説明

活物質及びその製造方法、非水電解質電池及び電池パック

【課題】 サイクル寿命が向上された非水電解質電池、該電池に用いられる活物質及びその製造方法、並びに電池パックを提供する。
【解決手段】 実施形態によれば、チタン酸化合物を含み、ピリジンを吸着及び脱離させた後の赤外拡散反射スペクトルにおいて、1580cm−1〜1610cm−1の領域にピークを有し、且つ、下式(I)を満たすことを特徴とする活物質が提供される。
/S≧2.4 (I)
ここにおいて、Sは前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークの面積であり、Sは前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1520cm−1〜1560cm−1の領域に存在するピークの面積である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、活物質及びその製造方法、非水電解質電池及び電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸化合物を負極に用いた非水電解質電池は、チタン酸化合物のLi吸蔵放出電位が炭素系材料に比して高い。そのため、炭素系材料を用いた電池と比較して、リチウムデンドライドが発生する可能性が低い。また、チタン酸化合物はセラミックスであるため、熱暴走を起こしにくい。それ故、チタン酸化合物を負極に用いた非水電解質電池は安全性が高い。
【0003】
しかしながら、チタン酸化合物は、炭素系材料を用いた負極に比べて非水電解質との反応性が高い。チタン酸化合物が非水電解質と反応すると、例えば非水電解質の分解産物が発生してインピーダンスが増加したり、ガスが発生して電池が膨れたりするという問題がある。このために、チタン酸化合物を用いた電池はサイクル寿命が低下しやすい場合があった。特に単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有するチタン酸化合物はサイクル寿命の低下が著しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−117625号公報
【特許文献2】特開2008−91327号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Ohzuku, T. Kodama, T. Hirai, J. Power Sources 1985, 14, 153.
【非特許文献2】R. Marchand, L. Brohan, M. Tournoux, Material Research Bulletin 15, 1129 (1980).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サイクル寿命が向上された非水電解質電池、該電池に用いられる活物質及びその製造方法、並びに電池パックを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの実施形態によれば、チタン酸化合物を含み、ピリジンを吸着及び脱離させた後の赤外拡散反射スペクトルにおいて、1580cm−1〜1610cm−1の領域にピークを有し、且つ、下式(I)を満たすことを特徴とする活物質が提供される。
【0008】
/S≧2.4 (I)
ここにおいて、Sは前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークの面積であり、Sは前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1520cm−1〜1560cm−1の領域に存在するピークの面積である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態の薄型非水電解質電池の断面模式図。
【図2】図1のA部の拡大断面図。
【図3】実施形態の電池パックの分解斜視図。
【図4】図3の電池パックの電気回路を示すブロック図。
【図5】実施例2及び比較例1のIRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、実施形態に係る電池用活物質を詳細に説明する。
本実施形態によれば、チタン酸化合物を含み、ピリジンを吸着及び脱離させた後の赤外拡散反射スペクトルにおいて、1580cm−1〜1610cm−1の領域にピークPを有し、且つ、下式(I)を満たすことを特徴とする活物質が提供される。
【0011】
/S≧2.4 (I)
式中、Sは前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークPの面積であり、Sは前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1520cm−1〜1560cm−1の領域に存在するピークPの面積である。
【0012】
チタン酸化合物は、表面に固体酸点や水酸基などを有するため、非水電解質との反応性が高い。そのため、チタン酸化合物を負極活物質として用いた電池では、充放電に伴い負極に過剰な無機皮膜や有機被膜が形成され、抵抗が増加し、出力特性が低下する。その結果、電極性能の低下、電池の内部抵抗の上昇、非水電解質の劣化等が生じ、それらの要因によって電池のサイクル寿命が低下する。
【0013】
特に、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有するチタン酸化合物は固体酸であるため非水電解質との反応性が高い。単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有するチタン酸化合物は、高い理論容量を有するため、活物質として用いることにより、電池の容量を上昇させることが期待される。しかしながら、上述のような理由により、サイクル寿命の低下が著しいという問題を有している。
【0014】
単斜晶系二酸化チタンの結晶構造は、主に空間群C2/mに属し、トンネル構造を示す。ここでは、そのような結晶構造をTiO2(B)構造と称することとする。また、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有するチタン酸化合物を、TiO2(B)構造のチタン酸化合物と称することとする。TiO2(B)構造の詳細は、非特許文献2に記載されている。TiO2(B)構造のチタン酸化合物は、一般式LixTiO2 (0≦x≦1)により表わすことができる。ここで、上式のxは、電池を充放電した際に0から1の範囲で変動する。
【0015】
負極活物質として炭素系材料やスピネル構造のチタン酸リチウムを用いた電池では、ビニレンカーボネートを非水電解質に添加することにより、負極と非水電解質との反応を抑制することが可能である。このような電池では、ビニレンカーボネートが負極上で還元分解されて負極に安定な被膜を形成することにより、過剰な被膜形成が抑制され得る。しかし、TiO2(B)構造のチタン酸化合物のように、表面に固体酸点や水酸基などを有するチタン酸化合物を負極活物質として用いた電池では、ビニレンカーボネートを添加しても負極と非水電解質との反応が抑制されず、連続的に被膜が形成される。そのため、抵抗が増加し、サイクル寿命が低下するという問題がある。
【0016】
しかしながら、チタン酸化合物を含み、前記赤外拡散反射スペクトルにおいてピークPを有し、且つ、S/Sが2.4以上である活物質を用いることにより、非水電解質電池の抵抗の増加を抑制し、サイクル寿命を向上させることが可能である。なお、赤外拡散反射スペクトルは、活物質について測定してもよいが、チタン酸化合物について測定することが好ましい。
【0017】
赤外拡散反射分光法では、活物質にピリジンを吸着させ脱離した後に測定することによって、プロトンを受容するルイス酸点と、プロトンを供与するブレンステッド酸点とを区別することが可能である。また、活物質とピリジンとの水素結合に由来するピークを測定することが可能である。
【0018】
本実施形態による活物質の赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークPは、ルイス酸点に由来するピークと、ピリジンの水素結合に由来ピークを合わせたピークであると考えられる。このピークPの面積がSである。また、1520cm−1〜1560cm−1の領域に存在するピークPは、ブレンスデッド酸点に由来するピークと考えられる。このピークPの面積がSである。また、1580cm−1〜1610cm−1の領域に存在するピークPは、ピリジンの水素結合に由来するピークと考えられる。このピークPは、一般的なチタン酸化合物には存在しない。
【0019】
固体酸点や水酸基などを有するチタン酸化合物は、そのルイス酸点によって非水電解質中に含まれる溶媒やリチウム塩と反応し、その結果、過剰な被膜が形成されると考えられる。しかし、チタン酸化合物を含みながらも、ピークPが存在し、且つ、S/Sが2.4以上の活物質は、ルイス酸点や水酸基の影響力が低下している。そのため、非水電解質との反応性が抑制されるものと考えられる。よって、このような活物質を用いることにより、抵抗の増加を抑制し、電池のサイクル寿命を向上させることができる。
【0020】
なお、ブレンステッド酸点は、非水電解質との反応にはあまり寄与しないと考えられる。また、活物質のルイス酸点の影響力が低下した場合や、ピリジンの水素結合が生じた場合でも、ブレンステッド酸点の影響力は比較的低下しない。それ故、ルイス酸点及び水素結合に由来するピークPとブレンスデッド酸点に由来するピークPのピーク面積比を、ルイス酸点の影響力を表す指標として用いることができる。
【0021】
