説明

流体供給装置、レジスト現像装置およびモールド製造方法

【課題】基体に供給した液体の蒸発によって当該基体の熱が奪われ、これにより基体の温度が雰囲気露点温度より低温状態となり得る場合であっても、当該基体に結露が生じるのを防止して、パターン倒れ等の不具合発生を未然に回避できるようにする。
【解決手段】処理対象となる基体2を保持する保持部12と、前記保持部12が保持する前記基体2に対して液体31の供給を行う液体供給部30と、前記液体31の蒸発によって熱が奪われる前記基体2を雰囲気露点温度より高温状態にすべく当該基体2の熱損失を補填するための熱損失補填媒体41を当該基体2に対して供給する媒体供給部40と、を備えて流体供給装置1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体供給装置、レジスト現像装置およびモールド製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
処理対象物である基体に流体を供給して処理する流体供給装置は、これまでに数多く知られている。その一例としては、フォトリソグラフィ技術の分野で用いられるレジスト現像装置が挙げられる(例えば、特許文献1,2参照)。レジスト現像装置は、基体表面に形成された露光済みのレジスト層に現像液やリンス液等の液体(以下、これらの液体を単に「供給液」という)を供給することにより、レジスト層の不要部分を溶解して露光パターンの現像を行う装置である。
【0003】
レジスト現像装置で行う現像処理については、近年の半導体デバイスの高集積化等に伴い、形成されるレジスト像(現像パターン)の解像性またはコントラストの向上が強く望まれている。これを実現するためには、供給液の温度を周辺雰囲気の平常の温度(以下「常温」という)より大きく降下させて低温にすることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。低温の供給液を用いてレジスト層を現像すると、常温の場合に比べて、現像中にパターンのエッジ部分がダレを起こし難くなり、その結果パターンのエッジ部分の形状的な崩れが抑制されて解像度の向上等が図れるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−121336号公報
【特許文献2】特開平05−335228号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】XiaoMin Yang et.al.J.Vac.Sci.Technol.B 25(6),Nov/Dec 2007 p.2202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、低温の供給液を用いてレジスト層を現像する場合は、供給液の温度が周辺雰囲気の露点温度を下回るほどに低く設定されていると、リンス後における基体の温度も雰囲気露点温度を下回ってしまい、液供給停止後の乾燥工程において基体の表面に結露が生じてしまうおそれがある。基体の表面に結露が生じると、最終的には乾燥工程で結露を乾燥させるとしても、その乾燥の際に結露の表面張力によりパターン間に吸引力が働いて、パターン倒れと呼ばれる不具合が生じてしまう可能性がある。さらには、結露の乾燥後においても、結露の痕跡が基体上に残存してしまい、パターン精度に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、低温の供給液を用いてレジスト層を現像する場合には、何らかの方策を用いて、基体の表面に結露が生じるのを未然に防止すべきである。
【0007】
基体の結露防止のためには、基体に対する低温供給液の供給停止後に、雰囲気露点温度を超えるまで基体温度を上昇させるようにすればよい。基体の温度上昇は、例えば、常温の貧溶媒等の液体を基体の表面に供給(散布)するという方策を用い、供給する液体と基体との間の熱交換を利用して行うことが考えられる。
【0008】
しかしながら、基体の結露防止のために常温貧溶媒等の液体を供給しても、当該液体の供給停止後には、基体の温度が再び雰囲気露点温度を下回るまで低下してしまい、その結果として基体の表面に結露が生じてしまうおそれがある。これは、例えば供給する液体として、フッ素系溶媒(フルオロカーボン等)のような揮発性が高く、かつ、蒸発熱が比較的大きな常温貧溶媒を用いると、その常温貧溶媒の蒸発(気化熱)により基体が冷却されてしまうことに原因がある。つまり、基体に供給した液体の蒸発によって当該基体の熱が奪われ、これにより当該基体の温度が雰囲気露点温度を下回るまで低下してしまうのである。このような基体の熱損失に起因して生じ得る結露についても、パターン倒れ等の不具合発生の要因となるので、その発生を未然に防止すべきである。
【0009】
本発明は、基体に供給した液体の蒸発によって当該基体の熱が奪われ、これにより基体の温度が雰囲気露点温度より低温状態となり得る場合であっても、当該基体に結露が生じるのを防止して、パターン倒れ等の不具合発生を未然に回避することのできる流体供給装置、レジスト現像装置およびモールド製造方法を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために案出されたものである。
本発明の第1の態様は、処理対象となる基体を保持する保持部と、前記保持部が保持する前記基体に対して液体の供給を行う液体供給部と、前記液体の蒸発によって熱が奪われる前記基体を雰囲気露点温度より高温状態にすべく当該基体の熱損失を補填するための熱損失補填媒体を当該基体に対して供給する媒体供給部とを備えることを特徴とする流体供給装置である。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、前記媒体供給部は、気体状の前記熱損失補填媒体を前記基体に対して噴出することを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の発明において、前記熱損失補填媒体は、常温のドライ窒素ガスであることを特徴とする。
本発明の第4の態様は、基体の主表面に現像液を供給して現像処理するレジスト現像装置であって、前記基体を保持する保持部と、前記保持部が保持する前記基体に対して前記現像液の供給を行う現像液供給部と、前記現像液による現像処理がされた前記基体に対して洗浄処理または基体温度調整処理をする液体の供給を行う液体供給部と、前記液体の蒸発によって熱が奪われる前記基体を雰囲気露点温度より高温状態にすべく当該基体の熱損失を補填するための熱損失補填媒体を当該基体に対して供給する媒体供給部とを備えることを特徴とするレジスト現像装置である。
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の発明において、前記基体は、ナノインプリント用のモールド基板であることを特徴とする。
本発明の第6の態様は、基体の主表面に所定パターンが形成されてなるモールド基板を製造するモールド製造方法であって、レジスト層が設けられた前記主表面にエネルギービームを照射して前記所定パターンの露光処理を行う露光工程と、前記露光処理後の前記主表面に現像液を供給して前記所定パターンの現像処理を行う現像工程と、前記現像液による現像処理がされた前記基体に液体を供給して当該基体に対する洗浄処理または基体温度調整処理を行う液体供給工程と、前記液体の蒸発によって熱が奪われる前記基体を雰囲気露点温度より高温状態にすべく当該基体の熱損失を補填するための熱損失補填媒体を当該基体に対して供給する媒体供給工程とを備えることを特徴とするモールド製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱損失補填媒体の供給により基体を雰囲気露点温度より高温状態にするので、基体に供給した液体の蒸発によって当該基体に熱損失が生じて基体温度が雰囲気露点温度を下回ってしまう場合であっても、基体に結露が生じるのを防止することができる。したがって、結露に起因するパターン倒れ等の不具合発生を未然に回避することができ、また結露の痕跡がパターン精度に悪影響を及ぼしてしまうこともない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が適用されたレジスト現像装置の全体構成例を示す概略図である。
【図2】本発明が適用されたレジスト現像装置のジャケットの構造例を説明する模式図である。
【図3】本発明が適用されたレジスト現像装置における動作例を示す概略図である。
【図4】基体温度の経時的な変化の具体例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づき本発明に係る流体供給装置について説明する。
【0014】
<1.流体供給装置の概要>
