説明

流体噴射弁による噴霧生成方法、流体噴射弁及び噴霧生成装置

【課題】燃料噴霧の微粒化と、噴霧形状/噴霧パターン/噴射量分布の設計自由度向上を両立させた流体噴射弁による噴霧生成方法、流体噴射弁及び噴霧生成装置を提供する。
【解決手段】流体通路の途中に弁座面を有する弁座と、弁座面への離着座により流体通路の開閉を制御する弁体と、弁座よりも下流に位置し複数の噴孔12を有する噴孔プレートとを有し、各噴孔内流れや各噴孔直下流れを略液膜流とした流体噴射弁による噴霧生成方法おいて、各噴孔12からの噴流30,31の方向を必ずしも噴孔の中心軸方向と一致させず、かつ、必ずしもその下流で交差させず、各噴孔12からの噴流がブレーク長さaより長い下流位置において噴霧となってから、複数の噴霧間に作用するコアンダ効果で噴霧を集合させるようにし、それらのコアンダ効果が実質的に作用しなくなるまで噴霧の集合化を継続させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(以下エンジンと呼ぶ)用燃料噴射弁等に好適な噴霧生成方法、流体噴射弁及び噴霧生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの車両用エンジンにおいては、燃料噴霧の微粒化などによるエンジン冷機時の排出ガス低減や、燃焼性改善などによる燃費向上の研究開発が積極的に進められている。
【0003】
ガソリンエンジンの燃料噴射システムは、ポート噴射システムと筒内噴射システムとに分けられる。
筒内噴射システムの燃焼コンセプトを成立させる重要な3要素は、噴霧仕様(噴射位置を含む)と筒内空気流動と燃焼室形状である。
これらのマッチングが可能となって始めて燃焼コンセプトは成立するが、エンジンの回転数や負荷に応じて筒内圧や筒内空気流動は変化し、それに見合った燃料噴射量や噴射タイミングにすることによって噴霧特性や筒内での噴霧挙動は変化するので、いろいろな運転条件下で筒内壁面への噴霧燃料付着を抑制して、且つ常に上記3要素をマッチングさせるということは、エンジンルーム内レイアウトの制約もあり、難しい課題となっている。
【0004】
一方、ポート噴射システムにおいても、筒内噴射システムにおける燃焼コンセプト成立のための3要素と同様に、噴霧仕様(噴射位置を含む)と吸気流動と吸気ポート形状が、より最適な噴射系実現のための3要素であると言える。
ポート噴射システムは、吸気2弁の場合はそれに対応した2方向噴霧(2スプレー)で吸気弁を狙って噴射する形態が一般的であり、その上で噴霧の微粒化を向上させながら、噴霧が吸気ポート壁面に付着しないような形状や噴霧方向狙いとするような開発が行われているが、エンジンルーム内レイアウトの制約から吸気ポート形状やそれに伴う吸気流動は必ずしもより最適化できるとは限らないので、噴霧の微粒化向上と噴霧形状/噴射方向狙いを両立させる方策は明確には開示されていない。
【0005】
また、中大型二輪車ではレイアウトの制約から吸気弁を狙った燃料噴射ができない車両も多くあり、この場合どのような噴射系コンセプトが最適なのかが必ずしも明確でない面もあるので、今後の開発が期待されている。
【0006】
さらに、小型二輪車、船外機、汎用エンジンなどでは、気化器からポート噴射システムへの移行期にあり、吸気1弁のエンジンも多く、やはりレイアウトの都合から、1方向噴霧(1スプレー)で吸気弁を狙えたり狙えなかったりという噴射形態になっているのが実情であるが、今後、排出ガス低減や燃費向上が一層要求されてくることになるのは明らかであり、システムコストを抑制した最適仕様が求められてくることになる。
【0007】
上述したように、ガソリンエンジンでの従来のポート噴射システムにおけるマッチングは、2スプレーの噴霧仕様の場合、具体的には、各スプレーの噴霧角と噴射方向直角断面の噴射量分布イメージ、2スプレーの噴射角(挟み角)、噴霧のあるポイントでの代表粒径レベル程度の内容をパラメータとして行っている。
【0008】
より具体的には、各スプレーの噴射方向直角断面形状は、略円形か略楕円となっており、その噴射量分布はほぼ中心近辺にピークがある略円錐状中実分布を基本仕様として、必要に応じて微粒化の向上を計っており、微粒化のレベルと噴霧角とは相関があるために、片方を優先すると他方は成り行きとなるのが実情であった。
なお、中心付近に噴射量分布のピークができるのは、各噴孔からの噴射方向をそれらが集中する方向に向けているからであり、従って比較的中心部の分布率が高いものとなっていた。
なお、1スプレーについても、上述した内容の関連部分と同様のことが言える。
【0009】
このような課題に対しては、例えば、特許文献1〜6のように、ノズルあるいは噴霧について種々の提案が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−233145号公報
【特許文献2】特開2004−225598号公報
【特許文献3】特開2008−169766号公報
【特許文献4】特開2005−207236号公報
【特許文献5】特開2007− 77809号公報
【特許文献6】特開2000−104647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、これらの提案では、噴霧の微粒化向上と、噴霧形状、噴霧パターンや噴射量分布の設計自由度向上を両立させる方策が示されておらず、従って、エンジン仕様毎に吸気ポート形状や吸気流動が異なるという実情の中で、より最適な噴霧仕様を決めるための指針とはなっていない。
これに関して、上記の特許文献毎に説明する。
【0012】
特許文献1においては、マルチホールからの液柱の干渉を低減するために液柱間の空気領域を確保し、噴霧へのばらけを促進して燃料の微粒化を促進している。
円錐表面の一部のような液柱の配置を工夫して微粒化を促進しているが、実際には液柱の干渉する位置ではほとんどが液糸か液滴に近い状態になっている必要がある。
なぜなら、液柱の状態で干渉すると微粒化が悪化してしまうからである(特許文献1の段落0006参照)による)。
