説明

流体含有磁性粉濃度検出装置

【課題】流動する全ての流体を計測の対象として、人手をかけずにオンライン計測し、タイムリーで精密な状態監視機能を実現する。
【解決手段】非磁性体からなる第1ボビン11に1次コイル14と2次コイル15とを巻回した基準用コイル対10と、非磁性体からなる第2ボビン17に1次コイル20と2次コイル21とを巻回し、その2次コイル21を基準用コイル対10の2次コイル15に対して差動出力を得るように接続した検出用コイル対16とを備え、検出用コイル対16の空洞部18cに、磁性粉を含有する流体を流動させる非磁性体からなるパイプPを貫通させるとともに、基準用コイル対10および検出用コイル対16の各1次コイル14,20に、同位相かつ同電流または同電圧の交流信号を印加し、2次コイル15,21から出力される差動出力により、パイプP中を流動する流体が含有する磁性粉濃度を検出可能な構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機械の軸受部の劣化や磨耗を早期に検出するために、潤滑油やグリース等の潤滑剤(流体)に混入した鉄粉等の磁性粉濃度を検出する流体含有磁性粉濃度検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業機械の軸受部の劣化や磨耗による設備故障は、生産効率に直接影響し、重要設備の故障は単に設備停止のみならず、工場全体の生産計画に支障を来たす。そのため、設備診断技術が広く浸透しており、振動計測を主体とする設備状態監視技術が確立されている(例えば特許文献1)。しかし、製鉄所の連鋳設備に代表されるような低速回転軸受部においては、振動監視により劣化の兆候を判断することは難しい。
【0003】
そのため、軸受部の潤滑剤に含まれる磨耗で生じた磁性粉の濃度(量)を計測する方法が状態監視判断に使用されている。この潤滑剤が含有する磁性粉濃度を監視する装置は差動トランス方式であり、1個の1次コイルと一対の2次コイルとを備えている。そして、監視員が定期的に軸受部を通過した後の排出潤滑剤をサンプリングし、一方の2次コイル内にセットする。この状態で1次コイルに交流電流または交流電圧を印加することにより、2次コイルから出力される差動出力値に基づいて磁性粉濃度を検出し、軸受部の状態を判断している(例えば特許文献2)。
【0004】
しかし、この方法では潤滑剤のごく一部しか計測できないため、サンプリング周期によってはタイムリーな判断ができない。また、設備状態を監視する際には、潤滑剤が含有する磁性粉濃度だけでなく、磁性粉粒子サイズも重視すべき監視項目である。即ち、潤滑剤に含まれる粒子サイズは、大きいほど設備劣化に及ぼす影響が大きい。しかし、粒子サイズを検出するには、フェログラフィ分析等の手間を要する手法を採用する必要がある。しかも、これらの作業は、常に人手を要するため、安全面やコスト面での問題がある。
【0005】
また、―体型の差動トランスとして、1つの磁気コアに1個の1次コイルと2個の2次コイルとを配設し、この差動トランスを軸受部に組み込む構成としたものがある(例えば特許文献3)。しかし、この構成は、製鉄所の連鋳設備のように高温で悪環境の場所では精度やメンテナンスの面で問題があり、使用出来ない。また、差動トランスそのものが潤滑剤に接する構造のため、メンテナンス性も悪いという問題がある。しかも、監視対象設備によっては軸受部が近接して複数箇所存在する場合が多く、センサおよび変換器が被検出軸受部数分必要となるため、収納盤サイズが大型化し、導入コストも高額になるという懸念がある。
【0006】
【特許文献1】特開2005−195422号公報
【特許文献2】特開平10−78411号公報
【特許文献3】特開2007−192381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の問題に鑑みてなされたもので、流動する全ての流体を計測の対象として、人手をかけずにオンライン計測し、タイムリーで精密な状態監視機能を実現するとともに、小型で低コストの多点監視機能と、磁性粉の粒子サイズを良否推定する機能とを併せ持った流体含有磁性粉濃度検出装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の流体含有磁性粉濃度検出装置は、空洞部を有する筒状の非磁性体からなる第1ボビンに1次コイルと2次コイルとを巻回した基準用コイル対と、空洞部を有する筒状の非磁性体からなる第2ボビンに1次コイルと2次コイルとを巻回し、その2次コイルを前記基準用コイル対の2次コイルに対して差動出力を得るように接続した検出用コイル対とを備え、前記検出用コイル対の空洞部に、磁性粉を含有する流体を流動させるとともに、前記基準用コイル対および検出用コイル対の各1次コイルに、同位相かつ同電流または同電圧の交流信号を印加し、前記2次コイルから出力される差動出力により、流体が含有する磁性粉濃度を検出可能な構成としている。