本実施形態で説明する「流体供給装置」は、処理対象物である基体に流体を供給して所定の処理を行う装置であり、その一例としてはフォトリソグラフィ技術の分野で用いられるレジスト現像装置が挙げられる。ただし、「流体供給装置」がレジスト現像装置に限られることはなく、他の技術分野において基体を対象に流体を供給する流体供給装置全般に広く適用することが可能である。例えば、基体の装飾や保護を目的として、液状の塗料を噴射し供給する塗装装置にも適用可能である。
【0015】
処理対象物となる「基体」は、特に構造的に限定されるものではなく、様々な構造の物体が「基体」となり得る。例えば、流体供給装置がレジスト現像装置である場合を想定すると、「露光済みのレジスト層を有する基板」が「基体」に該当する。さらに詳しくは、レジスト現像装置が処理対象物とする「基体」は、基板上にレジスト層が設けられたもの、あるいは、基板の上にハードマスク膜が設けられ、さらにその上にレジスト層が設けられたものを含む。また、「基体」には、現像液によって処理されるもののみならず、例えば被エッチング処理基板のように、温度の制御調整がなされた薬液の吐出散布により処理されるものも含まれ得る。
【0016】
処理対象物である基体に対して供給する「流体」は、気体および液体を含み、さらには噴霧状の物質も含む。例えば、流体供給装置がレジスト現像装置である場合には、レジストに対する現像処理を行う「現像液」が「流体」の一例に該当する。
基体に対して供給する「流体」は、複数種類が存在し得る。ただし、その場合、複数種類の少なくとも一つには「液体」が含まれるものとする。つまり、基体に対して供給する「流体」には、少なくとも「液体」が含まれる。ここでいう「液体」は、例えば、流体供給装置がレジスト現像装置である場合には、上述した「現像液」とは別のものであり、「現像液」による現像処理がされた後の基体に対して基体温度調整処理をするために供給する「結露防止媒体」が該当する。この「結露防止媒体」については、詳細を後述する。
【0017】
<2.レジスト現像装置の構成>
ここで、本発明に係る流体供給装置について、その一例であるレジスト現像装置を具体例として挙げて、図面を参照しながら詳細に説明する。
ここでは、処理対象物である「基体」に対して、「液体」としての「結露防止媒体」の供給を行うように構成されたレジスト現像装置を例に挙げる。
【0018】
図1は、本発明が適用されたレジスト現像装置の全体構成例を示す概略図である。
レジスト現像装置1は、大別すると、現像処理部10と、現像液供給部20と、リンス液供給部(ただし不図示)と、液体供給部30と、媒体供給部40と、を備えて構成されている。以下、これらの各部10,20,30,40について順に詳述する。
【0019】
(現像処理部)
現像処理部10は、処理対象物である基体2に対して現像処理を行う部分である。現像処理の対象となる基体2は、露光済みのレジスト層を有する基板である。具体的には、その一例として、ナノインプリント用のモールド基板を挙げることができる。ナノインプリント用のモールド基板(以下、単に「モールド基板」ともいう)は、ナノインプリント法によってパターンの転写を行う場合に、その元型となるマスターモールドの基材となる基板である。
【0020】
基体2に対する現像処理を行うために、現像処理部10は、少なくとも、現像処理のための空間を有する処理室11と、この処理室11内で基体2を保持する保持部12と、この保持部12を駆動する駆動部13と、を備える。
【0021】
処理室11は、基体2を収容するのに十分な空間を有するものであれば、その天井部が全部あるいは一部開放された機構であってもよいし、また密閉開放自在とした機構であってもよい。
【0022】
保持部12は、処理対象となる基体2を保持するもので、基体2を固定状態に支持するテーブル12aと、このテーブル12aに連結されたスピンドル軸12bとを用いて構成されている。
テーブル12aは、例えば、基体2が円板状であれば、これと相似の平面視円形に形成されている。また、テーブル12aの平面視形状は円形に限らず、矩形を含む多角形であってもよい。また、テーブル12aは、少なくとも基体2と対向する側の面(図例ではテーブル上面)が水平に配置されているおり、その上面に基体2を載置した状態で、この基体2を下面側から支持するように構成されている。さらに、テーブル12aは、真空吸着方式で基体2を固定し得る構成になっている。具体的には、テーブル基体2は、その上面に複数の吸引孔(または吸引溝)を有し、これらの吸引孔を通して基体2の下面に真空引きによる吸引力を作用させることにより、基体2を吸着(真空吸着)し得る構成になっている。ただし、テーブル12aによる支持構造は、ここで挙げた真空吸着方式に限らず、他の方式(たとえば、ピン等を用いた突き当て方式など)で基体2を固定状態に支持する構成であってもよい。
スピンドル軸12bは、駆動部13の駆動力をもって回転駆動される軸である。スピンドル軸12bは、ボルト等の締結手段を用いて、テーブル12aの下面側の中心部に連結されている。そのため、スピンドル軸12bが回転すると、これと一体にテーブル12aが回転する。スピンドル軸12bは、箱状の壁で区画された処理室11の底壁を貫通する状態で配置されている。また、処理室11の底壁におけるスピンドル軸12bの貫通部分には、シール部材14が設けられている。シール部材14は、スピンドル軸12bの回転を許容しつつ、スピンドル軸12bの貫通部分から処理室11外への液体(現像液を含む)の漏出を防止するものである。
【0023】
駆動部13は、処理室11とは壁で仕切られた下部室15に配置されている。駆動部13は、たとえば図示はしないが、回転の駆動源となるモータと、このモータの駆動力をスピンドル軸12bに伝達する駆動力伝達機構(歯車列等)とを用いて構成されている。
【0024】
なお、処理室11の外装表面には、レジスト現像装置の動作を制御するためのプログラムコントローラ(図示せず)に接続された操作用パネル(図示せず)を設置してもよい。そして、このプログラムコントローラとそれに接続された操作用パネルにて、保持部12の回転制御のみならず、現像液やリンス液等の供給停止の制御、現像液やリンス液等の液体温度の制御や処理室11内温度の制御を行ってもよい。
【0025】
(現像液供給部)
現像液供給部20は、処理室11内で保持部12が保持する基体2に対して、当該基体2の現像処理を行う現像液21を供給する部分である。現像液供給部20は、少なくとも、現像液21を貯留する貯留部22と、現像液21を供給(輸送)する供給管23と、を備える。
【0026】
貯留部22は、適量の現像液21を貯留し得る容器状に形成されている。貯留部22に貯留される現像液21は、図示しない液温制御手段によって恒温状態に制御されるようになっている。液温制御手段の具体的な形態としては、例えば図示はしないが、貯留部22内の現像液21をポンプで循環させるとともに、その循環途中で冷却器により現像液21を冷却することにより、現像液21の温度を予め決められた温度(以下、「設定温度」)に維持するといった形態が考えられる。いずれの形態を採用するにしても、貯留部22内の現像液21の温度は、設定温度(例えば−10℃)を中心値とした許容範囲内(例えば±0.2℃以内)に収まるように制御される。なお、現像液21としては、このような設定温度(例えば0℃以下の温度)でも凍らない液体が用いられる。
【0027】
供給管23は、貯留部22に貯留された現像液21を処理室11内の基体2に向けて供給するものである。供給管23は、例えば、断面円形の細長い中空の管を用いて構成されている。供給管23の一端部は取込部23aとなっており、同他端部は吐出部23bとなっている。供給管23の取込部23aは、現像液21を管内に取り込むために開口している。供給管23の吐出部23bは、基体2に向けて現像液21を吐出するために開口している。吐出部23bは、単なる一つの開口になっていてもよいし、複数の小さな開口が設けられたシャワーヘッドのような構造になっていてもよい。また、吐出部23bは、現像液21を霧状に噴出するスプレーのような構造になっていてもよい。
【0028】
供給管23の取込部23aは、現像液供給部20の貯留部22内に配置されている。また、供給管23の吐出部23bは、現像処理部10の処理室11内に配置されている。そして、供給管23は、取込部23aを最上流部とし、吐出部23bを最下流部として、それらの間に現像液21の流路を形成するように配管されている。具体的には、供給管23は、貯留部22の内部から外部へと導出するように配管されている。さらに、貯留部22の外部における供給管23の導出部分は、現像処理部10の外壁部分を貫通して処理室11内に進出し、かつ、処理室11内で保持部12に臨む位置まで配管されている。保持部12に臨む位置とは、供給管23の吐出部23bから吐出させた現像液21を、保持部12に保持された基体2の面上に供給し得る位置をいう。図例においては、供給管23の最下流に位置する吐出部23bが、保持部12に保持される基体2の直上に配置されている。
【0029】
また、供給管23の配管途中には、開閉弁24とポンプ25が設けられている。開閉弁24とポンプ25は、いずれも供給管23における現像液21の流れを制御するための部材となる。
【0030】
