。一方、導電剤及び結着剤はそれぞれ28質量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
【0092】
集電体は、1.0Vよりも貴である電位範囲において電気化学的に安定であることが好ましく、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であること好ましい。
【0093】
負極は、例えば活物質、導電剤及び結着剤を適切な溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより作製される。負極はまた、活物質、導電剤及び結着剤をペレット状に形成して負極層とし、これを集電体上に形成することにより作製されてもよい。
【0094】
2)正極
正極は、集電体と、正極層(正極活物質含有層)とを含む。正極層は、集電体の片面若しくは両面に形成され、活物質と、導電剤と、結着剤を含む。
【0095】
活物質は、例えば、酸化物又はポリマーを用いることができる。
酸化物の例には、リチウムを吸蔵する二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、LixMn24又はLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えば、LixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(例えば、LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えば、LiNi1-yCoy2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えば、LixMnyCo1-y2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えば、LiNi1-y-zCoyMnz2)、リチウムニッケルコバルトアルミ複合酸化物(例えば、LiNi1-y-zCoyAlz2)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えば、LixMn2-yNiy4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えば、LixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4)、硫酸鉄(Fe2(SO43)、及びバナジウム酸化物(例えば、V25)が含まれる。上記において、0<x≦1であり、0≦y≦1であり、0≦z≦1であることが好ましい。活物質として、これらの化合物を単独で用いてもよく、或いは、複数の化合物を組合せて用いてもよい。
【0096】
ポリマーの例には、ポリアニリン及びポリピロールのような導電性ポリマー材料、及び、ジスルフィド系ポリマー材料が含まれる。
【0097】
また、イオウ(S)又はフッ化カーボンも活物質として使用できる。
【0098】
より好ましい活物質の例には、正極電圧が高いリチウムマンガン複合酸化物(LixMn24)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiy4)、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LixNi1-yCoyO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LixMnyCo1-y2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1-y-zCoyMnz2)及びリチウムリン酸鉄(LixFePO4)が含まれる。上記において、0<x≦1であり、0≦y≦1であり、0≦z≦1であることが好ましい。
【0099】
導電剤は、集電性能を高め、且つ活物質と集電体との接触抵抗を抑える。導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー、及びカーボンナノチューブのような炭素質物が含まれる。
【0100】
結着剤は、活物質、導電剤、及び集電体とを結着させる。結着剤の例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びフッ素系ゴムが含まれる。
【0101】
正極層中の活物質、導電剤及び結着剤は、それぞれ80質量%以上95質量%以下、3質量%以上18質量%以下、及び2質量%以上17質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤は、3質量%以上の量にすることにより上述した効果を発揮することができる。導電剤は、18質量%以下の量にすることにより高温保存下での導電剤表面での非水電解質の分解を低減することができる。結着剤は、2質量%以上の量にすることにより十分な正極強度が得られる。結着剤は、17質量%以下の量にすることにより、正極中の絶縁材料である結着剤の配合量を減少させ、内部抵抗を減少できる。
【0102】
集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0103】
正極は、例えば、活物質、導電剤及び結着剤を適切な溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを正極集電体に塗布し、乾燥して正極層を形成した後、プレスすることにより作製される。正極はまた、活物質、導電剤及び結着剤をペレット状に形成して正極層とし、これを集電体上に形成することにより作製されてもよい。
【0104】
3)非水電解質
非水電解質は、例えば電解質を有機溶媒に溶解することにより調製される液状非水電解質、又は液状電解質と高分子材料を複合化したゲル状非水電解質を用いることができる。
【0105】
液状非水電解質は、電解質を0.5M以上2.5M以下の濃度で有機溶媒に溶解することが好ましい。
【0106】
電解質の例には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミトリチウム[LiN(CF3SO22]のようなリチウム塩及びそれらの混合物が含まれる。電解質は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
【0107】
有機溶媒の例は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネートのような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、ジオキソラン(DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(DME)、ジエトエタン(DEE)のような鎖状エーテル;又はγ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)を含む。これらの有機溶媒は、単独又は混合溶媒の形態で用いることができる。
【0108】