チタン酸化合物を含み、前記赤外拡散反射スペクトルにおいてピークPを有し、且つ、S/Sが2.4以上である活物質は、チタン酸化合物の粉末の表面の少なくとも一部にMg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する金属酸化物の層を形成することにより得ることができる。また或いは、界面活性剤などの親水基及び疎水基を有する化合物を、チタン酸化合物の粉末表面の少なくとも一部に付着させることによっても得ることができる。
【0022】
Mg、Al又はSiを含む金属酸化物は、チタン酸化合物の表面に存在するOH基と容易に脱水反応する。この反応により、チタン酸化合物の粉末の表面の少なくとも一部に金属酸化物の層が形成される。この金属酸化物層によって、チタン酸化合物の表面に存在するルイス酸点が被覆される。そのため、ルイス酸点の影響力が低下する。その結果、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するルイス酸点に由来するピークの強度は低下する。
【0023】
一方、金属酸化物層が存在する場合、1430cm−1〜1460cm−1の領域に新たなピークが生じる。このピークは、金属酸化物層の表面でピリジンが水素結合することに由来するものである。それ故、ルイス酸点に由来するピークの強度が低下するにも関わらず、この領域に存在するピークP1の強度は上昇する。その結果、Sの値が大きくなり、S/Sの値が上昇する。
【0024】
なお、金属酸化物には金属複合酸化物も含むように意図される。また、金属酸化物層は、チタン酸化合物の粉末の表面全体を被覆していることが好ましい。これにより、ルイス酸点の影響力をより低下させることができる。
【0025】
チタン酸化合物の表面に金属酸化物層が存在する場合、赤外拡散反射スペクトルにおいて、1580cm−1〜1610cm−1の領域にもピリジンの水素結合に由来するピークP3が生じる。このピークP3は、通常のチタン酸化合物では検出されないピークである。
【0026】
なお、赤外拡散反射スペクトルの1580cm−1〜1650cm−1の領域には、ピーク波数がおよそ1597cm−1、1608cm−1、1617cm−1、又は1633cm−1である複数のピークが存在する。これらのピークの半値幅(FWHM)は、ぞれぞれ、30.8、11、11.4、及び13.6である。本実施形態におけるピークP3は、ピーク波数がおよそ1597cm−1及び1608cm−1である二つのピークを合わせたものである。ピークP3は、例えば、Thermo Galatic 社製ソフトウエアGRAMS/AIを使用して求めることができる。
【0027】
金属酸化物層は、チタン酸化合物の総質量に対して1〜20質量%の割合で活物質中に存在することが好ましい。なお、活物質には種々のチタン酸化合物が含まれ得る。そのため、金属酸化物層の割合を算出するために用いるチタン酸化合物の総質量は、チタン酸化合物を二酸化チタンとして換算した値を用いる。これにより、後述する分析方法で金属酸化物層の量を明確に規定することができる。
【0028】
金属酸化物層が1質量%以上であることにより、チタン酸化合物と非水電解質との反応を抑制することができる。また、金属酸化物層が20質量%以下であることにより、電池容量の低下を抑制することができる。金属酸化物層は、チタン酸化合物の総質量に対して1.5〜15質量%の割合で存在することがより好ましく、2〜12質量%の割合で存在することがさらに好ましい。
【0029】
活物質中に含まれる金属酸化物層の質量%は、ICP発光分析による湿式分析とSEM−EDXによる元素分析を併用することによって算出できる。
【0030】
まず、活物質を酸溶媒に溶解して試料溶液を調製する。この試料溶液をICP発光分析に供し、活物質の全組成を分析する。これにより、活物質中における、Tiの量、ひいては二酸化チタンとして換算した値に対する金属酸化物の量が得られる。
【0031】
一方、活物質をエポキシ樹脂等に埋め込み、切断して試料を作製する。この試料を、SEM−EDXで観察し、チタン酸化合物の表面に存在する物質の組成分析を行い、これによって金属酸化物の層を確認する。同時に、付属のEDXでチタン酸化合物と金属酸化物層の元素分析を行う。なお、予め活物質の粒度分布をSEMでの粒子表面観察や粒度分布測定で調べ、その粒度分布内で、且つ、SEMでの粒子切断面の観察において活物質断面半径/金属酸化物層厚みが全測定粒子の上位80%以上の粒子を選択して観察することが好ましい。
【0032】
ICP分析とSEM−EDX測定の結果から、金属酸化物が単独粒子として存在せず、チタン酸化合物の表面に層状に存在することが確認される。また、金属元素と酸素が定量的に分析される。よって、チタン酸化合物の質量に対する金属酸化物の質量%を算出することができる。
【0033】
なお、電池内の負極から活物質を取り出して分析に供する場合は、後述する負極活物質層を負極から取り出す。負極活物質層の一部を、ソックスレー抽出法及び熱処理に供し、高分子材料や導電剤などの他の成分を除去して活物質を取得する。
【0034】
本実施形態の活物質において、チタン酸化合物は、TiO2(B)構造のチタン酸化合物であることが好ましい。上述したように、TiO2(B)構造のチタン酸化合物は非水電解質と反応性が高い。よって、本実施形態がより有効に適用される。
【0035】
さらに、TiO2(B)構造のチタン酸化合物は、異種元素を含んでいてもよい。異種元素としては、Zr、Nb、Mo、Ta、Y、P及びBから選択される少なくとも1つの元素を用いることができる。異種元素が含まれることにより、チタン酸化合物の表面のルイス酸点の影響力が抑制される。
【0036】
異種元素は、異種元素を含有するチタン酸化合物の総質量に対して、0.01〜8質量%の範囲で含まれることが好ましい。異種元素を0.01質量%以上含むことにより、ルイス酸点の影響力を低下させることができる。異種元素の固溶限界の観点から、8質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。異種元素は、0.05〜3質量%の範囲で含まれることがより好ましい。異種元素を含有するチタン酸化合物中において、異種元素の含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法によって測定することができる。
【0037】
(赤外拡散反射分光法)
赤外拡散反射スペクトルの測定方法について説明する。
まず、測定に供する活物質をサンプルカップに入れ、拡散反射測定装置に設置する。窒素ガスを50mL/minで流通させながら、500℃まで昇温し、1時間保持する。その後、温度を室温まで降下させ、再度100℃まで昇温する。次いで、サンプルカップを設置したセル内を減圧し、セル内にピリジン蒸気を導入し、30分間吸着させる。
【0038】
次いで、窒素ガスを100mL/minで流通させながら100℃で1時間保持し、その後150℃に昇温して1時間保持する。これによって、活物質に物理吸着又は水素結合したピリジンを脱離させる。その後、赤外拡散反射測定を行う。
【0039】
得られたスペクトルにおいて、バックグラウンドを除外し、ピーク面積を求める。ピーク面積は、ピークの両端からベースラインを引いて求める。
【0040】
このような赤外拡散反射分光法によれば、試料中に存在する官能基が分かるため、測定試料の構成を明らかにすることができる。
【0041】
電極中に含まれる活物質を測定する場合は、電極から活物質を抽出して測定に供する。例えば、活物質を含む層を集電体から剥がし取り、抽出処理と熱処理を行って、高分子材料や導電剤などを除去することによって、電極から活物質を抽出することができる。一例としては、活物質を含む層を集電体から剥がし取り、次いで、ソックスレー抽出法により高分子材料を除去し、活物質とカーボン材料を抽出することもできる。ソックスレー抽出法において、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を用いることにより、電極から高分子材料を取り除くことができる。ソックスレー抽出法により得られた活物質とカーボン材料の混合物から、カーボン材料を酸素やオゾンなどにより酸化させ、二酸化炭素として除去することで活物質のみを抽出することができる。
【0042】
(比表面積)
チタン酸化合物の比表面積は、5m/g以上100m/g以下であることが好ましい。比表面積が5m/g以上であることにより、リチウムイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保することができ、電池の容量を高くすることができる。比表面積が100m/g以下であることにより、充放電中のクーロン効率を良好にすることができる。
【0043】
以上の実施形態によれば、抵抗増加が抑制され、サイクル寿命が向上された非水電解質電池を実現できる活物質を提供することができる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、第1実施形態に係る活物質の製造方法を説明する。本実施形態によれば、チタン酸化合物の粉末の表面の少なくとも一部に、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する金属酸化物の層を形成することにより、チタン酸化合物の表面物性を改変することができ、ピリジンを吸着及び脱離させた後の前記活物質の赤外拡散反射スペクトルにおいて、1580cm−1〜1610cm−1の領域にピークPを有し、且つ、S/Sが2.4以上である活物質を製造することができる。
【0045】
金属酸化物の層を形成する方法としては、例えば、以下の二つの方法が挙げられる。
【0046】
(第1の方法)
第1の方法は、チタン酸化合物の粉末を、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する金属アルコキシドと混合して混合物を得ることと、前記混合物を乾燥することにより、前記チタン酸化合物の粉末の表面の少なくとも一部に、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する金属酸化物の層を形成することとを含む。