つまり、液柱が干渉する位置をより下流になるように噴孔を配置したに過ぎず、複数の噴霧から形成される噴霧パターンや全体噴霧の形状をコントロールする方策は示されていない。
従って、必然的に全体噴霧は広がり気味となってその設計自由度は小さいものとなり、適用できる吸気ポート形状や吸気弁配置などに制約が生じる。
【0013】
特許文献2においては、燃料の噴射量分布の重心を2スプレーの噴霧外形中心よりも内側寄りとして、両吸気弁の内側寄りを狙う噴霧とし、吸気弁背面に付着した燃料が気流によって吹き飛ばされた場合にシリンダボア壁面への燃料付着量が最も少なくなるようにしている。
しかし、近年、燃料噴射弁からの噴流の微粒化技術はかなり進展しており、吸気弁に到達する時点では燃料は微粒化レベルは別としても十分にばらけた噴霧となっている。
従って、排気行程噴射であっても、閉じた吸気ポート内での空気流動のために、吸気ポートや吸気弁に付着する噴霧燃料よりも吸気ポート内に漂ったままの噴霧燃料のほうが多くなっている。
また、吸気弁の流路を通過する際の微粒化効果だけでは筒内での燃料の完全気化と完全燃焼は期待できない場合があり、未燃HCの排出を十分に低減することはできない。
特に、冷間始動直後は、吸気ポートや吸気弁の温度は低く、この場所での噴霧燃料や付着
燃料の早期の気化を期待することはできない。
【0014】
排出ガス規制はますます厳しくなっているため、燃料噴霧の微粒化が進んでも、なおかつ吸気ポートや吸気弁への燃料付着を低減して未燃HCの排出を低減しなければならない。噴射燃料の吸気ポートや吸気弁への付着が減少すればするほど、当該サイクルにおける噴射量と燃焼性能つまり排出ガス、燃費、出力との関係が明確になるわけであり、制御性を含めて噴射系全体をより最適化することが可能となる。
従って、完全気化、完全燃焼のために噴霧はできるだけ微粒化しておく必要があるが、特許文献2にはその実現手段の記載がない。
また、噴射量分布は、各々の噴孔からの独立した液柱噴流が適度に干渉して一体化したイメージの噴射量分布を模式的に示しているものであり、各々の噴孔からの液柱噴流がばらけて噴霧となった場合の噴射量分布は示されておらず、適用できる吸気ポート形状や吸気弁配置などが不明である。
【0015】
特許文献3においては、各噴孔からの噴霧が干渉しないように配置の工夫を行い、微粒化を促進するとともに、噴射量分布の偏りを低減している。
しかし、特許文献1と同様、噴霧が干渉するのを避けたに過ぎず、従って複数の噴霧から形成される噴霧パターンや全体噴霧の形状は必然的に広がり気味となってその設計自由度は小さいものとなり、適用できる吸気ポート形状や吸気弁配置などに制約が生じる。
また、噴孔を内側にも配置して噴射量分布の偏りを低減したとあるが、内側に噴孔が配置されていない場合に比べて相対的にそのように言えるだけであり、各々の噴孔からの独立した液柱噴流が干渉を避けながら微粒化して、偏りの低下した噴射量分布になる方策についての説明がないので、適用できる吸気ポート形状や吸気弁配置などが不明である。
【0016】
特許文献4においては、衝突により得られる微粒化噴霧と、貫徹力の強いリード噴霧とを形成し、後者が前者を牽引して噴霧の飛散を抑制し、吸気弁中心位置よりも内側方向に燃料噴霧濃度を濃くするのが好ましいとしている。
しかし、噴流を衝突させて微粒化させるには、衝突位置は噴流のブレーク長さよりも短い位置にする必要があり、この場合、微粒化するがために噴流(噴霧)は飛散することになり、また、この衝突によって噴流が有していたエネルギーの内のいくらかは飛散した噴霧粒子の表面張力に転換されるので、貫徹力が低下することになる。
従って、この衝突によって飛散し、貫徹力が低下した噴霧を同時に噴射された貫徹力の強いリード噴霧が牽引するとしても、これらの噴霧先端部の挙動は時刻的にタイミングが合わず、噴射期間が短い小噴射量の場合は衝突により飛散した噴霧が取り残されてリード噴霧が先に進んでしまうことになる。
また、リード噴霧によって生じる誘引渦は特許文献4の図4に示された以外に、同時にリード噴霧外周と雰囲気とのせん断力のバランスによって決まるある噴射方向下流位置でリード噴霧外周に円環渦を形成するので、飛散した噴霧はこの円環渦に取り込まれてそれより噴射方向下流に進むことができなくなる。
このように、リード噴霧が飛散した微粒化噴霧を牽引して進むには種々の制約条件を必要とするので、過渡運転時の非定常状態の多いガソリンエンジン用の噴射系システムとしては不向きであり、より簡便に噴霧パターンや全体噴霧の形状の設計自由度を向上させる手法が望まれる。
【0017】
特許文献5においては、吸気弁システムを避けて吸気弁傘部上に多くの燃料を付着させる噴霧パターンとし、吸気弁を通過する際の微粒化を利用するものである。
しかし、特許文献2と同じ問題がある。
【0018】
特許文献6においては、各噴霧の干渉を回避して微粒化を図りつつ、かつ、各噴霧のコアンダ効果により互いに引き合いながら進むので噴霧の進行方向のバラツキを防止できる
としている。
しかし、各噴霧が広がり過ぎないようにコアンダ効果を作用させ、かつ一方では各噴霧が集まらないようにコアンダ効果を抑制するというような噴霧方向のバランス維持は、静的な雰囲気条件下でも難しく、ましてや吸気ポート内では周囲空気圧力・温度、吸気流動、噴霧体積(重量)流量、噴霧速度などの影響も受けるため、過渡運転時の非定常状態の多いガソリンエンジン用の噴射系システムで実現するのは非常に難しい。
つまり、ここでのコアンダ効果の役割には、コンパクトな集合噴霧を形成するという積極的な意図はなく、全体噴霧の噴霧形状や噴霧パターン、噴射量分布は成り行きとなっていた。
【0019】