【0009】
この流体含有磁性粉濃度検出装置によれば、空洞部内に磁性粉を含有する流体が流動すると、磁性粉濃度により透磁率が変化し、その変化が磁性粉濃度の差動出力値として2次コイルから出力される。そのため、この差動出力値を読み込むことにより、流体が含有する磁性粉濃度を検出することができる。また、産業機械の軸受部に用いられる流体である潤滑剤は、軸受部の通過後に全てがパイプを通して排出されるものであるため、このパイプを検出用コイル対の空洞部に貫通または連通させることにより、潤滑剤全ての状態を時系列で監視することが可能である。その結果、人手が不要になるため、監視に関する安全性を確保できるとともに、コストダウンを図ることができる。
【0010】
この流体含有磁性粉濃度検出装置では、前記検出用コイル対を複数設ける一方、前記基準用コイル対を共用の1個のみとし、前記各検出用コイル対の空洞部にそれぞれ異なる部位からの流体を流動させるとともに、前記基準用コイル対の2次コイルと複数の検出用コイル対の2次コイルとを順次接続するように切り換える切換手段を設けることが好ましい。このようにすれば、複数の検出部位に対して配設するものは、1次コイルと2次コイルとからなる1組の検出用コイル対のみとなる。そのため、検出部位の周囲に配設する部品点数を削減できる。その結果、検出部の小型化およびコストダウンを図ることができる。よって、監視対象が連鋳設備のように軸受部が近接配置されている設備である場合には、特に有効である。
【0011】
また、前記2次コイルから出力される差動出力値を順次記憶する記憶手段を設けるとともに、該記憶手段に記憶された複数の磁性粉濃度に基づいて磁性粉濃度の上昇傾向を判断する濃度傾向判断手段を設けることが好ましい。このようにすれば、使用期間に従って上昇する流体に含まれる磁性粉濃度の上昇傾向を容易に判断できるため、軸受部の劣化や磨耗の早期判断(予測)が可能となるうえ、その傾向を管理することができる。
【0012】
さらに、前記2次コイルから出力された複数の差動出力値の平均値とピーク値とで、磁性粉体の大きさを判断する粒子状態判断手段を設けることが好ましい。
この場合、磁性粉体の許容寸法に基づいて予め粉体寸法しきい値を設定し、粒子状態判断手段は、予め設定した単位時間内に粉体寸法しきい値を超えた回数により、特異なサイズの磁性体粒子の発生頻度を判断することが好ましい。
このようにすれば、設備劣化に及ぼす影響が大きい磁性粉粒子サイズを判断できるため、更に確実に軸受部の劣化や磨耗の早期判断(予測)が可能となるうえ、その傾向を管理することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の流体含有磁性粉濃度検出装置では、磁性粉を含有する流体が空洞部内を流動することによる透磁率の変化が磁性粉濃度の差動出力値として出力されるため、この差動出力値を読み込むことにより、流体が含有する磁性粉濃度を検出することができる。また、空洞部を流動する全ての流体の状態を時系列で監視することが可能であるため、タイムリーで精密な状態監視機能を実現できる。しかも、人手が不要であるため、監視に関する安全性を確保できるとともに、コストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1実施形態に係る流体含有磁性粉濃度検出装置(以下「濃度検出装置」と略する。)を示す。この濃度検出装置は、産業機械の軸受部の劣化や磨耗を早期に検出するために、流体である軸受部の潤滑油やグリース等の潤滑剤に含まれる鉄粉等の磁性粉の濃度を監視するもので、基準用コイル対10と検出用コイル対16とを備えた差動トランス方式のものである。そして、これら基準用コイル対10と検出用コイル対16とは変換器22に接続され、この変換器22から検出した差動出力値を出力するとともに、その差動出力値を外部監視機34により監視する構成としている。
【0016】