チタン酸化合物の粉末を、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する金属アルコキシドと、適量の水と混合することにより、チタン酸化合物の粉末の表面に、金属酸化物前駆体を形成することができる。次いで、この粉末を乾燥処理に供することにより、金属酸化物前駆体を重合させ、金属酸化物の層を形成させることができる。このような方法は、ゾルゲル法と称される。
【0047】
乾燥処理は、50〜250℃の温度で行うことが好ましい。高温で乾燥させると、金属酸化物前駆体内の水分と有機物が蒸発する。その結果、チタン酸化合物の粉末の表面上に金属酸化物層が均一に形成されず、斑になる恐れがある。よって、乾燥処理は250℃以下で行うことが望ましく、さらに、50〜100℃の温度で行うことがより好ましい。
【0048】
活物質に含まれる金属酸化物層の質量%は、最初に添加する金属アルコキシドと水の添加量と乾燥条件を変化させることによって調整することができる。
【0049】
なお、このようなゾルゲル法は、チタン酸化合物がTiO2(B)構造のチタン酸化合物である場合、特に適している。TiO2(B)構造のチタン酸化合物はその触媒作用がアルコキシドの重合反応を促進するために、触媒を添加する必要がないという利点を有する。
【0050】
(第2の方法)
第2の方法は、チタン酸化合物の粉末を、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する、水酸化物及び塩化物から選択される化合物を含む水溶液と混合して混合物を得ることと、前記混合物のpHを10〜14に調整することにより、前記チタン酸化合物の粉末の表面の少なくとも一部に、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する金属酸化物前駆体を付着させることと、表面に前記金属酸化物前駆体が付着したチタン酸化合物の粉末を、前記混合物から分離することと、分離されたチタン酸化合物の粉末を乾燥することにより、該粉末の表面の少なくとも一部に、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する金属酸化物の層を形成することを含む。
【0051】
まず、チタン酸化合物の粉末を、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する、水酸化物又は塩化物の水溶液と混合することにより、混合液を得る。次いで、この混合液のpHを10〜14に調整することにより、水酸化物又は塩化物を、金属酸化物前駆体にし、チタン酸化合物の粉末の表面に付着させる。次いで、混合液から粉末を分離することにより、金属酸化物前駆体が表面に付着したチタン酸化合物の粉末を得る。
【0052】
次いで、この粉末を乾燥処理に供することにより、金属酸化物前駆体を重合させ、金属酸化物の層を形成させる。このような方法は、水溶液pH調整法と称される。水溶液pH調整法では、金属水酸化物又は金属塩化物をまず水和物にし、チタン酸化合物の粉末に付着させた後、脱水反応で重合することにより、金属酸化物層を形成することができる。
【0053】
乾燥処理は、20〜250℃の温度で行うことが好ましい。より好ましくは、室温で十分乾燥させた後、高温でさらに乾燥させることが好ましい。初めから高温で乾燥すると、急激に水分が蒸発する。その結果、チタン酸化合物の粉末の表面上に金属酸化物層が均一に形成されず、斑になる恐れがある。よって、乾燥処理は、1〜20時間の間、20〜60℃の温度範囲で一次乾燥を行い、次いで、30分〜2時間の間、100℃〜125℃の温度範囲で二次乾燥を行うことがより好ましい。
【0054】
活物質に含まれる金属酸化物層の質量%は、最初に添加する水酸化物又は塩化物の添加量とpH値を変化させることによって調整することができる。
【0055】
以上に記載した第1及び第2の方法によれば、チタン酸化合物の表面の少なくとも一部に金属酸化物の層を形成することができ、その結果、ピリジンを吸着及び脱離させた後の前記活物質の赤外拡散反射スペクトルにおいてピークPを有し、且つ、S/Sが2.4以上のチタン酸化合物を得ることができる。
【0056】
(TiO2(B)構造のチタン酸化合物の合成方法)
本実施形態において用いるチタン酸化合物は、原料から合成して得られたものであってもよく、または、商業的に入手可能なものであってもよい。以下に、チタン酸化合物の合成例として、TiO2(B)構造のチタン酸化合物を合成する方法を説明する。
【0057】
TiO2(B)構造のチタン酸化合物の合成方法は、Tiを含有する化合物、及び、アルカリ元素を含有する化合物を混合し、加熱することにより、チタン酸アルカリ化合物を合成する工程と、前記チタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、アルカリカチオンをプロトンに交換することにより、チタン酸プロトン化合物を得る工程と、前記チタン酸プロトン化合物を少なくとも2回加熱処理する工程とを含む。
【0058】
まず、出発原料として、Tiを含有する化合物、及びアルカリ元素を含有する化合物を用いる。これらの出発原料を所定の化学量論比で混合し、加熱して、チタン酸アルカリ化合物を合成する。ここで合成されたチタン酸アルカリ化合物の結晶形状は、何れの形状であってもよい。加熱処理は、800〜1100℃で行うことができる。
【0059】
出発原料のうち、Tiを含有する化合物には、アナターゼ型TiO2、及びルチル型TiO2、TiCl4から選択される一以上の化合物を用いることができる。アルカリ元素を含有する化合物には、Na、K、又はCsを含む化合物を用いることができ、例えば、炭酸塩、水酸化物及び、塩化物から選択される一以上の化合物を用いることができる。
【0060】
次に、酸処理によるプロトン交換を行う。まず、チタン酸アルカリ化合物を蒸留水でよく水洗し、不純物を除去する。その後、該チタン酸アルカリ化合物を酸処理し、チタン酸アルカリ化合物のアルカリカチオンをプロトンに交換することにより、チタン酸プロトン化合物を得ることができる。チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム及びチタン酸セシウムのようなチタン酸アルカリ化合物は、結晶構造を崩さずにそれらのアルカリカチオンをプロトンと交換することが可能である。
【0061】
酸処理は、チタン酸アルカリ化合物の粉末に酸を加えて攪拌することによって行うことができる。酸は、濃度0.5〜2Mの塩酸、硝酸及び硫酸から選択される酸を用いることができる。酸処理は、アルカリカチオンがプロトンに十分に交換されるまで継続することが好ましい。酸処理の時間は、特に制限されないが、室温25℃付近で、24時間以上行うことが好ましく、1〜2週間ほど行うことがより好ましい。さらに、24時間ごとに酸溶液を新しいものと交換することがより好ましい。酸処理の条件は、例えば、室温で、1M硫酸を用いて24時間とすることができる。
【0062】
例えば、超音波のような振動を加えながら酸処理することによって、プロトン交換をより円滑に行うことができ、好適な状態のチタン酸プロトン化合物を得ることができる。
【0063】
また、プロトン交換をより効率的に行うために、チタン酸アルカリ化合物を、予めボールミルなどで粉砕することも好ましい。粉砕は、例えば、100cm2の容器あたり、直径10〜15mm程度のジルコニアボールを用い、600〜1000rpmの回転速度で1〜3時間ほどジルコニアボールを回転させることにより行うことができる。粉砕を1時間以上行うことにより、チタン酸アルカリ化合物を十分に粉砕することができる。粉砕時間を3時間以下にすることにより、メカノケミカル反応によって目的生成物と異なる化合物が生じることを防ぐことができる。
【0064】
プロトン交換が完了した後、任意に、水酸化リチウム水溶液のようなアルカリ性溶液を添加し、残留した酸を中和する。得られたチタン酸プロトン化合物は、蒸留水で水洗し、次いで乾燥する。チタン酸プロトン化合物は、洗浄水のpHが6〜8の範囲に入るまで十分に水洗することが好ましい。一方で、酸処理後に残留した酸の中和や洗浄、乾燥をせずに次の工程に進むこともできる。
【0065】
次に、チタン酸プロトン化合物を少なくとも2回加熱処理する。第1の加熱処理は、350〜500℃の範囲の温度で1〜3時間行う。次いで、得られたチタン酸化合物を第2の加熱処理に供する。第2の加熱処理は、200〜300℃の範囲の温度で、1〜24時間行う。さらに、200〜300℃の範囲の温度で、さらなる加熱処理を繰返してもよい。
【0066】
以上の方法により、TiO2(B)構造のチタン酸化合物を合成することができる。なお、このような方法により得られたTiO2(B)構造のチタン酸化合物は、出発原料にLiを含む化合物を用いることにより、Liが予め含まれていても良いが、充放電によりLiが吸蔵されるものであってもよい。
【0067】
チタン酸化合物がTiO2(B)構造を有することは、Cu−Kαを線源とする粉末X線回折により測定することができる。粉末X線回折測定は、次のように行うことができる。まず、対象試料を平均粒子径が5μm程度となるまで粉砕する。平均粒子径はレーザー回折法によって求めることができる。粉砕した試料を、ガラス試料板上に形成された深さ0.2mmのホルダー部分に充填する。このとき、試料が十分にホルダー部分に充填されるように留意する。また、試料の充填不足によりひび割れ、空隙等がないように注意する。次いで、外部から別のガラス板を使い、充分に押し付けて平滑化する。充填量の過不足により、ホルダーの基準面より凹凸が生じることのないように注意する。次いで、試料が充填されたガラス板を粉末X線回折装置に設置し、Cu−Kα線を用いて回折パターンを取得する。なお、一般的にTiO2(B)は結晶性が低いため、サンプルによっては、粉末X線測定においてX線回折図形のピーク強度が弱く、いずれかのピークの強度が観測しにくいものもある。なお、金属酸化物層は結晶性が低く、また、含有量も低いため、粉末X線回折法で得られるチタン酸化合物の回折スペクトルにはほとんど影響しない。