より好ましい有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)からなる群のうち、少なくとも2つ以上を混合した混合溶媒、及び、γ−ブチロラクトン(GBL)を含む混合溶媒が含まれる。このような混合溶媒を用いることによって、低温特性の優れた非水電解質電池を得ることができる。
【0109】
高分子材料の例には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)が含まれる。
【0110】
4)セパレータ
セパレータは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、もしくはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、又は合成樹脂製不織布から形成されることができる。好ましくは、ポリエチレン又はポリプロピレンから形成された多孔質フィルムが用いられる。これらの多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能であるため、安全性を向上することができる。
【0111】
5)外装部材
外装部材には、厚さ0.5mm以下のラミネートフィルムからなる容器又は厚さ1.0mm以下の金属製容器を用いることができる。金属製容器は、厚さ0.5mm以下であることがより好ましい。
【0112】
外装部材の形状の例には、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、及びボタン型が含まれる。外装部材は、電池寸法に応じて適宜選択されてよい。例えば、携帯用電子機器等に積載される小型電池用外装部材、又は、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池用外装部材が用いられる。
【0113】
ラミネートフィルムとして、樹脂層間に金属層を介在した多層フィルムを用いることができる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔であることが好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(PET)のような高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って所望の形状に成形することができる。
【0114】
金属製容器は、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、及びケイ素から選択される一以上の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属を含む場合、その量は100ppm以下であることが好ましい。
【0115】
次に、実施形態に係る非水電解質電池の例として、外装部材がラミネートフィルムからなる扁平型非水電解質電池について説明する。図1は薄型非水電解質電池の断面模式図であり、図2は図1のA部の拡大断面図である。なお、各図は発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0116】
扁平状の捲回電極群1は、2枚の樹脂層の間にアルミニウム箔を介在したラミネートフィルムからなる袋状外装部材2内に収納されている。扁平状の捲回電極群1は、外側から負極3、セパレータ4、正極5、セパレータ4の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成される。最外殻の負極3は、図2に示すように負極集電体3aの内面側の片面に負極層3bが形成されている。その他の負極3は、負極集電体3aの両面に負極層3bが形成されている。負極層3b中の活物質は、上記第1実施形態で説明した、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を含み、式Iを満たす活物質を含む。正極5は、正極集電体5aの両面に正極層5bが形成されている。
【0117】
捲回電極群1の外周端近傍において、負極端子6は最外殻の負極3の負極集電体3aに接続され、正極端子7は内側の正極5の正極集電体5aに接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装部材2の開口部から外部に延出されている。液状非水電解質は袋状外装部材2の開口部から注入される。袋状外装部材2の開口部を、負極端子6及び正極端子7が外部に延出した状態でヒートシールすることにより、捲回電極群1及び液状非水電解質は完全密封される。
【0118】
負極端子6は、例えばリチウムイオン金属に対する電位が1.0V以上3.0V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料から作られる。該材料の例には、アルミニウム、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金が含まれる。負極端子6は、負極集電体3aとの接触抵抗を低減するために、負極集電体3aと同様の材料から形成されることが好ましい。
【0119】
正極端子7は、リチウムイオン金属に対する電位が3.0〜4.25Vの範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料から作られる。該材料の例には、アルミニウム、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金が含まれる。正極端子7は、正極集電体5aとの接触抵抗を低減するために、正極集電体5aと同様の材料から形成されることが好ましい。
【0120】
これらの実施形態によれば、抵抗増加が抑制され、サイクル寿命が向上された非水電解質電池を提供することが可能である。
【0121】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る電池パックについて、図面を参照して説明する。電池パックは、上記第3実施形態に係る非水電解質電池(単電池)を1個又は複数有する。複数の単電池を含む場合、各単電池は、電気的に直列もしくは並列に接続して配置される。
【0122】
図3及び4に、扁平型電池を複数含む電池パックの一例を示す。図3は、電池パックの分解斜視図である。図4は、図3の電池パックの電気回路を示すブロック図である。
【0123】
複数の単電池8は、外部に延出した負極端子6及び正極端子7が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ9で締結することにより組電池10を構成している。これらの単電池8は、図4に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0124】
プリント配線基板11は、負極端子6及び正極端子7が延出する単電池8側面と対向して配置されている。プリント配線基板11には、図4に示すようにサーミスタ12、保護回路13及び外部機器への通電用端子14が搭載されている。なお、組電池10と対向するプリント配線基板11の面には組電池10の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0125】