前記基準用コイル対10は、図2(A),(B)に示すように、非磁性体からなる筒状の第1ボビン11を備え、この第1ボビン11に1次コイル14と2次コイル15とを巻回したものである。第1ボビン11は、内側ボビン12と、該内側ボビン12を収容可能とした外側ボビン13とからなる。内側ボビン12は、中空状の軸部12aと、該軸部12aの上下端から径方向外向きに突出するフランジ部12bとを備えている。軸部12aには、検査対象である流体を流動させるパイプPの直径より大きい空洞部12cが形成されている。同様に、外側ボビン13は、中空状の軸部13aと、該軸部13aの上下端から外向きに突出するフランジ部13bとを備えている。この軸部13bには、内側ボビン12のフランジ部12bの直径と略同一の内径で中空部13cが形成されている。基準用コイル対10の1次コイル14は、電気信号を送信可能な線材からなり、内側ボビン12の軸部12aの外周部に巻回されている。この1次コイル14は、フランジ部12bから外側にはみ出さないように、所定の巻き数で巻回されている。同様に、基準用コイル対10の2次コイル15は、電気信号を送信可能な線材からなり、外側ボビン13の軸部13aの外周部に巻回されている。この2次コイル15は、フランジ部13bから外側にはみ出さないように、所定の巻き数で巻回されている。そして、外側ボビン13の中空部13c内に内側ボビン12を挿入配置することにより、1次コイル14と2次コイル15とが同心円状をなすように構成している。
【0017】
前記検出用コイル対16は、基準用コイル対10と同様のものである。具体的には、検出用コイル対16は、第2ボビン17に1次コイル20と2次コイル21とを巻回したものである。第2ボビン17は、軸部18aとフランジ部18bと空洞部18cとを有する内側ボビン18、および、軸部19aとフランジ部19bと中空部19cとを有する外側ボビン19からなる。検出用コイル対16の1次コイル20は、内側ボビン18の軸部18aの外周部に所定の巻き数で巻回され、2次コイル21は、外側ボビン19の軸部19aの外周部に所定の巻き数で巻回されている。そして、外側ボビン19の中空部19c内に内側ボビン18を挿入配置することにより、1次コイル20と2次コイル21とが同心円状をなすように構成している。即ち、本実施形態では、形式的に基準用コイル対10および検出用コイル対16を分類しているが、実質的には同一構成である。
【0018】
そのうち、基準用コイル対10の1次コイル14と検出用コイル対16の1次コイル20とは、変換器22の発振回路23に対してそれぞれ個別に接続されている。また、基準用コイル対10の2次コイル15と検出用コイル対16の2次コイル21とは、差動出力を得るように変換器22の同期検波回路24に対して直列に接続されている。具体的には、これら2次コイル15,21は、一端がそれぞれ同期検波回路24に接続され、他端が互いに接続されている。そして、これらは、励磁により発生する磁界が対向するように、その巻回方向および接続端が設定されている。言い換えれば、2次コイル15,21は、差動出力が得られるように互いの一端が接続され、各他端が同期検波回路24に接続されている。以上の基準用コイル対10および検出用コイル対16に関する説明から明らかなように、本実施形態の基準用コイル対10と検出用コイル対16とは、1個の1次コイルと2個の2次コイルとを有する従来の差動トランスを2分割したものである。
【0019】
前記変換器22は、基準用コイル対10と検出用コイル対16に対して、交流信号を印加することにより、出力される差動出力(電圧)をパーソナルコンピュータ等の機器で読み込み可能に変換するものである。なお、この変換器22には、シリアル通信用信号インタフェース22aを配設し、外部監視機34に対してデジタル回線によるシリアルインタフェース接続を行い、配線を削減できるように構成している。
【0020】
この変換器22は、図1に示すように、基準用コイル対10の1次コイル14および検出用コイル対16の1次コイル20に対して同位相、かつ、同電流または同電圧の交流信号を印加するための発振回路23を備えている。また、発振回路23は、2次コイル15および2次コイル21から差動出力を得る同期検波回路24に発振信号を出力する構成としている。
【0021】
前記同期検波回路24は、2次コイル15または2次コイル21から入力された差動出力値を、発振回路23の発振信号に同調して検波および整流し、平滑した直流電圧信号をゼロ点調整回路25に出力するものである。このゼロ点調整回路25は、パイプP内を流動する流体に磁性粉が含まれていない場合の基準値が記憶され、同期検波回路24から入力された直流電圧信号がゼロ点(磁性粉を含んでいない)を示す場合に、出力がゼロとなるように調整して、増幅回路26に出力するものである。この増幅回路26は、入力された信号を増幅(gain)してA/D回路27に出力するものである。このA/D回路27は、入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して演算処理部31に出力するものである。
