説明

流体噴射装置、流体噴射手術器具及び流体噴射方法

【課題】流体の噴射を適切に行うことが可能な流体噴射装置、流体噴射手術器具及び流体噴射方法を提供する。
【解決手段】流体噴射装置1は、加圧した流体を流す流路201及び流路201に連通する流体噴射口212を有する流路管200と、流路201に流体を供給する流体供給手段20,100と、流体供給手段20,100による流体の供給を制御する制御手段30と、流路管200の姿勢を検出し、検出した流路管200の姿勢に応じた信号を制御手段30に入力する姿勢検出手段120と、を備える。そして、制御手段30は、姿勢検出手段120から入力された信号に応じて流体供給手段20,100による流体の供給を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧した流体を噴射する流体噴射装置、流体噴射手術器具及び流体噴射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば、加圧ポンプの駆動によって、流体源からハンドピースに設けられたノズルパイプに高圧流体を圧送し、ノズルパイプの噴射ノズルから高圧流体を噴射する流体噴射装置がある(特許文献1参照)。
そして、上記従来技術では、加圧ポンプの駆動を、ハンドピースに設けられたスイッチを操作することによって行う。
【特許文献1】特開平5−92009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術においては、ハンドピースに設けられたスイッチが誤操作された場合、使用者の意図に反して噴射ノズルから高圧流体が噴射される恐れがある。
例えば、ハンドピースの受け渡しを行う際、意図せずにスイッチが操作された場合、誤って噴射ノズルから高圧流体が噴射される。
この場合、噴射対象物以外のものに向けて流体が噴射されたり、噴射ノズルから噴射された流体が周辺に飛散したりすることとなる。
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであって、流体の噴射を適切に行うことが可能な流体噴射装置、流体噴射手術器具及び流体噴射方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、第一の発明に係る流体噴射装置は、加圧した流体を流す流路及び流路に連通する流体噴射口を有する流路管と、流路に流体を供給する流体供給手段と、流体供給手段による流体の供給を制御する制御手段と、流路管の姿勢を検出し、検出した流路管の姿勢に応じた信号を制御手段に入力する姿勢検出手段と、を備え、制御手段は、姿勢検出手段から入力された信号に応じて流体供給手段による流体の供給を制御することを特徴とする。
【0005】
第一の発明に係る流体噴射装置では、流路管の姿勢に応じて流体供給手段による流体の供給を制御するため、流体の噴射を適切に行うことが可能となる。例えば、流路管の姿勢が流体を噴射する姿勢として適切ではない場合、流体の噴射を行わないように制御することができるため、流体の噴射を適切に行うことが可能となる。
ここで、流路としては、例えば、後述する接続流路201が該当する。流体噴射口としては、例えば、後述する流体噴射開口部212が該当する。流路管としては、例えば、後述する接続流路管200が該当する。流体供給手段としては、例えば、後述するポンプ20及び脈動発生部100が該当する。制御手段としては、例えば、後述する制御手段30が該当する。姿勢検出手段としては、例えば、後述する姿勢検出手段120が該当する。
【0006】
また、第二の発明に係る流体噴射装置は、第一の発明に係る流体噴射装置において、制御手段は、姿勢検出手段から入力される信号に基づき、流体噴射口の流体の噴射方向軸と鉛直軸とのなす角度を検出し、検出した角度に応じて、流体供給手段による流体の供給を制御することを特徴とする。
第二の発明に係る流体噴射装置では、流体噴射口の流体の噴射方向軸と鉛直軸とのなす角度に応じて流体供給手段による流体の供給を制御するため、流体の噴射をさらに適切に行うことが可能となる。例えば、通常、流体噴射装置は、流体の噴射方向が下方となる状態で使用される。すなわち、通常、流体噴射装置は、流体の噴射方向が上方となる状態で使用されることはない。したがって、流体噴射口の流体の噴射方向軸と鉛直軸とのなす角度がある程度大きくなった場合、流体の噴射を行わないように制御することができるため、流体の噴射を適切に行うことが可能となる。
【0007】