本発明は、上記のような問題に鑑み、燃料噴霧の微粒化と、噴霧形状/噴霧パターン/噴射量分布の設計自由度向上を両立させた流体噴射弁による噴霧生成方法、流体噴射弁及び噴霧生成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、流体通路の途中に弁座面を有する弁座と、前記弁座面への離着座により前記流体通路の開閉を制御する弁体と、前記弁座よりも下流に位置し複数の噴孔を有する噴孔プレートとを有し、各噴孔内流れや各噴孔直下流れを略液膜流とした流体噴射弁による噴霧生成方法おいて、前記各噴孔からの噴流の方向を必ずしも噴孔の中心軸方向と一致させず、かつ、必ずしもその下流で交差させず、前記各噴孔からの噴流がブレーク長さより長い下流位置において噴霧となってから、複数の噴霧間に作用するコアンダ効果で噴霧を集合させるようにし、それらのコアンダ効果が実質的に作用しなくなるまで噴霧の集合化を継続させたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の流体噴射弁による噴霧生成方法によれば、排気行程噴射では噴霧が吸気ポート内に浮遊することになり、吸気行程噴射では吸気弁から筒内へ流入する吸気流動に追随して噴霧が筒内へ流入することになり、早い段階から混合気形成が進むことになるので、筒内でもより均質化された混合気形成が実現しやすくなる。
【0022】
特に、ポート噴射システムにおいて、より種々の吸気ポート形状や吸気弁配置に対しても適用することが可能となる噴霧形態、具体的には全体噴霧の広がりをコンパクトにしたままで微粒化を向上させることができると共に、噴射タイミングなどによらず吸気ポート壁面や吸気弁への噴霧の付着を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1の燃料噴射弁を示す全体断面図である。
【図2】図1における燃料噴射弁の先端部の拡大図である。
【図3】図2における噴孔プレートの平面図である。
【図4】図1における燃料噴射弁の先端部の拡大図である。
【図5】図2における噴孔部の拡大図である。
【図6】実施の形態1,2の噴霧が集合する基本形を示す説明図である。
【図7】実施の形態3の噴霧が集合する様子を示す説明図である。
【図8】実施の形態4の噴霧が集合する様子を示す説明図である。
【図9】実施の形態5の噴霧が集合する様子を示す説明図である。
【図10】実施の形態6の噴霧が集合する様子を示す説明図である。
【図11】実施の形態7の噴霧が集合する様子を示す説明図である。
【図12】実施の形態8の噴霧が集合する様子を示す説明図である。
【図13】実施の形態9の噴霧が集合する様子を示す説明図である。
【図14】実施の形態10の噴霧を示す説明図である。
【図15】実施の形態11の噴射系を示す説明図である。
【図16】実施の形態12の噴射系を示す説明図である。
【図17】実施の形態13の噴射系を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1を図1および図2に基づき説明する。
図1は燃料噴射弁1の全体断面図、図2は図1における燃料噴射弁1の先端部の拡大図であり、この燃料噴射弁1は内燃機関の吸気管に取り付けられ、上部から加圧燃料が供給され
ている。
【0025】
燃料噴射弁1の下部先端は内燃機関の吸気ポート内に臨んでおり、下方に向けて燃料を
噴射する。
電磁力を発生するソレノイド装置2は、磁気回路のヨーク部分をなすハウジング3、固定鉄心をなすコア4、コイル5、可動鉄心であるアマチュア6で構成される。
弁装置7は、主に弁本体9の内部にあって、燃料噴射弁1の先端部分に設けられた弁座10と
、弁座10の下流側に設けられた噴孔プレート11と、弁座10の内部で噴孔プレートの上流に設けられたカバープレート18と、弁本体と弁座の内面に外周が接する弁体8と、弁体上流
に設けられた圧縮バネ14とで構成されている。
弁体8は、中空のロッド8aの上流側にアマチュア6が設けられており、下流側にボール13
が設けられている。
【0026】
弁本体9はコア4の先端外径部に圧入、溶接されている。アマチュア6の内面にはロッド8aが圧入、溶接されている。
ロッド8aの下流側にはボール13が溶接されており、ボール13には燃料噴射弁の中心軸Z
に平行な面取り部13aが設けられている。
燃料噴射弁1の先端には、噴孔プレート11が弁座10の先端面及び弁本体9の内面に溶接されている。噴孔プレート11には板厚方向に貫通する複数の噴孔12が開口している。
【0027】
コイル5への通電がない状態では、弁体8はロッド8aを介して圧縮バネ14に下方に押し
付けられており、ボール面13cが弁座面のシート部R1で接触しており、燃料流路が閉じた状態となっている。
コイル5の通電によりアマチュア6に一体化された弁体8が上方向へ移動を開始すると、弁
座面10aからボール面13cが離れ、燃料流路が形成される。アマチュアの上面6aがコア4
に当接すると、弁体8は全開のストローク状態となる。
【0028】
図3は図2のJ矢視による噴孔プレート11の平面図である。
噴孔プレート11には、燃料噴射弁1のZ軸に対して下流に向けて外側に向かう10個の噴孔12が円環状に配置されている。
噴孔中心軸あるいは噴流方向は内燃機関の吸気弁を指向して図3の左右の2方向に向かう噴孔群に分かれている(2スプレー)。
【0029】
次に動作について説明する。
図示省略した内燃機関の制御装置より燃料噴射弁1の駆動回路に動作信号が送られると、
燃料噴射弁1のコイル5に電流が通電され、アマチュア6はコア4側へ吸引され、アマチュア6と一体構造である弁体8のボール面13cが弁座面10aから離れて両者に間隙が形成され、
燃料噴射が開始される。
次に内燃機関の制御装置より燃料噴射弁1の駆動回路に動作の停止信号が送られると、コ
イル5への通電が停止し、弁体8は圧縮バネ14によって弁座側に押され、ボール面13cと弁
座面10aとは閉じ状態となり、燃料噴射が終了する。
【0030】
ここで、例えば縮流によって噴孔内流れを液膜流とする噴孔プレート11とカバープレート18及び弁座10、ボール13の詳細な位置、構造につき、図2および図4、図5の詳細断面図にて説明する。
【0031】
弁体8の開弁時において燃料はボール13の面取り部13aと弁座10の内面との間のZ軸に
平行な通路から、ボール面13cと弁座面10aの間を下流へ向かいシート部R1に至る。
シート部R1の上流では燃料がZ軸に平行に流れるため、シート部R1を通過した後において燃料は慣性により弁座面に沿う流れが主流となり、弁座面10aの下流端の点P1に達する。P1で弁座面は弁座内周へと屈曲するため、燃料の主流は点P1からはく離する。弁座面の延長線はカバープレート側面と点P2で交わっており、点P1からはく離した燃料は点P2に向かい環状通路Cを通過して、径方向に大幅な進路変更を伴わずに径方向通路Bに流入する。