開閉弁24は、供給管23を通して現像液21を供給する場合に、供給管23の管路を開状態とすることにより、現像液21の流れを許容するとともに、供給管23の管路を閉状態とすることにより、現像液21の流れを阻止するものである。開閉弁24によって現像液21の流れを許容すると、供給管23を通して現像液21の供給が開始されることになる。また、開閉弁24によって現像液21の流れを阻止すると、供給管23を通した現像液21の供給が停止することになる。したがって、開閉弁24は、現像液21の供給を開始または停止する機能を果たす部材となる。
【0031】
なお、開閉弁24は、供給管23の配管途中のいずれかの箇所に配されていればよいが、具体的には例えば処理室11の内部に配置することが考えられる。開閉弁24を処理室11の内部に配置する理由は、次のような事情による。すなわち、開閉弁24の取付部位よりも下流側に延在する供給管23の配管部分(外部に露出している配管部分)は、そこに残留する、またはそこを流れる現像液21の温度変動要因となる。したがって、現像液21の温度変動を抑える上では、開閉弁24の取付部位よりも下流側に延在する供給管23の配管部分の長さを短くすることが有効である。そこで、開閉弁24については、できるだけ吐出部23bの近くに位置するように、処理室11の内部に配置している。
【0032】
ポンプ25は、当該ポンプ25を実際に駆動した場合に、供給管23に沿った現像液21の流れを生成する動力を発生するものである。ポンプ25は、供給管23を通して現像液21を供給するにあたって、現像液21の吸引および移送のための圧力を現像液21に付与する。すなわち、ポンプ25は、貯留部22に貯留された現像液21を供給管23内に吸引するとともに、吸引した現像液21を供給管23に沿って移送する駆動源となる。このため、ポンプ25の駆動を停止した状態(オフ状態)では、供給管23の内部に現像液21の流れが形成されないが、ポンプ25の駆動を開始または継続した状態(オン状態)では、供給管23の内部に現像液21の流れが形成されることになる。なお、ポンプ25は、貯留部22の外部に配置されている。
【0033】
開閉弁24の開閉状態やポンプ25の駆動(オン、オフ)状態は、例えば、処理室11の外装表面に設置された図示しないプログラムコントローラにより制御可能となっている。
【0034】
貯留部22の外部に導出された供給管23は、ジャケット26によって覆われている。ジャケット26は、温度調整部の一例として、供給管23の一部に設けられている。ジャケット26は、供給管23とその周囲の外気(大気等の、水分を含んだ空気)との間に介在して温度調整機能をなすものであり、さらに好ましくは、供給管23の周囲に冷却液を流してこれを循環させることにより、供給管23内の現像液21を貯留部22内と同じ温度(設定温度)に保つ機能(保冷機能)を有するものである。ジャケット26は、例えば、供給管23を中心とした多重管構造(二重管構造を含む)になっている。
【0035】
一例を挙げると、ジャケット26は、図2に示すように、供給管23を内包する三重管構造になっている。供給管23は、最も内側に位置する管となっており、その外側に供給管23よりも大径の第2の管27が配置され、さらにその外側(つまり、最も外側)に第2の管27よりも大径の第3の管28が配置されている。この三重管構造のジャケット26において、供給管23の外周面と第2の管27の内周面との間には、そこに冷却層27aを形成すべく、たとえば冷却液が循環するようになっている。また、第2の管27の外周面と第3の管28の内周面との間には、そこに断熱層28aを形成すべく、たとえば空気(好ましくは冷気)が循環するようになっている。
【0036】
また図1に示すように、ジャケット26は、供給管23の長さ方向において、貯留部22から現像処理部10の処理室11に至る配管部分と、処理室11内で保持部12に臨む位置に至る配管部分とに連続するかたちで、供給管23を覆う状態に設けられている。また、ジャケット26は、上記の貯留部22から現像処理部10の処理室11に至る配管部分で、開閉弁24の取付部位とポンプ25の取付部位を除いて、供給管23を覆う状態に設けられている。また、処理室11の内部では、開閉弁24の取付部位を終端位置としてジャケット26が設けられている。
【0037】
(リンス液供給部)
リンス液供給部は、現像処理を終えた処理室11内の基体2に対して、当該基体2の現像を止めて洗浄する処理(以下、単に「洗浄処理」または「リンス処理」という)を行うリンス液を供給する部分である。リンス液供給部は、現像液供給部20と同様の構成を備えたものであればよい。すなわち、リンス液供給部は、基体2に対して供給する液種が現像液供給部20とは異なるだけで、他は現像液供給部20と同様に構成されているものとする。
【0038】
(液体供給部)
液体供給部30は、現像処理および洗浄処理を終えた処理室11内の基体2に対して、当該基体2の温度を調整する処理(以下、単に「基体温度調整処理」という)を行う媒体である結露防止媒体31を供給する部分である。液体供給部30は、少なくとも、結露防止媒体31を貯留する貯留部32と、結露防止媒体31を供給(輸送)する供給管33と、を備える。
【0039】
貯留部32は、結露防止媒体31を貯留し得る容器状に形成されている。貯留部32に貯留される結露防止媒体31については、詳細を後述する。なお、貯留部32は、現像液供給部20の貯留部22のような冷却のための温度制御手段を必要としない。ただし、結露防止媒体31を加熱する温度制御手段であれば、有していても構わない。
【0040】
供給管33は、貯留部32に貯留された結露防止媒体31を処理室11内の基体2に向けて供給するものである。そのために、供給管33は、現像液供給部20の供給管23と同様に、例えば断面円形の細長い中空の管を用いて構成され、その一端部が取込部33a、同他端部が吐出部33bとなっており、取込部33aを最上流部とし、吐出部33bを最下流部として、それらの間に結露防止媒体31の流路を形成するように配管されている。供給管33の取込部33aは、液体供給部30の貯留部32内に配置されており、供給管33の吐出部33bは、現像処理部10の処理室11内に配置されている。そして、供給管33の配管途中には、開閉弁34とポンプ35が設けられている。開閉弁34とポンプ35は、いずれも供給管33における結露防止媒体31の流れを制御するための部材となる。これらの点は、現像液供給部20における供給管23の場合と全く同様である。
【0041】
ところで、供給管33は、吐出部33bを一つのみ有するものであってもよいし、下流側(末端側)で分岐するように配管されたそれぞれの先端部分に個別の吐出部33bを有するものであってもよい。図例では、供給管33が二つの吐出部33bを有しており、各吐出部33bが処理室11内の基体2の主表面(レジスト層の形成面)およびその裏面に対して結露防止媒体31を供給するように配置されている構成を示している。このように、基体2の主表面側および裏面側の両方から結露防止媒体31を吐出する構成によれば、基体2の温度を非常に迅速に結露防止媒体31の温度へと調節することができる。基体2の両面側から結露防止媒体31を吐出する場合、各吐出部33bは、平面的に重なる位置に配されていてもよいし、それぞれが平面的に異なる位置に配されていてもよい。なお、供給管33は、二つの吐出部33bを有している場合であっても、それぞれに対応する開閉弁(図示せず)を備えることで、基体2の主表面または裏面の一方に選択的に結露防止媒体31を吐出するように構成することも考えられる。
【0042】
また、供給管33は、現像液供給部20の供給管23とは異なり、ジャケットによって覆われていなくてもよい。ただし、例えば現像処理部10の処理室11内の温度が低温となる場合には、その影響が結露防止媒体31に及ぶのを回避すべく、供給管33をジャケットで覆うようにしても構わない。
【0043】
(媒体供給部)
媒体供給部40は、基体温度調整処理を終えた処理室11内の基体2に対して、当該基体2の熱損失を補填するための媒体である熱損失補填媒体41を供給する部分である。媒体供給部40は、少なくとも、熱損失補填媒体41の供給源42と、熱損失補填媒体41を供給(輸送)する供給管43と、を備える。
【0044】
供給源42は、熱損失補填媒体41を提供し得るように構成されている。供給源42が提供する熱損失補填媒体41については、詳細を後述する。熱損失補填媒体41を提供するために、供給源42は、現像液供給部20や液体供給部30等の場合と同様に、熱損失補填媒体41を貯留し得る容器状(例えば密封タンク状)に形成することが考えられる。ただし、例えば熱損失補填媒体41が気体状である場合には、液体原料を気化させて当該熱損失補填媒体41を生成し、あるいは原料空気からの分離によって当該熱損失補填媒体41を生成するものであってもよい。なお、供給源42は、現像液供給部20の貯留部22のような冷却のための温度制御手段を必要としない。ただし、熱損失補填媒体41を加熱する温度制御手段であれば、有していても構わない。