【0068】
(異種元素を含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物の合成方法)
次に、異種元素を含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物を合成する方法を説明する。
【0069】
該方法は、Tiを含有する化合物、アルカリ元素を含有する化合物、及び、異種元素を含有する化合物を混合し、加熱することにより、異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物を合成する工程と、前記異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、アルカリカチオンをプロトンに交換することにより、異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物を得る工程と、前記異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有し、異種元素を含有するチタン酸化合物を生成する工程とを含む。
【0070】
まず、出発原料として、Tiを含有する化合物、アルカリ元素を含有する化合物、及び、異種元素を含有する化合物を用いる。これらの出発原料を所定の化学量論比で混合し、加熱して、異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物を合成する。ここで合成されたチタン酸アルカリ化合物の結晶形状は、何れの形状であってもよい。加熱処理は、これに限定されないが、800〜1100℃で行うことができる。
【0071】
出発原料のうち、Tiを含有する化合物及びアルカリ元素を含有する化合物は、第1の方法で記載したものを用いることができる。
【0072】
異種元素を含有する化合物には、Zr、Nb、Mo、Ta、Y、P及びBから選択される少なくとも1つの元素を含む化合物を用いることができ、例えば、炭酸塩、及び水酸化物などから選択される一以上の化合物を用いることができる。
【0073】
異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物の例には、異種元素を含有するチタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム及びチタン酸セシウムが含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
次に、酸処理によるプロトン交換を行う。まず、異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物を蒸留水でよく水洗し、不純物を除去する。その後、該チタン酸アルカリ化合物を酸処理し、チタン酸アルカリ化合物のアルカリカチオンをプロトンに交換することにより、異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物を得ることができる。チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム及びチタン酸セシウムのようなチタン酸アルカリ化合物は、結晶構造を崩さずにそれらのアルカリカチオンをプロトンと交換することが可能であり、異種元素を含有するチタン酸アルカリ化合物も同様である。
【0075】
酸処理は、チタン酸アルカリ化合物の粉末に酸を加えて攪拌することによって行うことができる。酸は、濃度0.5〜2Mの塩酸、硝酸及び硫酸から選択される酸を用いることができる。酸処理は、アルカリカチオンがプロトンに十分に交換されるまで継続することが好ましい。酸処理の時間は、特に制限されないが、室温25℃付近で、濃度1M程度の塩酸を用いた場合、24時間以上行うことが好ましく、1〜2週間ほど行うことがより好ましい。さらに、24時間ごとに酸溶液を新しいものと交換することがより好ましい。第1の方法で記載したように、超音波のような振動を加えながら酸処理してもよい。また、プロトン交換をより効率的に行うために、チタン酸アルカリ化合物を予めボールミルなどで粉砕することも好ましい。
【0076】
プロトン交換が完了した後、任意に、水酸化リチウム水溶液のようなアルカリ性溶液を添加し、残留した酸を中和する。得られた異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物は、蒸留水で水洗し、次いで乾燥する。チタン酸プロトン化合物は、洗浄水のpHが6〜8の範囲に入るまで十分に水洗することが好ましい。一方で、酸処理後に残留した酸の中和や洗浄、乾燥をせずに次の工程に進むこともできる。
【0077】
次に、異種元素を含有するチタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、異種元素を含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物を得ることができる。
【0078】
加熱処理温度は、チタン酸プロトン化合物体の組成や粒子径、結晶形状のような条件により最適な温度が異なるため、チタン酸プロトン化合物に依存して適宜決定されるが、250〜500℃の範囲であることが好ましい。250℃以上であると、結晶性が良好であり、H2Ti817の不純物相の生成が抑制され、電極容量、充放電効率、繰り返し特性も良好である。一方、500℃以下であると、H2Ti817並びにアナターゼ型TiO2の不純物相の生成が抑制されるため、電極容量の低下を防ぐことができる。より好ましい加熱処理温度は、300〜400℃である。
【0079】
加熱時間は、温度に応じて30分以上24時間以下の範囲に設定できる。例えば、300℃以上400℃以下の温度の場合、1時間以上3時間以下にすることができる。
【0080】
以上の方法により、異種元素を含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物を合成することができる。なお、このような方法により得られたTiO2(B)構造のチタン酸化合物は、出発原料にLiを含む化合物を用いることにより、Liが予め含まれていても良いが、充放電によりLiが吸蔵されるものであってもよい。
【0081】
以上の実施形態によれば、ピリジンを吸着及び脱離させた後の前記活物質の赤外拡散反射スペクトルにおいてピークPを有し、且つ、S/Sが2.4以上である、チタン酸化合物を含む活物質を製造することができる。このような活物質を用いることにより、抵抗増加が抑制され、サイクル寿命が向上された非水電解質電池を実現することができる。
【0082】
(第3実施形態)
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0083】
図1に、本実施形態に係る非水電解質電池の一例を示す。図1は、扁平型非水電解質二次電池の断面模式図である。図2は、図1のA部の拡大断面図である。電池1は、外装部材2、偏平形状の捲回電極群3、正極端子7、負極端子8、及び非水電解質を備える。
【0084】
外装部材2はラミネートフィルムからなる袋状外装部材である。捲回電極群3は、外装部材2に収納されている。捲回電極群3は、図2に示すように、正極4、負極5、及びセパレータ6を含み、外側から負極5、セパレータ6、正極4、セパレータ6の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成される。
【0085】
正極4は、正極集電体4aと正極層4bとを含む。正極層4bには正極活物質が含まれる。正極層4bは正極集電体4aの両面に形成されている。
【0086】
負極5は、負極集電体5aと負極層5bとを含む。負極層5bには負極活物質が含まれる。負極5は、最外層においては、負極集電体5aの内面側の片面にのみ負極層5bが形成され、その他の部分では負極集電体5aの両面に負極層5bが形成されている。
【0087】
図1に示すように、捲回電極群3の外周端近傍において、帯状の正極端子7が正極4の正極集電体4aに接続されている。また、帯状の負極端子8が最外層の負極5の負極集電体5aに接続されている。正極端子7及び負極端子8は、外装部材2の開口部を通って外部に延出されている。外装部材2の内部には、さらに、非水電解液が注入される。外装部材2の開口部を、正極端子7及び負極端子8を挟んだ状態でヒートシールすることにより、捲回電極群3及び非水電解質が完全密封される。
【0088】
以下、本実施形態の非水電解質電池に用いられる負極、正極、非水電解質、セパレータ、外装部材、正極端子、負極端子について詳細に説明する。
【0089】
(負極)
負極は、負極集電体及び負極活物質層を含む。負極活物質層は、負極活物質、導電剤及び結着剤を含む。負極活物質層は、負極集電体の片面若しくは両面に形成される。
【0090】
活物質として、上記第1実施形態において記載された、チタン酸化合物を含み、ピリジンを吸着及び脱離させた後の前記活物質の赤外拡散反射スペクトルにおいて、1580cm−1〜1610cm−1の領域にピークPを有し、且つ、S/S≧2.4である活物質が用いられる。このような活物質は、上記第2実施形態において記載されたように、チタン酸化合物の表面に層を形成することによって製造することができる。このような活物質は、前述したように抵抗増加が抑制されたものである。それ故、そのような活物質を含む負極を用いることにより、非水電解質電池のサイクル寿命を向上することができる。