また、第三の発明に係る流体噴射装置は、第二の発明に係る流体噴射装置において、制御手段は、検出した角度が所定範囲内である場合にのみ、流体供給手段による流体の供給の開始を可能とすることを特徴とする。
第三の発明に係る流体噴射装置では、流体噴射口の流体の噴射方向軸と鉛直軸とのなす角度が所定範囲内である場合にのみ流体供給手段による流体の供給の開始を可能とするため、誤って流体の噴射が開始されることを抑制することが可能となる。例えば、流路管の受け渡しを行う際に、誤って流体の噴射が開始されることを抑制することが可能となる。
【0008】
また、第四の発明に係る流体噴射装置は、第二又は第三の発明に係る流体噴射装置において、制御手段は、流体供給手段による流体の供給中において、検出した角度が所定範囲を超えた場合、流体供給手段による流体の供給を抑制又は停止することを特徴とする。
第四の発明に係る流体噴射装置では、流体噴射口の流体の噴射方向軸と鉛直軸とのなす角度が所定範囲を超えた場合、流体供給手段による流体の供給を抑制又は停止するため、流体の噴射を行っている際、誤って流体が飛散することを抑制することが可能となる。
また、第五の発明に係る流体噴射装置は、第三又は第四の発明に係る流体噴射装置において、所定範囲は、60°以下であることを特徴とする。
第五の発明に係る流体噴射装置では、所定範囲が60°以下に設定されているため、流体の噴射をさらに適切に行うことが可能となる。
【0009】
また、第六の発明に係る流体噴射装置は、第一乃至第五のうちいずれか一の発明に係る流体噴射装置において、流路に連通する出口流路と、流体供給手段から流体が供給される入口流路と、出口流路及び前記入口流路に連通する流体室と、流体室の容積を変更可能な容積変更手段と、を有する脈動発生部を備え、脈動発生部が、流体供給手段を構成することを特徴とする。
第六の発明に係る流体噴射装置では、脈動発生部を備えることにより、脈動する流体を噴射することが可能となる。
ここで、出口流路としては、例えば、後述する出口流路511が該当する。入口流路としては、例えば、後述する入口流路503が該当する。流体室としては、例えば、後述する流体室501が該当する。容積変更手段としては、例えば、後述する圧電素子401が該当する。脈動発生部としては、例えば、後述する脈動発生部100が該当する。
【0010】
また、第七の発明に係る流体噴射手術器具は、加圧した流体を流す流路及び流路に連通する流体噴射口を有する流路管と、流路に流体を供給する流体供給手段と、流体供給手段による流体の供給を制御する制御手段と、流路管の姿勢を検出し、検出した流路管の姿勢に応じた信号を制御手段に入力する姿勢検出手段と、を備え、制御手段は、姿勢検出手段から入力された信号に応じて流体供給手段による流体の供給を制御し、噴射した流体により手術対象部位を切開又は切除することを特徴とする。
第七の発明に係る流体噴射手術器具では、流路管の姿勢に応じて流体供給手段による流体の供給を制御するため、流体の噴射を適切に行うことが可能となる。
【0011】
さらに、第八の発明に係る流体噴射方法は、流路管の流路に加圧した流体を供給し、流路管の姿勢を検出し、検出した流路管の姿勢に応じて、流体の供給を制御し、流路に連通する流体噴射口から供給を制御された流体を噴射することを特徴とする。
第八の発明に係る流体噴射方法では、流路管の姿勢に応じて流体の供給を制御するため、流体の噴射を適切に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
本発明に係る流体噴射装置は、インク等を用いた描画、細密な物体及び構造物の洗浄、手術用メス等に適用することが可能である。
本実施形態では、本発明に係る流体噴射装置を、生体組織を切開又は切除することに好適なウォーターパルスメスに適用した場合について説明する。したがって、本実施の形態で用いる流体は、水、生理食塩水、薬液等である。
【0013】
(構成)
図1は、本発明の実施の形態に係るウォーターパルスメスを示す概略構成図である。
図1に示すウォーターパルスメス(流体噴射装置、流体噴射手術器具)1は、流体を収容する流体容器10と、一定の圧力で流体を供給するポンプ20と、ポンプ20から供給される流体を脈動流動する脈動発生部100と、脈動発生部100及びポンプ20を制御する制御手段30とを備える。
流体容器10は、水、生理食塩水、薬液等の流体を収容する。
ポンプ20は、接続チューブ15を介して流体容器10に収容された流体を吸引する。また、ポンプ20は、吸引した流体を、一定の圧力で接続チューブ25を介して脈動発生部100に供給する。ポンプ20の吐出圧力は概ね3気圧(0.3MPa)以下に設定する。