【0045】
供給管43は、供給源42から提供される熱損失補填媒体41を処理室11内の基体2に向けて供給するものである。そのために、供給管43は、現像液供給部20の供給管23または液体供給部30の供給管33と同様に、例えば断面円形の細長い中空の管を用いて構成されている。そして、供給管33の一端部が取込部43a、同他端部が噴出部43bとなっており、取込部43aを最上流部とし、噴出部43bを最下流部として、それらの間に熱損失補填媒体41の流路を形成するように配管されている。供給管43の取込部43aは、媒体供給部40の供給源42に連通しており、供給管43の噴出部43bは、現像処理部10の処理室11内に配置されている。供給管43の配管途中には、少なくとも開閉弁44が設けられている。また、必要に応じてポンプ(ただし不図示)が設けられていてもよい。開閉弁44とポンプは、いずれも供給管43における熱損失補填媒体41の流れを制御するための部材となる。この点は、現像液供給部20における供給管23の場合または液体供給部30における供給管33の場合と全く同様である。
【0046】
また、供給管43は、現像液供給部20の供給管23とは異なり、ジャケットによって覆われていなくてもよい。ただし、例えば現像処理部10の処理室11内の温度が低温となる場合には、その影響が熱損失補填媒体41に及ぶのを回避すべく、供給管43をジャケットで覆うようにしても構わない。この点は、液体供給部30の供給管33の場合と同様である。
【0047】
ところで、媒体供給部40は、供給管43の噴出部43bを一つのみ有するものであってもよいし、複数有するものであってもよい。図例では、媒体供給部40が一つの噴出部43bを有しており、当該噴出部43bが処理室11内の基体2の主表面(レジスト層の形成面)に対して熱損失補填媒体41を供給するように配置されている構成を示している。このように噴出部43bが一つのみであれば、簡素な構成により熱損失補填媒体41の供給を行うことができる。
これに対して、複数の噴出部43bを設ける場合には、基体2の主表面側および裏面側の両方から熱損失補填媒体41を供給するように構成することが考えられる。基体2の両面側から熱損失補填媒体41を供給すれば、基体2の温度を非常に迅速に熱損失補填媒体41の温度へと調節することができる。その場合に、各噴出部43bは、平面的に重なる位置に配されていてもよいし、それぞれが平面的に異なる位置に配されていてもよい。
また、基体2の両面側から熱損失補填媒体41を供給する場合、各噴出部43bは、下流側(末端側)で分岐するように配管された供給管43のそれぞれの先端部分に個別に設けることが考えられる。ただし、供給管43を分岐させるのではなく、各噴出部43bに対応して供給源42および供給管43をそれぞれ別個に設けても構わない。その場合には、基体2の主表面側と裏面側に対して、それぞれ異なる種類の熱損失補填媒体41を供給し得るようになる。また、複数の噴出部43bを設ける場合には、それぞれに対応して開閉弁を設けるようにすれば、基体2の主表面側と裏面側に対して選択的な熱損失補填媒体41の噴出を行い得るようになる。
【0048】
<3.結露防止媒体の詳細>
ここで、上述した構成のレジスト現像装置1にて取り扱う結露防止媒体31および熱損失補填媒体41について順に説明する。
先ず、液体供給部30が基体2に対して供給する結露防止媒体31について、具体例を挙げて詳細に説明する。
【0049】
結露防止媒体31は、設定温度(例えば−10℃)の現像液21による現像処理およびその後に行うリンス処理を終えて、処理室11内の雰囲気露点温度より低温状態となった基体2に対して、基体2に結露が生じてしまうのを防止すべく、基体2の温度を調整するための媒体である。さらに詳しくは、結露防止媒体31は、基体2の結露を防止するために、雰囲気露点温度を超えるまで基体2の温度を上昇させるものである。「雰囲気露点温度」とは、基体2の周辺雰囲気、すなわち基体2が保持される処理室11内の雰囲気の露点温度のことをいう。「露点温度」は、水蒸気を含む空気を冷却したときに凝結が始まる温度であり、雰囲気の湿度等の影響で変動するが、湿度等の条件が定まれば一意に特定され得る。
【0050】
また、結露防止媒体31は、液体状の媒体である。液体状の媒体であることから、結露防止媒体31は、基体2の面上に吐出した場合に、その後に媒体が基体2の面上を流れることになり、その結果として基体2の温度を迅速かつ均一に上昇させ得るようになる。
【0051】
このような結露防止媒体31の一例としては、常温の貧溶媒が挙げられる。
「常温」とは、基体2の周辺雰囲気の平常の温度、すなわち基体2が保持される処理室11内の平常の室温であり、一般的には「15℃〜25℃の範囲内の温度」が相当する。貧溶媒を「常温」とする理由は、「常温」であれば、雰囲気露点温度より低温状態にある基体2を、確実に雰囲気露点温度を超える温度に上昇させることができるからであり、またそのために貧溶媒に対する温度調整機能を要することもないからである。
また「貧溶媒」とは、ある物質に対して溶解度の小さい溶媒である。ここでいう「ある物質」は、具体的には基体2におけるレジスト層の構成物質のことである。したがって、「貧溶媒」は、レジスト層と実質的には反応しない、またはレジスト層を溶解しない溶媒であるといえる。このような貧溶媒を用いれば、溶媒が基体2と反応したり基体2を溶解したりするのを抑制でき、また化学反応や溶解等が発生しても現像するパターンの精度に与える影響を微少に抑えることができる。このような貧溶媒の具体例としては、例えば、IPA(イソプロピルアルコール)、メタノール・エタノール等のアルコール系化合物、フルオロカーボン等のフッ素系溶媒のいずれかが挙げられる。
【0052】
結露防止媒体31としての貧溶媒は、上述した具体例のうち、特にフルオロカーボン等のフッ素系溶媒を用いることが好ましい。フッ素系溶媒であれば、基体2の主表面上に設けられたレジスト層を溶解したり反応したりすることがなく、レジストパターンの幅が変化する等、溶媒が現像処理に与える影響を抑えることができるからである。また、フッ素系溶媒は表面張力が小さいことが知られており、レジストパターンのアスペクト比が大きい場合であっても溶媒の表面張力に起因するパターン倒れ等の不具合発生の防止に非常に有効だからである。
【0053】
<4.熱損失補填媒体の詳細>
続いて、媒体供給部40が基体2に対して供給する熱損失補填媒体41について、具体例を挙げて詳細に説明する。
【0054】
熱損失補填媒体41は、結露防止媒体31の供給後、当該結露防止媒体31の蒸発によって熱が奪われる基体2に対して、その蒸発によって生じる熱損失を補填するための媒体である。さらに詳しくは、熱損失補填媒体41は、結露防止媒体31の蒸発によって熱が奪われて、処理室11内の雰囲気露点温度より低温状態となる基体2に対して、その後の乾燥工程において基体2に結露が生じてしまうのを防止すべく、基体2の熱損失を補填して雰囲気露点温度を超えるまで基体2の温度を上昇させるものである。
【0055】
熱損失補填媒体41は、基体2の熱損失を補填して当該基体2の温度を上昇させ得るものであれば、液体状の媒体であってもよいが、気体状の媒体であることが好ましい。気体状の媒体であれば、液体状の媒体のような蒸発による熱損失が問題にならないからである。また、気体状の媒体であれば、基体2に対する供給を高圧噴出によって行い得るようになり、基体2の表面上に残存する結露防止媒体31を吹き飛ばすことによって処理の迅速化が期待できるからである。
【0056】
このような熱損失補填媒体41の一例としては、常温のドライ窒素ガスが挙げられる。
常温であれば、熱が奪われて雰囲気露点温度より低温状態にある基体2を、確実に雰囲気露点温度を超える温度に上昇させることができ、またそのために熱損失補填媒体41に対する温度調整機能を要することもない。
また、ドライ窒素ガスであれば、水分を含まないドライ状態であるから結露の防止に有効であり、さらには不活性ガスのため基体2を溶解したり反応したりするのを抑制することができる。
【0057】
<5.レジスト現像装置の動作>
次に、上述した構成のレジスト現像装置1の動作例を説明する。
ここでは、モールド基板を製造するモールド製造方法に、上述した構成のレジスト現像装置1を用いる場合を例に挙げる。
【0058】
(モールド製造方法の概要)
ここで、レジスト現像装置1の動作例の説明に先立ち、モールド製造方法の概要について簡単に説明する。
【0059】
モールド基板の製造にあたっては、先ず、所定パターンが形成されるべき主表面にレジスト層が設けられた基体2を用意する。レジスト材料としては、エネルギービームを照射して露光したときに反応性を有するものであればよい。具体的には、電子線描画用レジストを用いることが考えられる。その際、レジスト層の上に、チャージアップ防止のための導電材を塗布してもよい。