【0032】
上記によりシート部R1を通過する燃料の主流は環状通路Cに流入するため、隙間通路Aへの流入は抑制される。
シート部R1と噴孔12の入口の点R2を直線で結んだ線は、カバープレート18の薄肉部18bに交叉しており、薄肉部18bはシート部R1から噴孔入口へ燃料の直線的な流入をさえぎっている。
このため噴孔12に流入する燃料の少なくとも一部は、径方向通路Bに沿う流れとなる。終端面18dは噴孔12に近接して配置され、燃料噴射弁中心軸側から噴孔12に流入する戻り流
れの流路を閉塞させ、戻り流れの速度を低下させる。
戻り流れの抑制によりシート部側から噴孔12に流入する正面流れの速度が相対的に強められる。
正面流れの少なくとも一部が径方向通路Bに沿って進行した後に噴孔内で大幅な方向変化を強制されること、正面流れが高速であることにより、噴孔断面において燃料は燃料噴射弁中心軸側の噴孔内面に強く押し付けられる。
なお、図4において、Lは噴孔長さ、Dは噴孔径を示している。
【0033】
図5の噴孔断面において燃料流と空気流の方向を矢印で表す。
噴孔入口で、低速な戻り流れは噴孔内面に沿う流れαを形成し高速な正面流れは燃料を押し付ける流れβを形成する。
空気は噴孔出口から噴孔入口付近に導入され燃料流βに作用して、点Qを起点とした燃料流のはく離を生じさせる。
噴孔内を進行するにともない燃料流は押し付けられ、液膜は噴孔内面の円周方向に広がりつつ噴孔内面に沿う方向に変化していく。
径方向通路高さhに対して噴孔長さLが適切であると、噴孔内で薄い液膜流の状態まで押し付けられる。
そして噴射された燃料液膜流1aは、所定の距離を経て分裂を開始し液糸の状態を経るな
どして微粒化された液滴が生成される。
【0034】
微粒化のプロセスにおいて、液滴を小さくするためにはその分裂の前段階である液糸を細くするのが有効であり、液糸を細くするためにはその分裂の前段階である液膜を薄くしたり液柱を細くしたりするのが有効であり、液膜のほうがより有利であることが従来の知見で分かっている。
そこで、この他に、噴孔に流入する前の燃料流に旋回流を与えて噴孔内に液膜流を形成するなどいろいろな液膜流形成手法が提案されている。
【0035】
本件発明者らは、これらの液膜流形成手法や微粒化プロセスと、それらをベースとした複数噴霧による全体噴霧の噴霧形状、噴霧パターン、噴射量分布の出来映えの関係を調査
検討した結果、「微粒化するためには、噴霧粒子の衝突合体を避けるために噴霧の広がりを広角化すればよい」という従来からの知見に対して、必ずしもこの知見に当てはまらない事実、つまり、噴霧を狭角化しても微粒化が悪化しない手法を見出し、コンパクトな微粒化噴霧を実現した
【0036】
前述したようないろいろな微粒化手法が燃料噴射弁に適用されつつあるが、もともと微粒化のために小噴孔径にして多噴孔化する技術の流れにあり、隣り合う噴孔からの噴流が干渉して微粒化状態が悪化しないような配慮がなされている。
つまり、噴孔中心軸あるいは噴流方向が下流になるほど離れていくような噴孔配置と噴孔諸元あるいは噴流配置と噴流方向とされているので、微粒化とコンパクトな噴霧という要件を両立させることは難しかった。
ここで、ポート噴射システムにおいては、吸気ポートへの燃料付着はなんら良い影響/効
果はなく、これを抑制することが最大の課題である。
従って、噴霧が吸気弁や吸気弁近傍の吸気ポートに付着する率を低減するために微粒化を向上させても、全体噴霧が広がった結果、噴霧側面が別の吸気ポート部分に付着したのではポート噴射システムとしてのメリットはなかなか出せなかった。
【0037】
一方、全体噴霧の広がりを抑制しているものでは、噴孔中心軸あるいは噴流方向が下流すぐのところで交差するような噴孔配置と噴孔諸元あるいは噴流配置と噴流方向とされており、ブレーク長さとの関係など微粒化の要件が考慮されていない。
また、噴孔中心軸の角度は相対的に小さく、薄い液膜流形成には不利であり、従って微粒化プロセスが遅くなって噴流同士の干渉になりやすいために、微粒化レベルを期待値通りに実現できなかった。
【0038】
ここで、本件発明者らは、単噴霧単独の挙動と複数噴霧になった場合の単噴霧の挙動の差に注目し、微粒化噴霧であるが故の新たな現象を見出した。
つまり、噴孔配置と噴孔諸元を決める考え方を、噴孔中心軸あるいは噴流方向から3次元的に検討して下流での全体噴霧の位置と形状ならびに噴射量分布を決めるのではなく、全体噴霧の挙動の特徴を捉えて、それをコントロールするような噴孔配置と噴孔諸元を検討するようにした。
【0039】
図6(a)にその実施の形態の基本挙動の詳細を示す。
隣り合う噴孔12,12からの噴流30,31はブレーク長さの位置で断面E-Eのような配置となっ
ている。このブレーク長さをaとすると、噴流がばらけて噴霧となった噴孔12,12からの距離bの位置で二つの噴霧30,31はその外形を接し始め(断面F-F)、同時に二つの噴霧が向
き合い傾向になっている断面F-Fから、圧力分布に起因して二つの噴霧間に働くコアンダ
効果によって噴霧は接近して断面G-G、断面H-Hのように集合化が進んでいき、コアンダ効果がほぼなくなるまで集合化すると一つの噴霧32となる。
各噴孔12は、主にその噴孔形状寸法、配置、方向、噴孔角度、噴孔L/D(噴孔長さ/噴孔径)によって液膜流形成可否とそのレベルが決まるので、必要十分な微粒化レベルを実現できる基準仕様を決めておけばよい。
次にシミュレーションなどによって各噴流のブレーク長さaが推測できるので、隣り合う噴霧同士がブレーク長さから下流の位置においてコアンダ効果の影響を受けて集合するように、主に各噴孔12の形状寸法、配置、方向、噴孔角度、噴孔L/Dなど、あるいは各噴流
の形状寸法、配置、方向、速度などを調整する。
【0040】
本発明者らが検討を重ねた結果では、各噴孔12を基準に、ブレーク長さaの位置からお
よそブレーク長さの2倍までの位置bの範囲(つまりb≦2a)で各噴霧外形が干渉し始めるようにするのが噴霧の集合化に適していることが分かった。