【0014】
なお、このウォーターパルスメス1を用いて手術をする際には、術者が把持する部位は脈動発生部100または接続流路管200である。したがって、脈動発生部100までの接続チューブ25はできるだけ柔軟であることが好ましい。そのためには、柔軟で薄いチューブで、流体を脈動発生部100に送液可能な範囲で低圧にすることが好ましい。
脈動発生部100は、流体室501(図2、参照)と、流体室501の容積変更手段とを備えている。本実施形態では、流体室501の容積変更手段として、圧電素子401を用いている。
【0015】
次に、脈動発生部100について、図面を参照してさらに詳しく説明する。
図2は、図1に示すウォーターパルスメスの脈動発生部を示す断面図である。なお、図2は、図4に示すA−A´線の断面図である。図3は、図2に示す脈動発生部を分解した状態の概略を示す斜視図である。
図2及び図3に示すように、脈動発生部100は、上ケース500と、下ケース301とを有する。そして、上ケース500及び下ケース301は、互いに対向する面において接合され、4本の固定螺子(図示せず)によって螺着されている。
下ケース301は、鍔部を有する筒状部材であって、一方の端部は底板311で密閉されている。この下ケース301の内部空間に圧電素子401が配設される。
【0016】
圧電素子401は、積層型圧電素子であってアクチュエータを構成する。圧電素子401の一方の端部は、上板411を介してダイアフラム400に固着されている。また、圧電素子401の他方の端部は、底板311の上面312に固着されている。
ダイアフラム400は、円盤状の金属薄板からなり、下ケース301の凹部303内において周縁部が凹部303の底面に密着固着されている。容積変更手段としての圧電素子401に駆動信号を入力することで、圧電素子401の伸張、収縮に伴いダイアフラム400を介して流体室501の容積を変更する。このように、容積変更手段として圧電素子401とダイアフラム400とを採用する構造にすることにより、構造の簡素化と、それに伴う小型化を実現できる。また、流体室501の容積変化の最大周波数を1KHz以上の高い周波数にすることができ、高速脈動流の噴射に最適となる。
【0017】
ダイアフラム400の上面には、中心部に開口部を有する円盤状の金属薄板からなる補強板410(図3において図示せず)が積層配設される。
上ケース500は、下ケース301と対向する面の中心部に凹部を有している。そして、この凹部とダイアフラム400とから構成され流体が充填された状態の回転体形状が流体室501である。つまり、流体室501は、上ケース500の凹部の封止面505と内周側壁501aとダイアフラム400とによって囲まれた空間である。流体室501の略中央部には出口流路511が穿設されている。
出口流路511は、流体室501から、上ケース500の一方の端面に突設された出口流路管510の端部まで貫通されている。出口流路511の流体室501の封止面505との接続部は、流体抵抗を減ずるために滑らかに丸められている。
【0018】
なお、流体室501の形状は、本実施形態(図2参照)では、両端が封止された略円筒形状としているが、側面視して円錐形や台形、あるいは半球形状等でもよい。例えば、出口流路511と封止面505との接続部を漏斗のような形状にすれば、後述する流体室501内の気泡を排出しやすくなる。
出口流路管510には接続流路管200が接続されている。接続流路管200には接続流路201が穿設されている。接続流路201の直径は、出口流路511の直径より大きく形成されている。また、接続流路管200の管部の厚さは、流体の圧力脈動を吸収しない剛性を有する範囲に形成されている。
接続流路管200の先端部には、ノズル211が挿着されている。ノズル211には、流体噴射口212が穿設されている。流体噴射口212の直径は、接続流路201の直径より小さい。
【0019】
上ケース500の側面には、ポンプ20から流体を供給する接続チューブ25を挿着する入口流路管502が突設されている。入口流路管502には、入口流路側の接続流路504が穿設されている。接続流路504は入口流路503に連通している。入口流路503は、流体室501の封止面505の周縁部に溝状に形成され、流体室501に連通している。
上ケース500と下ケース301との接合面において、ダイアフラム400の外周方向の離間した位置には、下ケース301側にパッキンボックス304、上ケース500側にパッキンボックス506が形成されている。パッキンボックス304及びパッキンボックス506により形成される空間に、リング状のパッキン450が装着されている。