なお、レジスト層がポジ型レジストである場合には、電子線描画した箇所が抜き部となり、基体2上における所定パターンの溝の位置に対応することになる。一方、レジスト層がネガ型レジストである場合には、電子線描画した箇所が残し部となり、基体2上における所定パターンの溝以外の位置に対応することになる。以下の説明では、ポジ型レジストを用いた場合、すなわちレジスト層の上に描画している部分が抜き部となり、所定パターンの溝の位置に対応する場合を例に挙げる。
レジスト層の厚さは、基体2へのエッチングが完了するまで残存する程度の厚さであることが好ましい。描画パターン部分の基体2を除去する際、この部分の基体2のみならず、レジスト層も少なからず除去されていくためである。
【0060】
次いで、用意した基体2に対し、電子線描画機を用いて、当該基体2上のレジスト層に所定パターンを描画する露光工程を実行する。すなわち、レジスト層が設けられた基体2の主表面にエネルギービームとしての電子線を照射して、レジスト層に所定パターンの露光処理を行う。露光工程で描画する所定パターンは、ミクロンオーダーであってもよいが、近年の電子機器の性能という観点からはナノオーダーであってもよく、最終製品の性能を考えるとその方が好ましい。
【0061】
露光工程でレジスト層に所定パターンを描画した後は、当該露光工程を経た基体2に対し、上述した構成のレジスト現像装置1を用いて、所定パターンの現像処理を行う現像工程と、当該現像工程の後に行う液体供給工程と、当該液体供給工程の後に行う媒体供給工程と、当該媒体供給工程の後に行う乾燥工程とを、それぞれ実行する。これら現像工程、液体供給工程、媒体供給工程および乾燥工程の各工程の詳細については、後述する。
【0062】
その後は、レジスト現像装置1による現像工程、液体供給工程、媒体供給工程および乾燥工程を経た基体2に対し、ハードマスク層や当該基体2等へのエッチング処理を適宜行う。これにより、モールド基板が製造されることになる。なお、ここでは、ナノインプリント用のモールド基板を製造する場合について説明したが、フォトリソグラフィ技術を利用して行うものであれば、インプリントモールド以外のモールドであっても、全く同様の手順で製造することができる。
【0063】
(レジスト現像装置の動作の詳細)
次に、上述した一連のモールド製造方法におけるレジスト現像装置1の動作について、当該レジスト現像装置1が行う現像工程、液体供給工程、媒体供給工程および乾燥工程に分けて、それぞれ順に説明する。
図3は、本発明が適用されたレジスト現像装置における動作例を示す概略図である。
なお、レジスト現像装置1の動作は、当該レジスト現像装置1のプログラムコントローラからの制御指令に基づいて行われる。
【0064】
(現像工程)
現像工程に際し、レジスト現像装置1の現像液供給部20は、貯留部22内に現像液21を貯留しておくとともに、その現像液21を図示しない液温制御手段によって設定温度(例えば−10℃)に維持しておく。現像液21としては、露光済みのレジスト層を可溶し得るもので、かつ、設定温度でも凍らないものを用いる。具体的には、レジスト材料との関係にもよるが、例えば酢酸イソアミルのように現像液として公知のものを用いることが考えられる。
【0065】
一方、レジスト現像装置1の現像処理部10は、保持部12のテーブル12a上に基体2を載せた後、真空吸着等により基体2を固定状態に支持する。次いで、駆動部13を駆動してスピンドル軸12bを回転させる。これにより、基体2を支持しているテーブル12aがスピンドル軸12bと一体に回転した状態となる。
【0066】
このような状態のもとで、図3(a)に示すように、現像液供給部20は、開閉弁24を開状態とし、かつ、ポンプ25を駆動することにより、貯留部22内の現像液21を供給管23内に取り込むとともに、この供給管23を通して現像液21を現像処理部10側に送り出す。そうすると、供給管23の最下流に位置する吐出部23bから現像液21が吐出する(図中A参照)。このとき、保持部12のテーブル12aで基体2を水平に支持し、かつ、駆動部13の駆動によってテーブル12aを回転させておけば、供給管23の吐出部23bから吐出した現像液21が基体2に供給される。その結果、基体2の表面(上面)に形成された、露光済みのレジスト層の可溶部が、現像液21との化学反応によって溶解・除去される。
【0067】
これにより、現像処理部10では、処理室11内で基体2の現像処理がなされる。このとき、ポジ型のレジストを用いてレジスト膜を形成した場合は、露光工程で露光された部分が可溶部となる。したがって、現像処理を行うと、露光パターンに整合するかたちのレジストパターンが得られることになる。なお、ネガ型のレジストを用いた場合であれば、ポジ型のレジストの場合とは逆に、露光パターンを反転したかたちのレジストパターンが得られる。
【0068】
そして、現像処理を終えた後、現像液供給部20は、開閉弁24を開状態から閉状態に切り替えることにより、現像液21の供給を停止し、その後、必要に応じてポンプ25の駆動を停止しておく。
【0069】
現像処理を終え、現像液21の供給を停止した後は、続いて、図示しないリンス液供給部が、処理室11内の基体2に対してリンス液を供給してリンス処理を行う。基体2に供給するリンス液は、例えばIPA(イソプロピルアルコール)のようにリンス液として公知のものを用いればよい。そして、リンス処理を終えた後、リンス液供給部は、リンス液の供給を停止する。
【0070】
ところで、現像工程において、少なくとも基体2に供給する現像液21、好ましくは現像液21とリンス液との両方については、常温より大きく降下させた低温の状態で供給すべく、設定温度(例えば−10℃)を維持するように制御される。つまり、露光済みのレジスト層への供給液である現像液21およびリンス液については、そのうちの少なくとも現像液21が、上述のような低温状態でレジスト層に対して供給される。これは、低温の現像液21等を用いてレジスト層を現像すると、常温の場合に比べて、現像中にパターンのエッジ部分がダレを起こし難くなり、その結果パターンのエッジ部分の形状的な崩れが抑制されて解像度の向上等が図れるからである。
【0071】
そのため、現像処理およびリンス処理を終えた直後の基体2は、現像液21等によって冷却され、基体温度が処理室11内における周辺雰囲気の露点温度を下回った状態となる。その結果、現像処理およびリンス処理を終えた直後の基体2については、その表面に結露が生じてしまうおそれがある。基体2の表面における結露は、パターン倒れと呼ばれる不具合を招き、またパターン精度に悪影響を及ぼす可能性があることから、その発生を未然に防止すべきである。
【0072】
(液体供給工程)
以上のことから、レジスト現像装置1は、現像処理およびリンス処理を終えると、その後、処理室11内の基体2に対して、当該基体2の温度を調整する媒体である結露防止媒体31を供給して、当該基体2に対する基体温度調整処理を行う液体供給工程を実行する。すなわち、レジスト現像装置1の液体供給部30は、現像液21等の供給によって周辺雰囲気の露点温度を下回った状態となった基体2に対して、結露防止媒体31の供給を行って、雰囲気露点温度を超えるまで当該基体2の温度を上昇させるのである。
【0073】
そのために、液体供給部30は、貯留部32内に結露防止媒体31を貯留しておく。貯留する結露防止媒体31は、常温のままでよい。したがって、現像液供給部20の貯留部22のような冷却のための温度制御手段を必要としない。そして、図3(b)に示すように、液体供給部30は、開閉弁34を開状態とし、かつ、ポンプ35を駆動することにより、貯留部32内の結露防止媒体31を供給管33内に取り込むとともに、この供給管33を通して結露防止媒体31を現像処理部10側に送り出す。そうすると、供給管33の最下流に位置する吐出部33bから結露防止媒体31が吐出する(図中B参照)。このとき、保持部12のテーブル12aで基体2を水平に支持し、かつ、駆動部13の駆動によってテーブル12aを回転させておけば、供給管33の吐出部33bから吐出した結露防止媒体31が基体2に供給(散布)される。その結果、雰囲気露点温度を下回った状態の基体2と常温の結露防止媒体31との間で熱交換が行われて、当該基体2の温度が雰囲気露点温度を超えるまで上昇することになる。
【0074】
基体2への結露防止媒体31の吐出は、二つの吐出部33bから、当該基体2の主表面およびその裏面の両面に対して行うことが好ましい。一方の面に対して行う場合に比べて基体2の温度を迅速に結露防止媒体31の温度へ調節できるからである。その場合に、各吐出部33bが平面的に異なる位置に配されていると、より一層迅速な温度調整を行う上で有効である。
また、二つの吐出部33bを用いれば、簡素な構成で基体2の両面に結露防止媒体31を吐出することができる。ただし、吐出部の位置移動機構や吐出部からの吐出媒体経路の分岐機構等を備えていれば、一つの吐出部から基体2の両面への結露防止媒体31の吐出を行うようにしても構わない。さらには、三つ以上の吐出部から基体2の両面への結露防止媒体31の吐出を行うことも考えられる。