ここで、より小さい粒子まで微粒化できているほど、噴霧粒子数は多くなるので、各噴霧
粒子周りに生じる空気の渦の数が多くなり、渦のエネルギーのために噴霧雰囲気の静圧が各渦近傍で下るが、静圧が下る箇所が多数あるためコアンダ効果が均等に作用しやすくなる。また、噴霧粒子が小さいのでコアンダ効果の影響を受けやすくなる。
その結果、各噴霧の集合化(一体化)が進み、最終的にコアンダ効果が実質的に作用しなくなるまで噴霧の集合化を継続させるようにしたので、コンパクトな微粒化噴霧を実現することができる。
なお、ポート噴射の場合、ブレーク長さから下流の噴霧粒子の密度は、ガソリン筒内噴射用噴霧やディーゼル用噴霧に比べると極めて低く(ガソリン筒内噴射用噴霧の約1/10、ディーゼル用噴霧の約1/100以下のレベル)、基本的には同様の方向に同様の速度で移動しているために、粒子同士の衝突合体はほとんどないと考えてよい。
また、ポート噴射の場合の燃圧0.3Mpaレベルでは、粒子単独からの分裂も生じていないと考えてよい。
【0041】
ここで、上述した噴霧挙動を生じさせるために、各噴孔12の形状寸法、配置、方向、噴孔角度、噴孔L/Dや噴孔プレート上流のノズル形状などが、あるいは各噴流の形状寸法、
配置、方向、速度などが異なっても構わない。
つまり、よりコンパクトな集合噴霧が要求される場合には図6(b)のように小さい噴霧角に対応して噴霧間距離を小さく、また逆に少し広めの集合噴霧が要求される場合には、図6(c)のように大きい噴霧角に対応して噴霧間距離を大きく設定すればよい。
【0042】
以上のように本発明の実施の形態1によれば、流体通路の途中に弁座面10aを有する弁
座10と、弁座面への離着座により流体通路の開閉を制御する弁体8と、弁座よりも下流に
位置し複数の噴孔12を有する噴孔プレート11とを有し、各噴孔内流れや各噴孔直下流れを略液膜流とした流体噴射弁による噴霧生成方法おいて、各噴孔12,12からの噴流30,31の方向を必ずしも噴孔の中心軸方向と一致させず、かつ、必ずしもその下流で交差させず、各噴孔12からの噴流がブレーク長さaより長い下流位置において噴霧となってから、複数の噴霧間に作用するコアンダ効果で噴霧を集合させるようにし、それらのコアンダ効果が実質的に作用しなくなるまで噴霧の集合化を継続させるようにしたもので、これにより、燃料噴霧の微粒化と、噴霧形状/噴霧パターン/噴射量分布の設計自由度向上を両立させることができる。
【0043】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2について図6(a)で説明する。
図6(a)の断面E−Eに示すように、各噴孔直下での噴流断面形状である略長円状あるいは略三日月状などの縦横比(ee1/ee2)を1に対して比較的大きく(好ましくは1.5以上)したものである。
これにより、噴霧同士が対面する面積が増えて、圧力分布に起因して生じるコアンダ効果が強く作用するようになって集合化が進み、よりコンパクトな微粒化噴霧を実現することができる。
【0044】
実施の形態3.
本発明の実施の形態3について図7で説明する。
図7(a)は、2スプレー方式において燃料噴射弁1の中心軸方向の上流側から見た場合
の噴孔の配置例を示す平面図である。各噴孔12b〜12fは2スプレーの片側スプレーに対応し、それぞれの諸元は異なっていても構わない。
図7(b)は、図7(a)の噴孔配置例における噴孔直下の噴流配置と噴流形状例を示すもので、隣り合う噴流12b1〜12f1は互いに近接している状態にある。
図7(c)はブレーク長さより下流での噴霧配置と噴霧形状例を示すもので、各噴霧12b2〜12f2は円周方向に連なっているために、同時に各噴霧が囲い込むように集まってくる状態を示している。
図7(d)はコアンダ効果が作用しているところでの噴霧12b3〜12f3の配置と噴霧形状例及びコアンダ効果の作用がなくなったところでの噴霧配置と噴霧形状例を示すもので、2スプレーの各片側スプレーを中実でコンパクトに形成している状態を示している。
この実施の形態3では、各噴孔直下で略長円状あるいは略三日月状などの断面形状を呈する噴流12b1〜12f1が、ブレーク長さより下流の位置において多角形状断面の噴霧12b3〜12f3となるようにした。
この多角形状断面の噴霧12b3〜12f3は、噴霧断面形状である略長円状の長軸方向あるいは略三日月状の曲線部接線方向の延長線を繋いで略多角形の辺をなすか、あるいは、略長円状あるいは略三日月状の先端部が略多角形の頂点をなすようにすることによって形成されたものである。
このようにブレーク長さより下流の位置において多角形状断面の噴霧12b3〜12f3となるようにすれば、噴流および噴霧流による内部空気の巻き込みのために多角形状断面における内外圧力差が生じやすく(外部圧力p0に対して内部圧力p1,p2,p3が低くなる)、コアンダ効果が強く作用するようになって集合化が進み、よりコンパクトな微粒化噴霧12g4を実現することができる。
なお、隣り合う噴孔からの噴流、噴霧流の挙動は図6と同様である。また、2スプレーはX軸あるいはY軸に関して、必ずしも対称である必要はない。
【0045】
実施の形態4.
本発明の実施の形態4について図8で説明する。
図8(a)は、2スプレー方式において、燃料噴射弁1の中心軸方向の上流側から見た場
合の噴孔の配置例を示す平面図である。各噴孔12h〜12lは2スプレーの片側スプレーに対応し、それぞれの諸元は異なっていても構わない。
図8(b)は、図8(a)の噴孔配置例における噴孔直下の噴流配置と噴流形状例を示すもので、各噴孔直下の噴流12h1〜12l1の断面形状における縦横比が1.5より大きくなって
いる。
この実施の形態4においては、各噴孔直下の噴流形状12h1〜12l1の縦横比をより大きくしたので、外部圧力p0に対して内部圧力p1をより低くすることができるので、コアンダ効果が強く作用するようになって集合化が進み、よりコンパクトな微粒化噴霧を実現することができる。
なお、隣り合う噴孔からの噴流、噴霧流の挙動は図6と同様である。また、2スプレーはX軸あるいはY軸に関して、必ずしも対称である必要はない。
【0046】
実施の形態5.