【0020】
ここで、上ケース500と下ケース301とを組立てたとき、ダイアフラム400の周縁部と補強板410の周縁部とは、上ケース500の封止面505の周縁部と下ケース301の凹部303の底面によって密接されている。この際、パッキン450は上ケース500と下ケース301によって押し圧されて、流体室501からの流体漏洩を防止している。
流体室501内は、流体吐出の際に30気圧(3MPa)以上の高圧状態となり、ダイアフラム400、補強板410、上ケース500、下ケース301それぞれの接合部において流体が僅かに漏洩することが考えられるが、パッキン450によって漏洩を阻止している。
図2に示すようにパッキン450を配設すると、流体室501から高圧で漏洩してくる流体の圧力によってパッキン450が圧縮され、パッキンボックス304,506内の壁にさらに強く押し圧するので、流体の漏洩を一層確実に阻止することができる。このことから、駆動時において流体室501内の高い圧力上昇を維持することができる。
【0021】
次に、上ケース500に形成される入口流路503について、図面を参照してさらに詳しく説明する。
図4は、図2に示す脈動発生部の入口流路を示す平面図であり、上ケースを下ケースとの接合面側から視認した状態を表している。
図4に示すように、入口流路503は、一方の端部が流体室501に連通し、他方の端部が接続流路504に連通している。入口流路503と接続流路504との接続部には、流体溜り507が形成されている。入口流路503と接続流路504との接続部に流体溜り507を設けることにより、接続流路504のイナータンスが入口流路503に与える影響を抑制することができる。そして、流体溜り507と入口流路503との接続部は滑らかに丸めることによって流体抵抗を減じている。
【0022】
また、入口流路503は、流体室501の内周側壁501aに対して略接線方向に向かって連通している。ポンプ20(図1参照)から一定の圧力で供給される流体は、内周側壁501aに沿って(図4において矢印で示す方向)流動して流体室501に旋回流を発生する。旋回流は、旋回することによる遠心力で内周側壁501a側に押し付けられるとともに、流体室501内に含まれる気泡は旋回流の中心部に集中する。
そして、中心部に集められた気泡は、出口流路511から排除される。このことから、出口流路511は旋回流の中心近傍、つまり回転形状体の軸中心部に設けられることがより好ましい。図4では、入口流路503は平面形状が湾曲されている。入口流路503は、直線で流体室501に連通させてもよいが、狭いスペースの中で所望のイナータンスを得るために、入口流路503の流路長を長くする必要性から湾曲させている。
【0023】
なお、図2に示したように、ダイアフラム400と入口流路503が形成されている封止面505の周縁部との間には、補強板410が配設されている。補強板410を設ける意味は、ダイアフラム400の耐久性を向上することである。入口流路503の流体室501との接続部には切欠き状の接続開口部509が形成されるので、ダイアフラム400が高い周波数で駆動されたときに、接続開口部509近傍において応力集中が生じて疲労破壊を発生することが考えられる。そこで、切欠き部がない連続した開口部を有している補強板410を配設することで、ダイアフラム400に応力集中が発生しないようにしている。
また、上ケース500の外周隅部には、4箇所の螺子孔500aが開設されており、この螺子孔位置において、上ケース500と下ケース301とが螺合接合される。
【0024】
なお、図示は省略するが、補強板410とダイアフラム400とを接合し、一体に積層固着することができる。補強板410とダイアフラム400とを積層し、一体に固着すれば、脈動発生部100の組立性を向上させることができる他、ダイアフラム400の外周縁部の補強効果もある。固着手段としては、接着剤を用いる貼着としても、固層拡散接合、溶接等を採用することが可能であるが、補強板410とダイアフラム400とが、接合面において密着されていることがより好ましい。
さらに、図1に示すように、脈動発生部100は、ハンドスイッチ110と、姿勢検出手段120とを備えている。なお、図2及び図3では、ハンドスイッチ110及び姿勢検出手段120の図示を省略している。
【0025】
ハンドスイッチ110は、術者の操作によってON状態となっている場合、駆動開始信号を制御手段30に入力する。
