説明

流下液膜式プレート型熱交換器とそれを用いた吸収冷凍機又は吸収冷温水機

【課題】 外表面を最適な形状にして、鉛直面に投影した単位面積当たりの伝熱量を上げてコンパクトにできる流下液膜式プレート型熱交換器を提供する。
【解決手段】 両面を伝熱面として使用する伝熱壁を介して接し、相互に混合することなく2つの流体の間で熱交換を行う熱交換器で、前記伝熱壁により形成される密閉流路と開放流路とを有し、水である第2の流体が開放流路を自重によって流下して流下液膜を形成する流下液膜式プレート型熱交換器において、前記伝熱面は、該熱交換器の鉛直断面において複数の凹凸を交互に規則的に繰り返す形状であり、該複数の凹凸は外観上略水平方向に連続した傾斜面を形成し、傾斜面は、鉛直断面において、上部又は下部を形成する辺が共にその傾きが水平線に対して5度以上25度以下となる部分を有し、該5度以上25度以下の部分の長さがそれぞれの辺の長さの50%以上であることとしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流下液膜式プレート型熱交換器に係り、特に、吸収式冷凍機や冷温水機の蒸発器や吸収器に利用でき、単位面積当りの伝熱量を上げ、熱交換器をコンパクトにすることができる流下液膜式プレート型熱交換器とそれを用いた吸収冷凍機又は吸収冷温水機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図10に流下液膜式プレート型熱交換器の模式図を示す。流下液膜式プレート型熱交換器で、例えば吸収式冷温水機の場合、蒸発器と吸収器として、しばしばこの型式の熱交換器を用いている。この型式の熱交換器は、基本的には、主たる2枚の矩形の平板を隙間を隔てて相互に平行に配置し、周囲の4つの側端部を密閉した形状であり、第1流体をそのひとつの側端面に設けた流入口から流入させ、対向する側端面に設けた流出口から流出させるものである。図10に示した例では、蒸発器においては2枚のプレート(即ち前記した例えば矩形の主たる平板)内を第1流体である冷水が流れ、プレートの外を液体である第2流体の冷媒が流下する。一方、吸収器においては、2枚のプレート内を第1流体である冷却水が流れ、プレートの外を第2流体である吸収液が流下する。
蒸発器側について述べると、プレート型熱交換器外表面を流下する液体の液膜の表面温度が、ほぼ一定になるようにするため、該熱交換器の外部においては、設定している温度に対応した冷媒の飽和蒸気圧まで圧力を低くして、冷媒が蒸発するようになっている。
【0003】
図11に、特開平9−280692号公報に示される従来の吸収式冷凍機の流下液膜式プレート型熱交換器の概略を示す。図11では、吸収式冷凍機において流下液膜式プレート型熱交換器を蒸発器と吸収器に使用した例が示されている。
従来の吸収式冷温水器の流下液膜式プレート型熱交換器の蒸発器又は吸収器においては、鉛直面に投影した単位面積当たりの伝熱量を多くするために、図12〜図15に示すように、プレート表面に多数の窪みや突起状の凹凸を設けてある。図14は特許第2779565号公報の場合で、図15は特許第2979378号公報の場合である。図15の特許第2979378号公報のように、プレート面の濡れ性を改善するためにプレート表面に小さな凹凸を設けている場合もある。
流下液膜式でないプレート型熱交換器であって、相互に熱交換を行い、熱交換液が密閉されている流路を、それぞれ通過するように形成されたプレート型熱交換器の場合には、図16のように波形になったプレートを並べ、その間で熱交換を行う2種類の流体を交互に流して熱交換を行う。また、図17及び図18のようにプレートに突起を設ける場合もある。
【0004】