正極側リード15は、組電池10の最下層に位置する正極端子7に接続され、その先端はプリント配線基板11の正極側コネクタ16に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード17は、組電池10の最上層に位置する負極端子6に接続され、その先端はプリント配線基板11の負極側コネクタ18に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ16,18は、プリント配線基板11に形成された配線19,20を通して保護回路13に接続されている。
【0126】
サーミスタ12は、単電池8の温度を検出するために用いられ、その検出信号は保護回路13に送信される。保護回路13は、所定の条件で保護回路13と外部機器への通電用端子14との間のプラス側配線21a及びマイナス側配線21bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ12の検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件とは単電池8の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池8もしくは単電池8全体について行われる。個々の単電池8を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池8中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図3及び図4の場合、単電池8それぞれに電圧検出のための配線25を接続し、これら配線25を通して検出信号が保護回路13に送信される。
【0127】
正極端子7及び負極端子6が突出する側面を除く組電池10の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート22がそれぞれ配置されている。
【0128】
組電池10は、各保護シート22及びプリント配線基板11と共に収納容器23内に収納される。すなわち、収納容器23の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の一方の内側面それぞれに保護シート22が配置され、短辺方向の他方の内側面にプリント配線基板11が配置される。組電池10は、保護シート22及びプリント配線基板11で囲まれた空間内に位置する。蓋24は、収納容器23の上面に取り付けられている。
【0129】
なお、組電池10の固定には粘着テープ9に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0130】
図3、図4では単電池8を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続しても、又は直列接続と並列接続を組み合わせてもよい。組み上がった電池パックをさらに直列、並列に接続することもできる。
【0131】
また、電池パックの態様は用途により適宜変更される。電池パックの用途は、大電流を取り出したときに優れたサイクル特性を示すものが好ましい。具体的には、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用が挙げられる。特に、車載用が好適である。
【0132】
これらの実施形態によれば、優れたサイクル寿命を有する非水電解質電池を備えることにより、サイクル寿命が向上された電池パックを提供することができる。また、第3実施形態で述べたような低温特性の優れた非水電解質電池を備えることにより、車載用に好適に用いられる電池パックを提供することができる。
【実施例】
【0133】
(実施例1)
<負極の作製>
まず、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を合成した。出発原料として、炭酸カリウム(KCO)、アナターゼ型酸化チタン(TiO)、及び水酸化ニオブ(Nb・nH2O)を用いた。出発原料を混合し、1000℃で24時間焼成して、Nbを含有するチタン酸アルカリ化合物(K-Ti-Nb-O化合物)を合成した。このK-Ti-Nb-O化合物を、ジルコニアビーズで乾式粉砕して粒度調整した後、蒸留水で洗浄してプロトン交換前駆体を得た。このプロトン交換前駆体を、1M濃度の塩酸溶液中に投入し、25℃で1時間の超音波攪拌を行った。この操作を、塩酸溶液を交換しながら12回繰返した。酸処理の終了後、蒸留水で洗浄して、Nbを含有するチタン酸プロトン化合物を得た。このNbを含有するチタン酸プロトン化合物を、大気中で、350℃で3時間焼成し、Nbを含有するTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を得た。
【0134】
得られた酸化チタン化合物をICP発光分光測定で測定した結果、Nbの含有量は、Nbを含有するTiO2(B)構造の酸化チタン化合物の総質量に対して8質量%であった。
【0135】
上記のように合成した、Nbを含有するTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を、負極活物質として用いた。負極活物質の粉末を90質量%、アセチレンブラック5質量%、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%を、NMP加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより電極密度が2.0g/cmの負極を作製した。
【0136】
<正極の作製>
正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.82Co0.15Al0.032)を用い、導電剤としてアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた。リチウムニッケル複合酸化物の粉末90質量%、アセチレンブラック5質量%、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%を、NMPに加えて混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより、電極密度が3.15g/cm3の正極を作製した。
【0137】
<電極群の作製>
正極、厚さ25μmのポリエチレン製多孔質フィルムからなるセパレータ、負極、及びセパレータを、この順序で積層した後、渦巻き状に捲回した。これを90℃で加熱プレスすることにより、幅が30mm、厚さ3.0mmの偏平状電極群を作製した。得られた電極群をラミネートフィルムからなるパックに収納し、80℃で24時間真空乾燥した。ラミネートフィルムは厚さ40μmのアルミニウム箔の両面にポリプロピレン層を形成して構成されたものであり、全体の厚さは0.1mmであった。
【0138】