【0091】
なお、活物質として、チタン酸化合物以外の化合物を含んでもよい。他の化合物は、活物質の総質量の50質量%以下の割合で含まれることが好ましい。他の化合物の例には、黒鉛、ハードカーボン、シリコン、ゲルマニウムが含まれる。
【0092】
導電剤は、集電性能を高め、活物質と集電体との接触抵抗を抑える。導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー、及びカーボンナノチューブが含まれる。
【0093】
結着剤は、活物質、導電剤、及び集電体を結着させる。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、及びスチレンブタジェンゴムが含まれる。
【0094】
負極層中の活物質、導電剤及び結着剤は、それぞれ70質量%以上96質量%以下、2質量%以上28質量%以下、及び2質量%以上28質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の量を2質量%以上にすることにより、負極層の集電性能を向上させることができる。また、結着剤の量を2質量%以上にすることにより、負極層と集電体の結着性を向上させることができる。一方、導電剤及び結着剤はそれぞれ28質量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
【0095】
負極集電体は、1.0 Vよりも貴である電位範囲において電気化学的に安定であるアルミニウム箔若しくはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiのような元素を含むアルミニウム合金箔から形成されることが好ましい。
【0096】
負極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、負極活物質、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、負極集電体の片面又は両面に塗布し、乾燥して、負極活物質層を形成する。その後、プレスを施す。或いは、負極活物質、導電剤及び結着剤をペレット状に形成し、負極活物質層として用いることもできる。
【0097】
(正極)
正極は、正極集電体及び正極活物質層を含む。正極活物質層は、正極活物質、導電剤及び結着剤を含む。正極活物質層は、正極集電体の片面若しくは両面に形成される。
【0098】
活物質は、例えば、酸化物又はポリマーを用いることができる。
酸化物の例には、リチウムを吸蔵する二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、LixMn2O4又はLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えば、LixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(例えば、LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えば、LiNi1-yCoyO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えば、LixMnyCo1-yO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えば、LiNi1-y-zCoyMnzO2)、リチウムニッケルコバルトアルミ複合酸化物(例えば、LiNi1-y-zCoyAlzO2)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えば、LixMn2-yNiyO4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えば、LixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、及びバナジウム酸化物(例えば、V2O5)が含まれる。上記において、0<x≦1であり、0≦y≦1であり、0≦z≦1であることが好ましい。活物質として、これらの化合物を単独で用いてもよく、或いは、複数の化合物を組合せて用いてもよい。
【0099】
ポリマーの例には、ポリアニリン及びポリピロールのような導電性ポリマー材料、及び、ジスルフィド系ポリマー材料が含まれる。
【0100】
また、イオウ(S)又はフッ化カーボンも活物質として使用できる。
【0101】
より好ましい活物質の例には、正極電圧が高いリチウムマンガン複合酸化物(LixMn2O4)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiyO4)、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LixNi1-yCoyO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LixMnyCo1-yO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1-y-zCoyMnzO2)及びリチウムリン酸鉄(LixFePO4)が含まれる。上記において、0<x≦1であり、0≦y≦1であり、0≦z≦1であることが好ましい。
【0102】
導電剤は、集電性能を高め、且つ活物質と集電体との接触抵抗を抑える。導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー、及びカーボンナノチューブのような炭素質物が含まれる。
【0103】
結着剤は、活物質、導電剤、及び集電体とを結着させる。結着剤の例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びフッ素系ゴムが含まれる。
【0104】
正極層中の活物質、導電剤及び結着剤は、それぞれ80質量%以上95質量%以下、3質量%以上18質量%以下、及び2質量%以上17質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤は、3質量%以上の量にすることにより上述した効果を発揮することができる。導電剤は、18質量%以下の量にすることにより高温保存下での導電剤表面での非水電解質の分解を低減することができる。結着剤は、2質量%以上の量にすることにより十分な正極強度が得られる。結着剤は、17質量%以下の量にすることにより、正極中の絶縁材料である結着剤の配合量を減少させ、内部抵抗を減少できる。
【0105】
集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔から形成されることが好ましい。
【0106】
正極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、正極活物質、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、正極集電体の片面又は両面に塗布し、乾燥して、正極活物質層を形成する。その後、プレスを施す。或いは、正極活物質、導電剤及び結着剤をペレット状に形成し、正極活物質層として用いることもできる。
【0107】
(非水電解質)
非水電解質としては、液状非水電解質又はゲル状非水電解質を用いることができる。液状非水電解質は、電解質を有機溶媒に溶解することにより調製される。電解質の濃度は、0.5〜2.5 mol/lの範囲であることが好ましい。ゲル状非水電解質は、液状電解質と高分子材料を複合化することにより調製される。
【0108】
電解質の例には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミトリチウム[LiN(CF3SO2)2]のようなリチウム塩及びそれらの混合物が含まれる。電解質は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
【0109】
有機溶媒の例は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネートのような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、ジオキソラン(DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(DME)、ジエトエタン(DEE)のような鎖状エーテル;又はγ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)を含む。これらの有機溶媒は、単独で又は2種類以上を組合せて用いることができる。
【0110】
より好ましい有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)からなる群のうち、少なくとも2つ以上を混合した混合溶媒、及び、γ−ブチロラクトン(GBL)を含む混合溶媒が含まれる。このような混合溶媒を用いることによって、低温特性の優れた非水電解質電池を得ることができる。
【0111】
高分子材料の例には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)が含まれる。
【0112】
(セパレータ)
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)のような材料から形成された多孔質フィルム、合成樹脂製不織布等を用いることができる。中でも、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂からなる多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能であり、安全性向上の観点から好ましい。
【0113】
(外装部材)