一方、流下液膜式プレート型熱交換器の場合、窪みや突起を多くして、それらを相互に接近するように形成すると、該熱交換器外表面上を流れる水又は水を主成分とする水溶液(以下、本発明では流下液膜式プレート型熱交換器の外表面を流れる液体としての「水」との表記は「水又は水を主成分とする水溶液」を意味するものとする)は、その表面張力のために窪みに溜まることとなり、水の液膜厚さが厚くなるため、かえって前記投影単位面積当たりの伝熱量が低下することがあった。また、プレート型熱交換器外表面側の凸部の突き出しが大きくなると、凸部の水膜が薄くなり、乾くようになるため、かえって投影単位面積当たりの伝熱量が低下する場合があった。特に、図15のような凹凸をプレート型熱交換器外表面側に設けた場合、凹凸の高さを大きくすると、プレート型熱交換器外表面側の凹部に液体が集中し、液体の偏りが大きくなり、プレート型熱交換器外表面側の凸部は乾くようになるため、伝熱量の低下につながる。
また、図12のように、プレートの鉛直断面内にのみ凹凸を設けている場合で、凹凸の高さが小さい場合は、投影単位面積当たりの伝熱量の増加は少ない。図13のように、プレート外表面に凸部が形成されており、その凸部のふもとから頂きに至る区間が水平であるときには、その水平な面に液体が溜まり、その凸部の近傍のプレート外表面における液膜が厚くなり、投影単位面積当たりの伝熱量が低下する。
【0005】
流下液膜式でない通常のプレート型熱交換器の場合、図17及び図18に示すように、熱交換を行わせたい流体間の隔壁の両側に、流れの中にフィンのような突起を突き出して伝熱面積を増加させると共に、突起で流体の境界層内に乱れを起こさせて熱伝達率を大きくする方法がある。
しかし、流下液膜式プレート型熱交換器の場合は、プレート型熱交換器外表面側の水又はその他の液体による流下液膜厚さが伝熱量に大きな影響を及ぼし、流下液体の膜厚さが薄いほど伝熱量が多くなるため、流下液体の膜厚さを非常に薄くすることが好ましい。しかし、流下液体の膜厚さを薄くすると、流れが層流になるため境界層内に乱れを起こさせて熱伝達率を大きくするような、図17及び図18に示すような通常の熱交換器のような形状を採用できない。
【特許文献1】特開平9−280692号公報
【特許文献2】特許第2779565号公報
【特許文献3】特許第2979378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、公知の流下液膜式プレート型熱交換器の場合、プレート面を膜状に流下する液体の量を少なくし、流下液体の膜厚さを薄くすることによって、投影単位面積当たりの伝熱量を増加することが原理的には可能である。しかし現実には流量を減少させるに従って、流下液体がプレート面の一部分のみに集まって流下するようになり、プレート面の他の部分が乾き、かえって投影単位面積当たりの伝熱量が低下する。
また、液体が膜状に流下するプレート面に凹凸を設ける場合、凹部に流下液体が溜まり、流下液体の膜厚さが厚くなり、単位面積当たりの又は投影単位面積当たりの伝熱量が低下する。また、流下液体がプレート面の一部のみに集まって流下し、プレート面の他の部分が乾く現象が起こりやすくなる。このことによっても伝熱量が低下する。
【0007】
このような公知技術に鑑み、プレート表面の位置による液膜の厚さの相違や、表面の乾燥部分の面積をできるだけ少なくし、液膜厚さを薄くし、鉛直面に投影した単位面積当たりの実伝熱面積を多くすることによって、従来よりも投影単位面積当たりの伝熱量を多くするための流下液膜式プレート型熱交換器の外表面の最適な形状が求められていた。
そこで、本発明では、伝熱面が略鉛直方向に配置された流下液膜式プレート型熱交換器の外表面上を、水がほぼ鉛直方向に流下するタイプの、流下液膜式プレート型熱交換器において、プレート型熱交換器外表面を最適な形状にすることにより、該熱交換器の鉛直投影面における単位面積当りの伝熱量を上げ、熱交換器の大きさをコンパクトにすることができる流下液膜式プレート型熱交換器と、更にそれを用いた吸収冷凍機又は吸収冷温水機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、第1の流体と、第2の流体である水又は水を主成分とする水溶液とを、両面を伝熱面として使用する伝熱壁を介して接するように構成し、相互に混合することなく前記2つの流体の間で前記伝熱壁を通して伝熱により熱交換を行う熱交換器であって、該熱交換器は前記伝熱壁より形成される密閉