姿勢検出手段120は、脈動発生部100に接続された接続流路管200の姿勢に応じた信号を制御手段30に入力する。姿勢検出手段120は、脈動発生部100の姿勢に応じた信号を制御手段30に常時入力する。姿勢検出手段120としては、ジャイロセンサ、加速度センサ等を用いることが可能である。
【0026】
制御手段30は、姿勢検出手段120から入力された信号に基づいて、流体噴射開口部212の向きを検出する。ここで、流体噴射開口部212の向きとは、流体噴射開口部212の流体の噴射方向と同義である。
具体的には、制御手段30は、姿勢検出手段120から入力された信号に基づいて、接続流路管200の姿勢を検出する。そして、制御手段30は、検出した接続流路管200の姿勢から、流体噴射開口部212の流体の噴射方向軸と鉛直軸とのなす角度(以下、ノズル角度という)を検出する。なお、制御手段30は、ノズル角度を常時検出する。
【0027】
図5は、ノズル角度を示す模式図である。
図5に示すように、流体噴射開口部212の流体の噴射方向軸aとは、ノズル211に穿設された流体噴射開口部212の中心軸をいう。また、鉛直軸bとは、中心軸の任意の点から鉛直下方に向かって延びる軸をいう。そして、ノズル角度αは、流体噴射開口部212の流体の噴射方向軸aと鉛直軸bとのなす角度をいう。なお、噴射方向軸及び鉛直軸は、仮想の軸である。
そして、制御手段30は、ハンドスイッチ110から入力された駆動開始信号及び検出したノズル角度に基づいて、ポンプ20及び脈動発生部100を制御する。
次に、制御手段30によるポンプ20及び脈動発生部100の制御について、図面を参照してさらに詳しく説明する。
【0028】
図6は、流体噴射開始時における制御手段30による処理を示すフローチャートである。図7は、流体噴射中における制御手段30による処理を示すフローチャートである。
ここで、制御手段30は、ウォーターパルスメス1の起動中、図6に示す処理及び図7に示す処理を繰り返し実行する。
まず、流体噴射開始時における制御手段30による処理を説明する。流体噴射開始時には、ハンドスイッチ110がOFFとなり、ハンドスイッチ110から制御手段30への制御開始信号の入力がない状態となっている。この場合、ポンプ20及び脈動発生部100は、駆動されていない。
【0029】
図6に示すように、流体噴射開始時には、制御手段30は、まず、ステップS1において、ハンドスイッチ110から制御開始信号が入力されたか否かを判定する。そして、ハンドスイッチ110から制御開始信号が入力されたと判定した場合(Yes)、ステップS2に移行する。一方、ハンドスイッチ110から制御開始信号が入力されていないと判定した場合(No)、ステップS1の処理を繰り返す。
また、制御手段30は、ステップS2において、検出したノズル角度が所定範囲内か否かを判定する。本実施形態では、検出したノズル角度が60°以下か否かを判定する。そして、検出したノズル角度が60°以下であると判定した場合(Yes)、ステップS3に移行する。一方、検出したノズル角度が60°以下でないと判定した場合(No)、一連の処理を終了する。すなわち、検出したノズル角度が60°以下でないと判定した場合(No)、ポンプ20及び脈動発生部100の駆動を行わない。
【0030】
さらに、制御手段30は、ステップS3において、ポンプ20の駆動を開始して、ステップS4に移行する。
また、制御手段30は、ステップS4において、脈動発生部100の圧電素子401への駆動信号の入力を開始して、一連の処理を終了する。この場合、脈動発生部100の圧電素子401に駆動信号が入力されることによって、脈動発生部100の駆動が開始される。なお、制御手段30が圧電素子401に入力する信号は、電圧信号である。
【0031】
次に、流体噴射中における制御手段30による処理を説明する。流体噴射中には、ハンドスイッチ110がONとなり、ハンドスイッチ110から制御手段30に制御開始信号が入力されている状態となっている。この場合、ポンプ20及び脈動発生部100は、駆動されている。
図7に示すように、流体噴射中には、制御手段30は、まず、ステップS11において、ハンドスイッチ110からの制御開始信号の入力が停止されたか否かを判定する。そして、ハンドスイッチ110からの制御開始信号の入力が停止されたと判定した場合(Yes)、ステップS13に移行する。一方、ハンドスイッチ110からの制御開始信号の入力が停止されていないと判定した場合(No)、ステップS12に移行する。
【0032】