本発明の実施の形態5について図9で説明する。
図9(a)は、1スプレー方式において、燃料噴射弁1の中心軸方向の上流側から見た場
合の噴孔12mの配置例を示す平面図である。
図9(b)は、図9(a)の噴孔配置例における噴孔直下の噴流配置と噴流形状例を示すもので、隣り合う噴流12m1は互いに近接している状態にある。
図9(c)はブレーク長さより下流での噴霧配置と噴霧形状例を示すもので、各噴霧12m2は円周方向に連なっているために、同時にZ軸にも近接していく状態を示している。図9(d)はコアンダ効果が作用しているところでの噴霧配置と噴霧形状例及びコアンダ効果の作用がなくなったところでの噴霧配置と噴流形状例を示すもので、コアンダ効果が作用しているところでの噴霧12m3により中実でコンパクトな噴霧12m4が形成されている状態を示している。
この実施の形態5では、各噴孔12mは放射状に設定されており、各噴孔直下での噴流12m1
は略長円状あるいは略三日月状の断面形状を有し、その長軸方向成分あるいは曲線部接線方向成分が略円周方向に略等間隔に配置されるように形成されている。
これによりコアンダ効果が円周方向に亙って略均等に作用し、噴孔直下での噴流12m1の断面形状は外部圧力p0、内部圧力p1,p2,p3の差により同様に噴霧12m2,12m3を経て集合化が
進み、よりコンパクトな1スプレーの微粒化噴霧12m4を実現することができる。
なお、隣り合う噴孔からの噴流、噴霧流の挙動は図6と同様である。また、噴流配置はX軸あるいはY軸に関して、必ずしも対称である必要はない。
【0047】
実施の形態6.
本発明の実施の形態6について図10で説明する。
図10(a)は、1スプレー方式において燃料噴射弁1の中心軸方向の上流側から見た場
合の噴孔12nの配置例を示す平面図である。
図10(b)は、図10(a)の噴孔配置例における噴孔直下の噴流配置と噴流形状例を示すもので、図10(c)はブレーク長さより下流での噴流配置と噴流形状例を示すもので、図10(d)はコアンダ効果が作用しているところでの噴霧配置と噴霧形状例及びコアンダ効果の作用がなくなったところでの噴霧配置と噴霧形状例を示すものである。
この実施の形態6においては、各噴孔12nは放射状に設定されており、各噴孔直下での噴
流12n1は略長円状あるいは略三日月状の断面形状を有し、その長軸方向成分あるいは接線方向成分が略放射状または略風車状となるように形成されている。
これにより隣り合う噴霧12n2の対向面は全体噴霧の中心側ほど近接し、外部圧力p0、内
部圧力p1,p2,p3の差によりコアンダ効果が強く作用するようになる。
また、この影響で噴霧全体が中心側に引き寄せられることになり、噴霧12n2,12n3のよう
な断面形状を経て集合化が進み、よりコンパクトな1スプレーの微粒化噴霧12n4を実現することができる。
なお、隣り合う噴孔からの噴流、噴霧流の挙動は図6と同様である。また、噴流配置はX軸あるいはY軸に関して、必ずしも対称である必要はない。
【0048】
また、各噴孔12nへ流入する燃料流に旋回を与えて噴孔内での液膜を形成するように噴
孔プレートおよびその上流部に工夫を加えれば、各噴孔直下での略三日月状噴流断面の長軸方向成分を略風車状にすることができる。
【0049】
実施の形態7.
本発明の実施の形態7について図11で説明する。
図11は実施の形態7の噴霧が集合する様子を示す説明図であり、近接した噴霧33,34,
35の断面形状が略円形あるいは略楕円となっている。
これらの噴霧外部圧力p0と内部圧力p4の差が小さくなってコアンダ効果がほとんど作用しなくなったところの集合噴霧の断面の噴射量分布は略中心近辺にピークがある略円錐状分布となっており、集合噴霧の広がりは、各噴流の断面形状である略長円状あるいは略三日月状の方向あるいは最外周部から推測される仮想単噴霧外形を連ねた仮想全体噴霧の外側包絡線の内側にある。
これにより、集合噴霧は非常に安定した状態になり、雰囲気条件の変化などの外乱要因に対しても挙動が安定したコンパクトな微粒化噴霧を実現することができる。
なお、隣り合う噴孔からの噴流、噴霧流の挙動は図6と同様である。
【0050】
ここで、本発明者らが検討を重ねた結果では、噴霧方向直角断面で見た場合、各噴霧外形が干渉し始める位置で各噴霧外形の外側包絡線、内側包絡線を略円形と見なしたときの円形直径をそれぞれd1,d2とすると、およそd2≦1/2d1となっていることが噴霧の集合化に適していることが分かった。
【0051】
実施の形態8.
本発明の実施の形態8について図12で説明する。図12(a)は、2スプレー方式において燃料噴射弁1の中心軸方向の上流側から見た場合の噴孔の配置例を示す平面図であ
る。各噴孔12o〜12sは2スプレーの片側スプレーに対応し、それぞれの諸元は異なっていても構わない。
図12(b)は、図12(a)の噴孔配置例における噴孔直下の噴流配置と噴流形状例を示すもので、図12(c)はブレーク長さより下流での噴霧配置と噴霧形状例を示すもので、図12(d)はコアンダ効果が作用しているところでの噴霧配置と噴霧形状例及びコアンダ効果の作用がなくなったところでの噴霧配置と噴霧形状例を示すものである。
この実施の形態8では、各噴孔直下での噴流12o1〜12s1は略長円状あるいは略三日月状などの断面形状を有し、その長軸方向成分あるいは曲線部接線方向成分が近接して略直線状または略曲線状に集合化するように外部圧力と内部圧力との差を設定している。
これにより、コアンダ効果によって噴霧12o2〜12s2の短軸方向成分をX軸近傍のY軸方向に集めることができ、噴霧12o2〜12s2から噴霧12o3〜12s3を経て集合化が進み、よりコンパクトな微粒化噴霧12t4を実現することができる。
なお、隣り合う噴孔からの噴流、噴霧流の挙動は図6と同様である。本実施の形態の主旨は、略長円状または略三日月状に噴霧を集合させることにあり、必ずしもX軸方向に沿う必要はない。また、2スプレーの場合、両スプレーがY軸に関して対称となっている必要もない。
【0052】
実施の形態9.
本発明の実施の形態9について図13で説明する。
図13は実施の形態7の噴霧が集合する様子を示す説明図であり、近接した噴霧36,37,
38の断面形状が略長円状となっており、これらの噴霧外部圧力と近接部圧力の差が小さくなってコアンダ効果がほとんど作用しなくなったところの集合噴霧の断面の噴射量分布は略長円状分布となっており、集合噴霧の短軸方向の広がりは、各略長円状あるいは各略三日月状噴流の方向から推測される仮想単噴霧外形を連ねた仮想全体噴霧の短軸方向長さよりも短くなっている。
これにより、集合噴霧は非常に安定した状態になっており、雰囲気条件の変化などの外乱要因に対しても挙動が安定したコンパクトな微粒化噴霧を実現することができる。
なお、隣り合う噴孔からの噴流、噴霧流の挙動は図6と同様である。本実施の形態の主旨は、略長円状または略三日月状に噴霧を集合させることにあり、必ずしもX軸方向に沿う必要はない。また、2スプレーの場合、両スプレーがY軸に関して対称となっている必要もない。
【0053】
ここで、本発明者らが検討を重ねた結果では、噴霧方向直角断面で見た場合、各噴霧外形が干渉し始める位置で各噴霧外形の包絡線を略長円状あるいは略三日月状と見なしたときの長軸方向長さ、短軸方向長さをそれぞれd3,d4とすると、およそd4≦1/2d3となっていることが噴霧の集合化に適していることが分かった。
【0054】
実施の形態10.