<液状非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)を1:2の体積比率で混合して混合溶媒を調製した。この混合溶媒に電解質としてLiPF6を1M溶解し、液状非水電解質を調製した。
【0139】
<非水電解質二次電池の製造>
電極群を収納したラミネートフィルムのパック内に液状非水電解質を注入した。その後、パックをヒートシールにより完全密閉し、図1に示すような構造を有し、幅35mm、厚さ3.2mm、高さが65mmの非水電解質二次電池を製造した。
【0140】
(実施例2)
出発原料の混合比率を変化させて、Nbの含有量を4質量%とした以外は、実施例1と同様にNbを含有するTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を合成し、負極活物質として用いた。この負極活物質を用いて、実施例1と同様に非水電解質電池を製造した。
【0141】
(実施例3)
出発原料として、炭酸カリウム(KCO)及びアナターゼ型酸化チタン(TiO)を用い、水酸化ニオブ(Nb・nH2O)を用いなかった以外は、実施例1と同様にTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を合成した。
【0142】
合成したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を、濃度2質量%であるポリベンゾイミダゾール溶液に浸漬させ、減圧した。ポリベンゾイミダゾール溶液には界面活性剤としてトリオクチルフォスフェート0.5質量%を含有させた。次いで、濾過により酸化チタン化合物を取り出し、乾燥させて、表面にポリベンゾイミダゾールが付着したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を得た。酸化チタン化合物に付着したポリベンゾイミダゾールの量は、ポリベンズイミダゾールが付着したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物の総質量に対して0.03質量%であった。
【0143】
このポリベンズイミダゾールが付着したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を負極活物質として用いて、実施例1と同様に非水電解質電池を製造した。
【0144】
(実施例4)
ポリベンズイミダゾール溶液の濃度を5質量%とし、ポリベンズイミダゾールの含有量を0.10質量%とした以外は、実施例3と同様に非水電解質電池を製造した。
【0145】
(比較例1)
出発原料として、炭酸カリウム(KCO)及びアナターゼ型酸化チタン(TiO)を用い、水酸化ニオブ(Nb・nH2O)を用いなかった以外は、実施例1と同様にTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を合成した。この酸化チタン化合物を負極活物質として用いて、実施例1と同様に非水電解質電池を製造した。
【0146】
(比較例2)
出発原料として、炭酸カリウム(KCO)及びアナターゼ型酸化チタン(TiO)を用い、水酸化ニオブ(Nb・nH2O)を用いなかった以外は、実施例1と同様にTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を合成した。
【0147】
合成したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を、濃度10質量%のチタニウムイソプロポキシド溶液に浸漬させ、減圧した。次いで、濾過により酸化チタン化合物を取り出した後、600℃で1時間、熱処理し、表面に新たなチタン酸化物を付着させた酸化チタン化合物を得た。
【0148】
この酸化チタン化合物を負極活物質として用いて、実施例1と同様に非水電解質電池を製造した。
【0149】
(赤外拡散反射測定)
実施例1〜4及び比較例1〜2で用いた負極活物質を、上述した方法で赤外拡散反射測定し、IRスペクトルを得た。
【0150】
図5に、実施例1及び比較例1のIRスペクトルを示す。1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークはルイス酸点に由来するものと考えられる。1470cm−1〜1500cm−1の領域に存在するピークはブレンスデッド酸及びルイス酸点に由来するピークと考えられる。1520cm−1〜1560cm−1の領域に存在するピークはブレンスデッド酸点に由来するピークと考えられる。
【0151】
実施例1のIRスペクトルでは、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するルイス酸点由来のピークの強度が比較例1より減少していることが示されている。実施例1は、Nbを含有するTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を負極活物質として用いた電池であり、比較例1は、Nbを含有しないTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を負極活物質として用いた電池である。実施例1のIRスペクトルにおいてルイス酸点由来のピーク強度が減少していることから、負極活物質として異種元素を含有するTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を用いることにより、ルイス酸の影響力が低下することが示された。
【0152】
図6に、実施例3及び比較例2のIRスペクトルを示す。実施例3のIRスペクトルでは、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するルイス酸由来のピークが比較例2より減少していることが示されている。実施例3は、塩基性物質としてポリベンゾイミダゾールを付着させたTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を負極活物質として用いた電池であり、比較例2は、塩基性物質の代わりにチタン酸化物を付着させたTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を負極活物質として用いた電池である。実施例3のIRスペクトルにおいてルイス酸点由来のピーク強度が減少していることから、負極活物質として塩基性物質を付着させたTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を用いることにより、ルイス酸の影響力が低下することが示された。
【0153】
(サイクル後の抵抗増加率の測定)
実施例1〜4及び比較例1〜2の非水電解質二次電池を用いて、50サイクル繰り返し充放電を行い(充電/放電で1サイクルとする)、抵抗増加率を調べた。充放電は、45℃環境下において、1Cレートで行った。充電は1Vの定電流定電圧充電を行い、充電時間は3時間とした。放電カットオフ電圧を3.0Vとして定電流放電を行った。抵抗増加率は、初回充放電前の電池の抵抗を1.0とし、50サイクル後の電池抵抗から、50サイクル後の電池抵抗増加率を算出した。各電池のS/(S+S)と、50サイクル後の抵抗増加率R50/Rを表1に示す。