また、制御手段30は、ステップS12において、検出したノズル角度が所定範囲を超えたか否かを判定する。本実施形態では、検出したノズル角度が60°を超えたか否かを判定する。そして、検出したノズル角度が60°を超えたと判定した場合(Yes)、ステップS13に移行する。一方、検出したノズル角度が60°を超えていないと判定した場合(No)、一連の処理を終了する。すなわち、検出したノズル角度が60°を超えていないと判定した場合(No)、脈動発生部100及びポンプ20の駆動を継続する。
さらに、制御手段30は、ステップS13において、脈動発生部100の圧電素子401への駆動信号の入力を停止して、ステップS14に移行する。
また、制御手段30は、ステップS14において、ポンプ20の駆動を停止して、一連の処理を終了する。この場合、脈動発生部100の圧電素子401への駆動信号の入力が停止されることによって、脈動発生部100の駆動が停止される。
【0033】
次に、本実施形態に係るウォーターパルスメス1の動作について説明する。
本実施形態に係るウォーターパルスメス1の脈動発生部100の流体吐出は、入口流路側のイナータンスL1(合成イナータンスL1と呼ぶことがある)と出口流路側のイナータンスL2(合成イナータンスL2と呼ぶことがある)の差によって行われる。
まず、イナータンスについて説明する。
イナータンスLは、流体の密度をρ、流路の断面積をS、流路の長さをhとしたとき、L=ρ×h/Sで表される。流路の圧力差をΔP、流路を流れる流体の流量をQとした場合に、イナータンスLを用いて流路内の運動方程式を変形することで、ΔP=L×dQ/dtという関係が導き出される。
【0034】
つまり、イナータンスLは、流量の時間変化に与える影響度合いを示しており、イナータンスLが大きいほど流量の時間変化が少なく、イナータンスLが小さいほど流量の時間変化が大きくなる。
また、複数の流路の並列接続や、複数の形状が異なる流路の直列接続に関する合成イナータンスは、個々の流路のイナータンスを電気回路におけるインダクタンスの並列接続、又は直列接続と同様に合成して算出することができる。
なお、入口流路側のイナータンスL1は、接続流路504が入口流路503に対して直径が十分大きく設定されているので、イナータンスL1は、入口流路503の範囲において算出される。この際、ポンプ20と入口流路を接続する接続チューブは柔軟性を有するため、イナータンスL1の算出から削除してもよい。
【0035】
また、出口流路側のイナータンスL2は、接続流路201の直径が出口流路よりもはるかに大きく、接続流路管200の管部(管壁)の厚さが薄いためイナータンスL2への影響は軽微である。したがって、出口流路側のイナータンスL2は出口流路511のイナータンスに置き換えてもよい。
なお、接続流路管200の管壁の厚さは、流体の圧力伝播には十分な剛性を有している。
そして、本実施形態では、入口流路側のイナータンスL1が出口流路側のイナータンスL2よりも大きくなるように、入口流路503の流路長及び断面積、出口流路511の流路長及び断面積を設定する。
【0036】
次に、脈動発生部100の動作について説明する。
制御手段30がポンプ20の駆動を開始すると、ポンプ20によって入口流路503には、常に一定圧力の液圧で流体が供給される。その結果、圧電素子401が動作を行わない場合、ポンプ20の吐出力と入口流路側全体の流体抵抗値の差によって、流体は流体室501内に流動する。
また、制御手段30が圧電素子401に駆動信号を入力すると、圧電素子401の伸張、収縮に伴いダイアフラム400を介して流体室501の容積が変更する。
すなわち、圧電素子401に駆動信号が入力され、急激に圧電素子401が伸張したとすると、流体室501内の圧力は、入口流路側及び出口流路側のイナータンスL1,L2が十分な大きさを有していれば急速に上昇して数十気圧に達する。
【0037】
この圧力は、入口流路503に加えられていたポンプ20による圧力よりはるかに大きいため、入口流路側から流体室501内への流体の流入はその圧力によって減少し、出口流路511からの流出は増加する。したがって、前述した特許文献1によるウォーターパルスメスのような、入口流路側に設けられる逆止弁はなくてもよい。
ここで、入口流路503のイナータンスL1は、出口流路511のイナータンスL2よりも大きい。したがって、入口流路503から流体が流体室501へ流入する流量の減少量よりも、出口流路から吐出される流体の増加量のほうが大きいため、接続流路201にパルス状の流体吐出、つまり、脈動流が発生する。この吐出の際の圧力変動が、接続流路管200内を伝播して、先端のノズル211の流体噴射口212から流体が噴射される。
【0038】