なお、基体2への結露防止媒体31の吐出は、少なくとも当該基体2の一方の面に対して行えばよい。つまり、結露防止媒体31の吐出は、基体2の主表面(被処理面)に対してのみ行ってもよいし、基体2の裏面(主表面の反対面)に対してのみ行ってもよいし、主表面と裏面との両面に対して行ってもよい。少なくとも一方の面に対して結露防止媒体31を吐出すれば、当該結露防止媒体31との熱交換によって、基体2の温度調整(雰囲気露点温度を超えるまでの温度上昇)を行い得るからである。
【0075】
基体2へ吐出する結露防止媒体31は、既に説明したように、常温の貧溶媒、さらに具体的にはレジスト層に対する貧溶媒としてのフルオロカーボン等のフッ素系溶媒を用いることが好ましい。特に、結露防止媒体31の被吐出面に基体2の主表面(すなわちレジストパターンの形成面)が含まれる場合には、フッ素系溶媒を用いることが非常に好ましい。このような結露防止媒体31を用いれば、当該結露防止媒体31に対する温度調整機能を要することなく露点温度より低温の基体温度を確実に上昇させることができ、また当該結露防止媒体31がレジスト層を溶解したり反応したりするのを抑制できるからである。さらには、フッ素系溶媒の表面張力が小さいことから、レジストパターンのアスペクト比が大きい場合であっても、パターン倒れ等の不具合発生の防止に非常に有効だからである。
【0076】
基体2への結露防止媒体31の吐出開始から、雰囲気露点温度を超えるまで基体温度を上昇させるのに十分な時間として予め定められた時間が経過すると、液体供給部30は、開閉弁34を開状態から閉状態に切り替えることにより、結露防止媒体31の供給を停止し、その後、必要に応じてポンプ35の駆動を停止しておく。
なお、基体2の温度または基体2の温度とみなせる温度(例えば基体2の近傍位置の温度)を検知する機能が処理室11内に設けられている場合には、液体供給部30は、その温度検知結果をモニタリングしながら、基体2の温度が雰囲気露点温度を超えた時点で結露防止媒体31の供給を停止するようにしてもよい。
【0077】
つまり、液体供給部30が結露防止媒体31の供給を停止する時点においては、処理室11内の基体2は、当該結露防止媒体31との熱交換を通じて、雰囲気露点温度を超えるまで温度が上昇していることになる。
【0078】
ところで、結露防止媒体31として基体2に供給するフルオロカーボン等のフッ素系溶媒は、揮発性が高く、かつ、蒸発熱が比較的大きい溶媒であることが知られている。そのため、結露防止媒体31を供給して基体温度調整処理を行った後の基体2であっても、供給した結露防止媒体31が蒸発すると、当該蒸発によって熱が奪われ、これにより当該基体2の温度が雰囲気露点温度を下回るまで低下してしまうおそれがある。つまり、処理室11内の基体2は、基体温度調整処理後であっても、結露防止媒体31の蒸発(気化熱)により冷却されて再度露点温度を下回ってしまい、結果として結露が生じてしまうおそれがある。このような基体2の熱損失によって生じ得る結露についても、パターン倒れと呼ばれる不具合を招き、またパターン精度に悪影響を及ぼす可能性があることから、その発生を未然に防止すべきである。
【0079】
(媒体供給工程)
以上のことから、レジスト現像装置1は、液体供給工程での結露防止媒体31の供給を終えると、その後に行う乾燥工程までの間に、処理室11内の基体2に対して、基体2の熱損失を補填する媒体である熱損失補填媒体41を供給する媒体供給工程を実行する。すなわち、レジスト現像装置1の媒体供給部40は、結露防止媒体31の蒸発に伴う熱損失によって周辺雰囲気の露点温度を下回った状態となった基体2に対して、その熱損失を補填するための熱損失補填媒体41の供給を行って、雰囲気露点温度を超えるまで当該基体2の温度を上昇させるのである。
【0080】
そのために、媒体供給部40は、供給源42が常温の熱損失補填媒体41を提供し得る状態にしておく。そして、図3(c)に示すように、媒体供給部40は、開閉弁44を開状態とし、供給源42から提供される熱損失補填媒体41を供給管43内に取り込むとともに、この供給管43を通して熱損失補填媒体41を現像処理部10側に送り出す。そうすると、供給管43の最下流に位置する噴出部43bから熱損失補填媒体41が噴出する(図中C参照)。このとき、保持部12のテーブル12aで基体2を水平に支持し、かつ、駆動部13の駆動によってテーブル12aを回転させておけば、供給管43の噴出部43bから噴出した熱損失補填媒体41が基体2に供給される。その結果、熱損失補填媒体41の噴出を開始した時点で、結露防止媒体31が蒸発して基体2が雰囲気露点温度を下回った状態になっていても、雰囲気露点温度を下回った状態の基体2と常温の熱損失補填媒体41との間で熱交換が行われて、当該基体2の温度が雰囲気露点温度を超えるまで上昇することになる。また、熱損失補填媒体41の噴出を開始した時点では基体2の面上に結露防止媒体31が残存していても、後述するように熱損失補填媒体41の噴出によって結露防止媒体31を噴き飛ばしたり、その後の結露防止媒体31の蒸発による基体2の熱損失を熱損失補填媒体41が補填したりするので、当該基体2の温度が雰囲気露点温度を超えるまで上昇することになる。
【0081】
このとき、熱損失補填媒体41がドライ窒素ガス等の気体状媒体である場合には、当該熱損失補填媒体41の基体2に対する噴出を、供給管43の噴出部43bから高圧で行うことが考えられる。高圧で熱損失補填媒体41を噴出すれば、基体2の面上に残存する結露防止媒体31を噴き飛ばすことによって、その後に行う処理の迅速化が期待できる。なお、ここでいう「高圧」とは、基体2の面上に残存する結露防止媒体31を噴き飛ばすことができる程度に高い圧力のことをいう。また、「噴出」とは、熱損失補填媒体41を強い勢い(具体的には上述した「高圧」で)で噴き出すことをいう。
さらに、熱損失補填媒体41がドライ窒素ガス等の気体状媒体であれば、液体状媒体を供給する場合とは異なり、基体2の面上の乾燥(残存する結露防止媒体31の噴き飛ばしを含む)を促進させ得るようになる。したがって、結露防止媒体31の蒸発による熱損失を補填して基体温度を上昇させる処理のみならず、基体2の面上を乾燥させる処理についても、その迅速化が期待できる。
【0082】
基体2への熱損失補填媒体41の噴出は、供給管43の噴出部43bから、当該基体2の主表面に対して行うことが好ましい。基体2の主表面は、レジストパターンが形成される面であり、結露の発生を確実に防止することが必要だからである。また、基体2の主表面に対する熱損失補填媒体41の噴出にあたっては、当該熱損失補填媒体41がドライ窒素ガス等の気体状媒体であることが好ましい。気体状媒体であれば、液体状媒体のような蒸発による熱損失が問題にならず、熱損失補填媒体41の噴出後における結露発生の懸念を確実に解消し得るからである。
なお、熱損失補填媒体41の噴出は、基体2の主表面に加えて、当該基体の裏面(主表面の反対面)に対して行うことも考えられる。すなわち、熱損失補填媒体41の噴出は、基体2の主表面と裏面との両面に対して行ってもよい。
【0083】
基体2へ噴出する熱損失補填媒体41は、既に説明したように、常温のドライ窒素ガスを用いることが好ましい。このような熱損失補填媒体41を用いれば、当該熱損失補填媒体41に対する温度調整機能を要することなく露点温度より低温の基体温度を確実に上昇させることができ、また水分を含まないドライ状態であるから結露の防止に有効であり、さらには不活性ガスのため基体2を溶解したり反応したりするのを抑制することができるからである。
【0084】
基体2への熱損失補填媒体41の噴出開始から、雰囲気露点温度を超えるまで基体温度を上昇させるのに十分な時間(基体2の面上に残存する結露防止媒体31が全て無くなるのに要する時間を含む)として予め定められた時間が経過すると、媒体供給部40は、開閉弁44を開状態から閉状態に切り替えることにより、熱損失補填媒体41の供給を停止する。
なお、基体2の温度または基体2の温度とみなせる温度(例えば基体2の近傍位置の温度)を検知する機能が処理室11内に設けられている場合には、媒体供給部40は、その温度検知結果をモニタリングしながら、基体2の温度が雰囲気露点温度を超えた時点で熱損失補填媒体41の供給を停止するようにしてもよい。
【0085】
つまり、媒体供給部40が熱損失補填媒体41の供給を停止する時点においては、処理室11内の基体2の面上には結露防止媒体31が残存しておらず、また当該基体2の温度が熱損失補填媒体41の供給によって雰囲気露点温度を超えるまで上昇していることになる。
【0086】
(乾燥工程)
媒体供給工程を行った後においても、処理室11内の基体2の面上には、結露防止媒体31以外の液体(例えばリンス液)が残存していることもあり得る。また、熱損失補填媒体41が液体状媒体である場合は、当該熱損失補填媒体41が残存していることも考えられる。このことから、レジスト現像装置1の現像処理部10は、処理室11内の基体2に対して、必要に応じて乾燥工程を実行する。具体的には、現像処理部10は、保持部12のテーブル12a上に基体2が支持された状態のまま、駆動部13を駆動してスピンドル軸12bを回転させ、これにより基体2を支持しているテーブル12aをスピンドル軸12bと一体に回転させることで、基体2のスピン乾燥を行う。