【0022】
また、変換器22は、温度の影響によるゼロ点変動を補正するための温度/電圧変換回路28を備えている。この温度/電圧変換回路28は、検出対象部位である基準用コイル対10の近傍に抵抗型の温度センサ29を配設し、この温度センサ29による検出値が入力される。そして、その検出値を電圧信号に変換してA/D回路30に出力するものである。なお、このA/D回路30は、入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して演算処理部31に出力するものである。
【0023】
前記演算処理部31は、ゼロ点調整回路25、増幅回路26およびA/D回路27を介して同期検波回路24から入力された直流電圧信号(差動出力値)、および、A/D回路30を介して温度/電圧変換回路28から入力されたゼロ点補正信号に基づいて、温度影響によるゼロ点を補正して、流体が含有する磁性粉濃度に相当する電圧信号を演算し、D/A回路32に出力するものである。D/A回路32は、入力されたデジタル信号をアナログ信号に変換してV/I回路33に出力するものである。このV/I回路33は、電圧を電流に変換してシリアル通信用信号インタフェース22aを介して変換器22から外部に出力するものである。即ち、一対の2次コイル15,21による差動トランスの出力は、所定の電流信号として出力される。
【0024】
本実施形態では、変換器22で得た流体が含有する磁性粉濃度に相当する電流信号を、外部監視機34に送信する構成としている。この外部監視機34はパーソナルコンピュータ等からなり、所定の情報(データ)を記憶可能な記憶手段であるメモリ35と、制御および判断手段の役割をなすマイコン36とを備えている。マイコン36は、所定時間毎に変換器22から受信した電流信号を磁性粉濃度相当値に変換してメモリ35に記憶し、設備診断やデータ処理を行う構成としている。なお、この外部監視機34は、産業機械を設置した工場内に設置してもよく、また、ネットワークにより離れた場所に通信可能に設置してもよい。
【0025】
本実施形態のマイコン36は、メモリ35に記憶された複数の磁性粉濃度相当値に基づいて磁性粉濃度の上昇傾向を判断する濃度傾向判断手段の役割をなす。そして、濃度傾向判断手段としてのマイコン36は、記憶(蓄積)された磁性粉濃度相当値に基づいて周知の方法でグラフ化し、所定の表示手段であるモニタ(図示せず)に表示可能としている(図3参照)。また、変換器22から入力された磁性粉濃度相当値が、予め設定した濃度しきい値(例えば0.3%)を越えると、その状態を監視者に音や表示により報知可能に構成している。
【0026】
また、本実施形態のマイコン36は、変換器22を介して2次コイル15,21から入力された磁性粉濃度相当値に基づいて、磁性粉体の大きさを判断する粒子状態判断手段の役割をなす。この粒子状態判断手段としてのマイコン36は、流体の流速に対して予め設定した適切なサンプリングピッチで磁性粉濃度相当値を取り込む。ここで、このサンプリングピッチとしては、流速2m/日のグリースの場合には1分程度、流速100mm/分のオイルの場合には1秒程度が妥当である。即ち、流体が1mmから2mm程度流動する毎にサンプリングすることが好ましい。そして、単位時間当たりの平均値とピーク値とにより尖頭度(ピーク値/平均値)を演算することにより、特異なサイズの磁性体粒子の含有を判断する構成としている。
【0027】
さらに、本実施形態では、磁性粉体の許容寸法に基づいて粉体寸法しきい値(例えば濃度0.04%)が設定されている。そして、粒子状態判断手段としてのマイコン36は、予め設定した単位時間(サンプリング回数)内に粉体寸法しきい値を超えた回数(ピークカウント)により、特異なサイズの磁性体粒子の発生頻度を判断する構成としている(図4参照)。
【0028】
このように構成した濃度検出装置は、例えば、産業機械の軸受部の近傍に閉塞された差動トランス収納盤37を設け、その内部に基準用コイル対10と検出用コイル対16とを固定する。そして、検出用コイル対16の空洞部18cには、軸受部から排出される潤滑剤を通すパイプPを貫通するように配管する。一方、基準用コイル対10は、空洞部12cに何らパイプPを貫通させることなく配置する。また、温度センサ29は、同様に差動トランス収納盤37内に配設する。なお、パイプPは、テフロン等非磁性体材料からなるものである。