流路と開放流路とを有し、前記第1の流体は該密閉流路を流れ、前記第2の流体は開放流路である該伝熱壁の他方の面を上方から下方に自重によって流下して流下液膜を形成する流下液膜式プレート型熱交換器において、前記伝熱面は、該熱交換器の鉛直断面において、複数の凹凸を交互に規則的に繰り返す形状であり、該複数の凹凸は外観上略水平方向に連続した傾斜面を形成しており、該傾斜面は、鉛直断面において、凸部の頂部よりも上方に位置して、該凹部の底部から凸部の頂部に至るに従って下降する辺、及び、凸部の頂部より下方に位置して、凸部の頂部から凹部の底部に至るに従って下降する辺が、共にその傾きが水平線に対して5度以上25度以下となる部分を有し、該5度以上25度以下の部分の長さがそれぞれの辺の長さの50%以上であることを特徴とする流下液膜式プレート型熱交換器としたものである。
【0009】
前記熱交換器は、鉛直断面において、前記凹部の底部最低位置から凸部の頂部最高位置までの水平方向の長さが、一つの凹部の底部最低位置と一つの凸部を挟んで隣接する他の凹部の底部最低位置との鉛直方向の長さよりも長くするのがよく、また、鉛直断面において、前記第2の流体側に対して、複数の凹部の底部最低位置を相互に連結した直線を低部連絡線とし、前記複数の凸部の頂部最高位置を相互に連結した直線を高部連絡線とし、前記凸部の頂部よりも上方に位置して凹部の底部から凸部の頂部に至るに従って下降する辺の延長線で、前記低部連絡線との交点を(イ)とし、前記高部連絡線との交点を(ロ)とし、前記凸部の頂部よりも下方に位置して、凸部の頂部から凹部の底部に至るに従って下降する辺の延長線で前記低部連絡線との交点を(ニ)とし、前記高部連絡線との交点を(ハ)とした場合、(イ)と(ロ)との鉛直方向の長さは(ハ)と(ニ)との鉛直方向の長さよりも、長くするのがよく、さらに、鉛直断面において、前記第2の流体側に対して凹部の底部の隅の湾曲の曲率半径は、前記(イ)と(ロ)又は(ハ)と(ニ)とを結ぶ直線が水平線と成す角度をθ度としたとき、 (2.5−0.04θ)mm以上で且つ(3.5−0.04θ)mm以下とするのが良い。
【0010】
また、前記熱交換器は、前記第2の流体を前記開放流路の伝熱壁に供給するための略水平方向の流路を有する流体分散トレーを複数備え、該複数の流体分散トレーを鉛直方向の位置が相互に異なるように、且つ前記開放流路の伝熱壁の表面に形成することができる。
また、本発明では、蒸発器と吸収器を有する収冷凍機又は吸吸収冷温水機において、前記蒸発器及び/又は吸収器として前記の流下液膜式プレート型熱交換器のいずれかを使用するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に示すように、流下液膜式プレート型熱交換器の伝熱壁に凹凸部を設けることにより、鉛直面に投影した単位面積当たりの伝熱面積を増大させることができ、かつそのプレート熱交換器外表面側における乾き部分や液膜が過度に厚くなる部分のように熱伝達率が小さくなってしまう部分の面積を小さくでき、かつ凹部、凸部、鉛直面及び傾斜面を含む外表面での液膜厚さを薄くできる。そのため伝熱量を従来の流下液膜式プレート型熱交換器に比べ増大することができる。従って、同一伝熱量である場合には、熱交換器の小形化を実現できる。
また、流体分散トレーを複数備えることにより、伝熱に更に適した液膜厚さになるように、外部流下流体量の設定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明を図面を用いて具体的に説明する。
図1に鉛直断面において凹凸を持ち、その凹凸が水平方向に形成された流下液膜式プレート型熱交換器の、液膜冷却に関係する式の説明図を示す。図1は、プレート外部液体側の凹部を主に示す。
ところで、一般に、平らなプレート表面を液体が流下する場合の流れ状態、及び伝熱量を求める式は以下の通りである。
水平面に対して傾きがθの平板上を、液体が膜状に層流で定常に流れるとき、プレート表面に沿う座標をx、プレート表面に垂直な座標をyとすると、x方向の運動方程式は
【0013】
【数1】