【0087】
このとき、基体2は、上述した液体供給工程および媒体供給工程を経ることで、その面上には結露防止媒体31(すなわち基体2に熱損失を発生させ得る液体)が残存しておらず、また既に雰囲気露点温度を超えるまで温度が上昇している。つまり、雰囲気露点温度より高温状態になっている。したがって、スピン乾燥を行っても、基体2の面上に結露が生じてしまうことがない。
【0088】
(基体温度の経時的な変化)
ここで、上述した各工程を経た場合の基体2の温度の経時的な変化について説明する。
図4は、基体2の温度の経時的な変化の具体例を示す説明図である。
【0089】
図4(a)は、従来の一般的なレジスト現像装置の構成により基体2を処理した場合(すなわち上述した液体供給工程および媒体供給工程を経ない場合)における当該基体2の温度の経時的な変化を示している。
図例のように、現像工程において、現像処理が行われると、常温にあった基体2は、雰囲気露点温度より低い温度(設定温度)に設定維持された現像液の供給散布と同時にその温度が降下し、現像液の設定温度と同じ温度になる。そして、現像液の供給散布が終わるまで、現像液の設定温度と同じ温度に維持される。その後、現像工程において、リンス処理が行われると、現像液と同じく雰囲気露点温度より低い温度(設定温度)に設定維持されたリンス液の供給散布と同時に、現像液からリンス液への切り替え時に僅かに温度上昇するものの、基体2の温度は、リンス液の設定温度に維持される。そして、リンス液の供給停止と同時に、すなわち乾燥工程の開始と同時に、基体2の温度は徐々に常温に向かう。その際、リンス液が乾燥工程によって蒸発すると、基板には、結露が発生してしまう可能性がある。
【0090】
図4(b)は、液体供給工程を経るが媒体供給工程を経ない場合であって、比較的揮発性が低くかつ蒸発熱が比較的小さな物質を結露防止媒体31とした場合の、基体2の温度の経時的な変化を示している。
図例の場合、現像工程において、現像処理が行われると、常温にあった基体2は、雰囲気露点温度より低い温度(設定温度)に設定維持された現像液の供給散布と同時にその温度が降下し、現像液の設定温度と同じ温度になる。そして、現像液の供給散布が終わるまで、現像液の設定温度と同じ温度に維持される。その後、現像工程において、リンス処理が行われると、現像液と同じく雰囲気露点温度より低い温度(設定温度)に設定維持されたリンス液の供給散布と同時に、現像液からリンス液への切り替え時に僅かに温度上昇するものの、基体2の温度は、リンス液の設定温度に維持される。そして、リンス液の供給が停止すると、それと同時に、液体供給工程にて、常温の結露防止媒体31の供給散布が開始される。このとき、基体2は、外気に露出することがなく、結露が発生することはない。常温の結露防止媒体31の供給散布が開始されると同時に、基板2の温度は、常温に向かって上昇を開始する。その後、液体供給工程では、結露防止媒体31の供給散布を継続し、基体2の温度が常温に達して安定したところで、結露防止媒体31の供給散布を停止する。すると今度は、結露防止媒体31の蒸発によって基体2の熱が奪われ、これにより再び基体2の温度が雰囲気露点温度に向かうことがある。しかしながら、比較的揮発性が低く、かつ、蒸発熱が比較的小さな物質を結露防止媒体31とした場合であれば、基体2の温度は雰囲気露点温度を下回ることはなく、その結果、基体2には結露が発生しない。
【0091】
図4(b’)は、液体供給工程を経るが媒体供給工程を経ない場合であって、比較的揮発性が高くかつ蒸発熱が比較的大きな物質を結露防止媒体31とした場合の、基体2の温度の経時的な変化を示している。
図例の場合、現像工程において、現像処理が行われると、常温にあった基体2は、雰囲気露点温度より低い温度(設定温度)に設定維持された現像液の供給散布と同時にその温度が降下し、現像液の設定温度と同じ温度になる。そして、現像液の供給散布が終わるまで、現像液の設定温度と同じ温度に維持される。その後、現像工程において、リンス処理が行われると、現像液と同じく雰囲気露点温度より低い温度(設定温度)に設定維持されたリンス液の供給散布と同時に、現像液からリンス液への切り替え時に僅かに温度上昇するものの、基体2の温度は、リンス液の設定温度に維持される。そして、リンス液の供給が停止すると、それと同時に、液体供給工程にて、常温の結露防止媒体31の供給散布が開始される。このとき、基体2は、外気に露出することがなく、結露が発生することはない。常温の結露防止媒体31の供給散布が開始されると同時に、基体2の温度は、常温に向かって上昇を開始する。その後、液体供給工程では、結露防止媒体31の供給散布を継続し、基板2の温度が常温に達して安定したところで、結露防止媒体31の供給散布を停止する。すると今度は、結露防止媒体31の蒸発によって基体2の熱が奪われ、これにより再び基体2の温度が雰囲気露点温度に向かうことがある。この場合、結露防止媒体31の種類によっては、すなわち比較的揮発性が高くかつ蒸発熱が比較的大きな物質を結露防止媒体31とした場合、基体2の温度は雰囲気露点温度を下回り、その結果、基体2には結露が発生する可能性がある。
【0092】
図4(c)は、本実施形態で説明した構成のレジスト現像装置1により基体2を処理した場合(すなわち上述した液体供給工程および媒体供給工程を経る場合)における当該基体2の温度の経時的な変化を示している。
図例の場合、現像工程において、現像処理が行われると、常温にあった基体2は、雰囲気露点温度より低い温度(設定温度)に設定維持された現像液の供給散布と同時にその温度が降下し、現像液の設定温度と同じ温度になる。そして、現像液の供給散布が終わるまで、現像液の設定温度と同じ温度に維持される。その後、現像工程において、リンス処理が行われると、現像液と同じく雰囲気露点温度より低い温度(設定温度)に設定維持されたリンス液の供給散布と同時に、現像液からリンス液への切り替え時に僅かに温度上昇するものの、基体2の温度は、リンス液の設定温度に維持される。そして、リンス液の供給が停止すると、それと同時に、液体供給工程にて、常温の結露防止媒体31の供給散布が開始される。このとき、基体2は、外気に露出することがなく、結露が発生することはない。常温の結露防止媒体31の供給散布が開始されると同時に、基体2の温度は、常温に向かって上昇を開始する。その後、液体供給工程では、結露防止媒体31の供給散布を継続し、基体2の温度が常温に達して安定したところで、結露防止媒体31の供給散布を停止する。すると今度は、結露防止媒体31の蒸発によって基体2の熱が奪われ、これにより再び基体2の温度が雰囲気露点温度に向かうことがある。この場合、結露防止媒体31の種類によっては、そのまま放置すると、基体2の温度は、雰囲気露点温度に到達し、あるいは雰囲気露点温度を下回る。そこで、基体2の温度が雰囲気露点温度に達する前に、媒体供給工程において、常温の熱損失補填媒体41の供給散布を開始する。これにより(すなわち熱損失補填媒体41の供給散布開始と同時に)、基体2の温度は、再び常温に向かって上昇を始め、その後常温に達して安定することになる。
【0093】
<6.本実施形態の効果>
本実施形態で説明した流体供給装置、その一例であるレジスト現像装置、および、そのレジスト現像装置を用いて行うモールド製造方法によれば、以下に述べる効果が得られる。
【0094】
本実施形態によれば、基体2に対して液体状の媒体である結露防止媒体31を供給した後、基体2に対する乾燥工程を開始するまでの間に、熱損失補填媒体41の供給により基体2を雰囲気露点温度より高温状態にする。これにより、基体2に供給した結露防止媒体31の蒸発によって熱が奪われ、その熱損失によって基体2の温度が雰囲気露点温度を下回ってしまう場合であっても、基体2に結露が生じるのを防止することができる。したがって、乾燥工程の際に、結露の表面張力によりパターン間に吸引力が働くといったことが起こらず、結露に起因するパターン倒れ等の不具合が発生してしまうのを未然に回避することができる。さらには、結露の痕跡が基体2上に残存してしまうといったことも起こらず、結露の痕跡がパターン精度に悪影響を及ぼす可能性を排除することができる。
【0095】
また、本実施形態で説明したように、熱損失補填媒体41が気体状媒体であれば、液体状媒体のような蒸発による熱損失が問題にならず、結露発生の懸念を確実に解消することができる。さらには、熱損失補填媒体41が気体状媒体である場合には、基体2に対して当該熱損失補填媒体41の高圧で噴出することによって、処理の迅速化も期待できる。
【0096】
特に、本実施形態で説明したように、熱損失補填媒体41として常温のドライ窒素ガスを用いれば、常温が雰囲気露点温度より高温であることから、熱損失補填媒体41に対する温度調整機能を要することなく、基体2を確実に雰囲気露点温度より高温状態にすることができる。また、ドライ窒素ガスが水分を含まないドライ状態であることから、結露の防止に有効である。さらには、ドライ窒素ガスが不活性ガスであるため、基体2の主表面上に設けられたレジスト層を溶解したり反応したりすることがない。つまり、レジストパターンの幅が変化する等、熱損失補填媒体41が現像処理に悪影響を与えてしまうのを抑えることができる。