【0029】
そして、産業機械を動作させると、従来と同様に、軸受部に対して潤滑剤が加圧圧送され、軸受部を通過した後の潤滑剤がパイプPを通して排出される。この際、軸受部の劣化や磨耗に伴い、軸受部の形成材料である磁性(鉄)粉が潤滑剤に混入する。そこで、本実施形態の濃度検出装置は、産業機械の動作中には変換器22を動作させることにより、潤滑剤に含まれる磁性粉の濃度を検出する。
【0030】
具体的には、発振回路23を動作させることにより、2組のコイル対10,16の1次コイル14,20に対して同位相、かつ、同電流または同電圧の交流信号を印加する。これにより、軸受部の劣化や磨耗がなく、潤滑剤に磁性粉が混入していない場合には、基準用コイル対の2次コイル15と検出用コイル対16の2次コイル21とでは、透磁率が同一となる。即ち、2次コイル15,21での透磁率の差がないため、電圧差がゼロとなり、何ら出力はされない。一方、潤滑剤に磁性粉が混入している場合には、その磁性粉濃度(量)に応じて透磁率が変化する。その結果、磁性粉により生じる透磁率の差に応じた電圧(差動出力値)が出力される。
【0031】
この差動出力は、変換器22の同期検波回路24にて検波および整流して平滑された直流電圧信号に変換される。ついで、この直流電圧信号がゼロ点調整回路25にてゼロ点補正された後、増幅回路26にて増幅される。その後、増幅された信号がA/D回路27にてデジタル信号に変換された後、演算処理部31にて温度センサ29の検出値に応じてゼロ点補正して出力される。そして、D/A回路32にてアナログの電圧信号に変換された後、V/I回路33にて電流信号に変換されて出力される。
【0032】
出力された電流信号を受信する外部監視機34では、予め記憶したデータテーブルまたは演算式に基づいて、入力された電流信号を磁性粉濃度相当値に換算してメモリ35に記憶する。また、この外部監視機34には、パイプP内を流動する潤滑剤の磁性粉濃度に相当する電流信号が連続的にオンラインで入力される。
【0033】
そして、外部監視機34のマイコン36は、まず、図3に示すように、入力された磁性粉濃度を経過(入力)時間に従ってグラフ化するとともに、軸受部をメンテナンスする必要があることを意味する濃度しきい値を越えたか否かを判断する。そして、濃度しきい値を越えていない場合には監視を継続し、濃度しきい値を越えた場合には、監視者に音や表示により報知する。なお、この外部監視機34を産業機械を設置した工場の外部に設置し、ネットワーク接続している場合には、その監視者が工場に連絡を入れる。または、ネットワーク通信により同様の報知を行う。
【0034】
また、マイコン36は、前述した濃度傾向判断と並行して、特異サイズの粒子混入状態の判断を行う。即ち、経過時間に従って順次入力された磁性粉濃度の単位時間当たりの平均値とピーク値により尖頭度を演算する。そして、その尖頭度と粉体寸法しきい値とを比較し、許容寸法を超える特異サイズの磁性体粒子の有無を判断する。ここで、許容寸法より小さい磁性粉の集合を検出した場合、その時の尖頭度は粉体寸法しきい値を越える。そのため、本実施形態では、単位時間(例えば1時間)内に尖頭度が粉体寸法しきい値を所定回数(例えば5回)越えた際に、前記と同様にして報知処理を行う。
【0035】
このように、本実施形態の一対の1次コイル20と2次コイル21とを有する検出用コイル対16の空洞部18cに、磁性粉が含まれる潤滑剤(液体)が流動するパイプPを貫通させて配設するとともに、一対の1次コイル14と2次コイル15とを有する基準用コイル対10とを配設し、各2次コイル15,21を差動出力が得られるように結線するとともに、1次コイル14,20に同位相かつ同電流または同電圧の交流信号を印加する構成としている。そのため、2次コイル15,21からパイプP内を流動する液体が含有する磁性粉濃度(量)に応じた差動出力を得ることができる。
【0036】
そのため、この差動出力値を変換器22を介して外部監視機34が読み込むことにより、流体が含有する磁性粉濃度を検出することができる。また、各コイル対10,16は、軸受部の内部に組み込む必要がないため、潤滑剤全ての状態をオンラインで時系列に監視することが可能であり、タイムリーで精密な状態監視機能を実現できる。その結果、人手が不要になるため、高温や悪環境な軸受設備の劣化監視に関する安全性を確保できるとともに、コストダウンを図ることができる。