すなわち、脈動発生部100は、圧電素子401を駆動して脈動を発生することによって、ポンプ20から供給された流体を、接続流路管200、ノズル211を通して高速で噴射する。
ここで、ノズル211の流体噴射口212の直径は、出口流路511の直径よりも小さいので、流体は、さらに高圧、高速のパルス状の液滴として噴射される。
一方、流体室501内は、入口流路503からの流体流入量の減少と出口流路511からの流体流出の増加との相互作用で、圧力上昇直後に真空状態となる。その結果、ポンプ20の圧力と、流体室501内の真空状態の双方によって一定時間経過後、入口流路503の流体は圧電素子401の動作前と同様な速度で流体室501内に向かう流れが復帰する。
【0039】
入口流路503内の流体の流動が復帰した後、圧電素子401の伸張があれば、ノズル211からの脈動流を継続して噴射することができる。
また、上述した脈動発生部100の動作において、流体室501が、略回転体形状を有し旋回流発生部としての入口流路503を備えていることと、出口流路511が略回転体形状の回転軸近傍に開設されていることから、流体室501内において旋回流が発生し、流体内に含まれる気泡は速やかに出口流路511から外部に排出される。
したがって、圧電素子401による流体室501の微小な容積変化においても、気泡によって圧力変動が阻害されることなく、十分な圧力上昇が得られる。
【0040】
ここで、上述した脈動発生部100の動作において、制御手段30は、流体噴射開始時には、ハンドスイッチ110から制御開始信号が入力され、かつ、検出したノズル角度が60°以下である場合にのみ、ポンプ20及び脈動発生部100の駆動を開始する。すなわち、制御手段30は、検出したノズル角度が60°以下でない場合、ポンプ20及び脈動発生部100の駆動を開始しない。
これにより、流体噴射開口部212の流体の噴射方向が流体を噴射する姿勢として適切ではない場合に、誤って流体の噴射が開始されることを抑制することが可能となる。
例えば、手術中においては、術者間で脈動発生部100の受け渡しが頻繁に行われる。そして、脈動発生部100の受け渡しを行う際に、意図せずにハンドスイッチ110が操作されても、検出したノズル角度が60°以下でない場合には、流体の噴射が開始されない。したがって、誤って流体の噴射が開始されることを抑制することが可能となる。
【0041】
また、制御手段30は、流体噴射中には、検出したノズル角度が60°を超えた場合、ポンプ20及び脈動発生部100の駆動を停止する。
これにより、流体の噴射を行っている際、流体噴射開口部212の流体の噴射方向が流体を噴射する姿勢として適切ではなくなった場合に、誤って流体が飛散することを抑制することが可能となる。
したがって、本実施形態に係るウォーターパルスメス1によれば、流体の噴射を適切に行うことが可能となる。
【0042】
なお、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上記実施形態では、駆動開始信号を制御手段30に入力するスイッチとしてハンドスイッチ110を用いている。しかしながら、駆動開始信号を制御手段30に入力するスイッチとして、ハンドスイッチ110に換えて、フットスイッチを用いてもよい。
また、上記実施形態では、流体供給手段としてポンプ20及び脈動発生部100を用いている。しかしながら、脈動発生部100を備えずに、流体供給手段としてポンプのみを用いる構成としてもよい。この場合、接続流路管200の流体噴射開口部212から噴射される流体は、連続流となる。
【0043】
また、上記実施形態では、制御手段30は、流体噴射中において、検出したノズル角度が60°を超えた場合、ポンプ20及び脈動発生部100の駆動を停止する構成となっている。しかしながら、流体噴射中において、検出したノズル角度が60°を超えた場合、流体噴射開口部212から噴射される流体を抑制する構成としてもよい。さらに、検出したノズル角度が60°を超えた場合、該検出したノズル角度に応じて、流体噴射開口部212から噴射される流体を抑制する構成としてもよい。なお、流体噴射開口部212から噴射される流体を抑制するとは、噴射される流体の強さを抑制すること及び噴射される流体の量を抑制することが含まれる。
さらに、上記実施形態では、所定範囲を60°以下に設定している。しかしながら、所定範囲は、ある安全な範囲内で適宜設定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態に係るウォーターパルスメスを示す概略構成図である。
【図2】図1に示すウォーターパルスメスの脈動発生部を示す断面図である。