外装部材としては、ラミネートフィルム製の袋状容器又は金属製容器が用いられる。
【0114】
形状としては、扁平型、角型、円筒型、コイン型、ボタン型、シート型、積層型等が挙げられる。なお、無論、携帯用電子機器等に積載される小型電池の他、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池でも良い。
【0115】
ラミネートフィルムとしては、樹脂フィルム間に金属層を介在した多層フィルムが用いられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔もしくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂フィルムには、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(PET)のような高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装部材の形状に成形することができる。ラミネートフィルムは、肉厚が0.2mm以下であることが好ましい。
【0116】
金属製容器は、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されることができる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛及びケイ素のような元素を含むことが好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属の含有量は100 質量ppm以下にすることが好ましい。これにより、高温環境下での長期信頼性、放熱性を飛躍的に向上させることが可能となる。金属製容器は、肉厚が0.5mm以下であることが好ましく、肉厚が0.2mm以下であることがより好ましい。
【0117】
(正極端子)
正極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が3.0V以上4.25V以下の範囲において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成される。アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiのような元素を含むアルミニウム合金から形成されることが好ましい。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0118】
(負極端子)
負極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が1.0V以上3.0V以下の範囲において電気的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成される。アルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,Siのような元素を含むアルミニウム合金から形成されることが好ましい。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0119】
以上の実施形態によれば、抵抗増加が抑制され、サイクル寿命が向上された非水電解質電池を提供することが可能である。
【0120】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る電池パックについて、図面を参照して説明する。電池パックは、上記第3実施形態に係る非水電解質電池(単電池)を1個又は複数有する。複数の単電池を含む場合、各単電池は、電気的に直列もしくは並列に接続して配置される。
【0121】
図3及び図4に、扁平型電池を複数含む電池パックの一例を示す。図3は、電池パック20の分解斜視図である。図4は、図3の電池パック20の電気回路を示すブロック図である。
【0122】
複数の単電池21は、外部に延出した正極端子18及び負極端子19が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ22で締結することにより組電池23を構成している。これらの単電池21は、図4に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0123】
プリント配線基板24は、正極端子18及び負極端子19が延出する単電池21側面と対向して配置されている。プリント配線基板24には、図4に示すようにサーミスタ25、保護回路26及び外部機器への通電用端子27が搭載されている。なお、組電池23と対向するプリント配線基板24の面には組電池23の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0124】
正極側リード28は、組電池23の最下層に位置する正極端子18に接続され、その先端はプリント配線基板24の正極側コネクタ29に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード30は、組電池23の最上層に位置する負極端子19に接続され、その先端はプリント配線基板24の負極側コネクタ31に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ29,31は、プリント配線基板24に形成された配線32,33を通して保護回路26に接続されている。
【0125】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検出するために用いられ、その検出信号は保護回路26に送信される。
【0126】
保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線34a及びマイナス側配線34bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ25の検出温度が所定温度以上になったときである。或いは、所定の条件とは、単電池21の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池21について行われてもよく、或いは、複数の単電池21全体について行われてもよい。個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図3及び図4の場合、単電池21それぞれに電圧検出のための配線38を接続し、これら配線38を通して検出信号が保護回路26に送信される。本実施形態の電池パックに備えられる電池は、電池電圧の検知による正極又は負極の電位の制御に優れるため、電池電圧を検知する保護回路が好適に用いられる。
【0127】
正極端子18及び負極端子19が突出する側面を除く組電池23の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート35がそれぞれ配置されている。
【0128】
組電池23は、各保護シート35及びプリント配線基板24と共に収納容器36内に収納される。すなわち、収納容器36の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の一方の内側面それぞれに保護シート35が配置され、短辺方向の他方の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池23は、保護シート35及びプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。蓋37は、収納容器36の上面に取り付けられている。
【0129】
なお、組電池23の固定には粘着テープ22に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0130】
図3、図4では単電池21を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続しても、又は直列接続と並列接続を組み合わせてもよい。組み上がった電池パックをさらに直列、並列に接続することもできる。
【0131】
上記の実施形態によれば、優れたサイクル寿命を有する非水電解質電池を備えることにより、サイクル寿命が向上された電池パックを提供することができる。また、第3実施形態で述べたような低温特性の優れた非水電解質電池を備えることにより、車載用に好適に用いられる電池パックを提供することができる。
【実施例】
【0132】
(実施例1)
<TiO2(B)構造のチタン酸化合物の合成>
出発原料として、炭酸カリウム(K2CO3)及びアナターゼ型酸化チタン(TiO2)を用いた。出発原料を混合し、1000℃で24時間焼成して、チタン酸カリウム化合物(K2Ti4O9)を合成した。このチタン酸カリウム化合物を、ジルコニアビーズで乾式粉砕して粒度調整した後、蒸留水で洗浄してプロトン交換前駆体を得た。このプロトン交換前駆体を、1M濃度の塩酸溶液中に投入し、25℃で1時間の超音波攪拌を行った。この操作を、塩酸溶液を交換しながら12回繰返した。酸処理の終了後、蒸留水で洗浄して、チタン酸プロトン化合物を得た。このチタン酸プロトン化合物を、大気中で、350℃で3時間焼成し、TiO2(B)構造のチタン酸化合物(TiO2)を得た。
【0133】
<負極活物質の作製>
上記のように合成した、チタン酸化合物15gに対して、テトラエトキシシラン7g、純水10gを添加し、室温環境(25℃、RH50%)で乾燥処理を行い、乾燥後の重量が添加前の重量に対して15%重量増加していることを確認した。その後、大気雰囲気で200℃、1時間、乾燥処理を行い、一連の処理で8%重量増加していることを確認した。この粉末をSEMにより表面観察を行ったところ、酸化チタンの表面にSi酸化物の層が形成されていることを確認した。この層を有するチタン酸化合物を負極活物質として用いた。
【0134】
<負極の作製>