となる。ここに、uはx方向の速度、ρは流下液体の密度、pは圧力、νは動粘度、gは重力加速度である。
さらに、x方向に流れが一定のときは次のようになる。
【0014】
【数2】

式(2)をyで積分し、プレート熱交換器表面においては流体分子は表面に吸着しているため速度が無く、液膜の厚さ方向にy軸を設定し、その原点をプレート熱交換器表面とした場合、液膜の自由表面においてy方向に速度勾配が無いと仮定すれば、x方向の速度は次のようになる。
【0015】
【数3】

ここに、hは液膜の厚さである。
水平方向の単位幅当りの流下流量Qは
【0016】
【数4】

となるため、水平方向の単位幅当りの流量が与えられた場合、液膜厚さhは次式で求まる。
【0017】
【数5】

図2において、液体が流下するプレートの外表面から流下液体の自由表面までの液膜の熱抵抗Rは、流下液体の熱伝導率をλとすると、次式となる。
【0018】
【数6】

一方、プレート内側の流体主流部とプレート内壁表面の間には、流体の境界層による熱抵抗があり、また、プレート自身にもよる熱抵抗がある。プレート内側の流体主流部とプレート内壁表面の間の熱抵抗と、プレート自身による熱抵抗を合計した熱抵抗、換言すればプレート内側の流体主流部とプレート外表面の間の熱抵抗をRとすれば、プレート内側の流体主流部と流下液体の自由表面までの全熱抵抗Rall
【0019】
【数7】

となる。プレート内側の流体主流部の温度Tと流下液体の自由表面の温度T間の全温度差を△Tとすれば、傾斜面長さLの区間で、水平方向単位幅当りの液膜を伝わる熱量qは、プレート天井面でもプレート床面でも
【0020】
【数8】

となる。したがって、単一の傾斜平面における総括熱伝達率αは、
【0021】
【数9】

となる。
【0022】
上記の関係式(1)〜(9)は、プレート床面でもプレート天井面でも成り立つ。
まず、プレート面が鉛直平面の場合の、水平方向の単位幅当りの流下液量Qと総括熱伝達率αの関係を示す。一例として、通常の流下液膜式プレート型熱交換器を想定し、流下液体が水で動粘度νが10−6/s、熱伝導率λが0.752W/(m・K)、プレート内側の流体主流部とプレート外表面の間の熱抵抗Rが0.19mK/kWと仮定した場合の水平方向の単位幅当りの流下液量Qと、液膜厚さh、液膜の熱抵抗R、全熱抵抗Rall、及び総括熱伝達率αの関係を図3に示す。図3に示すように、プレートを介して伝熱量を多くするためには、プレート外表面を流下する液体の量を減らし、液膜の厚さを薄くする必要がある。
プレート表面の傾き(即ち図1におけるθの値)を小さくすると、プレート表面を流下する流体の厚さは厚くなるため、プレート内側の流体主流部と流下液体の自由表面までの全温度差ΔTが一定であれば、プレート表面の単位面積当りの伝熱量は減少する。しかし、プレート表面の傾きを小さくすると、熱交換器表面積を増大できるので、鉛直面に投影したプレートの単位面積当りの伝熱量は大きくなる。
【0023】
しかし、構造上水平方向には制限があるために、鉛直プレートの表面に流れ方向とほぼ直交するような方向の凹凸を付けた場合、プレートの複数の凹部底面を相互に繋ぐことにより仮想される鉛直面からの凸部の高さWは自ずと制限されてしまう。プレートの傾斜面における液膜の厚さをhとし、プレートの鉛直面における液膜の厚さをhとし、凹部で流体の表面張力のためにできる流体表面の曲率半径をrとすると、流体の表面張力のために流下液体により凹部が埋まってしまわないために必要な、凹部の最小鉛直方向長さの半分Hは、図1に示すように次のようになる。
【0024】
【数10】

また、傾斜部の鉛直方向に投影した長さは
【0025】
【数11】

となる。凸部の鉛直方向長さの半分をHとし、プレート外表面の凸部の液膜の厚さをhとする。ここで、プレート外表面の凹部近傍の傾斜面の液膜厚さのみがプレート床面とプレート天井面の液膜厚さの影響を受け、凹部のプレート床面側の液膜厚さとプレート天井面側の液膜厚さに違いを生じる。換言すればプレート天井面の液膜厚さと、プレート床面の液膜厚さとは前記凹部近傍以外では同じであるから、今簡略化して、プレート床面とプレート天井面が水平面に対して対称な場合を考えると、鉛直方向の半ピッチの区間で、液膜を伝わる水平方向単位幅当りの熱量は、次のようになる。
【0026】
【数12】