【表1】

【0154】
/(S+S)が1.9以下である実施例1及び2の電池は、S/(S+S)が1.91である比較例1の電池に比べて、抵抗増加率が低かった。このことから、異種元素(Nb)を含有するTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を負極活物質として用いることにより、S/(S+S)を1.9以下にすることができ、抵抗増加率を低下できることが示された。
【0155】
また、Nbの含有量が8質量%である実施例1が、Nbの含有量が4質量%である実施例2より、S/(S+S)及び抵抗増加率が低かったことから、異種元素の含有量を増加させることにより抵抗増加率をより低下させることができることが示唆された。
【0156】
同様に、S/(S+S)が1.9以下である実施例3及び4の電池は、S/(S+S)が3.46である比較例2の電池に比べて、抵抗増加率が低かった。このことから、表面に塩基性物質が付着したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を負極活物質として用いることにより、S/(S+S)を1.9以下にすることができ、抵抗増加率を低下できることが示された。
【0157】
また、比較例2では、S/(S+S)が著しく高く、同時に抵抗増加率も著しく高かった。このことから、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物の表面にあらたな新たなチタン酸化物を付着させることにより、ルイス酸点が増加し、これによって被膜生成が助長されたと考えられる。
【0158】
以上のことから、S/(S+S)が1.9以下である活物質を用いることにより、電池の抵抗増加率を低下させることができ、従って、電池のサイクル寿命を向上させることが可能であることが示された。
【0159】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0160】
1…電極群、2…外装部材、3…負極、4…セパレータ、5…正極、6…負極端子、7…正極端子、8…単電池、9…粘着テープ、10…組電池、11…プリント配線基板、12…サーミスタ、13…保護回路、14…通電用端子、15…正極側リード、16…正極側コネクタ、17…負極側リード、18…負極側コネクタ、19,20…配線、21a…プラス側配線、21b…マイナス側配線、22…保護シート22、23…収納容器、24…蓋、25…電圧検出のための配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物を含み、式Iを満たすことを特徴とする活物質:
/(S+S)≦1.9 (I)
ここで、
前記Sは、ピリジンを吸着及び脱離させた後の前記活物質の赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークのピーク面積であり、
前記Sは、前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1470cm−1〜1500cm−1の領域に存在するピークのピーク面積であり、
前記Sは、前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1520cm−1〜1560cm−1の領域に存在するピークのピーク面積である。
【請求項2】
請求項1に記載の活物質を含む負極と、
正極と、
非水電解質と、
を含むことを特徴とする非水電解質電池。
【請求項3】
前記正極は、リチウムニッケル複合酸化物及びリチウムマンガン複合酸化物から選択される一以上の複合酸化物を含むことを特徴とする、請求項2に記載の非水電解質電池。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の非水電解質電池を含むことを特徴とする電池パック。
【請求項5】
Tiを含有する化合物及びアルカリ元素を含有する化合物を混合し、加熱することにより、チタン酸アルカリ化合物を合成することと、
前記チタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、アルカリカチオンをプロトンに交換することにより、チタン酸プロトン化合物を得ることと、
前記チタン酸プロトン化合物を少なくとも2回加熱処理することと、
を含むことを特徴とする、活物質の製造方法。
【請求項6】
前記チタン酸プロトン化合物の加熱処理が、350〜500℃の範囲の温度による第1の加熱処理と、200〜300℃の範囲の温度による第2の加熱処理とを含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
Tiを含有する化合物、アルカリ元素を含有する化合物、及び、異種元素を含有する化合物を混合し、加熱することにより、異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物を合成することと、
前記異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、そのアルカリカチオンをプロトンに交換することにより、異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物を得ることと、
前記異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有し、異種元素を含有する酸化チタン化合物を生成することと、
を含むことを特徴とする、活物質の製造方法。
【請求項8】
前記異種元素は、Zr、Nb、Mo、Ta、Y、P及びBから選択される少なくとも1つの元素である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
チタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、そのアルカリカチオンをプロトンに交換することにより、チタン酸プロトン化合物を得ることと、
前記チタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物の粒子を生成することと、
前記酸化チタン化合物の粒子を、塩基性物質及び界面活性剤を含む溶液中に分散することと、
前記溶液中から、塩基性物質が付着した前記酸化チタン化合物を分離することと、
を含むことを特徴とする、活物質の製造方法。
【請求項10】
前記塩基性物質は、ポリベンゾイミダゾールである、請求項9に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−74133(P2012−74133A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215835(P2010−215835)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】