負極活物質の粉末を90質量%、アセチレンブラック5質量%、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%を、NMP加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより電極密度が2.0g/cmの負極を作製した。
【0135】
<正極の作製>
正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.82Co0.15Al0.03O2)を用い、導電剤としてアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた。リチウムニッケル複合酸化物の粉末90質量%、アセチレンブラック5質量%、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%を、NMPに加えて混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより、電極密度が3.15g/cm3の正極を作製した。
【0136】
<電極群の作製>
正極、厚さ25μmのポリエチレン製多孔質フィルムからなるセパレータ、負極、及びセパレータを、この順序で積層した後、渦巻き状に捲回した。これを90℃で加熱プレスすることにより、幅が30mm、厚さ3.0mmの偏平状電極群を作製した。得られた電極群をラミネートフィルムからなるパックに収納し、80℃で24時間真空乾燥した。ラミネートフィルムは厚さ40μmのアルミニウム箔の両面にポリプロピレン層を形成して構成されたものであり、全体の厚さは0.1mmであった。
【0137】
<液状非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)を1:2の体積比率で混合して混合溶媒を調製した。この混合溶媒に電解質としてLiPF6を1M溶解し、液状非水電解質を調製した。
【0138】
<非水電解質二次電池の製造>
電極群を収納したラミネートフィルムのパック内に液状非水電解質を注入した。その後、パックをヒートシールにより完全密閉し、図1に示すような構造を有し、幅35mm、厚さ3.2mm、高さが65mmの非水電解質二次電池を製造した。
【0139】
(実施例2)
<Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物の合成>
出発原料として、炭酸カリウム(K2CO3)、アナターゼ型酸化チタン(TiO2)、及び水酸化ニオブ(Nb2O5・nH2O)を用いた。出発原料を混合し、1000℃で24時間焼成して、Nbを含有するチタン酸アルカリ化合物(K−Ti−Nb−O化合物)を合成した。このK−Ti−Nb−O化合物を、ジルコニアビーズで乾式粉砕して粒度調整した後、蒸留水で洗浄してプロトン交換前駆体を得た。このプロトン交換前駆体を、1M濃度の塩酸溶液中に投入し、25℃で1時間の超音波攪拌を行った。この操作を、塩酸溶液を交換しながら12回繰返した。酸処理の終了後、蒸留水で洗浄して、Nbを含有するチタン酸プロトン化合物を得た。このNbを含有するチタン酸プロトン化合物を、大気中で、350℃で3時間焼成し、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物を得た。
【0140】
得られたチタン酸化合物をICP発光分光測定で測定した結果、Nbの含有量は、Nbを含有するチタン酸化合物の総質量に対して8質量%であった。
【0141】
<負極活物質の作製>
上記のように合成した、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物15gに対して、テトラエトキシシラン7g、純水10gを添加し、室温環境(25℃、RH50%)で乾燥処理を行い、乾燥後の重量が添加前の重量に対して15%重量増加していることを確認した。その後、大気雰囲気で200℃、1時間、乾燥処理を行い、一連の処理で8%重量増加していることを確認した。この粉末をSEMにより表面観察を行ったところ、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物の表面にSi酸化物の層が形成していることを確認した。この層を有するチタン酸化合物を負極活物質として用いた。
【0142】
<非水電解質二次電池の製造>
上記の負極活物質を用い、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0143】
(実施例3)
実施例2において合成した、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物15gに対して、テトラエトキシシラン15g、純水5gを添加し、室温環境(25℃、RH50%)で乾燥処理を行い、乾燥後の重量が添加前の重量に対して20%重量増加していることを確認した。その後さらに大気雰囲気で200℃、1時間、乾燥処理を行い、一連の処理で15%程度重量増加があることを確認した。SEMによる表面観察によって、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物の表面にSiを主成分とする酸化物の層が存在することが確認された。この層を有するチタン酸化合物を負極活物質として用いた。
【0144】
上記のように得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様に非水電解質電池を製造した。
【0145】
(実施例4)
実施例2において合成した、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物15gに対して、テトラエトキシシラン4g、純水5gを添加し、室温環境(25℃、RH50%)で乾燥処理を行い、乾燥後の重量が添加前の重量に対して7%重量増加していることを確認した。その後さらに大気雰囲気で200℃、1時間、乾燥処理を行い、一連の処理で5%程度重量増加があることを確認した。SEMによる表面観察によって、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物の表面にSiを主成分とする酸化物の層が存在することが確認された。この層を有するチタン酸化合物を負極活物質として用いた。
【0146】
上記のように得られた負極活物質を用いて、実施例1と同様に非水電解質電池を製造した。
【0147】
(実施例5)
実施例2において合成した、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物15gに対して、テトラエトキシシラン15g、純水10gを用いた以外は、実施例2と同様に非水電解質電池を製造した。
【0148】
(実施例6)
1Mの硝酸アルミニウム水溶液30ccに、攪拌機で撹拌しながら1Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、水酸化アルミニウム沈殿物を作製した。その後、実施例2で記載したように合成したNbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物15gを添加し、攪拌した。その後、溶液と固形分を分離し、固形分を洗浄した後、室温で乾燥した。次いで、大気雰囲気中、250℃で2時間、熱処理を行った。SEMによる表面観察によって、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物の表面に酸化アルミニウムの層が存在していることが確認された。また、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物の総質量に対して酸化アルミニウムが約10%含まれることが、ICP発光分析により測定された。これを負極活物質として用いて、実施例1と同様に非水電解質電池を製造した。
【0149】
(実施例7)
1Mの硝酸アルミニウム水溶液10ccを用いた以外は、実施例6と同様に、アルミニウムの層を有する負極活物質を作製した。表面に被覆している酸化アルミニウムは、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物の総質量に対して約3%含まれることが測定された。これを負極活物質として用いて、実施例1と同様に非水電解質電池を製造した。
【0150】
(実施例8)
1Mの硝酸マグネシウム水溶液40ccを用いた以外は、実施例6と同様に負極活物質を作製した。得られた負極活物質は、酸化チタン表面に酸化マグネシウムの層を形成していることが確認された。表面に被覆している酸化マグネシウムは、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物の総質量に対して約10%含まれることが測定された。これを負極活物質として用いて、実施例1と同様に非水電解質電池を製造した。
【0151】
(実施例9)
1Mの硝酸アルミニウム水溶液12ccを用いた以外は実施例6と同様に負極活物質を作製した。表面に被覆している酸化アルミニウムは、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物の総質量に対して約3%含まれることが測定された。これを負極活物質として用いて、実施例1と同様に非水電解質電池を製造した。
【0152】
(実施例10)
実施例2において合成した、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物15gに対して、テトラエトキシシラン30g、純水10gを用いた以外は、実施例2と同様に非水電解質電池を製造した。
【0153】
(比較例1)
実施例2において合成した、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物を負極活物質として用い、実施例1と同様に非水電解質電池を製造した。