【0037】
しかも、本実施形態では、外部監視機34のマイコン36により磁性粉濃度の上昇傾向を判断可能に構成しているため、軸受部の劣化や磨耗の早期判断(予測)が可能となるうえ、その傾向を管理することができる。また、ピーク値と平均値とで、設備劣化に及ぼす影響が大きい磁性粉体の大きさを判断可能に構成するとともに、発生頻度を判断可能に構成しているため、磁性粉の粒子サイズを良否推定する機能を併せ持ち、更に確実に軸受部の劣化や磨耗の早期判断(予測)が可能となるうえ、その傾向を管理することができる。
【0038】
図5は第2実施形態の濃度検出装置を示す。この第2実施形態では、複数の軸受部を1個の変換器22で検出可能とするとともに、1個の基準用コイル対10を共用し各軸受部B1,B2,…,Bnには検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nだけを配設するようにした点で、第1実施形態と大きく相違する。なお、以下の説明では、第1実施形態と同一部分は同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0039】
具体的には、第2実施形態の基準用コイル対10は、第1実施形態と同様に、一対の1次コイル14と2次コイル15とを第1ボビン11に巻回したものである。また、検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nも同様に、一対の1次コイル20と2次コイル21とを第2ボビン17に巻回したものである。そして、各検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nの2次コイル21と、基準用コイル対10の2次コイル15とは、変換器22に搭載したマルチプレクサ38によって切り換えにより1個と接続する構成としている。
【0040】
第2実施形態の変換器22は、基準用コイル対10および検出用コイル対16−1,16−2,…,16−n毎に、それぞれ専用の発振回路23−0,23−1,23−2,…,23−nが設けられている。これら発振回路23−0,23−1,23−2,…,23−nは、基準用コイル対10および検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nの各1次コイル14,20に対して全て同位相かつ同電流または同電圧の交流信号を印加する構成としている。ここで、発振回路16は1回路を切り換えて共用することも可能である。しかし、コイル起動後の動作安定時間を短縮させるためには、本実施形態のように、各1次コイル14,20に設け、これらを常時駆動しておき、2次コイル15,21の側の接続状態を切り換える構成が有効である。
【0041】
また、第2実施形態の変換器22は、第1実施形態と同様の同期検波回路24を備えている。この同期検波回路24には、第1実施形態と同様に、基準用コイル対10の第2コイル15の一端が接続されている。また、同期検波回路24は、第1番目から第n番目までの検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nの2次コイル21が、切換手段であるマルチプレクサ38を介して接続されている。このマルチプレクサ38は、第1番目から第n番目までの検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nの2次コイル21のうち1個と、同期検波回路24とを選択的に接続するものである。即ち、第2実施形態では、基準用コイル対10の2次コイル15と、検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nの各2次コイル21とが、マルチプレクサ38を介して差動出力を得るように接続されている。
【0042】
さらに、第2実施形態の変換器22は、演算処理部31がマイコンにより構成されている。この演算処理部31は、第1実施形態と同様に、ゼロ点調整回路25、増幅回路26およびA/D回路27を介して同期検波回路24から入力された直流電圧信号、および、A/D回路30を介して温度/電圧変換回路28から入力されたゼロ点補正信号に基づいて、温度影響によるゼロ点を補正して、流体が含有する磁性粉濃度に相当する電圧信号を演算して出力する。そして、第2実施形態では更に、マルチプレクサ38に対して所定時間毎に接続状態を切り換えるように制御信号を出力するものである。これにより、第1番目から第n番目までの検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nからの差動出力値を順次受信できるように構成している。