したがって、プレート型熱交換器の水平方向単位幅当りで鉛直方向単位長さ当りの総括熱伝達率αallは、次のようになる。
【0027】
【数13】

なお、ここで式(9)における総括熱伝達率αと式(13)における総括熱伝達率αallとを記号を変えて示したのは前者が単一の傾斜平面における式であるのに対し、後者は図1を参照して分かるとおり、鉛直面と傾斜面とを含む式であり、相互にその内容が異なるからである。
【0028】
プレート外表面の凹部の液膜厚さは、凹部に液体が溜まる現象のために凹部の曲率半径の影響を受け易く、凹部の鉛直方向の長さを無視することはできないが、プレート外表面の凸部には液体が溜まらないため、凸部は鉛直方向に長さがほとんど無く、先端が尖った形状にすることも可能である。そこで、図4には、一例として、凸部の鉛直方向長さの半分Hが0で、流下液体の単位幅当りの流量Qが1.02L/(m・min)、プレートの突起の高さ、即ちプレート外表面における最低部位と最高部位との高さ方向の寸法が5mm、流下液体が水で動粘度νが10−6/s、熱伝達率λが0.752W/(m・K)、プレート内側の流体主流部とプレート外表面の間の熱抵抗Riが0.19mK/kWと仮定し、上式を用いて計算したプレート外表面傾斜角度θと総括熱伝達率αallの関係を示す。プレートの凹部に流体の表面張力のためにできる流体表面の曲率半径rは、水の場合2mm程度になるため、前記曲率半径rを2mmとして計算したものである。
【0029】
図4に示すように、プレート面に鉛直な断面形状が凹凸形状を呈し、水平方向に伸びる凹凸である場合、前記計算条件においては、プレート外表面傾斜角度θを5度から25度の範囲にすると、プレートが鉛直な場合、即ちθが90度の場合より、総括熱伝達率が1.6倍以上改善し、約8度で最大になり、約1.9倍になる。なお、念のために説明すると、図4のaは式(10)から求めたHの値であり、bはその値に基づいて式(13)から求めたαallの値である。ここで式(10)は複雑であるため、良好な総括熱伝達率αallを得られるθの範囲である5度から25度の間で式(10)を近似したものがcである。さらにcを基にして、Hの好ましい範囲の上限と考えたものがdである。そしてdの値に基づいて式(13)を用いて算出したαallの値がeである。なお、図示していないがcの値に基づいて式(13)を用いて算出した値はbとeの間の値となる。即ち、Hの値をcとdの間の値で近似すれば、実用上良好な総括熱伝達率αallが得られるHの値を簡便に求めることができる。
【0030】
プレート外表面に凹凸を設ける場合、総括熱伝達率αallを大きくするためには、プレート外表面傾斜角度をプレート床面及びプレート天井面共に、その傾きが水平線に対して5度以上25度以下となる部分をできる限り多くすることが望ましい。しかし、プレート外部流体側の凸部の頂部及び凹部の低部があるため、プレート外表面の全ての点でプレート外表面傾斜角度を5度から25度の範囲にすることは不可能である。そのため、傾きが水平線に対して5度以上25度以下となる部分を、それぞれの辺の長さの少なくとも50%以上することが望ましい。なお、ここで、“それぞれの辺の長さ”とは、例えば図7で言えば線分(イ)−(ロ)や(ハ)−(ニ)の長さを意味している。
上記のように値を設定し、凸部の頂部の鉛直面に投影した長さを短くすれば、凹部の底部最低位置から凸部の頂部最高位置までの水平方向の長さが、一つの凹部の底部最低位置と一つの凸部を挟んで隣接する他の凹部の底部最低位置との鉛直方向の長さよりも長くなる。
【0031】
図5に示すように、液体自由表面(自由液面ともいう)には表面張力σが作用し、表面張力は液体自由表面の曲率半径が大きくなる方向に作用する。流下液体側の凹部では凹部の上流及び下流側から凹部へ流下液体を引き寄せ、凹部に液が溜まり、液膜厚さが厚くなる方向に作用する。凹部の液膜の表面を平らにしようとする力は、表面張力σと液膜の表面の曲率半径rの比σ/rで表されるため、凹部の曲率半径が小さいほど、すなわち曲率が大きい、換言すれば凹部の隅が角張っているほど液膜の表面を平らにしようとする力が大きくなるので、凹部に液が溜まって液膜厚さが厚くなる。一方、凸部では、凸部から上流及び下流側へ流下液体を引き寄せ、凸部の液膜厚さが薄くなる方向に作用する。凸部の曲率半径が小さいほど液膜厚さが薄くなって乾きやすくなる。
今、式(10)を変形すると、次式が得られる。
【0032】
【数14】