【0154】
(比較例2)
実施例1において合成したTiO2(B)構造のチタン酸化合物を、濃度10質量%のチタニウムイソプロポキシド溶液に浸漬させ、減圧した。次いで、濾過によりチタン酸化合物を取り出した後、600℃で1時間、熱処理し、表面に新たなチタン酸化合物を付着させたチタン酸化合物を得た。これを負極活物質として用いて、実施例1と同様に非水電解質電池を製造した。
【0155】
(比較例3)
実施例2において合成した、Nbを含有するTiO2(B)構造のチタン酸化合物15gに対して、テトラエトキシシラン1g、純水3gを用いた以外は、実施例2と同様に非水電解質電池を製造した。
【0156】
(赤外拡散反射測定)
実施例1〜10及び比較例1〜3で用いた負極活物質について、以下の手順で赤外拡散反射測定し、IRスペクトルを得た。
まず、測定に供する活物質をサンプルカップに入れ、拡散反射測定装置に設置した。窒素ガスを50mL/minで流通させながら、500℃まで昇温し、1時間保持した。その後、温度を室温まで降下させ、再度100℃まで昇温した。次いで、サンプルカップを設置したセル内を減圧し、セル内にピリジン蒸気を導入し、30分間吸着させた。
【0157】
次いで、窒素ガスを100mL/minで流通させながら100℃で1時間保持し、その後150℃に昇温して1時間保持した。これによって、活物質に物理吸着又は水素結合したピリジンを脱離させた。その後、赤外拡散反射測定を行った。
【0158】
図5に、実施例2〜4及び比較例1のIRスペクトルを示す。
【0159】
実施例2〜4のIRスペクトルでは、1596cm−1に水素結合の存在を示すピークPが観測された。一方、比較例1のIRスペクトルでは、1596cm−1に水素結合を示すピークは観測されなかった。また、実施例2〜4のIRスペクトルでは、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークP1の強度が比較例1より大きいことが示された。
【0160】
このことから、Siを含む層を有する負極活物質は、1580cm−1〜1610cm−1の領域にピークPが出現し、また、S/Sの値が上昇することが示された。
【0161】
金属酸化物層を形成するために水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムを用いた実施例6〜9でも同様に、1580cm−1〜1610cm−1の領域にピークPが出現し、また、S/Sの値が上昇した。
【0162】
(充放電サイクル試験)
実施例1〜10及び比較例1〜3の非水電解質二次電池を用いて、充放電サイクル試験を行い、容量維持率と抵抗増加率を測定した。
【0163】
充放電は、45℃環境下において、1Cレートで行った。充電は1.4Vの定電流定電圧充電を行い、充電時間は3時間とした。放電カットオフ電圧を3.0Vとして定電流放電を行った。50サイクル繰り返し充放電を行い(充電/放電で1サイクルとする)、初期容量と50サイクル後の容量、初回充放電前の電池の抵抗、及び50サイクル後の電池抵抗を測定した。
【0164】
実施例1の初期容量を100とし、各実施例及び比較例の初期容量を比(%)で表した。また、各実施例及び比較例について、初期容量に対する50サイクル後の容量から、50サイクル後の容量維持率(%)を算出した。また、初回充放電前の電池の抵抗(R)を1.0とし、50サイクル後の電池抵抗(R50)から、50サイクル後の抵抗増加率R50/R(%)を算出した。
【0165】
各電池のS/S2、ピークPの有無、初期容量比(%)、容量維持率(%)、及び抵抗増加率R50/R(%)を表1に示した。
【表1】

【0166】
/Sが2.4以上であり、且つ、ピークPが観測された実施例1〜10の電池は、比較例1〜3の電池と比べて容量維持率が高く、抵抗増加率が低かった。このことから、S/Sが2.4以上であり、且つ、ピークPが存在する負極活物質を用いることにより、容量の劣化や抵抗の増加を抑制できることが示された。
【0167】
Si、Mg及びAlの何れの元素を含む層でも、S/Sを2.4以上にすることができ、容量劣化や抵抗増加率を低減できることが示された。
【0168】
実施例10は、容量維持率が最も高く、抵抗増加率が最も低かった。しかしながら、初期容量が低かった。これは、実施例10では、層の含有量が多すぎたためと考えられる。
【0169】
比較例1及び2では、容量維持率が低く、抵抗増加率が高かった。比較例1及び2のように、チタン酸化合物の表面に層が形成されていない場合、ルイス酸点の影響が大きく、容量劣化や抵抗増加が大きいことが示された。
【0170】
比較例2は、ピークPが観測されなかったため、水素結合に由来するピークは存在しないことが示されている。しかしながら、S/Sは2.5であった。このように比較例2においてS/Sの値が高い理由は、ルイス酸点濃度が比較例1よりも高いためであると考えられる。実際に、比較例2は、容量劣化が特に大きく、かつ、抵抗増加も大きかった。
【0171】
比較例3は、Si酸化物の層を有するものの、S/Sが2.4未満であった。また、容量維持率が比較的低く、また、抵抗増加率が比較的高かった。比較例3では金属酸化物層の含有量が十分ではなく、チタン酸化合物の表面のルイス酸点の影響が十分に抑制されなかったためと考えられる。
【0172】
以上の実施例では、チタン酸化合物としてTiO2(B)構造のチタン酸化合物を用いたが、これに限定されず、固体酸点や水酸基を表面に有するチタン酸化合物及びチタン酸複合酸化物を負極活物質に使用したものに対しても有効である。
【0173】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0174】
1…電池、2…外装部材、3…捲回電極群、4…正極、4a…正極集電体、4b…正極活物質層、5…負極、5a…負極集電体、5b…負極活物質層、6…セパレータ、7…正極端子、8…負極端子、20…電池パック、21…電池単体、22…組電池、23…粘着テープ、24…プリント配線基板、25…サーミスタ、26…保護回路、27…端子、28…正極側配線、29…正極側コネクタ、30…負極側配線、31…負極側コネクタ、31a…プラス側配線、31b…マイナス側配線、32,33…配線、35…保護シート、36…収納容器、37…蓋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸化合物を含み、
ピリジンを吸着及び脱離させた後の赤外拡散反射スペクトルにおいて、1580cm−1〜1610cm−1の領域にピークを有し、且つ、下式(I)を満たすことを特徴とする活物質:
/S≧2.4 (I)
ここにおいて、
は前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430cm−1〜1460cm−1の領域に存在するピークの面積であり、
は前記赤外拡散反射スペクトルにおいて、1520cm−1〜1560cm−1の領域に存在するピークの面積である。
【請求項2】
前記活物質は、前記チタン酸化合物の表面の少なくとも一部に金属酸化物の層を含み、前記金属酸化物は、Mg、Al及びSiから成る群から選択される少なくとも1種の元素を含む、請求項1に記載の活物質。
【請求項3】
前記金属酸化物の層を、前記チタン酸化合物の総質量に対して1〜20質量%の割合で含む、請求項2に記載の活物質。
【請求項4】
前記チタン酸化合物は、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有するチタン酸化合物である、請求項1〜3の何れか一項に記載の活物質。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の活物質を含む負極と、
正極と、
非水電解質と、
を含むことを特徴とする非水電解質電池。
【請求項6】
請求項5に記載の非水電解質電池を含むことを特徴とする電池パック。
【請求項7】
チタン酸化合物の粉末を、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する金属アルコキシドと混合して混合物を得ることと、
前記混合物を乾燥することにより、前記チタン酸化合物の粉末の表面の少なくとも一部に、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する金属酸化物の層を形成することと、
を具備する、活物質の製造方法。
【請求項8】
チタン酸化合物の粉末を、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する、水酸化物及び塩化物から選択される化合物を含む水溶液と混合して混合物を得ることと、
前記混合物のpHを10〜14に調整することにより、前記チタン酸化合物の粉末の表面の少なくとも一部に、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する金属酸化物前駆体を付着させることと、
表面に前記金属酸化物前駆体が付着したチタン酸化合物の粉末を、前記混合物から分離することと、
分離されたチタン酸化合物の粉末を乾燥することにより、該粉末の表面の少なくとも一部に、Mg、Al、及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含有する金属酸化物の層を形成することと、
を具備する、活物質の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−69532(P2013−69532A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207097(P2011−207097)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】