【0043】
このように構成した第2実施形態の濃度検出装置は、第1実施形態と同様に、基準用コイル対10、各検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nおよび温度センサ29が、差動トランス収納盤37の内部に配設される。そして、各軸受部B1,B2,…,Bnに接続したパイプP1,P2,…,Pnが、各検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nの第2ボビン17の空洞部18cを貫通するように配管される。
【0044】
これにより、各発振回路23−0,23−1,23−2,…,23−nから1次コイル14,20に対して交流信号を印加することにより、各検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nの2次コイル21から差動出力を得ることができる。そして、演算処理部31は、各検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nが順番に同期検波回路24と接続されるように、所定時間毎に順次切り換えることにより、各軸受部B1,B2,…,Bnの劣化や磨耗を監視することができる。
【0045】
このように、第2実施形態では、第1実施形態と同様に、複数の軸受部B1,B2,…,Bnが近接配置されている連鋳設備産業機械であっても、第1実施形態と同様に、オンラインで各軸受部B1,B2,…,Bnを監視することができ、同様の作用および効果を得ることができる。しかも、第2実施形態では、1個の基準用コイル対10を共用する構成としているため、複数のパイプP1,P2,…,Pnに対して配設するものは、1次コイル20と2次コイル21とからなる1組の検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nのみとなる。そのため、パイプP1,P2,…,Pnの周囲である検出部に配設する部品点数を削減できる。その結果、検出部に相当する差動トランス収納盤37の小型化およびコストダウンを図ることができるため、小型で低コストの多点監視機能を実現できる。
【0046】
なお、本発明の流体含有磁性粉濃度検出装置は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0047】
例えば、前記実施形態では、各コイル対10,16のボビン11,17に対して、1次コイル14,20を内側に巻回し、2次コイル15,21を外側に巻回する構成としたが、2次コイル15,21を内側に巻回し、1次コイル14,20を外側に巻回する構成としてもよい。
【0048】
また、1次コイル14,20と2次コイル15,21とは、同心円状をなすように内外に巻回させる構成に限られず、図6に示すように、軸部39aの上下および中央にフランジ部39bを設けたボビン39を設け、各フランジ部39b,39bの間に位置するように1次コイル14,20と2次コイル15,21と巻回させる構成としてもよい。
【0049】
さらに、第1実施形態では、各コイル対10,16の1次コイル14,20を発振回路23に対して個別に並列接続したが、直列に接続してもよい。
【0050】
また、第2実施形態のように、変換器22の演算処理部31をマイコンにより構成する場合、この演算処理部31にて外部監視機34のマイコン36の役割をなすように構成してもよい。即ち、変換器22に、圧電ブザーなどの音声出力装置やランプなどの表示装置を搭載し、これらにより軸受部Bのメンテナンス時期になったと判断した場合に報知する構成としてもよい。
【0051】
さらに、第2実施形態では、複数の軸受部B1,B2,…,Bnを監視するために、マルチプレクサ38によって複数の検出用コイル対16−1,16−2,…,16−nと1個の同期検波回路24とを切換可能に接続する構成としたが、軸受部B1,B2,…,Bnに対して第1実施形態に示す濃度検出装置を個別に設置してもよいことは言うまでもない。
【0052】
また、各実施形態では、検出用コイル対16の空洞部18cにパイプPを貫通させ、このパイプP中を流動する液体(潤滑剤)に含まれる磁性粉濃度を検出するようにしたが、パイプPを使用することなく、空洞部18cを流体通路として使用して流体を流動させ、含有する磁性粉濃度を検出する構成としてもよい。