【0097】
また、本実施形態で説明したように、基体2がナノインプリント用のモールド基板である場合は、現像液21等の供給液の温度を低温に設定することで、微細な凹凸パターンを高精度に形成することが可能となる。その理由は、ナノインプリント用のモールド基板に凹凸パターンを形成する場合、現像液21等の温度を低温に設定して現像処理を行うことによって、パターンのエッジ部分における形状的な崩れによる現像の解像度の低下を防ぐことができるためである。特に、0℃以下に設定して現像処理を行った場合、その効果は顕著に現れる。このような低温現像が行われる場合であっても、結露防止媒体31の供給により基体2を雰囲気露点温度より高温状態にした後、その結露防止媒体31の蒸発によって生じる熱損失を熱損失補填媒体41の供給によって補填し、基体2の温度が再度雰囲気露点温度を下回ってしまうのを防止するので、基体2に結露が生じるのを確実に防止することができる。つまり、結露に起因するパターン倒れ等の不具合が発生してしまうのを未然に回避できるので、低温現像によるナノレベルの微細な凹凸パターンの形成を実現する上で非常に好適である。
【0098】
<7.変形例等>
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されることはなく、例えば以下に述べる変形例のように、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0099】
(第1変形例)
上述した実施形態では、低温現像の後に結露防止媒体31を供給して基体温度調整処理を行う場合を例に挙げた。これに対して、ここで挙げる第1変形例では、結露防止媒体31の供給を行わずに、リンス液が基体温度調整処理を行う機能を兼ね備える。つまり、現像処理後の基体2に対するリンス処理において、例えば常温のIPAをリンス液として基体2に供給し、そのリンス液によりリンス処理と併せて基体温度調整処理を行う。したがって、第1変形例では、リンス液が本発明の「液体」に、リンス液を供給するリンス液供給部が本発明の「液体供給部」に、リンス液供給部が行うリンス液の供給工程が本発明の「液体供給工程」に、それぞれ該当することになる。
【0100】
このような第1変形例においても、基体2に対してリンス液を供給した後は、そのリンス液の蒸発による基体2の熱損失を補填するために、基体2に対して熱損失補填媒体41の供給を行って、雰囲気露点温度を超えるまで基体2の温度を上昇させる。これにより、基体2に供給したリンス液の蒸発によって熱が奪われ、その熱損失によって基体2の温度が雰囲気露点温度を下回ってしまう場合であっても、基体2に結露が生じるのを防止することができる。
【0101】
(第2変形例)
上述した実施形態では、主として基体2の主表面(レジスト層の形成面)に対して熱損失補填媒体41を供給する場合を例に挙げた。これに対して、ここで挙げる第2変形例では、基体2の裏面(主表面の反対面)に対して熱損失補填媒体41を供給する。その場合、熱損失補填媒体41の供給を、基体2の裏面に対してのみ行ってもよいし、主表面と裏面との両面に対して行ってもよい。
【0102】
基体2の裏面に対して熱損失補填媒体41を供給する場合であっても、基体2の主表面に対して熱損失補填媒体41を供給する場合と同様に、基体2に生じる熱損失を補填して雰囲気露点温度を超えるまで基体2の温度を上昇させることができ、基体2に結露が生じるのを防止することができる。
つまり、本発明による熱損失補填媒体41の供給は、基体2の主表面に対してのみ行ってもよいし、基体2の裏面に対してのみ行ってもよいし、主表面と裏面との両面に対して行ってもよい。
【0103】
基体2の主表面に供給する熱損失補填媒体41は、既に説明したように、気体状の媒体であることが好ましい。これに対して、第2変形例において基体2の裏面に供給する熱損失補填媒体41は、気体状の媒体であってもよいし、液体状の媒体(好ましくは貧溶媒)であってもよい。ただし、液体状である場合には、フッ素系溶媒のように揮発性が高く蒸発熱が比較的大きなものではなく、例えばIPAのようにフッ素系溶媒に比べると揮発し難いもの(熱損失が比較的小さいもの)を用いることが好ましい。
【0104】
(第3変形例)
上述した実施形態では、熱損失補填媒体41として、常温の媒体を供給する場合を例に挙げた。これに対して、ここで挙げる第3変形例では、熱損失補填媒体41を加熱して、常温よりも高温の状態で、基体2に対して供給する。その場合、熱損失補填媒体41は、気体状の媒体であってもよいし、液体状の媒体であってもよい。このように、熱損失補填媒体41を加熱して基体2への供給を行えば、熱損失補填媒体41が常温である場合に比べて、基体2の温度上昇を迅速に行うことが可能となる。また、特に熱損失補填媒体41が液体状である場合は、当該熱損失補填媒体41の蒸発によって基体2が冷却され得るが、その場合であっても当該熱損失補填媒体41が加熱によって高温状態となっていれば、冷却前における基体2も高温状態となるので、冷却によって基体2の温度が低下しても当該冷却後の基体温度が雰囲気露点温度を下回らないようにすることが可能となる。
【0105】
(第4変形例)
また、現像液21、結露防止媒体31、熱損失補填媒体41等を基体2に対して供給するための構成(機構)についても、上述した実施形態の内容に限定されることはない。例えば、現像液供給部20の供給管23について、当該供給管23に付属して設けられる部材としては、開閉弁24やポンプ25に限らず、供給管23に付設されて現像液21(液体)の流れを制御するための部材であればよい。具体的には、例えば、開閉弁以外の弁部材(流量制御弁等)や、T型継手等の継手部材を、それぞれ付属部材として設けてもよい。液体供給部30における供給管33、および、媒体供給部40における供給管43についても、全く同様である。
【符号の説明】
【0106】
1…レジスト現像装置
2…基体
10…現像処理部
12…保持部
20…現像液供給部
21…現像液
30…液体供給部
31…結露防止媒体
40…媒体供給部
41…熱損失補填媒体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象となる基体を保持する保持部と、
前記保持部が保持する前記基体に対して液体の供給を行う液体供給部と、
前記液体の蒸発によって熱が奪われる前記基体を雰囲気露点温度より高温状態にすべく当該基体の熱損失を補填するための熱損失補填媒体を当該基体に対して供給する媒体供給部と
を備えることを特徴とする流体供給装置。
【請求項2】
前記媒体供給部は、気体状の前記熱損失補填媒体を前記基体に対して噴出する
ことを特徴とする請求項1記載の流体供給装置。
【請求項3】
前記熱損失補填媒体は、常温のドライ窒素ガスである
ことを特徴とする請求項2記載の流体供給装置。
【請求項4】
基体の主表面に現像液を供給して現像処理するレジスト現像装置であって、
前記基体を保持する保持部と、
前記保持部が保持する前記基体に対して前記現像液の供給を行う現像液供給部と、
前記現像液による現像処理がされた前記基体に対して洗浄処理または基体温度調整処理をする液体の供給を行う液体供給部と、
前記液体の蒸発によって熱が奪われる前記基体を雰囲気露点温度より高温状態にすべく当該基体の熱損失を補填するための熱損失補填媒体を当該基体に対して供給する媒体供給部と
を備えることを特徴とするレジスト現像装置。
【請求項5】
前記基体は、ナノインプリント用のモールド基板である
ことを特徴とする請求項4記載のレジスト現像装置。
【請求項6】
基体の主表面に所定パターンが形成されてなるモールド基板を製造するモールド製造方法であって、
レジスト層が設けられた前記主表面にエネルギービームを照射して前記所定パターンの露光処理を行う露光工程と、
前記露光処理後の前記主表面に現像液を供給して前記所定パターンの現像処理を行う現像工程と、
前記現像液による現像処理がされた前記基体に液体を供給して当該基体に対する洗浄処理または基体温度調整処理を行う液体供給工程と、
前記液体の蒸発によって熱が奪われる前記基体を雰囲気露点温度より高温状態にすべく当該基体の熱損失を補填するための熱損失補填媒体を当該基体に対して供給する媒体供給工程と
を備えることを特徴とするモールド製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−142564(P2012−142564A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−270896(P2011−270896)
【出願日】平成23年12月12日(2011.12.12)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】