【図3】図2に示す脈動発生部を分解した状態の概略を示す斜視図である。
【図4】図2に示す脈動発生部の入口流路を示す平面図であり、上ケースを下ケースとの接合面側から視認した状態を表している。
【図5】ノズル角度を示す模式図である。
【図6】流体噴射開始時における制御手段による処理を示すフローチャートである。
【図7】流体噴射中における制御手段による処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
1 ウォーターパルスメス(流体噴射装置、流体噴射手術器具)、201 接続流路(流路)、212 流体噴射開口部(流体噴射口)、200 接続流路管(流路管)、20 ポンプ(流体供給手段)、100 脈動発生部(流体供給手段)、30 制御手段、120 姿勢検出手段、511 出口流路、503 入口流路、501 流体室、401 圧電素子(容積変更手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧した流体を流す流路及び該流路に連通する流体噴射口を有する流路管と、
前記流路に流体を供給する流体供給手段と、
前記流体供給手段による流体の供給を制御する制御手段と、
前記流路管の姿勢を検出し、検出した前記流路管の姿勢に応じた信号を前記制御手段に入力する姿勢検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記姿勢検出手段から入力された信号に応じて前記流体供給手段による流体の供給を制御することを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記姿勢検出手段から入力される信号に基づき、前記流体噴射口の流体の噴射方向軸と鉛直軸とのなす角度を検出し、
検出した前記角度に応じて、前記流体供給手段による流体の供給を制御することを特徴とする請求項1記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
検出した前記角度が所定範囲内である場合にのみ、前記流体供給手段による流体の供給の開始を可能とすることを特徴とする請求項2記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記流体供給手段による流体の供給中において、検出した前記角度が前記所定範囲を超えた場合、前記流体供給手段による流体の供給を抑制又は停止することを特徴とする請求項2又は3記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記所定範囲は、60°以下であることを特徴とする請求項3又は4記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記流路に連通する出口流路と、前記流体供給手段から流体が供給される入口流路と、前記出口流路及び前記入口流路に連通する流体室と、前記流体室の容積を変更可能な容積変更手段と、を有する脈動発生部を備え、
前記脈動発生部が、前記流体供給手段を構成することを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1項記載の流体噴射装置。
【請求項7】
加圧した流体を流す流路及び該流路に連通する流体噴射口を有する流路管と、
前記流路に流体を供給する流体供給手段と、
前記流体供給手段による流体の供給を制御する制御手段と、
前記流路管の姿勢を検出し、検出した前記流路管の姿勢に応じた信号を前記制御手段に入力する姿勢検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記姿勢検出手段から入力された信号に応じて前記流体供給手段による流体の供給を制御し、
噴射した流体により手術対象部位を切開又は切除することを特徴とする流体噴射手術器具。
【請求項8】
流路管の流路に加圧した流体を供給し、
前記流路管の姿勢を検出し、
検出した流路管の姿勢に応じて、流体の供給を制御し、
前記流路に連通する流体噴射口から前記供給を制御された流体を噴射することを特徴とする流体噴射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−51896(P2010−51896A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219278(P2008−219278)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】