本発明の実施の形態10について図14で説明する。
燃料噴射弁1により生成される集合噴霧39は、噴霧粒子を引き寄せる圧力差が実質的にほ
とんどなくなった時にコアンダ効果がほとんど作用しなくなるので、コアンダ効果が作用している範囲の噴霧40が、急に貫徹力を抑制した噴霧41になるようにしたので、所定の長さにあわせた噴霧貫徹力仕様となるコンパクトな微粒化噴霧を実現することができる。
【0055】
ここで、前述したように、より小さい粒子まで微粒化しているほど複数噴霧の集合化を進めることが可能となるが、一旦コアンダ効果が作用しなくなると、粒子が小さいために各粒子の持つ運動量は急速に低下するので、急に貫徹力を抑制した噴霧を形成することが可能となるわけである。
【0056】
また、噴霧41は吸気流動に抗して挙動するエネルギーがなくなっているので、吸気流動に追随することが可能となるコンパクトな微粒化噴霧を実現することができる。言い方を変えれば、噴射タイミングに係わらず、吸気弁直前において、吸気ポート壁面や吸気弁へ
の噴霧付着を最小限に抑制して吸気ポート内の吸気流動に追随する微粒化噴霧を吸気ポート形状に応じて実現することが可能となる。
【0057】
実施の形態11.
本発明の実施の形態11について図7,9,15で説明する。
図15(a)は図7の2スプレーの噴射量分布の例、図15(b)は図9の1スプレーの噴射量分布の例、図15(c)は実施の形態11の噴射量分布の例である。
この実施の形態11では、複数の噴霧42の集合化現象において、集合噴霧全体の内部圧力p3と外部圧力p0との間にほぼ差がなくなる部分を図15(c)のように複数個所設けるように
したものである。
これにより、それらの部分では噴霧粒子を引き寄せる力が実質的にほとんどなくなって噴霧の集合化が収束し、安定した挙動を示すようになり、集合噴霧の噴射量分布のピークをほぼ噴霧形状中央にすることなく、集合噴霧の噴射量分布を自由に設定することが可能なコンパクトな微粒化噴霧を実現することができる。
これは、他の実施も形態についても適用することが可能である。
【0058】
実施の形態12.
本発明の実施の形態12について図16で説明する。多気筒エンジンの1気筒だけを示
している。
この実施の形態12では、ポート噴射システムの場合の、噴射ポイントから吸気弁22までの長さにあわせて、あるいは噴射ポイントから噴霧先端部41が対向する吸気ポート壁面までの長さにあわせて、コアンダ効果が実質的に作用しなくなる噴霧方向長さ、または急に貫徹力を抑制し始める噴霧方向長さを調整可能であるようにした。
これにより、実際のエンジンでの吸気ポート噴射システムにおいて、各吸気ポート形状寸法に応じて吸気ポート壁面や吸気弁への噴霧付着を抑制し、且つ吸気流動に追随しやすい噴霧仕様となるコンパクトな微粒化噴霧39を実現することができる。
【0059】
実施の形態13.
本発明の実施の形態13について図17で説明する。
多気筒エンジンの1気筒だけを示しており、燃料噴射弁1はスロットルボディ24に搭載されて、スロットルボディ24のスロットル弁24aの下流側の位置に、吸気流の上流に向かって
燃料噴射するように先端部が上流側に傾斜して取り付けられている。
この実施の形態13では、微粒化された噴霧の貫徹力をスロットルボディ壁面やスロットル弁直前で急に抑制することができるので、一旦上流に噴射して混合気が形成される時間的空間的余裕を持たせることによって、極端に吸気ポートが短い場合などで下流方向に噴射すると気筒間の噴射量分配がアンバランスになったり、吸気ポートへの噴霧付着割合が増えたりして、結果的に混合気形成状態が悪くなりエンジンの性能が向上しないといった状態を改善することが可能である。
【0060】
更に本発明の噴霧の特性を生かして、吸気管集合部に燃料噴射弁を一本だけ配置して、各気筒の吸気弁付近までの吸気ポートへの噴霧付着を抑制しつつ、吸気弁付近で貫徹力を抑制し広角な噴霧を行うことが可能である。
いわゆる汎用エンジン、小型エンジンにおいては、現在キャブレタから燃料噴射システムへの転換が進んでいるが、大幅なコストアップは難しいため、このような多気筒エンジンで燃料噴射弁を1本だけ使用するようなシステム(所謂シングルポイントインジェクショ
ン)はエンジンのコストパーフォーマンスを向上することになり、非常に有用である。なお燃料噴射弁1は、スロットルボディ24とは別に取り付けた場合でも前記の効果を得るこ
とが可能である。
【0061】
以上の各実施の形態において、噴霧パターンについては、2スプレー、1スプレーにつ
いて説明したが、3スプレーなどのマルチスプレー、異なる断面形状噴霧の組み合わせ、非対称噴霧、異なる貫徹力噴霧の組み合わせ、異なる微粒化噴霧の組み合わせなど、コンパクトな微粒化噴霧であれば、いろいろな仕様を実現可能である。
【0062】
なお、電磁式燃料噴射弁について説明したが、駆動源は他の方式でもよく、機械式、また間欠噴射弁ではなく連続噴射弁にも適用できることは明らかである。
【0063】
さらに、燃料噴射弁以外にも塗装・コーティング、農薬散布、洗浄、加湿、スプリンクラー、殺菌用スプレー、冷却などの一般産業用、農業用、設備用、家庭用、個人用としての各種スプレーなど用途・要求機能は多岐に亙るので、駆動源やノズル形態、噴霧流体にかかわらず、これらの噴霧装置にも応用して今までになかった噴霧形態を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 燃料噴射弁、2 ソレノイド装置、3 ハウジング、4 コア、5 コイル、6 アマチュア、7 弁装置、8 弁体、9 弁本体、10 弁座、11 噴孔プレート、12 噴孔、13 ボ
ール、14 圧縮バネ、18 カバープレート、30,31 噴流、36〜42 噴霧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路の途中に弁座面を有する弁座と、前記弁座面への離着座により前記流体通路の開閉を制御する弁体と、前記弁座よりも下流に位置し複数の噴孔を有する噴孔プレートとを有し、各噴孔内流れや各噴孔直下流れを略液膜流とした流体噴射弁による噴霧生成方法おいて、
前記各噴孔からの噴流の方向を必ずしも噴孔の中心軸方向と一致させず、かつ、必ずしもその下流で交差させず、
前記各噴孔からの噴流がブレーク長さより長い下流位置において噴霧となってから、複数の噴霧間に作用するコアンダ効果で噴霧を集合させるようにし、
それらのコアンダ効果が実質的に作用しなくなるまで噴霧の集合化を継続させたことを特徴とする流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項2】
前記ブレーク長さの位置からブレーク長さの2倍までの位置の範囲で各噴霧外形が干渉し始めるようにしたことを特徴とする請求項1記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項3】
前記流体噴射弁の各噴孔からの噴流断面形状は略長円状あるいは略三日月状であって、その縦横比を1に対して比較的大きくしたことを特徴とする請求項1または2記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項4】