式(14)から、プレート外部液体側の水平面に対する傾きθ及び流体表面の曲率半径rが一定であれば、凹部の最小鉛直方向長さの半分Hが小さいほど、プレート外部液体側の凹部の液膜厚さが厚くなり、式(5)で決まる鉛直面における液膜厚さより厚くなる。
【0033】
図1に示すように、プレート外部液体側の凹部で、流体の表面張力のために流下液体により凹部におけるが液膜厚さが、式(5)で決まる鉛直面における液膜厚さより厚くならないために必要な、凹部の最小鉛直方向長さの半分Hは、プレート外部液体側の傾斜角度θが小さいほど大きくする必要がある。プレートの凹部流体の表面張力によってできる流体表面の曲率半径は水の場合2mm程度になるため、図4に示すように、プレート外表面傾斜角度(特にプレート外部液体側の凹部根元近傍における水平に対する角度)θが5度から25度の範囲では、凹部の最小鉛直方向長さの半分Hは、プレート外表面の傾斜角度θの関数、(2.5−0.04θ)mmで近似できる。そのため、凹部の湾曲の半径を(2.5−0.04θ)mm以上にする必要がある。
しかし、凹部の湾曲の半径を大きくすると、プレート外表面において、鉛直面又は鉛直に近い面の占める割合が増加し、傾斜面の割合が減少するので、プレート外表面全体を鉛直面に投影したときに、その投影の単位面積当りの総括熱伝達率が低下する。凹部の最小鉛直方向長さの半分Hを(3.5−0.04θ)mmとしたときの総括熱伝達率の低下状態を図4に示す。従って、凹部の湾曲の半径を(2.5−0.04θ)mmから(3.5−0.04θ)mmの範囲にするのが望ましい。
【0034】
また、図6において、プレート外表面の床面及び天井面において、プレート外部の流下液体の液表面では圧力がほぼ一定になっている。しかし、プレート外表面における圧力は、有限な膜厚を持つ液膜の自重による圧力の影響を受ける。即ち、プレート外表面ではその表面上に液体があるため、その分圧力が上昇し、プレート外表面の床面側の液体には、床面から液表面の方向に圧力による力が作用する。また、プレート外表面の天井面では下に液体があるため、その分圧力が低下し、プレート外表面の天井面の液体には液表面から天井面の方向に圧力による力が作用する。
従って、図6に示すように、プレート外部流下液体には、プレート外表面の床面及び天井面においては圧力による力の一部が上向きに作用するのに対し、プレート鉛直面においては上向きの成分が無い。プレート天井面から鉛直面に移る隅の流下液体は、プレート天井面を流下するときよりも鉛直面を流下するときの方が鉛直下向きの力が大きくなるため、隅の位置から下向きに速く流下しようとする。上記作用のため、プレート天井面から鉛直面に移る隅の流下液体の液膜の厚さは凹部近傍で薄くなろうとし、この流体に引きずられて凹部の近傍においては、プレート天井面の流下液体の液膜の厚さも薄くなろうとする。
【0035】
しかし、プレート外部流下液体の凹部で、プレート外部流下液体が鉛直面からプレート床面に移る隅においては、流下流体がプレート床面に衝突するような流れになるため、プレート外部流下液体はプレート床面から圧力を受け、流速は徐々に遅くなる。このとき、鉛直面からプレート床面に移る隅で大きな渦の領域が発生して、隅に液が溜まりやすくなる。この影響を受けて、鉛直面からプレート床面に移る隅からプレート床面の前記隅の近傍部分にかけて、液膜の厚さは厚くなる傾向がある。
上記の点を考慮し、プレート床面の傾斜角度をプレート天井面の角度より急にする方が、プレート床面の液膜の厚さを薄くでき、伝熱量を多くすることができる。従って、図7に示すように、プレート外部液体側に突き出した凸な箇所の、上側の根元から凸部の山頂までの鉛直方向長さHを、凸な箇所の下側の根元から凸部の山頂までの鉛直方向長さHより長くすることが望ましい。
【0036】