【0053】
さらに、前記実施形態では、外部監視機34のマイコン36は、入力された差動出力値に相当する電流信号を、後の制御および判断に有効な磁性粉濃度相当値に変換してメモリ35に記憶する構成としたが、差動出力値そのものを記憶する構成としても、同様の作用および効果を得ることができる。
【0054】
そして、前記実施形態では、本発明の濃度検出装置を、軸受部の状態を監視するために用いたが、パイプP中を流動される液体に含有する磁性粉の濃度を検出する目的であれば、いずれの装置でも適用可能であり、同様の作用および効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態の流体含有磁性粉濃度検出装置を示すブロック図である。
【図2】各コイル対を示し、(A)は断面図、(B)は分解斜視図である。
【図3】流体含有磁性粉濃度検出装置による経時的な濃度検出推移を示すグラフである。
【図4】特異サイズの磁性粉を検出した状態を示すグラフである。
【図5】第2実施形態の流体含有磁性粉濃度検出装置を示すブロック図である。
【図6】コイル対の変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
10…基準用コイル対
11…第1ボビン
12c…空洞部
14…1次コイル
15…2次コイル
16…検出用コイル対
17…第2ボビン
18c…空洞部
20…1次コイル
21…2次コイル
22…変換器
34…外部監視機
35…メモリ(記憶手段)
36…マイコン(濃度傾向判断手段,粒子状態判断手段)
37…差動トランス収納盤
38…マルチプレクサ(切換手段)
B…軸受部
P…パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞部を有する筒状の非磁性体からなる第1ボビンに1次コイルと2次コイルとを巻回した基準用コイル対と、
空洞部を有する筒状の非磁性体からなる第2ボビンに1次コイルと2次コイルとを巻回し、その2次コイルを前記基準用コイル対の2次コイルに対して差動出力を得るように接続した検出用コイル対とを備え、
前記検出用コイル対の空洞部に、磁性粉を含有する流体を流動させるとともに、前記基準用コイル対および検出用コイル対の各1次コイルに、同位相かつ同電流または同電圧の交流信号を印加し、
前記2次コイルから出力される差動出力により、流体が含有する磁性粉濃度を検出可能としたことを特徴とする流体含有磁性粉濃度検出装置。
【請求項2】
前記検出用コイル対を複数設ける一方、前記基準用コイル対を共用の1個のみとし、
前記各検出用コイル対の空洞部にそれぞれ異なる部位からの流体を流動させるとともに、前記基準用コイル対の2次コイルと複数の検出用コイル対の2次コイルとを順次接続するように切り換える切換手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の流体含有磁性粉濃度検出装置。
【請求項3】
前記2次コイルから出力される差動出力値を順次記憶する記憶手段を設けるとともに、該記憶手段に記憶された複数の磁性粉濃度に基づいて磁性粉濃度の上昇傾向を判断する濃度傾向判断手段を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の流体含有磁性粉濃度検出装置。
【請求項4】
前記2次コイルから出力された複数の差動出力値の平均値とピーク値とで、磁性粉体の大きさを判断する粒子状態判断手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の流体含有磁性粉濃度検出装置。
【請求項5】
磁性粉体の許容寸法に基づいて予め粉体寸法しきい値を設定し、粒子状態判断手段は、予め設定した単位時間内に粉体寸法しきい値を超えた回数により、特異なサイズの磁性体粒子の発生頻度を判断するようにしたことを特徴とする請求項4に記載の流体含有磁性粉濃度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−122112(P2010−122112A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296942(P2008−296942)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(390000011)JFEアドバンテック株式会社 (32)
【Fターム(参考)】