前記縦横比を1.5以上としたことを特徴とする請求項3記載の流体噴射弁による噴霧生
成方法。
【請求項5】
前記流体噴射弁の各噴孔からの噴流断面形状は略長円状あるいは略三日月状であって、前記ブレーク長さより下流の位置において多角形状断面の噴霧を形成するようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項6】
前記多角形状断面の噴霧は、前記噴霧断面形状である略長円状の長軸方向あるいは略三日月状の曲線部接線方向の延長線を繋いで略多角形の辺をなすか、あるいは、略長円状あるいは略三日月状の先端部が略多角形の頂点をなすようにすることによって形成されていることを特徴とする請求項5記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項7】
2方向噴霧のポート噴射システムにおいて、前記流体噴射弁における前記各噴孔直下の噴流断面形状の縦横比が1.5より大きいことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つ
に記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項8】
1方向噴霧のポート噴射システムにおいて、前記流体噴射弁における各噴孔直下での噴流の断面形状が略長円状あるいは略三日月状を有し、その長軸方向成分あるいは曲線部接線方向成分が略円周方向に略等間隔に配置されるようにしたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項9】
前記流体噴射弁における各噴孔直下での噴流の断面形状が略長円状あるいは略三日月状を有し、その長軸方向成分あるいは接線方向成分が略放射状または略風車状となるようにしたことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一つに記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項10】
前記噴霧の集合化により生成された集合噴霧の断面形状が略円形あるいは略楕円となっており、前記コアンダ効果がほとんど作用しなくなったところの前記集合噴霧の断面の噴射量分布は略中心近辺にピークがある略円錐状分布となっており、前記集合噴霧の広がりは、前記略長円状あるいは各略三日月状の各噴流の方向あるいは最外周部から推測される
仮想単噴霧外形を連ねた仮想全体噴霧の外側包絡線の内側にあることを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一つに記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項11】
前記集合噴霧は、噴霧方向直角断面で見た場合、各噴霧外形が干渉し始める位置で各噴霧外形の外側包絡線、内側包絡線を略円形と見なしたときの円形直径をそれぞれd1,d2と
すると、およそd2≦1/2d1となっていることを特徴とする請求項10記載の流体噴射弁に
よる噴霧生成方法。
【請求項12】
前記噴流断面形状における略長円状の長軸方向成分あるいは各略三日月状の曲線部接線方向成分が近接して略直線状または略曲線状に集合化するようにしたことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一つに記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項13】
前記噴霧の集合化により生成された集合噴霧の断面形状が略長円状となっており、前記コアンダ効果がほとんど作用しなくなったところの前記集合噴霧の断面の噴射量分布は略長円状分布となっており、前記集合噴霧の短軸方向の広がりは、各略長円状あるいは各略三日月状噴流の方向から推測される仮想単噴霧外形を連ねた仮想全体噴霧の短軸方向長さよりも短いことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一つに記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項14】
前記集合噴霧は、噴霧方向直角断面で見た場合、各噴霧外形が干渉し始める位置で各噴霧外形の包絡線を略長円状あるいは略三日月状と見なしたときの長軸方向長さ、短軸方向長さをそれぞれd3,d4とすると、およそd4≦1/2d3となっていることを特徴とする請求項13記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項15】
前記噴霧の集合化により生成された集合噴霧はコアンダ効果がほとんど作用しなくなった付近から急に貫徹力が抑制され始めることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一つに記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項16】
前記噴霧の集合化により生成された集合噴霧全体の内部と外部との間にほぼ圧力差がなくなる部分を複数個所設けることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか一つに記載の流体噴射弁による噴霧生成方法。
【請求項17】
流体通路の途中に弁座面を有する弁座と、前記弁座面への離着座により前記流体通路の開閉を制御する弁体と、前記弁座よりも下流に位置し複数の噴孔を有する噴孔プレートとを有し、各噴孔内流れや各噴孔直下流れを略液膜流とした流体噴射弁において、
前記各噴孔からの噴流の方向を必ずしも噴孔の中心軸方向と一致させず、かつ、必ずしもその下流で交差させず、
前記各噴孔からの噴流がブレーク長さより長い下流位置において噴霧となってから、複数の噴霧間に作用するコアンダ効果で噴霧を集合させるようにし、
それらのコアンダ効果が実質的に作用しなくなるまで噴霧の集合化を継続させるように構成したことを特徴とする流体噴射弁。
【請求項18】
ポート噴射システムの場合の、噴射ポイントから吸気弁までの長さにあわせて、あるいは噴射ポイントから噴霧先端部が対向する吸気ポート壁面までの長さにあわせて、あるいは噴射ポイントから噴霧先端部が対向するスロットル弁までの長さにあわせて、前記コアンダ効果が実質的に作用しなくなる噴霧方向長さ、または急に貫徹力を抑制し始める噴霧方向長さを調整可能にしたことを特徴とする請求項17記載の流体噴射弁。
【請求項19】
スロットル弁の下流側の位置に、吸気流の上流に向かって燃料噴射するように先端部が上流側に傾斜して取り付けられたことを特徴とする請求項17または18記載の流体噴射
弁。
【請求項20】
請求項17記載の流体噴射弁を含むことを特徴とする噴霧生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−2433(P2013−2433A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138111(P2011−138111)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】