蒸発器においては、プレートの途中でプレート外部流下液体は、流下する間に液体表面から徐々に蒸発するため、下に行くほど流量が減少する。そのため、プレート下端でプレート面が乾かないようにするためには、プレート上端から下端に流下する間に蒸発する量を、プレート上端では増して供給する必要がある。しかし、このように供給量を増加すると、外部流下液体の、特に上流部での液膜が厚くなり、伝熱性能上望ましくなくなり、有利性を十分発揮できない状態が起こりうる。そこで、プレートの最上部からの供給に加え、プレート上下方向の途中でプレート外部流下液体を追加供給すれば、追加供給する場所より上流のプレート外部流下液体の単位幅当りの流量は、プレート外部流下液体を追加供給する場所でプレート面が乾かないだけの流量に抑えることができる。このようにすることで、プレート外部流下液体の単位幅当りの流量が少なくなれば、プレート外部流下液体の膜厚さが薄くなるため、総括熱伝達率が大きくなり、前述のように伝熱量が増加する。
【0037】
図8に示すように、プレート外表面に前記の凹凸形状を持つプレート面の上下方向の途中に、水平方向の流路を有する流体分散トレーを複数設け、該流体分散トレーにプレート型熱交換器外部の開放流路に供給するための流下液体を供給すれば、前記に示すようにプレート外部流下液体の膜厚さを薄くでき、伝熱量が増加する。
また、図9に示すように、流下液膜式プレート型熱交換器を鉛直方向に複数配設し、各プレート型熱交換器上端に流体分散トレーを設け、該流体分散トレーに開放流路に供給するための流下流体を供給すれば、図8の例と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による流下液膜式プレート型熱交換器の外表面における液膜冷却に関係する式の説明図。
【図2】本発明による流下液膜式プレート型熱交換器の外表面における液膜冷却に関係する式の別の説明図。
【図3】本発明による流下液膜式プレート型熱交換器の外表面における流下流量と液膜厚さ、液膜部熱抵抗、全熱抵抗、及び総括熱伝達率の関係示すグラフ(流下液体が水の場合)。
【図4】本発明による流下液膜式プレート型熱交換器のプレート外表面傾斜角度と最小鉛直方向長さの半分、及び総括熱伝達率の関係を示すグラフ(流下液体が水の場合)。
【図5】本発明による流下液膜式プレート型熱交換器の外表面において流下液体の表面に作用する表面張力の方向を示す説明図。
【図6】本発明による流下液膜式プレート型熱交換器の外表面におけるプレート外部流下液体の凹部における流動状態を示す説明図。
【図7】本発明による流下液膜式プレート型熱交換器の一例の部分断面図。
【図8】本発明による流下液膜式プレート型熱交換器のプレート外表面に備えた液体分散トレー及び流下液体供給部の形態を示す説明図。
【図9】本発明による流下液膜式プレート型熱交換器で、鉛直方向に複数個配設し、各プレート型熱交換器上端にそれぞれ流体分散トレーを設けた場合の形状を示す説明図。
【図10】流下液膜式プレート型熱交換器を説明するための模式図。
【図11】従来の流下液膜式プレート型熱交換器概略図。
【図12】従来の流下液膜式プレート型熱交換器の部分断面図。
【図13】従来の流下液膜式プレート型熱交換器の部分断面図。
【図14】従来の流下液膜式プレート型熱交換器の部分形状図。
【図15】従来の流下液膜式プレート型熱交換器の部分形状図。
【図16】流下液膜式でなく熱交換液が密閉された従来のプレート型熱交換器の部分断面図。
【図17】公知の流下液膜式でない熱交換器の部分形状図。
【図18】公知の流下液膜式でない熱交換器の部分形状図。
【符号の説明】
【0039】
1:プレート、2:流下液膜式プレート型蒸発器、3:冷水、4:冷媒、5:冷水供給管、6:冷水排水管、7:冷媒分散トレー、8:流下液膜式プレート型吸収器、9:冷却水、10:吸収液、11:冷却水供給管、12:冷却水排水管、13:吸収液分散トレー、14:窪み、凹部、15:突起、凸部、16:フィン、17:プレート床面、18:プレート天井面、19:プレート鉛直面、20:第1の流体、21:第2の流体、22:流下液体自由液面、23:流下液体供給部、24:流体分散トレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流体と、第2の流体である水又は水を主成分とする水溶液とを、両面を伝熱面として使用する伝熱壁を介して接するように構成し、相互に混合することなく前記2つの流体の間で前記伝熱壁を通して伝熱により熱交換を行う熱交換器であって、該熱交換器は前記伝熱壁より形成される密閉流路と開放流路とを有し、前記第1の流体は該密閉流路を流れ、前記第2の流体は開放流路である該伝熱壁の他方の面を上方から下方に自重によって流下して流下液膜を形成する流下液膜式プレート型熱交換器において、前記伝熱面は、該熱交換器の鉛直断面において、複数の凹凸を交互に規則的に繰り返す形状であり、該複数の凹凸は外観上略水平方向に連続した傾斜面を形成しており、該傾斜面は、鉛直断面において、凸部の頂部よりも上方に位置して、該凹部の底部から凸部の頂部に至るに従って下降する辺、及び、凸部の頂部より下方に位置して、凸部の頂部から凹部の底部に至るに従って下降する辺が、共にその傾きが水平線に対して5度以上25度以下となる部分を有し、該5度以上25度以下の部分の長さがそれぞれの辺の長さの50%以上であることを特徴とする流下液膜式プレート型熱交換器。
【請求項2】
前記熱交換器は、鉛直断面において、前記凹部の底部最低位置から凸部の頂部最高位置までの水平方向の長さが、一つの凹部の底部最低位置と一つの凸部を挟んで隣接する他の凹部の底部最低位置との鉛直方向の長さよりも長いことを特徴とする請求項1に記載の流下液膜式プレート型熱交換器。
【請求項3】
前記熱交換器は、鉛直断面において、前記第2の流体側に対して、複数の凹部の底部最低位置を相互に連結した直線を低部連絡線とし、前記複数の凸部の頂部最高位置を相互に連結した直線を高部連絡線とし、前記凸部の頂部よりも上方に位置して凹部の底部から凸部の頂部に至るに従って下降する辺の延長線で、前記低部連絡線との交点を(イ)とし、前記高部連絡線との交点を(ロ)とし、前記凸部の頂部よりも下方に位置して、凸部の頂部から凹部の底部に至るに従って下降する辺の延長線で、前記低部連絡線との交点を(ニ)とし、前記高部連絡線との交点を(ハ)とした場合、(イ)と(ロ)との鉛直方向の長さは(ハ)と(ニ)との鉛直方向の長さよりも、長いことを特徴とする請求項1又は2に記載の流下液膜式プレート型熱交換器。
【請求項4】
前記熱交換器は、鉛直断面において、前記第2の流体側に対して凹部の底部の隅の湾曲の曲率半径は、前記(イ)と(ロ)又は(ハ)と(ニ)とを結ぶ直線が水平線と成す角度をθ度としたとき、 (2.5−0.04θ)mm以上で且つ(3.5−0.04θ)mm以下であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の流下液膜式プレート型熱交換器。
【請求項5】
前記熱交換器は、前記第2の流体を前記開放流路の伝熱壁に供給するための略水平方向の流路を有する流体分散トレーを複数備え、該複数の流体分散トレーを鉛直方向の位置が相互に異なるように、且つ前記開放流路の伝熱壁の表面に形成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の流下液膜式プレート型熱交換器。
【請求項6】
蒸発器と吸収器を有する吸収冷凍機又は吸収冷温水機であって、前記蒸発器及び/又は吸収器として請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱交換器を使用したことを特徴とする吸収冷凍機又は吸収冷温水機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−57886(P2006−57886A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238209(P2004−238209)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】